改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第10回) 第1 日 時 令和6年1月12日(金) 自 午前 9時58分 至 午前11時59分 第2 場 所 法務省大会議室 第3 議 題 再審請求審における証拠の開示 第4 議 事 (次のとおり) 議 事 ○しろまる中野参事官 ただ今から、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第10回会議を開催します。 本日は、皆様御多用中のところ、御出席くださり誠にありがとうございます。本日は、前回に引き続き、刑事訴訟法等の一部を改正する法律附則第9条第3項において検討が求められている事項について協議を行うこととします。 まず、事務当局から、本日の配布資料について確認をさせていただきます。 本日は、事務当局において作成したものとして、配布資料39-1から39-3までをお配りしています。また、横山構成員より資料1から資料5を御提出いただいています。これらは、いずれも、再審請求審における証拠の開示に関する資料です。各配布資料の内容につきましては、後ほど、再審請求審における証拠の開示について協議を行う際に御説明します。 それでは、議事に入ります。 議事については、まず、「再審請求審における証拠の開示」について、前回会議の配布資料に加え、本日の配布資料39-1から39-3までと、横山構成員御提出の資料1から5までの資料に基づく協議を行い、次に、「起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置」について、前回会議の配布資料38に基づく協議を行い、引き続いて、「証人等の刑事手続外における保護に係る措置」について、前回会議において松田構成員から御提出いただいた資料に基づく協議を行うこととしたいと思います。それらの協議に当たっては、それぞれ配布資料の説明を行った上で、その内容についての質疑応答、意見交換を行うこととしたいと思います。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同異議なし) それでは、「再審請求審における証拠の開示」について協議を行いたいと思います。まず、事務当局から配布資料39-1から39-3までの資料の内容について御説明します。 配布資料39-1について御説明します。配布資料39-1は、刑事確定訴訟記録法の条文です。刑事確定訴訟記録法については、前回会議においても若干御説明したところではありますが、改めて資料に基づき御説明します。 刑事確定訴訟記録法は、第1条にあるとおり、刑事被告事件に係る訴訟の記録の訴訟終結後における保管、保存及び閲覧に関し必要な事項を定めることを目的としています。主な規定について御説明しますと、まず、第2条では、「刑事被告事件に係る訴訟の記録」は、訴訟終結後は保管検察官、すなわち、その被告事件について第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が保管することとされ、その保管期間については、資料3ページからの「別表」記載のとおり、保管記録の区分に応じてそれぞれの保管期間が定められています。なお、ここでいう「刑事被告事件に係る訴訟の記録」とは、裁判書や裁判所提出記録等をいい、裁判所の不提出記録は含みません。その上で、「別表」では、「裁判書」、「裁判書以外の保管記録」のそれぞれの区分に従い、保管期間が定められており、例えば、「保管記録の区分」欄の一1「死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する確定裁判の裁判書」についての保管期間は100年とされ、「保管記録の区分」欄の二1(一) 「死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する裁判に係る」裁判書以外の保管記録についての保管期間は50年とされています。なお、保管検察官は第2条第3項により、これらの保管期間について、必要があると認めるときは延長することができることとされています。 第3条は、再審の手続のための記録の保存について規定しています。具体的には、保管検察官は、保管記録について、再審の手続のため保存の必要があると認めるときは、保存すべき期間を定めて、別表で定められた保管期間満了後も再審保存記録として保存するものとすること、再審請求をしようとする者、再審請求をした者又はその弁護人は、保管検察官に対して、再審保存記録としての保存を請求できること、再審保存記録の保存期間は延長することができることなどを規定しています。 第4条は、保管記録の閲覧について規定しています。 第5条は、再審保存記録の閲覧に関するもので、再審請求をしようとする者、再審請求をした者又はその弁護人から閲覧請求があった場合には、原則として閲覧をさせなければならないことなどを規定しています。 そして、第8条は、再審保存記録としての保存請求や、保管記録、再審保存記録の閲覧請求をした者は、保管検察官がした処分に不服がある場合には、保管検察官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができることなどを規定しています。 配布資料39-1の御説明は以上です。 続いて、配布資料39-2について御説明します。配布資料39-2は、記録事務規程の条文です。記録事務規程は、第1条にありますとおり、刑事確定訴訟記録、裁判所不提出記録、不起訴記録などの記録の管理に関する事務の取扱手続を規定している法務大臣訓令です。主な規定について御説明します。 第3条から第17条までは、先ほどの配布資料39-1の御説明の中にありました保管記録及び再審保存記録に関する規定です。まず、第3条から第12条までが、その保管及び保存について規定しています。その中で、再審に関する主なものとしては、第7条において、再審保存請求書の提出があった場合に、保管検察官は、再審保存・再審保存期間延長に関する決定書を作成することや、請求をした者に対する保存に関する通知については、再審保存・再審保存期間延長に関する通知書によってすることなどが規定されており、第9条において、記録担当事務官は、公判担当事務官から再審請求に関する通知を受けたときや、証拠品担当事務官から再審請求が予測されるため証拠品を保管することになった旨の通知を受けたときは、その旨を保管検察官に報告することや、保管検察官は、再審の請求が行われることが予測されるときは、記録担当事務官にその旨をシステム上で管理させること、その場合に、記録担当事務官が、証拠品担当事務官から再審請求が予測されることによる証拠品保管の通知を受けていないときは、証拠品担当事務官に対して再審請求が予測される旨を通知することなどが規定されています。 次に、第13条から第17条までは、閲覧・謄写について規定しています。その中で、第13条において、保管記録の閲覧請求があった場合の、保管検察官による閲覧を許すか否かの決定及び通知に関する手続、第15条において、再審請求人等からの再審保存記録の閲覧請求があった場合の閲覧手続について、保管記録の閲覧に関する規定を準用することが、第17条において、保管検察官は、保管記録又は再審保存記録の閲覧を許すときは、その謄写を許すことができることが規定されています。 第18条から第22条までは、刑事参考記録について規定しています。 第23条、第24条は、裁判所不提出記録について規定しています。その中で、第23条において、裁判所不提出記録は、当該記録に係る裁判書以外の保管記録又は再審保存記録の保管又は保存に従うと規定されています。したがって、裁判所不提出記録も、裁判書以外の保管記録又は再審保存記録と同様に保管・保存されることとなり、例えば、配布資料39-1の御説明の際に申し上げたとおり、死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する裁判に係る裁判書以外の保管記録についての保管期間は50年とされていることから、同じ事件の裁判所不提出記録についても、その保管期間は50年となります。また、保管記録を再審保存記録として保存している場合には、同じ事件の裁判所不提出記録についても、当該再審保存記録の保存期間と同期間保存することとなります。 そのほか、第25条から第30条までは不起訴記録について、第31条及び第32条は費用補償請求事件記録及び刑事補償請求事件記録について、第33条及び第34条は、裁判書の謄本等の交付などについて、それぞれ規定しています。 配布資料39-2の御説明は以上です。 引き続いて、配布資料39-3について御説明します。配布資料39-3は、証拠品事務規程の条文です。証拠品事務規程は、第1条にありますとおり、証拠品の受入れから処分に至るまでの事務を規定している法務大臣訓令です。 まず、前提として、証拠品の処分に関する主な規定を御紹介します。第1章に総則的規定を置いています。第2条においては、証拠品が刑事裁判の重要な証明資料又は裁判の執行に関して必要な資料であることに鑑み、その証拠価値の保全に努めなければならないこと、第3条においては、証拠品の紛失、滅失、毀損又は変質等の事故発生を防止するため、その取扱いを迅速かつ正確にするなどして、その処分の公正について疑惑を招くことのないように注意しなければならないことが規定されています。 その上で、没収物について、第29条において、有価物であるときは売却の処分をすること、第30条において、無価物であるときは廃棄の処分をすること、第31条において、外国通貨以外の通貨であるときは歳入編入の処分をすること、第32条において、換価代金であるときは歳入編入の処分をすることが規定されています。 