第3回東京イミグレーション・フォーラム
UNHCR国際保護総局長による講演【仮訳】
2023 年 12 月 21 日(木)
ご来賓の皆様、
私は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国際保護総局の局長として、第 3 回東京イミグレーショ
ン・フォーラムでこの講演を行う機会を頂いたことを大変光栄に思います。 東京イミグレーション・
フォーラムは、出入国在留管理庁のリーダーシップのもと、移民に関する各国の情報や実践を共有し、
意見を交換するための定期的なプラットフォームであり、国家間の協力を強化する重要な役割を果た
しています。 UNHCR は、今年のフォーラムにご招待くださり、また、私たちの見解を共有する機会を
提供してくださった出入国在留管理庁に感謝申し上げます。
世界における難民、強制移動を強いられた者、無国籍者の状況
地域内および地域間の移動によって引き起こされる課題
このような移動を管理する様々な国において、より強固な国家間の協力と包括的な措置を通じ
て、どのように保護と解決策を強化できると UNHCR が考えているか
迫害、紛争、暴力、人権侵害、社会秩序を大きく乱す混乱により、故郷を逃れざるを得ない人々の数
が世界的に増加し続けています。そこに気候変動による強制移動が加わり、今後の状況はさらに厳し
いものになるであろうと推測されています。
そのため、長期化する紛争や新たに発生し続ける人道危機によって強制移動を余儀なくされる人々の
数が、年々記録的なレベルで増加の一途をたどっており、今日、約 1 億 1,400 万もの人々がそのような
状況に置かれているのです。そのうちの過半数以上を占める 6,250 万人は国内避難民です。しかし、難
民の数もここ数年間で過去最多の 3,640 万人に上り、その大多数が出身国の近隣諸国に逃れ保護を求め
ています。こうした傾向は、グローバル経済移民の増加や、人口停滞・減少する国々での労働力の需
要の増加が続く中で変化しています。
ここで重要なのは、人々の移住の大半は安全で秩序ある正規なものであり、移民にとって出身国と目
的国にはさほど大きな差がないということです。その一方で、多くの地域や国では、難民と移民が混
在した状態での移動や、難民の複数の国をまたいだ移動(onward movement)が増加しています。これ
らを管理することは、特に国家にとっては容易ではなく、またいかなる特定の状況に対しても、世界
的なレベルで考えても、簡単な解決策はありません。
国連難民高等弁務官は、2023 年 10 月に開催された第 74 回執行委員会において、「人身取引などのリ
スクの高いルートに沿う移民と難民が混在する移動は、私たちが直面する最大の課題の一つとなって
います。このような人の移動の問題に取り組むことは、移民・難民の目的地の国だけでなく、その移
動ルートの途中に位置する国や移民・難民の出身国にとっても、困難なことです」と述べました。一
部の地域は強制移動や無国籍にかかる問題の影響をより受けやすい一方で、移民・難民が混在する人
の移動や複数の国をまたいだ移動のルートや傾向は様々であり、これは各地域に共通する課題である
と同時に世界中の国々が直面している課題です。
第 3 回東京イミグレーション・フォーラムに参加されている各国政府の皆様は、故郷を追われた人々
の目的地の国、移動中に通過する国、そして出身国の政府として、それらの人々に寛容さを持って安
全を提供すると同時に、労働目的の人の移動を管理することにも長年の実績を持ってらっしゃいま
す。 また、このような分野において、海難救助による人命救助や人身取引・密輸撲滅の重要性も良く
理解されています。私は、これらの重要な課題に取り組む皆様の努力を称え、その協力と具体的な措
置を継続的に実施されることを奨励いたします。
ここで、今後このような人の移動を管理する上での UNHCR が掲げるいくつか基本原則と、これまで提
案されてきたいくつかのアプローチについて、言及させていただきたく思います。
UNHCR は、難民や移民が混在する人の移動に対する取り組みを進めるため、IOM との協力のもと、各
国政府の関与も含めた『ルート・ベース・アプローチ(route-based approach)』を発展させてきまし
た。このアプローチは、難民や移民が利用する主要なルート上で彼らが直面するあらゆる状況を考慮
したものとなっています。
ルート・ベース・アプローチは、海上・陸上における『人命救助』を重視しており、すべての関係各
国やパートナーはこれを引き続き最優先事項として取り組むべきです。また、関係各国が国家の主権
と国際法を尊重する形で入国管理を行い、故郷を追われた人々に保護を提供できるように支援するこ
とを目的としています。そのために、UNHCR は包括的な措置の実施を提案しています。これらの措置
は、3 つのカテゴリーに分類することができます。
第一に、故郷を追われた人々に、その避難・移動のなるべく早い段階で国際的な保護を提供し、解決
策を見つけ出すことです。また、そのような人々の尊厳や人権を尊重しつつ対応することも重要で
す。
これには、保護のニーズに配慮した入国・上陸制度の導入が含まれ、ある国家の領土で庇護を求める
個人のニーズと、ノン・ルフールマンの基本原則を含む国際人権法・難民法を尊重するという国家の
