青木 篤人
川崎重工業株式会社
2024年7月19日
競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業
大規模水素サプライチェーンの構築に係る技術開発
液化水素タンクの高能率製造工法の開発
NEDO水素・燃料電池成果報告会2024
発表No.A2-13
連絡先:
川崎重工業株式会社
https://www.khi.co.jp
事業概要
1. 期間
開始 :2023年7月
終了(予定):2028年3月
2. 最終目標
3.成果・進捗概要2◼ 液化水素タンクの溶接・接合工程の能率2倍を達成する。
◼ これによりタンク製造リードタイム短縮、コスト低減、品質安定化を達成し、
国際的な競争力を確固たるものとする。
◼ 溶接・接合技術および、これの前後に付帯する準備や検査工程を高能率化する技術について
初年度である2023年度は基礎的な調査・検討を行い、現在の実力値を把握した。
◼ 高能率化実現に向けた課題を抽出し、この対策案の効果を検証中。 31.事業の位置付け・必要性
背景・目的・本事業の必要性
◼ 2030年ごろから激増する水素需要に応えるために、水素設備・機器をタイムリーに供給する
ことが重要である。液化水素は水素の運搬や貯蔵に際し、その体積を1/800にできる利点があ
る。この実現には液化水素タンクがキーコンポーネントの一つである。
◼ 液化水素タンクは極低温を保つため槽が二重化され、LNGタンクより工事量が増える。さ
らに、将来的な水素需要の増加、タンクの大型化が予想される。
◼ 水素サプライチェーン構築の商用化実証プロジェクトでは、世界に例のない大型の液化水素
タンクを建造するが、このタンク建造では、従来LNGタンクの製造方法をベースとして、
その製造方法を確立することが目的の一つとなっている。
◼ こうした背景において、熾烈な海外競合との競争に勝つためにも、高能率な液化水素タンク
製造方法が必要である。
◼ そこで、タンク製造の主要工程である溶接・接合技術およびその付帯作業技術の高能率化を
図り、これによりタンク製造リードタイム短縮、コスト低減、品質安定化を達成し、国際的
な競争力を確固たるものとする。
水素サプライチェーン商用化実証の製造方法確立から
その先の競争力強化へ 42 .研究開発マネジメントについて
液化水素タンク製造期間の短縮技術・工法を開発
【対象】
1 ステンレス鋼液化水素タンク製造の高能率工法の開発
2 アルミニウム液化水素タンク製造の高能率工法の開発
【開発方針】
・溶接・接合の施工法自体の能率向上
・溶接・接合の前後工程の省略・低減による能率向上
【効果】納期短縮、コスト削減、品質安定化、ライセンス事業展開
FSW(Friction Stir Welding 摩擦攪拌接合)
研究開発方針
研究開発目標
対象とする工程の作業期間を半減(=能率2倍)
目標設定の考え方
タンク製造の主要工程である溶接・接合工程の作業時間を半減することで
タンク製造の直接的な工程コストの5%削減を目指す
さらに、全体建造工期が短縮され間接的なコスト削減(現場間接費など)も得る
【研究開発のスケジュール】52 .研究開発マネジメントについて
2023 2024 2025 2026 2027 2028〜
全体工程
1ステンレス鋼
タンク
2アルミニウム
タンク
助成事業期間 生産準備
▽商用
適用
▼ステージゲート
a)高能率溶接
b)継手性能
c)欠陥検出
a)厚板FSW
b)アーク溶接影響
原理検証
d)変形解析
c)異材接合
d)T継手
装置試作 施工開発
長尺試験
継手性能検証 データ蓄積
原理検証システム試作 検出基礎検証
環境構築
小試験体データ収集
高能率 長尺検証
検証
実大試験
最適化
最適化
実大検証
検証
板厚増検証
適用開発(機器・精度)
