基本計画01Phase
CO2 地中貯留技術事例集i第 1 章 基本計画
目次
第 1 章 基本計画 ....................................................................................................... 1
1.1 まえがき ......................................................................................................... 1
1.2 基本計画の目的 ............................................................................................... 3
1.3 基本計画の内容 ............................................................................................... 4
1.3.1 CO2 地中貯留事業の概観...............................................................................4
1.3.2 事業実施スキーム(実施体制) ....................................................................7
1.3.3 事業実施計画 ................................................................................................8
(1) スケジュールの大枠........................................................................................8
(2) 各フェーズに対する基本計画..........................................................................9
1.3.4 関連法規 ................................................................................................... 15
(1) 関連法規の現状........................................................................................... 15
(2) 許認可のタイミング.................................................................................... 17
(3) 長期法的責任 .............................................................................................. 18
1.3.5 排出源 ....................................................................................................... 19
(1) 排出源の位置と CO2 輸送の考え方.............................................................. 19
(2) 貯留ガスの組成........................................................................................... 19
(3) 想定総圧入量と圧入レート ......................................................................... 20
1.3.6 経済性 ....................................................................................................... 20
(1) CCS 事業の経済性検討 ................................................................................ 20
(2) CCS 事業コスト .......................................................................................... 21
(3) 財務的責任、資金調達、税控除 .................................................................. 24
(4) 海外 CCS 事業での実例 .............................................................................. 25
1.3.7 CCS 事業の不確実性 ................................................................................. 28
(1) 地質的不確実性........................................................................................... 29
(2) PO/PA 要因の不確実性 ................................................................................ 30
(3) 予算面での対応........................................................................................... 30
1.3.8 リスク管理 ................................................................................................ 30
(1) CCS 事業全体のリスク管理 ......................................................................... 30
(2) CO2 漏洩/漏出および誘発地震のリスク..................................................... 32
1.3.9 PO/PA に対する考え方 ............................................................................. 34
(1) 利害関係者(Stakeholder)の特定.......................................................... 35ii(2) 各フェーズでの PO/PA 活動(基本計画) .................................................. 35
(3) オランダ Barendrecht プロジェクトの失敗からの教訓 ............................. 37
1.4 まとめ..........................................................................................................381第 1 章 基本計画
1.1 まえがき
二酸化炭素回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)は、ノルウェー
の天然ガス随伴 CO2 の海域地中貯留プロジェクトをはじめ、カナダや米国の陸域大規模
CO2 地中貯留プロジェクトにおいて着実に成果をあげており、地球温暖化対策の有効な技
術として評価されている。我が国においても、長岡における計 1 万トンの CO2 圧入実証試
験に引き続き苫小牧沖で計 30 万トンの大規模実証試験が終了したところである。図 1.1-1
は陸域・海域において行われている CO2 地中貯留事業の概念図を示している。
図 1.1-1 CO2 地中貯留の概念図
本技術事例集は、CO2 地中貯留に関する国内外の事例を紹介し、我が国における将来の
CCS 事業者のための参考マニュアルとなるようにまとめられている。
CO2 地中貯留事業(分
離回収を除く)は、以下の 8 つのフェーズに分けることができる。
・ 基本計画 --------------------CO2 地中貯留事業基本計画の策定
・ サイト選定 -----------------貯留候補サイト(複数)の抽出
・ サイト決定 -----------------候補サイトの特性評価、最適サイトの選定、概念設計
・ 実施計画 --------------------実施計画の策定、基本設計、経済性評価
・ 設計、建設 -----------------事業設備等の詳細設計・建設、管理計画の策定
・ 操業、管理 -----------------圧入の操業、管理、監視計画の実施
・ サイト閉鎖 -----------------圧入井の封鎖
・ 閉鎖後管理 -----------------事業の責任移譲までのサイト管理
深部塩水層2本技術事例集は、
上記の各フェーズに対応した章立てとなっており、
第1章
「基本計画」
は、事業の全体像が把握できるように構成されている(図 1.1-2)。図 1.1-2 CCS 技術事例集の構成図
本事例集を作成するにあたり、2000 年度から 2007 年度に亘って実施された「二酸化炭
