東北公安調査局における行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律
に基づく処分に係る審査基準
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。
以下「法」という。
)に基づき,東北公安調査局における保有個人情報の開示,
訂正及び利用停止の処分(以下「開示等」という。
)に係る判断をするに当たっ
ては,本審査基準により行うものとするが,その運用に際しては,画一的,一律
的に決定することのないよう留意し,個々の保有個人情報の内容,性質等に応じ
て十分な検討を行い,法の規定の趣旨に沿って,個々具体的に判断しなければな
らない。
以下,保有個人情報の開示等を判断するに当たっての考え方や考慮すべき事項
を説明する。
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法第14条(保有個人情報の開示義務)関係
第14条 行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る保有個
人情報に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。
)のいずれか
が含まれている場合を除き,開示請求者に対し,当該保有個人情報を開示し
なければならない。
1 開示・不開示の基本的考え方
開示請求権制度は,個人が,行政機関の保有する自己に関する個人情報の正
確性や取扱いの適正性を確認する上で重要な制度であるため,法は,不開示情
報以外は開示する義務を負うとの原則開示の枠組みとしている。
一方で,本人や第三者,法人等の権利利益や,国の安全,公共の利益等も適
切に保護する必要があり,不開示情報に該当するか否かを判断するに当たって
は,本人に対して開示することによる利益と開示しないことによる利益とを適
切に比較衡量する必要がある。
2 不開示情報の類型
ある情報が本条各号の複数の不開示情報に該当する場合があり得ることか
ら,ある保有個人情報を開示する場合は,本条各号の不開示情報のいずれにも
該当しないことを確認することが必要である。
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法第14条第1号・第2号(個人に関する情報)関係
第14条
一 開示請求者(第12条第2項の規定により未成年者又は成年被後見人の
法定代理人が本人に代わって開示請求をする場合にあっては,当該本人を
いう。次号及び第3号,次条第2項並びに第23条第1項において同じ。)の生命,健康,生活又は財産を害するおそれがある情報
二 開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関す
る情報を除く。
)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の
記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの
(他の情報と照合することにより,開示請求者以外の特定の個人を識別す
ることができることとなるものを含む。)又は開示請求者以外の特定の個
人を識別することはできないが,開示することにより,なお開示請求者以
外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報
を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ,又は
知ることが予定されている情報
ロ 人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必要
であると認められる情報
ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第
2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法
律第103号)第2条第4項に規定する行政執行法人の役員及び職員を
除く。),独立行政法人等の役員及び職員,地方公務員法(昭和25年
法律第261号)第2条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人
の役員及び職員をいう。
)である場合において,当該情報がその職務の
遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び
当該職務遂行の内容に係る部分
1 本人の生命,健康,生活又は財産を害するおそれがある情報(第1号)
法の開示請求権制度は,本人に対して当該本人に関する保有個人情報を開示
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するものであり,通例は本人の権利利益を害するおそれはないものと考えられ
る。しかし,開示が必ずしも本人の利益にならない場合もあり得る(例えば,
カルテの開示の場合,患者の精神状態,病状の進行状態等から,開示が病状等
の悪化をもたらすことが予見される場合もあり得る。また,児童虐待の場合の
ように,虐待の告発等の児童本人に関する情報を親が法定代理人として開示請
求する場合も想定される。
)ことから,そのような場合には不開示とすること
ができることとされている。
ただし,本号が適用される局面は,開示することが深刻な問題を引き起こす
可能性がある場合であり,その運用に当たっては,具体的ケースに即して慎重
に判断する必要がある。
2 開示請求者以外の個人に関する情報(第2号本文)
開示請求に係る個人情報の中に,本人以外の第三者(個人)の情報が含まれ
ている場合があるが,第三者に関する情報を本人に開示することにより当該第
三者の権利利益が損なわれるおそれがあることから,第三者に関する情報は不
開示情報とされている。
(1) 「
(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)」
「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は,個人に関する情報に含ま
れるが,当該事業に関する情報であるので,法人等に関する情報と同様の要
件により不開示情報該当性を判断することが適当であることから,本号の個
人に関する情報から除外されている。
(2) 「当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により開示請求者以
外の特定の個人を識別することができるもの」
「その他の記述等」とは,氏名及び生年月日以外の記述又は個人別に付さ
れた番号その他の符号等をいう。映像や音声も,それによって特定の個人を
識別することができる限りにおいて「その他の記述等」に含まれる。
「特定の個人を識別することができる」とは,当該情報の本人である特定
の個人が誰であるかを識別することができることをいう。
(3) 「他の情報と照合することにより」
照合の対象となる「他の情報」には,その保有者が他の機関である場合も
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含まれ,また,公知の情報や,図書館等の公共施設で一般に入手可能なもの
など一般人が通常入手し得る情報が含まれる。特別の調査をすれば入手し得
るかもしれないような情報については,通例は「他の情報」に含めない。
(4) 「開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが,開示するこ
