どさんこ
第64回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
刑務所の受刑者や少年院の在院者は、施設の中で外部の専門
家の方々のご協力を得て、クラブ活動や矯正教育の時間に絵画
や書道、短歌などの作品づくりに取り組んでおり、これらの作
品を対象として年に1回、コンクールを行っています。コン
クールでは、各分野で活躍される専門家に審査をしていただい
ており、その結果、入賞した優秀作品を紹介します。
作品をとおして、彼らのことを知っていただくきっかけにな
れば幸いです。
美 術 部 門 P1
書 道 部 門 P5
ペン書道部門 P7
文 芸 部 門 P9
写生画 第一席『里山の八重桜』旭川刑務所I・Y点描で画面の隅々まで、丁寧に描かれている力作です。色彩や画面の構成もしっかりと描かれております。背景の樹木の表現や家屋の表現も見事で、描いた人の意気込みが画面から伝わってきます。写生画 第二席『夕焼』旭川刑務所A・Yこの作品も一席の作品と同じ題材で、描き方も同じ傾向の力作です。一筆一筆を心を込めて、描いた様子が伝わってきます。少々残念なのは、家屋の表現が絵全体の中でマッチしていないところが、一席の作品との違いでした。
写生画 第三席『四季』函館少年刑務所M・K写生画本来の表現は好感が持たれます。又、遠景・近景の表現に工夫が見られ、全体に柔らかな色彩が、見る人に魅力的な作品となっております。
美術部門1 2
自由画 第一席『波切り不動明王』旭川刑務所T・Tユニークな題材であり、独自の技法で表現した、個性的な作品です。絵全体が暗い印象を受けますが、青系の色彩を中心に、明暗や色の濃淡と強弱を生かした描き方に工夫が見られる作品です。
自由画 第二席『共存』函館少年刑務所A・R力強い画面構と色彩で見る人強い印象を与える作品です。中心に描かれた、人物と動物で共存を意識した作者の意図が良く表現されております。画面全体にも色々と工夫した描かれ方で、見る人を楽しませてくれます。
自由画 第三席『城とバイクと少しの桜』月形刑務所S・Y描く技法を色々と工夫した作品です。特に色のグラデーションが効果的で特色ある色面になっております。形も正確に描かれており、絵画に新しい技法を取り入れた作品です。 3
自由画 佳作
『 Tomorrow 』 函館少年刑務所 Y・K
写生画 佳作
『 海と雲と青 』 函館少年刑務所 T・S写生画佳作『道』函館少年刑務所S・S自由画佳作『竜虎』月形刑務所O・M自由画佳作『羅生門渡邉綱茨鬼童子』札幌刑務所S・K写生画佳作『サクラメント』札幌刑務所K・N 4総評【写生画】(成人の部)写生画は作者が観察した、風景や人物・静物等を作品に表現する絵画です。写生画はヨーロッパの印象派の画家が描いた作品が一般的に知られています。中でも風景を絵画として描いた作品が初めてと言われておりますが、今回の応募作品にも多く風景画が見られました。その中でも作者の独自の技法で表現した作品が入賞作品として選ばれました。【自由画】(成人の部)自由画部門では、それぞれ描いた本人の個性を充分に発揮した作品が多く見られました。絵画を通して、他の人に作家の思いや感じた事を、どのように伝えるかという工夫が必要ですが、入賞した作品は、いずれも個性的でユニークな作品が選ばれました。マンネリ的にならないで描く本人自身の個性的表現を今後も続けて欲しいと期待しております。【絵画】(少年の部)出品作品が少なく、入賞作品に該当する作品がありませんでした。出品された2点は、絵を描いた努力に佳作としました。さわやかな色彩で表現し、素直な気持ちで描かれております。絵画作品としては、もう少し質感や色彩に魅力的な面があると良かったと感じます。
絵画 佳作
『 静物画 』北海少年院 S・T
絵画 佳作
