法制審議会 刑事法(再審関係)部会 第9回会議 議事録 第1 日 時 令和7年10月31日(金) 自 午前 9時32分 至 午後 0時18分 第2 場 所 中央合同庁舎第6号館A棟5階会議室 第3 議 題 1 審議 「再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧・謄写」 2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議 事 しろまる今井幹事 ただいまから法制審議会刑事法(再審関係)部会の第9回会議を開催いたします。 しろまる大澤部会長 本日も御多忙のところ御出席くださり、誠にありがとうございます。 本日は宇藤委員、小島幹事、井上関係官、寺田関係官はオンライン形式により出席されています。なお、宇藤委員は所用のため、途中で退出されると承っております。 議事に入る前に、前回の会議以降、委員の異動がございましたので紹介させていただきます。 谷滋行氏が委員を退任され、新たに重松弘教氏が委員となられました。 重松委員に簡単に自己紹介をお願いしたいと存じます。 しろまる重松委員 10月21日付で警察庁刑事局長に着任をいたしました重松と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 しろまる大澤部会長 どうぞよろしくお願いします。 それでは、これから議事に入りたいと思いますが、それに先立ちまして、前回会議で示されました更なるヒアリングの御提案と、当部会の議事の公開に関する御要望について、検討の結果を御報告させていただきます。 まず、更なるヒアリングの御提案については、前回会議において実施すべきとする御意見があった一方で、調査審議の時間の制約等の観点から、実施に消極的な御意見もありました。 そこで双方の御意見を踏まえて検討させていただきました結果、既に実施したヒアリングや1巡目の議論により、各論点についての検討に必要な情報は基本的に共有されていると思われます上、諮問をされた法務大臣ができる限り早期の答申を期待する旨述べられており、当部会における調査審議にかけることができる時間にも制約があることなども踏まえますと、この段階で更なるヒアリングを実施することについては控えることとさせていただきたく存じます。 他方で、更なるヒアリングを実施する代わりに、何らかの代替的な手段を採ることができないかということについては、引き続き検討をしたいと考えているところでございます。 まず、更なるヒアリングについて以上のように考えたところでございますが、何か御意見等ございますでしょうか。 しろまる鴨志田委員 私は、前回このヒアリングを是非とも行うべきだという立場で御意見を申し上げました。その考えは全く変わっていません。 福井女子中学生殺害事件は、もっとも直近で再審無罪が確定した事件であると同時に、通常審の段階における検察官の証拠の不提出ということが、開始決定や確定無罪判決の中で裁判所によって厳しく糾弾されてます。また、そのような意図的な証拠隠しを行う一方で、検察官が不服申立てをして第一次再審の開始決定が取り消されているという事情もあるため、こういった具体的な経過を、当事者や弁護人からお聞きするということは、なお重要であると考えます。 そこで、代替措置に関してですけれども、これは私ども、第4回で私の名前で資料を出させていただいているんですけれども、こちらはどちらかというと客観的な立場からの資料でございますので、やはり当事者や弁護人の方から、その立場で今のような事実なり情報なりを提供するような資料の提出ができないかということを検討しております。ヒアリングを行わないのであれば、是非ともそのような資料の提出をお認めいただきたいと考えております。 しろまる大澤部会長 御提案ありがとうございました。 ほかには御意見等ございますでしょうか。 しろまる田岡幹事 大澤部会長から、ヒアリングを行わない理由として、必要な情報は基本的に共有されているという御説明がございました。また、前回会議でも、成瀬幹事及び宮崎委員から、必要十分な情報が得られているという発言がございました。しかし、この認識には問題があるのではないかと思います。 私も、この度の2巡目の議論に当たって、福井事件の弁護団に連絡を取りまして、証拠開示請求書としてどのような証拠開示を求めたのか、その結果、どのようにして287点の証拠が開示されたのか、そして、なぜ通常審では開示されなかった証拠が、再審請求審の段階で開示されたのかということの説明を受けました。これらの情報は立法事実として非常に重要なものでございまして、いまだこの部会では十分に認識が共有されているとは言えないように思われます。 したがって、ヒアリングを行わないというのであればやむを得ないかとは思いますけれども、必要な情報が基本的に共有されているとは言えず、やはり代替措置は不可欠であると考えます。 しろまる大澤部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 しろまる村山委員 今のお二人と基本的には一緒なのですけれども、やはり是非聞いていただきたいという気持ちは、非常に私は強く持っていました。 ただ、部会長の判断でヒアリングを行わないということであれば、やはり代替措置として、当事者の生の声に近いものが、この場で共有できるような措置を採っていただきたいと思います。鴨志田委員提出の資料というのは、鴨志田委員の法律家としての観点からまとめたものでありまして、やはり当事者としては、どういうところを強調したいかという話が当然あるわけです。ここはやはり再審請求の難しさというものを如実に物語るものがあると思いますので、是非ともそういった形で代替措置を講じていただきたいと、このように思います。 しろまる大澤部会長 よろしいでしょうか。 先ほども申し上げましたように、更なるヒアリングにつきましては、時間の制約もあることなども踏まえ、この段階としては控えるということでございますが、御指摘がありましたように、いろいろと生の情報を頂くということはこの部会にとって大変貴重なことであると認識しておりますので、代替措置につきましては、是非引き続き検討していきたいと思います。委員、幹事から御提案があったような対応は十分考えられるところかとも思いますので、そのような御要望といいますか御意見をいただければ、おって事務当局を通じて調整させていただきたく存じます。 そのような形でよろしいでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 ありがとうございます。 次に、当部会の議事の公開に関する御要望についてでございます。 前回会議において事務当局から説明がありましたとおり、法制審議会の会議につきましては、法制審議会議事規則上公開しないこととされておりますところ、当部会については、「新時代の刑事司法制度特別部会」の場合とは異なり、法制審議会総会において、議事の公開について部会で決することができる旨の決議はなされておりません。 したがいまして、当部会の議事については引き続き非公開とするということにさせていただくこととなり、この点については是非御理解を賜りたく存じます。 そのようにさせていただくということで、御理解いただけますでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 ありがとうございます。それでは、通常の議事に戻りまして、事務当局から本日お配りしました資料について説明をしてもらいます。 しろまる今井幹事 本日は、配布資料7及び8をお配りしております。これらは、1巡目の議論におきまして、それぞれの論点に関し委員、幹事の皆様から示された検討課題等について、部会長の御指示の下、事務当局において整理したものでございます。 配布資料7は、「論点整理(案)」「1 再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧・謄写」に、配布資料8は、「論点整理(案)」「5 再審請求事件の管轄裁判所」にそれぞれ対応しております。 本日お配りした資料の御説明は以上です。 しろまる大澤部会長 資料について御意見、御質問等がございましたら、時間も限られておりますので、関連する論点についての議論の際に御発言を頂ければと存じます。そのように進めさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 それでは、諮問事項の審議に入りたいと思います。 事務当局から説明がありましたとおり、1巡目の議論において皆様から示された御意見を踏まえて、論点ごとに事務当局に「論点に関する検討課題等」を作成してもらいましたので、本日はこの資料に沿って2巡目の議論を行っていくこととしたいと思います。そのような進め方とさせていただくことで、よろしゅうございますでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 それでは、2巡目の議論を始めたいと思いますが、それに先立ちまして、毎回のことになりますが、一言述べさせていただきます。 委員、幹事の皆様におかれましては、できる限り多くの方に御発言いただく機会を確保するとともに、意見交換がかみ合ったものとなりますよう、1巡目の議論において既に御発言されたことについては、重複して発言することはなるべく控えていただき、仮に既になされている御発言と同趣旨の内容を御発言される場合には、前になされた御発言の骨子を引用するにとどめていただくなど工夫していただいて、できる限り御発言をコンパクトにまとめていただきますよう、引き続き御理解、御協力をお願いいたします。 また、各規律の検討に当たりましては、1巡目で示された検討課題を克服できるか、どのようにして克服できるかが重要であると思われますので、2巡目の議論におきましてはこの点を意識していただいて、検討課題について掘りの深い議論が行われることを期待したいと思います。 それでは、配布資料7に沿いまして、「1 再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧・謄写」のうち、「(1) 再審請求審における閲覧・謄写に関する規律を設けるか」について審議を行いたいと思います。 この論点につきましては、「(1) 制度の枠組み」から「(6) その他」まで、6つの検討項目が上がっておりますので、検討項目ごとに審議を行うこととし、まず「(1) 制度の枠組み」について、審議を行いたいと思います。非常に時間が限られておりますので、先ほど申しましたが、ポイントに焦点を当てたコンパクトな御発言を心掛けていただけますようお願いをいたします。 御意見等がある方は挙手をお願いいたします。 しろまる田岡幹事 「(1)」及び「(2)」を含めて「1 再審請求審における閲覧・謄写に関する規律を設けるか」の全体について質問をさせていただいた上で、意見を述べたいと思います。 1点目に、「(1)」では、「A案」は「裁判所に提出させるものとする」、「B案」は「開示させるものとする」という表現が使われておりますが、これが提出させることができるという権限を定める規定であるのか、提出を命じなければならないとする義務を定める規定であるのかが明確ではありません。仮に権限を定める規定であるとすれば、原則は権限がないことを前提に、一定の範囲の証拠のみ権限があるとすることになりますから、むしろ一定の証拠以外は権限がないと、裁判所の権限を制約する根拠となり得るものと理解できます。他方で、義務を定める規定だとしますと、裁判所に一般的な権限があることを前提に、一定の範囲の証拠の開示を義務付ける規定となりますので、両者は全く性格が異なると思われます。日弁連改正案445条の10、河井私案20条及び議連法案衆法第61号の444条の4は、命じなければならないとする義務の規定であり、権限の規定ではありません。「(1)」及び「(2)」を議論する前提として、どちらの趣旨であるのかを明確にしなければ議論が混乱するように思われますので、事務当局に御説明いただきたいと思います。 2点目に、「(1)」では、「提出させるものとする」表現が用いられておりますが、当然のことながら、事実の取調べそのものと事実取調べの準備行為としての記録の取り寄せは別の問題です。つまり、記録を取り寄せた上で、その全てを事実取調べの対象とすることもあれば、その全てを事実取調べの対象とはせずに、再審請求人に閲覧・謄写をさせた上で、一定の証拠のみ、つまり関連性及び必要性が認められるもののみ証拠請求をさせて取り調べるということもあり得ます。そのため、この「提出させる」という行為が、事実取調べそのものであると理解をされているのか、事実取調べの準備行為としての記録の取り寄せであると理解されているのか、事務当局に御説明をいただきたいと思います。 3点目に、「(1)」では、「検察官に命じて」という表現が用いられておりますが、この「検察官」は、再審手続に関与する検察官、いわゆる立会する検察官という意味で立会検察官と呼びますが、という理解でよろしいのかどうか。つまり、裁判所不提出記録を保管しているのは保管検察官であり、第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官ですから、必ずしも立会検察官と同一の検察官とは限りません。この場合、立会検察官は、記録を保管しておりませんので、裁判所に提出するに当たっては、保管検察官から記録を取り寄せなければならないと思われますが、「A案」を前提とする場合、あるいは「B案」を前提とする場合でも、立会検察官は保管検察官等から記録を取り寄せた上で開示するということを想定されているのかどうか、事務当局に御説明をお願いいたします。 しろまる玉本幹事 事務当局からお答えいたします。 まず、本日の配布資料は事務当局として積極的な制度案をお示ししたというものではなく、飽くまでも1巡目の議論を踏まえて、各検討項目について2巡目の議論に資するように検討課題等を整理したと、そういう性格のものですので、その点を御理解いただきたいと思います。 その上で、「提出させるものとする」という記載は、義務か権限かというところを整理した上でお示ししたものではなく、事実の取調べそれ自体と位置付けるのか、その準備行為と考えるのかにつきましても同様でして、いずれも、今後の議論の中で御検討いただくべき事柄かと思っております。 「検察官に命じて」の「検察官」の意義も同様ですが、事務当局としては、手続に関与した検察官が保管検察官から取り寄せて提出するというイメージで作成したところです。 しろまる大澤部会長 よろしいでしょうか。「A案」と「B案」というのは、裁判所に提出するのか、弁護人又は再審請求者に開示するのかというところにポイントがあって、それ以上のところはこの部会で更に議論して詰めていくべき課題ということになるのかと思います。 ほかに御発言いかがでしょうか。 しろまる鴨志田委員 今の田岡幹事の発言に少し関わるのかもしれませんけれども、「A案」、「B案」というのは、いずれも最初から「裁判所が」と始まっていますので、裁判所が裁量でこのような証拠開示をするというような形にどうしても読めてしまうんですね。 「(4)」のところに、別の項目として「請求権を認めるか」というものが出てくるのですけれども、やはり制度の枠組みの根幹として、再審請求人の請求を契機とした裁判所の開示命令が認められるか、それが義務なのか権限なのかというところは、制度の枠組みに関わる問題だと思うので、ここで一緒に議論すべきものではないかと思います。 しろまる大澤部会長 ほかにいかがでしょうか。 今の点は、鴨志田委員のおっしゃられるような捉え方もあるかと思いますが、他方で異なる問題が言わば交錯して出てくることになって、かえって議論が複雑になる面もあるかもしれないということでこういう整理になっているのかと思いますが、この枠組みで議論するということは難しいですか。 しろまる鴨志田委員 いや、これだと、「裁判所に提出させる」か「再審請求者又は弁護人に開示させる」かの、どちらを採るかということだけになっています。それをもって「制度の枠組み」というような立て付けで考えるのかというところに違和感があります。これでは、もう提出先がどちらですかという話だけになるように思うんです。 しろまる大澤部会長 「(1)」が「制度の枠組み」と書いてあるから重く見え過ぎるのかもしれませんけれども、一つずつ論点を解決していくといいますか、議論していくという意味で、まずこれが挙がっているということで、請求権の話が後ろにあるのが別に軽い話になっているというわけでもないと理解しております。そのような理解ということで、更に議論を進めるということについてどうでしょうか。 しろまる鴨志田委員 それはよろしいんですけれども、そうであれば、ここの部分は、「裁判所に提出させる」か、「再審請求者又は弁護人に開示させる」かだけに関わる議論だという前提で、この後の議論をしていただきたいと思います。 しろまる大澤部会長 ただ、先ほど田岡幹事が言われたような、義務なのか権限なのかといったような問題というのは、ここの中で少し議論しなければいけない問題なのかもしれません。 それでは、できれば中身に入って御意見賜りたいと存じますが、いかがでございましょうか。 しろまる田岡幹事 事務当局の御説明を踏まえて上で、「1」の「(1)」に関する意見を申し上げます。 