公開版
NEDO標準化マネジメント
ガイドライン
Management
Guideline
for Standardization
改訂履歴
改訂履歴
初版 2010 年(平成 22 年)3月
第2版 2019 年(平成 31 年)1月 (公開初版)・「標準化と知的財産」等の追記、国際標準化に向けた標準化マ
ネジメントの高度化
第3版 2022 年(令和 4 年)9 月
・NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」の新設、
オープン&クローズ戦略の充実化、
「標準」関連の組織・制度・
ツール紹介の新設等の全面改訂
はじめに
はじめに
人間社会を支える共通ルールを策定する手段のひとつに
「標準化」
があります。
基準を統一するなどの標準
化によって社会における共通理解を醸成することができることから、世界中で広く標準化が行われています。
国内における標準化は、国主導で行われるものと認識されることが多いですが、欧米における標準化は民間
主導で行われています。
また、
日本においてもグローバル企業の一部では、
互換性確保や品質保証などを超え
て、新たな国際市場の創出や拡大へつなげるための重要な経営戦略ツールとして、特に民間主導で行うこと
ができる国際標準化が認識され行われています。
このような時代の潮流に鑑み、
今回このNEDO標準化マネジメントガイドライン
(以下、
「ガイドライン」
という。
)の見直しを行いました。
NEDOプロジェクトにおいては、技術開発だけでなく、その開発成果の社会実装の促進も重要視されて
います。社会実装の実現を左右する要因として、開発成果が事業化される国・地域でのルールがあり、そのル
ールの中には国際規格や国内規格が含まれることもあります。
また、
ルールが未整備の分野においては、
技術
とルールとをセットで売り込むこともあります。このため、標準化は社会実装の実現に大きく貢献し得るも
のであり、有効な「出口戦略」や「事業化計画」構築のためのツールの一つとして、知的財産権と共にオープ
ン&クローズ戦略によってそれらの効果を最大化するように、
その活用
(標準の戦略的活用)
を検討すること
が重要です。
従前のガイドラインでは、開発した技術を、特定の国際標準化機関(ISO、IEC)において国際規格と
して成立させるプロセスに力点を置いていましたが、改訂版ではNEDOプロジェクトにおける標準の戦略
的活用の検討手法について力点を置きました。
本ガイドラインにより、
関係者間で正確な意思疎通、
円滑なコミュニケーションが実現すると共に、NEDOプロジェクトの成果のさらなる向上、そして、開発成果の社会実装の促進につながれば幸いです。
令和4年 9 月
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
技術戦略研究センター(TSC)
標準化・知財ユニット
目次
目次
1. 本ガイドラインについて
001 1.1 本ガイドラインの目的
001 1.2 用語の定義
002 1.3 本ガイドラインの対象
002 1.3.1 対象範囲
002 1.3.2 対象読者
002 1.4 本ガイドラインの構成
003 1.5 本ガイドラインの使い方
2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
004 2.1 NEDOにおける「標準の戦略的活用」とは
005 2.2 「標準」の効果
006 2.3 「標準」の分類
006 2.3.1 成立過程による分類
007 2.3.2 デジュール標準の地理的性質による分類
009 2.4 「標準」の経済学的効果
009 2.4.1 経済学的な観点から見た「標準」の効果
009 2.4.2 シグナリング
010 2.4.3 バンドワゴン効果
010 2.4.4 ネットワーク外部性
011 2.4.5 スイッチングコストとロックイン効果
012 2.5 標準化と知的財産
012 2.5.1 標準化と知的財産権の関係
014 2.5.2 標準必須特許
015 2.5.3 標準と特許等との戦略的な組み合わせ
016 2.6 オープン&クローズ戦略
016 2.6.1 概要
016 2.6.2 オープン化、クローズ化の手段
018 2.6.3 二つのオープン・クローズの概念
019 2.6.4 オープン&クローズ戦略とその効果
020 2.6.5 事例
020 2.6.6 オープン&クローズ戦略の考え方
3. 「標準」を特定するための基本的な情報
022 3.1 成果普及に結びつけるために
目次
023 3.2 社会実装とルール
023 3.2.1 ルールの概念
023 3.2.2 ルールに関する情報収集
024 3.2.3 考慮すべきルールを判断する
025 3.3 ルールと「標準」
025 3.3.1 コンセンサス標準の概念
026 3.3.2 コンセンサス標準に関する情報収集
027 3.3.3「標準」を特定する
028 3.3.4 コンセンサス標準を考える
029 3.3.5 コンセンサス標準のタイミング
4.規格開発マネジメント
030 4.1 規格開発マネジメントの必要性
030 4.2 規格開発マネジメント上のポイント
5.NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」
033 5.1 技術戦略策定時
033 5.2 基本計画策定時
034 5.3 公募審査時
034 5.4 NEDOプロジェクト期間中
035 5.5 NEDOプロジェクト終了後6.「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
036 6.1 関連する組織
036 6.1.1 省庁
036 6.1.2 国家標準化機関等
038 6.2 経済産業省の標準化施策
038 6.2.1 経済産業省の標準化関連事業
039 6.2.2 新市場創造型標準化制度
040 6.2.3 標準化活用支援パートナーシップ制度
041 6.3 規格の調査・検索方法
041 6.3.1 規格の類型
041 6.3.2 規格の検索、照会
043 6.3.3 規格資料の入手及び閲覧
044 6.3.4 規格開発の動向調査
7.参考文献・引用情報
048 7.1 引用、参考資料
052 7.2 問合せ先
1 1. 本ガイドラインについて
1. 本ガイドラインについて
1.1 本ガイドラインの目的
本ガイドラインは、以下を目的としています。
NEDOの業務、組織に即した「標準」の考え方を提示することにより、
NEDOの職員が「標準」の活用に関する基礎・基本的な知識を習得し、
NEDOプロジェクトに参加する者(以下、
「事業者」とします。
)やNEDO外部の組織体及び専門家との
適切な連携等を図ることにより、NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」がより有効・有用に機
能し、
もって技術開発成果の社会実装が促進されるようにすること。
1.2 用語の定義
標準に関する情報は、
様々なところから得ることができますが、
用語については、
文献によって様々です。
このため、本ガイドラインで用いる主な用語は、次のとおりとします。
1標準
関係する者の間で、利益や利便が公正に得られるようにするための<取り決め>のこと。
(注記)本ガイドラインでは、開発成果の社会実装に必要な「標準」を特定し、それを規格に落とし込むまで
に考慮すべき事項を記載しています。このため、
「標準」に関する説明の多くは、コンセンサス標準
(2.3.1 参照)に関することとなります。
2標準化
「標準」を意識的に作って利用する活動のこと。
3規格
「標準」を文書化したものであって、合意によって確立し、一般に認められている団体(以下、
「標準化機
関」とします。
)に承認を得たもの。
(参考)しかくJIS Z8002 標準化及び関連活動-一般的な用語[1](抜粋)
規格:与えられた状況において最適な秩序を達成することを目的に、
共通的に繰り返して使用するために、活動又はその結果に関する規則、指針又は特性を規定する文書であって、合意によって確立し、一般に認
められている団体によって承認されているもの。
2 1. 本ガイドラインについて
1.3 本ガイドラインの対象
1.3.1 対象範囲
本ガイドラインは、以下を意識した内容としています。
1NEDOプロジェクトの基礎となる技術戦略策定段階での活用
2NEDOプロジェクトの推進段階での活用
NEDOは、プロジェクトを通じて技術開発を推進し、開発成果の社会実装を促進することにより社会課
題の解決に繋げることを目指しており、
その社会実装のための一つのツールとして
「標準の戦略的活用」
があ
ると考えられます。
1.3.2 対象読者
本ガイドラインは、以下の者に向けて作成しています。
1技術戦略の策定に携わる職員
・技術戦略の策定時に、将来組成されるであろうNEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」を
検討するための情報収集・分析及び関係者間での共通理解の醸成に活用することを想定しています。
2NEDOプロジェクトの推進に携わる職員
・NEDOプロジェクトの基本計画や実施方針の策定において、
「標準の戦略的活用」
を検討する際の活
用を想定しています。
・NEDOプロジェクトの基本計画や実施方針に記載された、
「標準化」
の進捗管理を行う際の活用を想
定しています。
・事業者が、成果の社会実装を目指す観点から、
「標準の戦略的活用」を進めようとする際、NEDO職
員がそれらに対して支援する上での活用を想定しています。
また、事業者に対しても、NEDOとしての「標準の戦略的活用」に関する考え方への共通理解を図ること
を想定して、本ガイドラインをNEDOの Web ページにて公表しています。
1.4 本ガイドラインの構成
本ガイドラインは、全体として、知識的なものから実践的なものへ、理念・必要性から具体的な考え方、や
るべきことへ、という順になるように構成されています。
また、短文としつつも、理由や効果を併せて記述するようにして、読みやすさと納得感の両立を図りまし
た。
3 1. 本ガイドラインについて
各章の概要は、以下のとおりです。
1.本ガイドラインについて:このガイドライン自体の説明
2.「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報:標準化に関する基礎知識の解説
3.「標準」を特定するための基本的な情報:
「標準」について、どのように考え、どのように対応するかを
解説
4.規格開発マネジメント:
「規格」をつくり、普及する際のマネジメント上のポイントを解説
5.NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」
:NEDOプロジェクト等における各段階でのや
るべきこと等を解説
6.「標準」関連の組織・制度・ツール紹介:標準化関連情報(制度等)の紹介等
7.参考文献・引用情報:各章の参考・引用資料集、問合せ先
なお、本ガイドラインは、簡潔・最小限の内容としている箇所、わかりやすさを重視している箇所もありま
すので、より正確な内容、より深い又は詳細な内容、より応用的・先進的な内容が必要な場合は、参考文献や
他書も参照ください。
1.5 本ガイドラインの使い方
本ガイドラインは、
基礎知識から実践的知識まで幅広く記載しており、
全体を通して一読することで、
一連
の知識が体系的に取得できます。また、可能な限り、各章が独立するように記述しており、まずは全体を通し
て一読した後に、必要に応じて、関心又は必要のある箇所を適宜参照することをお勧めします。
4 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
2.1 NEDOにおける「標準の戦略的活用」とは
NEDOは、技術開発の推進を通じて、開発成果の社会実装を促進し、社会課題の解決を目指す組織です[2]。社会実装に役立たない規格とならないよう、1戦略構築フェーズ〔いつ、どのように使うかを念頭においた
「標準」をNEDOプロジェクト組成時から考え、特定する〕2規格開発フェーズ〔適切なタイミングで、
「標準」を関係者間で合意させ、規格として公表する〕
、とを併せてもって「標準の戦略的活用」を考えるべ
きです(図 2.1.1 参照)。なお、社会環境の変化により、1へのインプットが変化することから、2のアクション中であっても、不断
の情報収集を踏まえた「標準の戦略的活用」に関する検討が必要です。
1戦略構築フェーズ
このフェーズでは、
「標準」を特定するところまで考えます。
プロジェクトの企画段階において、既に社会に存在する「標準」その他のルールを観察し、将来、開発
された技術を円滑に社会へ普及・展開するために、どのような「標準」が必要であるかを検討することが
重要なポイントとなります。また、標準化はプロジェクト期間では終わらないこともある長期の活動であ
り、効果的な「標準」の活用には、適切なタイミングでの規格の成立が肝要ですので、標準化に向けた時
期的な検討も必要です。
なお、結果として、
「標準」は不要との判断となった場合でも、他国から不都合な「標準」を提案する動
きがある場合などは、規格開発フェーズに進まざるを得ない場合もあります。
2規格開発フェーズ
このフェーズでは、NEDOプロジェクトの基本計画や実施方針において「標準」が特定されている場
合、事業者は、
「標準」を規格に落とし込むことが求められます。また、NEDOプロジェクトで「標準」
が特定されていない場合にあっても、事業者が当初又は期中で事業化計画に記載した場合は同様です。
技術の裏付けとなるデータ等のエビデンスを整える、規格の審議に臨む、の事業者が行う2つの活動に
ついて、プロジェクト期間中ではNEDOはマネジメントすることが求められ、プロジェクト終了後では
事業者自らが推進することが求められます。
5 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
出典:経済産業省資料を基にNEDOが一部改変して作成
図 2.1.1 「標準の戦略的活用」の概観
2.2 「標準」の効果
「標準」の効果は、図 2.2.1 に示すように多岐にわたります。
出典:一般財団法人日本規格協会「知的財産と標準化によるビジネス戦略」[3]図 2.2.1 「標準」の効果
また、
「標準」の効果は、正の効果(メリット)だけでなく、負の効果(デメリット)も存在します。これ
を供給側と需要側とに分けて整理すると以下のようになります。
6 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
表 2.2.1 「標準」のメリット・デメリット
供給者側 需要者側
メリット ・追随参入容易
・コストダウン(製造、研究開発)
・市場拡大・長期安定
・競争領域の限定
・コストダウン(調達)
・調達量・品質の安定
・互換性の拡大
デメリット ・技術漏洩
・差別化困難
・販売価格低下
・非標準品市場の開発困難
・製品選択肢の減少
・技術へのロックイン
出典:一般財団法人日本規格協会「知的財産と標準化によるビジネス戦略」[3]、及び、江藤学ほか『標
準化教本』[4]を参考にNEDO作成
このように、
「標準」となることにより、立場の異なる者では異なる効果が発生することに留意する必要が
あります。また、
「標準」となったことによって参入が容易になり、参入者が増加することから、価格競争が
