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短答式試験問題集
[刑法・刑事訴訟法]
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[刑法]
〔第1問〕
(配点:2)
緊急避難(刑法第37条第1項)に関する次の【記述】の中の1から6までの( )内に,後記
アからスまでの【語句群】から適切な語句を入れた場合,
( )内に入るものの組合せとして正し
いものは,後記1から5までのうちどれか。なお,1から6までの( )内にはそれぞれ異なる語
句が入る。
(解答欄は,[No1])
【記 述】
緊急避難を(1)と解する見解によれば,その不処罰の根拠は,切迫した心理状態のために適法
な行為を期待し得ないことに求められる。この見解によれば,緊急避難によって侵害を転嫁される
第三者は緊急避難行為に対して(2)で対抗できることになる。この見解に対しては,刑法第37
条第1項が(3)を守るための緊急避難を認めていることと整合しないという批判がある。他方,
緊急避難を(4)と解する見解によれば,その不処罰の根拠は,法益が衝突する状況下で被侵害法
益と同等以上の法益を保全する行為は社会全体の利益を(5)させるものではないことに求められ
る。また,この見解に立つと,緊急避難行為に対して(2)で対抗することを認めるのは困難であ
る。さらに,緊急避難を基本的には(4)と解しつつ,保全法益と被侵害法益がいずれも生命であ
る場合には,
(1)であると解する見解もある。この見解は,自己又は第三者の生命に対する危難
を避けるために無関係の第三者の生命を犠牲にする行為を(6)と評価するのは不当であるという
考え方に基づくものである。
【語句群】
ア.違法性阻却事由 イ.責任阻却事由 ウ.個人的法益 エ.社会的法益
オ.他人の法益 カ.自己の法益 キ.増加 ク.減少 ケ.正当行為
コ.正当防衛 サ.緊急避難 シ.違法 ス.違法でない
1.1ア 3ウ 5ク
2.1イ 3エ 5キ
3.2ケ 4ア 6ス
4.2コ 5ク 6ス
5.3オ 4ア 6シ
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〔第2問〕
(配点:3)
放火罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを2
個選びなさい。
(解答欄は,
[No2],[No3]順不同)
1.甲が自己の所有する空き家に放火したが,公共の危険が生じなかった場合,甲には,非現住
建造物等放火未遂罪が成立する。
2.甲が乙に頼まれて,乙所有の大型家具を,丙が居住する家屋に近接する甲所有の畑地で燃や
し始めたところ,周辺に火の粉が飛び散り,予期に反して,同家屋の屋根のひさしに飛び火し
て,同ひさしを焼損させたところで火が消し止められた場合,甲には,延焼罪が成立する。
3.甲が住宅内にいる乙を殺害する目的で放火し,住宅が焼失した上,乙が死亡した場合,甲に
は,殺人罪は成立せず,現住建造物等放火罪のみが成立する。
4.甲が,一部の部屋のみが現に住居に使用されている木造の集合住宅の空き部屋に放火し,同
室のみを焼損させた場合,甲には,現住建造物等放火罪が成立する。
5.甲が憂さ晴らしの目的で,甲の世帯を含めて計30世帯が居住するマンション内部に設置さ
れたエレベーターのかご内に,灯油を染み込ませて点火した新聞紙を投げ入れて放火したが,
エレベーターのかごの側壁を焼損したにとどまり,
住居部分には延焼しなかった場合,
甲には,
現住建造物等放火未遂罪が成立する。
〔第3問〕
(配点:2)
共犯と錯誤に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいもの
の個数を後記1から5までの中から選びなさい。
(解答欄は,
[No4])ア.甲及び乙がAに対する暴行を共謀したが,Aの態度に激高した甲が殺意をもってAを殺害し
た場合,甲及び乙に殺人罪の共同正犯が成立するが,乙は傷害致死罪の刑で処断される。
イ.甲及び乙がAに対する強盗を共謀したが,その強盗の機会に,甲が過失によってAに傷害を
負わせた場合,甲及び乙に強盗致傷罪の共同正犯が成立する。
ウ.甲及び乙が共謀して,公務員Aに虚偽の内容の公文書の作成を教唆することにしたが,乙は
Aを買収することに失敗したため,甲に無断で,Bに公文書を偽造することを教唆し,Bが公
文書を偽造した場合,甲に虚偽公文書作成罪の教唆犯が成立する。
エ.甲が乙にA方に侵入して金品を窃取するように教唆して,その犯行を決意させたが,乙はA
方と誤認して隣のB方に侵入してしまい,B方から金品を窃取した場合,甲にB方への住居侵
入罪及びBに対する窃盗罪の教唆犯は成立しない。
オ.甲が乙の傷害行為を幇助する意思で,乙に包丁を貸与したところ,乙が殺意をもってその包
丁でAを刺殺した場合,甲に殺人罪の幇助犯が成立し,傷害致死罪の幇助犯は成立しない。
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個
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〔第4問〕
(配点:2)
名誉毀損罪及び侮辱罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,
正しいものはどれか。
(解答欄は,
[No5])1.名誉毀損罪及び侮辱罪の保護法益は,いずれも人の外部的名誉であり,法人については,侮
辱罪の客体になり得ない。
2.死者であっても,その外部的名誉を保護すべきことに変わりはないので,死者の名誉を毀損
する事実が摘示された場合も,その事実の真偽にかかわらず,名誉毀損罪が成立し得る。
3.特定かつ少数の者に特定人の名誉を毀損する事実を摘示した場合,その内容が拡散する可能
性があったとしても,
「公然と」事実を摘示したことにはならない。
