発表者 吉田 剛
一般社団法人水素利用供給技術協会
株式会社本田技術研究所
トキコシステムソリューションズ株式会社
一般財団法人日本自動車研究所
国立大学法人九州大学
一般財団法人 カーボンニュートラル燃料技術センター(再委託)
三菱化工機株式会社(分室)
競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業
/水素ステーションの低コスト化・高度化に係る技術開発
/HDV用水素充填プロトコルの研究開発
NEDO水素・燃料電池成果報告会2024
発表No.A2-18
連絡先:
一般社団法人 水素供給利用技術協会
(http://hysut.or.jp/)
2024年 7月19日
事業概要
1. 期間
開始 :2023年6月
終了(予定):2028年3月
2. 最終目標
3.成果・進捗概要2HDV (Heavy Duty Vehicle)への大流量水素充填時のプロトコル向けに、LDV (Light Duty Vehicle)用
に開発した充填プロトコル(MC-MM:MCマルチマップ)を拡張する技術開発とその基準化
• HDV 実車への大流量水素充填プロトコル試験を夏・冬2週間ずつ実施
• 新水素充填方式(タンク一定昇圧/Constant Tank Pressure Ramp rate:cTPR)を開発し、論文投稿
• 車両サイズ、充填ノズル、流量等の分類・境界条件を整理し、充填プロトコルマップ作成に着手
• HDV搭載容器の充填時の容器内温度分布等を模擬する3次元数値シミュレーション解析を実施
• HDV-MCMM用充填プロトコルの開発に向けて水素充填シミュレーションソフト開発を推進31.事業の位置付け・必要性
• カーボンニュートラル社会の実現に向けては、運輸部門が日本国内のCO2排出量の2割近くを占める中、そのう
ち4割の貨物輸送部門(トラック、船舶、鉄道等)の脱炭素化が不可欠である。
• 日本は、世界に先駆けて、2014年に燃料電池自動車(FCV)を市場投入、 2017年に水素基本戦略を策定するな
ど、技術及び政策の両面にわたり水素・燃料電池分野で世界をリードしている。
• FCV及び水素ステーションの本格普及に向け、規制適正化、国際標準化や水素ステーションのコスト低減に関す
る研究開発を行うなど、今後も、国際産業競争力を強化し、早期に世界市場を獲得することが求められる。
• 2023年6月に改定された水素基本戦略にても、「大型バ
ス・トラック等では、各国で燃料電池化が急速に進展して
いるため、より多くの水素需要が見込まれ FCV の利点が
発 揮 さ れ や す い 商 用 車 に 対 す る 支 援 を 重 点 化 し て い
く。・・・(水素ステーションの)技術開発については、
商用車の普及に向け、(略)大流量水素の充てん技術を確
立するべく、開発、実証を加速させる。」と記されている
等、2020年代後半から運用開始が計画されている燃料電池
商用車(大型トラック)に対応した水素充填プロトコルの開
発及び基準化が求められている。
(引用:モビリティ水素官民協議会 中間とりまとめ、2023年7月)
研究開発の目標42 .研究開発マネジメントについて
目標設定の考え方
• 鉄道や船舶への展開可能性も含めて様々な燃料電池モビリティ、特にHDV (Heavy Duty Vehicle)
への大流量水素充填時における充填プロトコルとして、LDV用に開発した充填プロトコル(MC-
MM: MCマルチマップ)をHDV用に拡張する技術開発とその基準化を目標とする。
• 過去のNEDO委託事業においてLDV用に開発した「水素充填プロトコルMCMM方式」と「水
素充填シミュレーションプログラム」をHDV用に開発・促進することにより、プレクール温
度の緩和や充填速度の向上など、水素ステーションの運営費低減を図る。
• HDVに関する各種技術課題を検証するため、欧米の国際機関保有の試験設備に匹敵する福島
水素充填技術研究センター(FTC)等を活用して、我が国が世界を先導して国際基準に資す
るデータ取得や技術的検証を実施する。52 .研究開発マネジメントについて
• ステアリング委員会の下、各課題毎の検討会を設定。検討会決議事項を委員会にて審議。
(原則として、ステアリング委員会は半年ごと、検討会は4半期ごとに開催)
• 毎月末、代表幹事の主催のもと、実施者7者間で進捗会議を実施。
