庭に焚く秋の蚊遣を置き去りに
稲畑汀子
ホトトギス
199808
秋の蚊に油断の隙間ありにけり
稲畑汀子
ホトトギス
199909
確かめて秋の蚊遣を置くことに
稲畑汀子
ホトトギス
199909
秋の蚊のこゑ手枕のうしろより
鷹羽狩行
狩
199810
秋の蚊のつき当たるたび音のする
山尾玉藻
火星
199812
秋の蚊の目玉がなぜか重くって
坪内稔典
船団
199812
閑散で寺の秋の蚊つきまとふ
大橋敦子
雨月
199911
秋の蚊をしばし泳がせたるこころ
櫂未知子
銀化
199911
読みさしをひらけば秋の蚊の骸
林翔
沖
199912
大辞典閉ぢて秋の蚊たたせけり
徳丸峻二
風土
199912
引き綱の渦より秋の蚊の出でし
柚口満
春耕
200010
葬儀より帰りて秋の蚊に刺さる
松崎鉄之介
濱
200001
秋の蚊をともなひて着く宅急便
田中藤穂
水瓶座
200002
後ろ指・刃物・目薬・秋の蚊・魔
小西昭夫
船団
199912
秋の蚊を叩く女の小さき掌
中川二毫子
夏木立
200008
秋の蚊や塔炎上の古写真
石橋翠
いろり
200011
秋の蚊の身を尽くすかにまとひつく
水谷ひさえ
六花
200011
ピアノの下より秋の蚊が浮き上がる
金澤明子
火星
200012
秋の蚊よ老人の血はまずかろに
林翔
沖
200012
不器用に秋の蚊叩く少年兵
大谷昌弘
海程
200101
秋の蚊のアキレス腱をうかがへり
うまきいつこ
沖
200101
桝酒へくる秋の蚊を吹きかへす
高瀬哲夫
沖
200102
秋の蚊の隣の庭と往来あり
稲畑汀子
ホトトギス
200108
秋の蚊を打ち父母の墓の前
野澤あき
火星
200111
秋の蚊に攻めらる父の墓拝み
近藤豊子
雨月
200112
秋の蚊の闇討ちに会ふ森の口
和田崎増美
雨月
200112
欲しければ血を誑せ秋の蚊よ
朱間繭生
銀化
200112
落柿舎に秋の蚊遣の炷かれあり
田中佐知子
風土
200112
秋の蚊の影瞭かに壁の上
小山森生
槐
200112
秋の蚊にアキレス腱を刺されけり
小島和子
百鳥
200112
パフォーマンスの支那カバンより秋の蚊が
元田千重
火星
200201
わが髪に秋の蚊もつれ鳴きにけり
大石喜美子
雨月
200201
秋の蚊の光の翳におののきぬ
貝森光大
六花
200201
秋の蚊を払ひ転居の荷を解く
稲畑廣太郎
ホトトギス
200202
もてあます秋の蚊ひとつ看取りの夜
芦塚智恵子
狩
200202
秋の蚊に刺されて墓地を通り抜く
久保恵子
狩
200202
まだ生きてゐるぞと秋の蚊に刺さる
宮みさお
百鳥
200202
秋の蚊や仁王の浮き足なきどころ
鳥羽夕摩
京鹿子
200202
秋の蚊のひそむ庭木となりにけり
稲畑汀子
ホトトギス
200209
秋の蚊に刺されしほどの庭歩き
稲畑汀子
ホトトギス
200209
秋の蚊やネギトロのネギ乾きゐる
山田六甲
六花
200210
ふるさとの夜な夜な秋の蚊に鳴かる
宮原みさを
花月亭
200208
秋の蚊のさも弱さうにさまよへり
渡辺真奈美
狩
200212
秋の蚊の漂ひきたる筆の尖
川端実
遠嶺
200212
秋の蚊の残り力に刺されけり
松村富子
苑
200301
秋の蚊にかくもしたはれ仮住まひ
矢島久栄
狩
200301
秋の蚊のしたたかにして代官所
和田照海
京鹿子
200302
秋の蚊を打つて寝にけりクラス会
島谷征良
風土
200302
ふらふらと来て秋の蚊のしたたかに
稲畑廣太郎
ホトトギス
200309
俳磚の庭秋の蚊に喰はれつつ
稲畑廣太郎
ホトトギス