4.風評の形式を用いて人の社会的評価を低下させる事実が摘示された場合,刑法第230条の
2にいう「真実であることの証明」の対象となるのは,風評が存在することではなく,そのよ
うな風評の内容たる事実が存在することである。
5.表現方法が嘲笑的であるとか,適切な調査がないまま他人の文章を転写しているなどといっ
た,事実を摘示する際の表現方法や事実調査の程度は,摘示された事実が刑法第230条の2
にいう「公共の利害に関する事実」に当たるか否かを判断する際に考慮すべき要素の一つであ
る。
〔第5問〕
(配点:2)
結果的加重犯について,学生A及びBが次の【会話】のとおり議論している。
【会話】中の1か
ら8までの( )内に後記アからスまでの【語句群】の中から適切なものを選んだ場合,正しいも
のの組合せは,後記1から5までのうちどれか。なお,1から8までの( )内にはそれぞれ異な
る語句が入る。
(解答欄は,
[No6])【会 話】
学生A.結果的加重犯について,判例は,基本犯と加重結果との間に(1)があれば足りるとし
ていると解されていますね。
学生B.判例の立場は(2)の点から疑問があります。私は,加重結果の発生について行為者に
(3)がなければ,結果的加重犯の成立を認めることは許されないと考えます。
学生A.確かに,判例が求めている(1)を単なる(4)と解するのであれば,
(2)の点から
問題だと思いますが,私は(1)の有無については(5)が認められるか否かを基準に考
えますので,
(2)の点も問題ないと考えます。ところで,あなたのように加重結果の発
生について行為者に(3)を要求するのであれば,加重結果の(6)があることが必要と
なりますが,誰を基準にそれを考えるのですか。
学生B. (6)は(7)の前提要件であることから客観的に判断すべきであり,それゆえ,(8)を基準にすべきと考えます。
学生A.そうすると,私の見解でも,
(5)の有無の判断の基礎となる事情の一つとして,行為
の時点において(8)が認識可能であった事情を考慮するので,あなたの見解と変わりは
ないのではないですか。
【語句群】
ア.故意 イ.過失 ウ.注意義務 エ.期待可能性
オ.予見可能性 カ.一般人 キ.行為者 ク.因果関係
ケ.条件関係 コ.実行行為性 サ.相当因果関係 シ.責任主義
ス.法益保護主義
1.1ク 5コ 2.2ス 4ケ 3.2シ 7ア 4.3イ 8カ
5.5サ 6エ
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〔第6問〕
(配点:2)
住居侵入等の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しい
ものはどれか。
(解答欄は,
[No7])1.
「住居」というには,居住者が,法律上正当な権限に基づいて居住する必要があり,単に日
常生活に使用しているだけでは足りない。2.「人の看守する」というには,施錠等の物的設備がなくても,人が事実上管理支配していれ
ば足りる。3.「建造物」というには,土地に定着し,屋根があって,壁又は柱により支持され,その内部
に人の出入りができる構造であるだけでは足りない。4.「建造物」に含まれる囲繞地というには,当該建物に接してその周辺に存在し,かつ,管理
者が外部との境界に囲障を設置することにより,建物の付属地として,建物利用のために供
されるものであることが明示されているだけでは足りない。5.「侵入し」というには,建造物等の平穏を害する必要があり,その管理権者の意思に反して
立ち入ることだけでは足りない。
〔第7問〕
(配点:3)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものを2個選びなさ
い。
(解答欄は,
[No8],[No9]順不同)
1.甲は,火災保険金をだまし取る目的で,同居する家族が不在の間に,自宅に放火して焼失
させ,その後,火災原因を偽って火災保険金の支払を受けた。この場合,甲には,現住建造
物等放火罪及び詐欺罪が成立し,これらは併合罪となる。
2.甲は,強盗目的で,乙方に侵入した上,乙及び丙をそれぞれ殴打して緊縛し,その際,両名
に怪我を負わせ,乙が管理していた現金100万円を強取した。この場合,甲には,住居侵入
罪及び1個の強盗致傷罪が成立し,これらは牽連犯となる。
3.甲は,乙を教唆して丙占有の自動車を盗むことを決意させ,乙にこれを実行させた後,乙か
ら頼まれて,同自動車を預かり保管した。この場合,甲には,窃盗教唆罪及び盗品等保管罪が
成立し,これらは牽連犯となる。4.甲は,
乙を殺害して金品を強取しようと考え,
甲の自宅内で乙を殺害して現金を強取した後,
引き続き,その死体を自宅の床下に埋めて遺棄した。この場合,甲には,強盗殺人罪及び死体
遺棄罪が成立し,これらは併合罪となる。
5.甲は,乙名義で預金口座を開設する目的で,同人に成り済まし,同人名義で口座開設申込
書を作成し,これを銀行の係員に提出して,乙名義の預金通帳の交付を受けた。この場合,
甲には,有印私文書偽造罪,同行使罪及び詐欺罪が成立し,これらは牽連犯となる。
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〔第8問〕
(配点:3)
横領の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているも
のを2個選びなさい。
(解答欄は,
[No10],[No11]順不同)
1.甲は,乙からの委託に基づき,同人所有の衣類が入った,施錠されていたスーツケース1個
を預かり保管していたところ,衣類を古着屋に売却して自己の遊興費を得ようと考え,勝手に
開錠し,中から衣類を取り出した。この場合,遅くとも衣類を取り出した時点で不法領得の意
思の発現と認められる外部的行為があったといえるから,甲には,横領罪が成立する。
2.甲は,乙と共に一定の目的で積み立てていた現金を1個の金庫の中に入れて共同保管してい
