2025年11月07日 ON AIR
ダウンホーム・ブルーズって何や その2
ON AIR LIST
1.Rhythm Rockin’ Boogie/John Lee Henry
2.I Just Keep Loving Her (Take 1)/Little Walter&Othum Brown
3.Money Taking Woman (Take 1)/Johnny Young&Johnny Williams
4.Let It Roll/J.B. Lenoir
5.On The Road Again/Floyd Jones
先週のダウンホーム・ブルース特集ではシカゴ・ブルーズの有名なジミー・リードやジミー・ロジャースなどを聴いてもらったのですが、今日は更にダウンホームを深く掘ってみたいと思います。更にイナたい、更に南部の匂いを放っているブルーズを聞いてもらいます。
1940年代50年代は南部の畑仕事から解放されたいと思った黒人たちが大挙して北部へ 特に大都会シカゴに移り住みました。ギターやピアノなど楽器をできるものは一旗揚げにシカゴに向かったのですが、音楽で生きていけるものはほんの少数で他の仕事をやりながらのミュージシャンの方が多く、故郷の南部に帰る者もたくさんいました。最初に聞いてもらうジョン・リー・ヘンリーというあまり名前の知られていないブルーズマンも少しの録音を残しただけで消えています。
曲はなかなかファンキーなダンスチューンでもやっぱりイナたいダウンホームです。
1.Rhythm Rockin’ Boogie/John Lee Henry
後ろのコーラスの"All Night Long"とみんなで歌っているのがいなたいです。本人もハーモニカソロで「オー、イェー」なんて言うてますが、酔っ払ってますよ、これみんな。
50年代に入るとマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフ、サニーボーイを擁したチェス・レコードがシカゴ・ブルーズに火をつけて全国区のレコード・レーベルになっていくのですが、その前夜40年代後期のシカゴで南部から出てきたブルーズマンたちが日銭稼ぎにストリートで演奏していた場所がマックスウェル・ストリート。まあ日用雑貨から衣服から電気製品などいろんなものを売っている市場みたいなところですが、とにかく当時人がたくさん集まる場所だったわけです。そこでまあ投げ銭みたいな感じで演奏してウケるとそこそこの金になったわけです。そこで楽器とかギターの弦とかハーモニカとか売っていたバーニー・エイブラムスというおっさんが「こいつらを録音してレコード売ったら売れるやろ」とオラネリというレーベルを作り、商売にしたのが次に聞いてもらう1947年ののちに有名になる素晴らしいハーモニカ・プレイヤー、リトル・ウォルター17歳の初録音。
2.I Just Keep Loving Her (Take 1)/Little Walter&Othum Brown
ギターはオッサム・ブラウンというこの録音でしか聞いたことがない人。
次はマックスウェル・ストリートのライヴの顔役であり常連だったジョニー・ヤング。ジョニー・ヤングはマドリンでブルーズを歌った人ですが、見事なマドリン・プレイです。ギターのジョニー・ウィリアムスもビートがステディでなかなかの腕達者ですが、このあと牧師さんになってしまったらしいです。なのでほとんど録音が残ってません。
3.Money Taking Woman (Take 1)/Johnny Young&Johnny Williams
前のリトル・ウォルターといい、今のジョニー・ヤングといい、ブギの曲なのはやはりストリートで集まってくる人たちを踊らせなければいけなかったからでしょうね。故郷の南部にいた頃もこんな感じのデュオでやってたんだと思います。
さて次はシカゴ・ダウンホーム・ブルースといえばぼくの中では外せないJ.Bレノア。彼の弾き語りを何度も特集していますが、やはり歌もギターも個性的で曲が始まるとすぐにわかります。曲調も歌もギターもダウンホームでなんかホットします。
4.Let It Roll/J.B. Lenoir
シャツフルのリズムがゆったりしていていいですよ、L.B.レノア。
次のフロイド・ジョーンズもダウンホーム・ブルーズの極地みたいな曲なんですが、今日聞いてきたリトル・ウォルターやJ.B.ルノアのようにファンキーさはなく、ダークです。重いです。ダークなダウンホーム・ブルースです。