素地中貯留技術開発」における長岡サイトでの CO2 圧入実証試験の研究成果、2009 年に
経済産業省「二酸化炭素回収・貯留(CCS)研究会」がまとめた「CCS 実証事業の安全な
実施にあたって」に含まれる安全面・環境面から遵守することが望ましい基準、2012 年度
から開始された経済産業省/NEDO(2018〜)による「二酸化炭素削減技術実証試験事業
/苫小牧における CCS 大規模実証試験事業」の主な成果を参照した。また、海外機関が
大規模 CO2 地中貯留事業の知見を基にまとめた下記のマニュアルやガイドラインも参考
とした。
・ ISO27914: 2017 (EN), Carbon dioxide Capture, Transportation and
Geological Storage - Geological Storage
・米国 NETL(National Energy Technology Laboratory)
:CCS ベストプラクテ
ィスマニュアル(Best Practice Manual)
・WRI(World Resources Institute)
:CCS 事業に関するガイドライン
・DNV(Det Norske Veritas)
:CCS 事業の実施に関する推奨指針31.2 基本計画の目的
基本計画の目的は、事業開始段階において事業実施者が事業の全体像を示し、ステーク
ホルダー(利害関係者)から事業への理解を得ることである。基本計画では、当該 CO2 地
中貯留事業の概要を明示した上で、基本計画以降の各フェーズでの実施内容やスケジュー
ルに関する基本的考え方を述べる。
CCS 事業は次のような要素から構成される。
・対象排出源において CO2 を回収する。
・回収した CO2 を貯留サイトまで輸送する(以下が地中貯留事業)
・サイトにおいて地下深部に CO2 を圧入する。圧入した CO2 の挙動をモニタリ
ングし、浅部への漏洩・漏出 1を監視する。CO2 挙動予測との整合性を確認す
る。
・CO2 圧入終了後に坑井を封鎖し、サイト閉鎖後管理に不要な施設を撤去する。
・圧入後のモニタリングを継続し、安全性が確認されたと規制当局が判断された
ら、すべての責任を公的組織などに移譲する。
CO2 地中貯留事業推進に不可欠な基本的要素を以下に示す(NETL, 2017)。・選定された貯留サイトが地中貯留にとって満足できる地質条件であり、事業者
がそこで地中貯留を実施できる技術的能力を有すること
・CO2 地中貯留を実施するための資金が確保されていること
・同事業に対して地域住民を含む利害関係者の賛同・支持が得られること
これらの要素を事業当初に明らかにし、円滑な事業進捗を可能にするための指針が基本
計画である。地中貯留事業のライフサイクルが数十年以上に達することから、長期的視点
に立って事業を遂行しなければならず、基本計画立案においてもその点に留意する必要が
ある。
1 本事例集では、漏洩・漏出を以下のように定義する。
漏洩:CO2 貯留システム(貯留層と遮蔽層のセットから成り、CO2 を貯留できるトラップを形成している地質系)から
システム外へ CO2 が漏れ出すこと。
漏出:CO2 が地下から地表面、あるいは海底面を通って大気中、もしくは海中に漏れ出すこと。41.3 基本計画の内容
基本計画で検討・立案・確立されるべき内容は、技術的/経済的/法的あるいは社会的
側面と多岐にわたるが、以下のように要約できる。
・CO2 地中貯留事業全体像の提示:
CO2 排出源の位置/貯留サイトの概略/目標とする貯留総量・圧入レート
圧入施設、CO2 輸送方法、輸送ルートなどに関する机上検討
・事業スケジュールの策定
・サイト選定から最終投資決定に至る各段階での技術的評価方針・基準の確立
・基本的経済検討および人的・資材的・資金的評価
・CO2 地中貯留事業に関する法的規制・義務、許認可手続きの把握
・事業の不確実性およびリスクの確認
・利害関係者の確認と環境・社会面での課題の把握(PO/PA*活動)
*PO=Public Outreach/社会的理解増進、PA=Public Acceptance/社会的受容
1.3.1 CO2 地中貯留事業の概観
図 1.3.1-1 は CO2 地中貯留事業の流れを示しており、以下では各段階の主な事業内容を
概説する。
図 1.3.1-1 CO2 地中貯留事業の流れ
1基本計画の策定
事業の全体像/基本的な考え方(経済性検討含む)
、各フェーズでの作業方針・内容、
スケジュール等を示す。PO 活動は早期に開始すべきである。
2サイト選定(スクリーニング)
基本計画に示された全体計画に基づき、地質的要素を主としその他の要素も参考にしつ
つ、
基本的には既存地質資料を使用して CO2 貯留サイトとしての要件を満たした候補サ
イト(複数)を選定する。
3サイト決定(サイト特性評価)
候補サイトに対して、必要に応じ地質データの新規取得を行って、CO2 貯留サイトとし
ての要件に関して詳細評価を実施する。地質モデルを構築し、CO2 圧入シミュレーショ5ンにより貯留可能量評価、地質的観点からのリスク評価、圧入仕様検討を実施する。輸
送・圧入施設の概念設計を行い、
経済性に関する概算評価も実施する。
その結果として、
圧入サイトが最終決定される。また、この段階で利害関係者が特定され、新規地質デー
タ取得も含めて、PO/PA 活動が確実に必要となる。
4実施計画の策定
具体的な事業実施計画や操業開始に向け PO/PA 活動を立案する。
特性評価フェーズにお
ける評価結果を踏まえ、CO2 圧入作業やそれに伴うモニタリングなどの作業計画を策定
し、また、輸送・圧入施設の基本設計(FEED:Front-End Engineering Design)も行
う。これらをベースにしたコスト/経済性検討、リスク評価等を総合的に判断し最終投
資判断(FID:Final Investment Decision)を行い、規制当局に事業申請のための実施
計画書を提出する。
5設計・建設
規制当局からの事業認可後、それまでの概念設計・基本設計をもとに圧入・輸送設備等
の詳細設計、さらに建設、試運転を行う。また操業開始に備えた圧入前のモニタリング
(初期状態)を開始する。
6操業・管理
事業者は実施計画に従い圧入操業を行う。
地下に圧入された CO2 の分布状況や貯留層の
圧力変化をモニタリングし、CO2 挙動予測との乖離がある場合は地質モデルを改良し、
CO2 長期挙動予測の高精度化を図る。また、CO2 漏洩・漏出の検知を目的としたモニタ
リングも行う。
7サイト閉鎖 2
CO2 圧入完了後、圧入井を廃坑し、閉鎖後モニタリングに必要な施設を除き、圧入施設
および輸送に関わる設備を撤去する。敷地は原状復帰の後、土地所有者に返還される。
8閉鎖後管理
サイト閉鎖後も、CO2 挙動の確認および漏洩・漏出の監視を目的としたモニタリングを
継続する。その継続期間は法規制によって異なるが、一定期間のモニタリング後、安全
性が確保されると規制当局が判断されたら、サイトの管理責任は公的組織に移譲される
ことになる。
2 アメリカ、カナダでは圧入終了後管理(本事例集では閉鎖後管理)期間が終了した時点を<Site Closure>と定義して
いる。6上記 8 つのフェーズは、個々に独立したものではなく、互いに密接に関係し、前後のフ
ェーズは期間的にオーバーラップする(図 1.3.1-2)。図 1.3.1-2 各フェーズのオーバーラップの概念
図 1.3.1-3 は CO2 地中貯留事業の推進フローを示している。実施計画策定終了時、最終
投資決定(FID)が下され、事業者は規制当局に事業実施許認可申請書を提出する。FID
において投資決定が不可となった場合は、事業が中止することになる。また、特性評価に
おいて、新規データ取得のために弾性波探査あるいは調査井掘削が必要な場合、その調査
費用が大きく膨らむことになるが、我が国においては経済産業省が実施してきた適地調査
事業の成果活用も考えられる。
基本計画
サイト選定
サイト特性評価
実施計画
設計・建設
圧入・操業
サイト閉鎖
モニタリング
閉鎖後管理7図 1.3.1-3 事業推進のフロー
1.3.2 事業実施スキーム(実施体制)
CO2 地中貯留事業は、事業構想から事業責任が終結するまで期間が長い。また、多くの
分野に関わるため、事業の円滑な遂行のためには、表 1.3.2-1 に示すような専門性を有す
る人材の確保、チーム編成とそれらの連携が必要である。特に石油開発で培ってきた技術
や知見が応用されるため、関連分野である地球科学や資源工学等の専門性が高い人材が求
められる。8表 1.3.2-1 CO2 地中貯留事業推進チームの構成例
分野/チーム 主な役割
プロジェクト管理
各フェーズでの計画取りまとめ、事業全体の統括、経済性管理、CO2 地
中貯留事業に関する記録保管、許認可申請関係対応
地質、貯留層評価
サイト選定、サイト特性評価等における検討・評価、CO2 圧入・モニタ
リング計画立案と実施、ヒストリーマッチング実施
坑井建設・管理
地下情報に基づき、貯留層&遮蔽層の特定、坑井配置、坑井掘削計画、
坑井閉鎖計画および実施
CO2 輸送、建設、管理 CO2 輸送の関する検討、輸送計画立案、設計・建設と輸送実施
施設建設・圧入管理
CO2 貯留施設(圧入設備、一時貯蔵設備、監視設備)の設計、建設、保守
などの計画立案、圧入管理の実施
周辺環境影響監視
CO2 輸送設備および圧入サイトを含む周辺地域における CO2 漏洩/漏出
の監視計画立案および監視の実施
広報、PO/PA 利害関係者への情報提供および貯留事業実施の合意形成
経理・発受注管理 コスト管理、CO2 受払管理、経理管理、各種設備管理
1.3.3 事業実施計画
CO2 地中貯留事業の全体像(CO2 排出源、貯留サイト、輸送方法、貯留総量、圧入
レート等)を示し、以下の各段階の実施方針・計画の概要をまとめる。排出源との位
置関係などの制約条件がある場合はあらかじめ示しておく。
(1) スケジュールの大枠
基本計画段階では、詳細なスケジュールを作成することが困難であり、以下のように各
フェーズのおおよその期間を設定することになる。
