発表者名 光島 重徳
団体名 国立大学法人横浜国立大学, 国立研究開発法人産業技術
総合研究所, 国立大学法人京都大学, 大阪公立大学, 国立大学法人
東京大学, 学校法人立命館, デノラ・ペルメレック株式会社, 国立
研究開発法人物質材料研究機構, 技術研究組合FC-Cubic
JFEテクノリサーチ株式会社
発表日 2024. 7. 18
燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産
学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発
/常温水電解の実用化基盤研究プラットフォームの構築
NEDO水素・燃料電池成果報告会2024
発表No.A1-1
連絡先:横浜国立大学
ynugr-cel@ynu.ac.jp
事業概要
1. 期間
開始 :2023年6月
終了(予定):2025年3月
2. 最終目標
3.成果・進捗概要22030年以降の高効率、高耐久、低コストの水電解システムを実現するための協調領域の基盤技術のプラッ
トフォームを開発し水電解技術の競争力を強化することを目的とし、材料及びセル評価技術、電極触媒の高度解
析及び材料開発手法、ならびにマルチスケールシミュレーション手法を開発し、これらの協調領域の基盤技術を
共有する体制を構築する。
材料及びセル評価技術の開発では、開発済の起動停止模擬の加速劣化試験を応用し、剥離モードの劣化耐性を
向上する電極を開発し試験法の有効性を確認するとともに、多孔質隔膜に接する実機と同じ形状の電極で発生気
泡の観察しながら電気化学計測する手法を開発し、オーム抵抗、拡散抵抗、電荷移動抵抗を区別して評価する等
価回路モデルと測定方法を提案した。また、耐久評価拠点整備や高圧水電解試験装置の開発も進めた。
電極触媒の高度解析及び材料開発手法の開発では、強制対流により発生気泡を除去しながら50 msの時間分解
能で加速劣化プロトコルに対応した運転パターンで高輝度X線をプローブとした材料構造・電子構造のオペラン
ド計測を実施し、PDF解析により触媒表面構造を抽出した。オペランド軟X線吸収法により触媒表面上の含酸素中
間体の検出に成功した。これらの結果を用いたデータ駆動型材料開発も進行中である。
マルチスケールシミュレーション手法の開発のシステムレベルでは、60 kWの太陽光発電電力の変動特性を明
らかにするためにデータ取得間隔を10 msまで短縮し、0.2〜1 kW/sの比較的早い変動が半分を占めることを明ら
かにした。また、水電解槽シミュレーションでは、気泡生成スケールと多孔質電極を透過する気泡輸送モデルを
接続することを目的としたPTL構造中のガス飽和度とキャピラリー圧の関係を求めるモデルを開発した。 31.事業の位置付け・必要性—カーボンニュートラルに必要な水電解産業
IEAの水電解の規模のシナリオ 2030年までの発表済計画 134 GW NZEシナリオ 2030年 850GW
2045年 3,000GW
水素基本戦略:2030年までに日本関連企業(部素材メーカーを含む)の水電解装置の導入目標:15GW程度
*) 光島, 黒田, 大久保, 大屋, 辻上, 石本, 松岡, 白崎, 河野, 越智, 濱崎, 里川, 水素エネルギーシステム, 49(2), 68 (2024)
2050年以降、日本がカーボンニュートラルを達成したときの状況 *)
輸入水素
活用シナリオ
合成燃料
活用シナリオ
国内水素
活用シナリオ
海外
再エネ 1783.2 GW 1874.6 GW 1522.5 GW
水電解槽 594 .4 GW 624.9 GW 507.5 GW
合成反応装置 6.0 GW 249.5 GW 6.8 GW
海上輸送等 226.5 兆円 48.8 兆円 325.2 兆円
国内
再エネ 410.9 GW 482.0 GW 554.7 GW
水電解槽 0.4 GW 13.1 GW 56.0 GW
電力系統 現状比1.9倍 同2.2倍 同2.3倍
民生用燃料電池 25.0 GW 11.5 GW 20.8 GW
