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令和元年10月28日
法教育推進協議会教材作成部会委員 磯 山 恭 子
(静岡大学教育学部教授)
法教育授業実施者 杉 山 高 久
(静岡県森町立森中学校教諭)
法教育授業実践報告
(中学生向け法教育視聴覚教材「ルールづくり」)1 実施日時
令和元年9月27日(金)午前8時40分〜午前9時30分(第1時限)
2 実施校等
(1) 実施校
静岡県森町立森中学校
(2) 学年
第3学年
(3) 教科等
社会科「公民的分野」
(4) 指導者
同校教諭 杉 山 高 久
3 単元等
(1) 単元(学習指導要領における位置付け)
ごみ収集に関するルールを作ろう
(中学校学習指導要領
「社会科
(公民的分野)」の大項目「(1) 私たちと現代社会」の中項目「イ 現代社会をとらえる見方や考
え方」)(2) 目標
ルール作成による紛争解決を通じて,
社会生活におけるルールの意義及び取り
決めの重要性やルールの必要性,それを守る意義について理解する。
(3) 指導計画
1時間目 ・・・
「ごみ収集に関するルールを作ろう」
(本時)
4 本時
(1) 目標
ア ルールについての関心を高め,
社会生活におけるルールの意義について考え
る態度を養う。
イ ルール作成による紛争解決を通じて,社会生活におけるルールの意義及び取
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り決めの重要性やルールの必要性,それを守る意義について理解する。
(2) 展開
進行
(所要)
内容 指導上の留意点
導入
(9分)
課題(日常生活における紛争)を把
握させる。・「これから,ある町で起こった事
件を解決するためのルールを話
し合って作るという学習をしま
す。まず,どういう問題が起きて
いるのか見てみよう」と発問し,
視聴覚教材「問題提起1」を視聴
させる。
【約6分(〜6:05)】
・「ごみ収集場所をどこにするのか,みんなにごみ出しのルールを
守ってもらうにはどうしたら良
いかなどを考える必要があるよ
うだけど,
町に住んでいる人たち
がそれぞれどのような考えを持
っているか,映像の続きを観て,
話合いをする前にもう一度確認
しておこう」と発問し,視聴覚教
材「問題提起2」を視聴させる。
【約2分
(6:05〜8:20)】・事前に自分が担当する立場
を知らせておく。
・特に自分が担当する立場の
人物がどのような主張をし
ているのか意識して視聴す
るように促す。
展開1
(10分)
紛争解決のためのルールづくり・合
意形成を行わせる
(立場ごとの意見
の形成)。・「それぞれ町の人たちの立場ごと
に分かれて班を作って,
それぞれ
の立場から解決策を考えてみよ
う」と発問し,同じ立場の生徒同
士のグループを作り,
生徒間で話
合いを行わせる。(約10分)
・班ごとの役割演技に徹し,
自分たちの立場を理解し,
その立場から問題の解決策
を考える(町内会長役の生
徒は客観的な立場から解決
策を考える。)。また,他
者を説得できる案を提示す
る。
・発表用のホワイトボードに
町内会規約を記入させる。
・罰則を設けることのみに着
目しないよう留意する。
班で作成した町内会規約を記入し
たホワイトボードを黒板に掲示す
る。
・ここでは,第三者の立場に
ある町内会長の解決策は発
表しない。
・次の町内会の班で確認でき
るので発表は省略する。
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展開2
(17分)
紛争解決のためのルールづくり・合
意形成を行わせる
(各立場の者との
話合い)。・「それぞれの立場の人たちが考え
た解決策を踏まえ,
各班から1名
ずつ集まって町内会の班を作り,
話し合って町内会規約を作って
みよう」と発問し,各立場1名ず
つからなるグループを作り,
生徒
間で話合いを行わせる。
(約10分)・話合いは,第三者の立場で
ある町内会長役の生徒を中
心に行う。
・問題点,対立点を明確にし
ながら,グループで話合い
をする。
・自分の意見を主張しすぎた
り,周りの意見に安易に流
されたりせず,お互いに納
得する話合いをするように
促す。
・町内会規約の論点が拡散す
るとき(ごみ収集場所を地
下に設ける,2階建てにす
る等というように)は,論
点を整理する。
生徒から発表させる。(約 7 分)
展開3
(9分)
ルールの評価を行わせる。・「なぜルールが必要なのか,そし
て良いルールとはどのようなも
のなのか,
その評価の視点を意識
して映像を観てみよう」と発問
し,視聴覚教材「解説1」,「解
説2」
を視聴させる。
【約7分(8:
20〜15:10)】
ルールの評価を行わせる。・「今学んだルールを評価する4つ
の視点にあてはめて,
みんなが作