サイト選定-------------------------------------- 1〜2 年
サイト特性評価-------------------------------- 2〜5 年
実施計画 ---------------------------------------- 2〜3 年
設計・建設-------------------------------------- 1〜3 年
操業・管理-------------------------------------- 10〜30 年
サイト閉鎖・閉鎖後管理 -------------------- 10〜50 年
計画の進捗は、サイトの特性や CO2 輸送方法等に関わる事業の難易度や、許認可に係る
期間、あるいは圧入開始に対する時間的制約などによって大きく変わりうる。9(2) 各フェーズに対する基本計画
1 事業実施の最終決定までの工程
事業前半で最も重要な意思決定である最終投資判断(FID)までの工程を図 1.3.3-1 に示
す。
図 1.3.3-1 事業実施最終決定までの工程
a) サイト選定(第 2 章)
既存地質資料を利用した地質的検討が主体であり、CO2 貯留サイトとしての要件を満た
す候補を選定する。対象地域により既存資料の量や質に振れ幅はあるものの、想定される
CO2 貯留量・圧入レートに対する貯留能力と漏洩/漏出に対する安全性の確保が重要ポイン
トであり、地質的不確実性に伴うリスクを勘案し、複数の候補サイトの選定が望ましい。
以下の技術的要件がサイト選定基本方針となる。
・必要とされる貯留量を受け入れることができる貯留可能量
・必要とされるレートで圧入できる圧入性能
・長期的な安全性
ここでの長期的安全性とは、地表や海底に CO2 が漏れ出さないこと、浅部地下水を含む
利用可能な地下資源に影響を及ぼさないこと、圧入により地層の安定性に影響を与えない10ことである。
また、上記の要件を満たすには、次のような貯留システム 3が必要である。
・十分なポテンシャルを有する貯留層の存在(貯留量だけでなく、地層の安定性
維持のため、過度の圧力上昇を伴わない安定操業を確保できる)
・貯留層上位において貯留層外への CO2 の移動を防ぐ遮蔽層の存在
・CO2 の長期地下滞留を可能にするトラップの形成
事業規模(圧入想定量等)や地質状況の多様性を勘案して、必ずしも一般的なサ
イト選定基準を設定することはできないが、
貯留層や遮蔽層、
断層や既存坑井、CO2排出源と貯留サイトの距離、陸域か海域かが主な検討項目となる。油ガス田開発の
観点から、貯留層と遮蔽層に関しては、表 1.3.3-1 の選定基準が参考となる。
表 1.3.3-1 選定基準の例(国内を想定/数字は目安として)
貯留層 遮蔽層 主要データ
岩相 砂 岩 ・ 礫 岩 / 凝 灰 岩 等
(粗粒砕屑岩)
泥岩 模式層序表、広域岩相分布図
坑井データ
弾性波探査記録(震探相)
厚さ 数十 m 以上 数十m以上 地 質 断 面 図 / 弾 性 波 探 査 記 録
広域等層厚線図、坑井データ
広がり 数十 km2 方以上
(貯留量による)
数十 km2 以上
(貯留層の範囲以上)
地 質 断 面 図 / 弾 性 波 探 査 記 録
広域等層厚線図
物性 孔隙率 20%以上
浸透率数 10md 以上
低浸透率(μD 以下) コア分析結果、坑井データ
サイト周辺における大規模な断層が存在する場合、
CO2 圧入シミュレーションを実施し、
CO2 分布範囲や圧力増加域を予め把握したうえで、CO2 漏洩・漏出や誘発地震のリスクを
評価しなければならない。また、既存坑井については貯留層からの CO2 漏洩/漏出の潜在
的リスクがあり、そのような坑井の履歴を調査しておく必要がある。
一般的に CO2 排出源と貯留サイトは近接している方が好ましい。
CO2 輸送方法や資機材
アクセスの難易度など事業経済性に密接に関連し、海域の場合は水深や離岸距離もサイト
選定要素となる。貯留サイトが陸域あるいは海域かにより、CO2 地中貯留に係る技術的、
ロジスティック的、
規制的、
経済的相違が顕著である。
海域貯留には幾つかの長所がある。
・一般に大陸棚での貯留可能量は大きい。
・陸域のような土地所有権に係る煩雑さがなく地域住民の理解も得やすい。
・飲料水や淡水利用に関するリスクが小さい
・船舶を利用すれば遠距離輸送が可能となる。
・弾性波探査においては、データ取得が比較的容易であり品質も高い。
3 CO2 地中貯留は、基本的には、貯留層、遮蔽層、トラップの 3 要素がシステムとして機能することが不可欠であ
ることから貯留システムと称する。トラップとは、油ガス鉱床成立のために必要な形態であり、典型的な構造トラ
ップとして、貯留層・遮蔽層と背斜構造の組み合わせによる背斜トラップがある。11一方、陸域に比べて下記の課題もある。
・沿岸域では漁業活動や漁協関係者との調整が必要である。
・海洋環境保護に細心の注意が必要である。
・施設建設(坑井掘削等含む)コストが高い。
・天候や海象によって圧入操業が影響を受ける場合がある。
b) サイト特性評価(第 3 章)
候補サイトに対して、必要に応じ弾性波探査や調査井掘削による地質データの新規取得
を行い、CO2 貯留サイトの適性を評価する。詳細な地質/貯留層モデルを構築し、シミュ
レーションにより圧入された CO2 の挙動を予測することにより、CO2 プルーム 4の拡がり
/貯留層内の圧力上昇・上昇範囲/貯留可能量等の推定を行う。これらの特性評価の結果
は、実施計画策定や事業実施に係る許認可申請にも必要となる。
このフェーズでは圧入・輸送設備等の概念設計も含まれ、概算的なコスト積算も行われ
る。CO2 パイプライン敷設は建設ルート上の地形などにも制約されるのに対し、船舶輸送
への変更は圧入施設全体に大きく影響するほか、コスト積算の変動も大きい。このため、
基本計画フェーズにおいて CO2 輸送方法や圧入施設立地に関する基本的設計を検討して
おく必要がある。さらに、PO/PA や環境保護、法的側面での課題も評価すべきであり、特
に、貯留サイトが決定される特性評価フェーズは、本格的な PO/PA 活動が開始される。ま
た、CO2 輸送ルートや貯留サイト周辺において、地元の利害関係者との良好な関係を構築
することがその後の事業実施にとって不可欠である。
c) 実施計画(第 4 章)
サイト特性評価結果を基に、事業実施に向けて具体的な実施計画を立案する。最新の地
質モデルを用いた CO2 圧入シミュレーション結果に基づいて、圧入レートや総圧入量、圧
入坑井数、圧入圧力など圧入操業に係る計画を行う。実施計画には、モニタリングやヒス
トリーマッチングのほかに、圧入終了後のサイト閉鎖や閉鎖後モニタリングの方針、さら
に操業中、操業後の PO/PA も含まれる。実施計画フェーズは、貯留関連施設の基本設計も
行 う 。 こ れ は 次 フ ェ ー ズ で の 詳 細 設 計 の 前 段 階 と な る も の で 、 FEED ( Front-End
Engineering Design)に対応する。
事業者は、
基本設計を基にした経済性検討とともに、
CO2 圧入・貯留に係るリスク評価、
利害関係者の確認/環境、法律(規制、許認可)および社会面での課題の検討も含め、当
該事業を総合的に判断し、事業を行うべきか否かの最終決断(FID)をすることになる。
事業実施を決断すれば、事業許認可申請のため、規制当局に実施計画書を提出することに
なる。
4 plume 圧入した CO2 が地中で拡がっている 3 次元的領域122 事業実施最終決定以降の工程(図 1.3.3-2)
図 1.3.3-2 事業実施最終決定以降の工程
a) 設計・建設(第 5 章)
事業許認可後、前フェーズまでの基本設計を参考に CO2 輸送施設及び圧入施設、CO2
モニタリング関係施設の詳細設計、建設を行う(図 1.3.3-3)。13
図 1.3.3-3 各フェーズと設計の対応
詳細設計では、一般的な工事と同様に現地工事を行うための全ての仕様や図面を確定す
る。パイプライン敷設ルートや設備緊急停止時の CO2 放散施設など PO/PA に重要な情報
も含まれる。詳細設計はそれ単独で行われることは少なく、国際的な通例では、事業者は
設備の詳細設計・調達・建設工事一式を一括して EPC 契約
(Engineering、
Procurement、
Construction)で発注することが多い。工事全体を 1 社に発注するケース、工事エリアを
分割して発注するケースなど、事業者のポリシーにより様々な形態がある。
建設フェーズに移行し、土木工事等の現地建設が開始されると、現地工事を円滑に実施
するために今まで以上に利害関係者と綿密な連携を取る必要がある。カナダの Quest プロ
ジェクトのように、政府や自治体との資金調達契約によりプロジェクト進捗状況の公開を
義務付けられているケースもある。建設作業の最後には、コミッショニング(性能検証)
という一連の検収作業が行われ、設計仕様通りの圧力・温度・レート・組成の CO2 が安全
に圧入井まで到達できていることを確認する。
b) 操業・管理(第 6 章)
実施計画に沿って CO2 圧入操業が開始される。一般的に CO2 は圧入サイトに設置され
たポンプによって、圧入井を通じて地下深部の貯留層に圧入される。圧入レートをはじめ
とする圧入に係る記録、モニタリングや保安関係の記録など、規制当局による指示につい
ても基本計画策定時に把握しておく必要がある。
モニタリングの目的は大きく分けて二つある。
一つは圧入された CO2 の挙動を弾性波探
査あるいは貯留層の圧力変化により確認することにある。つぎに、モニタリング結果を基
に CO2 挙動シミュレーション結果とのヒストリーマッチングを実施し、
必要に応じて特性
評価フェーズで構築された地質モデルを修正し、
CO2 長期挙動予測を改訂する。
これは CO2
地中貯留の安全性確認に係る根幹的な作業であり、利害関係者との信頼関係の醸成や規制
局への報告といった法的義務の観点からも重要である。
さらに精度の高い長期挙動予測は、
圧入終了後のモニタリングやサイト閉鎖後の責任移譲も含めた管理計画、最終的に事業全14体の経済性にも関わってくる。
もう一つは遮蔽層や坑井の欠陥による CO2 漏洩や漏出の監
