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国際的な子の奪取の民事上の側面に
関する条約の実施に関する法律の実施状況
法 務 省
外 務 省
令和2年4月1日から令和3年3月31日までの1年間における国際的な子
の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成25年法律第4
8号。以下「実施法」という。
)の実施状況は,以下のとおりである。
(全体の傾向等)
○しろまる 外務大臣(注)に対する援助申請の件数に関しては,返還援助申請総数,
面会交流援助申請総数ともに特段大きな変化はない。申請に係る子の常居
所地国は広範にわたるが,米国関係の事案が最も多く全体の約3割を占め
る。
(後記1関係)
(注)
外務大臣は,
条約の実施に中心的な役割を担う中央当局として指定されている。
○しろまる 我が国の裁判所に対する申立てに関しては,以下のような状況にある。
(後記2関係)
・ 子の返還申立事件については,その件数に特段大きな変化はないが,
平均審理期間が若干長くなっている。家庭裁判所における子の返還申立
事件の終局事由としては,認容決定と調停成立が同数で最も多くなって
いる。面会交流申立事件は減少傾向にある。
・ 子の返還の申立てに係る子の常居所地国については,オーストラリア
と米国が過去の各年度と同様に多いほか,
フランスもこれに並んでいる。
○しろまる 外国への返還及び日本国への返還が実現した件数については,過去の各
年度と同様に,ほぼ同数の状態が続いている。また,これらの返還が実現
しなかった件数についても,過去の各年度と比べて,特段大きな変化はな
い。
(後記3関係)
1 外務大臣に対する援助申請
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実施法に基づき,
外務大臣に対し,
子の返還又は子との面会その他の交流(以下「面会交流」という。
)を実現するための援助の申請がされた数は59事案
であり,申請に係る子は76名である。
申請ごとの内訳は次のとおり。
(1)外国返還援助(日本国からの子の返還を実現するための援助)の申請数は
23事案,申請に係る子は29名である。
ア このうち,
申請書において子の常居所地国として記載された国ごとの事案
数は次のとおり。
米国10,オーストラリア4,英国2,シンガポール1,スイス1,ハン
ガリー1,フランス1,ブラジル1,メキシコ1,ロシア1
イ このうち,
申請に係る子の父から申請が行われたものが21事案,
母から
申請が行われたものが2事案である。
ウ この中には,
日本国籍を有する者が申請者となっているもの4事案,
相手
方となっているもの20事案が含まれている(注)。(注)この中には,日本国籍を含む複数の国籍を有する者も含まれている。
エ 22事案(注1)について援助決定を行い,1事案について却下(注2)を
した,2事案については審査中となっている。
(注1)このうち,2事案については令和2年3月31日までに申請がされたもの。
(注2)申請に係る子の所在地及び申請者の住所又は居所が同一の条約締結国内にあ
ることが明らかであったもの。
(2)日本国返還援助(日本国への子の返還を実現するための援助)の申請数は
20事案,申請に係る子は25名である。
ア このうち,
申請書において子の所在地として記載された国ごとの事案数は
次のとおり。
米国5,
フランス2,
ブラジル2,
ロシア2,
英国1,
オーストラリア1,
韓国1,グアテマラ1,スウェーデン1,タイ1,デンマーク1,ニュージ
ーランド1,バングラデシュ1
イ このうち,
申請に係る子の父から申請が行われたものが11事案,
母から
申請が行われたものが9事案である。
ウ この中には,
日本国籍を有する者が申請者となっているもの14事案,相- 3 -
手方となっているもの5事案が含まれている。
エ 17事案(注)について援助決定を行い,4事案について審査中となって
いる。
(注)このうち,1事案については令和2年3月31日までに申請がされたもの。
(3)日本国面会交流(日本国内に所在する子との面会交流)援助の申請数は1
3事案,申請に係る子は18名である。
ア このうち,
申請書において申請者の住所又は居所として記載された国ごと
の事案数は次のとおり。