私としては、「B案」が合理的であると考えますけれども、仮に「A案」を採るのであれば、裁判所に提出された証拠の閲覧・謄写権を保障すること、及びその閲覧・謄写をする弁護人が必要になりますから、国選弁護制度をもうけることが不可欠であると考えます。 趣旨を敷衍して御説明いたします。 確かに、再審請求手続は職権主義の手続ではありますが、再審請求人の請求を契機として始まるものでございまして、刑事訴訟規則上は趣意書に証拠書類又は証拠物、つまり新証拠となり得るものを添付しなければならないとされていますので、再審請求人・弁護人に証拠を開示をさせた上で、再審請求人・弁護人がその中から新証拠となり得るものを選択して、それのみを裁判所に差し出すというのが合理的であると考えます。 もっとも、新証拠が再審請求人の手元にない場合には、裁判所に記録の取り寄せや証人尋問、あるいは証拠開示を申し出る形で再審請求をすることも、一概に不適法とすべきではないという理解が一般的であると思われますので、仮に「A案」を採る場合であっても、再審請求人・弁護人が裁判所に提出した記録を閲覧・謄写することができるのであれば、謄写した証拠をもって新証拠として裁判所に差し出すということが可能になるという意味では、再審請求人・弁護人に不都合があるとまでは言えないように思われます。 ただ、そうだとしますと、「A案」を採る場合には、再審請求人・弁護人が裁判所に提出された証拠を閲覧・謄写することが不可欠であるということになります。第4回会議において、裁判所が検察官から取り寄せた保管記録などが、刑訴法40条の閲覧・謄写の対象になるのかという問題について、成瀬幹事は、刑訴法40条に基づく閲覧・謄写が可能であると発言されたのに対して、私及び村山委員が、必ずしもそのような運用にはなっていないのではないかという疑問を呈したところです。 私といたしましては、通常審では、関連事件の記録や家庭裁判所の社会記録、つまり少年調査記録の取り寄せ決定をした場合には、刑訴法40条の閲覧・謄写の対象になると、ただし、少年調査記録は謄写は許可しないという運用になっていると承知しておりますので、通常審における取り寄せ決定とパラレルに考えるのであれば、再審請求手続において裁判所が取り寄せた記録も、刑訴法40条の「訴訟に関する書類及び証拠物」として閲覧・謄写の対象になるという解釈が合理的であると考えます。また、仮に刑訴法40条の閲覧謄写の対象にならないとした場合には、再審請求人・弁護人は保管検察官に対して閲覧謄写請求をしなければならないことになりますが、一旦保管検察官に記録を返した上で、保管検察官に対して閲覧・謄写の請求をするのは迂遠ですから、刑訴法40条の閲覧・謄写の対象とする方が簡明であると思われます。 ただ、仮に刑訴法40条の閲覧・謄写の対象にならないというのであれば、保管記録・再審保存記録についても、また、裁判所不提出記録についても、再審請求手続において裁判所が取り寄せた記録について、閲覧・謄写権があるということを明確にする必要があると考えます。 その上で、裁判所にお尋ねしたいのですけれども、再審請求手続において、裁判所が検察官から保管記録・再審保存記録や裁判所不提出記録、更には証拠物を取り寄せた場合、刑訴法40条の「訴訟に関する書類及び証拠物」として閲覧・謄写の対象になると考えられているのかどうか、保管記録・再審保存記録と裁判所不提出記録、更には証拠物では、性質が異なるようにも思われますので、現在の運用を御説明いただければと思います。 しろまる江口委員 私の方で、一部の庁や裁判官から聞いた限りでのお答えとはなりますが、再審請求審としての裁判所による確定記録につきましては、刑事確定訴訟記録法によりまして検察官が保管権限を有しており、裁判所はこれを借り受けていると整理しているようでございます。その上で、弁護人から閲覧・謄写請求がなされたとしても、まずは検察庁に請求するように促し、検察庁に対する閲覧・謄写請求があれば、当該記録を一旦検察庁に返還するという運用が多いようです。このような整理・運用に従いますと、確定記録が再審請求人自身のものであろうと別件の記録であろうと、扱いが変わることはないと考えられます。 他方で、検察官が裁判所の勧告に応じて公判未提出記録を裁判所に提出するような場合には、明示的に刑事訴訟法第40条によるかどうかはともかくとしまして、裁判所での閲覧・謄写を認める例が一定数あるようでございます。 ここから先は私の解釈ということとなりますが、公判未提出記録を事実の取調べの対象とした場合には裁判所の記録として扱われることとなりますので、それは刑事訴訟法第40条の閲覧・謄写の対象と考えてよいのではないかと思います。 また、公判未提出記録が裁判所に提出され、その中から必要なものを厳選して後に取調べを行うという場合には、その未提出記録は公務所照会や提出命令に基づいて裁判所が保管する記録と同様になると思われます。これらについては、一般的に刑事訴訟法第40条による閲覧・謄写が可能と解されておりますので、これとパラレルに考えることも可能ではないかと思っているところでございます。 しろまる大澤部会長 よろしゅうございますかね。 しろまる田岡幹事 はい、ありがとうございます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる成瀬幹事 私は、「制度の枠組み」については、再審請求審の構造と整合的な「A案」によることが相当であると考えます。その上で、「A案」の[検討課題]とされている「裁判所に提出された証拠の閲覧・謄写に関する規定を設けるか」について、意見を申し上げます。 刑事訴訟法第40条は、弁護人による「訴訟に関する書類及び証拠物」の閲覧・謄写について規定しているところ、同条の「訴訟に関する書類及び証拠物」には、証拠調べが終わって当事者から裁判所に提出されたもの、裁判所が職権で証拠調べをして保管するもののほか、証拠調べ前であっても、取り寄せ決定により取り寄せた他事件の記録、刑事訴訟法第99条第3項の提出命令に基づき押収した証拠物などが含まれるとされています。また、刑事訴訟法第40条は、刑事訴訟法第440条第1項に基づき、再審請求者によって選任された弁護人についても適用又は準用されると解されています。 他方、「制度の枠組み」について「A案」による場合には、裁判所の検察官に対する証拠の提出命令の法的性質は、裁判所が再審開始事由の存否を判断するために行う事実の取調べの一方法と位置付けられることになると思われます。 そうであるとすれば、通常審において証拠調べをして保管することとなった証拠や、刑事訴訟法第99条第3項の提出命令に基づき押収した証拠物などと同様に、再審請求審において裁判所による提出命令に基づき検察官が提出した証拠についても、刑事訴訟法第40条の対象となるものと考えられます。先ほどの江口委員の御説明によれば、現在の再審請求審の実務においても、検察官が裁判所に提出した公判不提出記録については、弁護人による閲覧・謄写の対象とされているとのことでした。 よって、「制度の枠組み」について「A案」によることとした場合、新たに閲覧・謄写に関する規定を設ける必要はないと考えます。 その上で、先ほど田岡幹事から、「A案」を採る場合でも、検察官による裁判所への証拠提出を事実取調べの準備行為と位置付けて、裁判所に提出させた証拠の中から再審請求者又は弁護人が選別したもののみを事実の取調べの対象とするという考え方もあり得る旨の御指摘がありましたので、その点について、私の考えを申し上げます。 現行刑事訴訟法上、事実の取調べとは、裁判官の認識活動一般を指す広い意味で用いられており、例えば、再審請求審において裁判所が行う押収・捜索・検証等も、それ自体が事実の取調べの一方法であるとされていることから、先ほど申し上げたとおり、証拠の提出命令についても、それ自体が事実の取調べであると考えるのが整合的です。 また、裁判所が審理に必要と考えて提出を命じた証拠の中から、事実の取調べの対象となる証拠を、再審請求者又は弁護人が選別する仕組みとすることは、裁判所は、当事者の提出した証拠に基づいて審理を行うべきであるという当事者追行主義的な発想に基づくものであり、再審請求審においては、職権主義の下、裁判所が主体的に必要な事実の取調べを行うこととされていることと整合しないように思われます。 よって、私は、裁判所が検察官に命じて一定の証拠を提出させる行為それ自体が、既に事実の取調べであると考えております。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる平城委員 今の成瀬幹事の御発言に関して、裁判所の立場から一言申し上げたいと思います。通常の公判においても裁判所は証拠の中身が分からないのですけれども、証拠の中身を知っている検察官が立証趣旨を提示して証拠の必要性を疎明するなり御主張いただくなりして必要性の判断ができる、ゆえに、証拠の中身を見なくても対応できる場合が多くて、また、必要があれば提示命令をかける、このような対応を採っているところでございます。 ただ、再審請求事件で、いわゆる「A案」において提出、若しくは「B案」において開示もいいのですけれども、その命令を発する段階では、裁判所はもちろんその証拠の中身を把握しているわけではないし、その証拠が当該請求審における判断に必要なのかどうかということについても、必要かもしれない、若しくは必要なことが見込まれることは分かるのですけれども、提出命令かけたものが全部真に必要かどうかというのは、正直分からないところがあります。 ですので、先ほど江口委員が発言されたように、弁護人に1回見てもらうというのもあるのかもしれませんし、公務所照会的に扱って、その中で必要なものを取り調べるという、こういう実務の運用があるだろうなと思っているところでございます。 命令をかけたものが全て、事実の取調べの対象になるかということについては、そういう場合もあるでしょうし、それが事実上難しい場合もあるのではないかと思っているところでございます。 しろまる大澤部会長 事実の取調べに当たるのかどうかと、刑事訴訟法第40条で開示されるかどうかというところは、関係としてはどういう御理解になるのでしょうか。先ほど江口委員は刑事訴訟法第40条による開示の対象は、事実の取調べをしたものよりも少し広いような言い方をされたかなと理解しましたが、それでよろしいですか。 しろまる平城委員 事実の取調べをしたものであろうと、そのための準備行為として提出いただいたものであろうと、刑事訴訟法第40条の対象とすることについては、特に違和感を覚えるところではありません。 しろまる大澤部会長 分かりました。ありがとうございます。 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる村山委員 その範囲の問題というのは、ある程度分ける必要があると思います。要するに、裁判所に不提出記録を提出する範囲の問題と、それから実際に事実の取調べを行う範囲の問題と、場合によっては提出が義務付けられる範囲の問題というのは、これは別々の問題があると思っています。 今の整理で平城委員も言われたのですけれども、やはり再審の場合、どういう証拠なのかというのが分からない場合が多いと思います。ですから、それを全部事実の取調べをすると、かなり不必要な証拠調べを行うということになるというのはもう間違いなくて、現在その実務で行われている、私の認識しているところでは、提出されたもののうち双方、特に請求人側がこれを事実の取調べをしてほしいという対象を絞ってきたものについて、きちんとした事実の取調べの方法というのを行う、若しくは、それに基づいて法廷での証人尋問等を行うというのが実際に行われていまして、現実に提出された書類等を全部調べているという実務は、恐らくないとは思います。 ただ、一般的にその事実の取調べというと、裁判所に提出した書類は全部資料になっているんだという理解もありますので、ここは難しい問題だと思いますが、やはり、この場合の提出行為というのは、事実の取調べの準備行為という位置付けで、40条はかぶるけれども、事実の取調べの義務がそこで発生するという立て付けというのは、むしろ無駄なことになってしまうということになると思いますので、そこは範囲を分けた方がいいと思っています。 しろまる大澤部会長 事実の取調べというものをどのように捉えるかという話で、ここでの問題に直ちに直接関わる話ではないのかなという気もいたしますが、さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる鴨志田委員 実際には、現実の再審の審理では、裁判所が取り寄せた記録なり証拠なりというものが、事実上弁護人の方に開示される。それは、閲覧・謄写という形を採らずに、事実上検察庁が裁判所に2部提出して、そのうちの1部が弁護人に差し出されるということが多いように認識していますけれども、それを前提として弁護人の方で必要なものを絞って、改めて証拠として提出をするという形が採られていることが多いと思います。これはやはり、取り寄せたもの全部を取り調べるということは非常に効率的ではないし、裁判所もその部分の労力を省くというか、一番そのことに対して理解のある当事者に選別させるというプロセスを介在させた方が審理の対象が絞れるということから、規定のない中でそのような扱いがされているのだと思います。 こういったプロセスを経るということが、例えば、「B案」の[検討課題]として、職権主義が採られていて、裁判所が主体的に事実の取調べをやるということとの整合性がどうなのかと書かれているところと関係すると思うんですけれども、そもそも再審請求における職権主義とは、どのようなものを具体的に想定しているのかということを明らかにすべきだと思います。 といいますのは、ドイツや台湾と異なって、日本の場合は通常審が当事者主義なので、通常審段階で裁判所に一件記録全部が提出されているという前提がないわけなんですね。つまり、再審請求審が始まった段階で、裁判所が主体的に職権行使をしようにも判断材料はそろっていないという状況から、しかも、請求人が新証拠と趣意書を提出するというところから再審手続からスタートするので、当初から再審請求手続の全てを裁判所が主体的に行うということはそもそもできない。しかも、別のところで多分出てくると思うんですけれども、再審請求裁判所は請求人の主張する事実に拘束されるということであれば、なおさら請求人、弁護人がどのような証拠を提出するのかというところが重要になってくるということだと思います。 ですから、私自身は、日弁連案に拘泥するというような意味ではなくて、―ここでの日弁連の委員・幹事はみんなそういうふうに思っていると思うんですけれども―、これまでの議論の中で、こちらの方がいいと思うことは、別に日弁連案に縛られずに発言をしているつもりなので、そのように認識していただきたいんですけれども、「A案」、「B案」について提出先がどこなのかということに関しては、正直、閲覧・謄写がきちんとできる、そして弁護人に今のような選別や知る機会が与えられるのであれば、全然「A案」で構わないと思っています。重要なのはやはり請求人がどういう形でそこに関わってくるのか、先ほど請求権の問題はここでは議論しないと言われましたけれども、やはりそういうところに関わってくる問題なのではないかと思う次第です。 しろまる大澤部会長 1点確認ですが、裁判所に2部出されてきた証拠の1部が弁護人にいく。弁護人から見て、そこで見たものの中で必要なものに絞って取調べ請求する形がいいのではないかと言われましたが、その場合、裁判所としては取り寄せた証拠をそのまま職権で調べては駄目だ、弁護人から請求されなければ調べては駄目だという御趣旨ですか。 しろまる鴨志田委員 そういうことではないです。 しろまる大澤部会長 分かりました。 ほかに御発言ございますでしょうか。 しろまる池田委員 これまでの御意見に出ておりますように、請求人が取調べの対象を確定するために非常に重要な役割を果たすということについては、そのとおりだろうと思いますけれども、制度の在り方といたしましては、請求人が示した再審開始事由の存否について裁判所が主体的に判断するということになっておりますので、裁判所が取り調べる前の段階で、請求人による証拠の選別、取捨選択というものを必要的なものとするような制度とすることについては、そうした理解と不整合があるのではないかということについて疑問が残ります。 しろまる大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 しろまる宇藤委員 先ほどからお話が出ておりますように、我が国の再審請求審が職権主義を基調としているということは、この場におられる委員・幹事の間で一致した理解があるものと思います。また、再審請求審と再審公判との関係が現行法のようなものである限り、先のところは制度の骨格として変わることは今後もないでしょう。 このような前提を踏まえますと、「A案」がより整合的だろうと思います。その上で、「A案」の[検討課題]として示されている、規定が必要かどうかという点については、私は必要であろうと考えます。もちろん、刑事訴訟法第40条がどのように機能するかということについて、議論を深めるということは必要でしょうが、この場での検討や議論からも分かるように、それぞれの御立場によって、その理解にはかなりの相違があり、現状のように規定がないままでは、安定的な運用は見通しにくいのではないでしょうか。 