とにより,
なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」
保有個人情報の中には,匿名の作文や,無記名の個人の著作物のように,
個人の人格と密接に関連したり,開示すれば財産権その他の個人の正当な利
益を害するおそれがあると認められるものがあることから,特定の個人を識
別できない場合であっても,開示することにより,なお個人の権利利益を害
するおそれがある場合については,不開示情報とされている。
3 「法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ,又は知
ることが予定されている情報」
(第2号イ)
開示請求者以外の個人に関する情報であっても,あえて不開示情報として保
護する必要性に乏しいものについては,不開示情報から除かれている。
(1) 「法令の規定により開示請求者が知ることができる情報」
「法令の規定」には,何人に対しても等しく当該情報を開示すること又は
公にすることを定めている規定のほか,特定の範囲の者に限り当該情報を開
示することを定めている規定が含まれる。
(2) 「慣行として開示請求者が知ることができる情報」
慣習法としての法規範的な根拠を要するものではなく,事実上の慣習とし
て知ることができ,又は知ることが予定されていることで足りる。
当該保有個人情報と同種の情報について,本人が知ることができた事例が
あったとしても,それが個別的な事例にとどまる限り「慣行として」には当
たらない。また,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年
法律第42号。以下「情報公開法」という。
)第5条第1号イの「慣行とし
て公にされ」ている情報は,慣行として開示請求者が知ることができる情報
に含まれる。
「慣行として開示請求者が知ることができ」る情報に該当するものとして
は,請求者の家族構成に関する情報(妻子の名前や年齢,職業等)等が考え
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られる。
(3) 「知ることが予定されている情報」
実際には知らされていないが,将来的に知らされることが予定されている
場合である。
「予定」とは将来知らされることが具体的に決定されているこ
とは要しないが,当該情報の性質,利用目的等に照らして通例知らされるべ
きものと考えられていることをいう。
例えば,複数の者が利害関係を有する事項についての調査結果を当事者に
通知することが予定されている場合において,開示請求の時点においては,
未だ調査結果の分析中であったため通知されていなかった場合が想定され
る。
4 「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必要で
あると認められる情報」(第2号ロ)
開示請求者以外の個人に関する情報について,不開示にすることにより保護
される開示請求者以外の個人の権利利益よりも,開示請求者を含む人の生命,
健康等の利益を保護することの必要性が上回るときには,当該情報を開示しな
ければならない。現実に,人の生命,健康等に被害が発生している場合に限ら
ず,将来これらが侵害される蓋然性の高い場合も含まれる。
この比較衡量に当たっては,個人の権利利益にも様々なものがあり,また,
人の生命,健康,生活又は財産の保護にも,保護すべき権利利益の程度に差が
あることから,個別の事案に応じて慎重な検討が必要である。
5 公務員等の職及び職務の遂行に係る情報(第2号ハ)
(1) 「当該情報がその職務の遂行に係る情報であるとき」
「職務の遂行に係る情報」とは,公務員等が行政機関その他の国の機関,
独立行政法人,地方公共団体又は地方独立行政法人の一員として,その担任
する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味する。例え
ば,苦情相談に対する担当職員の応対内容に関する情報などがこれに含まれ
る。
(2) 「当該情報のうち,
当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」
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公務員等の職及び職務の遂行に関する情報のうち,その職名と職務遂行の
内容について,情報公開法では,政府の諸活動を説明する責務が全うされる
ようにする観点から不開示としないこととされているが,法においても同様
に不開示とはしないこととされている。
(3) 公務員等の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の氏名の取扱い
公務員等の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の氏名について
は,開示した場合,公務員等の私生活等に影響を及ぼす恐れがありうること
から,私人の場合と個人情報として保護に値すると位置づけた上で,本号イ
に該当する場合には,例外的に開示することとなる。
人事異動の官報への掲載その他行政機関等により職名と氏名を公表する慣
行がある場合や,行政機関等により作成され,又は行政機関等が公にする意
思をもって(あるいは公にされることを前提に)提供した情報を基に作成され,現に一般に販売されている職員録に職と氏名が掲載されている場合には,
「慣行として開示請求者が知ることができ,
又は知ることが予定されている」
場合に該当する。
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法第14条第3号(法人等に関する情報)関係
第14条
三 法人その他の団体(国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立
行政法人を除く。以下この号において「法人等」という。
)に関する情報
又は開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,
次に掲げるもの。ただし,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,
開示することが必要であると認められる情報を除く。
イ 開示することにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位
その他正当な利益を害するおそれがあるもの
ロ 行政機関の要請を受けて,開示しないとの条件で任意に提供されたも
のであって,法人等又は個人における通例として開示しないこととされ
ているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質,当時の状
況等に照らして合理的であると認められるもの
1 「法人その他の団体に関する情報又は開示請求者以外の事業を営む個人の当
該事業に関する情報」
(第3号本文)
(1) 「法人その他の団体(国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行
政法人を除く。
)に関する情報」
ア 株式会社等の商法上の会社,財団法人,社団法人,学校法人,宗教法人
等の民間の法人のほか,政治団体,外国法人や法人ではないが権利能力な
き社団等も含まれる。
一方,国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人につい
ては,その公的性格に鑑み,法人等とは異なる開示・不開示の基準を適用
