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ジン[Zine]についての簡潔な解説

A Brief Exposition of Zines

村上 潔[Murakami, Kiyoshi]
初稿掲載:2018年9月6日
第7稿(最新):2019年11月7日
本文以外の内容の最終更新:2025年10月23日

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last update: 20251026

しかくはじめに:注記

本稿に盛り込めなかった内容、ならびに本稿執筆後に収集した情報は、随時以下のページに集約している。あわせて参照されたい。
だいやまーくジン[Zine(s)]――その世界の多様性と可能性(2019年12月16日 〜 2022年08月31日)
だいやまーくジン[Zine(s)]――その世界の多様性と可能性(2)(2022年09月05日 〜)

しかく第7稿[Seventh Draft](最新):本文

*2019年11月7日修正の草稿→決定稿

しかくジン(Zine)
まず、「ジン(Zine)」は「マガジン(Magazine)」の略語ではない。マガジンから派生した「ファンジン(Fanzine)」という言葉から独立して、「ジン」という言葉が生まれた。最も簡潔なジンの定義は、「有志による非営利・少部数の自主制作出版物」となる★01。ジンは、個人的でありかつ政治的であること、親密性と身体性をあわせもつことをその大きな特徴とし、DIY(Do It Yourself)カルチャーの一部として位置づけられる。
現在のジン・カルチャーに特に強い影響を与えているのは、1970〜80年代のパンク・シーン、90年代初頭のライオット・ガール(Riot Grrrl)・ムーヴメントと第3波フェミニズムだが(ピープマイヤー[2009=2011])、60年代の各種社会運動とアンダーグラウンド文化、そして70年代の第2波フェミニズムも、その発展に大きく寄与している★02。ジン・カルチャーは、本質的に反資本主義・反権威主義的姿勢を内包しており、アナキズムやラディカルな直接行動と親和性が高い★03。カウンターカルチャーとしてファシズム/家父長制/商業主義/能力主義への抵抗手段となる一方、障害者/マイノリティ/持たざる者たちの主体的表現手段となる★04。
ジンの起源は一般には1920年代のアメリカのSFファンによるファンジンとされているが、その見解を白人男性優位主義とし、それ以前のアイダ・B・ウェルズに代表される黒人女性解放運動における自主刊行物の存在意義を強調する立場もある。これに象徴されるように、現在のジン・カルチャーでは、黒人/POC(People of Color)/移民/先住民/女性/ノンバイナリーといったマージナライズ(周縁化)された人びとの存在を重視し、白人男性中心の歴史/価値観を「脱植民地化(Decolonize)」することが重要な課題とされている。またジン・フェスト等の会場では、「セーファースペース・ポリシー(Safer Space Policy)」の周知徹底など、さまざまな差別・抑圧・排除の問題に対する具体的・実践的な社会正義(Social Justice)の取り組みが積極的に行なわれている。
ジン・カルチャーの実践においては、ジンの制作にとどまらず、その流通・収集・保存・公開のシステムや、創造とシェアのためのアクセシブルなスペース(空間)も自律的に構築する(村上[2018])。例えばアメリカ・イギリスでは、公立/大学図書館の図書館員たちが中心となり、ジンのアーカイヴィングに関する専門的な検討を定期的に行なっている。ローカルなコミュニティ単位の草の根の活動が国際的に連携し、交流・議論が重ねられ、その成果が共有されることで、ジン・カルチャーは日々成長を続けていく。

【注】
★01 以下に補足する。?@「有志」:(機関誌/同人誌に見られる)掲載審査、掲載料、投稿ノルマ等は存在しない。固定的な組織を前提としない。?A「非営利」:できる限り自力で、身近な資源を活用して、低予算で制作し、無償で譲渡/寄付、交換、もしくは極力安価で販売する。なお、ブランドやプロのアーティストが商品/作品のプロモーションのために華美な印刷物を大量に製作し、それをジンと称して頒布する行為は、批判の対象とされる。?B「少部数」:一般的に一度に制作されるのは20〜30部ほどである。
★02 日本の例でいえば、戦後のサークル文化運動のなかで制作された各種「サークル誌」や、ウーマンリブ運動のなかで制作(・複製)され流通したパンフレットなどが、現在のジンの「先祖」に位置づく。
★03 一例として、アナーカ・フェミニズム(Anarcha-Feminism)の運動におけるジンの活用が挙げられる(村上[2019])。
★04 ディスアビリティ・ジン、メンタルヘルス・ジン、クィア・ジン、レズビアン・ジンといったジャンルも確立しており、当事者たちの表現・交流手段となっている。