『 静物画 』北海少年院 I・H
入賞作品展の様子 5書道(成人の部)第一席『閑時自養神』旭川刑務所M・J爽快な一行書き作品です。流れと共に澄み切った墨線が映えます。自評にある「『曹全碑』を倣書した」と〜。扁平な造形の「時」や八分隷の払いの「閑」「養」によく表れています。この先の創作へと学び進めてください。
書道
(成人の部)
第二席『廿九日帖』網走刑務所N・S『廿九日帖』の臨書作品は、丁寧な習いのうちに法帖の意を充分に推し測っての書作です。「體中復何如」など気脈が通った連綿草が筆圧充分に書け、秀作です。書道(成人の部)第三席『蘭亭叙』札幌刑務所T・K古来多くの人々が習い、「究極の行書」と言われてきた『蘭亭叙』を明るく朗らかに、果敢に取り組んだ臨書作品です。伸びやかな筆致をさらに深めてください。
書道部門 6書道
(少年の部)
第一席『破邪顕正』帯広少年院S・E紙いっぱいに気力充実した書線が満ち広がっています。一画一画の力強さが終始一貫堂々と主張していて、威服の至りです。この意気込む姿勢を大事にしてください。総評【書道(成人の部)】今年は半紙サイズで自由な題材の作品も多く寄せられましたが、半切での臨書作品が良く書き込んであり、選定いたしました。悠久の歴史の中で、文字の誕生があったればこそ、豊かな文化が形成されたのです。中国の古典、日本の古筆には、時代の人々の想いが重ねられています。私は書を習いながらたくさんの生き様や美意識を探求しています。文字の点や画を筆で書くことで、一人一人の個性が出るものです。そこには多様な美が生まれます。麗しく、美しく、愛らしく、更に華やかな、悠かな文字文化へと尋ねてみませんか。【書道(少年の部)】自身の中から湧き出る想いを言葉にし、その上で書く意欲を掻き立てての出品作となったのでしょう。選びました作品は、実に素直に書作に打ち込んでいる様子が見えます。正々堂々と真正面からの身の構えに心が動かされました。気力を高め集中した作品は美しく、爽快な空間が広がっています。これからも努力を重ねてください。書道(少年の
部)第二席『一心不乱』帯広少年院T・F半切の大きな紙に正面から向き合った、言葉どおり一心不乱に書ききったのでしょう。飾り気なく、あるがままの書作に共鳴しています。
書道
(少年の部)
第三席『山川三千里』北海少年院I・R半紙作品ですが、五文字の一字一字を丁寧に書かれました。各々の文字の始筆終筆の筆構えもキリッと美しく上々です。山・三・千とくに秀逸。 7ペン書道
(成人の部)
第一席『独生独死独去独来』函館少年刑務所T・S題材の選び方が大変上手です。インパクトがあり、見る人をひきます。柔らかい顔の表現と衣の荒々しさ、文字の強さがマッチしています。ペン書道
部門
ペン書道(成人の部)第二席『日々の声』網走刑務所S・K枠に区分けして表現できたことは一歩前進です。中身の文章も「うん、うん。」と頷けるもので良かったです。
ペン書道(成人の部)
第三席『勧善懲悪』札幌刑務支所T・A黒と白抜きで面白い作品になりました。字形に改善の余地ありですが、思いつきが大変重要ですので、良いアイデアとして選びました。 8ペン書道(少年の部)第二席『銀河鉄道の夜』北海少年院H・Y丁寧に書かれていました。題名を効果的に配置したことで、作品が読みやすくなりました。また、行間も考え、余白も気にならないために第二席となりました。「え・へ」は癖字です。気を付けてください。総評【ペン書道(成人の部)】この度の成人の部の作品は、誤字・脱字が少なく、大変喜ばしいことでした。ただ、展覧会のための作品となると厳しい見方に変わってきます。誰が見ても読みやすい大きさ、体裁がとても大切になります。紙面に対する筆記具の選び方も考えなくてはなりません。文字数や大きさも重要です。昨今の日常生活では、文字を書く機会が少なくなり、正しくとかバランスなどの意識が薄れてきています。