ったルールを評価してみよう」と発問し,
生徒個人による振り返り
をさせる。
・1手段の相当性,
2明確性,
3平等性(公正さ),4手
続の公平性の4つの視点か
ら評価する。
まとめ
(5分)
教員によるまとめを行う。・「今日はみんなで町内会規約とい
うルールを考えてもらったけど,
町内会規約だけではなく,
私たち
が住む社会にはさまざまなルー
ルがあるが,映像で見たように,
実際に私たちの社会に存在する
ルールがもめごとの解決に役立
っているし,
みんながルールを守
ることで,
安心して暮らすことが
できている。
そして,
誰か一人でルールを決
めてしまうのではなく,
みんなが
・ルールの機能について言及
する。
・紛争を解決する機能
・秩序を維持する機能
・手続の公平性について言及
し,ルールが多様な意見を
尊重するものであることに
触れる。
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話合いに参加して決めることで,
いろんな人の意見を尊重するこ
とができるルールになるし,
決め
たルールを納得して受け入れる
ことができる。」
(3) 実践報告(成果と課題など)
ア 成果
単元の時間配分は,2時間が理想であるが,今回の実践授業のように,映像
を活用して,事例の問題把握や評価の視点説明にかかる時間を短縮すること
で,1時間でルール作りからルールの評価まで行うことができた。
授業前後のアンケートで,
「ルールは何のためにあると思いますか。自分の
考えに近いものを2つ選んでください。ア、いろいろな人たちの異なる考え
や意見をまとめるため。イ、いろいろな人たちが対等に生活できるようにす
るため。ウ、弱い立場の人たちを守るため。エ、犯罪を防いだり,社会の秩序
を守るため。
オ、
その他」
についての質問の結果をまとめたのが図1のグラフ
である。
事前事後を通して多いのは,
イとエであるが,
授業を通して増加した
のは,アとイであった。今回の様々な立場に分かれて話し合って紛争を解決
した経験が反映されたように考えられる。
また,事前と事後で9名に意見の変容が見られた。ルールの意義について
深く考えるきっかけとなった。
また,
9名中4名がアへの変容であり,
ルール
の意義の中でも紛争を解決する役割に対する理解の深まりが見られ,目標に
迫ることができた。
イ 課題
実践授業では,それぞれの立場の意識をより持たせる必要があった。立場
の書かれた名札を付けるなどの支援をすると効果的であった。
また,ごみ収集場所をどこにするのかという視点と,ごみ捨てのルールを
分けて考えてしまっていた。ごみ収集場所をどこにするのかということも,75181745161900
0% 20% 40% 60% 80% 100%
事後
事前
図1 ルールは何のためにあると思いますか
ア イ ウ エ オ
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ごみ収集に関するルール(町内会規約)の一部であるところ,ごみの捨て方
に関する適切なルールを策定することにのみ議論が集中し,過去に川上さん
が被った不利益も考慮した上で,ごみの収集場所も含めたルールを考えると
の観点が少し不足していたと思われた。そのため,例えば,川上さんの家の
前にこのままごみ収集場所を置き続けるのならば,川上さんへの不利益を緩
和するようにごみ捨てのルールを考えるという視点も加えて考える必要が
あった。
ウ 生徒の様子
(ア) 授業での様子
最初の同じ立場での話合いでは,映像から読み取った自分の立場の主張
を基に,
ごみ収集場所,
ごみ出しのルールを考えることができた。
その後,
5〜6人の町内会の班での話合いでは,各立場の町内会規約の発表・説明
で時間がかかり,議論する時間が短くなってしまった。
また,5つの班の中で,3つの班がもともとあった川上さんの家の前,
1つの班が山村さんの家の前,1つの班が3つの場所全てにごみ収集場所
を設置する規約を提案した。ルールの内容として,ごみ袋に名前を書く,
ごみ捨てのルールを破った人にペナルティとしてごみ捨て当番を行わせ
る。カラスに荒らされないようにネットを設置する,ルールが書かれた看
板を設置するなどが挙げられた。ルールを評価する活動では,映像の説明
が具体例を示すなど理解しやすい内容で,4つの視点の理解に役立ち,視
点に応じて評価することができた。
(イ) アンケートに見られる生徒の変容
「周囲の人たちと考えや意見がくい違ったら,あなたはどのような行動
をとりますか。あなたがとるであろう行動に最も近いものを選んでくださ
い。ア、自分の考えに基づいて行動する。イ、相手の考えに合わせて行動
する。ウ、お互い納得するまで話し合ってから行動する。エ、その他」と
いう質問において事前と事後の結果をまとめたのが図2のグラフである。