視である。
また、モニタリングによる異常検知、想定外の貯留層圧力上昇あるいは地震など自然災
害発生等、異常・緊急時への対応策(incident response protocol)と緊急時対応計画
(contingency plan)についても基本計画で示しておく必要がある。なお、誘発地震への
懸念については、サイト選定基準(断層)にあるように、地震の主因となりうる断層を避
けることが大前提であり、その上で微小地震観測等によって断層の安定性を監視する。
c) サイト閉鎖(第 7 章)
当初の計画に従い CO2 圧入完了後、圧入サイトの施設を撤去する。基本的には、圧入井
は封鎖され、閉鎖後モニタリングに必要な施設を除き大部分の関連施設は撤去され、敷地
は原状復帰後土地所有者に返還される。サイト閉鎖に際して、事業者が閉鎖後管理のため
の財務的義務を負う法規もあり、基本計画の段階で把握しておく必要がある。
d) サイト閉鎖後管理(第 8 章)
サイト閉鎖後も、圧入操業期間と同様のモニタリングと異常時の対応策を継続すること
になるが、圧入終了に伴う不確実性とリスクの低下(後述、図 1.3.7-2)に応じ、コスト削
減の観点からもモニタリングについて頻度を減らす等の工夫が必要となる。一方、モニタ
リング結果に基づくヒストリーマッチングと CO2 の長期挙動予測の改訂は継続し、
長期安
全性を検証していくことが肝要となる。サイト閉鎖後管理の継続期間は、国によって異な
り 20 年あるいは 50 年とされている例もあるが、その後の安全性が確保されると判断され
れば、国などの公的組織に責任移譲されることになる(図 1.3.3-4)。15
図 1.3.3-4 CO2 地中貯留事業におけるサイト閉鎖後の一般的フロー
今後、サイト閉鎖後管理に関する法規は我が国を含め、多くの国で整備されていくもの
と考えられる。閉鎖後の管理コストは、その期間が長いほど事業の経済性に及ぼす影響が
大きい。このため、基本計画では圧入終了後の事業者の管理義務、財務的義務、サイト管
理期間を把握しておくと同時に、当該規制当局への管理期間の短縮要請などコスト軽減の
ための行動方針を検討しておくことが望ましい。
1.3.4 関連法規
(1) 関連法規の現状
基本計画では、事業に関連する法規を調査し、網羅しなければならない。関連法規は、
事業実施と直接関係するものから、地質調査、施設建設に係るもの、環境面での規制など
幅広く、入念な調査が必要である。これらの法規に関連した許認可申請は、サイト特性評
価時、
実施計画策定後に実施計画書や環境アセス報告書など関連書類を添付して行われる。
道路、農地、公共施設近傍、港湾などでの調査・施設建設においても、土地や海域使用に
係る数多くの法律に基づく手続きが必要である。これらの関連法規への対応は、事業終了
までの長い期間を通じて要求される。このため、提出書類の作成を含めた法的手続きと許
認可取得の円滑な実施が可能なように、基本計画立案時に提出文書のフォームや時期を含
め十分な調査を行って整理しておくことが肝要である。
各国における CCS 事業に関わる法規ならびに解説書、CCS 事業の国際規格(ISO)を
表 1.3.4-1 示す。米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)は、安全飲
料水法(Safe Drinking Water Act)の下で飲用地下水源の汚染防止のために液体の圧入を16規制する UIC(Underground Injection Control)プログラム(地下圧入管理プログラム)
に CCS 事業のための坑井クラス(クラスVI)を 2010 年に追加した。また欧州連合(EU)
は、CCS 実施に際しての各 EU 加盟国の規制枠組みの元となる「CCS 指令(DIRECTIVE
2009/31/EC)
」を 2009 年に採択している。
一方、海洋汚染防止を目的として海洋投棄等を規制するロンドン条約という国際条約が
ある。96 年議定書で一部の物質の投棄が認められ、2006 年の改正で海底下地層への CO2
貯留が可能となり、2007 年に発効した。これを受け、我が国では環境省により、CO2 海底
下貯留のための法的整備として、
「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」
(以下、
海防法と略す)が改正され、事業申請手続きに関する指針も示されている。海防法ではサ
イト閉鎖後、責任移譲に関しては未整備である点に注意が必要である。
また、CCS 事業の ISO(国際標準)化の検討も進められてきた。地下深部塩水性帯水層へ
の CO2 貯留を対象とした国際規格 ISO 27914:2017 は、サイト閉鎖後の管理期間を除く地
中貯留のライフサイクルをカバーしている。下表には含まれていないが、CO2EOR(石油
増進回収)操業に伴う CO2 貯留を対象とする ISO 27916:2019 も検討されている。ここで
は、対象を石油の探鉱・開発要素を除いた CO2 貯留の部分に絞り、実際の操業(設備・施
設の設計・建設を含む)に関するフェーズに限って標準が記載されている。17表 1.3.4-1 CCS 事業の法規、国際標準化および解説書
国/地域
(管轄)
法規 解説書
米国
(EPA)
Underground Injection Control Program
Class VI well
(地下圧入管理プログラム クラスVI坑井)
・Area of Review Evaluation and Corrective
Action Guidance
・Financial Responsibility Requirements
and Guidance
・Plugging, Post-Injection Site Care, and
Site Closure Guidance
・Project Plan Development Guidance
・Site Characterization Guidance
・Testing and Monitoring Guidance
・Construction Guidance etc.EU(EC)
DIRECTIVE 2009/31/EC (CCS指令)
・GD(Guidance Document)1:CO2 Storage
Life Cycle Risk Management
Framework
・ GD2 : Characterisation of the Storage
Complex, CO2 Stream Composition,
Monitoring and Corrective Measures
・GD3:Criteria for Transfer of
Responsibility to the Competent
Authority
・GD4:Article 19 Financial Security and
Article 20 Financial Mechanism
日本
(環境省)
海洋汚
染等及
び海上
災害の
防止に
関する
法律及
び関連
法令
海洋汚染等及び海上災害の防止に関
する法律
特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の許可の
申請に係る指針(環境省, 2008)
特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の
許可等に関する省令 2007
特定二酸化炭素ガスに含まれる二酸
化炭素の濃度の測定の方法を定める
省令 2007
特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の
許可の申請に関し必要な事項を定め
る件(告示) 2007
国際 ISO ISO 27914:2017
CO2貯留事業のライフサイクルのすべてのフ
ェーズに関する安全かつ効果的な実行のため
の国際規格が発行済
(2) 許認可のタイミング
関連法規に対応して、各段階で様々な許認可・届出が必要となる(図 1.3.4-1)
。わが国
の場合、サイト特性評価での弾性波探査あるいは調査井掘削のため、地下については鉱業
法/鉱山保安法、地表について道路農地等使用、港湾使用に関わる法律に基づく許認可申
請・届出が必要となる。FID 後は、最も重要な、海防法に基づく環境省への事業申請を行
う。その後、パイプラインや圧入施設の建設、操業開始や終了に際しての安全性審査に係
る申請などが必要となる。閉鎖終了後に関しては、前述のように責任移譲そのものに関す
る規定がないため、今後の法改正等の動きに注意が必要である。18図 1.3.4-1 CO2 地中貯留事業の流れと重要な許認可のタイミング
(3) 長期法的責任
CO2 圧入終了後も事業の一環として貯留サイトの閉鎖後管理を継続しなければならない。
主に圧入された CO2 挙動モニタリングであるが、
米国や EU ではモニタリングデータを用
いたヒストリーマッチングの実施も義務付けられている。その期間やその後の責任移譲に
関しては、日本を含めて定められていない国もある(表 1.3.4-2)。基本計画では、管理期間、モニタリングを含めた義務作業に加えて、責任移譲に関わる
法的責任やその条件についても確認し、
事業者としての方針を明確にしておく必要がある。
また、圧入操業期間も含めて CO2 漏洩/漏出について、対策・補償の方針を検討しておく
必要がある。補償の原資としては、自己資金、保険、複数の事業者による基金の設立、政
府支援などが考えられる。19表 1.3.4-2 各国のサイト閉鎖後管理期間、責任移譲に関する規定
国、地域 政策、規制 規制当局 施行年度 閉鎖後管理の期間、責任移譲
米国
地 下 圧 入 管 理 プ
ログラム(UIC)
Class VI
環境保護局
(EPA)2010改正
圧入終了後原則 50 年、モニタリングな
どの管理。責任移譲に関する法規制は
ないEUEU CCS 指令 欧州委員会 2009
採択
メ ン バ ー 国 ご と で 定 め る 年 数 の 経 過
後、国へ責任移譲(原則最低 20 年)
豪州
海域石油・温室効
果 ガ ス 貯 留 法
(OPGGS)
