発表者名 東條 誠司
団体名 東洋ガラス株式会社
発表日 2024年7月19日(金)
競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/
総合調査研究/
ソーダ石灰ガラス溶融の熱源として
酸素水素燃焼炎を活用するための研究開発
NEDO水素・燃料電池成果報告会2024
発表No.B2-16
連絡先:
東洋ガラス株式会社
Mail : info@toyo-glass.co.jp
事業概要
1. 期間
開始 :2023年6年26月
終了 :2024年3年31月
2. 最終目標
3.成果・進捗概要2• 高水蒸気雰囲気下で溶融したガラスの物性を分析して、酸素水素燃焼を導入する際に必要なガラス組成の
調整や、製造プロセスの変更内容を特定する。
• 酸素水素燃焼の放射スペクトル特性を把握して、化石燃料の燃焼から転換した際に溶融ガラスの温度が
どの程度変化するかを算出する。
• 研究結果をもとに、実際のガラス溶融窯へ酸素水素燃焼を導入する際の課題と、その解決方法を具体化する。
• ガラス中の水分量増加と粘性曲線・ビッカース硬度・アルカリ溶出量の関係の調査した結果、
いずれもガラス製品の品質悪化にはつながらないと考えられることが分かった。
• 酸素水素燃焼火炎の放射スペクトルを測定して溶融ガラスに対する放射熱伝導率を計算した結果、
水蒸気放射の増加によって化石燃料使用時に近い放射熱伝達量を見込めることが分かった。
• ただし、粘性曲線の低下に対応するために製造工程の温度分布を見直す必要があることと、水蒸気放射を
活用するために助燃材として高純度酸素を使用する必要があることが分かった。 31.事業の位置付け・必要性
研究の背景
• ガラス容器や板ガラスとして多く採用されている
ソーダ石灰ガラスでは、原料をガラス化するために
ガラス溶融窯内で大量の化石燃料を燃焼させている。
• 将来的なカーボンニュートラルに向けて、ガラス製造
業界では化石燃料から水素等の非化石燃料への転換が
検討されていた。
• ただし単純に燃料転換すればよいというわけではなく
「ガラス品質の維持」と「伝熱効率の維持」が不可欠。
• したがって水素への転換を行う前に、
1 酸素水素燃焼がガラス品質に与える影響
2 火炎特性の変化による伝熱効率への影響
を把握しておく必要があった。 図1 ガラス溶融窯のイメージ図 4酸素水素燃焼を研究対象とした理由
• 多くのガラス溶融窯では予熱空気と化石燃料で燃焼を行い、主に火炎の放射エネルギーを
利用して窯内部の高温環境(1500〜1600°C)を維持している。
• 予熱空気燃焼で発生する排ガスの約70%は窒素だが、本来窒素は燃焼反応には不要である。
• 窯内部の高温環境を維持するためには、窒素を加熱するための余分なエネルギーが必要。
グリーン水素を使用するなら、極力使用量を抑えられる酸素燃焼方式にする必要がある。
1.事業の位置付け・必要性
図2 排ガス組成の例 左:予熱空気燃焼 右:酸素燃焼
酸素燃焼方式
• 排ガスの温度上昇に使用する
エネルギー量を抑制できる。
• 水素を使用する場合、排ガス
組成の大半が水蒸気になり、
火炎の放射特性も大きく変化
する。
• ガラス品質への影響と、伝熱
特性を調査する必要がある。 52 .研究開発マネジメントについて
研究開発の目標
• 「窯内部雰囲気の変化がガラス品質に与える影響」と「火炎における放射特性の変化による
伝熱効率の変化」を調査するため、以下のような目標を設定した。
1 酸素水素燃焼がガラス品質に与える影響
• 大気雰囲気下と高水蒸気雰囲気下で溶融したガラスを分析し、物性の変化を特定する。
• 酸素水素燃焼を導入する際に必要なガラス組成の調整や、製造プロセスの具体的な変更内容を
特定する。
2 火炎特性の変化による伝熱効率への影響
• 酸素水素燃焼の放射スペクトル特性を把握して、化石燃料から水素に転換した際に溶融ガラス
の温度がどの程度変化するかを算出する。
• 計算結果をもとに、窯に投入するエネルギー量をどの程度変化させる必要があるか予測する。
• 実際のガラス溶融窯へ酸素水素燃焼を導入する際の課題と、その解決方法を具体化する。 62 .研究開発マネジメントについて
研究開発のスケジュール
• 本事業のスケジュールは表1の通り。
• 前ページの調査を行うために1〜3の研究を行った。
• また、より俯瞰した視点でガラス製造業界全体の課題整理を行うため4の調査を実施した。
表1 本事業の実施スケジュール
1Q 2Q 3Q 4Q
1 排ガス組成の変化がガラス品質に及ぼす影響の調査
2 燃焼炎の脱炭素化によるガラスへの伝熱効率の変化の把握
3 社会実装するためのメーカー等連携する必要のあるプレイヤーの具体化と
