公的機関による養育費の履行の確保等に
関する諸外国の制度例について
令和2年12月 法務省民事局
公的機関による養育費の履行の確保等に関する諸外国の制度例
概要
ドイツ フランス スウェーデン フィンランド イギリス
(イングランド
及びウェールズ)米国
(カリフォルニア州
/ニューヨーク州)
韓国
公的機関の
財政負担で,
未払い養育
費を養育費
権利者に支
払う制度
(いわゆる
立替払い制度)○しろまる養育費立
替払い制度
○しろまる社会保障
給付を行っ
た行政機関
による求償
○しろまる家族給付支給
機関による立替
払い制度(上記
機関は養育費債
権者に代位する)○しろまる養育費立替
え払い制度
○しろまる養育費立替
え払い制度
○しろまる養育費一時
緊急支援制度
(一定期間,
一定額の支
援・徴収制度)養育費支払
義務者から
強制的に徴
収する制度
(いわゆる
強制徴収制度)○しろまる公的取立て制
度(税の徴収官
による取立て)
○しろまる第三債務者か
らの直接払い制度○しろまる家族給付支給
機関による取立
て(公的取立
て・直接払い)
○しろまるCMSによる
給与天引き,強
制執行等
○しろまる給与天引き制度
○しろまる税金還付との相殺,
宝くじの賞金や失業
保険の没収等
○しろまる養育費直接
支給命令制度
(給与天引き
制度)
○しろまる担保提供命
令・一時金支
給命令・履行
命令・監置命
令等
その他 ○しろまる少年局に
よる援助
(合意形成
や裁判手続
等に関する
援助)
○しろまる刑事罰等
○しろまる家族給付支給機
関による支払の仲
介,取立ての援助,
一部の合意に対す
る執行力の付与
○しろまる刑事罰等
○しろまる行政機関によ
る当事者間の合
意への執行力付与○しろまる地方自治体に
おける支援(助
言や共同対話等)○しろまる行政機関に
よる当事者間
の合意への執
行力付与
○しろまる行政機関に
よる養育費に
関する訴訟の
提起
○しろまるCMSを利用し
たサービス(CM
Sを介在させた取
決め等)
○しろまるCMSによる収
監や運転免許の没
収等の申立て等
○しろまるパスポートの取
得や保持の制限
○しろまる連邦及び州の登録制
度(養育費事案の各種
情報を登録し,養育費
支払義務者の所在調査
等に用いる)
○しろまる裁判手続に関する援
助等
○しろまる運転免許の停止,裁
判所侮辱罪の適用等
○しろまる家庭法院に
よる養育費負
担調書への執
行力付与(協
議離婚)
○しろまる養育費履行
管理院による
支援
ドイツ
子と同居し,単独で監護養育している親を支援するための社会保障給付であり,別居親が子に対して養育費を支払わ
ない,又は不定期にしか支払わない場合,生活保護を受給していないなどの要件を満たす18歳未満の子は,養育費立
替払い制度によって給付を受けることができる。法定されている最低養育費の金額(6歳未満の子が月額369ユーロ,
7歳以上12歳未満の子が424ユーロ,12歳以上18歳未満の子が497ユーロ。1ユーロは約120円。)が子
に支払われ,支払を行った行政機関は,その金額の範囲で債権の法定移転を受け,扶養義務者に対して求償することが
できる。
扶養を必要とする子が養育費の支払を受けることができない場合には,公法上の社会保障に基づく社会扶助を受ける
ことができる。社会扶助が民事法上の扶養義務に劣後する場合は,給付を行った行政機関に養育費の支払に関する債権
と民事上の情報提供を求める権利が移転し,行政機関は,それに基づいて扶養義務者に対して求償できる。
少年局において,1養育費の金額決定や関係者間の合意形成を対象とする援助,2養育費をめぐる裁判手続における
援助(援助人として子を代理する。),3強制執行を行う場合の援助,4養育費金額の変更の際の援助などのサービス
を無料で受けることができる。
扶養義務者が扶養義務を履行しないことによって,扶養権利者の生活維持を危険にさらす場合は,刑事責任が科され
得る(刑法第170条第1項。ただし,扶養権利者の要扶養性や扶養義務者の支払能力を審査する必要があり,実務上,
同項の構成要件該当性を判断することは容易ではないとされる。)。また,この規定は,不法行為に基づく損害賠償請
求の法的根拠にもなる。
養育費立替払い制度
社会保障給付機関による求償
行政機関(少年局)による援助
その他