すべきであるので,
本号から除き,
その事務又は事業に係る不開示情報は,
第7号において規定している。
イ 「法人その他の団体に関する情報」は,法人等の組織や事業に関する情
報のほか,法人等の権利利益に関する情報等法人等と関連性を有する情報
を指す。
なお,法人等の構成員に関する情報は,法人等に関する情報であると同
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時に,構成員各個人に関する情報でもある。
(2) 「開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報」
「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は,事業に関する情報である
ので,(1)に掲げた法人等に関する情報と同様の要件により,事業を営む上
での正当な利益等について不開示情報該当性を判断することが適当であるこ
とから,本号で規定されている。
2 「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必要であ
ると認められる情報」
(第3号ただし書)
当該情報を不開示にすることによって保護される法人等又は事業を営む個人
の権利利益と,これを開示することにより保護される人の生命,健康等の利益
とを比較衡量し,後者の利益を保護することの必要性が上回るときは,当該情
報を開示しなければならない。
現実に人の生命,健康等に被害が発生している場合に限らず,将来これらが
侵害される蓋然性が高い場合も含まれる。なお,法人等又は事業を営む個人の
事業活動と人の生命,健康等に対する危害等との明確な因果関係が確認されな
くても,現実に人の生命,健康等に対する被害等の発生が予想される場合もあ
り得る。
3 「当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害する
おそれがあるもの」
(第3号イ)
ア 「権利」には,信教の自由,集会・結社の自由,学問の自由,財産権等,
法的保護に値する権利一切を含む。
「競争上の地位」とは,法人等又は事業を営む個人の公正な競争関係に
おける地位を指す。
「その他正当な利益」には,ノウハウや信用等,法人等又は事業を営む
個人の運営上の地位を広く含む。
イ 「害するおそれ」があるかどうかの判断に当たっては,法人等又は事業
を営む個人には様々な種類,性格のものがあり,その権利利益にも様々の
ものがあるので,法人等又は事業を営む個人の性格や権利利益の内容,性
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質等に応じ,当該法人等又は事業を営む個人の権利の保護の必要性,当該
法人等又は事業を営む個人と行政との関係等を十分考慮する。なお,この
「おそれ」の判断に当たっては,単なる確率的な可能性ではなく,法的保
護に値する蓋然性が求められる。
4 「任意に提供された情報」
(第3号ロ)
法人等又は事業を営む個人から開示しないとの条件の下に任意に提供された
情報については,当該条件が合理的なものと認められる限り不開示情報とし,
情報提供者の信頼と期待を基本的に保護することとされている。なお,行政機
関の情報収集能力の保護は,別途,第7号等の不開示情報の規定によって判断
される。
(1) 「行政機関の要請を受けて,
開示しないとの条件で任意に提供された情報」
行政機関の要請を受けずに,法人等又は事業を営む個人から提供された情
報は含まれない。ただし,行政機関の要請を受けずに,法人等又は事業を営
む個人から提供申出があった情報であっても,提供に先立ち,法人等又は事
業を営む個人の側から開示しないとの条件が提示され,行政機関が合理的理
由があるとしてこれを受諾した上で提供を受けた場合には,含まれる。
「行政機関の要請」
には,
法令に基づく報告又は提出の命令は含まないが,
行政機関の長が報告徴収権限を有する場合でも,当該権限を行使することな
く,任意に提出を求めた場合は含まれる。
「開示しない」とは,法や情報公開法に基づく開示請求に対して開示しな
いことはもちろんであるが,第三者に対して当該情報を提供しないという意
味である。また,特定の行政目的以外の目的には利用しないとの条件で情報
の提供を受ける場合も通常含まれる。
「条件」については,行政機関の側から開示しないとの条件で情報を提供
してほしいと申し入れる場合も,法人等又は事業を営む個人の側から行政機
関の要請があったので情報は提供するが開示しないでほしいと申し出る場合
も含まれるが,いずれにしても双方の合意により成立する。
また,条件を設ける方法については,黙示的なものを排除しない。
(2) 「法人等又は個人における通例として開示しないこととされているものそ
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の他の当該条件を付することが当該情報の性質,当時の状況等に照らして合
理的であると認められるもの」
「法人等又は個人における通例」とは,当該法人等又は個人の個別具体的
な事情ではなく,当該法人等又は個人が属する業界における通常の取扱いを
意味し,当該法人等又は個人において開示しないこととしていることだけで
は足りない。
開示しないとの条件を付すことの合理性の判断に当たっては,情報の性質
に応じ,当該情報の提供当時の諸般の事情を考慮して判断するが,必要に応
じ,その後の変化も考慮する。開示しないとの条件が付されていても,現に
当該情報が公になっていたり,同種の情報が既に開示されているなどの事情
がある場合には,本号には当たらない。
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法第14条第4号(国の安全等に関する情報)関係
第14条
四 開示することにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機
関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上
不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由
がある情報
1 「国の安全が害されるおそれ」
「国の安全」とは,国家の構成要素である国土,国民及び統治体制が害され
ることなく平和で平穏な状態に保たれていること,すなわち,国としての基本
的な秩序が平穏に維持されている状態をいう。具体的には,直接侵略及び間接
侵略に対し,独立と平和が守られていること,国民の生命が国外からの脅威等
から保護されていること,国の存立基盤としての基本的な政治方式及び経済・
社会秩序の安定が保たれていることなどをいう。
「国の安全が害されるおそれ」とは,これらの国の重大な利益に対する侵害
のおそれ(当該重大な利益を維持するための手段の有効性を阻害され,国の安
全が害されるおそれがある場合を含む。
)をいう。
2 「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ」
「他国若しくは国際機関」
(以下「他国等」という。
)には,我が国が承認
していない地域,政府機関その他これに準ずるもの(各国の中央銀行等),外国の地方政府又は国際会議その他国際協調の枠組みに係る組織(アジア太平洋
経済協力,国際刑事警察機構等)の事務局等を含む。
他国等との「信頼関係が損なわれるおそれ」とは,他国等との間で,相互の
信頼に基づき保たれている正常な関係に支障を及ぼすようなおそれをいう。例