資源・エネル
ギー・観光省
(DRET)2008改正
サイト閉鎖認証から最低 15 年で責任
移譲
日本
海 洋 汚 染 等 及 び
海 上 災 害 の 防 止
に関する法律(海洋汚染防止法)
環境省 2007
改正
閉鎖後管理期間、責任移譲の規定はない1.3.5 排出源
(1) 排出源の位置と CO2 輸送の考え方
CO2 輸送コストの観点から、排出源と貯留サイトは近いほど望ましく、排出源周辺の地
下に貯留できることが理想的である。実際は貯留サイトとしての地質的要件などにより、
排出源から離れた場所が選定されることが多い。長距離 CO2 輸送においては、海域あるい
は沿岸地域貯留の場合、パイプラインか船舶輸送に限定され、一般的には長距離ほど船舶
が有利となる
(1.3.6‐(4)コストの現状参照)。また、
内陸で貯留規模が大きくない場合は、
短距離パイプラインやタンクローリーによる CO2 輸送も考えられる。
(2) 貯留ガスの組成
CO2 ガスの組成に関して、NOx、SOx などが一定以上含まれると地中貯留が許可されな
いという法的制約が設けられている国も多い。基本計画においては、排出源における CO2
回収後のガス組成について確認しておく必要がある。日本の海防法では、圧入できる CO2
について、以下のように定められている。
・アミン法で回収された CO2
・CO2 濃度が 99 体積%以上
(石油の精製に使用する水素の製造のための場合には
体積 98 体積%以上)。・CO2 以外の油等が加えられていない。20(3) 想定総圧入量と圧入レート
圧入に関する想定値(圧入レート、圧入期間、圧入総量)は、基本計画含め事業の出発
点となる。基本計画ではこれらの想定値を基に、事業経済性の概略的検討も行う。
1.3.6 経済性
(1) CCS 事業の経済性検討
図 1.3.6-1 は CCS 事業モデル(ZEP,2014)を模式的に示しており、事業全体のライフ
サイクルおよび支出を伴う期間が長いことが分かる。また、圧入操業開始以降責任移譲ま
での期間中、異常・緊急時に対する追加コストも発生しうる。CCS 事業者は、数十年オー
ダーの長期的視野に立って、経済性評価と事業遂行判断をする必要がある。
CO2 貯留事業の経済性検討において、想定通りの圧入ができる大前提に立てば、振れ幅
が大きい部分は圧入設備(陸上/海上)と輸送(パイプライン/船舶)に関わるコストと
なる。基本計画段階において、確度の高い具体的な経済性検討は難しく、概算としての経
済性検討を行い、必要に応じ予算上のシーリング(例えば海上設備不可、あるいはパイプ
ラインによる輸送距離の制限等)を明らかにしておくことが望ましい。最終的には、実施
計画フェーズにおいて、コストなどの最新データが揃った段階で評価されることになる。
図1.3.6-1 CCS事業における支出の期間(ZEP,2014を一部改)21(2) CCS 事業コスト
CCS 事業に係るコストは、排出源での CO2 回収、圧入サイトまでの CO2 輸送、圧入サ
イトでの地中貯留について、初期設備投資、操業、事業終了後の設備撤去に係るコストに
大別できる。地中貯留に関しては、初期設備投資として調査/評価に係るコスト、設備撤
去後のサイト管理コストなどが加わる。基本計画においては、各フェーズでのコストの大
枠を示し、さらに増加要因を明らかにしておく必要があろう。例えば、CO2 輸送と地中貯
留に係るコストとしては以下のような項目がある。
CO2 輸送のコスト(パイプライン輸送ケース)
・ルート選定
・概念設計、基本設計、詳細設計
・PO/PA関係
・パイプなど資機材購入
・建設
・操業
・閉鎖
・許認可申請に係る手続き
貯留のコスト
・地質調査(弾性波探査、調査井掘削、各種ラボ試験、地質評価など)
・圧入設備に関わる概念設計、基本設計、詳細設計
・初期投資(圧入井の掘削、圧入・モニタリング施設建設など)
・PO/PA関係
・圧入前のベースラインモニタリング
・操業(モニタリングを含む)
・サイト閉鎖
・サイト閉鎖後モニタリング
・サイト責任移譲に係る財務的義務(移譲後のモニタリング費用等)
・リスクや責任負担のための支出、保険
・許認可申請に係る手続き
以上のコストのうち、輸送ではパイプラインか船舶によって大きく変わる。貯留におい
ては、サイト評価で弾性波探査や調査井が必要になるとそのコストは加算される。また貯
留層能力/1 本の坑井あたりの圧入能力は圧入井の総数に反映され、設備を海域に設置し
た場合は、設備および操業費用は陸上に比べて高くなる。以下では、コストの現状につい
て述べる。22 CO2 回収コスト
分離・回収に係るコストは、排出源が特定されれば、その時点での技術レベルに応じた
コスト試算ができる。IPCC(2005)は、化学吸収法での CO2 回収コストに関する研究事
例(2000〜2005 年)を以下のように収集整理している。
新設石炭火力発電向け: US29ドル〜51/t-CO2
既設石炭火力発電向け: US45ドル〜73/t-CO2
新設天然ガス火力発電向け: US37ドル〜74/t-CO2
RITE(2005)は、国内想定の CO2 回収コスト*
を以下のように算定している。
新設石炭火力発電向け: 4,256円/t-CO2
既設石炭火力発電向け: 7,752円/t-CO2
*ここでの「CO2回収コスト」は、設備と操業のコストを含み、分離・回収設備自身が
エネルギー消費のため放出するCO2分を除く正味のコストを意味する
(CO2 Avoided Cost)。 輸送コスト
輸送コストは、距離や輸送手段によって大きく変わるため、基本計画時では、コストを
決定づけるそれぞれの変動要因とコスト変動の許容限度などを示すことになる。変動要因
のひとつである CO2 タンカーについては、
大型船舶の実績はないが技術検討は進んでいる。
Element Energy Limited(2018)による英国北海での貯留を想定した海底パイプライン
と船舶輸送の比較では、
年間 50 万トンの CO2 を 200km 離れた圧入サイトまで輸送する場
合、または年間 500 万トンの CO2 を 500km 以上輸送する場合、いずれも船舶輸送が優位
となる。
貯留コスト
貯留コストは立地条件や地下地質状況により大きく変わるが、既往油ガス開発・生産の
インフラが転用できればコスト軽減につながる。基本計画では、対象サイトの地質状況を
勘案し、経済情勢による時間変動ファクター(資機材価格、掘削コスト等)について、そ
の時点での基準(資機材価格、掘削コスト等)を基にコスト試算を行うことになる。同時
に、比較・参考のために、最新かつ当該 CCS 事業に適用可能なデータベースについて調
査することが望ましい。
RITE(2013)は、海域の深部塩水層の貯留候補3サイトについて、概念設計に基づき圧
入に係る費用(圧入に係る建設費、操業費、廃坑費、廃坑後モニタリングなどを含み、CO2
回収、輸送費用を含まない)の概算を行った。その結果、年間150万トン-CO2と計3,000
万トン-CO2の貯留に対し、全体費用はそれぞれ220億円と310億円になった。23ZEP(2011)は、既往インフラを活用できる枯渇油ガス田も含め6ケースに対して貯留
コストのレンジを示し(図1.3.6-2)
、平均ケースの内訳も示している(図1.3.6-3)。図 1.3.6-2 6 ケースの地中貯留コストのレンジ(ZEP,2011)
地中貯留のコストはサイトの場所・タイプ(陸/海、油ガス田、インフラ再利用)
あるいは貯留層性能(貯留容量、圧入レート)に大きく左右される。一般的に、陸域
/枯渇油ガス田(既存坑井利用)/大規模貯留では低コストになり、海域貯留は高コ
ストとなる。
図 1.3.6-3 平均的ケースにおけるコスト内訳 (ZEP,2011)24(3) 財務的責任、資金調達、税控除
財務的責任は事業ライフサイクル全体にわたり、圧入井封鎖を含むサイト閉鎖や閉鎖後
管理までのコストを賄うのに十分な財務的基盤が必要である。国や地域によっては、CO2
地中貯留事業遂行、責任移譲後のモニタリングなど、事業者に対し財務保証等を課してお
り、基本計画段階で現状を把握し、財務的基本方針を明確にしておく必要がある。
CCS事業のビジネスモデルはまだ確立されていない。政府からの公的補助金や資金提供、
将来的には低炭素型経済への移行促進を目的として設立されたグリーン投資銀行(Green
Investment Bank)・ファンド、世界銀行、アジア開発銀行などの国際金融機関からの資
金的支援が期待できる可能性がある。また、炭素税、排出量取引、クレジット取引などで
事業費の一部分をカバーするビジネスモデルの検討も行われている。基本計画では事業の
経済性評価を進めながら、
各方面からの経済的支援に関して積極的に調査する必要がある。
幾つかの国ではCCSに対する税控除の動きがある。アメリカではCCUS(CO2EOR)と
併せてのCCS事業推進の税控除実績がある。CO2地中貯留事業の事業資金は、他の事業と
同様、
事業者の株式発行などによる返済義務のない資金調達
(Equity Finance)、融資
(Debt
Finance)、補助金(Grant)によって賄われる。表1.3.6-1に示した現在稼働中のCCS事
業における資金調達の実例を図1.3.6-4に示す(Zapantis et al., 2019)。
表1.3.6-1 現在稼働中のCCS事業
Air Product SMR steam methane reformer (SMR)による H2,CO 製造に伴って排出
される CO2 を CO2 パイプライン・ネットワークで輸送、いくつか
の油田で CO2 増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)に利用
Illinois Industrial バイオエタノール製造に伴って排出される CO2 を工場敷地内の帯
水層に 100 万トン/年で圧入
Boundary Dam 火力発電所から排出される CO2 を 100 km のパイプラインで輸送、
EOR に利用し、一部を帯水層に圧入
Quest オイルサンドから抽出されたビチューメンの改質用水素製造過程
で排出される CO2 を 84 km のパイプラインで輸送、
