憲法の意義
単元設定の趣旨第1
「憲法の意義」の単元は,
「一人ひとりの人間が,かけがえのない存在として相互に尊重されるべきである
こと及び自律的かつ責任ある主体として自由で公正な社会の運営に参加していく必要があることを認識させ
るとともに,それに必要な資質や能力をはぐくむために,個人の尊厳,国民主権あるいは法の支配などの憲
法及び法の基礎にある基本的な価値や国と個人との関係の基本的な在り方について,一層理解を深めさせる」
(報告書第3の1(2)ウ)ことを目指すものとして位置付けることができる。この「個人の尊厳や法の支
配」などの憲法及び法の基本原理について,司法制度改革審議会意見書I第2の1では,
「法の下ではいかな
る者も平等・対等であるという法の支配の理念は,
(中略)司法の在り方において最も顕著に現れていると言
える。それは,ただ一人の声であっても,真摯に語られる正義の言葉には,真剣に耳が傾けられなければな
らず,そのことは,我々国民一人ひとりにとって,かけがえのない人生を懸命に生きる一個の人間としての
尊厳と誇りに関わる問題であるという,憲法の最も基礎的原理である個人の尊重原理に直接つらなるもので
ある」と述べられている。 「憲法の意義」の単元においては,法教育が目指す「自由で公正な社会」の理念・原理となっている個人の
尊厳と法の支配,そして学習指導要領に示されている民主主義や人権の尊重について取り上げ,その内容に
ついて適切に理解させることが求められている。
1学習指導要領の内容 「憲法の意義」について,学習指導要領(社会科[公民的分野]
)では,大項目「
(3)私たちと政治」の中
項目「ア 人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」で取り上げられる。この大項目のねらいには「民主主義
の基礎には個人の尊厳と人権の尊重という考え方があること,それが法によって保障されていること,また,
自らが自らを治めるという民主政治の基本となる考え方は,現代の国家においては国民によって選出された
代表者が治めるという代表民主制の仕組みに反映されていること」
(解説)を理解させることが挙げられてい
る。また,中項目においては,
「法の意義を理解させるとともに,民主的な社会生活を営むためには,法に基
づく政治が大切であることを理解」させるとし,
「民主的な社会における法は,国民生活の安定と福祉の向上
を目指し,国民の意思のあらわれとして国民の代表によって構成されている議会によって制定されるもので
あり,国や地方公共団体が,国民の自由と権利を侵さないようにそうした法の拘束を受けながら政治を行っ12
法教育における
「憲法の意義」の学習の必要性
「憲法の意義」
に関する
学習指導要領や教科書の記述064 ていることを,理解させることが大切である。したがって,
『法に基づく政治』が民主政治の原理となってお
り,その運営によって恣意的支配を排除しようとしていること,独裁政治や専制政治とは異なるものである
ことを理解させる」
(解説)ことの重要さを指摘している。本教材は,このような考えを生徒に具体的に理解
させるために作成されたものであり,憲法学習において,国民主権と立憲主義という基本的な考え方を理解
させるとともに,憲法が,基本的人権の規定と統治機構を主な内容としていることの意義を明らかにしよう
とするものである。
2教科書の記述
憲法学習に関しては,1人権の尊重,2人権思想,3憲法の意義,4日本国憲法,5三大原則,6政治と
権力の関係といった要素がある。これらの配列は,大きく二つに分けることができる。一つの配列は,人権
の尊重を述べた後で人権思想を説明し,この考えや精神が憲法に結実していること,そして,日本国憲法は,
人権思想の内容である人権尊重の精神と国民主権を受け継ぐ一方で,日本独自の平和主義を掲げているとい
うものである。もう一つの配列は,
「政治とは何か」から解きおこし,政治には権力が不可欠であること,国
の政治の在り方は,誰が権力を握るかによって左右されることを理解させ,人権思想は,専制的な権力に対
