1第3章 ケーススタディ1地方公共団体やライフライン事業者からのヒアリング調査の結果、私道に関す2る工事の支障事例として様々な事例が収集された。これらの事例を大別すると、31私道の舗装に関する事例、2ライフラインに関する事例、3その他の事例に整4理することができる。5以下では、上記1〜3の類型ごとに法律関係を検討し、各種工事の実施のため6に同意が必要な範囲につき、基本的な考え方を示すこととする。7なお、舗装工事、ライフラインに関する工事等において、私道の舗装を剥がし8たり、新しく配水管を設置した後に再舗装をしたりする際には、その限度で私道9の利用を一時的に制限することになるし、どの範囲で私道が使用されるかについ10ての認識を共有することが紛争予防の観点からも重要である。そのため、実務上11は、工事事業者等から、私道の所有者(共有者)に対し施工範囲を明示して通知12をすることや、隣接地との境界付近で工事をする場合には必要に応じて境界を確13認するなどの措置を講じて、工事の円滑を図ることが重要と考えられる。141516 2
1 私道の舗装に関する事例1事例1 舗装の陥没事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和56年私道築造(砂利道)
・平成3年にアスファルト舗装
・延長17m,幅約4m
・路面が陥没しており,通行に支障が生じている
2.権利関係等の概要
・一筆の私道(下図青枠内)を1〜3が共有している(共有持分は各3分の1,1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・陥没部分の穴を塞いだ上で,路面をアスファルトで部分的に再舗装(×ばつ4m=16m2)
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法等が詳細に定めら
れており,これに従って工事を実施
・2及び3は工事に賛成
しろまる 共同所有型私道の一部が陥没し、補修工事が必要となったが,共有者の
一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
3賛成
公道
公道
1所在等不明
居宅
(私道の共有持分
なし)
2賛成
公道
【概略図】
1〜3の
共同所有型私道
要舗装箇所
要補修箇所23 3事例1 舗装の陥没事例(共同所有型)1事例のポイント2しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。3しろまる アスファルト道の路面が陥没し、通行に支障が生じており、通行人が陥没部4分につまずく危険もある。5しろまる 陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装して陥没前と同様の状態に修復6する工事を実施する。7しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。8しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施9工方法等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。1011
事例の検討12しろまる 上記のように地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法により、13舗装されたアスファルト道に生じた陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗14装して現状を維持する補修工事は、一般的には、共有物の保存行為に当たる。15したがって、各共有者が単独で補修工事を行うことができるため、2や3の16共有者が補修工事を行う場合には、民法上、1の共有者の同意を得る必要はな17い(改正前民法第 252 条ただし書、改正民法第 252 条第5項)。1819 4
事例2 舗装の陥没事例(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和56年私道築造(砂利道)
・平成3年にアスファルト舗装
・延長17m,幅約4m
・1所有の路面が陥没しており,通行に支障が生じている
2.権利関係等の概要
・3筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜3が各1筆ずつ所有(1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・陥没部分の穴を塞いだ上で,1所有の路面をアスファルトで部分的に再舗装(×ばつ4m=16m2)
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法等が詳細に定め
られており,これに従って工事を実施
・2及び3は工事に賛成
しろまる 相互持合型私道の一部が陥没し、補修工事が必要となったが,所有者
の一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
3賛成
公道
公道
1所在等不明
居宅
(私道の共有持分
なし)
2賛成
公道
【概略図】
3所有
1所有
2所有
要補修箇所
要舗装箇所12 5事例2 舗装の陥没事例(相互持合型)1事例のポイント2しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。3しろまる アスファルト道の路面が陥没し、通行に支障が生じており、通行人が陥没部4分につまずく危険もある。5しろまる 陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装して陥没前と同様の状態に修復6する工事を実施する。7しろまる 工事の実施主体は、2及び3の所有者である。8しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施9工方法等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。1011
