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論文式試験問題集[倒 産 法]
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[倒 産 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の【事例】について、以下の設問に答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されて
いる法令に基づいて答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は、缶詰の製造販売を業とする株式会社である。A社の
主な販売先の一つとして水産物加工業者のB株式会社(以下「B社」という。)があり、また、
主な仕入先の一つとしてB社のグループ会社である水産物卸売業者のC株式会社(以下「C社」
という。)がある。A社は、B社及びC社との間でそれぞれ継続的な取引を行っており、B社に
対しては常に数百万円程度の売掛金債権を有する一方、C社に対しては常に数百万円程度の買掛
金債務を負担する関係にあった。
A社は、その代表者Dが所有する甲土地上に乙建物を所有し、原材料や完成品を保管する倉庫
として利用していた。そして、A社は、令和2年3月1日、メインバンクであるE銀行から運転
資金として1億円を借り入れ、A社とDは、E銀行のA社に対するこの貸金債権(以下、利息及
び損害金を含めて「本件貸金債権」という。)を被担保債権として、同日、E銀行のために、甲
土地及び乙建物に抵当権を設定した。
A社は、令和3年8月頃から経営状況が悪化していたところ、同年10月15日に事業を停止
してF地方裁判所に破産手続開始の申立てをし、同月25日、A社に対して破産手続開始の決定
がされ(以下、同決定に基づく破産手続を「本件破産手続」という。)、破産管財人Xが選任さ
れた。
A社は、令和3年10月25日現在、B社に対し、缶詰代金等として合計500万円の売掛金
債権(以下「債権1」という。)を有しており、その一方で、C社は、A社に対し、缶詰の原材
料の代金として合計400万円の売掛金債権(以下「債権2」という。)を有していた。また、
同日現在、本件貸金債権の残額は8000万円であった。その後、E銀行は、F地方裁判所に対
し、甲土地及び乙建物につき抵当権実行の申立てをした(以下「本件抵当権実行」という。) 。
〔設 問〕 以下の1及び2については、それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.Xは、債権1の弁済期である令和3年11月15日が到来してもB社から債権1に対する支
払がなかったので、B社に対してその支払を催促した。これに対し、B社は、Xに対し、債権
1に係る残債務500万円のうち400万円について、相殺を理由に支払を拒絶する旨の通知
をした。以下の各場合について、相殺に係る自働債権が本件破産手続上いかなる債権として取
り扱われるかに触れつつ、B社による相殺の可否を論じなさい。なお、C社は、債権2につき
破産債権の届出をしていないものとする。
(1) B社は、令和3年11月1日、C社から債権2を譲り受け、当該債権を自働債権として相
殺を主張している場合
(2) B社は、令和3年3月1日、A社の委託を受け、C社との間で債権2に係る債務を保証す
る旨の保証契約を締結し、同年11月1日、同契約に基づいてC社に全額の弁済をし、これ
により生じた求償権400万円を自働債権として相殺を主張している場合
(3) B社は、令和3年3月1日、A社の委託を受けないで、C社との間で債権2に係る債務を
保証する旨の保証契約を締結し、同年11月1日、同契約に基づいてC社に全額の弁済をし、
これにより生じた求償権400万円を自働債権として相殺を主張している場合(なお、A社
は、B社とC社との間の上記保証契約の存在を全く知らされていなかったものとする。)
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2.E銀行は、本件抵当権実行による配当では本件貸金債権の全額につき満足を受けることはで
きないと考え、本件破産手続において、本件貸金債権につき、破産法の規定に従い破産債権の
届出をした。なお、中間配当の手続は行われなかったものとする。
(1) E銀行が、破産債権の届出をした本件貸金債権について、本件破産手続の最後配当の手続
に参加するためには、どのような手続をとる必要があるか、説明しなさい。
(2) 本件破産手続の最後配当の手続に先立ち、本件抵当権実行の手続が終了し、その競売手続
において、E銀行は、本件貸金債権に対する弁済として、甲土地の売却代金から4000万
円、乙建物の売却代金から1000万円の配当を受けた。この場合に、本件破産手続の最後
配当において所要の手続をとったE銀行への配当について、配当額の計算の基礎となる破産
債権の額はいくらか。E銀行が本件抵当権実行により各不動産の売却代金から配当を受けた
額が、令和3年10月25日時点における本件貸金債権の残額から控除され、又は控除され
ない理由とともに、説明しなさい。ただし、破産手続開始後の利息及び損害金は考慮しない
ものとする。
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〔第2問〕(配点:50)
次の【事例】について、以下の設問に答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されて
いる法令に基づいて答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は、主に、ラーメンの製造販売を業とする株式会社であ
り、その代表取締役はBである。A社は、創業者であるBが、個人で屋台を引いてラーメンの販
売を始めた会社であったが、多数の支店を出店して無計画に事業を拡大したため、近年は業績不
振に陥っていた。A社は、支店の敷地・建物などの資産を順次処分するなどして、これにより得
た資金を負債の返済に充てたが、思うように業績は回復しなかった。そこで、A社は、メインバ
ンクであるC信用金庫(以下「C信金」という。)に対して借入金の弁済の猶予を求めたが、こ
れを断られた上、D銀行を始めとする他の金融機関からもつなぎの融資を断られた。これにより、
令和4年4月末日の時点で、同年5月末日に予定しているC信金に対する借入金の弁済の見込み
が立たない状況にあった。
そこで、A社は、令和4年5月9日、E地方裁判所に対し、予納金を納付した上、弁護士Fを
代理人として再生手続開始の申立てをしたところ、同裁判所は、同日、弁護士Gを監督委員とす
る監督命令を発令した。
〔設問1〕
【事例】に加え、A社について以下の1又は2の事情がある場合に、E地方裁判所は、A社に
つき、再生手続開始の決定をすることができるか。1、2のそれぞれにつき、民事再生法所定の
再生手続開始に関する要件及びその趣旨を踏まえ、論じなさい。なお、各事情はそれぞれ独立し
たものであるとする。
1 A社は、Bの強い希望で、これまでの資産処分により残した本店にて事業を継続し、その収
益を弁済原資とする再生計画案の作成を検討している。もっとも、今後も本店での収益は低額
にとどまると見込まれ、むしろ、本店は立地がよいことから、A社所有の本店建物を取り壊し、
A社所有の敷地を更地にして売却すれば、その売却代金は、再生計画に基づく弁済額よりもは
るかに高額となることが期待できる。そこで、C信金はA社に本店敷地の売却を勧めたが、B
が事業の継続にこだわったため、C信金は、E地方裁判所に対し、A社の債権者として既に破
産手続開始の申立てをしている。
2 A社は、H株式会社(以下「H社」という。)に事業譲渡を行い、その譲渡代金を弁済原資
とする再生計画案の作成を検討している。もっとも、A社は法人税及び消費税を滞納しており、
H社が提示している譲渡代金の額では、上記滞納分の全額を支払うことができない状況にある
が、その一方で、A社は、弁護士F及び顧問税理士Iから、次のような報告を受けている。そ
れによれば、滞納国税については、J税務署と交渉をした結果、J税務署も再生手続による再
建に理解を示しており、延滞税について分納の合意ができる見込みがある、この分納の合意に
より、再生計画案の決議に至るまでの資金繰りにも見通しが立つ、事業譲渡代金についても、
今後、原材料の仕入れルートの見直しや、経理、人事に関わる本社機能のH社本社への集約等
によって、H社からの提示金額が増額される見込みは十分にあるとのことである。
なお、資金提供に応じてくれそうなものはH社のみであり、同社以外の会社が今後名乗りを
上げる可能性はない。
【事 例(続き)】
E地方裁判所は、令和4年5月16日、A社について再生手続開始の決定をしたが、その後、
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以下のような事実が判明した。
A社は、業績不振となる以前からD銀行と以下の条項(以下「本件条項」という。)を含む銀
行取引約定を締結していた。
A社がD銀行に対する債務を履行しなかった場合、D銀行は担保及びその占有している
動産、手形その他の有価証券について、必ずしも法定の手続によらず一般に適当と認めら
れる方法、時期、価格等により取立て又は処分の上、その取得金から諸費用を差し引いた
残額を法定の順序にかかわらずA社の債務の弁済に充当することができる。
D銀行は、A社の再生手続開始の申立て前に、A社から、満期を令和4年5月17日とする約
束手形(以下「本件手形」という。)について、取立委任のための裏書譲渡を受けていた。また、
A社は、D銀行に対し、3000万円の当座貸越債務(以下「本件債務」という。)を負担して
おり、再生手続開始の申立て時に、本件債務の弁済期が到来し、D銀行は本件手形について商事
留置権を有することとなった。
D銀行は、令和4年5月17日、満期となった本件手形を本件条項に基づいて取り立てて、取
立金1000万円(以下「本件取立金」という。)を受領した。そこで、A社は、D銀行に対し
て本件取立金相当額の支払を求めた。これに対し、D銀行は、「再生手続開始の決定後もなお本
件手形に商事留置権を有しており、本件手形が取立てにより取立金に変じた場合も、その取立金
を商事留置権に基づいて留置することができる。」と主張した。
〔設問2〕
【事例】において、仮に、D銀行の主張するとおり、本件取立金に商事留置権に基づく効力が
認められるとした場合に、D銀行は、本件条項に基づいて本件取立金を本件債務の弁済に充当す
ることができるか、A社について開始された手続が破産手続である場合との相違を踏まえて論じ
なさい。ただし、相殺禁止について言及する必要はない。
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論文式試験問題集[租 税 法]
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[租 税 法]
〔第1問〕(配点:50)
平成20年1月1日、A及びAの長男Bは、隣接する同様の二筆の土地(更地である甲土地及び
乙土地)を代金合計3000万円で(Aが甲土地を1500万円で、Bが乙土地を1500万円で)
購入した。A及びBは、甲土地及び乙土地を更地のまま月極駐車場として賃貸していた。
平成22年1月1日、Aが死亡した。Aの相続人はBと次男Cのみであった。Aからの相続財産
でめぼしいものは甲土地のみであった。BとCは、相続を単純承認し、遺産分割協議を行った。平
成22年4月1日、Bが甲土地を単独で取得し、BがCに対して代償金900万円(当時の甲土地
の時価相当額の半分)を支払う旨の遺産分割協議が成立した。遺産の額が基礎控除額以下であった
ため、Aからの相続について相続税の納税義務は発生しなかった。Bは、代償金900万円のほか、
相続登記費用として16万円を支払い、同日、甲土地の相続登記手続を完了した。
Bは、平成23年1月1日、税理士であるDと法律婚をし、生計を一にして暮らしていた。Dは、
自らが営む税理士事務所のために使用している複数の自動車の駐車場を探していたが、甲土地がD
にとって好都合であったので、甲土地を借りたいとBに申し込んだ。Bは、平成23年末までに甲
土地の利用者との契約を終了させ、平成24年1月1日から、Dに甲土地を適正賃料で賃貸した。
Bは、会社勤めのサラリーマンとして働く傍ら、甲土地及び乙土地を駐車場として賃貸し、その
賃料を得ていたが、Bの大学時代からの友人Eから、土地売買の相談を受けた。Eは、小売業を営
む株式会社F(以下「F社」という。)の代表取締役である。Eは、甲土地をF社の店舗用地とし
たいと考えた。Bは、親しくしていたEからの依頼を断ることもできず、平成28年4月30日に
Dとの甲土地賃貸借契約を終了させ、同年5月1日、甲土地をF社に当時の時価相当額である20
00万円で売却した。
F社は、平成28年6月1日、金融機関G(以下「G社」という。)から3000万円を借り入
れ、甲土地上に店舗を新築した。
Bは、平成29年3月31日、それまで勤務してきた会社を退職し、同年4月1日、F社の取締