して,基本的人権の尊重と国民主権を主張し,その内容が憲法に規定されたことを解き明かしている。
本教材による授業の展開は,後者の配列に近いものとなっている。
3「憲法の意義」学習の内容とその理解
法教育のねらいが,自律的かつ責任ある主体として,自由で公正な社会の運営に参加するために必要な資
質や能力を養うことであると考えるならば,主権を持つ国民は,自らの生活と社会の向上を図るという目標
のために,政治に参加するのであるという意識と,憲法が基本的人権を保障し,政治権力の在り方を定めた
ものであるという認識は重要である。したがって,本教材は,政治と権力の関係,憲法,人権思想,日本国
憲法という学習の配列を採用し,できるだけ生徒の生活と関連させながら,民主主義や権力,人権の問題を
取り上げ,自らが主権者であるという自覚のもとで,憲法の意義を認識させるように工夫したものである。
この場合,日本国憲法そのものの意義を述べる前に,権力と人権との関連から憲法一般の意義について,
民主主義と立憲主義を中心に理解させるような学習が重要である。
本教材では,民主主義を,
「みんなのことはみんなで決めること」
,立憲主義を,
「みんなで決めるべきこと,
みんなで決めてはならないことを明らかにすること」と言い換え,こうした概念を生徒の生活と関連付けな
がら理解させようとしている。さらに本教材では,三権をそれぞれ,
「決めてよいことについて誰がどのよう
に決めるのか〔立法権〕」「決めたことを,誰がどのように実行に移すのか〔行政権〕」「決めてよいことと決
めてはならないこととの区別が守られているか,決められたことが適切に実行されているかを,誰がどのよ
うに判断するのか〔司法権〕
」と位置付け,できるだけ平易な言葉で学べるようにしている。
以上の考え方に基づき,憲法とは,主として,
「みんなで決めてよいこと,いけないこと」に関わる基本的
人権の尊重と,
「みんなで決める仕組み」である統治機構を定めたものであることを理解させるように構成し
たものである。
憲法の意義065 単元第2大項目 「(3)私たちと政治」
中項目
「ア 人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」132単元の構成
単元の位置付け
単元の目標
第1時 国の政治の在り方は誰が決めるべきか
第2時 みんなで決めるべきこと,みんなで決めてはならないこと
第3時 憲法とは何か
第4時 日本国憲法の意義は何か
(注記)地域,学校及び生徒の実態等に応じ,第2時から第4時までの3時間構成で単元を展開することも可能で
ある。
本単元「憲法の意義」は,民主主義と立憲主義の考えを理解するとともに,これ
らをもとに憲法が成り立っていること,そして,日本国憲法も同じ考え方に立って
制定されたものであることを学習する。本単元は,
この後に続く
「政治単元」
の学習の基盤となるものであり,
民主主義と立憲主義の考えが,基本的人権の尊重,国会,内閣,裁判所などの学習の基礎となっていること
を意識しながら,学習を進めていく必要がある。したがって,本単元は,学習指導要領の大項目「
(3)私た
ちと政治」の中項目「
(ア)人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」の最初に位置付けた。
1日本国憲法の基本的な考え方や政治の仕組みに対する関心を高め,それを意欲的
に追究させる。
2民主主義と立憲主義という現代の民主政治の基本概念を,身近で具体的な例をもとに考えさせ,基本的人
権の尊重と民主政治の仕組みを主な内容としている憲法の意義を理解させる。
3日本国憲法が近代に制定された憲法と同じ考え方に立っていることを,主要な条文や「章立て」から理解
させる。
4資料などをもとにしながら,自分の考えを持ち,論理的に意見を述べ,討論し,合意を形成することがで
きる能力を育成する。066 憲法の意義
4 単元の指導計画
「憲法の意義」の概要
ア 第1時
「国の政治の在り方は誰が決めるべきか」
第1時の授業では,