帯水層に圧入
Petra Nova 石炭火力発電所から排出される CO2 を 130km のパイプラインで
輸送、EOR に利用25図1.3.6-4 表1.3.6-1に示したプロジェクトにおける
ファイナンス(Zapantis et al.,2019)
(4) 海外 CCS 事業での実例
1 QUEST プロジェクトの例
2015 年 9 月から CO2 圧入を開始したカナダの Quest CCS Project では、建設工事なら
びに年間操業費の実績が公表されている。本プロジェクトはアルバータ州のオイルサンド
からビチューメン(黒褐色で粘稠重質油)を回収、ビチューメンに水素を添加して合成原
油を製造する過程(upgrade)で発生する CO2 を地中貯留するプロジェクトであり、年間
100 万トンの CO2 を 25 年間圧入する予定である。CO2 排出源である合成原油製造工場か
ら 12 インチパイプラインで 65km 離れた貯留サイトまで CO2 を輸送、3 本の圧入井から
圧入する。
貯留層は深度 2,000m 以深のカンブリア系砂岩で、
複数枚の遮蔽層が発達する。
Shell Canada(2016)によると、本プロジェクトの建設コスト実績は表 1.3.6-2 のとおりで
ある。
表 1.3.6-2 Quest CCS の建設コスト実績(Shell Canada, 2016)
建設コスト Can$ 790.6 Million
(建設コスト内訳) CO2 回収施設 Can$ 465.4 Million
パイプライン Can$ 124.7 Million
貯留・坑井 Can$ 42.9 Million
事業者コスト(Owner’s Cost) Can$ 157.6 Million
Maas(2017)は、Quest の 2016 年実績として表 1.3.6-3 に示すトン-CO2 当たりのコスト
を公表している。26表 1.3.6-3 Quest CCS でのトン-CO2 当たり 2016 年コスト実績 (Maas, 2017)
回収コスト 単年度に割り振った CAPEX Can$ 41.20 million
OPEX 26.22
Total 67.42
輸送コスト 単年度に割り振った CAPEX Can$ 8.97 million
OPEX 0.35
Total 9.32
貯留コスト 単年度に割り振った CAPEX Can$ 7.42 million
OPEX 3.62
Total 11.04
Total CAPEX + OPEX Can$ 87.79 million
Annual CO2 Captured 1.11 million tonnes
Annual CO2 Avoided 0.95 million tonnes
Reported Cost/Tonne Captured 79.24 Can$/tonne 63 US$/tonne
Reported Cost/Tonne Avoided 92.70 Can$/tonne
74 US$/tonne
(0.8 US$/Can$)
これらの数値を回収、輸送、貯留に区分して CO2 avoided のトン-CO2 当たりのコスト
を示すと表 1.3.6-4 の通りである。
表 1.3.6-4 トン-CO2 当たりのコスト
1 トン当たりのコスト(Can$)
1 トン当たりのコスト
(US$換算)(0.8 US$/Can$)
回収 71.0 56.8
輸送 9.8 7.8
貯留 11.6 9.3
McFadden(2013)によれば、本プロジェクトの総コストは Can1ドル.35 Billion であり、
これには各種評価コストなどの最終投資決定(FID)以前のコスト、初期投資、10 年間の
操業費が含まれている。
一方、Shell Canada(2018)には、プロジェクトの収入として 2017 年までの実績と 2025
年までの見込み/予算が公開されており(表 1.3.6-5)
、両者併せた総収支 Can$ 1.38Bil
は前述の総コストとほぼ拮抗している。
表 1.3.6-5 Quest プロジェクトの総収支と今後の収支見込み(Shell Canada, 2018)Can$2015 年以前 連邦・州政府からの工事への補助 573.3 Million
2016 年 連邦・州政府からの補助 29.5 Million
CO2 削減クレジット 3.3 Million
2017 年 連邦・州政府からの補助 30.1 Million
CO2 削減クレジット 36.4 Million
2018 年から 2025 年まで
(予算) 連邦・州政府からの補助 238.4 Million
CO2 削減クレジット 465.6 Million27CO2 削減クレジットは、
2017 年度実績
(CO2 貯留量換算値 1,212,182 トン)
から Can30ドル/
トン-CO2、2018 年以降は Can60ドル/トン-CO2 と推察される。また政府による財政負担は
Can$ 865Million と さ れ 、 連 邦 政 府 が 最 終 投 資 決 定 ( FID ) 以 前 の コ ス ト と し て
Can$ 120Million、
アルバータ州政府が建設費、
10 年間の操業費として Can$ 745Million、
それぞれ負担する契約となっている。
2 Sleipner の例
ノルウェー領北海のSleipnerガス田では、1996年から産出する天然ガスに含まれる随伴
CO2を既存プラットフォーム上で回収し、産ガス層準より上位の深部塩水層に圧入、貯留
している。2014年末までの累計貯留量は1,500万トンである(Skalmeraas, 2014)
。このケ
ースでは、ガス田開発の過程で多くの地質的情報が得られており、また、産ガス関係の既
存施設が有効に利用され、やや特殊なケースではあるが、表1.3.6-6に示すCCSに係るコス
トが公表されている(表1.3.6-6)。表1.3.6-6 SleipnerにおけるCCSに係るコスト(Torp and Brown, 2005)
準備のための作業 US$
・サイト特性評価:地中貯留のための3D弾性波探査 0.4 Mill.
・コアリング、物理検層(ガス開発井で実施したと思われる) 1.4 Mill.
・貯留層シミュレーション 0.1 Mill.
コンプレッサー(4ユニット)購入、設置 79 Mill.
圧入井掘削・仕上げ 15 Mill.
操業費 (年間) 7 Mill.
3 Boundary Dam の実例
世界初の大規模火力発電-CCS プロジェクトであるカナダの Boundary Dam プロジェ
クトでの総コスト(発電所も含む)と資金調達は表 1.3.6-7 の通りである(Bassi et al.,
2015)。表 1.3.6-7 Boundary Dam プロジェクトでの総コストと資金調達
(Bassi et al., 2015)
総コスト € 1,028 Mill.
資金内訳 自己資金(SaskPower 社) € 258 Mill.
借入 € 601 Mill.
連邦政府からの補助金 € 168 Mill.281.3.7 CCS 事業の不確実性
CCS 事業はまだ歴史が浅く、
事業者あるいは社会としての経験が十分に蓄積されておら
ず、事業環境変化等の不確実性も大きい。Markusson et al. (2011) は CCS 事業における
技術的/非技術的な要素の不確実性を分析し、これらの要素が密接に関係・連動して事業
全体の不確実性を構成し、その将来を左右することを示している(図 1.3.7-1)
。事業者は
特に貯留層の安全性/事業の経済性/社会的受容性に留意しなければならないが、事業の
経済性や社会的受容性は国の政策的影響が大きい。法規制の不確実性は社会の CCS 事業
への不信につながり、逆に確固たる政策や法規制は CCS への支持につながる。また、経
済性・財務と国の政策の関係も同じく、政府による財政支援は CCS 事業の経済性に直結
し、逆に経済性に関する将来の不確実性は事業判断に影響を与えることになる。
図 1.3.7-1 CCS に係る不確実性の相互関係(Markusson et al.2011)
地質的要素に関して、十分な調査が行われても、貯留層の不均質性に起因する地質的不
確実性をなくすことはできない。ただし、この不確実性は、圧入開始後のモニタリング等
によって低下していくと考えられている(図1.3.7-2)。
貯留の
安全性
社会的受容
政策
法規制の
不確実性
事業形態の
多様性
経済性と
財務
システム
統合
リスクの認識
スピード・アップのため
のトップダウン
形態の固定化
対 多様化
事業計画に
対する同意
実践的学習
電気
料金
選択的敵対
確信が持てるための法
規制に対する社会的支持大規模化
と普及
スピード
ビジネスモデルと組織化
習得のコスト29図1.3.7-2 CO2貯留サイトでの時間経過に伴う不確実性の定性的変化
(Pawar et al., 2015を一部改)
事業者は操業活動を通じて、事業の不確実性を軽減する努力をしていくほか、地質的不
確実性への緊急時対応策(contingency plan)や社会的受容性(PO/PA)も検討する必要
がある。
(1) 地質的不確実性
ノルウェーの Snøhvit 海域貯留プロジェクトでは、想定外の貯留層圧力の上昇により、
圧入層を上位の枯渇ガス貯留層(depleted gas reservoir)へ変更した。Snøhvit ガス田は
2007 年に生産開始し、天然ガスに含まれる 3〜8% の CO2 は、ガス生産層より下位の砂層
(ジュラ系 Tubåen 層)に圧入されていた。当初の計画では 30 年間操業し、2,000 トン/
日、総量 2,300 万トンの CO2 圧入が予定されていた。本層では、砂岩性状は最良部で孔隙
率が 20%、浸透率が 12darcy に達する良好なものであるが、その堆積環境はデルタ成から
河川成まで大きく変化し、
岩相変化とともに貯留岩性状も水平的、
鉛直的に大きく変化し、
不均質性が強い。
CO2 圧入中は各種モニタリングを実施し、
改良モデルに基づくシミュレーションの結果、
Tubåen 層の貯留能力は、地層圧上昇 50bars で 800 万トン〜1,500 万トンと、十分な貯留