発生しやすくなると考えられます。
したがって、
「標準」としようとする場合は、どのような立場であるかを認識すると共に、どのような目的
でどのような効果を狙って行うかを十分に検討する必要があります。
なお、
「標準」には、需要者側の心理・行動とあいまった経済学的効果も発生しうることから、社会実装の
観点において、これらも考慮してください(2.4 参照)。2.3 「標準」の分類
2.3.1 成立過程による分類
「標準」は、その成立過程により、三つに分類することができます。また、本ガイドラインでは、1と2と
を合わせて、コンセンサス標準と呼びます。
1デジュール標準(de jure standard)
標準化機関により公的に承認される規格の総称です。
標準化機関で開発された規格は、様々なステークホルダで議論し決定していくため、
「標準」の利用者が多
岐にわたり、一定の普及が実現することとなりますが、策定期間が長期になりがちです。
なお、
「デジュール」とは、"法律上の"という意味です。
2フォーラム標準(forum standard)
特定の技術等の「標準」に関心のある企業が自発的に集まってフォーラムを形成し、合意される規格の総
称です。
意見もあります[6]。
なお、WTO/TBT 委員会では、国際規格の開発プロセスに関する原則として、以下の6条件が決定され
ています。
透明性(Transparency) 開放性(Openness)
公平性(Impartiality and Consensus) 効率性と市場適合性(Effectiveness and Relevance)
一貫性(Coherence) 途上国への配慮(Development Dimension)72. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
電子情報分野等の変化の早い分野で活用されています[5]
映されない場合があります。
例としては、以下のようなフォーラム標準の団体があります。
・DVDフォーラム:DVD関連
・W3C:ウェブ技術
・MPEG:動画・音声データの圧縮方式
なお、「フォーラム」とは、"公開討論の場"という意味です。
3デファクト標準(de facto standard)
一般に認められている団体によって承認された規格とは異なり、市場競争等の結果普及し、規格と同様の
経済的効果をもつようになった、特定の製品等の技術仕様を指す総称です。
NEDOにおける、デファクト標準を創成する活動として典型的なものは、学術論文を発表し公知とする
ことにより、他者に浸透させることです。これにより、事実上の標準を目指すものとなります。
デファクト標準が、他の「標準」と異なるのは、規格開発のための活動をすることなく、その「標準」の利
用を開発者が占有することができ、大きな利益を手にすることができるというところです。
なお、
「デファクト」とは、"事実上の"という意味です。代表的なものに、PCのOSである Windows が
挙げられます。
2.3.2 デジュール標準の地理的性質による分類。特定の企業が集まるものであるため意見がまとま
りやすく、デジュール標準に比べ開発期間が短くなるとされていますが、一部のステークホルダの意見が反
デジュール標準は、その標準化機関の地理的性質から分類することもできます。
(1)国際標準
国際標準化機関が承認し、国際的に適用されます。ここでの国際標準化機関とは、主に以下が挙げられま
す。
・ISO(国際標準化機構(International Organization for Standardization)):電気、電子、通信以外の幅広い技術分野(鉱工業、農業、医薬品等)を扱う
・IEC(国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)):電気及び電子技術分野を扱う
・ITU(国際電気通信連合(International Telecommunication Union)):通信技術分野を扱う
IEEE(米国電気電子学会、Institute of Electrical and Electronics Engineers)やASTMインターナ
ショナル(米国材料試験協会、American Society for Testing and Materials)も国際標準化機関であるとの
8 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
国際標準化機関による国際規格の承認は、上記原則に則り実施されており、国際ルールとの関係から大変
重要なものですので、最終的にはその獲得を目指していくべきものであると言えます。
(2)地域標準
地域標準化機関が承認し、当該地域に適用されます。欧州域内では、以下の標準化機関が存在します。
また、
他の地域でも標準化の取組を行っている枠組みはありますが、
地域内の標準化協力等にとどまり、規格を開発していません。
・CEN(欧州標準化委員会)
:電気、電子、通信以外の技術分野を扱う
・CENELEC(欧州電気標準化委員会)
:電気及び電子技術分野を扱う
・ETSI(欧州電気通信標準化機構)
:通信分野を扱う
なお、CEN規格、CENELEC規格の一部は、EU規制の整合規格として引用され、技術規制と同じ強
制力をもつことがあります。
(3)国家標準
国家標準化機関で承認し、国内に適用されます。
日本では、JISやJASがあります。
なお、JISやJASの一部は、国内規制に引用され、規制と同じ強制力をもつことがあります。
これらのコンセンサス標準は、図 2.3.1 のような関係となります。
出典:経済産業省「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」
1 標準化の概要[7]を参考にNEDO作成
図 2.3.1 コンセンサス標準の関係
デジュール標準
国家標準 地域標準 国際標準
フォーラム標準
信頼性
市場の大きさ
9 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
2.4 「標準」の経済学的効果
2.4.1 経済学的な観点から見た「標準」の効果
「標準」には、その機能に直接由来する作用・効果だけでなく、ユーザの心理・行動と相まって経済学的効
果も発生します。
「標準」には様々な経済学的効果がありますが、これらの経済学的効果は、市場のライフサ
イクルの各段階において発揮するものです(図 2.4.1)。出典:経済産業省産業技術環境局基準認証政策課(2018)
「知的財産と標準化によるビジネス戦略」[8]を参考にNEDO作成
図 2.4.1 市場の変遷と標準の経済学的効果
・市場の創生期:
「標準」のシグナリングにより、売り手と買い手とが有する情報の非対称性が解消され、
市場がより早期に創出されやすくなります。
・市場の創生期〜拡大期:ネットワーク外部性の発生期待や「標準」にされている場合のバンドワゴン効
果により、市場がより早期に創出、拡大されやすくなります。
・市場の拡大期:市場が一定規模の大きさまで成長した場合、ネットワーク外部性により、急速に市場の
寡占化が進行します。
・市場の成熟期:スイッチングコストが増加するとロックイン効果が発現され、市場がより長期に維持さ
れやすくなります。
このように、
「標準」を上手にビジネスと結びつけることにより、市場をより効率的・効果的にコントロー
ルし、より収益をあげることができるようになります。
2.4.2 シグナリング
ある製品・サービスについて、売り手がその品質の詳細を把握しているのに対し、買い手が購入する製品・
サービスの品質を購入前に把握することは通常困難です。
このような市場における各取引主体
(売り手・買い
手)が有する情報に差がある状態を情報の非対称性(information asymmetries)といいます。
市場創生期 市場拡大期 市場成熟期
市場の早期創出
市場の拡大促進
市場の維持
「標準」とした場合
通常の場合
10 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
情報の非対称性により、
買い手が品質の差を見分けられない場合、
高品質であっても高価格の製品は、
低品
質で低価格の製品に対し、品質による差別化ができないため、売れなくなってしまいます。その結果、市場か
ら高品質な製品が無くなることになります[9]。このような情報の非対称性の解決には、
製品の品質に関する情報
(シグナル)
を買い手に直接提示すること
(シグナリング(signaling)
)が有効です[9]。ここで、
「標準」は、あらかじめ品質や安全性、それらの試験方法に関する条件を決定し、買い手を含む当
時者間で共有しているものであるため、製品が「標準」に合致している、製品が規格に示された試験方法にお
いて所定の値である等を提示することによって、買い手は、その製品の品質を正しく認識することができます(「標準」が無い場合、買い手は、その提示された情報を信頼することができず、他の製品の同様の情報と
比較することもできないため、結局その製品の品質を認識することができない。)。
つまり、
「標準」は、シグナリングすることでもあり、情報の非対称性に対する一つの解決策になっている
ものと考えられます[9]。2.4.3 バンドワゴン効果
バンドワゴン効果(bandwagon effect)とは、ある選択肢を多数の者が選択する(している)はずという
情報がその選択肢を選択する者を更に増大させる現象です。ここで、バンドワゴンとはパレードの先頭にい
る飾り付けられた大型の車(楽隊車)のことであり、バンドワゴン効果は、パレードでバンドワゴンの後ろに
大勢の者がついて歩いて行くさまを比喩し、名付けられたものです。
例えば、ある製品が売れているとの情報(ニュース、宣伝)に接した人は、流行に乗り遅れまいとの心理や
みんなが選んでいるから価値があるに違いないとの心理から、当該製品を購入する可能性が高くなります。
仮に、多くの技術方式等が存在する中で特定の技術方式が標準になった場合は、他者はその特定の技術方
式を積極的に採用するであろうという期待感から、その特定の技術方式は、バンドワゴン効果を得るものと
いえます[8]。つまり、技術を「標準」にすることは、バンドワゴン効果を得ることができ、技術の普及を促進
できるのです。
2.4.4 ネットワーク外部性
ネットワーク外部性
(network externalities)
とは、
多くのユーザがネットワークに接続すればするほど、
ユーザに提供される製品やサービスの便益(利便性や効用)が増加する現象(経済学的効果)です。その結
果、ネットワークに新規ユーザが加入すると既に加入しているユーザを含めた全員の利便性が高まることに
なります(図 2.4.2)。例えば、相互に独立した電話ネットワークに関して、加入者数 1,000 人の電話ネットワークと、加入者数
100 人の電話ネットワークでは、連絡可能な加入者に大きな差があるため、加入者の利便性に大きな差があ
ります。このため新規ユーザは、既に多くの加入者を有する電話ネットワークへの加入を選択する可能性が
高いと考えられます。
11 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
(a) (b)
(a)は(b)よりつながり数が多く、利便性が高い
出典:江藤学ほか『標準化教本』[9]を参考にNEDO作成
図 2.4.2 ネットワーク外部性
ネットワーク外部性には、ネットワーク接続により直接的に便益が発生するケースと、ネットワークに関
する周辺市場から間接的に便益が発生するケースとがあります[9]。・直接的なものの例:SNS、Web 会議システム、マッチングアプリ、オンラインゲーム
・間接的なものの例:ゲーム機(ゲームソフト)
、映像機器(コンテンツ)
、決済サービス(取扱加盟店数)
また、ネットワーク外部性と相まって、ある一定程度の市場規模(クリティカルマス(critical mass)
)[10]
を獲得すると急速に寡占化が進行します。
このように、ネットワーク外部性を発現することのできる標準は、技術の普及に大変有効な手段です。
2.4.5 スイッチングコストとロックイン効果
スイッチングコスト(switching costs)とは、ある製品又はサービスから別の製品又はサービスに切り替
える際に発生するコストをいいます。また、ロックイン効果とは、スイッチングコストが高くなって、切り
替え時の障壁となった結果、他の製品又はサービスに切り替えることが困難になり、状態が固定化されるこ
とをいいます。
このスイッチングコストには、新しい設備や技術を導入する設備コストだけでなく、新しい設備や技術に
慣れるためのコスト(習熟時間等)や旧い設備・技術で培った知識や情報の移転コストも含まれます。
例えば、携帯電話会社 A 社の加入者が携帯電話会社 B 社に乗り換えようとすると、切り替えの手続き・作
業(データの移行など)をする必要が生じることになります。また、慣れるのに時間も掛かることでしょう。
この乗り換えに要する費用や手間がスイッチングコストです。スイッチングコストが高いと、ユーザは乗り
換えを敬遠し、結果として同一事業者のサービスを利用し続けることになります(ロックイン効果)。「標準」となった技術は、ユーザの使用に伴ってスイッチングコストが大きくなり、そのユーザをその「標
12 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
準」
に固定するロックイン効果を有するようになります。
それは、
パソコンにおけるQWERTY配列のキー
ボードのように、日本語入力に最適でないキー配列であったとしても発生してしまうのです。
2.5 標準化と知的財産
標準化と併せて考えるべき社会制度として、知的財産権制度(産業財産権制度)があります。
2.5.1 標準化と知的財産権の関係
2.5.1.1 関連性
標準化と、特許に代表される知的財産権制度(産業財産権制度)とは、以下に示すように関連しています。
出典:江藤学「戦略的標準化活用について」[11]を参考にNEDO作成
図 2.5.1 標準化と知的財産権制度の関係
研究開発の知的創造活動により、新たな技術が生まれ、多様化・複雑化していきます。これは、複数の研究
開発が同時並行的に行われるためでもあり、
また新技術への乗り換え
(切り替え)
が即時でないためでもあり
ます。その一方で、それらの技術は、社会的に用いられるもの/用いられないものに選択、淘汰され、段々と
単純化していきます。そして、その単純化された状況、技術をもとに、新たな創造がなされるという関係性が
あります。
さらに詳しく見ると、研究開発の中にも、既存の改良、改善といったものから、既存を変革、革新するよう
なものまであります。選択・淘汰の中にも、自然淘汰のものと人工的・人為的淘汰のものがあります。
ここで、
(社会的制度として)人工的に単純化を図っているのが標準化です。また、研究開発等の知的創造
活動にインセンティブを与える社会的制度が知的財産権制度です。
このように、
標準化と知的財産権制度には、
所与の関係性があり、
両者により継続的なイノベーションが促
進されていると考えられます[12]。
単純化
多様化
(複雑化) 選択、淘汰
創造
(研究開発)
自然淘汰
人工的選択・淘汰
改良、改善
変革、革新
標準化
知的財産権制度(特許等)
13 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