丁寧で美しい文字は輝きを持って扱われます。相手に伝わります。頑張ってください。【ペン書道(少年の部)】出品数が少ないのは時代の流れでしょうか。大変残念です。そんな中で作品を拝見しました。ボールペンは近くにあり、すぐに書けますが、作品となると用紙に対し構成がとても難しくなります。字数を増やしたり、工夫が必要になります。せっかくサインペンや筆ペンを使っても、にじんで判読ができなければ提出作品にはなりませんので気を付けましょう。(注記)少年の部第一席及び第三席は該当なし入賞作品展(ペン書道) の様子 9文芸
部門第一席曾祖母が夢に出てきて目が覚める必死に目を閉じまた会いに行く函館少年刑務所S・K第二席あんずアメ落として泣いた夏祭り父におこられ母にあやされ網走刑務所S・M第三席俯きて風を待ちをるすずらんのやうにゑまひし母の写真スナップ旭川刑務所T・T第一席大好きだった曾祖母に会えた。せっかく会えたのにそれは夢の中。目覚めとともに曾祖母の姿は消えてしまった。それでも会いたいので「目を閉じまた会いに行く」という内容がリズム良く詠われている。大好きだった亡き人が夢に現れたという短歌はよくあるが、「目を閉じまた会いに行く」というところがこの歌をとてもユニークな際立った歌にした。この短歌を読んでいると、思わず「会えただろうか、眠ってなんとかもう一度会えるように」と願ってしまう。曾祖母への思慕の念が込められている。第二席子どもの頃の夏祭りの思い出がその一コマを切り取って見事に詠われている。あんず飴は縁日に必ず目にするあの懐かしい赤い飴。そこに夏祭りの雰囲気すべてが郷愁を帯びて凝縮されており、あんず飴を落としたときの作者自身のなんとも悲しい気持ちとともに、「父におこられ母にあやされ」からほのぼのとした家族の情景も彷彿としてくる。夏祭りを思い出す度に、作者の胸にはあんず飴を落とした時のことが懐かしく蘇ってくるのだろう。第三席四句目までがすべて結句の亡き母の写真へと導かれていく。母のその一枚の写真を形容するのにどれほどの言葉の試行錯誤を重ねたであろうか。この母の写真にぴったりくる言葉。さがしているうちに「俯きて風を待ちをるすずらんのやうにゑまひし」という表現が生まれた。慎み深く可憐で優しいお母さんであったことがこの描写から伝わってくる。お母さんを想う作者の心情に心打たれる。こんな風に詠われたお母さんはきっと向こうの世界で喜んでいると思う。第一席こんなにも周りの人に支えられ愛されてると知った一年北海少年院S・A第二席夢の中あの日の君が笑ってた君と歩いた夏の砂浜北海少年院S・T第三席人間が穴を空けたオゾン層地球に施す緑の塗装北海少年院H・Y第一席少年院で過ごした一年は色々と辛いこともあったはずだが、「周りの人に支えられ愛されていると知った一年」であったことが素直に詠われている。そして、感謝の気持ちが「こんなにも」にはこもっている。あまりにも辛いときは周りの人に愛されていることに気づくことはできない。しかし、少年院で過ごしている日々のなかで、心に少しゆとりができて周りで支えてくれている人たちの存在に気づくことができた。これから前へ進んで行くための力を得た一年であった。第二席さわやかな夏の砂浜の映像が見えるようである。そこには大事な君がいて、笑っていた。楽しいシーンであるが、それは夢の中であったことがせつない。君はどうしているだろうか。夢を見て目が覚め、その余韻にしばらく浸っている。そのことを短歌に詠うことができた。夢の内容ではあるものの、「あの日」には過ぎ去った時への愛しさが込められ、君との思い出を大切に心にしまっていることが伝わってくる。第三席地球規模での気候変動が起こり、地球各地でさまざまな深刻な自然災害が起きている。自然災害を引き起こしたのは人間であることに目を向けている。