22生蓄第1640号
平成22年11月29日
国税庁 課税部
課税部長 西村 善嗣 殿
農林水産省生産局長
今井 敏
平成22年4月以降において発生が確認された口蹄疫に起因して生じた事態に対処するため、家畜伝染病予防法に基づく手当金、口蹄疫対策特別措置法に基づく補てん金その他これらに類する補助金又は給付金(以下「手当金等」といいます。)が、家畜の所有者等に対して交付されています。
この手当金等については、口蹄疫対策特別措置法第27条(税制上の措置)において、「牛、豚等の家畜の所有者に与える影響に配慮し、必要な税制上の措置を講ずる」こととされています。そして、今般の臨時国会において成立した「平成22年4月以降において発生が確認された口蹄疫に起因して生じた事態に対処するための手当金等についての所得税及び法人税の臨時特例に関する法律」(以下「臨時特例法」といいます。)においては、同条の規定を踏まえ、手当金等のうち一定のものについて、所得税の免税措置などの必要な税制上の措置が講じられたところです。
ただし、手当金等のうち、下記2(2)に掲げる1出荷遅延による肉用牛の価値低下に対する助成金、2肉用牛繁殖経営支援事業の特例による交付金及び3肉用牛肥育経営安定特別対策事業の特例による補てん金(以下、これらを併せて「対象助成金等」といいます。)については、臨時特例法による税制上の措置が講じられていません。
このことは、対象助成金等について、租税特別措置法第25条(肉用牛の売却による農業所得の課税の特例)の規定による現行の特例措置(以下「肉用牛免税措置」といいます。)の適用対象として所得税の免税措置等の適用があることによるものと理解しております。
このような理解をしているところではありますが、肉用牛免税措置は、肉用牛の売却の方法、適用対象となる肉用牛、その適用する年(以下「適用年」といいます。)における適用対象となる肉用牛の売却頭数などに要件が付されており、かつ、これらの要件を満たす場合において適用年における免税対象となる肉用牛の売却に係る事業所得を計算し、この事業所得(以下「免税対象所得」といいます。)に対する所得税を免除する措置であり、新たに措置された対象助成金等を肉用牛免税措置においてどのように取り扱うのかといった疑問が生じることも考えられます。
そこで、対象助成金等の交付を受けた農場等において疑問が生じ、無用の混乱が生ずることがないよう、対象助成金等の取扱いについて下記3のとおり照会を行うところです。
(1) 肉用牛免税措置(措法25)等の概要
イ 適用対象者
肉用牛免税措置の適用対象者は農業を営む個人であり、適用期間は昭和56年から平成23年までの各年とされています。
なお、ここにいう農業とは、所得税法第2条第1項第35号に規定する事業を指し、家畜の育成又は肥育を行う事業はこれに含まれています(所令12)。
ロ 売却の方法等
肉用牛免税措置の適用は、次に掲げる売却の方法により、それぞれ次に掲げる肉用牛を売却する場合に限られています。
ハ 免税対象となる肉用牛の範囲
肉用牛免税措置の適用対象となる肉用牛は、上記ロの売却の方法等により売却した肉用牛で、次に掲げる免税対象飼育牛であることが必要とされています。
ニ 頭数制限
適用年における上記ハの要件を満たす肉用牛の売却頭数の合計が2,000頭を超える場合には、2,000頭までが肉用牛免税措置の対象とされています。
ホ 免税対象所得
上記イから二までの要件を満たす肉用牛の売却により生じた事業所得が肉用牛免税措置の対象所得とされ、この対象所得に対する所得税が免除されます。
なお、上記ロの売却の方法等により売却した肉用牛であっても、上記ハの免税対象飼育牛に該当しないもの及び上記ニの頭数制限(2,000頭)を超える場合におけるその超える部分の免税対象飼育牛については、肉用牛免税措置の対象とはなりませんが、これらに係る所得税の額をその売却価額の合計額の5%相当額とする軽減措置(以下「肉用牛軽減措置」といいます。)が講じられています。
へ 農業生産法人の場合(措法67の3)