HDV/MDV充填プロトコル検討会
(事務局:HySUT、トキコ)
充填容器数値解析検討会
(事務局:JARI)
圧損熱容量検討会
(事務局:JARI)
NEDO 水素供給利用技術協会(代表幹事)
本田技術研究所
トキコシステムソリューションズ
日本自動車研究所
九州大学
三菱化工機
カーボンニュートラル燃料技術センター
委託
福島水素充填技術研究センター設備管理支援
水素充填基準等の整備
HDV水素充填プロトコル開発
MDV水素充填プロトコル開発
熱容量測定高度化、CFD解析、FTC技術指導
MCMMマップ作成ツール開発、CFD解析、ライナー温度推定検討
全体統括、HDV水素充填プロトコル開発、FTC等運営
HDV充填プロトコル検討(ステアリング)委員会6開発項目 2023年度 2024年度 2025年度 2026年度 2027年度
1.HDV用水素充填プロトコル
(i)MF充填プロトコルの基本構成
(ii)大流量対応MCMM充填プロトコルの基本構成
(新規 cTPR充填方式含む)
(iii)MCMMマップ用シミュレーション
(iv)HDV水素充填時の容器内数値解析
(v)HDV充填プロトコルの検証
(vi)HDV用充填プロトコル基準整備
2.MDV用水素充填プロトコル
3.MCMM方式に用いる機器熱容量測定等の高度化
4.水素充填時の容器内挙動の研究開発
5.国際標準化に関する事業との連携
6.HDV水素ステーション設備海外調査
マップ作成
検証試験
ミニスケール試験
フルサイズ試験
検証試験、解析
プロトコル検証ツール開発
測定装置製作
測定法の高精度化
ステージゲート
各種機器の熱容量・圧損測定
プロトコル反映
プロトコル改良
規格化対応
規格化対応
最終マップ評価
参考
プロトコル反映
2 .研究開発マネジメントについて
研究開発スケジュール
規格化対応
マップ作成
検証試験
大容量 MF73.研究開発成果について
幅広いFCEVに対応するMFツインノズルシステムに主に注力・開発中
MFツイン水素充填システムの利点
1. 既存の水素ステーションインフラを有効利用可能
2. 社会インフラの追加コストを最小化可能
3. 既存技術の延長としてコンポーネントの(外挿)設計が可能
導入時期 〜 2024 2025 〜
燃料供給法 Normal Flow(NF)Medium Flow(MF)MF-Twin
(MFT)
レセプタクル形状
最大流量 60g/sec 90g/sec 180g/sec
既存の水素ステーショ
ンで水素充填可能 /
既存のFCEVsが水素充
填可能
Yes/Yes Yes/Yes Yes/Yes
適応可能な車両
メリット
Dispenser
Dispenser
1) HDVへ短時間
充填(約10分)
2) 2台のLDVへ
同時充填可能
(出典: Toyota)
3.研究開発成果について
【境界条件の検討】プロトコルはコネクタ仕様で分類(MF-Single/MF-Twin/HF-Single)
・MF-Single(MDV)の基本範囲を10〜30/40kgとする 但しMF-Twinのバックアップが必要
・MF-Twinディスペンサには、MF-Singleプロトコルも必要(Single充填時に使用)
詳細なシミュレーションを行い、区分やマップ構成を最終決定する ⇒ 本年度、新マップでの基本動作の確認
ー 5〜80MPa/10min=7.5MPa/min
ー 20〜80MPa/10min=6MPa/min 青字:APRRテーブル完成、今後目標圧力を計算予定。MDV TV
Nozzle
2kg〜10kg
(TVL=250L)
10kg〜30/40kg
(TVL=250/250,800L)
30/40kg〜100kg
(TVL=200,250,350,800)
100kg〜200kg
(TVL=200,350,800)
H70 NF (J2601 D category)
H70 MF
L/T-MF
MCF-MF
MCMM-MF
MF-Twin Backup
H70 ×ばつ2
(Twin)
H70HF
H70 LDVHDVHDV’
MCMM-HF
(MCF-G-HF : SAE J2601/5)
L/T-MF-Twin
MCF-MF-Twin
MCMM-MF-Twin
MCMM-NF
JPEC S0003(2023)
(L/T,MCF,MCMM)9Test conditions & results
