V.施設の効率性(稼働状況)
工業用水道事業は施設型の事業であり、適切な規模の投資が行われているか否かが経営を左右することになる。投資が適切であるか否かは、施設の効率性を分析することにより判断することができる。
この項では、契約率、施設利用率等を用いて施設の効率性を考察する。
(1) 契約率及び施設利用率
契約水量
契約率(%)= ―――――――― ×100
現在配水能力
1日平均配水量
施設利用率(%)= ――――――――― ×100
現在配水能力
区 分
契 約 率
施 設 利 用 率
(参考)契約率と施設利用の乖離
14
15
16
14
15
16
14
15
16
当 該 団 体
類似団体平均
全 国 平 均
82.8
81.8
81.9
59.2
58.8
60.2
28.5
28.1
26.6
A 施 設
94.8
95.4
95.4
51.9
51.3
52.1
45.3
46.2
45.4
B 県
42.2
42.8
43.0
35.8
36.1
36.4
15.2
15.7
15.3
(注) ┌ ┐
│ 施設利用率 │
乖離率(%)=│1− ―――――― │×100
│ 契約率 │
└ ┘
【指標の見方】
契約率は、1日当たり配水能力(以下「現在配水能力」という。)に対する給水先事業所と契約を交わした1日当たり給水量(以下「契約水量」という。)の割合を示すもので、工業用水道事業の経営状況(収益性及び施設効率性)を最も良く表す指標である。
契約水量は、給水先事業所より申請のあった1日当たり使用水量に基づき工業用水道事業者側が認めた水量をいうものである。給水先事業所は、契約水量に給水単価を乗じた料金を支払うが、実使用水量が契約水量に比較して少ない場合でも減額されない(従量制ではない)、いわゆる責任水量制と呼ぶ料金制度をほとんどの工業用水道事業で採用している。したがって、給水収益はこの契約水量に比例して増加することから、単年度欠損が生じている場合には、第一に契約率(水量)を増やすことが肝要であり、また、給水区域内に工場適地がなく今後も契約率の増加が望めない場合には施設規模の見直しが必要となる。
施設利用率は、現在配水能力に対する1日平均配水量の割合を示すもので、契約率と合わせて施設の利用状況を総合的に判断するための指標である。
工業用水道事業における施設利用率は、水道事業のように季節による需要変動がない施設が多いため最大稼働率とみなすことができ、一般的に契約率と比例するため、施設利用効率として見る場合には契約率で判断できる。
ところが、現実には契約率と施設利用率を比べた場合、大きな乖離が生じている。これは(1)給水先事業所において将来の拡張に合わせ多少の余裕を持ち契約水量を決めている、(2)季節により使用水量が大きく変動する給水先事業所を多数有する、(3)過去において契約水量に近い使用水量であったが、工場の縮小、生産品目の変更、新規設備投資による用水回収率(事業所内の水を段階的に循環使用することよる、事業所内利用水量と外部からの補給水の割合)の向上により工業用水道からの補給水量が減少した、等の理由による。
したがって、施設利用率により利用効率は一概に判断できないが、仮に上記(3)の理由により契約率と施設利用率に乖離がある場合には、給水先事業所からの契約水量の減量要望等、今後の経営状況の悪化が予想される。
【施設別:A施設の分析】
A施設の契約率は95.4%で、全国平均の81.9%を上回っている。一方、施設利用率は52.1%で、契約率との乖離は大きいが、総収支比率、経常収支比率、及び営業収支比率が100%を上回っているのは、契約水量に基づく責任水量制により料金を回収しているためである。
【団体別:B県の分析】
B県の契約率は43.0%で全国平均を大きく下回っているが、料金改定による収入の増加、支払利息の低減による資本費の圧縮等、経営合理化を進めた結果、平成7年度以降、総収支比率が100%を超えている(利益を生じている)。
しかしながら、施設利用率は36.4%と極端に低く、契約率との乖離は平均以下であるものの、今後給水先事業所からの減量要望があるのではないかと考えられ、経営改善の見地からいずれ施設規模の見直しの検討が必要になると思われる(B県は1施設のみで運営しているため、この施設の収支が会計全体の収支である。)。
【全体の傾向】
全体の傾向としては、施設別にみると契約率、施設利用率とも現在配水能力規模の大きい事業が高くなっている。水源別には地下水のみの施設が低くなっているが、これは規模の小さい施設に地下水のみのものが多いためである。団体別に見ても同様である。
