【職域】東京保護観察所社会復帰調整官室
《地域と連携し,医療観察制度の対象となる精神障害者の社会復帰に尽力》
名称・所在地・代表者・沿革等 組織の概要等
1 名称
法務省東京保護観察所社会復帰調整官室
2 所在地
東京都千代田区霞が関1-1-1
3 代表者
東京保護観察所首席社会復帰調整官
宇津木
う つ ぎ朗あきら
(首席社会復帰調整官以下20名)
4 沿革
平成15年7月
心神喪失等の状態で重大な他害行為を
行った者の医療及び観察等に関する法
律(平成15年法律第110号。以下
「医療観察法」という。)公布・一部
施行
平成16年4月
東京保護観察所社会復帰調整官室設置
平成17年7月
医療観察法全面施行
医療観察法は,心神喪失等の状態で殺
人,放火等の重大な他害行為を行い,不
起訴又は無罪等になった精神障害者を対
象とする処遇制度(医療観察制度)を創
設したものであり,対象となる者の他害
行為の再発を防止し,その社会復帰を促
進することを目的としている。
法務省は,医療観察法の規定による精
神保健観察など同法の対象者に対する地
域社会における処遇に関する事務を所掌
しており,その処遇実務は,各都道府県
に設置された出先機関である保護観察所
が担っている。
東京保護観察所社会復帰調整官室に
は,医療観察法による処遇に従事する専
門職員として「社会復帰調整官」が配置
され,同法成立後の施行準備の段階から
現在に至るまで,地域の関係機関・団体
相互の緊密な連携確保を図るとともに,
全国の約1割を占める多くの事件を抱え
ながら,対象者を定期的に訪問するなど
してその生活状況を把握し,病状悪化時
の緊急対応を行うなど,必要な観察・指
導等の処遇を実施しているものである。
顕彰理由
推薦候補は,全国最多の医療観察事件を取り扱うとともに,関係機関等と綿密に連携
し,適切な処遇を行うことで,多くの対象者を再他害行為に至らせることなく社会復帰
させている。同候補は,職域として,安全・安心な社会の実現に貢献することで,国民
の生命・財産を保護し,公務に対する信頼を高めることに寄与している。
理由詳細
1 職務の内容・重要性
平成17年7月に全面施行された医療観察法により,心神喪失等の状態で殺人,放火
等の重大な他害行為を行った精神障害者について,
必要な医療を確保して再他害行為を
防ぎ,その社会復帰を促進するための新たな制度(医療観察制度)が創設された。
保護観察所の社会復帰調整官は,医療観察制度において,1審判段階での生活環境の
調査,2入院治療中の生活環境の調整,3通院治療中の精神保健観察の実施,4医療観
察制度に携わる関係機関相互間の連携確保等をその職務とし,制度の入口(審判)から
社会復帰まで一貫して関与する専門職種として新設されたものであり,
同制度の円滑か
つ効果的な運用を確保する上で極めて重要な役割を果たしている。
2 職務の特殊性・勤務環境
医療観察制度において保護観察所が取り扱う事件数は,
法施行時から大幅に増加して
いる。また,同制度の対象者は,重大な他害行為を行った重度の精神障害者であり,事
件数の増加に伴って,薬物乱用等の複雑な問題を抱える者や,地域住民に不安があり退
院先確保が困難な事案などが増加している。
さらに,同制度の対象者については,病状の悪化により再他害行為につながるおそれ
もあることから,夜間・休日を含め,病状悪化時の緊急対応を要する場合も多く,これ
らに対応する社会復帰調整官の負担は極めて大きなものとなっている。
3 関係機関・団体からの理解・協力の確保
東京保護観察所社会復帰調整官室は,
医療観察法全面施行前の平成16年4月に設置
され,制度の準備段階から現在に至るまで,地域の医療機関や保健・福祉機関,関係団
体等に対し,地道に制度の周知と理解の促進を図り,地域ごとの連携体制・実施体制の
構築に尽力した。また,東京保護観察所管内では,平成17年7月に医療観察制度の対
象者を入院させる指定入院医療機関「国立精神・神経センター武蔵病院」が全国で初め
て開院したことから,制度発足当初から,同病院からの退院後の受入れ施設等の開拓・
調整に奔走した。