次に、45条において、所有権放棄により国庫に帰属した証拠品について、第53条において、還付公告の期間満了により国庫に帰属した証拠品について、それぞれその処分に関し、没収物の処分に関する規定を準用することを規定しています。 また、刑訴法第222条が準用する第123条第1項の規定を受け、証拠品の権利者との関係に鑑みて、第60条において、検察官は、証拠品のある事件について公訴を提起したとき又は上訴の申立てがあったときは、事件終結の前であっても、当該事件の証拠品で留置の必要のないものを速やかに還付等するよう努めることが規定されています。 これらの規定を前提に、再審請求事件に関しては、第88条から第90条までに、証拠品の保管の特則が定められています。具体的に申し上げると、第88条において、検察官は、再審請求があった場合において、原判決に係る被告事件の証拠品で、没収の裁判、所有権放棄又は還付公告の期間満了により国庫に帰属したものがあるときは、再審請求に対する裁判が確定するまでこれを保管することなどが、第89条において、再審請求が予測される場合にも、第88条による保管対象となる証拠品について、期間を定めて保管することや、その期間を延長することができることなどが、第90条において、再審開始決定が確定したときには、これらの証拠品について、再審の裁判が確定するまで保管することなどが規定されています。 配布資料39-3の御説明は以上です。 続いて、横山構成員から御提出いただいた資料について、御説明をお願いします。 ○しろまる横山構成員 簡単に、私の方から、本日提出させていただいております資料の説明をさせていただきたいと思います。 まず、資料1から4につきましては、事務当局から協議会の資料とすることが有益であるとして作成、提出の御依頼を頂いたものです。前回提出をさせていただきました令和3年の資料に対応する、平成30年から令和2年までの3年間の資料になります。資料1から4の資料の見方につきましては、前回申し上げたとおりですので、省略させていただきたいと思います。これら各資料につきまして、平成30年のものを枝番1、令和元年のものを枝番2、令和2年のものを枝番3として整理をさせていただいております。 次に、資料5は、再審請求事件の審理期間を高裁、地裁、簡裁の既済人員ごとに表にしたものです。前回、足立構成員から、再審請求事件の審理期間について、例えば、1年以上2年以下は何件といった数値はあるのかという御質問を頂きました。私の方からは、平均という形で全体の総数だけを採っていると回答いたしましたが、その後、改めて確認しましたところ、今回の資料のとおり内訳に関する数値がありました。前回の回答につきましては撤回をさせていただき、改めて資料5のとおり回答いたしたいと思います。資料の見方を具体的に説明いたしますと、例えば、「地裁」の「令和3年」というところについて見ますと、「既済人員」の欄の「165」人につきまして、受理から終局までに要した期間が1か月以内であった人員は「17」人、1か月を超えて2か月以内であった人員は「18」人というように続いておりまして、これらを平均しますと、右の方にあるとおり、「9.7」か月が全事件での平均の期間ということになっています。 ○しろまる中野参事官 前回お諮りしたとおり、まずは、再審請求審における証拠の開示について協議を行い、その後に、関連する事項としてその他の点について協議を行うこととしたいと思います。前回会議における協議の内容、先ほどの御説明などにつきまして御質問、御意見はありますでしょうか。 ○しろまる成瀬構成員 丁寧に御説明くださり、ありがとうございました。また、事務当局におかれましては、前回の協議会において、私がお願いをした記録事務規程及び証拠品事務規程も御提供いただき、感謝申し上げます。 まず、確定記録の保管につきまして、配布資料39-1に基づき、事務当局に質問をさせていただきたいと思います。先ほど御説明いただいたとおり、確定記録については、刑事確定訴訟記録法3条に再審手続のための保存に関する規律が設けられており、2項において、再審請求をしようとする者等が保管検察官に対し、再審保存記録として保存することを請求できること、3項において、当該請求を受けた保管検察官は、再審保存記録として保存するかどうかを決定し、請求者にその旨を通知することとされています。そして、同法8条において、保管検察官の保存に関する処分に不服がある者は、裁判所に対して当該処分の取消し又は変更を請求することができるとされています。 そこで、事務当局に伺いたいのですが、再審請求をしようとする者等から裁判所に対して保管検察官の保存に関する処分の取消し等が請求された事件の件数及び裁判所による判断内容の内訳について、もし統計資料等をお持ちでしたら、御教示いただけますと幸いです。 ○しろまる中野参事官 事務当局において把握している限りですが、刑事確定訴訟記録法8条に基づく不服申立事件で終結したものについては、令和2年に報告があったものは3件です。うち1件で、その不服申立てが一部認容されています。令和3年に報告があったものは10件です。うち8件で、不服申立てが一部又は全部認容されています。令和4年に報告があったものは11件です。うち5件で、不服申立てが一部又は全部認容されているものと承知しています。なお、これらは、いずれも、記録を閲覧させない処分に対する不服申立事件であり、保存に関する処分に対する不服申立事件は見当たりませんでした。 ○しろまる成瀬構成員 次に、裁判所不提出記録の保管につきまして、配布資料39-2に基づき、コメントをさせていただきたいと思います。記録事務規程の23条によれば、裁判所不提出記録は再審保存記録等の保存に従うとされており、先ほどの事務当局の御説明によれば、刑事確定訴訟記録法の手続に従って確定記録が再審保存記録として保存されることとなれば、同時に、当該事件の裁判所不提出記録も、同じ期間、保存が継続されるとのことでした。そうしますと、再審請求をしようとする者等が、確定記録について再審保存記録として保存することを請求した場合には、事実上、裁判所不提出記録についても保存を請求していることとなり、保管検察官の保存に関する決定に不服があれば、事実上、裁判所不提出記録の取扱いも含めて、裁判所に対し不服申立てをすることができる仕組みが整えられているということができます。 続いて、証拠品の保管について、配布資料39-3に基づき、事務当局に質問させていただきたいと思います。証拠品事務規程の89条において、検察官は、再審請求が予測されるときには期間を定めて証拠品を保管するとされていますが、この保管期間は、先ほど言及した再審保存記録や公判未提出記録の保存期間と連動しているのでしょうか。また、再審請求をしようとする者等に、証拠品の保管を請求する権利や、検察官の証拠品保管に関する判断につき裁判所に対して不服を申し立てる権利は与えられていないという理解でよろしいでしょうか。 以上2点について、御回答いただければ幸いです。 ○しろまる中野参事官 まず、御質問前段に対する御説明です。証拠品事務規程においては、再審請求が予測される場合の証拠品の保管期間と、再審の手続のため保存の必要があると認められる場合の記録の保存期間について、両者を一致させるべきとの指針が示されているものではありません。しかしながら、運用上、証拠品と記録のいずれについても、再審の手続のために必要となる期間、保管又は保存されているものと承知しています。 また、御質問後段の点につきましては、御認識のとおりと考えています。 ○しろまる成瀬構成員 証拠品の保管に関して、もう1点だけ質問をさせてください。 証拠品事務規程の16条に証拠品の保管場所が規定されていますが、再審請求が予測されて証拠品を長期間保管すると決定した場合に、生体資料等の証拠品はどのように保管されるのでしょうか。先ほどの御説明でも言及された同規程の2条では、証拠品を取り扱う者は、証拠品が紛失、滅失、毀損、変質しないように注意し、その証拠価値の保全に努めなければならないとされており、この条文は、再審請求のために長期間保管する証拠品にも妥当すると思われるため、保管の実情について分かる範囲で教えていただければ幸いです。 ○しろまる中野参事官 検察当局においては、証拠品の性質に応じ、証拠価値の保全のために必要があると判断した場合には、超低温冷凍庫や低湿保管庫などに保管することがあり、このことは、通常審、再審請求審のいずれの証拠品であっても、同様であると承知しています。 ○しろまる足立構成員 横山構成員御提出の資料5について、数点お尋ねしたいと考えています。 この資料5を見ると、受理から終局まで3年以内、つまり、これは2年から3年かかっているものだと思うんですけれども、この審理にかかっている人が37人、3年を超える人も29人いるという結果になっています。これは地裁についての数字です。 そこで、鈴木構成員と、裁判官の御経験から横山構成員にも、もし分かれば伺いたいのですけれども、こうした長期の再審請求審が行われている理由、背景について、肌感覚でも差し支えないので、御意見を伺いたいと考えています。例えば、少しずつでも審理が進行して時間がかかっているのか、それとも、裁判官が抱え込んで異動のたびに引き継がれていっているのか、もしそういった放置されているような状況であれば、その背景には何があるのかといったことを御意見伺えますでしょうか。 ○しろまる鈴木構成員 この資料5の数字をどう見るかというのもありますし、どういった再審の事件を念頭に置くかということにもよるかと思います。再審請求事件といいましても、その内容や請求の理由は非常に様々でございまして、なかなか一般的にお答えするということは難しいなと思います。