適用開発(機器)
設計データ蓄積
厚板接合開発
継手性能検証・データ蓄積
条件最適化 継手性能データ拡充
現象観察 基礎試験・検証
原理検証 装置・ツール開発
設計データ蓄積
接合検証
適用部基本条件▽
施工法最適化
継手性能データ拡充
施工データ拡充
装置開発・最適化 大型T継手試験
施工法最適化
施工法最適化
現時点 62 .研究開発マネジメントについて
川崎重工業(株)技術開発本部
下記事業と情報共有
川崎重工業:液化水素の高効率・海上大量輸送技術の開発
◼ 溶接・接合技術者のみでなく、検査関係技術者、自動化システム開発技術者のチーム構成
多面的な視点で、工程期間短縮に取組む
◼ 将来のライセンス事業を考慮した知財戦略を検討
ライセンシーへの提供技術に関しては知財化、ノウハウ技術については秘匿化の基準検討
研究開発の実施体制
研究開発の独自の取組み
目標達成に向けたアプローチ:1ステンレス鋼製タンク73.研究開発成果について
a) 高能率アーク溶接法開発
➢ 欠陥早期検出による修正作業低減
➢ 溶接欠陥・歪修正作業低減
開発ターゲット
厚板 水平横向溶接
両面X開先 突合継手
施工法の高能率化
付帯作業の削減・省力化
d)溶接変形解析
➢ 溶接施工の高能率化
➢ 裏はつりレス
c)インライン検査
極低温継手性能確保
b)継手性能検証 83.研究開発成果について
原理確認/施工基礎データ蓄積
装置開発/施工改良/データ蓄積
長尺試験検証
2023年度
2024年度
2025年度
2026年度
2027年度
実大ワーク試験実証
継手性能
高能率溶接
高能率アーク溶接
インライン検査
解析
実大ワーク試験実証
• 高能率溶接
• インライン検査
• 解析精度検証
製品適用
設備調達・生産準備
2030年以降
助成事業期間
実適用に向けた開発・検証
ステージゲート
開発アプローチ:1ステンレス鋼製タンク 93.研究開発成果について
【研究開発の成果と意義】様々な高能率溶接法についてラボレベルの基礎的施工性検証が完了
この裏はつり
工程を省略したい
片側溶接 逆側溶接
裏はつり工程
【目標】確立されたTIG溶接の2倍以上の溶着効率
【実施項目】
➢ 高能率化が期待されるサブマージアーク溶接(SAW)、プラズマ
アーク溶接(PAW)、MIG溶接の3種類の溶接工法について検討。
➢ SAWおよびPAWでは、裏はつり工程を不要となりうるかを検討。
MIG溶接は積層溶接工法として検討。
片面SAW溶接工法 両面SAW溶接工法 プラズマ溶接試験 MIG溶接試験(姿勢あり)
目標と進捗 1a) 極低温向け高能率アーク溶接工法の開発 103.研究開発成果について
シャルピー試験結果
引張試験結果
曲げ試験結果
目標と進捗 1b) 高能率溶接の継手性能の検証
【目標】シャルピー衝撃試験 横膨出量0.53mm以上(ASME規格)
【実施項目】
➢ SAWに対して機械試験を実施。溶接継手の総合的な性能を
評価するため、継手引張試験、曲げ試験(側曲げ)、溶金
中央〜熱影響部(HAZ)のシャルピー衝撃試験を実施。
【結果】
➢ 継手の引張強さは母材強度を上回る。曲げ試験も合格。
シャルピー衝撃試験の横膨出量は要求値を満足。
【研究開発の成果と意義】
ステンレス鋼向けのSAWの裏はつりレス工法としてのラボレ
ベルで、健全な継手が作製可能であること、そのラボレベル
での継手がASMEの評価基準を満足しうることを確認できた。 113.研究開発成果について
【研究開発の成果と意義】 SAW向けのインライン検査の候補手法について、優劣評価中。
高温割れ
検査対象
レーザ超音波試験
空中超音波試験
渦電流試験
目標と進捗 1c) インライン溶接欠陥検出技術の開発
【目標】インライン・非接触での溶接の想定きず検出方法の確立
【実施項目】