4 東京保護観察所社会復帰調整官室の職務の困難性
東京保護観察所社会復帰調整官室は,全国最多の医療観察事件を取り扱っており,処
遇困難な対象者や危険を伴う緊急対応事例も非常に多い。このような中,同室の社会復
帰調整官は,日々,対象者宅の訪問や医療機関への同行など対象者に寄り添ったきめ細
やかな処遇を行うとともに,関係機関による処遇会議(ケア会議)の主催,通院医療体
制の確保のための折衝等の重要かつ困難な業務をこなし,
多くの対象者を再他害行為に
至らせることなく,無事に社会復帰に導いている。
5 公務の信頼の確保・向上
以上のとおり,東京保護観察所社会復帰調整官室は,職員の不断の努力により,困難
な業務に職員一丸となって取り組み,
医療観察制度の対象者を再他害行為に至らせるこ
となく,その社会復帰の促進を果たしてきたものであり,職域として,国民の生命・財
産を守り,公務に対する信頼を高めることに寄与している。
○しろまる生活環境の調整
指定入院医療機関に入院中の対象者のために,退院後の居住場所を確保したり,必要な援助が受けられるよう,退院後の生活環
境の調整を行う(法第101条等)。
○しろまる生活環境の調査
裁判所の求めに応じ,対象者の生活環境の調査を行い,その結果について,意見を付して報告する(法第38条等)。
裁判所は,鑑定を基礎とし,生活環境調査の結果等を考慮して入院・通院等を決定する。
医療観察制度の概要
・おおむね1か月という短期間で裁判所への報告を求められるため,対象者,家族,関係機関等への詳細な調査を,ス
ピーディーに行わなければならない。
・事件直後は対象者の病状が悪く,一度の面接で詳細な調査を行うことは困難なことから,面接のために何度も病院へ
出向く必要がある。
・被害者が家族等の近親者であるケースが多く,被害者でありながら対象者への支援も求められる家族等に対し,きめ
細かい配慮が必要となる。
・指定入院医療機関が設置されていない地域(18道府県で未設置)が多く,対象者との面接を行うため,社会復帰調
整官は遠方への出張を繰り返さざるを得ない状況にある。
・被害者が家族等の近親者であるため退院後に元の住居に戻ることができない対象者が多いことや,対応困難な対象者
が多いこと,受皿となる福祉施設等の理解が必要であることなどから,退院後の住居の確保が非常に重要である。
○しろまる精神保健観察
対象者に対する継続的かつ適切な医療を確保するため,通院又は退院許可の決定を受けた対象者と適当な接触を保ち,指定通院
医療機関の管理者並びに都道府県知事及び市町村長から報告を求めるなどしてその生活状況を見守るとともに,継続的な医療を受
けさせるために必要な指導を行い,守るべき事項の不遵守,病状悪化や医療中断等の事態に即応するなどの措置を講ずる(法第106
条等)。
医療観察法による入院治療が必要な場合等は,裁判所に申立てを行う(法第59条等)。
・対象者の病状は,ささいなきっかけから容易に変化し得るため,常に,綿密な病状の把握及び指導のための往訪,関
係機関との頻繁な協議が必要となる。
・対象者の病状が悪化した場合は,他害行為に及ぶおそれがあり,安全確保のため,複数の社会復帰調整官による対応
が必要となる。
・対象者の病状悪化により危機的状況となった場合は,夜間・休日を問わず迅速な対応が必要となる。
○しろまる処遇実施計画の策定・見直し
地域社会における処遇(医療,精神保健観察及び援助)は,処遇実施計画に基づいて行われなければならないこととされており(法
第105条),ケア会議を開催し,同計画について指定通院医療機関及び都道府県・市町村と協議の上で,その策定・見直しをしている
(法第104条)。
○しろまる関係機関との連携
対象者の社会復帰を促進するためには,医療や援助等を行う指定通院医療機関,都道府県・市町村,障害福祉サービス事業者等
が連携して処遇を実施することが必要不可欠であるため,保護観察所がこれら関係機関・団体とのネットワーク形成・維持・拡充のた
めに,コーディネーターの役割を果たす(法第108条等)。
社会復帰調整官の業務
Point!
社会復帰調整官の業務
Point!
社会復帰調整官の業務
Point!