ただ、審理に時間を要する事件というのは、法律上の請求の理由があって、その判断のために、例えば、事実の取調べを要するといったような事件であり、そういった事件については、やはり、それなりに審理に時間を要するのかなというふうに考えています。 ○しろまる横山構成員 私も、今、鈴木構成員がお答えになったとおりの認識でありまして、そもそも事件そのものが様々な内容になっているということのほか、法律上の主張のそろい方にもよりますし、事実の取調べをどのような形で行っていくのかにもよって、審理期間は、かなりばらつきがあるという実情にあると思っています。 ○しろまる足立構成員 ありがとうございました。追加であと2点、鈴木構成員と横山構成員に伺えればと思います。2004年、平成16年に刑事裁判の証拠開示が拡充されることによって、再審請求審の進め方に何か変化、影響があったというふうに考えられるのかどうか、新しい証拠開示制度の下で確定した判決について再審請求が申し立てられた場合、2004年以降に確定した判決について再審請求が申し立てられた場合は、その再審請求への裁判所の運用について変化が起きていると考えられるかどうか。それともう1点は、同様に証拠の一覧表の交付手続が2016年、平成28年に行われたと思うんですけれども、それ以降の事件とそれ以前の事件との比較ではどのようにお考えになられるか、以上2点、お願いできますでしょうか。 ○しろまる鈴木構成員 おっしゃるとおり、平成16年ですかね、もう20年ぐらい前に、公判前整理手続、期日間整理手続が創設されて、証拠開示というものが権利として認められるという、非常に大きな法改正がございました。証拠開示が通常審の段階で制度的に担保されたという事情がございますので、そこは、やはり、再審請求があった場合の証拠開示あるいは事実の取調べという意味では大きな影響があったのではないかなと思います。要するに、確定前の通常審の段階で、制度上、証拠開示の手続が担保されたということになりますので、そこは再審段階でもそれなりに影響があるのかなと思います。 証拠の一覧表につきましても、実際上どの程度有効なのかという議論がございましたけれども、証拠開示という意味では、一般論として申し上げると、有効なものだと思っていますので、そこは再審段階でも影響があるのかなとは思っております。 ○しろまる横山構成員 私自体は、今御指摘のありました法改正の前後をまたがって再審事件を経験したことに乏しいものですので、経験としてなかなか申し上げることができない実情にあります。 ○しろまる足立構成員 ありがとうございました。 ○しろまる河津構成員 審理が長期化する原因には様々なものがあり、事件ごとに異なる理由があり得ると思います。ただ、日弁連で再審支援を担当している弁護士は、再審請求審においては通常審と異なり、どのような順序でどのような手続を行い、どのように審理を進めるのかが法律で明確に定められていないことや、担当裁判官が再審請求審の審理の経験に乏しい場合に手探りで手続を進めざるを得ないことから、審理に時間がかかる傾向があると指摘しています。特に、再審請求審では期日指定に関する規定がないことから、通常審のように、いや応なく手続が進むということはなく、また、弁護人が三者協議期日の開催を求めても裁判所が応じない場合もあることから、弁護人から見ると、事件が放置され、いつまでたっても審理が進まないという事態が生じることがあるそうです。また、証拠開示に関する手続や基準を定めたルールが存在しないために、証拠を開示するか否か、あるいはそもそも証拠があるか否かという不毛なやり取りに膨大な時間を費やしているという実情も指摘されています。 ○しろまる中野参事官 その他、いかがでしょうか。 ○しろまる成瀬構成員 ここまで、再審請求審の実情に関して様々な御説明や御意見を伺ってきましたが、前回、河津構成員から御提出いただきましたとおり、日本弁護士連合会が刑事訴訟法の改正案を具体的に示してくださっていますので、もしよろしければ、この改正案の内容についても、少し立ち入って議論をさせていただきたいと思います。 日弁連の改正案の445条の9は、再審請求審における証拠の一覧表の提出命令制度を設けています。そこで、河津構成員に伺いたいのですが、この制度はどのような趣旨で設けられているのでしょうか。 ○しろまる河津構成員 先ほども申し上げましたが、再審請求審の審理では、証拠を開示するか否かの前段階として、そもそも証拠が存在するのか否かに争いが生じる場合があります。証拠の存否に関して裁判所、検察官及び弁護人が共通認識を持つことができれば、そのような不毛な争いをなくし、証拠開示に関する手続を迅速かつ的確に進めることができると考えられます。日弁連の意見書において、検察官が保管する証拠の一覧表を作成した上でこれを提出しなければならないとする規定を提案しているのは、このように証拠の存否に関して裁判所、検察官及び弁護人が共通認識を持つことができるようにすることを目的としたものと理解しております。 ○しろまる成瀬構成員 丁寧に御説明いただき、ありがとうございました。規定を設けられた趣旨は理解できました。 ただ、先ほど、鈴木構成員や横山構成員もおっしゃっておられたように、再審請求事件が千差万別である中で、再審請求者等から請求があったときには、裁判所が証拠の一覧表の提出を常に命じなければならないこととし、この点について裁判所の裁量を排除することは、職権主義を採用している再審請求審の構造と整合しない部分があるように思われます。 また、前回の協議会でも議論になりましたが、再審請求審は、再審開始理由があるか否かを、請求人が提出する新たな証拠に基づいて判断する構造になっていますので、再審請求理由や請求人が提出する新たな証拠に関係なく、検察官が保管する全ての証拠の一覧表を作成して提出しなければならないこととするのは、再審請求審における審判の対象とも整合しない部分があるように思います。 ○しろまる河津構成員 証拠一覧表の提出制度を設ける場合、再審請求が行われた全ての事件において直ちに交付をしなければならないものとするのか、あるいは一定の要件を設けるのかという点については、議論の余地があり得ると思います。ただ、一般論として申し上げると、そもそも再審請求審に限られない問題として、捜査機関が証拠を収集したときに、その一覧表を作成して、必要に応じて相手方当事者や裁判所に交付することができるようにするのは、あるべきプラクティスなのではないでしょうか。そうすることによって、証拠の存否に関する争いや、証拠の行方が分からなくなってしまうという事態を防ぐことができると思われます。 ○しろまる宮崎構成員 日弁連の案の445条の9の関係で、追加で申し上げたいと思います。こちらの条文を見ますと、証拠の一覧表の提出命令におきまして、対象事件の限定がない点、証拠物の「保管場所」を記載する点、証拠書類の「丁数及び要旨」を記載することとしている点につきましては、通常審における証拠の一覧表の交付よりも、その対象や記載事項が拡張されているところ、再審請求審において、そのように拡張する根拠がよく分からないと思いました。そもそも、通常審における証拠一覧表の記載事項は、その作成・交付が円滑・迅速に行われ、かつ、一覧表の記載の仕方をめぐる争いが生じないようなものとするため、個々の検察官の実質的な判断・評価を要しない一義的に明確なものとされております。仮に、一覧表に要旨を記載することとすれば、結局は、その記載の仕方をめぐる争いが生じ得ることとなるわけで、これは、通常審、再審請求審にかかわらず適切ではないと考えております。 ○しろまる河津構成員 日弁連の意見書においてそれらの記載事項が提案されているのは、これまでの日弁連の支援事件を含めた再審請求事件において、証拠の存否がしばしば争いとなり、一旦存在しないと回答のあった証拠が、その後実は存在することが明らかになったという経験を踏まえたものであり、そうした事態を防止するために、証拠の保管場所や、標目を同じくするものについてはそれを識別するに足りる情報を記載すべきとする趣旨であると理解しております。 ○しろまる玉本構成員 私も1点、日弁連の制度提案について御質問させていただければと思います。次の条文の445条の10ですけれども、「証拠開示命令」という条見出しが付いていて、1項から3項までの規定がありますが、そのうちの1項について御質問させていただきたいと思います。 この1項は、一定の類型の証拠であって、かつ、「原判決の有罪認定の根拠となった証拠に関連すると認められる証拠」を対象とする開示の仕組みであろうと思いますけれども、ここでいう「原判決の有罪認定の根拠となった証拠」がどのようなものを指すのかについてお尋ねしたいと思います。例えば、確定判決の証拠の標目として掲げられている証拠をいうのか、それとも、それに限らず、裁判所に採用されて取り調べられた、証拠全般をいうのか、教えていただければと思います。 ○しろまる河津構成員 日弁連の意見書で用いられている「有罪認定の根拠となった証拠」とは、確定判決の有罪認定を支える証拠を指し、必ずしも公判に提出された全ての証拠ではありませんが、必ずしも判決書の証拠の標目に列挙されているものでもなく、確定判決の証拠構造を分析することによって定まるものと理解しております。再審請求に関する決定例の中でも、「原判決の有罪認定とその証拠関係」、あるいは「確定判決の有罪認定とその対応証拠の関係」などの言葉で確定判決の有罪認定を支える証拠が検討されているものと承知しております。 ○しろまる成瀬構成員 私も、445条の10が定める証拠開示命令について、河津構成員に質問をさせていただきたいと思います。 本規定の文言上、ここでの証拠開示は、裁判所が検察官から記録を取り寄せて、それを弁護人や再審請求人に閲覧させるのではなく、裁判所の命令により、検察官は、裁判所を介することなく、弁護人等に対して直接証拠を開示する制度を想定しておられるように読めます。