特定非営利活動法人 おおた市民活動推進機構
震災被災地域で移動困難な精神障害者の通所・通院の送迎を支援 特定非営利活動法人おおた市民活動推進機構
※(注記) この記事は月刊誌「WAM」平成26年9月号に掲載されたものです。
市民活動のハブとしての役割
東京都大田区にある特定非営利活動法人おおた市民活動推進機構は、地域住民が「自分のまちを自分たちの手でつくりあげる」ことを支援し、社会課題を解決するために必要な状況をつくることを目的に、平成19年に設立された。
主な事業として、社会貢献を目指す事業者が集う協働オフィス「ぷらっとホーム大森」の運営、NPO法人設立などの市民活動相談や非営利活動の支援、地域密着型情報WEBマガジン「やるじゃん!おおた」の発行などを行っている。
協働オフィス「ぷらっとホーム大森」は、単なるシェアオフィスではなく、社会貢献を目指す事業者が入居の対象となる。地域には区立の活動支援施設など"共同事務所"もあるが、非営利団体が対象となるケースが多いという。同法人では、社会課題を解決するためにカテゴリーは関係ないという考え方から、社会貢献に共感できる人であれば営利・非営利に関わらず個人での入居も可能として、集う人が有機的につながることをねらいにしている。
市民活動相談支援としては、市民活動活性化のための相談と支援機能のほか、面談相談、業務支援、助成金取得アドバイスなどを行っている。
また、地域で頑張っている市民活動団体や企業、学校などの活動を紹介する地域密着型情報WEBマガジン「やるじゃん!おおた」を月2回の頻度で配信し、これからの社会を築いていくために必要な情報提供を行っている。
移動手段を失い被災地で孤立する障害者
同法人は平成23年に、東日本大震災・原発事故による交通機能寸断のために、移動が困難になった福島県南相馬地域の障害者の移送支援(移送支援事業「さっと」)を実施している。この事業は、おおた市民活動推進機構が中核を担い、大田区と南相馬市の市民団体や障害者支援事業者の広域連携によって行うもので、平成23年度独立行政法人福祉医療機構の社会福祉振興助成事業の助成金(WAM助成)を受けて実施した。なお、平成24年度も「原発事故被災地南相馬の移送支援事業」として事業を継続しており、優良助成事例にも選定されている。
大田区では発災直後より被災地支援と避難者支援を行っており、同法人をはじめとする福祉関係団体が、福島県から大田区へ避難してきた福島県の障害者とその家族への相談対応を行っていた。それがきっかけとなって被災地の精神障害者支援事業者と連絡を取りあうようになり、現地の精神障害者が避難所になじむことができないなどの理由で、自宅にひきこもり、体調面の悪化が懸念されているといった現状を知ることとなった。そのため、平成23年5月に、南相馬地域の障害者がどのような暮らしをしているのか現地調査を行ったという。
当時の状況や事業に至った経緯について、同法人常務理事・事務局長の中野真弓氏は次のように語る。
「南相馬地域はもともと交通網がぜい弱なうえに、原発事故のためJR常磐線が不通となり、交通弱者といわれる障害者の方は移動手段を失い、孤立した生活を余儀なくされていました。このような状況で一番要望されたのは『移動する時の支援がほしい』ということでした。利用者・家族から発災前のように『支援施設に通いたい』という切実な願いが多く寄せられる一方で、開設している事業所は他事業所の利用者の受け入れなどの対応に追われ、スタッフの疲労は限界に達しており、とても移送支援に手が回せる状態ではありませんでした。ちょうどその時に、福祉医療機構のWAM助成の2次募集があることを知り、南相馬市の事業者に提案し、緊急課題である移送支援を立ち上げることにしました」。
広域連携による移送支援事業を実施
移送支援事業「さっと」の概要は、主に精神障害者を対象に、平日週5日(月〜金曜日)8時〜17時までの時間帯を、7人乗り普通乗用車と福祉車両の各1台を使用し、支援施設への通所、通院などの送迎を行う事業となっている。
「取り組みに共感し、協力してくれる団体に声を掛けて、大田区の6つの福祉関係団体と、南相馬地域の4つの障害者施設事業者が連携団体として契約し、大田区と南相馬市の福祉関係団体や障害者支援事業者の広域連携によって事業を行いました。それぞれの地域で事業者間のネットワークが構築されている土台があったため、スムーズに進めることができました」(中野常務理事)。
事業の体制については、被災地の事業者は日々の対応に追われて手いっぱいのため、中間支援事業を手掛ける同法人が主催団体となり、東京都大田区に統括事務局、移送支援事業を実施する南相馬市に「さっと事務局」を配置した。
統括事務局は、助成事業の申請から資金の調達、適切に事業運営をするための事務管理のほか、課題を解決するためのデータ・情報整理、報告書作成などが主な役割となる。「さっと事務局」は、移送支援を希望する利用者の集約やコース組みなどを行い、実際に移送支援を行う。
さらに大田区、南相馬市の連携団体の代表者と有識者で構成される「さっと事業検証委員会」を発足し、事業実施を円滑に進めるための検討と同時に、緊急事態時の障害者移送支援のあり方等の検証も行っている。
被災地での新たな雇用確保にもつなげる
「さっと事業」の実施にあたり、なかには「事業を継続させるには他力本願ではなく、地域の事業者が自立する必要もあるだろう」といった意見もあったという。そのような声に対して、中野常務理事は、「当事者たちだけで考えていると、ある種の限界を感じてしまうことがあります。私たちのように限界がわからない、外部だからこそ大事な部分がみえることもあります。検証委員会では、現地の雇用確保も視野に入れながら、被災地の自立支援の観点から数年後には被災地主体の事業運営が行えるような支援を進めました」と語る。
実際に「さっと事業」により、現地での新たな雇用が生まれている。送迎を行う2人の運転手はタクシー業の退職者に依頼したという。「さっと事業」がタクシー業の仕事を奪っていると思われないよう、社会的なバランスを保つための配慮であるとともに、退職者の新たな雇用の場としている。ほかにも移送をする際には介助が必要な利用者もいるため、精神障害者の対応経験があるヘルパーを4 人雇用している。
平成24 年度の「さっと事業」の利用実績は、通所・通院をあわせて延べ4500人を超え、移送支援の希望者をほぼフォローできるまでの体制がつくられている。事業3年目を迎え、定着化が進み25 年度にはさらに利用者が増えている。また、仮設住宅に入る利用者の入浴介護や、買い物、遊びに行くといった余暇活動のための利用など、新たに生まれたニーズにも対応し、利用範囲の拡大も進んでいるという。