200310
ほんのすこし血を頒けてやろ秋の蚊に
林翔
沖
200310
岩風呂に秋の蚊遣を焚いてあり
山田六甲
六花
200310
秋の蚊の止まるとみしがすぐに刺す
大畑善昭
沖
200401
秋の蚊に刺されてをりし野鳥園
美波治恒
築港
200401
コピー機のうしろに逃げし秋の蚊よ
稲畑汀子
ホトトギス
200409
又逃げし秋の蚊に稿乱さるる
稲畑汀子
ホトトギス
200409
あなどれぬ所在秋の蚊なりしかな
稲畑汀子
ホトトギス
200409
秋の蚊や史記講読の席にゐて
渡辺立男
馬醉木
200411
秋の蚊と車の中に小半時
宮永順子
雲の峰
200411
秋の蚊の鈍き羽音を払ひけり
新保主
雲の峰
200411
秋の蚊に聞耳立つる膝の猫
託正夫
濱
200412
みちのくの秋の蚊出でし机辺かな
上崎暮潮
ホトトギス
200506
秋の蚊の近くを打てば落ちにけり
土井田晩聖
銀化
199911
もう容赦せぬ秋の蚊を見失ふ
稲畑汀子
ホトトギス
200509
忌を修す秋の蚊著き白襖
伊丹さち子
馬酔木
200511
秋の蚊の我が身と同じ無気力に
黒沢宮雄
四葩
200512
人恋へば秋の蚊の声過ぎゆけり
廣畑忠明
火星
200512
秋の蚊に食はれて後の祭なり
二瓶洋子
六花
200512
秋の蚊を追うて厨に見失ふ
二瓶洋子
六花
200512
秋の蚊の纏はり付けりマリア像
角南英二
栴檀
200512
秋の蚊に刺されるままの薄茶席
三橋早苗
ぐろっけ
200512
秋の蚊の家の隅ずみ知つてをり
牧長幸子
対岸
200601
秋の蚊の忍びの木戸を入りきたる
杉浦典子
火星
200601
秋の蚊のまとはりつきし疲れあり
高倉和子
空
200601
墓場より寄する秋の蚊凄じき
瀧春一
瓦礫
200606
秋の蚊に惚れ込まれたる脚線美
稲畑廣太郎
ホトトギス
200609
汝が頬を叩くは難し秋の蚊よ
稲畑汀子
ホトトギス
200609
逃げる気のなき秋の蚊でありしかな
稲畑汀子
ホトトギス
200609
秋の蚊がオクラの花にゐたりけり
山尾玉藻
火星
200610
秋の蚊の囁くやうに寄り来たる
小林朱夏
空
200610
秋の蚊を返り討ちして屯所跡
鈴鹿仁
京鹿子
200610
秋の蚊の曳きたる影のふらつきし
浜田南風
苑
200612
秋の蚊の死に欲めきて付きまとふ
前川明子
鴫
200612
秋の蚊を払ふ男滝の風速し
篠田純子
あを
200611
秋の蚊の吹かれ落ちきし肌かな
岡和絵
火星
200612
秋の蚊を打ちて豪傑わらひせる
竹内弘子
あを
200612
秋の蚊一ぴき園長を振りまはす
荒井千佐代
空
200612
秋の蚊が真夜の眠りを出入りせり
青木朋子
空
200612
秋の蚊にわっと囲まる高野墓地
村田とくみ
ぐろっけ
200701
畑より秋の蚊連れてきたりけり
高倉恵美子
空
200701
秋の蚊よ身替り吾を刺し給へ
森田子月
ぐろっけ
200703
秋の蚊のひそむ木立を通らねば
稲畑汀子
ホトトギス
200709
初舞台待つ間にくはる秋の蚊に
馬場宏一
春燈
200711
秋の蚊の狙ひは鼻つ柱かな
西田たかこ
万象
200712
はらひたる掌に秋の蚊のぶつかりぬ
荒井和昭
鴫
200712
秋の蚊の少女の声とまがふ音
前川明子
鴫
200712
蓑虫庵秋の蚊遣の焚かれあり
堀井英子
雨月
200801
秋の蚊の腕を離るる速さかな
柿沼盟子
風土
200801
秋の蚊の音なく腕に止まりけり
藤田裕子
万象
200802
秋の蚊に好かれ人には嫌はれて
稲畑廣太郎
ホトトギス
