最終更新日:2011年12月19日
1.概要
近年、UAE(アラブ首長国連邦)、中国および韓国による牧草など粗飼料の輸入は増加傾向にあり、国際マーケットでも一定の影響力を及ぼすようになった。
日本の輸入粗飼料の太宗を供給している米国を見ると、年間の輸出量が2006年の280万トンから、2010年には400万トン近くに増加しているが、日本向け輸出量のシェアが2006年の7割から2010年には5割に減少している。これは、UAE(2006年から2010年の同国向け輸出量が4万トンから65万トンへ増加)や中国(同400トンから24万トン)、韓国(同58万トンから85万トン)向け輸出が好調に推移する一方、従来の主要輸入先であった日本(同199万トンから198万トン)や台湾(同18万トンから15万トン)向けの輸出量は伸び悩んでいることが原因である。
2.輸入量増加の国別背景
(1)UAE
粗飼料の輸入増加の詳細な背景は不明であるが、自国の乳・乳製品需要が増加している中、粗飼料の輸入先をEUから米国へ変更したためとされている。需要を賄うため搾乳用途の乳牛、ラクダ、ヤギ等の飼養頭数が増加する一方、牧草のような付加価値が低い農産物に対する灌漑用水の利用が制限されていることも、粗飼料輸入の増加につながっている。
(2)中国
乳牛飼養頭数や購入粗飼料の利用が増加している一方、中国国内の粗飼料生産が減少したことが背景にあるとみられる。特にメラミン事件以降、飼料規制の厳格化により国内産より安全と見られている米国産にシフトしたことが大きな要因である。
(3)韓国
肉用牛(韓牛)の飼養頭数の増加および生産される牛肉の品質向上を目指した肥育期間の長期化に伴い、粗飼料の需要が増加しているものと思われる。
3.今後の見通し
今後の見通しとしては、UAEや中国の両国は、今後とも牛乳・乳製品の生産・需要増加に伴い、粗飼料輸入は増加傾向で推移するものと予想される。ただしUAEについては、EUへの輸入先の切り替えが起きた時、中国においては、飼料穀物価格の低下などにより粗飼料生産への回帰が見られた時、米国産等輸入粗飼料への需要は緩和されることは考えられる。
韓国は韓牛の飼養頭数はすでに過剰水準であり牛肉価格が低落していること、肥育期間も長期間となっていることから、これ以上の粗飼料の輸入増加は予想しがたい。韓米FTA発効による生産意欲減退による飼養頭数の減少も抑制要因の可能性として考えられる。ただし、国内粗飼料生産の減少や、FTAによる粗飼料の関税削減および関税割当数量の設定が輸入増加に働くことは考えられる。
表1 米国の粗飼料輸出量 (単位:トン)
2006
2007
2008
2009
2010
2011.
1-9
前年同期比
合計
2,838,160
2,898,023
3,261,564
3,847,376
3,981,695
3,000,930
5.0
日本
1,985,909
1,886,067
2,119,841
2,061,191
1,981,701
1,551,536
5.6
(シェア)
70%
65%
65%
54%
50%
52%
韓国
576,514
731,846
775,972
743,867
850,295
625,250
1.0
(シェア)
20%
25%
24%
19%
21%
21%
UAE
40,852
45,739
129,911
688,593
652,365
466,650
17.2
(シェア)
1%
2%
4%
18%
16%
16%
中国
420
2,400
19,348
90,365
235,370
165,459
-6.1
台湾
175,852
177,194
160,591
138,647
146,797
117,798
9.5
その他
99,465
100,516
185,812
813,306
767,532
540,887
11.4
資料:米国貿易委員会(USITC)ホームページ
注:HSコード1214の暦年データである。
4.中国における粗飼料輸入量増加の背景
急成長を遂げる中国の畜産産業を支えるべく、家畜飼料の需要は増大している。粗飼料は、反すう家畜が消化機能を正常に維持する上で必要不可欠であり、乳牛においては、濃厚飼料と粗飼料の給餌割合が生乳生産量や乳脂肪率へ大きく影響する。
1)増加する乳牛飼養頭数と生乳生産
牛乳・乳製品の消費拡大に対応する形で生乳生産量は、2001年以降2008年まで一貫して増加傾向で推移した。2001年の生産生乳量1026万トンに対し、2009年は3519万トンとわずか8年間で約3.4倍となった。
飼養頭数についても、肉用牛等は2001年から2009年まで減少傾向となっている一方、乳牛は2001年の566万頭から2009年の1260万頭と増加している。
これら乳牛の飼養頭数の増大に加え、大規模農場を中心に中国産より安全とみなされている米国産飼料に対する需要が増加していること、高品質な生乳生産量を増加させるために購入粗飼料の給餌量が増加していることが、輸入粗飼料の需要を増加させているとみられる。
2)中国国内の粗飼料生産
一方で、中国国内の採草地面積は、2001年から2003年まで増加したものの、2003年を境にその後は減少し、2008年は229.6万ヘクタールにとどまっている。
中国農務省の調査報告によると、年間約25百万トンの粗飼料生産が行われているが、主産地で価格が高騰しているトウモロコシなどの穀物へ作付転換されていることなどにより、2008年以降作付面積は大幅に減少した。
表2 中国採草地面積の推移 (単位:千ha)
/年
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
青飼料
2,590
3,014
3,548
3,349
3,377