このような制度構想と、職権主義の下で裁判所が自ら再審開始理由の有無を判断するという再審請求審の構造との整合性について、どのようにお考えでしょうか。 ○しろまる河津構成員 御理解のとおり、日弁連の意見書は検察官が弁護人に直接開示することを想定しております。裁判所は事実の取調べとして、検察官に対し、裁判所に証拠を提出するよう命じることもできますが、証拠が主張と関連付けられないまま未整理の状態で裁判所に提出されるよりも、まずは再審請求人や弁護人に開示させ、主張立証させる方が合理的である場合が多いと考えられます。そのため、裁判所の訴訟指揮に基づいて証拠開示が行われている現在の実務でも、検察官が弁護士に直接開示する例が多いと承知しております。 ○しろまる成瀬構成員 丁寧にご説明くださり、ありがとうございます。訴訟手続上の合理性や、現在の再審請求審における実務運用を踏まえた御提案であると理解しました。 附則9条3項も「再審請求審における証拠の開示」という文言を用いておりますし、私自身も、本協議会において、「証拠の開示」という言葉を既に何度も使っておりますので、日弁連の改正案のみを批判するのはフェアでないと思いますが、改めて理論的に申し上げますと、このように裁判所を介することなく、検察官が弁護人に対して直接証拠を開示する仕組みを設けることは、やはり、職権主義の下で、裁判所が自ら再審開始理由を判断するという再審請求審の構造と整合しない部分があるように思われます。 また、先ほど、玉本構成員の御質問に対して回答されたように、日弁連改正案の445条の10第1項における類型証拠の開示命令の対象となる証拠が、通常審の有罪認定の根拠となった証拠に関連する証拠とされており、これに該当する限り、再審請求理由とは関連しないものも開示の対象となる点は、以下に申し上げるとおり、再審請求審における審判対象との関係で、理論的な説明が難しいように思います。 これまでの議論でも繰り返し述べられておりますように、再審請求審における審判対象とは、刑訴法435条各号が定める再審請求理由の存否であって、実務で最も問題となる6号に即して申し上げれば、再審請求人が提出した証拠に新規性、明白性が認められるか否かです。このうち、明白性の判断方法については、様々な議論があるものと承知しておりますが、少なくとも、近時の最高裁判例では、明白性の判断において、常に、通常審の有罪認定の根拠となった証拠、いわゆる旧証拠の全てを再評価する必要があるとまではされていません。例えば、令和3年4月21日の最高裁決定においては、再審請求人が提出した新証拠の明白性を判断するに当たって、旧証拠である鑑定の証明力を再評価しなかったことに誤りはないと判示されています。 通常審においては、検察官が取調べを請求した証拠は全て、審判対象である公訴事実の存否の判断に影響するため、刑訴法316条の15のような類型証拠開示制度を設けることが理論的に正当化されます。これに対して、再審請求審においては、審判対象は再審請求理由の存否であって、再審請求人が提出した新たな証拠の内容に審理の重点が置かれることとなるため、通常審の有罪認定の根拠となった全ての証拠、すなわち、全ての旧証拠が当然に審理の対象に含まれるわけではなく、類型証拠開示と同様の制度を設ける基礎に欠けるように思われます。 ○しろまる宮崎構成員 日弁連改正案445条の10の証拠開示命令に関する条文について意見を申し上げたいと思います。 当該条文は、通常審における証拠開示制度を参考にされたものと思われます。もっとも、特に、平成16年刑訴法改正により通常審における証拠開示制度が導入された後の事件に関して見ますと、公判前整理手続に付された事件については証拠開示制度の適用により幅広く証拠が開示され、公判前整理手続に付されない事件においても、実務上、任意の証拠開示が幅広くなされているところであります。そうすると、再審請求審において、通常審と同様の基準により証拠開示を義務付けることとすることは、その必要性や相当性に疑問があると考えております。 かつ、当該条文、日弁連案445条の10の規定を見ますと、「相当でない」と積極的に認めるに至らない限り、裁判所が証拠開示命令をし「なければならない」とされており、「相当と認めるとき」を開示の要件としている通常審における証拠開示制度と比較して、証拠開示による弊害を軽視し、より広く証拠開示を行うものとなっており、その合理性には、一層疑問があるといわざるを得ないと思います。 また、当該条文の第2項は、通常審における証拠開示制度の主張関連証拠開示を参考にしたものと思われますが、同項においては、開示命令の対象となる証拠として、「再審請求手続期日において提出された証拠書類若しくは証拠物の内容に関連すると認められる証拠」が掲げられています。しかしながら、再審請求人が提出した証拠書類・証拠物が再審請求事由と無関係のものであっても、関連する証拠が開示命令の対象となることになり、これは極めて不合理ではないかと思います。 例えば、請求人が再審請求審に新たな証拠として自分が作成した被害者に宛てた手紙を提出する、その中で、被害者の友人や交際相手について言及する内容を記載さえすれば、それに関連する当該友人や当該交際相手の聴取結果の報告書、あるいは、これらの者と被害者との間におけるSNSのメッセージの内容等が開示命令の対象となってしまうということからも、不合理であることは明らかではないかと思います。 個別の事案によっては、再審請求審段階においては、証拠開示による報復目的の加害行為が行われる可能性や、事件関係者のプライバシー・名誉が侵害される可能性が低くなっている場合もあり得るとは考えられます。しかし、それは、個別具体的な事案の内容や、証拠関係、事件発生から経過した期間等によって異なるものであり、まさに、事案により様々であると考えられます。 例えば、殺人事件におきましては、初動捜査において、犯行現場の近隣住民等に対して聞き込みが行われ、その際に作成された捜査報告書や供述調書には、被聴取者の身上に関する事項や犯行を目撃した経緯等が記載されることがあります。もっとも、その後、捜査が進展し、犯人が特定されて公訴提起され、第一審において当該犯人が犯人性を争わない場合には、聞き込み捜査報告書や供述調書は、通常、開示されないと考えられます。しかし、例えば、暴力団により組織的に行われた殺人事件において実行犯として有罪を受けた組員が再審を請求し、その再審請求審において身代わり犯人であるとして自らの犯人性を争う主張をした場合、この条文案によれば、原則として、その主張の当否にかかわらず、初動に得られた聞き込み捜査報告書や供述調書が、この有罪判決を受けた者に直接開示され、被聴取者ができるだけ知られたくないはずの事項等が、当該有罪判決を受けた者に知られ得ることとなります。これは、例えばの話ではありますけれども、そうなりますと、この初動捜査に協力してくれた地域住民等を報復等の危険にさらすことになりますし、そのような事態が生ずれば、同種事案において、今後、捜査・公判への協力を得ることが著しく困難となるおそれがあると考えます。 このようなことからも明らかなように、再審請求審段階だからといって、証拠開示による報復目的の加害行為が行われる可能性やプライバシー侵害のおそれなどの弊害が、一律に、あるいは、類型的に減少するというものではないと考えられます。ですので、証拠開示に関しましては、その弊害があるということも念頭に置いた上で考えるべきものだと考えております。 ○しろまる河津構成員 宮崎構成員が御指摘になった弊害の具体例、特に「被害者に宛てた手紙を提出する」といった例については、日弁連の提案でも、ただし書として、「当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当でないと認めるときはこの限りでない」という規定を設けておりますので、御懸念は当たらないと思います。 2004年、平成16年の刑訴法改正にも言及されましたが、現行法上、通常審でも、証拠開示請求権が認められているのは、全体の僅か2.5%の事件にすぎません。それ以外の事件でも、任意開示がされることはありますが、無罪方向の証拠が漏れなく開示されているといえる状況ではありません。公判前整理手続に付された事件についても、第8回会議でも申し上げましたが、証拠が手元にない被告人側が証拠を特定して請求しなければ開示されないことから、無罪証拠が開示される保証は一切ない制度であり、無罪証拠が捜査機関の手元に残るおそれがあることにも、留意する必要があると思います。 それから、先ほどの成瀬構成員の御指摘ですけれども、日弁連の意見書がよって立っているのは、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは「確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」をいい、そのような証拠であるかどうかは、「新証拠と他の全証拠とを総合的に評価」して判断すべきであり、その判断においても「「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用される」とした判例の立場です。 本当は罪を犯していない人が誤って有罪判決を受け、それが確定し、処罰を受けているという深刻な人権侵害を伴った重大な不正義を是正する必要性に鑑みますと、このような理解を前提として、再審請求審における証拠開示制度を組み立てることが適切であると考えます。 ○しろまる成瀬構成員 日弁連の改正案のうち、証拠開示とはやや性質の異なる規定について、松田構成員に質問をさせていただきたいと思います。 