手続の明確化という点で、関連する諸規定の乏しいこと自体が閲覧・謄写の扱いをめぐって支障を来す原因の一つにもなっている旨の指摘は、すでに第3回会議における中川参考人のお話にあったところです。また、本部会における検討の中で、再審請求審に関わる裁判所によりかなり運用にばらつきがあり、そのばらつきのせいで再審事件の手続の成り行きが大きく左右されていることは、繰り返し指摘されているところです。以上のところを踏まえますと、いろいろな立場はあるかもしれませんが、「A案」を基調としながらも、少なくとも規定を設けるということの必要については、確認できるのではないかと思います。 しろまる田岡幹事 宇藤委員の発言を踏まえて、規定の要否について、補足して意見を申し上げます。 江口委員から、確定記録、つまり保管記録・再審保存記録については、保管検察官に対する閲覧・謄写の方法によって入手すべきであるというのが、現在の実務の運用であると御説明がありました。 ただ、再審請求人・弁護人が保管検察官に対し、確定記録、つまり保管記録・再審保存記録の閲覧・謄写の請求をすれば、必ず全部許可されているかというと、そうではありません。一部の証拠を不開示とされたり、証拠の一部をマスキングされる場合があります。そのため、本来再審請求をしようとすれば、確定記録、つまり有罪認定の根拠とされた証拠を全て見なければ、無罪を言い渡すべき明らかな証拠があるかどうかの判断はできないはずであるのに、確定記録の謄写記録が残っていない場合には、有罪認定の根拠とされた証拠を見ることができないということが起こり得ます。 これは非常に不合理でありますので、裁判所不提出記録だけでなく、確定記録、つまり保管記録・再審保存記録についても、再審請求審がそれを取り寄せた場合には、再審請求人・弁護人は、再審請求審において閲覧・謄写することができるという規定を設けることが合理的であると考えます。 しろまる恒光幹事 今の点に関連して、これまでの議論も踏まえての発言になりますけれども、再審請求審による確定記録の取り寄せというのは、現状、事実の取調べとして明確に位置付けられておらず、その法的性質は曖昧なものであると認識しております。それは措くとしまして、この問題は、記録の公開に関する規律が複数存在する場合に、どの規律を適用すべきかの問題であると考えています。 今問題になっておりますのは、刑事訴訟法第40条と刑事確定訴訟記録法との調整の問題ですけれども、例えば、第1回公判前の身柄に関する処分、あるいはこれに関する準抗告、抗告の場面においては、捜査機関から一件記録を取り寄せて、これに基づいて判断しております。これらの記録が閲覧・謄写の対象になるかという点については、刑事訴訟法第40条と第47条本文との調整の問題があると考えています。 全てにおいて刑事訴訟法第40条が優先するとなりますと、いわゆる第1回公判前の捜査記録について、弁護人から閲覧・謄写請求があれば、これに応じることになりますけれども、実務的にそのような対応をしていないのは、刑事訴訟法第40条があったとしても、記録の公開に関する別の規律がある場合には、そちらを優先しているということではないかと考えております。 しろまる大澤部会長 なお、刑事訴訟法第40条のところにも課題があるということなのかもしれませんが、ほかにこの枠で御発言ございますでしょうか。 しろまる村山委員 今の点で申し訳ないですけれども、「(1)」の問題に直接関わることではないのですけれども、やはり確定記録を確定記録法に基づいてでないと見られないというのが、すごく迂遠ですよね。実際手元にあるのに見せられないという、しかも、請求人は持っていないのですよ、実際。確定記録でやると、不開示とかマスキングされてしまうという現状があるというのを聞いて、私は謄写させてしまったことあるのですけれども、やはりそれはちょっとどうなのかなという気はしております。本来は、ここのテーマは不提出記録の問題だから確定記録ではないというのは重々承知しているんですけれども、規定を設けるのであれば、「A案」の側を採って規定を設けるのであれば、併せてその不都合は解消すべきだと、私は思っています。 しろまる大澤部会長 そろそろこの辺りで1枠目はよろしいでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 それでは、先に進ませていただきまして、次に「(2) 対象となる証拠の範囲」について、審議を行いたいと思います。 御意見等がある方は挙手をお願いいたします。 しろまる田岡幹事 「(2)」の「対象となる証拠の範囲」について、「A案」と「B案」が対置されておりますけれども、両者は本来次元が異なる問題なのではないかと思います。 私は「一定の類型に該当する証拠」を原則開示するという案が合理的であり、実務運用的には再審請求手続の迅速化・円滑化に資すると思いますけれども、これは決して再審請求理由と無関係な証拠を取り調べろということを言っているわけではありません。 先ほどの質問と関連しますが、私は、事実の取調べとその準備行為である記録の取り寄せを区別した上で、裁判所不提出記録の取り寄せを事実の取調べの準備行為と考えるのであれば、その基準は明確である必要があり、かつ再審請求人に必要な証拠が含まれる形で開示される必要がある、さもなければ、現実には「再審請求理由と関連する証拠」が開示されないのではないか、あるいはその判断に時間が掛かってしまうのではないか、その結果、無罪となるべき証拠が埋もれてしまって開示されないのでは再審請求手続は機能しないのではないかという問題意識から、「一定の類型に該当する証拠」は原則開示とした上で、関連性、必要性があるものを取り調べることとするのが合理的であると考えます。 趣旨を敷衍して、説明します。 まず「A案」は、「再審請求理由と関連する証拠」という文言が非常に曖昧であるために、その解釈の仕方によっては、新証拠に関連するものしか開示の対象にならないと限定的に解釈されるおそれがあるように思われます。本来、白鳥・財田川決定によれば、6号再審の場合であっても、新旧両証拠の総合評価によるのですから、新証拠と旧証拠を総合評価して、確定判決の有罪認定に合理的な疑問を差し挟むかどうかという観点から必要なものは「再審請求理由と関連する証拠」であると考えれば、必ずしも新証拠と関連する証拠に限られず、旧証拠と関連する証拠も含まれるという解釈も成り立ち得ると考えます。しかし、仮にそれとは異なる解釈を採る裁判所・検察官がいた場合には、再審請求理由との関連性をめぐって争いが生じることになり、ひいては不開示とされた場合に、なお未開示の証拠が存在するのではないかという形で、裁定請求又は不服申立てが繰り返され、再審請求事件の審理が長期化し、さらには、本来開示されるべき証拠が開示されなかった結果、無罪となるべき人が無罪となれないという結果になるのではないかと考えます。 この点、「B案」は「A案に加えて」一定の類型に該当する証拠を対象とする案であると整理されておりますが、私は、決して再審請求理由と無関係な証拠を取り調べろと言っているのではありません。通常審における公判前整理手続における証拠開示の運用を見ますと、類型証拠開示の規定があるために、裁判所は、起訴直後の打合せ期日において、検察官に対し、典型的な類型証拠、つまり証拠物、検証調書、実況見分調書、鑑定書、証人請求予定者の供述録取書等、被告人の供述録取書等は、原則任意開示せよという勧告をするのが通常であり、検察官はそれに応じて典型的な類型証拠は任意開示するのが一般的です。その結果、現実には、任意開示及び類型証拠開示によって審理に必要な証拠はほとんどが開示されるために、主張関連証拠開示でしか開示されない証拠というのはごく僅かであるというが実情です。このように、類型証拠開示の規定があることによって、任意開示が促進されるために、結果的に、主張関連証拠開示の対象となる証拠も含めて幅広く開示されるために、証拠開示が迅速かつ円滑に進行するという機能を有しているわけです。 また、恒光幹事から第4回会議で、裁判所としては、規律が不明確であると、不服申立ての結果が二転三転することもあり得るし、その判断自体が速やかにされないという問題があるので、規律は明確である方が望ましいという御発言がありましたが、この観点からすると、類型証拠開示の方が基準が明確であることは明らかです。証拠物、検証調書、実況見分調書、鑑定書といったものは、証拠の標目を見れば類型に該当するということが判断できます。弊害等があるものは一部不開示にするとしても、類型に該当する証拠は原則開示するという規定ができれば、証拠開示の判断が安定的に行われることになって、証拠開示の手続の迅速かつ円滑な進行に資すると考えます。 その上で、先ほど申し上げたとおり、裁判所が取り寄せた証拠の全てを事実の取調べの対象とする必要はなくて、一旦証拠を取り寄せた上で、必要性、関連性があるもののみを事実の取調べの対象とすれば足りると考えますと、証拠を取り寄せる段階で関連性、必要性を厳格に判断する必要はありません。関連性、必要性を要求すると、再審請求人・弁護人は証拠を見ていない段階ですから、関連性、必要性があるということを具体的に疎明することができませんし、裁判所も関連性、必要性があるかどうかを判断することができませんので、結果的に「再審請求理由に関連する証拠」が開示されないおそれがあります。けれども、「一定の類型に該当する証拠」を取り寄せた上で、関連性、必要性があると認められるもののみを事実の取調べの対象とすることにすれば、結果的には「再審請求理由と関連する証拠」が事実の取調べ対象になるわけです。 このように、記録の取り寄せと事実の取調べを区別した上で、記録の取り寄せに関しては、再審請求理由と関連するかどうかが分からなくても、「一定の類型に該当する証拠」は原則として取り寄せるという規定の方が、証拠開示の迅速かつ円滑な運用に資するものと考えます。 しろまる後藤委員 まず、第3回会議で中川参考人の御発言にもあったところですけれども、再審請求審を担当する裁判官といたしましては、再審請求人が提出した新証拠とそれを踏まえた御主張、これを出発点として、これが旧証拠に与える影響を検討するという形で再審請求事由の有無を判断するということになります。したがいまして、裁判所から公判未提出記録の提出を求めるとすれば、この判断のために必要なもの、すなわち新証拠に関連する証拠におのずと限られると考えますので、「A案」がその点からは妥当であると考えます。 今述べましたような現場の裁判官の発想からいたしますと、従前新証拠に関連するものにとどまらず、確定審を支える全ての証拠との関係で証拠を提出・開示させていたかというと、それが一般的であったとは思いません。その中で裁判官は、新証拠及び請求人の御主張を丁寧に吟味し、無辜の救済という再審制度の趣旨を踏まえて、正に必要と思われる証拠を提出・開示させてきたのではないでしょうか。 「A案」は裁判官の基本的な考え方に沿うものと言えますので、従来の実務における提出・開示の運用よりも範囲が狭まるというような御指摘は当たらないと考えます。 しろまる江口委員 今、御発言がありました後藤委員と同様、裁判官の立場から「A案」に賛同するものでございます。 「B案」によったときの問題点について、少し触れさせていただきます。 「B案」によりますと、やはり新証拠から離れて、例えば確定判決を支える証拠に関する類型証拠の提出を求めるという話になるかと思います。ただ、そもそも裁判所が判断すべきは、新証拠とこれを踏まえた主張を前提とする再審事由の有無でありまして、これとは関係ない証拠の提出の要否を判断することはできないということになるかと思います。新証拠に関連する証拠から離れまして、確定審を支える証拠の類型証拠までも提出・開示させるというのは、再審請求審の構造になじまないものでありまして、仮にこれを認めた場合には、再審請求審が肥大化して、正に第四審化するという懸念も避けられないところでございます。 また、後の[検討課題]でも出てまいりますが、第4回会議で川出委員の方から、再審請求者、弁護人に対して裁判所が証拠の提出命令を発することの請求権を認めて、裁判所に応答義務を課すということも検討すべきではないかという御意見がございまして、村山委員もこれに賛同されておられました。このような応答義務を課すというのであれば、裁判所が再審請求審として判断できることが大前提となりますので、裁判所に対する公判未提出記録の提出については、なおさら、新証拠に関連するものに限られるべきと考えております。 しろまる大澤部会長 他に御発言ございますでしょうか。 しろまる宮崎委員 提出又は開示の範囲を「再審請求理由と関連する証拠」とした場合、「提出・開示される証拠の範囲が、従来の実務における運用よりも狭まるおそれがある」という御指摘について、意見を申し上げたいと思います。 第1回会議においても申し上げたとおり、私としては、裁判所不提出記録の閲覧・謄写について、実務の運用や再審請求審の構造を踏まえつつ、適切な形で明文化されるのであれば、それに反対するものではありません。再審請求審における閲覧・謄写に関する規律を設ける場合、裁判所の命令により検察官が証拠の提出・開示の法的義務を負う範囲が明確となりますが、こうした規律を設けることは、従来の運用を否定するものではないと理解しており、検察としては、引き続き、提出・開示の義務を負うか否かにかかわらず、個々の事案に応じ、適切に証拠の提出又は開示に対応していくものと考えています。 したがって、命令の対象を「再審請求理由と関連する証拠」とする「A案」の規定を設けたからといって、「提出・開示される証拠の範囲が、従来の実務における運用よりも狭まるおそれがある」との御指摘は当たらないと考えております。 しろまる大澤部会長 さらにいかがでございましょうか。 しろまる村山委員 「再審請求理由と関連する」という意味合いが、今何人かの委員の御発言によると、やはり新証拠との関連だと御発言されていると理解していますが、本当にそれでいいのかと思っています。請求理由というと、もうちょっと広いということもあり得るのかなと思っています。まずそれが1点あります。 新証拠との関連だけということになると、これは、残念ながらこれまでの実務より開示の範囲は狭まるということは間違いないです。実際再審無罪になった事例では、無罪になった原因となる新証拠というのは、当初請求人が出してきた新証拠との関連性がない事件の方が多いではないですか。ですから、そういう意味では、新証拠とは関連ということで限定したら、無罪になるべき新証拠は出てこないですよ。 東電もそうだし、袴田もそうだし、袴田の場合は、第2次再審請求で捏造だという主張が正面から出て、みそ漬け実験が出たから、それは出たかもしれないけれども、第1次は全然出なかったですよね。最高検の検証結果報告によれば、出なかったのは仕方がないとおっしゃっている。それは、正に新証拠との関連性がないからですよ。それで27年掛かっているのです。ほかの事件でも同じようなことが起きています。福井もそうです。ですから、新証拠との関連という形で限定してしまったら、実際に再審無罪になった方が無罪にならないケースがたくさん出てくると思います。 宮崎委員は実務で適正に出していた、最終的に出た場合は、それはそういうふうに思うかもしれないけれども、それまでに何年掛かっているんですか。 つまり、ここで求められているのは、最終的に出るかどうかという問題と、どれだけ一義的に明確に解釈して、その時間を短縮するかという、両方問題になっているはずです。そういう意味で、まず新証拠関連でいくと、まず出ないと私は思います。それから、請求理由に関連するという形で広げたとしても、請求理由に関連するかどうかの判断というのが、やはり難しい判断が迫られて、そこで議論してしまうと。そうすると、時間がどんどん延びるんですよね。ここの問題はやはり解決しなければいけないのではないでしょうか。 そういう意味で、実際に新証拠との関連でいいんだとおっしゃっていますけれども、本当に私は再審無罪になった事例をひも解けば、そうはならないと。請求人が最初に出した新証拠との関連では開示されないという結論になる事件が、相当数あると言わざるを得ないと思います。 しろまる大澤部会長 さらに御意見ございますでしょうか。 しろまる鴨志田委員 今の村山委員の御発言と少しかぶるところもあるかもしれないんですけれども、再審請求人は、少なくとも請求審の審理終結までは主張の追加が可能であり、現に多くの事件で、当初請求人が当初提出していた新証拠に基づく主張のみならず、その後開示された証拠によって判明した事実に基づく追加の主張が認められることで、それが再審開始、無罪の結論につながっているという事件が、少なくないというよりも大多数だと思います。 そうすると、先ほどの「再審請求理由と関連する証拠」というものを当初請求人が提出した新証拠とそれに基づく主張と限定してしまうと、今のような流れで再審無罪に至る事件は道が絶たれるということになりますから、現状よりも狭まるということは、これは当然だと思います。 