たところ,乙に無断でその現金全てを抜き取り,自己の遊興費に費消した。この場合,甲には,
横領罪が成立する。
3.株式会社の取締役経理部長甲は,同会社の株式の買い占めに対抗するための工作資金として
自ら業務上保管していた会社の現金を第三者に交付した。この場合,甲が,会社の不利益を回
避する意図を有していたとしても,当該現金の交付が会社にとって重大な経済的負担を伴うも
ので,甲が自己の弱みを隠す意図をも有していたなど,専ら会社のためにしたとは認められな
いときは,甲には,業務上横領罪が成立する。
4.甲は,乙から某日までに製茶を買い付けてほしい旨の依頼を受け,その買付資金として現金
を預かっていたところ,その現金を確実に補填するあてがなかったにもかかわらず,後日補填
するつもりで自己の遊興費に費消した。この場合,甲がたまたま補填することができ,約定ど
おりに製茶の買い付けを行ったとしても,甲には,横領罪が成立する。
5.甲は,自己が所有し,その旨登記されている土地を乙に売却し,その代金を受領したにもか
かわらず,乙への移転登記が完了する前に,同土地に自己を債務者とし丙を抵当権者とする抵
当権を設定し,その登記が完了した。この場合,同抵当権が実行されることなく,後日,その
登記が抹消されたとしても,甲には,横領罪が成立する。
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〔第9問〕
(配点:2)
原因において自由な行為に関する次の各【見解】に従って後記の各【事例】における甲の罪責を
検討した場合,後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。
(解答欄は,[No12])【見 解】
A.責任能力がある状態で行われた原因行為を実行行為と捉える。
B.責任能力を欠いた状態で行われた結果行為を実行行為と捉えつつ,責任能力は意思決定時に
存在すれば足り,必ずしも実行行為時に存在することは必要ない。
【事 例】
I.甲は,X宅に赴いて同人を殺害しようと決意し,心神喪失状態に陥る可能性があることを認
識しつつ,自宅において景気づけのために覚醒剤を使用したところ,心神喪失状態に陥り,当
初の計画どおりXを殺害した。
II.甲は,X宅に赴いて同人を殺害しようと決意し,心神喪失状態に陥る可能性があることを認
識しつつ,
自宅において景気づけのために覚醒剤を使用したところ,
心神喪失状態に陥ったが,
X宅には赴かず,Xの殺害には及ばなかった。
III.甲は,覚醒剤を使用すると粗暴になり周囲に暴行を加える習癖があると知りつつ,覚醒剤を
使用した結果,心神喪失状態に陥り,Xと口論になり,殺意を生じて同人を殺害した。
【記 述】
1.Aの見解によれば,事例Iでは,甲に,Xに対する殺人既遂罪が成立し得る。
2.Aの見解を採った上で,未遂犯の成立時期は結果発生の現実的な危険性が生じた段階に求め
られるべきで,それが常に実行行為の開始段階に認められる必然性はないと考えれば,事例II
では,甲に,Xに対する殺人未遂罪は成立しない。
3.Aの見解によれば,事例IIIでは,甲に,Xに対する殺人既遂罪が成立し得る。
4.Bの見解によれば,事例Iでは,甲に,Xに対する殺人既遂罪が成立し得る。
5.Bの見解によれば,事例IIでは,甲に,Xに対する殺人未遂罪は成立しない。
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〔第10問〕
(配点:3)
盗品等に関する罪についての次のアからエまでの各記述を判例の立場に従って検討し, 正しい場
合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[No13]から[No16])
ア.賄賂として収受された現金は,
「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得され
た物」に当たる。
[No13]
イ.窃取された物品を買い受けた者が,平穏に,かつ,公然とその占有を開始し,その際,善意
無過失である場合,当該物品は,
「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得され
た物」に当たる余地はない。
[No14]
ウ.会社が保管する秘密資料を窃取した者が,自宅で,そのコピーを作成した場合,当該コピーは,「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」に当たらない。
[No15]エ.親族間の犯罪に関する特例
(刑法第244条)
により刑が免除される犯人が窃取した物品は,
「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」に当たらない。
[No16]
〔第11問〕
(配点:2)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
(解答欄は,[No17])1.甲は,Xに対し,暴行や脅迫を用いて,自殺するように執拗に要求し,要求に応じて崖から
海に飛び込んで自殺するしかないとの精神状態に陥らせた上で,Xを崖から海に飛び込ませて
死亡させた。この場合,甲に,Xに対する殺人罪は成立しない。2.甲は,
追死する意思がないのにあるように装い,
その旨誤信したXに心中を決意させた上で,
毒物を渡し,それを飲み込ませて死亡させた。この場合,甲に,Xに対する殺人罪は成立しな
い。
3.甲は,財物を奪取するために,当該財物の占有者Xに対し,反抗を抑圧するに足りる程度の
暴行や脅迫を用いて,当該財物を差し出すしかないとの精神状態に陥らせた上で,当該財物を
差し出させた。この場合,甲に,Xに対する強盗罪は成立せず,窃盗罪の間接正犯が成立する。
4.甲は,日頃から暴行を加えて自己の意のままに従わせて万引きをさせていた満12歳の実子
Xに対し,これまでと同様に万引きを命じて実行させた。この場合,Xが是非善悪の判断能力
