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知りたいことがすぐわかる! 性感染症ナビ 予防から診断・治療,最新知見まで

STI診療はデリケートな問題への配慮や疫学情報の把握など,特有の難しさがあります.本書では,非専門医に必要な基礎知識,専門医が求める最新治療・予防までを幅広く網羅.専門クリニックの実例を踏まえ,医療スタッフに求められる配慮,当事者への説明の工夫にも焦点を当てています.見落とされがちな疾患やトランスジェンダーの方々のSTIにも丁寧に言及.日常診療で役立つ実践的知見と最新情報を凝縮した一冊です.
  • 国立健康危機管理研究機構国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター 名誉センター長 岡 慎一 編集
定価:
5,280円(本体価格 4,800円+税)
発行日:
2025年07月30日
ISBN:
9784787826787
頁:
320頁
判型:
A5
製本:
並製
在庫:
在庫あり

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序文

はじめに

性感染症(sexually transmitted infections:STI)は,日々の診療において,決して避けて通れない,重要な健康課題です.感染は誰にでも起こりうるため,医療従事者はもちろん,感染当事者にとっても,常に最新の知識と適切な対応が求められます.しかし,STIは「性」というデリケートな側面に深く関わっているため,当事者は誰にも打ち明けられず,一人で悩みを抱え,受診をためらう傾向があります.また,医療者側も,患者のプライバシーに配慮しながら,適切な情報(感染経路や性行動等)を丁寧に聴取すること,患部の診察に際して細心の注意を払うことなど,特有の難しさに直面します.
本書は,このような幅広いニーズに応えるべく,感染当事者,医療従事者(専門医,一般開業医,看護師,医療スタッフ等)それぞれのレベルに合わせた情報を提供することを第一の目的としています.感染当事者は「このまま放っておいたらどうなるのか?」,「治療法はあるのか?」といった不安を抱えています.一般開業医や看護師は,疾患の基礎知識から患者心理,最新の診断・治療法まで,幅広い情報を必要とされていることでしょう.そして,専門医は,標準治療のみならず,わが国ではまだ導入されていない最先端の事柄から,世界で行われている新しい予防法まで,一流欧文雑誌で論文になっている内容を知りたいはずです.そこで本書の構成は,手に取った読者がどこを読めば自分のニーズに合うのかがわかるように層別化しました.
STIに関する本はこれまでもいくつか出版されており,日本性感染症学会からは診療ガイドラインも発行されています.本書は,それらを補完し,さらに一歩進んだ情報を提供することを目標としています.標準治療の詳細は,ガイドラインを参照いただくことを前提としつつ,本書では学会のガイドラインでは十分に触れられていない,臨床現場で直面するであろう実践的な疑問や課題,そして専門医にとっても読み応えのある,標準治療をさらに深掘りした内容までを幅広く網羅しています.たとえば,わが国の保険診療は,治療においては世界に誇ることのできる制度となっていますが,予防においてはきわめて後ろ向きです.しかし,世界ではSTIに関しても予防に対し積極的で,新しい知見が次々と生まれています.わが国でも自由診療クリニックでは,それらの新しい予防法をいち早く導入し,成果を上げています.本書では,保険診療の枠にとらわれることなく,国内外の最新の予防戦略,そして実際に最前線で予防に取り組んでおられる先生方にも執筆者として参加していただき,貴重な知見と経験に基づいた,実践的な情報を提供していただきました.STI診療に携わるすべての医療従事者にとって,非常によい羅針盤となることでしょう.
本書では,日常診療でよく遭遇する梅毒,淋菌感染症,クラミジア感染症から,新しいSTIとして広がりをみせているエムポックス(サル痘)や,近年社会的な認知も高まりつつあるトランスジェンダーの方々のSTIに関しても触れています.また,一般には,あまりSTIとして認識されていない肝炎や赤痢アメーバ症(アメーバ赤痢)に関しても解説を加えました.本書は,浅く広くではなく,時に深く,そして幅広く,読み物としても興味深く,臨床の合間にも気軽に手に取っていただけるように,Columnや「ちょっとヨリミチ」なども豊富に掲載しています.ぜひ,本書を通して,患者さんのために,そしてご自身のために,STIの知識をアップデートし,日々の診療に役立てていただければと思います.

