識者に問う
人工知能はわれわれの近未来をどう変えるのか。
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人工知能と人間の逆転、人間と機械の関係についてコンセンサス
人工知能に今までとはケタの違う第3の進化の波が来ている。将棋ではAIが既に人間に勝ち、囲碁も遠からず勝ちそうだ。従来は人間が得意な分野と機械が得意な分野の間で補完的な共生関係を作ることが大事だったが、今では機械が自分で「何を学習するか」を決めることが可能になり、人間と機械の領域の切り分けが難しくなった。
そこで考えるべきなのは、機械が人間を超え、人工知能が人間を凌駕(りょうが)するというのが、そもそもどういう状態かということだ。人間の力を超える技術は珍しくない。自動車は人より速く走れ、飛行機は空を飛べる。計算機の速さや正確さは圧倒的だ。人類は常に人工物を使って発展してきた。法律や国家やいろいろな制度も広い意味での人工物だ。AIだけを特別視して身構えたりせず、ほどほど仲良くやっていけばよいのではないか。
人工知能が人間の能力を超える可能性はあるだろう。それを避けるほうが無理な話で、フィジカルな部分ではもうそうした逆転は起きている。過去からの技術全体の変化の1つの帰結と考えるべきだが、それを直ちに「人類と敵対的な関係になる」という前提で考える必要はない。産業革命など過去の時代からの教訓を導き出せるはずだ。
ただ人工知能には些細(ささい)な手違いで大事故が偶然起こるリスクがある。一番良くないのは、人間が「何をしたいのか」という価値観や将来展望が明確でないまま、技術に流されたり、逆に技術を拒絶したりすることだ。人間と機械の関係について社会全体でコンセンサスを作るよう考えていくべきだ。
佐倉統(さくら おさむ)
現代社会と科学技術の関係を探求。進化生物学の理論を軸足に、生物学史、科学技術論、科学コミュニケーション論等を幅広く射程に収める。専門は進化生態情報学。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。三菱化成生命科学研究所、横浜国立大学経営学部助教授、東京大学大学院情報学環教授等を経て、2015年より現職。1995-96年ドイツ・フライブルク大学情報社会研究所客員研究員。著書に『人と「機械」をつなぐデザイン』〔編著〕(東京大学出版会、2015年)ほか。
識者が読者に推薦する1冊
識者が読者に推薦する1冊
Kevin Kelly〔2010〕"What Technology Wants" Viking Penguin(ケヴィン・ケリー 〔2014〕『テクニウム―テクノロジーはどこへ向かうのか?』服部桂訳、みすず書房)
引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2015)「人工知能の近未来」わたしの構想No.14