老朽化した区分所有建物の建替え等
に関する諸外国の区分所有法制
及びその運用状況等に関する
調査研究報告書
平成 25 年 3 月
公益社団法人 商事法務研究会
老朽化した区分所有建物の建替え等に関する諸外国の区分所有法制
及びその運用状況等に関する調査研究報告書
目 次
第1編 調査研究の目的及び内容等..................................................................1
第2編 ドイツ.............................................................................................5
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ (6)
第2章 区分所有建物の管理 (9)
第3章 区分所有建物の修繕及び改良の実状等 (17)
第4章 区分所有建物の建替え及び解消の実状等 (24)
第5章 結 語 (27)
第3編 フランス .......................................................................................33
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ (34)
第2章 区分所有建物法制の概要 (38)
第3章 経年(老朽)区分所有建物に対する措置の実態
――住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答等 (45)
第4章 荒廃区分所有建物に関する法制度の概要 (61)
第5章 荒廃区分所有建物制度の実態
――住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答等 (75)
第6章 結 語 (81)
資 料 建築不動産の区分所有の規則を定める法律
(1965 年 7 月 10 日法律第 557 号) (85)
第4編 アメリカ.......................................................................................109
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ (110)
第2章 Condominium 法制の概要と Condominium の管理 (112)
第3章 Condominium の修繕・改良・再建・解消に関する法制と実態 (121)
第4章 結 語 (128)
資 料 統一モデル法(2008 年最終版)等 (131)
第5編 イギリス.......................................................................................147
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ (147)
第2章 リースホールド・フラットの概要 (155)
第3章 再開発目的のリースホールドの終了 (160)
第4章 結 語 (162)
第6編 韓 国..........................................................................................163
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ (163)
第2章 分譲集合住宅関連法制度――集合建物法、整備法、住宅法 (167)
第3章 建替え事業の具体的考察 (176)
第4章 結 語 (192)
第7編 諸外国と日本の法制の比較及び外国の制度を導入する際の課題...............195
第1編 本調査研究の目的及び内容等
1.調査研究の目的
マンション(居住用区分所有建物)は、わが国では昭和 40 年代頃から普及し、平成 23 年
末現在、
全国で約 1400 万人
(約 579 万戸)
がこれに居住している。
このような中にあって、
今日、建築後相当な年数を経たマンションが少なからず出現し、今後ますますこのような
マンションが多くなっていく。
わが国の区分所有法においては、このような経年マンションないしは老朽化マンション
(本報告書においては、特に「マンション」と「区分所有建物」、および「経年」と「老
朽(化)」とを厳密に区別せずに用いる。)に対する法的措置としては、一方では、共用
部分の管理(18 条)または変更(17 条)の規定に従い区分所有者が集会での多数決議
(過半数
決議または特別多数決議)に基づいて維持(定期的な大規模修繕を含む。)または改良を
行うことを予定しており、他方では、建替えの諸規定(62 条〜64 条、69 条、70 条)に従
い、特別多数決議に基づいて当該区分所有建物を取り壊して新たな建物を再築することを
予定している。なお、災害等で滅失した場合の固有の措置としては、区分所有法 61 条に基
づく復旧、および被災マンション法に基づく再建の制度がある。
本調査研究担当者は、平成 22 年度において、法務省の委託により、わが国の現行の区分
所有法の上記の諸規定のあり方について検討を行うにあたっての基礎資料として、諸外国
(ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、韓国)の経年ないし老朽化した区分所有建物
に関する法制度に関する調査研究を行い、
報告書を提出した
(法務省のホームページ参照)。同報告書は、主として国内で入手可能な文献等に基づき、調査対象国の区分所有法制の概
要および経年マンションないしは老朽化マンションに対する法的措置を主として制度面に
おいて明らかにすることを目的とした。そこにおいては、諸外国の経年(老朽)マンショ
ンに対する法的措置に関し、1建替え制度を採用しているもの(韓国)、2解消制度を採
用しているもの(アメリカ、イギリス)、3区分所有建物が大規模一部又は全部滅失した
場合に限り区分所有関係の解消を認めるもの(ドイツ・フランス)等が明らかにされた。
ただ、例えば、2を採用するアメリカやイギリスにおいて解消の事例がどの程度あるのか
(他面、建替えの実績はないのか)、また、3を採用するドイツやフランスにおいては経
年(老朽)マンションに対してどのように対応しているのかなど、各国の制度が、実際に
はどのように運用されているのかについては今後の課題とされ、必ずしも明らかとはされ
なかった。本調査研究においては、この点を明らかにすることを目的とした。
2.調査研究の対象、内容および方法
(1)調査研究の対象とした外国の法制度
本調査研究の対象とした外国としては、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、韓国
とした。これらの外国の法制度は、わが国の法制を検討するにあたり、わが国の法制全般1の制定の経緯(外国法の継受)、世界の法制度における先進性、および本調査対象におけ
る当該国の法制度の独自性、また、平成 22 年度の調査研究との継続性等も考慮して、選定
したものである。
(2)調査研究の内容
本調査研究では、上記5ヶ国の老朽化した区分所有建物に関する法制度とその運用状況
を明らかにすることを目的とした。このうち、制度面に関しては、平成 22 年度の調査以降
に法改正等があればその点について、また、平成 22 年度の調査においては十分に明らかに
されなかったことがあればその点について調査をした。なお、これらの点については、本
調査研究における現地でのヒアリングの結果、明らかになった部分もある。
法制度の運用状況に関しては、主として、次の 2 点について現地調査等を通じて明らか
にすることしとした。
第 1 は、解消制度を採用する国(アメリカ等)において、1同制度がどの程度利用され
ているのか(解消件数の把握)、2多くの解消実績があるとした場合にそこでの問題点は
何か、逆にその実績が乏しい場合にその原因は何か、3解消制度と区分所有建物の修繕・
改良とはどのような関係にあり、両者はどのように調整されているのか、また、修繕や改
良にあたり、制度面や運用面において、これらを促進するために何らかの方策が採られて
いるか、逆にこれらを阻害するものは何か、4区分所有者や法律家(弁護士、行政担当者
等)は、経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置についてどのような基本的な考え方
を有しているのか、である。
第 2 は、経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置として解消制度も建替え制度も有
していない国(ドイツ、フランス)において、1老朽化等(いわゆる再開発を含む。)を
原因として解消や建替えが全員の合意によって行われることはないのか、あるとしたらど
の程度の件数か、2これらの実績がほとんどないとしたら、その原因は何か、3経年(老
朽)区分所有建物に対して修繕や改良によって対処するにあたり、制度面や運用面におい
て、これらを促進するために何らかの方策が採られているか、逆にこれらを阻害するもの
は何か、4区分所有者や法律家(弁護士、行政担当者等)は、経年(老朽)区分所有建物
に対する法的措置についてどのような基本的な考え方を有しているのか、である。
そして、上記の調査の結果等を踏まえて、老朽化した区分所有建物に関するわが国の区
分所有法制について、諸外国の区分所有法制と比較しつつ、わが国への導入を検討すべき
制度や事項にはどのようなものがあり、導入においてはどのような問題があるかを考察す
ることとした。
(3)調査研究の方法
本調査研究では、上記 5 ヶ国に関して調査することとしたが、上記の第 1 の事項に関し、
イギリスについては区分所有の制度(コモンホ-ルド)が 2002 年に創設されたものの、そ
の実績は現在に至るまでほぼ皆無であること等から、アメリカにおける現地調査(3 ヶ所
でのヒアリング調査)を重点的に行った。イギリスについては関係機関からの統計デ-タ
等の情報提供を受けるにとどめ、
平成 22 年度の調査において必ずしも明らかにされなかっ
たリースホールドについてその終了に係る制度等を明らかにした。2上記の第 2 の事項に関しては、フランスについては現地調査(4 ヶ所でのヒアリング調
査)を実施し、ドイツについてはマルティン・ホイブライン教授(インスブルック大学法
学部教授・前ベルリン自由大学教授)に文書にて、約 30 項目にわたる質問を行い回答を
得ることにより、制度面および運用面における調査を行った。
なお、韓国については、平成 22 年度の調査において運用面についてもほぼ明らかにされ
ていることから、それらの点についての現時点での状況を有識者および関係機関等に確認
するにとどめた。なお、直接に老朽区分所有建物に対する法的措置に係わる事項ではない
が、2012 年に集合建物法(日本の区分所有法に該当し、日本の 1983 年改正法を継受した
もの)の改正なされたのでその点については調査して本報告書に記述することとした。
本調査研究担当者は、下記のとおりである。
【研究担当者および分担】
代 表 者 鎌野邦樹 早稲田大学法科大学院教授(全体統括)
研究担当者 藤巻 梓 静岡大学人文学部法学科准教授(ドイツ法)
吉井啓子 明治大学法学部教授(フランス法)
寺尾 仁 新潟大学工学部准教授(フランス法)
花房博文 創価大学法科大学院教授(アメリカ法)
徳本 穣 筑波大学法科大学院教授(アメリカ法)
上河内千香子 駿河台大学法学部准教授(アメリカ法、ドイツ法)
大野 武 明治学院大学法学部准教授(イギリス法)
研究協力者 マルティン・ホイブライン インスブルック大学法学部教授(ドイツ法)
カン・ヒョクシン 朝鮮大学法科大学校准教授(韓国法)
八塩陽介 ニューヨーク州弁護士 (アメリカ法)
【本調査研究報告書について】
本調査研究報告書においては、
平成 22 年度の調査研究報告書に記載された事項が前提と
なっており、かつ、説明の便宜上そのまま再録または修正・加筆のうえ再録することが適
切であると思われる箇所について、そのようにした。したがって、本調査研究報告書にお
いては、平成 22 年度の調査研究報告書と重複する部分がある。
また、平成 22 年度の調査研究報告書においては、ドイツおよびイギリスについては、関
連法令の翻訳を掲載していたが、本調査研究報告書においてはその部分については再録し
なかった。これらについては、平成 22 年度の調査研究報告書の該当箇所を参照されたい。
他方、フランスについては、平成 22 年度の調査研究報告書の提出以降の法改正等を踏まえ
た最新版を本調査研究報告書に収録することとし、また、アメリカについては、平成 22
年度の調査研究報告書に掲載したものに若干の修正をして収録することとした。3第2編 ドイツ
〈細目次〉
第1章 本編の内容・構成及び基礎デ-タ
1.本編の内容と構成
2.運用状況の調査の方法
3.区分所有建物に関する基礎デ-タ
第2章 区分所有建物の管理
1.区分所有建物の管理の担い手
2.区分所有建物の修繕・改良
3.区分所有建物の滅失と復旧
4.非解消性の原則
5.適切な維持準備金の積立て(21 条 5 項 4 号)
第3章 区分所有建物の修繕及び改良の実状等
1.共用部分の修繕
2.共用部分の改良(変更)
3.管理費の滞納
4.区分所有建物の存続予定年数
第4章 区分所有建物の建替え及び解消の実状等
1.建替え及び解消の実績
2.解消(共同関係の廃止)を定める規約の状況
3.老朽・荒廃区分所有建物に対する措置
第5章 結 語
1.経年(老朽)区分所有建物の修繕及び改良
2.経年(老朽)区分所有建物の建替え・解消の実績等
3.区分所有建物の滅失の場合と経年(老朽化)の場合の対応5第1章 本編の内容・構成及び基礎デ-タ
1.本編の内容と構成
本編は、ドイツにおける区分所有建物法制について、経年(老朽化)区分所有建物に関
しどのような制度が設けられ、また、同制度が実際にどのように運用されているかについ
て明らかにすることを目的とする。すなわち、維持・修繕、改良、建替えおよび解消等に
関する制度について、ドイツの法制度の内容を明らかにすると共に同制度の運用状況につ
いて明らかにすることを目的とする。
制度内容の調査については、
平成 22 年度の調査研究
の結果を踏まえることとし、本編の第2章では、その一部を再録し(したがって同調査研
究結果報告書と重複する部分がある。)、本編第3章以下の調査の前提とした。
さて、ドイツの経年(老朽化)区分所有建物に関する法制度の特徴は、ひとつには、わ
が国におけるような特別多数決議による建替え制度がフランス等の他のヨ-ロッパ大陸法
や英米法と同様に存在せず、また、特別多数決議による解消制度もわが国やフランス等の
他のヨ-ロッパ大陸法と同様に存在しない点にある(「特別多数決議による建替えや解消
の制度の不存在」)。もうひとつには、区分所有法(住居所有権法)において、区分所有
関係の非解消性の原則を設けつつ、他方で、区分所有建物の滅失の場合における「解消請
求」の制度を設けていることである。
本編に係る調査研究においては、主として、次の 3 点について行った。第 1 には、経年
(老朽化)
区分所有建物についての建替えや解消の制度を有しないドイツの法制において、
建物の維持についてどのような修繕や改良の制度があるかを、その前提となる区分所有建
物の管理を踏まえて確認した上で(本編第2章)、その運用の状況を文書による質問とそ
の回答を通じて調査した(本編第3章)。なお、その前提としての建物の築年数等に関す
る統計資料の調査も行った(本編第1章3)。
第 2 には、特別多数決議による建替えや解消が存在しないドイツにおいて、それでは区
分所有者全員の合意によるこれらの実績がどの程度存在するのか、また、仮にこれらの実
績がほとんどないとした場合の理由やこれらについての考え方等について同じく文書によ
る質問とその回答を通じて調査した(本編第4章)。
第 3 には、以上の 2 点および区分所有建物の滅失の場合における「解消請求」の制度に
関する調査を踏まえて、わが国の法制との比較を行い、ドイツの制度をわが国において参
考にしたり導入したりする場合の課題や問題点等について検討を行った(本編第5章)。
2.運用状況の調査の方法
ドイツの法制に関する上記調査については、インスブルック大学法学部教授のマルティ
ン・ホイブライン(Martin Haeublein)氏に対して、以下に掲げてある約 30 数項目の質問
を文書にて行い、その回答を文書にて得、さらに、不明な点などについては、再度質問を
し回答を得るという方法(2012 年 12 月から 2012 年 2 月までの期間)にて行った。同教授
は、
2011 年 4 月よりオ-ストリアの上記大学にて民法および区分所有法等を担当する教授
であるが、2011 年 3 月までは、ドイツのベルリン自由大学にて上記科目等を担当する教授
であり、ドイツを代表する区分所有法制の研究者である(区分所有法制に関する著作が多6数あり、また、関連学術雑誌の編集委員や関連学会の役員を勤めている)。なお、筆者と
同氏とは、2005 年以来、日本とドイツの区分所有法制の比較研究に関して直接または電子
メイルを通じて意見交換を行っており、本編に係る本調査においても来日して直接に質疑
応答を行う予定であったが、氏の都合により来日が適わなくなり、上記の方法によること
になった。
なお、本調査にあたっては、藤巻梓・静岡大学人文学部法学科准教授に全面的な協力を
いただいた。
3.区分所有建物に関する基礎デ-タ
3-1.区分所有建物(居住用途型)の住戸数
筆者は、ホイブライン教授に対し、ドイツの居住用途の区分所有建物の住戸数等につい
て次のような質問をし、下記のような回答を得た。これによると、日本(およびフランス)
とほぼ同数の推計 600 万戸とのことであった。ただ、ドイツは日本よりも人口が少ない
ため、ここに居住する者は、7 人に 1 人の割合である(日本は 8 人に 1 人の割合)。
【質問】ドイツ全体の住宅数、および、そのうちの区分所有建物の棟数および住戸数は、
どのくらいか。統計デ-タがあれば提示いただきたい。それがない場合には、特定の州や
ベルリン等のものでよい。
【回答】区分所有建物の棟数・戸数に関する正確な数字データはない。ドイツでは、公
的な調査は賃貸か若しくは自己使用かについて定期的に実施されているが、区分所有建物
における賃貸・自己使用の調査は行われていない。
ドイツでは、約 4050 万戸の住居があり、それには一戸建て住宅、二世帯用住宅、多世
帯用住宅およびハイムも含まれる。ドイツ人の大多数(約 2000 万世帯)は賃貸住宅に居
住しており、約 1650 万世帯が自己所有の不動産に居住している。およそ 350 万戸の住居
が 空 室 で あ る 。 な お 、 ド イ ツ の 人 口 は 、 2010 年 末 の 時 点 で 8175 万 人 で あ る
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/germany/data.html)。
現在、ドイツにおける区分所有建物の住戸数は約 600 万戸であると言われているが、こ
れについて厳格な調査は行われていない。特に、WEG3 条 1 項による部分所有権(居住以
外の目的の住戸)の数がどの程度この数字に含まれているかは明らかでない。
3-2.建物の建築年代別統計
ドイツの区分所有建物の建築年度別の棟数・住戸数の統計デ-タについては、建物の年
数別の棟数の正式な調査が行われていないために存在しない。ただ、ドイツの居住用建物
全体について推計したものとして以下のようなデータがある(ホイブライン教授から提供
を受けた)。72010年までに建設された建物内の住居数
ドイツ全体 ベルリンを除く
ドイツ連邦共和国(旧西独)領域
旧東独領域お
よびベルリン
住居単位の総数 (in 1000) 39 390 30 690 8 700
そのうちの建設数
〜 1918 5 828 3 638 2 191
1919〜 1948 5 169 3 388 1 781
1949 〜 1978 18 193 15 706 2 486
1979 〜 1986 4 098 3 163 935
1987 〜 1990 1 093 823 270
1991 〜 2000 3 135 2 405 730
2001 〜 2004 954 782 172
2005 〜 2008 764 650 114
2009 以降 157 135 228第2章 区分所有建物の管理
1.区分所有建物の管理の担い手
ドイツの住居所有権法においては、区分所有建物の管理を担う者は、住居所有者権者、
管理者および管理顧問会であるとし、それぞれが各役割を果たすものとしている。
1-1.住居所有権者による管理
住居所有権者の管理の手段としては、規約と集会決議がある。規約の法的性質は土地共有者
間の契約であり、その設定及び改廃には原則として全員の合意が要求される。規定上、規約と
は「住居所有権者が、法律の規定を補充して、又は変更して」その相互の関係を規律するため
に設定するものとされる(WEG10 条 2 項)。
これに対して集会決議は、原則として出席した住居所有権者の過半数の賛成(頭数)により
成立する。頭数原理が採用されたのは、これにより、ある住居所有権者が最初から、議決権に
おける優越を認められることを防ぐためであると説明されている。したがって、規約によりこ
れと異なる定めを置くこと、たとえば住居所有権の数や、持分割合等にしたがって議決権を定
めるとする合意をなすことも可能である。但し、出席した議決権を有する住居所有権者が共有
持分の過半数を代表するときに限り、決議をなすことができる(WEG25 条 3 項)。
住居所有権法は 2007 年に改正されたが、改正により、従前の単純多数決議に加えて特別多数
決議
(二重の多数決)
が採用された。
特別多数決議が要求されるのは、
(イ)
維持・修繕
(WEG21
条 5 項 2 号)、現代化措置(WEG22 条 2 項)およびその他の建築上の変更(WEG21 条 1 項)
に伴う費用の配分(WEG16 条 4 項)(ロ)通常の管理を超える建築上の変更または特別の出費
のうち、共同財産の現代化に当たる措置の決定(WEG22 条 2 項)である。これらの事項につい
ては、議決権を有数する住居所有権者の 4 分の 3 の多数、かつ全持分権の過半数を代表する住
居所有権者の賛成が必要である。これらの事項は、従前は全員合意を必要とするものと考えら
れていたが、管理の円滑化を図るために合意形成の要件が緩和されたのである。
ドイツ法における全員合意(原則)と多数決(例外)の関係については、次のようにいうこ
とができる。そなわち、 多数決は、法律または規約により認められた事項に限定され、それ以
外の事項は全員合意が要求される。このことは、さらに、「決議権限」(住居所有権者が多数
決議により決定することができる権限)の概念を導いている。
1-2.管理者(WEG27 条)
ドイツ法においては、管理者の選任は必須である。管理者は自然人か法人を問わず、当該建
物の住居所有権者でもよいが、管理会社が管理者として選任される(管理者管理方式)のが一
般的である。
管理者の職務権限は WEG27 条に具体的に規定されており、
管理者は住居所有権者
の法定代理人であり、かつ共同体の代表者としての位置づけをされている。ドイツ法における
管理者の権限は広範であり、
規約による管理者の職務権限の制限は許されない
(WEG27 条4 項)。なお、次に参考のために、住居所有権法 27 条の規定を挙げておく。9第 27 条 [管理者の職務及び権限]
1項:管理者は、住居所有権者及び住居所有権者の共同体に対して、次の各号に掲げる権限を有し、義務を
負う。
一 住居所有権者の決議を執行し、かつ建物使用規則の遵守につき配慮すること。
二 共同財産の秩序ある維持及び修繕に必要な措置をとること。
三 緊急の場合に、共同財産の保存に必要なその他の措置をとること。
四 住居所有権者の共同の事項に関する限り、
負担及び費用の分担額、
償却金並びに抵当利子を請求し、
受領し、並びに支払うこと。
五 共同財産の経常の管理に関するすべての支払及び給付をなし、又これらを受領すること。
六 受領した金銭を管理すること。
七 第 43 条の規定に基づく訴訟の係属について、住居所有権者に遅滞なく通知すること。
八 第 21 条第 5 項第 6 号に掲げる措置に必要な意思表示を行うこと。
2項:管理者は、住居所有権者全員の名において、次の各号に掲げる行為をする権限を有し、かつ、当該行為
の効力は、これらの者のために又はこれらの者に対して及ぶ。
一 住居所有権者としての資格で、その全員に対してなされる意思表示及び通知を受領すること。
二 期間を遵守し、又はその他の法律上の損害を避けるために必要な措置をとること。特に、判決手続及
び執行手続において、第 43 条第 1 号、第 4 号又は第 5 号の規定に基づいて、住居所有権者に対する
訴訟を追行すること。
三 住居所有権者の規約又は多数決の決議により授権されたときは、請求権を裁判上及び裁判外において
行使すること。
四 第 43 条第 1 号、第 4 号又は第 5 号の規定に基づく訴訟のために、法定の訴額を超える、裁判所費用
法第 49 条 a 第 1 項第 1 文の規定に基づいて確定される訴額を最高限度として費用を査定する旨を、
弁護士と合意すること。
3項:管理者は、住居所有権者の共同体の名において、次の各号に掲げる行為をする権限を有し、かつ、当該
行為の効力は、共同体のために又はこれに対して及ぶ。
一 意思表示及び通知を受領すること。
二 期間を遵守し、又はその他の法律上の損害を避けるために必要な措置をとること。特に判決手続及び
執行手続において、第 43 条第 2 号又は第 5 号の規定に基づいて、共同体に対する訴訟を追行するこ
と。
三 第 1 項第 2 号の規定に基づく、必要な秩序ある修繕及び維持のための当座の措置を実施すること。
四 第 1 項第 3 号乃至第 5 号までの規定及び第 8 号の規定に基づく措置をとること。
五 第 1 項第 6 号の規定に基づく受領した金銭の管理の範囲内において、口座を開設すること。
六 第 43 条第 2 号又は第 5 号の規定に基づく訴訟のための、前項第 4 号の規定に基づく報酬について、
弁護士と合意すること。
七 住居所有権者の規約又は多数決の決議による授権があるときは、その他の法律行為及び法的取引をす
ること。
管理者が欠けている場合又は管理者が代理権を授与されていない場合には、住居所有権者全員が共同体を
代理する。住居所有権者は、多数決の決議により、1 名又は複数の住居所有権者に対して代理のための授権
をすることができる。
4項:前三項の規定による管理者の職務と権限は、住居所有権者の規約により制限又は排除することができな
い。
〔以下省略〕
1-3.管理顧問会(WEG29 条)
このほか、任意機関であるが、管理顧問会が一般的に設置されている。その任務は、管理業
務の遂行に際する管理者の補助および助言の付与であり、具体的な意思決定を行い、または措
置を講じるための権限を有しない。
2.区分所有建物の修繕・改良
2-1.秩序ある管理
ドイツにおける区分所有建物の管理の基本は、「秩序ある管理」であり、住居所有権法
は、これについて次のように定めている。共用部分の修繕については、これに包摂される。10第 21 条【秩序ある管理】
1項:この法律又は住居所有権者の規約に別段の定めがない限り、共同財産の管理は、住居所有権者が共同し
て行う。
2項:各住居所有権者は、共有財産について生ずべき直接かつ急迫の損害を避けるために、他の住居所有権者
の同意なく必要な措置を講ずる権限を有する。
3項:共同財産の管理を規定する住居所有権者の規約が存しない限り、住居所有権者は、多数決により、共同
財産の性質に適合した秩序ある管理について決議をすることができる。
4項:各住居所有権者は、規約及び決議に適合し、もしこれらが存しないときは、公平な判断に照らし住居所
有権者全体の利益に適合する管理を請求することができる。
5項:次の各号に掲げるものは、特に秩序ある、住居所有権者全体の利益に適合した管理に該当するものとす
る。
一 建物使用細則の制定
二 共同財産の秩序ある維持及び修繕
三 共同財産の現価に応じた火災保険契約の締結並びに住居所有権者が建物及び土地の占有者として負
うべき損害賠償金についての適当な責任保険契約の締結
四 適当な維持準備金の積立て
〔以下略〕
秩序ある管理(通常の管理)は、住居所有権者が集会における単純多数決議により決する。
秩序ある管理に該当するのは、
特に WEG21 条 5 項に列挙される措置であるが、
これは例示列挙
である。このほか、「現代化のための修繕」も、秩序ある管理に当たる。「現代化のための修
繕」の具体例としては、外壁への断熱材の取付け、一重のガラス窓を断熱窓に交換する、老朽
化した外壁の改修等がある。これらは、共同財産の変形を伴うものであったとしても、「建築
上の変更」(WEG22 条 1 項)ではなく通常の管理(WEG21 条)として、多数決議により決定
することができるのである。これは、改正法 22 条 3 項による判例法理の明文化である。修繕措
置が秩序ある管理といいうるためには、費用と資金調達の双方が秩序をもって決められている
必要があり、経済性が要請される。この要請がみたされていれば、費用のかかる完全な近代化
(Sanierung)や部分的近代化、さらには臨時的措置も、たとえそれらが共同財産の本質への影
響(Eingriff)を伴うものであっても秩序ある修繕と評価しうる。
2-2.建築上の変更(WEG22 条)等
共用部分の維持または修繕の範囲を超える改良については、「建築上の変更」に該当
し、住居所有権法は、次のように定める。
第 22 条 【特別の出費、復旧】
1項:共同財産の秩序ある維持又は修繕の範囲を超える建築上の変更及び出費については、
第 14 条第 1 項の定
める程度を超えてその権利を侵害される住居所有権者の全員の同意があるときには、これを決議し又は請
求することができる。この同意は、住居所有権者の権利が第 1 文に定める仕方で侵害されることのないと
きには不要である。
2項:BGB 第 559 条第 1 項の規定に相当する近代化又は共同財産の技術水準への適合化に資する、
前項第 1 文
の規定に基づく措置は、それが住居施設の特性を変更せず、又住居所有権者の権利を他の住居所有権者と
比較して不当に侵害することのないときは、前項の規定を変更して、議決権を有する全住居所有権者の四
分の三を超える多数かつ第 25 条第 2 項の意味における共有持分の過半数により決議をすることができる。11第 1 文の権限は、住居所有権者の規約により制限又は排除をすることができない。
3項:前条第 5 項第 2 号の意味における現代化のための修繕措置については、前条第 3 項及び第 4 項が引き続
き適用される。
4項:建物がその価格の 2 分の 1 を超えて滅失し、かつ、その損害が保険その他の方法により塡補されないと
きは、その復旧については、前条第 3 項の規定に従い決議をし、又は同条第 4 項の規定に従い請求をする
ことができない。
(1)建築上の変更(WEG22 条 1 項)
WEG22 条 1 項の建築上の変更については、条文上、これにより WEG14 条に定める限度を超
えてその権利を侵害される住居所有権者の同意が要求されているが、これに加えて、そもそも、
集会における過半数による決議が必要である。決議の対象となっている建築上の変更措置によ
り WEG14 条の限度を超えてその権利を侵害される所有権者の同意は、
その所有権者が同時に集
会に出席した議決権を有する所有権者の過半数に達していない限り、それのみでは当該決議は
成立しない。
「建築上の変更」の積極的定義は法文中にはない。一般に、共同財産についての、建物本体
への長期にわたる具体的な侵害を意味し、もはや現状の保全、維持にとどまらず、維持・修繕
を超えた新たな状態を創出する措置であると理解される。具体例としては、屋根裏の住居への
改造等があげられる。
(2)現代化(WEG22 条 2 項)
共同財産の維持・修繕を超える建築上の変更または特別の出費であっても、共同財産の現代
化または今日の技術水準への適合を図る措置については、特別多数決により決議することがで
きる〔決議権限の拡大:規約による制限は不可〕。現代化の基準は、BGB559 条 1 項(賃貸借法)
の意味における「現代化」の概念による。BGB559 条 1 項によれば、「現代化」には、使用価値
の向上に資する措置、居住関係の継続的な改善に資する措置およびエネルギーおよび水の節約
のための措置が含まれる。具体的には、自転車置場の設置、オートロックシステムとインター
ホンの設置、エレベーターの取り付け、一重の窓ガラスを断熱ガラスに交換すること等が挙げ
られる。これに対し、住居施設の特性に変更を加えるものは、本項にいう現代化には当たらず、
WEG22 条 1 項の措置として同項に定める手続に従う。現代化に当たらない措置としては、例え
ば、温室の増設、建物部分の取り壊しまたは増築を伴う措置、過剰(贅沢)な修繕、非居住用
の貯蔵室を住居に改修する、広い緑地を駐車場にする、個人のベランダにガラス窓を取り付け
ることにより全体の印象を悪化させること等が挙げられる。
(3)維持・修繕(WEG21 条 5 項 2 号)、現代化措置(WEG22 条 2 項)およびその他の建
築上の変更(WEG22 条 1 項)の区別
建築上の措置の各類型は、以下のように区別される。先ず、(イ) 老朽化した設備を、新し
く技術上もより優れた設備に代える措置であり、かつ費用便益分析によったときに当該措置が
経済的にも有意義であるといえる場合には、WEG21 条 5 項 2 号「秩序ある維持・修繕」に当た
る。次に、(ロ)当該措置はもはや維持・修繕とは関係がないものの、なお現代化措置である
といえる場合には、22 条 2 項に基づいて特別多数決により決議をなしうる。(ハ)上記(イ)12・
(ロ)
についていずれも否定される場合には、
当該措置は、
WEG22 条 1 項の意味における
「建
築上の変更」であり、その権利を著しく侵害される者の同意が必要となる。この場合は、ほぼ、
全員の同意が必要となる。当該措置がいずれに該当するかは、個々の事例において具体的に判
断される。
(4)費用分配の決定(WEG16 条 3 項)〔決議権限の拡張:制限は不可〕
建築上の措置に関する負担および費用の分配基準の決定には、原則として、全員の合意が必
要であり、
これについては、
規約による定めを置くのが通常である。
しかし、
例外的に、
WEG21
条 5 項 2 号、22 条 1 項・2 項の措置については、特別多数決による費用分配の決定が可能であ
る(WEG16 条 3 項)
(5)費用負担
WEG21 条に基づく措置のための費用は、
住居所有権者全員が負担する。
これに対して、
WEG22
条 1 項・2 項に基づく建築上の変更のための費用については、WEG16 条 6 項 1 文に特別の定め
があり、それによれば、当該措置に同意しない住居所有権者は、費用負担義務を負わず、かつ
当該措置により生ずる利益を享受する権利を有さない。ただし、WEG16 条 6 項 2 文により、
WEG16 条 4 項の規定に基づいて費用分配が決定されたときは、住居所有権者は、WEG22 条 1
項または 2 項に基づく措置についても費用負担義務を負う(その結果、利益も享受する)。
3.区分所有建物の滅失と復旧
3-1.復旧(WEG22 条 4 項)
建物がその価格の半分を超えて滅失し、かつ、その損害が保険若しくはその他の方法により
塡補されない限りにおいて、
住居所有権者は、
WEG21 条3 項に従い復旧を決議し、
またはWEG21
条 4 項に従い復旧を請求することはできない。WEG21 条 5 項 2 号は損傷と滅失とを区別してお
らず、滅失の理由も問題とならない。WEG22 条 4 項は、復旧義務が存在しない場合を規定して
おり、復旧義務はむしろ、WEG21 条から導かれる。
3-2.復旧の義務
復旧は WEG22 条 3 項に従い多数決により決議され、WEG21 条 4 項に従い請求されることが
できる。すなわち、復旧義務が生じる場合には、復旧は秩序ある管理として実施される。
復旧義務が生じるためには、先ず、滅失の程度が建物の価格の 2 分の 1 を超えていないこと
が必要である。
滅失の程度が建物価格の 2 分の 1 を超えない場合には、
復旧は WEG21 条 3 項及
び 4 項の問題となる。このとき、損害が保険等により塡補されるか否かは問題とならない。
さらに、建物の滅失の程度が建物の価格の 2 分の 1 を超えた場合であっても、建物の滅失に
より生じた損害が保険またはその他の方法により塡補される場合には、復旧を決議しまたはこ
れを請求することができる。
損害の全部について、保険等による填補があれば当然に復旧義務が発生するが、損害が部分
的にのみ塡補される場合であっても、この塡補により部分的な復旧が可能であり、その結果、
もはや建物がその価格の 2 分の 1 を超えて滅失した状態に無いときにも、21 条 3 項および 4 項
に従い、復旧を決議しまたは請求することができる。なぜなら、この場合において住居所有権13者にとって建物は、初めから価格の 2 分の 1 を下回って滅失した状態にあるから。
WEG21 条 3 項に基づき建物の復旧が決議され、または WEG21 条 4 項によりこれが請求され
うるときには、共同財産は滅失前の状態において再び建築されなければならない。この状態は、
建物完成以降に実施された、適法な建築上の変更を顧慮しつつ、区分計画書によって明らかに
される。復旧が当初の状態と異なって実施された場合には、これは―建築上の変更と同様に―
WEG22 条の要件の下に許容される。
3-3.復旧義務が発生しない場合の結果
建物がその価格の 2 分の 1 を超えて滅失し、その損害が塡補されない場合には、共同財産の
復旧は WEG21 条 3 項により決議することができず、
また WEG21 条 4 項により請求することが
できない。復旧義務は存在しない。
しかし、住居所有権者の共同関係および住居所有権という法制度がそれにより自動的に消滅
するわけではない。共同関係の解消はむしろ WEG11 条 1 項 3 文に従う。これによれば、個々の
住居所有権者は、建物が滅失した場合に、住居所有権者がその共同関係の解消についてすでに
取り決めを行っていたときには、共同関係の解消を請求することができる。但し、滅失後に住
居所有権者が共同関係の廃止について合意をした場合はこの限りでない。このような取り決め
なくしては、WEG11 条 1 項 3 文の文言からは、共同関係の解消は不可能である。
共同関係の解消は、それが秩序ある管理に適合する場合には、規範の文言をこえて認められ
なければならないと解されている。建物が滅失し、復旧義務が存在しない場合には、規定に従
って、解消が秩序ある管理に適合することが前提とされる。なぜなら、建物価格の 2 分の 1 を
超える滅失の場合にはいずれにせよ、滅失した住居所有権の存続は、この復旧義務なくしては
永久に無意味であるからである。このような場合において、住居所有権者は共同関係の廃止を
多数決により決議することができるし(WEG21 条 3 項)、各住居所有権者は共同関係の廃止を
請求することができる(WEG21 条 4 項)。
個々の住居所有権者は、その秩序ある管理の要求に他の住居所有権者が同調しない場合には、
WEG21 条 4 項の請求権を裁判上行使することができる。その手続は WEG43 条 1 号に従う。
WEG21 条 4 項の請求権の貫徹は、秩序ある管理措置が集会で否決された場合に意義を有するの
である。
3-4.形成の自由(Gestaltungsmöglichkeiten)
WEG22 条 4 項の規定については、これと異なる合意が可能である。したがって、例えば、建
物の滅失の程度や損害の塡補にかかわらず復旧義務を認めること、
4 項に定められたものと異な
る滅失の程度を定めること、若しくは損害の全部が塡補されるか、それとも一部にとどまるか
により、復旧義務の存否を判断する旨の合意が可能である。これらの規律は、分割の意思表示
または事後の規約により設定が可能であるが、多数決による決議は許されない。
このほか、「部分的滅失」の場合に、建物の復旧を特別多数決のみにより決議することがで
きる旨の合意をなすことも認められる。この規律は、しかし、突発的な滅失の場合にのみ妥当
し、必要な維持の措置を執らなかったために建物の老朽化が惹起された場合には妥当しない。
結局、復旧義務が存在していない場合について、法律の規定と異なる合意をなすことは、住
居所有権者の自由である。これにはまず、WEG11 条 1 項 3 文による合意が含まれる。共同関係14の廃止の請求に代えて、別の形態における解消を取決めることもできる。こうして、例えば規
約により、建物の復旧を求める住居所有権者の、復旧を望まない共有者に対する住居所有権の
譲渡の請求権を認めることができる。このような規約は、公証人による公証を必要とする。
4.非解消性の原則
ドイツにおいては、特別の例外的な場合を除いては区分所有関係を解消することができ
ない。この点について、住居所有権法は次のように定める。
第 11 条 【共同関係の非解消性】
1項:住居所有権者は、共同関係の廃止を請求することができない。重大な理由に基づく廃止も同様とする。
これと異なる規約は、建物の全部又は一部が滅失し、かつ、復旧の義務が存しない場合に限り、効力を有
する。
2項:共同関係の廃止を請求する差押債権者の権利[民法第 751 条]及び倒産管財人の権利
(倒産法第 16 条第2
項)は、行使することができない。
3項:共同体の管理財産に対しては、破産手続は開始しない。
4-1.目的
WEG11 条の目的は、住居所有権の価格の安定性と取引能力を確保するために、住居所有権の
設定後に、個々の住居所有権者に対し、保障された法的地位を付与することにある。この目的
のために、法律は、人的団体の構成員としての住居所有権者が有する権利および義務は、他の
住居所有権者(WEG11 条 1 項 1 文)若しくは場合により担保を有する債権者または倒産管財人
(2 項)
が共同関係の廃止を請求することにより剥奪されることはない旨を定めている。
住居所
有権者の共同関係は長期にわたって設定されており、
このことから、
持分的共同所有関係(BGB749 条ないし 751 条を参照)と根本的に区別される。
4-2.非解消性の原則
非解消性の原則は絶対的に妥当するわけではない。この規定はただ、住居所有権者の共同関
係が個々の住居所有権者の一方的な廃止の請求により解消されえないことを述べるにとどま
り、それが BGB 749 条 2 項の規定と異なり、重大な事由が存在する場合であっても同様である