フランス
家族給付(社会保障給付の一つ)を支給する機関が,未払いの養育費についての前払いとして,家族給付の一つである
家族支援手当を債権者に支払い,債権者に代位して,債務者から養育費を取り立てることができる。家族支援手当の額は,
子一人につき月額115.99ユーロ(1ユーロは約120円)であり,対象となる子の年齢は20歳未満である。家族
支援手当の受給権を有する親が婚姻したときや内縁関係にあるときなどは,支給は終了する。
取り立てる方法としては,以下の公的取立ての手続や直接払い等強制執行の手続がある。
強制執行により扶養定期金の全部又は一部の弁済を受けることができなかった場合,債権者の検察官に対する申立てに
基づき,公会計官が,直接税を徴収する方法等で,債権者のために扶養定期金を取り立てることができる(家族給付支給
機関が債権者に代位するときは特則がある。)。公会計官は,取り立てるべき扶養定期金の額の10%を増額して徴収し,
この増額分は取立費用として国庫に納める。
扶養定期金債権のための特別な強制執行であり,第三債務者(債務者の雇用者や銀行等)に対する直接払いの請求の送達
により,第三債務者は,履行期が到来した定期金の額を債権者に直接支払う義務を負う。
請求又は裁判所の職権により,家族給付を支給する機関による支払の仲介が認められ得る(従来は,債権者又は子が債
務者のDV被害者である場合に限定されていたが,2021年から一般的に利用可能となる。 )。支払の仲介が実施され
ると,債務者は上記機関に対して扶養定期金を支払うこととなり,支払を怠ると,上記機関が,立替払いをしたり,任意
の履行の促し,直接払い,公的取立て等の手続を用いて取立てを行う。
家族給付支給機関は,取立ての援助や一定の合意に対する執行力の付与も行う。同機関と連携し,養育費の取立てを専
門に行う国の機関(ARIPA)が近時創設された。
また,債務名義がある扶養定期金等の不履行は,家族遺棄罪に該当し得る。扶養定期金等の債務者が,債権者又は支払
仲介者である家族給付支給機関に対し,住所の変更を1か月以内に通知しない場合等についても刑事罰が定められている。
その他
家族給付支給機関による支払仲介制度
直接払い制度
公的取立て制度
家族給付支給機関による立替払い制度
スウェーデン
父母は,協議により養育費に関する契約を締結することができるが,その契約は,社会福祉委員会の
承認を得ることにより裁判上の決定と同じ効力を有する。
子と同居する親がスウェーデンに居住し,他方の親が養育費を支払わない,適切な時期に支払わない
などの場合は,国から養育費補助を受けることができる。養育費支払義務者の支払う養育費が子の年齢
に応じて法定されている金額(11歳未満の子が月額1573クローナ,11歳以上15歳未満の子が
1723クローナ,15歳以上18歳未満の子が2073クローナ。1クローナは約12円。)を下回
る場合は,権利者の申請に基づき,養育費補助を受けることができる。社会保険事務所は,権利者の収
入や子の数などに基づいて支払金額を決定し,社会保険事務所が養育費補助を支払うと,支払義務者は
社会保険事務所にその金額を支払わなければならない。
養育費補助は,両親が別居した翌月又は養育費補助給付の受給権が発生した月の翌月から支給される
が,申請月の1か月以上を遡って支給することはできない。
養育費に関して当事者間で合意に至らない場合,社会サービス法に基づき,コミューン(地方自治
体)による助言,共同対話等の合意に達するための支援を無料で受けることができる。
国による立替払い制度
取決めの効力
その他
フィンランド
養育費の金額や支払方法は父母の合意又は裁判所によって決定されるが,父母の取決めであっても,
社会福祉事務所の承認を受けると判決と同様に執行力を有する。養育費額については,法務省によりガ
イドラインが定められており,参考とすることができる(法的拘束力はない)。
養育費支払義務者が養育費を支払わない場合や支払が十分ではない場合等において,同居親又は子
(15歳以上の場合)等の請求に基づき,公費から養育費手当が支給される。フィンランド社会保険機
関(Kela)が,養育費手当の支給及び支払義務者からの回収を担う。
養育費手当の額は,支払義務者の支払能力,支払状況等を踏まえて決定される(最高で月額167.
01ユーロ。1ユーロは約120円。)。養育費手当の支給は,支給要件を満たす月の初日から認めら
れ,原則として,子が18歳に達するか,支給要件を満たさなくなった場合等に終了する。
支払義務を負う親は,Kelaに対して養育費全額を送付しなくてはならず,一括で未払いの養育費
を支払うことができない場合は,Kelaとの間で支払計画を立てることができる。支払義務者が,連
絡なく養育費債務を履行しないときは,強制執行手続によって回収されるが,フィンランドでは国民の
勤務先,預金口座,不動産等の情報は政府が一元的に把握しており,これを用いて支払義務者から給与
や還付金の天引き等の方法により回収することになる。
子への扶養が行われていない場合,又は確定した子の扶養請求権が十分でない場合等において,社会
福祉事務所の機関が,子のために,養育費額の確定や増額に関する訴訟を提起することが認められてい
る。
取決めの効力
立替払い制度
その他
イギリス(イングランド及びウェールズ)
養育費の取決め方法として,当事者間の自主的な合意のほか,CMS(Child Maintenance Service)
を利用する法定取決めの2種類があるが,基本的に当事者間での合意が推奨されている。CMSを利用
した取決めには2種類あり,1CMSを介さずに支払義務者から権利者に直接支払うという方法,2C
MSが介在し,支払義務者から養育費額に回数手数料20%上乗せした額をCMSが回収し,権利者に
対して,養育費額から支払手数料4%を差し引いた金額を支払うという方法がある(ただし,2を利用
できるのは,支払義務者が同意している場合等に限られる。)。
CMSを利用した養育費支払義務の履行の強制は,CMSの裁量に委ねられ,権利者が直接請求する
ことや裁判所に訴えることはできない。CMSは状況に応じて分割払いによる受領や回収不能処理をす
ることができる。履行強制の例として,支払義務者の雇用主に対して,子の養育費を支払義務者の所得
から直接又は銀行口座から差し引くことが規定されている。
これが不可能又は不奏功の場合は,CMSは治安判事裁判所に「責任決定」を申し立て,責任決定に
より差押え等の強制執行がされる。これも失敗したときは,非同居親を刑務所に収監する令状の請求や
運転免許証の没収等を申し立てることができる。
養育費の支払がされない場合において,不履行の親に対するパスポートの取得および保持の制限が課
され得る。
CMSを利用したサービス
履行強制方法
その他
米国(カリフォルニア州)
養育費履行確保を専門とする連邦の保険・対人サービス省養育費強制庁及び各州(郡)の養育費局の下,養育費支払
命令や新規雇用者の登録,自動的な給与天引き,租税還付金の差押え等の迅速な執行手続が義務付けられている。各州
は事件の登録システムを整備し,養育費事案における標準的な情報(氏名,社会保障番号,子の誕生日等)を登録し,
これらの情報は連邦の事件登録システムに送られ,これを使って養育費支払義務者の居所を突き止める。
裁判所は,養育費支払命令において,原則として給与天引きも同時に命じる。地方養育費局(LCSA)が関与して
いる場合には,支払義務者の雇用主に通知が送られ,給与から天引きされた養育費相当額が州政府機関に支払われた後,
権利者に送金される。養育費の天引きは配偶者やパートナーの扶養よりも優先される。
銀行預金や不動産の差押え,税金還付との相殺や宝くじの賞金の没収,運転免許やパスポートの一時停止,専門的・
職業的免許の取消し,裁判所侮辱罪の適用などの措置がとられる。
Family Law Facilitatorは,当事者が裁判所に提出する書類作成を無料で手伝い,ガイドラインを利用して養育費を
計算し,裁判所の手続を教示する法律家(弁護士)であり,当事者の代理をしてはならず,双方の親にサービスを提供
する。
LCSAは,権利者が公的援助を受けている場合には,自動的に支払義務者に対して養育費請求訴訟を提起するなど