発生した
事態
暴行
所在不明
過量服薬
近隣住民
の通報
拡大自殺
企図
服薬中断
飲酒・暴行
※(注記)事例は,個人を特定できないように加工済み。
夕食後,対象者が服薬せず,様子がおかしいと家族から一報が入ったもの。社会復帰調整官が電
話で服薬について指導したが,その後,「被害妄想が生じている」と再度家族から連絡があったことか
ら,再他害行為の危険性が高いと考えたため,社会復帰調整官が急行し,病院へ同行した。
深夜,飲酒によるめいてい状態で入所施設の同室者を殴打したと施設職員から連絡を受けたため,
社会復帰調整官が同施設に急行し,施設職員と協議し,最終的に警察へ同行した。
採った措置の内容及び結果の概要
夜間,社会福祉施設に入所している対象者が,同室者を風呂おけで殴り掛かろうとしたと施設職員
から一報が入ったもの。服薬中断が疑われたことから,社会復帰調整官が急行し,対象者に対する
指導を行った。
夜間,対象者の居住する社会福祉施設から「対象者が外出したまま戻らず,携帯電話も通じない」と
連絡があったもの。社会復帰調整官が同施設に急行し,対象者の捜索を行ったところ,深夜に対象
者を発見し,同施設に連れ帰った。
対象者が家族とのトラブルにより発作的に大量服薬し,こん睡状態に陥ったと家族から電話で一報が
入ったもの。生命の危険性があり,深夜であることから,社会復帰調整官は保健所職員と対象者宅
に同行し,病院まで搬送した。
深夜,近隣の女性宅の前で対象者が不審な言動をしていたことから警察に通報され,身柄を保護し
たと警察から連絡があったもの。社会復帰調整官が臨時訪問したところ,精神状態に変調を来して
いたことから,病院と連絡を取り,対象者を病院に連れて行った。
対象者から「実母と喧嘩をした。部屋で暴れてガラスを割った」と連絡があり,希死念慮も認められた
ことから,休日深夜であったが社会復帰調整官と訪問看護師が対象者宅を訪問し面接を行った。実
母も巻き込んで自殺しようとする拡大自殺を図ろうとしたため緊急入院の措置を採った。
妄想に基づき,たばこ店で強盗をした50代男性。診断名は,統合失調
症。
当初審判において通院決定を受けたが,元々病識が乏しかったため,
徐々に通院や訪問看護を拒否するようになった。担当社会復帰調整官や
関係機関のスタッフは,受診するよう繰り返し指導したが,対象者は大声
で怒鳴り,殴り掛かる素振りを見せるなどの状況が続いた。そのため,往
訪時には担当社会復帰調整官に加えて統括社会復帰調整官も同行し,
関係機関と連携して危機管理をするなどの慎重な対応をしていた。
その後,更に人格の荒廃が進み,ささいなことで過剰な反応をするよう
になり,市役所で大暴れしたり,主治医に対して「ぶっ殺す」と述べて通院
が確保できなくなるなど危険な状況になったため,保護観察所長が入院
申立てを行った。裁判所から同行状が発付され,統括社会復帰調整官が
その執行の指揮に当たったが,対象者が同行を拒否し,その執行を妨害
しようとしたため,警察官の協力も得て,身体の拘束を行った。
事 例 1
事 例 2
医 療 観 察 制 度 に お け る 処 遇 困 難 事 例
自殺目的で放火をした20代男性。診断名は,統合失調症。
当初審判において通院決定を受けたが,その直後から通院や服薬を
怠って病状が悪化し,指定通院医療機関への入退院を繰り返した。そ
の間,所在不明となったり,妄想等に基づいて同居人に対して暴行す
るなど不安定な状況が続いた。その処遇の経過から,統括社会復帰
調整官は,対象者には統合失調症のほか人格変化や対人コミュニ
ケーションに障害があるなど非常に複雑な問題があるため,手厚い支
援ネットワークや緊急時の即応体制を整える必要があると判断し,担
当社会復帰調整官とともにケア会議を密に開催して関係機関との連携
強化・体制整備を図った。また,対象者の不安定な状況に柔軟に対応
するため,処遇実施計画の見直しを積極的に行うよう担当社会復帰調
整官に指示し,高度な専門的知見に基づいて助言を行うなどした。
その後,同居人が対象者宅で暴力を振るわれて救助を求めたため,
統括社会復帰調整官は,危機対応が必要な状況と判断し,関係機関
のスタッフとともに5名体制で対象者宅に急行した。対象者宅からは同
居人の叫び声や殴打の音が聞こえたため,警察官の協力も得て救助
した。対象者は,医療保護入院となり,その後,保護観察所長が入院
申立てを行った。
訪問指導(受診同行・緊急対応など) 庁内での面接 裁判所での事前協議
退院に向けた指定入院医療機関
での面会・ケア会議
急性期病棟での面会 ケア会議
(多くの関係機関が参加する連携型のケア)
社 会 復 帰 調 整 官 の 業 務 場 面 の 例
処 遇 困 難 事 例 へ の 対 応