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贈る言葉は「あんさん別れなはれ」

大手町の片隅から 乾正人

自民党本部に入る高市早苗総裁=9日午後、党本部(梶山裕生撮影)

あれ? 朝日新聞を読んでいたんだっけ。自民党初の女性総裁が誕生して間もない6日朝、論説委員室のソファで各社の朝刊を読み比べていると、日経新聞1面の名物コラム「春秋」が、朝日の「天声人語」に見えてしまったのだ。

朝日と間違えた日経コラム

コラムを要約するのは、野暮(やぼ)の骨頂だが、ちょっとだけ紹介すると、自民党総裁選で本命の小泉進次郎が敗れた原因をひとくさり分析したうえで、「『初の女性総理』に複雑な思いを抱いた女性は少なくないだろう」とバッサリ。そのうえで、高市は選択的夫婦別姓制度に強く反対している、と指摘。「姓はアイデンティティーであり、選ぶ自由の否定は多様な価値観の抑圧に通じる」と、高市に強く翻意を促している。どうやらこの日の筆者は女性のようで、高市早苗がお好きではないらしい。

高市嫌いの「本家」は、朝日なのでつい見間違えてしまった。

そういえば、社民党党首の福島瑞穂も「選択的夫婦別姓に反対し、ジェンダー平等に背を向けてきた人ですから、女性初と言われてもちっともうれしくありません」とX(旧ツイッター)に投稿している。

資本主義を全肯定する日経新聞と、ごりごり左派の社民党とのマリアージュとは、なんとも香ばしい。

右でも左でも「初の女性首相」が誕生すれば、開闢(かいびゃく)以来の慶事なのだからもっと喜べばいいのに、とは男性の勝手な思い込みかもしれぬ。

与党・公明党だって「高市首相誕生」にもろ手を挙げて賛成しているわけではない。

公明党代表の斉藤鉄夫は、連立政権維持へ向けて自民党と協議を続けているが、石破政権時とは打って変わって厳しい対応をみせている。

斉藤は、総裁就任早々の高市に1政治とカネ2首相在任時の靖国神社参拝3外国人排斥―という3つの懸念を突き付けた。懸念が払拭されねば、連立離脱もあり得るとブラフをかけたのである。このうち、2と3は「おおむね認識が一致した」というから、「高市首相」の靖国参拝は当面、実現しそうにない。だが、それで彼女はいいのだろうか。

「石破茂の轍」を踏むな

現首相の石破茂は、退陣を表明した記者会見で「(自分は)党内で大きな勢力を持っているわけではない。融和に努めながら『らしさ』を失うことになった」と悔やんだ。

「石破の轍(てつ)」を踏まないためにも高市は、公明と安易な妥協はすべきでないだろう。26年前に始まった自公連立体制は、世界情勢の激変で、歴史的使命を終えた、と私は思う。

歴史認識や靖国神社参拝で、中国に媚(こび)を売り続けて得られるものは何もない。それが証拠に斉藤が訪中した際、国家主席の習近平はおろか、首相の李強にも会えなかった。

この際、自民党は政策で一致点が多い国民民主党や日本維新の会、参政党などと連立するか、政策協定を結ぶ方がよほどすっきりする。

昭和の昔、ラジオ大阪の「悩みの相談室」で、聴取者から夫婦のもめ事を相談されると、「あんさん別れなはれ」という決めぜりふを放ち、一世を風靡(ふうび)した融紅鸞(とおるこうらん)というタレントがいた。彼女に代わって高市、斉藤のご両人に同じ言葉を贈りたい。=敬称略(コラムニスト)

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