それから、関連ということに関してなんですけれども、まず「B案」の方の[検討課題]として、「近時の最高裁判例によれば、刑事訴訟法第435条第6号の明白性の判断に当たっては、有罪認定の根拠となった旧証拠を全て評価し直すこととはされていないこととの整合性」と、「B案」が乗り越えるべき課題として書かれているのですけれども、そもそも白鳥・財田川決定による新証拠の明白性判断は新旧全証拠の総合評価とされていて、文言上何らの限定もされていないのです。これを限定的に捉える最高裁調査官解説や、それに依拠した個々の判決があるからといって、明確に判例変更がされていないものを、所与の前提として整合性を論じなさいということには大いに問題があると思います。 また、それをおくとしても、そもそも明白性の判断の対象となる旧証拠の範囲と、再審請求人に対して開示すべき証拠の範囲というのは、全く別の問題として考えられるべきものだと思います。例えば、再審請求人に対して開示されるべき証拠というのは、その請求人が提出した新証拠そのものの証明力に関連するものだけではなくて、新旧証拠を総合評価するに当たって、その総合評価の対象となる旧証拠の証明力を判断するために必要な証拠というものも広く含まれるということになると思います。特に新証拠が立証命題を共通する旧証拠の証明力を弾劾したとしても、残った旧証拠の証明力が肯定されて再審請求が棄却されるという決定が相当数ございますが、そのようなことを考えると、この新証拠と立証命題を共通する関連する旧証拠以外の旧証拠の証明力の判断に資する証拠が開示されなければ、結局のところ、新証拠の明白性は判断できないということになると思いますので「A案」のように限定をするということは、そもそも再審請求の理由を判断するというところに応えるものとなっていないと思います。 しろまる大澤部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 しろまる池田委員 「A案」と「B案」を比較しますと、「B案」は、再審請求理由と関連しない証拠であっても、一定の類型に属する限り開示をするという理解が前提となっていると思われます。しかしながら、再審請求審は有罪判決の当否それ自体を全面的に一から評価し直すものではなくて、再審請求理由の存否について判断する手続です。そうである以上は、新証拠に基づく再審請求者の主張と関連しないにもかかわらず、取調べの対象とするということは、このような再審請求審の構造と整合しない上に、最高裁判所の判例の考え方とも整合するものではないと考えます。 実際に、より幅広に開示がなされた例があるということを御指摘頂いておりますけれども、制度のあり方そのものとして、構造に整合しないような制度を設けるということには、なお疑問が残ります。 しろまる大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 しろまる田岡幹事 質問させていただいて、よろしいですか。 先ほどから「A案」を支持する方から、「再審請求理由と関連する証拠」のみを対象とすればよいという御発言がありましたが、誰がその関連性を判断するのでしょうか。再審請求人・弁護人は、検察官がどのような証拠を保管しているのか、その証拠にどのような内容が書かれているのかというのは、全く分からないわけです。あるのかどうかも分からない証拠について、関連性、必要性を具体的に主張しろと言われても、主張できないのが通常であります。また、裁判所も関連性、必要性を判断しろと言われても、証拠の標目だけ、あるいは、証拠の標目すらない状態では、判断できないのが通常であると思われます。 仮に全ての証拠を見た上で、「再審請求理由と関連する証拠」を適切に抽出して取り寄せるというのでしたら、それはそれで運用できるのかもしれませんが、再審請求人・弁護人及び裁判所は、証拠を見ることができません。証拠の存在及びその内容すら分からないのに、検察官から「再審請求理由と関連する証拠」だけを取り寄せるという制度にした場合、誰がどのように判断するということをお考えなのか、御説明を頂きたいと思います。 しろまる大澤部会長 どなたか御説明いただけますでしょうか。 しろまる吉田(雅)幹事 配布資料の構成にも関わりますので事務当局から申し上げますが、「第1」の「2」の論点として、証拠の一覧表の提出を認めるか、そのような規律を設けるかというものを挙げており、そうした一覧表の提出といった手段を利用した場合にどうかということも含めて、御指摘のような判断の可否を御議論いただきたいと思っております。 念のため申し上げますけれども、先ほど玉本幹事が申し上げたように、今回お示ししている配布資料は、こういう制度を作るべきだというような方向性を示す要綱のようなものとして作っているのではなくて、飽くまで、これまでの議論を整理して、どこで意見のそごが生じているかが分かるようにするという観点を踏まえつつ、イメージとして、A案・B案のようなものがあり得るのではないかということでお示ししているものでございます。 例えば今、「再審請求理由と関連する証拠」という記載に関して、「再審請求理由」というのが新規証拠に限るのか、それを踏まえた主張も含むのか、あるいは、後に追加された主張や証拠も含むのかといったことに関して議論が及んでおりますけれども、正にそこを御議論いただければという趣旨でございます。現段階で一定の決め付けをしているわけではございませんので、例えば、「再審請求理由と関連する証拠」という記載に関し、後に要綱にするときにはこういう文言があり得るのではないかということも議論の対象になると考えておりまして、そのようなものとして御理解いただきたいと思います。 しろまる大澤部会長 ほかに御発言ある方いらっしゃいますでしょうか。 しろまる成瀬幹事 私は、第4回会議で申し上げたとおり、「対象となる証拠の範囲」については「A案」に賛成いたします。 吉田幹事から、「再審請求理由と関連する証拠」の意義については様々な考え方がありうる旨の御指摘がありましたが、私は、再審請求人が提出した新証拠及びそれに基づく主張と関連する証拠が、まずは提出命令の対象になると考えております。このような理解は、再審請求人が提出した新証拠とそれに基づく主張が旧証拠に与える影響を検討することが審理の出発点になるという後藤委員の御指摘とも整合的であると思います。 もっとも、これは飽くまで審理の開始時点の話であって、再審請求審の審理が進んでいけば、「再審請求理由と関連する証拠」の範囲が広がることも考えられます。先ほど鴨志田委員から、新証拠が立証命題を共通にする旧証拠の証明力を弾劾した場合には、他の旧証拠の証明力が問題になる旨の御指摘がございましたが、そのように審理が進行した場合には、再審請求者から他の旧証拠に関して新たな主張がなされると予想され、その新たな主張に関連する証拠が提出命令の対象になることは十分考えられるように思います。 具体的にどの範囲の証拠を提出命令の対象とするかは、裁判所が個別事案ごとに判断することになりますが、後藤委員も強調しておられたように、裁判所は、審理の経過を踏まえ、必要ならば求釈明等も行い、再審請求人や弁護人の御主張をきちんと把握した上で、慎重に判断されるものと思います。 このような理解を前提に、「A案」の[検討課題]とされている「従来の実務における運用よりも狭まるおそれがある」との指摘について、意見を申し上げます。 まず、後藤委員からは、「A案」は現場の裁判官の基本的な考え方に沿うものであり、従来の実務における提出・開示の運用よりも範囲が狭まることはないという御指摘がございました。また、宮崎委員からは、再審請求審における裁判所不提出記録の閲覧・謄写に関する規律を設けたとしても、従来の運用が否定されるものではなく、検察としては、引き続き、提出・開示の義務を負うか否かにかかわらず、個々の事案に応じて、適切に証拠の提出又は開示に対応していくとの御発言がありました。検察官は、通常審において、当該事件が公判前整理手続に付されているか否かにかかわらず、任意開示を積極的に行っていると認識しておりますが、宮崎委員の御発言は、再審請求審においても同様に、個々の事案に応じた適切な対応を行っていくという御趣旨だと理解しました。 これらの御発言を踏まえれば、「A案」の立場に立ったとしても、「提出・開示される証拠の範囲が、従来の実務における運用よりも狭まるおそれがある」との指摘は当たらないと思われます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる村山委員 今、成瀬幹事から、検察官が適宜適切に対処している、確かに通常審は証拠開示はスムーズにいっている場合が多いと私も認識していますけれども、再審請求審においてはそうではないのではないでしょうか。それが今の実務の実情ですよ。それが、現在までこれだけ長引いて、解決が非常に困難だという実情だと、私は認識しています。 なぜかといえば、時間が掛かって、再審開始決定になって無罪になった事件は、この証拠開示については弁護士はずっと言っているのです。だけれども、応じていただいてない。裁判所が勧告しても、どこにそういう条文があるのですかといって出していただけない、それが実情です。 今、ある程度変わってきているというのは認識していますけれども、それで十分なのかというのは問題があって、ここで議論すべきは、現在の実務を更に進めていく、そのためには何が必要かという議論だと、私は認識しています。そのためには、「A案」では私は不十分だと思っています。ましてや、新証拠関連に限るというのは、最初に新証拠に限って、そこで店じまいしてしまったら、全くもうそれ以上進まないです。 確かに請求理由は追加できます。追加できるのですけれども、それにはやはりそれなりの材料が必要ですし、その時間が必要ですけれども、新証拠に限定した形で厳しくやって、しかも裁判所は、分からなかったら、やはり裁判所としてははっきりしたところしか開示を命じないことになってしまうと思います。そういう運用でいいのかということです。私はそういうところに非常に疑問を持っていますので、「A案」では不十分で、現状の実務を一歩進めるためには「B案」、もちろん「B案」といっても、「一定の類型」とは何をもって「一定の類型」かというのは問題ですから、これはきちんと詰めなければいけないと私は思っていますけれども、何でもかんでもそういう類型になればいいんだなんてことを私たちは申し上げてはおりませんので、そこだけは念のため御承知おきいただきたいと思っています。 しろまる江口委員 実務家の立場から、追加して申し上げさせていただきます。 平城委員が提出された研究会の資料の方にもありますが、その研究員からの発言を改めて確認すべきではないかと思っております。 その研究員からは、再審請求事件と通常の被告事件の建て付けの違いから、証拠提出制度について類型証拠開示とパラレルに考えるのは難しいとの指摘や、無辜の救済という再審制度の趣旨と第四審を認めないというところの見極めをしっかりしないといけないというところの指摘もされているところでございます。 実際に証拠提出を命ずるかどうかを判断することになる裁判官の立場から申しますと、やはり再審請求審の構造になじまない証拠提出制度を設けることは、再審請求審を現行制度よりも複雑で困難なものとすると思われまして、相当ではないと思われます。 しろまる田岡幹事 先ほど成瀬幹事から、通常審では検察官が任意開示を積極的に行っているという指摘がありましたが、それは通常審において類型証拠開示という規定があるから、典型的な類型証拠については任意に開示するという運用になっているわけでございまして、再審請求審において、そのような規定がなければ、任意開示を積極的に行うという運用になることは期待できないと思います。 その上で、先ほど申しましたように、「対象となる証拠の範囲」の問題が、裁判所が開示を命じることができるとする規定、権限規定であるのか、開示を命じなければならないという義務規定であるのかが明確ではありませんが、仮に開示を命じることができるという権限規定だとしますと、それ以外の証拠については開示を命じることができないという解釈を許すことになります。そうすると、裁判所は、「再審請求理由と関連する証拠」とされる証拠以外の証拠は開示を命じることができないとされ、検察官もこれに応じる義務はないとされる結果、従来の運用よりも開示の範囲が狭まることは避けられないのではないでしょうか。 逆に言えば、従来は規定がなかったからこそ、一部の再審請求事件では、裁判所は、通常審の類型証拠開示を参考にして、類型に該当する証拠は幅広く証拠開示せよという勧告を行ってきましたし、検察官も任意に開示してきました。例えば、福井事件では、再審請求人・弁護人が、刑訴法316条の15第1項5号又は6号を参考にして証拠開示請求をした結果、夜のヒットスタジオの放映日に関する捜査報告書が任意に開示されましたが、「再審請求理由と関連する証拠」しか開示されないという規定ができれば、それ以外の証拠は開示されなくなると思われます。再審請求人・弁護人は、開示されるまで、夜のヒットスタジオの放映日に関する捜査報告書が存在することは分からなかったのですから、再審請求理由関連証拠に限定した場合には、そもそも開示されなくなるおそれがあります。 私は、通常審と再審請求審は構造が異なりますので、通常審の証拠開示制度とパラレルに考えることは難しいということは前提にしています。その上で、再審請求審は、通常審と異なり職権主義の手続なのですから、再審請求理由を判断するために必要であれば、記録を取り寄せる権限と責任が裁判所にあるはずです。例えば、関連事件の刑事記録、身代わり犯人事例であれば真犯人の刑事記録を取り寄せた上で、関連性、必要性のある証拠のみを取り調べるということも行われております。また、裁判所不提出記録であっても、榎井村事件のように捜査報告書つづり一式を取り寄せた上で、取り調べるということも行われているわけです。このように、裁判所は、本来、どのような証拠であったとしても取り寄せることができるはずであるのに、その権限を縛るというのは本末転倒であります。裁判所は裁判所不提出記録を取り寄せる権限があることを前提に、一定の範囲の証拠については取り寄せを義務付けるという規定にするのが合理的であると考えます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる鴨志田委員 先ほど成瀬幹事の方から、当初は新証拠とそれに基づく主張に関連すると、審理が進む中で、新旧証拠の総合評価で旧証拠の信用性も判断する必要があったら、そういう主張が追加されるだろうという、そういう趣旨の御発言があったと思うんですけれども、実際には全部まとめて判断されるんですね、決定の中で。そういう審理の経過というのが、それこそ後で出てくるような、期日の指定に関する規定がないというようなところから、弁護人としては、裁判所がどのような心証を持っているから、次はどういう主張を足そうかみたいなことの材料すら与えられないまま、ある日決定が来るというようなケースが多いわけなんです。 この点に関連しては、裁判所が適切な訴訟指揮によって証拠の開示の範囲を決めていくのだというようなことが必要だというのであれば、今回の整理の「A案」だとすると、これはどこまでいっても再審請求の理由との関連というところがくっついてくる、そういう縛りが掛かるということなんですけれども、御参考までに、既に衆議院に提出されている議員立法による「刑事訴訟法の一部を改正する法案」の444条の4というのは、これは、実際は全然違うんですが、文言上は「A案」に近い形で、再審請求人の請求による義務的な証拠開示命令制度に関しては、その対象を「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」としており、書きぶりだけ見ると非常によく似た立て付けになっています。 ただ、これがどのような意味なのかということについては、具体的には、再審請求の趣意書に記載した再審理由を意味するとしながら、そのようなものであることを踏まえて、再審請求理由におよそ関連しない証拠については、請求による開示命令の対象から除外する趣旨にすぎない、再審請求理由に直接間接に関連すると認められる証拠であれば、広く開示の対象とするというものが、この議員立法での法案の関連性の趣旨だと説明されています。 加えて、この法案には、その後の次の条文で、裁判所の職権による裁量的な、正に裁判所が自ら必要だと思ったときに開示を命ずることができるという権限を有することを確認をする規定が設けられています。こちらに対しては、対象となる証拠の範囲には限定がないんです。いわゆる関連性といったことは問題にせず、それはある意味当然で、先ほどから田岡幹事がおっしゃっているように、裁判所はそもそも裁量で権限行使ができるということが前提ですから、そこに制限があるということは、逆に言うとそれを認めない、認められない場合があるという制限規定になりかねないということだと思うんですけれども、議員立法で提出されているものについては、裁判所の権限として裁量で認められている証拠開示命令に関しては、対象となる証拠の範囲には限定を設けていないんですね。こういう2段構えでいっているということを是非、「A案」を検討するに当たって、当初の新証拠やそれに基づく主張に結局ひも付けられてしまうということではなくて、裁判所が適切に権限を行使する場合には、こういう形で段階的なものを検討する必要もあるのではないかということを御検討いただきたいと思います。 