「国の政治の在り方は誰が決めるべきか」というテーマのもと,国の政治の在り方を決
定する主体は誰か,ということについて,事例を取りあげて考察する。
実際の授業の流れは次のようになる。
1身近な生活から,政治に関係しているものを取りあげる。2「ある特定の人」だけが,政治の在り方を決めた場合の問題点を考える。
3問題が起こらないようにするためにはどうすればよいかを考える。
4政治の在り方を「みんなで決めること」が民主主義の基本であること,そして,国民に国の政治の在り方
を決める力があることを国民主権ということを学ぶ。
イ 第2時
「みんなで決めるべきこと,みんなで決めてはならないこと」
第2時の授業では,クラスが集団として決定を行う事例を取りあげ,
「みんなで決めるべきこと」と「みん
なで決めてはならないこと」とは何かを考え,国の政治においてはこの考えをどのように適用すればよいか
を追究する。
1みんなで何かを決定しなければならないとき,どのような方法があるかを考える。
2多数決という決定方法を取りあげ,クラス内で,多数決で決めてよいことと,決めてはいけないことには
どのようなものがあるかを,事例をもとに考える。
3国の政治において,
「みんなで決めるべきこと」と「みんなで決めてはならないこと」について考え,個人
の尊厳を否定するもの,少数の特定の集団が不当に不利益を被ることなどは,多数決によって決めてはな
らないことを学ぶ。
ウ 第3時
「憲法とは何か」
第3時の授業では,資料をもとに,憲法は「みんなで決めるべきこと,みんなで決めてはならないこと」
に関することと,
「みんなで決める仕組み」に関することを定めたものであることについて学習する。
1生徒各自が,
「憲法とは何を定めたものか」について考え,記述する。
2グループごとに,
「フランス人権宣言」を読み,
「第1条」から,人は自由・権利を平等に持っていること,
「第3条」から,国民に主権があること,そして,
「第16条」から憲法は権利の保障と権力の分立を定めた
ものであることを確認する。
3グループごとに,
「フランス人権宣言」の「第16条」の内容と関連させながら,
「憲法」とは,
「みんなで067 単元第2決めるべきこと,みんなで決めてはならないこと」
(基本的人権の尊重)と「みんなで決める仕組み」(政治の仕組み)とを定めたものであることを確認する。
4グループごとに,モンテスキューの『法の精神』の資料から,民主的な統治機構には三権分立の考えが不
可欠であることを理解する。
5憲法が,国民主権に基づく民主主義の考え方と立憲主義の考え方によって成り立っていることを理解する。
エ 第4時
「日本国憲法の意義は何か」
第4時の授業では,日本国憲法が近代に成立した憲法と同様に,民主主義と立憲主義の考え方に立ち,国
民主権や基本的人権の尊重,そして,三権分立を含む民主政治の仕組みを定めていることを学習する。
1日本国憲法の条文の資料をもとに,日本国憲法が国民主権(前文,第1章 第1条)
,基本的人権の尊重(第
3章 第11条)とともに,基本的人権の尊重の基盤となる平和主義(第2章 第9条)を掲げていること
を確認する。
2日本国憲法の「章立て(第四章〜第八章)
」から,日本国憲法が基本的人権の尊重を守るための政治の仕組
みを定めていること,そして,
「第十章 最高法規」から,憲法尊重擁護義務が,国務大臣や国会議員,裁
判官その他の公務員に課せられていること(第99条)を理解する。
3日本国憲法が近代に成立した憲法と同様に,民主主義と立憲主義の考え方に立ち,国民主権や基本的人権
の尊重,そして,三権分立を含む民主政治の仕組みを定めていることを学ぶ。068 単元の指導計画第3憲法の意義
学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点
憲法の意義
第1時 国の政治の在り方は誰が決めるべきか導 入私たちの生活と
政治との関連
私たちの生活のなかで政治に関連していると思わ
れるものを挙げてみよう。
・生徒にとって気付きにく
い問題であるため,
幾つ
かの事例を挙げて考え