契約率及び施設利用率:対現在配水能力(施設別)
規模別・水源別契約率及び施設利用率:対現在配水能力(施設別)
規模別・契約率別施設数
規模別・施設利用率別施設数
契約率及び施設利用率:対現在配水能力(団体別)
規模別・契約率別団体数
規模別・施設利用率別団体数
(2) 導送配水管使用効率
年間総配水量
導送配水管使用効率(千m3/m)= ――――――――――――――
導水管・送水管・配水管延長
(参照項目)
一日平均配水量
施設利用率(%)= ――――――――― ×100 (再掲)
現在配水能力
導水管・送水管・配水管延長
管渠延長大小(m)= ――――――――――――――
現在配水能力
給水先事業所数
配水管延長10km当たり給水先事業所数= ――――――――
配水管延長
区 分
導送配水管
使用効率
参 照 項 目
施設利用率(再掲)
管渠延長大小
10km当たり事業所数
14
15
16
14
15
16
14
15
16
14
15
16
当 該 団 体
類似団体平均
全 国 平 均
0.58
0.57
0.58
59.2
58.8
60.2
0.37
0.37
0.38
9.61
9.56
9.34
A 施 設
0.06
0.07
0.06
51.9
51.3
52.1
3.22
2.83
3.10
5.59
6.33
5.72
B 県
0.34
0.35
0.35
35.8
36.1
36.4
0.38
0.38
0.38
6.12
6.31
6.30
【指標の見方】
(1)の施設利用率に加えて、施設の効率を示す指標である。
導送配水管使用効率は、導・送・配水管(注)の敷設延長(1m当たり)に対する年間総配水量(千m
3)の割合である。
ここで、年間総配水量の程度は、先の施設利用率とも関連する。また、導送配水管延長は、配水能力当たり管渠延長の大小(地理的条件等)及び配水管延長当たり給水先事業所数(密度)の影響を受けるため、これらの数値も参照するとよい。
したがって、施設利用率が高い、管渠延長の大小では数値が小さい、配水管10Km当たり給水先事業所数では数値が大きいなどの場合、一般的には利用効率が向上すると考えられるが、取水地点から遠い場合や中小企業の受水先が多い場合などは管渠延長の大小の数値が大きくなる、大口受水事業所が比較的多いため相対的に受水先事業所数が少なければ配水管10Km当たり給水先事業所数の数値が小さくなるなど、経営上の問題は無いが導送配水管使用効率の数値が低下する要素もあるので留意する必要がある。
(注) 導水管、送水管及び配水管の種別については、「工業用水道施設区分概要図」(次ページ)参照。
【施設別:A施設の分析】
A施設の導送配水管使用効率は0.06千m
3/mで、全国平均の0.58千m
3/mと比べかなり低くなっており、配水管10Km当たり給水先事業所数をみると全国平均よりも少なく、給水先の集積度が比較的低いと考えられる。これは、管渠延長大小が大きく、施設利用率が低いため、導送配水管使用効率が低くなっているためである。
【団体別:B県の分析】
B県の導送配水管使用効率は0.35千m
3/mで、全国平均の0.58千m
3/mと比べ低くなっている。これは、管渠延長大小は全国平均並であるが、施設利用率が低いからである。
【全体の傾向】
導送配水管使用効率の全体の傾向としては、現在配水能力規模の大きい施設が高くなっている。これは、現在配水能力規模の大きい事業は、一般的に大径管渠の使用割合が高いため、導・送・配水管の延長が同じ長さで、かつ、施設利用率が同じであれば、現在配水能力規模の大きい施設のほうが高くなる。また、水源別にみた場合では、「地下水のみ」が低くなっているが、現在配水能力の比較的小規模のものが多く、管渠延長に対し流量が小さいためである。これは管渠延長大小において「地下水のみ」の数値が高くなっていることでも確かめられる。
しかし、これらはスケールメリットの問題であり、小規模事業であっても施設利用率や管渠延長大小等の数値によっては導送配水管使用効率も高くなるものである。
工業用水道施設区分概要図
(出典)「工業用水ハンドブック1996」((社)日本工業用水協会より)
導送配水管使用効率(施設別)
規模別・水源別導送水管使用効率(施設別)
導送配水管使用効率(団体別)
管渠延長大小(施設別)
規模別・水源別管渠延長大小(施設別)
管渠延長大小(団体別)
配水管延長10Km当たり給水先事業所数(施設別)
規模別・水源別配水管延長10Km当たり給水先事業所数(施設別)
配水管延長10Km当たり給水先事業所数(団体別)
平成16年度工業用水道事業経営指標