2.5.1.2 対比
「標準」と、知的財産権制度における「特許」とを比較すると以下のようになります。
表 2.5.1 標準と特許との比較(その1)
標準 特許
技術の共同利用 制度趣旨 技術の独占的利用
規格の発行 内容の公表 各種公報の発行
信頼性が高い 技術への評価 独自性が高い
広範な利用が見込まれる 市場の評価 独占による収益が見込まれる
技術の普及による産業の発展 得られる効果 技術の開発促進による産業の発展
一般的に、
「標準」は共有・開放を、
「特許」は独占をそれぞれ目的としたものといわれるように、両者は異
なるところがあります。
その一方で、
両者は、
技術による産業の発展を目指すものであること等で同じところ
もあります。そのようなところから、両者は、政府等における重要なイノベーション施策として、認知、推進
されています。
2.5.1.3 時系列での比較
「標準」と「特許」とを別の観点で比較すると以下のようになります。
図 2.5.2 標準と特許の比較
原則20年
1 年半
特許
標準
自者のみ 他者と共働 情報公開
標準化の開始
権利の消滅
特許登録(内容の確定)
審査請求
出願 出願公開
請求
3 年以内
標準の見直し
5 年以内
標準の承認(内容の確定)
3 年以内
標準の見直し
5 年以内
14 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
表 2.5.2 標準と特許との比較(その2)
技術内容の公開 管理、コントロール 技術の利用
標準 ・比較的早期に、自者外へ
公開・共有
(標準化が協働・オープ
ンな場で行われるため)
・他者とのコンセンサスにより制定
されるため、いかに自者に有利な
内容とするかが重要
・いったん制定すると、定期的なメ
ンテナンスも必要であり、取り消
しをするためにもコンセンサスが
必要
・他者の利用は基本無料、
許可不要
特許 ・出願しても一定期間公開
されない(公開までは自
者外に漏れない)
・出願内容は自者の自由だが、審査
の過程で内容の減縮等が必要な場
合もある
・権利の消滅まで自者のみの管理下
(独占利用・ライセンス(対象・
価格)
・消滅のタイミング等)
・他者の利用は基本有料、
許可必要
このように、
両者は、
情報公開や他者の巻き込みといった点で異なるところがあり、
そのことが両者の特徴
にも繫がっていますので、制度の理解は重要です。
2.5.2 標準必須特許
標準必須特許(SEP、standard essential patent)とは、
「標準」の実施に不可欠な特許又は標準に適合し
た製品・サービスの製造や提供の際に利用せざるを得ない特許のことです。
なお、標準が対象としている技術の周辺に位置する特許は標準必須特許に含まれません。
出典:経済産業省「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」
2 標準化をビジネスで用いるための戦略[13]図 2.5.3 標準と標準必須特許との関係
標準は、
基本的には誰でも技術を利用できるようにするものであるのに対し、
特許権は、
排他的独占権であ
ることから、特定の者だけが技術を利用できるようにするもので、両者は、本来、同時に一つの技術に使われ
るものではありません。しかしながら、技術開発から標準化までの短期化や、優れた最新技術を「標準」にす
るため等により、標準が対象とする技術中に特許が入り込むことが避けられなくなってきました。
そこで、両者の両立を図るため、標準化機関は、パテントポリシーを定め、標準に関連する技術を対象とす
る特許権を保持する権利者に対し、当該特許権の取扱いについての条件を宣言する特許声明書の提出を要請
するようになりました。
標準
標準必須特許
15 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
ここで、この特許声明書に記載される条件には、主に以下の三つがあります[14][15]。1ロイヤリティフリー(Royalty-Free;RF)
:無償で特許権等の実施許諾等を行う交渉をする用意がある
2FRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory;RAND と同義)
:公平、合理的かつ非差別的
条件での特許権等の実施許諾等を行う交渉をする用意がある
3上記1又は2のいずれの意思もない
また、標準と大量の関連特許との両立を図るため、パテントプールを形成することもあります。パテント
プール(patent pool)とは、複数の権利者が保有する特許権を特定の組織に集め、管理し、ライセンスする
仕組みのことです。
これにより、個別・全体のライセンス関連業務を簡素化すると共に、ライセンス料の低減が図れます[14][16][17]。標準必須特許を巡っては、
現在進行形かつグローバルな規模で、
複雑な問題が生じています。
標準必須特許
についての最新情報や関連情報については、以下のサイトも適宜参照してください。
・特許庁「標準必須特許ポータルサイト」
https://www.jpo.go.jp/support/general/sep_portal/index.html
標準にしようとしている技術に関する特許を有していると、標準化において交渉を自分に有利にすること
もできます[18]
。よって、技術開発の際は、標準だけでなく、国際的な特許化も同時並行的に進めることが有用
です。
2.5.3 標準と特許等との戦略的な組み合わせ
「標準」に併せて特許を戦略的に取得・活用することは、市場の拡大、利益の最大化等の観点からとても重
要です。
「標準」と特許等(ノウハウを含む)との組み合わせ方には、例えば図 2.5.4 に示すようなものがあ
ります。
出典:経済産業省「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」
2 標準化をビジネスで用いるための戦略[13]図 2.5.4 標準と特許等との組み合わせ例
16 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
このように、
「標準」と特許等とを適切に用いることにより、全体としての最適化を図ることができます。
そのためにも、
「標準」と特許等の知的財産との双方の状況・内容を理解しておくことが望まれます。
2.6 オープン&クローズ戦略
近年、事業戦略を検討する上で必須考慮事項となっている「オープン&クローズ戦略」は、以下のようなも
のです。
2.6.1 概要
オープン&クローズ戦略とは、技術マネジメントに関する方策であり、特に、開発した技術等の知的財産
のコントロールに関する計略です。その定義や内容については、用いられる場面や用いる者によって異なる
ことも多いですが、おおむね以下のいずれかに該当する場合が多いです。
1技術の開示・共有、普及の程度・手法に関するもの
2技術情報の公開度に関するもの
3単に「標準」及び特許の選択・組合せに関するもの
いずれの場合であっても、
技術に関するものであり、
その技術に関して、
オープン領域とクローズ領域とに
区分し取り扱うことを含んでいるといえます。
オープン領域とクローズ領域とについては、それぞれ以下のようになります。
表 2.6.1 オープン領域とクローズ領域との対比(その1)
オープン領域 クローズ領域
技術の取扱い 他者も利用可能にする 自者のみが利用可能にする
目的 市場規模の拡大 市場における収益の確保
技術の普及 推進 制限
他者との関係 共創・協調 差別化、競争
2.6.2 オープン化、クローズ化の手段
オープン化、クローズ化の具体的手段としては、以下のように様々なレベルのものがあります。
17 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
出典:経済産業省「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」2 標準化をビジネスで用いるた
めの戦略[19]
、及び江藤学ほか「教則 標準化とビジネス」[20]を参考にNEDO作成
図 2.6.1 オープン化、クローズ化の具体的手段
1.ブラックボックス化は、技術やノウハウを秘匿管理し、外部に非公開とするものです。例えば、コカ・
コーラのレシピは、ノウハウとして秘匿管理されているといわれます。ノウハウ等は、営業秘密として
の要件を満たす場合は、不正競争防止法により保護される可能性があり、また、公証制度等を活用する
ことにより先使用権を確保することもできます。一方で、ノウハウ等を秘匿管理することは大変困難で
あり、退職者等から漏洩したり、そもそも製品のリバースエンジニアリング等による判明等を避けられ
なかったりします。
2.特許:独占化は、特許を出願・権利化して、自者(権利者)でその発明(技術)の実施を独占するも
のです。ただし、特許は、出願・権利化及びその維持に所定の費用がかかること、権利はその権利化し
た国でしか効力が発生しないこと、権利化時にその技術内容が公開されること、特許請求の範囲に記載
された発明の範囲のみ保護されること、他者が実施していた場合は、自ら警告、裁判等をしないと独占
できないこと等に留意する必要があります。
3.特許:ライセンス化は、特許を出願・権利化して、自者(権利者)だけでなく、特定の他者にもその
発明(技術)の実施を許諾(ライセンス)するものです。それにより、権利者が望む限定した者のみに
技術を共有、普及することができます。ライセンスの際に、所定のライセンス料を得ることもでき、(権利化したまま)無償開放することもできます。特許特有の留意事項については、2.特許:独占化と同
様です。また、2.特許:独占化と併せて考えると、特許は、ライセンスの額や相手を調整することに
より、技術の利用の程度を任意のタイミングでコントロールできる手段であるといえます。
4.オープン化は、Web ページや論文等により、技術を公開するものです。公開された情報は、他者が自
由に活用することができます。コストが他の手段よりも低く、特許化が困難又は効果的でない場合や研
18 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
究参入者を増加させることが自らの研究にとっても有効な場合に使われます。また、公開することによ
り、他者の特許化を阻止することもできます。
5.標準化は、技術情報の利用を積極的に行うことを他者と合意する活動であり、その技術情報を利用す
ることを推奨する活動とも言えます。標準となった技術は、基本的には誰でも自由に使える状態になり
ますが、場合により対価が発生する場合もあります。また、標準化機関によりその標準が承認された場
合は公開されます。よって、4.オープン化との差違は、技術の利用が推進されるようにしてあること
が挙げられます(2.4 参照)
。標準とするためにも所定のコスト(特に、策定・合意までの時間と、それ
に向けた人件費)がかかります。
6.技術規制化は、特定の条件の下に技術を利用することを義務づけるものです。当然ながら、最も技術
が普及することとなります。強制規格(法令等によって遵守することが義務付けられている規格)のか
たちで実現することもあります。自者以外の利害関係者の行動が大きく影響するため、他の手段に比べ
自者がコントロールできず、自者が思ったとおりの結果となるとは限りません。
2.6.3 二つのオープン・クローズの概念
特許は、権利化時だけでなく、基本的に出願から 18 か月後にその内容が公開されるものであること(出願
公開制度)を踏まえると、2種類のオープン・クローズの概念が存在することになります(図 2.6.2 参照)。・事業戦略上のオープン・クローズ:技術の開示・共有、普及の程度・手法に関するもの(2.6.1 参照)
・知財実務上のオープン・クローズ:技術情報の公開度に関するもの(2.6.1 参照)
出典:小林誠「IP ランドスケープによる知財情報を活用した技術開発・事業創出戦略」[21]図 2.6.2 オープン・クローズの概念
多くの方が、
知財実務上の概念をオープン・クローズと捉える傾向にありますが、
社会実装を考える上で必
要なのは、知財実務上のものだけではなく、事業戦略上のオープン・クローズとなります。言葉は同じです
が、概念が異なります。以降、オープン&クローズ戦略の概念は、事業戦略上のものとします。
19 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
2.6.4 オープン&クローズ戦略とその効果
オープン領域とクローズ領域とには、それぞれ以下の目的等があります。知的活動の成果や技術情報等の
知的財産をそれぞれの領域に適切に区分、管理し、運用する、つまりマネジメントすることにより、その知的
財産に関する事業上の成果を最大化することが事業戦略を進める上でのオープン&クローズ戦略となります。
表 2.6.2 オープン領域とクローズ領域との対比(その2)
オープン領域 クローズ領域
目的 ・市場規模の拡大 ・市場における収益の確保
位置付け ・コア領域の周辺領域
・他者と協調し、コア技術の普及を
図る共有・関連分野
・コア技術とのインターフェースも
含む場合もあり
・事業上のコア領域
・他者と差別化し、競争力を向上さ
せる価値の源泉
他者への方針 ・複数参入させ、自由競争 ・参入させない
技術の取扱い ・他者も利用可能にする ・自者のみが利用可能にする
代表的な運用手段 ・
(3)特許:ライセンス化・(5)標準化・(1)ブラックボックス化・(2)×ばつ「業界価値における自者のシェア」であるところ、それを最大化する最適条件
を成すように適切な技術開放をする、つまり適切なオープン領域とクローズ領域との使い分け及び両立させ
る(図 2.6.3 における四角形の面積を最大化させる)ことがポイントとなります。
出典:Carl Shapiro and Hal R. Varian「Information Rules」[22](訳はNEDO作成)
図 2.6.3 技術の独占・開放と利益
20 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
ここで、特許は、技術を秘匿、独占する制度ではなく(出願公開制度により技術情報は必ず公開される)、技術の開放度をコントロールし得る手段である(他者へのライセンスの有無と価格により、他者への開放度
を変化させることができる)ことにも注目です[23]。そして、適切にオープン&クローズ戦略を実施した場合は、オープン領域の市場がクローズ領域の市場の
成長を牽引するという現象が発生します[24]。2.6.5 事例
オープン&クローズ戦略の事例としては、例えば以下のようなものがあります。
表 2.6.3 オープン&クローズ戦略の事例
オープン領域 クローズ領域
Nokia 携帯端末、通信規格 基地局、交換機
Google Android OS、ブラウザ等 検索、広告関連技術
Apple 調達部品の仕様 iOS
Bosch エンジンブロックとインジェクタのメカニカルインタフェース エンジン制御のECU
村田製作所 セラミックコンデンサの外部仕様、ピン配列 コンデンサの製造方法
Intel マザーボード等 MPU
2.6.6 オープン&クローズ戦略の考え方
オープン&クローズ戦略は、端的にいえば、知的活動の成果や技術情報等の知的財産をマネジメントする
ことです。よって、各領域の目指す方向に応じた知財マネジメントをすることがオープン&クローズ戦略の
