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NEDO’s SNS
NEDO INFORMATION
EVENT REPORT
GI基金の取り組みを広く知っても
らうため、
次世代を担う大学生た
ちと共に、
株式会社ブリヂストン
を訪問しました。
普段はなかなか
聞けない開発の苦労や、
カーボン
ニュートラルに向けた熱い想いを
お伺いしました。
カーボンニュートラルな未来へ。
「グリーンイノベーション基金事業」
開発現場見学レポート
カーボンニュートラルへの挑戦こそが、
日本に次の成長をもたらす原動力。
今こそ、技術大国・日本の出番です。
世界を変えるイノベーションを、次々と。
そして、
ひとりひとりの力を合わせて、
カーボンニュートラルな未来へ。
2050年。
そこには、新しい日本が待っています。
「ENEX 2024」
「第18回再生可能エネルギー
世界展示会&フォーラム」
「nano tech 2024」
に出展
最先端の研究・技術開発や成果をPR
各展示会のNEDOブース
実用化への歩み、
着々
特集
バイオ
ものづく
り拠点
ととのう!バイオ
ものづく
り拠点
ととのう!NEDOは、
1月31日〜2月2日に東京ビッグサイ
トで開催された
「ENEX 2024」
「第18回 再生可能エネルギー世界
展示会&フォーラム」と「nano tech 2024」
に出展。エネルギー分野や、
IoT・バイオエコノ
ミー・プロセス・モビリ
ティ
・材料開発の分野で、
NEDOが推進する最先端の研究・技術開発や試作品等を紹介しま
した。世界中から2050年
カーボンニュー
トラルに向けた最新の技術や情報が集結する展示会において、
NEDOプロジェク
トの成果を広くアピール
する絶好の機会となりま
した。
ENEX 2024
第18回再生可能エネルギー
世界展示会&フォーラム
nano tech 2024
フォーカス
・ネド
No.92
March2024発行:国立研究開発法人
新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO)
〒212-8554
神奈川県川崎市幸区大宮町1310
ミューザ川崎セン
トラルタワー20階TEL:044-520-5152
E-mail:
kouhou@ml.nedo.go.jp 編集:広報部 編集長:佐々木淳新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO)
の広報誌
「Focus NEDO」
は、
NEDOが推進するエネルギー・環境・産業技術に関するさまざまな事業や技術開発、
NEDOの活動について、
ご紹介します。
くろまる本誌のお問い合わせはこちらまで。
E-mail : kouhou@ml.nedo.go.jp
「Focus NEDO」
編集担当宛て
エネルギー・環境・産業技術の
今と明日を伝える
【フォーカス・ネ
ド】
No.922024 PICK UP NEWS
CONTENTS
Promising NEDO Startups
スタートアップ支援のその先へ
株式会社digzyme14NEDO INFORMATION1602 PICK UP NEWS
「ENEX2024」
に出展、
省エネルギー技術の開発成果をPR
「NEDO省エネルギー技術開発賞」
を授与
06 ×ばつデジタルで
スマートセルを高速に開発
神戸大学
微生物培養の
「匠の技」をAIが受け継ぎ、
超える日
京都大学/ちとせ研究所07実験と実生産の間をつなぐ
「バイオものづくりラボ」
大阪工業大学08最大3000Lの発酵槽で
スケールアップ実証
Green Earth Institute株式会社09MESSAGE
社会実装に向けて、
開発の加速に期待します10もうひとつのバイオファウンドリを紹介
植物バイオファウンドリ1 104 特集
実用化への歩み、
着々
バイオものづく
り拠点 ととのう!12 未来を切り拓く実証施設
「廃プラケミカルリサイクル技術大型汎用実証設備」
造や発酵生産の現場で長年培われてきた
「匠の技」
。そう
したものを今後どのように引き継いでいくべきか。気候
変動や食糧・資源の枯渇といった社会課題の解決と経済成
長との両立を図る上で、
「バイオものづくり」
への転換は待ったなし
の急務です。国際的に開発競争が激化する中、
バイオファウンドリの
拠点が、
多くの事業者にとって匠さえも超える技術の開発の場になる
ことを願います。醸EDITOR’S VOICE 広報部より
エネルギー・環境・産業技術の
今と明日を伝える
【フォーカス・ネ
ド】
No.9220242024年1月31日から2月2日の3日間、
脱炭素・省エネ
ルギーに関する最新の製品・技術・サービスが一堂に会する、
エネルギーイノベーション総合展
「ENEX 2024 地球環境と
エネルギーの調和展」
が東京ビッグサイトにて開催され、