を有する者であれば,甲に,窃盗罪の間接正犯は成立せず,Xとの間で同罪の共同正犯が成立
する。
5.甲は,Xが管理する工事現場に保管されている同人所有の機械を,同人に成り済まして,甲
をXであると誤信した中古機械買取業者Yに売却し,同人に同機械を同所から搬出させた。こ
の場合,甲に,Xに対する窃盗罪の間接正犯が成立する。
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〔第12問〕
(配点:2)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。(解答欄は,[No18])
1.甲は,乙から,大学の入学試験を代わりに受けてほしいと頼まれてこれを引き受け,乙に成
り済まして入学試験を受け,乙名義で答案を作成して提出した。この場合,甲に有印私文書偽
造罪が成立する。
2.甲は,架空請求により金銭をだまし取るために使おうと考え,実在しない「法務局民事訴訟
管理センター」名義で,契約不履行による民事訴訟が提起されているので連絡をされたい旨記
載されたはがきを印刷し,一般人をして実在する公務所が権限内で作成した公文書であると誤
信させるに足りる程度の形式・外観を備えた文書を作成した。この場合,甲に有印公文書偽造
罪が成立する。
3. 甲は,X市立病院の事務長を務める公務員であるが,同病院のために発注書を作成する権限
を授与されていないのに,行使の目的で,同病院が業者Aに医療器具を発注していないにもか
かわらず,それを発注した旨を記載した内容虚偽の「X市立病院事務長甲」名義の発注書を作
成した。この場合,甲に虚偽有印公文書作成罪が成立する。4.甲は,
支払督促制度を悪用して乙の財産を不正に差し押さえるなどして金銭を得ようと考え,
乙に対する内容虚偽の支払督促を簡易裁判所に申し立てた上,乙宛ての支払督促正本等を配達
しようとした郵便配達員に対し,乙本人を装い,郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」
欄に乙の氏名を記載して提出し,支払督促正本等を受領した。この場合,甲に有印私文書偽造
罪が成立する。
5.甲は,消費者金融業者に提出する目的で,公文書である乙の国民健康保険被保険者証の氏名
欄に自己の氏名が印刷された紙を貼り付けた上で,複写機を使用してこれをコピーし,一般人
をして甲の国民健康保険被保険者証の真正なコピーであると誤信させるに足りる程度の形式・
外観を備えたものを作成した。この場合,甲に有印公文書偽造罪が成立する。
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〔第13問〕
(配点:2)
次の【事例】に関する後記アからエまでの各【記述】を判例の立場に従って検討した場合,正し
いものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。
(解答欄は,
[No19])【事 例】
甲は,某所公園内において,ベンチ上に置いてあるバッグ1個(以下「本件バッグ」という。)を発見し,誰かが置き忘れたものと考え,警察に届け出るため,これを手に取り,同公園から路
上に出た。一方,本件バッグをベンチに置き忘れたことに気付いたVは,同公園に戻ろうとして
同路上に至ったところ,甲を発見した。Vは,甲が本件バッグを盗んだと疑い,
「バッグを返せ。」と言いながら,甲の腹部を2回足で蹴り,甲から本件バッグを奪い,さらに,甲を蹴り上げるよ
うな仕草を続けた。甲は,Vの暴行を避けようとして,その胸付近を1回平手で突いたところ,
その勢いでVが後方に転倒し,後頭部を路面に打ち付け,失神した。甲は,その頃には,Vが本
件バッグの所有者であると分かっていたが,Vの態度に怒りを覚えたことなどから,本件バッグ
を自己のものにしようと考え,失神しているVからこれを取り上げて自宅に持ち帰った。
その後,甲が本件バッグ内を確認したところ,V名義の預金口座のキャッシュカード等在中の
財布,V所有の携帯電話機等の物品が入っていた。甲は,これらを見て,Vの氏名,勤務先のほ
か,携帯電話機にわいせつな盗撮画像が保存されていることを知り,これを奇貨とし,Vから上
記キャッシュカードの暗証番号を聞き出して上記口座から預金を引き出そうと思い,勤務先にい
たVに電話をかけ,
「あんた盗撮してるな。警察に携帯を持って行かれたくないなら,あんたの
キャッシュカードの暗証番号を教えろ。
」と要求するなどした。Vは,この要求を断れば,盗撮
の事実が警察に露見すると思い,やむを得ず甲に同暗証番号を教えた。その後,甲は,上記キャ
ッシュカードを用いて現金自動預払機から現金50万円を引き出した。
【記 述】
ア.甲が本件バッグを警察に届け出るために某所公園内から持ち出した行為は,Vによる占有の
回復を困難にする行為であるため,窃盗罪又は占有離脱物横領罪が成立する。
イ.Vは本件バッグを甲から取り返す目的で暴行を加えており,この暴行は正当行為に該当する
ため,甲がVの胸付近を1回平手で突いた行為の違法性が阻却される余地はなく,甲には,暴
行罪又は傷害罪が成立する。
ウ.甲が本件バッグをVから取り上げた行為は,甲の暴行に起因するVの失神状態に乗じて本件
バッグの占有を取得したといえるため,強盗罪が成立する。
エ.甲が現金自動預払機から現金50万円を引き出した行為は,甲が,これに先行してVから暗
証番号を聞き出した時点で,Vの預金の払戻しを受け得る地位を得たことにより,その預金の
占有を取得したといえるため,窃盗罪は成立しない。
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個
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[刑事訴訟法]
〔第14問〕
(配点:2)