実行となります。
図 2.6.4 は、知財マネジメントの一例です[25][26]
。ここでは、オープン領域とクローズ領域との間に、それら
を接続するインターフェース領域が明示化されています。
21 2. 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
出典:ドリームインキュベータ「Discovery Vol.11」
[25][26]
図 2.6.4 オープン&クローズ戦略と知財マネジメント
また、図 2.6.5 は、具体的なオープン&クローズ戦略の策定の仕方の一例です。図 2.6.5 では、自社が独占
するクローズ領域と、他社に任せる/連携するオープン領域との間にあたるインターフェース領域において、
知的財産権を取得したり、
他社を拘束する契約を締結したりして、
自社に利益をもたらす
「伸びゆく手」
((注記))
を形成することで、自社のコア領域からオープン領域のパートナーへ、ビジネスエコシステムを介して強い
影響力を持たせています。
出典:ドリームインキュベータ「Discovery Vol.11」
[25][26]
図 2.6.5 オープン&クローズ戦略策定ステップ
((注記))
伸びゆく手:
「産業構造が同じ製品や同じシステムを介してサプライチェーンに向けて強い影響力を
持たせる仕組み」
(小川紘一
『オープン&クローズ戦略』
増補改訂版[25]より引用。
詳細は引用元を参照)
22 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
3. 「標準」を特定するための基本的な情報
3.1 成果普及に結びつけるために
特定した「標準」を適切に「普及」させるためには、標準化を独立した活動としないことが重要です。つま
り、
「標準」にすることは、あくまで事業の成功又は課題解決のための手段であるところ、コンセンサス標準
を成立させるだけの単独の成功は意味がなく、事業等の成功こそが最終的な目的・目標であるべきだからで
す。そのためには、技術・市場に関するロードマップや他者、市場の動向を把握し、標準化に関する組織全体
のコミットメントがなされた上で、以下のようなものとの連携・調和を行うべきです。
・事業戦略(市場戦略)
・技術戦略(研究開発戦略・計画)
・知的財産戦略
そして、適切な対応をするためには、適時適当に関連情報を得ることが必要です。そのためには、関連情報
を有していると考えられる以下のような者とコネクションを形成したり、定期会合を持ったり、可能であれ
ば人材交流をするのもよいでしょう。・「標準」を活用して利益を上げる事業戦略(市場戦略)を構築できる、事業や研究開発の企画・管理者
・技術戦略(研究開発戦略・計画)における標準の必要性を理解している、研究開発に携わる研究者、開
発者・「標準」を活用した戦略を構築できる、知的財産戦略の担当者
・標準を作成できる標準専門家等((注記))
(注記)「標準専門家等」
規格開発について、専門的知見又は豊富な活動実績や経験を有する者です。具体的には、以下のよう
な者が挙げられます。規格開発について関心がある場合は、まずは、国内審議団体(6.1.2.3 参照)の事
務局に問い合わせることをお勧めします。さらに技術的なことや海外での規格開発について関心がある
場合は、国内審議団体事務局の担当者が適切な専門家を紹介してくれる場合もあります。
<標準専門家等の例>
・国内審議団体事務局の担当者
・規格開発をする国内関係者(メーカ、ユーザ、学識経験者)
・国内審議団体に設置されている委員会のメンバー
・官公庁や標準関係団体の職員(例えば、各省庁の標準化政策担当部局の職員、一般財団法人日本規
格協会の職員等)
・規格開発に関する政策の調査・研究者
標準専門家等と議論することにより、NEDOプロジェクトに関連する最新の標準化動向を入手でき、ま
た、当該技術分野の関連既存規格を知ることができ、NEDOプロジェクトにおける標準の活用採否がより
適切に判断可能となります。
23 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
3.2 社会実装とルール
開発した技術を社会実装するためには、その技術の価値を高めるため、周辺にある要因の影響を考慮する
必要があります。その要因の一つがルールであり、どのように対応するかが社会実装には重要です。
3.2.1 ルールの概念
ルールには、
法令に基づく規制や税制などの強制的なもの、
デジュール標準、
フォーラム標準やガイドライ
ンなどの関係者間の合意によるもの、慣習やデファクト標準など暗黙の共通理解によるものなど様々な<取
り決め>が含まれます。
また、
ルールを代替しうるものとして、
プラットフォームなどのアーキテクチャがあ
ります[27]。ルールとは、集団・社会における利益等の獲得・向上又は損失等の回避・低減のための、特定の目的の達成
を目指す規則であるといえます。つまり、その集団・社会における価値がポイントとなっています。したがっ
て、
ルールに対しては、
ルールが実現しようとする価値観自体を守るべきであって、
ルールとして定められて
いることを単に守れば良いというものではなく、ルールそのものの存続を守るべきというものでもありませ
ん。
その価値観自体が時代にそぐわない又はその集団・社会の多数の利益に沿わないのであれば、
改変すべき
ものであるといえます。
また、ルールは、うまく設計・デザインし、うまく活用することにより、集団・社会がよりなめらかに、よ
り豊かになるものです[28]。
ルールには、規制される、拘束される、制限される等の不自由にされるとのイメージがありますが、実際に
は、広すぎる自由こそ、かえって不自由になるものです。与えられる選択肢が多すぎる場合、自由度が高すぎ
る結果、往々にして逆に戸惑い、行動ができなくなることがあります。
一方、適切な制約が課される場合、予見可能性が高まり、一定の方向性が与えられるので、かえって思考や
行動の自由が担保されるようになります。
つまり、
この範囲内であれば自由に動いて良いという、
自由が確保
されるわけです[29][30]
。よって、ルールが定まることは、未知への萎縮が緩和し、コンプライアンスを求める大
企業が参入しやすくなり、ビジネスが活発化することにもなります[29]。このように、ルールには、作成・デザインするという面と、運用・活用するという面があることに留意すべ
きです。その上で必要であれば、主体的に、ルールを策定・改変する、ルールを利用することが有効です。
ルールは、
あくまで特定の目的を達成するための道具・ツールですので、
いかに活用するかがポイントであ
り、必要であればアップデートして良いものなのです[31]。3.2.2 ルールに関する情報収集
オープン&クローズ戦略から得られた各種動向には、ルールに関する情報が含まれている可能性がありま
す。技術には直接関係なくとも、ルールは存在します。特に、市場となりうる国・地域の動向については、さ
らに、将来起こりうることも可能な限り把握するようにするとよいでしょう。
24 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
3.2.3 考慮すべきルールを判断する
社会実装するために、既にあるルールが有効なのか、それとも障害となるのか、また、ルールがないところ
に、自分に有利にするためのルールが必要であるかどうかを判断します。
その対応としては、例えば、以下のようにすることが考えられます。
1収集した情報を整理する
2整理した情報について分析する
3判断結果に応じた対応をする
具体的には、以下のとおりです。
1収集した情報を整理する際は、
まず関連する事業・ビジネスの内容を把握することが必須です。
そして、
その事業・ビジネスを遂行する、効率・効果的にするには、どのようなルールが必要であるか、といっ
た観点で情報を整理するとよいでしょう。
2整理した情報について分析する際は、a.既存のルール、b.今後のルール策定の動き、という二つの
視点で分析します[32]。
a.既存のルール:
⇒既存ルールが(あれば)
、自者に有利に働くか不利に働くかを分析します。
b.今後のルール策定の動き:
⇒自者の今後に影響するルール策定の動きがあるかを分析します。
3判断結果に応じた対応としては、例えば、以下のようなものが考えられます(株式会社旭リサーチセン
ター「企業戦略としての国際ルールメイキング」[32]
に一部追記)。a-1.既存のルールが有利に働く場合:
⇒そのルールをうまく利用する方法を検討します。
a-2.既存のルールが不利に働く場合:
⇒そのルールを修正する又は自者に不利とならない内容を追加することを検討します。
b-1.自者の今後に影響するルール策定の動きが有る場合:
⇒その影響を分析し、必要に応じて、静観する、支援する、誘導する、阻止する又は対抗的な提案
を行う等を適宜実施します。
b-2.自者の今後に影響するルール策定の動きが無い場合:
⇒他者に先駆けた自者に有利なルールの策定が必要であるかを検討します。
25 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
株式会社旭リサーチセンター「企業戦略としての国際ルールメイキング」[32]を参考にNEDO作成
図 3.2.1 自者に関するルールの検討
3.3 ルールと「標準」
開発した技術を社会実装するための影響を考慮する要因の一つとしてルールがあり、さらにルールの一つ
として「標準」があります。
「標準」は、その影響を受ける関係者に対して共通に適用されるものです。また、コンセンサス標準は、関
係者の合意により存在するものです。
「標準」は、必ずしも自者が望むようなものとならない可能性がありま
す。このため、後述の4.に示すとおり、適切な対応・活動を行うことが必要となります。他者が自らの意図
や希望を強く反映した内容を
「標準」
として提案してくることもあり、
適宜適時にそのような提案に対応する
必要もあります。
したがって、周辺に「標準」が存在しうるのかを把握することと、存在しうる場合には、これにどのように
対応するかが重要です。
なお、
「標準」は、様々なルールとの組み合わせで効果的に機能することもあるので、まずは、3.2 のよう
に技術の社会実装に必要なルールについて考えた上で、<使える>コンセンサス標準を特定していくとよい
でしょう。
3.3.1 コンセンサス標準の概念
「標準」は、単純化、秩序化のため、技術情報を共有するためのツールと考えられますが、その本質は、関
係者間で利用する形態を検討し、
取り決めとして形にする行為であるとも考えられます。
つまり、
関係者間で
コンセンサスを形成し、普及するようにすることが要点であると考えられます。
昨今では、コンセンサス標準をビジネスに積極的に活用しようとする動きが盛んになってきています。こ
れは、複雑、多様化しつつある現代社会において、ものごとの方針・方向性のコンセンサスを関係者間で得て
ルール化し、そのルールによる制限下で進行していくことが重要、効率的になってきているためと考えられ
ます。
26 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
コンセンサス標準は、
コンセンサスによって形成されるといっても、
関係者それぞれに少なからず有利・不
利が発生します。また、コンセンサス標準を作り、それを維持・メンテナンスするためには、それが社会実装
を実現するルールの一つであることを意識しつつ、
「標準」を特定する目的は何か、メリット・デメリットを
意識し、ルール自体をうまく利用することや、ルールの存在により自者に何らかのメリットが発生するよう
にすることが重要です。
そのためには、
自らの提供する製品やサービスに関するルールに、
どのような標準が既に存在し、
どの程度
の強制力で市場を支配しているかを把握した上で、現状を意識した新たなコンセンサス標準の必要性の検討
をすることが重要です。
また、
自者の都合ばかりを前面に押し出すとコンセンサスは得られないでしょう。
そこで、
最終ユーザのメ
リット、安全や環境、その他社会課題の解決、あるべき社会像等を"大義"とした「標準」とすることにより、
多数の合意が得られやすくなります。
なお、
「標準」を特定する以前の、必要性の検討段階においても、
「〜についての規格を作る/目指す/取り組
む」のように、現場レベルのやることや方針を考えるだけでなく、
「それにより〜を実現する/〜との差異化を
図る/〜の市場をカスタマイズする」のように、事業レベルの達成目的・目標を考えることが重要です。
3.3.2 コンセンサス標準に関する情報収集
情報収集の目的は、使える「標準」をいかに特定するかです。ルールに関する情報収集において、コンセン
サス標準が見つからない場合においても、予測を確認するために情報収集は必要です。
1技術・政策・市場動向の把握
これらは、ルールに関する情報収集として実施するものであり、各種動向には、コンセンサス標準に関
する情報が含まれている可能性があります。特に、市場となりうる国・地域の動向によって、コンセンサ
ス標準を活用している場合もあるので、可能な限り把握することが重要です。
2標準化動向の把握
海外も含め、標準化動向を調査し、把握しておくことは重要です(6.3 参照)
。もし、こちらの意図しな
い規格が検討、制定された場合、せっかく開発した成果の価値が低減したり、無意味なものとなったりし
てしまいます。できれば、公表されている情報だけでなく、萌芽的な関連・間接情報も含めて、把握する
ことが重要です(6.3.4 参照)。3関連する国内審議団体との連携
関連しそうな国内審議団体(6.1.2.3 参照)や各種団体を見つけ出し、連携をしておくことは有効です。
適時の標準化動向の入手や業界動向の把握、適切なコンセンサス標準策定のための意見交換等に活用でき
ると考えられます。
27 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
3.3.3 「標準」を特定する
「標準」を使う/使わないについて判断するに際して、積極的に「標準」を提案するという「攻め」の対応
だけでなく、付加価値(差別化要素)がある分野や、逆に弱みになる部分、技術が発展途上の分野などは、あ
えて「標準」にしないという「守り」の戦術も必要です。
その対応としては、例えば、以下のようにすることが考えられます。
1収集した情報を整理する
2整理した情報について分析する
3判断結果に応じた対応をする
なお、
「標準」を 3.2.3 における「ルール」に置き換えて考えることと同じとなりますが、補足をしつつ繰
り返せば以下のとおりとなります。
1収集した情報を整理する際は、
まず関連する事業・ビジネスの内容を把握することが必須です。
そして、
その事業・ビジネスを遂行する、効率・効果的にするには、どのような「標準」が必要であるか、とい
った観点で情報を整理するとよいでしょう。
なお、
「標準」が技術・政策・市場動向の情報から出てこない場合は、どのようなルールが必要である
かを調べた上で、
「標準」に結びつく情報を導き出してみるのがよいでしょう。
2整理した情報について分析する際は、a.既存の「標準」
、b.今後の「標準」開発の動きという二つの
視点で分析します[33]。
a.既存の「標準」:⇒既存「標準」が(あれば)
、自者に有利に働くか不利に働くかを分析します。
b.今後の「標準」開発の動き:
⇒自者の今後に影響する「標準」開発の動きがあるかを分析します。