フロン類をはじめとする温室効果ガスの排出は止まず、オゾン層に穴を空け、地球環境を破壊し続ける人間。しかし自然が蘇るよう努力することもできる。それが「緑の塗装」という言葉に込められていた。砂漠化した広大な大地に緑が戻るようあらためなければならないことが示唆された。総評【短歌(成人の部)】今年も力作が多く、選歌が大変だった。毎日の生活の中からの気付きや発見、自然、家族のこと、社会情勢、特に今年はコロナのこと、内容は変化に富んでいる。その中でも家族と離れて暮らしていることから、家族に思いを馳せる歌に心に残る歌が多かった。旭川、釧路、帯広、網走、月形では自然を詠った歌が多いという地域的な特徴が見られ、環境が短歌を作る際に影響していることがうかがわれた。また、自分の内面に向き合って真摯に詠っている歌も多くあり、どんな思いで日々の生活を送っているのかが伝わってきた。短歌は傍らにあって、自分を見つめる時に必ず「心の杖」として力を発揮してくれるので、どんな小さなことでも短歌という定型の力を借りて詠ってみてください。【短歌(少年の部)】北海道における少年院の減少に伴い短歌の応募数も少なかった。少ないながらもどの作品にも若者の感性が光っており、若い時でなければ詠めない短歌ばかりであった。言葉の選択においても若者ならではの特徴が見える。内容は思い出、今の生活の中からの気付きや発見、大きく世界に目を向けた時に感じたことなど多岐にわたっている。年齢を重ねてから振り返って若い頃の自分の短歌を読むと、その短歌によって若い頃の自分に改めて出会うことができるので、今作った作品を大切にしてほしい。短歌は自分を知るための助けになってくれる。そして、短歌を作る過程が自分の心を静かに見つめる時間を与えてくれる。思い出でも未来のことでも、もちろん今のことでも、どの時間にでも自在に思いを馳せて作ることができる。ルールは5・7・5・7・7の31文字に言葉を入れて詠むことだけなので、気軽に短歌を作る事に取り組んでください。
短歌
(成人の部・少年の部)成人の部少年の部 10第一席蜜柑むく南極点に指入れて函館少年刑務所S・H第二席食欲の無きを言ひつつメロン食ぶ旭川刑務所S・J第三席初暦こんな沢山明日がある旭川刑務所K・I第一席蜜柑の個体と見て柔らかな頭部に指を入れた。理屈からいうと北極点なのだろうが、どうでもいい。開放されたところで好きな様に食べることが楽しいのだ。第二席病みつづいて食欲が湧かない。これはメロンをすすめている方からの作品だ。熱があるのだろう。わずかながらメロンを食べる状態に安堵感さえ感じる句。第三席正月から始まる1年、本当にこんな希望の抱ける明日があるのだと感じた素直な気持ち。心機一転、良いことがいっぱい届きそうな期待感。第一席日の光心地良い風蕨あり帯広少年院K・R第二席火取虫こうありたいと目を閉じて北海少年院S・R第三席冬の空星を見ていた君もかな北海少年院S・A第一席「陽」は「日」に削添した。春光の風が心地よく吹く中に蕨の伸びる姿を発見。何と詩情の深い俳句だ。第二席灯に群れて翅を焦がしてしまうかもしれない火取虫。こうありたいと瞼を閉じる。作者に「こうありたい」の意を聞いてみたいが、作品として充分である。心情が胸を衝く。第三席恋心を抱く2人なのだろう。寒い中で星を見上げ、脇を見たら同じ様に相手を見上げていた時の感動なのだろう。恋は成就したのだろうか?総評【俳句(成人の部)】ここ数年来の佳句が揃った。刑務所によって偏りが見られるが、季題の無い作品がほとんど無くなったことは喜ばしい。札幌刑務所にも良い作品がたくさんあったが、作品の内容に負けた感じがする。札幌刑務所の「富士山の聞くより低し葱坊主」「幼子の握りしめたる春の風」「冷麦に一筋の赤終戦忌」などはレベルの高い作品だった。【俳句(少年の部)】成人の部と違い、応募数の少ないことに選ぶのに苦労をした。季題を入れて欲しいことを重ねて言い過ぎたのかと多少後悔もする。次年度、多数の出品を希望する。俳句
(成人の部・少年の部)成人の部少年の部 11第一席(成人の部)「あした」札幌刑務支所M・I過ぎてしまった日々は、もうかえられないでも、明日は変える事ができる。苦いできごとを思い出したら、そこから得たものを思い返そう。くやしかったあの日がよみがえったら、そこから学んだことを数えてみよう。マイナスばかりの事なんてありえない。ひとつのマイナスからは、たくさんのプラスが生まれているものだから。人に出来る事は、自分にだって出来る「だめだ」と思ったら、そこで、負け。わざわざ負ける事はない。可能性は、無限大。生きている限り続くもの。ピリオドは自分で打つもの。人の言葉で決める事じゃない。決めるのは自分。選ぶのは自分。責任くらい自分でとれる。人生はそれを生きる人のもの。何を言われたって気にしない。いつでもマイウェイ、マイペース。それが幸せをつかむ道。誰でも心の内に天使と悪魔がいるから、生きていれば悪魔と出逢う事だって、ある。でも小さな悪魔なんかに、負けない。いじわるなんかに負けない。悪口なんかに、負けない。負けない、そう決めれば、もう、誰も、あなたを傷つけたりは、できない。詩(成人の部・少年の部)第二席(成人の部)「逆境のつぼみ」旭川刑務所M・J鉄格子のある独居の窓から見える桜の木も雪を枝に積もらせ寒さで凍えているような様子でした私は抗ガン剤の厳しい副作用と闘いながら窓からじっと寒さをこらえて春を待つ桜の木を眺めるのが日課でしたすると今迄何十年も生きてきて味わったことのないある感動に出逢ったのですそれは寒さに震えながらも桜の木の枝先についている「つぼみ」が毎日少しずつ膨らんでいくことに気付いたからでした私は日ごと膨らむ「つぼみ」を見つめ続けましたまるで雪をかぶって枯れているのではないかと見間違うこの桜の木も一生懸命生きているのだ厳しい逆境の中でも必死に生きているいや、只単に生きているというだけではなく必ず来るであろう春に綺麗な花を咲かせるために毎日毎日今できる努力を精一杯しているそして天の理によって花を咲かせる時をじっと待っているのだどんな逆境にあっても天を信じ春に向けて「つぼみ」を膨らます努力を懸命に続けている姿はなんと美しいのだろう私もこの桜の木に負けてはいけないぞ私にもも必ずや天は時を与えてくれる筈だそれを信じようそして桜の木のように今できる努力を精一杯やろうそれが大事であり、それが明日に向かって生きる力となり希望となる鉄格子越しに見る真冬の桜の木の健気な姿が私に生きる勇気と希望を力強く訴え、そして後押ししてくれたのでした第三席(成人の部)「ガンガー」旭川刑務所K・H彼女は耽美な姿で横たわる。ときに産み、育み、癒し、潤し、抱く。またときに怒り、暴れ、奪い、殺す。その明暗は神の顕現にほかならず畏怖と尊敬を一身にあつめる。彼女は色や姿を変えながら大地に横たわる清浄に清潔に豊饒に流れる。しかしいつか彼女は汚され穢され冒涜されても流れる。その表裏は愚かな人々の行いを無垢へと誘い続けるための具現。この世の全ての事象を秘め持つ彼女。その体内に抱かれるとき人々はいつも生の喜びと安らかな死への憧憬を体現するのであろう。だから人々は今日も彼女に願い祈りそして抱かれる。彼女は彼女が滅するその日まで滔々と海に飲みこまれる日まで悠然と大地に横たわり続けるであろう。悔恨に沈りんしたままではいけない。人は人、私は私。前を見据え、胸に宿るささやきとも決別。自分をしっかり鍛え直そうとする決意がうかがえます。部屋の窓から臨める桜木、枝。枝先に見えるつぼみ。厳冬の季節、風雪を耐えながらも力強く生きている。その姿を見るにつけ、自らの胸中には希望が励ましとなって湧いてくるのです。インドヒンドゥー教徒が崇拝する川ガンジス川。気持ちを込めてガンガーとも。