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5大汎用樹脂のナノプラスチック標準粒子の作製に成功
〜環境汚染や毒性影響解明の加速化に貢献〜
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)
国立研究開発法人国立環境研究所
資源循環領域
特別研究員 田中厚資
特別研究員 高橋勇介
主幹研究員 鈴木剛
室長 倉持秀敏
領域長 大迫政浩
三菱ケミカル株式会社
研究員 田中俊資
本研究の成果は、2021年11月1日付でWiley-VCHから刊行されるナノサイエンス分野の学術誌「Small」に掲載されました。
1.研究の背景と目的
近年、マイクロプラスチック(直径1μm~5 mm)による世界的な環境汚染への懸念が高まっていますが、さらに小さいナノプラスチック(直径1μm未満)についても同様の汚染が進行している可能性が考えられています。しかしながら、ナノプラスチックの環境中存在量は未だわかっておらず、毒性試験もごく限られた樹脂についてしか行われていません。研究が進まない主要な理由として、ナノプラスチックの標準物質(※(注記)1)が存在しないことがありました。
こうした背景から本研究では、海洋で主要と考えられる5種の汎用樹脂について、ナノプラスチックの標準物質となる直径1μm未満の球状粒子(※(注記)2)の作製を検討しました。
2.研究成果
本研究では、5種の汎用樹脂(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン)について、樹脂溶液と樹脂の非溶媒との混合による析出に基づく手法で、直径1μm未満の球状粒子が得られる条件を明らかにしました。開発した手法は、不純物として残りうる界面活性剤等の物質の添加が不要であり(※(注記)3)、さらに作製粒子は一般的なプラスチック製品と同等のポリマー分子量、結晶化度、融点等を持つことが分析により明らかとなりました。これらの樹脂についてこのような粒子が作製された例は今までになく、この粒子を標準粒子として用いることで、ナノプラスチックの存在量を調べるための分析法の開発や、毒性影響を調べる試験が大きく前進することが期待されます。
3.今後の展望
本研究の手法で作製した粒子を用いて、ナノプラスチックの定量分析法の開発や毒性試験を行うことを計画しています。粒子の作製技術については、形状やサイズ等の制御や生産性の向上に加え、様々な形状、化学的性質を持つ粒子作製を目指した開発を行ないます。
4.注釈
※(注記)1:標準物質とは、分析の信頼性評価など、試験において基準として用いる物質のことで、ナノプラスチックの標準物質は、実際のナノプラスチックと同等のサイズ、物理化学的性質を持ち、均一な形状であることが望ましいです。
※(注記)2:本研究では、最も単純で標準的な形として球状の粒子作製を目指しました。
※(注記)3:これまでにもポリスチレンなどでは直径1μm未満の球状粒子をつくる手法がありましたが、作製時に粒子同士がくっつくことなく安定して分散させるため、界面活性剤等を加えるなどの必要がありました。こうした添加物質は作製粒子に不純物として残ってしまうため、分析や毒性試験の結果に思いがけない影響を与えてしまう可能性があります。
5.研究助成
本研究は、科研費(21K17903)の支援を受けて実施されました。
6.発表論文
【タイトル】
Preparation of Nanoscale Particles of Five Major Polymers as Potential Standards for the Study of Nanoplastics
【著者】
Kosuke Tanaka, Yusuke Takahashi, Hidetoshi Kuramochi, Masahiro Osako, Shunsuke Tanaka, Go Suzuki
【雑誌】
Small
【DOI】
https://doi.org/10.1002/smll.202105781【外部サイトに接続します】
【URL】
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smll.202105781【外部サイトに接続します】
7.問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
資源循環領域 資源循環基盤技術研究室
特別研究員 田中厚資
【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)/029-850-2308
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2015年9月30日報道発表「平成26年度 災害環境研究成果報告書」の発刊について
(筑波研究学園都市記者会、
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福島県政記者クラブ同時配付) -
2015年9月30日報道発表「被災地の環境再生をめざして
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(お知らせ)
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