3判断結果に応じた対応としては、例えば、以下のようなものが考えられます(株式会社旭リサーチセン
ター「企業戦略としての国際ルールメイキング」[33]
に一部追記)。a-1.既存の「標準」が有利に働く場合:
⇒その「標準」をうまく利用する方法を検討します。
a-2.既存の「標準」が不利に働く場合:
⇒その「標準」を修正する、又は自者に不利とならない内容を追加する(マルチスタンダード化す
る)ことを検討します。
b-1.自者の今後に影響する「標準」策定の動きが有る場合:
⇒その影響を分析し、必要に応じて、静観する、支援する、誘導する、阻止する又は対抗的な提案
を行う等を適宜実施します。b-2.:自者の今後に影響する「標準」策定の動きが無い場合
⇒他者に先駆けた自者に有利な「標準」の策定が必要であるかを検討します。
(注記)3.2.3 の図 3.2.1 でルールを「標準」に置きかえると、理解が進みます。
28 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
3.3.4 コンセンサス標準を考える
「標準」を特定したら、次に、どのようなコンセンサス標準を作るのかを考えます。その際、開発した技術
を一つの「標準」とするのではなく、技術を分割して複数の「標準」とすることも考えてみてください。新し
い技術を一つの新しいコンセプトとして標準開発の場に持ち込む場合よりも、要素ごとに分割して既存技術
に近いコンセプトに見せて持ち込んだ場合の方が、コンセンサスを得られやすくなることもあります。過去
の事例などを参考に複数に分割することも検討してください。
(1)NEDOプロジェクト関連の事例を参照してみる
代表的な事例としては、NEDOプロジェクト関連を中心に、以下があります。
1新技術の普及/市場の拡大
a.正確な情報伝達(相互理解の促進)
・内 容:ファインバブルや抗菌についての用語や評価方法
・活用方法:開発した既存の業界・市場のない新技術について、業界・市場の適切な設定のため、用
語を定義することや対象とする新技術を評価する方法を標準にすることにより、その
意図している技術が明確になります。
b.互換性・インターフェースの確保、正確な情報伝達(相互理解の促進)
・内 容:EV コネクタの形状
・活用方法:EV の性能を最大限に引き出す電圧等に対応した EV コネクタについて、形状を標準に
することにより、互換性が高まり、その効果として EV の普及を促進する。
2環境負荷の低減/地球温暖化防止への貢献、一定水準の品質(性能等)の確保
・内 容:エコセメント、バイオジェット燃料
・活用方法:開発した既存の業界・市場における代替技術について、公共調達や既存の規制などのル
ールに対応させるため、
その性能等を標準にすることにより、
既存のルールに即し、市場化、実用化を促進する。
3安全性の評価、確保のための標準を提案・成立させたもの
・内 容:冷媒(フロン)
、生活支援ロボット
・活用方法:安全性に関する評価方法を標準にすることにより、既存のルールに即し、市場化、実用
化を促進する。
4互換性・インターフェースの確保
・内 容:ORiN
・効 果:仕様を標準にすることにより、データの共有化等のメリットが高まる。
5多様性の制御(最適化、単純化)
・内 容:光触媒
・活用方法:評価方法を標準にすることにより、
製品の性能・効果を客観的に明確化することができ、
不良品等の排除が可能になる。
(2)研究開発とコンセンサス標準との関係を考えてみる
市場化までに様々な検討を要する研究開発段階では、ともすると標準は先のこととされますが、あらゆる
段階で、
「標準」の必要性を検討することが推奨されます[34]。
29 3. 「標準」を特定するための基本的な情報
1研究開発段階(基礎的/要素的な研究)
・効 果:正確な情報伝達(相互理解の促進)
・活用方法:用語や単位などの標準化を通じて、研究への参加を促進し活性化させるとともに、技術
の外縁を自者向きに設定する。
2技術開発段階(製品化/上市を視野に入れた研究)
・効 果:互換性・インターフェースの確保、安全性の確保、環境負荷の低減/地球温暖化防止へ
の貢献
・活用方法:自らが技術開発で用いている評価方法や仕様を標準化し、自らの技術の優位性をアピー
ルする。
3製品化段階(製品化、量産化技術の確立)
・効 果:多様性の制御(最適化、単純化)
、一定水準の品質(性能等)の確保
・活用方法:既存の技術・環境との比較のための評価方法や仕様を標準化し、旧来製品・技術との
差を明確化する。
4上市段階(市場での取引)
・効 果:一定水準の品質(性能等)の確保、生産効率の向上・コスト削減
・活用方法:高機能・高品質製品の差別化(クラス分け)がなされるよう標準化し、製品・技術との
差を明確化する。
3.3.5 コンセンサス標準のタイミング
規格を有効に活用するためには、規格開発フェーズに入る時期も見極めることが重要です。規格開発フェ
ーズはある程度の時間を要するため、
「標準」が必要となる時期から逆算して、規格開発フェーズに入る必要
があります。その一方で、早く規格開発フェーズに入ろうとすると、策定したい「標準」の内容が不明瞭であ
ったり、並行して行われる研究開発(計画)と整合がとれなかったり、他者の理解やコンセンサスが得られな
かったりすることもあり得ます。
別の観点では、
「遅すぎる標準化は無駄なコストを生み、早すぎる標準化はイノベーションの芽を摘む」[35]
ともいわれています。よって、種々の状況を総合的に考慮、計画して、適切なタイミングで標準化に適宜対応
していくことが重要です。
標準化のタイミングを考える上で考慮すべき周辺事項としては、例えば、以下が挙げられます。
・関連する研究開発の計画、進捗状況や目途
・自者の市場化や製品化の計画、予定
・特許出願の公開、権利化の時期
・競合又は協調する他者の動向や意向
・市場の動向、技術やサービスの将来展望、進展目標
・コンセンサス標準の策定動向
30 4.規格開発マネジメント
4. 規格開発マネジメント
2.及び3.において、
「標準」を特定するための手法、具体的には、情報を収集し、コンセンサス標準と
してどのような規格がありうるのか、
また提案のタイミングといった道筋を説明しました。
ここでは、
規格開
発をマネジメントするためのチェックポイントを整理します。
4.1 規格開発マネジメントの必要性
規格開発は、
「標準」を特定するための工程や研究開発を実施するための工程とは別の作業となります。そ
のため、
規格開発に際しては、
規格開発に不可欠な情報を収集した上で、
コンセンサス標準を意識したビジネ
スモデルを構築し、規格開発の戦術を考えるとともに、並行して、人材確保・体制構築及び予算面を適切に手
当てする必要があります。特に、NEDOプロジェクトの中で、成果目標として「標準」を作ることを明確に
位置づけたものにおいては、プロジェクトマネジメントを適切に行うだけでなく、関連する規格開発マネジ
メントについても平仄を合わせつつ適切に行う必要があります。
4.2 規格開発マネジメント上のポイント
プロジェクトにおける規格開発マネジメントにおいては、開発成果の社会実装した姿を念頭におくことが
重要です。
規格開発マネジメント上の具体的な手法としては、
1プロジェクトの全ての関係者(プロジェクト管理者やプロジェクト実施者、研究開発担当者、標準化の
交渉担当者等)がプロジェクトの目的(将来ビジョン)を共有すること
2プロジェクトの目的(将来ビジョン)に基づき、開発成果を社会実装するための手段として標準化を行
うこと
3プロジェクトの成果を「標準」につなげるために必要となる仲間づくりも行うこと
が挙げられます。
このような規格開発マネジメント上のポイントをプロジェクトや標準化の各段階における重要度と併せて
まとめると、表 4.1 のようになります。プロジェクトの成果目標として標準化を明確に位置づけたプロジェ
クトにおいては、当該表を参照し、適切な規格開発マネジメントを行ってください。
また、事業者の事業化に標準化を位置付ける場合も参考となります。
31 4.規格開発マネジメント
表 4.1 チェックポイント
くろまるプロジェクトや規格開発における段階
1研究開発企画段階:プロジェクトを企画立案する段階
2規格開発検討段階:規格案のスコープを策定する段階
3規 格 開 発 段 階:規格案を提案し、規格策定に向けた活動を行っている段階
4規 格 発 行 後 段 階:規格発行後に、技術革新に伴う改正作業や他の改正提案に対する対応などを検討する段階
くろまる重要度
にじゅうまる:特に重要
しろまる:重要
規格開発におけるフェーズ 1 2 3 4
1.情報
(1)先行技術や既存規格について十分な調査を行っているか にじゅうまる にじゅうまる
先行技術や既存規格についての情報を得ることは、規格提案の構成や内容に影響するだ
けでなく、規格開発を有利に進める適切な場やタイミングの選択にも重要。
他分野も含めて調査することで、他分野の既存規格を応用できる可能性有。(2)国際標準化機関への対応の場合、
他国の動向など交渉に必要な情報収集ができている
か。
にじゅうまる にじゅうまる にじゅうまる しろまる
規格開発は交渉(合意点の模索)に他ならない。議論を有意義なものとするために、他
国や競合企業などの動向や意向をできるだけ把握。
2.市場において利益を上げるための戦略(戦略の中に含まれる「標準」を確認する)
(1)コンセンサス標準を視野に入れた戦略シナリオとビジネスモデルとが描けているか にじゅうまる にじゅうまる
コンセンサス標準を活用して市場獲得につなげる戦略シナリオやビジネスモデルを想
像。
コンセンサス標準のみならず、ルールの観点から市場獲得(又は市場創造)に向けた道
筋を描くことが重要。
理想的に進むグッドシナリオだけでなく最悪の事態を想定したバッドシナリオまで幅広
く検討。
「デファクト標準」で進める、又は「標準にしない」方が市場で優位なポジションを築
ける場合は、
「デファクト標準」や「標準にしない」ことを選択。
(2)各プレーヤーの役割は明確か
にじゅうまる にじゅうまる
にじゅうまる にじゅうまる
サプライチェーンやそれに対する補完産業、国、NEDO、産総研等の試験研究機関な
ど、戦略を効果的に実行するために、プレーヤーの姿や役回りを明確化。
規格のユーザ、国内審議団体(原案作成団体)
、国、NEDO、産総研等の試験研究機関
など、戦略を効果的に実行するために、プレーヤーの姿や役回りを明確化。
3.標準をとるための戦術
(1)コンセンサス標準に持ち込む場は適切か にじゅうまる
標準化機関でデジュール標準を目指すのか、スピード重視のフォーラム標準を目指すの
か、どこの場が効果的かといった検討は重要。
規格開発は交渉(合意点の模索)に他ならないため、人間関係の構築が重要。
既に人間関係ができあがっているコミュニティの外部から唐突な提案を持ち込んでも拒
否される可能性有。
(2)提案に持ち込むタイミングは適切か にじゅうまる
技術の完成度が高くこだわりが強くなればなるほど他国との調整の余地が僅少、
一他方、
技術の完成度が低いと他国の賛同が得られない。
(3)国内での調整を行う段取りはできているか しろまる にじゅうまる しろまる
国内で規格開発をマネジメントするのは、ISO 及び IEC において国内審議団体であり、
JIS においては原案作成団体、これらの協力無くして規格開発は困難。
(4)国際標準化の場合、海外の仲間づくりに向けたアクションをとっているか にじゅうまる にじゅうまる しろまる
海外においても交渉を進める上での良好な協力関係を整えておくことが重要。
提案した規格についても、自らの提案を強硬に押し付けるのではなく、協働して一緒に
つくっていくという Win-Win 関係構築のスタンスが重要。
32 4.規格開発マネジメント
国際標準化を意識した早い段階で、意志決定への影響力が大きい者が誰であるかを見極
め、ライトパーソンを含めた関係者との関係構築に着手することが重要。規格案の賛否
投票においては特に重要。
国際会議のオフィシャルなテーブルだけでなく、相互理解を前提とした人間関係の構築
が必要。
(5)規格開発の経験やスキル、交渉力のあるキーパーソンを確保し、会議には適任者を派
遣しているか
にじゅうまる にじゅうまる しろまる
持ち込む場の作法や暗黙のルールに精通し、他国のキーパーソン等との人脈を持つ人材
が交渉チームに入ることが重要。
規格開発の交渉(合意点の模索)を決裂させずに巧くまとめることができるような人材
が必要。
規格のライティングを行う人材も必要。
国際標準化機関の会議においては、交渉力を備えた人材、技術力を備えた人材が会議に
出て規格の摺り合わせを行うことが重要。
適任者を継続的に派遣することでコミュニケーションを重ねさせる等の配慮が必要。
(6)知的財産戦略に精通したキーパーソンを確保しているか にじゅうまる にじゅうまる しろまる
標準には競争領域と非競争領域の棲み分けを図る面もある。特に製品に近い領域になる
ほど連携に後から支障を来さないよう、知的財産戦略にも精通した人材がチームに入る
こと。
(7)規格開発に必要な予算を計画的に確保しているか にじゅうまる にじゅうまる しろまる
国際会議に参加するための海外渡航費や国際会議の開催費、規格案を審議するための委
員会運営費、規格提案内容の技術的な根拠となるデータ取得等試験費や研究員人権費等
の活動費が必要。
経済産業省の戦略的標準化加速予算を獲得しようとする場合は国内審議団体等と調整が
必要。
4.プロジェクト体制
(1)適切なプロジェクト体制を構築しているか しろまる にじゅうまる にじゅうまる
研究開発と規格開発とが連携しながら進捗できるマネジメントがなされる体制が構築さ
れ、実際に運用されていることが重要。
(2)プロジェクト関係者の意識啓発をしているか しろまる にじゅうまる にじゅうまる
プロジェクトの関係者がビジョンや戦略を共有し、規格開発に理解を示していることが
重要。
(3)規格開発人材が職場の理解や適切な評価を得られるようなサポートを行っているか にじゅうまる しろまる しろまる
標準化についての社内認知や人材育成の必要性の理解の醸成が必要。
(4)規格開発を継続し、規格のメンテナンスを行う適切な体制を整えているか(人材の確
保を含む)
しろまる
規格の開発や改正の状況などの情報を得るため、また、規格に技術の進歩を取り入れる
改正をして市場成長にあったツールとするために、国内審議委員会へ継続的に参加でき
る体制を構築することが必要。
33 5. NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」
5. NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」
「標準の戦略的活用」
は2段階からなり、
NEDOプロジェクトにおけるそれぞれのタイミングに応じて、
どの段階まで実施する必要があるか決まります。
5.1 技術戦略策定時
NEDOで策定する「技術戦略」は、国内外の技術・産業・政策動向を踏まえた上で、 解決すべき社会課
題や実現すべき将来像を設定し、その解決に向けた技術開発を含む実現手段を取り纏め、その実現に向けた
シナリオやエコシステム等を検討、議論するための資料[36]
となります。そのため、技術戦略策定時には、社会
実装のツールの一つとなり得る「標準」についての検討が必要です。
また、検討の結果として、目指すべき「標準」がない、又は見通しが立たないということもありえます。