能力を有しないと判断された。その結果、2011 年 4 月に Tubåen 層への CO2 圧入を中止
し、上位の枯渇ガス層に変更し、現在も順調に圧入している(Pawar et al., 2015)。
本プロジェクトにおいて計画変更を余儀なくされた原因は、貯留層の岩相変化が激しく
十分な連続性がなく、貯留層の不均質性評価が難しく、地質モデルに十分に反映されなか
ったことが原因と考えられている(Hansen et al., 2013)。本件は地質的不確実性に備え
た代替の貯留層を選定する緊急時対応策の必要性を示唆する事例となった。30(2) PO/PA 要因の不確実性
オランダのBarendrechtプロジェクトは、国の支援を受けた石油会社による実証事業で
あった。環境影響評価手続きで国の承認を得ていたにもかかわらず、その後の地方自治体
と貯留サイト予定地域住民の強い反対に遭い中止された。事業のより早い段階で、十分な
PO/PA活動により避けられた事例とも言える。
(3) 予算面での対応
技術的不確実性やその他自然災害等による不測の事態に対応するために、予算面でも緊
急時対応策を確保しておくべきである。事業の実施には至らなかったが、石油大手のShell
がイギリスのLongannet – Goldeneye 海域CO2貯留プロジェクト(Longannet火力発電所
でCO2回収/Goldeneye枯渇海域ガス田に圧入)の経済性検討を実施し、初期投資額
US$ 1,775.5Millionに対し、緊急時対策費US$ 301.9 Million(初期投資額の15%相当)を
計上していた(Scottish Power CCS Consortium, 2011)。
1.3.8 リスク管理
(1) CCS 事業全体のリスク管理
1 目的
一般事業と同じく、事業実施に伴うリスクを特定・分析し、リスクに適切に対応するこ
とにより、事業推進の意思決定と事業遂行を支援し、特に安全衛生、保安、法規制遵守、
社会的受容性、環境保護の面での寄与が重要となる。基本計画において、各段階で必要に
応じたリスク管理計画の基本方針を立てておく必要がある。
2 プロセス
リスク管理の代表的プロセスを図 1.3.8-1 に示し、以下にその作業概要を述べる。
図 1.3.8-1 リスク管理のプロセス313 状況の把握
リスクは事業を取り巻く環境の変化と事業の進捗の双方から影響を受ける。ISO(2017)
は、リスク管理において把握すべき要素として以下のように推奨している。
・自然環境と災害
・地域の天然資源および活動
・基幹施設および設備
・社会的、政治的、経済的状況
・政策および法規制の状況
・効果的なリスク管理に関する成功事例
・プロジェクト実施者と協力会社、これらの機能、責任、説明責任の分担、およ
びこれら各々のリスク管理における相互関係
・プロジェクトのフェーズ、意思決定のタイミングおよびそれらの時間スケール
4 リスク管理計画の策定
事業実施者は、事業推進に適したリスク管理計画を策定し、実行していかなければなら
ない。
また、
リスク管理策定の際は、
法規制当局および利害関係者との協議が必要である。
5 リスクアセスメント
リスクアセスメントは、リスク対応の性能要件を決定するものであり、その厳密性はリ
スクシナリオにおいて利用できる情報や知識レベルに依存する。一般的にリスク管理のプ
ロセスが繰り返されるに従って、リスクアセスメントはより詳細になる。
a) リスク特定
リスク特定では、プロジェクト推進の妨害や遅延をもたらす諸々の事象を包括的に把握
することが必要となる。
b) リスク分析
リスク分析では、その起こりやすさや起こった際の影響を検討する。リスク分析の結果
は、リスク対応に関する意思決定を支援するものであり、自動的に対応策が決まるもので
はない。
c) リスク評価
リスク評価では、低減すべきリスクの優先順位を決定する。リスク評価の手法としては、
リスク分析で得たリスクの起こりやすさとその影響の大きさを 2 次元図上のリスクマップ
(図 1.3.8-2)となる。32図 1.3.8-2 リスクマップの概念図
6 リスク対応
リスク対応では対策実施後、期待されるリスクの変化が意思決定に際して目指した状況
になっているか否かを確認し、
十分でない場合は対策の追加・変更を検討する必要があり、
リスクが許容可能レベルにまで低減され続ける。また、対策の選択肢を検討する際には、
その影響の受け止め方について、利害関係者ごとに詳細に検討することが望ましい。
7 モニタリングおよびレビュー
リスクマネジメント計画、リスクアセスメント結果、およびリスク対応計画は、リスク
を適切に管理するために、常にレビューし、必要に応じて改訂していく。
8 コミュニケーションおよび協議
リスクコミュニケーションと協議は、対象者と状況に応じて実施する。特に早期かつ丁
寧な対応が重要である。
(2) CO2 漏洩/漏出および誘発地震のリスク
1 漏洩/漏出
貯留層からの地下浅部、大気・海水中へのCO2漏洩/漏出に伴い、住民・生態系・地下水
およびその他の資源への影響が想定される。これらのリスクは、適切なサイト選定と適切
なオペレーションにより限りなく小さいとも考えられるが、
その影響度やPAの観点も鑑み
潜在的なリスクとして評価すべきで、海防法においてもその評価が義務付けられている。
一般的に、詳細なリスク管理計画は実施計画段階で策定されるが、このリスクについて
は貯留の安全性の根幹に関わることから、より早期段階での検討が必要で、サイト選定あ
るいはサイト特性評価に強く反映されるべきである。例えば、IPCC(2005)で提案され
ている漏洩/漏出経路(図1.3.8-3)をできるだけ避けるようにサイトを選定することが、
前述のリスクマップにおいて「起こりやすさ/Probability」を下げることになる。そして33実施計画で策定されるモニタリング計画では、
より詳細に評価された漏洩/漏出経路を勘案
し、早期の異常発見と対応策により、リスクマップにおいて「影響/Impact」をより下げ
ることが可能になる。
A: CO2のガス圧が遮蔽層の毛管圧を超えて漏洩/漏出
B: 気体CO2が断層を通って漏洩/漏出
C: 遮蔽層の局所的な不連続部分を通じた漏洩/漏出
D: CO2貯留層圧の増加により断層の浸透率が増加した結果生じる漏洩/漏出
E: プラグの状態が不完全な封鎖坑井を通じた漏出
F: 地層水に溶解したCO2がクロージャー外に移動
G: 地層水に溶解したCO2が構造上位に移動し、海中や大気中に漏出
図1.3.8-3 深部塩水層に圧入されたCO2の考えられる漏洩/漏出経路(IPCC,2005)
圧入操業開始後も、CO2の地下挙動モニタリング結果や修正された長期挙動予測等に基
づき、定期的にリスク評価の更新を行うことが望ましく、場合によってはモニタリング作
業の軽減やコスト削減にもつながる可能性がある。
2 誘発地震
地熱開発(特に EGS)やシェール資源開発において、有感地震を含む明確な誘発地震が
報告されているが、そもそもこれらの圧入対象層は、孔隙率や浸透率が小さくかつ天然亀
裂も発達し、流体圧入に対して誘発地震が起きやすい地層と言える。一方、CO2 地中貯留
の対象となる貯留層は、孔隙率や浸透率が大きく、流体が入りやすく誘発地震の起きにく
い地層であり、実際に地中貯留において微小振動を超えるような誘発地震は報告されてい
ない。しかしながら、地中貯留と類似した貯留層を対象とした鉱廃水圧入において、小さ
い地震が起きている事例もあり、CO2 漏洩/漏出と同様にその影響度や PA の観点も鑑み、
潜在的なリスクとして評価すべきである。
誘発地震が発生するメカニズムとしては、CO2 圧入に伴う貯留層中の間隙流体圧の上昇
が、既存断層面に作用する有効拘束応力を低下させ断層の再活動をもたらすというのが一
般的な考え方である。したがって、CO2 漏洩/漏出と同様に、サイト選定の段階で、誘発地
震の原因となりうる大規模な断層あるいは動きやすい活断層を避け、また断層への圧力伝
搬を想定し、圧力上昇が起きにくい十分な貯留能力を持った貯留層を選ぶことが、このリ34スクを下げることになる。実施計画においては、操業における圧力上昇を抑えた圧入計画
に加え、弾性波探査等で認識できない小規模な潜在断層の存在を想定し、微小地震の検知
を目的としたモニタリング計画とそれに基づく圧入安全管理システム TLS(Traffic Light
System)を採用することにより、リスク軽減が可能になると考えられる。
1.3.9 PO/PA に対する考え方
CO2 地中貯留はアメリカ・カナダ・ノルウェーの大規模 CCS 事業に加えて、国内も苫
小牧実証プロジェクトの実績はあるが、
社会全体としての認知度は未だ十分とは言い難く、
CCS 技術事業化に向けての社会的理解増進(PO=Public Outreach)や社会的受容(PA
=Public Acceptance)といった非技術的側面の活動も重要である。2000 年代後半以降、
地元社会の理解が得られず、プロジェクトの遅延や中止に追い込まれた事例もふまえてお
り(例えば European CCS Demonstration Project Network, 2012, Feenstra et al., 2010)、PO/PA に関しては、以下のような共通認識ができつつある。
・PO/PA の対象/利害関係者は多様な背景、価値観、問題意識を有する。貯留サイト固有
の課題も含め、ケース・バイ・ケースのアプローチが必要である。
・PO/PA 活動は社会的関与/参画
(Public Involvement)、社会対話
(Public Communication)
とも称され、事業者から住民など利害関係者に対する一方的な情報発信ではなく、双方
の関与/参画により、信頼関係を醸成していくことが重要である。
・PO/PA 活動はできるだけ早期に、まだ具体的な計画が固まっていない基本計画立案段階
から、直接関係のない広範囲な地域の潜在的利害関係者(教育機関、メディア、一般住
民、関係業者など)も対象にして活動を開始することが望ましい。
米国 NETL(2013)は、CO2 貯留事業の初期段階からの PO 活動を想定して、その枠組
