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調査研究に関するご質問

もくじ

Q 1:染色体とは何でしょうか?

A 1:染色体は、DNAなどの物質で構成され、人を含むさまざまな生物の細胞核内に存在しています。 DNAは遺伝子情報を保持し、私たちの身体の特徴や性格などを決定する重要な役割を果たしています。染色体の数や形は生物によって異なりますが、人間の場合、46 本の染色体があり、親から半分ずつ受け継がれます。染色体は、1 つの細胞が 2 つの細胞に分裂して増える直前に、棒状の形状を呈し、顕微鏡で観察することが可能です。

(参考)量子科学技術研究開発機構ホームページ(英語版)

Q 2:どのようにして被ばく線量を推定するのでしょうか?

A 2:被ばく線量がある閾値を超えると、染色体に異常が増加することが広く知られています。この異常は染色体の形状などの変化として現れ、異常が発生する頻度(観察される染色体異常の数を観察した細胞数で割ったもの)は被ばく線量の増加に伴って増加する傾向があります。

そのため、この関連性をあらかじめ実験的に検量線(下図*2)として取得し、被ばくが疑われる個人の染色体異常頻度をこの関係に当てはめることで、被ばく線量を推定することが可能です。

本研究では、提供された血液検体から末梢血リンパ球を分離し、培養後に染色体標本を作成し、顕微鏡で観察しました。染色体分析に基づく線量推定は、一般的に数百ミリシーベルト以上の線量域で適用されます*3。

NEWSの調査対象である緊急作業者のほとんどは、この線量域よりも被ばく線量が低いため、染色体異常の頻度も低いと予想されます。このため、本研究では、正確な線量推定を行うために、1 つの血液検体について数千個の細胞の染色体を観察しました。

被ばく線量と染色体異常頻度の関係と検量線(実践)の例

Q 3:放射線による染色体異常はどのようにして起こるのでしょうか?

A 3:放射線による染色体異常は、DNAが損傷を受けた後、その修復プロセス中に生じます。通常、DNAの損傷(たとえば、二重鎖切断など)は修復機構によって元の状態に戻されますが、まれに異なる染色体同士が誤って結合することがあり、これが染色体異常として現れます。染色体異常には、安定型と不安定型の 2 つの主要なタイプがあります。

安定型染色体異常では、異常な染色体にも通常の染色体と同様に、細胞分裂に必要な特定の構造である動原体(染色体内のくびれの部分)が各染色体に 1 つずつ存在します。ただし、異なる染色体が結合しており、これを相互転座と呼びます。安定型染色体異常は比較的長期間存在することができ、被ばくから時間が経過しても検出することができます。

一方、不安定型染色体異常では、異常な染色体には動原体が複数存在する場合(二動原体染色体など)や、動原体を持たない場合(染色体断片)があります。放射線被ばく事故では、通常、識別が容易で試料の作成も簡単な不安定型染色体を観察することが一般的です。ただし、被ばく後の時間が経過すると、不安定型染色体は急速に消失する傾向があるため、本研究では安定型染色体異常頻度を指標とした線量推計を行いました。

染色体異常の発生メカニズム

Q 4:染色体分析はどのように行いますか?

A 4:被ばく線量推計に用いる代表的な染色体分析法には、ギムザ法とFISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション法)があります。これらの方法の概要は以下のとおりです。

1. ギムザ法

ギムザ法は、染色体を均一に染めるためにギムザ液と呼ばれる染色液を使用する基本的で簡単な方法です。この方法は不安定型染色体の検出に適しています。通常、染色体の外観の変化として現れ、ギムザ法を用いて比較的容易に観察できます。

2. FISH法

FISH法は特定の番号の染色体を特定の色の蛍光色素で染め分け、染色体異常を検出する方法です。この方法は安定型染色体異常の検出に適しています。安定型染色体異常は、外観からは識別が難しいことがありますが、FISH法を用いることで特定の蛍光色素で染まった染色体として検出できます。

これらの染色体分析法は、被ばく線量推定において染色体異常の観察と評価に役立ち、異常の種類に応じて適切な方法を選択することが重要です。

染色体以上の観察例

Q 5:本研究で得られた結果と意義は?

A 5:平成 30 年度までに 62 名の研究ボランティアから血液検体を頂きました。そのうち 1,000 個以上の細胞が観察できた 54 名について、安定型染色体異常頻度を指標とした線量推計を行い、同時に放射線以外の要因による影響を考察しました。

得られた結果から、個人線量計などで測定された被ばく線量と染色体分析に基づく線量推計値にはばらつきがありましたが、緩やかな正の相関が得られました*4。

ただし、より正確な線量推計値を得るためには、放射線以外の要因として影響を及ぼす可能性のある喫煙歴や医療被ばくなどの情報を追加して解析を行う必要があります。

詳細な情報については、NEWS健診だよりや令和 4 年度の総括・分担研究報告書をご参照ください。

本研究は、事故直後に個人線量計が利用できなかった緊急作業者への線量推計値の提供とともに、将来の放射線・核災害に備え、多数の被災者に対する被ばく線量推計法の確立を目指す研究として重要な意義を持っています。

現在も令和 2 年度に受領した血液検体の分析を進めており、今後の研究成果についても別の機会でご報告できれば幸いです。

最後に、本研究へのご協力とご支援をいただいた皆様方および関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

*4 Abe et al. A preliminary report on retrospective dose assessment by FISH translocation assay in FDNPP Nuclear Emergency Worker Study (NEWS). Radiat. Prot. Dosim. 199(14): 1565–1571; 2023.

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