2,898
2,824
2,296
2,068
資料:新中国農業60年統計資料、中国農村統計年鑑
注:第2次全国農業センサス(2006年末時点)の結果に基づき、2006年のデータが大幅修正されたことから、2005年以前と2006年以後の数値は連続しない。
表3 中国青飼料省別播種面積 (単位:千ha)
資料:中国農村統計年鑑
3)粗飼料輸入の推移
粗飼料の輸入量(HSコード1214)は、2007年まで5000トン以下であったが、2008年より輸入量は急増し、2010年には23万トンとなった。
前述のとおり、採草地面積が2008年より大幅に減少したことに加え、2008年のメラミン事件以降、特に大規模農場で、高品質の生乳を生産するためにアルファルファをはじめとする良品質な粗飼料の重要性が生産農家で認識され、需要が拡大したと思われる。
主な輸入国は、米国と豪州で、特に2009年と2010年には、米国の輸入量が全輸入量の95%以上を占めた。内モンゴル自治区などアルファルファ主産地の気象条件は栽培に適している一方、土壌に問題があり品質は低いとされ、中国産粗飼料よりも米国産粗飼料に対する需要は強い。
2
5.韓国における粗飼料輸入量増加の背景
1)牛飼養頭数と粗飼料輸入量の推移
韓国では2002年以降、肉用牛(そのほとんどが韓牛)の飼養頭数が一貫して増加してきた。
この原因としては次のような原因が挙げられている。
1 牛肉需要が増加していること
2 2003年での米国でのBSE発生以降、米国産牛肉が2007年に輸入再開するまで牛肉輸入量が大幅 に減少し、価格が堅調に推移したこと
3 韓国でも日本の肉用子牛生産者補給金制度に類似の制度が導入され、子牛価格が安値になって も繁殖雌牛が淘汰されず子牛が安定的に供給されるようになったこと
さらに、韓国の生産者が牛肉の高品質化を図るため肥育期間を延長する傾向にあり、聞き取りによれば以前は出荷月齢が24か月齢程度のものと、32か月齢程度のものが5:5程度であったものが、今年に入ってから9割以上の肥育牛が30か月齢以上で出荷されるようになっているといわれており、1頭あたりの飼料消費量も増加しているとみられる。
ただし国内採草地面積も増加傾向にあり、特に2009年には大幅な栽培面積の増加が見られたことから、当年の輸入量の減少の一因となったものと考えられる。
3
表4 韓国牧草(Fodder Crops)栽培面積 (単位:ha)
/年
2004
2005
2006
2007
2008
2009
栽培面積
26,314
26,690
23,757
28,813
35,748
70,485
資料:韓国農林水産統計年鑑
2)関税割当数量の設定および韓米FTAの影響
韓国政府は2010年末から上昇を続けている食品をはじめとする生活品の価格安定を目的として、2011年1月よりHSコード1214の一部を含む主要農林水産物などを対象とした関税の一時的な引き下げをおこなった。
表5 韓国の一時的関税削減と輸入数量 (単位:トン)
HSコード
基本
関税
MFN
関税
2011年
暫定関税
2011年1-10月
輸入数量
前年比
備考
1214年10月10日.00
12141090.00
ルーサン(アルファルファ)のミール及びペレット
-飼料用と認められたもの
-その他
10.0%
1.0%
10.0%
1.0%
10.0%
16,521
0
105%
同
12149010.00
12149090.11
12149090.19
12149090.90
その他のもの
-飼料用の根菜類
-その他のもの
--ルーサン(アルファルファ)のベール
---飼料用と認められたもの
---その他のもの
--その他のもの
100.5%
18.0%
100.5%
5.0%
1.0%
18.0%
5.0%
5.0%
1.0%
18.0%
5.0%
0
135,810
0
626,932
同
110%
同
107%
75万トンまで*
75万トンまで*
資料::FedEx Trade Networks社 "WorldTariff", GTI社 "Global Trade Atlas"から機構作成
注1:*の割当数量は、飼料用途として共通して75万トンが上限。その他きのこ栽培用が6万トン
2:*割当外の関税は20%が適用される
韓米FTAについては、粗飼料の輸入についても特に影響の大きい部分については、長期(15年)にわたる関税削減期間が設定されている。
HS1214.90.90.90については、毎年20万トンずつ拡大する関税割当数量が設定されているが、韓国飼料原料協会、韓国飼料協会、韓国農業協同組合中央会が飼料原料供給者、飼料製造者、種畜供給者に対してライセンスを発行することにより関税割当数量の割当が行われる。
表6 韓国の一時的関税削減と輸入数量
HS
基本関税
関税撤廃
備考
1214年10月10日.00
12141090.00
ルーサン(アルファルファ)のミール及びペレット
-飼料用と認められたもの
-その他
10.0%
2016年1月1日
12149010.00
12149090.11
12149090.19
12149090.90
その他のもの
-飼料用の根菜類
-その他のもの
--ルーサン(アルファルファ)のベール
---飼料用と認められたもの
---その他のもの
--その他のもの
100.5%
18.0%
100.5%
2026年1月1日
2016年1月1日
2026年1月1日
毎年20万トンずつ無税枠増加
資料:米国国務省HP、米韓FTA条文から機構作成
注:関税撤廃日は、条約の発効日を2012年1月1日と仮定した場合のスケジュールである。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9534