※(注記)全文は以下の本に収録されました。
◇立岩 真也 201510
『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882
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[kinokuniya] ※(注記) m.
今まで名前のついていなかった様々な状態が、ACとかADHDとかたいていアルファベット何文字かの略語になる障害・病気として登場することがあり、そのことについて、なんでも病気にしてしまうと批判的にも語られる。それは病気だと言うのと言わないのと、どちらがよいのだろう。そして多くの人は同時に両方を思っているはずだ。つまり一方で、それが病気であること、深刻なことであることは認められるべきだと思う。一つは、だがそうしてなんでも病気だとしてもよいだろうかと思う。どう考えたらよいだろう。
そのためにまずハーブ・カチンス他『精神疾患はつくられる――MSD診断の罠』(日本評論社)を紹介しようと思った。これには政界内幕物のようなおもしろさがある。だが次回にしよう。今回は、もっと重要にちがいないと思いながら、ずっと手がつけられずに放置してあったもう一冊の方を紹介する。
この本はとても長い。部分部分を少し読んでみても、どうにもつかめない。「苦悩はリアルである。PTSDもリアルである。ただ、現在PTSDに帰されている事実がリアルであるほどには(無時間的な)真理といいうるだろうか。」(p.xviii)「新しい概念拡張は、強烈な恐怖・混乱体験の際には、患者による意識的統御がない自動症的行動と反復行為の中に記憶が隠匿されているという考え方による。[...]これは、18世紀ならば文字どおり思い描くこともできない考え方である」(p.ix)わかるような、わからないような感じの記述は、19世紀以降の医学についての記述を追うところでも続く。[...]
[...]
こうした疑問をもちながらこの本の後半、第3部を読んでいく。それ以前の部分が歴史的、理論的な記述であるのに対して、この部分は、組織体制の変更に伴って後に閉鎖される「国立戦争関連PTSD治療センター」(仮称)でのスタッフによる診断会議やグループ療法の場に実際にいてとった記録などからなっている。会議の記述では、かなり不確かなケースでもPTSDであるとされる過程、そうなってしまう場の構造が記述され指摘されるが、療法の部分はほとんど解説が加えられることなく患者や医療者たちの間のやりとりの記録が連ねられる。読めばそこで何が起こっているかははっきりしていると著者は言うし、それはその通りで、ここはいちばんおもしろいところでもあるのだが、登場人物も多く、記録をずっと読んでいくのは、せわしない人には少しつらい。ただ「言いたいこと」はこの辺りにあるらしい気がしてくる。全体に淡々とした記述の中に、ときにこんなことを「学術的」な本――ウェルカム医療人類学賞を受賞している――に書いてよいのだろうかと思うようなことが書いてあったりする。
「彼はスター患者である。たちまち規則やセンター言語を覚え、治療イデオロギーをたちまち実行する」(p.347)と描かれるマリオンともう一人ロジャーという「患者」について。実際のこの2人のかけあいについては読んでいただくしかないのだが、「部外者の私からすれば、マリオンとロジャーがワークしているのをみると不愉快だった。執拗さと信心家のふりと何でも一般論にする正論との三つ組は見るのも不愉快だった。」(p.351)
[...]
[表紙写真を載せた本]
◆だいやまーくYoung, Allan 1995
The Harmony of Illusions: Inventing Post-Traumatic Stress Disorder, Princeton University Press=20010215 中井 久夫・大月 康義・下地 明友・辰野 剛・内藤 あかね 訳,
『PTSDの医療人類学』,みすず書房,441+29p. ISBN:4-622-04118-9 7000
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■しかく言及
◆だいやまーく立岩 真也 2013
『造反有理――精神医療現代史へ』,青土社
※(注記)
■しかく再録
◆だいやまーく立岩 真也 201510
『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882
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[kinokuniya] ※(注記) m.