熊本市における
法曹有資格者の
活用
令和5年10月4日 法曹養成制度改革連絡協議会
熊本市 総務局 行政管理部 法制課
資料4
【面積】390.32平方キロメートル
【人口】73.7万人
【職員数】法制課課長、審議員等 4
政策法務班 5 例規審査、議案取りまとめ、行政不服審査法対応など
法務支援班 4 法律相談、訴訟支援、法務研修、行政手続制度など
情報公開班 4 情報公開制度、個人情報保護制度、開示請求対応など
計 17
熊本市の概要
本市の法的リスクの
現状
本市関係の訴訟事件
⇒ 10年前の3倍に迫る増加
法的リスクが高い状態が続いている051015202530H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 R1 R2 R3 R4
熊本市の年度ごと新規訴訟事件数
平均5.6件 平均16.6件
(市営住宅関係を除く)0200400600800100012001400
H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 R1 R2 R3 R4
庁内法律相談件数
法制課が受ける庁内法律相談
⇒ 年800件前後
本市の
法曹有資格者職員
採用年度 採用方法 職位 配属 主な業務
A 平成29年度
特定任期付職員↓一般職選考採用
(弁護士)
審議員
(課長級)
総務局行政管理部法制課
(7年目)
• 庁内からの法律相談への対応
• 本市を当事者とする訴訟の対応支援
• 行政不服審査会の審議関係事務
• 職員研修の講師
• その他特命事項への対応 等
B 平成29年度
特定任期付職員↓一般職選考採用
(弁護士)
審議員
(課長級)
総務局行政管理部法制課
(7年目)
同上
C 平成31年度
一般職通常採用
(「法務」枠)
参事
(係長級)
総務局行政管理部法制課
→ 教育委員会事務局
教育政策課
(法制課3年→現所属2年目)
(法制課)庁内法律相談、訴訟支援、研
修講師、議案・例規の審査 等
(教育政策課)体罰等審議会の事務局業
務、教育委員会・学校向け
法務支援 等
D 令和3年度
特定任期付職員
(弁護士)
審議員
(課長級)
こども局児童相談所
(3年目)
• 受理会議/援助方針会議への出席
• 家事審判申立て
• 受理中ケースのチェック業務
• 所内からの相談への対応 等
令和5年10月時点:計4人
熊本市では「1特定任期付職員(弁護士)として採用」「2特定任期付職員で採用後、通常一般
職(弁護士)として継続採用」「3一般事務職の法務枠での採用」の3つのパターンがある。
実務経験3〜10年の弁護士を採用(3人は県外から)。
採用後は、全庁的な法的課題対応が主な業務となる場合は総務局法制課に配属、特定の分野・目
的のために採用された場合はその所管部署に配属となる(一般の法務枠で採用された職員は、そ
の後他課に人事異動することもある)。
平成28年当時の本市法務の課題
採用経緯
(特定任期付A・B)
訴訟等の増加への対応
・係属中の事件が常時20件以上に(昔の2倍以上に)
・熊本地震の影響もあり、原課・法制課ともに業務繁忙。従来ほど訴訟対応にリソースが割けない。
・災害弔慰金等の審査請求件数の大幅な増加も予想される状況
予防法務の強化
・市民や事業者とのトラブル(あるいはそのリスク)が慢性的に多い
(注記) 法制課&顧問弁護士への法律相談が合計1,000件を超えることも
・住民訴訟等に備えることも含めて、予防法務の重要性を強く認識
対応策として「弁護士の特定任期付職員としての採用」
平成28年10月 募集(→AB2名の応募あり)
12月 選考試験・合格発表(2名とも合格)
平成29年4月 採用(2名とも法制課に配属。任期3年)
令和 2年4月 任期延長(3年→5年に延長)
令和 4年 3 月 任期満了
令和 4年 4 月 常勤一般職として採用(法制課に継続配属中)
• 特定任期付職員は「採用した日から五年を超えない
範囲内において、その任期を更新することができ
る」(地任採法7条1項) とされ、5年の任期を満了した
後の再任は「法の趣旨にそぐわない」(平成14年6月14日総務省
公務員部長通知) とされていることから、特定任期付職
員としての採用継続は不可と判断
• A・Bに引き続き従事してもらうため、各人からの同
意を得て、一般職として選考採用することとした
(地公法17条の2第1項ただし書、熊本市職員の任用に関する規
則26条1項7号)。
実績
(特定任期付A・B)
特定任期付A・B(法制課配属)
R1 R2 R3 R4
A+B 569 707 722 840
相談対応件数(特命事項を除く) その他特命事項への対応
・庁舎建替
・内密出産
・新型コロナウイルス対応
・補助金不正受給
・マイナンバー違法再委託
・議員の不当要求
・委託契約に係る内部検証 等々
(注記) 争訟法務、政策法務について全庁横断的に対応
職員向け法務研修
法的トラブル対応研修、クレーム対応研修、改正
民法や個人情報保護制度研修、新任主任主事から
課長級まで役職に応じた法務研修、その他各課か
らの依頼に応じた研修など多数
実務上の効果
・弁護士が庁内に常勤していることで、小さなことでも各課が気軽に相談でき、法的リスクへの早期対応に効果的
・口頭の指導助言にとどまらず、担当課の職員との共同作業による文書作成など、より実務的な助力が得られる。
・他の法制課職員を法律相談に同席させることで、OJTによる職員能力向上にも貢献
➡ 課題であった訴訟等の増加への対応、予防法務の強化について、想定以上の成果
行政不服審査会の事務局業務
・審査会の論点整理、答申書案作成支援
H29年度-R4年度答申数 計:68件
・審査会への出席、説明(月1〜2回)
訴訟等支援件数(H29年度-R4年度)
・支援事件数合計:91事件
・うち26件は、本市の指定代理人となり、自ら訴訟進行
・審査請求事案の弁明書作成支援(年間数十件)
実績
(特定任期付A・B)
争訟法務関係の業務イメージ
訴訟
・紛争の初期段階から訴訟等を想定し、弁護士が関与することで終始一貫した対応が可能に
・特に対外発出文書については、弁護士が作成することで法的安定性が顕著に向上
・訴訟等の場面に限らず対外的な対応についても弁護士が同席する等により、職員の安心感に繋がるなどの好影響
住民監査請求
審査請求
・弁明書作成
・準備書面(案)作成
・議会答弁、想定問答作成
・記者レク出席、想定問答作成
マスコミ
議会
紛争当事者
• 行政処分等(通知書作成)
利害関係人
・折衝、協議書等作成
顧問弁護士
実務上の効果
開示請求
・決定通知書作成
関係団体・会社等
庁内
法制課
原 課 ・折衝、照会回答書等作成
原 課
原 課
指導助言
証拠収集
論点整理
実績
(特定任期付A・B)
政策法務関係の業務イメージ
・実務担当者から二役レベルまで、各段階に弁護士が全面的に関与することで、市としての意思決定が円滑化
・政策決定において、政策法務の観点からの効果的な論点整理により、リスクを踏まえた意思決定が可能に
・弁護士としての書面作成能力が庁内での意識共有や対外的な説明において、極めて有効に機能
個別事案
への対応
・想定問答作成
・記者レク、想定問答作成
マスコミ
議会
• 照会文、要望書等作成
実務上の効果
国(各省庁)
協議会
• 会議出席、論点整理等
二役局課
部 部 部
課 課 課局要望団体
児童相談所
連携
庁内
調査検討
会議出席
二役レク
論点整理
法制課
開示請求
公開質問状
・決定通知書等作成
市民
令和3年当時の本市児童相談所の課題
採用経緯
(特定任期付D)
児童福祉法改正に伴う児童相談所への弁護士配置要請への対応
・平成28年法律第63号 → 「児童相談所における弁護士の配置又はこれに準ずる措置を行うものとする」との条文追加(旧12
条3項...平成28年10月1日施行)
・令和元年法律第46号 → 「〔法律に関する専門的な知識経験を必要とする業務について〕常時弁護士による助言又は指導の
下で適切かつ円滑に行うため、児童相談所における弁護士の配置又はこれに準ずる措置を行うも
のとする」との条文強化(現12条4項...R4.4.1施行)
司法手続の業務負担の増大
・ 平成29年の児童福祉法等改正法により、虐待を受けた児童の保護者に対する指導への司法関与や一時保護に対する司法審
査の導入など、児童の保護についての司法の関与を強化する等の措置が講じられた。
・ 児童福祉法第28条申立てやそれに続く一時保護承認申立て(一時保護に対する司法審査)など、司法の関与する業務が多
く、通常職員のみでは手続に時間を要していた。
・ 週2回、法制課の特定任期付職員弁護士が児童相談所を訪問してケース会議出席などを行っていたが、常時弁護士による助
言指導が得られる状態にはなかった。
児童相談所専任の弁護士を特定任期付職員として採用することに
令和2年12月 募集(→ 応募なし)
熊本県弁護士会への周知
令和3年 2月 再募集(→ 2名の応募あり)
5月 選考試験・合格発表(1名合格)
9月 採用(任期3年)
実績
(特定任期付D)
特定任期付D(児童相談所配属)
・弁護士が所内に常勤していることで、担当職員が適時に相談でき、法的リスクへの早期対処に効果的
・口頭の指導助言にとどまらず、担当職員との共同作業による文書作成など、より実務的な助力が得られる
・問題を抱える相談者に対し、より実効性・専門性の高い法律的な指導助言が行える利点
・担当職員が法的に裏打ちされた見通しを得ることができるため、相談対応への自信に繋がっている
援助方針検討件数
司法関与手続支援件数(R3.9-R5.8)
・児童福祉法28条申立て:5件
・引き続いての一時保護承認申立て:2件
・特別養子適格申立て:6件
・臨検捜索許可状請求:1件
(注記) 全て認容。特別養子適格申立て及び臨検捜索許可状請
求は、熊本県下初の試み。
職員向け研修
「児童福祉司任用前・後講習会(法定研修)」
・子どもの権利擁護
・行政権限の行使と司法手続
(注記) その他、職員、施設職員、里親等を対象に、
民法の「成人年齢引き下げ」など関係法に関
する研修を随時実施
ケースの起案確認・指導助言
・市児童相談所が担当するケース(常時約1,300件)
の処理方針の決裁ラインに入り全件確認
・随時、担当者等からの相談に応じて助言指導
【主な指導助言】
処遇決定の前提となる親族関係や親権の精査、処遇検討
の為の親権者の意向(同意)把握、司法関与を見据えた
調査事項の指示 等
R3年度
(9月〜)
R4年度
R5年度
(〜8月)
ケース会議 307 570 144
実務上の効果
(注記)「ケース会議」
個別のケースの支援等に当たり、その援助方針、具体的な方法・
時期、各機関の役割分担、連携方法などを検討する協議の場
本市の一般職採用試験における「事務職(法務)」枠について
採用経緯
(一般職通常採用C)
・熊本市では、平成27年度採用から、事務職の採用枠として「法務」の枠を設定(年3人前後を採用)
・法務枠の受験資格者は、司法試験の短答式試験の合格者等であり、法曹有資格者の受験も可
・配属先は、法制課のほか、債権管理課、資産マネジメント課、健康福祉政策課、保護管理援護課、こど
も家庭福祉課、環境政策課、教育政策課、都市政策課 など
法務能力の高い職員を計画的に採用し、法務ニーズの高い部署に配属
法曹有資格者の受験状況等
・過去に3名、法曹有資格者の受験あり
・いずれも採用となったが、現在の在職は1名(2名は退職済み)
・特定任期付職員と異なり、法務枠採用の法曹有資格者には、弁護士登録を求めていない。
H27-R5の過去9年度で計22人が入庁
(注記) 法科大学院修了から直接入庁だけでなく、弁護士経験者、民間企業経験者、開業行政書士なども
【配属先の実績(過去分含む)】
法制課、総務課、政策企画課、債権管理課、資産マネジメント課、税制課、健康福祉政策課、保護管理援護課、
高齢福祉課、感染症対策課、新型コロナウイルス感染症対策課、子ども政策課、こども家庭福祉課、環境政策課、
都市政策課、都市整備景観課、市街地整備課、中央区役所保護第二課、教育委員会教育政策課、農業委員会事務
局、上下水道局総務課、病院局事務局総務企画課、同財務課、同医事課
現役職員弁護士の
所見
実際に働いて気付いた現場の弁護士ニーズ
専門知識以上に、適切な事実認定や事実評価、証拠として意味のある記録の取り方といった証拠保全の観点が、一般の行政
職員にあまり浸透しておらず、弁護士としての知見にニーズがあると感じる。
弁護士の法的視点を加味して、行政文書をより正確・適切な内容に改善できることが多くみられた。
自治体職員にプラスとなる仕事のあり方
弁護士としての職業柄「自分の法的助言には自分が当然責任を負う」というスタンスで助言する。そのため、相談相手とな
る職員にとって、とても安心感のある助言として受け止められているように思う。
法的裏付けをきちんと授けて助言することで、相手方が弁護士であっても臆せず、自信を持って対応できるようになった。
法的視点から事案を整理して見せることで、相談職員が「何が問題なのか?」を明確に意識して対応できるようになった。
求められる知見や資質、心構え
通常の弁護士業務のように「自分で判断し、自分で責任を負う」という環境ではなく、あくまでも組織としてのより良い意
思決定に貢献するため、弁護士としての知見からリスク低減の手法や選択肢を助言する、というサポート役を心がける。
単なる法的知識のみに基づいた助言ではなく、政治、経済、社会等の各分野についてある程度の知識を持った上での助言が
求められる。例えば、多様な利害関係人の立場を考慮し、かつ、それらが、今後どのように変化するかという複眼的視点も
示して、現場のより良い意思決定につなげる。
司法試験の試験科目以外の個別法の解釈も多いため、基本的な法的思考力(リーガルマインド)と、その応用が求められる。
また、文献調査、判例検索など実務家としての基本的な姿勢が求められ、暗記思考や覚えたことを吐き出すだけでは、実務
のニーズに対応できない。
自治体勤務の良かったこと・不安なこと
自分の専門知識が必要とされ、それを活用する業務という点で、法律事務所での業務と同様のやりがいがある。
最初は、貢献できるか、居場所があるのかなどの不安があったが、自治体特有の法制度などは同僚、上司、部下と相談しな
がら一緒に業務を行うことができる環境があったため、安心した。
個人ではできない行政運営に関われる面白さがある。一方、組織内で意見が迷走しがちで困ることも。
課題1
【安定的な確保】
募集しても応募が少ない
・熊本市でも、過去の特定任期付職員募集(配属予定:教育委員会、児童相談所)にお
いて応募者ゼロのことがあった。
・平成28年の特定任期付A・Bの採用時も、2人以外の応募者はゼロであった。
任期付であれば数年で離職
・法律上、特定任期付職員は、任期延長をしても5年が限度。次の募集に応募者がある
かどうかはわからない。
・熊本市のように通常一般職として採用し直すことで6年目以降の継続が可能にはなる
が、あくまでも弁護士本人の意向であり、確約は取れない。
任期付でなくても離職しやすい
・熊本市の事務職の法務枠で採用した法曹有資格者は3人いるが、1人は7年目に退職
(民間企業の法務部門に転職)、1人は2か月で退職(他県の弁護士事務所に転職)。
・担当の係属訴訟などがあると、離職時の業務引継ぎに困難を生じることも。
1 安定的な確保
課題2
【能力的な担保】
行政法にも明るい人材が必要
・行政特有の紛争や業務課題の相談が多く、民事法と行政法にバランスよく精通してい
る弁護士が求められている。
コミュニケーション能力、調整力など総合的な能力が必要
・顧問弁護士と異なり、他の行政職員との共同作業が求められるため、円滑・活発な業
務コミュニケーションができなければならない。関係者の意見を調整して、法的に許
容できる着地点を提案するなどのスキルも必要。
法曹有資格者である事実だけでは、これらの知識・能力の担保がとれない
・熊本市では幸運にも優秀な弁護士を確保できたが、その優秀さは一緒に働いてみて初
めて確認できる性質のもの。
・率直な話、「民間で評価されない弁護士が自治体に流れる」ということがあっても、
自治体側ではその能力不足を理由として採用時に落選とすることは難しい。
2 能力的な担保
課題3
【待遇面の改善】
給与水準
・特定任期付職員は昇給なしの固定給(熊本市では年収ベースで750万円程度。概ね課
長級に相当)。
・民間と単純比較はできないが、給与水準的なインセンティブは強くない。それ以外の
行政特有の魅力を感じてもらえなければ、応募者確保や勤続維持が難しい。
弁護士会費
・熊本市では、特定任期付職員の募集の際、弁護士登録の継続を必須としている。
・採用後の弁護士会費に対する公費からの補填はないため、特定任期付職員となる弁護
士は、自費で弁護士会費を全額支払う必要がある。
・公務員となった弁護士に対する弁護士会費の減免措置については、各弁護士会ごとに
対応が分かれており、減免がない場合、事実上の給与水準が押し下げられる結果に。
キャリアプラン
・熊本市では、特定任期付職員を5年勤めた弁護士を通常一般職として継続採用してい
るが、当初採用から7年間、ポストが変わらない(法制課配属の課長級審議員)。
・定年までの継続勤務を前提とすれば、今後の昇進・異動も含めたキャリアプランの検
討が必要(昇進・異動が生じる場合、後任確保の検討も必要)
3 待遇面の改善
ご清聴ありがとうございました

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