えば,開示することにより,他国等との取決め又は国際慣行に反することとな
る,他国等の意思に一方的に反することとなる,他国等に不当に不利益を与え
ることとなるなど,我が国との関係に悪影響を及ぼすおそれがある情報が該当
する。
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3 「他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」
他国等との現在進行中の又は将来予想される交渉において,我が国が望むよ
うな交渉成果が得られなくなる,我が国の交渉上の地位が低下するなどのおそ
れをいう。例えば,交渉(過去のものを含む。
)に関する情報であって,開示
することにより,現在進行中の又は将来予想される交渉に関して我が国が採ろ
うとしている立場が明らかにされ,又は具体的に推測されることになり,交渉
上の不利益を被るおそれがある情報が該当する。
4 「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」
開示することにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損
なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがある情報について
は,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判
断に高度の政策的判断を伴うこと,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来
予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。
本号は,この種の情報について司法審査が行われる場合,裁判所は,本号に
規定する情報に当たるかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊
重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(「相当の理由があるか」
)否かを審理・判断することが適当であるため,こ
のような規定ぶりとされたものである。
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法第14条第5号(公共の安全等に関する情報)関係
第14条
五 開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執
行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機
関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
1 「犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行」
「犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行」は,
「公共の安全と
秩序の維持」の例示である。
「犯罪の予防」とは,犯罪の発生を未然に防止することをいう。
「犯罪の鎮圧」とは,犯罪が正に発生しようとするのを未然に防止したり,
犯罪が発生した後において,その拡大を防止し,又は終息させることをいう。
「犯罪の捜査」とは,捜査機関が犯罪があると思料するときに,公訴の提起
などのために犯人及び証拠を発見・収集・保全することをいう。
「公訴の維持」とは,検察官が裁判所に対し,特定の刑事事件について審判
を求める意思表示をすることを内容とする訴訟行為を公訴の提起というが,こ
の提起された公訴の目的を達成するため,終局判決を得るまでに検察官が行う
公判廷における主張・立証,公判準備などの活動を指す。
「刑の執行」とは,犯罪に対して科される制裁を刑といい,刑法第二章に規
定された死刑,懲役,禁錮,罰金,拘留,科料,没収,追徴及び労役場留置の
刑又は処分を具体的に実施することをいう。保護観察,勾留の執行,保護処分
の執行,保護処分の執行,観護措置の執行,補導処分の執行,監置の執行,過
料,訴訟費用,費用賠償及び仮納付の各裁判の執行,恩赦についても,刑の執
行に密接に関連するものでもあることから,開示することにより,これら保護
観察等に支障を及ぼし,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある
情報は,本号に該当する。
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2 「公共の安全と秩序の維持」
「公共の安全と秩序の維持」とは,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持
及び刑の執行に代表される刑事法の執行を中心としたものを意味する。
刑事訴訟法以外の特別法により,臨検,捜索,差押え,告発等が規定され,
犯罪の予防・捜査とも関連し,刑事司法手続に準ずるものと考えられる犯則事
件の調査,独占禁止法違反の調査等や,犯罪の予防・捜査に密接に関連する破
壊的団体及び無差別大量殺人行為を行った団体の規制,暴力団員による不当な
行為の防止,つきまとい等の規制,強制退去手続に関する情報であって,開示
することにより,
公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるものは,
本号に含まれる。
また,開示することにより,テロ等の人の生命,身体,財産等への不法な侵
害や,特定の建造物又はシステムへの不法な侵入・破壊を招くおそれがあるな
ど,犯罪を誘発し,又は犯罪の実行を容易にするおそれがある情報や,被疑者
・被告人の留置・勾留に関する施設保安に支障を生ずるおそれのある情報も本
号に含まれる。
なお,本号に該当する破壊的団体及び無差別大量殺人行為を行った団体の規
制に関する情報のうち,国の安全を害するおそれのあるものについては,第1
4条第4号が重畳適用される。
風俗営業等の許可,伝染病予防,食品,環境,薬事等の衛生監視,建築規制,
災害警備等の,一般に開示しても犯罪の予防,鎮圧等に支障が生ずるおそれの
ない行政警察活動に関する情報については,本号ではなく,第7号の事務又は
事業に関する不開示情報の規定により,開示・不開示が判断される。
3 「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」
開示することにより,犯罪の予防,鎮圧,捜査等の公共の安全と秩序の維持
に支障を及ぼすおそれがある情報については,その性質上,開示・不開示の判
断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの
特殊性が認められる。このため,この種の情報について司法審査が行われる場
合,国の安全等に関する情報と同様,裁判所は,本号に規定する情報に当たる
かどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理
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性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(
「相当の理由がある
か」
)否かを審理・判断することが適当であることから,このような規定ぶり
とされたものである。