NEDOは、
省エネルギー分野における研究開発や国際実証を
紹介するパネル・試作品等の展示やデモンストレーションを
行いました。
展示ブースでは、
NEDOが推進している省エネルギー技術
開発のうち、
27テーマについてパネルや試作品を紹介する
とともに、
事業者によるセミナーを実施。研究開発成果を広
くPRし、
多くの来場者の関心を集めました。中には、
開発
成果について協業や技術の導入に関する相談等ができる企業
等とうまくマッチングしあった出展事業者もあり、
今後の社
会実装の加速に期待が高まりました。
また、
2月1日には
「戦略的省エネルギー技術革新プログ
ラム」
および
「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の
研究 開発・社会実装促進プログラム」
において、
特に優れた
成果を上げた18テーマ29事業者を対象に
「NEDO省エネ
ルギー 技術開発賞」
の表彰式を行いました。
理事長賞に輝いたのは、
医薬品の製造を効率化し、
廃棄物
やCO2排出量の削減と省エネルギーを実現する医薬品製造用「iFactory®」を開発した、
株式会社高砂ケミカル・田辺三
菱製薬株式会社・コニカミノルタケミカル株式会社の研究グ
ループです。高砂ケミカルの齊藤 隆夫氏は
「この成果は研
究開発に携わった140名以上の力によるものです。今後は
iFactory®
の普及とその先の展開にさらに力を注ぎ、
システ
ム開発と技術者育成の両輪で、
バッチ生産から連続生産への
グレートリセットを推進していきたい」
と話しました。ま
た、
新設された中小・スタートアップ賞は、
廃熱を使った
ORC(注記)
発電システムで優れた発電出力と国内最高レベルの省
エネルギー化を両立する
「独立型ORC発電システム」
を開
発した、
株式会社馬渕工業所が受賞。同社の小野 寿光氏は
「地方で廃熱の有効活用事業の研究開発に注力するスタート
アップ直前の当社にとって、
今回の受賞は大変な栄誉です。
開発チーム全員の励みになります」
と喜びを語りました。
(注記)ORC : Organic Rankine Cycle
(有機ランキンサイクル)
蒸気サイクルの作動媒体を水ではなく、
より低沸点の有機媒体
(フロン
ガス等)
を利用して発電すること
「ENEX2024」
に出展、
省エネルギー技術の開発成果をPR
「NEDO省エネルギー技術開発賞」
を授与
左からコニカミノルタケミカル
(株)、(株)
高砂ケミカル、
NEDO斎藤 保理事長、
(株)
高砂ケミカル、
田辺三菱製薬
(株)
左からNEDO林 成和理事、
(株)
馬渕工業所
「NEDO省エネルギー技術開発賞」の
ニュースリリースはこちら
https://www.nedo.go.jp/news/press/
AA5_101722.html
成果のニュースリリースはこちら
https://www.nedo.go.jp/news/press/
AA5_101710.html
成果のニュースリリースはこちら
https://www.nedo.go.jp/news/press/
AA5_101610.html
NEDO省エネルギー部 ENEX2024事務局スタッフ
加洲 大輔職員
(左)
廣田 柚菜職員
(中央)
山田 順二専門調査員
(右)
NEDOブースの様子
理事長賞 受賞者
中小・スタートアップ賞 受賞者
02 03
Focus NEDO 2024 No.92
Focus NEDO 2024 No.92
実用化への歩み、
着々 バイオものづく
り拠点 ととのう!「バイオものづくり」
とは、
生物の力を活用し、
物質を生産
する手法です。古くからある醤油や味噌等の発酵食品も、バイオものづくりの一種です。この従来の手法に対し、
最先端
の遺伝子工学やゲノム編集などの技術を用いて、
人間が必要
とする物質の生産のために微生物などの能力をデザインする
のが現代のバイオものづくりです。バイオものづくりは、石油からバイオ由来の原料への転換と、
化学合成に必要な高
温・高圧のプロセスから常温・常圧への転換が可能なため、
炭素循環型社会の実現に貢献できます。
プロジェクトマネージャーの林 智佳子室長は
「製造業各
社も2050年のカーボンニュートラルを目指しており、
環境
負荷の低減につながるものづくりへのニーズが高まっていま
す。そうしたニーズに応え、
バイオエコノミー社会をつくる
ことがプロジェクトの大きな目的です」
と話します。
NEDOは、
バイオものづくりの実用化に向け2016〜
2020年度の5期にわたって
「植物等の生物を用いた高機能
品生産技術の開発」
事業を実施し、
有用物質を生産する
「ス
マートセル(注記)」構築の技術開発に取り組みました。このプロ
ジェクトでは、
例えばコレステロールエステラーゼの分泌生
産量を野生株の30倍以上に向上したスマートセルを開発。
体外診断用医薬品原料として製品化することに成功しまし