「泣くのはもう疲れた。また旅に出るんだ。雨と雪の中、大変な思いをして旅をしたこともあったなぁ。お袋は俺が小さい頃に俺を置いて出て行った。ママ、もう泣かないで。泣かないで、ママ」
5.On The Road Again/Floyd Jones
コードひとつ。ワンコード裏声を使うところなんかはハウリン・ウルフを思い出します。
こういうテンポでこういうリズムでこういうグルーヴ感を出すのは僕なんかには本当に難しいです。このフロイド・ジョーンズという人の心と体の中にある個人的な感じが前面に出ているのでぼくがやってもこんな感じにはならない。でも、これもダウンホーム・ブルーズのひとつだと思います。つまりブルーズのブルー(憂鬱)を重く持っている南部の広い土地を感じさせるダウン・ホーム・ブルーズです。
2025年10月31日 ON AIR
ダウンホーム・ブルーズって何や その1
ON AIR LIST
1.You Don’t Have To Go/Jimmy Reed
2.Bright Lights, Big City/Jimmy Reed
3.Big Town Playboy/Eddie Taylor
4.Chicago Bound/Jimmy Rogers
5.Walking By Myself/Jimmy Rogers
この番組でぼくがよくダウンホームとかダウンホーム・ブルーズとか言ってますが、あれはどういう意味ですかと番組をよく聞いているという若者がライヴに来ていて質問された。ほとんど無意識にダウンホームという言葉を使ってしまっているけどかなり大切な言葉で、ダウンホームこそブルーズの大きな要素の一つと言ってもいい。
Down Homeと辞書で調べてみるとその訳に「故郷」とか「気取らない」とか出てきます。つまりブルーズ世代の人たちの故郷というとアメリカ南部、ミシシッピーやアラバマ、アーカンサス、ルイジアナなどの土地ですね。北部のシカゴ、セントルイス、デトロイトなどに移り住んだ黒人たちの多くはそういう南部が故郷なんですね。そこから故郷にいるような「気取らない」感じとかリラックスしたムード、または南部の田舎臭さを持ったブルーズをダウンホーム・ブルーズと呼んでいます。つまり懐かしさもあるんでしょうね。まあ、まずダウンホームさを持って大都会シカゴで活躍したブルーズマンはたくさんいるのですが、そのトップの一人をまず聞いてみましょうか。
有名なダウンホーム・ブルースと言ってまず思い出すのがこの曲です。
1.You Don’t Have To Go/Jimmy Reed
ジミー・リードさんもやはり南部ミシシッピの出身でシカゴに出てきた人です。今の曲がデビューしてシングルの三枚目1955年のヒットです。引きづるようなリズム・ギターのシャッフルのビートが特徴的で歌もあまりテンションがなくレイジーでハーモニカも牧歌的でリトル・ウォルターやサニー・ボーイみたいなテクニックはあまりありません。
ただ曲がポップというかブルーズにしては覚えやすいメロディでそれゆえバカ売れしたんだと思います。おそらくブルーズ界で最もヒットのある人でしかも今も歌い継がれている曲がたくさんある人です。今のYou Don’t Have To GoもR&Bチャートの5位、次の曲は3位まで上がった曲です。
2.Bright Lights, Big City/Jimmy Reed
ジミー・リードは歌が上手いわけでも、ハーモニカが上手いわけでも、ギターが上手いわけでもないのですが、その全てがとても個性的です。サウンドとビートから出るレイジーなユルいムード、歌は酔っ払ってるような時もあり(実際アルコール中毒で
晩年は大変やったらしいです)本当に家飲みしながら歌ってるような、つまりダウンホームさがあります。難しいことをしない、難しいことを歌わないつまり気取った感じがないわけです。これが南部からでてきて大都会シカゴで働く黒人たちにメチャ受けたわけです。
今の歌詞も「お前はあの大都会の明るい灯りに心を奪われて行ってしまうだね」と共感するような歌詞なわけです。
次はこのジミー・リードにギターを教え彼の曲で引きずるようなリズム・ギターを弾きそのグルーヴを作っていたエディ・テイラーです。彼もまたミシシッピで生まれ育った。
3.Big Town Playboy/Eddie Taylor
エディ・テイラーはジミー・リードのバックとして有名ですが、他にもジョン・リー・フッカー、ウォルター・ホートンなどともレコーディングしているシカゴ・ブルーズの重要人物です。シカゴ・ブルーズの重要人物といえば次のジミー・ロジャースもマディ・ウォーターズやリトル・ウォルターのバッキングとして活躍した人ですが、自ら録音した曲が今もシカゴ・ブルーズのスタンダードとしてたくさん残っている人です。
4.Chicago Bound/Jimmy Rogers
曲調やビートがジミー・リードより垢抜けた感じがします。でも、全体のムードはダウンホームでやはりあまり気取った感じはないです。とにかくマディのバックでシカゴ・エレクトリック・サウンドを作ったとても重要なギタリストでもあるわけですが、しっかりと後世に残る自分の曲も録音していたところが素晴らしいです。次の曲もダウンホームな素朴さは残しつつも曲調は当時の新しいブルースの感じとサウンドです。
5.Walking By Myself/Jimmy Rogers
ダウンホームな感覚というのは関西弁で言うところの「いなたい」感じとも言えるのですが、つまり田舎臭いけどいい感じということです。来週はもう少しダウンホーム・ブルーズを探深掘りしてみようかと思います。
2025年10月24日 ON AIR
9/17にLPでリリースされました!手前味噌やけど・・
still In Love With The Blues/
永井ホトケ隆&山岸潤史
ON AIR LIST
1.Crying Time/永井ホトケ隆&山岸潤史 Guest Vo.上田正樹&Yoshie.N
2.Lonely Avenue/永井ホトケ隆&山岸潤史 Guest Vo.上田正樹&Yoshie.N
3.You Can’t Lose What You Ain’t Never Had/永井ホトケ隆&山岸潤史
4.Walkin’ By Myself/永井ホトケ隆&山岸潤史
5.I’m Still In Love With You/永井ホトケ隆&山岸潤史
去年リリースした自分と山岸潤史のデュオ・アルバム”still In Love With The Blues”が今度LPレコードで9/17にリリースされました。今日はちょっと手前味噌やけどそのアルバムからON AIRします。前回のCDと今回のLPの違いはCD未収録曲が二曲入っていることです。その二曲には70年代からの朋友、名シンガー上田正樹パイセンとこれからのR&Bを背負っていくYoshie.Nが参加してくれています。
キー坊(上田正樹)が参加してくれたのはほんまに嬉しかったです。50年以上、同じようにブラック・ミュージックを好きで同じシンガーとして活動してきた彼と初めて一緒に歌ってそれを録音して残すことができたのは本当に嬉しい限りです。
まずは未収録のその二曲から聞いてください。まずは元々はカントリー&ウエスタンの偉大なシンガー、バック・オーウェンスが作ってヒットさせた名曲です。
「君がドアを開けて去っていく時、それはまたオレが涙する時になってしまう」
1.Crying Time/永井ホトケ隆&山岸潤史 Guest Vo.上田正樹&Yoshie.N
今のはキー坊の好きなレイ・チャールズがカバーしてヒットしたこともある名曲ですが、もう一曲レイ・チャールズの曲でこれはキー坊からの提案で録音することになりました。「私の部屋には二つの窓があるけど太陽の光は差し込まない。お前と別れてからいつも暗くて陰っている」と始まる失恋のブルーズ。作詞作曲は名ソングライターのドク・ボマス
2.Lonely Avenue/永井ホトケ隆&山岸潤史 Guest Vo.上田正樹&Yoshie.N
この歌を今聞いていてキー坊と有山の50年前のアルバム「ぼちぼちいこか」に収録されている「俺の家には朝がない」を思い出した。あれもいい歌です。
50年前の京都で初めて住んだ学生下宿は日当たりも悪かったけど、冬になると窓からは冷たいすきま風が入ってきて冬はめちゃ寒かった思い出も今蘇りました。布団の中に入ったままレコード聞いてました。その頃、出会ったアルバムがマディ・ウォーターズの"Fathers And Sons"というこの番組では何度も紹介しているアルバムです。そのアルバムの中から山岸と一曲選曲しました。日本語の曲名が「ないものは無くせない」というタイトルなんですが、お金も家も彼女も持っているから失う。つまり失恋したり破産したりっていうのはそれを持っているからや、最初から持っていなかったら無くすことも失うこともないという実にブルーズな一曲です。
3.You Can’t Lose What You Ain’t Never Had/永井ホトケ隆&山岸潤史
次はシカゴ・ブルーズの重鎮、ジミー・ロジャースの有名曲で昔から歌ってみたいと思っていた曲です。
「一人で歩いている俺のことわかってくれるといいんやけどな。俺が惚れてるってわかってるやろ。おまえを愛する人になりたいだけなんや」
4.Walkin’ By Myself/永井ホトケ隆&山岸潤史
山岸とウエストロード・ブルースバンドのメンバーとしてブルーズを始めて50年。50年は意外と早かったです。自分はもっと早く人生を終わるんやないかと若い時思っていたんですが、いろいろめちゃやったりやんちゃしたわりに長生きしてます。そのお陰というかこうして山岸と50年前は思いもよらなかったデュオのアルバムを作ることができたわけです。もう無理やな・・とかもうあかんわ・・・と思ったこともいろいろありましたがちょっと長生きするのもいいことがあります。
やりたいことはいくらでもあるし、やりつくすことは音楽にもブルーズにもないと思います。だからできるだけいろんなやりたいことはやろうと思ってます。
最後にアルバムのタイトルの「ブルーズがまだ好きなんや」もとになった曲「君のことがまだ好きなんや」を聞いてください。
5.I’m Still In Love With You/永井ホトケ隆&山岸潤史
今日聞いてもらった”still In Love With The Blues”はアマゾン、タワーレコード、発売元のP-Vneレコードでネット販売もしています。LPレコードであまり枚数をプレスしていないのでご希望の方は早めにどうぞ。
ちなみに10/24で私、75歳になりました。気持ち的には25歳くらいの気持ちでずっと歌ってますが、体のところどころがメンテナンスもあまり効かなくなってきています。今年も2週間連続ライヴツアーがありましてまだ声は出るのですが体がなかなか言うことを聞かなくなってきてふといつまでツアーできるかなと思ったりもします。と言いつつ来月11月にはギターの上村秀右と東北を五日間回ります。11月20日から福島プレイヤーズ・カフェ 21日盛岡グローブ 22日弘前Eat&Talk 23日秋田Duke Room 24日仙台Dimplesとなっています。バンドとはまた違うデュオのブルーズとバラードの歌を聴いてください。会場で会いましょう。
2025年10月17日 ON AIR
祝50周年P-Vine Records! 第13回
83年にP-Vineレコードがリリースした狂気の沙汰マディのLP11枚組その2
Muddy Waters The Chess Box
ON AIR LIST
1.Find Yourself Another Fool/Muddy Waters
2.Same Thing/Muddy Waters
3.You Can’t Lose What You Ain’t Got/Muddy Waters
4.My John The Conquer Root/Muddy Waters
5.My Dog Can’t Bark/Muddy Waters
P-Vineレコードが1983年にリリースしたこのLP11枚組セットは1947年から67年までの20年間のチェス・レコードでのマディ・ウォーターズの録音が収録されていますが、デビューから全盛期そしてブルーズ自体が沈滞していく時期までを記録しています。このボックスの企画を聞いたときに僕はP-Vineレコードの担当者に「狂気の沙汰や」と言ったんですよ。LP11枚組のボックスセットってまあ僕みたいなマディ・フリークは買うやろけど、値段も高いし、そもそもマディの代表的なアルバムはもうすでにリリースされてましたからよっぽど好き者やない限り買わんやろと言ったんですよ。売れないと思うと言ったんですが、これが売れたんですよ。日本人はこういう一つにまとまったボックスセットみたいなのが好きなんですかね。まあ、ぼくもJames Brownのアルバムをほとんど持ってるんですが、CDボックスがでた時に買いましたからね。
今日は最後の11枚目の64年から67年までシングルをコンピレーションしたアルバムを聴いて見ようと思います。60年代中期から後期に向かって白人のロック・シーンではクリームやジミ・ヘンドリックスなどブルースをベースにしたミュージシャンたちの活躍が始まります。いわゆるニューロックと呼ばれた音楽のルーツはブルーズでした。それならと白人ロック好き若者をターゲットにチェス・レコードはマディにロック・テイストの曲を歌わせました。こんな感じです。
1.Find Yourself Another Fool/Muddy Waters
まあ、あまりやったことのない8ビートのリズムでマディは頑張って歌ってます。でも、何か印象に残るものがないんですよね。これだけではロック・ファンにもブルーズ・ファンにも売れないやろと思うんですが・・。