・Fueling: MF x 2
・Precool: T20
・Storage Capacity: ±1,200 L
(H70 type IV tank)
・Ambient Temperature: 2 deg C
・Target APRR: 15MPa
・Initial Pressure: 5.0 MPa
・Max. Pressure: 79.1 MPa
・Max. Temperature: 73.5 deg C
・Fueling Time: 10 min 15 s
(Truck SOC reached 97%)
・Refueling amount: 45.4kg
No 1 2 3 4 5 6 7 8 9
Fueling approach MF x 2 MF x 2 MF x 2 MF x 2 MF x 2 NF x 2 NF x 2 NF x 2 NF x 2
Precool Category T30 T20 T30 T20 T30 T30 T30 T30 T20
Ambient temp. (deg C) 20 7 2 2 9.7 8.3 6.5 5.8 8.3
Target APRR (MPa/min) 11.7 10.9 8 15 13.4 8.3 9.2 7.4 8.3
Chiller gas temp. -26°C -25°C -26°C -25°C -26°C -26°C -26°C -26°C -17.5°C
3.研究開発成果について
HDV実車を使用した水素充填プロトコル試験例(2024冬、2週間): ISO197/WG24(2024年05月15日)で発表
FTCでのHDV実車試験
水素充填プロファイル例(上表No.4 試験条件)
充填圧力
(MPa)HDV容器ガス温度(°C)
Dispenser
温度(°C)
水素充填量(kg)
水素流量(
kg/min)研究開発の目標及び進捗状況、目標達成に向けたアプローチ
3.研究開発成果について
PressureTimedP
��0
Start
低圧時に圧損が大きく,流量が出ない.
SOCが上がらず、充填時間が延びる。
従来:ステーション一定昇圧
PressureTimedP
��0
Start
充填時間が短縮
終了時刻が予測可能
New: タンク一定昇圧 Constant Tank Pressure Ramp rate (cTPR)
課題:車両信号を昇圧率制御に使用せずに、HDVの大流量(圧損)対策する。ሶ�� =
����
����=��������
���� + ������ 2
�������������������� =
��0 ሶ
��2
��2+ ���� −
��0 ሶ
��2��22
+ 2��0 ሶ
��2 ������������ + ������
解析的アプローチ
気体状態式 圧損式 タンク圧
連立解
Ptank=αt
���� =
��0 ሶ
��2
����������
���������� �� − ���� = ��������������
・FCV水素充填制御の解析解は世界初。
・FCVのコストを上げることなく、水素ステーションのみの制御で圧損対策が可能。
研究開発の成果と意義113.研究開発成果について
・cTPR方式は充填時間を短縮できる。充填の終了時刻が常に一定になる。
・車両信号を昇圧率制御に(基本的に)使用しないので、FCVのコストを従来同等に維持できる。
充填時間短縮49sシミュレーション結果
ミニスケール(LDV)・テスト結果
ほぼ理論通りの質量流量と、圧力特性が得られた。
圧力特性
質量流量
MCMM方式に用いる機器熱容量測定等の高度化
目標:
熱容量測定の精度向上。大流量に対応した専用の測定装
置(圧損熱容量測定検査装置)を製作する。
進捗状況:
LDV用機器の熱容量測定を行い、測定手法の高精度化の
検証を行った。B/A、ホース、ノズルの主要3部品の測定
に対して、環境温度、湿度、流量、温度差は有効質量に
影響を与える因子とは言えないことが統計学的に示され
た。また、圧損熱容量測定検査装置の設計を行った。
目標達成に向けたアプローチ:
圧損熱容量測定検査装置は2024年度に完成を予定してお
り、本装置を用いてHDV規模の大流量の依存性を検証す
る。
研究開発の成果と意義:
測定時の環境温度などが結果に影響を及ぼさない測定手
法であることが確認された。123.研究開発成果について