2025年5月吉日
岡 慎一
国立健康危機管理研究機構国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター 名誉センター長
国立療養所多磨全生園 特命副院長





編集後記

私が国立国際医療研究センター(NCGM)エイズ治療・研究開発センター(ACC)のセンター長を2023 年春に定年となり,のんびりと過ごしていた同年10 月に,本書の企画依頼をいただきました.
1986 年に自身初のエイズ患者を診て以来,エイズを専門とし,東京大学医科学研究所からACCに至るまで約40 年間,エイズ研究に没頭してきました.いわば"エイズバカ"となっていましたが,HIV 感染症自体が性感染症(STI)であり,日本のHIV 感染者は男性同性間性的接触(者)(MSM)が多く,彼らには梅毒感染も多かったため,STI 全般にも関心を抱いていました.
2015 年以降,世界的にHIV 曝露前予防(PrEP)が導入されるようになり,「日本でも何とか導入したい」との思いから,2017 年にNCGM 内にHIV 非感染のMSM を対象とする外来を立ち上げ,「Sexual Health Clinic(SH 外来)」と名付けました.泌尿器科の手術日の空いたスペースを週2 日お借りしてのスタートでした.
当初は「HIV 非感染のMSM が,定期的に大病院へ通院することは難しいのではないか」と予想していましたが,ふたを開けてみると,2,500 人を超えるMSM が登録し,そのうち約1,300 人が定期通院するまでに至っています.
SH 外来が軌道に乗ると,このコホートを活用して,多くのSTI における有病率(prevalence)だけでなく,罹患率(incidence)も明らかにすることが可能となりました.わが国では匿名検査が主流であるため,これまでMSM におけるHIV 罹患率を正確に把握することは困難でしたが,SH 外来の存在により,それが初めて可能となったのです.
梅毒,淋菌,クラミジアといった多くのSTI に関しては,HIV 感染者であればACC に定期通院している患者データから罹患率を算出できていましたが,非感染者におけるデータはこれまで存在しませんでした.様々なSTI 対策を立てるにあたっては,どの程度の集団にどのような介入を行えば,どの程度の効果が期待できるかを推定する必要があり,そのためには罹患率の把握が不可欠です.
たとえば,年間で東京都内におけるHIV 陽性者が約600 人とすると,都内MSM におけるHIV 罹患率は3.0/100 人・年程度と推定されます.したがって,MSM 100 人に対して1 年間PrEP を実施すれば,理論上は3 人の新規感染を予防できることになります.つまり,20,000 人のMSM に対してPrEP を提供できれば,新規HIV 感染者数をゼロに近づけることが可能となるのです.このように,具体的な数値目標に基づいた対策が立案できるようになりました.
SH 外来の開設以降,ACC 内においてもSTI に関する診療の重要性が一段と高まっています.
私たちは毎年,台湾大学を中心とした台湾HIV 研究グループと研究交流会を開催しており,2024 年の交流会では,約20 題の演題のうち,HIV そのものに関する演題は台湾側からの1 題のみでした.それ以外は,HIV 感染者に合併するSTI に関する研究が主流であり,日本も台湾もHIV 研究の関心がSTI との関連に移行しつつあることを実感しました.
本書の企画もらったときに真っ先に思い浮かべたのは,実際に現場でSTIの診療および臨床研究を行っている医師に執筆を依頼することでした.大学病院などの大規模医療機関では,STI の患者さんが受診される機会はむしろ稀です.一方,ACC およびSH 外来では,合わせて4,000 人以上の方が定期通院しており,STI 診療や臨床研究も多岐にわたります.ACC スタッフによる論文も欧文有力誌に多数掲載され続けています.
そこで,ACC のなかでもSTI 診療に従事している医師に,それぞれの得意分野について執筆をお願いしました.また,梅毒,淋菌,クラミジアなどは,自由診療枠で一般のSTI クリニックにおいて診療されることが多いため,そうした医療機関の医師にも執筆をお願いしました.
STI に関する書籍はすでに数多く出版されており,特に治療に関しては日本性感染症学会からガイドラインも刊行されています.したがって,詳細はそちらに譲ることとし,各執筆者には,医師のみならず,STI 診療に携わる医療スタッフや感染当事者にとっても有益な内容となるよう,幅広い視点からの記述をお願いしました.
こうした多方面からの要望があったため,当初の予定より半年以上出版が遅れましたが,完成した本書を手に取ってみると,当初の想定を上回る仕上がりとなったと感じています.
執筆に苦労した分,各執筆者からは「できるだけ多くの方に読んでもらいたい」という声が多く聞かれました.そのためには書名も非常に重要だろうと,本書のタイトル選定については大いに議論がなされました.一般社団法人天照会いだてんクリニック マーケティング部の和田凌司さん,村上 南さん,伝宝優希さん,渡辺 景さんに熱心に検討していただいたことに心より感謝いたします.
最後に,企画段階から出版まで一貫して温かくサポートくださった診断と治療社の皆様に,厚く御礼申し上げます.