➢ 溶接直後に検査を行うインライン検査手法を検討。
➢ 候補として、レーザ超音波試験、空中超音波試験、渦電流
試験を選定。
➢ SAWの初層で発生する高温割れを模擬した人工きず試験体
を作製。
➢ SAWの材料・板厚・開先形状にて、開先表裏面への初層溶
接と高温割れを模擬した人工きず試験体を製作、各手法で
探傷試験・検証を実施。 123.研究開発成果について
1パス 5パス
実験と解析の温度比較
目標と進捗 1d) 溶接変形・応力解析の高精度化開発
【目標と狙い】
溶接変形量ずれ予測25%以内
➢ 溶接変形が設計許容値を満たさない場合は、溶接後に
変形修正作業が必要となり、製品製造期間の長期化に
つながる。また、ステンレス鋼溶接は溶融金属の凝固
時に発生する凝固割れが発生しやすい。この割れは溶
接凝固時の溶接部の応力状態にも影響を受ける。
➢ そこで、溶接変形や溶接部の応力を数値解析で推定、
溶接工程の手戻りとなる、変形修正や補修溶接を低減
させる。
【実施項目】
➢ SAWを対象としFEM解析を実施。解析の妥当性評価のた
め、試験溶接時の温度および角変形データを実験で計
測し解析結果と比較。
【研究開発の成果と意義】
SAW向けの変形解析で実験値と温度および各変形を比較し、現状の精度能力を把握した。 133.研究開発成果について
a)厚板FSW
開発ターゲット
突合せFSW施工バリエーション
(板厚、姿勢、装置)
施工法の高能率化
d)厚板T継手FSW
➢ 基礎施工法確立
➢ 極低温継手性能
c)異材接合
極低温継手性能確保
b)アーク溶接影響検証
異材継手
1T継手FSW
金属組織肥大化
➢ 継手強度
➢ 極低温継手性能
開発ターゲット
目標達成に向けたアプローチ:2アルミニウム製タンク 143.研究開発成果について
大型ワーク実証
FSW T継手固相接合
異材接合 アーク溶接重ね
FSW,T継手原理確認/性能検証
T継手装置開発/データ蓄積
適用対象の施工法確立
2023年度
2024年度
2025年度
2026年度
2027年度
装置改良/データ蓄積
製品適用
設備調達・生産準備
2030年度
助成事業期間
大型ワーク実証
条件最適化
ステージゲート
厚板 T継手
開発アプローチ:2アルミニウム製タンク 153.研究開発成果について
【研究開発の成果と意義】 FSW継手は十分な継手性能を有し、継手性能の観点からはFSWは
タンク製造への適用候補となりうることを確認した。
評価試験用継手製作
接手外観
目標と進捗 2a) 厚板アルミニウムFSW法開発および継手性能評価
【目標】アルミニウム厚板FSW継手の施工法確立と継手性能を把握する。
【実施項目】
➢ アルミニウム板厚50mmの接合原理検証及び継手性能検
証を目的として継手を製作し、4K(-269°C)引張試験と
4K(-269°C)シャルピー衝撃試験を実施。 接合部中央
に加え、熱影響部、熱加工影響部、攪拌部がノッチ位置
になるよう採取した。
【結果】
➢ 4K引張試験において、母材と同等程度の引張強度を示し
た。また、FSW継手の攪拌部中心から採取した試験片は
0.2%耐力が母材に比べて著しく高い結果となった。
➢ シャルピー衝撃試験では、すべての採取位置で母材と同
等もしくは同等以上の吸収エネルギーを示した。特に攪
拌部では母材の1.8倍以上の吸収エネルギーが得られた。 163.研究開発成果について
【研究開発の成果と意義】
FSW後のアーク溶接熱を再現可能な熱処理方法を探索し、
候補方法の優劣を評価完了した。
パーカー熱処理工業HPより
しろまる塩浴熱処理
・溶融塩内に試験体を投入
・空気より高い熱伝導率
・塩浴による弊害も調査
異常粒成長発生部
【目標】固相接合後のアーク溶接部の継手性能を検証する
【実施項目】
➢ FSW後のアーク溶接熱が継手性能に及ぼす影響の確認を目的とし