日弁連改正案の196条の2、196条の3では、捜査に関する記録や証拠目録の作成が義務付けられていますが、これらの規定について、第一次捜査機関である警察のお立場から見た御意見をお聞かせいただければ幸いです。 ○しろまる松田構成員 この改正案の文言がどういった意味合いなのかはっきりしない部分もあるので、なかなか難しいところもありますけれども、全般的に申し上げますと、まず196条の2について、書類の記録の作成が1項にありまして、2項が記録の目録ということになっております。1項の各号においていろいろ記録を作成すべき事項がありますけれども、捜査に着手してから終了するまでの全ての過程について各号に掲げる記録を作成するということですが、この各号の内容によっては、今でも当然作成している記録ということで、新たな規律を設ける必要はないのではないかと思われますし、また、その内容によっては、捜査員に過度な負担になるような内容であろうということを思うところです。 具体的に、例として申し上げますと、例えば、5号の「被疑者の身体拘束手続に関する記録」について、被疑者を逮捕したときは、犯罪捜査規範等に基づきまして、逮捕の年月日、場所、逮捕の状況、証拠資料の有無等を記載した逮捕手続書類を作成しているということですので、それ以上の新たな規定を設ける必要はないように思いますし、過度な負担の部分の例として申し上げますと、例えば、7号の「捜査本部を設置した場合には捜査本部日誌及び捜査本部会議録」について、これは具体的にどのような場合にどのような内容かは分からないですけれども、捜査本部が設置された事件で全ての記録を義務付けるということであれば、例えば、ちょっとした会議の議事録を全部作成するとか、そういったことは現状やっていないということがありまして、捜査員にとって過度な負担になるように思うところです。 また、目録については、送致する書類につきまして、司法警察職員捜査書類基本書式例に定める様式を用いまして、証拠書類目録、証拠金品総目録を作成しているところでありまして、改正案のように全ての記録について目録を作るということになりますと、過度の負担になるように思っております。 内容次第ですけれども、改正案196条の3について、証拠目録を作成しなければならないということですけれども、現行法の下においても、先ほど申し上げたように、司法警察職員捜査書類基本書式で定める様式で送致するに当たって目録を作って送致しているということですので、これを新たに設ける必要性があるのかというところもありますし、例えば、2項2号にある記載すべき事項に「要旨」が挙げられていますが、この「要旨」を書く、書かないというところで争いが生じたりしますので、そういったところも踏まえまして、捜査員の過度な負担にならないような形の目録の作成というのが望ましいというふうに考えておる次第です。 ○しろまる宮崎構成員 日弁連の改正案196条の4について意見を申し上げておきたいと思います。 196条の4は、証拠の適正な保管に関する条文でありますけれども、事件記録である書類について、検察官がこれを「紛失し、滅失し、毀損し、又は変質する等しないように注意」することは、刑事訴訟手続の当事者である検察官にとって当然のことでありまして、あえて新たな規定を設ける必要があるとは思えないところです。 また、法務大臣訓令であります証拠品事務規程第2条におきましても、「証拠品を取り扱う者は、証拠品が刑事裁判の重要な証明資料・・・であることに鑑み、常に旺盛な責任感をもって、紛失し、滅失し、毀損し、又は変質する等しないように注意し、その証拠価値の保全に努めなければならない。」と規定されていまして、やはり、新たな規定を設ける必要はないと考えております。 この関連で、改正案444条の2についても、コメントさせていただきたいと思います。444条の2は、裁判所不提出記録及び証拠品の保管に関する条文ですけれども、例えば、その保管期間につきまして、「当該被告事件に係る訴訟の終結後、六箇月間」という規定があるところです。これに関しましては、還付対象となる証拠品につきましては、事件記録と異なり、還付すべき所有者等が存在するところです。この条文のように、およそ全ての事件について訴訟終結後6か月の保管を義務付け、還付を不可能にすることにより、これらの者の還付請求権を一律に制限することは不合理であると思いますし、また、証拠品保管のための場所や設備が必要となるところ、およそ全ての事件について6か月の保管を義務付けることは、場所や費用の確保等の観点から現実的に不可能ではないかと思います。また、そもそも、訴訟確定前の公判不提出証拠品について、その還付に制限がないこととも整合しないのではないかと思います。 ○しろまる松田構成員 御質問になるかもしれませんけれども、改正案196条の4第2項で、「検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、...一般的指揮をすることができる」との条文が設けられていますけれども、これが一般的指揮なのか一般的指示なのか、いずれにせよ、必要な一般的指示・指揮に関しては、刑訴法193条第1項等において規定されておる中で、新たに、この規定を設ける必要性というのが、どの程度あるのか、なぜそれが必要なのかというのが分からないところがありまして、疑問があるということを申し上げておきたいと思います。 ○しろまる河津構成員 日弁連の意見書が特に証拠の保管に関する指揮の規定をあえて設けているのは、過去の再審事件において、証拠の存否が争いになり、一旦存在しないという回答があった証拠について、その後存在したことが判明し、それは検察にも送致されていなかった記録の中に存在した、という経験を踏まえたものと理解しております。 ○しろまる松田構成員 御趣旨は理解できましたけれども、現行の規定で既に指揮、指示の規定がある中で、それがなぜ不十分なのかというのは、また今後、改めて御説明いただければというふうに思います。 ○しろまる佐藤構成員 前回の会議で、河津構成員から、具体的な再審請求事件を5件挙げた上で、これらの事件について、「証拠が再審請求手続又はその準備段階において開示され、それが確定判決の有罪認定を動揺させる役割を果たしています」という御発言があったと記憶をしております。この御発言や、近時の弁護士の方の論考などからは、現行制度の下、再審請求審において、証拠開示が一定程度なされているという印象も受けるのですが、河津構成員としては、証拠開示をめぐる現状についてどのように評価されているのか、伺えればと思います。 それから、すでに日弁連案445条の10に関する御議論がありましたけれども、現実に開示があった証拠については、どういう理由に基づく請求をされたのか、お分かりになるようでしたら、教えていただければと思います。 ○しろまる河津構成員 日弁連で再審支援を担当している弁護士によりますと、裁判所の訴訟指揮によって、相当程度証拠開示がなされる事件もある一方で、裁判所が訴訟指揮権の行使に消極的であるため、全く証拠開示がなされない事件も多いということです。直近の例でいえば、死刑事件である鶴見事件第三次再審請求について、横浜地裁は2023年、令和5年11月7日に再審請求を棄却しましたが、裁判所は弁護人からの証拠開示請求に対して何らの対応もしなかったということで、このような事例は決して珍しいものではないそうです。このように裁判所によって証拠開示の範囲に大きな差が生じている実情は、再審格差と呼ばれていますが、その原因は、証拠開示に関するルールがなく、訴訟指揮権の行使の在り方についても裁判所に任されていることから、個々の裁判所の姿勢によって証拠開示が左右されるところにあると考えられます。このように証拠開示に関する裁判所の判断の公平性や適正さを担保する制度的保障がない現状は、早急に改められる必要があると考えられます。 二つ目の御質問は、現状の実務でどのような請求がされているかという御質問でしょうか。 ○しろまる佐藤構成員 はい、そうです。 ○しろまる河津構成員 事件ごとに様々な形で請求がなされており、開示の訴訟指揮がされるかどうか、されるに当たってどのような条件が付されるか、訴訟指揮に対して検察官がどのような対応するのかも、事件ごとに異なっていると承知しております。 ○しろまる佐藤構成員 請求の際は、例えば、通常審における類型証拠開示に準じて行うということなのでしょうか。 ○しろまる河津構成員 それも事件によって異なるものと思います。事件によっては、特定の証拠に絞って証拠開示請求をすることもあるでしょうし、主張や立証の予定との関係で幅広い証拠開示請求を求めることもありますし、証拠の一覧表の交付を求めることもあり、裁判所が一覧表の交付を検察官に命じた例もあると承知しております。 ○しろまる成瀬構成員 先ほどの河津構成員の御発言の中で、再審に熱心に取り組んでおられる弁護士の先生方は、裁判体によって証拠開示の範囲に大きな差が生じている現状を再審格差と呼んでいるというお話がありました。そこで、この点に関する裁判所の皆様の御認識を伺いしたいと思います。 私の方で、裁判所のホームページを少し調べてみたところ、昨年5月の記者会見において、戸倉三郎現最高裁判所長官は、再審請求審における証拠開示の運用について、「再審請求事件の内容が極めて様々である、こういうことを前提といたしますと、各裁判体において個々の事案ごとの実情に応じた適切な運用をしているものとそういうふうに私は認識しております。」と発言されたようです。現場で刑事裁判実務を担っておられる鈴木構成員や、全国の裁判所における再審請求事件の審理状況を注視しておられる横山構成員は、この点についてどのように認識しておられるでしょうか。 ○しろまる鈴木構成員 再審格差という言葉、これは、中身がどういうものかというのは必ずしもはっきりしませんが、証拠開示等に対する裁判所あるいは裁判官の姿勢に格差があると、こういう意味であるとしますと、そもそも、再審請求事件の中で、事実の取調べをするかどうか、証拠開示を命ずるかどうか、あるいは、どういう方法で実施するかといった辺りは、職権主義構造の中で、やはり、それぞれの裁判所が合理的な裁量の中で、個別的に判断していると思っています。 先ほども申しましたけれども、再審請求事件といいましても、もう様々ですので、裁判所としては、やはりそれぞれの事案に応じて適切に対応していると私は思っております。もちろん、事案によって証拠開示が行われるものもあれば行われないものもあるというのは、それはそうだと思うのですが、それは、その担当裁判官が個々の事案ごとに必要な判断をしているという結果でありまして、これはもう、特に再審請求事件に限ったものではなく、ある意味、当然の帰結かなと私自身は思っております。 ○しろまる横山構成員 最高裁判所の事務総局にいる立場でお答え申し上げますと、前回も申し上げたところではありますが、再審請求事件において裁判所が証拠開示を勧告した事例等に関しての統計は持ち合わせておりませんので、今、鈴木構成員から裁判官としてお答えいただいたこと以外に、その評価も含めて、なかなかお答えすることは困難だということを御理解いただければというふうに思います。 ○しろまる中野参事官 再審請求審における証拠の開示に関して、証拠の保管も含めて、何か御意見ございますか。 ○しろまる藤井構成員 前回若干申し上げたとおりでございまして、被害者の視点からすれば、一旦三審制という原則の下で確定しているという状況が、再審請求によって被害者の心理をかき乱される部分もありますし、そうした中で、証拠開示ということに関して被害者への配慮というものも必要とされるのではないかと考えております。 ○しろまる宮崎構成員 条文案に戻らせていただきますが、河津構成員に2点、質問させていただきたいと思います。 日弁連案の445条の11に、証拠の存否の報告命令の条文があります。裁判所が一覧表の提出を命ずることができる、あるいは証拠の存否の報告を命ずることができるというものですけれども、こちらの条文につきまして、これはどのような趣旨のもので、どのような場面で適用することを想定しているのかという点をお伺いしたいというのが1点です。 それから、現行法の下におきましても、通常審でも再審請求審でも、弁護人から証拠の存否について求釈明の促しを受け、裁判所から釈明を求められた場合、検察官は、その存否を明らかにしているものと承知しておりますけれども、そのような訴訟指揮権に基づく取扱いに加えて、この裁判所に存否の報告を命令する権限を創設するのはどのような趣旨によるものなのか、こちらもお尋ねしたいと思います。 ○しろまる河津構成員 例えば袴田事件では、請求審である静岡地裁の段階で、いわゆる5点の衣類に関するカラー写真が検察官から開示されましたが、写真のネガについては検察官は不存在と回答していました。ところが、即時抗告審の東京高裁の段階で、不存在だったはずの写真のネガが発見されたとしてこれらが提出されました。また、日野町事件でも、裁判所が開示を勧告した証拠の一部について、検察官は一度は不存在と回答したにもかかわらず、後日その証拠が発見されたとして開示され、裁判所も、検察官が不存在と回答した証拠物が後に発見された経過について、本来あってはならない事態であって遺憾であると苦言を呈したことがありました。湖東事件では、再審開始決定が確定し、再審公判の段階になって、被害者が殺害されたものではなく、そもそも病死であった可能性を示す捜査報告書の存在が明らかになりました。この証拠は検察庁に送致されることはなく、警察で保管されていたとのことです。 このように、検察官が不見当、不存在と回答した証拠が実は存在していたという場合があることから、証拠の存否が争いとなったときに、裁判所が検察官に対して証拠の存否の調査を命ずることができ、検察官は当該証拠の存否を調査し、その結果を回答することを義務付けるというのが日弁連意見書の提案の趣旨であると理解しております。 ○しろまる中野参事官 その他、いかがでしょうか。 では、続いて、再審に関するその他の事項について御質問、御意見はありますか。 ○しろまる成瀬構成員 検察官による不服申立ての可否について、法理論的な観点から意見を申し上げたいと思います。 日本弁護士連合会が公表した「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止すべきという提案をしており、その理論的根拠として、下記の2点を挙げています。 まず、意見書の7ページにおいて、「検察官は、公益の代表者として、裁判所が行う審理に協力すべき立場に過ぎない。」という点を挙げております。もっとも、検察権の内容について定める検察庁法4条においては、検察官の本来的職務の一つとして、刑事について、「裁判所に法の正当な適用を請求」することを規定しており、公益の代表者として、違法又は不当な裁判に対してその是正を求めることも、当然にこれに含まれると解されています。そうすると、検察官の公益の代表者性から不服申立て権に制限を設けるという帰結が理論的に直ちに導かれるものではないようにも思われます。 また、同意見書の21ページ、22ページには、もう一つの理論的根拠が記載されています。すなわち、付審判請求事件において、審判に付す旨の決定を受けた者は、付審判決定に不服があったとしても、その後の審判に付された被告事件の訴訟手続においてその瑕疵を主張することができることから、不服申立てはできないとする昭和52年8月25日の最高裁決定に言及した上で、同決定の趣旨は再審請求審にも妥当し、検察官は、再審開始決定に対する不服があれば、後の再審公判でその瑕疵を主張すればよいから、検察官の不服申立ては認めるべきでないとされています。 もっとも、付審判請求と再審請求では、前提となる場面や、その後の手続との関係が異なることに留意する必要があると思います。すなわち、付審判請求は、捜査に類似する性格を有する公訴提起前における職権手続であり、付審判請求における審理対象と、付審判決定により開かれる公判手続における審理対象は、基本的に同一です。そのため、被疑者たる公務員の付審判決定に対する不服は、その後の公判手続における被告人としての主張と同じものになると考えることができます。 これに対して、再審請求審は、三審制の下で一度確定した有罪判決を覆す非常救済手続であり、その審理対象は、何度も申し上げているとおり、再審開始事由の存否です。また、その存在は、基本的に請求人側が立証することとされています。他方で、再審公判では、再審開始決定の対象となった事件について審理がやり直されることとなるため、通常審と同様に、検察官が犯罪事実の全てについて立証責任を負うこととなり、再審請求審とは審理対象や手続構造が大きく異なることとなります。 このように、付審判決定から審判に付された被告事件の公判手続に移行する場合と、再審開始決定から再審公判手続に移行する場合とでは、その前提を異にしますので、昭和52年最高裁決定の趣旨が、そのまま再審請求審と再審公判との関係にも妥当するといえるか否かについては、異論もあり得るのではないかと思われます。 ○しろまる宮崎構成員 再審開始決定に対する検察官の不服申立てに関してですけれども、日弁連案450条で、448条第1項を即時抗告の対象から外し、かつ、日弁連案450条の3で特別抗告をできないことにしているということによって、検察官による不服申立てを禁止することとしていますけれども、前提として、まず、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての実情について申し上げておきたいと思います。 網羅的に把握しているわけではありませんけれども、本人側からの再審請求に対して再審開始決定がなされた場合には、確かに、検察官が不服申立てをしている事例が多いように思いますが、中には、検察官が不服申立てをしなかった事例もあるものと承知しております。また、公刊物を見てみると、再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行った場合に、上級審において再審開始決定が違法・不当なものとして破棄され、それが確定した事案もそれなりにあると承知しています。 例えば、再審開始決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件における令和元年6月25日最高裁第一小法廷決定においては、「O鑑定が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原決定の判断には刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があり、O鑑定及びM・N新鑑定がそのような証拠に当たるとした原々決定の判断にも同様の違法があるといわざるを得ず、これらの違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり、これらを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。」と判示しているところです。 再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行い、結果として再審不開始で確定した事案があるということは、検察官の不服申立てが適切に機能し、誤った再審開始決定が是正されている事案があるということだと思います。 仮に、全ての再審開始決定が例外なく正しいという見解に立つのであれば、適法・正当な再審開始決定が不当な不服申立てによって覆されたということになるのかもしれませんが、そのような見解に立つことができないことは異論のないところであると思います。 いずれにしましても、検察当局におきましては、個別具体的な事情に応じ、法令やその趣旨に従って適切に対応しているものであり、いたずらに不服申立てを行っているのではないことを強調しておきたいと思います。 今申し上げたように、違法・不当な再審開始決定がなされ、これが検察官の不服申立てによって上級審で是正されるという事例は存在するわけでございます。それにもかかわらず、違法・不当な再審開始決定を是正する余地をなくし、それを放置したまま安易に再審公判に移行することとすれば、確定判決による法的安定性が著しく害され、実質的な四審、五審、あるいは六審を認めることとなりかねないと思います。 また、再審公判では、通常審と同様に、検察官が立証責任を負うことになるところ、再審請求に期間的制限がなく、事件の発生から再審が開始されるまでに相当の期間が経過している場合も多いことから、再審公判においては、証人の死亡や記憶の減退等により、事実を改めて立証することは困難となっている場合も想定されます。そうなれば、真実に反して無罪判決を言い渡さざるを得ない事態も生じかねず、事案の真相解明や刑罰法令の適正な適用実現をも阻害することとなります。 他方、再審公判で有罪が維持されるとしても、それは、そもそも、再審開始事由がなかったことを意味するのであり、本来する必要のない公判審理を行ったことになります。そのようなことが繰り返されれば、確定判決の法的安定性が著しく害され、一たび判決が確定しても裁判は容易にやり直されるとの印象を、被害者や御遺族を含む国民全体に与えることとなり、我が国の刑事裁判制度そのものに対する信頼が大きく失われる事態を招きかねないと思います。 もちろん、手続はできる限り迅速に進められるべきことは当然であると思われますし、それに向けて訴訟関係人が不断の努力を続けるべきであるとも思いますけれども、例えば、審理期間の短縮のために検察官の不服申立てを一律に禁止するというようなことは極端な手段でありまして、今述べたような弊害も考慮すると、適切ではないと考えています。 ○しろまる河津構成員 成瀬構成員と宮崎構成員の御意見について、コメントさせていただきます。 再審は、無実の罪で自由や生命を奪われるという深刻な人権侵害を伴う重大な不正義を是正するための制度です。再審開始決定に対して検察官が抗告をすることができることは、このような深刻な人権侵害を継続し、重大な不正義の是正を年単位で遅らせるという余りにも大きな弊害をもたらし得るものであり、現に過去に幾つもの事件でそのような大きな弊害が生じています。このことを踏まえると、成瀬構成員御指摘のように再審請求審と再審公判の審判対象が厳密には異なるとしても、仮に再審開始決定が違法・不当であった場合、無罪を言い渡すべき明らかな証拠がないのですから、再審公判で有罪判決が言い渡されるだけのことであり、その蓋然性があるということができます。宮崎構成員の御指摘を踏まえても、検察官に抗告を認める必要性と、先ほど申し上げたような余りにも大きな弊害とは、つり合わないものであることが明らかであると考えます。 ○しろまる成瀬構成員 先ほどの宮崎構成員の御発言の中で、検察官が不服申立てを行い、再審開始決定が覆った事案もあるという御指摘がございました。私自身もそのような事例が幾つかあることは承知しておりますが、本人側からの再審請求に対して再審開始決定がなされた事案について、検察官が不服申立てを行った場合に、どの程度、これが上級審において受け入れられ、再審開始決定が破棄されているのかという点は、今後、制度の在り方を検討する上で共有すべき情報だと思います。 そこで、毎回、事務当局にお手数をお掛けすることとなり大変恐縮ですが、もし可能であれば、次回の協議会までに、この点に関する資料を把握できる範囲で御準備いただいて、構成員に共有していただけないでしょうか。 ○しろまる中野参事官 事務当局において、どのような対応ができるか検討させていただければと思います。 ○しろまる成瀬構成員 検察官による不服申立て禁止以外の手続事項についても、質問をさせていただきたいと思います。日弁連改正案の441条の2第2項は、「再審の請求をした者は、審理の終結に至るまで、請求の理由を追加又は変更することができる。」と規定しています。 そこで、鈴木構成員と横山構成員に伺いたいのですが、こうした再審請求理由の追加や変更について、現在の裁判実務では、どのように運用されているのでしょうか。また、仮に、日弁連改正案のように、審理の終結に至るまで請求の理由を追加又は変更できるという規定が設けられた場合に生じ得る裁判実務への影響についても、お考えをお聞かせいただければ幸いです。 ○しろまる鈴木構成員 私自身は、再審の請求の途中で、請求の理由が追加されたり変更されたという経験はございません。ただ、現行の法律上それが絶対に許されないかと問われると、必ずしもそうではないのかなという感触は持っております。 この規定、441条の2についてですけれども、こういう法改正の内容について、実務を担当している裁判官として意見を申し上げる立場になく、その能力もないのですが、この規定を設けることについて、現在の法制度との整合性、関係については、若干懸念があるかなという印象は持っております。その辺りを十分検討する必要があるかなと思っております。 ○しろまる横山構成員 今回の規定の趣旨が、請求の理由を大きく別の理由に差し替えることも含めるという趣旨なのか、あるいは、一つの理由の中で主張を補充していくという趣旨なのかによっても少し違ってくるのかなというふうに思ってはおりますけれども、飽くまで感覚としては、大きく変更することまで認めるものだとすると、それまでに積み重ねた手続との関係は気になるところではございます。 ○しろまる佐藤構成員 別の条文となりますが、日弁連案435条9号について質問いたします。「原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違反があつたとき。」という再審事由が設けられています。まず、事実誤認と結び付かない「憲法の趣旨を没却するような重大な」手続違反として、具体的にどのようなものを想定されているのか、教えていただければと思います。 ○しろまる河津構成員 確定判決の有罪認定の根拠となった証拠が違法収集証拠であり、証拠から排除されるべきことを認める新証拠を発見したときに、それが現行法の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」として再審事由になるか否か、実務の取扱いは明確ではありません。ロシア人おとり捜査事件では、請求審の札幌地裁は、新証拠によって警察官が違法なおとり捜査に及んだ事実が明らかとなり、その結果、当該捜査で収集され確定判決の依拠した関係証拠の証拠能力が否定されることとなるため、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとして、刑訴法435条6号に基づき再審開始を決定しました。しかし、これに対し即時抗告審の札幌高裁は、結論としては再審開始決定を維持しつつも、刑訴法435条6号の再審事由は、確定判決における犯罪事実の認定自体の実体的な瑕疵が問題になる場合が想定されており、訴訟法上の事実の認定の瑕疵につながる新証拠はこれに当たらないと判断しています。このように、捜査や裁判の手続に重大な違法があった場合、そのこと自体が再審事由となるかは現行法上明確ではないため、少なくとも憲法の趣旨を没却するような重大な違反があった場合について、再審事由となることを明確にする趣旨であると理解しております。この意見書の担当委員会に確認したところ、「原判決をした裁判所の手続」は、捜査手続を含む趣旨であるということでした。この規定によって再審が開始された場合、再審公判において違法収集証拠が排除されれば、その結果として無罪判決が言い渡されることになると考えられます。また、例えば憲法が絶対的に禁止している拷問が行われたことを理由として再審が開始された場合などは、再審公判において公訴が棄却されることも考えられます。 ○しろまる佐藤構成員 御説明を伺い、事実認定を是正し有罪判決を受けた人の救済を図るという再審制度の趣旨からしますと、それを拡張することとなるという印象も受けましたけれども、そのような理解でよろしいのでしょうか。 ○しろまる河津構成員 はい、結構です。 ○しろまる佐藤構成員 重大な手続違反としては、例えば、裁判の公開原則に違反したといった場合も再審事由に含まれると考えていらっしゃるということなのでしょうか。 ○しろまる河津構成員 裁判の公開にどのように違反することが「憲法の趣旨を没却するような重大な違反」と評価されるかにもよりますが、仮にそのように評価された場合には、この再審事由に当たり得ることにはなると思います。その場合、再審公判でどのような帰結になるのかは、難しいところがある気もしております。 ○しろまる佐藤構成員 裁判の公開原則については、個人的には、重大な手続違反を理由に再審が開始されても、その違反が当然に誤った事実認定に結び付くわけではないため、有罪判決が維持されることになるのではないか、という印象を抱いております。 なお、訴訟手続の法令違反を理由とする非常救済手続としては非常上告の制度がありますけれども、この案によりますと、重大な手続違反に関しては、再審と非常上告の対象が重なってくるという理解になるのでしょうか。 ○しろまる河津構成員 御指摘の限りでは、重なってくる部分も生じるように思います。 ○しろまる宮崎構成員 今、佐藤構成員から言及のありました再審開始事由の日弁連案の条文につきまして、日弁連案435条の8号について意見を申し上げたいと思います。 前回、佐藤構成員からも御発言があったとおり、再審は、通常審における手厚い手続保障と三審制の下で、適正かつ十分な審理を経て確定した有罪判決を覆して、更に審判を行う非常救済手続です。再審請求事由を含め、再審制度の在り方を検討するに当たっては、確定判決による法的安定性の要求と、具体的事案における是正の必要性の要請の双方を考慮する必要があると考えています。 日弁連の改正案の435条8号を見ますと、再審開始事由として、「死刑の言渡を受けた事件について、刑の加重減免の理由となる事実又は量刑の基礎となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠をあらたに発見したとき。」という事由を追加することとされています。しかし、通常審において、量刑は、犯行の態様、被害結果の軽重といった、いわゆる犯情から、前科前歴、犯行動機、反省の有無や被告人の生育歴といった、いわゆる一般情状に至るまで、極めて多種多様な事実に基づいて裁判所が決するものです。したがって、「量刑の基礎となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠をあらたに発見したとき。」との再審開始事由を定めますと、死刑言渡事件については結局のところ、事件に関連するありとあらゆる事実について誤認があると認められれば、それが死刑の量定自体に影響を及ぼすものでなくても、再審が開始されることとなりかねないように思います。 また、上告審における職権破棄事由を定めた現行の刑訴法411条におきましては、3号で、「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。」を掲げた上で、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」に原判決を破棄することができると規定されています。日弁連の御提案は、事実誤認について、このような上告審における職権破棄事由よりも広く緩やかに再審開始を認めようとするものであり、実質的な四審、五審などを認めるものにほかならないのではないかと思います。この点につきましては、この改正案の435条6号に関しても同様に思います。 ○しろまる河津構成員 現行法では、例えば、再審請求人が事件当時心神耗弱であったことを認める新証拠が発見されたとしても、それは刑の減軽事由にすぎず、確定判決が認定した犯罪と法定刑が同一であることから、再審事由にはならないと解されています。さらに、量刑を基礎付ける事実に誤認がある場合、例えば、それが首謀者であるか否かといった量刑を決定付けるような事実であったとしても、再審事由にはならないと解されています。しかし、死刑の言渡しがあった事件については、死刑が人の生命を奪う不可逆的な刑罰である点で他の刑罰とは質的に異なることから、他の事件とは異なる特別な手続保障が要請されます。例えば、首謀者であると誤認されて死刑判決が言い渡されているような場合、救済を図る必要があり、そのような場合については、確定判決を見直さなければ著しく正義に反するということができます。そこで、死刑の言渡しを受けた事件について、形の加重減免となる事由又は量刑の基礎となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠を新たに発見したときも再審請求の要件に加えるのが、日弁連の意見書の趣旨であると理解しております。 ○しろまる宮崎構成員 条文案の別の部分ですけれども、日弁連案442条3項について意見を申し上げたいと思います。 日弁連案の442条3項は、「死刑の言渡を受けた者について再審の請求がされたとき...は、...裁判所は、...決定で、刑の執行を停止しなければならない」というものです。このような規定を設けると、再審開始事由がないことが明らかな場合であっても、再審請求が繰り返され続ける限り、永久に刑の執行をなし得ないこととなります。判決によって言い渡された刑罰を、刑が言い渡された者の意思によって事実上免れ得ることとするものであり、このような事態となれば、被害者を始めとする国民の刑事裁判に対する信頼も失われるのではないかと思います。 ○しろまる河津構成員 「刑事裁判に対する信頼」ということに関して申し上げると、罪を犯していない人に有罪判決を言い渡し、それが確定し、処罰をしているという重大な不正義が是正されないことこそが、我が国の刑事裁判に対する信頼を大きく損ねるものであると考えます。前回の会議でも、確定判決は三審制の中で審理が尽くされた上で下されたものであり、その重みを無視することはできないという御意見がありました。しかし、裁判官や検察官がそのような確定判決の重みを過度に強調することが、証拠開示に向けた訴訟指揮権の行使に消極的であったり、あるいは裁判所の訴訟指揮に従わないことと結び付いており、その結果、重大な不正義が是正されないままになっているのではないかと懸念いたします。前回も申し上げましたが、三審制の下で審理が尽くされたはずの死刑事件ですら、無罪証拠が捜査機関の手元にあり、誤った有罪判決が確定していたという経験から、私たちは学ぶ必要があると考えます。 ○しろまる宮崎構成員 日弁連案445条の7「事実の取調べ」という見出しの条文案について意見を申し上げたいと思います。 まず、この条文を見ますと、第1項で事実の取調べをすることができることとされています。現行法においても、刑訴法43条3項により、事実の取調べをすることができると考えられておりまして、そうすると、この445条の7の第1項は不要であると思われるところです。 次に、第2項について申し上げますと、再審請求審における審判対象は再審開始事由の有無であり、事実の取調べを行う場合、かかる事由の有無の判断に必要な範囲で行われることは当然と考えられます。しかしながら、この日弁連案445条の7第2項は、そのような範囲を超えて、「真実を発見するため、裁判をするのに意義を有する全ての事実及び証拠」という極めて広範な範囲での取調べの実施を裁判所に義務付けておりまして、再審請求審の構造と整合しない上、実質的に通常審における事実認定の全面的なやり直しをさせるものであるようにも思われ、疑問が多いと思います。 ○しろまる中野参事官 その他、いかがでしょうか。 それでは、予定していた時間が参りましたので、本日の協議はここまでとさせていただければと思います。 次回会議においては、本日の協議事項に関し、構成員の皆様から御質問いただいた点について、追加の御説明あるいは意見交換を行い、本日行う予定としていた「起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置」及び「証人等の刑事手続外における保護に係る措置」について意見交換等を行った上で、第二段階の協議、すなわち、第一段階の協議を踏まえて、それぞれの制度における検討課題についての意見交換を行うこととしたいと思います。第二段階の協議における具体的な協議の進め方等については、まずは、事務当局で検討させていただいた上で、改めて構成員の皆様にお諮りしたいと思いますが、そのような進め方でよろしいでしょうか。 (一同異議なし) ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。 ○しろまる河津構成員 従前から申し上げておりますとおり、この協議会のメインテーマである取調べの録音・録画についての協議を急いでいただきたいと思います。また、先月最高検察庁監察指導部がいわゆる参院選大規模買収事件の監察調査の結果を公表したと報道されています。この資料は取調べ録音・録画制度の在り方を検討する上で必要であると考えられますので、当協議会に御提供いただきたいと思います。また、この事件について監察調査の結果を公表したということを踏まえて、最高検察庁監察指導部が調査をした他の事案についても、当協議会への御提供を再度御検討いただきたいと思います。 ○しろまる中野参事官 御意見前段の進行については、一層円滑かつ充実した御議論を頂けるように努めてまいりたいと思います。御意見後段の資料に関する御要望については、事務当局において対応を検討させていただければと思います。 ○しろまる足立構成員 今の河津構成員の御発言に関連してなんですけれども、在宅事件の事情聴取については録音・録画するかどうかは捜査当局の運用に委ねられているというふうに理解しています。任意の取調べで可視化された件数がこれまでどれぐらいあって、その中で、先ほども御発言がありましたが、後に問題とされたような取調べがどれぐらいあるのかといったことについても、もしデータ等がありましたら御提供いただければと思います。 ○しろまる中野参事官 御意見として承りました。 第11回の日程については、できるだけ早期に調整の上、お知らせさせていただければと思います。 なお、次回会議において、本日配布したもののほかに、構成員の皆様から資料の提出と御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に資料を御送付いただく必要がありますので、提出の期限についても、併せて御連絡させていただければと思います。その場合の資料については、事務当局において確認させていただいた上、必要に応じて、どのような形で御提出いただくかなどについても御相談させていただくということはこれまでと同様です。 また、本日の会議の議事について、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。配布資料につきましても公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いでよろしいでしょうか。 (一同異議なし) それでは、本日はこれにて閉会とします。ありがとうございました。 -了-