事後では,ウの「お互いに納得するまで話し合ってから行動する。
」を選ぶ
生徒が3名増加している。異なる立場で話し合って町内会規約を作成する
体験を通して,お互いに納得するような話合いの大切さに気付くことがで
きたと考えられる。
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「あなたが考える望ましいルールの決め方を書いてください。
」という質
問に対して,
「全員で話し合う」,「納得(合意)」,「平等
(不利益が偏らない)」,
「明確」
といった語句を使い回答する生徒が増えた。
「全員で話し合う」は,25名中事前は8名だったのが,事後は13名に増加した。
「納得(合意)」は10名から12名に増加。
「平等」は3名から7名に,
「明確」は0名から
3名に増加した。
そうした表れからも,
ルールに対する理解の深まりが見ら
れた。
(ウ) 映像に対する生徒の声
事後アンケートでは,
「映像は,問題の理解・ルールづくりに役立ちまし
たか?」という質問をした。25名中24名の生徒が「はい」と答えた。そ
の理由については,
「問題の状況の整理がわかりやすかった。」,
「具体的な
例を提示してわかりやすかった。」,
「文章だけではわかりにくいことがあっ
た。」,
「ルールをつくるときに重要なことが分かった。
」という意見が出て
いた。紛争の問題点の整理・理解やルールの評価の視点について効率的に
行うことができた。
「いいえ」の1名の理由は,
「まだ理解できなかった。
」とあり,授業者の
補足の支援が必要であった。
エ 実践における工夫
グループ分けについて,実践した学級の人数が27人だったため,6人グ
ループを2つ,町内会長の立場を抜かした5人グループを3つにグループ分
けをした。5人グループの司会は生活班の班長が行うように指名した。
(4) 参考資料(使用教材・資料,授業の様子・板書など)
ア ワークシート
別紙1のとおり。2476161302
0% 20% 40% 60% 80% 100%
事後
事前
図2 考えや意見がくい違ったら、どの
ような行動をとりますか
ア イ ウ エ
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イ 授業アンケート
別紙2のとおり。
ウ 授業の様子・板書
5 参考:新学習指導要領における位置付け
新学習指導要領 社会科「公民的分野」
大項目「A 私たちと現代社会」
中項目「(2) 現代社会を捉える枠組み」
対立と合意,効率と公正などに着目して,課題を追究したり解決した
りする活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導す
る。
ごみ収集に関するルールづくりの単元は,ごみ出しをめぐる紛争(対立)について,立場に分かれて話し合う活動を通してお互いに納得するルールをつくる
(合意)
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という,
「対立」から「合意」に至るプロセスを体験的に学ぶことができる教材であ
る。さらに,新学習指導要領の内容を踏まえ,ルールを「効率」と「公正」の視点
で作成・評価する方法も考えられる。
例として,第1時に「対立」と「合意」,「効率」と「公正」といった現代社会の
見方・考え方などの基本的な概念を学習する。第2時に,ごみ収集に関するルール
を役割分担を行いながら話し合って決める活動を行う。留意点として,ルールをつ
くるときに,
「効率」と「公正」の視点を意識するように促していく。第3時に町内
会のグループで作成したルールを発表し,
「効率」と「公正」の視点でルールを評価
する活動を行う。
「効率」の視点は,無駄を省くという考え方であり,より少ない労
力で解決に導いているのかを評価する。例えば,ごみ収集場所を3つ全ての場所に
するという案が出た場合,ごみ回収をする立場の労力が増えて効率ではないといえ
る。
「公正」の視点では,まずみんなが参加して決めているかという,
「手続の公正
さ」の評価を行う。また「不当に不利益を被っている人をなくす」,「みんなが同じ
になるようにする」といった「機会の公正さ」や「結果の公正さ」について評価す
る。そうすることで,
「対立」と「合意」,「効率」と「公正」の見方・考え方を学ぶ
ことができる。
3年
( )組( )
番 氏名
自分の班の立場は
自分で考えた発言内容
❶ごみ収集場所はどこに
❸1と2の理由
❷ごみ出しのルール1234
くろまる ごみ収集に関するルールを作ろう ワークシート町内会規約を作ってみよう!020
別紙11 くろまる ごみ収集に関するルールを作ろう ワークシート3年
( )組( )
番 氏名
町内会規約を作ってみよう!1ルールづくりにみんなが参加
し,ルールを作る過程に問題は
ありませんか?
