令和5年版
人権教育・啓発白書
令和4年度人権教育及び人権啓発施策
法務省・文部科学省
表紙「世界人権宣言啓発書画・第21条」 提供:公益財団法人人権擁護協力会
こ ぎ たいほう
世界人権宣言啓発書画は、日本の書道家小木太法氏とブラジルの画家オタビ
オ・ロス氏が、世界人権宣言に示された人類の英知に感動し、生き生きと、は
つらつと生きている人をたたえる人間賛歌として受け止め、その感動を芸術的
に表現しようとしたものです。
人権教育・啓発白書の刊行に当たって
法務大臣
文部科学大臣
我が国では、いじめや児童虐待等のこどもの人権問題やインターネット上
の人権侵害、障害のある人や外国人、性的マイノリティ等に対する不当な差
別や偏見、部落差別(同和問題)、ハンセン病問題といった多様な人権問題
が依然として存在しています。
こうした中、5年ぶりに実施された内閣府による「人権擁護に関する世論
調査」では、こうした人権問題の解決に向けて国が力を入れるべきこととし
て、約半数の方々が「人権教育の充実」や「啓発広報活動の推進」と回答し
ており、国民が人権教育及び人権啓発に関する施策に期待を寄せていること
がうかがわれます。
政府は、平成14年3月に策定した「人権教育・啓発に関する基本計画」
(平成23年4月一部変更)に基づき、学校、地域、家庭、職場その他の様々
な場を通じて、国民の一人一人が人権に関する正しい知識と日常生活の中で
生かされるような人権感覚を身に付けることができるよう、各種人権教育及
び人権啓発に関する施策に取り組んでまいりました。今後も、人権教育及び
人権啓発に関する施策を通して、多様性が尊重され、全ての人々がお互いの
人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる共生社会の実現を
目指してまいります。
本白書は、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づく年次報
告であり、政府が令和4年度に講じた人権教育及び人権啓発に関する施策に
ついて取りまとめたものです。「人権教育・啓発に関する基本計画」に明示
的に掲げられている人権課題はもとより、令和4年度啓発活動強調事項に掲
げた人権課題に対する取組についても掲載しています。また、現代的課題と
して六つのトピックス「生徒指導提要の改訂について」、「学校における人
権教育の取組」、「こども基本法」、「保護者の信仰に起因したこどもの悩
みの解決に向けた取組」、「『ビジネスと人権』に関する我が国の取組」及
び「職場におけるハラスメント防止対策の推進」を掲載するとともに、特集
として「人権擁護に関する世論調査」を取り上げています。
本白書により、人権教育及び人権啓発に関する施策の状況について多くの
方々に御理解いただき、共生社会の実現に向けて、人権について一層理解を
深め、様々な人権問題を、自分以外の「誰か」のことではなく、自分自身の
こととして考え、人権を尊重した行動をとるきっかけにしていただければ幸
いです。
令和5年6月
はじめに
第1章 人権一般の普遍的な視点からの取組 1
だいやまーく
1 人権教育 2
(1) 学校教育 2
生徒指導提要の改訂について 3
学校における人権教育の取組 5
(2) 社会教育 7
だいやまーく
2 人権啓発 8
(1) 人権啓発の実施主体 8
(2) 法務省の人権擁護機関が行う啓発活動 9
(3) 法務省が公益法人、地方公共団体へ委託して行う啓発活動 12
(4) 中小企業・小規模事業者等に対する啓発活動 14
(5) 国際的な取組に関する啓発活動 14
第2章 人権課題に対する取組 15
だいやまーく
1 女性 16
(1) 男女共同参画の視点に立った様々な社会制度の見直し、
広報・啓発活動の推進 17
(2) 法令・条約等の周知 18
(3) 女性に対する偏見・差別意識解消を目指した啓発活動 18
(4) 男女共同参画を推進する教育・学習、女性の生涯学習機会の充実 19
(5) 職場におけるハラスメント防止対策の推進 19
(6) 農山漁村の女性の地位向上のための啓発等 19
(7) 女性の人権問題に関する適切な対応及び啓発の推進 20
だいやまーく
2 こども 23
(1) こどもが人権享有主体として最大限尊重されるような
社会の実現を目指した啓発活動 23
(2) 学校教育及び社会教育における人権教育の推進 24
(3) 家庭教育に対する支援の充実 25(4) 「人権を大切にする心を育てる」保育の推進 25
トピックス
トピックス
目 次
(5) いじめ・暴力行為等に対する取組の推進 25
(6) 体罰の問題に対する取組の推進 27
(7) 児童虐待防止のための取組 28
(8) こどもの性被害に係る対策 30
(9) 無戸籍対策 33
(10) 条約の周知 34
(11) こどもの人権をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 34
こども基本法 37
保護者の信仰に起因したこどもの悩みの解決に向けた取組 39
だいやまーく
3 高齢者 41
(1) 高齢者についての理解を深め、
高齢者が生き生きと暮らせる社会の実現を目指した啓発活動 41
(2) 高齢者福祉に関する普及・啓発 41
(3) 学校教育における高齢者・福祉に関する教育の推進 42
(4) 高齢者の学習機会の充実 42
(5) ボランティア活動等、高齢者の社会参加の促進と世代間交流の機会の充実 42
(6) 高齢者の雇用・多様な就業機会確保のための啓発活動 42
(7) 高齢者の人権をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 43
だいやまーく
4 障害のある人 44
(1) 共生社会を実現するための啓発・広報等 45
(2) 障害を理由とする偏見・差別の解消を目指した啓発活動 45
(3) 精神障害者に対する偏見・差別の是正のための啓発活動 46
(4) 特別支援教育の充実及び障害のある人に対する理解を深める教育の推進 47
(5) 発達障害者への支援 48
(6) 障害のある人の雇用の促進等 49
(7) 障害者虐待防止の取組 50
(8) 旧優生保護法に関する取組 51
(9) 障害者権利条約の締結及び周知 51
(10) 障害のある人の人権をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 52
だいやまーく
5 部落差別(同和問題) 53
(1) 部落差別(同和問題)の解消に向けた啓発活動 53
(2) 学校教育・社会教育を通じた部落差別(同和問題)の解消に向けた取組 53
(3) 公正な採用選考システムの確立 54
(4) 農漁協等関係農林漁業団体職員に対する啓発活動 54
(5) 隣保館における活動の推進 55
(6) えせ同和行為の排除に向けた取組 55
トピックス
トピックス
(7) 部落差別(同和問題)をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 56
だいやまーく
6 アイヌの人々 57
(1) アイヌの人々に関する総合的な政策の推進 57
(2) アイヌ文化の振興、アイヌの伝統等に関する知識の普及啓発 57
(3) アイヌ関係の文化財の保護等に関する取組 58
(4) アイヌの人々に対する偏見・差別の解消に向けた取組 58
(5) 学校教育におけるアイヌに関する学習の推進 58
(6) 各高等教育機関等におけるアイヌ語等に関する取組への配慮 59
(7) 生活館における活動の推進 59
(8) 農林漁業経営の近代化を通じた理解の増進 59
(9) アイヌの人々の人権をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 59
だいやまーく
7 外国人 60
(1) 外国人に対する偏見・差別を解消し、
国際化時代にふさわしい人権意識の育成を目指した啓発活動 60
(2) ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動 62
(3) 学校等における国際理解教育及び外国人のこどもの教育の推進 63
(4) 外国人材の受入れと共生のための取組 64
(5) ウクライナ避難民に関する取組 65
(6) 外国人の人権をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 66
だいやまーく
8 感染症 67
(1) エイズ患者及びHIV感染者に対する偏見・差別をなくし、
理解を深めるための教育・啓発活動 67
(2) 肝炎ウイルス感染者への偏見・差別をなくし、
理解を深めるための教育・啓発活動 67
(3) 新型コロナウイルス感染症に関連して発生した人権問題への対応 69
(4) 感染症をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 71
だいやまーく
9 ハンセン病患者・元患者やその家族 72
(1) ハンセン病患者・元患者やその家族に対する偏見・差別をなくし、
理解を深めるための教育・啓発活動 72
(2) 国連における取組 75
(3) ハンセン病患者・元患者やその家族の人権をめぐる
人権侵害事案に対する適切な対応 75
だいやまーく
10 刑を終えて出所した人やその家族 76
(1) 犯罪をした人や非行のある少年の改善更生への理解・協力を
促進するための取組 76
(2) 刑を終えて出所した人等に対する偏見・差別の解消を目指した啓発活動等 77
だいやまーく
11 犯罪被害者やその家族 78
(1) 犯罪被害者等の人権に関する啓発・広報 78
(2) 犯罪被害者等に対し支援を行う者等に対する教育訓練 79
(3) 犯罪被害者等の人権をめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 80
だいやまーく
12 インターネット上の人権侵害 81
(1) 個人のプライバシーや名誉に関する正しい知識を深めるための啓発活動 81
(2) インターネットをめぐる人権侵害事案に対する適切な対応 82
(3) インターネット等を介したいじめ等への対応 84
だいやまーく
13 北朝鮮当局によって拉致された被害者等 85
(1) 北朝鮮人権侵害問題啓発週間における取組 85
(2) 広報媒体の活用 86
(3) 地方公共団体・民間団体との協力 86
(4) 学校教育における取組 86
(5) 海外に向けた情報発信 87
(6) 北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めるための啓発活動 88
(7) 国連における取組 88
(8) 北朝鮮当局による人権侵害問題に対する適切な対応 89
だいやまーく
14 令和4年度啓発活動強調事項に掲げた人権課題 90
(1) ホームレスの人権及びホームレスの自立の支援等 90
(2) 性的マイノリティに関する人権 90
(3) 人身取引(性的サービスや労働の強要等)事犯への適切な対応 92
(4) 震災等の災害に伴う人権問題 94

「ビジネスと人権」に関する我が国の取組 96
職場におけるハラスメント防止対策の推進 99
第3章 人権に関わりの深い特定の職業に従事する者に対する研修等 101
だいやまーく
1 研修 102
(1) 検察職員 102
(2) 矯正施設職員 102
(3) 更生保護官署関係職員 102
(4) 出入国在留管理庁職員 102
(5) 教師・社会教育関係職員 103
(6) 医療関係者 103
(7) 福祉関係職員 103
(8) 海上保安官 104
トピックス
トピックス
(9) 労働行政関係職員 104
(10) 消防職員 104
(11) 警察職員 104
(12) 自衛官 104
(13) 公務員全般 104
だいやまーく
2 国の他の機関との協力 105
第4章 総合的かつ効果的な推進体制等 107
だいやまーく
1 実施主体の強化及び周知度の向上 108
(1) 実施主体の強化 108
(2) 周知度の向上 108
だいやまーく
2 実施主体間の連携 109
(1) 人権教育・啓発に関する中央省庁連絡協議会 109
(2) 人権啓発活動ネットワーク協議会 109
(3) 文部科学省と法務省の連携 109
(4) スポーツ組織との連携・協力 109
(5) 民間企業等と連携・協力した啓発活動 109
だいやまーく
3 担当者の育成 110
(1) 人権啓発指導者養成研修会 110
(2) 人権擁護事務担当職員、人権擁護委員に対する研修 110
(3) 公正採用選考人権啓発推進員に対する研修 110
だいやまーく
4 人権教育啓発推進センターの充実 110
だいやまーく
5 マスメディアの活用及びインターネット等IT関連技術の活用等 111
だいやまーく
6 民間のアイディアの活用 111
特 集 人権擁護に関する世論調査 113
参考資料 資-1
1 人権教育及び人権啓発の推進に関する法律 資-2
2 人権教育・啓発に関する基本計画 資-3
3 令和4年における「人権侵犯事件」の状況について(概要) 資-26
参考資料掲載アドレス一覧 資-42
はじめに
我が国においては、
基本的人権の尊重を基本理念の一つとする「日本国憲法」
(以下「憲
法」という。
)の下で、国政の全般にわたり、人権に関する諸制度の整備や諸施策の推進
が図られてきた。それは、憲法のみならず、戦後、国際連合(以下「国連」という。)において作成され、現在、我が国が締結している人権諸条約等の国際準則にものっとって行
われている。また、我が国では、長年にわたり、国、地方公共団体と人権擁護委員を始め
とする民間のボランティアとが一体となって、地域に密着した地道な人権擁護活動を積み
重ねてきた。その成果もあって、人権尊重の理念が広く国民に浸透し、基本的には人権を
尊重する社会が築かれているということができる。
一方で、人権課題の生起がやむことはなく、令和4年度においては、特に、近年の急速
な情報通信技術の進展に伴うインターネット上の人権侵害や、宗教2世・3世の問題を始
めとするこどもの人権問題等が関心を集めることとなった。
法務省の人権擁護機関では、
「人権侵犯事件調査処理規程」
(平成16年法務省訓令第2号)
に基づき、人権侵害を受けた者からの申告等を端緒に人権侵害による被害者の救済に努め
ているところ、令和4年に法務省の人権擁護機関が新規に救済手続を開始した人権侵犯事
件数は7,859件である。これを類型別に見ると、プライバシー関係事案が1,462件(18.6%)
と最も多く、次いで、労働権関係事案が1,138件(14.5%)
、学校におけるいじめ事案が1,047
件(13.3%)
、暴行・虐待事案が1,003件(12.8%)
、強制・強要事案が803件(10.2%)など
となっている(資-28頁参照)。特に、こどもの人権に関しては、文部科学省が行った令和3年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、小・中・高等学校における、暴力
行為の発生件数は7万6,441件と依然として憂慮すべき状況が見られ、また、
「いじめ防止
対策推進法」
(平成25年法律第71号)第28条第1項に規定する「重大事態」の件数は705件
と、いじめによる重大な被害が生じた事案も引き続き発生しているなど、教育上の大きな
課題となっている。さらに、全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数は
令和3年度には20万7,660件と、これまでで最多の件数となっている。
このような状況を踏まえ、政府では、関係府省庁間の連携を図りながら、国民に対する
人権教育・啓発活動を更に推進している。
本書は、令和4年度に各府省庁が取り組んだ人権教育・啓発の施策を「人権教育及び人
権啓発施策」として取りまとめ、国会に報告するものである。

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