役に就任した。
F社の経営状態は次第に悪化した。Bは、Eから懇願されて、平成30年4月1日、G社とは別
の貸金業者H(以下「H社」という。)からの借入金1000万円の連帯保証人となった。その後、
F社はH社からの借入金の返済が困難になったため、Bは、令和2年4月1日、乙土地を当時の時
価相当額である2600万円で第三者に売却した上、その売却代金のうち1000万円をもって連
帯保証債務を履行し、H社からの借入金の残債務1000万円を全額弁済した。Bは、F社に対し
て1000万円を求償することも検討したが、当時、F社は債務超過の状態にあり、求償債務の弁
済が不可能であったため、求償権の行使を断念した。
以上の事案について、以下の設問に答えなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考えなくてよ
い。
〔設 問〕
1 Bが納付した甲土地及び乙土地に係る平成24年度の固定資産税の所得税法上の扱いについ
て説明しなさい。
2 平成28年分のBの甲土地に係る譲渡益の計算に関し、代償金の取得費算入の可否について
争いがあり、民法第909条本文に沿った法律構成で計算する説(以下「P説」という。)と、
P説に反対する説(以下「Q説」という。)がある。なお、設問2では判例がP説かQ説かに
ついては説明しなくてよい。
(1) P説を前提として、平成28年分のBの甲土地に係る譲渡益がどのように計算されるか、
また、どのようにBの課税総所得金額に算入されるか、説明しなさい。
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(2) Q説を前提として、平成28年分のBの甲土地に係る譲渡益がどのように計算されるか、
また、どのようにBの課税総所得金額に算入されるか、説明しなさい。
(3) P説とQ説とで場合分けした上で、平成22年にCに甲土地に係る譲渡益が生じるか、生
じるならば幾らか、説明しなさい。なお、(1)(2)と異なり、仮に譲渡益が生じるとしても、ど
のようにCの課税総所得金額に算入されるかについては説明しなくてよい。
3 令和2年分のBの乙土地に係る譲渡益がどのようにBの課税総所得金額に算入されるか、そ
の根拠規定の趣旨及び適用関係を、説明しなさい。
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〔第2問〕(配点:50)
Aは、B電力株式会社(以下「B社」という。)との間で委託検針契約を締結している検針員で
ある。Aの業務内容についてはB社が責任を負い、AはB社から身分証明書の交付を受け、社名入
り作業衣等が貸与され、定例日制のため検針日が定められている。また、Aは月1回程度、B社会
議室での打合せに出席しなければならず、委託手数料もB社の一般従業員の給与に相応し、毎年夏
冬の2回には特別謝礼金、契約終了時に解約謝礼金が支払われている。他方でAは、契約で定めら
れた事項によってのみB社に従属しており、委託手数料は検針業務及び付随業務に応じた出来高制
で、就業時間は定例検針日の日数と受持件数次第で異なり、主要な交通手段であるバイクの購入、
維持費等はAの個人負担であり、検針作業を第三者に代行させることも禁止されていない。
C株式会社(以下「C社」という。)は、自動車部品の製造等を業とする株式会社であり、B社
との間で電力供給契約を締結し、電力の供給を受けてきた。令和元年12月に、B社の事業拡張に
伴い、B社とC社との間で電力供給契約の内容が一部変更されたが、その際に、Aによって電力計
量装置の設定が誤って行われた。そのために、B社は、それ以後1年間にわたり、本来契約上支払
うべき電気料金の2倍の金額をC社に対して請求した。C社は、令和2年1月から同年12月まで
の間、B社から請求された金額をそのまま支払い、その金額を、同年1月1日から同年12月31
日までの事業年度に係る所得の金額の計算上、損金の額に算入して、同事業年度の法人税の申告納
付を行った。なお、Aによる当該電力計量装置の設定変更は、本来の手順と異なる手順で行われた
ことから、その変更内容をB社で把握することができず、C社にとっても過大に徴収されているこ
とを直ちに発見することは事実上不可能であった。
令和3年1月15日に、C社の従業員Dは、令和2年分の電気料金が、事業拡張を考慮しても例
年と比較して高額であったことから、B社に対してその点の問い合わせを行った。それを契機とし
て、同月30日に、Aは当該電力計量装置の設定の誤りを発見し、直ちにそのことをB社に報告し
た。B社は、社内に保存されていた資料を基に、過収電気料金の額を算出した。令和3年4月15
日、B社の管轄営業所所長ほかが、C社に対し、当該電力計量装置の誤設定を原因とする過収電気
料金相当額の精算金(令和2年1月から同年12月までのもの)が500万円となることを説明し、
令和3年5月末日に返還したい旨申し入れ、C社の承諾を得た。精算金500万円は、令和3年5
月31日にB社からC社の銀行口座に振り込む方法にて支払われた。
B社には、前記の過収電気料金の返戻に関する調査及びC社との交渉のために、50万円の費用
がかかった。令和3年11月2日、B社とAとの話し合いの結果、50万円のうち40万円をAが
B社に解決金として支払う旨合意し、同日、AはB社に40万円を支払った。
また、Dは、令和3年8月末、C社を退職し、同年9月1日、C社は、Dに対し、退職金規程に
基づき退職一時金1000万円を支払った。
以上の事案について、以下の設問に答えなさい。なお、B社及びC社は、毎年1月1日から12
月31日までの期間を事業年度としている。
〔設 問〕
1 AがB社から支給された委託手数料は、所得税法上、いずれの所得に分類されるか、説明しなさ
い。
2 AがB社に支払った解決金40万円が損害賠償額として相当であり、かつ、電力計量装置の設定
の誤りについてAに重過失があるものとした場合、AがB社に支払った40万円について、Aの所
得税の課税関係はどうなるか、説明しなさい。
3 C社がB社に過大に支払った電気料金と、B社から受け取った500万円の精算金について、C
社の法人税の課税関係はどうなるか、説明しなさい。
4 B社がC社から過大に受け取った電気料金と、その精算金の支払について、B社の法人税の課税
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関係はどうなるか、説明しなさい。
5 令和3年分のDの退職所得について、退職所得という所得の種類が所得税法に設けられている趣
旨・目的を明らかにした上で、その金額と所得税の徴収の手続について、簡潔に説明しなさい。た
だし、税額の計算は不要とする。なお、Dの勤続期間は13年とする。
(参照条文)所得税法施行令
(必要経費に算入されない貨物割に係る延滞税等の範囲)
第98条
1 略
2 法第45条第1項第8号に規定する政令で定める損害賠償金(これに類するものを含む。)
は、同項第1号に掲げる経費に該当する損害賠償金(これに類するものを含む。以下この項に
おいて同じ。)のほか、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に関連し
て、故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金とする。
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論文式試験問題集[経 済 法]
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[経 済 法]
〔第1問〕(配点:50)
Y社は、家庭用電化製品甲(以下、単に「甲」という。)の日本国内メーカーである。Y社のほ
か、日本国内メーカーであるA社、B社及びC社が甲を製造販売している。甲に代替する製品は存
在しない。日本における甲の販売金額に基づく割合(シェア)は、Y社が約20パーセント、A社
が約30パーセント、B社及びC社がそれぞれ約25パーセントである。新たに甲の製造販売を計
画するものはいない。また、輸送費などの関係から甲の輸入品は存在せず、輸入される見込みもな
い。限られた個人売買を除いて、中古品甲の取引は行われていない。
甲を使用するためには、交換部品乙(以下、単に「乙」という。)が必要である。甲とは異なり、
乙はそれほど高額ではなく、甲と乙の価格差は大きい。Y社製甲を使用するためには、取付け部分
の形状等から、Y社製甲に専用の乙が必要である。このようなY社製甲向け乙については、Y社が
製造販売する純正品のほか、甲を製造していないX社、D社及びE社が製造販売する非純正品があ
る。
同様に、Y社以外の3社が製造販売する甲についても、それぞれ専用の乙が必要である。A社、
B社及びC社がそれぞれ自社製甲向け乙を製造販売するほか、X社、D社及びE社も、それぞれA
社、B社及びC社製甲向け乙を製造販売している。輸送費などの関係から乙の輸入品は存在しない。
Y社、A社、B社及びC社が自社製甲向け以外の乙を製造販売する計画はない。また、新たに非純
正品の乙の製造販売又は輸入を計画するものはいない。
日本におけるY社製甲向け乙の販売金額に基づく割合(シェア)は、Y社、すなわち純正品が約
40パーセントであり、X社、D社及びE社、すなわち非純正品が合計約60パーセントである。
Y社製甲向け以外の乙に関しても同様の状況にあり、乙全体で見た場合、X社、D社及びE社のシ
ェアは合計約60パーセントとなっている。X社、D社及びE社のシェアは、甲のメーカーごとに
多少の差異はあるものの、それぞれほぼ同一(約20パーセント)である。
甲の買換え時期や乙の交換頻度は、ユーザーにより大きく異なる。甲の販売について、Y社、A
社、B社及びC社間の競争は活発である。Y社製甲向けを含めた乙の製造販売について、かつて純
正品が50パーセントを超えるシェアを有していたところ、近年、低価格を武器に、上記のとおり
非純正品が約60パーセントのシェアを有するようになっている。なお、甲の購入者は、甲の購入
時には、乙の交換費用や交換時期を十分に認識していない。また、甲の購入者は、乙の交換時には、
純正品又は非純正品を自ら選択して購入している。
ところで、C社製甲について、E社製乙を使用することによる数件の発火事故がメディアで報道
された。調査の結果、これらの原因はC社製甲とE社製乙の取付け部分の接触不良にあり、特にE
社製乙の設計上の問題であることが明らかとなった。しかし、E社がC社製甲向け乙の取付け部分
を調整することにより、同問題は解決された。また、C社製甲向けのE社製乙以外には、同様の問
題はないことが確認されている。
その後も、Y社製甲については、同様の発火事故や非純正品の乙の使用に起因する作動不具合が
報告されたことはなかったが、Y社は、新規に製造販売する自社製の甲及び乙に電子部品を新たに
取り付けることにより、自社製の乙が使用された場合にのみ自社製の甲が作動するようにした(以
下「本件行為」という。)。
Y社が本件行為を実行した結果、X社、D社及びE社共に、本件行為後に製造販売されたY社製
甲向けの乙の製造販売が以後不可能となった。X社は、本件行為前に、Y社製甲向け以外の乙の製
造設備について、その一部を近年シェアを伸ばしつつあったY社製甲向け乙の製造のために変更し
たところであり、このため、本件行為後、X社の売上高は大きく減少することが予想された。また、
結局、販売できないY社製甲向け乙の在庫が生ずることが予想された。
X社は、Y社製甲向け乙の製造設備をそれ以外の乙の製造設備に変更することも資金的に困難で
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あることから、Y社に対して本件行為を取りやめるよう求めたが、Y社は、これを拒否している。
そこで、X社は、本件行為について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独
占禁止法」という。)に基づき、Y社に対する差止請求訴訟を提起することを検討している。
〔設 問〕
上記の差止請求について、以下のY社の主張に留意しつつ、独占禁止法上の問題点を検討しな
さい。
Y社の主張:「当社は、甲の製造販売について約20パーセントのシェアを有するにすぎず、
独占禁止法違反行為を行い得る力を有していない。また、非純正品の安全性には疑問がある。製
品の安全性を確保することは何よりも重要であるはずだ。」
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〔第2問〕(配点:50)
【前 提】
甲製品は、特有の効用を有する比較的高額な家庭用機器であり、代替する製品はない。その機能
やサイズ等に応じて、多様な機種がある。
日本では、X社及びY社を含む5社のメーカーが甲製品を製造しており、それらは小売業者を通
してユーザーに販売されている。ユーザーは、小売業者の店舗において、装備されている機能や使
用方法等に関する説明を受けながら甲製品のメーカーや機種を選定して購入することが一般的であ
る。小売業者は、通常、複数のメーカーの甲製品を取り扱っており、甲製品のメーカーと小売業者
の間に資本関係等はない。