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法第14条第6号(審議,検討等に関する情報)関係
第14条
六 国の機関,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人の内部
又は相互間における審議,検討又は協議に関する情報であって,開示する
ことにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわ
れるおそれ,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不
当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
1 「対象となる情報の範囲」
「国の機関」とは,国会,内閣,裁判所及び会計検査院並びにこれらに属す
る機関を指す。これらの国の機関,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独
立行政法人(国の機関等)について,それぞれの機関の内部又は他の機関との
相互間における審議,検討又は協議に関する情報が本号の対象である。
具体的には,
国の機関等の事務及び事業について意思決定が行われる場合に,
その決定に至るまでの過程においては,例えば,具体的な意思決定の前段階と
しての政策等の選択肢に関する自由討議のようなものから,一定の責任者の段
階での意思統一を図るための協議や打合せ,決裁を前提とした説明や検討,審
議会等又は行政機関が開催する有識者等を交えた研究会等における審議や検討
など,様々な審議,検討及び協議が行われており,これら各段階において行わ
れる審議,検討又は協議に関連して作成され,又は取得された情報を指す。
2 「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」
開示することにより,外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどによ
り,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれが
ある場合をいう。
3 「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」
未成熟な情報や事実関係の確認不十分な情報などを開示することにより,誤
解や憶測を招き,
不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある場合をいう。
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4 「特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれ」
尚早な時期に,あるいは事実関係の確認が不十分なままで情報を開示するこ
とにより,不正な投機を助長するなどして,特定の者に不当に利益を与え又は
不利益を及ぼすおそれがある場合をいう。
5 「不当に」
2から4までにおいて,
「不当に」とは,審議,検討等途中の段階の情報を
開示することの必要性を考慮してもなお,適正な意思決定の確保等への支障が
看過し得ない程度のものであることを意味する。予想される支障が「不当」な
ものかどうかについては,当該情報の性質に照らし,開示することによる利益
と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断する。
6 意思決定後の取扱い等
審議,検討等に関する情報については,国の機関等としての意思決定が行わ
れた後は,一般的には,当該意思決定そのものに影響が及ぶことはなくなるこ
とから,本号の不開示情報に該当する場合は少なくなるものと考えられるが,
当該意思決定が全体として一つの政策決定の一部の構成要素であったり,当該
意思決定を前提として次の意思決定が行われるなど審議,検討等の過程が重層
的,連続的な場合には,当該意思決定後であっても,政策全体の意思決定又は
次の意思決定に関して本号に該当するかどうかの検討を要する。
また,審議,検討等が終了し,意思決定が行われた後であっても,当該審議,
検討等に関する情報が開示されると,国民の間に混乱を生じさせたり,将来予
定されている同種の審議,検討等に係る意思決定に不当な影響を与えるおそれ
があれば,本号に該当し得る。
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法第14条第7号(事務又は事業に関する情報)関係
第14条
七 国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が行う
事務又は事業に関する情報であって,開示することにより,次に掲げるお
それその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に
関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行
為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方公
共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を
不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害
するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼ
すおそれ
ホ 独立行政法人等,地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人
に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
1 「次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の
適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの 」
(第7号本文)
(1) 「次に掲げるおそれ」
「次に掲げるおそれ」としてイからホまでに掲げたものは,国の機関等に
共通してみられる事務又は事業に関する情報を開示することによって,当該
事務又は事業の性質上,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考え
られる典型例を挙げたものである。これらの事務又は事業の外にも,同種の
ものが反復されるような性質の事務又は事業であって,ある個別の事務又は
事業に関する情報を開示すると,将来の同種の事務又は事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあるものなどは,
「その他当該事務又は事業の性質上,
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当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当し
得る。
(2) 「当該事務又は事業の性質上,適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」
当該事務又は事業の本質的な性格,
具体的には,
当該事務又は事業の目的,
その目的達成のための手法等に照らして,その適正な遂行に支障を及ぼすお
それがあるかどうかを判断する。