【文献】
◇Piepmeier, Alison[アリスン・ピープマイヤー], 2009, Girl Zines: Making Media, Doing Feminism, New York: New York University Press.=2011 野中モモ訳『ガール・ジン――「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア』太田出版
◇村上潔 2018 「[連載]都市空間と自律的文化へのアプローチ――マンチェスター・ジン・シーン・レポート(全4回)」Webマガジン『AMeeT』(一般財団法人ニッシャ印刷文化振興財団)
◇村上潔 2019 「アナーカ・フェミニズム」『現代思想』47(6): 170-173
*2019年5月臨時増刊号《総特集=現代思想43のキーワード》

【注記】
上で挙げている参考文献は最低限のものです。本文の内容の多くは、それ以外の(主に海外の)ソース(以下の「参考/関連情報」を参照)から得られる知見です。

しかく参考/関連情報

*主たるものに絞って掲載する

村上潔

◇20231111 「【連載】ジン[Zine]、アーカイヴィング、アクティヴィズム――その連動する展開がひらく地平(全4回)第4回:図書館員・アーキヴィストたちが力を合わせて積み上げてきた場と仕組み」,Webマガジン『AMeeT』(一般財団法人NISSHA財団),2023年11月11日,(https://www.ameet.jp/digital-archives/4939/) 【紹介】【言及】
◇20230803 「【連載】ジン[Zine]、アーカイヴィング、アクティヴィズム――その連動する展開がひらく地平(全4回)第3回:〈56a インフォショップ〉のDIYアーカイヴィング実践(後編)」,Webマガジン『AMeeT』(一般財団法人NISSHA財団),2023年8月3日,(https://www.ameet.jp/digital-archives/4758/)
◇20230701 「【連載】ジン[Zine]、アーカイヴィング、アクティヴィズム――その連動する展開がひらく地平(全4回)第2回:〈56a インフォショップ〉のDIYアーカイヴィング実践(前編)」,Webマガジン『AMeeT』(一般財団法人NISSHA財団),2023年7月1日,(https://www.ameet.jp/digital-archives/4719/) 【紹介】
◇20230510 「【連載】ジン[Zine]、アーカイヴィング、アクティヴィズム――その連動する展開がひらく地平(全4回)第1回:収集・保存・公開における本質的課題」,Webマガジン『AMeeT』(一般財団法人NISSHA財団),2023年5月10日,(https://www.ameet.jp/digital-archives/4628/) 【紹介】
◇20220909 [Presentation]"The Significance of Community Activities and Learning Practices of a Zine Circle in the Gathering Place of Diverse Minority Movements: A Case Study of a Multiethnic/Multicultural Area in Kyoto"
BST 10:00-11:30(日本時間=同日18:00〜19:30) オンライン開催(Zoom)
*《Zines ASSEMBLE》Free One-Day Online Symposium: Session 1 【Program】
*タイトル日本語訳:「多様なマイノリティ運動の集合地におけるジン[Zine]サークルのコミュニティ活動と学習実践がもつ意義――京都の多民族・多文化共生地域の事例から」
◇20220228 「ジン・カルチャーの現在的展開とその意義――フェミニスト・コミュニティ・アクティヴィズムの視点からの展望」,『立命館言語文化研究』33(3): 39-51
◇20210620 「ジンというメディア=運動とフェミニズムの実践――作るだけではないその多様な可能性」,田中東子編『ガールズ・メディア・スタディーズ』,北樹出版,130-148【第9章】
◇20200324 「DIYの文化シーンとアクセシビリティ――その精神・実践・意義」,Webマガジン『AMeeT』(一般財団法人NISSHA財団),2020年3月24日,(https://www.ameet.jp/column/2930/)
◇20200227 「アナーカ・フェミニズムにおけるジン――ジンが教育/スペースであること」,『現代思想』48(4): 160-168
*2020年3月臨時増刊号《総特集:フェミニズムの現在》
◇香月真理子 20210715 「作り手、読み手、興味のある人をつなぐ――生活の中にZINE[ジン]の占める場所がある、それが希望」,『ビッグイシュー日本版』411(2021年07月15日): 10-11《特集:究極の自由メディア「ZINE」》
*村上潔へのインタビュー取材に基づく〈Morning Zine Circle〉の紹介を含む
◇20190526 「[Lecture & Workshop]セーファースペースとしてのジン・コミュニティをつくる」,2019年5月26日,ナゴヤ駅西 サンサロ*サロン,(https://www.arsvi.com/2010/20190526mk.htm)
◇Knight, Rosie, 2018, "How Zine Libraries Are Highlighting Marginalized Voices", BuzzFeed News, December 30, 2018, (https://www.buzzfeednews.com/article/rosieoknight/zines-libraries-marginalized-voices).=2019,村上潔訳,「ジン・ライブラリーはいかにして周縁化された声を強調しているのか」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2019年8月29日,(https://www.arsvi.com/2010/20190829mk.htm)
◇Grrrl Zines A-Go-Go, n.d., "Zine Workshop Guide + Resources: Tips and tricks on how you can start a zine workshop group yourself".=2017,村上潔訳,「ジン・ワークショップ・ガイド+リソース――あなたが自分でジン・ワークショップ・グループを始めるためのヒントとコツ」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2017年4月18日,(https://www.arsvi.com/2010/20170418mk.htm)
◇20170413 「[Lecture]Zine制作ワークショップ運営にあたって注意すべきいくつかの事柄」,2017年4月13日,同志社大学今出川キャンパス クラーク記念館CL25教室,(https://www.arsvi.com/2010/20170413mk.htm)
*同志社大学経済学部山森亮ゼミ&〈Kyoto Basic Income Weekend 実行委員会〉合同企画
◇Casio, Holly, 2017, "The Economy of Zines", Cool Schmool, March 9, 2017, (https://coolschmool.com/news/economy-of-zines).=2018,村上潔訳,「ジンの経済」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2018年6月20日,(https://www.arsvi.com/2010/20180620mk.htm)*2025年10月26日最終更新
◇POC Zine Project(村上潔訳) 2016 「【訳】〈POC Zine Project〉によるジンに関する提言(2016年4月21日):断章」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2016年4月21日,(https://www.arsvi.com/2010/1604mk5.htm)*2025年10月19日最終更新
◇20160331 「解題:いまフェミニスト・ジンについて考えること」(特集3:フェミニスト・ジンの現在),立命館大学生存学研究センター編『生存学 Vol.9』,生活書院,188-194
◇西山敦子(DIRTY)×ばつ村上潔 20160331 「ジンを「わたしたち」のものとして生かすために――フェミニスト・ジンへのアプローチとその潜在的可能性」(特集3:フェミニスト・ジンの現在),立命館大学生存学研究センター編『生存学 Vol.9』,生活書院,196-226