燃料電池自動車 317.2 万台 223.2 万台 226.4 万台
• 国内再エネ導入で40〜55%のエネルギー自給
• 残りの輸入水素には水電解装置が必須
水電解分野に必要なこと
• 再エネ電力の変動耐性
• 低コスト化
• 量産
工業電解の基盤技術+(燃料電池の)量産化技術
• 基盤技術の確立
• 業界の共通認識の共有
• 新規参入障壁の低減
日本は国内外に600 GW
の水電解槽が必要
10年寿命だと60 GW/年製造 42 .研究開発マネジメントについて---プラットフォームの目的と実施体制
材料レベル
電極/触媒層
部材レベル
電極-隔膜
/ MEA-PTL
単セル
/ラボスタック
電解システム
(AWE/PEMWE共通)
連係システム
(AWE/PEMWE共通)
常温水電解の実用化基盤研究プラットフォームの構築
再生可能エネルギーシスム
環境下での水電解
評価技術基盤
構築(FREA)
• 物質移動シミュレーション
• セル・スタックシミュレーション
• プロセスシミュレーション
• 再エネ・電力系統連係シミュレーション
システム特性
システム設計
電解槽構造
材料選択
大型電解槽
• 材料高度解析
• オペランド計測
材料特性
• 特性評価
セル特性
• 標準試験法(ADT等)
• 耐久評価装置仕様/拠点
• ベンチマークデータ(耐久等)
• 物質移動計測
• マテリアルズインフォマティクス
• ビックデータ構築
材料開発
プロジェクトE材料開発
プロジェクトFシステム開発
プロジェクトH電解槽開発
プロジェクトG材料開発
プロジェクトA材料開発
プロジェクトBシステム開発
プロジェクトD電解槽開発
プロジェクトC個別技術情報
開発支援
性能発現や劣化機構解析に基
づく材料の評価・解析・開発並
びに再エネ利用水電解水素製
造プロセス最適化のプラットフォー
ムを構築し、産官学の共通認識
の醸成と新規参入拡大を図る
加速倍率50倍の劣化試験法を確立する
とともに、中立な評価プラットフォー
ムの構築
耐久試験プロトコルのバリ
デーション、MIへのデータ
インプットに対応したオペ
ランド高度解析手法の確立
小型試験用電解槽(cm2級)から大型電
解槽(m2級)、水素製造システムまでを包
含するマルチスケールシミュレーションモデル開発
3マルチスケールシミュレーション手法の開発
2電極触媒の高度解析及び材料評
価手法の開発
1材料及びセル評価技術の開発 53ー2.研究開発成果について - 材料及びセル評価技術1
セル構造での気泡による抵抗成分の評価O2図1. 実験装置
cathode
anode
H2 O2RHEH2RHEcRHEaEcEaH2Ecell high speed
video
camerapumptankN2flow
control
front view side view
電解液:
2 M KOH (@30 °C)
Q = 20 mL/min
(セル内気泡排出のため)
参照極:
可逆水素電極(RHE)
SP150
control
anode cathode
Ni wire Ni Expand-metal
(Φ500μm)
メッシュ数
[#/inch]
線径[mm]間隙率[%]30 0.15 67.7
40 0.15 58.3
50 0.15 49.7
60 0.10 58.3
100 0.10 36.82.04mmhigh30mesh
(Φ0.15mm)
40mesh
(Φ0.15mm)
50mesh
(Φ0.15mm)
60mesh
(Φ0.1mm)
100mesh
(Φ0.1mm)
• 電極周りの流動と電極形状の影響評価
電極実面積
相反
気泡排出能
起動停止模擬耐久試験法と耐久性向上
停止時の
電位変化
(アノード)
停止時の
電位変化
(カソード)
[1] A. A. Haleem et al., Electrochemistry, 89, 186 (2021).
[2] A. A. Haleem et al., J. Power Source, 535, 231454 (2022).