とする(1 項 2 文)。建物が滅失し、復旧義務が存在しない場合であっても、廃止の請求権は存
在しない。ただし、これと異なる内容の規約がある場合にはこの限りでない(1 項 3 文)。住居
所有権者の共同関係は、特別所有権がその対象を失った場合でも存続する。
この規定は強行規定である。これは、法律上の廃止の権利および合意による廃止の権利の双
方について効力を有し、その結果、住居所有権者は、住居所有権者の共同関係の廃止請求権を、
―1項3項に定める特別の場合を除き―例えば共同体規約において規約により設定することがで
きないし、また決議により設定することもできない。このような規約または決議は、強行規定
に違反し無効である。
もはや住居所有権者の共同関係に留まることを希望しない住居所有権者は、その住居所有権
を売却することによってのみ、共同関係から脱退することができる。これに対して、共同関係
への残留を希望しない住居所有権者が、住居所有権を放棄することは、他の住居所有権者全員15の同意がなければ認められない。
4-3.非解消性の例外
住居所有権者の共同関係の非解消性には例外があり、住居所有権者の共同関係は次の場合に
廃止される。すなわち、1全ての住居所有権の併合(Vereinigung)の場合に、法律に基づいて、
または、2建物が存続しているときに、合意による特別所有権の放棄により、もしくは3建物
の全部又は一部の滅失の場合に、住居所有権者の 1 人の請求によって(ただし、これについて
本条 1 項 3 文による規約の定めを必要とする)、である。
1住居所有権の併合
法律行為による取得または法律上の取得若しくは収用により、全住居所有権が 1 人の住居所
有権者または第三者に帰属することになったときは、住居所有権者の共同関係は廃止される。
単独所有者となった者は、WEG9 条 1 項 3 号に従い、住居所有権登記簿の閉鎖を申請すること
ができる。
2 特別所有権の合意による放棄
WEG11 条は、住居所有権者の共同関係の一方的な廃止を排除するものであり、合意による廃
止は同条に反するものではない。住居所有権者が全員の合意で特別所有権を放棄することによ
り共同関係を廃止する道はある。
3 滅失の場合における、取り決めによる廃止請求権(1 項 3 文)
建物が完全にまたは部分的に滅失し(b)、復旧の義務が存在しない場合において(c)、共
同関係の廃止について規約による定め(a)があるときは、例外的に、個々の住居所有権者は、
他の住居所有権者の意思に反しても共同関係の廃止を請求することができる。
5.適切な維持準備金の積立て(21 条 5 項 4 号)
5-1.創設と管理
維持準備金の積み立ては、
多数決により決議することができる事項であり、
義務ではない(規約で積立てを排除することも可能)。しかし、積立てがなされていない場合には、個々の住居
所有権者による請求が可能(WEG21 条 4 項)である。修繕積立金は共同体に帰属する(管理財
産:WEG10 条 7 項)。したがって、住居所有権者は積立金についての持分の払い戻しを請求す
ることはできず、住居を売却する際も、その持分に応じた部分は、新たな所有者に自動的に移
転する。管理者がこれを管理し(WEG27 条 1 項 4 号、4 項)、一暦年ごとに作成が義務付けら
れている予算に、維持準備金の分担額を計上する(WEG28 条 1 項)。
5-2.維持準備金の使途:準備金の目的による拘束
維持準備金は、本来は、将来的に必要となる共同財産の大規模な修繕を保障するためのもの
であるから、小規模の修繕のための費用を準備金から支出することは望ましくないが、その決
定は住居所有権者の自由裁量である。しかし、準備金を維持・修繕以外の目的に費消すること、
例えば燃料の購入や、管理費の不足分を補うための流用は、完全に排除されるわけではないが、
全員一致(出席者ではなく、全住居所有権者)の決議が必要とされるというのが有力な見解で
ある。
【第 2 章参考文献】Bärmann, Kommentar zum Wohnungseigentumsgesetz, 11. Auflage, 201016第3章 区分所有建物の修繕及び改良の実状等
ドイツにおける住居所有権法上の修繕や改良に関する制度の運用状況を調査するため
に、ホイブライン教授に対して、文書にて 9 項目の質問をし、同教授から各質問に対して
以下のとおりの文書にての回答を得た。
1.共用部分の修繕
1-1.修繕・改良についての合意形成の実状
【質問1】区分所有建物の共用部分の修繕や改良について、実際には、管理者、管理顧
問会、および集会において、どのような手続のもとに合意形成がはかられ、実施されるの
か。実際上の発案者または主導者は管理者なのか、それとも区分所有者なのか。
【回答】WEG21 条、22 条および 27 条から、ドイツにおいては(完全に一致している
わけではないが、少なくとも支配的見解は)管理者と所有権者の権限の配分について以下
の通りに理解している。
管理者は、共用部分の修繕の必要性を確定し(特別所有権は各所有権者の管轄である)、
所有権者に情報を提供し、
集会の決議の成立を目指す。
これは実務において一般的である。
所有権者は、集会において、WEG21 条 3 項、5 項 2 号に基づき多数決議によって、措
置をとるか否か、およびどのような措置をとるかを決断する。
管理者は、決議を実行する。つまり、建築事業を委託する。緊急の場合か、若しくは日
常の(laufende)維持・修繕に該当する措置については、管理者は決議なくして委託をす
ることができる。しかし、一部滅失した施設の復旧は日常の措置とはなりえないから、そ
の限りで所有権者の決議が必要である。
1-2.修繕の義務の存否および義務者
【質問2】区分所有建物の共用部分を修繕して長期間にわたり建物等を維持していくこ
とは、各区分所有者または管理組合の義務と考えられているのか、それとも管理者の義務
と考えられているのか。あるいは、これについては、法的には、いずれの義務でもなく、
区分所有者が集会で決議するものとされるのか。なお、日本法では、法的には、いずれの
義務でもなく、区分所有者が集会で決議するものとされている。
【回答】管理者は、WEG27 条 1 項に挙げられる措置につき義務を負う。不履行は義
務違反を意味し、
BGB280 条 1 項により損害賠償義務を負う。
損害賠償請求権の基礎が、
管理委託契約の違反か、それとも WEG27 条 1 項の定める義務の違反かは実際には問題
とならない。いずれの義務の違反も、権利能力を有する共同体および個々の住居所有権
者に対する関係で、その財産に損害を与えることになる。
秩序ある管理の範疇において、全住居所有権者は、施設(建物)の保全(Erhaltung)
に必要な決議をする義務を負っている。会社法においては、このような義務をしばしば
義務権(義務的権利・Pflichtrecht)と呼んでいる。多数者が、例えば金銭的な理由によ
り、客観的に必要と思われる修繕措置について決議をすることを拒めば、個々の住居所
有権者が強制的に他の所有権者の同意を得ることができる(必要な措置が秩序ある管理17に相当するかぎり、請求の基礎は WEG21 条 4 項である)。また、WEG21 条 8 項に基
づく裁判所の決定も可能である。裁判所に規律(Regelung)を求める可能性が認められ
ることにより、21 条 4 項の請求権を行使した少数派は、前もって詳細な措置を特定する
必要性から解放される。すなわち、例えば建築上の瑕疵が様々な方法で除去することが
できる場合など、複数の措置が秩序ある管理に該当する場合がある。このとき、個々の
住居所有権者には、検討されている措置のうちの一つにつき、その実施の請求権を有す
るが、しかし特定のある措置が実施されるべきことについての請求権は有しないという
リスクがある。そこで、この場合に裁判所が「補助的に(helfend)」特定の一措置を【実
施すべき措置として】確定することができるのである。
1-3.管理者に対する修繕請求権の存否
【質問3】 区分所有建物の共用部分の長期間にわたり建物等を維持していくような修繕
がなされていなかった場合に、区分所有者は、管理者にそのような修繕を実施することを
請求することができるか。請求が可能であるとした場合に、その法的根拠はWEGのどの
規定か、それとも規約か、あるいは集会の決議か。なお、日本法では、法的には集会での
決議であるとされている。
【回答】管理者に対しては、上述の準備的な(vorbereitende)措置のみを請求すること
ができるほか、決議に基づいて、決議の実施に必要な行為、例えば業者への委託等も請求
することができる。緊急の場合には、決議なくして、管理者に対し共同財産の保全に必要
な措置をとることを請求することができる。なお、この場合には、個々の所有権者もまた
独自に当該措置を実施することができる(WEG21 条 2 項)。
1-4.現代化のための修繕の実状等
【質問4】「現代化のための修繕」としては外壁・ガラス窓の断熱対応や老朽化した外
壁の改修などが考えられると思うが、その外に高齢者や身障者のための対応等もこれに含
まれるのか。「現代化のための修繕」は、実際上多くなされ、このような合意形成や集会
決議は容易になされるのか。これに至る合意形成や集会決議において、費用負担の面での
問題はないのか。
【回答】所有権者が共同財産の損害を除去するだけでなく、その改良を行おうとする場
合に、その方法として次の 2 通りの可能性がある。第一に、それが現代化のための修繕
(modernisierende Instandsetzung,WEG22 条 3 項)に当たれば、単純多数決議のみが必
要である。若しくは、第二に、WEG22 条 2 項、BGB559 条の現代化(Modernisierung)
あるいは技術水準への適合化に当たれば、特別多数決議(議決権を有する所有権者の 4 分
の 3 の多数であり、共有持分の過半を有する所有者の同意)が必要となる。
まさに年数の経過した建物において、現代化のための修繕が重要な意義を持つ。とい
うもの、現代化のための修繕は、瑕疵のある共用部分を単に修繕するだけでなく、過半
数の合意のみにより共用部分を現代のスタンダードに合わせる可能性を所有者に与える
からである。損傷のある建物においても、現代化のための修繕を決議することができる。
現代化のための修繕の要求する多数の程度が比較的低いのは、いずれにせよ修繕の必
要性が生じている場合にのみ当該修繕の実施が可能だからである。このことは、例えば18エレベーターの設置が、現代化のための修繕には決して該当しえないことを意味する。
なぜなら、現代化のための修繕は、その定義から、共同の施設がすでに破損しているこ
とを前提とするからである。
他方で、判例は「現代化のための修繕」の限界づけを行っている。例えば、BGH
(Urt.v.14.12.2012)は次のように述べている。「秩序ある維持・修繕は、〔共同財産の〕
更新(Neuerung)が技術上より優れた、若しくは経済的により意義のある解決策である
場合には、単なる修理(Reparatur)若しくは従前の状態の回復を超えるものであっても
よい。住居所有権に供されている建物が、全所有権者の損害において予定よりも早く老
朽化し、その価値を失うべきではない場合には、理性的であり、かつ経済的に考え、そ
して確かな更新を実施する決心を行った所有権者の基準は、この場合に、〔共同財産の〕
既存の状態にあまりに厳格に沿ったものであってはならない。...特別な意義を有するの
は、費用対効果分析である。より多額の出費を行ったとしても、それが適切な期間内に
償却されるのであれば、当該措置はなお、現代化のための修繕の範囲内にあるというこ
とができる」。
費用対効果の分析についてはすでに 1996 年のベルリン地方裁判所が判断を示してい
た。現代化のための修繕に対する出費は、経済的に意義のある償却を考えることができ
るのは、長く見積もって 10 年程度である。そこではさらに、長期間にわたる場合には、
エネルギー料金の変遷を実際に予測することが殆ど不可能であることも考慮しなければ
ならない。しかし、費用対効果分析は、多数派により決議された措置が法律上要求され
る場合には、適用されない。
現代化のための修繕においては、費用は確かに大変重要な意義を有するが、しかしあ
くまで一つの考慮要素である。具体的な事案において、秩序ある、現代化のための修繕
措置の限界がどこにあるかは、多様な視座から判断する。すなわち、共同財産の従前の
状態、法律の規定、経済上の出費と期待される効果との関係、予定される現代化が実務
においてすでにどの程度実施されているのか、エネルギー需要の長期的な保障、さらに
は環境への影響等である。現在の状態の単純な修理か、若しくは改良された状態の設定
か、それらのあらゆる長所と短所が考慮される。判例はこれについて、所有権者の多数
に判断の裁量を与えているのである。
所有権者の少数派は、しかし、費用のかさむ措置から保護されている。例えば、現代
化のための修繕は、共同財産に重要な修理または更新を必要とするような著しい瑕疵が
あることを前提とするとした裁判例もある。この事例では、建物の外壁が汚れ、以前は
20 万ユーロで塗装したが、多数派が、170 万ユーロで断熱機能を備えたセラミック素材
を取り付けて「修繕」しようとしたことが紛争となった。シュレースビッヒ上級地方裁
判所(OLG Shcleswig v.8.12.2006, NZM2007, 650)は、これをもはや「現代化のための
修繕」とは言えないと判断した。
1-5.適切な修繕・改良の実施状況
【質問5】上の質問とも一部重複するが、実際上、一般的に、ドイツでは、区分所有建
物の共用部分の修繕や改良が適切に行われていると考えてよいか。それらのための資金の
獲得について、区分所有者の管理費・修繕費の滞納の点で問題が生じていないか。19【回答】修繕や改良(現代化)の措置の実施は、ドイツにおいて(地域や立地により)
異なる。しかし、建物の維持は、上記の統計で示したように、一般的にはうまくいってい
る。それでも、住居の 4 分の 1 は第二次大戦以前に建てられたもので、70 年以上を経過し
ている。1870 年から 1900 年にかけての会社設立ブーム時代(Gruenderzeit)および 20
世紀初頭の 10 年に建てられた建物は、一戸の規模が大きいことから、住居を探している
者に好まれている。それにより、十分な賃料を得て、建物を維持することが可能になって
いる。
特に 1950 年から 1970 年の間に建てられた建物については、
実務上、
保全のための費用
の確保の問題が頻発している。これらの建物については、当初は国が建設し、その後賃借
人に売却された物件が少なくない。収入の少ない所有者の居住する建物施設においては、
資金面での問題が管理者により報告されており、不動産管理者のトップ団体が、すでに政
治的決定を行うように請願している。国の側からは、特にエネルギー効率を高める措置が
推進され、これは特に KfW の低利の融資による。
※(注記)KfW とは
《Kreditanstalt für Wiederaufbau》復興金融公庫の名称で、ドイツの国営金融機関である。
第二次大戦後の 1948 年に設立され、東西ドイツ統合後には主に旧東ドイツ地域の産業経
済の復興のために出融資を行い、その後は開発途上国援助と海外投資を重視するなど、時
代に即した機動的融資を実施している。
2.共用部分の改良(変更)
2-1.建築上の変更
【質問6】実際上、一般的に、ドイツでは、区分所有建物の建築上の変更(WEG22 条)
は多くなされているのか、それとも多いとはいえないか。実際には、どのような変更が多
いか。階段室を改造してエレベ-タ-を設置する例は多いか。
【回答】WEG22 条 1 項の建築上の変更は、2007 年の WEG 改正以降、以前のように
頻繁に実施されることはなくなった。というのも、WEG22 条 2 項の導入により、所有
権者の多数が関心を持つ一連の措置について、特別の構成要件が設けられ、多数決議が
要求されることとなったからである。それに対応して、WEG16 条 4 項において、建築
措置のための費用を、当該措置により利益をうける所有権者に負担させる可能性が規定
されている。
BGB559 条 1 項によれば、現代化には、住居の使用価値を持続的に向上させ、一般的
な居住関係を継続的に改善し、またはエネルギー若しくは水の持続的な節約に資する措
置が含まれる。エレベーターやバルコニーの設置等がこれに含まれるが、それだけでは
ない。BGH はこの概念を広く解しており、賃貸借法の領域ではもはや 559 条 1 項に含ま
れないものであっても、
WEG の領域においては WEG22 条 2 項の変更を決議することが
できる。
住居の快適さを高める措置(例えば、エレベーターやバルコニーの設置、外部施設を
遊び場に変更する、テレビやインターネットの受信機の取り付け等)のほか、実務にお
いて重要であるのは、省エネのための措置である。20WEG22 条 2 項および 16 条 4 項の実務における問題は、必要な多数(全区分所有者の
4 分の 3)が、集会に出席する住居所有権者が 4 分の 3 に満たない、若しくは議決権を代
表しておらず充足されないことにある。したがって、私は、事後的な同意を可能とする
ような立法の提案を行った。これはオーストリア法にモデルがある。
2-2.修繕、現代化措置および建築上の変更の区別
【質問7】維持・修繕(WEG21 条 5 項 2 号)、現代化措置(WEG22 条 2 項)、その
他の建築上の変更(WEG22 条 1 項)のどれに該当するかについて、実際上、集会の場で
議論になることはないか。その点は、管理者等が実務上工夫をしているのか。また、上の
いずれかに該当するかが争われた典型的な裁判例があれば、お教えいただきたい。
【回答】建築上の措置の個別の類型化を行うことは困難である。特に「現代化のための
修繕」と「現代化」は、その評価基準が多重的であるため、その境界は浮動的である。ま
た、「現代化」と「建築上の変更」との間の限界付けにおいても問題が生じうる。例えば、
敷地に駐車場を設置することは、本当に WEG22 条 2 項、BGB559 条 1 項の居住関係の改
善もしくは使用価値の向上につながるのか、といった問題である。
集会では、確かに所有権者により措置の実施が議論される。しかし、所有権者たちはし
ばしば法的カテゴリーについてはよく知らないため、ある措置を維持・修繕、現代化のた
めの修繕、現代化もしくは建築上の変更のいずれに分類するかは、争われることはそれほ
どない。実務においては、この場合に管理者が重要な役割を担う。なぜなら管理者は、本
来的な集会の議長だからである(WEG24 条 5 項)。集会の議長として、管理者は、議決
において必要とされる多数が達成されたかを確定しなければならない。これは、管理者が
当該措置を特定の類型に分類していることを前提とする。
この理由から、典型的な紛争例は、決議の取消を訴える所有者が、多数派が決議した措
置は、秩序ある現代化措置もしくは現代化のための修繕には当たらないと申し立てるケー
スである。
また別のケースとしては、所有権者が建築措置のために決議された特別分担金の支払
いをしないため、共同体が当該所有権者に対して支払請求の訴えをする場合である。前
記【質問4】の【回答】に挙げた OLG シュレスビヒはこの点が問題となった事案である。
ただし、当該事案は 2007 年の WEG 改正前のものであり、旧法においては WEG22 条 2
項の「現代化」が規定されていなかったことに留意が必要である。したがって、裁判所
は、現代化のための修繕の要件が充足されておらず、当該措置は建築上の変更に当たる
と判断した。ところで、旧法の 16 条 3 項(現 16 条 6 項)は、建築上の変更措置につい
て、これに同意しない所有権者についてその費用の負担から免除しており、本件におい
てはすでに当該措置の実施につき決議が(確定的に)成立しているにもかかわらず、同
意しない所有者の費用負担の免除を認めたのである。現行法の下では、これは異なった
解決がなされる。すなわち、本件の断熱機能を備えた外壁の取り付けといったような、
省エネに資する措置は、WEG22 条 2 項の「現代化」措置に該当し、その費用の分配は、
WEG16 条 6 項ではなく同条 2 項によって処理されることになろう。
所有者間でしばしば紛争が起きるのは、費用の分配の問題である。WEG 改正により、21WEG16 条 4 項は新たに、建築上の措置(維持・修繕(現代化のための修繕を含む)、
現代化、建築上の変更)の費用につき、所有権者が決議により、一般的分配基準と異な
る基準を採用することを認めている。しかし、法は、少数者の保護を目的として、基準
の変更につき二重の特別多数決議を要求し、かつ個別的な変更しか認めていない。ここ
において、多くの紛争が生じている。
これについて BGH(BGH v.18.06.2010, BGHZ 186,51)が判断を下している。事案の
概略は次の通りである。3 棟の建物から構成される共同体の所有権者の圧倒的多数が、
WEG16 条 4 項に基づいて、3 棟のうちの 1 棟の建物の屋上の補修について、当該建物内
に存する住居の所有者が当該費用を負担する旨の決議を行った。そこで、当該建物内に
存する住居の所有者が、当該決議の取消しを申し立て、裁判所(BGH)はこれらの者の
申立てを認容した。基本的には、BGH は、多数者が恣意的に費用分配基準を少数者の不
利に決議してはならないとの考慮に依っている。このような考慮が原則として首肯でき
るものであるとしても、BGH の判断そのものは受け入れがたい。WEG16 条 4 項は、所
有権者の多数派の利益と少数者保護の法政策上の妥協の結果である。BGH による上記の
解釈は、立法者のこのような考慮を斟酌していない。
3.管理費の滞納
【質問8】管理者は、管理費の滞納者に対して、実際上、WEG18 条 2 項 2 号の規定を
厳格に適用して実行しているのか。なお、同規定の「住居所有権の財産価格」とは、購入
時の価格か、それとも現時点の価格か、後者とした場合に、その具体的な価額について争
われることはないのか。
【回答】WEG18 条は実務において、副次的な役割を果たすにすぎない。その理由は、
複雑な手続(取消の可能性のある決議、剥奪請求、競売)にあろう。実際には、剥奪は最
後の手段と考えられている。
なお、近時最高裁の判決が下されており、そこでは共同体がこの手段を活用している。
【BGH2007.1.19- V ZR26/06, BGHZ170,369】
1.管理費または住居所有権者共同体のその他の支払請求を、継続して期日に履行し
ないことは、それが秩序ある管理を持続的に侵害するときは、履行しない住居所有
権者とともに共同体を継続していくことを耐え難いものにさせ、
WEG18 条 1 項の剥
奪請求を根拠付ける。
2.この理由による剥奪の場合において、履行しない住居所有権者は決議の前に催告
を受ける必要がある。この催告は、それが他の住居所有権者にとって耐えがたく、
もしくは成果が現れない場合に限り、催告を行わなくてもよい。
3.催告を行わなかったことにより剥奪決議が十分なものとはいえない場合に、当該
決議は法的には催告である。...
【BGH2011.7.8-V ZR2/11, BGHZ 190, 236】
剥奪決議に対する取消の訴えに関しては、
決議が必要な催告を前提としているか否か
を審査すべきである。これに対して、催告において挙げられた理由の正当性および催告
の後に新たな義務違反があったか否かは、剥奪の訴えの対象のである。22【調査協力者(藤巻)注】
WEG18 条 2 項 2 号の「住居所有権の財産価格」とは、現時点の価格を指す。共同
体は、必要な遅滞額に達しているか否かを確認するために、当該住居の財産価格を財
務官署に問い合わせることができる。(Baermann Komm. §18 Rdnz. 41)
4.区分所有建物の存続予定年数
【質問9】一般的に、ドイツでは、建替えではなく、現在の区分所有建物を修繕や改良
をすることによってどのくらいの年数にわたり維持しようと考えているのか。50 年か、70
年か、100 年以上か、または、永久にか。例えば、旧東ドイツ時代に建築された同地区の
建物についても、この点について違いはないと考えてよいか。なお、日本では、一概に言
えないが、30 年から 40 年程度と考えている管理組合も少なからずある。
【回答】ドイツにおいても、日本と同様に、建物の寿命について一概に言うことはで
きない。ただ、私の経験からすれば、たいていの共同体は、不動産の永続的な、時間的
に期間を設けない存続を可能とするべく、保存措置を実施するよう努力している。これ
は、DDR の鉄筋コンクリートプレハブ住宅についても同じである。前記の統計に示され
ているように、ドイツにおける全住居単位の 15 パーセントが、100 年以上を経過した建
物内に存在する。さらに 15 パーセントが、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に建設
されている。古い不動産の数字がそれほど高くないことは、特に第二次大戦後の壊滅が
理由であろう。
私は、使用期間を 30 年ないし 40 年と考えて所有権を取得している建物の例を知らな
い。このような事態は、ドイツの不動産市場においても考え難いものである。「時限的
住居所有権」とは、WEG30 条の住居借地権に基づくものであるが、これについて 50 年
ないし 70 年の存続期間が設定されていたとしても、WEG1 条以下の住居所有権と比較
すれば明らかに売却に不利である。買主の継続的な使用に向けられた、相当な期待が理
由であろう。23第4章 区分所有建物の建替え及び解消の実状等
1.建替え及び解消の実績
ドイツ法においては、建替えや解消(例外的な場合を除く。)について多数決により決
議することはできず、全員の合意が必要であるが、全員合意によりこれらがなされた実績
があるのか、もしあるとすれば、その件数はどのくらいか。公刊されている資料からは調
査できなかったので、この点に関する 4 つの質問を前述のような方法でホイブライン教授
に行い、以下のような回答を得た。
1-1.建替えの実績
【質問1】被災、老朽化、または再開発等によって、区分所有建物の建替え(従前の建
物を取り壊し、新たな建物の再建)がなされた件数はどれくらいか。統計デ-タがあれば
提示いただき、統計デ-タなければ推定としてどのくらいか。
【質問2】上の質問との関連で、特に老朽化のみを原因とする建替えの件数はどれくら
いか。統計デ-タがない場合の推定として、きわめて少ない、またはほぼ皆無と考えてよ
いか。例えばドイツ全体で 0.1%未満と考えてよいか、または、多くても 50 件(50 棟)程
度と考えてよいか。なお、御参考のため、ドイツ法とは異なり、日本法では区分所有者お
よび議決権の 5 分の 4 以上の賛成があれば建替えが可能であるところ、現在まで約 180 件
ほどの実績がある。
【回答】私が知るところでは、災害や老朽化を理由として、建物を取壊して、新たに再
建した区分所有者の団体はない。もしドイツでこのような事例があるとすれば、それは所
有権者が 2〜3 人の比較的小規模な施設であろう。さもなければ、きわめて稀である。この
件につき、私から複数の不動産団体に問い合わせを行ったが、同趣旨の回答であった。な
お、未だ返答がない団体もある。
1-2.解消の実績
【質問3】被災、老朽化、または再開発等によって、区分所有建物の解消(解消して建
物と敷地を売却して区分所有者間で売却代金を分配)がなされた件数はどれくらいか。デ
-タがあれば提示いただき、統計デ-タがなければ推定としてどのくらいか。
【質問4】上の質問との関連で、特に老朽化のみを原因とする区分所有建物の解消の件
数はどれくらいか。統計デ-タがない場合の推定として、きわめて少ない、または、ほぼ
皆無と考えてよいか。例えば、ドイツ全体で 0.1%未満と考えてよいか。あるいは、多く
ても 50 件(50 棟)程度と考えてよいか。なお、ご参考として、解消のためにはドイツ法
と同様に日本でも区分所有者全員の合意が必要であるが、日本法では、2011 年 3 月の東
日本大震災後の区分所有建物において 5 件の解消があった。ただ、現段階では一部滅失し
た建物を取り壊しただけで、敷地の売却には至っていない。
【回答】建物の滅失もしくは荒廃(Baufälligkeit)を理由とする解消という事態を、私
は知らない。住居所有権の解消は、実務上もきわめて稀である。私が知っている事例と24しては、敷地が現物分割される場合(二世帯建物もしくは長屋方式の場合のみ)か、若
しくは全住戸が一人の所有権者に帰属していて、この所有権者が区分所有権を廃止し、
土 地 の 所 有 者 と な る 場 合 で あ る ( 3 戸 か ら な る 建 物 に つ い て 、 こ の 事 例 を
ESW-Deutschland の代表者により聞いた。)
2.解消(共同関係の廃止)を定める規約の状況
住居所有権法 11 条 1 項は、
「住居所有権者は、
共同関係の廃止を請求することができな
い。重大な理由に基づく廃止も同様とする。これと異なる規約は、建物の全部又は一部が
滅失し、かつ、再建の義務が存しない場合に限り、効力を有する。」と定め、例外的に、
所定の規約の定めがある場合に限って共用部分の廃止(解消)を可能としている。それで
は、このような規約の定めは、一般的になされているのか。この点を前述のような方法で
ホイブライン教授に質問し、以下のような回答を得た。
【質問】WEG11 条 1 項 3 文にある「解消(共同関係の廃止)」を定める規約は、実際
上、多くの区分所有建物で定められているのか。
【回答】再建(Wiederaufbau)に関する規定が規約に定めてられている頻度については、
言明することはできない。しかし、公刊されている標準契約のほとんどにおいて、この
ような規定がみられる。これは、ドイツにおいて頻繁に規約を作成している公証人の多
くが、同様の規定をその公正証書に採用しているのである。このような規約の内容の許
容性について判断した判決もある。
法律は、WEG22 条 4 項において次の点を出発点としている。すなわち、建物がその
半分を超えないで滅失した場合に、再建を単純多数決により決議することができるとい
う点である。このような場合には、個々の所有権者も、WEG21 条 4 項により、他の共
有者に対して、建物を再建すべきことを請求することができるのである。これは、所有
権者にとって著しい経済上の負担となりうる。したがって、実務において多くの規約は、
半分を超えない滅失の場合であっても、費用が例えば保険等により填補されることを要
件として再建義務を認めることを目的としている。こういった規約に沿って、WEG11
条 1 項 1 文を変更し、同条 1 項 3 号に基づき、住居所有権の廃止は、再建義務が存在し
ない場合にこれを請求することができる旨の定めがなされていることが多い。
そのほか、
滅失の程度により、再建に特別多数決議や全員の同意を要求し、この多数決議が成立し
ない場合には共同体の解消を定める規約もある。
3.老朽・荒廃区分所有建物に対する措置
ドイツでは、老朽化した区分所有建物に対しての法的措置として、なぜ建替えや解消の
制度を設けていないのか。全員一致であればこれらも可能であるが、全員一致による建替
えや解消の実績もほぼ皆無としたら、
その理由は何か。
この点をホイブライン教授に尋ね、
以下のような回答を得た。また、荒廃区分所有建物についても尋ね、回答を得た。
3-1.老朽化を理由とする建替えや解消について
【質問1】
老朽化を理由とする建替えの件数がほぼ皆無またはきわめて少ないとしたら、
その理由は何か。そもそもドイツではそのようなニ-ズがないのか、建替えのための資金25の問題か、または当該場所にこだわらずに他に住宅を求める区分所有者が多いためか。将
来的には(例えば、コスト面で、維持していくことは、過分の費用がかかるようになった
場合)、どう考えるべきか。
【質問2】老朽化を理由とする解消(解消して建物と敷地を売却して区分所有者間で売
却代金を分配)の件数がほぼ皆無またはきわめて少ないとしたら、その理由は何か。そも
そもドイツではそのようなニ-ズがないのか、解消後の売却金の分配および移転先の問題
か。将来的には(例えば、コスト面で、維持していくことは、過分の費用がかかるように
なった場合)、どう考えるべきか。
【回答】実務において、必要な保全措置の資金調達が頓挫する事態は、とりわけ、その
立地や設備からあまり魅力的でない建物においてみられる。資金面で問題のある所有権者
を、その住居の売却ないし強制競売によって共同体から排除し、必要な措置の実施を確保
しようとしても、首尾よくいかないことが多い。老朽化した建物の敷地全体を売却するこ
とも、また個々の住居の売却も、潜在的買主の需要がないことからうまくいかないと思わ
れる。
さらに困難であるのは、WEG9 条 1 項による住居所有権の廃止は、原則として全所有権
者の協同を必要とする点である。
当該の建物において所有権者が自身で居住している限り、
所有権者はふつう、解消に進んで同意する気はない。なぜなら、所有権者にとって、果た
して売却代金の配当から別の住居を購入することができるようになるのかが不明だからで
ある。とりわけ、WEG9 条 2 項により物的権利者、すなわち土地担保権者(銀行)が住居
所有権の廃止に同意しなければならない。これは労力がかかり、老朽化した施設において
は、誰もこのような労をとろうとしないものと推測される。
売上金の分配は、WEG17 条が定めている。しかし、この規定に対するコメントには関
連する裁判例は皆無である。
実務上、
このような事態は生じないということの証拠である。
3-2.荒廃区分所有建物について
【質問3】ドイツでは、管理組合による建物の維持・管理(「秩序ある管理」)が適切
になされず、実際上荒廃している例はないのか。あるとしたら、例えば、ドイツ全体でど
の程度か。推定として 1%以上か、1%未満、あるいは、0.1%未満と考えられるか。なお、
このような場合には、行政法で対応しているのか。
【回答】ドイツにおいて、修繕が滞っている住居所有建物は多くある。しかし、そのう
ち現実に「荒廃(verwüstet)」してしまうのは僅かであり、1%にも満たないのは確実で
ある。ある建物により公の安全及び秩序に危険が及んでいる場合には、それに対する措置
は公安当局(Ordnungsbehörde)が実施する。その際には、通常、管理者に連絡がある。
とりわけ建設法典は、公法的に建物の「状態」に作用しうる多用な手段を用意している。26第5章 結 語
以下では、以上の調査を踏まえて、本編の最初に掲げた 3 つの課題(以下の1、2、3)
について、結語としてまとめておきたい。
1.経年(老朽)区分所有建物の修繕及び改良
ドイツの区分所有法制(住居所有権法制)においては、前述のように特別多数決による
建替えの制度はなく、また大規模一部滅失または全部滅失の場合を除き解消の制度が存在
しない下で、区分所有建物を「経年」ないし「老朽化」に応じて、「秩序ある管理」また
は適宜「現代化」に相当する改良を通じて、半ば永続的に維持していくものと理解するこ
とができる。それでは、このような「区分所有建物の半永続的維持・管理」を具体的に支
える制度はどのようなもので、また、その運用状況はどのようなものか。
これを具体的に支える制度は、次の(1)〜(3)の 3 つを挙げることができる。以下
では、それぞれの制度について述べ、併せてそれらの運用状況について言及しよう。
(1)「秩序ある管理」についての義務的権利
第 1 は、各区分所有者には、相互に「秩序ある管理」についての義務があると共に権利
が存するという点である。ホイブライン教授によると、全住居所有権者が建物の保全
(Erhaltung)に必要な決議をしなければならないという義務については、「義務権(義
務的権利・Pflichtrecht)」と呼ばれているとのことである。すなわち、多数者が、例え
ば金銭的な理由により客観的に必要と思われる修繕措置について決議することを拒んだ
場合に、個々の住居所有権者は、強制的に他の所有権者の同意を得ることができ、その
必要な措置が秩序ある管理に相当する限り、各住居所有権者は、裁判所に対し、WEG21
条 4 項に基づきこれを請求することができる(本編第3章1-2、1-3参照)。
永続的な「秩序ある管理」がなされるためには資金が必要であるところ、法制上、維持
準備金の積み立ては、多数決により決議することができる事項であり義務ではない(規約で積
立てを排除することも可能である)が、積立てがなされていない場合には、個々の住居所有権
者による請求が可能(WEG21 条 4 項)である(本編第2章5-1参照)。
(2)「現代化」のための修繕と改良
第 2 は、区分所有建物を半永続的に維持・管理していくためには、それを時代や社会の
状況に適合させていくことが要請されるが、そのための建物の共用部分の変更ないし改良
について常に全員合意ないし特別多数決議を要求することは合理的ではない。そこで、ド
イツ法は学説・判例や近年の改正によって、「現代化」という規準を創設することにより多
数決要件の緩和をはかっている。そのひとつは、「現代化のための修繕」であり、その具体例
としては、外壁への断熱材の取付けや老朽化した外壁の改修等があり、これらは、共同財産の
変形を伴うものであったとしても、「建築上の変更」(WEG22 条 1 項)ではなく、「秩序ある
管理」に該当し通常の管理(WEG21 条)として普通多数決議により決定することができる。こ
れは、
改正法 22 条 3 項による判例法理の明文化である。
ドイツでのこの改正法は、
わが国の 200227年改正法による大規模修繕工事等の「軽微変更」(費用の多寡を問題としない)の普通決議化
(区分所有法 17 条 1 項括弧書き)と同様の対応と言えよう。ただし、ドイツにおいては、修繕
措置が秩序ある管理といいうるためには、費用と資金調達の双方が秩序をもって決められてい
る必要があり、経済性が要請される。この要請がみたされていれば、費用のかかる完全な近代
化(Sanierung)や部分的近代化、さらには臨時的措置も、たとえそれらが共同財産の本質への
影響
(Eingriff)
を伴うものであっても秩序ある修繕と評価しうるという
(本編第2章2-1参
照)。
もうひとつは、「現代化(のための変更または特別の出費)」である。共同財産の維持・修
繕を超える建築上の変更または特別の出費であっても、共同財産の現代化または今日の技術水
準への適合を図る措置については、特別多数決による決議(WEG22 条 2 項)することができる
(「現代化」の基準は、BGB559 条 1 項(賃貸借法)の意味における「現代化」の概念により、
これには、使用価値の向上に資する措置、居住関係の継続的な改善に資する措置およびエネル
ギーおよび水の節約のための措置が含まれる)。具体的には、自転車置場の設置、オートロッ
クシステムとインターホンの設置、エレベーターの取り付け、一重の窓ガラスを断熱ガラスに
交換すること等が挙げられる。これに対し、住居施設の特性に変更を加えるものは、本項にい
う「現代化」には当たらず、WEG22 条 1 項の措置として同項に定める手続に従う。「現代化」
に当たらない措置としては、例えば、温室の増設、建物部分の取壊しまたは増築を伴う措置、
過剰(贅沢)な修繕、非居住用の貯蔵室を住居に改修する、広い緑地を駐車場にする、個人の
ベランダにガラス窓を取り付けることにより全体の印象を悪化させること等が挙げられている
(本編第2章2-2(2)参照)。
「現代化のための修繕」(WEG22 条 3 項)、「現代化(のための変更または特別の出費)」
(WEG22 条 2 項)および「建築上の変更」(WEG22 条 1 項)については、制度上、それらの
一般的な概念上の区別がなされている(本編第2章2-2(3)参照)。その運用面におい
ては、管理者が当該事項を集会決議に諮る際に重要な役割を担っているところ、ホイブライン
教授によると、管理者の適切な運用により、実際上、集会における混乱はほとんど生じていな
いが、若干の紛争ないし裁判例はあるという。また、運用上問題となる点として、「現代化(の
ための変更または特別の出費)」(WEG22 条 2 項)について、少なからず、必要な多数決要件
(全区分所有者の 4 分 3 以上)が、集会への出席または議決権行使について満たされないため
に、充足されないことにあるという(本編第3章2-1、2-2参照)。ただ、経年区分所
有建物の維持・管理については、一般的には適正になされ、うまく行われているとのことであ
る(同1-5参照)。
(3)管理費滞納者への住居所有権の剥奪
住居所有権法 18 条は、
住居所有権者が管理費等を滞納し、
かつその額が住居所有権の価
格の 100 分の 3 を超えるときは、重大な義務違反として、住居所有権者の共同体は、集会
における普通決議(住居所有権者の過半数)により、当該住居所有権を剥奪することがで
きると定めている。この規定は、前述のように、「秩序ある管理」が住居所有権者の義務
(義務的権利)であり、かつ、そのためにはそれに足りる資金が不可欠であることから導
かれる規定であり、着目すべきは、管理費等の滞納を理由とする住居所有権の剥奪のため
の要件を明確化している点である。
ただ、
住居所有権の剥奪に至るまでの運用については、28慎重な配慮がなされているという(本編第3章3参照)。
2.経年(老朽)区分所有建物の建替え・解消の実績等
特別多数決議による建替えや解消が存在しないドイツにおいて、区分所有建物につき区
分所有者全員の合意による建替えや解消についての実績が示す正式な統計的デ-タは存在
しないようである。ただ、ホイブライン教授によると、「私が知るところでは、災害や老
朽化を理由として、建物を取壊して、新たに再建した区分所有者の団体はない。もしドイ
ツでこのような事例があるとすれば、
それは所有権者が 2〜3 人の比較的小規模な施設であ
ろう。さもなければ、きわめて稀である。この件につき、私から複数の不動産団体に問い
合わせを行ったが、同趣旨の回答であった。なお、未だ返答がない団体もある。」(本編
第4章1-1参照)。
また、解消についても、「建物の滅失もしくは荒廃(Baufälligkeit)を理由とする解消
という事態を、私は知らない。住居所有権の解消は、実務上もきわめて稀である。私が
知っている事例としては、敷地が現物分割される場合(二世帯建物もしくは長屋方式の
場合のみ)か、若しくは全住戸が一人の所有権者に帰属していて、この所有権者が区分
所有権を廃止し、土地の所有者となる場合である(3 戸からなる建物について、この事
例を ESW-Deutschland の代表者により聞いた。)」(本編第4章1-2参照)。
以上のように経年(老朽)区分所有建物について、建替えや解消の実績が皆無に等しい
のは、決して、これらが全員一致によってのみ可能であり、制度上特別多数決議によるこ
とを認めないからではなく、そもそも大多数の区分所有者にとってこれらに対する需要が
存在しないことが理由であると考えられる。すなわち、ホイブライン教授の回答を総合す
