日本放射光学会

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2018年 日本放射光学会 各表彰受賞者について

2018年01月10日

2018年 日本放射光学会が贈呈する各表彰の受賞者についてお知らせします。

日本放射光学会
会長 小杉信博

第22回 日本放射光学会奨励賞

大坪 嘉之 会員 (OHTSUBO Yoshiyuki)
大阪大学大学院 生命機能研究科/理学研究科
固体表面の低次元電子状態における特異な電子相関現象
受賞理由
大坪嘉之氏は、国内外の放射光施設を利用し、ARPESを中心に固体表面の低次元電子状態について表面科学と放射光を融合させた多くの実績をあげている。特に、これまで清浄表面を得ることが難しかった試料に着目し、新しい試料準備の方法論を開発することで、電子相関が引き起こす特異な電子状態を発見するという注目すべき成果をあげている。例えば、通常の劈開では清浄表面が得られない近藤絶縁体YbB12単結晶において、研磨と超高真空中での加熱を組み合わせた清浄化手法を確立し、近藤効果により開いたバルクバンドギャップを横切るトポロジカル電子状態が現れることなどを明らかにしている。また、InSb(001)表面に注意深くBiを蒸着・加熱するとBi原子の1次元的表面原子構造が形成すること、ARPESによるスペクトルの定量的評価から朝永・ラッティンジャー液体で記述できる一次元電子状態が実現していることなどを明らかにしている。
このような同氏の特徴のある研究は、先進的な放射光計測で初めて観測できるような物理現象の理解を深めていくためには、試料表面等の処理技術の展開が極めて重要となることを明確に示すものであり、放射光科学の総合的な発展に一石を投じるものである。
以上のように大坪嘉之氏の業績は本学会奨励賞に相応しいものと認められた。

受賞研究報告 学会誌 Vol.31 No.2 (2018)

松井 公佑 会員 (MATSUI Hirosuke)
松井 公佑 会員 (MATSUI Hirosuke)
OperandoイメージングXAFS法の開発と実固体触媒材料の可視化
受賞理由
松井公佑氏は、固体触媒材料中の元素の分布や酸化状態、配位構造の違いを反応条件下で可視化することのできるoperandoイメージングXAFS法を開発し、触媒科学への展開において革新的業績をあげている。例えば、排ガス浄化材料であるセリア-ジルコニア複合酸化物粒子内部のCeの価数変化を走査型顕微XAFS法によって明らかにし、酸素を吸蔵するCeの酸化過程では、表面に担持したPtとは無関係に粒子全体から反応が進行するのに対し、酸素を放出するCeの還元過程では、担持したPtを起点として反応が進行することを可視化している。また、3次元CT-XAFS法により、固体高分子形燃料電池電極膜の発電条件下でのoperandoイメージングXAFS測定を実現し、加速劣化試験前後での同一視野での3次元観察から、カソード触媒であるPtが価数変化を伴いながら触媒層から電解質膜へと溶出し、劣化していく過程を明らかにしている。
このような同氏の特徴のある研究は、化学状態の2次元及び3次元可視化の観点から実用触媒材料が抱える諸問題を解決する糸口となる構造基盤情報を世界に先駆けて明らかにしたものであり、放射光科学ならびに触媒科学の進展と社会貢献に大きく寄与するものである。
以上の理由により、松井公佑氏の業績は本学会奨励賞に相応しいものと認められた。

受賞研究報告 学会誌 Vol.31 No.2 (2018)

第5回 日本放射光学会 功労報賞

該当者なし

第1回 放射光科学賞

北村 英男氏 (KITAMURA Hideo)
NEOMAXエンジニアリング株式会社
放射光挿入光源開発による放射光科学への貢献
受賞理由
北村英男氏は、アンジュレータ開発の世界的パイオニアである。世界初の放射光専用リングSOR-RINGにおいてアンジュレータの開発研究を行い、その成果に基づきPFに本格的軟X線アンジュレータを設置した。また、PF-ARにおいて世界初の真空封止アンジュレータの開発に成功し、SPring-8で標準X線アンジュレータとして採用された。これは世界的な注目を集め、BNLのNSLSで短周期真空封止アンジュレータのテストが行われ、2〜3GeVクラスの蓄積リングでも、高調波により硬X線領域が利用可能であることが示された。このことが、現在の世界的な高輝度中型放射光施設建設ラッシュの礎となっている。真空封止アンジュレータはSPring-8で広く用いられている上に、コンパクトX線自由電子レーザー施設SACLAを開発する上でのキーコンポーネントとなった。短周期真空封止アンジュレータがあることで線形加速器のエネルギーを下げることが可能となり、小型化が可能となったためである。他にも北村氏はSPring-8において、偏光スイッチングアンジュレータ、クライオアンジュレータ、長尺アンジュレータなどの開発研究を成功させており、世界の放射光施設に大きな影響を与えた。
以上のように北村英男氏は我が国の放射光科学の発展に著しい貢献をしており、本学会放射光科学賞に相応しい研究者と認められた。

受賞研究報告 学会誌 Vol.31 No.2 (2018)

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