甲製品のメーカーは、それぞれの甲製品の機種ごとに希望小売価格を設定し、取引先小売業者に
通知している。各メーカーの甲製品の希望小売価格は、他社の同等の機種の希望小売価格を参照し
つつ設定されており、その水準に大きな違いはない。
日本における甲製品全体の販売台数に占めるX社製甲製品の割合(シェア)は、約30パーセン
トで第1位である。また、Y社製甲製品は、そのシェアが約20パーセント(第3位)とやや低い
ものの、その特有の機能が一部のユーザーから高く評価されており、ユーザーの中にはY社を指名
して購入しようとするものも少なくない。このため、甲製品の小売業者にとっては、X社製及びY
社製の甲製品を取り扱うことが営業上有利である。なお、甲製品の各メーカーのシェアに大きな変
動はない状況が続いている。
〔設 問〕下記(1)及び(2)の設問に解答しなさい。
(1) 上記の【前提】に加え、以下の事情がある場合に、X社のそれぞれの行為について、独占禁止
法に違反するか、違反する場合には違反行為期間を含めて、検討しなさい。
X社は、従来、X社製甲製品の機種ごとに設定している希望小売価格について、それが参考であ
る旨明記してきていた。X社の取引先小売業者は、通知された希望小売価格を参考に、それぞれの
判断で販売価格を設定してきており、平均販売価格は希望小売価格をやや下回る水準で推移してき
ていた。そうした中で、X社は、平成28年4月、取引先小売業者に対し、新機種を含めた全機種
の希望小売価格を通知する際に、X社製甲製品の性能やブランド力からみて、希望小売価格で販売
することが十分可能であることを強調する説明を加えた。
その後、X社の取引先小売業者の中に、X社製甲製品について希望小売価格からの値引き幅を強
調して販売するものが出てきた。このため、X社は、X社製甲製品の販売価格を調査することとし、
令和元年10月、取引先小売業者に対し、機種ごとの希望小売価格を明記した調査表に実際の販売
価格を記入する方法で回答することを求めた。その調査表には、販売価格に関する回答の正確性を
確認することがある旨付記されていた。
X社が実施した価格調査の結果、大幅な値引き販売を行う取引先小売業者は少ないものの、ある
程度の値引き販売を行う取引先小売業者が相当数存在することが判明した。このため、X社は、X
社製甲製品の販売価格の管理を強めることとし、令和2年4月、全機種について、従来の「希望小
売価格」に代えて「販価」と表記し、また、参考である旨の記述を削除して、取引先小売業者に通
知した。この通知には、必要に応じ、X社において取引先小売業者の販売価格の調査を行う旨明記
されていた。X社の取引先小売業者の多くは、X社からの通知が販価どおりの価格で販売してほし
いという趣旨であることを理解した。
しかし、X社が令和2年4月の通知の直後に調査会社に委託して実施した価格調査の結果、引き
続きX社製甲製品を販価から値引きして販売している取引先小売業者が一部存在することが判明し、
その後も変わりなかった。このため、X社は、令和2年10月、取引先小売業者に対し、販価どお
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りに販売するよう改めて要請し、この要請に反した取引先小売業者に対してはX社製甲製品の出荷
を制限することがある旨通知した。また、この通知の直後に、X社は、従来から値引き販売を行っ
ていた取引先小売業者に対して、実際に出荷を制限する措置を講じた。この措置が取引先小売業者
の間に広く知られたこともあり、出荷制限を受けることを恐れて、取引先小売業者がX社製甲製品
を値引きして販売することはほとんど見られなくなった。
その後、X社は、令和4年1月、取引先小売業者に対し、販売価格に関する従前の通知や要請、
措置等を全て廃止することを表明した上で、参考である旨明記した「希望小売価格」を改めて通知
したが、その価格は令和2年4月に通知した販価と全く同じであった。通知を受けた取引先小売業
者は、X社からの通知の内容を理解したものの、現在に至るまで、値引き販売はほとんど行われて
いない。
(2) 上記の【前提】に加え、以下の事情がある場合に、Y社の行為について、独占禁止法に違反す
るか検討しなさい。
Y社は、Y社製甲製品が他のメーカーの甲製品にはない機能を有しており、取引先小売業者がユ
ーザー(潜在的なユーザーを含む。)に対してY社製甲製品の特有の機能を含めて使用方法等を十
分説明することが不可欠であり、また、それが甲製品の新たなユーザーを発掘するとともに、Y社
製甲製品に対する評価を高め、Y社を指名して購入するユーザーを増やすことにつながると考えて
いる。
しかし、甲製品が普及するにつれて、特に買換えをしようとするユーザーの中には、小売業者に
よる甲製品の使用方法等の説明が不要であり、あるいは煩わしいと感じるものもいるようになって
きている。また、甲製品の小売業者の中にも、甲製品の使用方法等に関する説明を丁寧に行おうと
すると費用が掛かることから、こうした説明を省略し、むしろ低価格を訴求した販売を行いたいと
考えるものが出てきている。
こうした中で、Y社は、令和3年4月、取引先小売業者に対し、上記のようなY社の考えを改め
て説明した上で、来店するユーザーに対してY社製甲製品の使用方法等を説明することを義務付け
る条項を取引先小売業者との取引契約に追加することとし、これを実施している。この条項におい
ては、来店するユーザーの甲製品やY社製甲製品の使用歴等に応じて説明すべき事項が設定されて
おり、例えば、甲製品を既に使用しているユーザーに対してはY社製甲製品の特有の機能を説明す
ることで足りるものとされている。
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論文式試験問題集[知的財産法]
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[知的財産法]
〔第1問〕(配点:50)
精米業者であるXは、「成分Aを多く含む精白米及びその製造方法」との名称の発明(以下「X
発明」という。)について特許権(以下「X特許権」という。)を保有している。X特許権に係る
特許請求の範囲は2つの請求項からなり、請求項1には「玄米粒の第1層から第4層までを精米機
によって除去した後、第5層の85〜95パーセントが残るように同層の表層側の部分を削り取る
ことにより製造される米」と記載されている(本問において、玄米粒は表皮から中心部に向かって、
第1層(表皮)から第6層までの6つの層で構成されるものとする。)。請求項2記載の発明は、
第5層の表層側の部分を削り取る具体的な工程(以下「工程α」という。)を含むことを特徴とす
る、請求項1記載の米を製造する方法についての発明である(以下、請求項1記載の発明を「X発
明1」、請求項2記載の発明を「X発明2」といい、X発明1に係るX特許権を「X特許権1」、
X発明2に係るX特許権を「X特許権2」という。)。
X発明の出願に関連する事情は次のとおりである。従来の精白米は、玄米粒の第1層から第5層
までを除去し、第6層のみを残す方法で精米されていた。X発明の発明者は、第5層の表層付近部
分に米の味を悪くする成分Bが多く含まれる一方で、第5層のそれ以外の部分には米の味を良くす
る成分Aが多く含まれていることを見出し、この層の85〜95パーセントが残るように表層側の
部分を削り取る方法を開発した。この方法が工程αである。また、このようにして製造された米は
従来の精白米よりも多くの成分Aを含んでおり、このような米自体が新規であると調査の上判断し
たXは、この米についても特許権を取得することとし、これを請求項1に記載する発明とした。実
際に、第5層の表層側の部分を除いた同層の残り85〜95パーセントの部分と第6層の2つの層
のみから構成される米は、X発明の出願時点においてX以外の者によって製造も販売もされたこと
はなく、公表された刊行物等に記載されたこともなかった。
精米業者であるYは、第5層の表層側の部分を除いた同層の残り90パーセントの部分と第6層
の2つの層のみから構成される米(以下「Y商品」という。)を製造し、販売している。
XはYに対し、YによるY商品の製造・販売がX特許権を侵害するとして、差止めを求めて訴訟
を提起した。
以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立したもの
であり、相互に関係はないものとする。
1.XはY商品を購入し分析をした上で、訴訟において、1X特許権1に関しY商品の構造につい
て、2X特許権2に関しY商品の製造方法について、それぞれ具体的に主張した。
(1) Xの前記1の主張に対して、Yが単に否認するのみで具体的な主張をしない場合、Yのこの
ような態度は特許法上Yに課されている義務を果たすものといえるか、簡潔に説明しなさい。
(2) Xの前記主張に対して、Yが、前記1の主張に対しては、X主張のとおりであると認める一
方で、前記2の主張に対しては、単に否認するのみで具体的な主張をしない場合、Xは、X特
許権2に関し、特許法上どのような主張をすることが考えられるか、簡潔に説明しなさい。
2.Y商品は、玄米粒の第1層から第4層までを精米機により除去した後に、特殊な液体に浸すこ
とで第5層の表層側の部分を溶かす方法によって製造されている。
(1) Y商品がX発明1の技術的範囲に属するか否かについて論じなさい。
(2) YはX特許権1に関して、特許法第104条の3第1項の抗弁を主張している。この抗弁の
具体的内容としては、どのようなものが考えられるか、論じなさい。また、この抗弁に対して、
Xはどのような主張をすべきか、論じなさい。
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3.Xは、X発明が出願された日の2日前にX発明2の方法により製造した米を袋詰めにしたもの
(以下「X商品」という。)を大量に近隣のスーパーに出荷した。X商品は、その出荷の翌日に
は同スーパーの店頭で販売されたが、X発明の出願時点において1袋も売れていなかった。この
とき、X特許権1及びX特許権2に関して、Yはそれぞれどのような主張をすべきか。その主張
の妥当性についても、Xからの反論に留意しつつ論じなさい。
4.X発明が出願される1か月前に第三者により出願され、X発明の出願後に出願公開がされた出
願βは、炊飯方法の発明についての特許出願である。出願βの願書に最初に添付した明細書には、
「第1層から第4層までを精米機により取り除いた上、さらに第5層のほとんどが残るように同
層の表層側の部分を削り取った米を使用することにより、炊飯後の米により旨みを感じることが
できるようになる。」との記載がある。このとき、X特許権1に関して、Yはどのような主張を
すべきか。その主張の妥当性についても、Xからの反論に留意しつつ論じなさい。なお、出願β
の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面のいずれにも、上記記載以外に米の構
造や精米方法に関連する記載はないものとする。
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〔第2問〕(配点:50)
漫画家であるXとYは、甲を主人公とする漫画(以下「漫画α」という。)を共同で制作した。
漫画αのストーリーの大筋は二人が話し合って決定し、Xが脚本形式の原稿を制作し、Yが原稿を
ネーム(注)に起こし、Xと協議してネームを確定させた。漫画αの作画については、甲を含む人
物のイラストをXが、背景をYが担当して制作し、互いに意見を出し合いながら、適宜修正を加え
つつ、完成させた。その後、漫画αは出版された。
以上の事実関係を前提にして、以下の設問に答えなさい。なお、著作者人格権に関しては論じる
必要はない。また、各設問はそれぞれ独立したものであり、相互に関係はないものとする。
(注)ネームとは、漫画を描く際のコマ割り、構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに描
いたものをいう。本件のネームでは、登場人物は○しろまるなどの記号で特定されているだけで、イラス
ト化されていない。
[設問1]
大学Aの美術部に所属している学生Bは、美術部の企画に係る学園祭用の展示物として、甲の
模型(以下「模型β」という。)を作成し、これを所有している。模型βは、漫画αに描かれた
甲の特徴を忠実に再現しつつ、衣装やポーズに独自の工夫を凝らして制作されたものである。模
型βは、学園祭の間、美術部の展示室に設置され、一般の観覧に供された。大学祭に来場してい
た玩具製造業者であるCは、模型βの出来栄えに感銘を受け、Bから模型βの譲渡を受け、模型
βを精巧に模倣したフィギュアを制作し、販売した。Cは、漫画αの存在を知らず、模型βをB
の完全なオリジナル作品と思い込んでいた。
(1) X、Yは、それぞれBに対して、著作権法上どのような請求をすることができるか、論じなさ
い。
(2) X、Yは、それぞれCに対して、著作権法上どのような請求をすることができるか、論じなさ
い。
[設問2]
Dは、我が国を代表するアニメの制作・配信を行う会社である。DのプロデューサーであるE