ると、再建される建物に対する建築(容積)上の規制の問題もあるが、多大の費用負担を
してまで建て替えることの利益に乏しく、または、そもそもそのような費用負担には耐え
らない、また、解消したところで今以上に有利な住居を取得することはできないといった
理由があるものと考えられる(本編第4章3-1参照)。
なお、修繕が滞っている建物も存在するが、それが「荒廃」に至っている例はごく稀で
あり、それについては行政法規により対応がはかられるとのことであった(本編第4章3
-2参照)。
3.区分所有建物の滅失の場合と経年(老朽化)の場合の対応
(1)区分所有建物の滅失の場合の対応
ドイツにおいては、例外的ではあるが、後記のように、区分所有の解消制度(または再
建制度)がある。
区分所有建物がその建物の価格の 2 分の 1 を超えて滅失した場合(大規模一部滅失また
は全部滅失の場合。なお、滅失と損傷とは区分されない。)には、まず、その損害が保険
その他の方法によってその損害の全部が填補されるときには、復旧(大規模一部滅失の場
合)または再建(全部滅失の場合)が当然に義務づけられると解されている。次に、この
場合に、その損害が保険その他の方法によって全部ではないが一部が填補されることによ
って建物の価格の 2 分の 1 以下の滅失の状況に至った場合には、WEG21 条 3 項・4 項によ
り、復旧または再建の普通決議またはそれらの請求が可能である(日本法においては、以29上のような理解はなされていないと思われる)。以上においては、大規模一部滅失の場合
の復旧と全部滅失の場合の再建とは特に区別されていないものと思われる。なお、復旧や
再建にあたり
「建築上の変更」
を伴う場合には、
特別多数決議を要すると解されている(本編第2章3-1、3-2参照)。
区分所有建物がその建物の価格の 2 分の 1 を超えて滅失した場合(大規模一部滅失また
は全部滅失の場合)に、その損害が保険その他の方法により填補されないときには、住居
所有権者は、
復旧または再建の決議をすることはできず、
また請求をすることはできない。
ただし、規約に定めがあるときには、共同関係の廃止を、普通多数決議によって、または
区分所有者の請求によって行うことができる(WEG11 条 1 項)。ホイブライン教授によ
ると、実際上このような規約の定めが多くなされているとのことである。ただ、学説上は、
このような規約が存在しない場合でも、同様な決議または請求が可能であると解されてい
る(本編第2章3-3、第4章2参照)。
以上のように、ドイツの法制は、大規模一部滅失のときには復旧または建替えを、全部
滅失のときには被災マンション法により再建を、それぞれ特別多数決議によって認める日
本の法制とは大きく異なっている。
いずれにしろ、地震による建物の滅失・損壊が皆無と言えるドイツにおいては、建物価
格の 2 分の 1 を超える滅失・損壊は、実際上はきわめて稀な事態である。
(2)区分所有建物の経年(老朽化)の場合の対応
滅失した場合とは異なり、区分所有建物が建築後相当な期間が経過して老朽化した場合
には、少なくとも現在の法制においては、多数決議による再建(建替え)や解消の制度は
存在せず、基本的に「非解消性の原則」が採られている(WEG11 条 1 項)。すなわち、
ここにおいては、前記1での「区分所有建物の半永続的維持・管理」の原則が貫かれるこ
とになる。
この点について、すでに第4章4に掲げた筆者の質問(【質問9】)に対するホイブラ
イン教授の回答の一部を再録し、また、ホイブライン教授に対して筆者が最後に行った未
掲の質問とその回答を、本編の「結び」として掲げておこう。なお、後者の質問は、本報
告書第3編においてやはり最後に収録したとおり、フランスの住宅担当者に対して行った
ものと同一の質問である。
前掲【質問9】の【回答】(一部再論)
私の経験からすれば、たいていの共同体は、不動産の永続的な、時間的に期間を設け
ない存続を可能とするべく、保存措置を実施するよう努力している。これは、旧東ドイ
ツ(DDR)の鉄筋コンクリートプレハブ住宅についても同じである。前記の統計に示さ
れているように、ドイツにおける全住居単位の 15 パーセントが、100 年以上を経過した
建物内に存在する。さらに 15 パーセントが、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に建
設されている。それでも古い不動産の数字がそれほど高くないのは、特に第二次世界大
戦による壊滅が理由であろう。私は、使用期間を 30 年ないし 40 年と考えて所有権を取
得している建物の例を知らない。このような事態は、ドイツの不動産市場においても考
え難いものである。30【質問】荒廃には至らなくても、老朽化していく区分所有建物が、ドイツでも日本でも
近い将来、または遠い将来、発生していくと考えられる中で、そのような区分所有建物に
対する法制のあり方が問題となると思います。それでは、ドイツでは、法制のあり方とし
て、基本的に、区分所有建物をできるだけ長期(例えば 100 年以上)にわたり存続させて
いく方が望ましく、また現実的でもあるとお考えですか、それとも比較的早い時期(たと
えば 40 年〜50 年以内)に解消や建替えをして対処する方が望ましいとお考えですか。
【回答】日本と異なりドイツは、自然災害に関して言えば、今のところは比較的に静
かであるといえる大陸の上に位置している。また、公法上の建築法規の要件は、私の印
象からすれば、他の国と比較して厳格である。ドイツでは長期間の耐久性を持つ建物が
好まれるから法規の要件が厳格であるのか、それとも法規の要件が厳格であるから建物
が長くもつのか、私が断言することはできない。おそらく、双方が建築の質に寄与して
いるのであろう。
今のところ、40 年から 50 年で建替えを必要とする住宅用建物は、その不安定さから
市場では受容されないと考える。このことは、特に自己で住宅を使用し所有する者の場
合に妥当しよう。住居所有権法(WEG)が想定する典型的な所有者像は、このような
自己で住宅を使用し所有する者であり、単なる投資家よりもこれらが重要な役割を演じ
る。WEG の制定にあたっては、ドイツでは(オーストリアも同様であるが)、一戸建住
宅や多世帯住宅全体を購入する資力のない者の所有が想定されていた。このような層に
対し、「自己の四方の壁を所有する」ことを促すため、第二次大戦後の復興の時代に、
オーストリアでは 1948 年に、ドイツでは 1950 年に「住居所有権」制度が創設された。
両国においては、すでに 19 世紀に、所謂階層所有権がすでに廃止されていた。今日にお
いても、一般に、いわば der kleine Mann 〔富も権力もない小市民〕と呼ばれる人々
が、多くの住居所有権を所有している。これらの人々にとって、住居所有権は、しばし
ばその最大の財産を形成するのである。住居は、住宅需要を満足させるのみならず、遺
産としてこれを残すという目的を備えた資産形成であることも珍しくない。
したがって、私は、ドイツの「不動産文化」は、建物の寿命を 100 年もしくはそれ以
上と捉えており、より短いインターバルで建替えや解消を行うものではないと考えてい
る。
ホイブライン教授によって示された上の 2 つの【回答】は、単に、ドイツの区分所有法
研究をこれから主導的に担うと考えられる研究者の見解としてだけではなく、上記のドイ
ツ法制における「区分所有建物の半永続的維持・管理の原則」(換言すれば「区分所有関
係非解消性の原則」)の根底にある考え方であり、また、ドイツの区分所有建物に係わる
実務および区分所有者一般の意識をも代弁するものであると考えることができよう。31第3編 フランス
〈細目次〉
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ
1.本編の内容と構成
2.現地調査(ヒアリング調査)の実施先
3.フランスの区分所有集合住宅(マンション)に関する基礎データ
第2章 区分所有建物法制の概要
1.はじめに
2.フランス区分所有法の沿革
3.区分所有不動産の管理
4.区分所有建物の修繕・改良・復旧(再建)・解消等
第3章 経年(老朽化)区分所有建物に対する措置の実態
――住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答等
1.修繕及び改良の実態等
2.建替え及び解消の実態等
第4章 荒廃区分所有建物に関する法制度の概要
1.65 年法における荒廃区分所有建物の機能回復のための規定
2.荒廃前区分所有建物
3.荒廃区分所有建物の機能回復手続
4.荒廃区分所有建物の出現防止のための諸規定
5.建設・住居法典における荒廃区分所有建物の機能回復に関する法制度
第5章 荒廃区分所有建物制度の実態
――住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答等
1.荒廃区分所有建物制度の運用状況
2.建築・住居法典における措置の運用状況
第6章 結 語
1.フランスにおける区分所有法制の基本的な考え方
2.経年区分所有建物の「老朽化」と「荒廃化」
3.「荒廃区分所有建物」制度の基本的な枠組みと同制度の運用状況
4.フランスの経年区分所有建物に対する考え方
本編末資料
建築不動産の区分所有の規則を定める法律
(1965 年 7 月 10 日法律第 557 号)
(65 年法)33第1章 本編の内容・構成及び基礎データ
1.本編の内容と構成
本編は、フランスにおける区分所有建物に関する法制について、特に経年(老朽化)区
分所有建物に対する法的措置(維持・修繕、改良、建替えおよび解消等)を中心に、その
制度内容を明らかにすると共に同制度の運用状況について明らかにすることを目的とす
る。
制度内容についての調査については、
平成 22 年度の調査研究結果を踏まえることから、
本編では、同調査研究結果報告書の基本的部分を改訂して再録しつつ、その後の改正点等
を含めて大幅に加筆をした。また、本編末のフランス区分所有法〔1965 年法〕についても、
その後の改正を盛り込んだ上で改訂して再録した。
フランスの経年(老朽化)区分所有建物に関する法制度の特徴は、ひとつには、わが国
におけるような特別多数決議による建替え制度が他のヨーロッパ大陸法や英米法と同様に
存在せず、また、特別多数決議による解消制度もわが国や他のヨーロッパ大陸法と同様に
存在しない点にある(「特別多数決議による建替えや解消の制度の不存在」)。もうひと
つは、比較法的に見て最も先端的と思える「荒廃区分所有建物措置制度」を有している点
である。同制度は、民事法である区分所有法〔1965 年法〕と行政法である住宅・建築法と
に跨っており、両者が連携して同制度を展開していく構造になっている。
そこで、本編に係る調査研究においては、以上の 2 点について取り扱った。まず、前者
については、経年(老朽化)区分所有建物についての建替えや解消の制度を有しないフラ
ンスの法制において、第 1 に、建物の維持についてどのような修繕や改良の制度があるか
を、その前提となる区分所有建物の管理を踏まえて確認した上で(本編第2章)、その運
用の状況を現地でのヒアリングを通じて調査した(本編第3章1)。なお、その前提とし
ての区分所有建物の築年数等に関する統計資料の調査も行った(本編第1章3)。第 2 に、
建替えや解消に関しては、区分所有者全員の合意によるこれらの実績がどの程度存在する
のか、また、仮にこれらの実績がほとんどないとした場合の理由やこれらについての考え
方等について同じく現地でのヒアリングを通じて調査した(本編第3章2)。
後者については、荒廃区分所有建物に関する制度についての関係法令を比較的詳細に調
査しつつ整理し(本編第4章)、その上で同制度の運用状況について現地でのヒアリング
を通じて明らかにすることにした(本編第5章)。
以上の点を踏まえて、わが国の法制との比較を行い、フランスの制度をわが国において
参考にしたり導入したりする場合の課題や問題点等について検討を行った
(本編第6章)。2.現地調査(ヒアリング調査)の実施先
フランスでの現地調査(精通者に対するヒアリングによる調査)は、吉井啓子・明治大
学法学部教授(民法、フランス法)及び寺尾仁・新潟大学工学部准教授(都市法、フラン
ス法)の協力を得て、平成 25 年 1 月 22 日から同 26 日までの間において、次の 4 機関に対
して実施した。
・フランス法務省・民事局(担当者:同民事局長 Laurent VALLEE 氏)
・フランス住宅担当省・住宅局(担当者:同局次長 Philippe MAZENC 氏)34・全国住宅事業団(ANAH)(担当者:事務局長 Alain de QUERO 氏)
・全国不動産協会(FNAIM)(担当者:法務コンサルタント Laurence PINET 氏)
以上のうち、全国住宅事業団は、フランスの区分所有集合住宅等の改良等のために技術
面及び金銭面で助成をする公的団体であり、全国不動産協会は、フランスの不動産取引お
よび不動産管理等を行う業者(区分所有集合住宅の管理者を含む)が加盟する最大規模の
団体である。なお、上記現地調査を行った 3 名は、2011 年 12 月にパリ第 2 大学のペルネ
=マンケ教授に対するヒアリングおよび同教授との意見交換を行った(鎌野邦樹=吉井啓
子=舟橋哲=寺尾仁「フランスの区分所有法制について-ペルネ=マルケ教授(パリ第 2
大学)に聞く」土地総合研究 20 巻 2 号 1 頁(2012 年)参照)、本編においてはその結果
も取り入れている。
3.フランスの区分所有集合住宅(マンション)に関する基礎データ
フランスの区分所有建物法制を概観する前に、区分所有建物のうち統計的な基礎データ
が調っている区分所有集合住宅(日本でいうマンション)についての基本的なデータを見
ておくことにする。
3-1.区分所有集合住宅の戸数
『2006 年全国住宅調査における区分所有住宅 Les logements en copropriété dans l’Enquête
Nationale Logement 2006』(全国住居事業団、2011。の 2006 年全国住宅調査
(http://www.anah.fr/les-publications/les-etudes/vue-detaillee/article/les-logem
ents-en-copropriete-dans-lenquete-nationale-logement-2006.html)によれば、主たる
住宅の 25%、すなわち 660 万戸の住宅は「区分所有等住宅」である。そして、次に掲げる
表のとおり、この「区分所有等住宅」のうち、10%の住宅は団地を構成している戸建て住
宅であり、集合住宅とは異なる。以下の調査では、この少数の戸建ての住宅団地は、統計
分析の面でも対策事業の面でも特定の取組みを必要とするのでここでは除く。
したがって、
「区分所有等住宅」の約 90%を占める約 598 万 1,000 戸の区分所有集合住宅(住宅用途の
区分所有建物=マンション)について分析を行なう。
住居形式および所有権による主たる住宅の分類
単独所有住宅 区分所有等住宅 その他* 主たる住宅合計
集合住宅 5,182,838 5,981,304 325,546 11,489,688
戸建て住宅 14,040,600 643,818 105,714 14,790,132
主たる住宅合計
(戸数)
19,223,438 6,625,122 431,259 26,279,819
主たる住宅合計にお
ける比率(%)
73.1 25.1 1.6 100
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立経済統計研究所
*その他:高齢者住宅、農場および農業用建物、ホテルの部屋、臨時建物および仮設住
宅、居住用以外の集合建物内住宅353-2.区分所有集合住宅の建設時期
2006 年時点で存在する区分所有集合住宅(下記の出典では、「民間区分所有集合住宅」
との表記の統計であるが、
これは、
上記の
「区分所有集合住宅」
とほぼ同じと考えてよい。)の建築された時期ごとの割合は、次の表のとおりである。
民間区分所有集合住宅の建設時期ごとの分布
(単位:%)
1915年
より前
1915年
-1948年
1949年
-1974年
1975年
-1996年
1997年
-2002年
2003年
-2006年
民間区分所
有集合住宅
16.2 11.6 38.1 23.8 6.2 4.3
主たる住宅
合計
17.2 13.4 30.5 27.8 6.9 4.2
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立経済統計研究所
同表によると、2006 年時点で存在する区分所有集合住宅において、第 2 次世界大戦後の
1949 年から 1974 年の間に建築されたものが最も多く(38%)、それは、この時期に建築
された住宅全体の割合(30.8%)を上回っている。したがって、2006 年時点に存在する区
分所有集合住宅の約 40%は、建築後 32 年から 57 年を経過したものである。そして、これ
らの建物は、2013 年の時点においてもそのほぼ全てが存続していると推測できるので、現
時点においては建築後 39 年から 64 年を経過したものである。
また、
2006 年時点で存在する区分所有集合住宅において、
1948 年以前に建築された区分
所有集合建物の割合は 27.8%(約 3 割)であるので、これらは当時で 58 年以上、(上と
同様に考えると)現時点で 65 年以上経過している。なお、これらのうち、過半(16.2%)
は、1915 年より前に建築されたものなので、2006 当時で 91 年以上、(上と同様に考える
と)現時点で 98 年以上経過している。
3-3.区分所有集合住宅の規模
区分所有集合住宅の建築時期および建築規模ごとの分布は下記のとおりであるが、これ
によると、次のことが言える。
建物の規模は区分所有住宅の建設時期によって変化するが、小規模建物(20 戸未満のも
の)の中にある住宅の約 70%は、1975 年より前に建築されたものである。他方、中規模ま
たは大規模建物(50 戸以上のもの)の約 90%は、1949 年以降のものである。そのうち、
大規模建物(100 戸以上)の半数以上は、1949 年から 1974 年の間に建設されたものである
(戦後復興の局面では、これらの大規模建物は、区分所有ストックの 8%に当たる。1974
年以降、
すべての調査時点において、
大規模建物は区分所有住宅の 5%から 6%を占める)。なお、区分所有集合住宅ストックにおいて、建物の規模ごとの分布は、同住宅ストック
の 52%は 20 戸未満の建物、31%は 20 戸から 49 戸の建物、11%は 50 戸から 99 戸の建物、
5%は 100 戸以上の建物の中にある。36民間区分所有住宅の建設時期および建物規模ごとの分布建設時期
建物規模 合計
20戸未満 20戸-49戸 50戸-99戸 100戸以上
住宅戸数 % 住宅戸数 % 住宅戸数 % 住宅戸数 % 住宅戸数 %
1915年
より前
697,744 23.4 174,390 9.9 30,465 4.8 5,998 2.0 908,597 16.0
1915年
-1948年
479,195 16.1 131,295 7.4 29,089 4.6 19,464 6.5 659,043 11.6
1949年
-1974年
974,560 32.7 710,976 40.2 310,943 49.1 164,619 55.0 2,161,098 38.1
1975年
-1996年
561,761 18.9 509,979 28.9 205,665 32.4 74,459 24.9 1,351,864 23.8
1997年
-2002年
144,124 4.8 146,581 8.3 39,658 6.3 20,969 7.0 351,332 6.2
2003年
-2006年
119,806 4.0 93,899 5.3 17,982 2.8 13,545 4.5 245,232 4.3
合計 2,977,188 100.0 1,767,119 100.0 633,803 100.0 299,054 100.0 5,677,164 100.0
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立経済統計研究所37第2章 区分所有建物法制の概要
1.はじめに*1現在のフランス民法典は、区分所有(copropriété)に関する規定を 1 カ条も置いていな
い。区分所有については、民法典の外で、建築不動産の区分所有の地位を定める 1965 年 7
月 10 日の法律第 557 号(以下 65 年法と呼ぶ)、および 1965 年 7 月 10 日の法律第 557 号
の適用のための施行令を定める 1967 年 3 月 15 日のデクレ第 223 号
(以下 67 年デクレと呼
ぶ)が詳細な規定を置いている。そして、65 年法および 67 年デクレに関連法規をあわせ
たものが、「区分所有法典(Code de la copropriété)」として出版されている。
フランスでは、日本と同様、各区分所有者が一棟の建物の各住戸部分を単独所有しその
他の建物部分および敷地利用権を共有する制度を採用している。65 年法は、区分所有関係
の開始に関する特別な規定を有しておらず、同法の適用対象についてのみ定めている。同
法 1 条 1 項は、その適用対象につき、「そその所有が専有部分(partie privative)及び
共用部分(partie commune)の持分(quote-part)を含む区分(lot)によって数人の
者の間で配分されるすべての建築不動産(immeuble bâti )又は建築不動産群(groupe
des immeubles bâtis)」とする。フランスにおいては、建物が存する土地を、土地上の建
物と一体の、一個の不動産として建築不動産(immeuble bâti)と呼ぶ。建築不動産が数個
の専属的使用に充てられる部分(専有部分)に区分され、かつ全員または一部の使用収益
に充てられる部分(共用部分)を含む場合に、建物の区分所有関係が生じることになる。
65 年法上、専有部分とは「特定の区分所有者の排他的使用に充てられる建物および土地の
部分」(2 条)であり、共用部分とは「区分所有者の全員またはそのうちの数人の使用また
は便益に充てられる建物部分および土地部分」(3 条)であり、我が国の区分所有法のよ
うに構造上の独立性と機能上の独立性は区別の基準となっていない。65 年法 3 条 2 項は、
証書に明示されない場合、または矛盾がある場合に、共用部分とされるものを列挙してい
る(敷地、中庭、庭園、通路など)。区分所有者の意思(規約)により、共用部分は変更
可能である。なお、一筆の土地上に存する区分所有建物が一棟ではなく複数棟ある場合に
も、建築不動産群(groupe des immeubles bâtis)として 65 年法の適用を受ける。一筆の
土地上に区分建物のほか、戸建住宅が建っている場合や空地部分を含む場合にも、不動産
*1 フランスの区分所有法については、本報告書のほか、小沼進一『建物区分所有の法理』(1992 年、法
律文化社)、吉井啓子「フランス区分所有法の概要」土地総合研究 20 巻1号1頁(2012 年)、鎌野邦樹
=吉井啓子=舟橋哲=寺尾仁「フランスの区分所有法制について-ペルネ=マルケ教授(パリ第2大学)
に聞く」土地総合研究 20 巻2号1頁(2012 年)、寺尾仁「フランスにおける荒廃区分所有建物の現況と
最近の政策の動向(上)・(中)」土地総合研究 20 巻3号 1 頁・4号1頁(2012 年)を参照のこと。基
本的な仏語文献としては、次の2冊をあげておく。François Givoud,Claude Giverdon,Pierre Capoulade,
La copropriété, 7e éd., 2010, Dalloz.- Ciril Sabatié, Copropriété, 21e éd., 2011, Editions Delmas.38集合体=団地(ensemble immobilier)として、反対の合意のない限り 65 年法の適用対象
となる(65 年法 1 条 2 項)。
区分所有者は、建物に対して区分所有権(droit de copropriété)を有するが、その権
利の対象は「区分(lot)」であるとされる。区分とは、単に専有部分である建物の住戸部
分のみを指すのではなく、共用部分および共用部分に付属する権利の持分を含むものとさ
れ、区分所有者の権利の対象を包括的に把握する抽象的な概念である。
2.フランス区分所有法の沿革
2-1.区分所有法制定の背景
1804 年民法典の草案には、
個人所有権を重視する革命期の思想を反映し区分所有に関す
る条文はなかったが、リヨンとグルノーブルの控訴裁判所の判決がきっかけとなって、区
分所有に関する条文 1 カ条(旧 664 条)が民法典に挿入された。同条の規定は以下のとお
りである。
「ある一つの家のそれぞれの階が異なる所有者に帰属する場合に、所有権の権原証書
(titres)が修理、再築の方法について何も取り決めていないとき、それら〔修理、再築〕
は以下のようになされなければならない。大きな壁と屋根は、すべての所有者の負担によ
り〔行われ〕、各所有者は自らが有する階の価値に応じた負担を負う。各階の所有者は、
自らが歩く床を作る。1 階〔日本式では 2 階〕の所有者は、自らの階へつながる階段を作
る。2 階〔日本式で 3 階〕の所有者は、1 階〔日本式で 3 階〕から自らの階へつながる階段
を作る。以下も同様とする。」
これだけでは明らかに不十分ではあったが、一部の都市を除いて区分所有建物の例が少
なかったこともあり、区分所有建物に関する詳細な規定は置かれないままの状態が長らく
続いた。その後、二度の大戦による都市の荒廃や住宅難などの要因から、1920 年代に区分
所有建物が大幅に増加すると、所有や管理に関する詳細な規定の整備が求められるように
なり、1938 年に最初の立法(アパルトマンに区分された不動産の共同所有の規則を定める
1938 年 6 月 28 日の法律、以下 38 年法と呼ぶ)がなされ、民法旧 664 条は削除された。
38 年法は、区分所有に関するルールを初めて定めた。一つの不動産について専有部分と
共用部分の区別を設け、区分所有不動産の管理を目的とする団体を規定し、その規約によ
り区分所有関係は規律されるものとした。しかし、38 年法の条文数は少なく(制定当初は
8 カ条)、規定の内容も硬直的で、様々なケースに対応できるものではなかった。しかも、
多くの条文が任意規定とされ区分所有者間の合意に委ねられる事項が多かったことから紛
争解決基準としての実効性に欠けるとの指摘がなされ、
1965 年には、
38 年法を廃止して現
行の区分所有法である 65 年法が制定された。65 年法は、区分所有者の総会(assemblée
générale)における議決要件に関する規定など多くの規定を強行規定としている。
2-2.その後の改正
1966 年には、
共用部分の 2 分の 1 を超える持分を保有する区分所有者が議決権を濫用す
ることを防止するため、そのような区分所有者が有する議決権は、他の区分所有者の議決
権の総和に縮減されることが新たに定められた。さらに、1979 年には、区分所有者の共用
部分の持分の変更や、
共用部分を譲渡した場合の代金の配当などに関する改正が行われた。391980 年代に入ると、管理組合(syndicat des copropriétaires)の運営に関して、区分
所有者総会において単純過半数か全員一致かという二者択一の議決が十分機能せず、建物
の修繕や近代化のための工事を進められないという問題が生じたため、
1985 年および 1986
年の改正では、区分所有不動産の管理の改善のため、新たに、議決権の 3 分の 2 の多数決
による議決要件が導入された。管理者(syndic)のずさんな管理(特に会計管理)により
区分所有者が損害を被ることや、管理費不払いが深刻化するなどの事情により管理組合の
運営の困難化も問題となっていたため、管理者の職務の明確化、会計処理などの監督体制
の整備および管理業務の適正な引継ぎなどに関する規定も導入された。さらに、1994 年に
は、より総会決議を容易化するための新たな議決要件が定められるとともに、通常管理以
外の工事にかかる各区分所有者の負担は、民法典の不動産特別先取特権によって担保され
ることが定められた。さらには、
財政的な理由から荒廃してしまった区分所有不動産に仮管
理者(administrateur provisoire)を置くことによって適正な管理状態を回復するための
制度も、この改正で創設された(詳細は詳述)。
2000 年代に入ると、
市街地の連帯と再生に関する 2000 年 12 月 13 日の法律第 1208 号が、
荒廃区分所有建物の管理について仮管理者の権限を強化するとともに、管理について必要
な場合に司法および行政が連携すること、また、団地を形成している建物のうちの 1 棟が
荒廃状態に陥ったような場合にその管理を容易にするため、荒廃した建物を他から分離し
て別個の区分所有不動産とすることができることなどを定めた*2。また、管理組合が、高
齢者である居住者に食事の提供、監視、援助、娯楽の提供などを行う「居住サービス
(résidence-services)」に関する規定も設けられた(ただし、通常のマンション管理組合
がこれらの事業を行うのではなく、
有料老人ホームが区分所有法の対象に組み込まれた)。さらに、2006 年改正により、総会において、人および財産に損害を与えることを予防する
ため共用部分につき実施すべき工事、すなわち区分所有不動産の安全に関する工事につい
ては、区分所有者の過半数で議決できることになった(65 年法 25 条 n 号)。改正前は、
区分所有者の過半数かつ議決権の 3 分の 2 でなければ、同様の工事について議決できなか
ったが、
改正により、
より容易に共用部分に関して必要な工事を実施できることになった。
2009 年には、
区分所有不動産の荒廃を避けるための予防的措置を内容とする改正も行われ
ている(詳細は後述)。
3.区分所有不動産の管理
3-1.管理組合
65 年法は、区分所有者全員で構成される管理組合を区分所有不動産の管理主体とし、そ
の総会に管理組合の意思決定機関という位置づけを与えて、区分所有者全員による団体的
な管理の仕組みを構築している。65 年法は、区分所有者は全員で法人格を有する管理組合
(syndicat de copropriété)を形成するものと規定しており(14 条 1 項)、管理組合は、
*2 不動産が数個の建物を含み、かつ、敷地所有権の分割が可能であるときは、当該建物の1個または数
個を構成する区画の所有者は、特別の集会を開催し、65 年法 25 条の特別多数決により、当該1個または
数個の建物で別個の区分所有不動産を形成することが可能である(65 年法 28 条1項)。40いかなる公示をも必要とせず、区分所有関係が生じると直ちに法人格を取得できる。この
点は、
日本との大きな違いであり、
フランスにおける他の法人にも見られない特徴である。
管理組合は、訴訟能力を認められており、原告あるいは被告として裁判上行為することが
でき、区分所有者の一部と共同して、あるいは単独でも訴訟を行うことができる。また、
65 年法 27 条は、一つの区分所有不動産が、複数の不動産を含む場合、特別多数決(25 条)
によって二次的管理組合(syndicat secondaire)を結成することができると定めて、単一
の管理組合が大規模な区分所有不動産に含まれる個々の建物を管理する際の不都合を回避
する。二次的管理組合も、当然に法人格を付与される。
管理組合は、管理に必要な区分所有規約(règlement de copropriété)を作り(65 年法
14 条 3 項)、不動産の保存および共用部分の管理を行うとともに(同条 4 項)、不動産の
瑕疵または共用部分の管理によって区分所有者または第三者に生じた損害について責任を
負う。
なお、区分所有不動産の管理が協同組合方式の管理組合(syndicat coopératif、65 年
法 17 条の 1)に任される場合は、後述の管理組合理事会が義務的に設置され、管理組合理
事会構成員(21 条 5 項所定の区分所有者)から管理者が選任される。もっとも、このよう
な方式の管理組合の例は少ないとされる(全体の数%程度)*3。
3-2.総会
区分所有者の総会の権限は、会計および予算の承認、工事の許可および実施、管理者の
選任および管理組合理事会メンバーの選任、区分所有規約の変更、裁判手続の開始、管理
にかかる人件費決定など、区分所有に関する重要事項の全般に及ぶ。総会は少なくとも年
1 回開催され、予算についての審議を含む通常総会と緊急の場合に開催される臨時総会が
ある。招集は原則として管理者が行うが(67 年デクレ 7 条)、管理者が招集を行わない場
合には管理組合理事会会長が(同デクレ 8 条)、管理組合理事会会長が招集を行わない場
合には、区分所有者の請求により大審裁判所長が招集できるとされる(同デクレ 50 条)。
各区分所有者は、共用部分におけるその持分に相応する数の議決権を有する(65 年法
22 条 2 項)。
議決要件は法定されており、規約で変更することはできない。65 年法では、決議すべき
内容に応じて、以下の 4 種の議決要件が定められている。
1単純多数決(24 条)-出席または代表された(委任状が提出された)議決権の過半数
2絶対的多数決(25 条)-すべての区分所有者の議決権の過半数
3二重多数決(26 条 1 項)-総議決権の 3 分の 2 でかつ区分所有者の過半数
4全員一致(26 条 2・3 項)
各議決要件を必要とする事項にはどのようなものがあるかにつきここでは詳述はしない
が(後掲の条文訳を参照のこと。修繕・改善に関する事項については4-1で紹介する)
*3 協同組合方式の管理組合については、前出・鎌野=吉井=舟橋=寺尾「フランスの区分所有法制につ
いて-ペルネ=マルケ教授(パリ第2大学)に聞く」参照。41*4
、フランスにおいては、 1980 年代から、区分所有者の管理に対する無関心、費用負担に
対する抵抗などが原因で、総会が開催できなかったり、開催できたとしても工事に関する
議決ができなかったりして、良好な建物の維持管理に影響しかねない状況が生じていた。
そこで、総会の議決要件を緩和し、事項ごとに細かく議決要件を定めることで、建物の維
持管理に必要な各種の決議が容易にできるよう法改正が進められてきたという経緯があ
る。
3-3.管理者
総会決議の執行は、管理者に委ねられている(65 年法 17 条)。組合の決議は、区分所
有者の総会において行なう。その執行は、管理者に委ねられる。管理者は、総会にお
いて 65 年法 25 条の多数決で選任される。管理者は、管理組合理事会(conseil
syndical)が組織されていれば、その監督下におかれる。
フランスにおける区分所有不動産の管理の特徴は、管理者には、通常、不動産管理の専
門業者が就任することであろう。管理業務が複雑化している現在においては、このような
専門業者による管理が望ましいとも思えるが、それでも、適切な管理業者の選定と監督、
管理組合と管理者間の調整、管理費の滞納の増加など、問題は山積しているようである。
管理者に付与された権限は、規約に定められた事項および総会決議の執行、契約、建物
の管理・保全に必要な作業の実施、会計計算書・予算書の作成と総会への提出、必要な要
員の雇用・解雇、訴訟などにおける管理組合の代表などであり(65 年法 18 条 1 項に列挙さ
れている)、これらの事項について、管理者は、委任契約に基づく受任者となり、報酬を
受領し、その管理につき区分所有者に報告・説明する義務を負う。管理者は、他の者を代
置することができないものとされる(65 年法 18 条 2 項)。また、管理組合に対しては受
任者として管理上の過失につき責任を負い、
区分所有者らに対しては不法行為責任を負う。
3-4.管理組合理事会
管理組合理事会は、管理者の管理業務執行を補佐監督する機関として、
すべての管理組合
において設置することとされている(65 年法 21 条 1 項)。ただし、総会決議によって管
理組合理事会を置かない旨を決議することもできる(同条 9 項、協同組合方式の場合を除
く)。
管理組合理事会は、通常複数名の構成委員からなるが、監督者としての公正さを確保す
るため、65 年法は、その資格について消極的要件を定めており、管理者および管理者の親
族や事務担当者などは構成員となることができないとする(65 年法 21 条 6 項)。管理組
合理事会の職務は、管理者の補佐監督のほか、管理者・総会から意見を求められた事項や
自ら取り上げた組合に関する一切の問題について意見を述べることであり、意見陳述の資
料として、区分所有不動産の管理に関する一切の書類について、管理者からの提出を受け
ることができる。管理者と管理組合理事会は全く別個の存在であり、日本のように理事会
*4 Sabatié, Copropriété, no
43.25 には、各議決要件を必要とする事項が一覧表で示されており参考と
なる。42の代表者(理事長)が管理者となることはなく、理事会が区分所有不動産の管理において
中心的役割を果たすことはないのである。
4.区分所有建物の修繕・改良・復旧(再建)・解消等
4-1.修繕・改良
管理組合は、共用部分の管理を行い、共用部分さらには共用設備(エレベーターや暖房
施設など)の良好な状態を維持しなければならない。管理組合は、共用部分の管理の不備
により、
区分所有者または第三者が被った損害を賠償する責任を負う
(65 年法 14 条 4 項)。これに対して、管理者は区分所有建物の維持のための工事(travaux de maintenance,
travaux d’entretien)を行う義務を負うが(65 年法 18 条)、緊急の場合を除いて、工
事の実施の決定は総会の決議によらなければならない。維持のための工事は、毎年議決さ
れる予算の中に組み込まれており、管理者のイニシアチブによってなされる。これに対
し、他の工事は、総会において、その都度議決されなければならない。議決は、原則と
して、単純多数決によるが(24 条、出席または代表された議決権の過半数)、一定の場合
には、65 年法 25 条の多数決(全ての区分所有者の議決権の過半数)または 26 条の多数
決(総議決権の 3 分の 2 でかつ区分所有者の過半数)が要求される。65 年法 30 条の改良
工事(travaux d’amélioration)は、既に存在する共用部分や共用設備の増加をもたら
すような工事である。このような工事については、総会で 26 条 1 項の二重多数決(総議
決権の 3 分の 2 でかつ区分所有者の過半数)での賛成を必要とする。
物理的には改良の性質を有しているが、その工事が不動産に、例えば居住性そして居
住者の利益またエネルギーの節約の観点から、集団にとって一定の利益をもたらすよう
な改善を与える場合には、
65 年法 25 条の多数決で議決できる。
エネルギーの節約のため
または温室ガス削減のための工事、住宅を衛生・安全基準に適合させるための共用部分
への配管の設置や住宅の改善に関する 1967 年 7 月 12 日法 1 条を適用するための規定に
定められた設備の設置工事などである。
なお、2006 年法 91 条 1 項により、総会において、人および財産に損害を与えることを
予防するため共用部分につき実施すべき工事、すなわち区分所有建物の安全に関する工事
については、区分所有者の過半数で議決できることになった(65 年法 25 条 n 号)。改正
前は、総議決権の 3 分の 2 でかつ区分所有者の過半数(65 年法 26 条 1 項の二重多数決)
でなければ、同様の工事につき議決できなかったが、改正により、より容易に共用部分に
関して必要な工事を実施できることとなった。安全に関する工事とは、例えば、区分所有
者以外の者が容易に建物内に入らないようにするためのドアの工事や監視カメラの設置で
ある。通常、これらは「改良」のための工事と考えられ、26 条で定める決議要件に従うと
考えられるが、
今日では、
「人又は財への危害を予防するための共用部分についての工事」
として 25 条の過半数決議で可能である。
4-2.復旧(再建)・解消
フランスには、多数決による老朽化建替え制度や区分所有関係の解消制度はない。65 年
法には「再築(reconstruction)」と題する章〔第4節 38 条以下〕が置かれているが、
これは建物損壊の場合に関する規定である。すなわち、38 条は、区分所有建物の全部また43は一部の損壊
(destruction)
の場合には、
被災建物を構成する区分の区分所有者の総会は、
区分所有者の議決権の多数によってその建物の再築または被害部分の原状回復
(remise en
état)を決議することができるとする。損壊が建物の 2 分の 1 未満にかかわる場合には、
原状回復は、被災区分所有者の多数がそれを請求する場合には、義務的である。しかし、
この規定が適用されることはきわめてまれである。38 条の「損壊」は、その原因を制限す
る規定がないため経年劣化(老朽化)によるものも含まれると考えられるが、それはきわ
めてまれであるとされる*5。いずれにせよ、この規定自体ほとんど用いられておらず、判
例・裁判例もほとんどない。
*5 前出・鎌野=吉井=舟橋=寺尾「フランスの区分所有法制について-ペルネ=マルケ教授(パリ第2
大学)に聞く」のペリネ=マルネ教授の発言を参照のこと。44第3章 経年(老朽化)区分所有建物に対する措置の実態
――住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答等
1.修繕・改良の実態等
現地調査においては、
フランスの法制の下での区分所有建物の修繕ないし改良に関して、
次の 7 つの質問を事前に文書にて行い、住宅担当省およびANAHより、現地ヒアリング
調査当日に文書ないし口頭で以下のような回答を得た。
1-1.住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答
(1)共用部分の修繕・改良のための合意形成のための手続の実態
【質問1】区分所有建物の共用部分の修繕については、実際上、管理者、管理組合理事
会、管理組合理事会会長、および集会において、どのような手続のもとに合意形成がはか
られ、実施されるのか。実際上の発案者または主導者はだれか、またはどの機関か。改良
についてはどうか。
1) Comment sont les procédés pour les travaux de conservation à effectuer sur
les parties communes et pour ses réalisations? Qui prend l’initiative de ces travaux ?