◇村上潔 2024 「用語解説:"インフォショップ[Infoshop]"」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2024年5月10日,(https://www.arsvi.com/2020/20240510mk.htm)
◇Zines4Queers, 2025, "Zines Are Memory", zines4queers (Instagram), May 7, 2025, (https://www.instagram.com/p/DJUiQOLgY4A/).=2025,村上潔訳,「ジンは記憶である[Zines Are Memory]」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2025年5月11日,(https://www.arsvi.com/2020/20250511mk.htm)
◇Zines4Queers, 2025, "Practice Creating Just for the Joy of It", zines4queers (Instagram), March 30, 2025, (https://www.instagram.com/p/DHy5CTOJXx0/).=2025,村上潔訳,「ジン[Zine]には締め切りもクライアントもプレッシャーもない」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2025年3月31日,(https://www.arsvi.com/2020/20250331mk.htm)
◇Zines4Queers, 2025, "Why You Need Zines Right Now", zines4queers (Instagram), March 26, 2025, (https://www.instagram.com/p/DHoXz5YgMlM/).=2025,村上潔訳,「あなたがまさに今ジン[Zine]を必要とする理由」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2025年3月27日,(https://www.arsvi.com/2020/20250327mk.htm)
◇村上潔 20210724 「【Thread】ジン[Zine]とミニコミ/同人誌/自費出版/フリーペーパーとの差異化について」
◇村上潔 20200301− "Zines on Sexual Assaults and Supporting Survivors (Including the Problem of 'Consent')"[性的暴行ならびにそのサヴァイヴァー支援に関するジン――性的同意の問題も包括して](事項ページ)*随時更新

