どさんこ
第62回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
刑務所の受刑者や少年院の在院者は,施設の中で外部の専門
家の方々のご協力を得て,クラブ活動や矯正教育の時間に絵画
や書道,短歌などの作品づくりに取り組んでおり,これらの作
品を対象として年に1回,コンクールを行っています。コン
クールでは,各分野で活躍される専門家に審査をしていただい
ており,その結果,入賞した優秀作品を紹介します。
作品をとおして,彼らのことを知っていただくきっかけにな
れば幸いです。
美 術 部 門 P1
書 道 部 門 P5
ペン書道部門 P7
文 芸 部 門 P9
写生画 第一席『春待つ里郷』旭川刑務所I・Y細かな筆跡で画面の隅々まで丹念に描いている力作です。画面下の雪の白さと画面上部の沢の木々の色が対比され、調和のとれた色調で巧みに表現されています。
写生画 第二席『窓辺で手紙を読む女』札幌刑務所K・Sリンゴを力強く表現しています。美しい色彩ではないが絵全体をそれぞれの色調で程良く調和されており、表現の意図が明確に伝わってくる作品です。写生画 第三席『雪の白川郷』月形刑務所S・H雪の白川郷の雰囲気が伝わってくる作品です。全体を淡い色調で統一し、静かなる空気感が画面から伝わってきます。
美術部門1 2総評【写生画(成人の部)】写生画は静物や風景等をよく観察し、画面に写し取る絵画です。また、それらのものを描く人が感じたことをどのように表現するかが描く時の工夫や描写力によって独自の絵となります。入賞した作品は、写生画本来の目的の上に描いた意図が強く伝わってくる作品を選びました。【自由画(成人の部)】今回入賞した作品はどれも素晴らしい作品でしたが、惜しくも入賞しなかった作品の中にも、甲乙つけがたい素晴らしい作品が多くありました。絵画には観る人を引き付ける魅力が求められます。そのためには描写力や発想力が必要とされます。一般的に上手な絵でも、他人の模倣やマンネリ化した作品は魅力を失ってしまいます。新しい発想と優れた技術力で観る人に感動を与える作品が期待されます。今回はそのような視点で審査しました。【絵画(少年の部)】応募作品が少なく残念な気もしましたが、出品者数が少ないということは少年院に入る人が減ったということなので、良いことなのかなと思いながら審査しました。身の周りにあるものを素直な気持ちで描いた作品や、時間を掛けて丁寧に描いている作品を選びました。絵画 第一席『無題』北海少年院O・S果物のみずみずしい感じを明るい色彩で表現しています。果物の配置が横並びで変化がないのが少々残念です。また、背景の表現にも一工夫あると、さらに良い作品になりました。絵画 第三席『無題』北海少年院T・T安定した構図で描かれています。リンゴの表現はうまくできていますが、中央のボトルはもっと明暗や立体感を表現して欲しいと思います。絵画
第二席『Bird』紫明女子学院K・D鳥を主題に、鉛筆の濃淡を生かし、鳥や植物を緻密に表現しています。細部まで丁寧な描写に好感が持てます。 3
自由画 第一席『水のある風景渓谷』旭川刑務所S・N絵の構図が斬新で、色彩も力強く強調された作品です。岩肌の表現と若葉の色彩もマッチしており、水の流れの変化も良く表現されています。手前の木の枝の細かな表現も効果的な描写となっています。自由画 第二席『桜舞う』旭川刑務所A・Y点描で綿密に描かれた努力作です。花の色や若葉の色、水の表現が単調な繰り返しになった点が惜しまれます。絵に対する姿勢が非常に前向きであるのを感じる作品です。
自由画
第三席『天空に舞い鳴く迦陵頻伽と如意輪観音菩薩像』札幌刑務所S・Yモノクロで表現し、工夫された描写がユニークです。画面全体からいろいろと描写した時のテクニックを感じ取れます。
入賞作品展(成人の絵画)の様子 4写生画(成人の部) 佳作
『百獣の王』函館少年刑務所 T・S
写生画(成人の部) 佳作
『お昼寝』網走刑務所 K・M
写生画(成人の部) 佳作
『空海と三鈷金剛杵伝説』月形刑務所 N・T
写生画(少年の部) 佳作
『はじめの一歩』紫明女子学院 T・K
写生画(成人の部) 佳作
『羽衣天女』月形刑務所 N・M
写生画(成人の部) 佳作
『不動龍』札幌刑務所 S・K
自由画(成人の部) 佳作
『愛猫ハイポーズ』月形刑務所 K・S 5書道(成人の部)第一席『風信帖』札幌刑務所M・T日本の書道史上最高の名作『風信帖』を一気呵成に臨書した作品です。三行の文字配置も、強弱を大切にした行草体の運筆も見事です。
書道(成人の部)第二席『光明皇后楽毅論』札幌刑務所Y・H奈良時代公明皇后が唐の王義之の「楽毅論』を臨書した名作です。皇后の生気に満ちた筆力の強い書風を存分に書き表わした清々しい臨書作品です。縦画の強靭な線、横画の鋭い筆触と冴えある筆力に魅了されます。
書道(成人の部)第三席『クラブ活動の課題として』月形刑務所K・K中国南方にある瀟湘の水辺の景勝の地に渡り去っていく雁の姿や夜空の澄む月を眺めつつ己の心を対峙する詩の情とが溶け合い、淡々としたおもむきある秀作です。書道部門 6書道
(少年の部)
第一席『行雲流水』帯広少年院Y・K堂々と落ち着いた筆力のある作品です。楷書の起筆、収筆とを丁寧に弾力を入れて、転換していく。この「行雲流水」の語のように、自然の雄大さを感じます。総評【書道(成人の部)】熱心かつ細やかに古典と対話した臨書作品が充実していました。半紙作品も多くなり、日頃の練習の成果を好ましく思いますが、今年も展覧会の展示を考えて半切作品選定させていただきました。漢詩や和歌、また自分の言葉での書作品にはそれぞれの言霊が宿っており、明るく清澄な気で満たされています。言葉のパワーに「書の力」を加えて、美しい世界を求めていきたいものです。【書道(少年の部)】今年も元気いっぱいの作品に出合い、楽しく選定させていただきました。楷書作品に集中している年でもありました。大きな筆を執って、まっ白な紙に真向かう時、墨を入れる第一画の緊張感、戸惑いつつ運ぶ折々の気持ちが伝わってきます。まっ白な紙面には、未知の世界が広がっています。その無限な空間を知るのも書の魅力です。書道(少年の部)
第二席『月光如水』北海少年院I・T広大な宇宙からの澄み渡る「月光」の輝きが存分に感じられる作品です。一画一点の力強さと右払いに左払いにと潔く書きゆく気迫に感動です。書道(少年の部)
第三席『江月千里』北海少年院T・Y筆運びに素早さはないけれど、一画を大切に丁寧に形作る素朴な作品となりました。純真な気持ちで「千里」の充実した筆力を活用していってください。入賞作品展(書道) の様子 7ペン書道
(成人の部)
第一席『心』函館少年刑務所T・S明朝活字体で同じ『心』が正確に繰り返されています。配置が良かったのが第一席に選ばれた理由です。漢字と仮名の大きさに変化をつけて面白くしました。
ペン書道
部門
ペン書道(成人の部)第二席『令和』札幌刑務支所K・A令和が踊っているようで楽しい作品です。文字の色を少し濃くすると、見る人に分かりやすいかと思います。ペン書道の枠を出て工夫しています。ペン書道(成人の部)第三席『未来の人生』帯広刑務所N・K罫線を引いてその中心に詩をおさめました。大変調和が良い、読みやすい作品です。文字数が少なく、用紙が大きい場合、このように効果的な線を使うことが大事です。入賞作品展(ペン書道) の様子 8ペン書道(少年の部)
第一席『無題アイネクライネ』紫明女子学院T・K大きく正確な活字体で、ひと目で一席に決まりました。ペン書道の心構えが全部はいっています。作品として発表する場合、体裁が良いことが一番大切です。ペン書道(少年の部)第二席『宮沢賢治』紫明女子学院Y・M宮澤賢治の長い詩を読みやすく丁寧に書けました。行間を工夫したことが良かったです。ペン書道(少年の部)第三席『江雪』北海少年院K・N五言絶句を整然と書いています。ただ、行間が空きすぎているので、用紙の中ほどに文字を書くと、より全体が締まります。総評【ペン書道(成人の部)】工夫をして新しいものに挑戦する作品や、願いや思いが強く感じられる作品が見られました。作品として展示されることを考えると、構成と筆記具がとても大切です。大きな紙面にボールペンで2〜3字を大きく書いたり、せっかく時間をかけて正確な字を書いても隙間なく埋めてしまうほど書くのではなく、調和良く字配りをすることが大事です。【ペン書道(少年の部)】丁寧さが全部の作品から伝わってきました。入選された作品は当然ですが、誤字・脱字はありません。目を引く工夫された作品でも、間違いがあれば落ちてしまいます。作品を書く以上、心得なければならないのは、「正しい文字」で、その上、字形が整っていることです。また、紙面全体に調和よく記入(配置)することで、読み易く良い作品となるでしょう。 9文芸
部門第一席独房でおはようただいま声かける網戸の外の小さなクモ網走刑務所T・A第二席スカートのすそ揺らめく尾びれとし人波のなか君へと泳ぐ函館少年刑務所K・T第三席内からは開かぬ扉の部屋に居て地震のニュース息詰めて聞く札幌刑務所M・T第一席朝起きても、業務から戻っても、独りの部屋は声をかける相手がいない。孤独をまぎらわす相手は、網戸の外の小さなクモ。窓越しに小さなクモに向かって声をかける作者の姿がわびしく目に浮かぶ。第二席人ごみの中で君を見つけた。スカートの裾をひるがえして颯爽と前を行く彼女は、華麗でまるで金魚のようだ。追いかける作者自身も魚となって人波の中を泳ぐ。歌に動きがある。語調の整った若者の相聞歌。第三席上句の遠回しな表現が、拘束の身の不安をうまく表現して、地震のニュースに怯える様子が如実に伝わってくる。切迫感の漂う手馴れた一首。第一席「当たり前」そう思ってた毎日が「幸せ」だったと初めて気付く北海少年院K・N第二席窓開けて背伸びと共に夏を嗅ぐ滲む涙と緑の香り北海少年院H・H第三席ブーケトス誰もが欲し手をのばすあれから五年いまだ独身紫明女子学院Y・M第一席幸せは後になってようやく気づくものだ。振り返ってみると、ああ、あの時が幸せだったのだと思う。当り前と思っていたあの日常が・・・。今、作者は施設の生活の中で自分を取り戻している。第二席この施設へ入ってどのくらい経ったのだろう。ふと気づくと、窓の外はもう夏の匂い。今ごろ家族のみんなはどうしているのだろうか。緑の香りはふるさとの香り。鼻の奥がつんとしてくる。第三席花嫁が後ろ向きに放った花束を受け取った未婚の女性は次に結婚できるとされる。結婚に憧れる作者は、五年前にそれを受け取った。でもまだ結婚できない。ユーモアのある作品。総評【短歌(成人の部)】自由を束縛された中で詠む歌は当然のことながら孤独感、犯した罪への後悔、反省、謝罪や家族、恋人への思いが主体となってきます。特に全く別の観点から詠まれた歌に出会うと新鮮な思いがします。しかし、ここでしか歌えない歌があります。それを大切にこれからも歌っていってください。心の目を広げて、日本人の心に古くから染みついている「七・五調」のリズムに寄り添っていってください。【短歌(少年の部)】少年たちにとって、ひと時の過ちが大きな心の傷になっていることが、作品を見ていてよく分かります。したがって、後悔の歌が多く、家族への思いや、まわりへの詫びる気持ちがテーマになるようです。そんな辛い思いが、五・七・五・七・七のリズムの中に詠み込むことができたら、きっと心が軽くなるのではないかと思います。今の少年少女にとって、短歌は日常の暮らしにかかわりのないものだと思いますが、今、この境遇に入ったあなた達はチャンスだと思ってください。ゆっくり反省しながら、短歌と向き合えるのですから。短歌
(成人の部・少年の部) 10第一席噴水の飛沫が好きな子供たち札幌刑務所K・Y第二席アマゾンを泳いで来たり昼寝覚月形刑務所S・Y第三席炎天下息子の野球甲子園函館少年刑務所F・T第一席そろって出掛けた公園。風が作る噴水の飛沫にはしゃぐ子供たちの生き生きとした動き。それを捉えている優しい眼差し。第二席スケールの大きな夢だ!気分壮快なのか、助かったと安心しているのか。昼寝の夢で良かった。第三席炎天下の中、甲子園出場を果たした子供の応援に来ている。こんな嬉しいことはないだろう。地区を勝ち抜くたびに応援していたことも十分想像できる良い句。第一席蚊を打てば掌には鱗粉残りけり北海少年院T・T第二席風鈴の音にさそわれ縁側へ北海少年院S・Y第三席外見たら一面覆う冬景色北海少年院T・R第一席羽音に一撃を加えて蚊をしとめた。逃がしたと思ったら見る手の平に残る鱗粉が痛々しい。一匹の蚊に哀れを感じている作者が見える。第二席風の通る縁側に吊るされた風鈴が奏でる涼気。夕食の終わった後だろうか?音色に誘われて夜の涼気を全身に受けているのだ。夜とは言ってないのだが、闇まで感じる。第三席何かに熱中して夢中になっていた時間の経過。何げなく表を見ていたのだろう。一面雪景色に変わっていた。冷え込みさえ感じないで時が流れていたのだ。総評【俳句(成人の部)】整った作品が多くなったのは、各所に指導の方が入ったからなのだろうか。選句を迷うほどに佳句が多かった。【俳句(少年の部)】北海少年院だけの参加だったことが残念だった。俳句は季語が語る短詩だが、季語の入らない作品が多く見られた。また、堀の中、檻の中等は詠まない方がいい。みんな心やさしい人々に、誰か俳句を教えてくれる人はいないだろうか。自然を詠み親しむと、人間は変わると思う。俳句
(成人の部・少年の部)
入賞作品展では、文芸部門の入賞作品を掲載
した「文芸作品集」を設置し、みなさんに読んでい
ただきました。 11第一席(成人の部)「古里への思慕」旭川刑務所Y・H古里を離れて長い年月が経つ。生まれ育った所が大好きなのに、今は違う場所にいる。私の古里には海が無い。市内にはどでんとあぐらをかいて、山が座っている。その山の天辺には城が乗っている。ちょこんと乗っているのだ。城は町を見下ろし、睥睨し、威張っている。入って来る者、出て行く者。何をやっているのか、どんな生活をしているのか、全部知っている。そうして全ての人を励まし、見守ってくれている。川は清らかな一級河川。時季になると、観光の目玉となる行事が行われる。太公望たちは鮎釣りにいそしむ。花火大会も壮大である。荒んだ心を穏やかにし、傷ついた心を癒し、慰めてくれる。川はいつでも優しいのだ。昼は商店街、夜は飲み屋街、ブルースとして歌われた繁華街は、寂れていないだろうか。詩
(成人の部・少年の部)皆で遊んだ公園、青春を謳歌した学校、美しさに見惚れる桜並木。今も変わらずにあるのだろうか。たくさんの思い出の場所、綺麗な景色、もう一度見たいと思う。いつかは帰ろう。きっと帰ろう。かならず、かならず。第二席(成人の部)「後悔しないための後悔」札幌刑務支所K・H服役中に父が息を引きとった。あまりに急だったので、すぐに現実を受け止める事が出来なかった。人はあまりに悲しすぎると涙が出ないものなのだと思った。涙を流す元気すら失うのだと知った。時が過ぎ少しずつ心に余裕が出てきたころ父の姿を思い出しては泣き続けた。この世にこんなに悲しいことがある第三席(成人の部)「古里の中」旭川刑務所G・H淋しい時は、古里をつらつらと思う苦しい時は、古里をつらつらと思う心迷う時は、古里をつらつらと思う恋人のように古里を思う時計の針を巻き戻すように記憶のページを辿ってみる一瞬で時空を飛び越えればそこに、古里が待っている緑に包まれた山の樹々さらさらと流れる小川小鳥たちのさえずりも「おかえり」といっているようだシャボンのように儚い初恋も波紋のように広がった疑問も花火のように鮮やかな青春もぜんぶ、ぜんぶこの中にある過去を変えることはできないが自分の原点に立ち戻り古里に恥じないために今から、また一歩前へ..私の古里がそっと背中を押してくれているのだから。ふるさとを懐かしく慕う気持ちが余すところなく述べられています。ゆかりもあり深くなじんだ所です。あなたが次に実行すること、それは、ふるさとを直接体験することです。私もそれを願っています。「してしまったことを後から悔やんでもどうしようもない。」とは、しばしば耳にする戒めの言葉。内実は様々な理由あり事情ありで簡単なことではない。文言からあなたの濁りのない告白を私は信じたい。今日まで、戒め、励まし、諭し、反省等々を通して振る舞い方や心の純化に努めてきたあなた。浮かぶふるさとの様々な情景は、ふるさとがあなたに贈る心の楚ですね。なんて私は知らなかった。同時に今までどれだけ父に支えられ、父の存在に励まされてきたかを思い知らされた。刑務所に来た自分を初めて憎んだ。悲しみ悔やむこの感情こそが後悔というものならば、私はこの後悔を忘れないように心に刻みたい。父の優しさがうっとうしくて何度も無視した。父が叱ってくれる愛情に気がつかずに反抗した。全てが後悔だ。自分が傷つく事に恐れては人を傷つけてきた。何の悔い改めも反省もしないで犯罪をくり返した。それでも父は私を見捨てたりはしなかった。何度悲しませても私のことを大切にしてくれた。亡くなってから知った父の愛情、温もり、痛み、私の社会復帰を願い続けてくれた父。うら切り続けてきた私。本当にごめんなさい。かけがえのない父に次こそは正しい心を持ち続ける事を約束したい。そして二度と後悔をしないように今の後悔を大切にしようと思う。 12第一席(少年の部)「過ぎていく々」北海少年院T・T友達と笑い泣き肩組んで歩いた街通り今は思い出の中で繰り返し夢の中では再会し起きては始まる日常に苦しみ悲しみ憤りそれでも過ぎていく日々自分よ堪えて踏ん張れ未来のために第二席(少年の部)「不確かな明日」北海少年院N・K朝起きて、歯磨きをして朝食を食べる。そして着替えて外へ出る。ある人は学校へ行き、ある人は会社へ行く。皆電車に揺られながら景色を見ている。ただぼーっと。帰る頃にはみんなクタクタ。着ている服達もクタクタに見える。そんな日々の中で時には笑ったり、悲しんだり、苦しんだり、感動をする。明日が楽しみな人や辛い人もいる。けれど明日がもう来ない人も中にはいる。その人達と私達の一日の価値って同じなんだと思う。「なんで?」って思う人もいるかも。だって、私達にも明日が必ず来るわけじゃないから。明日は約束なんてされていない。だから、今日を、今を、もっと大切にしたい。私が生きている今日は、今日を生きたかった人達の明日だから。そして、もう二度と戻ってこない今日だから。第一席(少年の部)「でも」紫明女子学院N・N確かに代わりはいるよでもお前じゃないとできない仕事だってあるし今お前が抜けたら困るんだよ何回も裏切られてるしどれほど迷惑をかけられているか分からないでも親子だから見捨てることも見放すこともできないんだよ私ら社会的に見れば外れてるし否定されることばっかやってきたよでも私はお前が頑張ってるのも変わったのも知ってるよ「でも」の中に愛がある「でも」でいい「でも」がいい最後の三行に凝縮された現在の決意が感じられます。夢の中で思い出す、友と過ごした賑やかな日々と、悲しみや怒り、後悔の交錯する思い。現在・過去を振り返り、未来の自分を考える日常が鋭く描かれています。否定的に使われることの多い「でも」。その「でも」が、ここでは存在感を照らす明かりとして使われています。時に生きる希望ともなり愛情ともなること言葉の側面を描き出した作者の感性は実に見事です。散文詩の形態をとりながら、毎日の平凡な日常や喜怒哀楽のある日々が淡々と語られています。どのような明日が訪れるかは誰にも約束されていないということ、だからこそ今日一日を大切に生きるという発見と思いが静かににじみ出ています。総評【詩(成人の部)】寄せられた作品に目を通してみますと、自身の心の内を見つめたもの、情景に心情を託したもの等々の作品が目立ちました。詩という表現だけは心の中から生み出すことが出来さえすれば、自ずとそれは詩になると識者は申しております。ですから、詩の世界、範囲は無限だと申してもよろしいでしょう。毎日の生活、暮らしそれ自体が詩を生み出している、創作していると申しても言いすぎることはないと思います。【詩(少年の部)】一つ一つの作品に、個性が感じられました。それは、表現の個性であり、内容の個性であり、つまるところ作者の個性であると思いました。読んでいて心地よいリズムを感じ、開放感を覚える詩もあれば、読んでいて頭の中に様々な考えを点滅させる詩もありました。途中で調子が変わり、最後が重く響く詩もありました。たんたんと綴られた中に、不思議な魅力を感ずる詩もありました。詩は、作者の個性の表れだと改めて思いました。たとえば自分のために書く詩であっても、読み手はその表現を読み、作者の個性に触れることができます。表現の奥にある思いや考え、また、表現そのものの味わいに触れることができます。表現の上手とか下手とか以前の問題です。詩を書く行為、書きたいという思いそのものが、一つのかけがえのない個性です。詩を書くことを楽しみ、書くことで新しい自分を見つけることができるならば、未来の自分を探す一つの確かな手段であると考えます。 13随筆(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
函館少年刑務所
T・S
描くことの力
色彩から絵画へと心引かれて行く過程が叙述の展開とともに
伝わってきます。模写から、やがて水彩画へと描く世界は高ま
り、「絵の持つ可能性は人生の指標であり、新しい生き方へと
導いてくれる。」の文言は読み手にもしっかり伝わってきま
す。
第二席
旭川刑務所
N・K
答えのひとつは
シンプル
和やかな家族の団らんに、一石を投じてしまい、その修復に
悩むお父さん。花々しく、やがて勢いが乏しくなっていく花火
を家中で楽しんでいるうちに、自然に湧いてくる親愛の情。父
と娘、わだかまり解ける場面は、一編のドラマを彷彿とさせま
す。
第三席
札幌刑務所
T・Y
朝を告げる音
朝を迎える各地の様々な音の表現。何かと多忙を極める暮ら
しの中で、あなたのように音を聞き分ける澄んだ耳と心を持ち
たいものです。
内容としては、体験を積み上げて得られた喜び、家族団らんの細かな描写、悔恨等々です。どれも奇をてらうこ
となく、率直に書き、生き生きとした文章の数々には胸を打たれました。
読書感想文(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
旭川刑務所
M・S
松平家のおかたづけ
江戸元和以降、平和な社会に士の職分として兵法を道徳の一
致を説いた山鹿素行は、その著『武教小学』でより、具体的に
言語応待、行住坐臥、衣食居等十編に分けて社会の文言思想を
提示。武家主筋の松平家もそれに受容、また継承しているので
しょう。作品を通じて得られた感想が立派に述べられていま
す。
第二席
札幌刑務支所
K・H
「コンビニ人間」
を読んで
今日、その便利さから私たちの暮らしと切り離すことのでき
ないコンビニ。しかし、客として利用するだけの私たちは応
対、接客する側の人たちの苦心をどれだけ知っているか。ほと
んどゼロに等しい。村田さんの著書を手に、自身の体験を交え
て書かれたあなたの文章から私も教えられました。
第三席
函館少年刑務所
S・H
「変身」を読んで
作者のカフカは、この作品で何を訴えたかったのでしょう。
昨日まであった自分の姿が完全に失われている。これは何かの
きっかけで生き方が倦怠、アンニュイとして結晶してしまった
姿なのでしょうか。まとめられたあなたの感想は貴重なもので
す。
皆それぞれ、読書への好み、味わい、関心も異なるため、生まれる感想も千差万別、様々です。
武家社会における様々なしきたり、作法に注目し、そこから今年の社会を眺望した作品、今日の暮らしに欠かせな
いコンビニとその業務に携わっている人達の紹介、幅広い世代に注目され、関心を読んでいるカフカ作品の読み方
等々、教えられることも多々ありました。書くことの営みは、ひとり自分を見つめる孤独な作業です。
しかし、それはまた自らを成長させる大きな力になります。 14作 者 タイトル 講 評
第一席
北海少年院
Y・J
現実
現実の重さ、厳しさに向き合い始めた自分が素直に綴られてい
ます。また、自分を支える周りの人々や家族の存在への気づき
と、過去を振り返り、過ちを認めることのできる自分が語られて
います。新しい自分、そして自分の未来を真剣に考える自分が今
生まれようとしています。後戻りすることなく一歩ずつ前進で
す。
第二席
帯広少年院
O・R
闘志
文章に勢いがあります。ほとばしる思いが伝わってきます。こ
れまでの自分を冷静に内省・内観し、今、ボクシングへの夢が自
分を高めようとしていて素晴しいことです。夢に近づくために必
要なことは、地道な努力の積み重ねと、忍耐力、素直さです。自
分の心をきたえるのは、今の生活から始まっています。夢への階
段は始まっています。
第三席
北海少年院
T・T
当たり前の幸せ
幸せとは何か、人生とは何かを考え始めた自分が読み取れまし
た。自分を振り返る中で気付づいたすべては貴重です。新しい自
分を創ることは簡単ではありません。しかし、かけがえのない自
分の人生に目を向け、歩き始めた自分が確かにいます。
今回、特に感じられたのは、3点の作品に共通して振り返りの力、すなわち省察力の高まりです。文章を書きな
がら、内省・内観を重ね、自分を何度も振り返る。振り返りを通して見えてくる自分の姿や、周りの人々の姿など
が描かれていました。その中で、過去の過ちの大きさに気づいたり、自分に関わる人々の思いに気づいたり、ま
た、家族の思いに気づいたりしたことなど、素直な表現で記されていました。
それだけではありません。振り返りを通して、自分の持ち味や、夢・希望などを描くことができるようになって
きていることも感じられました。
時間をかけて書くことで、自分を様々な角度からとらえ直していると思いました。じっくりと自分と向き合い、
自分の人生を、これからの自分を、ゆっくりと考えることができるようになってきていると感じました。
さて、書くことは考えることです。特に、自分に向けて書く言葉は、自分の未来につながる言葉、未来を切り開
く言葉になると思います。なぜなら、自分へのごまかしは、すぐに自分に見抜かれてしまうからです。
いつも思うことですが、人間はもともと社会的な動物です。家族や友人、先生から支えられたり、逆に自分が他
の人を支えたりして生きています。様々な人間関係という環境の中で生きています。それは良いことであり、時に
は障害になります。新しい夢や新しい自分づくりに向かって生きようと決意した自分がぶつかる最大の壁は、元の
環境に戻ったときです。なじみのある人間関係の中で、元の自分に戻ろうとする自分が現れます。そんな自分との
戦いが大事です。むしろ、他の人も巻き込むぐらいの粘り強さで、自分の新しい道へ進む強い気持ちが必要です。
生きるとは、自分の道をそのつど選び、決断する連続です。判断を間違えないためには、自分の考えの広さと深
さが重要です。「書くこと」は、自分の考えや心をきたえてくれる確かな方法だと信じます。
作文(少年の部)
毎年冬に開催している入賞作品展では,短
歌,俳句,作文,随筆,読書感想文,詩などの
文芸作品を第一席から第三席までお読みいた
だけます。令和2年度の開催予定日はまだ未定
ですが,決まりしだい法務省ホームページ内の
「札幌矯正管区フロントページ」に掲載します。
札幌矯正管区 フロントページ
第62回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
令和2年3月 発 行
編集・発行 札幌矯正管区第三部
発 行 所 札幌市東区東苗穂1-2-5-5
TEL 011(783)5063
FAX 011(780)2207

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