捜査の端緒に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5ま
でのうちどれか。ただし,判例がある場合には,それに照らして考えるものとする。
(解答欄は,[No20])ア.自首は,書面又は口頭で,司法警察員にしなければならず,検察官にすることはできない。
イ.親告罪について告訴の取消しをした者は,更に告訴をすることができない。
ウ.税関長等の告発を訴訟条件とする関税法違反事件について,その告発前に強制捜査をする
ことはできない。
エ.検視においては,死体のエックス線検査をすることはできない。
オ.警察官が,職務質問の際,承諾を得て所持品検査をし,覚醒剤を発見したが,任意提出を
拒まれた場合,差押許可状を取得しない限り,同覚醒剤を差し押さえることはできない。
1.ア ウ 2.イ ウ 3.イ エ 4.ア オ 5.エ オ
〔第15問〕
(配点:3)
GPS捜査(車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付け,情報機器でその位置情報
を検索し,画面表示を読み取って当該車両の所在と移動状況を把握する刑事手続上の捜査)に関す
る次のアからオまでの各記述のうち,正しいものは幾つあるか。後記1から6までのうちから選び
なさい。ただし,判例がある場合には,それに照らして考えるものとする。
(解答欄は,
[No21])ア.GPS捜査は,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着す
ることによって行われるため,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入
する捜査手法といえ,刑事訴訟法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制処分に当
たる。
イ.GPS捜査は,その実施に当たり,処分を受ける者の反対意思が現実に表明されているわ
けではないため,個人の意思を制圧することはなく,任意処分として行うことができる。
ウ.GPS捜査によって生じる個人のプライバシーの侵害とは,GPS端末を秘かに装着した
車両の位置情報を,継続的,網羅的に取得し,これを蓄積,分析することにより,その車両
を使用する者の交友関係をはじめとする私生活上の情報全般を把握することをいい,一定期
間にわたり車両の位置情報が取得された後初めてそのGPS捜査は強制処分と評価される。
エ.GPS捜査は,その実施に当たり,被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑
制する必要があるが,刑事訴訟法上,検証は10日を超えて実施できないとの規定があるた
め,検証許可状を取得すればこれを行うことができる。
オ.GPS捜査は,被疑者らに知られずに秘かに行うのでなければ意味がなく,処分を受ける
者に対して事前の令状呈示を行うことは想定できないが,刑事訴訟法は,令状により行われ
る各強制処分について,令状を示すことができない場合に備え,処分の終了後遅滞なく,処
分を受けた者に処分実施の事実を通知する手続を規定しているため,適正手続の保障という
観点から問題が生じることはない。
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個 6.5個
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〔第16問〕
(配点:2)
捜索・押収に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から
5までのうちどれか。ただし,判例がある場合には,それに照らして考えるものとする。
(解答欄は,[No22])ア.司法警察職員は,捜索差押許可状に基づく被疑者方の捜索を実施中,被疑者の家族に対し,
許可なく被疑者方に出入りすることを禁止することができる。
イ.裁判官は,被疑者が特定できていない段階でも,犯罪の捜査をするについて必要があるとき
は,捜索差押許可状を発付することができる。
ウ.司法警察職員は,日出前,日没後には,令状に夜間でも執行することができる旨の記載がな
ければ,捜索差押許可状の執行のため,人の住居に入ることはできないが,日没前に捜索差押
許可状の執行に着手したときは,日没後でもその処分を継続することができる。
エ.司法警察職員が捜索差押許可状に基づいて差し押さえることができる物は,裁判官の令状審
査の時点で捜索場所に存在していた物に限られる。
オ.司法警察職員が領置することができる物は,所有者,所持者又は保管者が任意に提出した物
に限られる。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.エ オ
〔第17問〕
(配点:3)
次のアからオまでの各記述のうち,正しいものには1を,誤っているものには2を選びなさい。
(解答欄は,アからオの順に[No23]から[No27])ア. 司法警察員は,司法巡査が逮捕した被疑者を受け取ったときは,直ちに犯罪事実の要旨及
び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思
料するときは,直ちにこれを釈放しなければならない。
[No23]
イ. 司法警察員は,司法巡査が逮捕した被疑者を受け取ったときは,直ちに犯罪事実の要旨及
び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要があると思
料するときは,被疑者を受け取った時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検
察官に送致する手続をしなければならない。
[No24]
ウ. 検察官は,司法警察員が逮捕し送致した被疑者を受け取ったときは,弁解の機会を与え,
留置の必要があると思料するときは,被疑者を受け取った時から48時間以内に裁判官に被