た。しかし、
スマートセルを用いたものづくりをさらに拡大
するためには、
実験室レベルの成果から産業レベルへのス
ケールアップが必要となり、
さまざまな課題を解決しなけれ
ばなりません。また、
人材育成プログラムを提供するととも
に、
ものづくりの技の伝承をデジタル技術で補完するなど、
次世代型生産プロセスの構築も欠かせません。
現在NEDOは、
これらの課題を乗り越え、
バイオものづく
りを加速するための事業を実施しています。中でも実用化へ
の橋渡しを行う上で欠かせない、
試作やスケールアップが行
えるバイオファウンドリ拠点の整備は重要となります。ま
た、
バイオファウンドリは、
バイオものづくりを担う人材の
育成拠点としても期待されています。サブプロジェクトマ
ネージャーの峯岸 芙有子主任は
「石油を原料としていたも
のづくり企業がバイオプロセスに転換していく際にはさまざ
まな課題が生じますが、
それぞれの課題の解決に必要な設備
を有するバイオファウンドリの整備が進んできているので、
多くの企業に活用してほしいと思います」
と期待を込めまし
た。次ページからは、
このプロジェクトで各地に設置したバ
イオファウンドリの取り組みと役割を紹介します。
バイオファウンドリ拠点の整備が本格化
バイオものづくりって何?
林 智佳子NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
室長
博士
(理学)
プロジェクトマネージャー
峯岸 芙有子NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
主任
サブプロジェクトマネージャー
HAYASHI
Chikako
MINEGISHIFuko開発ステップに合わせたバイオファウンドリを整備
(注記) 高度にデザインされ、
目的とする物質を効率的に生産する能力を高めた細胞
スマー
トセル開発から生産プロセス開発、
生産実証が連携。さらにバイオものづく
りを担う人材を育成することで産業化を加速。
神戸大学
試作AI・
デジタル
Green Earth Institute
株式会社
スケールアップ
バイオ
ファウンドリ
バイオものづくりへの転換を
目指す企業が増えていると
実感しています
目指すのは化石資源に
依存しない持続性のある
循環型ものづくりです
特集
実用化への歩み、
着々
カーボンリサイ
クル実現を加速するバイオ由来製品
生産技術の開発
バイオ
ものづく
り拠点
ととのう!スマートセル
開発
生産プロセス
開発
バイオマス資源
CO2 CO2
人材育成
生産実証
京都大学/ちとせ研究所
製品
大阪工業大学
04 05
Focus NEDO 2024 No.92
Focus NEDO 2024 No.92
NEDOと神戸大学の近藤 昭彦教授は、
バイオと計算科学
を組み合せることで、
設計
(Design)、構築
(Build)、試験
(Test)、学習
(Learn)
のDBTLサイクルを高速で回し、医薬品やバイオ燃料等のさまざまな有用物質の生産を加速させ
ることを目指しています。
近藤教授は
「有用物質を生産するスマートセルを生み出す
ためには、
1,000個、
1万個といったたくさんの仮説をつく
り、
一つひとつ検証していく必要があります。これを人間の
手ではなく、
全てAIとロボットに任せることで開発は一気に
加速します」
と話します。
拠点となる神戸DBTLバイオファウンド
リでは、
独自に開発した技術を組み合わせる
ことで、
目的の物質を高収率、
高濃度で生産
する
「スマートセル」
を従来の10倍の速さ
で開発することができます。このバイオファ
ウンドリをスマートセル開発の場として広
く活用することにより、
化学品や医薬品の原
料等をバイオで製造したい企業のステップ
となることを目指しています。近藤教授は、
バイオものづくりの社会実装は、
プラネタリーヘルスのた
め、
つまり人間だけではなく、
人々が暮らす地球の健康のた
めでもあると位置づけています。
AI・ロボット技術の活用によって、
たくさんの実験が可能
になればAIの学習データが大量に集まって精度が向上し、実験のコストも下がります。NEDO材料・ナノテクノロジー部
の平松 紳吾主査は
「バイオ系と情報系の研究者が分野を超え
て協働していることがこの拠点の特徴です」
と話します。
高機能な化学品や医薬品原料等を、
バイオの力で生産する
ことが世界的にも主流になる中、
神戸大学のバイオファウン
ドリは、
この分野のフロントランナーとして、
日本のバイオ
ものづくりを牽引しています。
DBTLサイクルを回すことで
従来の10倍の速さで開発を可能に
バイオ生産の技術は、
熟練技術者のノウハウや五感など、
いわゆる
「匠の技」
に頼る部分が大きかったため、
効率化と
安定化が難しい分野でした。ちとせ研究所の河合 哲志氏は