Le syndic ? Le conseil syndical ? Le chef du conseil syndical ? Ou bien l’assemblée
générale ? Nous voudrions savoir le procédé général pour obtenir un accord des
copropriétaires.
Nous voudrions aussi savoir les procédés pour les travaux d’amélioration.
【回答】住宅担当省: 建物の保存工事(les travaux de conservation)は、日常的で
何度も繰り返しなされる維持工事(les travaux de maintenance)、共用部分と共用設
備についてのより重大な修繕工事(les travaux d’entretien et de réfection)を含
んでいる。維持工事は、毎年議決される予算の中に組み込まれており、管理者のイニシ
アチブによってなされる。これに対し、他の工事は、総会において、その都度議決され
なければならない。維持工事については、1967 年 3 月 17 日デクレ 45 条に規定されてい
る。:「...〔45 条省略〕」
共用部分についてのより重大な修繕工事は管理組合の権限に属しており、総会におい
て 1965 年法 24 条の単純過半数(出席または代表された議決権の過半数)により決定され
る。管理者は、総会の開催通知とともに、〔区分所有者に〕工事を請け負う企業の計画
または契約を知らせなければならない。法 21 条 1 項〔2 項の誤り?〕は、以下のように
規定している:総会は、25 条の規定する多数決で、管理組合理事会への諮問が義務付け
られている契約の総額を決定する:同じ多数決で、競争入札が義務付けられている契約
の総額を決定する。
法 30 条の改良工事は、既に存在する共用部分や共用設備の増加をもたらす:既に存在45している設備の一つまたは複数の要素の変更、新しい要素の付加、共同使用に充てられ
た場所の改良、共同使用を目的とする場所の創設。それらの工事については、総会で 26
条の二重多数決
(総議決権の 3 分の 2 でかつ区分所有者の過半数)
での賛成を必要とする。
一定の場合には、25 条の多数決による(全ての区分所有者の議決権の過半数):一定の
工事については、物理的には改良の性質を有しているが、その工事が不動産に、例えば
居住性そして居住者の利益またエネルギーの節約の観点から、集団にとって一定の利益
をもたらすような改善を与える場合には、法 25 条の多数決で議決できる:エネルギーの
節約のためまたは温室ガス削減のための工事(これらの工事には、専有部分についてそ
の専有部分の所有者の費用でする集団的利益のための工事を含み得る)、住宅を衛生・
安全基準に適合させるための共用部分への配管の設置や住宅の改善に関する 1967 年 7 月
12 日法 1 条を適用するための規定に定められた設備の設置:...〔具体的設備については
省略〕。
ANAH:区分所有者が、管理者または理事会に修繕の必要性を知らせる。総会が最終決定
する。管理者が、診断などを依頼、または直接に企業に見積もりをとる。総会で工事につ
き議決する。工事の種類により、それに応じた要件での議決が要求される。
(2)区分所有建物維持の責任の主体
【質問2】区分所有建物の共用部分を修繕して長期間にわたり建物等を維持していくこ
とは、各区分所有者または管理組合の義務と考えられているのか、それとも管理者の義務
と考えられているのか。あるいは、これについては、法的には、いずれの義務でもなく、
区分所有者が集会で決議するものとされるのか。なお、日本法では、法的には、いずれの
義務でもなく、区分所有者が集会で決議するものとされている。
2) Qui est responsable de la conservation de l’immeuble en effectuant les travaux
nécessaires des parties communes ? Chaque copropriétaire ? Le syndicat ? Le syndic ?
Ou personne n’est responsable de la conservation de l’immeuble (et les
copropriétaires décident les travaux par une décision de l’assemblée générale) ?
【回答】住宅担当省:管理組合のみが共用部分についての工事を行うことができる。管理
者は、欠くことのできない緊急の工事について行う権限がある。現在の法規は、区分所有
建物に一定の工事の履行を課している。〔それらについて、〕総会は、予定された工事の
実現条件を定めることができるだけである:企業の選択、費用の決定とその調達、工事方
法、工事期間。安全・衛生・清潔のため、場合によっては美的な理由のため(外壁工事の
場合)、公権力により定められた工事:設備装置のいくつかの要素(エレベータ、ガレー
ジの扉)を〔安全基準等に〕適合させるための工事。
ANAH :管理組合である。46(3)区分所有建物維持の懈怠に対する責任追及
【質問3】 区分所有建物の共用部分の長期間にわたり建物等を維持していくような修繕
がなされていなかった場合に、区分所有者は、管理者にそのような修繕を実施することを
請求することができるか。請求が可能であるとした場合に、その法的根拠は、1965 年法に
あるのか、
それとも 1967 年法デクレにあるのか、
または集会の決議か。
なお、
日本法では、
法的には、集会での決議であるとされている。
3) Est-ce que chaque copropriétaire peut demander les travaux des parties communes
nécessaires pour la conservation de l’immeuble au syndic, lorsque les travaux des
parties communes nécessaires pour la conservation de l’immeuble ne sont pas faits?
Si c’est possible, par quel article de la loi de 1965 (ou du décret d’application
du 17 mars 1967) ? Il faut une décision de l’assemblée générale pour cela ? (C
’est le cas du Japon.)
【回答】住宅担当省:区分所有者は、例外的な場合には、共用部分についての工事を自ら
行うことができる。専有部分に大きな損害がもたらされるのを防ぐための緊急の工事...。
このようわけで、区分所有者は、裁判官により、自らの費用で、建物の劣化による避け
られない危険を回避するため、鑑定人が認めた工事を行うことを許可される。
ANAH :区分所有者の総会である。
(4)老朽化に伴う共用部分等の改良等工事の具体的状況
【質問4】老朽化に伴う改良については、一般的にどのような改良が考えられ、実際に
なされているか。建物の増築や減築、エコロジー対応、高齢者・身障者対応等が考えられ
るが、このような改良はどの程度なされているか。
【回答】この点については、上記機関から示された 2006 年の国立経済統計研究所の「全
国住宅統計調査」等を参照にして、関連する情報も含め、以下のような統計データを得た。
1)区分所有建物の工事の実施状況
過去 12 カ月の間に住宅内の工事実施率
(単位:住宅数中の%)
所有者の住む民間
集合住宅
持家居住者の住宅全体 主たる住宅
住宅数 2,912,712 15,038,999 26,279,819
工事実施 30.7 36.1 27.8
工事実施せず 69.3 63.9 72.2
合計 100.0 100.0 100.0
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立経済統計研究所47全国住宅調査に表される工事の申告については、次の点について注意を払うことが求め
られる。すなわち、持家居住者は、住宅内部と同じく自らが共有者である共用部分につい
ても、すべての工事を申告する。賃借人は、住宅内部で自分の費用で行なった工事のみを
申告することである。
上掲の表にあるように、区分所有集合住宅の居住者が過去 12 カ月間に実施した工事
(30.7%)は、フランス全体の主たる住宅における工事の平均値 27.8%よりやや高い。しか
し、持家居住者全体が工事を実施した率に比べると、5.4 ポイント低い。この差は、低所
得の区分所有居住者に注目するとさらに広がる。低所得の区分所有集住宅の居住者では、
下掲の表のとおり、過去 12 カ月の間に工事を実施した者は 20%に過ぎない。
住宅の占有形態別の過去 12 ヶ月の工事
実施率(%)
主たる住宅全体 28
持家居住者 36
民間集合住宅 22
内所有者 31
内低所得者 20
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立
経済統計研究所
2)区分所有建物の工事の内容
区分所有集合住宅において、どのような修繕ないし改良工事が実際になされているのか
について、他の形態の住宅と比較しつつ示したのが次の表である。
実施された主な工事の種別*
(単位:住宅数中の%)
区分所有者が居住する
民間区分所有集合住宅
持家居住者の住宅
全体
主たる住宅
住宅数 2,912,712 15,038,999 26,279,819
ペンキ塗り(天井を含む) 11.0 9.4 9.3
壁紙 5.1 6.2 6.8
床 5.8 5.9 4.2
住宅全体の修繕・大改修 5.2 6.4 4.3
衛生・洗面・水道機器 4.4 3.6 3.0
外側窓戸 4.1 6.5 3.9
台所 2.7 2.2 1.5
浴室設置 2.6 2.4 1.6
絨毯、ビニールタイル 1.1 0.8 1.3
内側窓戸 1.5 1.8 1.348ガス・電気・ケーブル設置 1.4 1.5 1.0
戸別集中暖房 1.3 2.5 1.4
断熱 1.1 2.8 1.9
インテリア 1.0 1.7 1.1
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立経済統計研究所
*施工された上位 14 の「工事種別」
上の表を見ると、集合住宅と戸建て住宅との施工した工事の種別ごとの割合は、断熱工
事を除いて、全世帯が実施した工事種別とほとんど変わらない。集中暖房工事および外側
窓戸工事についての実施割合の差は、これらの建物の構造の差から生じたものと考えられ
る。
3)区分所有建物の実施工事の費用
区分所有者によって行なわれた工事の費用額は年間平均 5,400 ユーロであり、住宅所有
者全体の年間平均工事費用額 7,800 ユーロより 30%程低い。フランス全体の全住宅世帯の
年間平均工事費用額 6,100 ユーロよりも下回る。
下記の表は、区分所有集合住宅等の工事に要した費用別の割合である。区分所有者が工
事実施のために使った金額と全住宅世帯が使った金額とを比較すると、区分所有者が
「中規模」、すなわち 1,000 ユーロから 2,500 ユーロ未満と 2,500 ユーロから 10,000 ユ
ーロ未満の工事については、その割合が高い。これに対して、きわめて少額(500 ユー
ロ未満)な工事ときわめて高額(10,000 ユーロ以上)な工事は、区分所有者よりも全住
宅世帯の方が多い。
実施された工事の費用
(単位:住宅数中の%)
区分所有者が居住する
民間区分所有集合住宅
持家居住者の住宅
全体
主たる住宅
工事を実施した住宅数 894,544 5,427,215 7,319,364
500ユーロ未満 16.1 12.0 23.9
500〜999ユーロ 13.4 9.4 11.8
1,000〜2,499ユーロ 22.8 21.1 18.8
2,500〜9,999ユーロ 33.9 36.4 29.4
10,000ユーロ以上 13.8 21.1 16.2
合計 100 100 100
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立経済統計研究所
4)区分所有建物の修繕・改良工事の目的
次の表は、区分所有集合住宅等が修繕ないし改良工事を行う目的(動機)についての割
合を示したものである。49工事を実施する動機づけ
(単位:%)
区分所有者が居住する民
間区分所有集合住宅
持家居住者の
住宅全体
主たる住宅
工事を実施した住宅数 894,544 5,427,215 7,319,364
美しく、より快適、住み心地をよく
するため
57.8 51.5 57.2
老朽化あるいは不潔 27.2 23.6 23.3
住宅全体の修繕・大改修 16.3 16.7 14.7
光熱費を削減、暖房を改善するため 13.2 20.4 16.1
住宅の仕上げを確実にするため 10.4 12.7 10.8
衛生あるいは健康上の理由のため 5.1 3.8 4.1
安全性を改善するため 5.5 6.6 5.4
騒音を防ぐため 5.8 4.9 3.8
すきま風を防ぐため 5.0 5.7 4.9
湿気対策のため 2.1 4.9 5.2
増築するため 2.0 6.4 5.1
技術診断あるいは技術検査に基づい
て住宅を基準に適合させるため
1.8 1.6 1.3
出典:2006 年全国住宅統計調査、国立経済統計研究所
*複数回答可
上の表を見ると、工事を実施した動機の最大のものは、建物を美しくすることである。
区分所有者とそれ以外の住宅世帯とで顕著な差が生じたのは、光熱費を減らすという目的
の割合である。工事を実施した戸建て所有者が、20.4%がこれを動機として挙げたのに対
して、区分所有者では 13.2%であった。なお、この目的を除くと、区分所有集合住宅にお
いても、老朽化と修繕・大改修とを 2 番目、3 番目の動機付けとして挙げていることは注
目に値する。すなわち、戸建て住宅と同程度に、区分所有集合住宅の所有者も、「わが家」
として、これらの点に関心かあるということであると理解できる。しかし、問題は、この
表からは当然ながら除外されている工事を実施していない区分所有集合住宅についてであ
る。
(5)共用部分等の修繕・改良等の実施状況と管理費等の滞納状況
【質問5】実際上、一般的に、フランスでは、区分所有建物の共用部分の修繕や改良が
適切に行われていると考えてよいか。それらのための資金の獲得について、区分所有者の
管理費・修繕費の滞納の点で問題が生じていないか。
5) Est-ce qu’on peut considérer que la conservation et l’amélioration des parties
communes sont bien organisées et appropriées pour la plupart des immeubles en50copropriété en France ? Pour obtenir un fonds nécessaire pour les travaux, est-ce
qu’
il n’
y a pas de problème (par exemple le retardement dans le payement des charges) ?
【回答】住宅担当省:1980 年代まで、フランスにおける区分所有建物はどちらかと言え
ば良い状態を保っていた。
1960〜1970 年代に建設された団地における社会問題が社会住宅
の賃貸借分野で蓄積された。これらの社会的問題は、これらの団地内に位置していた区分
所有建物にも広がっていった。もともとの居住者であった所有者の多くがこれらの団地を
離れ、一層収入の少ない所有者達が彼らに取って替わった。中程度の質だった建物は急速
に劣化したが、新しい入居者達の収入の少なさが原因で工事はできなかった。
...〔一部省略〕共用部分や共用設備の維持・保存のための工事に対する特別な蓄えに関
する議決はほとんどなされないため、工事資金の義務的積立が検討されている。
ANAH :85〜90%の区分所有建物ではうまく行っている。後半の質問については、その通
りで、問題が生じている。しかし、多くの場合は、管理者の熱心さで問題に対応できる。
(6)管理費滞納に対する法的強制措置の実施状況
【質問6】一般的に管理費や修繕費は毎月支払われるのか。そうだとして、実際上、管理
者は、一般的に、管理費が何か月ぐらい滞納したら、1965 年法 19 条 1 項に基づいて、当
該区分所有者に催告し、支払がない場合に法定抵当権の登記をするのか。1 回でも滞納し
たら、そうするのか。
6) En général, les copropriétaires paient les charges de gestion et de travaux
par mois ? Si c’est le cas, pendant combien de mois en général le syndic attend
le payement des charges avant de faire notifier au copropriétaire une mise en demeure
et de faire une inscription de l’hypothèque par l’article 19 l’alinéa 1er de la
loi de 1965 ?
【回答】住宅担当省:原則は、むしろ 4 半期ごとである(1965 年法 14-1 条)。区分所
有者の総会は、他の支払時期を決めることができる(例えば、月ごと)。支払遅滞に対す
る対応の期間に関する統計は持っていない。
ANAH :支払いは、4 半期ごとである。
(7)区分所有建物の存続期間の目安
【質問7】一般的に、フランスでは、建替えではなく、現在の区分所有建物を修繕や改
良をすることによってどのくらいの年数にわたり維持しようと考えているのか。50 年か、
70 年か、100 年以上か、または、長期間、維持しようという意識はないか。なお、日本で
は、一概に言えないが、30 年から 40 年程度と考えている管理組合も少なからずある。
7) En France, en général, combien d’années est la durée moyenne de vie d’un
immeuble en copropriété ? De 50 ans? De 70 ans? Ou bien plus de cent ans? Quant
au Japon, il y a un certain nombre de syndicats qui la considèrent des 30 aux 4051ans.
【回答】住宅担当省:区分所有建物の平均的な寿命というのは存在しない。フランスに
おいて、
区分所有建物の半数以上は 60 年以上前に建てられたものである。
建物の寿命は建
築した日ではなく、何よりもまず建築時における建物の質による。40 年以下の築年数の建
物は、60 年以上前に建てられたものより質が悪い。
ANAH:様々である。統計的に見れば、大修繕工事が行われるまでに 50 年から 100 年が経
過しているであろうか。
1-2.修繕・改良に関する法制度と実態についての小括
以下では、フランスの区分所有建物の修繕や改良について、区分所有法制および実状等
に関するヒアリング調査を踏まえて、以上で見てきた事項のうち、(1)〜(3)の 3 点
について、日本との比較を念頭にまとめておこう。
(1)修繕・改良(「変更」)と改良(「変更」)のための決議要件の緩和
区分所有法(1965 年法)およびその適用の実状を尋ねた前掲(質問1)の住宅担当相の
回答によると、管理者は区分所有建物の維持のための工事(travaux de maintenance,
travaux d’entretien)を行う義務を負うが(65 年法 18 条)、緊急の場合を除いて、工
事の実施の決定は総会の決議によらなければならず、維持のための工事は、毎年議決され
る予算の中に組み込まれており管理者のイニシアチブ(集会決議の執行)によってなさ
れる。これに対し、他の工事は、総会において、その都度議決されなければならない。
以上の点は、日本(およびドイツや韓国などの諸外国)の法制と基本的に異なるところ
はない(イギリスやアメリカとは異なる)。
他方、区分所有法で定める多数決議のあり方は日本法とは異なる。すなわち、原則とし
ての1単純多数決議(24 条、出席または代表された議決権の過半数)と、一定の場合の、
265 年法 25 条の多数決議
(全ての区分所有者の議決権の過半数)および326 条の多数決
議(総議決権の 3 分の 2 以上でかつ区分所有者の過半数)がある。
共用部分についての重大な修繕工事(大規模修繕工事)は、1の単純過半数(出席ま
たは代表された議決権の過半数)により決定される。これに対して、既に存在する共用部
分や共用設備の増加をもたらすような工事である 65 年法 30 条の改良工事(travaux d’
amélioration)
は、
3の二重多数決
(総議決権の 3 分の 2 以上でかつ区分所有者の過半数)
での賛成を必要とする。以上の 2 点は、決議の成立要件こそ異なるが、日本の区分所有
法 17 条 1 項で定める共用部分の変更に関する「変更一般」と「軽微変更」(同項括弧書
き)に対応するものと理解することができよう。
以上に対して、日本法と異なる点は、フランス法が、物理的には改良の性質を有してい
るが、その工事が不動産に、例えば、安全性などの居住者の利益またはエネルギーの節
約の観点から、集団にとって一定の利益をもたらすような改善を与える場合には、「改
良」(「変更」)に関する一般の決議要件である3の要件を緩和して、2の多数決で議
決できるとしている点である。次の掲げる区分所有法 25 条(区分所有法全体の翻訳は本
編末に掲載)は、その緩和した議決権で決議ができる事項を数多く定めている。エネルギ52ーの節約のための、または温室ガス削減のための工事(同条 g))や、住宅を衛生・安全
基準に適合させるため住宅の改善に関する 1967 年 7 月 12 日法 1 条を適用するための規
定に定められた設備の設置工事(同条 h)などが挙げられている。最後の項目は、わが国
において、既存の基準は満たしているが現行の耐震基準を満たしていない区分所有建物に
ついて、その基準を満たすために行う共用部分の「変更」に該当する改良工事について、
特別に決議要件の緩和を認めるといった立法を検討するに際して参考するに値すると思わ
れる。
また、同条 b)については、例えば、特定の区分所有者が、自己の専有部分に通じる共用
部分について、(行政による補助金等をも利用して)自己の費用負担で、例えば車椅子対
応の改良(「共用部分の変更」)工事を実施しようとする場合において参考とになろう。
さらに、区分所有建物における暴力団対策ないし犯罪防止対策との関連で警察との連携を
考える場合に、同条 k)の規定も参考に値する。
第 25 条〔特別多数決〕
以下の事項に関する決議は、すべての区分所有者の議決権の多数によってでなければ議
決できない。
a)第 24 条に掲げる決定の 1 つを採択するすべての権限の委任
b)共用部分又は不動産の外観 aspect extérieur にかかわる工事で、不動産の用途に合
致するものを自己の費用で実施することについて一定の区分所有者に与えられる許可
c)1 人又は数人の管理者及び管理組合理事会の構成員の選任又は解任
d) 共用部分又は共用部分に付随する権利に関する処分行為が、
共通の庭地その他の地役
権の設定又は互有の権利の譲渡に関する義務のような法令上の義務から生ずるとき、
それらの行為が実行される条件を定めること
e)法令上の規定によって義務的とされる工事の実行及び施工の方法
f)一個又は数個の専有部分の使用の変更によって必要となる先の第 10 条第 1 項に掲げ
る負担の配分変更
g) 第 24 条に定める多数決に関わるものでない、省エネルギー又は温室ガス排出削減の
ための工事。これらの工事は、専有部分について関係する区分所有者の費用で行われ
る集団的利益のための工事を、当該区分所有者がそれまでの従前の年に同等の工事を
行ったことを証明できる状態にある場合を除いて含み得る。専有部分についての集団
的利益のための工事の実施のため、管理組合は、工事の受領まで請負工事の注文者と
しての権限を行使する。h)1967 年 7 月 12 日の住宅改良に関する法律第 561 号第 1 項の適用によって定める規定
によって定められる衛生、安全及び設備基準への住宅の適合を確保するための、共用
部分における配管工事、電線の被覆工事、壁体工事
i)衛生上の要請によるダストシュートの撤去
j)共用部分にかかわる集合アンテナ又は共用部分にかかる建物内部の電気通信網の設
置又は変更
k)共用部分への常時立入について警察及び国家警察に許可をあたえること
l) 私的な使用のための安全にアクセスできる駐車場における電気自動車又はハイブリ53ッド自動車の充電を可能にするための内部の電気設備、
又はこれらの自動車に個別に
電気を供給する内部の電気設備の設置又は改修
m) 個別水道メーターの設置
n) 人又は財への危害を予防するために共用部分について行われる工事
o) 熱エネルギーメーター又は暖房費用の分配盤の設置
p) 建築居住法典第 L.126 条の 1 の 1 に規定された要件で、共用部分の保護のための映像
を安全維持のためのサービスに送ることについての承認
(2)フランスにおける区分所有建物の維持・管理に関する実状と問題
ヒアリング調査
(法務省および不動産団体を含む)
を踏まえると
(前掲・質問5等参照)、フランスの区分所有建物の大半(85〜90%)のものは、適切に修繕や改良がなされている。
適切に修繕や改良がなされず、区分所有建物の維持・管理に問題が生じているのは、1960
〜1970 年代に建設された団地における区分所有建物(建築後 40 年を経過)においてであ
るという。ここにおいては、もともとの居住者であった所有者の多くがこれらの団地を離
れ、一層収入の少ない所有者達が彼らに替わって所有し居住するようになった結果、中程
度の質だった建物は急速に劣化したが、新しい入居者達の収入の少なさが原因で適切な工
事がなされていないという。なお、フランスでは、これまで共用部分や共用設備の維持・
保存のための工事に対する特別な資金(「修繕積立金」)に関する制度が実際上(取引な
いし管理の慣行上)十分には調っていないために、このような制度の創設が現在検討され
ているという。
(3)フランスにおける区分所有建物の「寿命」の考え方
ヒアリング調査全体(法務省および不動産団体を含む)を踏まえると(前掲・質問7等
参照)、フランスにおいては、区分所有建物の「平均的な寿命」というものは存在しない
と一般的に考えられており、
現存の区分所有建物の半数以上は 60 年以上前に建てられたも
のである。「建物の寿命」は、建築した日ではなく、何よりもまず建築時における建物の
質によるという。フランスでは、一般的に、40 年以下の築年数の建物は、60 年以上前に建
てられたものよりも質が悪い。
なお、統計的に見れば、大修繕工事(「建替え」ではない。)が行われるのは、建築し
てから 50 年から 100 年が経過してからとのことである。
2.建替え及び解消の実態等
前述のように、フランスでは、法制上、多数決(特別多数決議)による建替え制度
や解消制度はないが、区分所有者の全員合意による建替えや解消の実態があるかを調
査することとした。ここでも、これらに関して、次の 4 つの統計データに関する質問
と 5 つの理論上ないし実務上の質問を事前に文書にて行い、住宅担当省およびANA
Hより、現地ヒアリング調査当日に文書ないし口頭で以下のような回答を得た。なお、
荒廃区分所有建物法制に関しては、これらとは別に後掲の質問したので、以下の質問にお
いては、荒廃区分所有建物以外の区分所有建物を対象とした。542-1.実績等に関する住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答
(1)建替えの実績(件数)
【質問1】被災、老朽化、または再開発等によって、区分所有建物の建替え(従前の建
物を取り壊し、新たな建物を再建)がなされた件数はどれくらいか。統計データがあれば
提示いただき、統計データなければ推定としてどのくらいか。
1) Nous voudrions savoir le nombre des immeubles bâtis en copropriété qui sont
démolis et reconstruits en raison des sinistres, ou de la dégradation par les âges,
ou par le plan d’urbanisation. Si vous n’avez pas de statistiques, pourriez-vous
nous donner vos calculs ?
【回答】住宅担当省:被災、老朽化、または再開発等によって、建替えがなされた区分
所有建物の数は不明である。区分所有者の決定により取り壊され再建された区分所有建物
の数はきわめて少ないと思われる。区分所有建物の取壊しは、古い地区であろうと新しい
地区であろうと、ほぼ全てが都市計画の枠内で行われており、ほぼ全てが収用の方法によ
っている。
(2)老朽化を原因とする建替えの実績(件数)
【質問2】上の質問1の関連で、特に老朽化のみを原因とする建替えの件数はどれくら
いか。統計データがない場合の推定として、きわめて少ない、またはほぼ皆無と考えてよ
いか。例えばフランス全体で 0.1%未満と考えてよいか、または、多くても 50 件(50 棟)
程度と考えてよいか。なお、建替えのためには、フランス法では区分所有者全員の合意が
必要であると思われるが、日本法では区分所有者および議決権の 5 分の 4 以上の賛成があ
れば可能であるところ、現在まで約 180 件ほどである。
2) Nous voudrions surtot savoir le nombre des immeubles bâtis en copropriété qui
sont démolis et reconstruits en raison de la dégradation par les âges. Si vous n
’avez pas de statistiques, pourriez-vous nous donner vos calculs ? Est-ce qu’on
peut dire que peu d’immeubles bâtis en copropriété sont reconstruits en raison
de la dégradation par les âges (par exemples, moins de 0,1% des immeubles bâtis
en copropriété en France, ou environs cinquante immeubles tout au plus...) ? En France,
l’unanimité des copropriétaires est requise en principe pour la reconstruction
d’un immeuble bâti en copropriété. Quant au Japon, la reconstruction est devenue
possible par une décision à la majorité renforcée (les quatre cinquièmes des
copropriétaires et les quatre cinquièmes des copropriétaires des voix des
copropriétaires). Jusqu’à maintenant, il y a 180 exemples de la reconstruction.55【回答】住宅担当省:この点に関する統計は全くない。管理組合が区分所有建物の取壊
しを決定するのはまれである。この決定には区分所有者の全員一致の賛成が必要であり、
それは大変難しい。
区分所有建物の築年数は、
区分所有建物を取り壊す際の規準ではない。
フランスには大変古い区分所有建物(筆者注:何をもって「大変古い」としたかは不明。)
がある。2010 年において、これら 605,026 戸の区分所有建物のうち、251,602 戸は 1915
年以前に建築されたものであり(全体の 42%)、64,209 戸は 1915 年から 1949 年の間に建
築されたものである(全体の 11%)。築年数の古い区分所有の戸数は年を追って増加して
いるが、それは分離(scission)、特に区分所有への分割によるものである。2005 年では
1915 年前に建築されたのは 223,888 戸だったが、
2010 年はそれが 251,602 戸になっている。
ANAH:老朽化を理由として建て替えられた区分所有建物はほとんどない。築年数は、他
の要素も含めた規準の一つでしかない。
(3)解消の実績(件数)
【質問3】被災、老朽化、または再開発等によって、区分所有建物の解消(解消して建
物と敷地を売却して区分所有者間で売却代金を分配)がなされた件数はどれくらいか。デ
ータがあれば提示いただき、統計データがなければ推定としてどのくらいか。
1) Nous voudrions savoir le nombre des immeubles bâtis en copropriété dont les
syndicats ont procédé à la liquidation des droits dans la copropriété (c’est-à-dire
mettre la fin à la copropriété, vendre le terrain et distribuer le prix de vente
aux ex-copropriétaires) en raison des sinistres ou de la dégradation par les âges ?
Si vous n’avez pas de statistiques, pourriez-vous nous donner vos calculs ?
【回答】住宅担当省:数は大変少ないと思われる。区分所有関係を解消するには、区分
所有者の全員一致が必要である。
ANAH :統計データはない。推定もできない。
(4)老朽化を原因とする解消の実績(件数)
【質問4】上の質問3との関連で、特に老朽化のみを原因とする区分所有建物の解消の
件数はどれくらいか。統計データがない場合の推定として、きわめて少ない、または、ほ
ぼ皆無と考えてよいか。例えば、フランス全体で 0.1%未満と考えてよいか。または、多
くても 50 件(50 棟)程度と考えてよいか。なお、解消のためには、フランス法も日本法
と同様に区分所有者全員の合意が必要であると思われるが、日本法では、2011 年 3 月の東
日本大震災後の区分所有建物で 5 件あった。
4) Nous voudrions surtout savoir le nombre des immeubles bâtis en copropriété
dont les syndicats ont procédé à la liquidation des droits dans la copropriété (c
’est-à-dire mettre la fin à la copropriété, vendre le terrain et distribuer le
prix de vente aux ex-copropriétaires) en raison de la dégradation par les âges.
Si vous n’avez pas de statistiques, pourriez-vous nous donner vos calculs ? Est-ce56qu’
on peut dire que peu d’
immeubles bâtis en copropriété ont mis la fin à la copropriété
en raison de la dégradation par les âges ? En France, l’unanimité des copropriétaires
est requise en principe pour mettre la fin à la copropriété. Quant au Japon, il
y a cinq exemples après le grand tremblement de terre de Tohoku (le 11 mars 2011).
【回答】住宅担当省:区分所有建物の築年数は、区分所有関係の解消の規準とはならな
い。大変古い建物であっても、再築された建物や ZUP〔優先市街化区域〕の中で建築され
た建物より高い価値を有し得る。管理組合の清算の大部分は、仮管理下の荒廃区分所有建
物に関係する。
ANAH :大変まれな手続。直接的な公権力の介入(RHI など)または間接的な公権力の
介入(ZAC など)による場合に限定されよう。
2-2.理論等に関する住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答
以下では、区分所有集合住宅の「建替え」(日本法が有している。)や「解消」(アメ
リカ法が有している。)についてどのように考えるか等について、住宅担当省および全国
住宅事業団に対して質問をし、その回答を得た結果を示すことにする。なお、以下では、
便宜上、質問におけるフランス語の添付を省略する。
(1)老朽化を理由とする建替えの性格について
【質問1】老朽化を理由とする建替え(従前の建物を取り壊し、新たな建物を再建)は、
上記の建物の修繕や改良の延長と考えているのか、それとも、従前の建物の所有権を消滅
させ、建物を再建することで新たな所有権の対象を創設するという点で修繕や改良とは法
的には全く別のものと考えているのか。後者の考えから、フランス法では、建替えのため
には全員の合意が必要であると考えているのか。
【回答】住宅担当省:区分所有建物の取壊しの決定は、それが唯一の建物で構成されて
いれば〔複数棟から構成される区分所有でない場合〕、区分所有者の全員一致を必要とす
る。区分所有関係の終了を意味するからである。区分所有建物の取壊しは、区分所有関係
を消滅させる。再築は新しい区分所有関係を作り出す。この工事を保存・修繕工事と考え
ることはできない。
ANAH :否〔老朽化を理由とする建替えは、上記の建物の修繕や改良の延長と考えては
いない〕。後者の考え方は、フランス法の解決に近い。
(2)老朽化を理由とする建替え実績がない理由
【質問2】上記の質問2との関連で、老朽化を理由とする建替えの件数がほぼ皆無また
はきわめて少ないとしたら、その理由は何か。そもそもフランスではそのようなニーズが
ないのか、建替えのための資金の問題か、または当該場所にこだわらずに他に住宅を求め
る区分所有者が多いためか。将来的にはどう考えるべきか。
【回答】住宅担当省:区分所有建物の劣化は、築年数だけでなく、建築時に使用した建57築資材や、修繕工事に際して区分所有者が有する資金によることの方が多い。
ANAH :(無回答)。
(3)老朽化を理由とする建替え事例
【質問3】老朽化を理由とする(全員合意による)建替えの事例があったとして、その
内容を知っていたら、その背景または理由を教えて欲しい。
【回答】住宅担当省:築年数を理由とする区分所有建物の再築の例はない。しかし、公
権力により行われた区分所有建物の取壊しと再築の例はある。居住者にとって建物を危険
なものにする建物の様々な瑕疵を原因とする建替え例として、トゥールーズ近郊
Ramonville Saint Agne の« Les Floralies »という区分所有建物をあげることができる。
ANAH :フランスではほとんどない。
(4)老朽化を理由とする解消実績がない理由
【質問4】上記の質問4との関連で、老朽化を理由とする解消(解消して建物と敷地を
売却して区分所有者間で売却代金を分配)の件数がほぼ皆無またはきわめて少ないとした
ら、その理由は何か。そもそもフランスではそのようなニーズがないのか、解消後の売却
金の分配および移転先の問題か。将来的にはどう考えるべきか。
【回答】住宅担当省:全員一致が必要であるため、区分所有関係の終了を決議する管理
組合はほとんどない。
ANAH :フランスではない。
(5)老朽化を理由とする解消事例
【質問5】老朽化を理由とする(全員合意による)解消の事例があったとして、その内
容を知っていたら、その背景または理由を教えて欲しい。
【回答】住宅担当省:例がない。
ANAH :フランスではない。
2-3.建替え・解消に関する法制度と実態についての小括
フランスにおける区分所有建物(特に区分所有集合住宅=マンション)の法制度と実態
における建替えおよび解体・解消に関しては次の 3 点に要約することができよう。
(1)「損壊」のみを原因とする「原状回復」・「再築」制度と「解消」制度
前述のように、フランスには、多数決による老朽化建替え制度および区分所有関係の解
消制度はない。ただ、65 年法には「再築(reconstruction)」と題する章〔第4節 38 条
以下〕が置かれており、次のような規定を設けている(38 条および 41 条以外の規定につ
いては本編末参照)。
第 38 条〔再築、原状回復〕
全部又は一部の損壊 destruction の場合には、被災建物 bâtiment sinistré を構成する区
分の区分所有者の総会は、区分所有者の議決権の多数によって、その建物の再築58reconstruction 又は被害部分の原状回復 remise en état を決議することができる。損壊
が建物の 2 分の 1 未満にかかわる場合には、原状回復は、被災区分所有者の多数がそれを
請求する場合には、義務的である。損害を受けた建物の維持を分担する区分所有者は、同
一の割合及び同一の規則に従って、工事の支出を分担する義務を負う。
第 41 条〔原状回復をしない場合の補償〕
被災建物を原状に回復しない旨の決議が先の第 38 条に定める条件に従って行われる場
合には、区分所有上の権利の清算 liquidation des droits 及び区分所有者のうちその区分
が再築されない者への補償 indemnisation が行われる。
以上から、フランスにおける「建替え」および「解消」に係わる制度の枠組みについて
は、次のように整理できようか。
まず、38 条の「再築」をどのような脈絡で理解するか。「原状回復」または「再築」に
ついては、建物の「損壊」のみを原因とし、一部損壊の場合には「原状回復」(「復旧」)
を、全部損壊の場合には「再築」を多数決議によって行うことができる(38 条)。ここで
の多数決議の要件は普通決議の要件で足りるが、「再築」の原因を「建物全部」の「損壊」
のみに限定し、かつ、「原状回復」(「復旧」)としての「再築」に限定している点にお
いて、日本法の「建替え」の制度(区分所有法 62 条)および「再建」の制度(被災マンシ
ョン法 2 条・3 条)とは異なる(「建替え」においては、その原因および再建建物につい
ての限定はなく、「再建」においては再建建物についての限定はない)
。なお、38 条の「損
壊」は、その原因を制限する規定がないため経年劣化(老朽化)による「損壊」も含まれ
ると考えられるが、「再築」の決議が可能な「損壊」は、「建物全部」の「損壊」と解さ
れるので、通常はこのような損壊は考えられないと言えよう。
次に、建物が「損壊」したにもかかわらず、「原状回復」または「再築」しない旨の決
議がなされた場合には、41 条の規定するところにより、「解消」手続(清算ないし補償手
続)がなされる。これは、解消の原因を問わないアメリカの「解消」制度と異なると共に、
日本の被災マンション法の改正案(2013 年 3 月現在での改正要綱)における被災マンショ
ンの「解体」・「解体後の敷地の売却」・「解体後の再建」・「建物敷地売却」の各決議
の制度とも異なる。
(2)「建替え」ないし「解消」の実績
ヒアリング調査によると、まず、上で述べた区分所有法 38 条および 41 条で定める「損
壊」を原因とした「再建」ないし「解消」の実績はほとんどないとのことであり、同規定
が機能することはほとんどなく、判例・裁判例も皆無と言ってよい。
次に、区分所有者の全員合意による「建替え」や「解消」の実績についても、いわゆる
行政法令に基づく都市計画ないし公的収用を除いては、ほとんどないと言える。
(3)「老朽化」や「建替え」・「解消」の考え方等について
フランスにおいては、老朽化を理由とする建替え(従前の建物を取り壊し、新たな建物59を再建)は、建物の修繕や改良の延長ではなく、従前の建物の所有権を消滅させ(「区分
所有関係の終了」)、建物を再建することで新たな所有権の対象を創設するという点で、
修繕や改良とは法的には全く別のものと考えているために、建替えのためには全員の合意
が必要であると考えていると思われる。
そして、区分所有建物の老朽化・劣化は、築年数でなく、むしろ建築時に使用した建築
資材や修繕工事のために区分所有者が支出する資金によることの方が多いとのことから、
このような状態に至った場合に、上のような考えから「建替え」ないし「区分所有関係の
終了」については区分所有者の全員一致が必要であるため、これらを決議しようとする管
理組合はほとんど存在しないものと思われる。60第4章 荒廃区分所有建物に関する法制度の概要
1.65 年法における荒廃区分所有建物の機能回復のための規定
フランスにおいて、荒廃区分所有建物(copropriétés en difficulté)の数は、増加の
傾向にあるとされる*6。フランスにおいて、荒廃区分所有建物への対応が問題となり始め
たのは 1990 年代に入ってからである。
そこでは、
区分所有不動産やその設備自体の物的荒
廃とともに、管理組合の機能不全などに伴う管理上の荒廃、さらには居住者の貧困化や空
き家の増加といった社会経済上の荒廃の解消が問題となった。区分所有不動産の荒廃解消
のため 65 年法にも、1994 年 7 月 21 日の法律第 624 号(以下 94 年法と呼ぶ)により、荒
廃区分所有建物に関する規定(29 条の 1 から 29 条の 4)が挿入されることになった。この
1994 年改正にあわせて、
67 年デクレにも、
荒廃区分所有建物の機能回復手続に関する規定
が挿入された(62 条の 1 から 62 条の 14)。
94 年法の目的は、管理組合の財政的な問題により荒廃状態に陥った区分所有不動産に、
荒廃解消のための適切な解決を提供し、当該区分所有不動産の正常の機能を回復させるこ
とであった。そのために、大審裁判所長(président du tribunal de grande instance)
が選任した仮管理者(administrateur provisoire)による荒廃区分所有建物の臨時管理制
度が創設された。この臨時管理制度は、管理組合の財政上の均衡が大きく悪化した場合ま
たは管理組合が不動産の保全にあたることが不可能である場合に開始される(65 年法 29
条の 1)*7。これらのいずれかの場合、管理者や区分所有者などは、大審裁判所長に、仮管
理者の選任を求めることができ、選任された仮管理者が荒廃区分所有建物の機能回復に努
めることになる。なお、94 年法以前は、管理組合に適用される特別な規定がないため、管
理組合は裁判上の整理(règlement judiciaire)または清算(liquidation)の対象になる
とする裁判例が見られた*8。しかし、94 年法改正で挿入された 65 年法 29 条の 6 により、
管理組合には、集団的債権決済手続(procédures collectives)に関する商法典の規定は
適用されないことが明確に規定された。
その後、市街地の連帯と再生に関する 2000 年 12 月 13 日の法律第 1208 号(以下 2000
年法と呼ぶ)により、65 年法の荒廃区分所有建物に関する規定について、以下の 3 点の改
*6 フランスにおける荒廃区分所有建物の現状については、寺尾仁=檜谷美恵子『〈調査研究報告書〉フ
ランスにおける荒廃区分所有建物の処分に関する法制度とその運用の研究-区分所有者間での合意が形
成できないマンションの処分の円滑化に向けて』(2008 年、財団法人第一住宅建設協会)のほか、前出
・寺尾仁「フランスにおける荒廃区分所有建物の現況と最近の政策の動向(上)・(中)」を参照のこと。
*7 94 年法改正前にも裁判所による仮管理者選任の規定はあったが、それは、管理者が個人的事情などに
よりやめたり、管理組合が管理者を置かなかったりして、管理者が不在となった場合に限られていた。
*8 なお、裁判上の整理手続は、1985 年1月 25 日の法律第 99 号(企業裁判更生・清算法)により、裁判
上の更生(redressement judiciaire)手続にとって代わられた。61正がなされた。
-管理者のすべての権限の仮管理者への委譲(29 条の 1)
-司法と行政の密接な連携(29 条の 5)
-荒廃区分所有建物の分離(29 条の 4)
この改正に伴い、2004 年 5 月 27 日のデクレ第 479 号が、67 年デクレを修正し、同デク
レに 62 条の 15(荒廃区分所有建物の分離に関する規定)を付加した。その後、さらに、
都心と市街地再生の方向付けとプログラム化に関する 2003 年 8 月 1 日の法律第 710 号によ
り、65 年法 29 条の 1 が修正され、仮管理者は第三者の補佐を受けることができることに
なった。また、2009 年には、区分所有不動産の荒廃を避けるための予防的措置を内容とす
る改正(荒廃前区分所有建物につき特別受任者を選任)も行われている
2.荒廃前区分所有建物(後掲の図1参照)
2-1.特別受任者の選任
2009 年法は、
65 年法の荒廃区分所有建物に関する款の冒頭に、
荒廃前区分所有建物に関
する 29 条の 1A と 29 条の 1B という新規定を挿入した。これらの規定により、区分所有建
物の荒廃を早い段階で食い止めることが目指されている。
29 条の 1A 第 1 項によれば、管理組合が財政的な困難に陥った場合、すなわち、会計年
度終了時に管理費などの未支払額が 65 年法 14 条の 1 および 14 条の 2 で規定されている予
算(budget prévisionnel)などの額の 25 パーセントに達する場合、管理者は、組合理事
会に伝えたうえで、不動産所在地の大審裁判所長に対して、特別受任者(mandataire adhoc)の選任を請求しなければならない。
会計年度終了から 1 月以内に管理者が何らの行動
も取らない場合には、
大審裁判所長は、
管理組合の議決権の少なくとも 15 パーセントを代
表する区分所有者の請求により、特別受任者を選任することができる(同条 2 項)。さら
に、管理組合の債権者も、特別受任者の選任を請求することができる。大審裁判所長は、
水道またはエネルギー(ガス、電気)の供給契約に基づく金銭、あるいは総会の議決に基
づいて実施された工事の費用が 6 月にわたって支払われておらず、かつ債権者が管理組合
に対してした弁済の催告が実効性のないものであった場合、債権者の請求により、急速審
理事件として裁判を行い、特別受任者を選任することができる(同条 3 項)。未払いの工
事費用に関しては、当該工事が総会の議決に基づくものでなければならず、管理者が実施
した工事では仮管理者選任を求めることはできない。また、当該工事は既に実施されたも
のでなければならない。
特別受任者の選任を請求した者は、当該区分所有建物が存在する県における国家の代表
者(représentant de l’État dans le département)、市町村長(maire de la commune)、
場合によっては住宅政策の権限を有する市町村間協力公施設法人(établissement public
de coopération intercommunale=EPCI)の長に、特別受任者の選任を求めたことを知らせ
る義務がある(同条 4 項)。この義務に違反した場合の制裁は規定されていないが、情報
を伝えることで、行政からの財政的な補助や代替住居提供などが期待できる。
大審裁判所長は、29 条の 1A に規定された特別受任者のための要件が満たされていると
判断すれば、管理者の請求による場合は、申請に基づく命令(ordonnance sur requête)
で特別受任者を選任する(29 条の 1A 第 1 項、29 条の 1B 第 1 項)。これに対して、区分62所有者または債権者の請求による場合は、大審裁判所長は、「急速審理事件として(comme
en matière référé)」裁判を行い、特別受任者を選任する(29 条の 1A 第 2 項・第 3 項、
29 条の 1B 第 1 項)*9。
2-2.特別受任者の任務
大審裁判所長の命令により、特別受任者の任務が定められる。特別受任者は、選任から
3 月以内に*10、大審裁判所長に、管理組合の財政状況、不動産の現況、管理組合が財政上
の均衡を回復するための提案、場合によっては建物の安全を保障するための提案や関係者
との斡旋(médiation)や交渉(négociation)の結果をまとめた報告書を提出することに
なる(29 条の 1B 第 3 項)。特別受任者の役割は、会計士としての役割にとどまらず、斡
旋者や交渉人としての役割にも及ぶ。
裁判所長は、特別受任者選任の命令において、手続費用(特別受任者の報酬、弁護士費
用、管理者の立替金など)について、管理組合に負担させるか、区分所有者らで分担させ
るかを明らかにする。債権者から特別受任者選任の請求があった場合は、費用は当該債権
者が負担する(同条 2 項)。
特別受任者により裁判所書記課に提出された報告書は、広く関係者に開示される。大審
裁判所書記課は、この報告書のコピーを、当該区分所有建物の管理者、管理組合理事会、
当該区分所有建物が存在する県における国家の代表者、市町村長、場合によっては住宅政
策の権限を有する市町村間協力公施設法人の長に送付する(同条 4 項)。この報告書を受
領した管理者は、この報告書の内容に基づき、必要な状況改善のための計画を、次の総会
(assemblée générale)で提案することになる(同条 5 項)。総会では、提案の内容によ
り必要とされる議決要件に従って状況を改善するための方策につき議決することになる。
もっとも、この総会を、一定の期間内に招集しなければならないとの規定は置かれていな
いため、例えば、管理者が報告書を受け取って 10 か月後に総会(定期総会)が開かれると
いうことも考えられる。この点に関しては、問題解決の遅れにつながるのではないかとの
指摘がある。
図1 荒廃前区分所有建物(65 年法 29 の 1A, 29 の 1B)
滞納額が予算の 25%以上 → 管理者等が大審裁判所長に対し特別受任者選任の申立て↓特別受任者 : 財政状況,不動産の現況,改善のための提案をまとめた提案を
↓ まとめた報告書を作成し提出
管理者:改善計画を総会に提出
*9 この点に関して、29 条の 1A と 29 条の 1B の間に、若干表現上の齟齬があることが指摘されている
(Givoud,Giverdon,Capoulade, op.cit., no
728-4)。
*10この期間は、大審裁判所長により、一度だけ更新されうる。633.荒廃区分所有建物の機能回復手続(後掲の図2参照)
3-1.目的
管理組合の機能不全により区分所有建物が荒廃状態に陥ったが既存の区分所有法の管理
に関する規定では対応できない場合に、仮管理者を選任することで区分所有建物の正常な
機能の回復を目指したのが 65 年法 29 条の 1 以下の規定である。このような規定を設けた
94 年法以前にも裁判所による仮管理者選任の規定はあったが、それは、管理者が個人的事
情などによりやめたり、管理組合が管理者を置かなかったりして、管理者が不在となった
場合に限られていた。
65 年法 29 条の 1 第 1 項は、管理組合の財政上の均衡が大きく悪化した場合または管理
組合が不動産の保全にあたることが不可能である場合、当該区分所有建物の所在地の大審
裁判所長は、関係者からの請求に基づき仮管理者を選任することができるとする。管理組
合が不動産の保全にあたることが不可能である場合には、保全のための工事が技術的に不
可能な場合だけではなく、区分所有者の総会で保全のために必要な工事が否決された場合
や、保全のための工事費用が負担できない場合なども含まれる。
3-2.仮管理者の選任
仮管理者の選任を請求できる者は、
管理組合の議決権の少なくとも 15 パーセントを代表
する区分所有者、管理者、大審裁判所検事正(共和国検事、procureur de la République)*11である(65 年法 29 条の 1 第 1 項)。
a.区分所有者
管理組合の議決権の少なくとも 15 パーセントを代表する区分所有者(一人または複数)
は、仮管理者の選任を請求することができる。
b.管理者
当該区分所有建物の管理者も、選任請求を正当化する文書を添えて、仮管理者選任を請
求することができる。選任請求につき総会の承認を得ていない場合、管理者は、請求前に、
必ず組合理事会に意見を求めなければならないとされる(67 年デクレ 62 条の 2 第 2 項)。
c.大審裁判所検事正
後述するように、大審裁判所検事正は、仮管理者選任の請求があった場合には、それを
必ず知らされる立場にあるが、自分自身でも大審裁判所長に対して仮管理者の選任請求を
することができる。
大審裁判所検事正は、
選任を求めるのに必要な議決権の 15 パーセント
を集めることができなかった区分所有者により、荒廃区分所有建物の存在についての情報
を得ることがある。その結果、大審裁判所検事正が仮管理者を選任する必要性ありと判断
した場合、検事正自身が、仮管理者選任が必要と思われる事実を示して、大審裁判所長に
仮管理者選任を求めることができる。請求がなされると、裁判所長は、執行吏証書(acte
d’huissier de justice)により、管理者により代表される管理組合に対し、決められた
*11 大審裁判所検事正は、各大審裁判所に 1 名配置されている検事局の代表者である。大審裁判所検事正
は、前述の荒廃前区分所有建物に関する特別受任者選任の際は登場しない。64期日に裁判所に出頭するよう命じることになる(67 年デクレ 62 条の 2 第 3 項)。
なお、仮管理者を選任しその任務を定める命令は、出されてから 1 か月以内に、仮管理
者により区分所有者に通知される(65 年法 29 条の 5 第 1 項)。また、この命令のコピー
は、大審裁判所検事正に渡される。大審裁判所検事正は、仮管理者の選任を、当該区分所
有建物の所在地の県知事と市町村長に知らせることになる(同条 2 項)。
3-3.仮管理者の任務
(1)法的地位
仮管理者は、その職業がいかなるものであろうと、一時的に、民事訴訟法典 719 条にお
ける意味での司法補助職(auxiliaire de justice)になると考えられる*12。65 年法に特
別な規定はないが、仮管理者は、原則として、裁判所選任の管理人(administrateur
judiciaire)の中から選ばれる。裁判所選任の管理人の任務については、1985 年 1 月 25
日の法律第 99 号(企業裁判上更生・清算法)に規定が置かれている。同法 1 条によれば、
裁判所選任の管理人は、判決により他人の財産を管理しそれらの財産の管理につき補助ま
たは監督を行うよう委任を受けた者である。同法 2 条によれば、裁判所選任の管理人は、
原則として、全国委員会(Commission nationale)が作成したリストに掲載されている者
の中から選ばれる。したがって、原則として、仮管理者もこのリスト中から選ばれる。
また、後述のように、管理者(syndic)の権限が全て付与されることから、仮管理者は、
裁判上および民事上の行為において管理組合を代表することになる。
(2)権限
仮管理者の権限および任期は、仮管理者を選任する命令により定められる(65 年法 29
条の 1 第 2 項、67 年デクレ 62 条の 5)。裁判所長は、職権により、何時でも、仮管理者、
一人または複数の区分所有者、
大審裁判所検事正の請求により、
仮管理者の任務を変更し、
任期を延長し、終了させることができる(65 年法 29 条の 1 第 3 項)。
仮管理者の任務は、当該区分所有建物が正常な機能を回復するのに必要な方策を講じる
ことである。大審裁判所長は、仮管理者に、管理者のすべての権限を付与する(65 年法 29
条の 1 第 2 項)。その場合、管理者と組合の間の委任契約は終了することになる。さらに、
大審裁判所長は、仮管理者に、その任務の遂行のため必要であれば、総会や組合理事会の
権限の全部または一部を付与することもできる(同条同項)。ただし、65 年法 26 条 a 号
および b 号に規定されている総会の権限は除かれる*13。総会と組合理事会は、仮管理者に
明白に与えられた以外の権限を保持し続ける。
仮管理者が総会の権限の全てまたは一部を付与された場合、仮管理者は、緊急の場合を
除いて、その任務のために必要と思われる決定をする前に、組合理事会に意見を求めなけ
ればならない(67 年デクレ 62 条の 7 第 1 項)。仮管理者は、何らかの決定に際しては、
*12 司法補助職とは、裁判所書記、執行吏、公証人などを指す。
*13 不動産の取得行為および 25 条 d 号に規定されている以外の処分行為(a 号)、共用部分の収益・使
用および管理に関する範囲での区分所有規約の変更または設定(b 号)。65情報を与えかつ意見を聞くために、区分所有者を招集しなければならない(同条 2 項)。
その際、仮管理者は、自らが決定した事項を実施するために必要な資金の額や調達方法な
どについて明らかにしなければならない(同条 3 項)。
仮管理者がした決定は、決定の日付とともに、総会議事録に記載される(67 年デクレ 62
条の 8)。さらに、仮管理者は、区分所有者に議事録のコピーを送る。場合によっては、
この際に、あわせて分担金の支払請求もすることになる(67 年デクレ 62 条の 9)。
なお、裁判所長は、仮管理者に対する権限付与に際して、組合理事会から事情を聴取す
るなど、有益と思われる情報を収集することができる(67 年デクレ 62 条の 4)。
(3)その他
仮管理者が選任された場合、旧管理者は、仮管理者に対して、65 年法 18 条の 2 で管理
者交代による引継ぎの際に規定されているものと同様の文書引渡義務を負う
(67 年デクレ
62 条の 6)。旧管理者は、仮管理者に、その任務の終了から起算して 1 月内に、管理組合
の財政状況、直ちに支払い可能な資金の額を示した文書など、管理組合に関するすべての
書類を引渡さなければならない。
図2 荒廃区分所有建物の機能回復手続(65 年法 29 の 1)
仮管理者の選任 (管理者等が裁判所へ)
| ・管理組合の機能回復のための財産管理
| ・必要であれば、総会や理事会の一部又は全部の権限付与
↓ ・裁判上の訴えの停止等の請求(65 年法 29 の 2)
報告書の作成・提出
3-4.管理組合に対する裁判上の訴えの停止および禁止(前掲の図2参照)
(1)要件
仮管理者による管理が開始された場合、大審裁判所長は、仮管理者の請求により、管理
組合に対して債権者から提起された裁判上の訴えにつき、最大 6 月の期間で*14、停止また
は禁止を命じることができる。仮管理者は、大審裁判所長に対して、以下のような債権に
関わる債権者のすべての裁判上の訴えの停止または禁止を請求することができる
(65 年法
29 条の 2 第 1 項)。
当該裁判より以前の起源を有する契約上の債権について、
-債務者たる組合に金銭の支払いを命ずることを目的とするもの、
-代金未払いを理由に、水道、ガス、電気または熱の供給契約を解除することを目的
とするもの。
仮管理者は、大審裁判所長に、管理組合の財政状況を修復するためには当該裁判上の訴
えを停止または禁止する必要があることを正当化する要素全てを示さなければならない。
裁判上の訴えの停止または禁止の請求は、仮管理者が、執行吏証書により、関係する債権
*14 この期間は、大審裁判所長により、一度だけ更新されうる。66者を召喚することによる(67 年デクレ 62 条の 10)。
(2)効果
裁判上の訴えの停止または禁止の決定には、管理組合に対するすべての執行手続を差し
止める効果、徒過すると失権または権利の消滅をもたらす期間の進行を停止する効果があ
る(65 年法 29 条の 2 第 2 項)。停止または禁止された裁判上の訴え以外の裁判上の訴え
および執行手続は、仮管理者を参加させた後に、管理組合に対して追行される(65 年法 29
条の 3)。
3-5.報告書の作成・提出等(前掲の図2参照)
(1)報告書の作成と提出
仮管理者は、任務終了時、大審裁判所長に、管理に関する報告書を提出しなければなら
ない(67 年デクレ 62 条の 11 第 1 項)。裁判所書記課は、報告書が提出されれば、そのコ
ピーを、大審裁判所検事正および新たに選任された管理者に送付することになる(67 年デ
クレ 62 条の 11 第 2 項)。新管理者は、このコピーの受領から 1 月の間に、区分所有者に、
管理者の事務所または総会で決定された一定の場所でこの報告書を閲覧することができる
ことを知らせなければならない(67 年デクレ 62 条の 12)。区分所有者は、自らの費用で、
新管理者に対して、報告書の全部または一部のコピーを請求することができる。
大審裁判所長は、仮管理者に、任務の終了前に、自らそして裁判所書記課に事前報告書
(prérapport)を提出するよう求めることができる(67 年デクレ 62 条の 13)。そのよう
な事前報告書の内容は、仮管理者を通じて区分所有者にも知らされる。
仮管理者作成の報告書または事前報告書が、当該区分所有建物が抱えるいくつかの問題
点の解決を総会に委ねることを示唆している場合には、それらは次回の総会または特別に
招集された総会の議事としなければならない(67 年デクレ 62 条の 14)。仮管理者が作成
した報告書または事前報告書は、区分所有者の総会においてなされる決定に直接的な影響
を与えることになる。
(2)区分所有建物の分離
仮管理者の報告書において、65 年法 28 条(区分所有建物の分離請求に関する規定)が
定める物理的、法律的および金銭的な要件を満たしていることが明らかにされている場合*15、大審裁判所長は、他の方法では区分所有建物の正常な機能を回復することができない
と判断すれば、区分所有建物の分離(division)を命じることができる(65 年法 29 条の 4
第 1 項)。管理組合の議決権の少なくとも 15 パーセントを代表する区分所有者も、区分所
有建物の分離を請求することができる(67 年デクレ 62 条の 15)。また、公益の要請があ
る場合には、大審裁判所検事正も区分所有建物の分離を請求することができる(同条)。
*15 不動産が数個の建物を含み、かつ、敷地所有権の分割が可能であるときは、当該建物の 1 個または数
個を構成する区分の所有者は、特別の集会を開催し、25 条の特別多数決により、当該 1 個または数個の
建物で別個の区分所有を形成することが可能である(65 年法 28 条 1 項)。674.荒廃区分所有建物の出現防止のための諸規定
4-1.管理費不払いへの対応
(1)管理組合の法定抵当権・動産先取特権
65 年法 19 条は、管理組合に対して区分所有者が負う債務を担保するための法定抵当権
・動産先取特権について規定する。管理組合に対して区分所有者が負う全ての性質の債務
を担保するために、当該区分所有者の有する区分を目的として、管理組合の法定抵当権が
成立する(1 項)。請求可能となった債務を弁済するよう管理組合が区分所有者に催告を
行ったが弁済がなされなかった場合、または区分所有者が 65 年法 33 条(工事等の議決に
同意しなかった区分所有者の年賦償還に関する規定)の規定を援用した場合、この法定抵
当権は登記することができる。さらに、管理組合に対して区分所有者が負う全ての性質の
債務を担保するために、民法 2332 条 1 号の動産先取特権が成立する(5 項)。その目的物
は区分に備えられた全ての動産であるが、その区分が家具なし賃貸借(location non
meublée)の目的となっている場合にはこの限りではない。その場合、先取特権は、賃借人
が支払う賃料に及ぶ(6 項)。
(2)管理組合の不動産先取特権
区分所有建物の管理を悪化させ、場合によっては荒廃にいたらせる管理費などの未払い
が大幅に増加したことなどを背景に、上記の担保に加えて、1994 年法改正により、極めて
強力な不動産先取特権が管理組合に認められることになった(同法 19 条の 1)。この不動
産先取特権は、65 年法 10 条および 30 条に掲げられている管理費や設備の取替・新設、共
用部分の整備・新設などの工事費用を担保する(民法 2374 条)。区分所有者の区分が売却
された場合、管理組合は、売却された区分の売買代金について先取特権を取得する。この
管理組合のための不動産先取特権は、抵当権保存所(登記所)における登記の対象となっ
ていない。そのため、「隠れた(occulte)」先取特権と呼ばれ、区分所有者の他の債権者
は、被担保債権額を知りえない。
このように、管理組合の不動産先取特権は、従前から存在していた 65 年法 19 条の法定
抵当権よりも強力な担保ではあるが、その成立は極めて限定されている。これに対して、
19 条の法定抵当権は、管理組合が区分所有者に対して有するすべての性質の債権を担保
し、売却された区分だけでなく、弁済をしない区分所有者に帰属する区分すべてを目的と
することができ、また、弁済をしない区分所有者が区分の売買を行う場合に限らず成立す
る。
4-2.管理者の管理簿作成義務
2000 年法 78 条および 79 条により、65 年法 18 条において、管理者の管理簿(carnet d
’entretien de l’immeuble)の作成義務が挿入されることとなった。管理者は、2001 年
5 月 30 日のデクレ第 477 号により内容が定められている管理簿を作成する義務を負う。管68
理者は、
管理簿に、
同デクレ 3 条から 5 条に定められた事項を記載しなければならない*16。
義務的記載事項(同デクレ 3 条)-不動産の所在地、現管理者、不動産の保険契約に関
する事項・保険期間
該当すれば義務的に記載する必要がある事項(同デクレ 4 条)-重大な工事を実施した
年・工事請負人に関する情報、工事に関する損害保険、共用設備の管理契約に関する事項
・契約期間も、数年にわたる工事の計画明細書」
上記以外の事項についても、総会の議決があれば記載することになる(同デクレ 5 条)。
この義務創設の主たる目的は、65 年法 45 条の 1 にあるように、区分を取得しようとす
る者が管理簿を通じて不動産の現況・管理状況を確認できるようにすることにある。各区
分所有者は管理者に対して管理簿のコピーを請求できるため(67 年デクレ 33 条)、ある
区分所有建物の区分を取得しようとする者は、現所有者から管理簿のコピーを見せてもら
うことにより、区分所有建物の管理状況を把握できる。管理簿作成が管理者の当然の義務
とされたことは、建物の荒廃防止にも役立っていると言えるであろう。
4-3.築 15 年以上の建物についての建物技術診断義務
区分を取得しようとする者は、
上記の管理簿だけではなく、
建物技術診断書
(diagnostic
technique)についてもその内容を知ることができる(65 年法 45 条の 1)。建物の売買契
約書作成に際しては、付属書類として、売主が作成した建築技術診断書を必ず添付しなけ
ればならない(建設・住居法典 L.271 条の 4)。建物技術診断は、建設・住居法典 L.111
条の 6 の 2 により、
建設されてから 15 年が経過した建物につき課せられているもので、その書類は管理者が管理組合のために保管しなければならないとされる。
建築技術診断書は、
水道・ガス配管設備や電気設備の状態、アスベストを含む建築資材の使用状況など 7 項目
にわたる書類からなる(建設・住居法典 L.271 条の 4)。建物技術診断の義務化も、区分
所有建物の荒廃を防ぐ一助となっている。
5.建設・住居法典における荒廃区分所有建物の機能回復に関する法制度(後掲の図3
参照)
荒廃区分所有建物への対応は、1990 年代の半ば以降、公共政策の課題としても取り上げ
られるようになった*17。その嚆矢となったのが、1994 年 7 月 7 日の通達による「技術的
・社会的・財政的な面ではなはだしい荒廃に直面している、区分所有による団地に対して
再び価値を与えることを目指すプログラム事業
(区分所有対応住居改善プログラム事業)」である。同事業では、劣悪な賃貸住宅が密集している地区の修復が目指された。
その後、
都市振興協定の実施に関する 1996 年 11 月 4 日の法律第 987 号
(以下 96 年法と
呼ぶ)は、荒廃のはなはだしい地域である衰退市街地地域(zone urbaine sensible)およ
*16 管理簿は、管理組合ごとに作成する義務がある。したがって、二次的組合があれば、その二次的組合
についても管理簿を作成する必要がある(Givoud,Giverdon,Capoulade, op.cit., no
929)。
*17 同事業の詳細については、寺尾=檜谷・前掲報告書 19・20 頁参照。69び住居改善プログラム事業*18の対象区域内において、住宅団地や区分所有建物居住者の生
活環境を改善する保護プラン(plan de sauvegarde)という制度を定めた(32 条、建設・
住居法典 L.615 条の 1 以下)。2000 年には、市街地の連帯と再生に関する 2000 年法(既
出)が都市再生および都市計画制度全般の改定を目指して制定されたが、同法は、96 年法
による荒廃区分所有建物の保護プラン制度を改善した点でも注目される。
以下では、まず、この保護プランの策定から実施への流れを、建設・住居法典 L.615 条
の 1 以下の規定にそって簡潔に紹介する。その上で、その他の荒廃区分所有建物を対象と
した建設・居住法典の規定を見ていくことにする。それは、都市と市街地再生の方向付け
とプログラム化に関する 2003 年 8 月 1 日の法律第 710 号(以下 2003 年法と呼ぶ)18 条・
20 条により挿入された、大審裁判所長による所有者欠如(état de carence)の宣言に基
づく収用手続を定めた L.615 条の 6 と L.615 条の 7、
および共用設備の安全に関する L.129
条の 1 から L.129 条の 7 である*19。2003 年法による改正は、特に、居住者が深刻な生命身
体の危険にさらされている建物を目的としており、荒廃が進んだ区分所有建物または所有
者による管理が欠けている区分所有建物のために行政が介入する権限を強化した点で注目
される。
5-1.区分所有対応住居改善プログラム事業(OPAH)
次に述べる保護プランの前には、以下の区分所有対応住居改善プログラム事業
Opérations programmées d'amélioration de l'habitat (OPAH)– Copropriété が発動される。
(1)趣旨
区分所有対応住居改善プログラム事業とは、区分所有建物の劣化の過程を防ぎ、処理す
る制度で、建物の保存に不可欠な工事を実施するために行なう公権力の支援である(1994
年 7 月 7 日の住宅相・社会福祉・公衆衛生・都市相通達、2002 年 11 月 8 日の通達 2002-
68/UHC/IUH4/26 号)。
(2)目的
区分所有対応住居改善プログラム事業は契約的手法であり、市町村あるいは住宅政策の
権限を有する市町村間協力公施設法人 établissement public de coopération intercommunale
(EPCI)が発意し、国、全国住居事業団 Agence national de l’habitat (ANAH)、区分所有管
理組合とともに共同事業を実施する。この制度では、区分所有の権利関係は維持すること
を優先して、公権力の施策は、当該区分所有建物の管理組合を強化し、管理組合を支えて
*18 これは、1994 年通達による区分所有対応住居改善プログラム事業に先立ち開始された事業で、荒廃
している中心市街地あるいは農村集落の修復改善のために 1977 年通達により定められ、2002 年通達で拡
充された事業である。
*19 建設・居住法典 L.129 条の 1 から L.129 条の 7 は、2006 年 7 月 13 日の法律第 872 号により修正され
ている。70必要不可欠な工事を実施できるようにすることを目的とする。
(3)内容
区分所有対応住居改善プログラム事業の主たる目的は、1 棟あるいは複数棟の区分所有
建物において、共用部分および専有部分の工事を実施することで荒廃に対して総合的な処
理を施すことである。共用部分の工事については、施主となる管理組合に対して全国住居
事業団が補助金を支給することができる。
区分所有対応住居改善プログラム事業は、工事計画に加えて、区分所有管理組合の財務・
法務・技術・福祉の各分野における機能を回復し、建物の劣化の過程を食い止めることが
できる施策すべてを組立てる。この事業によって、その地域の住宅市場における区分所有
建物の価値を回復させなければならない。
区分所有対応住居改善プログラム事業は、工事の実施に加えて、次のようなさまざまな分
野の施策を含む。
・区分所有者に対する広報
・管理費不払いの予防および処理
・管理費の管理および工事費の節約
・区分所有者の支払い能力の確保
・居住者の福祉および転居
・区画の所有権移転あるいは特定区画の収用
・外構の改善:空間の維持・特定・所有形態の明確化、用途の適切化
これらのさまざまな施策を調整して進行させることによって、公権力の介入の実行可能
性および持続性が確保できる。そのためには、特定の権限を有するコーディネイトの設置
が欠かせない。
(4)期間
区分所有対応住居改善プログラム事業の期間は 3 年で、2 年間の延長が可能である。
5-2.保護プラン(後掲の図3-1参照)
(1)保護プラン策定から実施への流れ
県知事(préfet)は、自らの率先によりまたは関係する区分所有建物が所在する市町村
の長、住民団体、区分所有者団体、近隣者団体の提案に基づき、保護プラン策定委員会に、
荒廃区分所有建物の保護プラン作成を委ねることができる
(建設・住居法典 L.615 条の 1)。保護プラン策定委員会は、県知事(委員長となる)、県議会議員、市町村長、当該区分
所有建物の区分所有者および賃借人の代表者を必ず含む 10 人以内のメンバーで構成される*20
。管理者、仮管理者や管理組合の債権者らも、保護プラン策定委員会のメンバーとな
りうる。
*20 区分所有者の代表を加えたのは、
保護計画により自身の所有する財産につき大きな影響を受ける者の
同意を必要とするためである(寺尾=檜谷・前掲報告書 21 頁)。71保護プラン策定委員会が策定した保護プランは、関係する市町村長に意見を求めた後、
県知事が原案のまま承認するか、修正を求めたうえで承認することになる。承認された保
護プランの実施にあたっては、県知事が選任したコーディネータが、保護プランの進行が
順調かを監視し、事業者の事業の進行状態などを見守る*21。コーディネータは、県行政長
官に事業の進捗状況を定期的に報告する。
(2)保護プランの内容
保護プランでは、5 年間で、以下のような事項を実現するために必要な方法が定められ
る(建設・住居法典 L.615 条の 2)。
-区分所有建物の構成および管理規則の明確化と簡素化
-公共の用に供する共用部分の財産と設備に関する規約の明確化および簡素化
-管理費を減額するための工事の実施
-社会関係の修復のための建物の占有者への広報と教育
-福祉対策の実施
保護プランでは、5 年間でこれらの事項をどのように段階的に実現するか、金銭的な条
件も含めて明らかにされる。先述のように、保護プランの目的は、はなはだしく荒廃した
区分所有建物を正常な状態に戻すことにあるが、そのためには、修繕や改良の工事実施だ
けでは不十分であり、管理体制の刷新、居住者の福祉、区分所有権の移転や剥奪を含む総
合的な事業が必要である。保護プランでは、荒廃区分所有建物につき以下の 3 種の事業が
用意されている*22。
a.不動産臨時伝達
不動産臨時伝達事業(portage immobilier provisoire)は、官民の事業者*23が区分所
有建物の荒廃を食い止めるため、多くの債務を負った区分所有者の区分を取得して、必要
な工事を施したうえで売却する事業である。事業者が、区分所有者の一人となることで、
区分所有建物の管理運営を改善することを目的としており、荒廃した区分所有建物を、区
分所有のまま正常な管理状態に戻すことが目指される。
b.公的住宅セクターへの移転
これに対して、区分所有を維持することが困難な場合は、適正家賃住宅(HLM)組織が、
区分所有建物の全部または一部(さらには団地)を、任意売買あるいは収用によって取得
して賃貸物件とすることがある。
c.取壊し
荒廃が著しい場合や、市街地再開発プロジェクトの中で取壊しが必要な場合には、区分
*21 コーディネータは、策定委員会メンバーから選ばれることが多い(寺尾=檜谷・前掲報告書 21 頁)。
*22 保護計画事業の詳細は、寺尾=檜谷・前掲報告書 21 頁以下参照。
*23 2000 年法は、適正家賃住宅(HLM)組織、および地域開発公施設法人(établissement public
d'aménagement)にも、不動産臨時伝達事業の事業者となる権限を認めた。72所有建物の一部または全部の取壊しが必要な場合もある。
5-3.所有者欠如の宣言(後掲の図3-2参照)
建設・住居法典 L.615 条の 6 から L.615 条の 8 は、所有者欠如の宣言とそれに基づく公
用のための収用(expropriation pour cause d’utilité publique)の手続を規定してい
る。
65 年法の荒廃区分所有建物に関する規定の目的が区分所有建物の通常の機能の回復に
あるのに対して、これらの規定の目的はかなり異なっている。その手続は、非衛生不動産、
倒壊の危険のある建物のための手続にインスピレーションを得たものであり、最終的には
当該区分所有建物の公用のための収用に至る。住居または他の使用目的のための再興のた
めだけではなく、場合によっては建物の一部または全部の取壊しのため収用がなされるこ
ともある。
建設・住居法典 L.615 条の 6 から L.615 条の 8 は、「主として居住目的のすべての集合
不動産(tout immeuble collectif à usage principal d’habitation)」に関係する。「主
として居住目的の」とあるから、居住・商業用の混合建物の場合もありうる。区分所有建
物でない場合も考えられるが、以下では区分所有建物が対象となった場合を想定して検討
する。
所有者欠如の宣言をするには、管理組合が、「当該不動産の保存を保障することができ
ない場合又は占有者の安全が深刻に脅かされている場合」でなければならない。また、こ
のような状態は、「金銭的又は管理上の重大な問題および実施されるべき工事の重大性を
理由として」生じたものでなければならない。
上記の場合、不動産が存在する市町村の長または住宅政策の権限を有する市町村間協力
公施設法人の長は、大審裁判所長に対して、所有者欠如の宣言をするよう請求することが
できる。請求は、県における国家の代表者、区分所有建物の管理者、65 年法 29 条の 1 の
仮管理者、
管理組合の議決権の少なくとも 15 パーセントを代表する区分所有者からもなし
うる。
大審裁判所長は、当該不動産が請求の要件を満たしているか確認するため、一人または
複数の鑑定人を選任する。鑑定人の任務は、管理組合の財政上の不均衡、実施すべき工事
の性質と重大性を確認することである。したがって、鑑定人の任務は、建築技術だけでな
く会計にも及ぶ。鑑定結果は、所有者、管理組合、場合によっては仮管理者らに通知され
る。大審裁判所長は、鑑定結果をふまえ、関係者の意見を聴取した後で、所有者欠如を宣
言することができる。
所有者欠如が宣言された場合、不動産の収用が行われる。収用は、不動産が存在する市
町村および住宅政策の権限を有する市町村間協力公施設法人に加えて、都市計画法典 300
条の 4 が規定する組織のためにも、行うことができる。
5-4.共用設備の安全のための修繕命令(後掲の図3-3参照)
建設・住居法典 L.129 条の 1 は、所有者欠如の宣言の場合と同様に「主として居住目的
の集合不動産」を対象として、市町村長が、アレテ(arrêté)により、以下の場合に、共
用設備の安全のための修繕を命じることができるとする。
-「共用設備の機能に欠陥があるか又は管理がなされていない」場合。例えば、暖房が73真冬に止まる、エレベータが作動しない、建物内の空気が汚染されているなどの場合である*24。-共用設備の機能に欠陥があることが「占有者の安全に深刻な危険を生み出す性質を有
しているか又は居住条件を深刻に悪化させる性質を有している」場合。
市町村長が何もしない場合には、県における国家の代表者が代わってそれを行う(建設
・住居法典 L.129 条の 6)。
定められた実施期間内に修繕がなされなければならないので、そのための工事に必要な
議決を得るための総会の招集は臨時総会招集の手続による(67 年デクレ 9 条・37 条)。建
設・住居法典 L.129 条の 2 によれば、アレテで命じた方法が定められた期間内に実施され
ない場合には、市町村長は、管理組合に対して、定められた期間内(1 月以上)に修繕を
行うよう催告する。管理者は、催告があったことを区分所有者に伝える。
さらに、建設・住居法典 L.129 条の 3 は、緊急の場合または深刻かつ切迫した危険があ
る場合の特別手続を規定している。この場合、市町村長は、管理者または仮管理者に警告
し、場合によっては当該建物に掲示を行う。続いて、市町村長は、行政裁判所に、共用設
備の状態を検査するための鑑定人の選任を求める。鑑定人の報告書が、共用設備の修繕が
緊急を要するかまたは深刻かつ切迫した危険があることを再確認するものであった場合、
市町村長は、占有者の安全を保障するための臨時手段を命じ、必要であれば、占有者に対
し建物からの退避を命じる。
図3 建設・住居法典に基づく制度
図3-1 保護プランおよび改善事業
県知事(市町村長の提案) → 保護プラン策定委員会の設置↓保護プラン(5 年間)
| ・修繕・改良工事
| ・管理体制の改善
↓ ・区分所有権の剥奪
3 種の事業
・区分の取得
・公的賃貸住宅へ
・取壊し
図3-2 所有者欠如宣言
市町村長・管理者・区分所有者の申立て → 大審裁判所長 → 所有者欠如宣言↓不動産の収用
図3-3 共用設備の安全のための修繕命令
市町村長 → 管理組合: 共用設備の安全のための修繕命令
*24 建設・居住法典 R.129 条の 1 に、共用設備のリストがある。74第5章 荒廃区分所有建物制度の実態
――住宅担当省及び全国住宅事業団への質問と回答等
以上で見てきたように、フランスにおいては比較法的に他の外国法制に類を見ない整備
された「荒廃区分所有建物」(いわゆる「老朽化」した区分所有建物とは区別される。)
に関する法制度を有している。
それでは、
その法制下における同制度の運用状況はどうか。
現地調査においては、この点に関して、以下の 9 つの質問(65 年法に関するもの 5 つと、
住宅・建築法典に関するもの 4 つ)を事前に文書にて行い、住宅担当省およびANAHよ
り、現地ヒアリング調査当日に文書ないし口頭で以下のような回答を得た。
1.荒廃区分所有建物制度の運用状況
1-1.荒廃区分所有建物の数
【質問1】現在、フランス全体で、荒廃区分所有建物として把握しているものはどの程
度あり、そのうち、法制上、何らかの措置がとられているもの(1965 法・2009 年改正法
29 条 1A 等)はどれくらいか。地域的な片寄りはあるか。片寄りがあれば、それぞれの地
域での割合を提示いただきたい。
1) Nous voudrions obtenir les chiffres suivants:
le nombre de copropriétés en difficulté en France et par région ;
le nombre de copropriétés en difficulté faisant objet des régimes juridiques
particuliers pour ce problème, par exemple régime créé par l’article 29-1A de la
loi de 1965, en France et par région.