それに基づく今後取り組むべき技術開発の課題解決に向けた方策の具体化
4 業界全体の熱需要のCNに資するガラス溶融業界としての俯瞰した視点から課題整理
項目
2023年度 72 .研究開発マネジメントについて
研究開発の実施体制
図3 本事業の実施体制 83.研究開発成果について:酸素水素燃焼がガラス品質に与える影響
1 酸素水素燃焼がガラス品質に与える影響
• 酸素水素燃焼下では、ガラス溶融雰囲気がほぼ水蒸気100%となる。
• 図4のような実験装置を作成して、溶融雰囲気の異なるガラスを製作した。
図4 雰囲気調整溶融炉の模式図 93.研究開発成果について:酸素水素燃焼がガラス品質に与える影響
ガラス中の水分含有量
• 高水蒸気分圧下でガラスを溶融するとガラス中の水分含有量が増加し、これが原因で物性が変化する。
• 本研究では、ガラス溶融雰囲気を大気雰囲気から水蒸気100%雰囲気まで変化させてサンプルガラスを
作製した。結果は図5の通り。
• 予熱空気-化石燃料から酸素-水素燃焼方式に転換することで、ガラス中の水分含有量は300 → 1300ppm程
度まで増加する可能性が高いことが確認できた。
図5 相対雰囲気H2O分圧とガラスの含水量の関係
水蒸気100%雰囲気で
溶融したガラスの含水量。
予熱空気燃焼の窯で製造
したガラス製品の含水量。 103.研究開発成果について:酸素水素燃焼がガラス品質に与える影響
水分含有量とガラス物性の関係:粘度
• 測定した「粘性曲線」の結果を以下に示す。
図6 ガラスの温度と粘度の関係(粘性曲線)
高温側 高温側
低温側 低温側 113.研究開発成果について:酸素水素燃焼がガラス品質に与える影響
水分含有量とガラス物性の関係:アルカリ溶出量
• 「水分含有量とアルカリ溶出量」の結果を以下に示す。
図7 ガラスの含水量とアルカリ溶出量の関係 123.研究開発成果について:火炎特性の変化による伝熱効率への影響
2 火炎特性の変化による伝熱効率への影響
• 酸素水素燃焼火炎の特性を評価するため、燃料を「水素100%」「水素50%・都市ガス50%」
「都市ガス100%」と変化させて放射スペクトルを測定した(同LHV・助燃材:高純度酸素)。
図8 火炎を対向位置から測定している分光器(左)と火炎外観(右) 133.研究開発成果について:火炎特性の変化による伝熱効率への影響
各火炎の放射スペクトルと放射熱伝導率
• 得られた放射スペクトルを左下図に示す。水素100%では可視域に放射がないが、
近赤外域に非常に強い放射があることが分かった。=431
図9 各火炎の放射スペクトル測定結果 図10 溶融ガラスの吸収スペクトル
ガラス色調 水素100% 水素50%都市ガス50% 都市ガス100%
透明色 27.21 20.91 32.99
茶色 9.05 7.18 8.58
黒色 9.91 7.79 8.02
放射熱伝導率 kr (W/m/K) 143.研究開発成果について:火炎特性の変化による伝熱効率への影響
ガラス溶融窯内部の放射
• 得られた火炎特性をもとに、溶融ガラス表面に到達する放射スペクトルを計算した。またその放射スペク
トルから放射熱伝導率を計算して、溶融ガラスの温度分布がどうなるか評価した。
ガラス色調 水素100% 水素50%都市ガス50% 都市ガス100%
透明色 292.7 289.1 319.8
茶色 69.2 68.3 73.1
黒色 69.0 68.1 70.3
放射熱伝導率 kr (W/m/K)(注記)対窯内部放射
図11 窯内部の放射伝熱イメージ 図12 溶融ガラス表面に到達する放射スペクトル 154.今後の見通しについて
酸素水素燃焼の導入に向けて
• 本事業の研究によって、ガラス溶融窯への酸素水素燃焼の導入には致命的なデメリットはないと
考えられることが分かった。
• しかし十分な伝熱効率を得るためには、助燃材として高純度酸素が必要になることも分かった。
• ガラス物性の変化によって製造工程の調整も必要になるため、段階的に燃料転換を進めていく
必要がある。
• 仮に当社のガラス溶融窯で燃料を全て水素に転換すると、窯一基あたり70,000Nm3/dもの水素が
必要になる。
• カーボンニュートラルを目指すには非化石水素でなければならないが、CAPEX・OPEXの両面から
考えても容易に調達できる規模ではない。
• グリーン水素で考えるなら、水素サプライチェーンの最上流である再エネ発電施設から、最下流
である「水素ユーザの製品を購入する企業」までが一体となって、実現可能な水素供給・使用体
制を構築する必要がある。

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