させるとよい。
くろまる学校,
教師,
教科書,
道路,
信号機など,
政治に関
係していることが身近な生活に多くあることに
気付く。展 開国の政治の在り
方の決め方
権力と権威とは
何か
「ある特定の人 」
による政治の問
題点
国の政治の在り方は誰が決めるべきだろうか。
・例えば,
江戸時代におけ
る将軍のことを想起さ
せてもよい。
・権力と権威という言葉は,教師から提示する。
・ゲーム感覚で指名したり,ルールを決めたりさ
せる。
・一般的に理不尽なルー
ルが多いことに気付く。
T: かつて,
どこの国においても,
国の政治の在り
方は
「ある特定の人 」
が決めていたが,
どうして
彼らは国の政治の在り方を決めることができ
たのだろうか。
くろまる力を持っていたから
(軍事力,
経済力)=「ある特
定の人 」
が権力
(人を強制させる力)
を持ってい
たから。
くろまるみんながそのことを認めていたから=
「ある特
定の人 」
が権威
(人を強制させる精神的な力)を持っていたから。
T: 現在の日本において,
「ある特定の人 」が,国の
政治の在り方を決めるべきだろうか。
くろまる教師が勝手に決めた条件に基づいて,
クラス内で「ある特定の人 」
を二,
三人指名する。
T: あなた方は権力と権威を持ち,
各自の意思が
国の政策となるとしたとき,
あなたの夢や願い
を実現するためにどのようなルールを決めま
すか。
1時間069 学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点
単元の指導計画第3展 開
くろまる他の生徒は国民の立場から,
これらのルールの
妥当性を検討する。
くろまる
「ある特定の人 」
が国の政治の在り方を決定す
ると,
多くの場合になぜ
「おかしなルール」
になっ
てしまうのかを話し合う。S: 「ある特定の人 」
の決め方がおかしい。
S: 特定の利害関係者に有利なルールにしてしま
う。
S: 悪意は無いものの,
全体の利害関係が反映さ
れない。・「ある特定の人 」
の政治
がすべて悪い結果を及
ぼす訳ではないことに
も必要に応じて言及す
る。
このような問題が起こらないようにするにはどう
したらよいだろうか。
国民主権
民主主義
S: 国の政治の在り方を決めるべき人をどのよう
に決めるかを,
みんなで決めるべきである。
S: 特定の人の決定ではよくない。
S: 特定の人ではなく,
みんなが決定に加わらなく
てはならない。
くろまるみんな
(国民)
が国の政治の在り方を決める力を
持つべきである。
くろまる国の政治の在り方はみんなで決めるべきであ
る。
T: これらのことを,
国民主権と民主主義という。
・国民主権,
民主主義の
用語を簡単に説明する。まとめ民主主義を支え
る考え方
個人の尊重
議論の必要性
「 みんなで 決 め
る」
ことの意味
みんなで物事を決めていくには,
どのような考え
方が必要だろうか。S: 「みんな」
と一概に言っても,
実は一人ひとり意
見が異なることを理解すること。S: 「自分」
とは異なる意見や利害を持つ
「他人 」が存在することを十分に理解すること。S: 「自分」と「他人 」
と一緒に政治の在り方を決め
ていくには,
お互いに意見や利害を明確に主張し,議論しなくてはならないこと。S: 「自分」
のこととともに
「他人 」
のこととを考え
て決めるということが,
「みんなで決める」
とい
うことであること。
・生徒の意見を拾いつつ,
教師がまとめていく。
・各自が異なる意見や利
害を持つことを実感さ
せる例を挙げるとよい。070 憲法の意義
学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点
第2時
みんなで決めるべきこと,
みんなで決めてはならないこと導 入1いろいろな決
め方
2集団の意思の
決定
3多数決
みんなで何かを決める時の方法には,
どのような
方法があるのだろうか。
・多数決以外にも,
全員
一致や話し合いによる
合意で決めることもあ
る。S:
じゃんけんS:
多数決S:
全員一致T:
集団の意思をみんなで決めるよい方法はなん
でしょうか。S:
多数決展 開4みんなで決め
るべきこと,決めるべきでな
いこと
次にあげることは,
クラスみんなで多数決によって
決めるべきこと
(しろまる)か,決めるべきではないこと
(×ばつ)
かを考えよう。
ワークシート1−
1 に記入したことを発表する。A:
自然教室のキャンプファイアーでのクラスの出
し物→しろまる×ばつC:
遠足でのバスの座席の決め方→しろまる×ばつ
AとCは,
なぜみんなで決めるべきなのか,
またB
とDは,
なぜみんなで決めるべきではないのか。
・ほとんどの項目が,
生徒
たちの感覚ですぐに答
えられるものであるが,
その理由を考えさせる
ようにする。
ワークシート1−25みんなで決め
るべき理由S:
全員が関わることであり,
一人,
または数人で
決めてしまっては集団の意見を反映できない
から。
1時間071 学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点
単元の指導計画第3展 開
6みんなで決め
るべきではな
い理由S:
集団内には,
個々に異なる意見や考えがあるも
のの,
クラスという集団の意思を決めなくては
ならないから。
⇒集団の意思の決定には,
多数決が適しており,みんなで話し合って多数決で決定したことは,みんなで守ることが大切であることを確認
する。S:
基本的には個人の判断に任されるものである
から。S:
有志が作る新聞であり,
その内容は有志が自
由に決めてよいものだから。
・既習事項と関連を図る
よう留意する。
7みんなで決め
てはならない
こと
みんなで話し合って多数決で決めるといっても,
決めてはならないことはないだろうか。
AとCの場
合で考えよう。
・ほとんどの項目が,
生徒
たちの感覚ですぐに答
えられるものであるが,
その理由を考えさせる
ようにする。
・昼休みの過ごし方や新
聞の内容についても,他の人の安全や権利を侵
すものであってはなら
ないことにも触れる。A:
クラスの出し物への参加について,
出演を嫌が
る特定の人だけに任せることを,
クラスで話し
合い,
多数決で決めてもよいか。D:
ひどい車酔いをするため前の座席を希望する
人を,
本人の意思に反して後ろの座席にさせる
ことは,
クラスで話し合い,
多数決で決めても
よいか。
なぜよくないのか。
⇒個人の尊厳を否定するもの,
少数の特定の
集団が不当に不利益を被ることなどは,
多数決
によって決定すべきことではないことを確認す
る。まとめ8国の政治にお
ける
「みんなで
決めるべきこと,決めてはな
らないこと」
国の政治の在り方を決めるときも,
「みんな」
で決
めるべきことと,
「みんな」
で決めてはならないこと
はないかを考えよう。
・第1時の国の政治に関
して学習することを踏
まえる。
ワークシート1−
3 ×ばつB:
他人の物を盗んだ人を処罰すること→しろまる×ばつ
・ほとんどの項目が,
生徒
たちの感覚ですぐに答
えられるものであるが,
その理由を考えさせる
ようにする。072 憲法の意義
学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点まとめD: 政府が失業者の求めに応じて,
職業をあっせん
すること→しろまるT:
AとCは,
国民によって選ばれた代表者といえ
ども,
なぜ決めてはならないのでしょうか。A:
個人の考えを発表することを禁止することは,
個人の尊厳を否定するものであり,
個人の考え
を自由に発表することが民主主義の基本とな
るから。C:
職業を選ぶことは,
個人の決定に任せるべきこ
とだから。
・クラスで決める場合と
同じことが,
国の政治レ
ベルでもいえることを
確認する。
みんなで決めてはならないこととはどのようなこ
とだろうか。
ワークシート1−4に記入したことを発表す
る。S:
個人の尊厳を否定するものS:
個人の決定に任せるべきものS:
少数の特定の集団が不当に不利益を被ること
君はどんな
方法を
見つけた ?
物事を決める
方法は,
どんな
ものがあるかな073 単元の指導計画第3学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点
第3時 憲法とは何か導 入1生徒の憲法観
の確認
憲法とは何を定めたものだろうか。 ・生徒は日本国憲法に関
連することやその特色
を書いたり,
国民が守る
べきものと答えたりす
ることが多いことに留
意する。
くろまる小学校等の既習事項などから,
「憲法とは何を定
めたものか」
を各自で考え,
ノートに記述し,発表する。S:
基本的人権の尊重,
国民主権,
平和主義S:
国民が守るべききまりS:
最高法規展 開2 権 利 の 保 障,
国民主権
3権利の保障と
権力の分立T:
グループごとに,
フランス人権宣言の各条文の
内容を読み取り,
分かりやすく簡潔にまとめな
さい。
ワークシート2−1『フランス人権宣言』
に記入
したことを発表する。S:
第1条は自由や平等の権利の保障S:
第3条は国民主権S:
第16条は,
憲法が権利の保障と権力分立を定
めていること
くろまるフランス人権宣言が,
自由や平等の権利の保障,
国民主権を定め,
憲法は権利の保障と権力の分
立を定めたものであると述べていることを確認
する。T:
グループごとに, ワークシート2−2
『法の
精神』
を読み,
権利の保障と立法権・執行権(行政権 )・裁判権
(司法権 )
との関係を簡潔に説
明しなさい。
・フランス人権宣言のお
もな内容は現在のフラ
ンス憲法のもととなって
おり,
憲法そのものとも
いえることを説明する。
・条文の内容をおおまか
に読み取らせるようにす
る。・「権力の分立 」
については,次の展開で理解させ
る。
1時間074 憲法の意義
学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点展 開ワークシート2−2
『法の精神』に,グループの
考えを記入し,
その内容を発表する。S:
3つの権力が独占されると,
法律を決めて,政治を行って,
法律が正しいか,
正しい政治が行
われているかの判断を,
すべて自分で行ってし
まう。S:
3つの権力を独占した人は,
国民の権利を認め
ないことを行ってしまう。S:
立法権,
執行権,
裁判権を分けないと,
国民の
権利が保障されなくなってしまう。
くろまる第1時の
「国の政治の在り方は誰が決めるべき
か」
と第2時の
「みんなで決めるべきこと,
みん
なで決めてはならないこと」
とが,
それぞれ民主
主義と基本的人権の保障を述べたものであること,そして,
基本的人権の尊重には,
権力の分立
が不可欠であることを確認する。
・執行権は行政権,
裁判
権は司法権と読み替え
られることを付け加え
る。
・生徒の発言を要領よく
整理しながら,
権利の保
障と権力の分立との関
係をまとめていく。
・ 第1・2時 の 学 習 内 容と,フランス人権宣言,
及び
『法の精神』
との内
容を整理し,
板書を工夫
しながら説明する。まとめ4憲法とは何か
5立憲主義
『憲法とは何か』
をまとめよう。
ワークシート2−3
「憲法とは何か」に,各自でこ
れまでの授業内容を整理して,
まとめを記入する。
くろまる憲法とは,
民主主義を実現するための三権分立
などの政治の仕組みと,
民主主義によっても侵
すことのできない基本的人権の尊重が定められ
ているものであり,
これらのことが憲法に明記され,憲法に基づいて政治が行われるという考え
方を立憲主義ということを理解する。
・憲法が,
民主主義と立
憲主義の考え方に立っ
て作られたものである
ことを理解させる。075 単元の指導計画第3学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点
第4時 日本国憲法の意義は何か導 入1国民主権,
平和主義,
基本的人権の
尊重
2国会,
内閣,
裁判所
3三権分立
4政治の仕組み
日本国憲法の章立ての資料から,
第3章までの部
分は何を定めているか,
そして,
第4〜8章は何を
定めているかを,
ワークシートに書いてみよう。
くろまるグループごとに,
日本国憲法の章立てから読み
取ったことを ワークシート3に記述し,
発表
する。S:
第9条は第2章,
第11条は第3章に定められて
いる。S:
第3章までのところで,
日本国憲法の三原則で
ある,
国民主権,
平和主義,
基本的人権の尊重
が定められている。S:
第4〜6章は国会・内閣・裁判所を定めている。S:
三権分立について定めている。S:
地方自治は地方の政治のしかたを定めている。S:
第4〜8章は,
国の統治の仕組みについて定め
ている。
くろまる第3章までの部分は基本的人権の尊重とそれを
基底で支える平和主義,
それと民主主義のもと
となる国民主権を定め,
第4〜8章はこれらを保
障する国の統治の仕組みを定めたものであるこ
とを理解する。
くろまる第3時で学習したフランス人権宣言や
『法の精
神』
の内容などが,
日本国憲法に引き継がれてい
ることを確認する。
・各章の名称からおおよ
その内容を想像させ,これまでの学習と関連さ
せながら,
憲法が定めて
いることの概要をつか
ませる。・「第7章 財政 」は,政治
にかける予算とそれを
支える租税に関する規
定であることを説明す
る。
1時間076 憲法の意義
学習内容 学習活動
(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指導上の留意点展 開6最高法規
7憲法遵守義務T: 『第10章 最高法規』
にある3つの条文が意味
することは何だろうか。
くろまる日本国憲法第10章の3つの条文を読み取り,
ワークシート3−
3に記述し,
発表する。S:
第97条は,
日本国憲法が国民に保障する基本
的人権は,
永久の権利であることS:
第98条は,
日本国憲法が最高法規であることS:
第99条は,
天皇,
国務大臣,
国会議員,
裁判官,
その他の公務員は憲法を守る義務があること
くろまる日本国憲法は基本的人権の保障を守る最高法
規であり,
これに違反する法令や政治的な行為
は認められないこと,
そして,
裁判官を含め,政治に携わる人々はこの憲法を守る義務があるこ
とを理解する。
くろまる日本国憲法は,
近代に成立した憲法と同じように,民主主義と立憲主義に基づくものであるこ
とに気づく。
・生徒からの意見を適切
にまとめながら,
日本
国憲法が第10章において,基本的人権の保障,
最高法規,
憲法遵守義
務を明記していること
を確認させる。
・日本国憲法と近代に成
立した憲法との共通性
に目を向けさせる。まとめ8日本国憲法の
意義
日本国憲法の意義は何かをまとめよう。
くろまる近代に成立した憲法と日本国憲法を比較した結
果を ワークシート3−4にまとめる。
くろまる日本国憲法は,
民主主義と立憲主義の考えに基
づき,
基本的人権の保障とそれを基底で支える
平和主義,
民主主義のもととなる国民主権を定
めていること,
そして,
三権分立に基づく政治の
仕組みを定めることで,
国民の自由・平等と平和
を守るものであることを理解する。
・日本国憲法が,
民主主
義と立憲主義の考え方
に基づいてつくられた
ものであり,
国民の権利
や生活を守るものであ
ることを理解させる。077 3年
( )組( )
番 氏名
自然教室のキャンプファイアー
でのクラスの出し物
クラスの生徒一人ひとりの昼休
みの過ごし方
遠足でのバスの座席の決め方
クラスの有志が発行している新
聞の内容
みんなで決めるべきことか,
決めるべきではないことか
しろまる×ばつ 理 由
クラスの出し物への参加について,出演を嫌がる特定の人だけ
にまかせることを,
クラスで話し
合い,
多数決で決めてもよいか
ひどい車酔いをする人の座席を,本人の意思に反して後ろの
座席にさせることを,
クラスで
話し合って,
多数決で決めても
よいか
みんなで決めるべきことか,
決めるべきではないことか
しろまる×ばつ 理 由
2 みんなで話し合って,多数決で決めるといっても,決めてはならな
いことはないだろうか。
1 クラスみんなで多数決によって決めるべきことか,決めるべきでは
ないことかを考えなさい。
みんなで決めるべきこと,
みんなで決めてはならないこと
くろまる 憲法の意義 ワークシート078
3年
( )組( )
番 氏名
政治を批判した人を処罰する
こと
他人の物を盗んだ人を処罰する
こと
政府が国民一人ひとりに適した
職業を決定すること
政府が失業者の求めに応じて,
職業をあっせんすること
みんなで決めるべきことか,
決めるべきではないことか
しろまる×ばつ 理 由
3 国の政治の在り方を決める際の,
「みんな」