【回答】住宅担当省:荒廃区分所有建物の数はわからない。しかし、脆弱な(fragile)
区分所有建物を発見するための道具ができたばかりである。税金のための台帳として作ら
れた FILOCOM(住宅市町村登録簿)がそうである。脆弱と判断された区分所有建物は、必
ずしも荒廃区分所有建物とイコールではない。
脆弱な区分所有建物という形容のためには、
現地調査を必要とする(建物の状態、区分所有〔管理組合〕の会計...)。2009 年、この道
具〔FILOCOM〕は地域ごとの状況を明らかにしてくれた。29 条 1A についてはいかなる数字
もない。比較的最近の方法であり、大審裁判所から司法省までの情報はほとんどない。反
対に、仮管理者の選任要求の数はわかる(後掲 ANAH)。2004 年から 2009 年にかけて大幅
に増加していることがわかる。区分所有建物の荒廃が増加している証拠である。
ANAH :260,000〜340,000 戸、5,000〜11,000 棟の区分所有建物。なお、2006 年の仮管
理者の選任数は 367 名、2009 年の仮管理者の選任数 695 名である。751-2.荒廃前区分所有建物と特別受任者の選任等
(1)特別受任者の選任の状況
【質問2】法 29 条 1A に基づく特別受任者の選任請求は毎年どの程度の件数なされてい
るか。また、管理者、区分所有者、管理組合の債権者のうち、誰から請求がなされること
が多いか。また、管理組合が財政的に困難であるにもかかわらず、誰からも請求がなされ
ないと思われるものも相当する存在すると考えられるのか。以上のうち統計的データがあ
るものについては、提示いただきたい(なければ推定を示していただきたい)。
2) Nous voudrions obtenir des chiffres suivants même présumés:
le nombre des demandes de désignation du mandataire ad hoc par an et par catégorie
de demandeur ;
le nombre de copropriété étant affectée par les impayés mais ne demandant pas la
désignation d’un mandataire ad hoc.
【回答】住宅担当省:いかなる数字も持ち合わせていない。
ANAH :どれも回答することは難しい。
なお、
FNAIMでのヒアリング調査によると、
知る限り、
総数 2 件とのことであった。
(2)特別受任者の職務の実態
【質問3】法 29 条 1B5 項に基づく管理者による改善計画についての総会への提案によ
り、その提案どおりに総会での決議がなされて荒廃状態が改善される割合はどの程度か。
3) Nous voudrions obtenir le pourcentage des votes favorable par l’assemblée
des copropriétaires pour des projets de résolution proposés par le syndic.
【回答】住宅担当省:いかなる数字も持ち合わせていない。
ANAH :回答は難しい。
1-3.荒廃区分所有建物の仮管理者の選任等の実態
【質問4】法 29 条の 1 に基づく仮管理者の選任手続は、必ず法 29 条 1A に基づく特別
受任者の選任手続を経た後でなければすることができないのか。法 29 条 1A に基づく特別
受任者と法 29 条の 1 に基づく仮管理者とは、その専門職としての相違は何か。実際には、
それぞれどのような職種の者が選任されるのか。弁護士等か。
4) Est-ce que la désignation d’un administrateur provisoire par l’article 29-1
est systématiquement précédée par celle d’un mandataire ad hoc fixée par l’article
29-1A ? Quelles sont des différences entre des missions de deux acteurs ? Quels
types de personnalité sont-ils choisis pour ces deux acteurs, par exemple un avocat
ou un expert immobilier?
【回答】住宅担当省:特別受任者を選任の制度は、仮管理者を選任の制度に比べ、ごく76最近になされたつくられたものである。これらの 2 つの手続の区別(棲分け)を判断する
ための十分な材料をまだ持っていない。
区分所有建物の荒廃度に応じて職務は異なる。
...〔特別受任者の選任手続(法文)省略〕。
...〔仮管理者の選任手続(法文)省略〕。
特別受任者と仮管理者は、資格のある者のリストの中から選ばれる。それらの者の基本
的な活動は経営困難な企業に関係する。大審裁判所長は同様に管理者としての資格を有し
ている者を選任することができる。荒廃区分所有建物についていかなる専門組織も存在し
ない。区分所有建物での活動について全く知らない者も選任され得る。特別受任者選任の
後、この者が作った勧告案が総会で議決されず、荒廃が進み仮管理者の選任を必要とする
こともあるだろう。
ANAH :わからない。...〔特別受任者と仮管理者の基本的違い(法文)省略〕
1-4.区分所有建物の分離
【質問5】法 29 条の 4 に基づく区分所有建物の分離は、実際上、多くなされているの
か(何例程度あるのか)。また、一般的に、荒廃区分所有建物は、一つの敷地上の複数の
建物のおいて均一に一体的に発生すると思われるが、一つの敷地上の特定の建物のみが荒
廃区分所有建物となることは少なからずあるのか。なお、法 28 条の規定に基づいて、非荒
廃区分所有建物の側から分離請求がなされることはないのか。
5) Est-ce que la scission créée par l’article 29-4 de la loi de 1965 est pratiquée
de temps en temps ? Si oui, nous voudrions savoir le nombre de réalisation.
Lorsqu’il y a des plusieurs bâtiments en copropriété sont bâtis sur un terrain,
la difficulté peut apparaître, nous semble-t-il, pareillement pour l’ensemble
de l’immeuble. Est-ce qu’il est possible que la difficulté apparaisse avec
hétérogénéité pour des bâtiments sur le même terrain ? Si oui, des copropriétaires
d’un bâtiment qui ne souffre pas de la difficulté peuvent-ils demander la division
du lot de la copropriété et la constitution d’une copropriété séparée décidées
par l’article 28 ?
【回答】住宅担当省:司法上の分離は時折行われているが、我々はその数を把握してい
ない。司法上の分離はできないときがある。それは以下の二つの理由による:1965 年法 28
条に規定された分離の要件、特に土地に分離のための線が存在することという要件が満た
されていない場合である。いくつかの複合的不動産群では、区分所有は居住用建物、商業
用建物、設備を含んでいる。これらの建物は同じ土地ではなく、同じ人工地盤(dalle)の
上に建てられていることがある。また、建物の間には絡み合い(enchevêtrements)が見ら
れる(例えば、居住用建物と商業センターの間で)。このような場合、分離線を引くこと
は困難である。77同様に、管理組合の供給者に対する負債や区分所有者に対する債権に関する問題も存在
している。フランスでは、債務は譲渡できないため、管理組合の債務を分離により創設さ
れた新しい管理組合に移転することができないのである。最初の管理組合の債務や債権は
どうなるのであろうか。法はこの点について何も規定していない。
最近、パリに隣接した市で、1965 年法 29-4 条によるやや特殊な分離が行われた例があ
る。この市で、ある区分所有建物がひどい荒廃状態にあった:居住用区分、小さな商業セ
ンター、公的な設備、事務所用建物を含む複合的な不動産群であり、全てが同じ人工地盤
の上に置かれていた。分離のための線がなかった。大審裁判所長は、区分所有の空間の分
割による分離を命じた。
これは 1965 年法からは大変かけ離れているように思われるが、ペリネ・マルケ教授は、空間は土地と同一視できるとして〔このような解決に〕理由を与え
ている。
複数の建物からなる区分所有不動産について、あまり問題のない建物も存在しうる(管
理費の不払いが少なく、共用部分の状態も良好)。28 条により、複数の建物が存在し、分
離のための線もあることから、これらの建物の区分所有者は区分所有の分離を求めること
ができる。しかし、管理組合が債務や債権を有している場合は、分離後の最初の管理組合
の債務や債権の問題が常に生じるであろう。
ANAH:土地の分割の可能性、しかし空間での分割はできないと思われる。
2.建築・住居法典における措置の運用状況
2-1.1965 年法と建築・住居法典との関係
【質問6】1965 年法による荒廃区分所有建物に関する制度は、仮管理者に権限を与える
ことによって当該管理組合の自力で荒廃から立ち直らせることを目的とする制度であり、
自力での再建が困難な荒廃区分所有建物については建築・住居法典における荒廃区分所有
建物の機能回復制度(L.615 条の 1 以下)と理解してよいか。また、前者は、荒廃区分所
有建物を建物単位でとらえているのに対して、後者は、荒廃区分所有建物が複数存在する
地域を地域単位でとらえている制度と考えてよいか。
6) Quelle est la relation entre des dispositifs de la Section 2 du Chapitre 2
de la loi de 1965 et ceux de l’article L.615-1 et s. du Code de la Construction
et de l’
Habitation ? Les premières ont-ils pour but de faire se lever de la difficulté
par des copropriétaires eux-mêmes avec des soutiens d’un administrateur provisoire
et les derniers s’occupent-ils de la copropriété qui ne peut sortir de la difficulté
par des copropriétaires ? La loi de la copropriété traite-t-elle la difficulté
par copropriété par copropriété et le CCH procède-t-il par zone où une ou des
copropriétés en difficulté se trouvent ?
【回答】住宅担当省:二つの制度は異なる目的を持つ。仮管理者は、区分所有の〔管理
組合の〕財政を立て直すことが主たる任務である(債務者である区分所有者から効果的に
債権を回収する)。数多くの場合にこの方法は法的な問題を解決するのに大変有効である78ことが分かっているが、財政的に荒廃した区分所有建物の場合にはそうではない。
公的なイニシアチブによる保護プランは、居住者の生活の枠組みを立て直すことが
目的である。そのために、不動産群の構成・管理規則を明確化し簡素化するための方
法が定められる。建物や公共の用に供する設備に関する規約を明確化し適合的なもの
にし、管理費等の負担を減らすための工事を行い、社会関係の修復のための建物の居住
者への広報と教育を行い、福祉対策も実施する。
ゆえに、これら 2 つの制度は相互に補完し合っているのである。それらは緊密な協力関
係をもって実現されなければならないが、常にそうなっているとは言い難い。
仮管理者は、一つの区分所有建物にだけ関係する。保護プランは、そうではなく、いく
つもの区分所有建物からなる不動産群を対象とし、各区分所有建物の荒廃度に応じた方法
がとられる。
ANAH :特別受任者:管理組合に権限が残される。仮管理者:重要な権限が仮管理者に
移される。
2-2.建築・住居法典における法的措置の運用状況
(1)保護プラン上の事業の実施状態
【質問7】建築・住居法典 L.615 条の 2 に基づく保護プランにおいて用意されている 3
種類の事業(不動産臨時伝達、公共住宅セクターへの移転、取壊し)の実際の実施件数は
それぞれどの程度か。
7) Nous voudrions savoir des nombres de réalisation de trois opérations fixées
dans le cadre du plan de sauvegarde ; portage immobilier provisoire, transfert dans
le parc public et démolition ?
【回答】住宅担当省:これらの 3 つの事業についていかなる網羅的なデータも持ってい
ない。
ANAH :わからない。
(2)所有権欠如宣言の件数等
【質問8】建築・住居法典 L.615 条の 6〜8 に基づく所有権欠如宣言や、それに基づく公
用のための収用は、これまでにどの程度なされたのか。将来における見通しはどうか。
8) Nous voudrions savoir également le nombre de la déclaration de l’état de carence
de l’article L.615-6 et s. du CCH.
【回答】住宅担当省:2003 年の創設から今まで、4 つの区分所有建物のみが所有権欠如
宣言の対象となった。
ANAH :我々が知っているのは 1 件。
(3)修繕命令の件数
【質問9】建築・住居法典 L.219 条の 1 および 2 に基づく、共用設備の安全のための修79繕命令およびそのための催告は、毎年どの程度なされるのか。また、同条の 3 に基づく建
物からの待避命令についてはどうか。以上のうち統計的データがあるものについては、提
示いただきたい(なければ推定を示していただきたい)。
9) Nous voudrions obtenir des chiffres suivants ; même présumés:
le nombre annuel de l’arrête communal de l’article L.129-1 du CCH ;
le nombre annuel de la mise en demeure de l’article L.129-2 du CCH ;
le nombre annuel de la demande de désignation d’un expert de l’article L.129-3
du CCH.
【回答】住宅担当省:いかなる明確なデータも持っていない。今年度から、我々は網羅
的なデータを有することになるであろう。このような命令を発する市町村長は大変まれで
あろう。
ANAH :ANAH では把握が難しい。80第6章 結 語
最後に、本編の課題であるフランスの経年(老朽化)区分所有建物についての修繕・改
良および建替え・解消に関する法制の内容およびその運用状況について、以上の調査およ
び検討を踏まえて、以下においてまとめておこう。
1.フランスにおける区分所有法制の基本的な考え方
フランスの法制度の基本理念において、少なくても現行法制にあって、区分所有建物に
ついて老朽化を原因する「建替え」や「解消」は存在しない。同法制においては、区分所
有建物について、継続的な修繕(一般的な「管理」)を行い、必要に応じて改良(「変更」)
を行うことによって半永続的に維持していくことをその制度設計の基本としているものと
思われる(なお、この点については、フランスにおいては日本とは異なり、地震による建
物の滅失を考慮しなくてもよいという点にも起因するものと思われる)。
区分所有建物では専有部分と一体をなす共用部分と敷地とが共有である以上、修繕や改
良に関しては集会における多数決議によって決定されなければならないところ、
基本的に、
前者については普通決議、後者については特別多数決議とされている。ただし、後者につ
いては、物理的・客観的には「改良」(「変更」)に該当するものであっても、例えば、
CO2 の削減や省エネといった環境への配慮、持続可能な社会の構築、建物や設備の安全性
の重視、高齢者や身障者への配慮、防犯意識の向上、居住の快適性の追求などといった社
会状況ないし社会通念等の変化に応じて、前述(第3章1-2(1))のように、適宜の
(頻繁な)法改正によって多数決要件の緩和がはかられてきている。すなわち、法は、社
会状況ないし社会通念の変化等に合わせて、区分所有建物の「建物部分の形状や機能の変
更」について、できるだけ敏感に、かつ具体的な規定をもって、多数決要件の緩和という
形で対応してきている(ただ、このことにより法律の規定が増加し、かつ詳細化したため
に、市民にとっては法律がますます読みにくいものとなっている)。そして、法は、建物
の経年に伴う劣化だけでなくいわゆる社会的老朽化についても「建替え」や「解消」によ
って対応しようとはしていない。本調査研究においては、フランスの区分所有法制に対す
る以上のような基本的な考え方について、関係機関とのヒアリング等において確認するこ
とができ、また実感することができた。
2.経年区分所有建物の「老朽化」と「荒廃化」
フランスにおいては、区分所有建物について、法制度上、「老朽化」という概念はなく、
「荒廃化」という概念のみが存在すると考えることができる。建物の劣化は、建築後の経81過年数に由来するのではなく、むしろそのことよりも建築時の建物の部材や質および現在
に至るまでの建物の維持・管理に由来するものと基本的に考えられている。そして、建築
時の建物の部材や質に由来する建物の劣化は不可避であるとしても(1960 年代から 1970
年代に大量に建築され供給された区分所有建物のうち比較的多くのものはこれに該当す
る。)、建物の劣化の進行を遅らせることは可能であり、適切に維持・管理することによ
って建物を相当の長期にわたり存続させることが可能であると考えられている。区分所有
建物全体の約半数を占める上記時期に建築された建物について、
それらの建築から 40 年な
いし 50 年以上が経過している現在においても、フランスでは、特に「老朽化」や「寿命」
の問題は生じていないと思われる。このことから、法制度上、これらを原因とする多数決
議による「建替え」や「解消」の制度は存在しないだけでなく、検討もされていない。ま
た、区分所有者の全員合意による任意の「建替え」や「解消」の実績もほとんど存在しな
い。もっとも、この点については、厳格な都市計画や建築規制等のために、効用増を見込
んだ「建替え」や再開発に係わる「解消」が実際上は困難であることに伴うものと考える
ことができよう。すなわち、厳格な都市計画や建築規制等のために、区分所有者にとって
費用負担の少ない「建替え」を実施することはできず、また「解消」してもその清算金に
よってはより条件のよい建物を取得することが困難に状況のもとにある。
以上のことから、現在のフランスにおける経年区分所有建物の問題は、「老朽化」の問
題ではなく、管理が適切になされないことによる「荒廃区分所有建物」の問題として現れ
ている(正確な荒廃区分所有建物の数は把握されていないが、区分所有建物全体の数パー
セント以上存在するとのことである)。「荒廃区分所有建物」
の多くは、
1960 年代から 1970
年代に大量に建築・供給されたもので、それらの多く(一定の地域に見られる。)は、当
初は中所得者層が購入して所有していたが、経年と共に転売されて多くの低所得者層が所
有して居住者となり管理組合を構成するようになったものである。このことから、少なく
ない区分所有者が、建物の維持・管理のために十分な費用を支出することができず、この
ことが、建物の劣化を増大され、居住環境を悪化されるに至っている。フランスの「荒廃
区分所有建物」制度は、このような背景の下で理解されるべきであり、建物の経年による
「老朽化」と直結させて理解されるべきでないと考える。
3.「荒廃区分所有建物」制度の基本的な枠組みと同制度の運用状況
以上のことから、「荒廃区分所有建物」制度の基本的な枠組みは、主として財政面を理
由に管理不全のおそれのある、あるいは既に管理不全に陥った区分所有建物に、裁判所に
よって選任された専門家(前者の荒廃前区分所有建物には特別受任者、後者の荒廃区分所
有建物には仮管理者)を派遣して、主として財政面から管理の回復を提案したり実施した
りするものである(前掲・第4章の図1及び図2参照)。そして、このような民事法制と82しての区分所有法(65 年法)と連携しつつ、荒廃区分所有建物が存在する地域を単位とし
て、行政法としての建築・住宅法典によって、公権力により荒廃区分所有建物の改善が図
られ、場合によってはその収用が行われる(前掲・第4章の図3参照)。前者は、当該区
分所有建物の管理組合による自力の再生を目指すものであるのに対して、後者は、公権力
の力による再生または公権力による権利の剥奪を図るものである。
ただし、フランス法は、以上のような比較法的に見て区分所有の「再生」ないし「終了」
に関する先端的な制度を有してはいるが、同制度は、ひとつには、その創設から日が浅い
ことから、もうひとつには、管理組合(ないし区分所有者)および行政の財政的な制約か
ら、その運用状況について見ると、十分に機能しているとは言えないのが実状である。す
なわち、先にみたように、区分所有法上の荒廃前区分所有建物における特別受任者の選任
はほとんどなされておらず(第4章1-2.(1)参照)、荒廃区分所有建物における特
別受任者の選任はその数に比べて少なく(年間数百人。第4章1-1.参照)、また、建築・
住宅法典における各種事業の実施や収用件数についてもごく僅かなものに過ぎない(第4章2-2.(1)(2)(3)参照)。
4.フランスの経年区分所有建物に対する考え方
フランスの経年区分所有建物に対する法制度についての基本的な考え方を端的に示すた
めの「結び」として、筆者らが、住宅担当省に対して最後に行った質問とその回答を掲げ
ておこう(なお、付言すると、フランスの法制担当行政当局にとっては、そもそも私達の
このような存続期間の長短を問題とする質問自体をナンセンスに思えたのかもしれない)。【質問】荒廃には至らなくても、老朽化していく区分所有建物が、フランスでも日本で
も近い将来、ますます多く発生していく中で、そのような区分所有建物に対する法制のあ
り方が問題となると思います。それでは、フランスでは法制のあり方として、基本的に、
区分所有建物をできるだけ長期(例えば 100 年以上)にわたり存続させていく方が望まし
く、また現実的でもあるとお考えですか、それとも比較的早い時期(例えば 40 年〜50 年
以内)に解消や建替えをして対処する方が望ましいとお考えですか。
Le nombre des immeubles bâtis en copropriété augment de plus en plus en France
et au Japon. Comment doit-on les traiter ? Trouverez-vous qu’il vaut mieux laisser
ces immeubles le plus long possible (par exemple plus de cent ans) en France ? Ou
trouverez-vous qu’il vaut mieux reconstruire ces immeubles dans un court délai
(par exemple moins de 50 ans) ?
【回答】フランスは、区分所有建物の存続期間は考えていない。前もって、一定の存続
期間を想定して建物を建てていない。住宅は、一定期間存続すればよいという消費の対象
ではない。これは、持続可能な開発や持続可能な都市という我々のコンセプトとは正反対
の考え方である〔筆者注:住宅担当省のひとつ前の正式名称は、「生態系・持続可能開発83・住宅省」であった〕。84編末資料
建築不動産の区分所有の規則を定める法律(1965 年 7 月 10 日法律)(65 年法)
Loi n° 65-557 du 10 juillet 1965 fixant le statut de la copropriété des immeubles
bâti s
直近の改正は、2012 年 3 月 22 日の法律第 387 号による(第 26 条の 4 から 26 条の 8 を挿入)。
第1節 区分所有の定義及び組成
第1条〔適用範囲〕
1本法律は、その所有が専有部分 partie privative 及び共用部分 partie commune の持
分 quot-part を含む区分 lot によって数人の者の間で配分されるすべての建築不動産
immeuble bâti 又は建築不動産群 groupe des immeubles bâtis を規律する。
2反対の合意がある場合を除き、本法律は、共通の土地 terrain、付属施設 aménagements
及び共用に供せられる物 services communs のほか、専有所有権の目的となる建築又は建築
物のない土地区分 parcelle を含む不動産集合体 ensemble immobilier にも同様に適用され
る。
第2条〔専有部分〕
1専有部分は、特定の区分所有者の独占的使用のため留保された建物及び土地の部分であ
る。
2専有部分は、各区分所有者の単独所有である。
第3条〔共用部分〕
1区分所有者の全員又は一部の使用又は効用に充てられる建物及び土地の部分は、
共用で
ある。
2証書に明示のない場合、又は証書の記載と矛盾する場合、以下のものは、共用部分と
見なされる。
‐敷地 sol、中庭 cours、庭園 parc et jardin、通路 voie d’accès
‐建物の躯体 gros oeuvre des bâtiments 及び共通の設備要素 éléments d’équipement
commun。共通の設備要素につながる配管 canalisation で専有の場所 locaux privatifs を
通過する部分を含む。
‐暖炉の焚口、煙道及び煙突
‐共用に供せられる場所
‐渡り廊下 passage 及び回廊 corridor
3証書に明示のない場合、又は証書の記載と矛盾する場合には、以下のものは、共用部分
に付属する権利と見なされる。
‐共通の効用に充てられる建物若しくは異なる専有部分を構成する数個の区分建物を含む
建物を増築し、又はその敷地を掘削する権利85‐共用部分を構成する中庭又は庭に新たな建物を建造する権利
‐共用部分を構成する中庭又は庭を掘削する権利
‐共用部分にかかわる互有の権利 droit de mitoyenneté
第4条〔共用部分の所有関係〕
共用部分は、区分所有者の全員又は一部の者の不分割所有〔共有〕propriété indivise
の目的となる。
その管理 administration 及びその使用収益 jouissance は、
本法律の規定に
従って定められる。
第5条〔共用部分の持分〕
証書に明示のない場合、又は証書の記載と矛盾する場合には、各区分に属する共用部分の
持分は、区分所有の成立時における区分の組成、面積及び位置から、その利用を考慮しないで
算出される当該部分の価額の総体に対する、各専有部分の相対的な価額比による。
第6条〔共用部分の分離分割請求等の禁止〕
共用部分及びそれに付属する権利は、
専有部分と分離して分割し又は強制換価処分の訴え
の目的とすることができない。
第6条の 1〔共用部分持分等の変更〕
1区分に属する共用部分持分の変更の場合には、
公示に服する権利又は公示を認められる
権利で区分を目的とするものは、原因がいかなるものであれ、公示され、区分から分離され
るものについては消滅し、当該権利の対象となるものの持分に拡張される。
2共用部分の任意若しくは強制譲渡、
又は取得から生じる区分所有の範囲の変更の場合に
は、公示に服し、又は公示を認められる地役権以外の権利で区分を目的とするものは、譲渡
される財産については消滅し、取得される財産に拡張される。
3ただし、前項に定める拡張は、当初の公示がなされた順位による。この拡張は、取得さ
れる財産が移転の日において同一の性質のすべての権利から自由である旨の記載、
又は当該
財産がそれらの権利から自由になった旨の管理者 syndic 又は債権者による記載が不動産票
fichier immobilier に公示されることによって生じる。この記載が不正確である場合には、
公示手続が拒絶される。
第7条〔専有部分間の障壁の帰属〕
専有部分を分離する障壁 cloisons 又は壁 murs で躯体に含まれないものは、
隔離する場所
の間の互有と推定される。
第8条〔区分所有規約〕
1区分所有明細一覧書を含む又は含まない合意による区分所有規約が、専有部分及び共
用部分についての用途並びにそれらの使用収益の条件を定める。規約は、同様に、本法律
の規定を留保して、共用部分の管理に関する規則を定める。
2区分所有規約は、区分所有者の権利に対して、証書に定められた不動産の用途、その86性質又はその位置から正当とされる制限に反するいかなる制限も課すことができない。
第8条の 1〔駐車区画の売却〕
1駐車場の設置を課する都市計画に関する地域プラン又は他の都市計画文書に適合する
ものとして建築許可がなされている不動産の区分所有規約は、区分所有建物内で排他的
に駐車場としての使用に充てられる区分を売却する際に、区分所有者に優先権を付与す
る条項を規定することができる。
2この場合、売主は、一つまたは複数の駐車場としての使用に充てられる区分の売買契
約の締結に先立ち、管理者に受領証明付書留郵便で価格と売買条件を示して売却の意向
を知らせなければならない。
3この情報提供は、直ちに、管理者により、売主の負担において、受領証明付書留郵便
で各区分所有者に知らされる。この情報提供は、その通知の時より 2 月間、申込みとし
ての効力を有する。
第9条〔専有部分の使用・収益・処分〕
1各区分所有者は、自己の区分に含まれる専有部分を処分する。各区分所有者は、他の区
分所有者の権利及び不動産の用途を侵害しないことを条件として、専有部分及び共用部分を
自由に使用し、収益する。
2ただし、いかなる区分所有者も、その承継人も、必要な場合であって、かつ、区分に含
まれる専有部分の用途、構成又は使用収益が永続的な仕方で変質しない場合には、第 25 条
e)、 g)、h)、i)及び n)、第 26 条 d)及び第 30 条によって総会 assemblée générale
によって適正かつ明示的に決定された工事 travaux の執行を、
その専有有部分の内部であっ
ても、妨げることができない。
3専有部分への立入りを要する工事は、保安上又は財産の保全上の必要がある場合を除い
て、その実施の開始の少なくとも 8 日前に区分所有者に通知しなければならない。
4工事の執行の結果、あるいはその区分の価値の確定的減少によって、あるいは一時的で
あれ重大な使用収益の支障によって、あるいは損壊によって損害を受ける区分所有者は、補
償の権利を有する。
5この補償は、区分所有者全員の負担であって、第 25 条 e)、g)、 h)及び i)及び第
26 条 d)及び第 30 条に定める条件に従って決定された工事である限り、工事費への各分担
に比例して配分される。
第 10 条〔負担義務〕
1区分所有者は。集団的供用物 services collectifs 及び共通の設備要素がもたらす負担
charges を、それらの供用物及び設備要素が各区分に供する効用に応じて分担する義務を負
う。
2区分所有者は、共用部分の保存 conservation、維持 entretien 及び管理に関する負担
を、第5条の規定から帰結される価額のような、自己の区分に含まれる専有部分の相対的価
額に応じて分担する義務を負う。
3区分所有規約は、各種類の負担について、各区分にかかわる負担部分を定める。8742002 年 12 月 31 日から公示されるすべての区分所有規約は、共用部分の持分及び負
担の配分を決議することを可能にする考慮要素と計算方法を定める。
第 10 条の 1〔例外〕
1第 10 条 2 第 2 項の規定にもかかわらず、以下〔の事項に関する負担〕については関
係する区分所有者のみに課せられる。
a)管理組合によって説明された必要費、特に、区分所有者に対する債権回収のための催
告費用、督促費用、催告からの抵当権設定費用。執行官文書の作成費用及び報酬、債
務者の負担となる回収又は取立費用についても同様である。b)区分又は区分の一部の有償での移転に際して国家機関に対してなされなければならな
い給付に対する管理者の報酬
c)第 25 条 g)の適用により専有部分に対してなされる集団的利益のための工事費用
2管理組合に対する訴訟手続において、
裁判官にその主張を認められた区分所有者は、
たとえ自らの請求がなくても、手続費用の共同負担を免れ、その他の区分所有者がこれ
を負担する。
3ただし、裁判官は、訴訟当事者の衡平又は経済的状況を考慮してこの点につき他の
決定をなし得る。
第 11 条〔負担部分の変更〕
1以下の第 12 条の規定を除き、負担の配分は、区分所有者の全員一致によってでなけれ
ば、変更することができない、ただし、工事又は取得若しくは処分の行為が、法律が要求す
る多数で決議する総会によって議決されるときは、
そのようにして必要となる負担の配分の
変更を同一の多数で決議する総会によって議決することができる。
21 つの区分の一個又は数個の部分の分離譲渡の場合には、それらの部分の間の負担の配
分は、それが区分所有規約によって定められていないときは、第 24 条に定める多数で決議
する総会の承認に服する。
3前2項に定める場合において、
負担の配分の基礎を変更する総会の決定がない場合には、
すべての区分所有者は、必要となった新たな配分を行なわせるため、不動産所在地の大審裁
判所に申立てを行うことができる。
第 12 条〔負担部分の改訂の訴え〕
1不動産登記簿への区分所有規約の公示の日から 5 年内に、各区分所有者は、自己の区分
に対応する負担が第 10 条の規定に従う配分から算出される部分を、4 分の 1 を超えて上ま
わる場合、
又は他の区分所有者のそれに対応する負担部分が 4 分の 1 を超えて下まわる場合
には、負担の配分の改定を裁判上請求することができる。訴えが認められる場合には、裁判
所は、新たな負担の配分を行なう。
2区分の所有者は、同様に、不動産登記簿への区分所有規約の公示後に生じた区分の最初
の有償の移転から 2 年の期間の満了前に、この訴権を行使することができる。
第 13 条〔特定承継人に対する規約の効力〕88区分所有規約及びその変更は、不動産登記簿へのその公示の日からでなければ、区分所有者
の特定承継人に対抗することができない。
第 14 条〔管理組合〕
1区分所有者の団体は、民事上の人格を有する組合 syndicat として設立される。
2管理組合は、本法律の規定によって規律される協同組合 syndicat coopératif の形式を
とることができる。区分所有規約は、この管理の態様を明示的に規定しなければならない。
3管理組合は、必要がある場合には、区分所有規約を定め、変更する。
4管理組合は、不動産の保存及び共用部分の管理を目的とする。管理組合は、建築の瑕疵
vice de construction 又は共用部分の維持の欠如によって区分所有者又は第三者に生じた
損害について責任を負う。ただし、すべての求償の訴え action récursoire を妨げない。
第 14 条の 1〔管理組合の予算〕
1共用部分及び不動産共用施設の維持、運営及び管理のための支出に充てるため、管理組
合は毎年議決によって予算を定める。予算を議決するため区分所有者の総会は、前年度決算
日から 6 か月以内に招集する。
2区分所有者らは管理組合に対し、議決された予算の 4 分の 1 に等しい資金を支払う。た
だし、総会はこれと異なる方法を定めることができる。
3資金は各四半期の最初の日又は、総会で定めた期間の最初の日に請求される。
14 条の 2〔同条〕
1コンセイユ・デタのデクレによって定められた項目にかかわる工事の支出については、
予算に含まれない。
2この工事に必要な支出については、総会により議決された方法に従い請求される。
14 条の 3〔管理組合の会計〕
1予算、負担及び、運用による利益、財政状況、及び予算の付随事項を含む管理組合の会
計は、デクレにより定められた特別の会計準則に一致するように作成される。計算書類は、
前年度に認められた会計執行書類と比較されるように提示される。
2予算書に示された管理組合の負担及び収益は、管理者により、規約とは別に、法的な合
意 engagement juridique として記録される。合意は、規約から派生したものである。ただ
し、少なくとも 10 個の居住用、事務所用または商業用の区分から構成される組合であり、
その 3 年度分の平均予算が 15000 ユーロ以下のものは、会計を複式簿記にすることができな
い。その合意は、会計年度末に確認され得る。
3会計規則の改正及び不動産登記制度への適用に関する 1998 年 4 月 6 日の法律第 1 条な
いし第5条の規定は、区分所有者の管理組合の会計には適用されない。
第 15 条〔管理組合の訴訟能力〕
1組合は、原告としても被告としても、区分所有者のうちのある者に対しても、裁判上行
為する資格を有する。組合は、特に不動産にかかわる権利の保護のために、区分所有者の 189人又は数人と共同して、又は共同しないで、行為することができる。
2ただし、すべての区分所有者は、管理者に通知することを負担として、自己の区分の所
有又は使用収益に関する訴権を一人で行使することができる。
第 16 条〔管理組合による処分行為〕
1共用部分の取得若しくは譲渡又は共用部分の利益若しくは負担におけるすべての不動
産物権の設定は第6条、
第 25 条及び第 26 条の規定に従って定められることを条件として、
管理組合自身が、その名において有効に行なうことができる。
2管理組合は、専有部分を有償又は無償で自ら取得することができる。専有部分は、そ
のためにその専有的性質を失わない。管理組合は、専有部分を、前項に定める条件に従っ
て譲渡することができる。管理組合は、自らが取得した専有部分の名義で総会において議
決権を有しない。
第 16 条の 1〔共用部分譲渡代金の分配〕
1譲渡される共用部分の代価に相当する金額は、
その区分のうちに当該共用部分持分が存
在する区分所有者の間で、かつ、各区分に属する共用部分の割合に比例して法律上当然に分
配される。
2各区分所有者に帰属する代価の部分は、
区分に設定されたすべての担保の存在にかかわ
らず、管理者からその者に直接に交付される。
3この規定は、公用収用法典法第 L.12 条の 3 の規定の適用を除外しない。
第 16 条の 2〔公用収用の場合〕
1本法律に従う建築不動産、建築不動産群又は不動産集合体の公用収用は、区分所有
者、関係する不動産物権者に対して区分ごとに行われ宣言される。他の区分者との共有
である共用部分を目的として管理組合に対してなされる場合も同様である。
2収用が、区分所有者全体の共用部分のみを目的とする場合は、区分所有者及び不動
産物権者を代表する管理組合に対して行われ宣言される。
3収用が管理組合に対して行われ宣言される場合、
第 16 条の 1 が補償金の分配に対し
て適用される。
第2節 区分所有の管理
第1款 総則
第 17 条〔機関〕
1組合の決議は、区分所有者の総会において行なう。その執行は、管理者に委ねられる。
管理者は、場合によって管理組合理事会 conseil syndical の監督下におかれる。
2最初の総会の集会前に管理者が区分所有規約又は当事者間の他のすべての合意によっ
て選任された場合、その選任は、この最初の総会において追認されなければならない。
3選任が行なわれない場合、管理者は、1 人又は数人の区分所有者の申立てを受けた大
審裁判所長によって選任される。90第 17 条の 1〔同上〕
1区分所有不動産の管理が協同組合方式の管理組合に委ねられた場合、管理組合理事会
の設置は義務的であり、管理者は管理組合理事会の構成員により構成員の中から選出され
る。この者〔管理者〕は、自動的に、管理組合理事会の理事長となる。他方、管理組合理
事会は、同様の要件で、管理者の職務不能の場合にこれを補完する副理事長を選任するこ
とができる。
2最初の総会の集会前に管理者が区分所有規約又は当事者間の他のすべての合意によっ
て選任された場合には、
その選任は、
この最初の総会において追認されなければならない。
3協同組合方式の管理組合の形式の採用又は廃止は第 25 条の多数決により、
万一の場合
は第 25 条の 1 の多数決により決定される。
第 18 条〔管理者の任務・権限〕
1管理者は、本法律の他の規定又は総会の特別の議決 délibération spéciale によって管