しろまる大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 最初に再審請求がされて、その際に新証拠が提出されるわけですが、その時点で、新証拠やそれに基づく主張に関連する範囲という仕切り方をし、そこで止まった見方をするとそれだけとなって広がってはいかないのですけれども、関連すると言っても、そこを起点に証拠を調べていく中で、新証拠によって弾劾される元の旧証拠の証明力が大きく減殺されたというときには、全体の中で、その影響が更に外側へと広がっていくといいますか、旧証拠の他の部分の証明力をも動揺させることがあるとしますと、その時点では、そのような旧証拠の証明力に関係するものも、請求理由に関連している、その範囲に含まれてくると言えそうな気がします。「関連する」という言葉の捉え方にも、何か少し詰めるべき点があるのかなという印象を受けたということだけ申し上げて、ほかにいかがでございましょうか。 しろまる村山委員 度々すみませんが、やはり「請求理由と関連する」という言葉の意味が、ここで幹事さんが書いていただいた、これがかなり意味としていろいろな、多義的なものがあるのかなと理解をしております。それが新証拠と関連する、若しくは新証拠とそれに基づく主張に限られるという、何人かの委員の御発言のように狭く解されると、これは、私は現状よりか狭くなるのは必然だと思っているわけですけれども、「請求理由と関連する」という意味合いが、先ほどの幹事さんの方の説明でもう少し広がりがあるということだとすると、それはどういう広がりがあるのかというのを詰めていく必要があると思いますし、それから、義務的なものと裁量的なものというのは、規定の仕方として考えるべきかと私も思っておりまして、提出された法案はそういう形になっているんですけれども、今の議論はむしろ、私はどの範囲で義務的になるかという議論をしていたつもりで、むしろ裁量的には、当然裁判所は職権主義なんですから、そういうことを命じることができるのは当たり前だという前提で議論していたつもりです。ただ、そうは言っても、裁判所が職権行使するにはそれなりにやはり理由と必要があって職権行使する場合が多いので、そういう意味でも基準といいますか、そういうものも分かるような形の規定を作るべきだと思っております。 長くなりました、申し訳ありません。 しろまる大澤部会長 そろそろ、よろしいでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 それでは、「(2)」のところはここまでということにいたしまして、続きましてもう一つ進ませていただいて「(3) 弊害への対処」について、審議を行いたいと思います。 御意見等のある方、挙手をお願いいたします。 しろまる田岡幹事 第4回会議でも申し上げましたけれども、「(1)」の「A案」を採るのであれば、記録を取り寄せる段階で、弊害を考慮する必要はないと考えます。 私は、証拠の取り寄せの対象とするかどうかと、事実の取調べの対象にするかどうかは別問題であると考えております。また、閲覧・謄写を必ず許可するかどうかというのも、別問題であると考えております。この三つの問題を区別するべきではないかと思います。 先ほどから申し上げておりますけれども、私は、裁判所不提出記録の取り寄せは、裁判所間の共助としての関連事件の記録の取り寄せ決定や公務所照会と同様の性質のものであり、事実取調べそのものではなくて、事実取調べの準備行為であると理解しております。そして、裁判所は、取り寄せた記録の閲覧・謄写を許可した上で、再審請求人・弁護人の請求により取り調べるということもあれば、職権によって取り調べることもあるわけですけれども、閲覧・謄写の許可及び事実取調べの段階では、弊害が考慮されると考えております。 実際に、再審請求手続と同様に職権主義の手続である少年審判事件では、捜査機関が収集した証拠は家庭裁判所に送致され、付添人は、家庭裁判所で記録を閲覧・謄写することができるわけですけれども、証拠が家庭裁判所に提出されること自体によって弊害が生じるとは考えられていないと思います。つまり、いかに被害者のプライバシー・名誉に関わるものであっても、裁判所に提出すること自体によって弊害が生じるという人はいないと思います。裁判所に提出された証拠を弁護人が閲覧・謄写するから、閲覧・謄写した情報が再審請求人に伝わってしまったり、第三者に公開されることになることによって弊害が生じるのであって、裁判所に提出すること自体によって弊害が生じることはないはずです。 そうだとすれば、裁判所は、記録を取り寄せる段階では弊害を考慮せずに取り寄せるとした上で、その取り寄せた証拠の内容を実際に見た上で、閲覧・謄写を許可するかどうか、また事実の取調べの対象にするかどうかということを判断することとするのが合理的です。取り寄せる段階で弊害を考慮するとなりますと、先ほどの関連性、必要性の問題と同じですけれども、裁判所は、証拠の内容を見ていない段階で、関連性、必要性があるのかどうか、また弊害があるのかどうかといった判断をしなければならないことになりますので、判断が難しくなるだけではなくて、その判断をめぐって、裁定請求又は不服申立てが繰り返され、証拠開示の手続が長期化することになりかねません。 したがって、裁判所とは、裁判所不提出記録を取り寄せる段階では弊害を考慮せずに取り寄せることとして、その内容を見た上で、関連性、必要性と弊害を考慮して、閲覧・謄写の許可及び事実の取調べの要否を判断すれば足りるのではないかと考えます。 しろまる江口委員 私は「A案」が相当であると考えているところでございます。 現在の刑事訴訟法における証拠開示の規定を見ますと、類型証拠開示の刑事訴訟法第316条の15、主張関連証拠の証拠開示に関する刑事訴訟法第316条の20のいずれも、開示の段階で検察官において弊害の内容、程度を考慮するということとなっております。 ここでいう弊害には、罪証隠滅、証人威迫、関係者への報復・嫌がらせ、関係者の名誉・プライバシーの程度、国民一般の捜査への協力確保の困難化などが含まれていると一般的には理解されておりますが、このような弊害については、一次的には捜査機関である検察官が判断すべきであるからこそ、このような規定になっているものと思われます。 このように刑事訴訟法は、検察官による弊害のチェックがなされている前提で各規定を設けているものと理解しておりまして、その前提については、再審請求審においても変わるところがないように思っております。 なお、今、田岡幹事の方から少年審判についてのお話がございました。裁判所に提出された証拠に関して、少年審判規則第7条第3項で付添人に閲覧させるに当たって条件等を付与することなどが可能であるとして、これに類似した制度を設けるとの御提案であったかと思っております。 しかし、少年事件におきましては、先ほど田岡幹事からも御指摘がありましたように、捜査機関から記録一式が裁判所に送付されることが前提となっておりまして、付添人に記録を開示する際に条件等を付与すべきか否かは、記録を有する裁判所以外に判断し得る機関はございません。これに対して、再審請求審においては、請求人の提示する新証拠及びそれに基づく主張を基礎として、事実の取調べの一環あるいは前提として、裁判所が検察官に証拠の提出・開示を求めるものでありまして、その提出・開示の段階で検察官による弊害のチェックが可能ですから、制度の構造、建て付けが異なる少年審判規則と同様の規定を設けるべき必要性もなく、また刑事訴訟法のほかの規定との整合性の観点からも相当でもないように思われます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる成瀬幹事 本題に入る前に、概念の整理について一言申し上げます。 これまでの議論の中で、裁判所が証拠を取り寄せる行為は公務所照会に類するから、事実の取調べそのものではなく、事実取調べの準備行為として位置付けることができる旨の御指摘が、複数の委員・幹事の方からございました。しかしながら、先ほども指摘させていただいたように、刑事訴訟法において「事実の取調べ」という概念は、裁判官の認識活動一般を指す広い意味で用いられており、公務所照会も、それ自体が事実の取調べの一方法として位置付けられています。よって、裁判所が証拠を取り寄せる行為が公務所照会に類するならば、やはりそれ自体が、事実の取調べに該当すると思われます。 ちょっと脇道にそれましたが、本題に戻りまして、「(3)弊害への対処」の論点につき、私は、「A案」に賛成の立場から意見を申し上げます。 先ほど田岡幹事から、少年保護事件を参考にしつつ、「B案」のように弁護人に閲覧・謄写させる段階で弊害を考慮するものとすべきという御指摘がありました。そこで、江口委員の御発言と重なる部分もありますが、私も、少年保護事件と再審請求事件の相違点について申し上げたいと思います。 少年審判規則第7条第2項により、付添人は、審判開始決定後は、原則として保護事件の記録又は証拠物を閲覧することができるものとされ、第7条第3項及び第4項により、例外として、裁判所は、審判の準備の上での支障がある場合を除き、一定の要件の下で、その閲覧を制限することができるものとされています。また、同規則第7条第1項により、保護事件の記録又は証拠物の謄写をするには、裁判所の許可を受けなければならないものとされています。 少年審判規則にこのような規律が設けられた理由は、先ほど江口委員がおっしゃったとおりであると考えております。すなわち、少年の保護事件においては、制度上、審判の基本的な資料となる事件記録について、証拠ごとに必要性や弊害の有無・程度を踏まえて裁判所に送致することとはされておらず、捜査機関から事件記録一式がそのまま裁判所に送致され、結果として、審判の資料としての必要性がない又は乏しい一方で、弊害が大きい証拠も裁判所に送致されることとなるため、付添人による証拠の閲覧・謄写の段階で弊害を考慮する仕組みとせざるを得ないと考えられたのでしょう。 これに対して、再審請求事件においては、制度上、公判不提出記録を含む事件記録一式を裁判所に提出又は送致することとはされておりません。再審請求事件が当事者追行主義に基づく通常審の審理を経て下された確定有罪判決を対象としていることに鑑みれば、このような仕組みとすることには合理性があると思われます。 このように、少年保護事件と再審請求事件とは、裁判所への証拠の送致又は提出の在り方についての前提を異にしていますので、再審請求事件においては、少年保護事件のように弁護人による閲覧・謄写の段階で弊害を考慮する仕組みを採用しなければならないものではありません。 その上で、仮に「B案」のような規律を設けることとした場合には、裁判所に提出され、裁判所が再審の請求についての判断に用いる証拠であったとしても、弁護人が閲覧・謄写できないという事態が生じ得ることになりますが、そうした事態が生じた場合、弁護人において、再審請求に係る事実関係や証拠関係について的確な主張を行うことが困難となるなど、手続保障上問題があるように思われ、相当でないと考えています。 よって、弊害への対処の在り方として、「B案」のような規律を設けることについては、慎重な検討が必要であると考えます。 しろまる池田委員 私も「A案」に賛成の立場から意見を申し上げます。 ただいま成瀬幹事からも御指摘があったとおりですけれども、ここでの提出・開示というのをどのような行為として念頭に置くかということについて、田岡幹事の御指摘も踏まえますと、かなり理解に幅があるのかなと思っております。ここでの議論の前提としては、最終的に請求の理由の存否の判断に用いられる証拠としての提出・開示ということを念頭に置きますと、裁判所が判断に用いる証拠として提示を命じたものであるにもかかわらず、弁護人に閲覧・謄写の機会が与えられない事態があり得ることを認めるのは、弁護士にとって裁判所による認定が想定外のものとなったり、再審請求を棄却する決定がなされたときに、裁判所が判断の根拠とした証拠関係に照らして、当該決定の適否を検討することができず、不服申立てにも支障が生じることになるのではないかということを懸念しております。 そのため、「B案」のような規律を設けることについては慎重な検討が必要だと考えております。 しろまる村山委員 今ほど成瀬幹事や池田委員の言われている事態というのは、私はよく理解できないです。要するに、裁判所は判断の資料にするけれども、弁護人にはそれを見せないと、そういうことが起きるんでしょうか。そういう資料で裁判所は判断しますか。これは、公判のときも同じことが起きてもいいということになっちゃうんですか。私はそういうのはどういう事態なのか、自分として、実感としてよく理解できないんですけれども。 それはさておき、確かに通常の公判の場合は、弊害があった場合はという形で条文が立てられているというのは、もちろん私も承知しています。ただ、これは、まだ公判が始まる前の段階で、当事者間のやり取りだという話ですよね。ですから、検察官が判断して弊害があればという形になっているんで、実際再審請求は一応確定判決が存在しているという前提ですので、罪証隠滅のおそれとか何とか言っても、大幅に減退していることは間違いないと思います。考えられるのは、プライバシーの問題というのは残っているとは思います。そういう個別的な問題について、裁判所が判断するという枠組みでどうしていけないんでしょうか。 例えば、この「B案」というのは「(1)」の「A案」を前提にという形になっていますので、裁判所提出型ですので、裁判所が見て、別に裁判所が公表するわけでも何でもありませんので、その段階で弊害というのが考えられるかというのは、考えられないのではないかというのは、私は田岡幹事の意見と全く同じなんですけれども、その上で判断してもいいのではないかということを申し上げたかったんですけれども、先ほどちょっとお二人の委員から、そういうことをすると、裁判所判断の資料にするけれども、弁護士が見ないという資料が出てきますよということを言われたので、それは一体どういうことなのかというのはよく理解できなかったので、発言させていただきました。 しろまる大澤部会長 「B案」というのは、裁判所は取り寄せたけれども、その後弊害を考慮して弁護人に開示しないことがあるということですから、お二人の言われたような事態が起きるのではないでしょうか。 しろまる村山委員 判断の資料にするという場合に、その決定にも書かないということなんですか、資料にしてしまったら。要するに、決定にも書かないということですか。 しろまる大澤部会長 決定というのは、再審開始、あるいは最終的な請求審についての決定でしょうか。 しろまる村山委員 再審についての決定について。資料にするということは、書くのではないですか。 しろまる江口委員 私の方から実際の実務につきお話ししますと、例えば、プライバシーの観点から証拠の内容として問題があるものがあったといたします。この場合、決定書にプライバシーに問題があると思ったものをそのまま書くかといったら、恐らく書かないことになると思います。ですので、実際に見たかどうかの問題と、見た以上は書くのではないかというのを、直截的につなげて議論するのは不相当かと思われます。 しろまる田岡幹事 恐らく成瀬幹事及び池田委員は、証拠の取り寄せが事実取調べそのものであるという前提に立っているので、取り寄せた証拠は裁判所の判断の基礎になるのに、再審請求人が閲覧・謄写できないのはおかしいという議論になるのだと思うのですけれども、私は、証拠の取り寄せは事実取調の準備行為に過ぎず、取り寄せた証拠の全てが事実取調べの対象になるとは考えません。その上で、取り寄せた証拠に弊害があるものが含まれている場合には、閲覧謄写を許可するかどうかの段階で制限することがあり得ると考えますので、制限された証拠は、結果的に再審請求人は提出しないわけですから、職権で取り調べるということがないとは言えないのでしょうけれども、通常は裁判所の判断には用いられないことになるので、結果的に、決定書には書かれないことになるのではないでしょうか。 ただ、榎井村事件では、裁判所が、再審請求人・弁護人に秘密裏に、検察官から捜査報告書つづり一式を取り寄せた上で、それを判断の基礎にしようとしたという事態がございました。成瀬幹事及び池田委員が指摘するように、そのようなことは手続保障上問題がありますから、裁判所が取り寄せた上で、事実取調べの対象として判断の基礎にする場合には、手続保障上、再審請求人に閲覧・謄写する機会を与えるべきであると私は考えます。 しろまる大澤部会長 その場合は、弊害があっても、調べた以上は開示するということでしょうか。 しろまる田岡幹事 そうですね、裁判所が事実の取調べの対象にしたのであれば、必要性が弊害を上回ると判断されたということでしょうから、閲覧・謄写を許可しなければならないと思います。その上で、弊害として、どのようなものを想定しているか分かりませんけれども、例えば被害者の住所等の個人特定事項については、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則、少年審判規則が改正されましたので、再審請求人には秘匿した上で、判断の基礎にできる場合があると思います。 しろまる大澤部会長 あと一点、多分田岡幹事は、最初の「(1)」の論点については、弁護人直接開示型で「B案」ということだと思いますけれども、「B案」だった場合は弊害防止はどうなるんですか。 