「微生物培養の技術は1940年代に基本形が形成されて以降、
革新的な技術が生まれず、
生産性は頭打ちでした。熟練者の
技の継承も困難なため、
誰でも安定した培養を行える技術開
発が必要だと考えました」
と話します。
NEDOと、
ちとせ研究所は、
温度やpHに加え、
光学系や
電位等、
独自開発を含む多種多様なセンシングデバイスを整
備。AI学習に特化したコンボリューショナルデータ
を集積することで、
微生物の動態を把握し、
AIが培養
状態を自律的に最適化するシステムを開発しました。
河合氏は
「有用なデータが取れない可能性もある中、
センサーの開発に挑戦できたのはNEDO事業だから
です」
とプロジェクトの意義を話します。
実際に、
ちとせ研究所と協和発酵バイオ株式会社が
行った生産性実証試験では、
リアルタイムで培養条件
を制御することにより、
熟練者の生産量を約10%上
回る生産性を達成しました。このAIによる最適化は、
これま
での生産現場の常識を覆すこともしばしばあり、
人間では実
現が難しい制御を行うことが特徴です。NEDO材料・ナノテ
クノロジー部の小塚 高広主任は
「AIの制御で人を超える生
産性を発揮したことは産業界にとっても大きなニュースで
す」
と成果を話します。ちとせ研究所のバイオファウンドリ
では、
今後、
醸造や培養の知見を有する生産現場の声を聞き
ながら、
データの質・量とともにAIの性能を高め、
高い生産
性と安定した培養プロセスを確立することで、
産業のバイオ
化とバイオエコノミー社会の実現を支援します。
コンボリューショナルデータ(注記)
を活用した
バイオ生産マネジメントの確立へ
(注記) ちとせ研究所の登録商標で、
人による解釈・判断のためではなく、
AIに学習
させることに特化したデータセット
バイオファウンドリ拠点
京都大学/ちとせ研究所
実用化への歩み、
着々 バイオものづく
り拠点 ととのう!生産性に優れたスマー
トセルを短期間で
開発したい事業者
応用先
DBTL cycle
Design
有用物質を生産するための
代謝経路・遺伝子配列の設計
Build
代謝経路・遺伝子配列を改変した
微生物の構築
Learn
大量のデータから
知識を抽出
Tes×ばつデジタルで
スマートセルを高速に開発
培養条件の最適化によって
効率的・安定的なバイオ生産を目指す事業者
応用先
平松 紳吾NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
主査
近藤 昭彦 教授
神戸大学大学院
科学技術イノベーション研究科
工学博士
小塚 高広NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
主任
河合 哲志 氏
株式会社ちとせ研究所
バイオ生産部部長
コンボリューショナルデータの概念に合わせたイメージ図
可視光線、
赤外線
紫外線、
放射線
磁界、
電流
電圧、
電場
音、
振動、
超音波
圧力、
重力、
歪み
物の形状、
位置
速度、
加速度
回転数
温度
化学物質の有無AIバイオファウンドリ拠点
神戸大学
06 07
Focus NEDO 2024 No.92
Focus NEDO 2024 No.92
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、
注目が集まる
バイオ由来製品ですが、
現在は高コストで製法に汎用性がな
く、
試作できる施設が少ないなど、
企業の新規参入には障壁
が少なくありません。NEDOと大阪工業大学の長森 英二准
教授は、
こうした課題を解決し、
生産プロセスの開発を支援
するため、
「バイオものづくりラボ」
を2021年に開設しまし
た。
「バイオものづくりラボ」
は0.25Lサイズの培養槽を32
連、
1Lサイズを12連、
5Lサイズを4連、
さらに教育用とし
ては国内唯一の30Lサイズまで備え、
バイオ産業界の
多様なニーズに応えることができます。長森准教授は
「多連の培養槽を利用することで、
一度にさまざまな
条件下で検討でき、
試作、
評価を数年単位で短縮でき
ます」
と話します。
醸造や発酵食品製造は熟練技術者の経験とスキルに
頼る部分が大きく、
次世代の人材を育成することも急
務です。NEDO材料・ナノテクノロジー部の秋葉 幸
範専門調査員は
「技術者の負担を軽減し、
魅力ある産
業にするため、
解析アプリの開発や自動分析装置の設
置など、
生産プロセスの自動化も進めています」
と話
します。また、
培養装置を正しく扱える技術者も必要である
ことから、
大阪工業大学ではNEDO特別講座の一環として座
学と実技のセミナーを実施しています。NEDO材料・ナノテ
クノロジー部の浅石 理究主任は
「試作支援、
セミナーともに
大変な人気で、
若い技術者の交流も生まれています」
と成果
に手応えを感じています。
次のステップとして長森准教授は
「生産物の分離精製を試
せる施設をつくる予定です」
と語ります。これによってバイ
オ由来製品の製造がさらにスピードアップし、
持続可能な社
会の実現に向けた原動力になると期待されています。
試作、
人材育成の拠点として
バイオものづくりの社会実装を支援
「バイオものづくりの実用化への課題は、
時間やコストがか
かるスケールアップと人材の確保」と話すのは、
Green
Earth Institute株式会社のバイオファウンドリ研究所長を務
める古城 敦氏です。
同研究所は、
バイオ生産実証を推進する拠点として2023
年6月に本格始動。企業や大学、
公的研究機関がラボで開発
した有用なスマートセルを培養し、
製品化に向けた生産プロ
セスの最適化や、
同研究所が備える最大3,000Lの発酵槽を
用いたスケールアップ検証を行える国内唯一の施設です。
2024年には精製設備の導入を予定しており、
バイオマス残渣
等で発酵用の原料をつくる
「前処理」
から
「精製」
「サン
プル作成」
まで、
一連の生産工程から目的に応じたメ
ニューを提供できるのが特長です。
さらに、
段階的なスケールアップにかかる時間とコス
トを大幅に削減するため、
発酵槽内の状況をシミュレー
ションするCFD解析(注記)1
を用いた
「スケールダウンモデル
での生産システム」
の技術開発にも取り組んでいます。
古城氏は
「人材育成も社会実装の1つ。当社は技術を
売る会社なので、
裾野を広げていくことも使命だと考え
ています」
と話します。プロジェクトマネージャーを務める
NEDO材料・ナノテクノロジー部の小笠原 真人専門調査員は
「バイオものづくりは技術の継承が大切。ぜひいろいろな方
に実用化に近いものを、
実際に手にとって体験していただき
たい」
と期待を寄せます。
「新たなバイオものづくりに携わ
れることがやりがい」
という古城氏。
「NEDOプロジェクト
終了後も、
DX化や自動化を取り入れて民間事業として成り
立つ道筋を立てたい。オールジャパンでバイオものづくりが
花開くといいですね」
と熱く語りました。
(注記)1 CFD解析:Computational Fluid Dynamics
(数値流体力学)
解析
流体の運動に関する方程式をコンピューターで解くことによってさまざまな
流れを推定する数値解析・シミュレーション手法
(注記)2 実用化の前に、
想定通りの成果が得られるかを評価するために行う小規模な
試験のこと
実用化への歩み、
着々 バイオものづく
り拠点 ととのう!スケールダウンモデルとCFD解析を用いた生産システムの概念図
300,000L
スピーディーな
試作・評価が
可能になる
網羅的な分析による
ビッグデータ化
標準培養装置の策定を核に、
データ駆動で最適化、
試作をスムーズに!
標準培養装置/条件
(つくれる幅)
を決める
パラメーターの計測法を標準化
標準条件を再現した
小スケール
標準条件を超並列化した
培養検討
データ駆動による効率的な
条件、
最適化の実証
バイオファウンドリ拠点
バイオファウンドリ拠点
大阪工業大学
最大3,000Lの発酵槽で
スケールアップ実証
小笠原 真人NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
専門調査員
古城 敦 氏
Green Earth Institute株式会社
CTO 兼 バイオファウンドリ研究所長
P08_09 特集 各バイオファウン
ドリ紹介
浅石 理究NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
主任
秋葉 幸範NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
専門調査員
長森 英二 准教授
大阪工業大学 工学部
生命工学科
博士
(工学)
応用先
実験と実生産の間をつなぐ
「バイオものづく
りラボ」
バイオ産業への新規参入に向け、
試作、
人材育成を目指す事業者
パイロッ
トテス
(注記)2
およびサンプルの作成
経験を有する人材の育成を目指す事業者
応用先
Green Earth Institute
株式会社従来バイオファウンドリ研究所
300,000L30Lスケールダウンモデル
CFD解析
30L 300,000L
30,000L
3,000L300L30L
スケールダウンモデルによる
生産システムの開発にも挑戦
08 09
Focus NEDO 2024 No.92
Focus NEDO 2024 No.92
バイオものづくりは、
持続可能な循環型社会の実現に貢献するだけでなく、
化学
の根本的な基盤に迫る可能性も秘めていると考えています。しかし、
バイオマス原
料の問題に加え、
スマートセル開発のさらなる高度化、
培養プロセスの最適化やス
ケールアップ手法など、
課題は多くあります。これらを解決し、
産業化につなげる
には、
情報技術やロボティクス等を取り込んでいくことも重要です。バイオエコノ
ミー社会の実現には、
バイオものづくりに関わるプレイヤーを増やし、
裾野を広げ
ることが不可欠です。NEDOプロジェクトは、
社会実装への道筋をつくり、
成功事
例を示していくと同時に、
人材を育成し、
裾野を広げるための共通基盤を整備する
役割も担っています。私が若い頃、
企業の研究者として国家プロジェクトに携わっ
たときに多くの研究者と交流しながら多様な知見や視点を得たことは、
その後の大
学での研究に大いに役立ちました。本プロジェクトを通じて、
企業・アカデミアの
研究者間の人的交流が促進され、
バイオものづくりの課題や将来像を俯瞰的に見る
視点等、
社会実装に対する考え方が醸成されることを期待します。
植物によるバイオものづくりは、
水とCO2と光で物質をつくる効率的で省エネ
ルギーな生産システムです。しかし、
微生物と違い、
この分野は歴史が浅く、
海外
でも研究が進められていますが、
実用化されている例はまだ多くありません。もと
もと日本は世界でトップレベルの基礎的技術を持っており、
植物の特徴や優位性を
生かして省エネルギーかつ効率的に生産できる技術を、
企業が選択肢の1つとして
活用できる環境=拠点を国内に整備することが大切だと考えています。
植物ものづくりには、
遺伝子操作技術や栽培技術、
抽出・精製技術といった多様
な専門技術が不可欠です。異なる分野の企業・アカデミアを結集し、
基盤技術から
実証まで一貫して取り組めるのがNEDOプロジェクトのメリットです。次ページ
で紹介する植物バイオファウンドリをきっかけに、
植物ものづくりの事業化の実例
が増え、
この分野に目を向けてもらうことで技術の成熟が進めば、
ニーズや課題が
見え、
さらに技術が成熟していくでしょう。本プロジェクトを土台に、
植物による
バイオものづくりにおいて日本が世界のトップになることを願っています。
微生物の力を利用するバイオものづくりが進行
する一方、
もう1つのバイオものづくりとして期
待されているのが植物の潜在機能を引き出す植物
バイオファウンドリです。
現在、
さまざまな産業で使われている高付加価
値なタンパク質を植物から生産するには、
安定的
な栽培方法がなかったり、
微量しか確保できな
かったり、
また開発に時間がかかったりといった
課題があります。
NEDOは、
植物の機能を改変し、
植物の持つ高
い潜在能力を生かして、
高度な翻訳後修飾技術を
必要とする医薬品の原材料となったり、
診断薬・
試薬、
サプリメントなどに利用されたりする高付
加価値タンパク質を効率よく生産できる植物と、
その栽培技術の開発に取り組んでいます。また、
大量の植物材料からタンパク質を抽出・精製する
技術の開発にも取り組んでいます。植物は水と
CO2と太陽の光とわずかな栄養で成長するため、
非常に小さなエネルギーでタンパク質を合成でき
る可能性があります。植物から微量しか生産でき
なかった高付加価値タンパク質を効率よく大量に
生産できるようになれば化石燃料の削減につなが
り、
環境に優しいバイオものづくりが実現します。
NEDOは、
微生物のケースと同じように合理的
に遺伝子操作を行い、
目的とするタンパク質をよ
り合成しやすくした植物を栽培し、
研究や試作を
する場所としての植物バイオファウンドリの整備
を支援していきます。多くの企業が活用すること
を期待しています。
社会実装に向けて、
開発の加速に期待します
M E S S A G E
人材育成や人的交流を促進し
裾野を広げることが重要
国立大学法人 千葉大学
名誉教授 博士
(工学)
プロジェク
トリーダー
関 実
国内に植物ものづくりの礎をつくり、
世界のトップを目指してほしい
サブプロジェク
トリーダー
松村 健
実用化への歩み、
着々 バイオものづく
り拠点 ととのう!竹井 哲也NEDO材料・ナノテクノロジー部
専門調査員
木下 理子NEDO材料・ナノテクノロジー部
バイオエコノミー推進室
主任
高付加価値なタンパク質を
省エネルギーで生産する
植物バイオファウンドリの整備へ
植物バイオファウンドリ
(植物によるタンパク質生産のプラッ
トフォーム)
アカデミアによる植物改変 植物工場での植物育成とタンパク質発現
企業A
医薬品原材料等
医薬品原材料等
医薬品原材料等 診断薬・試薬等
診断薬・試薬等
診断薬・試薬等
企業B
サプリメント等
企業C
高付加価値タンパク質を大量生産
〜植物バイオファウンドリ〜
もうひとつの
バイオファウンドリを紹介
抗体、
抗原、
酸素等のさまざまなタンパク質の生産
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Focus NEDO 2024 No.92
Focus NEDO 2024 No.92
日本国内において、
年間800万トン
を超えるとされる廃棄プラスチック(以下:廃プラ)
。さまざまなリサイクル技
術で再資源化が進められていますが、