(例)NiCo酸化物被覆電極の耐久性向上と解析1.61.71.81.92.00 500 100015002000E/Vvs.RHE350°C/0.19
550°C/0.27450°C/0.35450°C/0.56N / ADT cycles
@600 mA/cm21.61.71.8E/Vvs.RHE
450°C/0.35020406080100
0 600 1200Coresidual/%
N / ADT cycles
350°C/0.19400600
200cycles800450°C/0.351.21.31.41.5
0 1000 2000E/Vvs.RHEN / ADT cycles
350°C/0.19
550°C/0.27
450°C/0.35
450°C/0.56
試料名:焼成温度/担持量(Co基準)
OER活性 Co残存量 CVピーク電位
• Coの溶出が先行し、結晶構造変化、触媒剥離と劣化が進行
• 焼成温度は450°Cが最適→触媒層の密着性と結晶化の最適化
3ー3.研究開発成果について - 材料及びセル評価技術26アノード劣化の加速と不純物の影響(PEMWE)
起動停止模擬サイクルの改良(カソード劣化防止)
• 負荷変動サイクル1に起動
停止時の低電位状態を追加
した起動停止サイクル2で
劣化加速
• 電流密度を上げることによ
り3さらに劣化を加速可能
• 95°Cに高温化4することで
さらに劣化を加速
• 矩形波サイクルではカソードPt/Cの予期せぬ劣化が進行する
場合がある(逆電流によるカソード電位上昇起因)
• Pt/C劣化によりカソード過電圧が上昇 ⇦ 実機と乖離した劣化
• 電位スイープを追加することでPt/Cの劣化を抑制し、アノー
ドのみの劣化加速が可能
カソード劣化
の影響
同一試験時間における劣化度の比較
(目標)加速倍率50倍
起動停止
サイクル
負荷変動
サイクル
連続
電解1234
矩形波サイクル 電位スイープ追加サイクル0510152025050100150200250300350
Na Mg K Ca NeatΔR(EOL-BOL)@2Acm-2/mΩcm2ΔE(EOL-BOL)@2Acm-2/mV(不純物なし)
不純物イオンの劣化影響
矩形波ステップ時の各極電位 電位スイープ有無による劣化挙動の変化
• 実電解槽運転条件に近い極
低濃度(5ppb)の不純物イ
オンの影響を検討
• Mg2+などセル電圧への影響
が特に早いイオンが存在
• 膜抵抗上昇に加え、カソー
ド過電圧の増大が原因 73ー4.研究開発成果について - 電極触媒の高度解析及び材料評価手法1
活性支配因子の理解
高度解析により加速劣化プロトコルのバリデーション
• 活性支配因子を特定して高活性・高耐久化
• 再生可能エネルギーを用いた起動停止&変動運転モードで
の劣化因子の解析
• 劣化の中での触媒の構造・電子構造変化の解析
• 起動停止、変動、定常運転での劣化と加速劣化プロトコル
の劣化の比較評価
水電解に特化した高度解析のベンチマーク
Operando 軟X線吸光分光法
• 水電解の電極/電解質界面の酸素の電子構造変化を明らかにする
1. Sci. Rep. 2019, 9, 1532.
2. Angewandte Chemie - International Edition
2020, in press
3. Dalton Transactions, 2019, 48, 21, 7122-
7129.
4. Chem. Commun. (Cambridge, U.
K.) 2019, 55 (6), 818– 821.
5. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 1305– 1313.
6. ACS Catal. 2019, 9, 8, 7099-7108.
7. ACS Catal. 2019, 9, 7389-7397
8. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 28, 12087–
12095.
9. Nat. Comm., 2020, 11, 1, 3376.
10. ACS Appl. Mater. Interfaces, 2019, 11, 38,
34787-34795.
11. ACS Cent. Sci. 2019, 5, 558– 568.
12. ACS Appl. Mater.
Interfaces 2019, 11, 38595– 38605.
