新郷 正志
川崎重工業株式会社 水素戦略本部
2024年7月19日
競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業
/総合調査研究
/鉄道部門における水素利活用技術の実現可能性調査
NEDO水素・燃料電池成果報告会2024
発表No.B2-18
連絡先:
一般財団法人水素バリューチェーン推進協議会
柏木祐(E-mail:yu_kashiwagi@jh2a.jp)
川崎重工業株式会社 水素戦略本部
新郷正志(E-mail:shingo_masashi@global.kawasaki.com)
図3 鉄道輸送用液化水素タンクコンテナ
(イメージ図)
1.調査の背景・目的
図1 大型液化水素運搬船 図2 輸入水素の国内受入基地の候補地
姫路
川崎
2027年以降、水素の本格的な商用実証が開始されると、大型液化水素運搬船(注記)図1などの活躍により海外水素の大規模
輸入による安定供給がすすみ、2030年頃には国内内陸部の水素消費地への輸送のニーズが高まることが想定される。
2030年時点では、国内の港湾設備には、まだ海外水素の輸入受入対応ができるインフラ設備が数港しか整っていないことが
懸念されるため、国内内陸部の需要地への水素輸送については、現在の主流である高圧ガス水素による輸送の他、液化水素
の形態では、ローリーやトレーラートラックを利用したタンクコンテナによる輸送が拡大されることが想定される。
トラック輸送は、環境負荷が高い上、道路渋滞など交通事情による影響が大きいため、CN化のためにはCO2排出量の少な
い、効率的な定時運行可能な輸送形態として、既存インフラを活用できる鉄道輸送による長距離輸送は有効である。
鉄道輸送を活用した液化水素のポテンシャル調査を実施するとともに、水素ガスエンジン機関車/気動車の開発に資する調
査を実施し、鉄道業界全体での水素エネルギーの利活用の可能性を検討する。
(受入基地イメージ図)2出典:DB Cargo社資料
https://www.dbcargo.com/rail-de-de/wasserstoff
2 .調査の実施概要、目標
【調査項目】
【調査研究の目標】
 鉄道輸送用液化水素コンテナおよび水素ガスエンジン機関車/気動車の市場規模ポテンシャルに関する調査を実施す
るとともに、開発に必要となる既存技術や適用法規に関する情報を整理し、製品設計に資する技術調査を実施
 国内外の内陸部の水素需要地へ大量かつ低コストで水素を輸送できる技術を確立するとともに、非電化路線などを中心
に水素ガスエンジン機関車/気動車への置換による鉄道分野の脱炭素化に貢献する開発方針を策定
【調査研究の実施概要】
【事業期間】 2023年11月〜2024年3月(単年度)
【実施体制】
NEDO 一般社団法人 水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)
川崎重工業株式会社
川崎車両株式会社
調査委託
再委託
実施項目 実施担当 役割
1 将来の市場規模ポテンシャル・需要予測調査 JH2A 業界横断的な視点にて、水素社会
実装に向けた市場予測や安全、規
制調査について、取りまとめを行う
2 鉄道車両の水素化に伴う安全対策及び社会実装に向けて障壁
となる規制に関する調査JH2A3 関連既往技術及び海外関連企業(北米/欧州等)の動向、
適用規格に関する調査
川崎重工業
川崎車両
水素製品や鉄道分野の知見を活か
た製品設計に資する技術調査
競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/総合調査研究/
鉄道部門における水素利活用技術の実現可能性調査3 3.調査結果報告 1将来の市場規模ポテンシャル・需要予測調査
市場規模ポテンシャル試算の前提条件
出典:エネルギー総合工学研究所レポート
地域観点:
⚫ 内陸部の需要家に向けたエネルギー輸送について、図4に示す液化水素の輸送距離とコストの関係より、効率的に液化水素を輸送できる
手段として、受入港から一定以上(200km程度)の距離がある貨物駅周辺をターゲットとして調査を実施
⚫ 起点となる受入港は、導入初期は、川崎、姫路の2港とし、輸入量の増加や水素エネルギーの普及とともに全国のCNP(カーボンニュート
ラルポート)への広がりを想定
⚫ 下記実施例は、川崎から200km程度の長距離輸送を前提とし、関東、東北地区における主要ターミナル駅として、宇都宮エリア、郡山エ
リアの2か所を候補として選定、その後、想定シナリオに沿って、展開地域を拡大
産業/利活用先の観点:
⚫ 将来の水素需要ポテンシャルは、非電化領域の間接電化の役割が重要と予想。特に燃料、原料としての利用に期待
⚫ 今回の調査では、内陸部の潜在的な水素需要を探る観点から、「1既存熱需要の脱炭素化のための水素」、「2大型商用車向け燃
料」の2つを用途を主なオフテイカーとして調査
⚫ 上記エリアでの需要を見積もり、鉄道での水素輸送が有用となる利活用先として、着目
起点
(川崎)
南長岡
300km
宇都宮
150km
郡山
260km
仙台
600km
図5 熱需要家の候補事業者(関東、東北地区の場合)
宇都宮エリア
郡山エリア
ターミナル駅から50km
圏内の第1種指定工
場の分布
図4 液化水素輸送手段別の輸送距離-輸送コストの比較02468101214
0 200 400 600 800 1000
輸送コスト[円
/Nm3-H2]
輸送距離[km]
ローリー
鉄道
内航船4 3.調査結果の概要 1将来の市場規模ポテンシャル・需要予測調査
図6 貨物路線を活用した鉄道輸送用液化水素
タンクコンテナでの輸送拡大に関する想定
川崎
姫路
広島
福井
宇都宮
郡山
2030年頃から内陸部への水素輸送が始まり、LPガス
などが順次転換される。地域としては、川崎および姫路
を起点とした関東/関西地区から展開される
出典:日本貨物鉄道株式会社ホームページの営業線区概要図にKHIにて追記
https://www.jrfreight.co.jp/about.html
表1. ポテンシャル試算の仮定値
諸元
液化水素30ftコンテナ
水素搭載量[t]2液化水素コンテナ水素
搭載量[TJ]
0.284
コンテナの週あたり
輸送回数2年/週 50
熱需要者 LPガス/総熱需要(TJ)
T社(自動車部品メーカ) 149/1,740
N社(半導体メーカ) 59/2,682
P社(家電部品メーカ) 52/803
【郡山エリア(LPガス需要上位3社)】
熱需要者 LPガス/総熱需要(TJ)
R社(プラ部品製造業) 57/569
E社(発泡製品メーカ) 55/846
M社(フィルムメーカ) 53/818
【宇都宮エリア(LPガス需要上位3社)】
想定シナリオ 【フェーズ1】
図7 第1種指定工場における業種別・燃料種別エネルギー消費推計
(関東、福島エリア)05000
10000
15000
20000
25000
300001次エネルギー消費量[TJ]電力 石炭 石油 天然ガス LPG その他 受入蒸気
国内での鉄道輸送用液化水素タンクコンテナのポテンシャル推定値の算出結果5 3.調査結果の概要 1将来の市場規模ポテンシャル・需要予測調査
2030年頃から内陸部への水素輸送が始まり、LPガスなどが
順次転換される。地域としては、川崎および姫路を起点とした
関東/関西地区から展開される
国内すべてのカーボンニュートラル港(CNP)に輸入水素受入設
備が配備され、各CNPから国内すべての貨物営業線区にて国内
の第一種指定工場に鉄道貨物による液水輸送が可能となる6同地区の熱需要総量が先行的に水素への転換が進む
想定シナリオ
【フェーズ1】
【フェーズ2】
【フェーズ3】
【フェーズ4】
国内での鉄道輸送用液化水素タンクコンテナのポテンシャル推定値の算出結果
輸入時のキャリアは未定であるが、大幅な輸入水素の流通量が拡
大し、水素配送の起点となる港湾部は北九州、名古屋にも展開
され、各4港を中心とした近傍のカーボンニュートラル化が加速
フェーズ3
フェーズ2
フェーズ1 フェーズ4
図8 熱需要に基づく鉄道輸送用液化水素タンクコンテナ
のポテンシャル数
既存の熱需要をベースとして、CNPの拡大に伴う水素転換
地域の展開を想定した市場規模予測を実施。
その結果、全国にCNPが整備される頃には、鉄道輸送によ
る内陸部での需要ポテンシャルは、約20,000台が必要と
なると推定される。
3.調査結果報告 2鉄道車両の水素化に伴う安全対策及び社会実装に向けて障壁となる規制に関する調査