のサービスを提供している(公的援助を受けていない者も,申立てにより利用可能)。
給与天引き制度
未払いに対する履行確保制度
その他
登録制度(ニューヨーク州も共通)
米国(ニューヨーク州)
子が公的扶助を受けている場合や社会保障法に基づいて養育費支払命令が執行されている場合等には,裁判所は,養
育費を政府機関(SCU)に支払うよう命じなければならず,SCUは,原則として即時に給与天引き命令を発しなけ
ればならない。なお,公的扶助を受けていない者も,SCUへの支払を命じるよう申し立てることができる(有料)。
公的扶助を受けていない者又は社会保障法に従ったサービスを受けていない者について裁判所が養育費支払命令を発
するときは,原則として当該命令と同時に給与天引き命令を発しなければならない。
SCUは,支払義務者の雇用主から養育費相当額が支払われたら,速やかに権利者に送金する必要があるが,権利者
が公的扶助を受けている場合には,当該月に徴収された金額のうち最初の200ドルが権利者に支払われ,支払義務者
から受け取った残りは,権利者に支払われた公的支援について政府に払い戻される。
養育費局(CSA)が関与している場合は,裁判所に行かなくとも行政上の手続が可能であり,これらには,収入・
財産に対する執行,失業保険の没収,所得税還付との相殺,信用調査機関への提出,宝くじの没収,運転免許の停止,
パスポートの発行拒否などがある。CSAが関与していない場合は,債権者が裁判所に対して義務違反を申し立てると,
裁判所侮辱や免許の停止等のサンクションが課され得る。
CSAは,非監護親の収入や資産の調査,養育費支払命令を得るための家裁への申立ての援助等のサービスを提供し
ている。養育費支払義務者の支払能力についての情報は,養育費の金額を算定するために裁判所に提出される。公的扶
助を受けていない監護親も,一定の要件を満たせば,年35ドルの手数料を支払うことで上記のサービスを受けること
ができる。
給与天引き制度
未払いに対する履行確保制度
その他
韓国
養育費支払義務者が養育費を支払わないために子の福利が危うくなり,又はそのおそれがある場合には,権利
者は,養育費履行管理院の長に申請し,子一人当たり月額20万ウォン(1ウォンは,約0.09円),9か月(さ
らに3か月の範囲で延長可能)までの支援を受けることができる。
緊急支援後,養育費履行管理院の長は,支払義務者に対して通知して徴収するが,これに応じない場合,女性
家族部長官の承認を得て,国税滞納処分の例により徴収する。
家庭法院(家庭裁判所)は,支払義務者が正当な理由なく2期以上の養育費を支払わない場合,権利者の申請
により,支払義務者の雇用主に支払義務者の給与から定期的に養育費額を控除して権利者に直接支給するよう命
じることができる。
家庭法院は,担保提供命令及び一時金支給命令をすることができる。一時金支給命令を受けた者が30日以内に正
当な事由なくその義務を履行しない場合,家庭法院は,権利者の申請により,30日の範囲でその義務を履行するまで,
支払義務者に対する監置を命じることができる。
支払義務者が正当な理由なく支払わない場合には、当事者の申請により、家庭法院が一定の期間内に義務を履
行することを命じることができる。養育費履行命令を受けても正当な理由なく3期以上支払わない場合,家庭法
院は、権利者の申請により,30日の範囲で養育費を支払うまで,支払義務者に対する監置を命じることができ
る。監置命令にもかかわらず,養育費を支払わない場合,女性家族部長官は地方警察庁長に支払義務者の運転免
許停止処分を求めることができる。
家庭法院は,協議離婚の際に当事者の協議に基づき養育費負担調書を作成しなければならず,その調書には執
行力が認められる。養育費履行管理院は,訴訟や監置執行を支援するなど様々な養育費関連支援を行っている。
養育費一時緊急支援制度
養育費直接支給命令制度・担保提供命令制度・一時金支給命令制度
その他
養育費履行命令制度・監置命令制度