事例の検討12しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅13地部分を要役地とし、他の者が所有する通路敷を通行のための承役地とする地14役権(民法第 280 条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。15しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有16者
(2及び3の所有者)
は、
地役権の目的に応じて、
承役地
(1の通路敷部分)17を利用することができる。18しろまる 本事例のように、舗装され、全面を通路として使用される私道については、19要役地所有者は、その全体を通路として自由に使用することができると考えら20れるため(最判平成 17 年3月 29 日裁判集民事 216 号 421 頁参照)
、一部に陥21没が生じて通行が阻害されている場合には、
要役地所有者
(2及び3の所有者)22は、承役地所有者(1の所有者)の同意がなくても、私道全体の通行を確保す23るために補修工事を実施することができると考えられる。24しろまる なお、1所有の通路敷部分が複数の共有者により構成されている場合で、そ25の一部が所在等不明であるときに、1所有の通路敷部分の陥没部分の穴を塞い26だ上で、
路面を部分的に再舗装する場合については、
当該筆のみに着目して
【事27例1】と同様に処理する選択肢もあると考えられる。2829 6事例3 全面再舗装事例(共同所有型)
しろまる 路面の一部に段差が生じ,全体的に老朽化している共同所有型私道全
体につき,アスファルト舗装工事を行いたいが,共有者の一部が所在等不
明のため,工事の同意を得られない事例
1.私道の概要
・平成15年築造(アスファルト舗装)
・延長40m,幅4m(最狭箇所幅3.2m)
・アスファルトの一部に段差が生じ(下図の模様部分),通行に支障が生じている
・アスファルト舗装が全体的に老朽化しており,段差が生じた部分以外にも,近い将来,通行に何ら
かの支障が生じるおそれがある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜6が共有(共有持分は各6分の1,3は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は,➀,2,4〜6
・路面をアスファルトで全面再舗装
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法等が詳細に定
められており,これに従って工事を実施
1〜6の共同所有型私道
公道
5賛成
➀賛成
3所在等不明 4賛成
2賛成
6賛成
【概略図】1 71事例3 全面再舗装事例(共同所有型)2事例のポイント3しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。4しろまる アスファルトの一部に段差が生じ、通行に支障が生じており、通行人がつま5ずく危険もある。6しろまる アスファルト舗装が全体に老朽化し、
段差が生じた部分以外にも、
近い将来、7通行に何らかの支障が生じることが予想され、段差をなくす工事を機に全面的8に再舗装することが合理的である。9しろまる 段差をなくすとともに、支障発生を予防するために、アスファルトで全面の10再舗装を行う。11しろまる 工事の実施主体は、1、2、4〜6の共有者である。12しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施13工方法等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。1415
事例の検討16しろまる 舗装されたアスファルト道の一部に段差が生じ、その部分についてのみ補修17工事をすることは、
一般的には、
共有物の保存行為に当たる(【事例1】
参照)。18
しろまる 他方、段差部分だけでなく、現時点で通行に支障がなく、道路としての機能19に問題がない部分を、近い将来に生じ得る支障を予防するために全面的に再舗20装工事を行うことは、全体として、共有物を改良する行為であると考えられる21から、一般的には、共有物の管理に関する事項に当たる(改正前民法第 252 条22本文、改正民法第 252 条第1項)。23
したがって、持分の価格に従い、その過半数の共有者の同意により、再舗装24工事を行うことができるから、3以外の共有者の同意に基づいて、工事を行う25ことができるものと考えられる。26しろまる なお、段差部分以外のアスファルトの老朽化が進み、早晩陥没が生じること27が予想されるような具体的徴候がある場合に、地方公共団体の助成制度の対象28となる材質・施工方法により再舗装工事を行うときには、一般的には、保存行29為に当たるものと考えられる。30 8
したがって、このような場合には、各共有者が単独で補修工事を行うことが1できるものと考えられる(改正前民法第 252 条ただし書、改正民法第 252 条第25項)。3 9事例4 全面再舗装事例(相互持合型)
しろまる 路面の一部に段差が生じ,全体的に老朽化している相互持合型私道の
全体につき,アスファルト舗装工事を行いたいが,所有者の一部が所在等
不明のため,工事の同意を得られない事例。1.私道の概要
・平成15年築造(アスファルト舗装)
・延長40m,幅4m(最狭箇所幅3.2m)
・アスファルトの一部に段差が生じ(下図の模様部分),通行に支障が生じている
・アスファルト舗装が全体的に老朽化しており,段差が生じた部分以外にも,近い将来,通行に何ら
かの支障が生じるおそれがある
2.権利関係等の概要
・6筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜6が1筆ずつ所有(3は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の主体は➀,2,4〜6
・路面をアスファルトで全面再舗装
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法等が詳細に定
められており,これに従って工事を実施
公道
5賛成
➀賛成