オーストラリア3,米国3,英国2,イタリア1,シンガポール1,スイ
ス1,ドイツ1,ベルギー1
イ いずれも申請に係る子の父から申請が行われたものである。
ウ この中には,
日本国籍を有する者が申請者となっているもの1事案,
相手
方となっているもの12事案が含まれている。
エ 13事案について援助決定を行い,1事案について却下(注)をした。
(注)
行政手続法第7条に基づく手続
(申請の形式上の要件に適合しない場合)
に該当。
なお,本事案は令和2年3月31日までに申請がされたもの。
(4)外国面会交流(日本国以外の条約締約国に所在する子との面会交流)援助
の申請数は3事案,申請に係る子は4名である。
ア このうち,
申請書において子の所在地として記載された国ごとの事案数は
次のとおり。
オランダ1,ドイツ1,米国1
イ このうち,
申請に係る子の父から申請が行われたものが1事案,
母から申
請が行われたものが2事案である。
ウ いずれも,
日本国籍を有する者が申請者となっているもので,
相手方とな
っているものはない。
エ 3事案について援助決定を行った。
上記の援助決定を行った事案については,
関係国の中央当局とも協力しつつ,
協議のあっせんその他の支援を行った。
2 裁判所に対する申立て
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※(注記) 数値は,最高裁判所の実情調査に基づく。
(1)子の返還申立事件
※(注記) 子の返還申立事件の件数は,子の数を基準にしている。
ア 申立件数
子の返還申立事件の申立件数は14件である。
(参考)
○しろまる 申し立てられた裁判所
東京家裁 7件
大阪家裁 7件
○しろまる 子の常居所地国として主張された国の内訳
オーストラリア4件,フランス3件,米国3件,英国2件,ハンガリ
ー1件,メキシコ1件
○しろまる 申立人と子との関係
申立人が子の父 12件
申立人が子の母 2件
イ 審理が終了した件数
子の返還申立事件の審理が終了した件数は16件である。
結果の内訳は,認容が4件,却下が3件,調停に代わる審判が1件,調停
成立が4件,和解成立が3件,取下げが1件である。
却下となった3件のうち,子の常居所地国として主張された国が常居所
地国であると認められなかったものが2件,子が日本国内に所在している
ことが認められず実施法第27条第2号の返還事由が認められないとした
ものが1件である。
(参考)
○しろまる 家庭裁判所における平均審理期間(子の数が基準)
1 裁判又は調停に代わる審判により終了したもの 約85.5日
※(注記) 家庭裁判所の受理日から裁判又は審判の日までの期間
2 調停又は和解が成立したもの 約48.9日
※(注記) 家庭裁判所の受理日から調停又は和解の成立日までの期間
3 1及び2に該当する全事件 約68.4日
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○しろまる 家庭裁判所・高等裁判所を通じた平均審理期間(子の数が基準)
1 裁判又は調停に代わる審判により終了したもの 約164.1日
※(注記) 家庭裁判所の受理日から高等裁判所における裁判の日までの期間
2 一審又は抗告審で調停又は和解が成立したもの
約48.9日
※(注記) 家庭裁判所の受理日から調停又は和解の成立日までの期間
3 1及び2に該当する全事件 約113.7日
○しろまる 出国禁止命令が発令されていた件数
11件
○しろまる 家庭裁判所の終局決定に対して,令和2年4月1日から令和3年3月
31日までに高等裁判所に抗告がされた件数4件※(注記) 抗告事件の件数は,原決定書の数を基準としている。
※(注記) 抗告事件は5件が既済となっている(前年度までの未済事件が今年度に終了
したものも含まれている。)。結果の内訳は,抗告を棄却したものが3件,原決
定を取り消して返還を命じたものが1件,原決定を取り消して申立てを却下し
たものが1件である。
※(注記) 抗告審において子の返還の申立てを却下する決定が確定した件数は2件であ
り,いずれも子の常居所地国として主張された国が常居所地国であると認めら
れなかった。
○しろまる 終局決定の変更(注)の申立てがされた件数1件※(注記) 対象期間中に審理が終了した終局決定変更申立事件は0件である。
(注)子の返還を命ずる終局決定が確定した後に,当該終局決定をした裁判所が,