しろまる田岡幹事 それはやむを得ないですね。「B案」の場合は直接開示されますから、通常審の証拠開示と同じような規律になると思います。私は、「(1)」の「A案」を前提にすると、裁判所が記録を取り寄せる段階では、関連性、必要性、弊害などを考慮する必要はないということを申し上げております。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 この枠はこの程度でよろしゅうございますか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 大分長くなっておりますので、5分休憩の時間を取らせていただきたいと思います。 (休 憩) しろまる大澤部会長 次に「(4) 再審請求者又は弁護人による請求権」について審議を行います。 御意見ある方、挙手をお願いいたします。 しろまる川出委員 第4回会議で申し上げましたように、私自身は請求権を認めることに賛成の立場ですが、「(1) 制度の枠組み」のところで「A案」による場合、裁判所による証拠の提出命令の法的性質は、先ほど議論がありましたように、事実の取調べの一方法、もしくはその準備行為と捉えられることになります。そうしますと、このうちのどちらの立場に立つにしても、この「(4)」の問題の結論は、別途論点となっています、「事実の取調べについての請求権を付与することとするか」という問題についての結論を出さないと導けないことになりますので、そこで両者を併せて議論したほうがよいのではないかと思います。 しろまる大澤部会長 そのような御意見もありましたが、ほかに御意見ございますでしょうか。 しろまる鴨志田委員 私は先ほど、この点も「制度の枠組み」でやるべきだと申し上げた立場なんですけれども、いわゆる証拠開示の制度をどういうものとして構築するかということについて、請求人の請求権を認めるか、又は一定の部分について裁判所の開示命令を義務付けるかということは、やはりこの制度自体の根幹に関わる問題だと思っています。なので、もちろん「8」の「(5)」と関係するということはそのとおりなのですけれども、いわゆる証拠開示問題について、私の立場としては、再審請求人からの請求権というものを前提にして、裁判所には証拠開示を義務付け、その範囲の問題については、先ほどの議論というような話に整理をすべきなのではないかと思います。 そういうふうに考えた上で、乗り越えなければならない課題として職権主義との整合性というようなことをよく言われるわけですけれども、これにつきましては御承知のとおり、通常審においても職権主義を採用しているドイツでも、また台湾でも、再審の段階での、ないしは再審の準備段階での証拠開示の請求といったものは、記録の閲覧権というような言い方をしていますので、証拠開示請求権という言葉ではないけれども、そういった類するものが元被告人や請求人の権利として構成されています。検討に当たっては、必ずしも職権主義だから請求人に請求権を認めるということは整合しないという話にはならないと考えています。 しろまる大澤部会長 多分、最初の「(1)」のところで「A案」の立場を採ると、最終的に川出委員の言われたようなことになるのかなと思いますが、最初のところで「B案」という考え方もあるかもしれませんし、この際ここで御発言されたいということがあれば、さらに受けたいと思いますが、いかがでございましょうか。 しろまる田岡幹事 再審請求人・弁護人に請求権を認めるかどうかという問題と、権限規定とするか義務規定とするというかという問題は、別の問題であるとは思いますが、私は、請求権を認めた上で、かつ、その請求によって証拠開示命令を発する場合には、義務規定とするのが合理的であると考えます。 つまり、先ほどから繰り返し申し上げておりますけれども、再審請求審は職権主義の手続であり、裁判所は再審請求理由を判断するために事実取調べの権限と責任を負っているわけですから、本来、必要があれば、事実取調べの準備行為として、他の裁判所から関連事件の記録、例えば、共犯者の記録や身代わり犯人事例の場合に真犯人の記録を取り寄せたり、保管検察官から直接、あるいは立会検察官を通じて確定記録を取り寄せる権限と責任を有していると考えておりますので、裁判所がそうした権限を行使するに当たって、本来特段の要件を設ける必要はないはずです。裁判所が再審請求理由を判断するために必要があると考えれば、裁量によって、記録の取り寄せを行うことはできると考えます。 ただ、その権限行使を裁判所の裁量に委ねているのでは、裁量権の行使に幅が生じるので、積極的な裁判所は証拠開示を勧告した結果、多数の証拠が開示された実例がある一方で、消極的な裁判所は証拠開示の勧告をせず、証拠開示が全くなされない実例があるというように運用に幅が生じてしまう、いわゆる再審格差の問題があるので、一定の場合には必ず証拠開示をさせるようにしましょうということであると理解しています。そうだとすれば、再審請求審における証拠開示制度を設ける意義というのは、裁判所に証拠開示を命じる権限があることを前提に、一定の場合にそれを義務付けることにある、と考えています。 そうであれば、再審請求人・弁護人に請求権を認めた上で、その請求によって証拠開示命令を発する場合には、証拠開示を命じなければならないという義務規定を設けることによって、再審請求人に開示されることを保障する必要がある、仮に「(1)」の「A案」であれば、裁判所に提出させた上で、再審請求人・弁護人が閲覧・謄写することを保障する必要がある、ということになります。単に請求権は認めるが、裁判所は裁量的に証拠開示命令を発することができるという規定を設けるだけでは、結局裁判所の裁量に委ねられるために、裁判所が証拠開示を命じない結果になる恐れがありますので、再審請求人が必要とする証拠が開示される保障がありません。したがって、再審請求人・弁護人に請求権を保障した上で、かつ、義務規定とする必要があると考えます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 差し当たり、この枠はこれでよろしいでしょうか。 (一同異議なし) 先を急ぐようで恐縮でございますけれども、この枠はこの程度ということにいたしまして、次に「(5)」に進ませていただいて、「不服申立て」ということで審議を行いたいと思います。 御意見等がある方、挙手をお願いいたします。 しろまる宮崎委員 不服申立ての在り方について意見を申し上げます。 第4回会議においても申し上げたとおり、裁判所が検察官に対して裁判所への提出又は請求人側への開示を命じた場合に、仮に即時抗告が認められないこととなりますと、当該命令が違法、不当なものであっても、検察官はこれに従って提出する義務を負い、請求人側による閲覧・謄写の対象となるため、その結果、関係者の名誉、プライバシー等が侵害され、ひいては将来における捜査、公判に影響を及ぼすこととなりかねないところ、その後に名誉、プライバシー侵害等がなかった状態に戻すことは不可能であることから、裁判所への提出又は請求人側への開示の命令に対して、即時抗告を認めることが不可欠であると考えます。 しろまる大澤部会長 ほかにいかがでございましょうか。 しろまる成瀬幹事 先ほど申し上げたとおり、「(1)制度の枠組み」について「A案」によることとした場合、私自身の理解では、裁判所による証拠提出命令の法的性質は、事実の取調べの一方法として位置付けられることになります。 その上で、裁判所が事実の取調べについてした決定に対して、手続関与者に逐一即時抗告を許すことは、手続の円滑かつ迅速な進行を妨げるおそれが大きく、適当でないと考えられる一方、再審の請求に対する決定に対しては即時抗告・特別抗告をすることができ、再審の請求に対する手続違背はこの中で主張することが可能であることからすると、事実の取調べについてした決定に対して、手続関与者に即時抗告を認めることは相当でないと考えます。そして、その趣旨は、裁判所が検察官に対して証拠の提出を命じる決定にも妥当し得るように思われます。 もっとも、本日の会議の冒頭、田岡幹事からの御質問で言及されたように、検察官は、再審請求審における手続関与者としての地位のほかに、公判不提出証拠の保管者としての地位を併有している場合があります。後者の地位に照らして考えてみますと、検察官は、証拠の提出を命ずる決定によって、自ら保管する証拠を裁判所に提出する法的義務を負うこととなり、証拠保管者としての管理権を制約されることになります。このように捉えた場合、現行刑事訴訟法第99条第3項に基づく提出命令を受けた者は、刑事訴訟法第420条第2項により不服申立てをすることができるにもかかわらず、公判不提出証拠を保管する立場にある検察官が証拠の提出命令の名宛人となった場合には不服申立てが認められないとすることは整合的でないようにも思われます。私も、現時点で定見があるわけではないのですが、今後はこうした観点からの検討も必要であると考えています。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 よろしいでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 次に「(6)その他」ということで、特に今日の資料の中でもブランクになっている部分ですけれども、何か特にこの際御意見等あれば承りたいと存じますが、いかがでございましょうか。 しろまる池田委員 この項目では、不提出記録の提出あるいは開示を命じることについて議論してきたわけですけれども、この議論の冒頭の辺りで、裁判所としても不提出記録の必要性とか、あるいは開示に伴う弊害についての判断を行わなければならないが、それは非常に難しいという御指摘があったように思います。 そこで、この判断をするに当たっては、そうした裁判所不提出記録の管理者としての検察官が、提出又は開示をするか否かが問題となっている証拠や、それと関連し得る他の証拠などを踏まえつつ、関係者の名誉やプライバシー等が侵害されるおそれの程度や将来の捜査、公判に及ぼされる影響等について把握していると考えられることから、裁判所の判断の適正を担保するために、検察官に対してあらかじめ意見を聴取することを必要的なものとすることが相当であると考えられます。 また、その際、裁判所が証拠の提出を命じるに当たっても、判断の適正を確保するために、検察官に対してその証拠の提示を命ずることができるという規定を設けることも考えられるように思います。 しろまる大澤部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 しろまる山本委員 どこで言うか分からなかったので、ここでお伝えしますが、被害者としては、プライバシーについての侵害をとても心配していると思いますので、閲覧・謄写のときには、現行刑訴法で定められている氏名や住所を被告人に開示しないという、弁護人限りにとどめるという規定を、いずれどこかの段階で定めていただけたら安心できると思いますので、その点検討していっていただきたいと思っております。 しろまる大澤部会長 ほかにはいかがでございましょうか。 よろしいでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 次に「第1」の「2」に進ませていただきまして、「再審請求審における検察官による証拠の一覧表の提出に関する規律を設けるか」について、審議を行いたいと思います。 御意見等がある方は挙手をお願いいたします。 しろまる川出委員 「A案」と「B案」のどちらが妥当であるかは、「第1-1(2)」についてどちらの案を妥当と考えるかということと連動しますが、ここでは、「A案」に賛成する立場から、「A案」の[検討課題]として挙げられている点、すなわち、「一覧表に記載させる標目の範囲を裁判所が適切に定めることができるか」という点について、意見を申し上げたいと思います。 この点につきましては、第4回会議において村山委員から、検察官がどのような証拠を保管しているかが不明であるために、一覧表に記載させる標目の範囲を裁判所が定めることは困難である旨の御発言がありました。しかし、通常審における証拠開示命令においても、刑事訴訟法第316条の27第2項で、裁判所は、必要があると認めるときは、検察官に対し、その保管する証拠であって、裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができると定められており、私が知る限り、裁判例においても、例えば参考人の取調べ状況が問題とされた事案で、誰々の取調べ状況に関する一切の証拠書類ないし証拠物といった形で、標目の範囲を指定して一覧表の提示を命じたものがあります。 そうであるとしますと、再審請求審においてもこれと同様に、裁判所が再審理由との関係を考慮して、適切な範囲を指定し一覧表の提示を命じることは可能ではないかと思います。 しろまる大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 しろまる田岡幹事 第4回会議でも申し上げましたが、刑訴法316条の27の一覧表、これは証拠一覧表ではなく、標目一覧表と呼ばれているかと思いますが、この標目一覧表は、実務上ほとんど用いられていないと認識しています。 確かに公判前整理手続ができた平成16年改正刑訴法の施行当初は、刑訴法316条の14第2項の証拠一覧表、つまり検察官保管証拠の一覧表の制度という現行の制度がなかったために、検察官が現に保管する証拠というものが全く分かりませんでした。そのために、類型証拠開示及び主張関連証拠開示の対象となる証拠が開示されず、裁定請求、証拠開示命令請求の手続に進んだ際には、裁判所が検察官に命じて、この標目一覧表というものを作らせた上で、その判断を行うという仕組みが採用されたのだろうと思います。 ただ、その後に平成28年改正刑訴法によって、刑訴法316条の14第2項の証拠一覧表の制度ができたために、弁護人は、証拠一覧表を基に類型証拠開示請求及び主張関連証拠請求を行えばよく、裁定請求、証拠開示命令請求の手続に進んだ段階であっても、裁判所は、証拠一覧表に基づき判断すれば足りるので、新たに標目一覧表を作ることを命じる必要性はなくなりました。その結果、実務上ほとんど活用されていないと思われます。 実際問題としましても、通常審は当事者主義であり、公判前整理手続は公判が開かれる前であるために予断排除の原則がございますので、裁判所は証拠の提示命令に消極的になるということが考えられるわけですけれども、再審請求審は職権主義であり、予断排除の原則はありませんので、証拠開示命令の判断のために必要があれば、証拠の提示命令をかけて、その証拠の内容を見た上で、関連性、必要性などを判断すれば足りるのに、あえて証拠の提示命令をかけずに、標目一覧表という極めて不十分な情報しかないものを手掛かりに、関連性、必要性などを判断するという制度にする合理性がありません。 刑訴規則の217条の28には、判断のために必要と認める事項を記載するとされておりますけれども、証拠の内容を記載するとはされておりませんので、証拠開示命令の判断をする手がかりになりません。このような極めて不十分な情報しかない標目一覧表を作ったところで、関連性、必要性などの判断が正しくなされる保障は全くありませんので、再審請求人・弁護人から不服申立てが繰り返されることになりかねず、結局、証拠開示の手続が長期化するという結果にしかなりかねないように思われます。 検察官の立場に立ったとしましても、送致書類目録であれば手元にありますので、それを開示すれば足りるわけですが、標目一覧表を新たに作成するとしますと、結局、全ての証拠を見た上で、その範囲に属する証拠をリストアップし、さらに、標目、作成者、作成年月日に加えて、その判断のために必要と認める事項を記載した標目一覧表を新たに作成するという義務が生じることになりますので、無用な負担を課すことになってしまいます。送致書類目録を開示する、あるいは検察官保管証拠の一覧表を作成するという方が手間も掛かりません。わざわざ、標目一覧表を作らせる意味が分かりません。 その上で、課題として指摘されていることについて改めて御説明いたしますと、私は決して再審請求理由と全く無関係な証拠の開示を認めよと、そのような主張をしているわけではございません。本当に再審請求理由と全く関連性がないのでしたら、そのような証拠が開示されたところで、再審請求審の判断には役立ちませんから、再審開始決定がなされることにはなりません。再審請求人もそのようなことを求めているわけではないんです。ただ、再審請求人・弁護人は、検察官がどのような証拠を保管しているのか、また、その証拠の内容はどのようなものであるのか分からないために、その証拠の内容を見なければ、再審請求理由との関連性、必要性が分からないことがある、と主張しているわけです。 例えば、袴田事件では、5点の衣類の着衣のカラー写真を見て、色調が問題になるということが分かりました。また、福井事件では、捜査報告書を見て、夜のヒットスタジオの放映日が問題になることが分かりました。このようなことは、証拠の開示を受けないと分からないことです。つまり、証拠の内容を見ずに、必要性、関連性などを判断することには限界があるために、関連性、必要性が認められる可能性のある証拠について、幅広く開示を認めた上で、関連性、必要性が認められるものを取り調べることにしなければ、現実には、再審請求理由に関連する証拠が開示されないと言っているわけです。 