次のは64年の録音ですが、ブルーズらしい素晴らしい曲です。マディの代表曲の一つと言っていいと思います。まだこういういいブルーズを録音することができたんですが、あまり売れなかったです。
「女性がタイトなドレスを着ると男たちはどうして夢中になるんだろうか。それは雄猫が夜に喧嘩をするのと同じことだ」と始まります。そして二番の歌詞でBig Leg Womanという言葉が出てくるのですが、ブルーズにはBig Leg Womanという歌もあるくらいで時々この言葉を見かけます。直訳すると大きな足の女ですが足の太ももあたりの肉付きがいい女性のこと。まあ下世話な言い方をすれば太ももがムチっとした女性のことです。つまりセクシーな女性。歌詞はどうして男たちはみんな足がムッちとしたじょせいが好きになるんだろう。それはブルドッグがハウンドドッグをハグするのと同じようなことさ」最後の一節が今もよくわからないのですが、要するに男たちはどうしてセクシーな女性を見るとどうして喧嘩になるんだろう。それはオスの動物たちがメスの取り合いをするのと同じことだ」
多分こういう意味だと思います。
バックのサウンドとビートも素晴らしく、マディの奥深い歌声がもうたまらない魅力です。
2.Same Thing/Muddy Waters
次の曲は9月17日にリリースした僕と山岸潤史のデュオ・アルバム"still In Love With The Blues"でも録音した曲で、この曲を聞いた若い頃に「ないものは無くせない」という日本語のタイトルと歌詞の内容とこの歌に感銘しました。
「お金も彼女も家も持っているからそれを失った時にがっかりする。落ち込んでしまうやろ。そやけど最初からお金も家も彼女もなかったそもそも失うことさえないんや」といういろんなもの所有していない黒人から生まれた曲やと思います。いいタイトルやと思います。「ないものは無くせない」
3.You Can’t Lose What You Ain’t Got/Muddy Waters
今のこの曲もマディの代表曲ですが、60年代半ばになるともうマディだけでなくブルーズ全体が下降線をたどっていく時代でチャートを上がる曲も少なくなっていきます。そんな中でもマディは今の二曲のようにクオリティの高いブルーズも録音しています。
黒人音楽の主流はもうR&Bからソウルに移る時代でファンクなども流行り始めます。シュプリームス、テンプテーションズなどのモータウン勢のソウル、オーティス・レディングやサム&デイヴなど南部スタックスのサザン・ソウル、ジェイムズ・ブラウンのファンクともうめまぐるしく変わっていく60年代後半、その中でブルーズという音楽自体の人気が落ちていきます。そこで戦っているマディなんですが、最初に聞いてもらったようなロックっぼいサウンドでも歌わなければ仕方ない状況になっていくわけです。B.B.キングやボビー・ブランドのようなモダン・プルースのシンガーたちはソウル・テイストの曲を歌っても様になってこの時代をしのいでいくのですが、マディは50年代のシカゴ・ブルースを基本にしているブルーズマンですから時代に対応していくのが難しかった。
次の曲のタイトル「ジョン・ザ・コンクァ・ルート」というのは黒人たちが故郷のアフリカから持ってきた民間伝承の宗教で、植物の一種でそれを持っていると幸運が訪れるというものです。この曲は全盛期に発表したHoochie Coochie Man やMannish Boyと同じ流れの曲で悪く言えば二番煎じなんですが、マディの歌だけは素晴らしいです。
4.My John The Conquer Root/Muddy Waters
次の曲もそれ以前にリリースしていた"Tiger In Your Tunk"と同じリズム・パターンを使った曲です。つまり制作するチェス・レコードもマディを売るための新しいアイデアが生まれなかったんですね。
5.My Dog Can’t Bark/Muddy Waters
このあとマディはファンク・テイストやロックテイストのアルバムをプロデュースされるのですが、本人が頑張って歌っても過酷な言い方ですがやはり50年代のものを越えるものは生まれませんでした。時代の流れを感じます。
前回と今回聞いてもらったマディ・ウォーターズ11枚組LPレコード・ボックスセットはネットでUSEDで出ていることがありますが、マディ・ウォーターズを体系的に知りたい方は是非ゲットしてください。
それにしてもこの11枚組LPレコード・ボックスセットをリリースした日本のP-Vineレコードは偉い!素晴らしい!