は、漫画αのアニメ映画(以下「映画γ」という。)の制作を企画し、XとYにアニメ化の許諾
を求めた。Xは、漫画αの出版後十年ほどが経過しているため、アニメ化は漫画αの人気を浮上
させるよいきっかけになると考え、アニメ化を了承したが、Yは、漫画αの出版後、Xとの関係
が悪化していたことから、これ以上Xと関わりを持ちたくないと考え、アニメ化に反対した。E
は、Yに対し、Xからアニメ化の承諾を得たことを述べた上で、Yと何度も交渉を重ね、またY
が反対の意向を示していることを考慮し、業界の相場を大幅に超える原作使用料を提示したが、
Yは承諾しなかった。そこで、Eは、Xと相談の上、Yの承諾を得ないまま、映画γを制作した。
Yがインターネット上で映画γを配信しようとしているDに対して著作権侵害に基づく差止め
を請求する場合、どのような主張をすべきか。Dはそれに対してどのような反論をすることが考
えられるか。それぞれの主張の当否についても論じなさい。
[設問3]
Fは、民間の漫画教室を主宰する者であり、インターネット上に開設したホームページで教室
の宣伝を行って受講生を募集し、有料で作画の指導を行っている。Fは、漫画αの出版物を1冊
購入し、そこから作画の練習に最適と思われるコマ絵を十数枚程度選び出してコピーし、当該コ
ピーを用いてコマ絵を一つ一つスライドで映し出して、キャラクターや背景の描き方、構図、コ
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マ割りなどの作画のポイントを詳細に説明し、また、コマ絵を4倍の大きさに拡大したコピーを
受講生に配布し、コマ絵の模写を行わせ、生徒の模写の出来栄えを評価するなどしている。
(1) Fが漫画αのコマ絵のコピーを作成する行為、当該コピーを用いてコマ絵をスライドに映し出
して受講生に見せる行為、漫画αのコマ絵の拡大コピーを受講生に配布する行為は、Xの著作権
を侵害するかについて論じなさい。
(2) Xが、Fに対して、Fの主宰する漫画教室において、受講生に漫画αのコマ絵の模写を行わせ
ることに関して差止めを請求する場合、Xはどのような主張をすべきか。Fはそれに対してどの
ような反論をすることが考えられるか。それぞれの主張の当否についても論じなさい。
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論文式試験問題集[労 働 法]
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[労 働 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。
【事 例】
1 貨物自動車運送事業等を営むY社は、令和元年10月1日、それまでに他の運送事業者におい
て約10年間勤務し、その間に運行管理業務等に従事した経験を有するX1を、それらの経験や
運行管理者の資格(注)を有する点を評価し、正社員として採用した。その際に締結された労働
契約には、期間の定めはなく、職種や業務を限定する定めもなかった。採用決定時、Y社はX1
に対して「当面は運行管理者をお願いする。」と口頭で告げ、X1は以後運行管理者としてY社
において運行管理業務に従事した。
X2は、平成29年5月1日、契約期間を1年とし、職種を乗務員とする有期労働契約をY社
との間で締結し、Y社で勤務していた。X2の有期労働契約は、平成30年5月1日、令和元年
5月1日及び令和2年5月1日に、それぞれ同一の内容で更新されたが、契約期間を通算した期
間が5年を超えて更新することはないとされており、X2は、このことについて採用時に説明を
受けていた。
2 Y社は、X1が運行管理業務に従事するようになってから乗務員による高速道路の使用が増加
し、その費用がかなり高額になっていることを気に掛けていたところ、乗務員の間にX1による
乗務指示の割り振りに対する不満がたまっているとの情報に接したことから、X1の運行管理者
としての適性に疑問を持ち、令和2年9月、X1と面談することとした。X1は、同面談におい
て、乗務員の不満の原因は人員の不足とそれに起因する業務過多にあり、乗務員の労働条件を改
善し、離職を防止するためには、高速道路を使用させることは不可欠であるし、それにより輸送
事故のリスクも下がることとなる、と説明した。
Y社は、X2を含む乗務員数人とも面談したところ、前記の情報のとおり、多くの乗務員がX
1の乗務指示の割り振りに不満を持っていることが確認された。この面談の際、X2は、Y社に
対して、納入先からの帰路に、軽微ではあるが事故を起こしてしまい、それ以降、いつか大きな
事故を起こすかもしれないと不安で乗務に集中できないことがある、乗務員以外の仕事に代わる
ことができるのであれば代わりたい旨、心情を吐露した。
3 Y社は、X1及びX2らとの面談の結果を踏まえ、X1には運行管理者としての適性が十分に
備わっているといえず、引き続き運行管理業務に従事させるのは不適当であると判断し、運行管
理者資格を有する者をほかに手配できる見通しがあったため、X1の業務を運行管理業務以外の
業務に変更することにした。また、X2についても、輸送事故への不安を持ったまま乗務員を続
けさせるのはリスク管理の点から問題であると判断した。Y社は、折から、倉庫部門の倉庫作業
員数名の有期労働契約が終了し、倉庫作業員が4名不足する見通しであったことから、X1とX
2を、倉庫部門において倉庫業務に就かせることとし、X1に対しては、Y社就業規則の規定に
基づき、令和2年10月1日付けで倉庫部門への配置転換を命じ、X2に対しては、倉庫作業員
への職種変更の申込みをし、X2は同日付けでこれに応じる意思表示をした。なお、X1が運行
管理業務を行っていた場所と倉庫部門の倉庫作業員として業務に従事することとなる倉庫は、Y
社の同一敷地内にあった。また、当該配置転換によりX1の基本給等の所定内賃金には変更はな
かったが、倉庫部門では時間外労働がほとんどないため、その分の賃金の減少が見込まれた。
4 X1は、運行管理業務から離れることには不満があったものの、Y社から、倉庫部門において
はその作業の管理も任せるとの説明を受けていたため、配置転換命令に従うこととしたのであっ
たが、倉庫部門での勤務を実際に開始すると、作業の管理を行うためのシステムや設備が存在せ
ず、仕分けや積込み等の作業しかなかった。また、倉庫部門の中で、正社員はX1ただ一人であ
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り、他の倉庫作業員は全て有期労働契約で業務に従事する者であった。X1は、それらの状況を
知ってモチベーションが下がり、肉体的疲労も強かったため、この配置転換に強い不満を抱くに
至った。
その一方で、X2は、乗務員であった時期に輸送した物品に関する豊富な知識があったことか
ら、職種変更後の倉庫業務にやりがいを感じ、その知識をいかして同僚にも有効なアドバイスを
するようになり、次第に周囲から頼られる存在となった。
5 令和3年4月、Y社は、X2に対し、同年5月1日からの有期労働契約書を提示した。同契約
書には、契約期間は同日から令和4年4月30日までの1年間であること、更新はないこと、職
種は倉庫作業員であることが記載されていた。X2は、職種変更により通算で更新可能な期間が
リセットされると思い、同年5月以降も働けることを事務担当者に確認したところ、同事務担当
者は、「それは難しいと思いますが、1年先の話ですから、今後、確認されてはどうですか。」
と言い、それを聞いたX2は、確かに今確認する必要はないと思い、同契約書に署名した。
その後約1年が経過した令和4年4月、X2は、Y社に対して、労働契約の更新を求めたが、
Y社はこれを拒否した。X2とY社との間の労働契約は、同月30日をもって契約期間が満了し
たが、翌5月1日時点で、倉庫作業員は2名不足していた。
(注) 運行管理者は、道路運送法及び貨物自動車運送事業法に基づき、事業用自動車の運転者の
乗務割の作成、休憩・睡眠施設の保守管理、運転者の指導監督、点呼による運転者の疲労・
健康状態等の把握や安全運行の指示等、事業用自動車の運行の安全を確保するための運行管
理業務を行う専門職であり、その資格を得るには、1事業用自動車の運行管理に関する5年
以上の実務経験を有し、かつ、その間に所定の講習を5回以上受講していること等の要件を
満たすこと、又は2運行管理者試験に合格することが必要である。自動車運送事業者は、営
業所ごとに保有車両数に応じた一定の人数以上の運行管理者を選任しなければならない。
〔設 問〕
1.X1は、倉庫部門への配置転換は不当であり、運行管理業務に戻すべきであると主張している。こ
のX1の見解の当否について、検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。
2.X2は、Y社の契約更新拒否は不当であり、令和4年5月1日以降もY社に雇用され続けてい
ると考えている。このX2の見解の当否について、検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの
意見を述べなさい。
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〔第2問〕(配点:50)
次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。
【事 例】
食品の製造販売業を営むY社は、同社の全ての事業場で労働者の過半数を組織するA労働組合と
の間で30年前になされた書面化されていない合意に基づき、同社の正社員(無期労働契約で雇用
されている労働者)に対し、7月と12月の年に2回、それぞれ基本給月額の2か月分の賞与を支
給してきた。その支給要件は、7月に支給される賞与については前年度の10月から3月までの期
間、12月に支給される賞与については当年度の4月から9月までの期間に、所定労働日数の9割
以上出勤し、賞与支給日に在籍していることとされ、30年間、この取扱いが同社内で問題とされ
ることはなかった。その間、同社の正社員に適用される正社員就業規則(後述する令和2年の改定
の前のもの)には、賞与の支給に関しては、「会社は、会社の業績や経営状況等により、7月と1
2月の年に2回、賞与の支給日に在籍している正社員に対し、賞与を支給することがある。」との
規定が置かれているのみであった。一方、同社の契約社員(有期労働契約で雇用されている労働者)
に適用される契約社員就業規則(後述する令和2年の改定の前のもの)には、賞与の支給に関する
規定はなく、同社の契約社員には賞与は支給されていなかった。
Y社は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71
号)による「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律
第76号)の改正(同改正により同法の題名も改められた。)が令和2年4月1日に施行されるこ
とに合わせて、同年7月から、契約社員にも賞与を支給する方針を固めた。Y社は、令和元年10
月から令和2年3月にかけてA労働組合と団体交渉を重ね、同月27日に、A労働組合との間で、
「令和2年7月以降の賞与は、正社員については基本給月額の1.8か月分とし、契約社員につい
ては基本給月額の0.5か月分とする。」との書面による労働協約を締結した。なお、同社は、同
年3月末時点で、200人の正社員と125人の契約社員を雇用しており、正社員である労働者は、
ユニオン・ショップ協定に基づき、取締役を兼務する部長6名と総務部の次長・課長2名以外の全
員がA労働組合に加入しているが、同社の契約社員は、ユニオン・ショップ協定の対象外とされ、
A労働組合に加入していない。
Y社は、同労働協約の締結後、正社員就業規則の前記の賞与規定を改定して、「会社は、7月と
12月の年に2回、7月に支給される賞与については前年度の10月から3月までの期間、12月
に支給される賞与については当年度の4月から9月までの期間に、所定労働日数の9割以上出勤し、
賞与支給日に在籍している正社員に対し、基本給月額の1.8か月分の賞与を支給する。」との規
定を設け、契約社員就業規則には、新たに、「会社は、7月と12月の年に2回、7月に支給され
る賞与については前年度の10月から3月までの期間、12月に支給される賞与については当年度
の4月から9月までの期間に、所定労働日数の9割以上出勤し、賞与支給日に在籍している契約社
員に対し、基本給月額の0.5か月分の賞与を支給する。」との規定を設けた。Y社は、A労働組
合から、「各就業規則改定に賛成する」旨の意見を聴取し、令和2年3月31日、所轄の労働基準
監督署長に改定後の各就業規則の届出をした上で、同社の全ての労働者に対し、社内電子メールを
送付して改定後の各就業規則を周知した。
Y社の正社員でA労働組合の組合員であるX1は、令和2年7月に支給された賞与が従来支給さ
れていた基本給月額の2か月分から1.8か月分に減額されたことに不満を持っている。
また、平成29年4月1日に契約期間1年の有期労働契約でY社に雇用された契約社員であるX
2は、同契約を3回更新され、令和2年7月を迎えたが、同月に支給された賞与が基本給月額の0.