だいやまーく村上潔:《翻訳》

その他

◇Duncombe, Stephen (Foreword by Emma Alice Johnson), [1997] 2025, Notes from Underground: Zines and the Politics of Alternative Culture (Fourth Edition), Portland: Microcosm Publishing.
・First Edition (1997)
・Second Edition (2008)
・Third Edition (2017)
Fourth Edition (Published: August 5, 2025)
『同朋』2025年9月号
発行:2025年09月01日 東本願寺出版
《特集:ZINE――誰にも頼まれていないけど作りたい私のメディア》
......野中モモ・SAPPORO POSSE ほか
◇香月真理子 20210715 「持たざる者の、自由なメディア"ZINE"[ジン]――自分を理解し、自分を伝えるエクササイズに――野中モモさん」,『ビッグイシュー日本版』411(2021年07月15日): 5-7《特集:究極の自由メディア「ZINE」》
◇野中モモ 2020 『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』,晶文社
◇行司千絵(記者) 20191107 「市井の人がつづる、政治・性差別・子育て... 小冊子Zine[ジン]ご存知ですか――思い共有 ゆるやかなつながりへ」,『京都新聞』朝刊8〔暮らし〕面
*村上潔を含む〈Morning Zine Circle〉のメンバー3名への取材記事。ジン・カルチャーの特質、〈Morning Zine Circle〉の活動とその意義、ならびに《NIJO Zine Fest #03》に関する紹介。
◇ばるぼら・野中モモ編 2017 『日本のZINEについて知ってることすべて――同人誌、ミニコミ、リトルプレス:自主制作出版史1960〜2010年代』,誠文堂新光社

しかく第7稿に至るまでの推移

しかく第6稿
*2019年10月3日修正の草稿

しかく第5稿
*2019年7月15日修正の草稿
【メモ】本文に盛り込めなかった内容
◇ジン・カルチャーは純然たるアマチュア文化であるため、プロが自らの高度な専門的技術を駆使して制作した作品をジンと称して(高額で)販売することや、プロのアーティストになる(=仕事を得る)ための(売り込みの)道具としてジンという形態を利用することは、批判の対象となりえる(前者であれば「アート・ブック/アーティスト・ブック」、後者であれば「ポートフォリオ」と称するべきである)。
◇アメリカ・イギリスでは、ジンは公立図書館・大学図書館における専門的アーカイヴィングの対象となっている。それに従事する図書館員たちは、定期的に会合をもち、よりよい(合理的かつ倫理的な)アーカイヴィングのありかたを共同で検討し、その成果を広く共有している。

しかく第4稿
*2019年5月13日修正の草稿。字数は1120字。
【メモ】本文に盛り込めなかった内容
‐ アマチュア文化[Amateur Culture]であること――専門性を活用しないこと[Do not utilize your expertise.]/プロを目指すための道具にしないこと[Do not utilize zines as a tool for becoming a professional.]

しかく第3稿
*2018年9月7日修正の草稿。字数は1120字。
【メモ】本文に盛り込めなかった内容
‐ 戦後日本のサークル誌/サークル文化運動

しかく第2稿
*2018年9月6日修正の草稿。字数は1120字。

しかく第1稿
*2018年9月6日作成の草稿。字数は1120字。
【メモ】本文に盛り込めなかった内容(→第2稿に反映)
‐ 親密性・身体性をあわせもつ
‐ カウンターカルチャーとしての側面
‐ ファシズム/家父長制/商業主義/能力主義に抵抗する手段
‐ ディスアビリティ/メンタルヘルス――自身を肯定する/他者へと開く
‐ 持たざる者の武器


*作成:村上 潔[Murakami, Kiyoshi]
UP: 20180906 REV: 20180907, 20190513, 0603, 0714, 15, 26, 1003, 1107,[...]20201020, 20210616, 0715, 20230505, 20251023, 26
全文掲載
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