くらしが育んだ「里」を未来へ
人々のくらしに育まれてきた健やかで美しい「にほんの里」100選。
各地のニュースや活動、特色や所在地――里からの発信をお届けします。
湯船山の湧水(ゆうすい)が棚田を育てる。貴重な水は竜神信仰に結びつき、ため池文化を育んだ。清流にはホタルが舞う。農村歌舞伎も伝承。
※(注記) 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。
※(注記) 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。
2015年12月17日
千枚田守るオーナー制
小豆島のほぼ中央にある山あいの里、中山。湯船山の樹林は島の貴重な水源林。湧き出す名水「湯船の水」を利用し、先人たちは山の中腹の急斜面に「中山千枚田」を開いた。水田は大小合わせて766 枚あり、農林水産省の「日本の棚田百選」にも選ばれている。
だが、休耕田も目立ち始めた。小豆島町は2014年度、保全活動の一環として中山千枚田オーナー制度を創設。田植えや稲刈りなどの農作業も体験した上で棚田の収穫米を分けてもらえる仕組みで、全国各地からオーナーが中山を訪れるようになった。
地区に伝わる中山農村歌舞伎は、毎年10月に上演。「中山の舞台」は、国の重要有形民俗文化財に指定されている。
(グリーンパワー2015年12月号から転載)
2012年11月16日
「にほんの里1 00 選」の里を歩く「フットパスツアー」を2009年春から続けている。今回の小豆島は31カ所目。台風17号の接近で、内容を大きく変更しての実施となった。
初日午後。島の中ほどにある中山地区は広大な棚田地帯。現在733枚の田んぼがある。稲刈りが終わったばかりの畦(あぜ)にはヒガンバナの赤、赤、赤。稲ワラのほのかな香り。「ああ懐かしい」と参加者。「畦歩きがこんなにわくわくするなんて」
案内は立花律子さん。中山地区に小さな空き家を借りて「こまめ食堂」の看板をあげ、「地元食」を提供しながら小豆島の魅力を発信し続けている。「とれたての棚田米です」。畦歩きから戻ると真っ白いおむすびがひとつ。最高のおもてなしだった。
2日目。台風が速度を上げ、風が出てきた。「醤油の街を歩く」予定をやめ、ヤマロク醤油の工場見学に。5代目当主・山本康夫さんが案内してくれた。醤油を仕込む高さ約2メートルの大きな木桶が、3つの蔵にずらりと並ぶ。全部で60ある。桶の材料はスギ。いちど作ると長持ちする。ヤマロクには100年以上使い続けている桶もある。問題は「新しい桶」だという。醤油桶を作れる会社が、今は大阪の堺に1つしかないのだ。
ヤマロクは09年、この会社で9本の桶を作った。日本では戦後初の醤油桶新調だそうだ。山本さんはさらに、仲間の大工2人と桶作りを習い、つい最近新しい桶を3本作った。2〜3年後にあと3本作るという。材料は吉野杉。その縁で、吉野で活動する桶グループとの交流も始まった。
桶にはタガ用のマダケも要る。13〜 14 メートルの長さが望ましいが、そんな素性のいいマダケは手に入りにくくなってしまった。「自分で竹林も作らないと」と山本さんは思っている。
台風が東海地方に上陸した。安全のため東京方面に帰る参加者が延泊。外に出ると、晴れた夜空に中秋の満月が昇っていた。(海)
=グリーンパワー2012年11月号から転載。写真は立花律子さん提供。