肉用牛の生産者が農業生産法人である場合には、租税特別措置法第67条の3(農業生産法人の肉用牛の売却に係る所得の課税の特例制度)の規定により、上記ロからニまでの要件を満たす肉用牛の売却により生じた利益の額に相当する金額を損金の額に算入する肉用牛免税措置に準じた特例措置(以下「肉用牛所得損金算入措置」といいます。)が設けられています。
(2) 対象助成金等の内容
口蹄疫対策特別措置法の規定等に基づき、発生農場等に交付される手当金等のうち、臨時特例法の対象とされていない対象助成金等は、次に掲げるものです。
1 出荷遅延による肉用牛の価値低下に対する助成金
口蹄疫の発生に伴う移動・搬出制限区域の指定及び指定の長期化により、指定された区域内の肉用牛に長期の出荷遅延が生じました。独立行政法人農畜産業振興機構(以下「機構」といいます。)は、こうした出荷遅延により枝肉重量が過大となって価値が低下した肉用牛について、県団体を通じ助成金を交付することとしています(肥育牛出荷遅延緊急対策事業実施要綱(平成22年6月15日付け22農畜機第1288号))。
なお、当該助成金の性格は、肉用牛の販売収入の減少を補てんするものです。
2 肉用牛繁殖経営支援事業の特例による交付金
機構は、肉用牛繁殖経営基盤の安定を図るため、子牛の全国の平均売買価格が子牛の種類ごとに定められた発動基準(黒毛和種は38万円)を下回った場合、県の指定協会を通じその差額の4分の3に相当する額の交付金を交付する肉用牛繁殖経営支援事業を実施しています(肉用牛繁殖経営支援事業実施要綱(平成22年4月1日付け21農畜機第5342号))。
しかしながら、口蹄疫発生に伴う移動・搬出制限区域を含む宮崎県、鹿児島県及び熊本県の3県においては、子牛の売買価格の大幅な低下が懸念されることから、当該3県の主要な生産子牛である黒毛和種について、当該交付金の単価の算定の基礎となる平均売買価格を、特例として平成22年第2四半期に限り当該3県とそれ以外の都道府県ごとに算定し、これを基にそれぞれの地域ごとに当該交付金の単価を算定し、販売頭数に応じた交付金を交付することとしています(同要綱附則3)。
なお、当該交付金の性格は、通常の収入減に対する所得確保による経営安定のためのものに、口蹄疫の影響とみられる販売収入の低下を追加的に加味したものです。
(注) 当該特例による交付金の交付対象となる肉用子牛は、平成22年第2四半期に満6月齢以上で販売又は満12月齢を超え自家保留されたものであって、当該事業の要件を満たすものをいいます。
3 肉用牛肥育経営安定特別対策事業の特例による補てん金
機構は、肉用牛肥育経営の安定を図るため、四半期ごとの肥育牛1頭当たりの全国平均粗収益が全国平均生産費を下回った場合に、その差額の8割を上限として、機構からの補助及び生産者からの積立金等をもって県団体が設けた基金から補てん金を交付する、肉用牛肥育経営安定特別対策事業を実施しています(肉用牛肥育経営安定特別対策事業実施要綱(平成22年4月23日付け22農畜機第333号))。
しかしながら、口蹄疫の発生があった宮崎県においては、肥育牛の粗収益の大幅な低下が懸念されることから、特例として平成22年第1及び第2四半期に限り、当該補てん金の単価の算定の基礎となる四半期ごとの肥育牛1頭当たりの全国平均粗収益に、宮崎県において算定された枝肉価格等を加味した平均粗収益により、宮崎県における当該補てん金の単価を算定し、販売頭数に応じた補てん金を交付することとしています(同要綱附則13)。
なお、当該補てん金の性格は、上記2の交付金と同様です。
(注) 当該特例による補てん金の交付対象となる肥育牛は、専ら肉量の増加を目的として飼養するものであって、当該事業の要件を満たすものをいいます。
(1) 売却価額の判定について
上記2(1)の「ハ 免税対象となる肉用牛の範囲」のとおり、肉用牛免税措置は売却価額が免税基準価額未満である肉用牛が対象となるところ、売却価額が免税基準価額未満であるかどうかの判定において、その売却した肉用牛について対象助成金等が交付されている場合には、これを売却先から受領する売却代金の額(消費税等の額を除きます。)に加算した金額を当該肉用牛の売却価額として、免税基準価額未満であるかどうかを判定して差し支えありませんか。