で決めるべきことと,
「みんな」
で決めるべきではないこととを考えなさい。
くろまるみんなで決めてはならないこととは,どのようなことなのかを説明しなさい。
みんなで決めるべきこと,
みんなで決めてはならないこと
くろまる 憲法の意義 ワークシート4 みんなで決めるべきこと,みんなで決めてはならないこと。079 3年
( )組( )
番 氏名
憲法とは何か
くろまる 憲法の意義 ワークシート資料 1 フランス人権宣言
(抜粋)
第1条(自由・権利の平等)
人は,自由,かつ,権利において平等なものとして生まれ,生存する。
第3条(国民主権)
すべての主権の淵源(えんげん=みなもと)は,本質的に国民にある。第16条(権利の保障と権力分立)
権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていないすべての社会は,憲法をもたない。
〈樋口陽一・吉田善明編
『解説 世界憲法集 第4版』(2001年,
三省堂)
より作成〉
1 条文から読みとれることを,分かりやすく簡潔にまとめてみよう。080 3年
( )組( )
番 氏名
2 立法権と執行
(行政)
権と裁判
(司法)
権とが独占されることで,
どのよ
うな政治が行われるのかを,
以下の資料から考えなさい。
憲法とは何か
資料 2『法の精神』
(モンテスキュー 174
8年)
・ 同一の人間や団体に立法権と執行権が結合されれば,自由はない。なぜなら,議会
が暴政的な法律を定め,それを暴君的に執行する恐れがあるからである。
・ もし裁判権が立法権に結合されれば,市民の生命と自由を支配する権力は自分勝手
だろう。なぜなら,裁判官が立法者なのだから。
・ もし裁判権が執行権に結合されれば,裁判官は圧制者の力を持ちうるだろう。
くろまる 憲法の意義 ワークシートくろまる第1・2時の授業とこれまでの学習をふまえて,
「憲法とは何か」
を説明しなさい。
3 憲法とは何か。081 前文
第四章 国会
第八章 地方自治
第二章 戦争の放棄
第六章 司法
第十章 最高法規
第一章 天皇
第五章 内閣
第九章 改正
第三章 国民の権利及び義務
第七章 財政
第十一章 補則3年( )組( )
番 氏名
日本国憲法の意義は何か
1 第3章までの部分では何を定めているか。
日本国憲法の
「章立て」
日本国憲法の条文
前 文:...ここに主権が国民に存することを宣言し,この憲法を確定する。...
第1条:...主権の存する日本国民...。第11条:国民は,
すべての基本的人権の享有を妨げられない。
この憲法が国民に保障する基本的人権は,侵すことのできない永久の権利として,
現在及び将来の国民に与へられる。
2 第4〜8章は何を定めているか。
日本国憲法
資料 3
資料 4
くろまる 憲法の意義 ワークシート第9条:日本国民は,
正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,
国権の発動たる戦争と,
武力
による威嚇又は武力の行使は,
国際紛争を解決する手段としては,
永久にこれを放棄する。
い かく082 3年
( )組( )
番 氏名
日本国憲法の意義は何か
3 次の各条文の要旨をまとめなさい。
日本国憲法第1
0章の条文
資料 5
第97条:この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の
成果であって,これらの権利は,過去幾多の試練に堪え,現在及び将来の国民に対
し,侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
第98条:この憲法は,国の最高法規であって,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に
関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。
第99条:天皇または摂政及び国務大臣,国会議員,裁判官その他の公務員は,この憲法を尊重
し擁護する義務を負う。
くろまる 憲法の意義 ワークシートしょ
うちょく
くろまるこれまでの学習をもとに日本国憲法の意義を簡潔に述べなさい。
4 日本国憲法の意義は何か。083

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