義務の両方を考慮に入れたものであるべきです。また、人身取引や密輸撲滅を防止することも念頭に
置いて設計されるべきであり、目的地の国を含む避難・移動のルート全域において導入する必要があ
ります。
このルート・ベース・アプローチにおいては、難民のための庇護制度の強化と、人権に基づく移住管
理制度の強化が、もう一つの重要な要素です。適正に機能している庇護制度は、庇護審査を多様な案
件処理手法を用いて公正かつ迅速に行い、真に国際的保護を必要とする者とその他の理由で移動する
者を短時間で特定することができるため、難民と移民の混在した人の移動を管理するための重要なツ
ールです。このような制度は、迅速かつ人道的な帰国と組み合わせ、かつ正規の移住手段と補完し合
うことで、国際的保護を必要としない人々の庇護申請に迅速に対応することができます。
難民と移民の混在した人の移動と強制移動が増加する中で庇護制度を強化するためには、革新的なア
プローチをとることや、他の好事例から学ぶこと、そして関係各国間で責任の分担をすることが必要
不可欠となります。この責任分担を具体的に実現させるための一つの方法として、地域社会そして国
際社会において庇護能力の強化のための取り組みに携わることが挙げられます。難民に関するグロー
バル・コンパクトの下に設立された、庇護能力支援グループ(Asylum Capacity Support Group)は、各国
が他国に対して、庇護能力を強化するための支援を効果的な形で提供し、公正で迅速な庇護手続の実
施に関する専門的知見の蓄積に貢献できる、鍵となるメカニズムです。
早急に必要とされている保護と支援に対応し、人身取引や密輸に包括的に対応することもまた非常に
重要です。人身取引の被害者の法的安全、社会・心理的安全、そして身体的安全は、その被害者が司
法にアクセスし、密売人の告発に貢献するためには必須です。
第二に、安全で秩序ある正規の移住のための法的な手段と、難民の地元経済への組み込みを確立する
ことが必要です。
難民のための正規の受入れの経路が必要であり、それらは、家族の再統合、民間団体またはコミュニ
ティーによるスポンサーシップ、人道的受入れプログラム(humanitarian admission programmes)、教
育や就労の機会を通じた受入れなど、第三国定住プログラムや庇護制度を補完するものとなります。
また、ルート・ベース・アプローチにおけるもう一つの要素は、移動のルート上に位置する国々で、
保護と人権に基づいた選択肢を確保しておくということです。ほとんどの難民は、出身国の近隣諸国
または出身地域内の国々に滞在しており、物理的にいる場所で保護を受けることができるようにする
ことが重要です。したがって、難民をその国の教育や保健などの行政サービスに包含し、これらの行
政サービスに適切にリソースを充当することは等しく重要です。これらの取り組みを支援するための
開発援助は、このルート・ベース・アプローチの一要素を構成するべきものです。
最後に、国際的な保護を必要とせず、労働目的などの移住の正規の機会を利用できない人々に対し
て、その根本的な原因や、出身国へ迅速かつ安全で尊厳のある形で帰国するための支援が必要です。
お聞きいただきましたとおり、ルート・ベース・アプローチは、国家中心の対応策を補完・補強し、
また、主要な移動ルートに位置する関係各国と他のステークホルダーに対して、対象の特定と調整を
行った上での保護と支援の提供を提案するものです。強制移動と移民と難民が混在する移動に取り組
むことは、人々の目的地の国、移動中に通過する国、そして出身国、これらのすべての国々の関係者
にとって複雑な課題です。その取り組みには、国際的な協力、リソース、長期的な投資が必要とされ
ます。
以上にご説明したルート・ベース・アプローチの戦略的な建付けと具体的な内容は、それが実施され
る地域の文脈に合わせて調整しなければいけません。例えば、アジア・太平洋地域において UNHCR
は、東南アジアの海路および陸路を使って移動するロヒンギャ難民の保護を強化し、その解決策を模
索するため、ルート・ベース・アプローチを実施する上でどのような機会と課題があるのか、マッピ
ング作業を既に始めています。ロヒンギャ難民の移動に関して包括的に取り組むために、この地域レ
ベルのルート・ベース・アプローチを策定する目的でタスクチームが設立されました。責任分担と関
係各国の関わりが、このアプローチの成功の鍵となります。
ルート・ベース・アプローチは、ニューヨーク宣言、難民に関するグローバル・コンパクト、並びに
安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクトの趣旨に基づいており、またコンサルテ
ーション・メカニズムに限らず、ASEAN およびバリ・プロセスの目的にも合致しています。
最後に、従来と比較してはるかに大規模になってきている国際的な人の移動は、グローバル化する今
日の社会の現実です。国際的な保護を求め、またそれを必要とする人々は、彼らを受け入れる国に対
してプラスの貢献をもたらすでしょう。人々が移動を繰り返す必要性は、そのような移動をより効果
的に管理することである程度減らすことができる余地はあると考えており、そのために私たち UNHCR
は、アジア太平洋地域の国々やその他のパートナーの皆様とともに、この問題に取り組んでいくこと
を強く約束します。
ご清聴ありがとうございました。