疑者の勾留を請求しなければならない。
[No25]
エ. 検察官は,逮捕状により被疑者を逮捕したときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選
任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要があると思料するときは,
被疑者が身体を拘束された時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければな
らない。
[No26]
オ. 検察官は,被疑者が勾留された事件について,被疑者が身体を拘束された日から10日以
内に公訴を提起しないときは,勾留の期間が延長された場合を除き,直ちに被疑者を釈放し
なければならない。
[No27]
- 13 -
〔第18問〕
(配点:2)
次の学生AないしDの【会話】は,医師が捜査機関の依頼に基づき,人の身体から注射器を用い
て直接強制により血液を採取するために必要と考えられる令状に関する議論である。学生Aないし
Dが必要と考えている令状として正しい組合せは,
後記1から5までのうちどれか。
(解答欄は,[No28])【会話】
学生A:私は,一般に身体内にある体液を採取するために必要な令状については,強制採尿に関
する判例が採用した考え方と同じでよいと思う。
学生B:しかし,同じ体液といっても,尿と血液とでは性質が全然違うからなあ。
学生C:そういうBさんの見解も,対象者が採血を拒否した場合には直接強制するための明文が
ないのが問題だ。
学生B:その点は,刑事訴訟法第172条の類推適用で対応できると思う。
学生D:Cさんの見解だって,もともとその令状が想定している範囲は,身体の外表か,せいぜ
い肛門等の体腔を外部から確認する程度であって,身体の損傷を伴う血液の採取をその令
状で行い得るとするのは行き過ぎだ。
学生C:そういうDさんの見解も,それぞれの令状が単独ではできないことを,令状を併用すれ
ばできるとするのは,便宜に過ぎるのではないかと批判されているよね。
学生D:でも,Bさんの見解のように,直接の明文規定を欠いているにもかかわらず,条文の類
推適用によって直接強制し得るとするよりは良いと思う。
1.A:捜索差押許可状及び鑑定処分許可状,B:鑑定処分許可状,
C:身体検査令状,D:捜索差押許可状及び身体検査令状
2.A:捜索差押許可状,B:身体検査令状,C:鑑定処分許可状,
D:鑑定処分許可状及び身体検査令状
3.A:捜索差押許可状,B:身体検査令状,C:鑑定処分許可状,
D:捜索差押許可状及び身体検査令状
4.A:捜索差押許可状,B:鑑定処分許可状,C:身体検査令状,
D:鑑定処分許可状及び身体検査令状
5.A:捜索差押許可状及び鑑定処分許可状,B:身体検査令状,
C:鑑定処分許可状,D:鑑定処分許可状及び身体検査令状
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〔第19問〕
(配点:2)
次のIないしIIIの
【見解】は,逮捕・勾留の要件が備わらないA事実での逮捕・勾留に先立って,
逮捕・勾留の要件が備わっているB事実で逮捕・勾留する場合の適法性に関するものである。
【見
解】に関する後記アからオまでの【記述】のうち,誤っているものは幾つあるか。後記1から6ま
でのうちから選びなさい。
(解答欄は,
[No29])【見解】I.B事実について逮捕・勾留の要件が備わっているか否かを基準に適法性を判断すべきであり,
捜査機関がB事実による逮捕・勾留中に主としてA事実の取調べを行う意図であるか否かは,
B事実による逮捕・勾留の適法性に直接には影響せず,B事実について逮捕・勾留の理由と必
要性が備わっている限り,裁判官はB事実での逮捕状請求や勾留請求を認容すべきである。
II.逮捕・勾留の基礎となっているB事実の背後にあるA事実に着目して適法性を判断すべきで
あり,捜査機関がB事実に名を借りて実質的にはA事実の取調べを行う意図であることがうか
がわれる場合には,B事実についての逮捕・勾留の理由と必要性が備わっていたとしても,裁
判官はB事実での逮捕状請求や勾留請求を却下すべきである。
III.B事実によって逮捕・勾留された後の身体拘束期間が,主としてA事実の捜査のために利用
されるに至った場合には,それ以降の身体拘束は,B事実による逮捕・勾留としての実体を失
い,A事実による身体拘束となっていると評価され,A事実による逮捕・勾留の要件が欠ける
ため違法である。
【記述】
ア.Iの見解に対しては,捜査機関による身体拘束の濫用という脱法的本質を無視する考えであ
るとの批判がある。
イ.IIの見解は,厳格な身体拘束期間の潜脱行為に対する事前防止を重視する立場である。
ウ.IIの見解からは,仮にA事実について逮捕・勾留の理由と必要性が備わっている場合には,
A事実の取調べを行う意図でB事実により逮捕・勾留することも適法となる。
エ.IIIの見解からは,B事実による身体拘束期間中に捜査機関がB事実の取調べと並行してA事
実の取調べを行った場合,B事実による逮捕・勾留は常に違法となる。
オ.IIIの見解に対しては,裁判官が逮捕状請求や勾留請求の審査をするに当たってまず捜査機関
の意図を調べなければならないことは実際的でないとの批判がある。
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個 6.5個
- 15 -
〔第20問〕
(配点:2)
検察官の権限に関する次の学生AないしEの【発言】のうち,正しいものの組合せは,後記1か
ら5までのうちどれか。
(解答欄は,
[No30])【発言】
教 授:刑事訴訟法上,検察官の権限やその行使の在り方について様々な規定がありますね。
学生A:はい。検察官は,公訴権を有していますが,証拠に基づき有罪判決を得られる高度の見
込みがある場合には,公訴を提起しなければならないと定められています。
