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『精神障がい者地域包括ケアのすすめ――ACT−Kの挑戦 実践編』

高木 俊介 監修/福山 敦子・岡田 愛 編 20130525 批評社,198p.

last update:20130713

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しかく高木 俊介 監修/福山 敦子・岡田 愛 編 20130525 『精神障がい者地域包括ケアのすすめ――ACT−Kの挑戦 実践編』,批評社,メンタルヘルス・ライブラリー,198p. ISBN-10: 4826505809 ISBN-13: 978-4826505802 1800円+ [amazon]/[kinokuniya] (注記) m.

しかく著者

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
高木俊介
1957年生まれ。因島出身。京都大学医学部卒。精神障がい者の在宅ケアを行うACTをたちあげるために、2004年にたかぎクリニックを開設。以後、ACT‐K(京都)チームによる訪問サービスに奔走している

福山/敦子
1975年生まれ。大阪府出身。兵庫県立大学大学院看護学修士。大学病院で精神科、がん病棟、救急、ICUなどの勤務を経て、大学院修了後、2009年からACT‐K所属。精神看護専門看護師。ACT‐Kでの美容部員としての地位を確立中

岡田/愛
大阪府出身。京都文教大学臨床心理学研究科博士(前期)課程修了。臨床心理士。現在、たかぎクリニック/竹村診療所(京都)に勤務。2006年よりACT‐K(京都)所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

しかく目次

精神障がい者の地域包括ケアにむけて 高木 俊介
ACTとACT‐Kチームの概要
「あたりまえに生きたい」を支えるしくみ―ACT生活支援総論にかえて
とにもかくにもチームつくり
待力勝負の生活支援―その人らしい生活を支えるために
待っていたフリーダム―安心してはばたくために
日常生活の山場を乗りこえる―急性期によりそう支援
出会いこそすべて―未治療の方や医療中断されている方との出会いから学ぶこと
家族支援の失われてきた視点―家族がケアしない権利を保障する
管理職もまた楽しからずや―ACTを支える管理職論
再び社会に戻る―信頼関係を築けたからこそ
そうは言ってもお金の話!?―サービスが先、お金はあとからついてくる 高木 俊介

しかく引用

だいやまーく精神障がい者の地域包括ケアにむけて 高木 俊介 9-21

「精神医療に精神科医はいらなしい、もしかしたら。
ACT-Kをはじめて、まもなく10年目になる。またたく間であったようでもあれば、この小さな組織が10年もの問、よく持ちこたえてきたものだとも思う。そのなかで、私自身が学んだことのひとつが、これである。

この10年間、今にも日本の精神医療が大きく変わりそうで、しかし結局、未だ何も変わっていないようにみえる。収容的な精神病院への長期にわたる、しかも強制的な入院処遇を中心とした、盤石とも思えるこの国の精神病院中心の精神障がい者処遇体制の中で、ACT-Kというちっぽけな組織・連動仂体が、その目的を朽ち舌させることなく、よくぞ続いてきたものだ。
前著、『ACT-Kの挑戦』(2008) 1)の中で、私は、この国の精神医療体制はメルトダウンを起こすだろうと予言した。本当のメルトダウンは、福島の原発事故という悲惨な形で実現してしまったが、精神医療体制は依然として無傷であるようにみえる。
しかし、未来についての私の考えは変わっていない。
いや、それどころか、原発の核燃料が地中深くに溶け出してその形状すらわかっていない中で今も進行しているように、精神医療のメルトダウンも、一見変化のないその奥底で進行しつつあるのではないか。精神医療という巨大な炉の奥底を覗き込めば、その兆候はある。

医療政策研究者の猪飼は『病院の世紀の理論』2)の中で、入院設備を持つ<0009<病院が医療の中尽となって専門性の高い医療を供襖給するという現行の医療プベテムは‖20世喫双半に先進国で確立した限定妬なプベテムであり‖21世喫を迎えた現在‖以下の2点により‖大きく変貌すると主張している|つまり‖第1に‖疾病構造の生活縮慣病中尽化と人口の高齢化が‖従来の治療医学の知識体系を無力化させる|第2に‖障がいパラダツムの発努により‖従来の「医学モデル」から「生活モデル」への転換がいやおうなく杵こる|そして‖予防‘治療‘生活支援を統合妬に行うことを目指す社会プベテム=包括パヂプベテムが形成され‖近代妬科学妬治療観に根ざしていた「病院の世喫」は淑焉を迎えるというのである|
現在、35万床という未曾有の病床数を抱える日本の精神病院も、同じ理由から終焉を迎えつつあるとみることができる。高度成長時代の国家による財政支援と安い人件費によって林立した私立単科精神病院は、低成長時代を迎えた現在、人件費・設備費の高止まりにより経営難を強いられることになった。この変化に、人口高齢化と疾病構造の変化が追い打ちをかけている。人口の高齢化によって入院を要する精神障がい者の数は減少し、精神疾患の軽症化により、画一的な管理を要する大施設は治療的処遇にそぐわないものになった。そのために、精神病院の存在基盤は構造的な危うさに直面しているのである。
精神医学に関しては、20世紀末に猖獗を極めたDSMをはじめとする操作的診断と計量的精神医学が、生物学的精神医学を主導してきた人々からの批判にもさらされるようになりつつある。DSN-?Vは、新自由主義の支援を受けた脳科学研究と製薬企業の台霧頭を背景とした米国精神医学界における心理主義から生物学的精神医学へのへのへゲモニー交代として普及し、軍需産業からバイオテクノロジーへの資本の移動によって急速に精神医療界を支配した。しかし、脳科学は結局その手段ととなる新たな研究機器の出現に規定されており、軍用技術の民間への転移が終終了するとともにに、新しい研究分野を開拓できずにいるのである。
このような世界的・時代的な背景のもとに、病院を中心とする医療の時<0010<代そのもものが淑わりつつあるのである|その後にくるのは‖ネュヂ(治療医学)よりもパヂ(生活支援)を中尽として‖生活の現場である地域の中で患者=障がい者の生活の質を支えるための包括妬パヂである|精神医療もそような転換を余久なくされるであろう|そのような見通しのなかで‖actが注目を浴びている|

そして、そのようなACTを10年の間実践することで、私が新たに得た見通しが、冒頭の「精神医療に精神科医はいらない」ということでである。もちろん、私の発言や実践を見てきてくださった方々にはわかってもらえると思うが、「精神病院はいらない」と言い続けてきた私が単純に精神病院という「治療の場」を全否定しているのではないし、今回「精神科医はいらない」と言っている私がそれを全否定しているわけではない。否定されるべきは、現在の体制の中に組み込まれて、それを支えているだけの「精神病院」であり「精神科医」なのである。
『ACT-Kの挑戦』出版から5年、創設から10年目という、あらゆる組織にとって変節への節目であり、油断すればすぐさま転落へと向かうこの時期に、ACT-Kのスタッフたちの現場での実践をありのままに社会にさらす本書を出すことができたことは、僥倖でもあり、また新たな挑戦でもある。」(高木[2013:9-11])


UP:20110513 REV:
高木 俊介精神障害/精神医療×ばつ世界:関連書籍BOOK
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