みを表 1.3.9-1 のように推奨している。
表 1.3.9-1 PO の枠組み(NETL,2013)
パブリックアウトリーチとプロジェクトマネジメントを結合
強力なパブリックアウトリーチチームを結成
キーとなる利害関係者を特定
地域住民の関心事を特定
アウトリーチ戦略およびコミュニケーション計画を作成
キーとなるメッセージ作成
聴衆に対応したアウトリーチ材料の作成
CO2 貯留プロジェクトのライフサイクルを通じてアウトリーチプログラムを積極的に監督・管理
アウトリーチプログラムの効果および公衆の認識および関心事項の変化を観察
柔軟性―パブリックアウトリーチプログラムを必要に応じて改良35(1) 利害関係者(Stakeholder)の特定
PO 活動における出発点は、
鍵となる利害関係者
(Stakeholder)
を特定することにある。
前述のように、
CCS に対する社会の認知度が低い以上、
事業に対する直接の利害関係者(貯留サイト周辺住民/地方自治体など)以外に、潜在的な利害関係者とも言えるより広範囲
の一般市民を対象とし、CO2 地中貯留含め CCS に対する社会の理解と協力をめざして、
様々な周知活動、教育活動(科学コミュニケーション活動)を行うことも必要である。こ
の活動においては、メディア、有識者、影響力の大きいキーパーソン(ピニオン・リーダ
ー)も意識すべきである。基本計画立案フェーズにおいては、サイトが正式に決定してい
ない段階ではあるが、直接・間接含め利害関係者・機関を特定し、速やかに PO 活動を開
始することが、サイト決定以降の段階における PA 活動を円滑に進めることにつながる。
表 1.3.9-2 は国内における利害関係者の例を示す。
表 1.3.9-2 国内における CCS 事業の利害関係者の一例
陸域貯留の場合 海底下貯留の場合
規制機関
都道府県市町村の自治体 隣接都道府県市町村の自治体
サイト近隣住民 サイト沿岸住民
環境保護団体 環境保護団体
地権者農業・酪農等団体 漁業権者、港湾関係団体
CCS 事業者
大学、研究機関など
その他
(2) 各フェーズでの PO/PA 活動(基本計画)
事業構想が出た時点から始まる PO/PA 活動は、
事業の各段階においてその対象や目的/
内容が異なるが、基本計画段階における立案の事例を以下に示す(図 1.3.9-1)。36
図 1.3.9-1 活動フェーズ毎の PO/PA 活動の推移(a、b、c、d)
1 CCS 事業構想〜サイト候補選定(図 1.3.9-1 のa)
貯留サイトは決定しておらず情報が十分にない段階であり、
前述のように広い範囲(地理
的、人的に)の利害関係者を対象にした PO 活動によって、一般社会における CCS 認知度
(必要性/安全性)を向上させることが主目的となる。一方、排出源は特定されており、
その周辺での利害関係者に対しては、
より具体的な事業紹介を加えた PO/PA 活動が展開で
きる。専門知識を有しない対象者のために、説明会という直接的コミュニケーションが重
要な方法であるが、事業者による一方的な説明ではなく、住民参加型ワークショップ的な
説明会が求められる。また、内容は単に CCS 事業に限らず、地球温暖化とエネルギー問
題、
様々な温暖化対策技術などの紹介も必要であろう。
このような住民対話に加えて、
様々
なメディアの利用、IT インフラの活用なども柔軟に考える必要がある。
2 圧入サイトの候補選定作業〜圧入サイト決定〜実施計画立案(図 1.3.9-1 のb)
圧入サイト選定作業によりある程度候補地がしぼられた段階で、候補サイト周辺および
CO2 輸送経路(パイプラインなど)の利害関係者に、CO2 地中貯留技術の紹介も含めた
PO/PA 活動を展開する。その後、圧入サイトが最終決定され、より詳細かつ具体的な事業
全体計画が立案されるが、その進捗に応じた説明を行い、幅広い利害関係者と対話しなが
ら信頼を醸成していく必要がある。
基本計画
サイト選定
サイト
特性評価
実施計画
設計・建設
圧入・操業
サイト閉鎖
モニタリング
閉鎖後管理
PO/PA373 実施計画〜事業実施(図 1.3.9-1 のc)
CCS 事業の具体的な姿が固まりつつある段階から、実施計画完成、FID・事業申請、事
業認可を経て操業開始・終了に至るまで、事業進展に応じた PO/PA 活動が継続される。圧
入操業開始前には、事業に伴うリスクと対応について、許認可当局に提出されるリスク評
価に関する資料や対応策も含め、より具体的かつ丁寧な説明が求められると共に、双方向
的なコミュニケーションによる情報の共有が引き続き重要である。圧入開始後は、事業全
体の進捗状況、圧入経過・モニタリングに関するデータなどの情報公開の重要性をより強
く認識すべきであり、基本計画では具体的に公開するデータの種類や公開方法などを決定
しておくべきである。
また、圧入操業以降の異常検知を目的としたモニタリングは PA の観点から、異常がな
いことによる安全性の確認という重要な意義があり、異常判定のための基準/ベースライ
ンについても、円滑な操業とのバランスをふまえ慎重な検討が必要となる。
4 圧入終了後〜責任移譲(図 1.3.9-1 のd)
圧入終了・サイト閉鎖後も、モニタリングは継続され、CO2 漏洩/漏出の監視と共に、弾
性波探査による CO2 プルームの確認とヒストリーマッチングにより将来的な CO2 挙動を
予測し、長期的な安全性を評価する。このフェーズでの事業活動は CO2 貯留サイト周辺に
限定され、PO/PA 活動の対象も周辺コミュニティが中心となるが、定期的なモニタリング
データの公開、想定外の事態への対応策の再確認等の情報共有が引き続き重要である。基
本計画においては公開すべきデータやその頻度なども示す。
(3) オランダ Barendrecht プロジェクトの失敗からの教訓
オランダのロッテルダム近郊にある Baredrecht 市(人口 44,000 人)において計画され
た Barendrecht プロジェクトは、水素製造プラント(石油精製設備)から CO2 を回収し、
陸域の枯渇ガス田に貯留する小規模実証事業であった。貯留サイトは、排出源への近接、
貯留層の適性、枯渇ガス田での既存坑井利用の可能性、圧入期間(3 年間)を通じてモニ
タリング可能であること等を理由として選定された。環境影響評価は、政府のガイドライ
ンに従い、貯留に関するリスク、その他騒音、廃棄物、交通量増加の影響等に関して、サ
イト労働者と地元住民の両方にとって許容可能なリスクレベルであると結論され、当局の
承認も得ていた。しかし、その後住民の理解が得られず、本プロジェクトは中止に追い込
まれ、その原因として以下のように指摘されている(Feenstra et al., 2010)。・初期段階での住民参加の欠如、地域との対話不足
・地域の利益への配慮不足/入札手続きの不公平性
・情報の信頼性不足/CCS の背景情報発信への配慮不足
・非公式な対話の場の欠如38以上の失敗をふまえ、次のような提言がなされている(Feenstra et al., 2010)。a.地方、地元も含めたすべての利害関係者が、互いの信頼関係を醸成するためにプ
ロジェクトの早い段階から関与し、プロジェクトを一緒に進めるべきである
b.利害関係者やコミュニティの価値観、要求、意見を取りまとめ、プロジェクト設
計を議論する際の参考にすべきである
c.プロジェクトの変更や予定、手続きなどの変更についても、公式、非公式にすべて
の利害関係者と話し合うべきである
d.利害関係者には、当該 CCS プロジェクトだけでなく、国内や海外での CCS 事業
の背景、なぜ CCS が必要なのか、他にどんなプロジェクトが存在するか、CCS
に対する政策的取り扱いといった点も情報発信し議論すべきである
e.コミュニティとの対話では具体的要求に答えなければならない。ただし要求につ
いては、対話の開始以前に、コミュニティ自体に関する情報も含めて調査、把握
しておくことにより、適切な資料、チャンネル/担当を選択できる。要求される
情報としては、プロジェクトの技術的、経済的、環境影響に関する情報等が想定
される。対話の相手となるグループについて、CCS に関する背景知識の程度、含
まれる利害関係者の概要(経歴、コミュニティとの関係)等の情報を把握してお
くべきである。また、当該プロジェクトに関係するかもしれない、現在起きてい
る国内や地元での議論や課題も認識しておく必要がある。
f.事業者側の PO/PA 担当者(メッセージ発信者)は、まずコミュニティの信頼を得な
ければならない。信頼されていない担当からのメッセージはコミュニティに信用
されない。
1.4 まとめ
CCS 事業の開始は、特定の排出源から排出される CO2 を分離・回収し、地中貯留サイ
トにおいて圧入するという意図から生じる。この時点で明らかになっているのは排出源の
位置と圧入想定量および大まかな事業コスト上の制約程度であると考えられる。したがっ
て事業初期段階としての基本計画の目的は、限られた情報のなかで、当該事業の目標、そ
れを実現させるためにどのような方針で事業を進めるべきかという基本的な考え方を、基
本計画書としてまとめることにある。これは事業者内部・規制当局への説明、利害関係者
に対する初期の PO/PA 活動のベースとなる。
これまで、ノルウェー(海域)やアメリカ・カナダ(陸域)を中心に、大規模 CO2 地中
貯留事業が実施され、知見やノウハウが蓄積されつつあるが、CCS 事業の経済性やビジネ
スモデルの構築などが課題となっており、事業者による技術革新に加えて、政策的支援や
事業への社会的理解促進を期待したい。39参考文献
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「この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業
の結果得られたものです。」This document is based on results obtained from a project (JPNP18006) commissioned by the
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