そのためには、まず、送致書類目録又は証拠一覧表を提出させて、検察官がどのような証拠を保管しているのかを明らかにさせる必要があります。証拠の存在を明らかにするだけで弊害が生じることはほとんどないと思われますが、仮に弊害がある場合には、刑訴法316条の14第4項がありますので、証拠一覧表に記載しないこともできます。 このように、裁判所は、検察官に命じて、送致書類目録又は証拠一覧表を提出させることとした上で、必要があれば、証拠の提示命令をかけて、証拠の内容を見て、関連性、必要性及び相当性などを判断すればよいと考えますので、標目一覧表を作成させる必要性がある場面というのはほとんどないのではないかと考えております。 しろまる池田委員 ただいま田岡幹事から、作成の便宜等も考慮して、保管証拠の一覧表を交付するという制度にしてはどうかという御提案があり、「B案」の立場に立たれるものと思いますけれども、私は、「A案」を支持する立場から意見を申し上げたいと思います。 検察官に命じて保管する全ての証拠の一覧表を提出させる仕組みとすれば、それは請求理由に関わらず証拠を検討するということを前提としたものとならざるを得ず、原判決の当否そのものが全て全面的に見直されるべきであるという発想から離れることはできないように思われますが、既に繰り返し申し上げておりますように、これは再審請求審の構造には整合しないものであり、適切ではないと思います。 必要ないものまで見るつもりはないとおっしゃいましたけれども、その必要性というものを、請求理由との関連性ということを踏まえておっしゃっておられるのかどうかということにも、疑問が残ります。 しろまる大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 しろまる鴨志田委員 「A案」と「B案」というのがどちらか二者択一という、必ずしもそういう趣旨ではないと思うのですけれども、先ほどもちょっと御紹介をした議員立法で、既に国会に提出されている法案によれば、「A案」に相当する部分というのは、法律案の444条の6というところで、いわゆるインカメラ手続の規定の中に、「検察官保管証拠等の提示又は検察官保管証拠等であつて裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表」という形で、要するに証拠そのものや一覧表を裁判所限りで提出させるという手続を設けています。 でも、その一方で、請求人の請求によって、裁判所の証拠開示が義務付けられるという義務付け規定になっている444条の4の方では、その開示される証拠の範囲の中に、いわゆる送致目録、警察が検察に記録証拠を送致するときにつける目録、これが含まれるということが明文で書かれています。そうすると、ここをどう解釈するかということになるわけですけれども、先ほども御紹介したとおり、この議員立法の法案の解釈としては、先ほどの再審の理由に関連すると認められるということについて、その関連性の範囲を広く捉えていることが前提となると思います。要するに、およそ関連しない証拠については除外するという趣旨にすぎず、再審請求理由に直接間接に関連すると認める証拠であれば、広くその対象とし得るとしています。このように幅広く捉えているからこそ、この送致目録も義務的な開示の対象になっているということだと思います。 そうだとすると、「A案」と「B案」に関して言えば、やはり基本的に「B案」を採る、そして、先ほど来言っているように、再審請求人がそもそもどんな証拠があるか分からない状態で、明白性のある新証拠を出せというほとんど無理な注文をつけられて、それが再審請求のスタートとなっている以上は、どんな証拠が捜査側に保有されているのかということが分からなければ主張も組み立てられないという、そういうところからスタートするわけですから、まずは「B案」の方の、広く一覧表を開示するというところは、再審請求人にとっては不可欠だと思います。 一方で、再審請求人の請求を超えて、それ以上に証拠の開示を認めるかどうかというような、裁判所が裁量で取り寄せたいと思った場合であれば、「A案」のように裁判所において必要なものの目録をということは考えられると思います。ただ、それに関して言えば、先ほど田岡幹事がおっしゃっているように、証拠そのものが出るんだったら別に標目作らなくてもいいのではないかということもありますので、議員立法の案では両方になっていますけれども、そこは、場合によっては証拠そのものの提示ということでも足りるのかなと思った次第です。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる田岡幹事 念のために、議連法案の444条の6は、証拠そのものの提示又は標目一覧表の提示を命ずるという制度になっておりまして、証拠そのものの提示を命じることもできる制度になっているということだけ、補足しておきます。 しろまる成瀬幹事 私は、「A案」に賛成の立場から意見を申し上げます。 田岡幹事及び鴨志田委員から、証拠の提示命令に加えて、保管証拠の一覧表又は送致目録を再審請求者や弁護人に開示する仕組みも導入すべきである旨の御発言がございました。これは、通常審における証拠の一覧表の交付制度を参考にしたものと思われます。 しかしながら、通常審における証拠の一覧表の交付制度は、それ単体で存在しているのではなく、飽くまで通常審における証拠開示制度の一部を構成するものとして設けられたものです。すなわち、通常審における証拠開示制度が、対審構造の下、検察官が一定の証拠について被告人側に証拠を開示することにより、争点及び証拠を整理するとともに、被告人側が十分な防御の準備をすることができるようにする仕組みであることを前提とした上で、被告人側による証拠の開示請求の「手がかり」として、検察官がその保管する証拠の一覧表を被告人側に交付しなければならないこととされました。 これに対して、第4回会議において申し上げた再審請求審の審理の構造からすれば、再審請求審においては、裁判所が審理に必要と認めた証拠について裁判所に提出させる制度とした上で、裁判所がその判断をするに当たり、必要があると認めるときに、検察官に命じて、裁判所の指定する範囲に属する証拠の標目を記載させた一覧表を裁判所に提示させることとすることが整合的です。 これまでの田岡幹事や鴨志田委員の御発言の中で、「B案」を採用する必要性については詳しい御説明がありましたが、再審請求審の構造との整合性については、なお十分な説明が尽くされていないように思われます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる田岡幹事 成瀬幹事から、再審請求審との構造との整合性はなお説明されてないと言われたんですけれども、私が「B案」を主張しているのは、そもそも、検察官がどのような証拠を保管しているかが分からないと、必要性、関連性を具体的に主張しようにも、具体的な主張ができませんから、再審請求理由の判断のために必要な証拠が開示される保障がありません、ということを言っているだけなんですね。再審請求審の構造に照らして、再審請求理由と無関係な証拠を提出させようとしているわけではありません。 その上で、「A案」では、標目一覧表というものが作られた場合に、本当にそこに記載されている証拠が全てなんですかと、例えば、検察官は証拠を隠しているのではないですか、また、未送致の証拠があるのではないですかといった形で争いが生じることは避けられません。また、標目一覧表に判断の手掛かりとなる事項が記載されたとしても、本当に正しく記載されているのですか、仮に正しく記載されているとしても、それだけで、関連性、必要性が判断できるんですかといった形で争いが生じることは避け難いように思われます。 そうすると、再審請求理由との関連性、必要性を判断するためには、そもそも、検察官はどのような証拠を保管しているのかということについて共通認識を持つ必要がありますので、送致書類目録又は証拠一覧表を提出させて、検察官が保管する証拠はこれが全てですと明らかにさせた上で、その中で、証拠開示命令の対象になる証拠はこれですと説明してもらわないと、他にも証拠があるのではないか、それ以外にも関連する証拠があるのではないかといった疑問が払拭されない結果、不服申立てが繰り返されて、証拠開示の手続が長期化することになると申し上げているわけです。 特に証拠物に関して言いますと、実務上、刑訴法316条の14第2項の証拠一覧表は、証拠書類一覧表と証拠物一覧表の二つに分けて交付される仕組みになっておりますが、証拠物の場合には、検察官がどのような証拠物を保管しているかということが分からないと、その証拠物が再審請求理由と関連性、必要性があるかどうかの判断すら難しく、また、標目一覧表に記載する証拠物の範囲を適切に定められるのかという疑問がございます。証拠物の一覧表を作るのはさほど難しいことではないと思われますし、証拠物の一覧表を開示することによる弊害といったものは、およそ考えられないと思います。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる村山委員 本質の議論ではないと思いますが、デジタル化がどんどん進んでいるのですから、捜査機関の方もデジタル情報として証拠を管理しているということだと思います。そういう意味では、一覧的なものというのはそのデジタル情報を活用するということで、こういうところでは余り手間を掛けずに済むという実用面でのメリットもあるんではないかなと思っています。 その必要性については田岡幹事の言ったとおりで、必要性の議論というのは、構造論とどういうふうに関係するかというのを疑問視されているんですけれども、実際できないものはできないとしか言いようがないというのが、私の率直な意見であります。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 よろしいですか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 この枠はこの程度ということにいたしまして、次に「第1」の「3 再審請求の準備段階における閲覧・謄写に関する規律を設けるか」について審議を行いたいと思います。 御意見等がある方は挙手をお願いいたします。 しろまる田岡幹事 「規律を設けることの相当性」として、通常審との整合性や判決確定によって証拠開示の範囲が広がることの合理性が課題であると記載されているんですけれども、通常審で開示済みの証拠と通常審で開示されなかった証拠は問題の所在が異なると思いますので、少なくとも、両者は区別して議論すべきではないかと思います。 例えば、日弁連改正案は、証拠書類については、通常審において開示済みの証拠については、判決確定後であっても開示を認めましょう、閲覧・謄写を認めましょうという提案をしているにすぎませんので、判決確定によって証拠開示の範囲が広がるとか、通常審の証拠開示では認められなかったものが開示されるという制度を提案しているわけではありません。他方、証拠物、証拠品に関しては、証拠開示の範囲を広げることを提案しています。したがって、両者は問題の所在が異なるということを前提に、意見を申し上げたいと思います。 まず、通常審において開示された証拠、具体的には確定記録である保管記録・再審保存記録、裁判所不提出記録のうち開示済みの証拠、これには検察官請求証拠が不同意又は不必要とされて裁判所に採用されなかったものも含まれますし、類型証拠開示証拠、主張関連証拠又は任意開示証拠として開示されたが、証拠調べ請求されなかったために裁判所が採用しなかった証拠も含まれますが、こうしたものは既に弁護人に開示済みの証拠でございますので、判決確定によって、なぜその開示の範囲が狭まるのか、なぜ閲覧・謄写ができなくなるのかということをむしろ問題とすべきであって、判決確定後に証拠開示の範囲が広がるという問題ではないということを、まずは確認しておきたいと思います。 その上で、判決確定後、これらの証拠が閲覧・謄写の対象になるかと考えますと、確定記録、つまり保管記録・再審保存記録は、刑事確定訴訟記録法による閲覧・謄写の対象になりますけれども、先ほど申しましたように、一部の証拠は閲覧・謄写が許可されないことがあります。また、裁判所不提出記録につきましては、確定記録、つまり保管記録・再審保存記録ではないので閲覧・謄写がされないとされていますので、刑訴法47条ただし書の裁量による閲覧・謄写はあり得るかもしれませんが、少なくとも刑事確定訴訟記録法による閲覧・謄写の対象にならないという問題があります。したがって、日弁連改正案は、開示済みの証拠については閲覧・謄写を保障しないと、通常審の弁護人が謄写していなかったり、記録を廃棄、紛失又は滅失してしまった場合には、再審請求が困難になるから、判決確定後であっても閲覧謄写を認める必要性があるということを申しておるわけです。私は、少なくともこの限度では異論はないのではないかと考えております。 他方で、通常審では開示されなかった証拠については、同列に論じることはできませんので、別途の検討が必要でありますが、日弁連改正案は、証拠物、証拠品については原則開示するという制度を提案しております。これは、松橋事件において、再審請求準備段階で証拠品の閲覧が許可されたことが、再審請求及び再審開始決定につながったという実例を踏まえまして、少なくとも証拠物、証拠品については、仮に当時証拠開示制度があれば、刑訴法316条の15第1項1号の類型証拠として開示されたであろうということ、また、証拠品については、還付対象証拠物は還付されてしまいますと取り返しがつかなくなるといったことから、証拠物、証拠品については、閲覧・謄写の機会を保障するべきであるという考え方から、原則開示という制度を提案しているものと理解しています。 さらに、証拠物、証拠品と類似するものとしまして、検証調書、実況見分調書、鑑定書などの客観的な証拠に関しましては、刑訴法47条ただし書の検察官の裁量による閲覧・謄写の対象とされておりますが、被害者等の場合には、平成20年11月19日の法務省刑事局長通知によって、民事の損害賠償のみならず、事件のことを知りたいという理由によっても、閲覧・謄写が許可されていると理解しております。被害者には開示されるのに、再審請求人・弁護人には開示されないという区別に、合理性はあるのでしょうか。また、被害者についても、通知に基づく閲覧・謄写は、いつ何どきどのように改正されるか分かりません。閲覧・謄写が権利として認められないということでよいのか、例えば閲覧・謄写が許可されなかった場合、不服申立てができないということでよいのかと考えますと、私は、現在は刑訴法47条ただし書の裁量による閲覧・謄写の対象とされている証拠については、再審請求人・弁護人に限らず、被害者からの請求の場合も含めて、裁判所不提出記録の閲覧・謄写権を法制化した上で、不服申立ての手続を整備するということが望ましいのではないかと考えます。 しろまる大澤部会長 一つだけ教えていただきたいのですけれども、既に開示された証拠について、通常審の弁護人あるいは前の再審請求の弁護人から引き継ぐということは、一般的には行われているのでしょうか。あるいは、そこに何か困難がある場合というのはあるのでしょうか。 しろまる田岡幹事 引き継げる場合には引き継ぎを依頼しますし、実際に謄写記録が存在する場合には、引き継いでいただけることが多いと思います。 ただ、そもそも、全ての証拠を謄写しない弁護人もいらっしゃいますし、謄写したとしても白黒コピーであって、カラーコピーでないという場合もございます。また、証拠物については、そもそも閲覧・謄写といっても写真に撮ることしかできません。 したがいまして、謄写記録というもの存在する場合には、例えば、第一審から控訴審、控訴審から上告審と、審級が変わるごとに弁護人が替わりますので、前の弁護人から引き継ぐということは当然あり得るんですけれども、前の弁護士が謄写をしていないと、控訴審、上告審、更には再審請求の弁護人がそれを引き継げないといったことが起こります。 また、当然引き継ぎを拒否されるということもありまして、弁護人は開示証拠の適正保管義務及び目的外使用禁止の規定の義務を負っておりますので、知らない弁護人に提供するのは嫌だといって拒否されますと、我々にはそれを強制する手段がございませんので、改めて閲覧・謄写をしなければいけません。さらに、先ほど言いましたように、廃棄、紛失、滅失、汚損などといったこともないとは言えませんで、いろいろな理由によって謄写記録がなくなってしまいます。例えば、一旦不要だと思って廃棄したんだけれども、後に再審請求を起こしたいという依頼があったという場合を考えますと、もう捨ててしまったので、手元にありませんという事態が起こります。 このように現実に必要性があるから提案しているわけでございまして、我々も引き継げるのであれば引き継ぐ方が余計な費用が掛かりませんので助かるんですけれども、引き継げない場合が現実にあるということは御理解いただきたいと思います。 しろまる大澤部会長 どうもありがとうございました。 しろまる吉田(雅)幹事 今の御提案の趣旨を2点確認させていただきたいと思います。 