技術戦略策定時は、どのような「標準」があれば、戦略目標を達成できるか、といった観点で検討します。
例えば、
ある高品質・高性能な材料を普及させることがゴールである場合、
その材料の特徴となる特性を市
場にアピールすることによりその材料の普及を図ることを狙って、
その特性を際立たせる評価方法を
「標準」
とし、その技術分野における客観的、統一的な評価試験方法とする、といったことが考えられます。ただし、
研究開発段階で用いた評価方法をそのまま
「標準」
にした場合、
評価方法を使った後発企業が技術を早期に獲
得してしまう可能性があります。そのため、評価方法を標準にする場合にあっても、工夫が必要です(具体は
例えば、江藤学「標準化ビジネス戦略大全」[37]を参照)。具体的には、基本的事項を活用しつつ(2.参照)
、社会実装に有効なルールを特定し(3.2 参照)、「標準」
が有効かどうかを判断します(3.3.3〜3.3.4 参照)
。判断に当たっては、何をどこで稼ぐかが記載されたエコ
システムを基にしたオープン&クローズ戦略の構築による、オープン領域の存在が前提となります。
オープン領域での戦略を実現していく場合、Web ページや論文発表のような一方向の情報提供で事足りる
場合もあります。また、その先の双方向の情報交換が必要な場合にあっても、
「標準」ではなく、その他のル
ール(法規制、公共調達、商習慣等)が重要な場合もあり、さらには、想定する輸出国・地域によっても異な
ります。
なお、検討の際には、十分な情報収集も必要です(3.3.2 参照)
。さらに、必要に応じて標準専門家等(3.1
参照)との議論をすることが有効です。
また、新規分野の場合、参照すべき事例がないこともありますので、その場合は、類似の分野での情報を入
手しましょう。
5.2 基本計画策定時
基本計画の策定では、技術戦略策定時の検討結果を基に「標準」について記載していきますが、これには、
例えば以下の二つのパターンがあります。
34 5. NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」
1研究開発項目の中で規格開発を求めるパターン。
(これは、NEDOプロジェクトの目標を達成する上で
規格が有効な場合に用いられます。)2「研究開発成果の取扱い」として、定めるパターン。
(例:
「得られた事業成果については、しろまるしろまるを普及
させるために、標準化への提案等を積極的に行う。
」等)
それぞれ、以下の対応が求められます。
1の場合は、NEDOで「標準の戦略的活用」について考える必要が出てきます。技術戦略策定時での検討が
ベースとなりますが、技術戦略策定時に、
「標準」の見通しが立たない場合にあっても、NEDOプロジェ
クトとして取り組む技術の絞込みとオープン領域の適切な設定とがなされれば、
目指すべき
「標準」
を特定
できるかもしれません。
そのためには、
技術戦略策定時に実施した結果を基に更なる調査を行い
(3.2、
3.3.2
参照)
、改めて、標準の戦略的活用を検討する(3.3.3〜3.3.4 参照)ことが有効です[38]。
なお、結果として、見通しが立たないとした場合でも、その後状況が変化する可能性があるので、NEDO
プロジェクト実施期間中も適宜、検討を行いましょう。
2の場合は、
「標準の戦略的活用」については研究の進捗を踏まえ検討します。事業化計画に「標準」の活用
について記載された場合は、研究開発マネジメントの中で規格開発が行われているかを確認する必要があ
ります。ただし、規格開発は、研究開発の外で行われることがほとんどなので、事業者から適宜状況を聴取
して、達成状況を確認します。
5.3 公募審査時
5.2 の1のように、
研究開発項目の中で規格開発を求める場合は、
事業者の提案にある手法について実現可
能性が高いかについて審査します。5.2 の2のように、事業者が事業化計画において実用化・事業化の取組の
方策の一つとして「標準」の活用の見込み等を記載した場合は、その「標準」の活用の妥当性について審査し
ます。
5.4 NEDOプロジェクト期間中
毎年度の実施方針の策定時には、必要に応じて、研究開発項目からブレークダウンした形で「標準」につ
いて言及することで、事業者にきめ細やかに規格開発に向けた作業を行ってもらうことができます。
また、事業化計画に当初「標準」の活用について言及されていない場合にあっても、周囲の状況により「標
準」
が有用となることがあるので、
事業者に対しては、
可能な限り早期からの情報収集を推奨しておくとよい
でしょう。
さらに、NEDOプロジェクト期間中に行われる中間評価[39]
では、そのNEDOプロジェクトが規格開発
に関する事項を計画している場合、その戦略や計画の妥当性について評価されますので、その評価結果をN
EDOプロジェクトに反映します。
また、NEDOプロジェクト実施中においては、事業者によって、規格開発マネジメント(4.参照)が行わ
れているかをチェックすることも必要です。
35 5. NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」
5.5 NEDOプロジェクト終了後
事業終了後に、事業者等からNEDOに規格開発に関する相談や問合せがあることも考えられます。
相談や問合せへの対応としては、例えば、以下が挙げられます。
1標準化に関する有益な情報をまとめたサイトの紹介
・NEDO「標準化に関するお役立ち情報」
https://www.nedo.go.jp/activities/tsc_useful_info.html
2経済産業省の事業(例えば、標準化に関する支援関連)の紹介
3相談窓口(事業者等からの直接問合せも可能)の紹介(NEDOプロジェクトの研究開発成果の標準
化に関する場合等)
・NEDO 技術戦略研究センター 標準化・知財ユニット
E-mail:ip-mng@nedo.go.jp (@は半角)
36 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介6.「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
「標準」の戦略的活用を進める上で、NEDO外部に存在する「標準」に関連する周辺情報を知り、適切に
標準化を行うことは大事なことです。そのような関連する周辺情報としては、例えば、組織、制度、ツールが
あります。
6.1 関連する組織
標準化を行う上で、関連する組織体は、様々なものがあります。
6.1.1 省庁
日本においては、政府機関が制定している「標準」もあります。そうした「標準」については、必要に応じ
て、それを所管する政府機関の情報の調査、収集、確認を行うことが大切です(例えば、表 6.1.1)。なお、政府における標準化関連政策の司令塔は知的財産推進本部です。Web ページでは、標準化に関する
日本としての方針を確認することができます。
くろまる知的財産推進本部
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/index.html
表 6.1.1 政府機関が制定している「標準」の情報をまとめた Web ページの例示
官庁 所掌部局 該当 Web ページ 関係規格
経済産業省 しろまる産業技術環境局
・基準認証政策課
・国際標準課
・国際電気標準課
・JISC(日本産業標準調査会)
https://www.jisc.go.jp/index.html
・経済産業省「標準化・認証」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-
kijun/index.html
ISO、
IEC、JIS農林水産省 しろまる大臣官房新事業・食品産
業部食品製造課
・基準認証室
・農林水産省「JAS」
https://www.maff.go.jp/j/jas/index.htmlJAS総務省 しろまる国際戦略局
・通信規格課
・総務省「情報通信技術の標準化ホームページ」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/
hyojun/index.html
ITU―T
また、国土交通省もNEDOプロジェクトに関係が深い規格を所掌していますので、技術内容に応じて調査、確認が必
要となる場合があります。
6.1.2 国家標準化機関等
国家標準化機関は、
自国の国家標準の承認を行っています。
また、
国家標準化機関はISOやIECに加盟
し、国際規格の作成を行っています。
37 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
6.1.2.1 日本の国家標準化機関
JISC(日本産業標準調査会)は、経済産業省に設置されている審議会組織(事務局:経済産業省産業技術
環境局基準認証政策課)です。具体的には、ISO、IECに対する我が国の国家標準化機関として国際規格
の策定作業に参加すると共に、JIS(日本産業規格)の制定、改正等に関する審議等も行っています[40]。また、個々の国際規格の策定作業やJISの原案作成作業の活動は、JISCの事務局である経済産業省
ではなく、JISCが承認した国内審議団体(ISO、IEC(6.1.2.3 参照))、業界団体や認定産業標準作
成機関(JIS)が担っています[41]。なお、ITU (International Telecommunication Union、国際電気通信連合)については、日本(総務省国
際戦略局)は、構成国として加盟しているほかに、電気通信業に関係する企業や団体が部門構成員(Sector
Member)等として参画しています。
6.1.2.2 海外の国家標準化機関
ISOやIECに加盟する海外の国家標準化機関は、欧米では政府機関ではなく、公的な非営利団体とな
ります。
欧米の政府機関は、
ISO規格やIEC規格のユーザの立場から、
必要な規格の策定に参加していま
す。
6.1.2.3 国内審議団体
日本では、ISO、IECの技術専門委員会(TC)/分科会(SC)毎にJISCから承認を受けて国際
標準化を担っている国内審議団体が存在します。
国内審議団体は、国際規格の策定作業への参加義務が生じるものの、国際規格の提案ができるPメンバー
(Participating member)
、又は国際規格の提案はできないものの、策定作業の情報を入手できるOメンバー
(Observing member)のいずれかの属性に所属しています。
国内審議団体は、学識経験者、メーカ、ユーザや政府関係者等から構成される国内審議委員会を設置し、国
際規格案などの審議を行います(Pメンバーの場合)
。具体的には国際規格の提案をISOやIECに行うこ
とや、
海外等から提案された国際規格について、
日本としての対処方針を審議し、
国内での合意形成を図りま
す。
その審議された内容をもって、
我が国唯一の国家標準化機関であるJISCの代表として、
ISOやIE
Cでの審議に臨むこととなります。
NEDOの成果の国際標準化に際しては、事業者である企業の技術者や研究者が、国内審議委員会に参加
し、提案の裏付けデータとともに、標準としての必要性を主張し、国内での合意形成を行い、また、必要に応
じてISOやIECでの審議にも参加することになります。
国内審議団体は、約300あり、それらは、一般社団法人日本規格協会か、当該技術分野の業界団体や学術
団体となります。
<国内審議団体一覧>
https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0500/index/dev/std_list/
国際規格の提案や情報収集を行う際は、国内審議団体へ、国内審議団体が存在しない場合は経済産業省へ
38 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
の相談を検討してください。
6.1.2.4 一般社団法人日本規格協会
一般財団法人日本規格協会(JSA、Japanese Standards Association)は、企業における標準化のサポ
ートやJISの原案作成等を行っている団体です。
具体的には、
企業における標準化のサポートとして、
各種規格や標準関連書籍の出版、
標準化関連の研修を
しています。その研修には、標準化セミナーの開催や標準化教材の提供があります。また、経済産業省から受
託し、標準化活用支援パートナーシップ制度や新市場創造型標準化制度の運営も行っています。
標準の調査・入手をする場合、標準化について習得しようとする場合、事業者が既に何を「標準」にするか
決めていて、ISO規格、IEC規格、JISを開発したいと考えた際には、一般社団法人日本規格協会への
アクセスを検討してください。
6.2 経済産業省の標準化施策
経済産業省では、標準化の戦略的活用を推進すべく、施策を実施しています。その中から、NEDOの事業
活動に関係が深いものを例示します。
これらは、
事業者が、
標準化で困っているときに使えるツールとなりま
すので、問合せがあった際は、活用してください。
6.2.1 経済産業省の標準化関連事業
経済産業省では、例えば、以下の標準化関連事業を行っています。
1戦略的国際標準化加速事業(一般会計)
2省エネルギー等に関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費(エネルギー対策特別会計)
これらの事業では、以下を行っています。
・国際標準開発活動(実証データの収集を通じた国際標準原案の開発・提案等)
・国際標準化戦略を強化するための体制構築(次世代標準化人材育成等)
国際標準開発活動では、標準化テーマ(標準開発テーマ、標準化フィージビリティ・スタディテーマ等)を
募集する
[42][43]
と共に、その標準化テーマに係る事業の受託者を公募しています。代表的なスケジュールは、以
下のとおりです。
・10 月頃 :標準化テーマを募集(実施テーマの選定は翌年 2 月頃)
・翌年5月頃 :選定された標準化テーマについて実施事業者(企業、民間団体等)を募集
実施事業者として選定された者には、当該事業の受託者として規格開発に要する経費について精算により
支弁されますので、国際標準開発をしようとする際は、本事業の利用も検討するとよいでしょう。
なお、
過去にNEDOで行われていた戦略的国際標準化推進事業
(標準化フォローアップ事業、
標準化調査
研究事業、開発成果標準化フォローアップ研究事業)は、2010 年度に終了しています。
39 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
6.2.2 新市場創造型標準化制度
新市場創造型標準化制度とは、既存の業界団体等では対応ができない、複数の関係団体にまたがる融合技
術・サービスや特定企業が保有する先端技術等に関する標準化を可能とするため、新規の原案作成委員会等
の立ち上げを後押しする制度です[44]。一般に、既存の業界団体等が規格の原案を作成しますが、以下のような場合[44]
では、そうした団体が対応す
ることが困難でした。
・制定しようとする規格の内容を扱う業界団体が存在しない
・制定しようとする規格の内容を扱う業界団体は存在するが、
その規格開発の検討が行われる予定がない、
行われる時期が自らの希望と合わない
・制定しようとする規格の内容が複数の業界団体にまたがるため調整が困難な場合
本制度は、経済産業省から受託した一般財団法人日本規格協会の支援により、このような場合における新