200810
鉛筆を持つ指先に秋の蚊来
藤井美晴
やぶれ傘
200810
秋の蚊の逃ぐるに見するしたたかさ
棗怜子
春燈
200811
秋の蚊の集まる早さ疎ましき
和田郁子
璦
200811
現像を待つ間を秋の蚊に刺され
松崎鉄之介
濱
200811
子規庵の秋の蚊ならば打たず置く
奥田茶々
風土
200811
亜麻色の秋の蚊起こすジンギスカン
庄司久美子
槐
200812
秋の蚊の伎芸天女へ近寄らず
竹内悦子
璦
200901
秋の蚊を払ひて大石遺髪塚
浅田光代
風土
200901
秋の蚊の庭の蛇口に待ちゐたる
丑久保勲
やぶれ傘
200901
秋の蚊の声なく卓をよぎりけり
藤井美晴
やぶれ傘
200901
秋の蚊の先師の御軸忌を修す
浅井青陽子
ホトトギス
200903
秋の蚊の耳の近くに寄りきたる
三宅禮子
やぶれ傘
200903
秋の蚊を帽子で払ひ阿弥陀堂
吉沢陽子
峰
200911
秋の蚊を連れて戻りしにはか雨
吉田政江
沖
200911
秋の蚊や机の下の一天地
島谷征良
風土
200912
力なき秋の蚊はらふ慈悲無慈悲
安本恵子
璦
201001
秋の蚊を黒子とおもふ月夜かな
松村光典
やぶれ傘
201002
秋の蚊に手足喰はれて竹刀振る
松村光典
やぶれ傘
201004
三箇所も咬まれた秋の蚊とは憎し
稲畑廣太郎
ホトトギス
201009
秋の蚊が寝床の闇に声潜め
仁平則子
峰
201010
秋の蚊に殺生をなし掌を合はす
中島玉五郎
峰
201010
秋の蚊のよろめきつつも刺し力
五十嵐勉
璦
201011
秋の蚊を平手一打ち頬辺り
新実貞子
璦
201011
秋の蚊を打ち逃したるたなごころ
水原春郎
馬醉木
201011
秋の蚊に止めをさせずをりにけり
仁平則子
峰
201011
松田雅代氏追悼
パソコンを打つ手に秋の蚊が止る
大橋晄
雨月
201011
秋の蚊の涅槃に宿るすべもなく
西村純太
槐
201012
血を分けし秋の蚊打ちて鬼女かとも
横井明子
苑
201012
秋の蚊の禁帯出の書棚より
坂場章子
鴫
201012
話好きの梵妻秋の蚊をいなし
山本漾子
雨月
201012
達磨の軸に対座す秋の蚊に耐へて
久保田雪枝
雨月
201012
打ち取れば実に痩せたる秋の蚊で
島本知子
ぐろっけ
201012
秋の蚊の存外しかと刺しにけり
新堀満寿美
末黒野
201101
秋の蚊の待ちゐし木陰通りけり
稲畑汀子
ホトトギス
201109
デパートの節電秋の蚊に刺され
阪本哲弘
璦
201112
秋の蚊にこころの隙をつかれたる
市村健夫
馬醉木
201112
秋の蚊や目を閉ぢしまま二三言
仁平則子
峰
201112
名園の秋の蚊なるが纏ひつく
安藤久美子
やぶれ傘
201112
秋の蚊を打てど逃げられ二度三度
前田玲子
ぐろっけ
201112
秋の蚊や我に執念き心なく
生田恵美子
風土
201112
秋の蚊を討ち損じたる二刀流
近藤紀子
槐
201112
秋の蚊に確と食はれて墳巡る
大橋晄
雨月
201112
秋の蚊を払ひ払ひつ義士の墓
石川純
万象
201112
秋の蚊の淋しからんに魂のあり
本多俊子
槐
201201
秋の蚊のまとふ名園苦吟の歩
西川みほ
末黒野
201201
秋の蚊や露座の仏の胎の中
正谷民夫
末黒野
201201
よろよろと来し秋の蚊を打ち損ず
根岸善行
風土
201201
秋の蚊に耳朶うすき男かな
大山文子
火星
201201
秋の蚊のゆるりと落ちる夕まぐれ
五ケ瀬川流一
六花
201201
秋の蚊や簡易書留手渡さる
安藤久美子
やぶれ傘
201202