3所在等不明 4賛成
2賛成
6賛成
【概略図】
2所有
➀所有
3所有
4所有
5所有
6所有 101
事例4 全面再舗装事例(相互持合型)2事例のポイント3しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。4しろまる 1、4〜6の所有者が所有する私道部分のアスファルトに段差が生じ、通行に支障が生じてお5り、通行人がつまずく危険もある。6しろまる アスファルト舗装が全体に老朽化し、段差が生じた部分以外にも、近い将来、通行に何らかの7支障が生じることが予想され、
段差をなくす工事を機に全面的に再舗装することが合理的である。8しろまる 段差をなくすとともに、路面を強化するために、3の所有者が所有する私道部分も含め、アス9ファルトで全面の再舗装を行う。10しろまる 工事の実施主体は、1、2、4〜6の所有者である。11しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等が詳細に12定められており、これに従った工事を実施する。1314
事例の検討15しろまる 相互持合型私道においては、
特段の合意がない場合、
それぞれの所有する宅地部分を要役地と16し、他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする地役権(民法第280 条)が相互に黙17示的に設定されていることが多い。18しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(3の所有者以19外の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(3の所有する通路敷部分)を利用することが20できるが、通行を目的とする地役権の場合、承役地所有者は、要役地所有者による通行を受忍す21べき義務を負うにとどまる。22本事例では、通行に支障があるのは、1、4〜6の所有者が通路として提供している部分のみ23であり、3の所有者が提供している部分については、通行に支障がなく、通行地役権の行使自体24に支障はないから、特段の事情がない限り、承役地所有者が、再舗装工事を受忍すべき義務を負25うと考えることは困難である。26したがって、
再舗装に賛成している土地所有者が通路として提供している部分については再舗27装工事を行うことができるものの、
3の所有者が通路として提供している部分については、
再舗28装を行うことができない。29ただし、3の所有者が提供している部分についても、アスファルトの老朽化が進み、早晩陥没30が生ずることが予想されるような具体的兆候がある場合には、
要役地所有者による通行を保全す31るため、承役地所有者が再舗装工事を受忍すべき義務を負うことがあり得ると考えられる。32しろまる もっとも、1、2、4〜6の所有者は、3の所有者について不在者財産管理人等の選任申立33てを行うか、又は3の所有者の所有に係る通路部分の土地について所有者不明土地管理命令の34申立てを行い、選任された管理人から3の所有者が通路として提供している部分の再舗装につ35いての同意を得ることにより、私道全面の再舗装を行うことができると考えられる。36 11
しろまる なお、3所有の土地が複数の共有者により構成されている場合で、その一部が所在等不明で1あるときには、
【事例3】と同様、共有者の過半数で決することにより再舗装することができる2と考えられる。3 12
事例5 新規舗装の事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和41年築造(砂利道)
・延長20m,幅4m
・歩道として利用されているが,車の通行も可能
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜6が共有(共有持分は各6分の1,1は所在等不明)3.工事の概要
・工事の実施主体は2〜6
・車道としての利用を容易にするため,路面全体をアスファルトで新規舗装
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法
等が詳細に定められており,これに従って工事を実施
しろまる 砂利道である共同所有型私道につき,アスファルト舗装工事を行いたい
が,所有者の一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
1〜6の
共同所有型私道
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
公道
公道
公道
4賛成
5賛成
6賛成1 131事例5 新規舗装の事例(共同所有型)2事例のポイント3しろまる 未舗装の砂利道として利用されている。4しろまる 歩道として利用されているが、車の通行も可能である。車道としての利用を5容易にするため、砂利道をアスファルト舗装する。6しろまる 工事の実施主体は、2〜6の共有者である。7しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施8工方法等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。9事例の検討10しろまる 砂利道の舗装においては、一般に、砂利を除去した上で、路体・路床と呼ば11れる基盤層の上に、
下層路盤・上層路盤と呼ばれる層を整備し、
更にその上に、12基層・表層と呼ばれるアスファルト面を施工する。13しろまる これらの工事は、通路敷に工事を施し、アスファルト面等を土地に付合させ14るものと評価でき(民法第 242 条)
、物理的に変更を行うものであり、歩道か15ら車道への変更という意味で道路の機能を変えるものと評価することができ16る。17しろまる このようなことから、改正前民法の下では、砂利道である通路をアスファル18ト舗装する行為は、一般に、共有物に変更を加えるものであり、共有者全員の19同意が必要であると考えられてきた(改正前民法第 251 条)。20