ノズルの有効質量と環境温度の関係
2022年度(低温) 2023年度(高温)
環境温度が異なっても有効質量は同等
他の部品、湿度などとの関係も同様の傾向
HDV水素充填における容器内数値解析
目標:
3次元の数値シミュレーション(Computational Fluid
Dynamics:CFD)により、水素充填時の容器内の熱流動
挙動の傾向を把握する。特に、充填速度や容器形状など
の温度層の発達への依存性を解明する。
進捗状況:
充填試験を模擬する数値シミュレーション(容器の固体
熱伝導と容器内高圧水素の流体との連成解析)を実施し
た。充填口と反対側の容器奥側において顕著な温度上昇
が確認でき、物理的に妥当な温度分布を模擬できた。
目標達成に向けたアプローチ:
温度層の発達には、浮力(重力)と乱流の影響が大きく
関与すると考えられる。これらのモデルを検討し、再現
性の高い数値シミュレーションモデルを開発する。
研究開発の成果と意義:
3次元の数値シミュレーションで得られる温度層と充填
速度や容器形状の関係を、九大で開発している充填シ
ミュレーション(DS)へ反映することで、安全なHDV用
の水素充填プロトコルの開発につながる。 13
3.研究開発成果について
水素充填
等値面
断面
容器温度(固体断面)
乱流エネルギー(断面)
水素温度
平均水素温度
最大水素温度
水素充填シミュレーションソフト(Dynamic Simulation, DS)を用いたHDV用充填
プロトコルの開発に向けて、LDV用シミュレーションソフトを拡張開発中143.研究開発成果について
Light-Duty Vehicles (LDV)用シミュレーションソフトウェア
九州大学のDSシミュレーションソフトウェア NRELのH2FillSシミュレーションソフトウェア
Transfer
九州大学にてHDV用MCMMソフトウェアの開発中15HDV用の熱力学モデルの開発
Precoolerから車載Tankまでのマルチコンポーネントを
含む熱力学モデルの開発中
����
����
= ሶ
������ − ሶ
��������
��(����)
����
= ሶ
������h���� − ሶ
��������h������ + ����������������
エネルギー保存
質量保存
車載コンポーネント
Tank B
Pipe 2 Pipe 3B
Precooler
Valve Valve Valve
Tank C
Valve
Tank A
Valve
Pipe 3C
Pipe 3AHosePipe 1 Nozzle
Valvemmmm
m m m
P , T P , T P , T
P , T
P , T
P , T
P , T
P , T
P , TP, T直列に追加可能(Pipe1~Pipe2)
並列に追加可能(Pipe3~Tank)T[°C]
t [s]
TankA
0 100 200 300 4000255075100Temperature (Exp.)
Temperature (H2FillS)
Temperature (DS)
����
����
= ��
��2
��
����2
ρ�� ����+1 − ����−1
2��
���� − ሖ
���� −2λ���� − ����−1
���� − ����−1 = 0
非定常一次元熱伝導方程式
離散化ሖ����: 次回タイムステップの温度
Δ��:タイムステップ
配管熱伝導モデル
車載Tank内の温度(実験値、シミュ
レーション値)を極めて良好に再現
3.研究開発成果について
実用化・事業化のイメージ(成果がどのように使われるか)
本事業で開発した水素充填プロトコルが基準化され、 2020年代に導入されるHDVに実装される164.今後の見通しについて
• 各研究開発テーマの前進が、全体の研究開発の成果最大化・効率化に繋がる仕組みを構築する。
• 研究開発結果を踏まえて、国内技術基準(JPEC-S 0003等)やISO等国際標準への提案対応も行う。
今後の課題と方針DS(九大)
LDV/MCMM
MDV/MCMM
(トキコ)
HDV/MCMM
(HySUT、ホンダ)CFD(JARI)
実世界 仮想世界
試験・評価
HDV実車
充填検査車両
(HySUT号)
FTC/HTC
ツール提供
設計指針
HySUT/JARI
試験協力者
データ提供
データ提供