中でも廃プラを分解して基礎化学原料
(モノマー)
に戻し、
新たな製品をつくる「ケミカルリサイクル」
が注目されて
います。しかし、
現在の技術では、高温で熱分解するプロセスで多くの化石
燃料を用いるため、
エネルギー消費や
CO2排出、
コス
ト等が課題となっていま
す。また、
既存の分解技術で処理でき
るプラスチックの種類が限定的なため、
汎用性が低いという問題もあります。
こうした背景の下、
NEDOとマイク
ロ波化学株式会社は、
2020年度から
「戦略的省エネルギー技術革新プログ
ラム/実用化開発フェーズ」
事業にお
いて、
「マイクロ波プロセスを応用した
プラスチックの新規ケミカルリサイクル
法の開発」
に取り組みました。さらに、
設備の大型化や汎用化に取り組み、
2022年に国内初となる
「マイクロ波
を用いたケミカルリサイクル技術大型
汎用実証設備」
が完成しました。
マイクロ波とは、
電子レンジと同じ仕
組みで、
加熱したい対象物に直接エネ
ルギーを伝えることができる電磁波の
一種です。マイクロ波プロセスはエネ
ルギー効率が高く、
熱分解プロセスで
消費していたエネルギーを約50%削
減することができます。また、
再生可
能エネルギー由来の電気で発生したマ
イクロ波を利用すれば、
実質的にCO2
を排出せずに廃プラの再資源化も可能
になります。
本プロジェク
トでは、
対象となるプラ
スチックの種類を増やし、
汎用性を高め
るために、
マイクロ波の複素誘電率(注記)1
を精密に測定する
「高温複素誘電率測
定装置」
を開発。さらに、
1日当たり1t
の処理能力を持つ本実証設備におい
て、
多様かつ大規模な廃プラのモノマー
化に向けた実証試験を開始しま
した。
今後は、
年間1万tの処理能力にス
ケールアップし、
2025年までの社会
実装を目指します。NEDOとマイクロ
波化学は、
本事業で開発したプラス
チック分解技術
「PlaWave(注記)2」のさら
なる高度化を図り、
社会実装に向けた
取り組みを加速することで、
カーボン
ニュートラルと循環型経済
(サーキュ
ラーエコノ
ミー)
の実現に貢献します。
MISSION
「廃プラケミカルリサイクル技 術大型汎用実証設備」
廃棄プラスチックを化学原料に再生
実証施設
マイ
クロ波を活用し、
ケミカルリサイ
クルの省エネ
・CO2排出量削減を実現 せよ!(注記)1 対 象物質のマイクロ波の吸収能力を示
す数値
(注記)2 マイクロ波による独自のプラスチック分
解技術プラットフォーム
マイクロ波を利用し、
廃棄プラスチック
(ポリスチレン)
から得た分解オイル(写真左)
。分解オイルからスチレンモノマー
(中央)
を回収、
精製・再重
合することで再生ポリスチレン
(右)
を生成。
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Focus NEDO 2024 No.92
Focus NEDO 2024 No.92
社会実装する上で酵素機能の改良は必須でしたが、従来の方法では多くの時間とコストがかかるという課題
がありました。それらを解決するために、
AIを活用した
酵素機能改良プラットフォームの開発を目指し、NEDOの支援事業に応募しました。
近年、
産業用酵素のエンドユーザーにおけるニーズが
細分化されてきています。そこで、
弊社のコア技術であ
るバイオインフォマティクスの酵素開発プラットフォー
ムを用いて、
さまざまな解析を組み合わせた従来にない
酵素ライブラリを迅速に開発し、
提供します。
資金面はもちろん、
NEDO事業に採択されたことで
認知度と信用度が上がりました。また、
NEDO支援事業
を通じてBioJapanやInnovation Leaders Summit等
のイベントに参加でき、
そこでビジネスマッチングやヒ
アリングができたことも大きな収穫でした。
最終的な目標は、
酵素業界のゲームチェンジャーにな
ることです。そのために、
オープンデータを活用して、
より広い領域から酵素を探索し、
AIによって酵素を高機
能化することで、
目的に適した高機能な酵素を迅速に提
供していきます。
https://startips.nedo.go.jp/about/
中小・スタートアップ企業支援
スター
トアップ企業・中小企業向けの
支援・成果情報をご紹介しています。
ご活用ください。
AIによる能動的な酵素探索と
酵素改変のプラッ
トフォームで
バイオ生産プロセスを変革
スタートアップ支援のその先へ
経済の活性化には、
「新技術」
を競争力とした起業家の育成が重要です。
そこでNEDOは、
スター
トアップ企業をさまざまな角度で支援しており、
その中から、
未来に向かって成長を続ける注目のスター
トアップ企業を紹介します。
NEDO事業の採択の実績
バイオインフォマティ
クスによる酵素デザインプラッ
トフォーム
NEDOの支援事業を受けた背景は?