(2) 免税対象所得の計算について
免税対象所得は、肉用牛免税措置の適用対象となる肉用牛に係る収入金額から必要経費を控除した金額となりますが、当該肉用牛について対象助成金等が交付されている場合には、これを売却先から受領する売却代金の額に加算した金額を当該肉用牛に係る収入金額として、免税対象所得を計算して差し支えありませんか。
(3) 肉用牛の生産者が農業生産法人の場合について
対象助成金等が交付された肉用牛の生産者が農業生産法人である場合、租税特別措置法第67条の3の規定による肉用牛所得損金算入措置の適用対象となりますが、この特例措置における売却価額及び売却により生じた利益の額の算定においては、対象助成金等を上記(1)及び(2)と同様に取り扱って差し支えありませんか。
(1) 売却価額の判定について
上記2(2)の1から3までに掲げる対象助成金等は、口蹄疫の影響により肉用牛に係る販売収入が減少した場合に、口蹄疫の影響がなければ得られたであろう売却価額との差額を補てんするものであり、販売頭数に応じて交付されるものですので、実質的に肉用牛の売却価額の一部に相当するものであると認められます。
したがって、肉用牛の売却価額が免税基準価額未満であるかどうかの判定に当たっては、対象助成金等の額を売却先から受領する売却代金の額(消費税等の額を除きます。)に加算したところで判定されるものと解しております。
(注)
1 肉用牛の売却価額が免税基準価額未満であるかどうかは消費税等の額を除いたところで判定することとしていますが、この点については、国税庁HPで公表されている「租税特別措置法第25条及び第67条の3に規定する肉用牛の売却価額に係る消費税及び地方消費税の取扱いについて」(平成9年3月27日付課所7-3、課法2-3、法令解釈通達)においてその取扱いが示されているところです。
2 対象助成金等を売却先から受領する売却代金の額に加算した結果、その売却価額が免税基準価額以上となった肉用牛については、上記2(1)のハのとおり肉用牛免税措置の対象となりませんが、その売却が上記2(1)のロの売却の方法等の要件を満たすものについては、肉用牛軽減措置の対象になります。この肉用牛軽減措置の適用に当たっても、上記と同様の理由により、対象助成金等の額を売却先から受領する売却代金の額に加算した金額が売却価額になると解しております。
(2) 免税対象所得の計算について
肉用牛免税措置の対象所得は、上記2(1)のホのとおり、一定の要件を満たす肉用牛の売却により生じた事業所得ということになります。
上記(1)のとおり、対象助成金等はその交付の対象となった肉用牛の売却価額の一部に相当するものであり、この解釈を前提とすれば、一定の要件を満たす肉用牛の売却により生じた事業所得の計算に当たっても、その計算の基礎となる収入金額に対象助成金等が含まれるものと解しております。
(3) 肉用牛の生産者が農業生産法人の場合について
肉用牛免税措置と肉用牛所得損金算入措置は、その適用対象者が所得税の対象となる個人と法人税の対象となる農業生産法人であることから、所得税と法人税に係る租税特別措置としてそれぞれに規定されております。
また、所得税法と法人税法における課税所得の計算構造の違いから、個人に対しては免税措置、農業生産法人に対しては損金算入措置であるといった違いはあるものの、個人であるか法人であるかにかかわらず、一定の要件を満たす肉用牛の売却により生じた利益に対して課税を行わないという趣旨は一致していますので、適用対象となる肉用牛の売却価額や免税(又は損金算入)の対象となる所得(又は利益)の金額の計算の基礎となる収入金額(又は収益の額)が異なることはないと考えております。
したがって、農業生産法人における肉用牛所得損金算入措置の適用に当たっては、肉用牛免税措置に係る上記(1)及び(2)の解釈と同様に、1肉用牛の売却価額に対象助成金等の額が含まれるとともに、2売却により生じた利益の額の計算の基礎となる収益の額に対象助成金等の額が含まれるものと解しております。