学生B:公訴権は,原則として検察官が独占していますが,裁判所の付審判決定があったときは
公訴の提起があったものとみなされます。これは,起訴独占主義の例外の一つです。
学生C:第一審の判決があるまで,検察官は,公訴を取り消すことができますが,検察官が公訴
を取り消すには,裁判所の許可が必要です。
学生D:検察官は,公訴を提起した後も,必要と認めるときは,自らその犯罪を捜査することが
できます。
学生E:検察官は,再審請求権を有していますが,有罪の言渡しを受けた者の利益のために,再
審を請求することはできません。
1.A C 2.B C 3.B D 4.A E 5.D E
〔第21問〕
(配点:2)
第一審の被告人質問に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものの組合せは,後
記1から5までのうちどれか。
(解答欄は,
[No31])ア.被告人質問を実施するためには,証拠調べの請求や決定を必要としない。
イ.被告人質問を実施する場合には,他の証拠が全て取り調べられた後にこれを行わなければな
らない。
ウ.被告人質問を実施する場合には,まず裁判長が質問をしなければならず,弁護人がこれに先
んじて質問をすることはできない。
エ.被告人は,供述を拒む場合に,その理由を明らかにする必要はない。
オ.被告人が任意に供述をする場合には,共同被告人の弁護人は,裁判長に告げて,被告人の供
述を求めることができる。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.エ オ
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〔第22問〕
(配点:2)
被害者,又は被害者参加人(被害者参加制度における被害者参加人をいう。
)に関する次のアか
らオまでの各記述のうち,
誤っているものは幾つあるか。
後記1から6までのうちから選びなさい。
(解答欄は,
[No32])ア.被害者は,被害に関する心情その他の被告事件に関する意見を陳述することができ,裁判所
は,その陳述を刑の量定のための証拠とすることができる。
イ.被害者参加人は,当該被告事件についての刑事訴訟法の規定による検察官の権限の行使に関
し,検察官に対して意見を述べることができ,この場合において,検察官は,当該権限を行
使し又は行使しないこととしたときは,必要に応じ,当該意見を述べた者に対し,その理由
を説明しなければならない。
ウ.情状に関する事項についての証人の供述の証明力を争うために必要な事項についてその証人
を尋問することの申出を被害者参加人から受けた検察官は,申出に係る尋問事項について自
ら尋問する場合を除き,意見を付して,この申出を裁判所に通知するものとされている。
エ.被害者参加人は,裁判所の許可を得て,刑事訴訟法の規定による意見の陳述をするため被告
人に対して質問をすることができるが,裁判長は,その質問が既にされた質問と重複すると
き,これを制限することができる。
オ.被害者参加人は,裁判所の許可を得て,事実又は法律の適用について意見を陳述することが
でき,裁判所は,その陳述を犯罪事実の認定のための証拠とすることができる。
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個 6.5個
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〔第23問〕
(配点:2)
次の【事例】に関する教授と学生AないしDの【会話】のうち,誤った発言をしている学生は何
人いるか。後記1から5までのうちから選びなさい。ただし,判例がある場合には,それに照らし
て考えるものとする。
(解答欄は,
[No33])【事例】
甲は,令和2年3月1日,H市内の甲方において,乙から現金30万円を受け取り,同日,同所
において,公務員である丙に対して,乙から受け取った同現金30万円を交付した。
【会話】
教 授:この事例について,検察官が,
「甲は,丙と共謀の上,令和2年3月1日,H市内の甲
方において,乙から賄賂金30万円を収受した。
」という収賄罪の共同正犯の訴因で起訴
したとします。審理の結果,裁判所が,当該賄賂金の授受があった日は,令和2年3月1
0日であり,場所は,H市内の丙方であるとの心証を形成した場合,裁判所は,どうすべ
きですか。
学生A:訴因の機能は,裁判所に対し審判の対象を限定するとともに,被告人に対し防御の範囲
を示すことにあります。
審理の経過に鑑み,
犯罪の実行行為がなされた日時場所について,
訴因と異なる日時場所を認定することにより,被告人に不意打ちを与える場合には,その
防御に実質的な不利益を与えることになります。
その場合には,
訴因変更の手続を経ずに,
「甲は,丙と共謀の上,令和2年3月10日,H市内の丙方において,乙から賄賂金30
万円を収受した。
」という事実を認定することはできません。
学生B:裁判所は,検察官に対して,心証に沿った事実を内容とする訴因への変更を促し,検察
官が応じない場合には,訴因の変更を命ずることが考えられます。
学生C:裁判所は,検察官が訴因変更命令に応じなかったとしても,訴因変更命令により訴因が
変更されたものとして,
「甲は,丙と共謀の上,令和2年3月10日,H市内の丙方にお
いて,乙から賄賂金30万円を収受した。
」という事実を認定して,有罪判決を言い渡す
ことができます。
教 授:それでは,裁判所は,審理の結果,甲が,令和2年3月1日,H市内の甲方において,
乙から現金30万円を受け取り,同日,同所において,公務員である丙に対して,同現金
30万円を交付した事実は間違いないが,収賄罪の共同正犯ではなく,
「甲は,乙と共謀
の上,丙に対し,賄賂金30万円を供与した。
」という贈賄罪の共同正犯が成立するとの
心証を形成したとします。その場合,裁判所は,どうすべきですか。
学生D:この場合,一連の同一の行為についての法的評価を異にするにすぎないので,訴因変更