規の原案作成委員会等の立ち上げを後押しするものです。
出典:一般財団法人日本規格協会「新市場創造型標準化制度」[44]図 6.2.1 新市場創造型標準化制度の活用イメージ
以下のような場合に、本制度を利用するとよいでしょう。
・複数の業界団体等に関係するような横断的技術について標準を開発する場合
・特定の企業のみが保有する先端技術について標準を用いて信頼性向上を図りたい場合
・中堅・中小企業等で業界団体等の協力を得にくい場合
40 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
なお、
本制度の採択に関して、
作成しようとする規格の内容が、
新市場の創造や産業競争力の強化といった
政策目的に合致すること及びJIS又はISO規格、IEC規格として発行されうるものであることが採択
条件となっています。また、本制度の事前相談・申請先は、一般社団法人日本規格協会です。
6.2.3 標準化活用支援パートナーシップ制度
標準化活用支援パートナーシップ制度とは、経済産業省が実施する施策として、標準化支援を行う一般財
団法人日本規格協会がパートナー機関と連携し、
標準化に関するサポートを通じて、
企業等の優れた技術・製
品の国内外の新市場創造等を支援するものです。
具体的には、
標準化アドバイザーによる、
標準化の戦略的活
用に関する情報提供・助言等の支援が行われます。
出典:経済産業省「標準化活用支援パートナーシップ制度」[45]図 6.2.2 標準化活用支援パートナーシップ制度の支援スキーム
NEDOは、本制度におけるパートナー機関として(2021 年 2 月登録)
、NEDOプロジェクト参画の中
堅・中小企業に対し、一般財団法人日本規格協会と連携して標準化アドバイザーによる支援の機会を無料で
提供します。これにより支援を受ける中堅・中小企業等での標準化を活用した社会実装面での課題(技術・製
品の普及・拡大等)の解決が期待されます。
NEDO事業に関連で、
本制度に係る支援を希望する場合は、
技術戦略研究センター 標準化・知財ユニッ
トまで相談ください。
41 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
6.3 規格の調査・検索方法
6.3.1 規格の類型
一口に規格といっても、規定する内容によって、様々な類型が存在します。JISにおいては、以下の定義
があります。
しかくJIS Z8002 標準化及び関連活動-一般的な用語[46]
(抜粋)
用語 定義
基本規格 用語、記号、単位、標準数など適用範囲が広い分野にわたる規格、又
は特定の分野についての全体的な記述事項をもつ規格。
用語規格 用語に関する規格であって、通常、用語の定義を伴い、ときには説明
のための備考、図解、例なども伴うもの。
試験方法規格 試験方法に関する規格であって、ときにはサンプリング、統計的方法
の使用、試験順序などのような試験に関連する記述事項を含むもの。
製品規格 目的適合性を確実に果たすために、製品又は製品群が満たさなければ
ならない要求事項を規定する規格。
プロセス規格 目的適合性を確実に果たすために、プロセスが満たさなければならな
い要求事項を規定する規格。
サービス規格 目的適合性を確実に果たすために、サービスが満たさなければならな
い要求事項を規定する規格。
インタフェイス規格 製品又はシステムの相互接続における両立性に関する要求事項を規定
する規格。
提供データに関する規格 特性の一覧を内容とする規格であって、製品、プロセス又はサービス
を規定するために、それらの特性に対する値又はその他のデータを指
定するもの。
6.3.2 規格の検索、照会
規格の検索、照会については、その状況に応じて、いくつかの方法があります。
(1)調査しようとしている規格が既知の場合
当該規格を策定、
管理している標準化機関の Web サイトにアクセスするとよいでしょう。
ほとんどの場合、
各標準化機関の Web サイトには、当該標準化機関が管理している規格を規格番号や規格名称等から検索、照
会することができるサイトがあります。
(2)調査しようとしている規格を既知でなく、規格名称から規格を調査する場合
例えば、以下の Web ページから調査を始めるとよいでしょう。この Web ページでは、国際規格や外国規
格等を含め、規格名称(標題)を日本語で、一括、横断的かつ簡易に検索することができます。
くろまる日本規格協会グループ
JSA GROUP Webdesk > 規格・書籍・物品
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0010/
42 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
出典:日本規格協会グループ Web ページ[47]図 6.3.1 JSA GROUP Webdesk での検索イメージ
(3)調査しようとしている規格を既知でなく、規格内容から規格を調査する場合
例えば、以下の Web ページから調査を始めるとよいでしょう。この Web ページでは、JISについて、
規格本体(内容)を日本語で検索することができます。JISは、国際規格(ISO/IEC規格)と整合し
ていますので、JISを検索することにより、間接的に対応する国際規格の検索が日本語でできます。
くろまるJISC(日本産業標準調査会)
JIS検索 「JIS 規格に使用されている単語から JIS を検索」
https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html
規格・書籍・物品
「すべて」
を選択
規格名称(標題)に
含まれる検索語を入力
規格の種類
別検索結果 選択により、結果
表示切り替え
43 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
出典:日本産業標準調査会 Web ページ[48]図 6.3.2 JISC での検索イメージ
(4)その他
国内の各業界団体規格や国外各国の規格、地域規格や国際規格を含めた各種規格の検索については、以下
が詳しいです。
くろまるリサーチ・ナビ(国立国会図書館)[49]
ホーム/資料の種類から調べる/規格・特許・テクニカルリポート類/規格
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/patents/standard/list.html
6.3.3 規格資料の入手及び閲覧
各規格は、規格票又は書籍として発行・公表され、多くの場合は有償で頒布されています。また、図書館等
において閲覧できる場合もあります。
(1)Web サイトからの入手
ほとんどの場合、当該規格を策定、管理している各標準化機関の Web サイトから入手できます。また、一
般財団法人日本規格協会では、JIS、ISO 規格、IEC 規格のほか、BS 規格などの国外の規格も取り扱っていま
す。
くろまる日本規格協会グループ
JSA GROUP Webdesk > 規格・書籍・物品
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0010/
(2)図書館における閲覧
図書館では、
各種規格資料を所蔵しており、
閲覧することができます。
規格資料が充実している図書館とし
ては、例えば、以下の図書館が挙げられます。
・一般財団法人日本規格協会 ライブラリ(東京都港区三田)
https://www.jsa.or.jp/jsa/jsa_lib/
・神奈川県立川崎図書館 (神奈川県川崎市高津区(溝ノ口))https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/find-books/kawasaki/kikaku/
・国立国会図書館 (東京都千代田区永田町)
https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-400077.php
44 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
(3)JISの Web サイトにおける閲覧
JISの場合、JISC(日本産業標準調査会)の Web ページから閲覧(無料、ダウンロードや印刷は不
可)できます。
くろまるJISC(日本産業標準調査会)
ホーム > 産業標準化と JIS > JIS の入手閲覧方法
https://www.jisc.go.jp/jis-act/reading.html
6.3.4 規格開発の動向調査
標準は、
それを利用する者又は関係する者に影響を与えます。
したがって、
新規規格の制定に関する情報や
既存規格の改正に関する情報等の標準に関する動きを把握しておくことは、非常に重要です。
6.3.4.1 考え方
規格開発の動向には、
これらの新規規格の制定又は既存規格の改正に関する情報
(当然に、
その前提となる
関連する既存規格情報も含む。
)以外にも、例えば、それら制定や改正に向けた動向も含むものと考えられま
す。
さらに、制定や改正に向けた動向についても、各標準化機関における公式な制定・改正の動向と、それ以外
の標準化機関外の非公式な制定・改正の動向(例えば、個者、複数の関係者又は関係団体内での規格に関する
動き)が含まれると考えられます。また、制定や改正に向けた動向には、対象や影響範囲の情報(制定や改正
を行おうとする標準化機関の情報、改正を行おうとする規格情報、関連・影響する国・地域情報等)
、関係す
る者(プレイヤーやステークホルダー)の情報が含まれるものと考えられます。
図 6.3.3 規格開発の動向
規格開発の動向
1新規規格の制定情報
2既存規格の改正情報
制定や改正に向けた動向
各標準化機関における公式
な動向
標準化団体外の非公式な動向 45 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
6.3.4.2 国際標準化機関における規格開発プロセス
国際標準化機関では、定められた手順に従い、規格が制定、改正されます。例えば、ISOやIECにおい
ては、以下の段階を経て規格が制定・発行されます。
表 6.3.1 規格開発プロセスの段階と文書名称
# 段階 文書名称
1 提案段階:
新規作業項目(NP)の提案
New work item Proposal
2 作成段階:
作業原案(WD)の作成
Working Draft
3 委員会段階:
委員会原案(CD)の作成
Committee Draft
4 照会段階:
国際規格原案(DIS/CDV)の照会及び策定
Draft International Standard (ISO)
Committee Draft for Vote (IEC)
5 承認段階:
最終国際規格案(FDIS)の策定
Final Draft International Standard
6 発行段階:
国際規格(IS)の発行
International Standard
ここで、2 作成段階は、WG(作業グループ、Working Group、提案された TC/SC に設置)で行われ、3
委員会段階は、TC(技術専門委員会、Technical Committee)又は SC(分科委員会、Sub Committee)で
行われます。
日本から規格を提案するような場合には、この国際標準化機関における提案段階の前に、国内審議団体で
の提案を審議する段階が存在することになります。
標準化動向を調査する場合は、
このような制定、
改正における一般的な開発プロセスを理解しておくと、調査がよりスムーズ、適確になるでしょう。
6.3.4.3 規格開発動向の調査、入手
標準化動向については、その調査内容に応じて、以下のような様々な入手方法が考えられます。
(1)標準専門家等の知見
標準専門家等は、
その技術分野における規格の状況、
背景等に最も知見がある者と考えられますので、
標準
専門家等と意見交換、議論することにより、適切な標準化動向を包括的に入手できるでしょう。
一方で、適切な者を見つけるのが容易でない、新興の技術分野では標準専門家等がそもそもいないという
面もあります。
(2)海外標準化動向レポート
経済産業省は、
海外標準化動向を配信しています。
当該レポートは、
ルール形成等の視点で動向を分析する
ものであり、標準化情報に加えて周辺情報も調査・分析しています。
46 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
NEDO内では、イントラから当該レポートへアクセスできます。
(3)経済産業省の Web サイト(制定・改正情報)
経済産業省の Web サイトでは、国際規格の発行状況やJISの制定・改正情報等を提供しています。主な
ものは、例えば、以下があります。・「国際標準化情報など」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/kokusai-hyojun-joho.html・「ISO 照会中の案件(新 TC の設置など)」https://www.jisc.go.jp/international/iso-comment_renew.html・「最新の JIS 情報」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/jis-joho.html・「
(JIS の)作業計画・作成状況の公開」
https://www.jisc.go.jp/jis-act/plan-ref.html
(4)標準化機関の Web サイト(制定・改正情報)
各標準化機関の Web サイトでは、規格の制定や改正に関する情報を提供していることもあります。
また、規格の制定や改正に向けた動向について提供していることもあります。例えば、ISO、IECにお
ける公式な制定・改正の動向は、以下のように調査できます。
しかくISO
1. 調査対象TCの確認:
TC一覧「Technical Committees」
https://www.iso.org/technical-committees.html
2. 当該TCにおける進行中案件の確認:
当該TCの「STANDARDS UNDER DEVELOPMENT」を選択
(さらに該当SCの「STANDARDS UNDER DEVELOPMENT」を選択)
3. 当該TC(又はSC)の状況、内容を調査:
(注記)現在の状況(STAGE)の定義等については、以下を参照
「International harmonized stage codes」
https://www.iso.org/stage-codes.html
しかくIEC
1. 調査対象TC(又はSC)の確認:
TC/SC一覧「List of TC/SCs」
https://www.iec.ch/technical-committees-and-subcommittees#tclist
2. 当該TC(又はSC)における進行中案件の確認:
当該TC/SCの「Projects / Publications」を選択
3. 当該TC(又はSC)の状況、内容を調査:
(注記)現在の状況(Current Stage)の定義等については、以下を参照
「Standards development stages」
https://www.iec.ch/standards-development/stages
47 6.