悠久の昔からインド大陸を貫いてベンガル湾に注ぐ大河の情景を擬人化し、千変万化する川の表情を巧みに描いています。第一席(少年の部)「一歩」北海少年院H・T一歩また一歩前に歩いてるそれでも全然足りなくて次は道を変えて歩いてるこの道は前の道より大変で右に行ったり、左に行ったり時には上に行ったり、下に行ったり山があったり、穴があったりつらくて、せつなくて何ども止まりそうになったけど耳元で「また逃げるのか」「口だけか」「おまえじゃムリなのか」と聞こえてくるから悔しくて一歩また一歩前に進む。人々に豊潤をあたえ人々の信仰をあつめながら永遠の神の恵み、いつまでも神々しくあれ、嗚呼、母なるガンジスよ。一語一語から、今の自分と戦いながら、一歩一歩歩むリズムが感じられる優れた表現の詩です。一歩一歩の積み重ねが自分であり、自分のこれからの人生です。辛いことが多くても、前を向くことを忘れなければ、後から喜びや楽しさは必ずついてきます。実は、多くの人々もそうして歩いているのです。 12短い言葉と言葉が織りなす夢のような世界。優しい風や夏の香り、忘れられぬ人、雨音がアンサンブルとなって聞こえる世界。その中で湧き上がる忘れかけた思いと自分。個性的な表現で描かれた自分の心象風景と生きるエネルギーが静かに伝わります。気持ちをうまく伝えられないもどかしさと伝えたい思いの強さが、上手に表現されています。伝えることをあきらめない素直な自分。その純粋な素直さが、自分の成長をうながします。そして、互いの気持ちを伝え合う喜びへと確実に近づけることでしょう。総評【詩(成人の部)】心と言葉を結んで生まれたものが詩であるとするならば、それは全く自分だけに宿る唯一、自分だけの営み、創造と申しても過言ではありません。この営みを大切にしてください。凝縮した言葉を自在に使っての表現は、詩創作の原点です。寄せられた作品には、体験、悔恨、思い出(追想)、恋愛、家族愛、季節のうつろい等々、内容は実に様々です。読むにつけ、皆さんの息づかいが身近に伝わってきます。【詩(少年の部)】ここ3年間の応募作品数は、平成30年度は9点、令和元年度は5点、そして令和2年度は3点でした。各作品から、作者の人生や個性、思いが伝わってきました。それは心の奥のさらに奥の声なのかもしれません。おごそかな気持ちで耳を傾けずにはいられませんでした。詩を書こうとして自分と向き合っていると、現在の自分と過去の自分、自分のこれまでの歩みや人との様々な出会いが浮かびます。苦い後悔や、火花のような楽しさなど、その時々の思いがよみがえっては消えていく不思議な時間です。そのようなとき、心の中のリズムにのって、詩がつくられます。できた作品は自分の分身です。実にかわいいものです。詩を書くことで、正直な自分と向き合えるならば、とても貴重な時間だと思います。だれでもが詩を書きたいと思うものではありません。だれでもが詩で表したいと思うものがあるわけでもありません。詩を書く行為、書きたいという思いそのものが、一つのかけがえのない個性です。詩を書くことを楽しみ、書くことで新しい自分を見つけることができるならば、未来の自分を支え、形作る確かな手段だと思います。
入賞作品展(詩) の様子第二席(少年の部)「夢遊」北海少年院H・E灰色の空と僕と、誰の為の雨音。黒く塗り潰した昨日の中にあなたを探した。今にも消えそうな美しい泡。あなたは夏の匂いがした。傘に落ちる雨音が奏でる。僕独りの為のアンサンブル。数え切れぬ過ちと、共に生きる今日も。悲しみや痛みさえも僕を見捨てたように空虚だけが残った。水々しい夏の香りを運んだ風が身体をすり抜ける。立ちつくす僕を見て木々はせせら笑った。風に揺られ手を振る。あなたに重なる。薄い水色の錠剤を口に放る。2、3粒。喜びや嬉しさ、何かを愛しく思う気持ちすら忘れた。藍い時間、孤独と抱き合い、溶けるよう混ざり合う。彷徨っていた煙は、導かれるように雨の外へ消えた。あなたの傘をさす。取り憑かれたようにアンサンブルを聴きに出る。第三席(少年の部)「裸足」紫明女子学院W・M自分の気持ちを伝えたい。でもなかなかうまく伝えられない。自分の気持ちを伝えることができた。でも相手には伝わっていない。自分の気持ちを伝えたい。でもどうせ伝わらない。自分の気持ちを伝えよう。気づいたときにはあともどりできなくなっていた。暴力でしか自分の気持ちを伝えてこなかった。だから言葉じゃうまく伝わらない。それでもあきらめず言葉で気持ちを伝えたい。入賞作品展の様子 13随筆(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
札幌拘置支所
I・Y
まさかの裏で
苦しみながらも、一致団結して目標を達成したチーム仲間の
喜び、生き生きとした躍動感が手にとるように伝わってきま
す。筆の力もすばらしい。
第二席
月形刑務所
H・K
「社会奉仕作業」
私たちの生活は、孤立して営むことはできません。互いにお
陰を被って生きているのです。コロナ撲滅の最前線で、今現在
もご苦労されている関係者に側面から援助の手を差し伸べてい
るあなた。
お母様の言葉を励ましとして、立派にお仕事を続けてくださ
い。
第三席
函館少年刑務所所
T・S
『「龍」の字と
「翔」の字』
『三国志』の英雄の一人、曹操には、兄曹丕、弟曹植という
二人の子供がいましたが、この兄弟、父没後も心の緊張を解く
ことはなかった。同じ血を分けた兄弟でありながら誤解し続け
たあなた。お兄さんの真意を今に至り理解できた。すばらしい
ことです。仲の良い兄弟は美しい。
今年度令和3年文芸コンクール随筆部門には、道内7つの施設より、24点に及ぶ作品が寄せられました。
昨年同様、今年も暑い中、また、いまだ収束をみないコロナ禍の中で、原稿用紙に向かっているみなさんの姿を
想像しながら読みました。
寄せられた各々の作品から、水準が高くなってきているとの印象を率直に受けました。具体的なこととして、内
容、構成、用語の使い方などから、それを指摘することができます。また、具体的な事象として、自らの心情を巧
みに書き加えて内容を豊かに展開するなど、表現方法に工夫が見られ、個々一つ一つの作品が、より深いものに
なっています。
読書感想文(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
月形刑務所
K・K
「おむすびの祈り」
我が国では、一時期代用食なる言葉が身近にありました。飽
食の時代と言われる昨今、誠に隔世の感があります。「森のイ
キアス」を主宰し、疲れた人ひとりひとりにおむすびを用意し
て、励まし続けた佐藤初女さんのふるまいは、誠にすばらし
く、あなた同様私も心洗われる思いです。
第二席
札幌刑務支所
O・R
『星の王子さま』
を読んで
原題は『プチ・フランス・小さな王子』です。フランス文学
の泰斗、内藤濯先生は、"星の王子様"と訳し、純粋な心の愛
を原作以上に私たちに語りかけてくれます。
読んで得たものを自分の中心に据えながらの展開、あなたの
内なる成長の様子が、文意からうかがい知ることができます。
第三席
札幌拘置支所
I・Y
『ハチ公物語-
待ち続けた犬-』
を読んで
その頃、映画教室で、コリー犬を主役にしたアメリカ映画を
よく観ました。飼い主に忠実で賢いラッシーの物語です。しか
し、これは秋田犬ハチと飼い主上野博士との心温まる交流を描
いたノン・フィクションです。生き物と一緒の生活は、"私心
なく、家族の一員として遇することを忘れてはいけない。"こ
の哲理がハチをとらえたのでしょう。
今年度令和3年文芸コンクール読書感想文部門には道内七つの施設から22点に及ぶ作品が寄せられました。この分
野の基本は申すまでもなく、本です。
本を読み、そこから得た感想を書き述べることです。しかし、どんな本でも感想文は書けるかというとそれは難し
い。感想文が書ける、読んで還送が生まれるとは、作品内容に共感できる、読み手の心が広がる、心がゆすぶられる等
が、基底にある本を選書することが求められます。
今回読んだどなたかの作品の中に、"本は知識の海である"との文言に出会いました。誠に至言と感じました。 14作 者 タイトル 講 評
第一席
北海少年院
I・R
「幸せ」とは
何なのか
自分にとっての幸せとは何かをじっくり考えたことが、かけ
がえのない自分の人生にとって大きな意味をもつと思われま
す。自分の願う幸せのためには、自分の成長と、他の人も幸せ
を感ずることが大切との気づきに到達しています。幸せを求め
て堂々と歩んでいってください。
第二席
北海少年院
H・K
僕の中の
「確かなもの」
先生方の応援や言葉から得たものが自分の中に着実に積み上
がっていき、新しい自分の育っていく姿が読み取れました。失
敗から学んだことを土台として、より粘り強く確かな自分へと
成長していく一歩が始まりました。大事な一歩です。
第三席
北海少年院
S・Y
一生大事にしたい
感謝の気持ち
お世話になっている人へ感謝の気持ちを持つとともに、それ
ばかりか、嫌なことなどあらゆることに感謝するというのは、
簡単ではありません。しかし、あらゆることから学ぼうとする
姿勢が伝わります。学びの先にあるなりたい自分に向かって、
前進あるのみです。
読書感想部門から「作文」部門に移行して8年目。応募作品数は、令和元年度3点、令和2年度4点、そして令
和3年度は3点でした。
それぞれの作品に共通していたことは、将来の自分、なりたい自分を思い描く姿でした。どのような自分になり
たいか、自分にとっての幸せとは何かということをじっくり考えることが、それぞれの自分の個性を引き出してい
ました。長い人生において、自分とは何か、どういう自分になりたいのかをじっくり考える時間は、とても貴重で
大事だと思います。普段の生活の中で、何かをしていても、友達と遊んでいても、なりたい自分をじっくり考える
時間は、ありそうでないからです。日常の中で、つい目の前の苦しさや楽しさに心を奪われることが多いからで
す。
書くことは考えることだといわれます。各ことは自分を見つめることです。内省や内観を通して、自分と向き合
い、自分が思った「なりたい自分」は本物の願いです。
とりあえず書いてみると、描いたことが本当かウソかを見抜く、もう一人の自分が現れます。その自分の前では
ウソは書けません。その結果、納得がいくまで、書いたり書き直したりします。書くことはそのような作業を繰り
返しながら、自分をいつのまにか成長させてくれます。成長した自分は、現実世界に戻っても、自分の中のどこか
に必ず生きています。
さて、人生は、小さな選択の連続です。新しい自分づくりにおいても大切な選択をする場面がきっと訪れます。
「書くこと」で鍛えた自分が、迷った自分に対して、知恵と勇気を与えて正しい判断の後押しをしてくれる優しい
自分になると信じます。
作文(少年の部)
毎年冬に開催している作品展
では、各部門の第一席から第三
席までの入賞作品を展示しま
す。詳細は法務省ホームページ
内の「札幌矯正管区フロントペー
ジ」に掲載します。
札幌矯正管区フロントページ
【札幌矯正管区フロントページ】
第64回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
令和4年2月 発 行
編集・発行 札幌矯正管区第三部
発 行 所 札幌市東区東苗穂1-2-5-5
TEL 011(783)5063
FAX 011(780)2207

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