2立場が変わってもその決定は受
け入れられますか?
3そのルールはいろいろな解釈が
できませんか?
4ごみ収集場所の問題を解決する
という目的を実現するために適
切な手段ですか?
1ごみ収集場所は
とします。
2その理由は
です。
ルール評価の項目 評価結果 BかCにしろまるを付けた理由
A B C
A B C
A B C
A B C
1 グループで決定した町内会規約とその理由
2 1の町内会規約を各自で評価してみよう。
3 授業を通して,ルールについて,どのようなことを考えましたか。A:はい B:どちらでもない C
:いいえ023別紙12 くろまる ごみ収集に関するルールを作ろう ワークシート3年
( )組( )
番 氏名
「ルールをみんなで作ってみよう」事前質問
これから,
「ルールをみんなで作ってみよう」について学習します。この学習に関わる
次のことに答えてください。
1 周囲の人たちと考えや意見がくい違ったら,あなたはどのような行
動をとりますか。あなたがとるであろう行動に最も近いものを選ん
でください。
・ ア ─ 自分の考えに基づいて行動する。
・ イ ─ 相手の考えに合わせて行動する。
・ ウ ─ お互い納得するまで話し合ってから行動する。
・ エ ─ その他 ( )
2 様々な人たちがいる社会には,必ずルールがあります。あなたは,
ルールは何のためにあると考えますか。自分の考えに近いものを2
つ選んでください。
・ ア ─ いろいろな人たちの異なる考えや意見をまとめるため。
・ イ ─ いろいろな人たちが対等に生活できるようにするため。
・ ウ ─ 弱い立場の人たちを守るため。
・ エ ─ 犯罪を防いだり,
社会の秩序を守るため。
・ オ ─ その他 ( )
3 あなたが考える望ましいルールの決め方を書いてください。016別紙21 くろまる ごみ収集に関するルールを作ろう ワークシート3年
( )組( )
番 氏名
「ルールをみんなで作ってみよう」事後質問
これまで,「ルールをみんなで作ってみよう」について学習し,この学習の中で様々
なことを学んできました。その上で,もう一度皆さんの考えを聞かせてください。
1 周囲の人たちと考えや意見がくい違ったら,あなたはどのような行
動をとりますか。あなたがとるであろう行動に最も近いものを選ん
でください。
・ ア ─ 自分の考えに基づいて行動する。
・ イ ─ 相手の考えに合わせて行動する。
・ ウ ─ お互い納得するまで話し合ってから行動する。
・ エ ─ その他 ( )
2 様々な人たちがいる社会には,必ずルールがあります。あなたは,
ルールは何のためにあると考えますか。自分の考えに近いものを2
つ選んでください。
・ ア ─ いろいろな人たちの異なる考えや意見をまとめるため。
・ イ ─ いろいろな人たちが対等に生活できるようにするため。
・ ウ ─ 弱い立場の人たちを守るため。
・ エ ─ 犯罪を防いだり,
社会の秩序を守るため。
・ オ ─ その他 ( )
3 あなたが考える望ましいルールの決め方を書いてください。025別紙22

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