の手続を経ることなく,贈賄罪の共同正犯を認定して,有罪判決を言い渡すことができま
す。
1.0人 2.1人 3.2人 4.3人 5.4人
- 18 -
〔第24問〕
(配点:3)
刑事訴訟における証拠と憲法の諸規定に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものに
は1を,誤っているものには2を選びなさい。ただし,判例がある場合には,それに照らして考え
るものとする。
(解答欄は,アからオの順に[No34]から[No38])ア.違法に収集された証拠物の証拠能力については,憲法及び刑事訴訟法に明文の規定は置かれ
ていないものの,刑事訴訟法の解釈として,憲法第31条による適正手続の保障並びに憲法第
35条による住居の不可侵及び捜索・押収を受けることのない権利の保障にも鑑み,そのよう
な証拠物の証拠能力が否定される場合がある。
[No34]
イ.国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができない者の供述を録取した
検察官面前調書を,刑事訴訟法第321条第1項第2号前段の規定により証拠とすることは,
それが作成され証拠請求されるに至った事情や,供述者が国外にいることになった事由のいか
んによっては,
憲法第37条第2項の保障する証人審問権の趣旨に鑑み許されない場合がある。
[No35]
ウ.自己負罪拒否特権に基づき証言を拒否する証人に対して刑事免責を付与して供述を強制する
ことは,憲法第38条第1項に違反するから,そのようにして得られた供述を,被告人の有罪
を認定するための証拠とすることは許されない。
[No36]
エ.任意にされたものでない疑いのある自白を,犯罪事実を認定するための証拠とすることは,
刑事訴訟法第319条第1項の定める自白法則に違反するが,憲法第38条第2項の定める自
白法則には違反しない。
[No37]
オ.公判廷における被告人の自白を唯一の証拠として被告人を有罪とすることは,刑事訴訟法第
319条第2項の定める補強法則に違反するが,憲法第38条第3項の定める補強法則には違
反しない。
[No38]
〔第25問〕
(配点:3)
伝聞証拠に関する次のアからオまでの各記述のうち,証拠とすることができる要件に差異のない
書面の組合せが記載されたものの個数は,後記1から6までのうちどれか。ただし,判例がある場
合には,それに照らして考えるものとする。
(解答欄は,
[No39])ア.
司法警察員の面前における被告人の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるものと,
検察官の面前における被告人の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるもの
イ.司法警察員の面前における被害者の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるもの
と,検察官の面前における被害者の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるもの
ウ.被告人が作成した供述書で同人の署名及び押印のあるものと,被告人が作成した供述書で
同人の署名及び押印のいずれもがないもの
エ.司法警察員が作成した検証調書と,司法警察員が作成した実況見分調書
オ.司法警察員から鑑定の嘱託を受けた者が作成した鑑定書と,裁判所から鑑定を命じられた
鑑定人が作成した鑑定書
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個 6.5個
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〔第26問〕
(配点:2)
次のIないしIIIの【見解】は,
「Yに対する保護責任者遺棄致死罪で起訴された甲の公判におい
て,証拠調べの結果,甲がYを遺棄した当時,Yが生きていたか死亡していたかが判明せず,甲に
保護責任者遺棄致死罪と死体遺棄罪のどちらかが成立することは疑いがないが,どちらであるかは
確定できなかった場合に,裁判所は,どのような判決を言い渡すべきか。
」という問題に関する考
え方を述べたものである。
【見解】に関する後記アからオまでの【記述】のうち,誤っているもの
は幾つあるか。後記1から6までのうちから選びなさい。
(解答欄は,
[No40])【見解】
I.無罪判決を言い渡すべきである。
II.保護責任者遺棄致死罪又は死体遺棄罪のいずれかの事実が認定できるという択一的認定をし
て,有罪判決を言い渡すべきであるが,量刑は,軽い死体遺棄罪の刑によるべきである。
III.軽い死体遺棄罪の事実を認定して,有罪判決を言い渡すべきである。
【記述】
ア.Iの見解に対しては,国民の法感情に反するという批判がある。
イ.Iの見解に対しては,刑事訴訟において重要なのは,特定の犯罪に当たる事実の証明がされ
たかどうかであるとの批判がある。ウ.IIの見解は,
保護責任者遺棄致死罪又は死体遺棄罪のいずれかであることは疑いがない以上,
軽い罪の刑で処罰するのであれば,
「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反しないとする。
エ.IIの見解に対しては,合成的な構成要件を設定して処罰することになり,罪刑法定主義に反
するという批判がある。
オ.IIIの見解は,保護責任者遺棄致死罪又は死体遺棄罪のどちらかが成立することは疑いがない
状況で,重い保護責任者遺棄致死罪の事実が認定できないのであれば,死体遺棄罪が疑いなく
証明されたと考えるべきであるとする。
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個 6.5個

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