奇妙山三等三角点から北信五岳3座をのぞむ。
(右から妙高・黒姫、飯縄山)
奇妙山とう同名の山が、隣接する長野市と須坂市にあるが、この日登ったのは長野市にあって標高の低い方の奇妙山である。
長野マラソン42キロを走ってから中一日空けただけの登山、しかし思ったほど疲労の残りも感じずに、いつもどおりの山歩きができた。
松代の街から岩沢集落へ向かう。入り組んだ細い道を集落の上へ上へと車を進めて、舗装の途切れたあたりで、ようやく1台分の駐車スペースを見つける。この先からは林道となるが進入がためらわれるような道である。林道はごく短く、歩いても10分とかからない。
林道入口に「奇妙山登山口」の古びた小さな板切れが1枚、山頂まではこれが唯一の道標である。薄暗い杉植林の林道を終ると山道へ入る。作業道が分かれたりしていて少しわかりにくいが、木の幹に記された赤ペンキが目印である。今日の山は5万図、2.5万図とも登山道は載っていない。
枝打ちされた枝の始末も悪く、乱雑な道という感じだ。歩き始めて25分、尾根状の小さなコルへ着く。左が尼巌山、右が奇妙山への分岐である。右への道を取る。相変わらず陰鬱な杉植林の中を登って、やがて落葉樹が見えるようになるとすぐにはっきりとした尾根となる。これまでと打って変って気持ち良い落葉樹林の明るさにほっとする。
道もしっかりとしてきて歩きやすくなる。
わずかに芽吹きをはじめた雑木林を透かして、残雪の北アルプスがうかがえる。朝の陽光を受けて山襞の陰影も鮮明だ。
樹種豊富な雑木の道を、厚く散り敷いた落ち葉を踏んで高度を上げて行く。芽吹きはほんのわずかで、浅緑、黄緑、萌黄などいずれも柔らかな色あいは、まだ冬枯れの彩りとまではいかない。
切り立つ巨岩の縁を通ったりして山頂までは1時間15分ほどの行程だった。
山頂には大きな石が10個前後、中には刻字されたものもあり「国常立尊」と読めるものもある。角が欠けてセメントで補修された三等三角点、石の祠などがあって、結構広い。木の幹に手製の山名板が一つぶら下がっていた。
展望は北側に限られるが、北信五岳(斑尾山、妙高山、黒姫山、飯縄山、戸隠山)はすべてのぞむこが出来た。高妻山の鋭角的な姿が印象深い。眼下には善光寺平が広がり、その中を千曲川の流れが龍蛇のごとくうねっている。さらに展望を求めて先へ進んでみたが無駄だった。
同じ道を尼巌山との分岐まで戻ったところで、立ち止まって思案。心配したマラソンの疲れも感じない。予定してなかったが、尼巌山を往復しようかどうしようか。結局足は尼巌山へ向かってしまった。
薄い踏跡程度のルートを伝って行く。すぐに笹をかき分ける道となるが長くはない。その先も道形はやや不明瞭で藪漕ぎ模様がつづく。しかし案ずるほどのこともなく進める。道を外して尾根通しに鞍部へ向けて岩っぽい急坂を下る。足場の悪いざれた急登をよじ登ると尼巌山のピークだった。尼巌山は"あまかざりやま"と読む。雨飾山を連想してしまう名前だ。
山頂にはきれいに保存されている四等三角点があるが、山名表示のたぐいは一切見当たらない。周囲もカシワ、ヤマザクラ、ミズナラなどの雑木に囲まれていて展望はない。かろうじて樹間から北アルプスの銀嶺が垣間見えるのみ。ちょっと期待外れの感があった。
再び分岐まで戻る。尼巌山往復は約1時間だった。分岐から駐車地点までの下りはあっという間だった。
岩沢の集落からは、ピンクに染まった桃畑を前景にして、中景は長閑な農村集落、その先には眩しく輝く残雪の北アルプス。一幅の絵を見る心地であった。