5か月分であったことに不満を持っている。X2が、Y社に対し、正社員と契約社員の間の賞与の
相違とその理由について説明を求めたところ、Y社の総務部長は、X2に対し、「会社の就業規則
にそう規定されています。」と述べて、同社の正社員就業規則と契約社員就業規則の該当規定を提
- 29 -
示した。
なお、X2は、Y社で食品衛生管理に関する事務作業に従事しているが、その職務の内容は、同
じ部署で働いている入社3年目の正社員と同じであり、同部署の入社1年目の正社員に対して、業
務遂行について教育指導を行うこともあった。Y社の契約社員の基本給は時間給制であり、契約社
員には勤務地の変更を伴う配置転換はない。Y社の正社員の基本給は経験と能力に応じた職能給
(月給)制であり、正社員には勤務地の変更を伴う配置転換があるほか、同社の幹部になることを
視野に入れ、長期的に人材育成がなされるものとされていた。Y社には、契約社員から正社員に登
用される制度はない。
〔設 問〕
1.X1は、Y社に対し、基本給月額2か月分の賞与の支払を請求することができるか。考えられ
る論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。
2.X2は、Y社に対し、正社員と契約社員の間の令和2年7月以降の賞与の相違について、何ら
かの請求をすることができるか。考えられる論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。
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- 31 -
論文式試験問題集[環 境 法]
- 32 -
[環 境 法]
(配点:50)
〔第1問〕
株式会社A(以下「A社」という。)は、B県内のC工場において金属の精錬の用に供するため
にコークス炉(以下「炉」という。)を設置するため、大気汚染防止法(以下「法」という。)に
基づいて、ばい煙発生施設の届出をし、炉の稼働をしてきた。C工場は、稼働の当初は法の定めに
従って、測定を実施し、法の定める規制基準は遵守されていることを確認し、記録を保存してきた。
しかしながら、炉の老朽化に伴って公害発生防止設備の機能が低下したため、ばい煙に含まれる法
の規制対象物質、特に、いおう酸化物とベンゼンの濃度が上昇し、平成10年代の中頃には、いお
う酸化物については基準値の10倍、ベンゼンについても基準値の1.5倍の値が恒常的に測定さ
れるようになった(当時の測定記録はC工場に保管されていたため、後述のB県の立入調査の際に
B県に提出された。)。それにもかかわらず、C工場の工場長は、費用の点から炉の改修を忌避し、
ついには測定及び記録の保存そのものを平成20年(2008年)頃に独断で中止した(後にC工
場関係者の証言等により判明した経緯からは、その後も長期にわたり法令違反が継続していたこと
が確認されている。)。令和3年(2021年)夏に入って、C工場の法令違反に関する匿名の通
報がB県に寄せられ、これを受けてB県環境部の担当者がC工場の立入調査を実施したことから、
C工場の法令違反が発覚するに至った。
〔設問1〕
本件設例において、いおう酸化物の基準値超過が問題となったのはK値規制基準に関してであ
る。 のK値規制基準の計算式においてHe(一定の補正を受けた煙突の排出口の高さ)
【資料1】
が用いられた趣旨について説明しなさい(Heの値の算出方法及びHeについて2乗とされた根
拠については問わない。)。
〔設問2〕
いおう酸化物に関するC工場の法令違反に対してB県はどのように対応すべきかを関係規定を
示しつつ説明しなさい。
〔設問3〕
【資
ベンゼンは有害大気汚染物質であり、指定物質抑制基準が定められている物質でもある(
)。有害大気汚染物質対策の制度が設けられた趣旨を説明しなさい。その上で、指定物質
料2】
抑制基準が設けられているベンゼンに関するC工場の基準値超過に対してB県はどのように対応
すべきかを関係規定を示しつつ説明しなさい(ベンゼンは揮発性有機化合物であるが、法第2章
の2「揮発性有機化合物の排出の規制等」については本問において検討しなくてよい。)。
〔設問4〕
本件設例において、A社は、立入調査時には施設の点検等を通じていおう酸化物及びベンゼン
〔設問2〕〔設問
の基準値超過を解消しており、B県の調査方法に問題があったと考えている。
において解答した対応をB県が実施しようとし、かつ、ベンゼンに関する基準値超過を含め3〕てB県がその対応を公表しようと計画している時点において、A社はどのような法的請求を選択
肢に入れて検討すべきかを説明しなさい(損害賠償請求は考えなくてよい。行政手続法上の手段、
仮の救済・仮処分及び本案の主張は問わない。)。
- 33 -
【資料1】
K値規制基準は、大気汚染防止法施行規則(昭和46年厚生省・通商産業省令第1号)第3条第1
項において、次のように規定されている。-3 2q=K 10 He×ばつ
(この式において、q、K及びHeは、それぞれ次の値を表わすものとする。
q いおう酸化物の量(単位 温度零度、圧力一気圧の状態に換算した立方メートル毎時)
K 法第3条第2項第1号の政令で定める地域ごとに別表第1の下欄に掲げる値
He 次項に規定する方法により補正された排出口の高さ(単位 メートル))
【資料2】
○しろまる ベンゼンは大気汚染防止法施行令附則第3項により、同法附則第9項に規定する指定物質とされ
ており、ベンゼンに関する指定物質抑制基準は定められて公表されている(コークス炉に関する指
定物質抑制基準は省略する。)。
○しろまる 大気汚染防止法施行令(昭和43年政令第329号)附則(抜粋)
(指定物質)
3 法附則第9項の政令で定める物質は、次に掲げる物質とする。
一 ベンゼン(以下、略)
- 34 -
(配点:50)
〔第2問〕
Aは、B県において物質Cを使用・処理する施設を設置している。Aの施設は、水質汚濁防止法
上の特定施設である。以下の設問に答えなさい。
〔設問1〕
本件設例において、Cはトリクロロエチレンであるとする。地下水汚染防止のため、水質汚濁
防止法上、Aにはどのような義務が課されているか。 を参照しつつ、答えなさい。
【資料1】
〔設問2〕
本件設例において、Cはトリクロロエチレンであるとする。Aの施設からCが排出され又は漏
えいし、地下水等が汚染され、さらに周辺のD及びEの所有地の土壌も汚染されたことが判明し
【資料
た。この場合において、B県知事は、Aに対してどのような措置を採ることができるか。
を参照しつつ、水質汚濁防止法と土壌汚染対策法の地下水汚染対策に対する考え方の相違を2】踏まえて答えなさい。
〔設問3〕
本件設例において、Cはトリクロロエチレンであるとする。Aは、令和2年(2020年)に、
自己の施設のある土地のCによる土壌汚染に対してB県知事の指示に基づく汚染除去等の措置を
完了していたところ、令和3年(2021年)に、トリクロロエチレンに関する土壌の汚染に係
る環境基準(以下「土壌環境基準」という。)が(検液1Lにつき)0.03mg以下から0.