A社 B社 C社 D社
鉄道輸送用液化
水素タンクコンテ
ナの展開先有望
エリア
内陸部に限らず、大型の工
場等が多数存在するエリアは
コンテナ輸送の展開先として
有望なエリアである
大口需要家が多く、早期立
ち上げが期待される
受入拠点から内陸部への需
要分布へ供給がすすむ
燃料電池ハイブリッド列車等
の導入と組み合わせて考える
と、到着駅近辺での水素供
給が必要であるため、コンテナ
の展開先としても有望
LNG同様の保安規制になる
場合はヤードに十分な専有
スペースの確保が必須
北陸への輸送ニーズに対応
水素ガスエンジン
気動車/機関車
開発
現状は開発計画未定
水素エンジンでは既存エンジ
ンの知見を活用可能、またハ
イブリッド車両は困難
現状は開発計画未定
保有しているディーゼル機関
車は(将来減少と見てお
り)転換のターゲットではない
一部路線での転換を想定
特急はハイブリッド化済だが、
一般車両もあるため時期を
見て検討
長距離走行の貨物列車の
転換技術はCNに向けて課
題、特に水素燃料で十分な
出力が長時間得られるか
駅周辺設備など
水素荷役、受入
のインフラ整備
保安や敷地、LNGの経験の
活用などから貨物駅での水
素充填設備整備を検討
非電化路線がエリア内で散
在するため供給方法が課題
燃料電池ハイブリッド電車向
けとして車両留置場所に総
合ステーション整備が必要
独自のステーション整備は今
後の課題
到着駅周辺での水素供給の
形態を検討中
リスクとして、トンネル内で緊
急停止した場合の対策・措
置等について検討必要
ターミナル駅での貯蔵設備
の維持管理を含む総合ス
テーション整備の可能性は
今後の検討課題である
 鉄道輸送用液化水素コンテナの導入に関しては、各社とも前向きに検討を進めており、有用となる地域の選定や受け入れ
態勢、供給方法(高圧ガスor液体など)の検討などを各社とも地域性を考慮し、独自に進めている。
 他方、液水コンテナに対する需要は高いものの水素ガスエンジン機関車/気動車については、鉄道事業者ではまだその必要
性について、懐疑的であり、バイオ燃料、燃料電池車両など選択肢が多く、水素ガスエンジンを搭載した動力車によるCN
車両のニーズは未知数。 7
鉄道事業者へのヒアリング結果のポイントまとめ
3.調査結果報告 3関連既往技術及び海外関連企業(北米/欧州等)の動向、適用規格に関する調査
本調査でのヒアリング協力先とその調査概要
プレイヤー概要(北米) プレイヤー概要(欧州)
政府機関
アメリカ合衆国運輸省(DOT)
• 米国の行政機関、輸送システムに係る政策の策定、調整を担当
【DOTの傘下組織】
アメリカ連邦鉄道局(FRA)
• 鉄道の安全規則の交付と施行、改善等を担当
パイプライン・危険物安全管理局(PHMSA)
• 危険物の輸送のための規制の策定と施行を担当
調査未実施
業界団体
アメリカ鉄道協会(AAR)
• 北米の鉄道に係る業界団体
• LNG及び水素を含むタンク車や機関車等に係る規格(MSRP)を発行
調査未実施
事業者
アラスカ鉄道、フロリダ東海岸鉄道
• ポータブルタンクによるLNGの鉄道輸送実績を有する鉄道事業者
BNSF鉄道
• LNGや水素を燃料とした機関車・気動車の検討を進める鉄道事業者
• AARの規格(MSRP M-1004)の改定等にも関わる
ドイツ鉄道(DB)
• ドイツの鉄道事業者、水素ガスエンジン機関車等の検討を進める
• 鉄道によるLNGのコンテナ輸送の実績を有し、液化水素の輸送も予定
ドイツ鉄道貨物(DB Cargo)
• ドイツ鉄道の鉄道貨物輸送を担当する鉄道事業者
Operail
• エストニアの国営の鉄道事業者でDiGasとLNG機関車の検討を進める
アイルランド国鉄
• DiGasと水素機関車の検討を進める鉄道事業者
メーカー Chart Industries
• LNG及び液化水素用のコンテナを開発、販売するコンテナメーカー
Chart Ferox
• Chartグループであり欧州のエンジニアリング及び製造を担当
• VTGと合弁でLNGの鉄道輸送のための車両開発等も実施8 3.調査結果報告 3関連既往技術及び海外関連企業(北米/欧州等)の動向、適用規格に関する調査
米国 欧州
LNGの鉄道輸送 液化水素の鉄道輸送 LNG/液化水素の鉄道輸送法規
