識者に問う
わが国のFinTech発展のために、何をすべきか。
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産官学の協力、失敗を恐れない、プリンシプル・ベース
フィンテックの普及は、伝統的な銀行がこれまで占めてきた地位を変容させる可能性がある。テクノロジーの活用によって金融取引の在り方が変革しうる分野は決済にとどまらず、融資、運用、証券、アドバイス業務等あらゆる分野に及ぶ。金融監督へのテクノロジーの活用も考えられる。
フィンテックのインパクトの大きさに鑑み、各国で積極的な取組がなされている。例えば、最近イギリスで公表されたリポートでは、イギリスがフィンテックの発展で世界をリードするというビジョンを掲げて、そのためにも、起こりうるリスクとリターンとのバランスをとりながら、政府・企業・研究者が協力していくことが重要だと指摘している。日本も産官学が協力して取り組んでいくことが重要であり、アクションプランの策定や諸課題の解決に向けた協議・協力の場を設けるべきだろう。ある程度失敗を恐れずに果敢に挑戦することも必要である。
フィンテックは金融に関するルールの在り方にもさまざまな課題を投げかける。実務家や学者が力を合わせて、スピード感をもって議論を深める必要がある。テクノロジーはものすごい速さで進化しており、5年もたてば次々と新技術が生み出されている。この急速な変化に対応していくためには、細かなルールを作るよりも、実現すべき結果をプリンシプル・ベースで押さえることが適当だ。過剰な規制を避ける一方、守るべきものは守り、リスクに応じたルールやエンフォースメントの在り方を考えるためには、ルールの形成に携わる者と技術やビジネスの発展に携わる者との対話が従来以上に親密に行われることが重要だ。
森下哲朗(もりした てつお)
金融法分野での私法と公法の調和、国際取引法の体系化等の研究に従事。大学教育ではコンペティションによる交渉力向上の取組を実践。専門は国際取引法、金融法、交渉学。東京大学法学部卒業後、住友銀行入行。法務部で国際法務等を担当。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。上智大学法学部助教授を経て、2007年より現職。現在、金融庁「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」座長。著書に『マテリアルズ国際取引法 第3版』〔共著〕(有斐閣、2014年)ほか。
識者が読者に推薦する1冊
識者が読者に推薦する1冊
岩原紳作〔2003〕『電子決済と法』有斐閣
引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2015)「金融大変革、FinTech」わたしの構想No.15