01mg以下に強化された。そのため、令和2年(2020年)にAが採った措置では、強化さ
れた土壌環境基準に基づく「環境省令で定める基準」に適合しない状況になった。B県知事は、
Aに対して土壌汚染に関して上記環境基準の強化を理由として汚染除去等の追加的措置を求める
ことができるか。 を参照しつつ、簡潔な理由を付して答えなさい。
【資料3】
〔設問4〕
本件設例において、Cは水溶性が高く、塩素に反応する有機化合物であるとする。Aの施設か
らCが河川に排出され、下流に流下し、浄水場における浄水過程で注入された塩素と反応し、消
毒副生成物としてホルムアルデヒドが生成されてしまった。浄水場では取水が停止され、浄水場
が設置されていたF市では断水・減水が発生し、水道事業者としてのF市は拠点給水所の設置、
給水車の出動等による応急給水を余儀なくされた。Cに関してはその当時、排水基準は設定され
ていなかったとする。この場合において、F市は、Aに対してどのような法的請求ができるか。
- 35 -
【資料1】
(昭和46年政令第188号)(抜粋)
○しろまる 水質汚濁防止法施行令第2条
(カドミウム等の物質)
第2条 法第2条第2項第1号の政令で定める物質は、次に掲げる物質とする。
一〜八 (略)
九 トリクロロエチレン(以下、略)
【資料2】
(平成8年環水管第275号)(抜粋)
○しろまる 「水質汚濁防止法の一部を改正する法律の施行について」
地下水汚染から人の健康を保護するという観点から、措置命令は、水質汚濁防止法施行規則(昭
和46年総理府・通商産業省令第2号。以下「規則」という。)第9条の3第2項に定められる浄
化基準を超えて汚染された地下水に関し、次に掲げる地下水の利用等の状態に応じて、同項各号に
定められる地点において浄化基準(汚染原因者が二以上ある場合には、削減目標)を達成することを
限度として発することができることとされている。(中略)
(1) 人の飲用に供せられ、又は供せられることが確実である場合(規則第9条の3第2項第1号)
(中略)
(2) 水道法(昭和32年法律第177号)第3条第2項に規定する水道事業(同条第5項に規定
する水道用水供給事業者により供給される水道水のみをその用に供するものを除く。)、同条
第4項に規定する水道用水供給事業又は同条第6項に規定する専用水道のための原水として取
水施設より取り入れられ、又は取り入れられることが確実である場合(規則第9条の3第2項
第2号)(中略)
(3) 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第40条第1項に規定する都道府県地域防災
計画等に基づき災害時において人の飲用に供せられる水の水源とされている場合(規則第9条
の3第2項第3号)(中略)
(4) 水質環境基準(有害物質に該当する物質に係るものに限る。)が確保されない公共用水域の
水質の汚濁の主たる原因となり、又は原因となることが確実である場合(規則第9条の3第2
項第4号)(以下、略)
(平成14年政令第336号)(抜粋)
○しろまる 土壌汚染対策法施行令第3条
(土壌汚染状況調査の対象となる土地の基準)
第3条 法第5条第1項の政令で定める基準は、次の各号のいずれにも該当することとする。
一 次のいずれかに該当すること。
イ 当該土地の土壌の特定有害物質(法第2条第1項に規定する特定有害物質をいう。以下同じ。)
による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないことが明らかであり、当該土壌の特定有
害物質による汚染に起因して現に環境省令で定める限度を超える地下水の水質の汚濁が生じ、
又は生ずることが確実であると認められ、かつ、当該土地又はその周辺の土地にある地下水の
利用状況その他の状況が環境省令で定める要件に該当すること。
ロ 当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態がイの環境省令で定める基準に適合しないお
それがあり、当該土壌の特定有害物質による汚染に起因して現にイの環境省令で定める限度を
超える地下水の水質の汚濁が生じていると認められ、かつ、当該土地又はその周辺の土地にあ
る地下水の利用状況その他の状況がイの環境省令で定める要件に該当すること。
ハ 当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合せず、又は適
合しないおそれがあると認められ、かつ、当該土地が人が立ち入ることができる土地(中略)
- 36 -
であること。
二 次のいずれにも該当しないこと。
イ、ロ(略)
(平成14年環境省令第29号)
○しろまる 土壌汚染対策法施行規則第30条
(地下水の利用状況等に係る要件)
第30条 令第3条第1号イの環境省令で定める要件は、地下水の流動の状況等からみて、地下水汚
染(地下水から検出された特定有害物質が地下水基準に適合しないものであることをいう。以下同
じ。)が生じているとすれば地下水汚染が拡大するおそれがあると認められる区域に、次の各号の
いずれかの地点があることとする。
一 地下水を人の飲用に供するために用い、又は用いることが確実である井戸のストレーナー、揚
水機の取水口その他の地下水の取水口
二 地下水を水道法(昭和32年法律第177号)第3条第2項に規定する水道事業(同条第5項
に規定する水道用水供給事業者により供給される水道水のみをその用に供するものを除く。)、
同条第4項に規定する水道用水供給事業若しくは同条第6項に規定する専用水道のための原水と
して取り入れるために用い、又は用いることが確実である取水施設の取水口
三 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第40条第1項の都道府県地域防災計画等に基
づき、災害時において地下水を人の飲用に供するために用いるものとされている井戸のストレー
ナー、揚水機の取水口その他の地下水の取水口
四 地下水基準に適合しない地下水のゆう出を主たる原因として、水質の汚濁に係る環境上の条件
についての環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の基準が確保されない水質の汚
濁が生じ、又は生ずることが確実である公共用水域の地点
【資料3】
○しろまる 中央環境審議会「土壌の汚染に係る環境基準及び土壌汚染対策法に基づく特定有害物質の見直し
その他法の運用に関し必要な事項について(第4次答申)-カドミウム及びその化合物、トリクロ
(令和2年1月)(抜粋)
ロエチレン」
特定有害物質の基準の見直しに伴う法の制度運用についてIV1.基本的考え方
特定有害物質の見直しに伴う法(注:ここにいう「法」とは、土壌汚染対策法をいう。以下同
じ。)の制度運用については、「土壌の汚染に係る環境基準及び土壌汚染対策法に基づく特定有
害物質の見直しその他法の運用に関して必要な事項について(第2次答申)」(平成27年12
月中央環境審議会)で基本的考えを整理しており、カドミウム等(注:ここにいう「カドミウム
等」とは、カドミウム及びその化合物並びにトリクロロエチレンをいう。以下同じ。)の基準の
見直しにおいても第2次答申の考え方を踏まえ、土地の所有者等に過剰な負担をかけないものと
する必要がある。
カドミウム等の基準が見直された後に、法第3条第1項の有害物質使用特定施設の廃止、法第
3条第8項の調査の命令、法第4条第2項の報告、法第4条第3項の調査の命令、法第5条第1
項の調査の命令、又は法第14条第1項の申請(以下「有害物質使用特定施設の廃止等」という。)
を行う場合の土壌汚染状況調査(法第14条第3項において土壌汚染状況調査とみなされるもの
を含む。以下同じ。)においてカドミウム等を測定の対象とする場合には、見直し後の基準で評
価を行うことが適当である。
また、カドミウム等の基準が見直された後に行う、法第7条第1項の指示を受ける場合の汚染
の除去等の措置に伴う土壌の分析及び地下水の測定並びに認定調査については、見直された後の
基準で評価を行うことが適当である。また、汚染土壌処理業に関する省令(平成21年環境省令
- 37 -
第10号)第5条第22号イに基づく調査(以下「浄化確認調査」という。)におけるカドミウ
ム等の測定においても、見直された後の基準で評価を行うことが適当である。
カドミウム等の基準が見直される以前に、既に有害物質使用特定施設の廃止等が行われている
場合にあっては、基準が見直されたことのみを理由に当該有害物質使用特定施設の廃止等に係る
土壌汚染状況調査の再実施を求めないことが適当である。同様に、カドミウム等の基準が見直さ
れる以前に、カドミウム等により要措置区域に指定されている土地において都道府県知事の指示
に基づく汚染の除去等の措置を講じている場合にあっては、見直される前の基準により評価を行
っていることのみを理由に、当該措置の再実施を求めないことが適当である。
ただし、見直し後の基準に適合せず、又は適合しないおそれがあると認められる土壌がある場
合にあっては、土壌溶出量基準に適合しない場合は地下水の水質の汚濁の状況及び地下水の飲用
利用の有無によって、土壌含有量基準に適合しない場合は人が立ち入ることができる土地である
か否かによって、それぞれ人の健康に係る被害が生ずるおそれがある場合がある。このため、基
準見直し前に実施した土壌汚染状況調査その他の調査の結果において土壌溶出量又は土壌含有量
が見直し後の基準に適合しておらず、特段の措置が講じられていない土壌が現に存在することが
明らかな場合にあっては、都道府県知事は、地下水の水質の汚濁の状況若しくは地下水の飲用利
用の有無又は人が立ち入ることができる土地であるか否かについて確認を行うことが適当である。
その上で、法第5条第1項に基づく土壌汚染状況調査の対象となる土地の基準(令(注:ここに
いう「令」とは、土壌汚染対策法施行令をいう。)第3条)を満たす場合にあっては、都道府県
知事は、指導により汚染の摂取経路を遮断するための措置を講じさせることや、同項の調査命令
を発出することが適当である。(以下、略)
- 38 -
- 39 -
論文式試験問題集[国際関係法(公法系)]
- 40 -
[国際関係法(公法系)]
〔第1問〕(配点:50)
A国に隣接するB国では軍参謀総長Xが軍事クーデターを起こしてB国大統領Yを解任しその身
柄を拘束した。その後、Xは最高軍事評議会を設置してその議長に就任し、B国の行政府、司法府
及び立法府の機能を停止させ全権を掌握した。この間、最高軍事評議会の指示を受けたB国軍がY
を支持する政治団体Pを弾圧し、A国民を含むその主要メンバーの身柄を拘束して拷問を加えるな
ど非人道的な行為を行った。この弾圧を逃れるため、多くのPのメンバーが隣国のA国に逃れたも
のの、これを追ってB国軍は国境を越えA国に侵入し、A国内の国境付近に所在する建物への砲撃
を含む軍事活動を行った。
B国軍による侵入を受けたA国は武力によりB国軍を国境外に撃退する軍事作戦を実施し、その
状況を国際連合安全保障理事会に報告した。A国と友好関係にあるC国もB国軍を撃退するために
自国軍隊をA国に派遣することを計画したが、A国とC国との間では、相互の安全保障や軍事協力
に関する合意は締結されていなかった。
B国内で飲食業を営んでいたB国民のZは、このクーデターが発生する前から、B国内の治安が
悪化していたことを心配し、念のために自分の資産の一部をC国の市中銀行にあるZ名義の口座に
預けるとともに、B国籍を離脱して、一定額の資産がC国内に存在することでC国籍を取得できる
同国の国籍法に基づきC国籍を取得していた。軍事クーデター後、B国最高軍事評議会は、同国内
に所在する自国民の財産のほか外国人の財産も全て収用する命令を発し、B国内に所在するZの資
産も補償を受けることなくB国に収用された。そこで、C国はB国に対してZが受けた損害につい
て賠償を請求したが、B国はC国の請求を拒否した。
その後、B国最高軍事評議会が内紛で崩壊してXはD国に逃亡し、Pを後ろ盾としてYが再び大
統領に就任した。A国は、自国民が拷問を受けたことを理由として自国国内法によりXを訴追する
ため、D国にXの身柄の引渡しを求めたところ、D国はこのA国の要請を拒否し、自国の裁判所へ
のXの訴追も行わなかった。C国もまたD国に対してXの身柄をA国に引き渡すよう求めたが、D
国はこれにも応じなかったため、C国はこの問題を仲裁に付託することをD国に提案した。しかし、
D国が半年以上もその提案を無視したことから、C国は、Xの身柄の引渡しを求めたA国の要請を
D国が拒否し、D国自身の裁判所へのXの訴追も行わなかったことは、1984年の拷問及び他の
残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷問等禁止条約」と
いう。)に違反すると主張して、同条約第30条第1項に基づき国際司法裁判所(以下「ICJ」
という。)に紛争を付託した。
また、Yが再び政権に就いた後、C国は、Zが受けた財産の損害について改めてB国に対して賠
償を請求したが、B国は、Zへの侵害行為は最高軍事評議会が行ったことであり、現在のY政権は
無関係であるとして、C国による損害賠償請求を拒否した。
A国、B国、C国及びD国の4国はいずれも国際連合加盟国であり、拷問等禁止条約にも留保を
付さずに締約国となっている。
以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.B国軍によるA国への軍事活動に対して、A国は自国軍隊の武力行使を正当化するために、