しろまる 改正民法においては、共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用21の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の過半数で決定す22ることができることとされた。23そして、砂利道のアスファルト舗装は、一般に、形状に関しては、砂利を除24去して下層路盤・上層路盤を整備してアスファルト面を施工するなど、ある程25度の変更を伴うものの、形状を著しく変更するものではなく、また、効用に関26しても通路としての機能を向上させるに留まるものであるから、総合的に判断27すると、軽微変更に当たると考えられる。28そのため、本事例では、1〜6の所有者の持分の過半数の同意を得ることに29よって、路面をアスファルトに新規舗装する工事を行うことが可能と考えられ30る。31しろまる なお、上記のルールは、共有者の一部が所在等不明であるケースに限って適32用されるものではないため、例えば、本事例で2の所有者がアスファルト舗装33に反対しているケースであっても、3〜6の所有者(持分合計3分の2)の同34意があれば、舗装工事を行うことは可能であると考えられる。35しろまる また、
1の所有者のみならず、
2及び3の所有者もその所在等が不明の場合、36又は新規舗装に対する賛否を明らかにしない場合は、4〜6の共有者は、所定37 14
の手続に従い、裁判所の裁判を得て、所在等不明又は賛否不明の共有者以外の1共有者である4〜6の共有者の持分の過半数の決定により、舗装工事を行うこ2とが可能である。34 15事例6 新規舗装の事例(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和41年築造(砂利道)
・延長20m,幅4m
・歩道として利用されているが,車の通行は可能
2.権利関係等の概要
・6筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を6名が1筆ずつ所有(1は所在等不明)3.工事の概要
・工事の実施主体は2〜6
・車道としての利用を容易にするため,路面全体をアスファルトで新規舗装
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法
等が詳細に定められており,これに従って工事を実施
しろまる 砂利道である相互持合型私道につき,アスファルト舗装工事を行いたい
が,所有者の一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
3所有
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
公道
公道
公道
5所有
➀所有
4賛成
5賛成
6賛成
2所有
4所有
6所有12 16事例6 新規舗装の事例(相互持合型)1事例のポイント2しろまる 未舗装の砂利道として利用されている。3しろまる 歩道として利用されているが、車の通行も可能である。車道としての利用を4容易にするため、砂利道をアスファルト舗装する。5しろまる 工事の実施主体は、2〜6の所有者である。6しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施7工方法等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。89
事例の検討10しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅11地部分を要役地とし、他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする12地役権(民法第 280 条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。13しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有14者(1の所有者以外の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(1の所有15する通路敷部分)
を利用することができるが、
通行を目的とする地役権の場合、16承役地所有者は、要役地所有者による通行を受忍すべき義務を負うにとどまる。17しろまる 未舗装の道路としての通行に支障がない以上、他の者が所有する部分につい18て所有者の承諾なく路面をアスファルトに新規舗装する工事を行うことはで19きない。20本事例では、1の所有者の所有する土地についてはアスファルト舗装をする21ことができず、アスファルト舗装に賛成している土地所有者(1の所有者以外22の所有者)が通路として提供している部分については、アスファルト舗装する23ことが可能であるものの、1の所有者が通路として提供している部分について24は、舗装工事を行うことができない。25しろまる なお、2〜6の所有者は、1の所有者について不在者財産管理人等の選任申26立てを行うか、又は1の所有者の所有に係る通路部分の土地について所有者不27明土地管理命令の申立てを行い、選任された管理人から1の所有者が通路とし28て提供している部分の舗装についての同意を得ることにより、私道の整備を行29うことができると考えられる。30しろまる また、1が複数の共有者により構成されている場合で、その一部が所在等不31明であるときに、1の私道部分を新規にアスファルト舗装する場合については、32【事例5】と同様、共有者の持分の過半数の同意を得ることによって、新規舗33装をすることができると考えられる。343536 17
事例7 側溝再設置の事例
〜L形側溝付近のみ再舗装(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m,幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが,コンクリートの基礎がなく,段差が生じて
いる
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を 1〜3が共有(共有持分は各3分の1,1は所在等不明)3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度(各幅30cm程度)のアスファルトを剥がして老朽化
したL形側溝を撤去し,コンクリートで基礎を作って新たなL形側溝を設置し,必要な限
度(下図赤点線内)で再舗装する
しろまる 共同所有型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから,撤去の上
でL形側溝を新設し,路面の一部をアスファルトで再舗装する必要があるが,
共有者の一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
1〜3の
共同所有型私道
公道
L形側溝
老朽箇所
再舗装箇所12 181
事例7 側溝再設置の事例2〜L形側溝付近のみ再舗装(共同所有型)3事例のポイント4しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。5しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険も6ある。7しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいっ8たん剥がした上で再舗装する必要がある。9しろまる L形側溝を取り替えるとともに、必要な範囲で周囲のアスファルトの路面を10再舗装する工事を実施する。11しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。12しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定め13られており、これに従った工事を実施する。1415
事例の検討16しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、
段差が生じており、
通行に危険が生じるなど、17私道の機能に支障が生じている場合に、地方公共団体の助成制度の対象となる18材質・施工方法によりL形側溝の取替え及び取替えに必要な限度でL形側溝付19近の部分のアスファルトをいったん剥がして再舗装し、その現状を維持する行20為は、一般に、共有物の保存行為に該当するものと考えられる。21しろまる 本事例では、各共有者が単独で補修工事を行うことができるため、2や3の22共有者が補修工事を行う場合には、民法上、1の共有者の同意を得る必要はな23い(改正前民法第 252 条、改正民法第 252 条第5項)。2425 19
事例8 側溝再設置の事例
〜L形側溝付近のみ再舗装(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m,幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが,コンクリートの基礎がなく,段差が生じて
いる
2.権利関係等の概要
・3筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を3名が1筆ずつ所有(1は所在等不明)3.工事の概要
・工事実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度(各幅30cm程度)のアスファルトを剥がして老朽化し
たL形側溝を撤去し,コンクリートで基礎を作ってL形側溝を設置し,必要な限度(下図
赤点線内)で再舗装する
しろまる 相互持合型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから,撤去の上
でL形側溝を新設し,路面の一部をアスファルトで再舗装する必要があるが,
所有者の一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
3所有
1〜3の
共有私道
公道
L形側溝
再舗装箇所
➀所有
老朽箇所
2所有12 20事例8 側溝再設置の事例1〜L形側溝付近のみ再舗装(相互持合型)2事例のポイント3しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。4しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険が5ある。6しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいっ7たん剥がした上で再舗装する必要がある。8しろまる L形側溝を取り替えるとともに、必要な範囲で周囲のアスファルトの路面を9再舗装する工事を実施する。10しろまる 工事の実施主体は、2及び3の所有者である。11しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定め12られており、これに従った工事を実施する。1314
事例の検討15しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅16地部分を要役地とし、他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする17地役権(民法第 280 条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。18しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有19者(2及び3の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(1の所有する通20路敷部分)を利用することができる。21しろまる 本事例のように、舗装され、全面を通路として使用される私道については、22要役地所有者は、その全体を通路として自由に使用することができると考えら23れるところ(最判平成 17 年3月 29 日裁判集民事 216 号 241 頁参照)
、道路の24端であるとはいえ、L形側溝の一部に段差が生じて通行が阻害されている場合25には、要役地所有者(2及び3の所有者)は、承役地所有者(1の所有者)の26同意がなくても、私道全体の通行を確保するために、補修工事を実施すること27ができると考えることができる。28本事例の工事内容は、地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法29によりL形側溝の取替え及び取替えに必要な限度でL形側溝付近の部分のみア30スファルトをいったん剥がして再舗装するというものであり、私道全体の通行31を確保するために必要最小限の補修工事を実施しようとするものと評価でき、321の所有者は、
2や3の所有者による補修工事を受忍すべきものと考えられる。33しろまる なお、➀が複数の共有者で構成されている場合で、その一部が所在等不明で34あるときに、➀の私道部分のL形側溝を取り替えるとともに、必要な範囲で周35囲のアスファルトの路面を再舗装する場合については、
【事例7】と同様、そ36の土地の共有者の1人が保存行為として工事を行うことができると考えられ37 21
る。1 22
事例9 側溝再設置の事例
〜路面全体を再舗装(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m,幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが,全体的に老朽化して陥没し,段差が生じている
・アスファルト舗装については,特に損傷は生じていないが,全体的に老朽化している
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内) を1〜3が共有(共有持分は各3分の1,1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度のアスファルトを剥がして老朽化したL形側溝を撤去し,新たなL形
側溝を設置した上で路面全体を再舗装する
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法等が詳細に定め
られており,これに従って工事を実施
しろまる 共同所有型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから,撤去の上
でL形側溝を新設し,路面全体をアスファルトで再舗装したいが,共有者の
一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
1〜3の
共同所有型
私道
公道
L形側溝
老朽箇所12 231
事例9 側溝再設置の事例〜路面全体を再舗装
(共同所有型)2事例のポイント3しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。4しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険も5ある。6しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいっ7たん剥がした上で再舗装する必要がある。8しろまる アスファルト舗装については、
特に損傷は生じていないが、
全体に老朽化し、9近い将来、通行に何らかの支障が生じることが予想され、L形側溝の取替工事10を機に全面的に再舗装することが合理的である。11しろまる L形側溝を取り替えるとともに、これに必要な範囲に加え、アスファルトの12路面全体を再舗装する工事を実施する。13しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。14しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定め15られており、これに従った工事を実施する。1617
事例の検討18しろまる 老朽化したL形側溝を取り替えて現状を維持するためにはL形側溝付近の部19分のアスファルトのみを剥がした上で再舗装すれば足りる場合に、あえて特に20通行等に支障がないアスファルトの路面全体を再舗装する工事は、共有物の現21状を維持するにとどまらず、共有物を改良する行為であると考えられるから、22一般には、共有物の管理に関する事項に当たる。23したがって、共有者の持分の過半数で決することにより、工事を行うことが24できるから、2及び3の共有者の同意に基づいて、工事を行うことができるも25のと考えられる(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252 条第1項)。2627 24
事例10 側溝再設置の事例
〜路面全体を再舗装(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m,幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが,全体的に老朽化して陥没し,段差が生じている
・アスファルト舗装については,特に損傷は生じていないが,全体的に老朽化している
2.権利関係等の概要
・3筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を3名が1筆ずつ所有(1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度のアスファルトを剥がして老朽化したL形側溝を撤去し,新たなL形
側溝を設置した上で路面全体を再舗装する
・地方公共団体の助成制度において,助成対象となるアスファルトの材質,施工方法等が詳細に定
められており,これに従って工事を実施
しろまる 相互持合型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから,撤去の上
でL形側溝を新設し,路面全体をアスファルトで再舗装したいが,所有者の
一部が所在等不明のため,工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
3所有
1〜3の
共有私道
公道
L形側溝
➀所有
老朽箇所
2所有1 251 26
事例10 側溝再設置の事例〜路面全体を再舗装(相互持合型)1事例のポイント2しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。3しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険もある。4しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいったん剥が5した上で再舗装する必要がある。6しろまる アスファルト舗装については、特に損傷は生じていないが、全体に老朽化し、近い将7来、通行に何らかの支障が生じることが予想され、L形側溝の取替工事を機に全面的に8再舗装することが合理的である。9しろまる L形側溝を取り替えるとともに、これに必要な範囲に加え、アスファルトの路面全体10を再舗装する工事を実施する。11しろまる 工事の実施主体は、2及び3の所有者である。12しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定められてお13り、これに従った工事を実施する。1415
事例の検討16しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅地部分を17要役地とし、
他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする地役権
(民法第28018条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。19しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(2及20び3の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(1の所有する通路敷部分)を利用21することができるが、通行を目的とする地役権の場合、承役地所有者は、要役地所有者22による通行を受忍すべき義務を負うにとどまる。23しろまる もっとも、
本事例のように、
舗装され、
全面を通路として使用される私道については、24要役地所有者は、その全体を通路として自由に使用することができると考えられ、私道25全体の通行を確保する限度で補修工事を行い、
承役地所有者に受忍させることができる26ものと考えられる(最判平成17 年3月29 日裁判集民事216 号241 頁参照)。27
しろまる 本事例の工事のうち、通行に支障が生じているL形側溝の取替えと、それに必要な限28度のアスファルトの整備については、
私道全体の通行を確保するための必要最小限の工29事と評価でき、
1の所有者は、
2や3の所有者による工事を受忍すべき義務を負うと考30えられる(
【事例8】参照)。31
他方、それ以外のアスファルト部分については、通行に支障がないのであり、承役地32所有者にとって、通行地役権の行使に支障がない。このような場合には、L形側溝の取33替工事と同時に路面全体の再舗装工事を行わなければ通行に支障が生じるような事情34がない限り、1の所有者が、工事を受忍すべき義務を負うと考えることは困難である。35しろまる なお、2及び3の所有者は、1の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを36行うか、
又は1の所有者の所有に係る通路部分の土地について所有者不明土地管理命令37の申立てを行い、
選任された管理人から1の所有者が通路として提供している部分の舗38 27
装についての同意を得ることにより、私道の整備を行うことができると考えられる。1しろまる また、1が複数名による共有である場合で、その一部が所在等不明であるときに、12の私道部分をアスファルト舗装する場合については、
【事例9】と同様、過半数で決す3ることにより工事を行うことができると考えられる。45 28コラム ★熊本市に対して、現行の運用を要確認
地方公共団体の中には、住民の生活環境の改善を図るため、一般の交通の用に供され
ている私道の整備・舗装工事や、排水施設工事に要する費用の補助金を交付しているも
のがある。
共有私道の整備工事について補助金を交付する際には、当該私道の所有者全員の承諾
書を補助金申請の必要書類として定めている地方公共団体が多いところ、私道の整備の
必要性があるにもかかわらず、一部の所有者が所在等不明となり、その者の承諾書が得
られないため、
補助金交付申請ができないという支障が生じているケースがある。
特に、
費用が多額に上る工事の場合には、住民個人がその全額を負担することが困難なことも
少なくない。
そこで、補助金制度を置く地方公共団体の中でも、一定の条件の下で、所有者全員の
承諾書の提出がなくても、補助金を交付することができることとする先進的な取組を行
っているものがあるので、紹介する。
【熊本市の補助金交付制度】
熊本市は、私道の整備工事又は補修工事を行う者に対し、補助金を交付する制度を設
けている。
同市の従前の私道整備補助金制度は、工事施工箇所が複数人の共有となっている場合
には、全ての所有者の同意が得られていることを必要としていたが、補助金交付規則を
改正し、下記の要件が満たされ、全ての共有者の承諾書を得ることができないことにつ
き、市長が特別の理由があると認めるときは、承諾書の添付を省略することができるこ
ととした。
申請者は、
申請の際、
一部の共有者の承諾書が得られない理由を明らかにし、
工事終了後、当該共有者又はその関係人から異議が出た場合には、補助金交付申請をし
た共有者において対応することを誓約する旨の書面を提出することとされている。
《要件》
1 承諾書を得ることができない共有の土地の所有者の中に反対又は態度保留の意
思表示をしている者がいないこと。
2 土地の所有権の持分の割合の過半数の承諾書が提出されていること。
3 次のいずれかに該当すること。
ア 所在が確認できない(登記上の住所及び住民票上の住所に連絡文書を郵送し
ても宛先不明で返送された場合又は複数回郵送しても何ら応答がない。住民票
や戸籍の調査により登記上の所有者の死亡が確認され、法定相続人の住所に連
絡文書を郵送しても宛先不明で返送された場合又は複数回郵送しても何ら応答
がない。)。
イ 病気等により判断能力が欠け又は不十分で後見人等の代理人が存在しない。 29

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