て、アーク溶接熱影響を再現良く評価するため熱処理方法を選定。
➢ 熱処理施工で熱影響を与え、異常粒成長の発生有無を確認。
➢ 熱処理方法として電気炉、赤外線ゴールドイメージ、塩浴の3種
類で、昇温速度を比較した。
【結果】
➢ 試験の結果、昇温速度は塩浴、ゴールドイメージ炉、電気炉の順
に大きくなり、検討した中では、塩浴( 500°Cまで5分)が最も昇
温速度が速く、溶接に近い熱履歴を与えられることを確認。
➢ 塩浴熱処理により異常粒成長を確認。
目標と進捗 2b) 固相接合後アーク溶接影響検証 173.研究開発成果について
【研究開発の成果と意義】
単純な摩擦圧接と比較し、引張強度が25%程度改
善する手法を確認した。
アルミ/ステンレス摩擦圧接継手
機械締結要素を含む摩擦圧接
(注記)新東工業(株)HPよりSUSアルミ050100150200250300350
CJ161 CJ162 CJ163 A5083
文献値
引張強度σ/MPa破断位置
継手効率
界面N=359%
ブラスト
界面N=347%
そのまま
比較対象
目標と進捗 2c) 異材固相接合技術開発
【目標】アルミニウム合金とステンレス鋼の接合方法の確立
【実施項目】
➢ 接合界面におけるFe/Al系の金属間化合物の発生により、継手性
能が低下するため、接合難易度が高いオーステナイト系ステンレ
スと5000系アルミ合金の異材配管接合を対象に、摩擦圧接試験
にて、圧接面に下加工をしてから接合する試験を実施。
➢ 継手性能の改善の複数アイデアを検討し、継手評価を実施。
【結果】
➢ 圧接面ブラスト処理:引張試験の結果、全数界面破断ではあった
ものの、継手効率は59%(N=3)となり、ブラスト処理をしてい
ない継手の47%(N=3)から25%強度が向上。
➢ 圧接面への溝加工:軟化したアルミを摩擦圧接でその溝形状を埋
め込むことで、冶金接合に加えて機械的締結も狙う。断面観察の
結果、大部分では溝形状にアルミが充填されていたが、溝底部で
は接合が不十分な様子が見られた。
ブラストによるアンカー効果
+摩擦圧接 183.研究開発成果について
【研究開発の成果と意義】
T継手の接合を可能にするツールを開発するための技術要件を抽出した。
すみ肉ツールケース
目標と進捗 2d) 厚板T継手接合への応用開発
【目標】厚板T継手FSW接合法の確立
【実施項目】
➢ 厚板T継手の2種類の接合工法について、接合
検証試験を実施。
➢ すみ肉工法の対象を板厚24mmのT継手とし、
ツールケースやツールの設計・製作を実施。
➢ 裏側工法のT継手は板厚を30mmと設定。
【結果】
➢ すみ肉FSW:ツール折損に対する改良は必要で
あるが、継手内部は良好に接合可能であった。
➢ 裏側工法:内部欠陥が発生しておりツールの
改良が必要という課題を明確にした。
すみ肉FSWイメージ すみ肉断面
裏側工法 施工後外観 裏面工法断面
事業 生産準備
開発完了
収益化194.今後の見通しについて
➢ 実用化は2030年以降の商用事業を想定
➢ 本事業終了後、2028年度から商用事業
への適用準備を実施し適用を目指す
➢ NEDO事業による生産要素技術の開発と並行して
工場における自動化設備導入や人財の育成の計画を進める
➢ 新規開発技術(溶接法)の適用規格承認フロー検討
実用化のイメージ
実用化に対する課題と対応方針・具体的な取組み
その他の取組み
(一社)高圧力技術協会における国内液化水素タンクに関する議論 および
NEDO事業「大型液化水素貯槽実現に向けた極低温・水素環境下材料信頼性評価法確立および社会受容
のための実大試験」東京大学の成果を参考にして、溶接・接合部の要求品質の達成に取り組む。

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