国際法上どのような主張を行わなければならないかについて論じなさい。また、C国がA国に
自国軍隊を単独で派遣し同国内での武力行使を正当化するためには、国際法上いかなる要件が
満たされなければならないかについても論じなさい。
2.C国は、D国の拷問等禁止条約違反の認定をICJに求めるためにいかなる主張が可能かに
ついて論じなさい。
- 41 -
3.B国によりZが受けた損害に関して、Yの政権復帰後、C国はいかなる国際法上の根拠に基
づき損害賠償をB国に主張し得るかについて論じなさい。
【参考資料】拷問等禁止条約(抜粋)
第4条
1 締約国は、拷問に当たるすべての行為を自国の刑法上の犯罪とすることを確保する。拷問の未
遂についても同様とし、拷問の共謀又は拷問への加担に当たる行為についても同様とする。
2 締約国は、1の犯罪について、その重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるように
する。
第5条
1 締約国は、次の場合において前条の犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置
をとる。
(a) 犯罪が自国の管轄の下にある領域内で又は自国において登録された船舶若しくは航空機内
で行われる場合
(b) 容疑者が自国の国民である場合
(c) 自国が適当と認めるときは、被害者が自国の国民である場合
2 締約国は、容疑者が自国の管轄の下にある領域内に所在し、かつ、自国が1のいずれの締約国
に対しても第8条の規定による当該容疑者の引渡しを行わない場合において前条の犯罪について
の自国の裁判権を設定するため、同様に、必要な措置をとる。
3 この条約は、国内法に従って行使される刑事裁判権を排除するものではない。
第7条
1 第4条の犯罪の容疑者がその管轄の下にある領域内で発見された締約国は、第5条の規定に該
当する場合において、当該容疑者を引き渡さないときは、訴追のため自国の権限のある当局に事
件を付託する。
2 1の当局は、自国の法令に規定する通常の重大な犯罪の場合と同様の方法で決定を行う。第5
条2の規定に該当する場合における訴追及び有罪の言渡しに必要な証拠の基準は、同条1の規定
に該当する場合において適用される基準よりも緩やかなものであってはならない。
3 いずれの者も、自己につき第4条の犯罪のいずれかに関して訴訟手続がとられている場合には、
そのすべての段階において公正な取扱いを保障される。
第8条
1 第4条の犯罪は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、
相互間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約に同条の犯罪を引渡犯罪として含めることを約
束する。
2〜4 (略)
第30条
1 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によって解決することができないもの
は、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日から6箇月以内に仲
裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判
所規程に従って国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
2 各国は、この条約の署名若しくは批准又はこの条約への加入の際に、1の規定に拘束されない
- 42 -
旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような留保を付した締約国との関係において1
の規定に拘束されない。
3 2の規定に従って留保を付した締約国は、国際連合事務総長に対する通告により、いつでもそ
の留保を撤回することができる。
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〔第2問〕(配点:50)
山脈を国境として隣接するA国とB国は、かつては類似の政治思想を持った友好国であり、共に
指導者の権限の強い権威主義体制の下にあった。
両国は良好な外交関係を維持していたが、古くに締結した二国間の犯罪人引渡条約もその表れの
一つであった。これによると、それぞれ互いの国に逃亡した犯罪人を引き渡すこと、相手国からの
引渡請求に対しては10日以内に自国の手続を開始することなどが規定されていた。また、軽微な
犯罪であっても引渡対象とされる一方で、例外として「政治犯についてはこの限りではない」との
規定が置かれ、何が「政治犯」に当たるかについての詳細な規定はなかった。同条約に基づいて、
それぞれの国に逃げた犯罪人は相手国へ引き渡されることが慣行となっていた。
ところが、10年ほど前にA国で革命が起き、権威主義体制から民主主義体制へと移行した。も
ともとA国は歴史的に日本法の影響を強く受けてきた国であったが、取り分け民主主義政権誕生後
は日本の法整備支援を受けつつ、特に日本を意識した国家建設を開始した。例えば憲法でも日本と
同様の仕方で国際法を尊重することをうたい、国際法と国内法の関係についても、日本と同様の立
場を採っていた。
この革命を契機に、AB両国間のこれまでの友好的関係は崩れ、微妙な外交的緊張が続くことと
なった。あるとき、A国はB国に逃亡したA国民たる犯罪人Xの引渡しを求めたが、B国は条約に
定める期間を大幅に経過しても自国内の手続を開始しなかった。B国は、度重なるA国による要請
を無視し続けていたが、最初の要請から半年ほど経ってから、履行する意向は全くないと連絡し、
条約は終了したと宣言した。B国は、その理由として、両国間の犯罪人引渡条約はAB両国が類似
の政治思想を持ったある種の共同体であったから締結したのであって、締結時における事情が根本
的に変化したのだと主張した。さらに、A国の古くからある特定の法律に、他国への犯罪人引渡し
を禁止する条項があると指摘し、これを重大な条約違反だとも主張した。A国は対応に苦慮し、B
国が主張するようにB国が犯罪人引渡条約の終了を宣言することが可能か否かについて検討を開始
したが、A国政権内の混乱もあり、容易に結論は出なかった。
AB両国間の外交関係はこう着状態に陥った。そのような中、A国の革命成功に触発されてB国
でも民主化運動が進展していたが、中でも、いずれもB国民であるYとZの両名が主導して以降、
運動は一層過激なものとなった。両名は新聞その他の媒体を用いて当局の政策を痛烈に非難し、仲
間と共に広範な民主化デモを組織するなどした。B国当局は、YとZを体制維持のための障害とみ
なすようになっていた。
ある時、B国警察が治安維持の一環としてYとZの身柄を拘束しようと試みたが、この情報が漏
れ、二人はA国に逃れようとした。Yが運転するトラックにZを乗せて国境を越えようとしたが、
途中でB国警官に見つかり、猛スピードで反対車線に出たり道路標識にぶつかったりするなどした。
激しい逃走劇の最中、Zはトラックから転落してしまい、混乱の中、Yのみが国境を越えてA国に
逃れた。Zも山間部の国境を抜けようとしたが、YがA国に逃れた後は厳しい検問が敷かれ、それ
は困難となった。数日間逃げ回った後、Zは近くに飛行場があることに思い当たり、B国民間人が
多数搭乗するB国登録航空機を乗っ取り、パイロットを脅してA国へと向かわせた。しかし、航空
機がA国飛行場に到着後、Zは逃亡生活の疲れから昏倒して乗客達に取り押さえられ、あえなくA
国警察に逮捕されるに至った。ほぼ同時期に、先に逃げていたYも、A国警察に逮捕された。
この事態に至って、B国は、二国間の犯罪人引渡条約は依然として有効であると宣言して、従来
の態度を翻し、A国が求めていたXの引渡しに応ずる姿勢を示した上で、これと引換えにYとZの
自国への引渡しを強く求めた。Yについては逃走時のB国「交通法」違反での処罰、Zについては
B国航空機不法奪取によるB国「公共交通危険取締法」違反での処罰を理由としており、最高刑は
前者が懲役4年、後者は懲役15年であった。A国においても、B国「交通法」、B国「公共交通
危険取締法」と同様の罰則が法律に定められており、その刑罰の重さはB国とほぼ同等であった。
また、B国は、これら以外の罪でYとZを罰しないことを公式に表明した。A国はB国が態度を変
- 44 -
更したことに戸惑ったが、犯罪人引渡条約を維持すること自体は国益にかなうとの政治的判断によ
って、同条約の終了や運用停止を宣言しないことを決めた。
その後、A国内では、犯罪人引渡条約の有効性を前提としつつ、YとZの引渡しの可否を裁判所
で決するべく手続が進行した。A国裁判所の裁判官らにとって大きな困難となったのは、A国には
逃亡犯罪人に関する国内法が制定されていなかったことであった。また、以前B国が主張していた
ように、特定の法律の一部に犯罪人引渡しを禁止する規定が存し、これがYとZの引渡しをも禁止
する趣旨を含み得ることもあり、関連する国際法の適用関係をめぐって議論が錯綜した。議論の末、
A国裁判所の裁判官らは、引渡しの可否について、日本の裁判所における同種の決定例に倣って判
断することとした。
なお、AB両国はいずれも、条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。)の当
事国である。また、犯罪人引渡しに関する国際条約としては、AB両国間の犯罪人引渡条約のみを
考えるものとする。
以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.Xの引渡しをめぐってB国がかつて行っていた犯罪人引渡条約を終了させる宣言は、認める
ことができるか。また、A国は実際にはそうしなかったものの、B国が上記宣言を行ったとき
に、むしろA国側から終了を宣言できたか。いずれも、条約法条約の終了原因に照らして論じ
なさい。
2.特にA国国内法秩序における国際法の位置付けに言及しつつ、A国裁判所が引渡しを認めな
いための立論をYとZの立場から論じなさい。
3.A国裁判所の判断の結果、YとZはB国に引き渡されることになるかについて論じなさい。
- 45 -
論文式試験問題集[国際関係法(私法系)]
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[国際関係法(私法系)]
〔第1問〕(配点:50)
A男(甲国籍)とB女(日本国籍)は20年前に日本で適法に婚姻し、その後も日本で婚姻生活
を営んでいた。婚姻から5年後にAB間に生まれた子C(出生時は甲国と日本の重国籍者であった
が、既に甲国籍を選択した。)は、現在14歳である。Aは、5年前に日本で交通事故に遭って重
傷を負い、頭部への受傷に起因する精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況となって、
回復は絶望的な状態に陥った。この時点におけるAの所有財産として、日本国内には不動産、動産、
預金債権及び有価証券が、甲国内には不動産があった。
以上の事実に加え、甲国民法は年齢18歳をもって成年とする旨の規定を有していることを前提
として、以下の設問に答えなさい。なお、各問は独立した問いであり、全ての問いにおいて、反致
については検討を要しない。
〔設問1〕
Bは、日本の家庭裁判所にAの後見開始の審判の申立てをすると同時に、Aの後見人の選任を
申し立てた。この場合において、後見開始の審判と後見人の選任の審判のそれぞれにつき、日本
の家庭裁判所の国際裁判管轄権は認められるか。また、日本の家庭裁判所が国際裁判管轄権を有
すると仮定した場合には、Aの後見開始の審判及びAの後見人の選任の審判について、それぞれ
いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
〔設問2〕
交通事故後のAの容態は一進一退を繰り返していたが、結果的に臓器の損傷が原因となって日
本の病院で死亡した。Aの死後、Bは日本でCを監護養育していたが、Bもまた重篤な病を得て
死亡した。Bの死後、Bの母であるD(日本国籍)がCを引き取り、Dは継続してCを日本で監
護養育している。Dは、日本の家庭裁判所にCの後見人の選任を申し立てた。Dは、自らになつ
いているCの後見人になることを希望しており、後見人となる能力にも問題はない。
Cの後見人選任の審判事件について、日本の家庭裁判所が国際裁判管轄権を有すると仮定する。
この場合において、Cの後見人としてDを選任することができるか否かについて、準拠法の決定
過程を示しつつ、答えなさい。
なお、甲国民法は、次の1〜3の趣旨の規定を有している。
1 成年に達しない子は、父母の親権に服する。親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行
う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
2 後見は、次に掲げる場合に開始する。
未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
3 未成年者の父若しくは母が死亡しているか又は親権を喪失したときは、次に掲げる者が、
第1号から第3号の順序で、特別の手続を要することなく当然に後見人となる。
第1号:祖父母
第2号:兄、姉
第3号:その他の親族
〔設問3〕
交通事故後のAの容態は一進一退を繰り返していたが、結果的に臓器の損傷が原因となって日