「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
(5)標準化機関の Web サイト(WTO/TBT に基づく情報)
標準化機関によっては、規格の作業計画を公表しているところもあります。これは、WTO/TBT 協定に基
づくものであり、同協定には、標準化機関(standardizing body)は、少なくとも6か月に1回、現在立案さ
れている及び直前の期間において制定された任意規格(standard)を含む作業計画(work programme)を
公表することが規定されています(附属書3 J)[50]
。よって、この作業計画を参照することにより、規格の
制定状況等を把握することができます。
各標準化機関の作業計画は、ほとんどの場合、当該標準化機関の Web サイトで提供されています。また、
以下では、世界中の標準化機関の作業計画が提供されています。
・WTO ISO STANDARDS INFORMATION GATEWAY「LIST OF STANDARDIZING BODIES」
https://tbtcode.iso.org/sites/wto-tbt/list-of-standardizing-bodies.html
標準化動向の調査については、その調査背景、調査目的に応じて、その調査内容を適宜柔軟に変更させつ
つ、周辺情報や関連情報も含めて実施するとよいでしょう。
48 7.参考文献・引用情報
7. 参考文献・引用情報
7.1 引用、参考資料
1 本ガイドラインについて
・[1]経済産業省「JIS Z8002 標準化及び関連活動-一般的な用語」
、日本規格協会
2 「標準の戦略的活用」を考えるための基本的な情報
2.1 NEDOにおける「標準の戦略的活用」とは
・[2]国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDOについて」、https://www.nedo.go.jp/introducing/index.html
2.2 「標準」の効果
・[3]一般財団法人日本規格協会(2017)「知的財産と標準化によるビジネス戦略」、https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11445538/www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/te
xt/document/h29_jitsumusya_txt/32_pp.pdf
・[4]江藤学ほか(2016)『標準化教本』
、2.ビジネスと標準化、日本規格協会
2.3 「標準」の分類
・[5]産業技術環境局基準認証ユニット(2016)「標準化実務入門(標準化教材)」、第1章 標準化概要、
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/jitsumu-
nyumon/pdf/2015text_zenbun.pdf
・[6]江藤学ほか(2016)『標準化教本』
、1.標準化の基礎知識、日本規格協会
・[7]経済産業省「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」
、1 標準化の概要、
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/business-senryaku/pdf/001.pdf
2.4 「標準」の経済学的効果
・[8]経済産業省産業技術環境局基準認証政策課(2018)
「知的財産と標準化によるビジネス戦略」、https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11239397/www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h30_jits
umusya_txt/34_pp.pdf
・江藤学ほか(2018)「教則 標準化とビジネス」
、第3章、
https://www.jsa.or.jp/jsa/jsa_edu_kyouzai/
・[9]江藤学ほか(2016)『標準化教本』
、1.標準化の基礎知識、日本規格協会
・[10]産業技術環境局基準認証ユニット(2016)「標準化実務入門(標準化教材)」、
第2章 経済活動としての標準化、
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/jitsumu-
nyumon/pdf/2015text_zenbun.pdf
2.5 標準化と知的財産
・[11]江藤学(2019)「戦略的標準化活用について」NEDO内部研修資料
・[12]江藤学ほか(2016)『標準化教本』
、4.特許と標準化、日本規格協会
49 7.参考文献・引用情報
・[13]経済産業省「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」
、2 標準化をビジネスで用いるための戦略、
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/business-senryaku/pdf/002.pdf
・[14]鈴木康裕(2010)「標準知財獲得のための取り組み」
、特技懇 258 号、
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/258/258tokusyu2-4.pdf
・[15]鶴原稔也(2014)「技術標準に係わる必須特許と IPR ポリシー 〜FRAND 条件とは何か,権利行使を制
限すべきか〜」
、特技懇 273 号、
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/273/273kiko1.pdf
・[16]特許庁ほか(2009)「パテントプール」、https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/developing/training/textbook/document/index/patent_pools_jp
_2009.pdf・[17]産業技術環境局基準認証ユニット(2016)
「標準化実務入門
(標準化教材)」、
第7章 知的財産と標準化、
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/jitsumu-
nyumon/pdf/2015text_zenbun.pdf
・[18]江藤学(2021)『標準化ビジネス戦略大全』
、第5章、日本経済新聞出版
2.6 オープン&クローズ戦略
・[19]経済産業省「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」
、2 標準化をビジネスで用いるための戦略、
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/business-senryaku/pdf/002.pdf
・[20]江藤学ほか(2018)「教則 標準化とビジネス」
、第8章、
https://www.jsa.or.jp/jsa/jsa_edu_kyouzai/
・[21]小林誠(2019)「IP ランドスケープによる知財情報を活用した技術開発・事業創出戦略」
、NEDO内部
研修資料
・[22]Carl SHAPIRO, Hal R. VARIAN(1998)『Information Rules -A Strategic Guide to the Network
Economy-』Harvard Business Review Press
・[23]江藤学(2021)『標準化ビジネス戦略大全』
、第8章、日本経済新聞出版
・[24]立本博文(2017)『プラットフォーム企業のグローバル戦略』
、有斐閣
・[25]小川紘一(2015)
『オープン&クローズ戦略』増補改訂版、翔泳社
・[26]ドリームインキュベータ(2014)「Discovery Vol.11」、https://prtimes.jp/a/?c=10437&r=7&f=d10437-20141201-3143.pdf
3 「標準」を特定するための基本的な情報
3.1 成果普及に結びつけるために
・鈴木 康裕(2010)「標準知財獲得のための取り組み」
、II.2.(3)、
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/258/258tokusyu2-4.pdf
・次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会(2010)
「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に向けて」
、II.2.、https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11249964_po_0020139.pdf?contentNo=1&alternativeNo=3.2 社会実装とルール
・[27]官澤康平ほか(2021)『ルールメイキングの戦略と実務』
、株式会社商事法務
50 7.参考文献・引用情報
・[28]水野祐(2014)「ルールを乗り越えるための創造性はいかに生まれるのか」、https://www.iamas.ac.jp/iamasbooks/wp-content/uploads/2017/04/kiyou-vol6.pdf
情報科学芸術大学院大学紀要 第6巻・2014年
・[29]水野祐(2017)『法のデザイン』
、フィルムアート社
・[30]水野祐(2021)「ルールという制約が生み出す自由」、https://workmill.jp/webzine/rule-tasukumizuno-20210825.html
・[31]馬田隆明(2021)「政治と規制を"ハック"する」
、セッションスライド、
https://2021.pmconf.jp/sessions/vNpl9ZQD
・[32]株式会社旭リサーチセンター(2016)「企業戦略としての国際ルールメイキング」、6 ルールメイキングのために検討すべき点、
https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-1000.pdf
・JETRO「ルール形成戦略とは」、https://www.jetro.go.jp/theme/standards/rulemaking.html
・経済産業省(2019)「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」、https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002-1.pdf・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)
「NEDO研究開発マネジメントガイドライン」、https://www.nedo.go.jp/content/100881348.pdf
3.3 ルールと「標準」
・[33]株式会社旭リサーチセンター(2016)「企業戦略としての国際ルールメイキング」、6 ルールメイキングのために検討すべき点、
https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-1000.pdf
・[34]江藤学ほか(2018)「教則 標準化とビジネス」
、第8章、
https://www.jsa.or.jp/jsa/jsa_edu_kyouzai/
・[35]江藤学(2021)『標準化ビジネス戦略大全』
、第8章、日本経済新聞出版
5 NEDOプロジェクトにおける「標準の戦略的活用」
5.1 技術戦略策定時
・[36]国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 第4期中長期計画」
、p18、
https://www.nedo.go.jp/content/100944292.pdf
・[37]江藤学(2021)『標準化ビジネス戦略大全』
、日本経済新聞出版
5.2 基本計画策定時 〜 5.4 NEDOプロジェクト期間中
・[38]国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「NEDO研究開発マネジメントガイド
ライン」、https://www.nedo.go.jp/content/100881348.pdf
・[39]NEDO HP「研究評価・事業評価」、https://www.nedo.go.jp/introducing/kenkyuu_houkoku_index.html
6 「標準」関連の組織・制度・ツール紹介
6.1 関連する組織
51 7.参考文献・引用情報
・[40]JISC Web ページ「JISC について」
、https://www.jisc.go.jp/jisc/index.html
・[41]産業技術環境局基準認証ユニット(2016)「標準化実務入門(標準化教材)」、
第5章 国際標準化機関及び国際標準の制定、第6章 日本の標準制度全般、
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/jitsumu-
nyumon/pdf/2015text_zenbun.pdf
・JISC Web ページ「ISO/IEC 事務処理要領」、https://www.jisc.go.jp/international/isoiec-ref.html
・江藤学ほか(2018)「教則 標準化とビジネス」
、第1章、
https://www.jsa.or.jp/jsa/jsa_edu_kyouzai/
・江藤学ほか(2016)『標準化教本』
、6.ISO、日本規格協会
・経済産業省産業技術環境局国際標準課(2020)「標準化の戦略的意義及び国内外の動向」、https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/METI.pdf
・日本規格協会 Web サイト、https://www.jsa.or.jp/
6.2 経済産業省の標準化施策
・[42]経済産業省(2021)「令和4年度に実施すべき標準化テーマ等に関する調査」、https://www.jisc.go.jp/news_and_information/R3FY_11/20211101theme-study.htm
・[43]経済産業省(2021)「令和 4 年度に実施すべき標準化テーマ等についての調査を開始しました」、https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211104001/20211104001.html
・[44]一般財団法人日本規格協会「新市場創造型標準化制度」、https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/dev/md_5269.pdf
・[45]経済産業省「標準化活用支援パートナーシップ制度」、https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/partner/index.html
・経済産業省(2020)「中小企業のための標準化活用ガイド」、https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/hyoujyunka/data/hyoujunka_guidebook.pdf
・経済産業省 齋藤充(2018)「標準化の戦略的活用の支援について」、https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/dev/md_4243.pdf
6.3 規格の調査・検索方法
・[46]日本工業標準調査会「JIS Z8002 標準化及び関連活動-一般的な用語」
、日本規格協会
・[47] 日本規格協会 Web サイト、https://www.jsa.or.jp/
・[48] JISC Web ページ「JIS 検索」、https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html
・[49]国立国会図書館「リサーチ・ナビ」
、規格、
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/patents/standard/list.html
・[50]日本産業標準調査会「WTO/TBT 通報について」、https://www.jisc.go.jp/cooperation/wto-tbt-rep.html
・日本産業標準調査会「ISO 規格の制定手順」、https://www.jisc.go.jp/international/iso-prcs.html
・日本産業標準調査会「IEC 規格の制定手順」、https://www.jisc.go.jp/international/iec-prcs.html
52 7.参考文献・引用情報
この標準化マネジメントガイドラインに関する問合せ先は、以下となります。
・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)
技術戦略研究センター (TSC)
標準化・知財ユニット E-mail:ip-mng@nedo.go.jp (@は半角)
7.2 問合せ先
©NE DO S eptember, 2022
NEDO標準化マネジメント
ガイドライン
Management
Guideline
for Standardization

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