PRESTIA Insight
Today's Insight
2025年11月20日 10:30作成
中国:成長率目標達成を捉え緩やかな景気減速を容認か
■しかく 10月は大半の経済活動が停滞し、「反内巻」政策により投資低迷が際立っている
■しかく 成長減速が続く場合でも緩やかなペースであれば通年で5%の経済成長は達成される見通し
中国では10月分のほぼすべての経済指標が前月から悪化し、景気減速が一段と明確になっている。鉱工業生産(前年比4.9%増)、小売売上高(同2.9%増)、サービス業生産指数(同4.6%上昇)は増加・上昇ペースが鈍化し、輸出(同1.1%減)は8カ月ぶりの減少に転落、固定資産投資(農村部除く、年初来同1.7%減)は減少ペースが加速した。中国政府が10月9日に発表したレアアース輸出規制強化をきっかけに米中対立が強まり、生産、輸出を抑制した。ただ10月末の米中首脳会談を経て、1年間の中国のレアアース輸出規制延期、米国がフェンタニル流入防止の名目で賦課していた10%の対中関税引き下げが決まり、生産、輸出などの製造業活動は徐々に持ち直すことが見込まれる。小売売上高は、政策支援効果の一巡により家電・音声映像機器が大幅減少となった一方で、外食、衣料・服飾製品、化粧品類、金・銀・宝飾類などの復調が目立ち、国慶節休暇の余暇関連消費、「独身の日」商戦の前倒しなどが支え緩やかな減速となった。もっとも、「独身の日」商戦効果の分散、家計の選別消費姿勢、政府の買い替え支援効果一巡などが制約となり、11月も成長率目標である前年比5%を大幅に下回る増加にとどまろう。固定資産投資は、製造業、インフラ開発、不動産開発がいずれも直近数カ月間で加速度的に悪化し、不動産開発に続いてインフラ開発も2020年8月以来となる減少に転じた。政府の「反内巻」政策(過当競争是正)が投資を抑制し、人民元建て融資残高(同6.5%増)、不動産販売(床面積ベース、年初来同6.8%減)などから資金需要や不動産取引の低迷も示されている。反面、消費者物価指数(同0.2%上昇)の低下は止まりつつあり、物価には「反内巻」政策の一定の効果が表れている。
8月に予定されていた米国の対中関税の大幅引き上げが見送られたため7-9月期は緩やかな景気減速にとどまった。10-12月期は前年比4.5%超までの成長減速であれば、2025年通年で「5%程度」の成長率目標が達成される。2026-30年の第15次五カ年計画で経済構造転換の加速を掲げており、通年5%の成長が危ぶまれるような景気急減速に陥らない限り成長減速を許容し、構造改革に逆行するような政策支援は控えられよう。10月末に1年間の米中合意が締結され、当面は来秋中間選挙を控える米国との対立が再燃する可能性が低下した。次期五カ年計画に向けて国内の構造問題への対応を優先する条件は揃いつつある。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