事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったとき,当
事者の申立てにより,その決定を変更するもの(実施法第117条第1項)。
(2)子の返還の強制執行申立事件
※(注記) 子の返還の強制執行申立事件の件数は,申立書の数を基準としている。
ア 申立件数
間接強制の申立ては3件,
代替執行の申立ては5件,
解放実施の申立ては
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5件である。
イ 既済件数
間接強制申立事件の既済件数は3件であり,いずれも認容されている。
代替執行申立事件の既済件数は5件であり,
このうち認容されたものが4
件,取下げによるものが1件である
解放実施申立事件の既済件数は4件であり,
このうち執行完了によるもの
が1件,
執行不能によるものが1件,
取下げによるものが2件である
(なお,
既済件数4件のうち3件は,同一の債権者,債務者及び子の事件(債務者が
転居を繰り返しているとして3つの庁で申立てがされ,うち2件が取下げ
となった。))。
(3)実施法が適用される面会交流事件
※(注記) 実施法が適用される面会交流事件の件数は,子の数を基準にしている。
ア 申立件数
対象期間内に報告のあった,実施法が適用される面会交流事件の申立件数
は1件である。
イ 審理・調停が終了した件数
対象期間内に報告のあった,実施法が適用される面会交流事件の審理・調
停が終了した件数は0件である。
3 返還援助の結果
外務大臣が援助決定を行った事案のうち,
本報告書の対象期間内に,
子の返
還が実現した事案及び子を返還しないこととなった事案は次のとおりである。(1)外国返還援助決定を行った事案のうち,
子の返還が実現したものは8事案
である。
ア 返還先の国ごとの事案数は次のとおり。
英国2,米国2,オーストラリア1,ハンガリー1,フランス1,ロシア1イ このうち,
当事者による任意の返還が実現したものは3事案,
裁判所にお
ける調停により子の返還が実現したものは3事案,
子の返還を命ずる終局決
定の確定後に子の返還が実現したものは2事案(注)である。
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(注)
このうち,
1事案については代替執行決定に基づく解放実施により子の返還が実
現した。(2)外国返還援助決定を行った事案のうち,
子を返還しないこととなったもの
は6事案である。
ア 申請書において子の常居所地国として記載された国ごとの事案数は次の
とおり。
オーストラリア2,フィリピン1,米国1,メキシコ1,ロシア1
イ このうち,
裁判所における返還申立ての却下により子を返還しないことが
確定したものは3事案,
裁判所における調停により子を返還しないこととな
ったものは2事案,
当事者間の合意により子を返還しないとの結論に至った
ものは1事案である。(3)日本国返還援助決定を行った事案のうち,
子の返還が実現したものは6事
案である。
ア 子の連れ去り又は留置が行われていた国ごとの事案数は次のとおり。
米国2,フィリピン1,フランス1,ペルー1,ロシア1
イ このうち,
当事者の意思により子の返還が実現したものは4事案,
外国の
裁判所における返還命令又は類似の命令等が出された後に返還が実現した
ものは2事案である。(4)日本国返還援助決定を行った事案のうち,
子を返還しないこととなったも
のは2事案である。
ア 子の連れ去り又は留置が行われていた国ごとの事案数は次のとおり。
スウェーデン1,ポーランド1
イ このうち,
外国の裁判所における返還申立ての却下により子を返還しない
ことが確定したものは2事案(注)である。
(注)
いずれも,
申立てに係る子の常居所地国が日本ではないとして却下されたもの。
4 面会交流援助の結果
外務大臣が面会交流援助決定を行った事案については,
外務省又は外国条約
締約国の中央当局からの連絡に対し,
子の同居者から一切の応答がない一部の
事案を除き,多くの事案について両当事者の連絡の仲介が実現している。
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これらの事案の中には,
子や親が国境を越えて渡航する形で面会が実現した
事案や,ビデオ通話による面会が実現した事案などがある。