各号の要件の該当性は客観的に判断される必要があり,また,事務又は事
業の根拠となる規定やその趣旨に照らし,個人の権利利益を保護する観点か
らの開示の必要性等の種々の利益を衡量した上で,
「適正な遂行」といえる
ものであることが求められる。
「支障」の程度は,名目的なものでは足りず実質的なものが要求され,
「お
それ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が
要求される。
2 「監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し,
正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易に
し,若しくはその発見を困難にするおそれ」
(第7号イ)
(1) 「監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収」
「監査」とは,主として監察的見地から,事務又は事業の執行及び財産の
状況の正否を調べることをいう。
「検査」とは,法令の執行確保,会計経理の適正確保,物資の規格,等級
の証明等のために帳簿書類その他の物件等を調べることをいう。
「取締り」とは,行政上の目的による一定の行為の禁止,又は制限につい
て適法,適正な状態で確保することをいう。
「試験」とは,人の知識,能力等又は物の性能等を試すことをいう。
「租税」には,国税,地方税がある。
「賦課」とは,国又は地方公共団体
が,公租公課を特定の人に割り当てて負担させることをいい,
「徴収」とは,
国又は地方公共団体が,租税その他の収入金を取ることをいう。
(2) 「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容
易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ」
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監査等の事務は,
いずれも事実を正確に把握し,
その事実に基づいて評価,
判断を加えて,一定の決定を伴うことがある事務である。
これらの事務に関する情報の中には,例えば,監査等の対象,実施時期,
調査事項等の詳細な情報のように,事前に開示すると,適正かつ公正な評価
や判断の前提となる事実の把握が困難となったり,行政客体における法令違
反行為又は法令違反には至らないまでも妥当性を欠く行為を助長したり,巧
妙に行うことにより隠蔽をするなどのおそれがあるものがあり,このような
情報については,不開示とする。また,事後であっても,例えば,監査内容
等の詳細についてこれを開示すると今後の法規制を免れる方法を示唆するこ
とになるようなものは該当し得る。
3 「契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方公共団
体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害す
るおそれ」
(第7号ロ)
(1) 「契約,交渉又は争訟」
「契約」とは,相手方との意思表示の合致により法律行為を成立させるこ
とをいう。
「交渉」とは,当事者が,対等の立場において相互の利害関係事項に関し
一定の結論を得るために協議,調整などの折衝を行うことをいう。
「争訟」とは,訴えを起こして争うことをいう。訴訟,行政不服審査法に
基づく審査請求その他の法令に基づく審査請求がある。
(2) 「国,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利
益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」
国,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が一方の当事者
となる上記の契約等においては,自己の意思により又は訴訟手続上,相手方
と対等な立場で遂行する必要があり,当事者としての利益を保護する必要が
ある。
これらの契約等に関する情報の中には,例えば,用地取得等の交渉方針や
用地買収計画案を開示することにより,適正な額での契約が困難になり財産
上の利益が損なわれたり,
交渉や争訟等の対処方針等を開示することにより,
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当事者として認められるべき地位を不当に害するおそれがあるものがあり,
このような情報については,不開示とする。
4 「調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害する
おそれ」
(第7号ハ)
調査研究に係る事務に関する情報の中には,例えば,知的所有権に関する情
報,調査研究の途中段階の情報などで,一定の期日以前に開示することにより
成果を適正に広く国民に提供する目的を損ね,特定の者に不当な利益や不利益
を及ぼすおそれがあるもの,及び試行錯誤の段階の情報で,開示することによ
り,自由な発想,創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ,減退するなど,能率
的な遂行を不当に阻害するおそれがあるものがあり,このような情報について
は,不開示とする。
5 「人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすお
それ」
(第7号ニ)
人事管理に係る事務に関する情報の中には,例えば,人事評価や人事異動,
昇格等の人事構想等を開示することにより,公正かつ円滑な人事の確保が困難
になるおそれがあるものがあり,このような情報は,不開示とする。
6 「独立行政法人等,地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係
る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」
(第7号ホ)
独立行政法人等,地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る
事業に関連する情報については,企業経営という事業の性質上,第14条第3
号の法人等に関する情報と同様な考え方で,企業経営上の正当な利益を保護す
る必要があり,これを害するおそれがあるものは,不開示とする。ただし,正
当な利益の内容については,経営主体,事業の性格,内容等に応じて判断する
必要があり,情報の不開示の範囲は同号の法人等とは当然異なり,より狭いも
のとなる場合があり得る。
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法第15条(部分開示)関係
第15条 行政機関の長は,開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含ま
れている場合において,不開示情報に該当する部分を容易に区分して除くこ
とができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示し
なければならない。
2 開示請求に係る保有個人情報に前条第2号の情報(開示請求者以外の特定
の個人を識別することができるものに限る。)が含まれている場合において,
当該情報のうち,氏名,生年月日その他の開示請求者以外の特定の個人を識
別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,
開示しても,
