基本的人権の共有を基本理念のひとつとする日本国憲法が施行されてすでに35年が経過しましたが、わが国には今なお同和問題をはじめその他さまざまな差別に起因する社会問題が存在しています。
ところで国民的課題としての同和問題解決のために、はじめて法的根拠を与えた「同和対策事業特別措置法」は、期限の延長を含め13年を経過する中で、生活環境の改善などに一定の成果をあげながらも、なお多くの課題を残してこの3月31日に失効いたしました。
この間、わが国の経済は飛躍的に成長し、産業構造や生活様式は著しく近代化、合理化されましたが、それとともに歴史的文化遺産や景観をもつきつぎに破壊され、わが大阪においても長く息づいてきた、『なにわ』の庶民文化や生活のいぶきの残るものは、数少なくなってきております。
このような状況の中で、大阪の部落解放運動の勃興期における西浜部落の人達の自立と解放への熱意の結晶である栄小学校の旧校舎もまた50余年の風雪を経て現在その使命を終えようとしており、かつてこれらの有志の人々から寄贈されたこの歴史的遺産を継承し、現在に生かすことはまことに意義深いものがあると考えております。
一方、今年は「同和対策事業特別措置法」を引き継ぎ、その残された課題、特に今後の同和問題の中心的課題である雇用対策、教育対策及び啓発活動に的確に対応するよう、新しく「地域改善対策特別措置法」が施行されるという、同和問題の解決にとって、いわば新法元年ともいえる年であります。また、わが国の『人権宣言』ともいわれる「全国水平社宣言」が発せられ、これに呼応して大阪における部落解放運動の中心となった「大阪府水平社」が創立されてちょうど60年目という記念すべき年にもあたっています。
当法人は、この意義ある年にあたり、大阪府・市のご理解を得、かつ各界、各層のご協力、ご参加を得ながら、この大阪の部落解放運動の貴重なモニュメントである旧栄小学校々舎の一部を保存するとともに、これを改修し、仮称「大阪人権歴史資料館」を建設、運営しようと念願するものであります。
この資料館は、大阪における同和問題を中心とする人権問題に関する資料を『なにわ』の庶民の生活、文化とのかかわりの視点から見つめ直して、蒐収し、保存するとともに、これらを常時一般に公開することによって、同和問題をはじめとする人権問題の生きた教材、学習の場を提供し、広く人権意識の啓発の場として活用ていくものであります。
府下には、こうした人権問題に関する歴史的資料を保存し、展示する施設がほとんどありません。
つきましては、当法人の設立の趣旨にご賛同をいただき、格別の協力を切望する次第であります。
1983年4月