まず、1点目として、再審請求準備段階において、通常審で開示済みの証拠の閲覧・謄写を必要的に認めるべきだということでありますけれども、それは、何回請求する場合でも、毎回必要的に認めるべきだということでしょうか。すなわち、累次の再審請求がなされるたびに、通常審で開示済みの証拠であるからという理由で必ずその閲覧・謄写を認めなければならないとすることを御提案なのかというのが、1点目でございます。今、証拠の引継ぎの話がございましたけれども、第1次の請求と第2次の請求で弁護人が交代した場合に、第1次の請求の際に謄写した証拠を引き継げなかったとすると、第2次の請求においても必要的に閲覧・謄写を認めるべきだということになるのかどうかということでございます。 2点目として、刑事確定訴訟記録法上、記録の保管期間がございますけれども、その期間を超えてもなお、通常審で開示済みの証拠については必要的に閲覧・謄写を認めるべきだということまで御提案なのかどうかということでございます。その保管期間との関係をどのように整理されるかという点について、もしお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。 しろまる田岡幹事 いずれもそのとおりという答えになるかと思います。 まず、累次の再審請求がなされている場合でありましても、1次請求の弁護人が謄写をしているかどうか分からないわけですし、その後に廃棄、紛失、滅失、汚損などもあり得るわけですから、2次請求の段階で再度閲覧・謄写が必要になる場合はあるかと思います。 これは、裁判所提出記録に限らず、確定記録である保管記録・再審保存記録についても全く同様でございまして、これらの謄写記録が引き継がれない場合には、改めて閲覧・謄写する以外に、その証拠にアクセスする方法がありませんので、確定記録である保管記録、再審保存記録、裁判所不提出記録のいずれについても、累次の再審請求においても、保管・保存されている限りは閲覧・謄写が認められるべきであると考えます。 次に、保管期間・保存期間との関係では、刑事確定訴訟記録法に保管期間、再審保存の請求の制度がありますので、これと同様に考えられます。記録事務規程によれば、裁判所不提出記録は保管記録、再審保存記録の保管に従うとされているわけですので、保管記録、再審保存記録の保管期間・保存期間と同じ期間、裁判所不提出記録も保管されることになるはずですから、その保管・保存されている限りは閲覧・謄写が認められるべきであると考えます。 しろまる大澤部会長 「3」の検討課題について、他に御発言ございますでしょうか。 しろまる宮崎委員 第4回会議で述べましたとおり、通常審で開示の対象とならない証拠を再審請求の準備段階において閲覧・謄写の対象とすることは、有罪の言渡しを受けた者にとって上訴よりも再審請求をした方が有利な仕組みとなりかねず、制度として不合理であると考えます。 同会議におきましては、鴨志田委員から、上訴せずに有罪判決を確定させた上で再審請求をすることをあえて選択することは難しいのではないかとの御意見が示されましたが、私の発言の趣旨は、あえて上訴せずに再審請求をするという選択を現実にしようとするか否かを問わず、制度の在り方として、上訴するよりも再審請求をする方が有利となるような仕組みは不合理であるというものであります。 また、同会議で述べたとおり、いまだ再審請求すらしていない準備段階においては、どのような理由で再審の請求をしようとするのかの主張が不明であるため、その段階で閲覧・謄写を認めるべき証拠の範囲を適切に画定・判断することは、極めて困難と言わざるを得ないです。 [検討課題]の「(2)」については、それを克服できるような説明はなされていないと考えます。 なお、一般論として申し上げれば、再審請求のための裁判所不提出記録及び証拠物の閲覧・謄写については、刑事訴訟法第47条の趣旨を踏まえ、個別の事案に応じ、保管している検察官において適切に対応しております。 また、田岡幹事から、確定記録のほか通常審等で開示の対象となった裁判所不提出記録及び証拠物の閲覧・謄写は、再審請求の準備段階であっても認められるべきであるとの御意見が示されました。第4回会議におきまして田岡幹事は、刑事訴訟法第281条の4第1項第2号ホに再審請求手続が掲げられているということを、その根拠としておっしゃっていました。 しかしながら、通常審で開示された証拠の目的外使用の禁止の対象から再審請求手続が除外されているということは、既に開示を受けた当該証拠を弁護人が再審請求手続において使用することが許されるということを意味するにとどまり、当該証拠は一旦開示されたものである以上、再び検察官から開示されるのが当然であるということまでを意味するものではありません。 そもそも通常審における証拠開示は、当事者主義的訴訟構造を前提として、被告人が検察官の主張・立証に対して防御活動を行うべき立場に置かれることから、そこに法的な必要性を認めて制度化されているものでありますが、再審請求は、再審請求者等が再審請求事由があることを示して、その根拠となる新たな証拠を提出しなければならないものであるところ、その準備のために、検察官が通常審で開示した証拠について再び閲覧・謄写の機会を与えなければならない法的な必要性も示されていないように思われます。 また、例えば、有罪の言渡しを受けた者が、有罪判決の確定後に被害者への報復意思を表明している場合など、通常審等で開示された証拠であっても、改めてこれを閲覧・謄写させることの相当性について慎重に判断すべき場合もあり得ることから、閲覧・謄写を一律に認める取扱いとすることは相当でないと考えられます。 以上のとおり、再審請求の準備段階における閲覧・謄写に関する規律を設けることは、相当でないと考えます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 しろまる鴨志田委員 先ほどの、弁護人が前の弁護人の記録を引き継げるかというところに、一つだけ補足をしておきますと、再審請求される事件というのは、通常審での弁護が非常に不十分であるというケースが多いです。それによって冤罪が作られてしまうということは、弁護人としては非常に反省をしなければならないところだと思うんですけれども、そのような関係があることから、再審請求しようとする者が、従前の弁護人とその後も関係性を持っているということがない方が多いです。ですから、協力を受けることがそもそもできないということが前提になっていて、日弁連も再審支援活動をする中で、記録の取り寄せというところからまずスタートするんですけれども、それが、通常審段階の弁護人と全然連絡が取れないとか、お願いしても拒否されるということの多さにつながっているのではないかと考えた次第です。そういう現実は御承知おきいただきたいと思います。 その上でですけれども、その「規律を設けることの必要性」については、とにかく通常審段階で警察による未送致証拠があるということが明らかになり、また検察による証拠隠しが明らかになったという事例が、現に存在しているわけです。そして、そのようなケースの国家賠償請求において、例えば布川事件や松橋事件や湖東記念病院事件では、証拠が出されなかったこと、不開示とされたことが違法と判断されています。そういうことからすると、通常審で開示の対象とならなかった証拠であっても、本来であれば通常審で開示すべきであった証拠を再審請求の準備段階で出さなければ、それは違法状態が追認されて、それを持続したまま再審請求に進むということを意味するわけですが、本当にそれでいいのかということを問いたいと思います。 また、「規律を設けることの相当性」に関して言えば、第4回会議で川出委員から、再審請求をしようとする者というのは、結局のところ有罪判決を受けた者と同じになってしまうのではないかという御発言がありました。そのようなことから考えても、準備段階での閲覧・謄写を認める範囲を適切に判断するためには、弁護人―あるいは弁護士代理人と言ってもいいかもしれませんが―の援助が不可欠であると考えます。ですから、再審請求の準備段階における閲覧・謄写に関する規定を設けるか否かという問題は、国選弁護制度、再審の準備段階における弁護人の援助という問題とセットで考えられるべき問題であると考えています。 しろまる大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 しろまる成瀬幹事 再審請求の準備段階における証拠物の閲覧・謄写について意見を申し上げます。 再審請求の準備をしていることを理由として、通常審では開示の対象とならない証拠物の閲覧・謄写を可能とするということは、有罪判決が確定すると、その途端、それまで開示の対象とされていなかった証拠物が開示されることとなるということを意味します。 これは、第4回会議で述べたとおり、判決の確定が、それと同時に、新たな証拠により当該確定判決の当否を争う機会を与えることを意味するものであり、確定判決による終局的な解決を軽視するものであって、再審手続が非常救済手段とされていることと整合しませんし、通常審の証拠開示制度とも整合しません。 これまでの田岡幹事や鴨志田委員の御意見を踏まえても、この点に関する理論的な根拠付けは示されていないように思われます。 また、田岡幹事から、「証拠物は、所有者に還付されてしまい、閲覧・謄写することができなくなってしまうという特性があるため、特別な考慮が必要である」旨の御意見も示されました。しかし、通常審において一定の要件を満たさなければ開示を受けることができなかった証拠物について、終局判決が確定して押収の効力がなくなり、還付しなければならない段階になると、なぜ無条件に開示を受けられるようになるのか、その理論的根拠を見いだすことは困難でしょう。 よって、再審請求審の準備段階における証拠物の閲覧・謄写に関する規律を設けることは、相当でないと考えます。 なお、先ほどの宮崎委員の御発言の中で、再審請求のための裁判所不提出記録及び証拠物の閲覧・謄写については、刑事訴訟法第47条の趣旨を踏まえ、個別の事案に応じ、保管している検察官が適切に対応している旨の御指摘がございました。このことも踏まえますと、再審請求の準備段階における閲覧・謄写に関する規律を設けなければならない必要性についても、なお検討の余地があるように思われます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 よろしいでしょうか。 しろまる田岡幹事 成瀬幹事から御意見がありましたので、補足して御説明致します。 私は、端的に言えば、再審請求準備段階でなくても、閲覧・謄写が認められるべき場合はあると考えますし、また再審請求後であっても、再審請求手続外で、保管検察官に対して閲覧・謄写の申請をすることはあり得ると思います。実際に、保管記録・再審保存記録については、再審請求後であっても、保管検察官に対して閲覧謄写を請求しているわけですから、それと同じように、裁判所不提出記録についても、保管検察官に対して刑訴法47条ただし書によって閲覧・謄写を請求することはできると考えられます。したがって、これは、本来、再審請求準備段階に限った問題ではないと思います。 その上で、再審請求を準備しているというのは、刑訴法47条ただし書の判断の要素の一つにすぎないと考えますと、単に再審請求をすることを考えていますという程度であったとしても、被害者が事件の内容を知ることを目的に閲覧・謄写の申請をすることができるのと何ら変わりはないわけですから、再審請求の準備という目的が確定的なものでなくても、閲覧・謄写が認められる場合はあるのではないかと考えています。 実際に、平成20年11月19日の法務省刑事局長通知に基づく不起訴記録の閲覧・謄写、これには、裁判所不提出記録の閲覧・謄写が含まれると理解できますが、被害者の閲覧・謄写の申請は、判決確定後にはできますけれども、判決確定前には検察官から開示された証拠しか閲覧・謄写できないわけですので、それと同様に、再審請求人・弁護人が判決確定後に裁判所不提出記録の閲覧・謄写ができるという仕組みを設けることは、おかしなことではないように思われます。 再審請求準備段階ということを強調しますと、通常審では開示されていなかったのに、なぜ判決確定後に開示されるんですかということになりますが、これは、本来、再審請求準備段階に限らず、元被告人であった人が判決確定後に裁判所不提出記録の閲覧・謄写をしたいという場合には、刑訴法47条ただし書に基づき閲覧・謄写が認められる場合があるという問題だと思います。現在でも、検察官は刑訴法47条ただし書に基づき判断しているはずですが、裁量基準が明示されておらず、手続が定められていないので、私は、その判断を安定的なものにするために規定を設けてはいかがでしょうかと提案しています。また、その際には、被害者の閲覧・謄写も併せて法制化してはどうでしょうかと提案しています。そうしないと、全部が全部裁量ということでは、必ずしも適切に判断されないおそれがあります。実際に民事訴訟において、保管検察官の裁量の逸脱又は濫用に当たるとして文書提出命令が出た事例は、最高裁まで至ったものも含めて複数ございます。 特に、名古屋地裁平成24年2月27日判決は、捜査機関が収集した証拠のうち、公判に提出される証拠は、通常、公訴事実を立証するものとして検察官から提出されるものであり、公判に提出されない証拠はこのようなものではない証拠であることからすると、刑訴法47条を理由として、公判不提出記録の開示をしないことは、捜査機関の都合により、一方当事者である被疑者・被告人であった者の利用を妨げ、国民が協力して得られた情報や資料が偏頗に使用されることになるのであって、国民一般は、このような偏った使われ方を期待しているものではないというべきである。むしろ、国民から提供された情報や資料が、被疑者・被告人や被疑者・被告人であった者にも開示され、公平・公正な刑事司法の運営や、基本事件のようなこれを当事者の主張、立証を通じて検証することとなる民事訴訟においても役立てられることで、将来における国民一般の協力が得られることになるというべきである、と判示しています。 こうした刑事司法の公平公正な運営や一般国民の協力を得るのために、裁判所不提出記録の閲覧・謄写の制度というものを、きちんと法制化してはどうかと考えます。 しろまる大澤部会長 さらに御発言ございますでしょうか。 よろしいですか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 「第1」の「3 再審請求の準備段階における閲覧・謄写に関する規律を設けるか」については、この程度ということにさせていただきたいと思います。 予定していた時間をほぼ迎えているという状況でございまして、今から次の論点に入ると、議論が中途半端になることも想定されます。また、多分テーマとしてもここが一つの区切りになっているかなという気もいたしますので、本日の審議はここまでということにしたいと存じます。 時間の関係で本日積み残しとなりました論点については、次回会議において審議を行うこととしたいと思います。また、次回会議において、そのほかにどの論点について審議を行うかにつきましては、私の方で早急に検討をさせていただきまして、期日間に事務当局を通じて、できるだけ早期に皆様にお知らせするということにしたいと思います。次回まではかなり日程が詰まっておりますので、極力早くということで努力させていただきたいと思います。 本日の会議における御発言の中で、基本的には特に公開に適さない内容にわたるものはなかったと理解をしておるところでございます。ただ、議事録作成の過程で非公開とすべき部分があるかどうかにつきましては、改めて精査させていただいた上で、そのような部分があった場合には、御発言なさった方の御意向なども確認した上で、該当部分については、非公開とする等の適切な処理をしたいと思います。また、それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法につきましては、部会長である私に御一任いただくということでよろしゅうございますでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 他方で、本日の配布資料につきましては、特に公開に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので、公開することとしたいと思います。 以上のような取扱いとさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。 (一同異議なし) しろまる大澤部会長 次回の日程について、事務当局から説明をお願いいたします。 しろまる今井幹事 次回の第10回の会議につきましては、令和7年11月11日火曜日、午前9時30分からを予定しております。また、次々回の第11回会議につきましては、令和7年11月26日水曜日、午後1時30分からを予定しております。 詳細につきましては、別途ご案内申し上げます。 しろまる大澤部会長 それでは、次回は11月11日ということですので、どうかよろしくお願いいたします。 では、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-

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