開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるとき
は,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前
項の規定を適用する。
1 不開示情報が含まれている場合の部分開示(第1項)
(1) 「開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合」
開示請求について審査した結果,開示請求に係る保有個人情報に,不開示
情報に該当する情報が含まれている場合を意味する。
第14条では,保有個人情報に全く不開示情報が含まれていない場合の開
示義務を定めているが,本項の規定により,開示請求に係る保有個人情報に
不開示情報が含まれている場合には,部分的に開示できるか否か判断を行わ
なければならないこととなる。
(2) 「容易に区分して除くことができるとき」
ア 当該保有個人情報のどの部分が不開示情報に該当するかという区分けが
困難な場合だけではなく,区分けは容易であるがその部分の分離が技術的
に困難な場合も部分開示の義務はない。
「区分」とは,不開示情報に該当する部分とそれ以外の部分とを概念上
区分けすることを意味し,
「除く」とは,不開示情報に該当する部分を,
当該部分の内容が分からないように墨塗り,被覆を行うなど,加工するこ
とにより,情報の内容を消滅させることをいう。
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イ 保有個人情報に含まれる不開示情報を除くことは,当該保有個人情報が
文書に記録されている場合,文書の複写物に墨を塗り再複写するなどして
行うことができ,一般的には容易である。
一方,録音テープ,ビデオテープ,磁気ディスクに記録された保有個人
情報については,区分して除くことの容易性が問題となる。例えば,複数
の人の発言が同時に録音されているが,そのうちの一人から開示請求があ
った場合や,録画されている映像中に開示請求者以外の者が映っている場
合などがあり得る。このような場合には,不開示情報を容易に区分して除
くことができる範囲で,開示すべき部分を決定する。
なお,電磁的記録に記録された保有個人情報については,紙に出力した
上で,不開示情報を区分して除いて開示することも考えられる。
電磁的記録をそのまま開示することを求められた場合は,不開示情報の
部分のみを削除することの技術的可能性等を総合的に判断する必要があ
る。既存のプログラムでは行うことができない場合は,
「容易に区分して
除くことができるとき」に該当しない。
(3) 「当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。」不開示情報の記録部分の全体を完全に黒く塗るか,文字が判読できない程
度に被覆するか,当該記録中の主要な部分だけ塗り潰すかなどの方法の選択
は,不開示情報を開示する結果とならない範囲内において,当該方法を講ず
ることの容易さ等を考慮して判断する。その結果,観念的には一まとまりの
不開示情報を構成する一部が開示されることになるとしても,実質的に不開
示情報が開示されたと認められないのであれば,不開示義務に反しない。
2 個人識別性の除去による部分開示(第2項)
(1) 「開示請求に係る保有個人情報に前条第2号の情報(開示請求者以外の特
定の個人を識別することができるものに限る。
)が含まれている場合」
ア 第1項の規定は,保有個人情報のうち,不開示情報でない部分の開示義
務を規定しているが,不開示情報のうち一部を特に削除することにより不
開示情報の残りの部分を開示することの根拠規定とはならない。
個人識別情報は,通例は特定の個人を識別可能とする情報と当該個人の
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属性情報からなる「一まとまり」の情報の集合物であり,他の不開示情報
の類型が各号に定められた「おそれ」を生じさせる範囲で不開示情報の範
囲を画することができるのとは,
その範囲の捉え方を異にする。
このため,
第1項の規定だけでは,個人識別情報については全体として不開示となる
ことから,氏名等の部分だけを削除して残りの部分を開示しても個人の権
利利益保護の観点から支障が生じないときには,部分開示とするよう,個
人識別情報についての特例規定を設けたのが第2項である。
イ 「開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る」こ
ととしているのは,前条第2号の情報のうち,
「特定の個人を識別するこ
とはできないが,開示することにより,なお個人の権利利益を害するおそ
れがあるもの」については,その定義からして,氏名,生年月日その他の
特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くという
ことがおよそ考えられないためである。
(2) 「当該情報のうち,氏名,生年月日その他の開示請求者以外の特定の個人
を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,開示し
ても,開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認められ
るとき」
個人を識別させる要素を除去し誰の情報であるかが分からなくなっても,
開示することが不適当であると認められる場合もある。例えば,作文などの
個人の人格と密接に関連する情報や,個人の未発表の論文等開示すると個人
の正当な権利利益を害するおそれのあるものも想定される。このため,個人
を識別させる部分を除いた部分について,開示しても個人の権利利益を害す
るおそれのないものに限り,部分開示の規定を適用する。
(3) 「当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前
項の規定を適用する。」この規定により,個人識別情報のうち,特定の個人を識別することができ
ることとなる記述等以外の部分は,個人の権利利益を害するおそれがない限
り,第14条第2号に規定する不開示情報ではないものとして取り扱われる
こととなり,本条第1項の部分開示の規定が適用される。このため,他の不
開示情報の規定に該当しない限り,当該部分は開示することになる。
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また,本条第1項の規定を適用するに当たっては,容易に区分して除くこ
とができるかどうかが要件となるので,個人を識別させる要素とそれ以外の
部分とを容易に区分して除くことができない場合には,当該個人に関する情
報は全体として不開示となる。
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法第16条(裁量的開示)関係
第16条 行政機関の長は,開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含ま
れている場合であっても,個人の権利利益を保護するため特に必要があると
認めるときは,開示請求者に対し,当該保有個人情報を開示することができ
る。
第14条各号の不開示情報に該当する情報であっても,個人の権利利益を保
護するため特に必要があると認めるときは,行政機関の長の高度の行政的な判
断により,開示することができる。
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法第17条(保有個人情報の存否に関する情報)関係