理者に付与される権限とは別に、以下の第 47 条で規定された公の行政規則〔コンセイユ・
デタの議を経たデクレ〕で定められた条件に従い、以下の任にあたる。
‐区分所有規約の規定及び総会の議決の執行を保証すること
‐不動産を管理し、その保存、その保守及びその維持に備え、かつ、緊急の場合には、不動
産の保護に必要なすべての工事の施工を自らの発意によって行なわせること
‐デクレにより定められた内容を記載した管理簿を作成し保存すること
‐組合の予算、会計及びその付属書類を作成して総会に諮り、管理組合ごとに管理組合に対
する各区分所有者の経理状況を明らかにする別個の会計勘定を設けること。
‐最初に選任されたとき及び少なくとも 3 年ごとに、
次期 3 年間に必要となる共用部分及び
共同の設備要素の維持又は保全工事で未だ総会で議決されていないものに対処するための
特別積立金を設定する決議を総会に諮ること。この議決は、本法律第 25 条に掲げる多数に
よって行なう。
‐最初に選任されたとき、及び少なくとも 3 年ごとに、組合が受領するすべての金額又は有
価証券を払い込む銀行又は郵便口座を組合の名で開設するか否かを総会に諮ること。
この決
議は、本法律第 25 条に掲げる多数により、場合によっては、不動産が、不動産または営業
財産に関する一定の取引に関連する活動の条件を規制する 1970 年 1 月 2 日の法律第 9 号に
より管理されている場合は、またはその活動が組合財産に関する職業上の規制に従う管理組
合により管理されている場合は、25 条の 1 の多数決によって行う。管理者がこの義務に違背
すると、選任後 3 か月を経過すればその委任契約は当然に無効となる。ただし、管理者が善
意の第三者と行った行為はなお効力を有する。
‐前第 15 条及び第 16 条に掲げるすべての民事上及び裁判上の行為、
区分所有規約の区分明
細一覧書又はそれらの証書になされた変更の公示について組合を代理すること。
この場合に
は、行為又は公示の申請に各区分所有者が関与することを必要としない。
‐県における国家代表者及び区分所有者に、直ちに、少なくとも共有部分の 3 分の 2 の持分
を有する区分所有者の 3 分の 2 が環境法典第 L.525 条の 16 のIIの条件により委棄したとい
う情報を知らせること。区分所有者への通知は、明白に同法典第 L.525 条の 16 の 1 の規定
に言及していること。91‐不動産内部の電気通信網がテレビサービスを行っており、
設備がデジタル地上波によるテ
レビ全国サービスへのアクセスを可能にするものである場合、
区分所有者にこの可能性を知
らせること、及び区分所有者が、通信の自由に関する 1986 年 9 月 30 日の法律第 1067 号第
34 条の 1 第甲に規定されているようなデジタル「アンテナサービス service antenne」の提
供を受けられるサービス提供者の住所を知らせること。
視聴覚放送の現代化及び未来型テレ
ビに関する 2007 年 3 月 5 日の法律第 309 号の公布の日から 2011 年 9 月 30 日までは、この
情報は、管理者から区分所有者に対して定期的に送付される負担明細書において提供され
る。
2管理者は、その管理について専ら責任を負い、他の者をその替わりとすることができな
い。総会のみが、第 25 条に定める多数で一定の目的のための権限の委任を許可することが
できる。
3原因の如何を問わず、
管理者に支障がある場合又は管理者に組合の権利及び訴権の行使
の懈怠がある場合で、かっ、区分所有規約に定めがない場合には、裁判所の決定によって仮
管理者 administrateur provisoire を選任することができる。
第 18 条の 1A〔管理者の特別報酬〕
第 14 条の 2 にあげられており、第 24 条、第 25 条、第 26 条、第 26 条の 3、第 30 条に従
い区分所有者の総会で議決された工事のみが、管理者のための特別な報酬の対象となる。こ
の報酬は、当該工事と同じ総会で、同じ規定に従い議決される。
第 18 条の 1〔経理書類の審査〕
会計審査を行なうべき総会を招集し開催されるまでの期間に、
管理者は少なくとも1営業日、
総会で定める態様に従って区分所有の諸経費の証明書類特に請求書、進行中の供給・業務契
約及びその変更証書ならび諸経費の各種別の到達量及び単一又は一括みなし価格を区分所
有者の閲覧に供する。総会は、先に掲げる書類を審査するため、日を決めて管理組合理事会
が管理者を訪ねて審査を行うことを決めることができる。この場合には、すべての区分所有
者は、管理組合理事会に加わることができる。ただし、総会においてこの手続に故障を申し
立てたすべての区分所有者は、同日に個別に書類を審査することができる。
第 18 条の 2〔管理者の交代による引継ぎ〕
1管理者の交代の場合、旧管理者は、新管理者にその職務の終了から起算して 1 月の期間
内に会計の経理、
直ちに支払い可能な資金の全額及び組合の書類及び文書の全体を引き渡す
義務を負う。
旧管理者が管理組合のすべてまたは一部の文書を専門の業者に委ねることを選
択した場合は、同じ期間内に、業者に新しい管理者の住所を知らせてこの変更を通知する義
務を負う。
2旧管理者は、前項の期間の満了に続く 2 月の期間内に、会計の監査の後支払うことがで
きる資金の残額を新管理者に払い込み、
区分所有者の会計状況書並びに組合の会計状況書を
供与する義務を負う。
3催告 mise en demeure を行なったが成果なく終った後に、新たに選任された管理者又は
管理組合理事会理事長は、急速審理として裁判する大審裁判所長に対して、本条前 2 項に掲92げる書類及び資金並びに催告の日から起算して支払うべき利息の引渡しを罰金強制のもと
で訴求することができる。
第 19 条〔法定抵当権・先取特権〕
1各区分所有者に対する組合のすべての性質の債権は、概算払い provision であるか精算
払い paiement définitif であるかを問わず、その区分に対する法定抵当権 hypothèque
légale によって担保される。抵当権は、請求可能となった負債を弁済すべきことについて
催告を行ない成果なく終ったときから、又は区分所有者が本法律第 33 条の規定を援用した
ときから、登記することができる。
2管理者は、この抵当権を組合のために登記させる資格を有する。管理者は、負債が消滅
した場合には、総会の関与なしに、有効に抵当権の解消 mainlevée に同意し、かつ、その抹
消 radiation を申請することができる。
3不払いの区分所有者は、本案の訴訟の場合であっても、充分な弁済の提供又は同等の担
保を提供することを条件に、
急速審理事件として裁判する大審裁判所長に抵当権の全部又は
一部の解消を求めることができる。
4いかなる登記 inscription も、5 年を超えて請求可能であった債権については、申請す
ることができない。
5第 1 項に掲げる債権は、そのほか、賃貸人のために民法典第 2332 条第 1 号に定める先取
特権を享受する。この先取特権は、その場所に備えられるすべてのものに及ぶ。ただし、そ
の場所が家具なし賃貸借 location non meublée の目的である場合には、その限りではない。
6この最後の場合には、先取特権は、賃借人が支払うべき賃料に及ぶ。
第 19 条の 1〔工事費の分担と特別先取特権〕
第 10 条及び第 30 条に掲げる諸経費及び工事は。民法典第 2374 条に定める不動産特別先
取特権によって担保される。
第 19 条の 2〔履行強制の方法〕
1支払期日に第 14 条の 1 に規定された概算払いがなされなかった場合、同条に規定され
た他の概算払いでまだ支払い期日が来ていないものは、受領証明付書留郵便による催告が、
その名宛人の住所における書留の最初の配達の翌日から 30 日以上たっても成果なく終わっ
た後に直ちに請求可能となる。
2区分所有者の総会による予算の議決がなされた後で期限経過後に、
急速審理事件として
裁判する大審裁判所長は、第 14 条の 1 に規定された概算払いの支払いをせず請求可能とな
った区分所有者に支払いを命じることができる。オルドナンスは、仮の履行を伴う。
3履行方法が、支払いのなかった区分所有者の債務者に対する連続して履行すべき債権、
特に賃料債権又は占有に対する賠償金債権を目的とする場合、この方法はオルドナンスの結
果生じる管理組合の債権が消滅するまで行われる。
第 20 条〔区分譲渡代価の支払いに対する故障の申立て〕
1区分の有償移転にあたり、
売主が管理組合との関係で一切の債務の負担を負わないこと93を証明する 1 月以内の日付の管理者の証明書を公証人に提示しなかった場合には、
公証人か
ら不動産の管理者に対して受領証明付書留郵便で移転の通知をしなければならない。
管理者
は、この通知の受領から 15 日の期間の満了前に、旧所有者が支払うべき金銭の弁済を得る
ために、後に掲げる限度における金員の払込みに対して、選定住所に、裁判外の行為によっ
て故障の申立てを行なうことができる。
この故障の申立ては、
不動産所在地の大審裁判所の管
轄区域における住所の選定を含み、債権の額及び原因を掲げる。これに反する場合には、無効
とする。故障の申立ての効果は、このように掲げられる額に限定される。
2適式に故障の申立てを行なった管理者に対しては、
前項の規定に反して行われたすべて
の代金の支払い又は任意若しくは裁判上移転を対抗することができない。
3適式の故障申立ては、管理者のために第 19 条の 1 に掲げる先取特権を生じさせる。
第 21 条〔管理組合理事会〕
1すべての管理組合において、管理組合理事会が管理者を補佐し、かつ、その管理を監督
する。
2管理組合理事会は、この他、諮問され、又は自ら取り上げた組合に関するすべての問題
について、管理者又は総会に対して意見を述べる。区分所有者の総会は、第 25 条の多数に
よって、管理組合理事会への諮問が義務的となる取引及び契約の額を定める。
3管理組合理事会は、
組合の管理及び一般的に区分所有の管理に関わるすべての書類若し
くは文書、書状又は帳簿について、その請求により、かつ、管理者への通知の後閲覧し、複
写をすることができる。
4管理組合理事会は、そのほか、その請求に基づいて組合に関するすべての文書を受領す
る。
5管理組合理事会の構成員は、総会により、区分所有者、第 23 条第 1 項に定める場合に
は組合員、その尊属又は期限付きの取得者、その配偶者、民事連帯協約のパートナー、そ
の法定代理人、またはその用益権者の中から選任される。法人が管理組合理事会の構成員
として指名された場合、法定代理人または定款による代理者がいないときは、特にこの問
題につき権限を与えられた代理人により代理され得る。
6管理者、その配偶者、民事連帯協約のパートナー、その尊属又は卑属、その事務担当者
は、たとえ区分所有者、組合員、期限付き取得者であっても、管理組合理事会の構成員とな
ることができない。本項の規定は、協同組合には適用されない。
7管理組合理事会は、その構成員の中からその議長を選ぶ。
8総会が、
候補者の欠如又は要求される多数を候補者が得なかったことによって管理組合
理事会の榊成貝の選任に至らなかったときは、
それについて明示的に記載した議事録が 1 月
の期間内にすべての区分所有者に通知される。
9協同組合の場合を除いて、総会は、第 26 条に定める多数による特別決議をもって、管
理組合理事会を設けないことを決議することができる。反対の決議は、すべての区分所有者
の票の多数によって行われる。
10要求される多数によって総会による選任がなされない場合には、前項の規定を留保し
て、裁判官は、一人若しくは数人の区分所有者又は管理者の申立てによって、関係者の承諾
を得て管理組合理事会の構成員を選任することができる。裁判官は、同様に、管理組合理事94会の設置の不可能を認定することができる。
第 22 条〔総会〕
1区分所有規約は、本条の規定並びに後の第 24 条から第 26 条の規定を除き、総会の運営
規則 régles de fonctionnement 及び権限を定める。
2各区分所有者は、共用部分におけるその持分に相応する数の議決権 voix を有する。た
だし、ある区分所有者が共用部分の 2 分の 1 を超える持分を保有するときは、その者が有す
る議決権の数は、他の区分所有者の議決権の総和に縮減される。
3すべての区分所有者は、その投票権 droit de vote を受任者に委任することができる。
受任者は、組合の構成員であるか否かを問わない。各受任者は、その資格がどのようなもの
であろうと、3 を超えて投票の授権を受けることができない。ただし、受任者は、自ら有す
る議決権とその委任者のそれとの合計が組合の議決権の 5 パーセントを超えない場合には、3
を超える投票の授権を受けることができる。
受任者はこの他、
主たる組合 syndicat principal
の総会に出席し、かつ、その委任者のすべてが同一の下部組合 syndicat secondaire に属す
る場合には、3 を超える投票の授権を受けることができる。
4管理者、その配偶者、民事連帯協約のパートナー及びその事務担当者は、総会を司会す
ることも、区分所有者を代表するために委任を受けることもできない。
第 23 条〔所有組合、不分割・用益権の場合の議決権行使〕
1数個の区分がそれらの区分の所有組合société propriétaireを形成した者に付与され
ているときでも、各組合員は、管理組合の総会に参加し、その者が使用収益する区分に相応
する共用部分の部分に等しい数の議決権を有する。
21 つの区分が不分割〔共有〕indivision 又は用益権 usufruit の場合には、利害関係者
は、区分所有規約に反対の定めがある場合を除いて、共通の受任者 mandataire commun に
よって代表されなければならない。この受任者は、一致がない場合には、利害関係者の 1 人又
は管理者の申請によって大審裁判所長が選任する。
第 24 条〔総会の議決要件〕
1総会の決議は、法律に特段の規定のない限り、出席し、又は代表される区分所有者の議
決権の多数によって行なわれる。
2建物の躯体又は必須の設備要素に影響しない限りでの、
身体障碍者又は身体能力減退者
の移動を容易にする工事は、出席し、又は代表される区分所有者の議決権の多数によって行
われる。
3共用部分又は外観に対して行われる、建物の躯体又は必須の設備要素に影響しない限り
での、身体障碍者又は身体能力減退者の移動を容易にする工事は、当該工事が一部の者の費
用において実施される場合には、その工事の許可は前項と同様の多数決によってなされる。
4区分所有規約が不動産の一部の維持のための支出又はある設備要素の維持及び運営の
ための支出を一定の区分所有者のみの負担とするときは、当該規約によって、それらの区分
所有者のみがそれらの支出に関する決議について投票に加わることを定めることができる。
それらの者はそれぞれ、当該支出の分担に比例する数の議決権をもって投票する。95第 24 条の 1〔屋内電気通信〕
1不動産内の電気通信網がテレビサービスを供給している場合、
デジタル地上波による鮮
明なテレビの全国放送へのアクセスがまだ可能な設備となっていない場合及び電気通信事
業者がデジタル方式の提供を申し出た場合には、
電気通信の自由に関する 1986 年 9 月 30 日
の法律第 86‐1067 号第 34 条 2 項第 2 文に規定するような、
すべての商業的提案の検討が総
会の議題となる。
2本法第 25 条に関わらず、
この商業的提案は第 24 条第 1 項の規定する多数によって議決
される。
第 24 条の 2〔高速電気通信〕
1不動産が光ファイバーによる高速電気通信線の設備を備えていない場合、電気通信業者
による、
その費用での、
郵便電信法典 L.第 33 条の 6 及び第 34 条の 8 の 3 に従った一般大衆
向け高速電気通信網の居住者全体の利用を可能とする設備を設置するとの提案はすべて、次の総会の議題となる。
2総会は、第 1 項によるすべての提案につき決議しなければならない。
3本法律第 25 条の規定とは異なり、この提案受入れの議決は、第 24 条第 1 項の多数によ
る。
第 24 条の 3〔テレビのアナログ放送からデジタル放送への移行〕 省略
第 24 条の 4〔省エネルギー又はエネルギー効率を高めるための工事〕
1暖房又は冷房の集合設備を備えたすべての不動産について、管理者は、省エネルギーの
ための工事計画又はエネルギー効率に関する契約の問題を、
建設居住法典第 L.134 条の 1 に
規定されたエネルギー効率に関する診断、
又は同法典第 L.134 条の 4 の 1 に規定されたエネ
ルギー診査の実施を行う機関に従い区分所有者の総会の議題にする。
2上記の契約の締結を総会の決議にかける前に、
管理者は複数の業者で競争入札を行い管
理組合理事会の意見を聴取する。
3コンセイユ・デタの議を経たデクレが本条の適用条件を定める。
第 24 条の 5〔電気自動車の充電設備の設置〕
不動産が私的な使用のための安全にアクセスできる駐車場を有しているが、この場所
に電気自動車又はハイブリッド自動車の充電設備又はこれらの自動車に個別に電気を供
給する内部の電気設備を有していない場合、管理者は、電気自動車又はハイブリッド自
動車の充電のための工事及び後の電気配線の管理の問題、同様に、これらのための見積
もりの提示を区分所有者の総会の議題にする。
第 24 条の 6〔委棄〕
1環境法典第 L.515 条の 16IIで規定された区域の一つに不動産が位置する場合、管理者
は、同条に規定された区分所有者による〔公共目的のための〕委付権の行使に関する情96報を区分所有者の総会の議題にする。
2管理者は、議題と同時に、委付された区分の現況明細書を通知する。この明細書には、
委付権を行使した区分所有者の数とそれらの者の共用部分の持分が含まれており、
本法律第
18 条第 9 項と環境法典第 L.515 条の 16 の 1 の規定に言及する。
第 25 条〔特別多数決〕
以下の事項に関する決議は、すべての区分所有者の議決権の多数によってでなければ議
決できない。
a)第 24 条に掲げる決定の 1 つを採択するすべての権限の委任
b)共用部分又は不動産の外観 aspect extérieur にかかわる工事で、不動産の用途に合
致するものを自己の費用で実施することについて一定の区分所有者に与えられる許可
c)1 人又は数人の管理者及び管理組合理事会の構成員の選任又は解任
d) 共用部分又は共用部分に付随する権利に関する処分行為が、
共通の庭地その他の地役
権の設定又は互有の権利の譲渡に関する義務のような法令上の義務から生ずるとき、
それらの行為が実行される条件を定めること
e)法令上の規定によって義務的とされる工事の実行及び施工の方法
f)一個又は数個の専有部分の使用の変更によって必要となる先の第 10 条第 1 項に掲げ
る負担の配分変更
g) 第 24 条に定める多数決に関わるものでない、省エネルギー又は温室ガス排出削減の
ための工事。これらの工事は、専有部分について関係する区分所有者の費用で行われ
る集団的利益のための工事を、当該区分所有者がそれまでの従前の年に同等の工事を
行ったことを証明できる状態にある場合を除いて含み得る。専有部分についての集団
的利益のための工事の実施のため、管理組合は、工事の受領まで請負工事の注文者と
しての権限を行使する。h)1967 年 7 月 12 日の住宅改良に関する法律第 561 号第 1 項の適用によって定める規定
によって定められる衛生、安全及び設備基準への住宅の適合を確保するための、共用
部分における配管工事、電線の被覆工事、壁体工事
i)衛生上の要請によるダストシュートの撤去
j)共用部分にかかわる集合アンテナ又は共用部分にかかる建物内部の電気通信網の設
置又は変更
k)共用部分への常時立入について警察及び国家警察に許可をあたえること
l) 私的な使用のための安全にアクセスできる駐車場における電気自動車又はハイブリ
ッド自動車の充電を可能にするための内部の電気設備、
又はこれらの自動車に個別に
電気を供給する内部の電気設備の設置又は改修
m) 個別水道メーターの設置
n) 人又は財への危害を予防するために共用部分について行われる工事
o) 熱エネルギーメーター又は暖房費用の分配盤の設置
p) 建築居住法典第 L.126 条の 1 の 1 に規定された要件で、共用部分の保護のための映像
を安全維持のためのサービスに送ることについての承認97第 25 条の 1〔同上〕
1区分所有者らの総会において前条に定める多数による議決がなされなかったが、議案が
管理組合を構成する全区分所有者の議決権の 3 分の 1 の賛成を集めた場合には、同じ総会に
おいて直ちに行われる 2 回目の投票において、前第 24 条に定める多数によって議決するこ
とができる。
2議案が、全区分所有者の 3 分の 1 の賛成を集めなかった場合においては、総会後 3 カ月
以内に新たな総会が招集された場合には、第 24 条の定める多数によって議決することがで
きる。
第 26 条〔同上〕
1次の各事項に関する決議は、組合構成員の過半数及び議決権の 3 分の 2 以上によって
行われる。
a)不動産の取得行為及び第 25 条 d)で規定する以外の処分行為
b)共用部分の収益、使用及び管理に関する範囲内での区分所有規約の変更、又は必要な
場合にはその制定
c)第 25 条 e)、g)、h)、i)、j)、m)、n) 又は o)で規定する以外で、改造、付加
又は改良を内容とする工事d)水道供給契約の個別化の要求及び連帯及び都市の再生に関する 2000 年 12 月 31 日の法
律第 1208 号 93 条により規定された、
そのような個別化のための調査若しくは工事の実施e)不動産にアクセスする門の開放方法。不動産全体を施錠する場合には、当該施錠は区
分所有規約により許可された活動の実施と両立し得るものでなければならない。
開放の
決定は次回の総会の開催までの間有効である。f)管理人室の廃止及び管理人に割り当てられている住宅の所有権が管理組合に属してい
る場合にその譲渡が不動産の用途又は共用部分の使用方法を侵害しない限りでの管理
人宅の譲渡
2総会は、いかなる多数によっても、区分所有規約に定められた専有部分の用途又はそ
の使用収益の態様に関する変更を区分所有者に課すことができない。
3総会は、すべての区分所有者の全員一致によるのでなければ、不動産の用途の尊重に
とってその保存が必要な共用部分の譲渡を議決することができない。
4本条第 1 項に定める多数の条件に従って承認されなかった場合でも、第 1 項 c)に掲
げる改良工事については、出席又は代理された区分所有者の議決権の 3 分の 2 以上を代表
する組合構成員の多数の承認を得たものは、そのために招集される新たな総会で決議する
ことができる。この総会は、後者の多数によって決する。
第 26 条の 1 及び第 26 条の 2 削除
第 26 条の 3〔例外〕
第 26 条第 3 項の規定に反してなされた場合であっても、
市街区の活性化協定の実施に関す98る 1996 年 11 月 14 日の法律第 987 号に適合するために、共用部分の譲渡及び当該共用部分
の上になされた工事については、
総会は前条第 1 項の定める二重多数決によってこれを追認
することができる。
第 26 条の 4〔管理組合による貸借〕
1区分所有者の総会は、全員一致の場合を除いて、共用部分に関して適法に議決された工
事、適法に議決された専有部分についての集団的利益のための工事、管理組合の目的に合致
し適法に議決された取得行為の資金調達のため、
管理組合の名で銀行からの借入を決議する
ことができない。
2第 1 項にもかかわらず、総会は、共用部分に関する工事又は専有部分についての集団的
な利益のための工事の議決に必要な議決要件と同じ多数決で、
この借入の唯一の目的が議決
された工事実現のための管理組合に認められた公的な補助金の事前資金調達である場合に
は、管理組合の名で銀行からの借入を決議することができる。
3第 1 項にもかかわらず、総会は、同様に、共用部分に関する工事又は専有部分について
の集団的な利益のための工事の議決、
管理組合の目的に合致し適法に議決された取得行為に
必要な議決要件と同じ多数決で、
それに参加することを決めた区分所有者のみの利益のため、
管理組合の名で銀行からの借入を決議することができる。
4借受に参加することを決めた区分所有者は、その決定を、管理者に、区分所有者の持分
の範囲内で、借入の額を明確にして通知しなければならない。管理者への通知は、総会議事
録の反対区分所有者又は総会欠席区分所有者への通知から 2 月以内、
他の区分所有者につい
ては総会の開催日から 2 月以内になされなければならず、
この期間内に通知がなければ失権
する。
第 26 条の 5〔同上〕
総会の議題に付加された貸借契約の計画の一般的条件及び特別条件に合致する第 26条
の 4 に適用により締結された貸借の契約は、
第 42 条第 2 項に規定された 2 月の経過前に
は、管理者により署名され得ない。
第 26 条の 6〔同上〕
1第 26 条の 4 による借入額は、それに参加することを決定した区分所有者の費用の配分
額の合計を超えることができず、銀行により、管理者により代表される管理組合に支払われ
る。
2借入の利益を受ける区分所有者のみが、以下の事項に寄与する義務を負う。
1)区分所有者が参加した借入の額に応じた、第 10 条、第 10 条の 1 及び第 30 条に規定
された費用の配分のために作成された一覧表に従った管理組合への支払い
2)区分所有者が参加した借入額に応じた、利子等の配分のため作成された管理者への利
子、費用及び報酬の支払い
第 26 条の 7〔同上〕
1管理組合は、免除及び失権期間なしに、第 26 条の 4 による借入の利益を受ける区分所99有者についてその返済及び利子等の支払いに応じた額につきその不履行の後、
連帯保証によ
り全体を保証される。
2連帯保証は、特別に承認を受けた保険会社、信用機関又は貨幣金融法典第 L.518 条の 1
の機関による書面による合意からしか生じない。
3民法典第 2347 条第 1 号 bis に規定された先取特権について、借入の返済及び利子等の
支払いに対応する金額は工事の負担と同一視される。保証人の支払いの後、同第 1 号 bis に
規定された管理組合の先取特権の行使において保証人は当然に代位する。
第 26 条の 8〔同上〕
第 26 条の 4 による借入を享受する区分所有者の区分を生存者間で移転する場合、この移
転が組合への出資によるものであっても、
区分所有者により借入の返済並びに利子等の支払
いの名目で出された金額は、直ちに請求可能になる。ただし、借主と保証人の合意がある場
合、この金額を支払う義務は新区分所有者にその承諾を得て移転し得る。公証人は、これら
の合意につき管理者に知らせる。
第 27 条〔二次的組合〕
1不動産が数個の建物を含むときは、
それらの建物の一個又は数個を構成する区分の区分
所有者は、特別の集会を開催し、第 25 条に定める多数決の条件に従って、二次的組合と称
する組合をそれらの者の間で設立することを決議することができる。
2二次的組合は、区分所有規約の規定から他の区分所有者のために生ずる権利を除き、そ
の一個又は数個の建物の管理、維持及び内部改良 amélioration interne を確保することを
目的とする。この目的は、第 24 条に定める多数で決する区分所有者全体の総会の合意を得
て、拡大することができる。
3下部組合は、民事上の人格を付与される。二次的組合は、本法律に定める条件に従って
機能する。下部組合は、主たる組合に管理組合理事会が存在する場合には、そこにおいて代
表される。
第 28 条〔分離請求〕
I.不動産が数個の建物を含み、かつ、敷地の所有権における分割が可能であるときは、
a)それらの建物の一個又は数個を構成する区分の区分所有者は、
当該の一個又は数個の建
物を当初の区分所有から引き上げて別個の管理組合を形成することを請求することがで
きる。この請求は、すべての区分所有者の議決権の過半数によって決せられる。
b) それらの建物の一個又は数個を構成する区分の区分所有者は、特別の集会を招集し、
当該総会を構成する区分所有者らの多数によって、
区分所有者当該の一個又は数個の建
物を区分所有から引き上げてそれぞれ別個の組合を形成することを請求することがで
きる。主たる組合の総会では、すべての区分所有者の議決権の過半数によって、特別集
会の決定した要求について決議する。
II.1前 2 項に定める場合、主たる組合の総会は、分離にかかる実質的、法律的かつ財政
的な諸条件を考慮して決議する。
2総会又は新しい管理組合は、不動産の用法に関する事項を除き、主たる区分所有規約、100及び分割により必要となる負担の明細一覧書を適用して第 24 条に定める多数決の手続を進
める。
3主たる組合の総会において、共用設備の創設、管理及び維持のための管理組合連合体を
創設することを定める場合、第 24 条の多数決による。
4主たる管理組合に関する区分所有規約は、
組合のそれぞれが新しい区分所有規約を制定
するまで、適用される。
5分割は、前項の定める決定がなされるまでは、効力を生じない。分割は主たる組合の解
散を生じさせる。
第 29 条〔連合体〕
1区分所有者らの組合は、民事上の人格を有する団体である、組合の連合体の構成員とな
ることができる。この団体の目的は、共益事務の管理のような、共通の設備要素の創設、管
理及び維持にある。
2この連合体は、一ないし複数の管理組合、不動産組合 société immobilière、建築居住
法典第 212 条の 1 以下による居住者組合、及びその他、所有不動産が互いに隣接関係にある
所有者らによる一切の所有者組合の加盟を受け入れることができる。
3区分所有共同組合及び管理者が区分所有者である組合は、
同一の不動産総体に属してい
ない場合でも、その管理並びに区分所有組合活動を容易にするための施設物を創設し、管理
することを目的とする連合体を相互間で設けることができる。
4ある連合体への加盟又は、連合体の創設は、各管理組合の総会において、第 25 条の定
める多数決によって行う。連合体からの脱退は、各管理組合における第 26 条規定の多数決
によって行う。
5連合会の総会は、管理組合の管理者、各組合の法定代理人及び連合会に加盟した所有者
らによって構成される。管理者は、この総会に受任者又は代理人の資格において出席する。
6連合会の決議の執行は、総会において選任された連合会会長が行う。その補佐は、各連
合会の構成員によって選任される。
7連合会会長を補佐しその管理を監督するため、連合体の理事会が設立される。この
理事会は、連合体の各構成員により選任された代表者により構成される。
第2款 荒廃区分所有建物についての特別規定
第 29 条の 1A〔荒廃前区分所有建物〕
1会計年度終了時に、未支払分が第 14 条の 1 及び第 14 条の 2 が要求する額の 25 パーセ
ントに達する場合、管理者は、これを管理組合理事会に伝え、不動産所在地の大審裁判所長
に対して特別受任者 mandataire ad hoc の選任の請求をしなければならない。
2会計年度終了から 1 月以内に管理者が何らの行動も取らない場合、大審裁判所長は、管
理組合の議決権の少なくとも 15 パーセントを代表する区分所有者の同様の〔特別受任者選
任の〕請求に基づき、急速審理事件として裁判を行うことができる。
3大審裁判所長は、水道、エネルギー〔ガス、電気〕の供給契約に基づく金銭、又は総会
で議決されて実施された工事の費用が 6 月にわたって弁済されておらず、かつ債権者が管理
組合に対してした弁済の催告が実効性のないものであった場合、
債権者の同様の
〔特別受任者101選任の〕請求に基づき、急速審理事件として裁判を行うことができる。
4前 3 項で規定された場合において、
当該区分所有建物が存在する県における国家の代表
者、市町村長、場合によっては住宅政策の権限を有する市町村間協力公施設法人
établissement public de coopération intercommunale の長は、請求者により提訴につい
て知らされる。
第 29 条の 1B〔特別受任者の選任・任務〕
1大審裁判所長は、第 29 条の 1A に規定された〔特別受任者選任のための〕要件が満たさ
れていると判断すれば、申請に基づく命令 ordonnance sur requête により、又は急速審理
事件として comme en matière référé 裁判を行い、特別受任者を選任し、その任務を決議す
る。
2大審裁判所長は、特別受任者選任の命令において、費用を管理組合と区分所有者のどち
らに負担させるか、
又は第 29 条の 1A 第 1 項及び第 2 項の場合には両者にどのように分担さ
せるかを明らかにする。同条第 3 項の場合〔手続が債権者により開始された場合〕には、費
用は債権者が負担する。
3特別受任者は、選任から 3 月の大審裁判所長により一度だけ更新できる期間内に、大審
裁判所長に、管理組合の財政状況、不動産の現況の分析、管理組合の財務の均衡を回復する
ための提案、場合によっては建物の安全を保障するための提案、関係者との斡旋 médiation
や交渉 négociation の結果をまとめた報告書を提出する。
4大審裁判所書記課は、この報告書のコピーを、管理者、管理組合理事会、不動産が存在
する県における国家の代表者、市町村長、場合によっては住宅政策の権限を有する市町村間
協力公施設法人の長に送付する。
5管理者は、
この報告書に基づき、
必要な状況改善のための計画を、
次の総会で提案する。
第 29 条の 1〔仮管理者の選任〕
1管理組合の財政上の均衡が大きく崩れ、
又は組合が不動産の保全にあたることが不可能
である場合、大審裁判所長は、急速審理事件として、又は申請に基づいて裁判を行い、組合
の仮管理者を選任することができる。大審裁判所長は、組合の議決権の少なくとも 15 パー
セントを全体で代表する区分所有者、管理者又は大審裁判所検事正によってでなければ、裁
判を開始することができない。
2大審裁判所長は、
区分所有の正常な機能を回復するために必要な措置をとることを仮管
理者の任務とする。そのために、大審裁判所長は、仮管理者に、損害賠償なくして〔管理者
と組合の間の〕委任契約が終了することになる管理者のすべての権限、及び第 26 条 a)及
び b)に定める権限を除いた区分所有者の総会及び管理組合理事会の権限の全部又は一部を
付与する。仮管理者によって召集され主宰される管理組合理事会及び総会は、仮管理者の任
務に含まれないその他の権限を引き続き行使する。仮管理者は、個人として、彼に与えられ
た任務を遂行する。しかし、仮管理者は、任務の良好な遂行のため必要であれば、自ら〔その
選任を〕
提案し報酬を支払うことになる、
大審裁判所長により選任された第三者の補佐を受け
ることができる。
3仮管理者を選任する決定により、その任期が定められるが、それは 12 月を下回っては102ならない。前年に第 29 条の 1B に規定されている報告書が作成されなかった場合には、仮管
理者は、その任務の最初の 6 月が経過した後に、管理組合の財政状況を修復するために適し
た方法を記した中間報告書を作成する。大審裁判所長は、仮管理者、区分所有者、県におけ
る国家の代表者、大審裁判所検事正の請求、又は職権により、何時でも、仮管理者の任務を変
更し、延長し、終了させることができる。
第 29 条の 2〔訴えの停止又は禁止〕
1急速審理事件として裁判する大審裁判所長は、
仮管理者に託された任務の遂行上の必要
から、
かつ、
その者の請求に基づいて、
多くとも 6 月の 1 回のみ更新できる期間を予定して、
以下の債権に関わる債権者のすべての裁判上の訴えを停止又は禁止することができる。
この
裁判により以前の起源を有する契約上の債権について、
‐債務者たる組合に金銭の支払いを命ずることを目的とするもの
‐水道、ガス、電気又は熱の供給契約を金銭の支払いの欠如を理由に解除することを目的と
するもの
2訴追の暫定的な停止又は禁止の裁判は、組合に対するすべての執行方法を差し止め、そ
れを徒過すると失権又は権利の解消をもたらす期間を停止する。
第 29 条の 3〔その余の訴え等の追行〕
第 29 条の 2 に定める条件に従って停止され、禁止され、又は差し止められたもの以外の
訴え又は執行方法は、臨時管理者を参加させた後、組合に対して追行される。
第 29 条の 4〔荒廃区分所有建物の分離〕
1大審裁判所長は、第 28 条に規定された物理的、法律的及び財政的な条件を明記し、区
分所有者の意見が付された仮管理者の報告書に基づいて、
他の方法が区分所有建物の正常の
機能を回復することができない場合、急速審理事件として、分離を決議する条件を宣言する
ことができる。
2急速審理事件として〔分離を〕宣言した大審裁判所長は、分離から生まれた各管理組合
について、管理者選任のための総会を招集する義務を負う者を選任する。
第 29 条の 5〔情報伝達〕
1仮管理者を選任する決定及びこの者により作成された報告書は、
区分所有者及び大審裁
判所検事正に知らされる。
2大審裁判所検事正は、この選任を、関係する不動産が存在する場所の県知事及び市町村
の長に知らせる。大審裁判所検事正は、これらの者の請求があれば、仮管理者により作成さ
れた報告書の結論書 conclusions を交付する。
第 29 条の 6[適用除外〕
商法典第6編の規定は、管理組合には適用しない。
第3節 専有の場所の改良、追加及び増築権の行使103第 30 条〔改良工事〕
1区分所有者の総会は、
第 26 条に定める二重多数決で決議することによって、
不動産の
用 途 に 合 致 す る こ と を 条 件 と し て 、 既 存 の 一 個 又 は 数 個 の 設 備 要 素 の 改 造
transformation、新しい要素の結合 adjonction、共通の使用に充てられる場所の整備
aménagement 又はそのような場所の創設、その他すべての改良を決議することができる。
2総会では、同一の多数によって、企図される工事から区分所有者のそれぞれに生ずる
利益に比例して工事及び後の第 36 条に定める補償の負担の配分を定める。
ただし、
区分所
有者のうちある者がより多くの支出部分を負担するための合意を考慮することができる。
3総会は、同一の多数決によって、改造若しくは創設される共用部分又は要素の運営、維
持及び取替え remplacement の支出の配分を定める。
4総会が第 25 条 b)に定める許可を拒否するときは、すべての区分所有者又は区分所有
者の集団は、大審裁判所によって、裁判所が定める条件に従って第 1 項に掲げるすべての改
良工事 travaux d’amélioration を施工する許可を得ることができる。裁判所は、この他、
他の区分所有者がこのようにして実現される施設物 installation を利用することができる
条件を定める。
区分所有者のうちそれを施工した者にその使用を留保することが可能である
ときは、
他の区分所有者は、
その権能が行使される日付で評価されるそれらの施設物の費用の
負担部分を払い込まなければ、それを利用する許可を得ることができない。
第 31 条 削除
第 32 条〔費用負担義務〕
決議は、第 34 条の規定による場合を除き、区分所有者に、総会で定めた割合に従って、
工事費の支払い、第 36 条に定める補償の負担並びに改造又は創設される共用部分又は設備
の運営、管理、維持及び取替えの支出を分担する義務を負わせる。
第 33 条〔非同意区分所有者の年賦償還〕
1議決に同意しなかった区分所有者に課せられる工事費、それにかかわる財政負担
charges financières 及び補償の部分は、その部分の 10 分の 1 を均等年賦の方法により支
払うものとすることができる。この可能性を享受しようとする区分所有者は、その決定を総
会議事録の通知から2月の間に管理者に知らせなければならず、
知らせない場合は失権する。
組合が工事のために借入を契約しなかったときは、
年賦で支払う区分所有者が負う財政負担
は、民事法定利率に等しい。
2ただし、
前項に掲げる金額は、
当該区分所有者が最初に生前の移転を行う場合において、
その移転が組合への出資の方法で実現される場合には、直ちに訴求可能となる。
3前 2 項の規定は、法令上の義務の尊重によって課される工事に関わるときは、適用され
ない。
第 34 条〔故障の申立て〕
第 30 条に定める決議は、決定された改良が不動産の状態、特性及び用途にてらして過剰
であることの確認を求めて第 42 条第 2 項に定める期間内に大審裁判所に申し立てた故障申104立人である区分所有者に対しては、対抗することができない。
第 35 条〔増築〕
1専有的使用のための新たな場所を創設するための建物の増築又は建築は、その決議が
構成員全員の合意によるのでなければ、組合の発意によって行うことはできない。
2同様の目的のために既存の建物を増築する権利を譲渡することの決議は、
第 26 条に定
める多数によるほか、増築する建物の最上階の区分所有者の合意及び不動産が数個の建物
を含む場合には、
増築する建物を構成する区分の区分所有者の第 26 条の掲げる多数によっ
て決議する特別の集会による承認を得なければならない。
3ただし、建物が都市計画法典第 L.211 条の 1 の適用による都市先買権の設定された圏
内に位置する場合は、この建物の増築する権利を譲渡する議決は、すべての区分所有者の
議決権の過半数による。この議決は、増築する建物の上階の区分所有者の全員一致を必要
とし、不動産が複数の建物を含んでいる場合には、増築する建物を構成する区分の区分所
有者による特別総会での関係区分所有者の多数決での決議を必要とする。
