PRESTIA Insight
Today's Insight
2025年11月19日 12:15作成
日本経済:円安進行が日銀・政府の対話の鍵に
■しかく 7-9月期実質GDPは一時的にマイナス成長となるも、基礎的な内需は依然増加基調を保つ
■しかく 拡張的な財政・金融政策を意識した円安進行は、日銀の利上げに向けた政府との対話の鍵に
17日に公表された7-9月の実質GDP速報値(前期比年率1.8%減少)は、6四半期ぶりのマイナスとなった。住宅投資(同32.5%減)が省エネルギー基準改正に伴う駆け込みの反動で大きく減少したことに加え、輸出が年前半の高い伸びから一服したことが大きくマイナスに作用した。これにより、GDPに占めるウエイトが5%程度と小さいはずの住宅投資が成長率を1.4%ポイントも引き下げ、純輸出も1%ポイント押し下げた。ただし、それらを除けば、過去3四半期分の成長率は大きく上方修正されたほか、7-9月期も設備投資(同4.2%)と個人消費(同0.6%増)は増加基調を維持しており、内需は堅調さを保っている。企業や消費者マインドも改善傾向が続く。11月のロイター短観調査・業況判断DI(製造業:17、前月比9ポイント上昇;非製造業:27、前月比変わらず)や10月の景気ウォッチャー調査・現状判断DI(49.1、前月比2.0ポイント上昇)、10月の消費動向調査・消費者態度指数(35.8、同0.5ポイント上昇)は夏以降上昇傾向が続いており、米関税引き上げの影響を巡る不確実性が国内の経済活動に悪影響を及ぼしている兆候はみられない。これらを踏まえれば、7-9月のマイナス成長は一時的なものであり、景気拡大は緩やかながら続いているとみてよいだろう。
報道では、21日の閣議決定が予定される2025年度補正予算は、一般会計からの歳出が前年度の補正予算13.9兆円を若干上回る14兆円程度となり、減税を含めた経済対策全体では17兆円を超えるとされる。財政投融資を含めれば20兆円を超えるようだ。通常、年度の当初予算では、財政規律が優先されて政権の特色が出しづらくなる。これに対し歴代政権は、審議が短い秋の補正予算編成のタイミングで経済対策を実施し、国民へのアピールのために規模を極力大きくみせることが慣例となっている。報道の規模感は想定の範囲内とはいえるが、市場では依然として拡張的な財政・金融政策が意識され、円安や長期金利の上昇が進む。
植田日銀総裁は18日、高市首相と首相就任後初めての会談を行った。植田総裁は会談後の記者会見で、2%のインフレ目標への安定的着地に向けて「徐々に金融緩和の度合いを調整している」との説明に対し、首相から了解を得たとの認識を示した。「物価高対策を最優先」とする政府は、円安によるさらなるインフレ進行を望まないはずだ。片山財務大臣は就任以降、円安をけん制する発言を繰り返すもその影響は限定的であり、緩和的な金融政策が為替もたらす影響は大きい。日銀の利上げに向けた政府との対話においては、為替円安の進行が大きな鍵を握っているといえよう。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加