第17条 開示請求に対し,当該開示請求に係る保有個人情報が存在している
か否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは,行政機関
の長は,当該保有個人情報の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否
することができる。
1 「当該開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで,
不開示情報を開示することとなるとき」
開示請求に係る保有個人情報が実際にあるかないかにかかわらず,開示請求
された保有個人情報の存否について回答すれば,不開示情報を開示することと
なる場合をいう。開示請求に含まれる情報と不開示情報該当性が結合すること
により,当該保有個人情報の存否を回答できない場合もある。例えば,犯罪の
容疑者等特定の個人を対象とした内偵捜査に関する情報について,本人から開
示請求があった場合等がこれに当たる。
2 「当該保有個人情報の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否するこ
とができる。」保有個人情報の存否を明らかにしないで開示請求を拒否する決定も,申請に
対する処分であることから,行政手続法(平成5年法律第88号)第8条に基
づき処分の理由を示す必要がある。提示すべき理由の程度としては,開示請求
者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要である。また,個別
具体的な理由提示の程度については,当該情報の性質,内容,開示請求書の記
載内容等を踏まえ,請求のあった保有個人情報の存否を答えることにより,ど
のような不開示情報を開示することになるかをできる限り具体的に提示する。
また,
存否を明らかにしないで拒否することが必要な類型の情報については,
常に存否を明らかにしないで拒否することが必要であり,例えば,当該保有個
人情報が存在しない場合に不存在と答えて,これが存在する場合にのみ存否を
明らかにしないで拒否したのでは,開示請求者に当該保有個人情報の存在を類
推させることになる。
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法第29条(保有個人情報の訂正義務)関係
第29条 行政機関の長は,訂正請求があった場合において,当該訂正請求に
理由があると認めるときは,当該訂正請求に係る保有個人情報の利用目的の
達成に必要な範囲内で,当該保有個人情報の訂正をしなければならない。
1 「訂正請求に理由があると認めるとき」
「訂正請求に理由がある」とは,行政機関による調査等の結果,請求どおり
保有個人情報が事実でないことが判明したときをいう。
2 「利用目的の達成に必要な範囲内で,訂正をしなければならない。」ア 訂正請求権制度は,
行政機関の長の努力義務として定めている第5条の
「正
確性の確保」を受けて,本人が関与し得る制度として設けるものであり,本
条は第5条と同様に,利用目的の達成に必要な範囲内での訂正を義務付ける
ものである。訂正請求に係る保有個人情報の利用目的に照らして,訂正の必
要がないときは,訂正する義務はない。
イ 請求内容に理由があるかどうかを判断するために行う調査は,保有個人情
報の利用目的の達成に必要な範囲で行えばよく,訂正をすることが利用目的
の達成に必要でないことが明らかな場合は,特段の調査を行わない。
具体例としては,過去の事実を記録することが利用目的であるものについ
て現在の事実に基づいて訂正することを請求するような場合は,訂正する必
要がない。
ウ 適切な調査等を行ったにもかかわらず,事実関係が明らかにならなかった
場合には,当該請求に理由があると確認ができないこととなるから,訂正決
定を行わない。
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法第38条(保有個人情報の利用停止義務)関係
第38条 行政機関の長は,利用停止請求があった場合において,当該利用停
止請求に理由があると認めるときは,当該行政機関における個人情報の適正
な取扱いを確保するために必要な限度で,当該利用停止請求に係る保有個人
情報の利用停止をしなければならない。ただし,当該保有個人情報の利用停
止をすることにより,当該保有個人情報の利用目的に係る事務の性質上,当
該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるとき
は,この限りでない。
1 「利用停止請求に理由があると認めるとき」
「利用停止請求に理由がある」とは,第36条第1項第1号又は第2号に該
当する違反の事実があると認めるときである。その判断は,当該行政機関の所
掌事務,保有個人情報の利用目的及び法の趣旨を勘案して,事実を基に客観的
に行う。
(参考)
○しろまる 第36条第1項第1号に掲げる事項
ア 「適法に取得されたものでないとき」
例えば,暴行,脅迫等の手段により取得した場合や,個人情報の取得
について定めた個別法規に違反して取得した場合等をいう。
イ 「第3条第2項の規定に違反して保有されているとき」
いったん特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を
保有している場合をいう。なお,第3条第3項に違反して,当初の利用
目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて利用目
的の変更を行っている場合も,利用停止請求の対象となる。
ウ 「第8条第1項及び第2項の規定に違反して利用されているとき」
法が許容する限度を超えて利用目的以外の目的で保有個人情報を利用
している場合をいう。
○しろまる 第36条第1項第2号に掲げる事項
「第8条第1項及び第2項の規定に違反して提供されているとき」
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法が許容する限度を超えて利用目的以外の目的で保有個人情報を提供し
ている場合をいう。
2 「当該行政機関における個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な限
度で」
「個人情報の適正な取扱いを確保する」とは,第36条第1項第1号又は第
2号に該当する違反状態を是正する意味である。
「必要な限度」とは,例えば,利用停止請求に係る保有個人情報について,
その全ての利用が違反していれば全ての利用停止を,一部の利用が違反してい
れば一部の利用停止を行う必要があることをいう。
また,例えば,利用目的外の利用を理由として,本人から保有個人情報の消
去を求められた場合には,個人情報の適正な取扱いを確保する観点から,当該
利用目的外の利用を停止すれば足りる。この場合,当該保有個人情報を消去す
るまでの必要はなく,仮に消去してしまうと,本来の利用目的内での利用も不
可能となり,適当でない。
3 「当該保有個人情報の利用停止をすることにより,当該保有個人情報の利用
目的に係る事務の性質上,当該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれ
があると認められるときは,この限りでない」
利用停止請求に理由があることが判明した場合であっても,利用停止を行う
ことにより保護される本人の権利利益と損なわれる公共の利益との比較衡量を
行った結果,後者が優るような場合には,利用停止をする義務を負わない。