本の病院で死亡した。Aは幼少期に甲国の社会福祉施設で育ち、その施設を運営する社会福祉法
人Eにいつか恩返しをしたいと考えていた。Eは、甲国にのみ事務所を有する甲国法人である。
Aが7年前に日本において作成した遺言書には、「甲国所在の不動産をEに遺贈する。」旨が記
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載されている。また、当該遺言書の作成に当たり、Aは、その全文、日付及び氏名を自書した上
で、これに押印をした。B及びCは、Aの死後に遺言書の存在を知ったところ、甲国における近
年の不動産価値の高騰を踏まえてAの遺産を適正に評価すれば、Eに対する本件遺贈により自分
たちの遺留分が侵害されていることとなる旨主張して、Eを被告として、日本の裁判所に、遺留
分侵害額に相当する金銭の支払を請求する訴えを提起した。なお、Aの遺言の成立時点及び死亡
時点におけるその所有財産の所在地及び種類は、Aが交通事故に遭った時点と同じである。もっ
とも、Aが遺言を作成した後、交通事故に遭ってから死亡するまでの間に、Aの治療のために多
額の費用を要し、その支払の原資にはAの所有する日本国内の財産が充てられたことから、Aの
所有する日本国内の財産の合計額は大きく減少していた。
〔小問1〕
日本の裁判所が国際裁判管轄権を有すると仮定する。この場合において、本件遺言は有効に
成立しているか。仮に、本件遺言が有効に成立しているとした場合には、本件遺言による贈与
は有効に成立しているか。いずれの問いについても準拠法の決定過程を示しつつ、答えなさい。
なお、甲国民法は、次の4〜7の趣旨の規定を有している。
4 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
5 15歳に達した者は、遺言をすることができる。遺言者は、遺言をする時においてその
能力を有しなければならない。
6 自筆証書遺言によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、
これに印を押さなければならない。
7 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
〔小問2〕
B及びCが主張する遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求が認められるかどうかの問題に
ついて、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
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〔第2問〕(配点:50)
Xは、日本に住所を有する日本人であり、陶磁器製の食器の収集を趣味としている。Xは、30
年ほど前から毎年、陶磁器の生産が盛んな甲国に赴いて1週間ほど滞在し、甲国内の複数の陶磁器
製造・販売業者(後出のY社、Z社を含む。)の営業所を訪れて、気に入った食器の購入を行って
いる。Xは、10年ほど前からは、自身の趣味としての収集だけでなく、事業として、甲国内で仕
入れた食器を日本国内の顧客向けに販売している(この事業を行うに当たっては、日本の自宅建物
の一部を営業所として使用している。)。
Y社は、食器を中心とする陶磁器製品の製造・販売を業とする、甲国に本店を有する甲国の会社
であり、甲国以外には営業所も財産も有していない。Y社は、創業から長い歴史を有する老舗であ
り、Y社製の食器は、世界的なブランドになっている。Y社は、自社製の食器を他社には卸さず、
甲国内の自社の営業所でのみこれを販売するとの経営方針を採っており、世界各国のバイヤーは、
甲国内のY社の営業所に赴いてY社製の食器を仕入れた上で、それぞれ自国内の顧客向けにこれを
販売している。Y社とY社製の食器の買主との間で締結される売買契約においては、後述のとおり、
商品引渡地は定められていないものの、Y社は、買主から依頼があれば、買主の費用負担により、
買主の指定場所に宛てて商品を発送することとしている。Y社製の商品の中でも、磁器製の皿の表
面に甲国伝統の模様を顔料で描いた絵皿が特に有名であり、Y社は、毎年、模様を変えた新たな絵
皿を発売している。
Z社も、食器を中心とする陶磁器製品の製造・販売を業とする、甲国に本店を有する甲国の会社
であり、Z社製の食器も、Y社製の食器と同様に世界的なブランドになっている。Z社は、Y社と
は異なり、自社製の食器を他社に卸しているほか、甲国以外の国にも営業所を展開するなどしてお
り、世界各国のバイヤーは、様々な経路を通じてZ社製の食器を仕入れることができる。
Y社では、一定金額以上の商品を販売する際には、Y社が用意した売買契約書2通にY社と買主
の双方が署名した上で、それぞれが1通ずつを保管するという方法を採っている。これは、甲国法
上、一定金額以上の物品の売買については、当事者全員が署名した書面による契約書を作成してい
なければ、当該売買契約は効力を生じないとされていることによるものである(後掲の甲国契約法
P条を参照。)。Y社の売買契約書には、甲国法を契約準拠法とする旨の条項が置かれているが、
商品引渡地や代金支払地などの債務の履行地を定める条項、債務不履行による損害賠償債務の履行
地を定める条項、裁判管轄や仲裁などの紛争解決方法に関する条項は、いずれも置かれていない。
Y社は、新商品を含むY社の取扱商品の一覧表カタログを毎年発行し、それを優良顧客に宛てて
送付しており、数年前からは、Xに対しても当該カタログを送付していた。
新型コロナウイルス感染症が世界的にまん延拡大していた令和3年において、Xは、Y社の営業
所に赴くことなくY社の商品を購入したいと考えて、Y社に対して、インターネットを利用した映
像と音声を送受信する方法によるオンライン会合を開催して商談を行うことを提案した。Y社は、
Xが優良顧客であったことから、特別にこの提案に応じることとした。オンライン会合において、
Xは、購入を希望するY社製の新商品である絵皿(以下「本件商品」という。)のカタログ番号を
Y社に伝え、これを受けてY社が示した本件商品のカタログ写真の映像を確認した上で、Y社との
間で、本件商品を500セット購入する内容の売買契約(以下「本件契約」という。)を口頭で締
結した。本件契約の締結に際して、XとY社の間で、Xが本件商品のカタログ記載の価格にXの住
所までの送付費用を加えた売買代金全額をY社名義の甲国所在の銀行口座に振り込んで支払うこと
が合意されたが、それ以外の事項については、従前からの取引を通じて、XにおいてもY社の売買
契約書の記載内容を十分に承知していることを踏まえ、Y社の売買契約書の記載内容と同様の扱い
をすること(本件契約の準拠法を甲国法と定めることのほか、本件商品の引渡地や紛争解決方法に
ついては特段の定めをしないことなどが含まれる。)が合意された。なお、この時点では、XとY
社は、本件契約に関する契約書を作成していない。
XがY社から本件商品500セットを購入したのは、日本有数の百貨店チェーンであるA社から
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の依頼に基づくものであった。A社は、日本全国に展開する百貨店の各店舗において「甲国物産展」
を行うことを予定しており、その目玉商品として甲国製の食器皿を販売することとし、その仕入れ
をXに依頼していた。Xは、本件契約の締結後、直ちにA社との間で本件商品500セットの売買
契約(以下「転売契約」という。)を締結していた。
しかし、その後、本件商品について、使用されている顔料が人体の健康に重大な被害を及ぼすお
それがあるとの報道が世界各国でなされた。この報道を受けて、A社は、本件商品を「甲国物産展」
の目玉商品とすることを断念し、品質に関する契約不適合を理由として、Xに転売契約の解除を通
知した。
以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各問は独立した問いである。
また、甲国契約法には次の条文が置かれており、本件契約は、甲国契約法P条の「政令で定める
一定金額以上の物品売買契約」に該当するものであった。
【甲国契約法】
P条(一定金額以上の売買契約の方式)
政令で定める一定金額以上の物品売買契約は、当事者全員が署名した書面でしなければ、その効
力を生じない。
Q条(債務の履行の場所)
契約上の債務の履行をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権
発生の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所
がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない。
[設問1]
A社から転売契約の解除の通知を受けて、Xは、Y社に対し、Y社の債務不履行を理由に本件
契約を解除する旨を通知した(この時点で、Y社は、Xに売却する予定の本件商品500セット
について特定をしていなかった。)。そして、Xは、転売契約に係る自らの債務不履行責任の追
及を避けるとともに、A社を取引先としてつなぎとめるため、本件商品に代わる「甲国物産展」
の目玉商品となり得るものとして、急きょ、Z社製の食器皿500セットをZ社から購入し、転
売契約と同一価格でA社に提供することとした。このZ社製の食器皿は、本件商品と比べると高
額であったが、A社との間の転売契約で定められていた納期までに入手できる甲国製の食器皿は、
Z社製の食器皿しかなかった。A社は、このようなXの対応に満足し、XからZ社製の食器皿5
00セットを購入することにしたが、Xは、結果的に多額の赤字を計上することとなった。
そこで、Xは、Y社を被告として、本件契約に関するYの債務不履行によって被った損害の賠
償を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。本件訴えについて、
日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさい。
なお、甲国は、「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(以下「ウィーン売買条約」とい
う。)の締約国ではない。また、本件契約は、解除されるまで有効に成立していたものとする。
[設問2]
XとY社が口頭で本件契約を締結した当日に、Y社は、自らが署名した契約書2通をXの住所
宛てに発送し、Xが署名した上で1通を返送するよう依頼した。その翌日に、Xは、カタログ記
載価格に送付費用を加えた売買代金全額を、X名義の日本所在の銀行口座からY社名義の甲国所
在の銀行口座に振り込んで支払った。その後、Y社の署名がされた契約書2通がXの住所に届い
た。しかし、その翌日に、本件商品に関する報道がなされ、A社は、直ちにXに転売契約の解除
を通知した。
そこで、Xは、届いた契約書には署名をしないまま、本件契約は甲国契約法P条の方式要件を
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満たしていないから当初から効力を生じていないと主張し、Y社を被告として、支払済みの売買
代金全額の返還を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。
甲国がウィーン売買条約の締約国ではないとして、次の〔小問1〕及び〔小問2〕に答えなさ
い。なお、日本の裁判所の国際裁判管轄権について論じる必要はない。
〔小問1〕
XがY社にオンライン会合を求めたのは、Xが甲国に入国した直後に甲国内で外出禁止令が
出されたことが理由であった。Xは、甲国内で滞在していたホテルからY社とオンライン会合
を行っていた。この場合に、本件契約が当初から効力を生じていないとのXの主張が認められ
るかどうかについて論じなさい。
また、甲国において外国人の入国を全面的に制限する措置が採られていたために、甲国に渡
航することができなかったXが、自宅からY社とオンライン会合を行っていた場合はどうか、
論じなさい。
〔小問2〕
Xが主張する支払済みの売買代金全額の返還請求が認められるかどうかの問題について、日
本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
なお、本件訴えにおいて、本件契約が当初から効力を生じていないとのXの主張が認められ
ることを前提とする。
[設問3]
甲国は、ウィーン売買条約の締約国であり、同条約で認められる留保宣言を一切行っていない。
Xは、本件契約とは別途、自宅からY社とのオンライン会合を行い、Y社製の最高級ティーカッ
プ・セットを1セット購入する内容の売買契約を口頭で締結していた。Xが、日本の裁判所に係
属する民事訴訟において、この契約は方式要件を満たしていないため当初から効力を生じていな
いとの主張をしている場合に、日本の裁判所は、Xの当該主張が認められるかどうかの問題につ
いて、ウィーン売買条約を適用して判断すべきか。日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められる
ものとして、同条約第1条及び第2条の規定に触れつつ論じなさい(同条約のその他の条文につ
いて論じる必要はない。)。なお、この契約を締結する際、Xは、配偶者へのプレゼントとして
ティーカップ・セットを購入するものである旨をY社に伝えていた。