Q 現在、
進めている技術や製品は?Q支援はどのように役立ちましたか?
Q digzymeの"その先"は?
研究開発型スタートアップ支援事業/
シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援/
バイオプロセスのin silicoデザイン技術基盤開発
2022年 2月採択
カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
/産業用物質生産システム実証
/放線菌宿主によるカンナビノイ
ド化合物生産システム実証
2022年 7月採択
バイオインフォマティクスを基盤技術とし、
独自の酵
素事業を展開する株式会社digzyme
(ディグザイム)。NEDO支援事業での成果をもとに開発した、
酵素の機
能を予測することが可能な酵素機能改良プラット
フォーム
「digzyme Spotlight」
により、
短期間でニー
ズに合わせた酵素開発を実現します。Q東工大発のスタートアップとして
2019年に創業。共同研究の中で、
より
効率的なバイオプロセス技術の必要性を
痛感、
NEDOのスタートアップ支援事業
に応募して採択された。設立2年半のス
タートアップ企業にとって、
NEDOの支
援は資金だけでなく、
事業を進める上で
大きなサポートとなった。
日本語HP
https://www.digzyme.com/
英語HP
https://www.digzyme.com/en/
NEP開拓コース
上限300万円
12カ月
NEP躍進コース 500・カーブA
500万円未満
定額もしくは3/4
12カ月
NEP躍進コース 3000・カーブB
3000万円以内
定額もしくは3/4
12カ月
STSフェーズ
3億円もしくは5億円/件
2/3以下 2〜4年程度
PCAフェーズ
5億円もしくは10億円以内/件
2/3以下 2〜4年程度
DMPフェーズ
25億円以内/件
2/3以下または1/2以下
2〜4年程度
ステージ/時間事業規模
ディープテック分野での
人材発掘・起業家育成事業
(NEP)
VC等、
CVC、
事業会社
VC等、
CVC、
事業会社・金融機関・ディープテック分野の
若手人材発掘、
育成・技術シーズの実現可能性調査・ARの助言
ステージゲート審査
ステージゲート審査
開拓コース
ARによる伴走支援
(ビジネスモデル構築)
躍進コース
専門家による伴走支援
(ビジネスモデルの
ブラッシュアップ)
STSフェーズ
実用化研究開発
(前期)
Seed-stage
Technology-based
Startups
スタートアップ支援
人材育成プログラムSSA研究開発型
スタートアップの
専門支援人材育成
NEDO Technology
Startup
Supporters
Academy
大学発スタートアップにおける
経営人材確保支援事業MPM大学発スタートアップの
経営人材確保を支援
Management
Personnel
Matching program・初期市場獲得に向けた
課題の解決・主要市場獲得に
向けた課題の解決・量産体制構築のための実証
実用化研究開発
(後期)
PCAフェーズ
Product
Commercialization
Alliance
DMPフェーズ
量産化実証
Demonstration
development forMassProduction
連携
出資・ハンズオン支援
出資等 事業提携、
出資・融資等NEDOEntrepreneurs
Program
ディープテック・スタートアップ
支援事業
(DTSU)DeepTech
StartUps support program
助言
NEDOのスタートアップ支援事業
digzyme MoonlightTM
in silico 酵素探索
digzyme SpotlightTM
AIによる酵素改良・ディープテック分野の起業家育成・専門カタライザーの助言・カーブアウトスタートアップへの支援
Accompany Runner(AR)/カタライザーVC・
元起業家など、
ビジネスプラン作成のアドバイザー
代表取締役CEO
渡来 直生 さん
株式会社digzyme
File.30
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Focus NEDO 2024 No.92
Focus NEDO 2024 No.92

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