• CFRにて規則、参照すべき規格を指示
• FRAの認証を受けたISOポータブルタンク
(UN-T75)による輸送が可能
• CFRで液化水素輸送に係る規則を指示
• FRAの承認を受けたISOポータブルタンク
(UN-T75)による輸送が可能である
• 危険物の輸送に関する規則(RID)等
で規則、で規則、参照すべき規格が定め
られている規格
• 業界団体の規格(AAR MSRP M-
1002)にタンク車の規格が整理
• ISOポータブルタンクはISO規格、ASME
規格等に基づき設計が実施
• ISOポータブルタンクはISO規格、ASME
規格等に基づき設計等がなされている
• RIDの参照規格(タンクワゴン、タンクコン
テナの製造等)としてEN規格が整理され
ている認証実績
• 米国の2事業者にてISOポータブルタンク
(UN-T75)を用いた輸送実績あり
• 液化水素輸送用のポータブルタンクの型
式認証、運用実績はない
• 50年前にNASAのプロジェクトでタンク車
タンクによる液化水素の輸送実績がある
• 鉄道事業者によるLNGのタンクワゴン、タ
ンクコンテナによる輸送実績があり
• タンクコンテナによる液化水素の輸送も検
討がなされている安全対策
• FRA・PHMSA(政府機関)が主導し、タスクフォースを立ち上げ、LNGの鉄道輸送に
係る安全検証等を実施(火災試験、衝突試験、圧力リリーフ弁の性能試験等)
• PHMSAでは衝突、転覆、脱線等の各種ハザードの解析に加え、運用、社会的リスクに
対してもリスクアセスメントを検討
• 欧州では、第三者認証機関が中心となり
リスクアセスメントを実施する体制である
 海外では、鉄道輸送用液化水素タンクコンテナの開発が進んでおり、FRA(アメリカ連邦鉄道局)の承認を受けたポータブ
ルタンク(適用技術規格:UN-T75)による輸送が可能であるが、実際にはまだ運用されていない。(開発レディ完了)
 先行する海外製品に対抗するためには、火災試験、衝突試験、圧力リリーフ弁性能などの規格を満足する設計が必要
関連技術及び海外関連企業(北米/欧州等)の動向、適用規格に関する調査結果9 3.調査結果報告10調査結果まとめ
 鉄道事業者等へのヒアリング等を実施し、トンネルでの非常停車時の懸念などが今後の検討
課題として提示されたものの、現段階で障壁となる規制はほとんど見られなかった。
 LNGの鉄道輸送はISOコンテナやタンク車タンクで実績があり、鉄道輸送用として利用する
場合にはFRA(アメリカ連邦鉄道局)の承認が必要
 水素の社会実装に向けて、水素燃料の利活用に係るリスクアセスメントが第三者認証機
関(TÜV(テュフ)など)で進められているため、引き続き動向に関する情報収集が必要
 国内CNPの状況と経済的合理性のある輸送距離を仮定し、鉄道輸送の市場規模を試算
 算出条件として内陸部の熱需要家に注目し、起点となる輸入港と輸送先の貨物駅を仮定
し、その周辺需要家(オフテイカー)の抽出を実施
 今回の需要予測では、全国にCNPが整備される頃には、鉄道輸送の需要ポテンシャルは、
約2万台となることを推定
3.今後の見通しについて11 国内内陸部への水素市場の広がりや国内沿岸部での大規模水素利用などとの相関
関係などを配慮した調査など、今後も継続的に国内市場の調査を実施する必要がある。
【今後の課題】
 水素鉄道に関しては、日本市場が未成熟であることから、障壁となる規制等について、
業界内でのリスクアセスメントなど具体的な議論が進んでおらず、法整備の問題点を明
確化できていない点が課題である。
 また、日本での鉄道分野での水素運搬、利用を検討する際には、海外の先行事例を
参考にしつつ、メーカー、事業者、運航会社等の関係機関が連携して、安全対策につ
いては検討をする必要がある。
 将来的に欧州では液化水素の鉄道輸送が計画されているため、メーカーによる鉄道輸
送用液化水素タンクコンテナの開発および運行に向けた法整備が先行している。日本と
しても海外競合メーカーの動向を注視しながら、早期に液化水素コンテナの技術開発
を推進するとともに、海外展開を見据えた製品開発への導入戦略を検討する。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /