養育費・面会交流の取決め等を促すための自治体における
情報提供の在り方及び離婚後の子育てについての情報提供
の在り方に関する調査研究業務報告書
令和5年3月
日本加除出版株式会社 3は し が き
令和4年2月、内閣府によって「離婚と子育てに関する世論調査」が公表された。同調査
では、
離婚後の父母双方による養育への関与についての考え方や、
離婚時の養育費や親子交
流(面会交流)についての取決めに対する考え方などが幅広く調査されている。一方で、令
和3年度の厚生労働省による「全国ひとり親世帯等調査結果」によれば、前回調査時である
平成28年と比較すると多少の改善がみられつつも、養育費や親子交流(面会交流)の取決
めなどについては、
なお低調にある実態が明らかになっている。
離婚後の子育てについての
関心は高くなっている一方、
離婚時にこれらを取り決めることに対しての支援も少なく、同居親・別居親が困難を抱えたまま、
離婚後の子育てに向き合っている状況にあるものといえ
よう。
本報告書では、法務省から受託した「養育費・面会交流の取決め等を促すための自治体に
おける情報提供の在り方及び離婚後の子育てについての情報提供の在り方に関する調査研
究」を通じて、養育費や親子交流の協議や取決めを促すため、当事者にとって身近な相談先
である地方自治体(県や市区町村)を通じて、養育費等の取決めなどを促す情報提供の在り
方及び我が国において実効性が高いと考えられる離婚後子育て講座の在り方について調査
研究を行うことを目的とし、その調査・分析の結果、今後の離婚後子育て講座の在り方につ
いてまとめている。
本調査研究においては、
全国8つの自治体にモデル自治体としてご協力をいただき、
複数
のツールを用いて、離婚前後の当事者に対して情報提供を行うモデル事業形式の調査研究
を実施した(本調査研究で用いたツールの概要については、第3の1・2参照)
。なお、モ
デル自治体の実状やニーズも地域によって様々であることから、モデル自治体には取り組
める範囲でのご協力をいただいたことを付記しておきたい。
モデル事業の実施に当たっては、協力研究者の活発な議論やモデル自治体担当者の積極
的な働きかけがあったからこそ実現できたものであり、
この場を借りて、
厚く御礼申し上げ
たい。また、離婚前後で大変な状況であるにもかかわらず、モデル事業のアンケートにご回
答いただいた離婚前後の当事者の方にも、心より感謝を申し上げる次第である。
令和5年3月
日本加除出版株式会社 4協力研究者(五十音順)
直 原 康 光(富山大学学術研究部人文科学系講師)
棚 村 政 行(早稲田大学法学学術院教授)
浜 田 真 樹(浜田・木村法律事務所弁護士)
平 田 彩 子(東京大学大学院法学政治学研究科准教授)
福 丸 由 佳(白梅学園大学子ども学部教授)
協力自治体(五十音順)
石川県
大分県
大阪府大阪狭山市
大阪府羽曳野市
東京都板橋区
東京都江戸川区
三重県伊賀市
山口県宇部市 5目 次
第1 目的及び概要 ............................................................................................................... 7
1 目 的.......................................................................................................................... 7
2 本調査研究の概要........................................................................................................ 7
(1) 本調査研究について................................................................................................. 7
(2) 本調査研究の体制 .................................................................................................... 8
第2 諸外国及び先行研究の調査 ......................................................................................... 9
1 諸外国の取組について................................................................................................. 9
2 行動科学分野等における父母の離婚時の情報提供の在り方に関する先行研究につい
て................................................................................................................................... 10
(1) アメリカにおける離婚時の親教育プログラム ...................................................... 10
(2) 日本における父母の離婚時の情報提供に関する現状 ............................................11
第3 本調査研究で用いるツール等.................................................................................... 12
1 1情報提供事業で用いるツールについて ................................................................. 12
(1) 養育費に関するツール........................................................................................... 12
(2) 親子交流に関するツール ....................................................................................... 16
2 2離婚後子育て講座事業で用いる離婚後子育て講座について................................. 17
(1) 形式・提供方法...................................................................................................... 17
(2) 時 間 .................................................................................................................... 18
(3) 対象者 .................................................................................................................... 18
(4) 内 容 .................................................................................................................... 18
(5) 製作方針について .................................................................................................. 19
3 効果測定方法及び手段............................................................................................... 20
第4 モデル自治体について............................................................................................... 21
第5 1情報提供事業及び2離婚後子育て講座事業の実施について................................. 23
1 実施までの流れ ......................................................................................................... 23
(1) モデル自治体における周知広報方法..................................................................... 23
(2) 調査研究専用ページの作成.................................................................................... 24
(3) 1情報提供事業及び2離婚後子育て講座事業で用いるツールの提供.................. 24
(4) モデル自治体担当者との調整................................................................................ 25
2 モデル自治体での取組状況 ....................................................................................... 25
第6 モデル事業の結果概要............................................................................................... 28
1 情報提供の在り方に関する結果................................................................................ 28
2 モデル自治体との意見交換会.................................................................................... 29
(1) 情報提供の在り方について.................................................................................... 29 6(2) モデル事業に用いた各種ツール内容について ...................................................... 30
3 アンケート結果 ......................................................................................................... 32
(1) 養育費参考額自動計算ツール................................................................................ 32
(2) 親子交流日程調整ツール ....................................................................................... 35
(3) 離婚後子育て講座 .................................................................................................. 35
4 小 括........................................................................................................................ 41
第7 最終的な離婚後子育て講座のモデルの方向性.......................................................... 43
1 離婚後子育て講座の形式について ............................................................................ 43
2 離婚後子育て講座の内容について ............................................................................ 44
(1) 心理的分野について............................................................................................... 44
(2) 法的分野について .................................................................................................. 48
(3) 支援分野について .................................................................................................. 52
3 おわりに――今後の検討課題 ..................................................................................... 52
第8 参考資料 .................................................................................................................... 54
【別添資料1】諸外国における離婚後子育て講座類似の取組に関する概要一覧表....... 54
【別添資料2】心理学の立場からみた離婚時の親教育プログラムの現状と課題........... 58
【別添資料3】製作した4コマ漫画................................................................................ 66
【別添資料4】製作した短編動画のコンテ案 ................................................................. 69
【別添資料5】モデル自治体で取り組んだ周知広報の一例 ........................................... 70 7第1 目的及び概要
1 目 的
法務省の令和4年度の委託事業である
「養育費・面会交流の取決め等を促すための自治体
における情報提供の在り方及び離婚後の子育てについての情報提供の在り方に関する調査
研究業務」
(以下「本調査研究」という。
)は、養育費や親子交流(従前の実務において「面
会交流」
等と呼ばれていたもの)
の協議や取決めを促すため、
身近な相談先である自治体(市区町村等)
を通じて、
養育費等の取決めなどを促す情報提供の在り方及び我が国において実
効性が高いと考えられる離婚後の子育てに関する講座
(以下
「離婚後子育て講座」
という。)の在り方について検討を行うものである。
父母の別居・離婚をめぐる子の養育に関する法制度の在り方については、
令和3年3月か
ら法制審議会家族法制部会で調査審議が行われている。
同部会では、
様々な事情から養育費
や親子交流に係る父母間の協議や取決めをしないままに離婚してしまうケースが相当数あ
る現状 1を踏まえ、養育費や親子交流に係る協議や取決めを促すための情報提供の在り方に
ついても検討課題とされている。
本調査研究は、
インターネット等のIT技術を活用するなどして、
複数の自治体と協力し、
現在未成年子がおり、離婚を検討しているあるいは既に離婚した父母(以下「離婚当事者」
という。
)に対して、1養育費や親子交流の協議や取決めを効果的に促す情報提供事業(以
下「1情報提供事業」という。
)に加え、2本調査研究において作成した離婚後子育て講座
の試行・効果検証事業(以下「2離婚後子育て講座事業」といい、1情報提供事業と併せて
「モデル事業」という。
)を通じて、養育費や親子交流の取決め等を促すための情報提供の
在り方及び離婚後子育て講座の在り方について、
分析・検討することを目的とするものであ
る。
2 本調査研究の概要
(1) 本調査研究について
本調査研究においては、1情報提供事業及び2離婚後子育て講座事業からなること
から、まず、協力研究者と協議・検討の上、受託者においてモデル事業で用いるツール
を製作・用意した上で、いずれかの事業に参加した自治体(以下「モデル自治体」とい
う。
)に対し、オンライン上で提供可能な形式でツールを提供することとした。
また、
自治体からの情報提供によって離婚当事者がツールにアクセスするため、
専用
のウェブサイトを自治体ごと・ツールごとに設け、協力研究者と協議の上、各ツールの
利用や動画視聴後、ツールの使用感や内容の感想等を答えてもらうウェブアンケート
を作成し、実際にツールを利用した離婚当事者に回答してもらった。
モデル自治体においては、
それぞれの地域の実状・ニーズなどに即して効果的と思わ
れる方法にて、離婚当事者に対し、同ツールによる養育費や親子交流、離婚後子育て講
座に関する情報提供等のほか、同ツールに関する利用案内などについての周知広報を
1 厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」参照。 8行っていただき、モデル事業を実施した。
モデル事業実施後、同ツールを利用いただいた離婚当事者へのウェブアンケート及
びモデル事業の案内をいただいたモデル自治体担当者へのヒアリング等を踏まえ、協
力研究者による合議体において、情報提供の在り方や離婚後子育て講座の方向性を分
析・検討し、本報告書として示した。
(2) 本調査研究の体制
本調査研究は、以下の体制にて行った。
ア 協力研究者
協力研究者には、直原康光講師(富山大学)
、棚村政行教授(早稲田大学)
、浜田真
樹弁護士(大阪弁護士会)
、平田彩子准教授(東京大学)
、福丸由佳教授(白梅学園大
学)の計5名が就任した。また、協力研究者5名と受託者からなる合議体によって、
モデル事業における効果的な情報提供の在り方やモデル事業で用いるツールの方向
性・内容、アンケート等の効果検証など、本調査研究の実施に必要な事項全般につい
て協議の上、決定した。
イ モデル自治体
モデル自治体には、後記第4の方法により公募を行い、人口規模、地域等諸条件を
考慮し、協議・選定の上、石川県、大分県、大阪府大阪狭山市、大阪府羽曳野市、東
京都板橋区、
東京都江戸川区、
三重県伊賀市、
山口県宇部市の計8自治体に決定した。
【図】
委託者(法務省)
事務局
受託者(日本加除出版株式会社)
協力研究者 モデル自治体 9第2 諸外国及び先行研究の調査
協力研究者の決定後、
離婚後子育て講座等を検討するに当たっては、
諸外国における離婚
後子育て講座類似の取組(以下「諸外国の取組」という。)や、行動科学分野等における父
母の離婚時の情報提供の在り方に関する先行研究についてあらかじめ調査することが有用
であることから、前者については棚村政行教授において、後者については直原康光講師・福
丸由佳教授において、調査を担当することとした。
1 諸外国の取組について
本調査研究では、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・オーストラリア・韓国の計
6か国について調査を行った。
諸外国の取組の調査については、
原田綾子名古屋大学教授
(アメリカ)
、棚村政行早稲田大学教授・橋本有生早稲田大学教授(イギリス)
、高橋由紀
子帝京大学元教授(ドイツ)
、大島梨沙新潟大学准教授(フランス)
、古賀絢子東京経済大
学准教授(オーストラリア)
、金亮完山梨学院大学教授(韓国)にご協力をいただいた。
また、
福丸由佳教授からは、
日本の民間団体における離婚後子育て講座類似の取組の一例
として、
FAIT-Japan研究会が実施する参加型プログラム
(FAITプログラム)
について紹介があり、これらの概要を一覧にまとめたものが【別添資料1】である。
アメリカの離婚後子育て講座類似の取組は、
州により異なるが、
比較の観点からフロリ
ダ州を対象とした。
フロリダ州では、
裁判所に離婚申立てがあった全ての両親に受講が義
務付けられている。
実施形式は対面/オンラインいずれの方式でも行われており、
講座は
有料で、内容は虐待やネグレクトの問題は必須であるほか、多岐にわたる。
イギリスの離婚後子育て講座類似の取組は、
イングランド・ウェールズを対象とした。
離婚後子育て講座類似の取組について、実施機関は民間団体(CAFCASS)であり、
受講義務は原則任意としているが、
離婚申立前に同団体から出席参加を求められる、
ある
いは裁判所命令により例外的に受講が義務となることがある。実施方法は様々なプログ
ラムに沿って、心理的課題の問題解決や、DV・虐待等の専門機関に関する情報が手厚い
ところが特徴である。
ドイツの離婚後子育て講座類似の取組は、実施機関は少年局や民間団体に属する相談
所が実施しており、相談所で行われる数が多いことが特徴である。また、他国との違いと
しては個別相談型が主流であり、講座等の用意はない。個別相談の内容は親の配慮、養育
費・親子交流、離婚による影響やストレス軽減、経済や教育等を中心としている。
フランスの離婚後子育て講座類似の取組は、
実施機関は全国家族手当金庫
(国が監督す
る公的機関が統率する民間団体)である。実施方式・手法は様々であり、動画視聴やクイ
ズ形式などの方法でも行われている。
講座内容は他国とほぼ同様、
別居が親子に及ぼす影
響や親子・父母間のコミュニケーションの在り方、
各種支援窓口などの情報を中心として
いる。
オーストラリアの離婚後子育て講座類似の取組は、
実施機関は民間団体で、
家族支援セ
ンターや家族関係サービスプログラムの委託など、
大きく4つの類型に分かれる。
変更が 10頻繁にあることが特徴的で、
体系的に整理しづらい面もあるが、
受講は原則任意である一
方、裁判所命令等により必須となるケースもある。講座内容は様々あり、プログラムによ
って1〜2時間の講座や、10時間以上を要する場合もある。
韓国の離婚後子育て講座類似の取組は、
他国と大きく異なる点として、
協議離婚の場合
の熟慮期間(子がある場合は3か月、子がない場合は1か月)があり、熟慮期間経過後に
意思確認のうえ、離婚となる点である。熟慮期間中に1後見プログラム(面談)
、2子の
養育案内教育(動画)の受講が必須となる。2の受講後に感想文を提出することで、熟慮
期間が起算される。
日本のFAITプログラム(民間団体が実施している一例)は、心理の専門家によって
提供されており、
基本は対面だがオンライン形式でも提供されている。
親への講座内容は、
離婚にまつわるこどもの気持ちの理解と対応、
離婚後の親子関係を強化すること、
3離婚
後の親同士の関係などを中心としている。
なお、
日本では協議離婚が中心であり、
諸外国のように裁判離婚が中心ではないことや、
諸外国の取組のモデルは裁判所を起点としたものと行政支援型のものに分けることがで
き、
離婚後子育て講座を検討するには、
このようなモデルが異なることにも留意すべきで
あることが指摘された。
2 行動科学分野等における父母の離婚時の情報提供の在り方に関する先行研究について(1) アメリカにおける離婚時の親教育プログラム
本調査研究では、
アメリカでの心理学分野の先行研究を中心に、
離婚時の親教育プロ
グラムについての調査を行った(
【別添資料2】参照)。アメリカの各先行研究によれば、
親教育プログラムに含めるべき内容は、
1中心的な
内容(こども中心)
、2重要な内容(大人中心)
、3状況に応じて含めるべき内容の3つ
に分けて検討することが重要であるとされ、
これらで扱いきれない内容は、
補助的な教
材等で補完することが望ましいとされている。
また、
親教育プログラムについて、
多くの人を対象として基本的な情報提供を行う一
次予防的なもの、
コミュニケーションスキルなどを扱う中で、
親同士の葛藤の軽減やこ
どもの健康増進を図るといった二次予防的なもの、高リスクや個別のニーズにより介
入的に対応する三次予防的なものと段階的な整理を行う複数のモデルが提案されてい
る。さらに、実施方法については、オンライン形式であっても、受講者の回答に応じた
フィードバックを行うことで、対面と同等の効果が得られることが一部の研究で示唆
されている。
加えて、
親教育プログラムの効果検証に当たっては、
様々な尺度を用いて効果を測定
するものが多いが、
アメリカの多くの州では、
既に親教育プログラムの受講が義務付け
られていることもあり、RCT(ランダム化比較試験 2)等エビデンスレベルの高い効
2 ランダム化比較試験については、
【別添資料2】の5の注参照。 11果検証の方法を取ることが難しいことが課題とされている。
(2) 日本における父母の離婚時の情報提供に関する現状
日本での父母の離婚時の情報提供に関する現状として、離婚時には、父母が子育て・
生活等の不安や健康状態の低さ、経済的不安などの問題を抱えていることを示唆する
研究が多く、離婚前後の支援体制の不足や対応の難しさが挙げられる。
そのため、
予防的なアプローチとして、
まずは離婚に関する基本的な情報提供を行う
プログラムに加え、父母のウェルビーイング(心身の健康状態)の向上をサポートする
ようなスキル、セルフケアなどの視点を盛り込んだプログラムが望ましいといえる。
また、
これらを一次的な予防プログラムとして位置づけ、
DVや高葛藤のケースなど
より専門的な介入が必要となるケースには、治療的アプローチのプログラムを今後別
途検討することなども指摘できる。 12第3 本調査研究で用いるツール等
1 1情報提供事業で用いるツールについて
(1) 養育費に関するツール
1情報提供事業では養育費や親子交流の協議や取決めを効果的に促すことを目的と
した。本調査研究では、所定の項目を入力することで、養育費の参考額を自動で計算す
ることができるウェブページ(以下「養育費参考額自動計算ツール」という。
)を作成・
提供し、
離婚当事者自身において、
自身の状況に応じた養育費の参考額を算定できるよ
うにすることで、その協議や取決めを促す一助とすることとした。
養育費参考額自動計算ツールについては、東京家庭裁判所及び大阪家庭裁判所の裁
判官による司法研究である「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」
(令和元年
12月)の養育費にかかる改定標準算定方式・算定表を参考としたほか、同報告書で検
討されていない点は、
協力研究者監修の下、
各種文献等で採用されている計算方法も参
考とした。
また、養育費参考額自動計算ツールでは、入力された項目を基に、改定標準算定方式
で用いられている計算式で計算を行い、原則として改定標準算定表に合致する計算結
果を表示する仕組みとした。なお、養育費参考額自動計算ツールは、当事者において使
用ができるよう、
パソコンやスマートフォン、
タブレット等の各種デバイス及び対応ブ
ラウザ上問題なく閲覧できるよう、マルチデバイスに対応したレスポンシブデザイン
で作成した。
ア 入力項目
養育費参考額自動計算ツールでの養育費を受け取る者(以下「権利者」という。)及び養育費を支払う者
(以下
「義務者」
という。)欄における入力項目等については、
下記のとおりである。
1 権利者の職業(給与所得者・自営業者の別)
2 権利者の年収(1万円単位)
(注記) 権利者の職業が給与所得者の場合は年収1,000万円、自営業者の場合
は763万円を上限としている。
3 権利者と義務者とのこどもの人数(0人目から5人目まで)
4 3のこどもの年齢(0歳から14歳まで・15歳以上の別)
5 義務者の職業(給与所得者・自営業者の別)
6 義務者の年収(1万円単位)
(注記) 義務者の職業が給与所得者の場合は年収2,000万円、自営業者の場合
は1,567万円を上限としている。
7 義務者の再婚の有無
8 義務者が監護している
(養育している)
権利者との間の子以外のこどもの人数
(0人目から5人目まで:再婚相手との間のこども及び義務者が養子縁組した 13再婚相手のこどもの人数)
9 8のこどもの年齢(0歳から14歳まで・15歳以上の別)
なお、
本調査研究における養育費参考額自動計算ツールの計算の考え方として、下記注意事項を表示することとしている。
・義務者の再婚相手は無収入であることを前提としている旨
・義務者が監護している(養育している)権利者との間の子以外のこどもの人数に
ついては、義務者と再婚相手との間にこどもが生まれた場合や、義務者が再婚相
手のこどもと養子縁組をした場合である旨
イ 計算結果の表示
養育費参考額自動計算ツールにおいて、
計算結果を表示するためには、
以下の内容
の留意事項を同意(確認)した場合に、上記入力項目の計算結果が表示される仕組み
とした。
1 本計算ツールは、司法研究報告書「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研
究」を参考にし、養育費を算出しているが、同算定表の区分と必ずしも一致しな
い場合があること、こどもの人数が3人を超える場合や義務者が再婚した場合
の養育費については、
上記報告書においては検討されていないため、
各種文献等
で採用されている計算方法の一つを参考としていること、
年収の上限額は、
義務
者の場合、給与所得者が2,000万円、自営業者が1,567万円まで、権利
者の場合、給与所得者が1,000万円、自営業者が763万円としていること
2 権利者の再婚は義務者の養育費支払義務に影響を与えないと考えられており、
本ツールでは権利者の再婚は考慮していないこと
3 ただし、再婚相手が権利者の養育している子と養子縁組をした場合や再婚相
手に一定の収入がある場合などには、養育費の支払に影響が生じると考えられ
るなど、養育費の計算方法には様々な考え方があるため、法律専門家(弁護士)
に相談することを推奨すること
4 当該計算結果は飽くまで目安であるほか、実際の養育費の額は各家庭の個別
具体的な諸事情を踏まえ、
総合的に判断されるものであり、
法務省が何ら保証す
るものではないこと 14【参考1】養育費参考額自動計算ツールのページ画面例 15 16
【参考2】計算結果表示画面の例
(注記)【参考2】は、権利者側の項目を給与所得者、年収300万円、0〜14歳以下の
こども2人、
15歳以上のこども0人、
義務者側の項目を給与所得者、
年収500万円、
再婚相手はなし、0〜14歳以下のこども0人、15歳以上のこども0人とした場合の
計算結果表示画面例である。
(2) 親子交流に関するツール
令和3年度の厚生労働省のひとり親調査によれば、親子交流の取決めをしていない
理由として「相手と関わり合いたくない」
「取り決めをしなくても交流できる」との理 17由が上位になっている。親子交流の実現については父母双方において親子交流に対す
る意義等の理解や最低限の協力関係が必須であるところ、離婚後も親子交流に関する
やり取りをして関わり続けることに心理的・精神的負担を感じる離婚当事者が一定数
存在しているものと考えられる。そこで、本調査研究においては、相手方と直接連絡す
る心理的負担を極力減らし、システム上で親子交流に関する日程調整等を完結するこ
とができるツールを用意することとした。
本調査研究では、相手方と直接連絡をすることがなくこどもと交流する日程調整を
行うなどの機能を有しているサービス(以下「親子交流日程調整ツール」という。)を
利用することとした。
本調査研究で用いた親子交流日程調整ツールの機能は、以下のとおりである。
1 まず別居親から、こどもとの面会希望日を3つまで候補日として同居親に送信
することができる。
2 同居親は、候補日の中から面会日を選択し、親子交流の日程調整が行われる。
3 実際に親子交流が行われた後、システム上で実施された旨をシステム管理者に
報告する。
これらのやり取りにおいて、あらかじめ用意された定型文をメッセージとして添え
ることが可能なほか、
双方が自由に文章を送付することができるのは、
毎回調整時の最
初の機会のみの短い文字数である100字以内に制限されている。
また、
システム管理
者がお互いのやり取りを随時確認しており、やり取りの内容にトラブルの可能性があ
ると判断した場合は、システム管理者より当事者に対し警告が発せられる。
その他、システム上でこどもの学校でのイベントの様子などの動画データ等の共有
も可能である。
2 2離婚後子育て講座事業で用いる離婚後子育て講座について
前記第2において明らかとなった、諸外国の取組や心理学分野における父母の離婚時
の情報提供の在り方に関する先行研究を基に、
本調査研究で用いるツール・離婚後子育て
講座等について、
まずは協力研究者間において自由討論を行った後、
その方向性を定める
こととした。
(1) 形式・提供方法
自由討論では、
オンライン方式であっても、
対面で行われるような相互作用を再現し
た方法であれば、大きな差は生じにくいことが示唆された。また、漫画や動画など、ス
マートフォンでも閲覧できるコンテンツを活用した近時の例が紹介されたほか、全国
で統一して繰り返し受講できるような仕組みが望ましいとの意見もあった。
他方、我が国において対面方式で講座を実施するとした場合、地域によっては、離婚
したことを知人・職員等に知られることを懸念する離婚当事者がいることも考えられ
るとの意見や、
子育てや仕事に追われる離婚当事者において、
日中に講座を受講しに行
くこと自体がハードルになり得るなどの意見もあったことから、本調査研究において 18は、オンライン形式での講座提供を前提とすることとした。
(2) 時 間
時間の長短による効果の差はあまり見られず、短時間でも一定の効果が得られると
された一方、
離婚後の子育てや養育に関する行動の変化が生じるためには、
短時間では
なく多くの時間が必要になる可能性があると示唆された。
また、
オンラインでの提供を
前提とした場合、
長時間の講座ではかえって離婚当事者の負担になることなどから、本調査研究においては、まずは離婚当事者に対して離婚後の子育てについての基本的な
情報・視野を提供して、問題意識を持ってもらうことを目的とし、試行的に短時間の講
座を製作することとした。
(3) 対象者
本調査研究では、
その調査目的の趣旨から、
離婚前における離婚当事者に対する情報
提供を前提としつつ、
いまだ養育費等の協議・取決めをしていない離婚後の父母に対し
て実施することも有用であると示唆されたことから、モデル自治体において可能な範
囲で、離婚後の父母も対象とすることとした。
(4) 内 容
諸外国の取組では、離婚が親や子に及ぼす心理的影響・負担や、父母間のコミュニケ
ーション方法、専門機関・支援機関の紹介、養育費や親子交流に関する法的手続の内容
などがあることから、主に心理的分野、法的分野、支援的分野の3分野に大別されるこ
とが示唆された。したがって、本調査研究においては、これらの3分野をベースに、ま
ずは離婚当事者に問題意識を持ってもらえるような講座内容の検討を行った。
ア 心理的分野について
自由討論で挙がった意見のほか、本調査研究で製作する離婚後子育て講座に盛り
込む内容について、以下のような意見が挙げられた。
〇 元パートナーを含む親子関係の在り方が、現在と将来における親子それぞれ
の適応、
とりわけこどもの健康的な成長や発達・心理的健康に資するという問題
解決・未来志向を大事にすること。
〇 講座を養育費等の協議や取決めの問題の導入とするに当たって、骨子部分と
して親子それぞれの心理的側面があり、親の心理的側面では様々な感情のノー
マライズ、信頼できる他者の力を借りるサポート資源への視点がこどもとの関
わりで大切になること、
また、
こどもの心理的側面としては3つの視点があり、
1こどもの年齢や理解力に即して別居・離婚のことについて伝えること、
2こど
もの声を聴き、受け止め、理解すること、3親同士の争いや葛藤にこどもを巻き
込まず、こどもを守ることの知見を取り入れること。
〇 離婚は家族の形が変わる移行時期であり長期的なプロセスであるため、未来
志向・問題解決志向・予防的視点を取り入れること。
〇 親同士の争いとこどもの養育について別で考えていくことは、繰り返し伝え 19ていくことが必要であること。
イ 法的分野について
自由討論で挙がった意見のほか、本調査研究で製作する離婚後子育て講座に盛り
込む内容について、以下のような意見が挙げられた。
〇 現在、
法制審議会家族法制部会において、
語句自体の検討も行われている中で
あるほか、
法律用語は一般的に分かりにくいこともあるので、
なるべく丁寧な説
明・平易な言葉づかいを心がけること。
〇 離婚して夫婦は他人に変わるが、
親子は変わらないということは、
心理的分野
と共通して訴えていくこと。
〇 こどもの養育は義務であり、離婚後でもそれは変わらないという視点を取り
入れること。
〇 親子交流の意義やその取扱いについてはきちんと触れるべきであるが、講座
を製作する上では、
同居親・別居親いずれの離婚当事者にとっても参考となるよ
う、内容・姿勢においてニュートラルなものとなるよう配慮すること。
〇 親子交流はこどもの権利であり、
夫婦関係と親子関係は異なるものであること
は前提に、きちんと伝えていく必要があること。
ウ 支援分野について
自由討論で挙がった意見のほか、本調査研究で製作する離婚後子育て講座の内容
について、以下のような意見が挙げられた。
〇 自治体をはじめとする行政機関の窓口・提供するサービスにつながることが
できるような情報提供を行うこと。
〇 実際に対象者
(離婚当事者)
とやり取りを行う現場担当者及び管理職に対する、
講座の目的、必要性、意義等を伝える説明書を配布し、自治体職員に対する本講
座の理解促進・周知を図ること。
〇 自治体職員の配置転換などの理由により、こうした取組が現場に浸透しない
可能性もあることから、講座の取扱いをマニュアル化して案内すること。
〇 戸籍事務担当部署以外の関連部署
(ひとり親支援の部局)
等にも周知を図り、
部署間の連携を促すフォローも取り入れること。
(5) 製作方針について
自由討論及び前記(4)の意見を通じて、本調査研究における離婚後子育て講座につい
ては、将来的に離婚当事者の多様なニーズを満たす実践的な講座が製作されることを
念頭に置きつつも、いまだ離婚後の子育てについての問題や困難が顕在化していない
層に向け、様々な不安・悩みを抱える離婚前後の父母双方の心情に寄り添い、まずは自
身の心理的安定が大切であること、
その不安等の解消のために自治体・第三者などの支
援・援助があること、
養育費等について協議や取決めをすることが重要であること等を
内容とした、将来の離婚後の子育ての問題に気づきを与える導入として位置づけるこ 20ととした。
そして、
協力研究者監修の下、
まずは今後の実践的な講座ないし養育費等の協議や取
決めについて興味・関心を持ってもらうため、
全6話からなる4コマ漫画及び3分程度
の案内動画を受託者において製作することとした(【別添資料3】
【別添資料4】
参照)。3 効果測定方法及び手段
前記第2の2のとおり、アメリカでの親教育プログラムの先行研究も参照しながら効
果検証の方法が検討され、
今後の調査研究での重要課題として、
よりエビデンスレベルの
高い手法を取り入れることの必要性が示唆された。もっとも、本調査研究では、任意での
参加が前提となっていることや、調査趣旨及び調査対象者から、介入群・非介入群の比較
を行うことは困難であることから、調査対象者である離婚当事者へのウェブアンケート
とモデル自治体の担当者に意見を聴取する方法によって、その効果や情報提供の在り方
を検証することとした。 21第4 モデル自治体について
前記第3の1・2のとおり、
本調査研究において用いるツールのおおまかな方針が定まっ
た後、本調査研究に参加いただくモデル自治体を公募した。なお、本調査研究に参加いただ
く自治体によって離婚当事者への情報提供等に関するニーズは様々であることから、養育
費参考額自動計算ツール及び親子交流日程調整ツールを提供する1情報提供事業、離婚後
子育て講座を提供する2離婚後子育て講座事業の2事業を任意で選べる形式とした。
公募は、受託者のウェブサイト上で令和4年7月11日から同年8月10日まで本調
査研究に関する案内を掲出したほか、本調査研究は離婚手続に関する戸籍関係の業務に
も深く関係することから、受託者において刊行している「戸籍時報」誌8月号に同案内を
挟み込む形式において、戸籍事務担当部署に対しても募集を行った。その後、応募のあっ
た自治体について、同年8月25日以降に本調査研究に参加を希望する自治体の地域性、
人口規模等の諸条件を考慮し、最終的に以下の8自治体をモデル自治体として選定した
(五十音順)。
1 石川県
・人口 約111万6000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 4336件(令和3年)
・離婚件数 1380件(令和3年)
・参加事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
・応募部署 少子化対策監室
2 大分県
・人口 約110万4000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 4118件(令和3年)
・離婚件数 1736件(令和3年)
・参加事業 2離婚後子育て講座事業
・応募部署 保健福祉部こども家庭支援課家庭支援班
3 大阪府大阪狭山市
・人口 約5万8000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 195件(令和2年)
・離婚件数 89件(令和2年)
・参加事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
・応募部署 こども政策部子育て支援グループ
4 大阪府羽曳野市
・人口 約10万9000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 414件(令和2年)
・離婚件数 185件(令和2年)
・参加事業 2離婚後子育て講座事業 22・応募部署 こどもえがお部こども政策課
5 東京都板橋区
・人口 約56万8000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 2915件(令和3年)
・離婚件数 788件(令和3年)
・参加事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
・応募部署 福祉部生活支援課ひとり親支援担当係
6 東京都江戸川区
・人口 約68万7000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 3097件(令和3年)
・離婚件数 1154件(令和3年)
・参加事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
・応募部署 区民課戸籍管理係
7 三重県伊賀市
・人口 約8万7000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 363件(令和元年)
・離婚件数 135件(令和元年)
・参加事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
・応募部署 こども未来課
8 山口県宇部市
・人口 約16万0000人(令和5年1月時点)
・婚姻件数 732件(令和元年)
・離婚件数 288件(令和元年)
・参加事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
・応募部署 こども未来部こども政策課 23第5 1情報提供事業及び2離婚後子育て講座事業の実施について
1 実施までの流れ
(1) モデル自治体における周知広報方法
本調査研究では、全モデル自治体においてそれぞれちらし(紙・データ)を作成し、
離婚当事者に案内することとした
(その他、
各モデル自治体が取り組んだ周知広報方法
については、後記第5の2及び【別添資料5】を参照のこと。)。
ちらしには、現在モデル自治体において法務省が受託者に委託した調査研究に参画
しており、離婚当事者に対し1情報提供事業ないし2離婚後子育て講座事業に関する
各種情報提供を行っている旨、詳細は当該モデル自治体専用のウェブページ(以下「調
査研究専用ページ」という。)にて案内を行っており、二次元コードを読み取ってアク
セスしてほしい旨などを記載した(【参考3】参照)。
【参考3】作成したちらしの例 24(2) 調査研究専用ページの作成
ちらしの作成が定まった後、
モデル自治体・モデル事業ごとに調査研究専用ページを
作成した。調査研究専用ページには、本調査研究の目的等の趣旨説明のほか、各事業で
用いるツールの利用に関する案内、利用方法、利用に当たっての留意事項、当該ツール
へのリンク、ツール利用後のアンケートを表示するものとした(【参考4】参照)。
【参考4】調査研究専用ページ(伊賀市・養育費参考額自動計算ツール)の例
(3) 1情報提供事業及び2離婚後子育て講座事業で用いるツールの提供
1情報提供事業における養育費参考額自動計算ツールについては、本調査研究の案
内を受けた離婚当事者のみがアクセスして利用することができるよう、調査研究専用
ページを通じてのみアクセスできるようにした。
また、
1情報提供事業における親子交流日程調整ツールについては、
本調査研究を通
じて離婚当事者が申し込んだことが明らかとなるよう、事前に受託者宛てに利用申請 25を行った上で、サービス事業者に申し込むこと等を調査研究専用ページで案内したほ
か、
利用者からの申込時に、
本調査研究を通じての申込みかどうかについても確認する
こととした。
2離婚後子育て講座事業における離婚後子育て講座についても、
前記同様、
本調査研
究の案内を受けた離婚当事者のみがアクセスして利用することができるよう、調査研
究専用ページからのみアクセス・視聴できるようにした。
(4) モデル自治体担当者との調整
ツールの提供方法、
調査研究専用ページ等が具体的に定まった後、
離婚当事者がちら
し等から調査研究専用ページへのアクセス、
当該ツールの利用、
アンケートの回答まで
の一連の流れがどのように行われるのか、
またそのツールの利用方法等について、
モデ
ル自治体の担当者へ周知を行った。その他、ちらし配布の方法に加え、個別に有効な手
段であると思われる情報提供手段を考えているモデル自治体においては、その取組の
実施状況・方針についてのヒアリングも行った。
2 モデル自治体での取組状況
モデル自治体における1情報提供事業ないし2離婚後子育て講座事業の案内は、令和
4年11月1日より順次行われた。
また、
令和4年11月末から同年12月上旬にかけて、
各モデル自治体と個別に事業開始からおよそ1か月時点の中間ヒアリングを行った。中
間ヒアリングでは、
現在の実施状況や当事者の反応、
協力研究者からのフィードバックを
行ったほか、
モデル自治体における情報提供のさらなる充実を図るため、
各モデル自治体
間での取組状況や情報提供の方法などについて共有を行った。以下は各モデル自治体と
の中間ヒアリングの概要をまとめたものである。
1 石川県
実施対象事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 少子化対策監室
ちらし配布場所 ・県内19市町役所
・県の福祉事務所
・母子父子福祉センター
その他取り組んだ
周知広報等の方法
・北國新聞の取材でモデル事業参画の記事掲載
・その他テレビ局等から取材あり
・県独自のひとり親実態調査とちらしを同封
2 大分県
実施対象事業 2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 県こども家庭支援課 26ちらし配布場所 母子父子福祉センターへ法律相談に来所した方に直接配布
その他取り組んだ
周知広報等の方法
母子父子福祉センターのホームページへの掲載を検討
3 東京都板橋区
実施対象事業 2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 福祉課(ひとり親支援窓口)
ちらし配布場所 ・戸籍課や福祉課(ひとり親支援窓口)にて来庁者へ声掛け、
配架など
・離婚届の付近にちらしを設置
その他取り組んだ
周知広報等の方法
・板橋区が行っている包括的なひとり親支援事業の案内と一体
化してちらしを作成
・離婚前のセミナーの開催予定があり、周知を検討
4 東京都江戸川区
実施対象事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 区民課戸籍管理係
ちらし配布場所 ・戸籍係にて離婚届に挟み込み
・区民センター5か所の窓口にて交付
その他取り組んだ
周知広報等の方法
・区のホームページに掲載
・区のひとり親相談室のメールマガジンに掲載
・今後、区のトップページの新着情報や公式SNSなど、より
目に留まるところに掲載を検討
5 大阪府大阪狭山市
実施対象事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 こども政策部子育て支援グループ
ちらし配布場所 ・戸籍課含む、市役所本庁にて担当者からの手渡し、声掛け
・離婚届に同封
その他取り組んだ
周知広報等の方法
市のホームページへの掲載を検討
6 大阪府羽曳野市
実施対象事業 2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 こども政策課、子育て給付課 27ちらし配布場所 子育て給付課窓口にて来庁者に手渡し
その他取り組んだ
周知広報等の方法
・市のホームページに掲載
・市の広報紙でモデル事業の案内
7 三重県伊賀市
実施対象事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 こども未来課
ちらし配布場所 離婚を考えている方等の相談対応時に手渡し
その他取り組んだ
周知広報等の方法
・市のホームページに掲載
・行政テレビで放映
・無料法律相談の担当者にも声掛けの協力をしてもらっている
8 山口県宇部市 3
3 山口県宇部市においては当該期間に中間ヒアリングの実施がかなわず、令和5年2月13日に行ったモ
デル自治体との意見交換会の際に聴取した内容を記載している。
実施対象事業 1情報提供事業、2離婚後子育て講座事業
モデル事業担当課 こども未来部こども政策課
ちらし配布場所 ・戸籍課で離婚届に挟み込み
・相談窓口で手渡し
・図書館などの市の施設や弁護士会・裁判所等の関係機関
その他取り組んだ
周知広報等の方法
・市のホームページに掲載 28第6 モデル事業の結果概要
1 情報提供の在り方に関する結果
モデル自治体ごとに取り組んでいただいた情報提供方法は一律ではなく、
また、
モデル
事業の担当部署や窓口におけるこれまでの相談実績の違いなどの理由もあり、単純に比
較することはできないが、各モデル自治体の具体的なちらしの作成枚数は以下のとおり
であった。
各モデル自治体が実施したちらしの配布方法などについては、前記第5の2のとおり
であるが、
本調査研究におけるモデル自治体での情報提供方法としては、
大きく分けて1
離婚前後で何らかの困難を抱え来庁した離婚当事者に対し、窓口職員が寄り添いながら
案内を行う方法、
2離婚当事者に対し、
何らかのタイミングで一律に情報を届ける方法の
2つに大別できるものと考えられる。
前者の方法においては、
主に子育て支援やひとり親支援に関する部署が、
いわばケース
ワークともいうべき個別伴走型の支援の一環として、離婚当事者にちらしやモデル事業
の案内をする例が多くみられた。モデル自治体との中間打合せないし後記第6の2の意
見交換会においては、離婚直前・離婚直後の離婚当事者は不安定な状況にあり、まずは離
婚当事者と自治体担当者との信頼関係の構築を優先すべきところ、離婚後の子育て等に
関する案内を拙速に行うことは、かえって信頼関係の構築に支障をきたすおそれがあり、
情報提供を行うタイミングがなかなか難しいとの意見が多かった。
他方で、
自治体担当者
においても離婚後の子育てに関する情報提供の必要性は十分認識しており、
今後、
離婚当
事者を長く支援していく間で、適切なタイミングを見計らって提供していくことが大切
だとする意見も多かった。
後者の方法においては、
主に戸籍事務を担当する部署が離婚届にちらしを同封し、
離婚
届を受け取りに来た者の目に留まるようにした例や、こども施策に関する部署がひとり
親に関する独自の実態調査にちらしを同封して案内する例などがみられた。このような
モデル自治体名 ちらし作成枚数
1石川県 5800部+1000部
2大分県 50部
3大阪府大阪狭山市 200部
4大阪府羽曳野市 150部
5東京都板橋区 350部
6東京都江戸川区 2500部
7三重県伊賀市 500部
8山口県宇部市 1000部 29方法では、多くの枚数のちらしを印刷の上同封することとなることから多少の負担感等
はあるものの、子育て支援課やひとり親支援課などの部署へ来庁せずに孤立している離
婚当事者にも案内が可能であるため、講座が対象とする離婚当事者に広く情報提供を行
うとの点では効果的であるものと考えられる。他方で、他のモデル自治体からは、近時は
離婚する夫婦も多様化しており、
こどもができずに離婚される方、
高齢で離婚される方も
おり、
当事者についてスクリーニングを行わずに一律に案内を行った場合、
対象ではない
(こどものいない)
当事者が受け取った際に、
窓口へのクレームにつながる可能性がある
との懸念や、
自治体内での戸籍事務担当部署と子育て・ひとり親支援等の部署との連携に
ついて課題があるとの意見も寄せられた。
2 モデル自治体との意見交換会
モデル事業期間終了近くの令和5年2月13日に、約4か月間にわたり1情報提供事
業と2離婚後子育て講座事業を実施した8つのモデル自治体合同で意見交換会を行った。
その概要は以下のとおりである。
(1) 情報提供の在り方について
モデル自治体ではちらし配布を中心に様々な周知広報を行ったが、いずれの自治体
においても、
さらなる情報提供の強化が課題であるとのことであった。
モデル自治体の
中には、
モデル自治体のウェブサイトを活用する、
離婚届にちらしの案内を挟み込む、
モデル自治体独自の包括的なひとり親支援事業の案内と一体化させる、ひとり親の実
態調査と同封するなどの工夫をしたモデル自治体もあったほか、より効果的な案内時
期として、
学校の各学期末に当たる時期や進級・進学等をきっかけに離婚件数が多くな
る傾向にある3月、児童扶養手当の現況届の提出時期である8月に案内できるとよい
との意見もあった。その他、離婚当事者が来庁しなくても、ひとり親家庭が利用すると
思われる図書館などの公の施設やこどもが通う学校など、
場所・機関を限定することな
く、
各機関と連携して幅広く情報提供のきっかけを作ることで、
どのような場所からで
も離婚当事者が情報に接することができるような環境を整備することが望ましいので
はないかとの指摘もあり、自治体だけにとどまらない情報提供を考えていく必要もあ
ろう。社会資源が少ないとされたモデル自治体でも、弁護士会や司法書士会、裁判所な
どの関係機関と連携することでメリットが生まれたとする自治体もあり、既存の制度
下でもうまく対応できる可能性があることも示唆された。
また、
モデル自治体内においても、
モデル事業参加部署以外の部署との連携がうまく
いったモデル自治体もあれば、
連携が難しかったモデル自治体もあったようである。特に、
戸籍事務担当部署においては本来業務に追われており、
そのような情報提供の必要
性は認識しつつも現状の人的資源では対応が難しいことや、様々な課からちらしの案
内を依頼されていることで、
他の配布物により講座に関する情報が埋もれてしまい、離婚当事者にその存在が知られないままになってしまうおそれがあること、離婚届を受 30け取った人に不必要な情報がわたることで窓口へのクレームにつながってしまうなど
の懸念も示された。
これらについては、
このような案内をする対象者について適切にス
クリーニングしていく必要性や、
部署間の連携においては、
通達や法律などで連携を強
力に促すことによって、窓口職員も安心して案内を行うことができるのではないかと
の示唆もあった。
他方、来庁する機会が多くない別居親に対しての積極的な働きかけは難しいことや、
離婚届の提出時において、
休日・夜間に提出等が行われた場合は窓口職員では対応がで
きず、職員による働きかけにも限界があることが今後の課題であると指摘された。
(2) モデル事業に用いた各種ツール内容について
本調査研究において用意した養育費参考額自動計算ツールなどの各種ツールは、こ
れらのみで解決を目指すものではなく、
相談対応時に提供できる方法の一つとして、離婚当事者のニーズに合わせた選択肢としてとらえ、そのような方法をさらに充実させ、
相談内容に応じて適宜組み合わせて案内していくことがよいのではないかとの意見が
あった。
離婚当事者がどこに困難を抱えているかによって、
その相談内容に応じて提供
すべきツールや情報も変えていく必要があると考えられる。
ア 養育費参考額自動計算ツール
養育費参考額自動計算ツールに関しては、養育費がいくらかを知りたいニーズの
ある離婚当事者などにとっては扱いやすいとの評価や、このようなツールをきっか
けに離婚当事者の内情をより聞き出すことにつながった例もあったとのことである。
後記第6の3のアンケート結果からも、離婚当事者自身の状況に即した養育費の参
考額となる目安をツールによって算出できることは、養育費について具体的な金額
のイメージを持つことにつながり、
養育費についての協議・取決めの促進につながり
得ることが示唆された。
他方、
相手と関わりたくないなどといった理由から、
なお養育費を請求しようとし
ない同居親も一定数存在することが明らかとなった。養育費を請求しない理由とし
て、
モデル自治体の担当者からは、
いつ支払が途絶えるかも分からない養育費に生活
を頼ることは当事者にとっても不安であることや、養育費を受けることで児童扶養
手当が減額されてしまうことなどの理由が挙げられた。アンケート結果からも、
「相
手と関わりたくない」
とする離婚当事者がおり、
養育費の支払を確保するような法整
備やこれらの不安を低減する方策を併せて検討していくことも必要となろう。
また一方で、
各種手当の受給要件を念頭に、
どの程度まで稼働してもよいかを調べ
る上では、本調査研究での養育費参考額自動計算ツールではなく、いわゆる算定表
(前記第3の1(1)参照)のような視覚的な資料の方が分かりやすいとの意見もあっ
たほか、
進学費用など特別な出費がある場合などには、
ツールのみでの対応は難しい
との指摘もあった。 31イ 親子交流日程調整ツール
今回のモデル事業では、
親子交流日程調整ツールの利用件数はなかった。
モデル自
治体からは、
親子交流は日程調整だけでなく、
実際の交流に対する立会い支援なども
重要なところ、
当該モデル自治体近辺には第三者支援機関などの社会資源もなく、交流場面の支援まではできないため、このツールのみの利用だけでは取決めの促進に
はつながりにくいのではないかとの指摘があった。さらに、市町の窓口では、離婚当
事者から親子交流に関する相談はほとんどないのが実状であるとのことだった。離
婚当事者間の葛藤の程度や地域の社会資源も様々であり、離婚当事者へのケアもま
だ充実していない現状で、画一的な支援は難しいことが示唆されているものといえ
よう。
また、モデル自治体からは、親子交流に関する意義などについて、窓口職員の理解
や向き合い方に差があるように思われるとの指摘もあった。
これは、
地域によっては
離婚当事者から親子交流の相談が少ないことから、
窓口職員の知識・ノウハウがなか
なか蓄積されないことや、
ひとり親支援を中心とする部署では、
窓口職員において親
子交流の重要性は認識しつつも、相談の現場で正論を押し付けてしまうような案内
はかえって当事者を不安にさせるだけであって、まずは当事者との信頼関係を構築
していくことが優先であり、
現場としては、
適切なタイミングを見極めなければなら
ないとのことであった。その他、親子交流はこども・同居親・別居親の三者の意思が
重要であり、
実施には父母双方の協力が必要であることから、
養育費に関する案内と
比べると、よりハードルが高いと思われるとの指摘もあった。
ウ 離婚後子育て講座について
離婚後子育て講座は、離婚当事者に対する支援のきっかけづくりとしては今回の
モデル事業で製作した動画程度が適切だったとの意見が多く、このような平易な講
座から、
段階的に詳細な内容の講座への受講につなげたり、
自治体独自のセミナーや
取組の案内などにつなげたりすることを検討するモデル自治体もあった。
また、
講座
の提供方式として、
視聴環境が整っていない場合の方策も考えるべきであるほか、動画形式は時間に余裕がある人向けに思われることや、動画の情報量が多いと視聴が
大変であるため、小冊子などの形式もあるとよいとの意見があった。その他、このよ
うな講座の提供を促進する観点から、窓口職員も安心して業務として案内ができる
よう通達や法律などで後押しすることの重要性や、国・都道府県・市町村が役割を分
担し、連携して取り組んでいくべきであるとの意見もあった。
他方で、
離婚前後の当事者は精神的にも経済的にも厳しく、
こどものことまで考え
られる余裕のある人は少ないのが実際であり、
窓口職員が動画を視聴した際、
中には
ここまで考えなければならないのかと、離婚当事者をかえって追いつめてしまうの
ではないかとの懸念も示されたほか、DVや虐待の問題を抱えているとみられる場
合には、
このような講座の案内はより慎重にならざるを得ないとの意見があった。ま 32
た、より詳細な講座については、自治体ごとによって施策が異なっていたり、離婚に
関する問題を定型化することはなかなか難しいことから、画一的な講座の受講のみ
では解決が難しいとの意見や、
この問題は離婚当事者・こどもの心の問題にも直結し
ており、こどもの意見や離婚当事者間の葛藤の程度など個別のケースに応じて案内
をすべきであり、これらの解決を一律に義務づけることは難しいのではないかとの
意見もあった。
3 アンケート結果
モデル事業開始日の令和4年11月1日からモデル事業終了日の令和5年2月28日
までの期間、各モデル自治体の案内を受けてモデル事業を利用した離婚当事者を主な対
象に、
ウェブアンケート形式で意見を収集した。
なお、
モデル事業期間の実施期間が短く、
調査対象である当該期間中の離婚当事者の数も限られる中、アンケートへの回答は任意
としたため、アンケートの回答数は必ずしも多くなかった。
(1) 養育費参考額自動計算ツール
下記のとおり、
養育費参考額自動計算ツールは概ね使いやすいとのことで、
養育費の
参考額が分かることで離婚当事者の動機づけにつながり、養育費の協議や取決めがあ
る程度促進される可能性が示唆された。
もっとも、
相手と関わりたくないなどの理由か
ら、なお取決めを行いたくないとする離婚当事者(同居親)も一定数存在しており、離
婚後子育て講座や子育てに関する情報等による葛藤の低減のほか、養育費確保に向け
た制度等を充実させることの重要性がうかがえる。
【参考5】養育費参考額自動計算ツールアンケート結果
Q1 「養育費の算定」ページの使いやすさはどうでしたか。
使いやすかった 25 件
使いにくかった 1 件
全体 26 件
Q1-1 使いにくいと感じた理由は何ですか。
(複数回答可)
入力項目が多い 1 件
入力項目が少ない 0 件
自分の生活の実態と入力項目が合わない 1 件
相手の情報が分からない 0 件
その他 0 件
全体 1 件
Q2 養育費の参考額が計算できたことで、
今後、
養育費に関して相手と取り決めようと 33思いましたか。
思った 15 件
思わなかった 11 件
全体 26 件
Q2-1 養育費に関して相手と取り決めようと思わない理由は何ですか。
(複数回答可)取決めの交渉がわずらわしい 3 件
取決めの交渉をしたが、まとまらなかった 1 件
離婚した相手と関わりたくない 6 件
子と同居する親の収入等で経済的に問題がないと思う 0 件
子と同居する親が子の養育費を負担するものだと思う 0 件
養育費を支払いたくない 0 件
子と別居している親に支払う意思がない 1 件
子と別居している親に支払う能力がない 1 件
養育費を受け取りたくない 1 件
その他 2 件
全体 11 件
(その他自由記述)
・取り決めてもう支払ってもらっている
・養育費の取り決めを済ませており、
本当はもっと欲しいが全然払う気がない
し、また弁護士さんを交えて交渉するのが大変だから。
F1 こどもから見て、あなたはどちらに当たりますか。
母親である 21 件
父親である 3 件
その他(祖父母、親戚等) 2 件 (注記)
全体 26 件
(注記)本調査研究の趣旨から、F1で「その他(祖父母、親戚等)
」を選択した場合はアンケート終了とした。
F2 あなたの年齢について、教えてください。
10代・20代 2 件
30代 12 件
40代 7 件
50代以上 3 件 34全体 24 件
F3 あなたの現在の状況について、教えてください。
離婚はしておらず、現在、相手と同居中である 16 件
離婚はしておらず、現在、相手と別居中である 6 件
相手とは離婚をしている 2 件
全体 24 件
F4 未成年(18 歳未満)のお子さんの人数について、教えてください。
0 人 0 件
1 人 13 件
2 人 8 件
3 人 3 件
4 人 0 件
5 人以上 0 件
全体 24 件
F5 お子さんの学年について、教えてください。
(複数回答可)
未就学(2歳以下) 3 件 (注記)
未就学(3歳以上) 6 件
小学校低学年(小学1年〜3年) 5 件 (注記)
小学校高学年(小学4年〜6年) 7 件 (注記)
中学校 6 件 (注記)
中学校卒業、高校ほか 8 件
その他 1 件
全体 24 件
(その他自由回答)
・大学生
(注記)F4で「3人」と回答した2件が2つのみ選択されたため、人数総計と一致しない。
F6 あなたは、 現在、 未成年(18 歳未満)のお子さんと同居していますか。
こどもと同居している 24 件
こどもと別居している(別居しているこどもがいる) 0 件
その他(こどもは全員成人しているなど) 0 件
全体 24 件 35(2) 親子交流日程調整ツール
親子交流日程調整ツールについては、
受託者への利用申請は1件あった。
サービス事
業者へのヒアリングの結果、
どのモデル自治体においても、
実際に申込みにつながった
事例は0件であった。
親子交流日程調整ツールに関しては、
別居親からの親子交流に関
するニーズは一定数あるものと考えられるが、申込みにつながらなかった要因として、
そもそも同システムを利用することが想定されるのは、親子交流を行うことについて
双方が同意できた低葛藤の離婚当事者であると考えられ、システムを通じてのやり取
りすら困難である高葛藤の離婚当事者や、親子交流の実施自体について争いのある離
婚当事者の間では、同システムのみを利用して親子交流を実施することは想定し難い
ことが挙げられる。また、本調査研究では離婚当事者全般を対象としたが、モデル自治
体での情報提供においては、
結果的に同居親への情報提供が手厚くなり、
別居親とモデ
ル自治体との接点自体が同居親に比べ少なくなっている状況がうかがえる。その点か
らも、親子交流についてのニーズが高いと思われる別居親への情報提供の在り方につ
いてはなお課題が残るといえる。
(3) 離婚後子育て講座
本調査研究での離婚後子育て講座は、離婚後の子育てについての問題意識を持って
もらうための導入として位置づけ、同居親・別居親のどちらの立場からも視聴すべき
内容について取りまとめることを意図したことから、双方の立場から相談を受けるモ
デル自治体の窓口担当者からは、内容としても配慮がなされており、視聴を案内する
場合に、3分程度の長さでちょうどよいといった意見が多かった。一方、視聴した離
婚当事者からは、導入的な内容が役に立ったという意見もありつつ、具体的な行動の
変化に役立つ要素が少ない、比較的既知の内容である、時間の制約もあり内容の少な
さを指摘する意見などもあった。動画が分かりづらかったという理由として、情報量
の課題(少ない)
、時間の短さ、抽象的な内容といった点が離婚当事者から挙げられ
ていたことは、より実践的な内容を求める趣旨と思われ、どのように講座のバランス
を取るのかも、今後の検討課題であろう。
また、離婚当事者がさらに詳しく知りたい離婚後の子育て・心理的側面に関する内
容として、離婚によるこどもへの影響や接し方・養育に関する情報が多く挙げられ、
これらの内容を中心に潜在的なニーズがある程度存在することも示唆されている。離
婚当事者のニーズが多様である中、問題意識の形成を図る上で最低限知っておくべき
ことが役に立った層が一定数いることだけでなく、それらを踏まえて困難を解消する
ような具体的な知識・考え方などをもっと知りたいとする層もおり、今後、離婚後子
育て講座を製作していく上では、このような多様なニーズがあることを念頭に置き、
どのような目的・対象を設定して、内容をどうするかを考えるべきであろう。 36【参考6】離婚後子育て講座アンケート結果
Q1 動画はわかりやすかったですか。
とてもわかりやすかった 2 件
わかりやすかった 5 件
ややわかりづらかった 0 件
わかりづらかった 3 件
全体 10 件
Q1-1 わかりづらかった理由を教えてください。
(複数回答可)
説明が難しかった 0 件
内容が難しかった 0 件
情報量が多かった 0 件
情報量が少なかった 2 件
既に知っていた 2 件
時間が長かった 0 件
時間が短かった 1 件
その他 2 件 (注記)
全体 3 件
(その他自由記述回答)
・これを見て何を学べるのかが分からなかった。あまりに内容が抽象的すぎ
る。
(注記)プライバシーに関わる内容が含まれるため、ここでは割愛する。
Q2 動画で印象に残った項目をすべて選んでください。
(複数回答可)
1リコンには悩みがたくさん(こども、お金、生活の悩み) 3 件
2こどもだって大変(こどもに生じやすい気持ち) 5 件
3こどもを争いに巻き込まないで(こどもへの悪影響を考えよう) 5 件
4親子の関係はこれからも続く(こどもの養育には両親の協力が必要)1 件
5まずは相談してみよう(お住いの自治体や専門家に相談を) 0 件
6おわりに(リコン時に知っておきたい大切なこと(まとめ)
) 1 件
全体 10 件
Q3 動画を視聴して、以下の内容はあなたの役に立ちましたか。
(離婚に関する(親の悩みについて)) 37
とても役に立った 1 件
少し役に立った 4 件
ほとんど役に立たなかった 5 件
全体 10 件
(こどもに生じやすい気持ちについて)
とても役に立った 4 件
少し役に立った 3 件
ほとんど役に立たなかった 3 件
全体 10 件
(こどもを争いに巻き込むことについて)
とても役に立った 3 件
少し役に立った 5 件
ほとんど役に立たなかった 2 件
全体 10 件
(両親の協力について)
とても役に立った 1 件
少し役に立った 3 件
ほとんど役に立たなかった 6 件
全体 10 件
(誰かに相談をすることについて)
とても役に立った 0 件
少し役に立った 5 件
ほとんど役に立たなかった 5 件
全体 10 件
Q4 この動画を視聴する前から、養育費・親子交流(面会交流)について、ご存じでし
たか。
(養育費(こどもの生活費等))知っていた 7 件
少し知っていた 2 件
ほとんど知らなかった 1 件 38全体 10 件
(親子交流(面会交流))知っていた 5 件
少し知っていた 3 件
ほとんど知らなかった 2 件
全体 10 件
Q5―1 離婚に際して利用できる制度や相談機関・専門家への相談方法等について、さ
らに詳しく知りたい内容を教えてください。
(複数回答可)
離婚に関する窓口・相談先(自治体・弁護士会等) 3 件
カウンセラー、弁護士等専門家の探し方 6 件
専門家への相談方法・相談費用 3 件
離婚に伴う調停・裁判手続に必要な費用・書類 2 件
この中にはない 2 件
その他 1 件 (注記)
全体 10 件
(注記)プライバシーに関わる内容が含まれるため、ここでは割愛する。
Q5―2 離婚後の生活面・法的なことについて、さらに詳しく知りたい内容を教えてく
ださい。
(複数回答可)
離婚後の生活・支援 5 件
離婚後の就労・育児 5 件
養育費に関する情報 5 件
親子交流(面会交流)に関する情報 3 件
さらに特別なケアが必要な場合(DV・虐待等)の対応 3 件
この中にはない 1 件
その他 1 件 (注記)
全体 10 件
(注記)プライバシーに関わる内容が含まれるため、ここでは割愛する。
Q5―3 離婚後の子育て・心理的なことについて、さらに詳しく知りたい内容を教えて
ください。
(複数回答可)
離婚による親への心理的な影響 5 件
相手方への対応や話し合いの仕方 4 件 39離婚によるこどもへの影響や接し方・養育 8 件
親子交流(面会交流)に関する情報 4 件
離婚経験者や同じ境遇にある方の経験に関する情報 1 件
この中にはない 0 件
その他 1 件 (注記)
全体 10 件
(注記)プライバシーに関わる内容が含まれるため、ここでは割愛する。
Q6 離婚とこどもの養育にかかわる様々なことについて、さらに詳しい情報提供が必
要だと思いますか。
とても必要だと思う 6 件
必要だと思う 3 件
あまり必要だと思わない 1 件
全体 10 件
Q6-1 仮に動画で情報提供をする場合、動画の時間はどのくらいのものがよいと思
われますか。
15分以内 5 件
15分〜30分 1 件
30分〜1時間 1 件
1時間以上 0 件
その他 3 件
全体 10 件
(その他自由記述回答)
・1分以内
・この動画を視聴する方は思い詰めている方が多いので明るく的確なアドバ
イスのみ不安な要素は取り除いて動画を分けていくへき。・(無回答)
F1 こどもから見て、あなたはどちらに当たりますか。
母親である 7 件
父親である 2 件
その他(祖父母、親戚等) 1 件 (注記)
全体 10 件
(注記)本調査研究の趣旨から、F1で「その他(祖父母、親戚等)
」を選択した場合はアンケート終了とした。 40F2 あなたの年齢について、教えてください。
10代・20代 0 件
30代 4 件
40代 3 件
50代以上 2 件
全体 9 件
F3 あなたの最終学歴について、教えてください。
中学校 2 件
高校 1 件
高等専門学校 0 件
短期大学 1 件
大学 2 件
大学院 0 件
専修学校(専門学校・高等専修学校など) 3 件
その他 0 件
全体 9 件
F4 あなたの現在の状況について、教えてください。
離婚はしておらず、現在、相手と同居中である 4 件
離婚はしておらず、現在、相手と別居中である 0 件
相手とは離婚をしている 5 件
全体 9 件
F4―1 離婚からどれくらいの年数が経っていますか。
2年未満 1 件
2年以上 4 件
全体 5 件
F5 未成年(18 歳未満)のお子さんの人数について、教えてください。
0 人 0 件
1 人 2 件
2 人 6 件
3 人 1 件 414 人 0 件
5 人以上 0 件
全体 9 件
F5 お子さんの学年について、教えてください。
(複数回答可)
未就学(2歳以下) 1 件
未就学(3歳以上) 4 件
小学校低学年(小学1年〜3年) 2 件
小学校高学年(小学4年〜6年) 5 件 (注記)
中学校 2 件 (注記)
中学校卒業、高校ほか 2 件
その他 0 件
全体 9 件
(注記)F4で「3人」と回答しつつ、2つのみ選択されたため、人数総計と一致しない。
F6 あなたは、 現在、 未成年(18 歳未満)のお子さんと同居していますか。
こどもと同居している 8 件
こどもと別居している(別居しているこどもがいる) 1 件
その他(こどもは全員成人しているなど) 0 件
全体 9 件
4 小 括
以上のモデル自治体担当者との意見交換会及びモデル事業の結果、協力研究者の検討
から、次のことが指摘できると思われる。
離婚後の子育てに関する情報提供を行う上では、離婚当事者がこれらの情報に接する
機会が増やせるよう、離婚後子育て講座等の情報へのアクセスをより簡便にすることや、
あらゆる場所で情報を提供するため、自治体のみに限らず、国・都道府県や公の施設、教
育機関、
弁護士会・司法書士会等の関係諸機関とも連動して情報を発信していくことが望
ましい。
加えて、
本調査研究で提供した各種ツールについては、
解決意欲の高い離婚当事者にと
ってはツールの提供によって養育費・親子交流の協議・取決めが促進される面もあるが、
中にはエンパワメント(当事者の意欲・力を引き出して、働きかけること)が必要な離婚
当事者もおり、
ツールの提供のみでは協議・取決めにはつながりにくいと思われる者もい
た。
自発的に解決が図れる離婚当事者はツールを駆使して解決できるよう、
あるいはそれ
が難しい離婚当事者には、
支援者がツール等を組み合わせて支援に当たれるよう、
選択肢 42となるツールを多く設け、離婚当事者に案内できる幅を広くしておくことが有用である。
また、受講を促すに当たって、自治体の窓口職員に対しては、モデル事業で示されたよ
うな懸念を払しょくできるよう、情報提供を行うことや部署間連携に関する根拠を通達
等で後押ししていくことが望ましい。また、協力研究者からは、アンケートの回答状況な
どから、離婚当事者に対しては、専門家による無料法律相談・無料カウンセリングが受け
られる、さらなる補助金・支援金が受けられるなどの具体的な施策・メリットと関連付け
て、より能動的な受講につなげていく動機づくりの必要性も示唆された。
モデル事業のアンケート結果では、アンケートに回答した離婚当事者は1件を除き全
て同居親であることに鑑みると、
別居親の情報アクセスに課題がある可能性がある。
こど
もとの関わりを希望している別居親とそうでない別居親とがある社会的状況において、
別居親自身の離婚後の子育てのニーズは同居親以上に幅が広いと考えられるため、離婚
後のこどもに対する具体的な行動の変化につなげるには、同居親以上に受講を促すため
の取組が必要である一方、一律的な情報提供を行うことはなお多くの課題もある。
離婚後子育て講座の形式については、離婚当事者が講座にアクセスする手段は様々で
あることから、多様な媒体・方法で実施することが推奨される。窓口職員などの支援者と
その場で相談しながら受け答えできる環境下で案内を行うことが、離婚当事者の心理的
負担軽減の点からも効果的である。また、これらの案内に当たっては、窓口職員の配慮や
ちょっとした声掛けも離婚当事者にとっては非常に重要であり、自治体内でこのような
取組の意義や目的を共有・確認しておくことが望ましい。
離婚後子育て講座の内容については、
基本的内容として位置づける導入講座を設け、まずはどちらにも偏らず、
離婚に関する普遍的な内容を伝えることがよいと思われる。
その
次に、
当事者それぞれでニーズが異なることから、
離婚当事者のニーズに応じてより理解
を深めるような講座や、
より詳細な内容の講座を別途設けることで、
受講したことを実際
に活かせるメリットを感じさせるような内容の充実・工夫が求められる。 43第7 最終的な離婚後子育て講座のモデルの方向性
本調査研究におけるこれまでのモデル事業の結果及び協力研究者による議論・検討を通
じて、モデルの方向性の概要を示す。
1 離婚後子育て講座の形式について
諸外国の取組では、
対面・オンラインいずれの形式でも行われて成果を上げているとこ
ろ、オンライン形式による提供は、離婚当事者において時間や場所を問わず、繰り返し受
講もできるというメリットがあると考えられる。
そのため、
本調査研究ではあらかじめ作
成した動画を視聴してもらう方法で実施したが、
提供する形式によっては、
離婚当事者な
いし自治体等において、
受講のための設備環境を整える必要や、
離婚当事者のアクセス方
法も様々であるため、
広く情報提供を行う場合は、
離婚当事者の間でデジタルディバイド
を起こさないための方策なども検討すべきであると思われる。
その観点では、
来庁時に自
治体の設備を利用して受講できる環境整備や小冊子形式の紙媒体等を用いるなどの選択
肢も広く考えていくことが必要であろう。
オンライン形式で離婚後子育て講座を提供する場合には、
同居親・別居親の生活や現状
も踏まえると、
オンデマンド配信形式のような、
離婚当事者が任意のタイミングで受講で
きる環境を整え、講座受講者にとって受講しやすい環境を整えるなどの工夫が必要と考
えられるが、講座内容に応じて、講座の提供者・受講者の双方向でのやり取りが含まれる
と、より理解も深まり効果的である。
本調査研究における離婚後子育て講座は、
同居親・別居親双方に問題意識等を持っても
らうための導入と位置づけた。
そのアンケート結果からは、
離婚後の子育てに関する基本
的な事項(基礎知識・心構えなど)を解説した動画内容が参考になった層も一定数いる一
方で、
当該内容が既知の内容であったり、
より詳しい内容の講座を設けていくことのニー
ズも確認された。
講座時間は15分以内が望ましいとする意見も多く、
講座受講中の離脱
を低減できるような時間的な工夫も求められると考えられる。また、同居親・別居親それ
ぞれのニーズに沿うだけでなく、具体的な行動の変化につなげられるような講座内容と
することや、
受講することへの動機づけを高めるインセンティブを付与して、
受講するこ
と自体へのメリットをより感じられるようにすることなど、
内容的・施策的な工夫も必要
となる。離婚後子育て講座では、離婚後の子育てに関する基本的な内容に加え、同居親向
けの内容、別居親向けの内容など、受講対象と講座内容の範囲を設定し、個別のニーズに
即したテーマの講座を複数設けることが効果的であろう。
その他、
協力研究者からは、
デジタルディバイドを防ぐために自治体で講座受講に利用
できる共用PC・タブレット端末を用意することや、
講座の受講記録などがきちんと記録
され、
視聴を中断しても再開できるような仕組みとすることや、
運転免許証の更新手続に
おける講習のように、自治体で離婚後子育て講座をその場ないし自宅でオンラインで受
講したことの証明手続を行うなどの様々な案もあった。 442 離婚後子育て講座の内容について
離婚後子育て講座全体の在り方として、
知っておくべき必須の内容のものと、
理解を深
め、応用・発展的な内容のものとに分け、離婚当事者のニーズに応じて今後様々なバリエ
ーションの講座を設けるなどして役に立つ内容とし、本調査研究で取り扱ったような導
入の講座から、さらに発展して内容を盛り込んで充実させるべきである。また、講座の効
果検証においても、
継続して絶えず検証を繰り返し、
改良を重ねていく方が望ましいと思
われる。
(1) 心理的分野について
心理的分野において含むべき講座内容案は多岐にわたるが、本調査研究において取
り扱った内容(第3の2(4)ア参照)を含めることは必須であると思われる。加えて、講
座をより効果的なものとするために、
こどもの意見を聴くという視点
(こどもアドボカ
シー)も取り入れ、実際に離婚を経験したこどもの声や離婚後5年、10年程度経過し
た親からのアドバイスなど当事者の声を伝えること、離婚当事者が親として今どのよ
うなことができるかを考えられるようなワークを取り入れることも有益であるといえ
る。今後の講座内容の方向性や心理的分野において盛り込むべき講座内容をまとめる
と、以下のとおりである。
ア 講座の内容について
アメリカの先行研究の整理結果や、
協力研究者間の議論を踏まえ、
心理学的な観点
から、離婚後子育て講座に含む必要があると考えられる内容は、大きく、以下の4点
に分けることができる。
1 別居・離婚の現状
我が国における近年の離婚件数、
離婚を経験するこどもの数、
離婚のプロセスを
図で可視化する(離婚自体は珍しくないが、背景や状況などまちまちであり、同時
に落ち着くまでに時間もかかるのが一般的)。2 別居・離婚が親子それぞれに及ぼす影響
(a) 親の心理
(i) さまざまな感情
・悲しみ、混乱、怒り、喪失、安心や安堵等、個人内・個人間の多様さがあ
る。その背景に、相手との葛藤関係があるため、一筋縄ではいかないこと
・誰しもそのような感情が生じうること
(ii) 支えや周囲の力を得ることの大切さ
・悲しみ、混乱、怒り、喪失、安心や安堵等、個人内・個人間の多様さがあ
る。その背景に、相手との葛藤関係があるため、一筋縄ではいかないこと
・時間の経過、プロセスの中では変化しうる。その際、自分だけで何とかし
ようとせず、
必要に応じて信頼できる他者・専門機関等の力を借りること
が重要。 45・助けを借りることは、
自分にとってはもちろん、
こどもとのかかわりにも
大切であることを強調する。また、DVがあった場合には、自身やこども
をケアする必要があり、専門家の支援が必要である。
(b) こどもの心理
(i) 親の別居・離婚の際に生じやすいこどもの感情や変化
・共通して生じやすい感情や反応、
年齢や発達段階によって生じやすい反応
や特徴
(ii) 情報不足や理解の難しさなどから生じる不安、自責感、両親間の葛藤の板
ばさみになりやすい立場等、こども特有の感情や認知等
・こどもの年齢や理解力を踏まえた情報や見通しの共有や気持ちを受け止
めることの重要性
(注記)説明は、こどもの声を動画やイラストで紹介する等の工夫が考えられる。
3 親ができるこどもへの対応
ここでは、特に重要なものとして、以下の3点を挙げる。
(a) 伝えること
・別居・離婚について、こどもの年齢や理解力に即して伝えることが重要(そ
の理由は、
こどもが情報や見通しをもてるため、
誤解によって生じやすい不
安、混乱や思い込み、自責感を軽減しうるため)。・こどもに伝える内容は年齢や理解力によっても異なるが、
主に以下の4点が
ポイントになる。
(i) 親が離れて暮らすことになるが、それはこどものせいではない(責任は
ない)こと
(ii) 両親ともに、こどもが大切な存在であると考えていること
(iii) 今後の生活の見通しがあれば示しつつ、こどもの希望を踏まえて親として
考えていくこと
(iv) 親の離婚について、誰かと話してもよいこと。また、疑問があればいつで
も聴いてよいこと
(b) 聴くこと
・さまざまな気持ちを抱くこどもとのやりとり、
コミュニケーションのありよ
うの1つとして、こどもの感情を(すぐに否定しないで)いったん受け止め
ようとすること、理解しようとすることの重要さ(一人で抱え込まずに、気
持ちや考えを伝えてもいいことをこどもが理解することで、親子の信頼関
係やこどもの自己肯定感を育むことにもつながる)。・別居親がこどもと会う際の、
短い時間の言動においても重要かつ必要な視点。
また、会えない親が、手紙やメール等を送る時も、親の否定的な感情を押し
付けたり、
責めたりすることの回避などにもつながる。
長期的にもこどもと 46の肯定的な関係を築くことにつながりうる。
・理屈は大人同士でも同じであり、
親同士の関係にも応用できることを示唆す
る。
(c) 親同士の争いや葛藤に巻き込まないこと
・父母子の三角関係の中で両親の板挟みにならないよう相手の悪口を言わな
い、こどもの前で口論しない、こどもをメッセンジャーにしない。
・親の葛藤がこどもに及ぼす影響についての知見を示す。
4 長期的な視点、離婚を経験した親子の声
(a) 時間的展望を示す
・離婚は、
家族のかたちが変化する移行期であり、
長期にわたるプロセスでも
ある(時間的展望)
。今と同じ状況がずっと続くわけでもない。と同時に、
すぐに結果や変化を求めすぎない、こどもの様子やこどものペースを見守
ることの大切さと大変さ。
・今のありよう(工夫次第)で未来は変わりうるという未来志向、問題解決志
向、予防的視点。親役割の大切さと共に、いろいろな人や機関等の力も借り
ながら、今できることを大切にしてほしい。
(b) 離婚を経験した親・こどもの声
・離婚をして5年、10年経過する親(同居親、別居親)
、親の離婚を経験し
たこどもからの声を紹介する。例えば、以下のような観点が考えられる。
(i) こどもとのこと
・こどもとの関係で親が工夫したことや気を付けたこと
・成長した今、こどもとの間で、意識して(やって)きて良かったと思うこと
(ii) 親自身のこと
・同じ体験をした人とどうつながったか(孤立化をさける)
・利用してよかったサポートや自分へのケア
・支えにしていたことや頑張ってきたこと、親に向けたアドバイスなど
なお、DVに関しては、複数の協力研究者から、講座等でも説明を行う必要がある
との意見が出されたが、
最終的に、
本調査研究では動画の視聴時間などの制約から含
めることができなかった。離婚に際しての取決め(親子交流を含む)や離婚後の支援
においてもDVは重要になる場合も少なくないことから、離婚後子育て講座の内容
に含めることも考えられる。もっとも、その内容や取り上げ方などについては、引き
続き検討を行っていく必要がある。また、この他に含めるべき内容として、親の再婚
などが考えられるが、時間的な制約もあり全てを網羅することは困難であることか
ら、オンラインで閲覧できる補足資料等により補完することが考えられる。
イ 講座の種類について
アメリカの先行研究の心理教育モデル(Blaisure & Geasler, 2000; Salem et al., 472013)の視点を踏まえると、目的別に少なくとも2段階の予防的な講座を用意する
ことが考えられる。
<第一段階の講座>
目的:第一段階の講座では、未成年者がいる夫婦の離婚に際し、必要となる基本情
報を提供する。それにより、親自身の精神的な安定、意識や行動の変容、こど
もへのあたたかな関わり、必要なサポートの理解と援助希求などにつながる
ことを目指す。結果として、親の養育力の向上、こどもの健康的な成長や発達
と肯定的な親子関係の構築、
こどもの健康的な成長や発達が支えられ、
こども
の長期的な心身の不調や問題行動などの予防に結びつくことにもつながる。
なお、第一段階の講座は、
【別添資料2】の Salem et al.(2013)の1普遍的
な親教育プログラムに該当し、
ポピュレーションアプローチ 4の側面を有する
ものと位置づける。
対象:原則として、離婚を考えている全ての人
方法:オンデマンド配信による講義や動画視聴を中心とした一方向型
(一人ででき
るミニワークを含む)
時間:計30〜40分程度
(内容に応じて2〜3に分割して行うことも考えられる)
<第二段階の講座>
目的:第二段階の講座は、第一段階の講座の目的と基本的には同じであるが、情報
提供に加え、講師や他の参加者とのやり取りを通じて理解度を高めることを
目的に、
ミニワークやグループでのシェアリングなどを組み込むことで、
より
深い理解やスキルの修得を目指す。
それにより、
第一段階の講座よりも大きな
効果をもたらすことを目的とする。なお、第二段階の講座は、
【別添資料2】
の Salem et al.(2013)の2こどものウェルビーイングを高める選択・自発的
な親教育プログラムの要素を一部含むものと位置づける。
対象:第一段階の講座の受講後に受講を希望する人
方法:講師や受講生同士のやり取りを含む双方向型(対面またはオンライン)
時間:計2〜3時間程度
(ワークや内容に応じて分割して行うことも考えられる)
なお、第一段階、第二段階の講座それぞれで扱う内容は、原則として上記アの1〜
4で想定した共通のテーマとし、
第一段階の講座では情報提供が中心、
第二段階の講
座では第一段階の講座での情報提供を踏まえたグループワークやシェアリングを取
り入れて理解を深めることが考えられる。
ウ 効果検証の在り方について
以上の講座については、
内容等の改善やアカウンタビリティの観点から、
その有効
4 公衆衛生の分野で用いられている概念で、疾病予防もしくは悪化を防ぐ取組のうち、ポピュレーション
アプローチは、集団全体を対象とする取組である。
(日本看護学会,2018)
(https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/hokenshido/2018/wakaru_dekiru_population_approac
h.pdf) 48性を体系的に調査することが求められ、その際、プログラム評価の理論を参考に、実
証データに基づき検討していくことが必要と考える。
(2) 法的分野について
法的分野においては、
1ごく簡単な離婚の法的手続全体の概要、
2法的手続を取る際
の参考情報
(調停では相手方と顔を合わせなくてもよいこと、
弁護士を付けずに自ら手
続を行う人も多いこと等)
、3弁護士に相談するだけであれば、さほど費用はかからない(無料相談できることも多い)
こと、
4財産分与のこと、
5親権者を決めるべきこと、
6親権の中身
(義務の側面)、7養育費支払の終期、
8親子交流はこどものためであり、
養育費の支払とは別問題であることなどが挙げられる。
さらに発展的な内容として、9財産分与の請求期間や10養育費の増減額の可能性についても触れられるとより充実す
ることも示唆された。今後の講座内容の方向性や法的分野において盛り込むべき講座
内容等をまとめると、以下のとおりである。
ア モデル講座の位置付け
離婚や別居の際に、当事者はいかなる法的情報を求めているか、また、混乱し悩ん
でいる当事者に、法的情報をどのように提供すべきか。
まず、法律用語や専門用語は、一般の人々には極めて難解で、分かりにくいことが
少なくない。第一に、難解な法律用語を一般の人にも分かりやすく、平易な言葉で説
明する工夫が求められる。例えば、監護費用(養育費)や親子交流、親権者、監護者
などの定義や意味を分かりやすく説明することが求められる。
第二に、こどもの問題について、どのような時期に何が具体的に問題となって、法
や法制度はこの問題解決のためにどのようなルールなりメッセージを用意している
かを明らかにする必要がある。例えば、離婚や別居時に、こどもにとって大切な身の
回りの世話、
誰が主として一緒に暮らすか、
こどもにとって大切な事項
(教育・宗教・
医療・就職など)を誰が決定するかなどである。親権、監護などの具体的な中身や意
味についても分かりやすく説明する必要がある。
第三に、
父母の話し合いで決められれば問題はないが、
話し合いができないときに、
誰にどのように相談するか(弁護士などの専門家への相談、紛争解決の方法等)
、ど
のような具体的な手続が利用できるかについても理解してもらう必要がある。弁護
士の仕事・役割、家庭裁判所での調停、審判、訴訟などの手続など平易に解説するこ
とが求められる。そして、家族やこどもの問題については、できる限り円満な話し合
いによる解決が望ましいことなどを説く必要もあろう。
イ モデル講座をめぐる構想
1 モデル講座の目的
協議離婚を考えている人(父母)
(高葛藤を除く)を対象に、離婚や別居に伴う
法的紛争を予防し、
父母の争いによる子に対する悪影響を低減するとともに、
最低
限必要とされる法的情報、
心理的情報、
支援情報を提供することが必要であろう。 492 モデル講座の実施時期
離婚や別居を考えはじめている人
(父母)
への早期対応としてのガイダンスであ
るから、原則は離婚前(別居中も含む)の実施が望ましい。もっとも、低葛藤・中
葛藤など葛藤の程度が比較的に少ないケースでは、離婚後でも可能とすることが
考えられる。
3 モデル講座の実施主体
協議離婚を念頭におくのであれば、自治体(基礎自治体・広域自治体)とするこ
とが考えられる。しかし、モデル自治体との意見交換会での要望や意見からも、モ
デル講座のコンテンツは、
関係府省庁等で責任を負い、
全国的に統一したものを作
る方向が望ましいと思われる。
4 モデル講座の実施方法
対面型・オンライン型(リアルタイム配信・オンデマンド型)
、集合型・個別相
談型の併用が考えられるが、
コロナ禍での経験でも、
多忙を極めるひとり親のニー
ズからも、オンライン・オンデマンド型の講座が便利である。時間としては、短く
コンパクトなものがよく、
導入として第一段階の講座
(基本編・基礎知識・心構え・
ひとりで抱え込まずに)
(約10分を3編など)を設けることが魅力的である。
また、モデル事業の離婚当事者からは、今回の約3分の動画については、導入的
な意味はあったものの、
もう少し詳しい説明が欲しかったとの声もあった。
そこで、
このような離婚当事者に対しては、より理解を深める第二段階の講座(応用編・法
的情報・心理的情報・支援情報)
(約15分を4編など)
、さらに実践的な第三段階
の講座
(発展編・良く起こる問題とその解決方法・具体的な相談支援へのプッシュ)
(約15分を8編など)を用意して、それぞれの求める内容・事項ごとに分けるこ
とが考えられる。
5 モデル講座の実施時間・内容
どのような基本情報をどのような方法で提供すべきか、どのくらいの時間が適
切か、どのような具体的な方法や時期に行うべきかは、対象者の支援ニーズや、ど
こがどのように支援につなげていくかとも密接に関連している。効果検証が重要
であるため、まずは、第一段階の講座(基本情報―支援につなげるために)
、第二
段階の講座(基本情報を受講したうえで、ステップ・アップとしての応用編)を検
討する。第二段階や第三段階の講座は、場合により対面型・集合型での効果検証も
行ってみる必要もあろう。
法的情報としては、養育費・親子交流の意義、取決め(話し合い)の仕方、養育
費の算定、支払期間の定め方、親子交流の実施方法・留意点、取決めができないと
きの対処方法(弁護士、家庭裁判所等)
、親権者・監護者(こどもは誰と暮らし、
大切なことを誰がどう決めるか)
などについて、
できる限り平易に解説するものが
考えられるが、
ウで詳細に検討する。
なお、
DV・虐待への対応、
こどもの気持ち、 50意思の尊重などは重要なトピックであるが、どのように取り上げるかは今後の検
討課題である。
6 モデル講座の実施対象者
海外ではこども向けの講座やプログラムを用意しているところもあるが、まず
は、離婚を考えている父母又は葛藤の少ない父母を対象に検討する。もっとも、試
行的なモデル講座については、
離婚後の父母を対象にして、
効果検証を行うことも
ありうる。
ウ モデル講座の内容と必要な法的情報・アクセスへの工夫
法務省の「こどもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」 では、最初に、
「養育費とは」
「養育費の取り決めについて」
「親子交流とは」
「親子交流の取り決め
について」など、その意義などについて理解できるよう平易な解説を載せている。そ
の後、
合意書作成のポイントや内容についての説明があり、
細かい点についてのQ&
Aを記載している。
また、公益社団法人家庭問題情報センター(FPIC)の「改訂養育費相談の手引
き」
「子どもからのお願い」
(FPICかるがも相談室)の小冊子では、子をもつ夫婦
の離婚、
こどもへの配慮、
離婚に際して取り決めておくこととして、
親権者、
養育費、
親子交流、財産分与、慰謝料、年金分割などの用語について分かりやすい解説をして
いる。その後、養育費の取り決め方で、期間、方法、算定表等の説明と、事情変更、
滞った場合に対処方法、親子交流と養育費の関係などの説明をしている。
「子どもか
らのお願い」では、親子交流の意義やこどもの年齢、発達に応じた交流の在り方など
について分かりやすく説明している。
明石市の「お子さんの健やかな成長のために〜養育費と面会交流〜」も、 親子交
流や養育費の意義、
両者の関係、
具体的な取決めの方法と留意点などを分かりやすく
解説している。
アメリカでも、各州で異なっているが、基本的に、父母教育プログラム(Parent
Education Program)の受講を義務付け、リーフレットやオンデマンド・対面などを
織り交ぜて、
こどもの年齢・発達に応じた養育計画書
(Parenting Plan)
の作成方法、
子の監護や交流のあり方、監護や交流をめぐる紛争解決の方法と合意による解決
(Mediation)の推奨などで、合意のために必要な最低限度の法的情報や用語・手続
などの理解を増進する解説がなされている
(カリフォルニア州では、
弁護士を頼まず
に本人自らでできる書類作成・手続進行のための解説ツールがセルフ・ヘルプセン
ター(自助センター)で用意されている。)。
このようにみると、離婚の法的手続、親権・監護、養育費、親子交流などの分かり
やすい用語の解説、離婚や別居に伴う合意形成、合意実現の方法、話合いが困難な場
合の対処方法、弁護士、家庭裁判所の役割、調停・審判・裁判などの手続の違いと本
人だけでできることなどについて、
丁寧な説明が必要と思われる。
基本的な法的情報 51として必要なものが何か、
また、
紛争解決のための手続や利用できる専門家について
も、
当事者からは相当に敷居が高くアクセスが困難であるために、
専門家による法律
相談などと組み合わせて、
利用できるようにリンクを張ったり、
相談につなげられる
ような工夫が必要であろう。
エ 今後の検討課題
今後の課題として、
第一に、
多くのモデル自治体からも意見や要望があったように、
今回の養育費参考額自動計算ツールや親子交流日程調整ツールも、経済的・精神的・
社会的にも孤立したり困難な状況に置かれているひとり親、同居親に対する長い伴
走型支援の中での一つの選択肢や手段として使われるとしても、自治体としてどの
タイミングで当事者に紹介したり、案内をすればよいかが難しいという問題がある。
養育費や親子交流の取決めや、
充実した離婚後子育て講座の受講について、
自治体で
は窓口職員の裁量でちらしを配布したり、
リーフレット、
動画の視聴を促すにとどま
り、その働きかけには限界がある。
第二に、養育費と親子交流の関係についても、法的関係が整理されておらず、しば
しば取引材料にされたり、
相手方と関わりたくないばかりに、
子のための大切な養育
費を諦めざるを得ないケースもある。この点でも、DV・虐待・暴力に対する対策が
きちんと定められ、
養育費についても、
養育費参考額自動計算ツールを支える前提と
しての養育費の算定基準、
計算方法が明示され、
法定され制度化される必要があろう。
親子交流についても、安心・安全の親子交流の確保と親子交流の実施条件・回数・受
け渡しの方法・実施要領等が定められるとともに、
当事者同士で関わりたくない場合
の親子交流日程調整ツール、親子交流支援団体や支援者の活用という段階的なステ
ップを踏むことになろう。自治体を起点とした法的な争いやトラブルの際の無料法
律相談、弁護士、司法書士、公証人らの専門家との連携、家庭裁判所・児童相談所な
どの公的機関との協力連携などがしっかり行われることで、当事者の置かれた状況
に応じて、
当事者みずからが問題解決に向けた行動をとる決断につながる。
自ら話合
いや自己決定が可能な人、
専門相談を通じて援助を受けながら対応できる人、
困難な
問題を抱えつつ、
相談支援を受けることさえ躊躇している人などがおり、
当事者の特
性、その置かれた状況において、養育費参考額自動計算ツール、親子交流日程調整ツ
ールなど当事者の利便性の向上のための各種ツールの利用も決まってくると思われ
る。
第三に、離婚後子育て講座については、目的・対象、実施主体・実施方法・内容等
を詰めた上で、関係府省庁において、上記のような点に配慮しつつ、全国的に統一し
た内容の講座を定めて試行的に実施し、その効果検証をしていく必要があろう。
第四に、法制度の見直しは、当事者への支援とセットで考えないと、せっかくの法
制度も機能しない、利用されないということになりかねない。もっとも、離婚時の情
報提供制度としての離婚後子育て講座
(親ガイダンス)
にしても、
養育費・親子交流・ 52監護者等の子の監護に必要な事項の定めにしても、離婚の要件と(義務化)するか否
かに関わらず、自治体の現場では、当事者に寄り添う伴走型の支援が行われ、母子父
子自立支援員や相談員は過重な負担の中で当事者を支えていた。
そこで、
この点にお
いても、
基礎自治体だけでなく、
広域自治体や国が当事者に対する相談支援体制及び
職員の研修・人材育成などの人的・物的基盤の整備やその強化策を積極的に講ずる必
要があろう。
(3) 支援分野について
支援分野については、離婚後の生活や子育てに関する内容を講座に含めてほしいと
いうニーズが見られたところ、各自治体においても離婚当事者に向けた独自の多様な
支援施策・取組が行われている中で、全国画一的な講座内容とした場合には、基本的な
制度や事項の解説等にとどまってしまう可能性がある。
モデル自治体の一部には、
モデ
ル自治体が独自で取り組んでいる施策と本調査研究での離婚後養育講座内容を一体化
させて離婚当事者に案内した例もあった。離婚当事者が住む自治体で展開されている
施策も活用してもらう上では、
施策と講座それぞれを個別に発信するよりも、
自治体ご
との支援と連動させて提供することは効果的であると思われる。
また、心理的分野・法的分野と関連して、アンケート結果によれば専門家へのアクセ
スに関する情報提供ニーズが見られたことは、カウンセラーや弁護士等の専門家に相
談をすることについて、
経済的・心理的なハードルを感じている離婚当事者が一定数存
在するものと考えられる。
講座内容の充実のほか、
協議離婚を届け出た者全員に対し、
無料法律相談や無料カウンセリングなどの機会を付与するなどして、離婚後子育て講
座の案内機会を増やすだけでなく、専門家等に対する相談のハードルを下げるような
支援策も有効であると思われる。
他方、
本調査研究で窓口を担った、
自治体の窓口職員に対する支援の観点も重要であ
ることが示唆された。
自治体の窓口の現場においては、
窓口業務を委託しているなどと
実状も様々であり、自治体の負担軽減となるよう、最低限取り組める程度の工夫・配慮
や、
提供できる情報をリスト化して整理しておくことが望ましいとの意見もあった。また、窓口職員の支援意欲を喚起するためにも、このような講座の意義・目的を理解して
もらうために、通達や法律によって環境の整備を行ったり、窓口職員・管理職に研修を
行って支援の機運を醸成し、積極的な働きかけ・声掛けを実現することで、離婚当事者
が支援につながりやすくなると指摘された。
3 おわりに――今後の検討課題
以上のように、本調査研究では、限られた期間・事業予算内でモデル事業のツール内容
の検討から製作・実施までを行う必要があり、
盛り込むべき事項が多々あることは理解し
つつも、時間的な制約等から、盛り込むことがかなわなかった事項も多い。一例として、
高葛藤層やこどもに向けた講座内容や、講座におけるDVやハラスメント等の取り上げ 53方などは、本調査研究では盛り込みきれなかった点であり、どのような内容とし、いかに
取り上げるかは、今後、検討すべき課題の一つである。また、離婚後子育て講座の製作に
当たっては、盛り込むべき事項とは別途、任意で協力いただいた離婚当事者に、いかに心
理的負担を少なくして視聴してもらえるかという視点も含めた具体的なコンテンツへの
落とし込みが求められた。
本調査研究の経験からは、
離婚当事者の多様なニーズに対し、
単に映像やコンテンツ製作の経験だけでなく、離婚前後の様々な状況に対して不安な気
持ちを抱える離婚当事者への心理的負担を低減するための工夫や、多様化する家族の問
題にきちんと対応できるジェンダー観や中立公正性に加え、監修に当たっての高い専門
性・知見が広く求められよう。
情報提供の在り方について、
本調査研究では、
モデル自治体がそれぞれ取り組める範囲
での参画を前提としたことや期間も短期に限られることから、
特段の指標は設けず、
担当
者へのヒアリングや離婚当事者へのアンケートにとどめた。
今後、
この点についてもより
詳細に検証していく場合には、
例えば、
ちらしの配布枚数やウェブサイトのセッション数、
動画の視聴回数等も測定するなどして、より効率的な情報提供について検討していくこ
とも考えられる。その他、自治体の窓口職員が講座を案内したり、離婚当事者が仮に複数
の講座を受講したりする際に、どのような内容の講座が適しているのかに迷う場合も考
えられる。その時に、オンラインだけでなく、対面でのフォローや何を受講するべきかの
コーディネートの在り方なども、今後の課題であると思われる。
離婚後子育て講座の効果検証について、
日本ではアメリカなどと異なり、
離婚後子育て
講座の受講の義務づけがされていないことから、RCT(ランダム化比較試験)による効
果検証が可能である。
今回の調査研究では実施することがかなわなかったが、
今後はこの
ようなエビデンスレベルの高い検証方法による効果検証を取り入れることも検討される
べきである。
その効果検証に用いる指標についても、
アメリカの親教育プログラムの先行
研究からは様々な指標があることが示されている。例えば、短期的な指標として、講座受
講直後の離婚当事者の知識・養育に対する自信の程度、講座の評価、養育に関する事前取
決めの状況などを勘案することや、長期的な指標には、法的紛争の程度、子育ての質、父
母の葛藤の程度、
こどものウェルビーイングの程度、
養育費の支払状況などを勘案するこ
とが考えられるが、
どのような指標・尺度を用いるかについても今後の検討課題となろう。
最後に、協力研究者からは、全国的に統一した水準のコンテンツを製作するには、省庁
間を超えた連携も必要である旨や、離婚前・離婚後・子育てにまたがる問題であるからこ
そ、自治体での情報提供を機能させていくには、部署間を超えた自治体職員の理解・連携
を促す方策についても検討すべきである旨指摘されたところである。本調査研究に参画
いただいたモデル自治体の担当者の方は、それぞれにおいて使命感を持って積極的に取
り組んでいただいたが、
真にこどもファーストを掲げ、
充実した離婚後子育て講座を目指
すには、省庁間・部署間を超えて、十分な期間と予算を確保して、真摯に取り組むべきで
あろう。 54第8 参考資料
【別添資料1】
諸外国における離婚後子育て講座類似の取組に関する概要一覧表
項目 アメリカ
(フロリダ州)(注記)1
イギリス
(イングランド・
ウェールズ)
ドイツ フランス オーストラリア 韓国
(ソウル)
日本
(FAIT)
実施機関 民間団体(州子ど
も 家庭局 の認証
を 受けた プログ
ラム)
CAFCASS や
CAFCASSが提携
する民間団体
(注記)2
・少年局
・民間団体に属す
る相談所 (注記)3
全 国家族 手当金
庫(国が監督する
公的機関)が統率
する民間団体
民間団体
(注記)4
家庭法院/家庭
法院の指定する
専門機関
民間団体
受講対象者子 がいる 離婚し
よ うとす るすべ
ての父母
子 がいる 離別し
た父母
父母及び子 別 居を検 討/別
居 をした すべて
の父母
離 別した /離別
を 検討し ている
父母(一部祖父母
ら 第三者 や子が
参加可)
協 議離婚 をしよ
うとする夫婦
子 がい る離別 し
た父母及び子(子
ど も は 、 親 が
FAIT に参加して
いること)
受講義務 あり 原則任意 (注記)5 なし なし 原則任意 (注記)6 あり (注記)7 なし
受講時期 離 婚申立 人は申
立てから 45 日以
内、相手方は申立
書の送達から 45
日以内
任意 任意 任意 任意 協 議離婚 意思確
認 申請時 〜申請
の 日の翌 日から
3か月以内
任意(DV、係争中
のケースは除く)
実施形式 対 面/オ ンライン対 面/オ ンライン対 面/電 話/オ
ンライン
対 面/オ ンライン対 面/オ ンライン対 面/オ ンライン対 面/ オンラ イン実施方法 講座(有料) ・離別する父母の
情報プログラム
個別相談(無料)
子の場合、グルー
講座(対面でもア
ニ メーシ ョン動
1個別相談(アセ
スメント)
1→2
1 面談/ 長期相
有料
心 理教 育を中 心 55・個別カウンセリ
ング
・家族カウンセリ
ング
(注記)8
プワークもあり 画 や典型 場面の
再現動画を視聴)
簡 単なク イズの
実施
参加費無料
2講座(オンライ
ン・対面)
(3対面
・電話によ
る フォロ ーアッ
プ)(注記)9
談 プログ ラム/
感 情治癒 プログ
ラ ム/集 団相談
(注記)10
2動画視聴
に グル ープデ ィ
スカッション。
講師 資格要件は不明
心 理学分 野の専
門家が多い
Family Court
Advisor ( 家 庭 裁
判 所の法 的手続
や 子ども 問題の
専門家)
不明
ただし、連邦家族
省 や民間 組織に
よる研修あり
厳 格な資 格要件
は 見当た らない
が、法律家や心理
の専門家、調停員
などが関与
不明 ただし、内
部研修あり
一 部講座 は公認
資 格を有 する者
との面談を含む
1 専門家 の相談
や 専門機 関によ
る実施
2なし
心理の専門家
(臨床心理士、
公認
心理師)
時間 4時間以上 4時間 不定(相談対応) 1時間~1時間半
程度
1時間(単発型)〜
10 時間超(複数回型)1 1時間 〜7時間21時間 20 分
親:4時間
子:2時間
講座提供
方法
【対面】集団型
【オンライン】
・個別型(オンデ
マンド)
・集団型(ウェビ
ナー)
個 別型又 は集団
型(グループセッ
ション)
親には個別型、
子 には個 別型又
は集合型
集合型(父母の受
講 が推奨 されて
い るが一 人でも
受講可能)及び個
別相談
個 別型及 び集団型集団型の場合、父
母は別々に受講。
父 母一方 のみの
受講も可
個 別型ま たは集
団型
親 は集 団型で 対
面 若し くはオ ン
ライン。
子 は集 団型で 対
面。
(どちらも個
別実施も可能)
元 パー トナー は
別々に参加。
講座内容 配 偶者や 子への
虐 待やネ グレク
トの問題は必須
その他、例えば、
離 婚や離 別の心
理 的課題 やプロ
セ ス 、 子 へ の 影
響、子の年齢・発
親の配慮(親権)、養 育費、 親子交
流、別離・離婚に
伴 って生 じる心
別 居が親 や子に
及 ぼす心 理的社
会 的なイ ンパク
ト、別居の法的帰
しろまる 父母自 身の感
情的困難の緩和・
克服の手立て、父
母 の離別 や不和
1 離婚の 過程に
お ける心 理的支
援 や子の 養育に
関する支援、離婚
親:1離婚にまつ
わ る子 どもの 気
持 ちの 理解と 対
応(発達段階によ 56両 親の間 で子に
関 する問 題を決
定 するこ との法
的側面、離別や離
婚 が親や 子にも
た らす感 情的側
面、子に対する財
政的責任
(注記)11
達に応じた対応、
子 どもた ちの思
いと声、子育ての
課 題と親 として
の子への接し方、
怒 りやマ イナス
の感情の静め方、
合 意によ る問題
の 解 決
(mediation)、相
手 方との 交渉や
話 合いの スキル
の向上等
DV・虐待等の専
門機関の紹介
理的負担の克服、
親 の別離 や離婚
が 子に与 えるス
ト レスの 解消や
軽減、経済や教育
問題などの相談
結、親子間及び両
親 間での コミュ
ニ ケーシ ョンの
在り方、親が利用
で きる手 段や支
援 のほか 各種窓
口について提供
が 子の心 理面に
及 ぼす影 響・負
担、子の利益やニ
ーズの内容・重要
性、父母間の葛藤
の緩和・コミュニ
ケ ーショ ンの改
善及び(特に子と
他方親との)協同
関 係構築 のため
の手立て
しろまる 離別に 関して
受 けるこ とがで
き るその 他の支援しろまる
(FDR 前講座の
場合)
法 的手続 に関す
る情報
後 の再結 合や子
の 監護な どに関
する相談、否定的
な感情を治癒し、
子 との良 い関係
を 構築す るため
の方法、夫婦間の
葛 藤が子 に与え
る ストレ スや心
理 的影響 の対処
方法、親が子と意
思 疎通を 図る方
法、適切な監護方法2離婚の効果等
る 子ど もの反 応等)2 離婚 後の親 子
関 係を 強化す る
(子どもの気持ち
に応える、祖父母
に等)
3 離婚 後の親 同
士の関係(協力し
た 子育 てに向 け
て等)
動画視聴もあり
子ども:離婚にま
つ わる 気持ち の
理解、気持ちを伝
えることや対処、
問 題解 決につ い
て考える
動画視聴もあり
講座修了
後の試験
不明
裁 判所に 提出す
る 受講証 明書の
発行あり
裁 判所命 令によ
る 場合は 受講証
明書の発行あり
なし なし なし
裁 判所命 令によ
る 受講者 の場合
に は証書 発行あり1なし
2感想文提出
なし 57(注記)1 アメリカは州によって離婚制度が異なり、離婚後養育講座に関する規律は州により異なる。また同一州内でもカウンティの裁判所によって様々な運用が行われている。例え
ばフロリダ州では、裁判所に離婚の申立てがあったすべての両親に受講が義務付けられており、ヴァージニア州では子の監護が紛争となり裁判所に申立てがされたケースにおい
てのみ両親の受講が義務付けられている。カリフォルニア州では、子の監護に関する紛争について訴訟が申し立てられた場合に、当事者が子の監護ミディエーションに参加する
ことが義務付けられており、ミディエーションの開始にあたって親養育講座の受講が義務付けられている。ニューヨーク州では、裁判官が、裁量により親養育講座の受講を命じ
ることができる。
(注記)2 Children and Family Court Advisory and Support Service(子ども家庭裁判所助言支援サービス、CAFCASS)
。子どもに関わる事件での独立行政機関。
(注記)3 少年局は自ら相談に応じることや民間の相談所に業務を委託することもある。また、6つの民間の中央組織(家族相談及び生活相談のための福音派会議、ドイツ赤十字、家
族相談のための福音派中央研究所、離婚相談、家族相談及び生活相談のためのカトリック連邦会議、カトリック女性の社会サービス団体連合会、青少年相談と婚姻相談のための
ドイツ研究会)が、市町村レベルで相談所を設置している。
(注記)4 主に家族支援センター(FRC)や、連邦社会サービス省及び連邦法務省が管轄する「家族関係サービスプログラム」の委託事業者。なお、オーストラリアの制度やサービスに
ついて、様々なものが用意されているが、変更も頻繁に行われており、体系的に整理されていないとの指摘がある。
(注記)5 離婚申立前に CAFCASS から出席参加を求められることや裁判所の命令で受講を命じられることもある。
(注記)6 豪州では、養育講座を受講していなくても離婚は可能であるが、FRC 又は連携機関で FDR(メディエーション)
・親子交流等の支援を受ける場合、事前受講が必須又は推奨され
る。また、裁判所命令により、受講が義務づけられる場合もある。
(注記)7 養育すべき子のいる夫婦が協議離婚をしようとする場合は、熟慮機関(3か月。養育すべき子がいない場合は1か月)の経過後に協議離婚の意思確認を受けなければならな
いが、熟慮期間中に1後見プログラム及び2子の養育案内教育を受講しなければならない。1を受講しない場合には、協議離婚意思確認の期日が延期されることがあり、2を受
講しない場合には協議離婚意思確認の申請を取り下げたものとみなされる。2を受講後、夫婦が感想文を提出したときが、協議離婚熟慮期間の起算点となる。
(注記)8 いずれのプログラム、カウンセリングも有料だが、Family Court Advisor や裁判所からの命令の場合には無料で受講することができる。
(注記)9 講座の内容として、例えば、オンライン講座(動画視聴による自習・発表・面談・クイズ)や集団型の対面講座(スライド・動画視聴・グループディスカッション・発表等の
グループワーク)がある。講座の多くは、単発型で2〜3時間程度のものだが、父母の葛藤が深刻な事例で、複数回にわたる長期講座(×ばつ6回)が用意されている。
(注記)10 1後見プログラムは、ア)非対面による義務面談、イ)最大7回までうけることができる長期相談プログラム、ウ)夫婦間の感情治癒プログラム・子の将来のための家族
間の意思疎通技術、エ)親子相互作用集団相談のうちいずれから一つを選択しなければならない。後見プログラムのうち、ウ・エは家庭法院の指定する専門機関が実施すること
になっている。
(注記)11 その他にも、家族の関係性と家族のダイナミズム、スキルベースの関係性教育、特別なニーズや感情的問題のある子のニーズに関する情報提供等がある。 58【別添資料2】
心理学の立場からみた離婚時の親教育プログラムの現状と課題
直原康光・福丸由佳
1 米国における親教育プログラムの実態調査にかかわるレビュー(1990 年代)
・Blaisure & Geasler (1996):全米の実態調査(プログラムの内容までは踏み込んでない)
・Braver et al. (1996):プログラム内容の整理→多く扱われている内容とそうでないもの
*56%が義務付けられたプログラム(半数近くが裁判所で認可)
*方法:6割が1回のみ実施(義務付けは76%、任意は36%-複数回が多い)。7割以上がビデオ視聴を一部に活用。
実施者は、
専門的学位と研修経験を要するものが
2/3以上
(心理職が多いが法制度の内容も重要。
司法関係者が対面実施者となるの
は2割以下)
*DVについての内容ありは約半数、ただし内容は要検討(Braver et al., 1996; Geasler &
Blaisure, 1998)
*多く扱われる内容:親の協力のメリット・対立のデメリット、こどもの反応や年齢別
の反応・ニーズ、
洗脳や悪口のこどもへの影響等
(義務づけられたプログラムで多い)
2 親教育プログラムに含めるべき内容にかかわるレビュー(Schramm et al., 2018)
・実証研究を含めたレビューの結果、
特に含めるべき中心的な内容はこどもに関すること
で、
大人に関することや状況に応じて含める内容は、
目的や対象者の状況に応じて検討
することが適切である(Table 1)。ただし、親のウェルビーイングは、こどものウェルビ
ーイングにも影響を与える重要な要素であるため、親の精神的健康をもたらすセルフ
ケアや養育スキルなどの内容も重要である(Powell et al., 2020)。
Table 1 親教育プログラムに含めるべき内容(Schramm et al. (2018)から抜粋・要約)
中心的な内容(こども中心)・離婚がこどもに与える影響、離婚後のこどもの典型的な反応
・離婚等についてのこどもへの適切な説明
・父母の葛藤の軽減、
片親疎外症候群、
ポジティブな共同養育のスキル、
並行養育(パラレルペアレンティング)
、父母間のコミュニケーション
スキル
・子育てスキル、こどもとのコミュニケーション方法
・親子交流、養育費についての話し合い
・新しいパートナーとのデートやこどもへの紹介
重要な内容
(大人中心)
・親自身のセルフケア、精神的健康
・アンガーマネジメント、コミュニケーションスキル 59・離婚に伴う経済的な問題、法的問題への対処
・新たな出発(再婚等を含む)
状況に応じ
て含める内容・DV
・精神疾患
・特別なニーズを持つ子供の共同養育
・軍隊や父母が離れた場所にいる場合の共同子育て
・親の別居・離婚のプロセスで経験するトピックをすべて網羅することは困難ことから、
扱うことができなかった内容(例:DV、高葛藤、特別なニーズを持つこども、精神疾
患等)を補完する教材の開発や活用(オンライン、配付資料等も可)が推奨されている
(Schramm & Becher, 2020)。
3 目的に応じた心理教育モデルの重要性(Blaisure & Geasler, 2000; Salem et al., 2013)
・プログラムの目的(ゴール)に応じて、目的や受講の対象者(義務化か否か)を検討す
べき。その際の視点として、段階を踏まえたモデルの視点が参考になる。
(1) Blaisure & Geasler (2000)のモデル
レベル1:基本的な情報提供のためのプログラム
レベル2:親自身の感情やコミュニケーションスキルを扱うプログラム
レベル3:特別なニーズを持つ家族や高リスクの家族への集中的な介入を行うプログ
ラム
(2) Salem et al. (2013)のモデル
Blaisure & Geasler (2000)などの先行研究を参考に、公衆衛生の予防モデルの観点も踏ま
えて教育プログラムのレベルを整理した(Figure 1)。
Figure 1 親教育のレベル(Salem et al., 2013)
普遍的な親教育プログラム:別居・離婚するすべての親に対して必要となる知識
1 (法的・裁判手続に関するものを含む)を提供するもので、基本的なすべての親
に義務付けられる。 602 こどものウェルビーイングを高める選択・自発的な親教育プログラム:効果的な
しつけ、親子のコミュニケーションスキル、父母同士の対立を減少させる内容を
含む。基本的に、参加は任意のもの。
3 こどものウェルビーイングを保護するための義務付けられた親教育プログラム:
こどもの福祉を害していると判断された親に対して、
裁判所が受講を義務付ける
もの。
・ただし、Schramm & Becher(2020)によれば、1、2のようにレベル化や階層化モデルに
基づいてプログラムを検討している州はなく、義務付け対象者やプログラムの所要時
間の検討に留まるのが現状である。
「誰にとってどのような条件でうまくいくか」とい
う問いがプログラムの評価の観点からも重要である。それによってプログラムの所要
時間も自ずと変わってくると考えられる。
4 プログラムの方式(対面/オンライン、時間の長短)について
〇オンラインプログラムの課題と提言(Bowers et al., 2011)
・受動的なものが多く、能動的なワークを取り入れる必要性が示唆された。
・理解度テストへの回答や補足資料を読まなくても先に進めるという問題がある。ま
た、
回答に応じて異なったフィードバック、
情報提供をする必要が指摘されている。
・ビデオが 2−10 分と短く、対面で使われたものをそのまま使用している。また、多く
は講師の講義のビデオであったが、親やこどもの語りを動画にすることはできない
かなどの提言がされている。
〇対面とオンラインのプログラムの効果の比較検討
・ミズーリ州の Focus on Kids の対面(2.5 時間)とオンライン版(45-60 分)の比較の
結果、理解度や知識等に大きな差はないことが明らかになった(Scramm & McCaulley,
2012)。
・ネブラスカ州の Co-Parenting for Successful Kids のオンライン版(約3時間)の効果検
証の結果、こどもの発達やコミュニケーションに関する知識などが十分に増加した
(Choi et al., 2017)。また、こどもへの手紙を書くワークがあり、Educator がフィード
バックを行う(Choi et al., 2018)。
←いずれのプログラムも、
オンラインではビデオ視聴と簡単なワーク、
理解度テスト
を実施。
提出された課題へのフィードバックや質問へのフォローアップ等、
対面方
式で効果が示された相互作用を再現する方法が組み込まれているため、対面同様
の効果を生み出していると考えられる(Choi et al., 2018; Schramm & Becher, 2020)。
5 プログラムの効果検証と課題
〇離婚時親教育プログラムの効果検証のメタ分析(Fackrell et al., 2011) 61・28 件の研究結果(多くが 4―9 時間の対面プログラム)を統計的に解析して統合
・19 の対照群を設けた研究の効果量 1
は中程度(d = .39)。(父母の葛藤低下: d = .36; 親
子関係や養育力の向上: d = .49; こどものウェルビーイングの向上: d = .34; 訴訟の再
係属の減少: d = .19, n.s.)
・時間の長短(1―3 時間、4―9 時間、10 時間以上)による差はなく、短時間(1―3 時
間)でも一定の効果が得られる。ただし、子育てや共同養育に関する行動の変化が生
じるためには、
より多くの時間が必要になる可能性がある(Schramm & Becher, 2020)。
〇親教育プログラムの効果に関するレビュー(Sandler & O'Hara, 2021)
・Fackrell et al. (2011)以降のランダム化比較試験 2
(RCT:Randomized Controlled Trial)、準実験的研究(QEDs: Quasi-Experimental Designs)、合計 45 件(29 のプログラム)のレ
ビュー。
・子育ての質の向上(5/6)、法的な紛争の低下(4/6)、父母の葛藤の低下(8/15)、こどもの
ウェルビーイングの向上(8/12)が認められた。
〇効果指標設定の難しさ
・多くが父母の葛藤やメンタルヘルスの指標などの心理尺度を使用。
短時間のプログラ
ムの前後に多くの項目に回答させることへの負担が適切か、という観点の検討は必
要である。
→少数の項目で測定が可能な心理尺度の開発が必要(Schramm & Becher, 2020)。
・多くが親自身の評価ゆえ、バイアスが生じる可能性が否定できない。一方で、裁判所
と連携した訴訟の再係属を効果指標とする研究もあるが、単純に再係属率だけで効
果が検証できるのかについては慎重な検討が必要 (Fackrell et al., 2011; Schramm &
Becher, 2020)。
〇よりエビデンスレベルの高い効果検証のために
・エビデンスレベルが最も高い効果検証の方法はRCTだが、
米国では多くの州で離婚
時親教育プログラムが義務化され、非介入群や待機群を設定することが困難であり、
裁判所と連携した研究計画の必要性が指摘されている(Schramm & Becher, 2020)。
6 その他、考慮すべき事項(DV関連)
・DVケースにおける、共同養育(日本では親子交流)の困難さやリスクなどの問題(被1「検出したい差の程度」や「変数間の関係の強さ」のことで、その実験の効果を見るための指標。効果
量の目安は次のとおり(効果量小:d = .02,効果量中:d = .05,効果量大:d = .08)。(https://www.jspt.or.jp/ebpt_glossary/effect-size.html)2治療などの介入効果を科学的に分析・推論する手法。対象者をランダムに2グループに分け、ある政策
手段の対象とするグループ(介入群)と対象としないグループ(比較対照群)間の比較を行い、政策効果
の分析・推論を行う。他の条件の介在を排除するため、グループ分けをランダムに行うこと以外にも、対
象者自身にもどちらのグループかわからないようにするなど、厳密性の確保のための条件設定が必要とさ
れる。その他、コスト面、倫理面の問題もあるが、RCTが実施できれば政策効果をわかりやすく示せる
メリットは大きい。 62害者への精神的な影響や、
加害者によるDV被害者との関係継続への利用可能性)
が指
摘されている。
・多くの家族にとって有益でもDVケースには意図しない結果をもたらす可能性に留意
する必要がある(Schramm & Becher, 2020)。また、共同養育は、DVがあった場合は不適
切であることを丁寧に説明する必要がある(Luts & Gady, 2004)。
・DVのスクリーニングが重要である一方、
スクリーニングの限界もある
(申告しないケ
ースなど)
ため、
一般的なプログラムにDVがあった場合の留意事項を含めるとともに、
持ち帰りの教材等に支援や介入に向けたリソースを提示する方法も考えられる
(Schramm & Becher, 2020)。
7 日本への示唆
〇離婚が親子に及ぼす影響と、こどもへの長期的な視点に基づく支援の重要性
・離婚や関連して生じる父母の葛藤が親やこども、
親子関係に及ぼす影響は国内でも看
過できない現状(法務省, 2021; 直原他, 2021)。・シングルマザーの長労働時間と育児時間の短さ、
経済的困窮、
子育てに対する不安な
どの「親子関係の貧困」
(赤石, 2014)や主観的健康状態の低さ(Kato, 2021)などの
問題
・家族の機能不全という視点を踏まえた逆境的小児期体験(ACEs: Adverse Childhood
Experiences; Felitti, 1998)の一連の研究から、親の離婚やDVなどのリスク要因の累積
(特に4つ以上)
によるこどもへの長期的な身体的・精神的影響が明らかになってい
る。
〇一方で、離婚前後の支援体制の不足と、その後の対応のむずかしさ
・裁判所などの公的機関の関与がない離婚が多い中で、
領域を超えた連携はもちろん、
各領域でも支援における多くの課題を抱えている現状(大瀧他, 2012; 山崎・野村,
2019; 福丸他, 2022)。・親のメンタルヘルスや子育ての問題などの背景に、
離婚やDVの問題
(それに対する
支援の不足も)の影響が考えられる場合が少なくない(長江, 2021)
。親の抑うつや子
育ての困難、
経済的問題などを抱えつつ、
有効な情報へのアプローチのしにくさなど
の現状も。
←ひとり親家庭には、
DV被害、
こどもの障害など自己責任論ではまとめられない要
因が多く、有効な支援が特に必要(山崎・野村, 2019)
。トラウマインフォームドケ
ア(野坂, 2019)等の視点も踏まえつつ、親のセルフケアや親子の関係性へのサポ
ートによって親のウェルビーイングが向上することは、
結果として、
こどもに生じ
うるリスクを低減し、より肯定的な結果を導く(Powell et al., 2020)。
8 今後に向けた支援の可能性への提言と当面の課題
〇より多くの(できれば全員)への予防的アプローチとしてのプログラム実施 63・法制度の基本情報と心理学的内容を含めた短時間での親教育的なプログラムとする
*法制度や活用できる社会資源の情報を盛り込む。
*心理学的内容には、こどもの気持ちの理解や発達段階に応じた反応などの基本的
な情報に加え、親のウェルビーイングや親子関係支援につながる養育スキルやセ
ルフケアに関する情報などを含める。
←予防的な心理教育や、親の養育を支える親子のコミュニケーションを扱うペア
レンティングプログラムなど、ポピュレーションアプローチによる心理的支援
の重要性(福丸, 2020)
、さらに、それらが公的機関による1次予防的な取り組み
として多くの親にいきわたることの重要性。
←より専門的介入が必要なケースに対するハイリスクアプローチとのすみわけが
可能になり、
長期的にも有効な支援体制の構築につながりうる。
早期の対応によ
る経済効果という視点も。
*さらなるケアや介入が必要なケースに今後役立つような、リソースに関する情報
・参加者のニーズに応じて対面・オンラインのいずれも提供するなどの工夫をして、より多くの家族にプログラムを提供する(曽山他,2021)
・参加者からのアンケート調査をもとに、
プログラムの効果検証を行い、
必要に応じて
プログラムの内容を改善していくことが必要である。
〇当面の課題
・より多くの人に共通する基本情報や予防的視点に基づくプログラムの開発と実施
・試行的実践段階における効果検証(尺度など)と、それに基づいた導入など
・実施主体や方法、
その後のさらなる支援が必要な際のリファーや連携に向けた体制づ
くり
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(2022 年 5 月 22 日) 66【別添資料3】製作した4コマ漫画
2話 1話 674話 3話 686話 5話 69【別添資料4】製作した短編動画のコンテ案 70【別添資料5】モデル自治体で取り組んだ周知広報の一例
1石川県(野々市市)
石川県野々市市では、石川県の発行するひとり親家庭のしおりに挟み込む形で案内をい
ただいた。
2大分県
大分県では、母子父子福祉センターへの入り口のすぐ近くなどで案内をいただいた。 713大阪府大阪狭山市
大阪狭山市では、窓口の横などで案内をいただいた。
4大阪府羽曳野市
羽曳野市では、窓口のカウンターなどで案内をいただいた。 725東京都板橋区
板橋区では、法務省の発行する「子どもの養育に関する合意書作成の手引きと Q&A」パ
ンフレットに挟み込むなどの形で案内いただいた。
6東京都江戸川区
江戸川区では、離婚届の中にちらしを挟み込むなどの形で案内をいただいた。 737三重県伊賀市
伊賀市では、個別相談窓口などに掲示するなどの形で案内をいただいた。
8山口県宇部市
宇部市では、離婚届の中に挟み込むなどの形で案内をいただいた。

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