2025年10月10日 ON AIR
祝50周年P-Vine Records! 第12回
83年にP-Vineレコードがリリースした狂気の沙汰マディのLP11枚組その1
Muddy Waters The Chess Box
ON AIR LIST
1.Gypsy Woman/Muddy Waters
2.I Can’t Be Satisfied/Muddy Waters
3.Rollin’ Stone/Muddy Waters
4.Rollin’ And Tumblin’/Muddy Waters
5.Just Make Love To You/Muddy Waters
少し前にP-Vineレコードが83年にリリースしたチャック・ベリーのLP三枚組セットをON AIRしましたが、P-Vineは翌84年に私が「狂気の沙汰」と呼んだマディ・ウォーターズのLP11枚組ボックスセットをリリース。チャック・ベリーの時はロック・ファンにもブルーズ・ファンにもLP三枚組は売れるだろう・・・と思いましたが、マディ・ウォーターズのしかもLP11枚というのは価格も高くなるだろうしちょっと無謀ではないかと思いました。ちなみに発売同時の定価は22,000円。私もライナーノーツを少し頼まれて書きましたがこれは大変な企画だと思いました。
今日はマディの全盛だったチェスレコード時代のこの11枚のアルバムから私が個人的に思い出に残っている曲をON AIRします。
まず11枚のアルバムの1枚目のA面の1曲目。このボックスセットの最初の曲です。僕のLPレコードで聴いてもらうのですが途中で針が一箇所飛んでいます。そこもお楽しみください。
1947年ピアノのサニーランド・スリムのレコーディングにギタリストとして雇われたマディですが、多分時間が余ったので「マディ、お前も録音してみるか」ということだったんではないかと思います。初めてのリーダー録音。ピアノはサニーランド・スリム、ベースがビッグ・クロフォード、ドラムは名前がわからずUnknownと記載されてます。そして歌とギターのマディ・ウォーターズ
1.Gypsy Woman/Muddy Waters
こういうサウンドは1930年代から流行ったシティ・ブルースと呼ばれる曲調で主にピアノとギターとかギターにハーモニカとかの編成で泥臭い南部のブルーズとは違った当時にしては少し小洒落たサウンドだったのです。ブルーバードというレーベルからこの手のブルースがたくさんリリースされたことからブルーバード・ビートとも呼ばれています。
南部の泥臭さを抑えてマディの歌の上手さだけを使って小洒落たブルーバード・ビートにして売ろうとチェス・レコードは目論んだのですが、売れなかったんですね。
それで次はマディに南部時代から得意としているスライド・ギターを弾かせて、ピアノは入れずにビッグ・クロフォードのウッドベースだけという録音させたのが次の曲です。これは売れました。
2.I Can’t Be Satisfied/Muddy Waters
マディがミシシッピにいた頃からやっていたスタイルでまさにデルタ・ブルーズ直送。そしてこの曲が評判になりここを原点にマディはシカゴ・ブルーズのボスへと上り詰めていくわけです。
この生き生きとしたマディの歌とギターとベースのグルーヴ感は今聴いても新しさを感じさせます。
さて、ロックバンドのローリング・ストーンズはマディ・ウォーターズの曲名からバンド名をつけたという話を知っている方もいると思いますが、その曲を自分が初めて聴いたときのなんとも言えない衝撃を今も思い出します。僕もまだロックを聴いていた頃だったのでストーンズのイメージから派手な曲を想定していました。すると聞こえてきたのはこれでした。
3.Rollin’ Stone/Muddy Waters
次の曲もマディで知る前に白人のブルーズ・ロック・バンド「キャンド・ヒート」のバージョンで知ってました。ブルーズのトラッドな曲でキャンド・ヒートが誰の元歌を聴いたのかわからないですが、これもマディで聞くと泥臭く関西弁で言う所の「いなたい」音だった。つまりその「いなたい」と感じたものこそブルーズだったのです。そしてそこにハマるとブルーズのマディ・ウォーター(泥水)に足を取られ底なし沼に浸かってしまうことになるわけです。
4.Rollin’ And Tumblin’/Muddy Waters
このマディ・ウォーターズ11枚組LPボックスセットは凡そ時系列に曲が収録されてます。ブルーズのスタンダードとして残っている曲も多く、最初から5枚目くらいまでは50年代のマディの勢いを知る思いです。そしてこの時系列の流れはそのままシカゴ・エレクトリック・ブルーズの流れでもあります。そしてマディの録音に参加する精鋭のブルーズマンたちの素晴らしさ。そしてその個性的な実力を持つブルーズマンたちが集まってマディを中心としたエレクトリック・シカゴ・ブルーズが作られていったわけです。次の曲も高校生の頃、ローリング・ストーンズがカバーしていて知っていたのですが、今思うとストーンズのカバーは若いと言うか・・この原曲を聴いた時にこれが大人の音楽、大人のブルーズだと思いました。サウンドとビートの重厚感、途中のリトル・ウォルターのハーモニカのきらびやかな音そしてマディのディープな歌声。大好きなブルーズです。
5.I Just Want To Make Love To You/Muddy Waters
このマディのLP11枚組セットは大げさでなく、日本のP-Vineレコードが作った世界に誇る名盤、名ボックスセットやと思います。中古盤でもあまり見かけることがなくなったんですが、ネットでは時々出ているようです。