秋の蚊に古びし手足食はれけり
松村光典
やぶれ傘
201202
秋の蚊を叩く眼を吊り上げて
稲畑廣太郎
ホトトギス
201209
秋の蚊の大胆不敵なる羽音
稲畑廣太郎
ホトトギス
201209
秋の蚊を連れて新幹線の旅
稲畑廣太郎
ホトトギス
201209
たちまちに雨後の木蔭の秋の蚊に
稲畑汀子
ホトトギス
201209
油断してをりしを知られ秋の蚊に
稲畑汀子
ホトトギス
201209
秋の蚊の所在ありつつ見失ふ
稲畑汀子
ホトトギス
201209
秋の蚊帳唱歌かすかに小諸宿
山内節子
璦
201211
秋の蚊の陣に入りたる腫れ目蓋
大畑善昭
沖
201211
秋の蚊を打ちそこねたる寺掃除
高田たみ子
万象
201211
秋の蚊の腹に透けたる吾が血かな
和田紀夫
鴫
201212
汝もまた血が欲しいのか秋の蚊よ
梁瀬照恵
ぐろっけ
201301
長明庵覗きて秋の蚊にさされ
三浦喜久子
ぐろっけ
201301
秋の蚊の領空にあるベンチかな
内藤呈念
ホトトギス
201302
手踊に非ず秋の蚊払ひをり
内藤呈念
ホトトギス
201302
外に出でてたちまち秋の蚊の餌食
松本アイ
ぐろっけ
201302
秋の蚊やペンを走らす手を刺して
川村嘉章
ぐろっけ
201302
秋の蚊を打てば仏間の母笑まふ
小林正史
鴫
201302
秋の蚊に食はるユダヤの墓地を出て
星野早苗
船団
201304
秋の蚊の翅音枕の後ろから
吉成美代子
あを
201308
マイルス・デイヴィス鳴きして秋の蚊は
山田六甲
六花
201309
秋の蚊やもうこの辺で逝きなはれ
稲畑廣太郎
ホトトギス
201311
秋の蚊に右側ばかり刺されけり
小山陽子
やぶれ傘
201311
秋の蚊ぞ指の間を刺し来るは
山田六甲
六花
201311
靴下の上から秋の蚊に刺さる
山田六甲
六花
201311
献杯のグラスを秋の蚊がよぎる
藤井美晴
やぶれ傘
201311
秋の蚊の尻重たくて叩かれず
居内真澄
ぐろっけ
201312
秋の蚊の蟄し痕にある痛みかな
古沢幸次
ろんど
201312
髪梳くやつかず離れず秋の蚊が
松川悠乃
ろんど
201312
車座や秋の蚊遣りを足元に
岡田史女
末黒野
201312
踏み入るや人恋ふ秋の蚊に就かれ
生田恵美子
風土
201401
秋の蚊にもてつぱなしの優男
橋本くに彦
ホトトギス
201401
秋の蚊を打ち据ゑにけりかくまでに
菊谷潔
六花
201401
秋の蚊と野良猫つき来池の暮
竹内涼子
末黒野
201402
秋の蚊にAB型は嫌はれて
稲畑廣太郎
ホトトギス
201410
父何やら言うて秋の蚊払ひけり
山尾玉藻
火星
201411
秋の蚊や二礼二拍手一礼す
高尾豊子
火星
201411
野々宮に秋の蚊遣をくすべしよ
山田六甲
六花
201411
秋の蚊に羽音に思案の途切れたる
谷村祐治
雨月
201411
秋の蚊やソバージュヘアに眼帯と
庄司久美子
槐
201412
秋の蚊のまつわる執念たたきけり
犬塚芳子
槐
201412
秋の蚊の本気土塀の傾いて
つじあきこ
瓔
201412
死神を畳みこみたり秋の蚊帳
山内碧
空
201501
秋の蚊を大事に打つて退院す
城孝子
火星
201501
永平寺東司に秋の蚊のひそむ
福島せいぎ
万象
201501
秋の蚊の音なく刺せる閻魔堂
山田和
京鹿子
201501
秋の蚊の居間と厨に生きてゐる
丑久保勲
やぶれ傘
201501
秋の蚊の道の駅までさまよえり
辻村拓夫
船団
201505
今日からは秋の蚊として嫌はれて
稲畑廣太郎
ホトトギス
201508
2021年9月6日
作成