2025 年5 月吉日
岡 慎一
国立健康危機管理研究機構国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター
名誉センター長
国立療養所多磨全生園 特命副院長

目次

性感染症(STI)ダイジェスト
はじめに
執筆者一覧
略語一覧

A 梅毒
I 感染経路と年代別分布
II 病期
III 診断
IV 治療
Column 梅毒における「セロファスト状態」
B 淋菌感染症(淋病)
I 地域性
II 診断
Column 薬剤耐性の現状
III 治療
Column ワクチン
Column STIに地域差はあるのか?
C クラミジア感染症
I 疫学
II 診断
III 治療および微生物学治癒
Column 混合検体検査(3 in 1検査)
Column 保険診療と自由診療の現状と課題
D Doxy-PEP/PrEP
I Doxy-PEP/PrEP
Column STIクリニックの役割と運営
E STIのパートナーへの説明
I STIのパートナーへの説明
Column STIクリニックを訪れる患者の心理
F トリコモナス症
I 臨床症状と診断
II 治療と予防
G 性器ヘルペス
I 臨床症状と診断
II 治療と予防
H 亀頭包皮炎
I 亀頭包皮炎
I 細菌性腟症,腟カンジダ症
I 細菌性腟症,腟カンジダ症
J マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症
I 診断
Column 薬剤耐性の現状
II 治療
Column 治療失敗例
K 赤痢アメーバ症
I 概要
II 診断
III 治療
Column 無症候性キャリアの病態
L 男性のHPV感染症
I 概要
II 男性のHPVワクチン
Column 肛門へのHPV感染と肛門がんスクリーニング
III 尖圭コンジローマ
M 女性のHPV感染症
I 概要
II 女性のHPVワクチン
III 子宮頸がん
IV 頭頸部がん
N ウイルス性肝炎ABC
I 診断
II 治療
III 予防
Column B型,C型肝炎の分子疫学
O HIV感染症
I 診断
II 病態
Column quasispecies,R5/X4ウイルス
III 予防
IV 治療
V 現状の問題点
Column 新規HIV感染ゼロは可能か?
P エムポックス(サル痘)
I 概要
II 診断
Column ワクチン
Q ジェンダー医療
I 感染リスクと予防
II 妊娠リスク
III 検査と配慮
Column STIクリニックにおけるジェンダー外来
Column 看護師の役割

ちょっとヨリミチ
▶ ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(JHR)
▶ 骨盤内炎症性疾患(PID)
▶ 皮膚疾患としての淋菌感染症―全身播種性淋菌感染症(DGI)
▶ セフトリアキソン(CTRX)の治療量の変遷
▶ 女性に対するSTI検査と知識の普及
▶ 望まない性行為を経験した患者への対応指針
▶ 性器だけじゃない! STI検査と看護師の案内力
▶ 不安な初診に寄り添う! 看護師の声かけと気づき
▶ 喉にできるHPV感染症―医療従事者への注意喚起
▶ HPVワクチン「積極勧奨」再開後のSNSの反応は?
▶ HPVワクチン接種率向上のためのコミュニケーション戦略
▶ 子宮頸がん患者へのスティグマ(差別,偏見)
▶ 性と生殖に関する健康と権利(SRHR)
▶ 加熱式タバコなら吸っても大丈夫!?
▶ U=U(undetectable equals untransmittable)
▶ 病状の進行とHLA
▶ フルブラウンエイズ
▶ AIDS研究のレガシー
▶ "SOGI/SOGIE"と"LGBTQ+"―性の多様性への理解
▶ "AFAB/AMAB","FtM/MtF"―用語について
▶ 女性検査デー
▶ ジェンダー医療を支えるチームアプローチ

編集後記
索引

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