13. Adv. Mater. 2019, 31, 1902509.
14. Nat. Mater. 2017, 16 (9), 925– 931.
15. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 36– 39.
16. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 27, 11901–
11914.
17. Anal. Chem. 2013, 85, 7009–7013.
18. Chem. Sci. 2014, 5, 3591– 3597.
19. Chem. Mater. 2016, 28, 6591– 6604.
20. ACS Catal. 2015, 5, 5104– 5115.
21. J. Phys. Chem. B 2002, 106, 3681– 3686
22. ACS Catal. 2017, 7, 2346– 2352.
23. J. Phys. Chem. Lett. 2014, 5, 2474–2478.
SA58(IrO2ライク) SA3.5(IrOx)
• SA58のOH種の形成は1.6 Vで飽和
• SA3.5はO-O結合を有する表面吸着種が電位ととも
に出現=歪んだ構造でO-O種が形成しやすく高活性 83ー5.研究開発成果について - 電極触媒の高度解析及び材料評価手法2
通常XAS 高分解能XAS
• スペクトルの高エネルギー分解能化により、吸着種を
含めた詳細解析可能
• オペランドで高分解能XANESスペクトル収集が可能
新品
起動停止 連続電解
Rutile
連続電解1000h
起動停止、負荷変動
サイクル(4 Acm-2 /
0.1V)10000回
連続電解、加速劣化サイクル試験前後のアノード触媒の解析
• Ir LIII-edgeのピークが高エネ
ルギー側 = Irの価数が高く
て結晶性の高いルチル
• 運転時間とともに単斜晶系
(Monoclinic)や斜方晶系
(Orthorhombic)が減り、正方
晶系(Tetragonal, ルチル型)の
電子構造になる。
• 連続電解、加速劣化(起動停
止)とも同じ挙動 ⇒ いずれ
の運転モードでも類似の劣化
パス
⇒ 起動停止模擬の加速劣化試
験の有効性を確認 93ー1.研究開発成果について - マルチスケールシミュレーション手法
再エネ利用水電解水素製造システムモデル
60 kW PVの実データ
• 測定間隔毎のΔP t-1(kW s-1)と頻度の関係
• 10 ms 間隔測定では約1/3が 1.7 %/s (100 %/min) (比較的早い変
動速度)で、約1/2:が3 〜 16 %/s (速い変動速度)
• 速い変動は1 s未満で1 s間隔ではみえない/継続時間は短い
マルチスケール水電解槽シミュレーション
様々なスケールでの現象の関連の理解 ⇒ 電解槽及びシステム設計支援
小径気泡率 中径気泡率 大径気泡率 液相率 小型セ
ル実験
マニフォールド近傍で
大きな逆電流
•本プロジェクトでは気泡生成のμmスケールからバイポー
ラー型電解槽のmスケールを対象
(例)アルカリ水電解槽の停止時の逆電流挙動(上段)と
運転時の気泡の移動挙動(下段)
1 s間隔
100 ms間隔
10 ms間隔
解析データ取得に用いた再エネを利用した蓄電・水素エネルギーシステム
⇒ 実機設計にフィードバック 104.今後の見通しについて
• 水電解水素製造システムの開発には材料/機器/システムを水平分業で研究開発や社会実装がすすむ
• ベンチマーク試験を中心とした性能発現や劣化機構の理解、試験評価法の共有などの協調領域の基盤
技術のプラットフォームが必要である
• 本プロジェクトでプラットフォームに必要な要素開発を行い、来年度以降の本格的なプラットフォー
ム構築につなげる
機器/材料開発のプラットフォーム•部材開発•材料開発•加速劣化プロトコル•機能発現・劣化機構解析•分析・評価技術
要求仕様
・再エネの変化(気象/機器制御)
・整流器
・乾燥機
・圧縮機
・水処理•マルチスケールシミュレーション•セル・スタック構造開発
・量産技術
システム用
機器設計

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /