識者に問う
元気な高齢者がよりよく働けるために、何をすべきか。
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若者の雇用機会、日本型雇用システムの変容、プロ型労働者
65歳までの雇用を義務づける改正高年齢者雇用安定法は、高齢者の雇用機会を増やし、公的年金の財政的負担を軽減することに役立ちそうだが、その他にもいくつかの波及的な影響が考えられる。第1に、若者の雇用機会を狭める可能性がある。第2に、当の高齢者にとっても、厳しい人事管理の下で戦力として働くよう、雇用継続を強制される企業より、求められる可能性がある。
さらに、定年のもつ定年時の雇用終了と定年までの雇用保障という2つのバランスが、法改正により前者が実際上なくなり、崩れてしまった点も重要だ。このため、定年までの雇用保障を軸とした日本型システムが変容していくことも予想される。これは実力主義への移行を意味する。
一方、定年制の意義そのものも変わりつつある。それは正社員の変化と関係している。伝統的な正社員は、定年までの雇用保障と引き替えに、企業の広範な人事権に服して技能を磨き、長期的に企業に貢献する存在だった。しかし、グローバル化による競争の激化やITの急速な発展の中、こうした正社員のニーズは減少し、即戦力として働くプロ型の労働者のニーズが高まる。プロ型の労働者には長期雇用は想定されておらず、定年も関係ない。
労働力減少時代には、豊富な経験をもつ高齢者は貴重だ。ITの発展は、高齢者の体力面のハンディをカバーし、その蓄積された技能を活用しやすい状況を作る一方、高齢者が身につけた技能をたちまち陳腐化させる危険もはらんでいる。政府には、これからの雇用社会の変化を的確に予想し、国民が職業人生をとおして、高い生産性を維持して働けるような雇用政策の実現に力を入れる必要がある。
大内伸哉(おおうち しんや)
高齢社会では、企業が高年齢者の労働力を活用する必要に迫られるのみならず、高年齢者のほうも実力主義が求められると主張。今後は弱者のみを前提とした労働法は労働者を幸せにせず、政府は弱者を強者に引き上げる政策を強化すべきとする。専門は労働契約論、労働者代表法制。東京大学博士(法学)。神戸大学法学部助教授を経て、2001年より現職。著書に『雇用改革の真実』(日経プレミアシリーズ、2014年)ほか。
識者が読者に推薦する1冊
識者が読者に推薦する1冊
大内伸哉〔2014〕『君の働き方に未来はあるか?―労働法の限界と、これからの雇用社会』光文社新書
引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2015)「高齢者が働く社会」わたしの構想No.9