4区分所有規約が前項に定める議決を行うためにより多くの多数決を定めている場合に
は、その条項は、それと同一の多数によってでなければ変更することができない。
第 36 条〔補償〕
第 35 条に定める増築工事の実施の結果第9条に定める条件に対応する損害を受ける区分
所有者は、補償の権利を有する。補償は、区分所有者全員の負担として、共用部分における
各権利の当初の割合に従って配分される。
第 37 条〔互有の権利の専用行使に関する協定〕
1第3条に掲げる付属の権利の1つで互有のものの行使を所有者又は第三者が自己に留保
する協定はすべて、その権利が当該協定に続く 10 年以内に行使されなかった場合には、失
効する。
2協定が本法律の公布以前のものである場合には、10 年の期間は、当該公布から進行す
る。
3この期間の満了前であっても、組合は、第 25 条に定める多数で決議することによって、
この権利の行使に故障を申し立てることができる。ただし、権利の留保が自己の負担におけ
る対価を伴ったことを権利の名義人が証明する場合には、その者にそれを補償する。
4本法律の公布の後のすべての協定で先に掲げる権利の 1 つの留保を含むものは、
建築す
べき場所の規模及び組成及びその施工が区分所有者の椛利及び負担にもたらす変更を表示
しなければならない。これに反する場合には、無効とする。
第4節 再築
第 38 条〔再築、原状回復〕
全部又は一部の損壊 destruction の場合には、被災建物 bâtiment sinistré を構成する区
分の区分所有者の総会は、区分所有者の議決権の多数によって、その建物の再築
reconstruction 又は被害部分の原状回復 remise en état を決議することができる。損壊105が建物の 2 分の 1 未満にかかわる場合には、原状回復は、被災区分所有者の多数がそれを
請求する場合には、義務的である。損害を受けた建物の維持を分担する区分所有者は、同
一の割合及び同一の規則に従って、工事の支出を分担する義務を負う。
第 38 条の 1〔災害復旧〕
1技術的な災害 catastrophe technologique による場合には、共用部分が被災した区分
不動産の管理者は、2 週間以内に区分所有者の総会を招集する。
2この総会は、災害後 2 カ月以内に開催される。管理者に対し、緊急にとるべき必要な
復旧工事を実施する契約を締結する権限を与える場合には、出席又は代表する区分所有者
の多数による。
第 39 条〔改良、追加にあたる場合〕
災害前の状態に対比して改良又は付加となる場合には、第3節の規定が適用される。
第 40 条〔補償の充当〕
損壊した不動産に相当する補償は、登記された債権者の権利を留保して、再築に優先的
に充てられる。
第 41 条〔原状回復をしない場合の補償〕
被災建物を原状に回復しない旨の決議が先の第 38 条に定める条件に従って行われる場
合には、区分所有上の権利の清算 liquidation des droits 及び区分所有者のうちその区分
が再築されない者への補償 indemnisation が行われる。
第4節 Bis 居住サービス
第 41 条の 1〔居住サービスの提供〕
1区分所有規約により、管理組合の目的を、不動産の居住者に対する、特定のサービス
の提供、とりわけ食事の提供、監視、援助又は娯楽の提供にまで広げることができる。こ
れらのサービスは、
第三者と合意を締結することにより、
第三者に行わせることができる。
2区分所有不動産としての性質は、社会活動・家族法典第 L.312 条の 1 にかかる施設又
はサービスによってしか提供され得ない、人に対する監護、介助、付添の授与とは併存し
えない。
第 41 条の 2〔同上〕
1第 41 条の 1 に規定された要件で「居住サービス」を行う管理組合は、管理組合理事会
を設置する義務に反することができない。区分所有者の総会は、絶対的多数決の決議によ
り、管理組合理事会に、特定のサービスの日常的な管理に関する決定の権限を委譲するこ
とができる。
2上記の権限を委譲されていない場合、管理組合理事会は、義務的に、特定のサービス
の提供のため締結される第三者との合意の計画につき意見を述べなければならない。この
場合、管理組合理事会は、合意が問題なく履行されているかを監督し、毎年、区分所有者106の総会でその収支を報告する。
41 条の 3〔同条〕
1特別なサービスによって生じる負担は、第 10 条第 1 項により分配される。この種のサ
ービスの業者に対する負担は、第 14 条の 1 を適用する場合における通常の支出である。
2ただし、
特定の個人に対するサービスの提供について充てられる支出は区分所有の負担
を構成しない。
41 条の4〔同上〕
第 41 条 1 項に定めるサービスの廃止は、
第 26 条 1 項に規定する多数によって議決される。
この多数が実現しなかった場合には、同条最終項の規定によって議決される。
41 条の 5〔同上〕
第 41 条 1 項に定める 1 ないし複数のサービスにより、財政の均衡が重大な危機に陥り、
総会がその旨を宣言した場合には、管理組合の議決権の 15 パーセントを代表する区分所有
者らの訴えにより、裁判官は、急速審理の方法によって、サービスの停止、一部ないし全部
の廃止を宣言する。
第5節 一般秩序に関する規定
42 条〜50 条 〔略〕
第2節、第2款 吉井啓子
第1節、第2節第1款、及び第3節〜第5節 舟橋哲(吉井が修正・改正条文を補足)
〔 〕内は訳者による。
※(注記)フランス 1965 年法の和訳については、以下の 3 種のものがある。
稲本洋之助『比較のためのモザイク』明海大学不動産学部教材(1994 年改正まで、非公刊)
小沼進一『建物区分所有の法理』法律文化社 所収(1985 年改正まで)
三木本健治『フランス区分所有法』(非公刊)
本研究報告では 3 種を参照し、このうち、最新の稲本訳を基準として翻訳を行った。107第4編 アメリカ
〈細目次〉
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ
1.本編の内容と構成
2.運用状況の調査の方法
3.区分所有建物に関する基礎データ
第2章 Condominium 法制の概要と Condominium の管理
1.Condominium 法制の沿革と規範の特徴
2.Condominium における管理規範と管理対象物
3.管理主体と執行機関
第3章 Condominium の修繕・改良・再建・解消に関する制度と実態
1.修繕及び改良に関する法制と実態
2.復旧・再建ないし建替えに関する法制と実態
3.解消・売却に関する法制と実態
第4章 結 語
1.アメリカ法における制度面での「建替え」・「老朽化」概念と「解消」規定
2.「建替え」と「解消」の実態
3.区分所有建物の持続的維持と修繕・改良
資 料
1.統一モデル法(翻訳)
Uniform Common Interest Ownership Act (2008final)
SECTION 2-118 Termination of Common Interest Community(訳)
2.主要各州法解消規定(翻訳)
3.各州の解消規定の比較対照一覧表109第1章 本編の内容・構成及び基礎データ
1.本編の内容と構成
本編は、アメリカにおける区分所有建物法制について、経年(老朽化)区分所有建物に
関しどのような制度が設けられ、また、同制度が実際にどのように運用されているかにつ
いて明らかにすることを目的とする。すなわち、維持・修繕、改良、建替えおよび解消等
に関する制度について、アメリカの法制度の内容を明らかにすると共に同制度の運用状況
について明らかにすることを目的とする。制度内容の調査については、平成 22 年度の調査
研究の結果を踏まえることとし、
本編の第2章及び第3章では、
その一部を再録しつつ(したがって同調査研究結果報告書と重複する部分がある。)、本報告書に係る平成 25 年 1
月に実施した現地でのヒアリング調査の結果を盛り込むこととした。
さて、アメリカの経年(老朽化)区分所有建物に関する法制度の最大の特徴は、わが国
におけるような特別多数決議による建替え制度がヨーロッパ大陸法やイギリス法と同様に
存在せず、いわばそれに代わるものとして特別多数決議による解消制度が存在する点にあ
る。
本編に係る調査研究では、解消制度を含めて、主に次の 3 点について検討を行った。
第 1 は、解消制度等の前提となるアメリカの区分所有法制(コンドミニアム法制)につ
いて、平成 22 年度において実施した文献調査を補充した(第2章)。
第 2 は、解消制度に関して、アメリカの統一モデル法に定められている同制度について
平成 22 年度において実施した調査を補充(特に、同モデル法が各州にどれほど採用されて
いるか、また、採用されるに際して修正がなされる場合に、どのような修正がなされてい
るかについて補充)した上で、同制度に基づき、実際にどの程度の解消実績があるのか、
実績が多くあるとしたら、それに至る経過や課題・問題点はどのようなものか、逆に実績
が少ないとしたら、その原因は何か等について、現地でのヒアリングを通じて調査を行っ
た(第3章3)。
第 3 には、解消制度が存在する法制下でなされる区分所有建物の修繕・改良や建替え・
再建とはどのようなものか、修繕・改良等と解消との関係はどのようなものかについて、
制度面および運用面の調査をした(第3章1、2)。
そして、これらを踏まえて、アメリカの経年(老朽化)区分所有建物に対する法的措置
について、日本法と比較しつつ統括をした(第4章)。
2.運用状況の調査の方法
アメリカの法制に関する現地調査については、2013 年 1 月 9 日から同 16 日の間におい
て、次の機関および有識者に対するヒアリングによって実施した。本調査にあたっては、
準備段階および報告書の執筆・作成においては、花房博文・創価大学法科大学院教授に、
現地調査の企画立案および現地での意見交換おいては、徳本穣・筑波大学法科大学院教授
に、現地のヒアリング調査における通訳等においては八塩陽介・New York 州弁護士に、
全面的な協力を得た。110【ヒアリング先】
・CAI(Community Association Institute) ワシントンD.C
事務局長 Thomas M. Skiba 氏
統括弁護士 Jeffrey Van Grack 氏
顧問弁護士 Robert M. Diamond 氏 ほか
*Robert M. Diamond 氏は、CAIを代表として、統一モデル法の制定に参画した。
*CAI(全米コミュニティ・アソシエイション・インスティチュート)は、管
理の専門家の教育・養成、弁護士・会計士等の研修、および、管理組合の理事の
教育・研修の 3 つを担う公益的機関である。
・Wayne S. Hyatt 氏 アトランタ在住(ヒアリング先:アリゾナ州フェニックス)
(弁護士・元 Emory 大学 Law School 、Vanderbilt 大学 Law School 教授)
*同氏は、アメリカのコンドミニアム法の第一人者と言われており、その著作
(Susan F. French との共著)である COMMUNITY ASSOCIATION LAW は、最
も標準的なケース・ブックとして、全米のロー・スクールにて使用されている。
・Nathaniel Sterling 氏 サンフランシスコ
(カルフォルニア州、元サンタクララ大学教授)
*同氏は、カルフォルニア州の多くの州法に立法に参画し、統一モデル法の制定
の際には、カルフォルニア州を代表して同法制定に参画した。
3.区分所有建物に関する基礎データ
CAIによると、アメリカ全体で、コミュニティ・アソシエイションは、2500 万戸ある
とのことである(アメリカの 5 人に 1 人)。そのうち、40%がコンドミニアムでその住戸
数は、
1000 万戸とのことである。
1 棟の平均は、
70 戸〜100 戸程度(2,3 戸から 25 万戸まで)
であるという。
ただし、アメリカでは、建築年数別の統計などコンドミニアムに関する基本的な統計は、
各州で統一的な基準がなく、また正確な統計のない州もあることなどから存在しないとの
ことである。ただし、アメリカのコンドミニアムは、1970 年代のものが多いとのことであ
る。111第2章 Condominium 法制の概要と Condominium の管理
1.Condominium 法制の沿革と規範の特徴
1-1.Condominium 法制の沿革
アメリカにおいて Condominium 形態が普及・発展し来たのは、我が国とほぼ同じ 1960
年代頃である。低所得者層へ住宅融資を可能にするため、unit に賃借権ではなく独立の所
有権を認める必要性から生まれた住宅政策によるところが大きい。また、高所得者層につ
いては、中産階級から隔絶した集団として高級施設たる共同財産を維持管理するために、
固有の団体管理法制が求められてきたものである。
これらの要請を果たすべく、いくつかのモデル法が制定され、いくつかの州がそれを採
択利用し、あるいはそれを模範として独自の州法を制定・整備されてきている。なかでも、
Uniform Condominium Act 1977 は 1980 年に修正を受けて 12 州が採用し、この時期に、ほ
ぼ現下の Condominium 法制の確立が見られる。
この UCA にコーポラティブ住宅法制(Cooperative) と計画的一体開発財産団体法制
Planned Community を取り込んだ統合的なモデル法として、共同財産所有法(Uniform
Common Interest Ownership Act) 1982 が制定された。
同モデル法はその後、
1994 年の修正を
受けて 5 州が採用、類似の州法も含めると既に 21 の州法の standard となり、2008 年には、
UCIOA は final version として修正されている。
なお、Cooperative(協同組合設立方式による共同所有)とは、協同組合形式で設立され、
専用部分に割り当てられた株式の購入によって unit についての賃借権を取得する方式の共
同住宅である。この賃借権は、共同住宅が存続するかぎり更新可能な、あるいは期間の定
めのない所有権的賃借権 (proprietary lease)と解され、賃料は建築費用及び維持管理に充て
られる。また、Planned Community とは、Planned Unit Development(計画的一体開発)手法に
基づく共同施設管理形態である。PUD は、利用目的ごとに建設配置を制限するゾーニング
(Euclidian zoning )の厳格規制において、広範囲を一体的に捉えた密度制限の範囲内で建物
配置を集団 (cluster) 化して、共有空間を捻出したり、街路の配置に工夫を凝らし景観に
配慮した街づくり手法としてのゾーニング(cluster zoning)に基づくものである。
これらは物的
(所有権的)
支配という観点からは Condominium とは異なるものであるが、
共同財産の団体管理という視点から、Common Interest Ownership として、Condominium と
統一的にモデル法に規定されている点が注目される。
Condominium 法制の確立への変遷は次のようである。
11958 年プエルトリコ階層所有権法
建物の損壊の程度を 3/4 で区別し、3/4 以上が損壊した場合には、全員一致がなければ建
物は再建されずに解消する。3/4 以下の損壊の場合には、保険金で充足される場合には修復
が強制され、充足されない場合には全員一致の反対がない限りは特別徴収による修復が強
制される。
21961 年連邦住宅法の修正
FHA(連邦住宅局)が住宅購入援助のための抵当権保障プログラムの対象として、
Condominium 形態を認める立法を行う。11231962 年 FHA モデル法(全 29 条の簡素なもの)
その特徴は、(1)建物の一部に独立した所有権が成立し、(2)unit と共用部分の分離処分
を禁止し、(3)共用部分について共有物分割の訴えが認められない。また、(4)建物損壊後
に一定の期間内に所有団体が復旧しない場合には共有関係となり、
その後の法律関係は(5)
共有物分割請求の訴えに委ねられる。(6)Condominium の設立は、宣言文書による等があ
げられる。
41968 年全ての州で Condominium 法が制定
プエルトリコの階層所有権法及び FHA モデル法をプロトタイプとして、各州で、建物の
損壊の程度、復旧の合意要件、建物損壊後の合意または復旧までの期間要件等を独自に設
定、その他の要件の付加等を重ねながら制定された。Condominium の急速な増加、利用形
態の多様化に伴い、初期立法の不備が顕在化し、この不備を補うための改正が各州でそれ
ぞれに進められた。
51978 年統一 Condominium 法(Uniform Condominium Act 1978,1980 年改正)
統一モデル法には、Condominium 法制についての詳細な規定、消費者保護規定、管理組
合運営についての詳細な規定、開発・販売業者にコンドミニアム制度の柔軟な活用を認め
るための規定等が盛り込まれた。UCA を採用した州は、1999 年 3 月時点で 12 州(メイン、
ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、ニューハンプシャー、ニューメキシコ、ノースカロラ
イナ、ペンシルバニア、ロードアイランド、テキサス、バージニア、ワシントン)であっ
た。その後 1982 年、UCA は、コンドミニアムだけでなく、他の共同財産形態も包含した
統一共同財産所有法(Uniform Common Interest Ownership Act)として再編され、アラスカ、
コネチカット、ネバダ、バーモント、ウェストバージニアが採用している。なお、統一モ
デル法なので、採択していない、UCA を採択、修正採択、UCIOA を採択、修正採択と、
その扱いは州によって異なる。
1-2.2008 年統一モデル法の制定
2008 年に、統一モデル法編成委員会(The Uniform Law Commission)は、1994
年に改正された UCIOA の最終版として再編成を行った。2008 年の修正では、既
に 36 年を経て各州独自に発展した制定スタイルの調和や用語・定義の統一を図
る と い っ た 形 式 的 修 正 と 、 1 宣 言 者 に 特 別 の 権 限 や 電 子 署 名 に 対 応 し た 記 録 方
法 を 認 め る な ど の 新 た な 修 正 、 2 災 害 後 の 団 体 解 消 制 度 、 3 管 理 組 合 の 権 限 と
義務の強化、4宣言による柔軟な対応の拡大、5宣言者資格の変更、6unit 所有
者 の 直 接 選 挙 や 団 体 外 役 員 の 許 容 性 な ど が 実 質 的 修 正 が 施 さ れ て い る 。 特 に 、
管 理 組 合 運 営 で 重 要 な 局 面 と な る 、 管 理 組 合 と 、 各 組 合 員 及 び そ の 担 保 権 者 と
の法律関係や、
役員の選任、
解任規定、
記録の取扱について明確にしている
(2010
年時コネチカット、デラウェア、バーモント採択)。
なお、統一モデル法全体の構成および各規定のタイトルについては、以下の同法の目次
(仮訳)を参照されたい。
米国統一モデル法(2008 年度版)
第1部 定義およびその他の一般規定
第 1-101 条 略称
第 1-102 条 適用範囲113第 1-103 条 定義
第 1-104 条 強行規定
第 1-105 条 区分所有権の分離および課税
第 1-106 条 各自治体の条例等の適用
第 1-107 条 土地収用権
第 1-108 条 補足的に適用されるその他の一般法.
第 1-109 条 法改正による本法の黙示的適用排除に関する解釈
第 1-110 条 適用および解釈の統一性.
第 1-111 条 分離独立性
第 1-112 条 信義則に反する契約または契約条件
第 1-113 条 誠実義務
第 1-114 条 救済手段の柔軟性
第 1-115 条 金額の変更
第 1-116 条 国際および国内取引での電子署名に関する法律との関係.
第1部-2 適用関係
第 1-203 条 小規模有限費用負担の Planned Community への適用の例外
第 1-204 条 既存共同財産団体への適用
第 1-205 条 既存小規模 Cooperative 形態、Planned Community への適用
第 1-201 条 新設の共同財産所有団体への適用
第 1-202 条 小規模 Cooperative 形態への適用の例外
第 1-206 条 財産管理に関わる文書等の修正
第 1-207 条 非居住用および複合用途型共同財産所有形態に対する適用
第 1-208 条 州外の共同財産所有団体への適用
第 1-209 条 その他の不動産管理に関する適用除外の合意
第 1-210 条 その他の適用除外約款
第2部 共同財産所有関係の創設、変更、解消
第 2-101 条 共同財産所有関係の創設
第 2-102 条 unit の境界線
第 2-103 条 宣言文書および規約の解釈および有効性
第 2-104 条 unit に関する内容表示
第 2-105 条 宣言文書の内容
第 2-106 条 共同財産団体の賃貸借
第 2-107 条 持分権の分配
第 2-108 条 専用使用部分
第 2-109 条 区画図版および計画
第 2-110 条 開発権の行使
第 2-111 条 unit の変更
第 2-112 条 unit の境界線の変更114第 2-113 条 unit の分割
第 2-114 条 不法侵害のための地役権
第 2-114 条 境界線としての境界標
第 2-115 条 売却目的の使用
第 2-116 条 地役権および使用権
第 2-117 条 宣言文書の修正
第 2-118 条 共同財産所有権関係の解消
第 2-119 条 担保権付債権者の権利
第 2-120 条 統括管理組合
第 2-121 条 共同財産団体の吸収合併または統合
第 2-122 条 特定されていない不動産の追加
第 2-123 条 統括計画的一体開発団体
第 2-124 条 災害後の解消
第3部 共同財産所有関係の運営
第 3-101 条 共同財産管理組合の組織
第 3-102 条 共同財産管理組合の権利と義務
第 3-103 条 執行委員および役員
第 3-104 条 宣言者の特別権の譲渡
第 3-105 条 団体との契約および賃貸借の解消
第 3-106 条 規約
第 3-107 条 共同財産団体の維持管理
第 3-108 条 集会
第 3-109 条 定足数
第 3-110 条 投票(委任投票、投票数)
第 3-111 条 不法行為責任及び契約責任(時効期間の中断)
第 3-112 条 共有部分の譲渡または担保権の設定
第 3-113 条 保険 .
第 3-114 条 剰余金ファンド
第 3-115 条 査定
第 3-116 条 管理組合の未払債務に対する担保権の執行
第 3-117 条 その他の担保権
第 3-118 条 管理組合の記録
第 3-119 条 受託者としての管理組合
第 3-120 条 規則
第 3-121 条 共同財産所有権者への通知
第 3-122 条 理事および役員の解任
第 3-123 条 財政計画の採択(特別査定)
第 3-124 条 宣言者に関する訴訟115第4部 買受人の保護
第 4-101 条 適用関係(適用除外)
第 4-102 条 公募に係る文書の記載要件に関する責任
第 4-103 条 公募に係る文書(総則規定)
第 4-104 条 同上(開発権に服する共同財産所有関係)
第 4-105 条 同上(タイムシェア)
第 4-106 条 同上(再生建物を含む共同財産所有関係)
第 4-107 条 同上(共同財産所有上の担保権)
第 4-108 条 買受人の解約権
第 4-109 条 unit の再売買
第 4-110 条 預金の第三者寄託
第 4-111 条 担保権の消滅
第 4-112 条 再生建物
第 4-113 条 品質の明示的保証
第 4-114 条 品質の黙示的保証
第 4-115 条 品質の黙示的保証の除外または修正
第 4-116 条 保証の時効
第 4-117 条 訴訟を遂行する権利に対する侵害の効果(弁護士費用)
第 4-118 条 広告物の文言
第 4-119 条 宣言者の完成義務および再建義務
第 4-120 条 unit の実質的な完成
第 4-121 条 施行日
第5部 共同財産所有関係の運用および登録
第 5-101 条 担当庁
第 5-102 条 必要な登録
第 5-103 条 登録の申請(未完成の unit の承認)
第 5-104 条 申請の受領(登録命令)
第 5-105 条 停止命令
第 5-106 条 登録の撤回
第 5-107 条 担当庁の一般的権限と義務
第 5-108 条 担当庁の捜査権
第 5-109 条 年次報告書および修正
第 5-110 条 公募に係る文書の担当省の規制
1-3.Condominium 法制の特徴
(1)規範の多重構造と公示
Condominium 法制で最も特徴的なことは、州法(Statute)と、登録された(Recorded)宣言
(Declaration)という規範の多重規範構造にある。ニューヨーク州のような例外もあるが、116通常は、州財産法の一款部分に独立した成文法として、階層所有権法(Horizontal Property
Act) 、あるいは Condominium 法が規定され、それらが上位規範性を持ちながら、宣言文
書の登録を義務づけている。
宣言文書は、unit 所有者である宣言者によって作成された団体自治規範であり、記載事
項の多くは州法規定と重複するが、当該部分の都市計画・図版や売買契約書などの他のコ
ンドミニアム関連文書(Condominium Documents)とともに登録されてはじめて、対外的、
内部的拘束力が生じるものである。
(2)開発・分譲業者の権利留保
州法の一般的規範に、各 Condominium の具体的な財産管理形態に合致するように修正を
加えて公示するという役割を宣言文書が担うものといえる。なお、従前の地権者等の権利
留保特約や、段階的に Condominium 建設が進められる場合にあって開発分譲業者等の余剰
容積率の分譲権等の開発権留保特約も許されている。
(3)理事会の自由裁量権と義務の拡大
Condominium 法制では、我が国と比較して、その執行機関の権限は強化されているとと
もに、管理義務違反による損害賠償責任も明記されている。例えば、管理費用や火災保険
等の保険料・修繕積立金の徴収義務違反、保険金を利用した迅速な修繕の懈怠等である。
また、それに伴って執行機関である理事会の自由裁量の範囲も広い。
(4)議決権・合意形成
Condominium 法制では、
議決権の捉え方も多数決要件も自由に宣言に定めることができ、
我が国のような二重の多数決を求めることはない。
賛成者が 80%以上でかつ、
反対者が 10%
以下の場合などのような規定は見られるが、多数者支配を避けるためには、むしろ、建物
部分の損壊の範囲、一定の年限の経過、利害関係人の承諾などの客観的要件を追加してい
る場合の方が多い。
(5)法適用の排除
Condominium 法制には、同法の適用を排除する規定が設けられている。その要件等は州
によって異なるが、(1)共同財産が損傷・滅失してそのための修繕が困難な場合、(2)共同
財産を維持・継続することが経済的な無駄を発生させる場合、(3)unit 所有者の特別多数決
による場合(但し、このような多数決に合理性が求められているようである)に大別され
ている。
同法適用の排除・解消(Removal from Provision, Termination)が認められた場合は、暫定的
に団体に共有関係を形成させ、各共有持分権に基づく分割請求を認め、団体は清算解散さ
れる。したがって、法適用を排除するためには、建物価値や維持・継続しないことの合理
的要件に加えて、利害関係人の同意や共有財産上への権利移行手続や、売却できなかった
場合の法律関係についての規定が設けられている。なお、建物の滅失は団体の存続には影
響を与えず、区分所有法での建替えや再建概念は、修繕行為として観念される。
なお、老朽化建替えについては、上記と同列に規定を設けている州や、Termination の問117題として扱っている州など多様である。
2.Condominium における管理規範と管理対象物
2-1.管理規範
Condominium 法制で最も特徴的なことは、州法(Statute)と、登録された(Recorded)宣言
(Declaration)規範との多重規範構造にある。
民法典の規定の一部または独立の法典として、州法に Condominium 法が規定されるが、
それらが上位規範性を持ちながら、宣言の登録を義務づけている。
宣言とは、州法の委任のもと、unit 所有者である宣言者によって作成された団体自治規
範であり、内部的拘束を生じさせるとともに、その登録により対外的効力を有する。
宣言の記載事項は各州法に委ねられることになるが、各規定の大半は州法規定と重複す
る項目内容であるが、州法の強行規定に反しない限り、各 Condominium 固有の合意が盛り
込まれることになる。
declaration の記載事項の例としては、1Condominium の名称、2管理組合名、3所在地、
4当該 Condominium を含む不動産権に関する法的記述、5最大住戸数、6部屋番号も示し
た unit の境界に関する記述、7専用使用部分に関する記述、8(開発権に服する部分を除
く)専用使用に割り当てられる部分の記述、9開発権及び特別に宣言によって留保された
権利、10留保権の適用、実行期間、11その他の条件や制限、12各 unit に割り当てられる権
利の割当て算出方法、13使用、占有、移転譲渡への制限事項、14登録された従たる用益権
やライセンス等々である。
団体自治の内部的な定義、
使用方法・手続等を規律する規約(by-laws)や、
細則(regulation)
とは異なるものである。
また、宣言の登録は Condominium における法律関係の公示・開示なので、宣言内容の附
随資料として、売買契約書、資産、図面や、開発計画書等の膨大な Condominium Documents
も file され、Condominium 分譲時の消費者保護に機能する。
2-2.管理対象物
Condominium における管理対象物の分類は、その構造に従い、Unit 部分、共用部分(権)
(Common Interest)、
我が国の専用使用部分に相当する制限的共用部分
(権)
(Limited Common
Interest)に分かれる。
「Unit」とは、不動産の販売単位の所有対象となる住戸部分を指すもので、unit の中に
common interest(共用部分(権)) 部分も含まれ、また PUD などでは、個々の部屋を指すの
ではなく、もっと広い範囲での販売所有単位を意味するので、必ずしも区分所有法にいう
「専有部分」と一致するものではない。
「Interest」 は財産そのものを指す場合もあるが、各所有者が有する利益、すなわち、不
動産上の持分権を指す場合が多い。
「limited Common Interest(制限的共用部分)」とは、共用部分の一部で、宣言または性
質によって、一個または数個の unit 部分の排他的使用に配分された部分で、区分所有法上
の一部共用部分に該当するものや、テラスや専用庭が含まれることになるが、敷地駐車場
のような専用使用は専有部分に結びついていないために想定されていない。勿論、宣言に118規定されれば、駐車場(Parking Lot)の排他的使用も可能となる。
3.管理主体と執行機関
3-1.unit 所有者団体(unit owner's association)
Condominium の管理主体は、unit の所有者団体である。
管理主体となるこの団体は、必ずしも法人である必要はないが、多くの州では法人であ
り、法人の場合には会社法(営利の場合、非営利の場合は適用法が異なる)の規定が重複
して効力を持つことになる。また、この団体は、Condominium の分譲販売以前に組織され、
宣言者による宣言文書の登録もなされていなければならないので、当初の宣言文書は分譲
を行う開発業者によって作成される。
3-2.執行機関(1)理事会(Board of Directors)・理事(Director)・理事長(President)・事務手続役員(Officer)
Unit 所有者の代表として管理行為を決定し、執行していく理事は、宣言者(Declarant)に
よって決定される。分譲後一定期間は、宣言者である開発業者及び彼らの指名した者が管
理主体となるが、段階的に unit 所有者から選出された理事へと委譲されていく。その際、
少なくとも unit 所有者が理事会の過半数を構成すればよく、理事会構成員に unit 所有者以
外の専門家が関わることも想定されている。
また、分譲業者によって指名された理事と unit 所有者によって選出された理事との責任
範囲が異なる。前者は、受託者たる責任(fiduciary duty)として unit 所有者の利益を最善に
図る義務を負うが、後者は通常の注意義務に基づく業務執行(exercise ordinary and
reasonable care)責任で足りる。
理事長は理事の中から互選され、一定の範囲の管理行為に代理人を利用する場合には、
宣言にその旨を規定しておく必要があるが、規定すれば、理事会の裁量で、その者を委託
・雇傭・解任できる。
理事会に一定の裁量権が認められている反面、責任範囲は拡大される。特に専門家を理
事会メンバーに加えたり、裁量で雇傭できる権限がある反面、任務懈怠に対しては、責任
追及を免れない。
事務手続役員とは、理事会によって選出された unit 所有者ではない専門家で、理事とは
異なり、管理方針に意思決定権はなく、理事会の承認を得た事項に限定された、例えば、
会計処理等の管理業務を行い、その業務責任を負う。
(2)管理委託会社(Management Company)・管理人(Manager)・雇傭人(Employee)
理事会が管理業務を委託する場合は、個々の業務の範囲を規約に規定し、包括的な管理
委託は認められない。また、管理者に相当する制度は設けられていない。
雇傭人とは、個別の業務遂行のために雇傭契約を締結して管理に関わる者をいう。
(3)顧問弁護士(Association Attorneys)
アメリカにおける不動産取引は法律関係が複雑で多くの専門家が関与するが、とりわけ119Condominium の場合には、約定文書数が多く、内容が多数の権利関係に及ぶために、その
作成、修正、登録手続業務は、専門の弁護士に委託している。業務範囲は委託契約によっ
て定まるが、滞納管理費の回収や理事等の損害賠償訴訟行為も含めて委託できる。
3-3.団体意思決定手続
(1)集会の種類
管理委譲総会(Transition Meeting)とは、開発業者の管理を unit 所有者団体へ委譲するこ
とを目的とする総会である。この総会において unit 所有者団体の中から理事が選出され、
管理業務の引き継ぎが完了するまでに数回開催される。この作業を担う委譲諮問委員会
(Transitional Committee)の設置を義務づける州もある。
通常総会(Annual Meeting)とは、年に一度開催される総会であり、主たる目的は理事の選
任を目的とする。
特別総会(Special Meeting)とは、特別の目的(宣言の修正、理事の罷免、予算の審議等)
のために開かれる臨時総会である。臨時総会は、理事長が招集するか、理事会の過半数が
招集するか、unit 所有者の 20%以上によって招集される。
理事会(Board of Director's Meeting)は、理事の管理方針と執行方法を定める会議である
が、議決権の代理行使は認められない。
(2)議決権と定足数
議決権の数え方は州によって異なるが、
大半の原則は一 unit 一議決権
(One vote per Unit)
である。
会社法の一株券一議決と同趣旨によるもので、
複数 Unit の所有者は Unit 分の議決
権をもつ。ただ、議決権行使方法についても、宣言によって修正が可能であり、unit 面積
割合や、寝室の数に応じた議決権の割当もなされる。さらには、Unit を共有する場合に共
有者の議決権を割合的に反映させる割当も可能である。
なお、総会については議決権を有する者の 20%以上が出席(委任状も含む)、理事会に
ついては 50%以上の理事が直接出席の定足数が求められる。
(3)多数決の種類
多数決の種類は州法によって異なるが、概ね、過半数によって決定される通常決議か、
宣言文書の修正の場合には 2/3 多数決による特別決議が求められる。また、災害等によっ
て保険金では修復不可能な場合に、修復しない旨を 4/5(あるいは宣言で別途定める場合に
はその割合)以上の合意によって、Condominium 法制の適用を除外(狭義の共有関係へと
移行)するか、売却清算解消させることができる。120第3章 Condominium の修繕・改良・再建・解消に関する制度と実態
1.修繕および改良に関する法制と実態
1-1.統一モデル法とCAIへのヒアリング
統一モデル法の第 3-107 条(a)項は、「 宣言文書・・・に別段の定めがある場合を除い
て、管理組合は、共用部分の維持、修繕および更新に関する責任を負う。」と規定し、同
条のコメントの 1 においては、「本法では、宣言文書において、所有と管理責任を分離す
ることができる。このことは、実務上よく行われている」と述べる。統一モデル法では、
これらの定めのほか、日本法やヨーロッパ大陸法のように、特段、共用部分の修繕(一般
的な管理)や改良(変更)に関する集会における多数決議要件等を定めていない(多くの
州法でも同様である)。
そこで、筆者らは、CAIに対して次のような【質問】をしたところ、前述の Diamond
弁護士(バージニア州弁護士)らから次のような【回答】を得た。
【質問】共用部分の通常の管理(修繕:例えばエレベータの更新)および改良(変更:
例えばエレベータの新設)は、それぞれ集会においてどの程度の多数決議を必要とします
か。
【回答】共用部分の維持・修繕は、管理組合(理事会)の当然の義務であり、理事会に
その権限があり、集会決議は不要です。これに対し、共用部分の改良(変更)については、
多くは、各管理組合の宣言文書等の定めによって、集会での特別多数決議(3 分の 2 以上)
を要するとしています。これらについて特段、法律(統一モデル法・州法)の規定がある
わけではありません。
なお、付言すると、アメリカ側(CAI)から日本側に対して、「水漏れ事故の場合の
補修は当然に理事会で決定し実行するが、日本では、例えば必要なエレベータの更新工事
のような通常の管理であっても、理事会の決定だけでは足りず、集会決議が必要であるの
か。」との質問がなされた。筆者ら日本側の回答としては、「その通りである。」と回答
したところ、アメリカ側の出席者 4 名全員から「信じられない。」との反応が示された。
1-2.アメリカ法の特徴
以上のように、アメリカ法の共用部分の修繕や改良に関する大きな特徴は、次の点にあ
る。第 1 に、その維持・修繕については、専ら管理組合の理事会の権限(権利および義務)
であり、これについては集会の決議事項ではなく、共用部分の維持や修繕の内容や方法等
についても理事会に委任されている。なお、ここでの維持・修繕の責任を担うのは、ヨー
ロッパに見られる「管理者」ではなく、日本で実際上一般に見られる「理事会」である。
第 2 に、共用部分の「改良」については、集会での決議事項であるが、その多数決要件
については法律の強行的な定めによるのではなく、各管理組合の宣言文書等の定めによる
ものとされ自治に委ねられている。
ただ、以上の点に関して、第 3 に言えることは、共用部分の「修繕・修繕」と「改良」121の区別については、日本やヨーロッパ法制のように法の基準により両者を区別して具体的
な事項がどちらかに該当するかを決定するのではなく、両者の区別自体はそれほど重要で
はなく、自治規範(宣言文書等)によって具体的な基準を設定して、「理事会決定事項」
と「集会決議事項」とに区分して定めるというのがアメリカの制度および実態であると思
われる。
この第 3 の点については、CAIへの上記の質問に続けて、筆者らが宣言文書の内容を
質問したのに対する次のような回答から言うことができよう。
【宣言文書の内容例】
12500 ドル以上の費用がかかる場合には、
集会での 3 分の 2 以上の決議が必要であるが、
それ未満の場合には理事会決定のみで足りる。
2施設・設備の新設(共用部分の変更)の場合にのみ集会での 3 分の 2 以上の決議を必
要とする。
3例えばエレベータの更新のような場合に、ひとつには費用が大きいときや 3 か月程度
それが使用できないときには、集会での決議(宣言文書により過半数又は 3 分の 2 以上の
決議)が必要なこともある。また、自然災害により更新が必要な場合には過半数決議、経
年上望ましい場合には 3 分の 2 以上の決議を宣言文書により必要とすることもある。
1-3.マンション(Condominium)の管理をめぐるアメリカの実状
CAIとの上記のような質疑応答ないし意見交換の中では、さらに次の1〜6のような
アメリカの実状の一端が明らかにされた。
1理事会決定のみで足りる「修繕」か、集会の決議が必要な「変更」かが、管理の現場
では議論となることがある。
2宣言文書上、集会決議とする項目が増加する傾向も一部では見られる。
3管理組合の理事会は修繕を先送りする傾向があり、
そのために突如修繕が必要となり、
費用について問題となることが少なくない。
4管理組合は、会計業務、集会・理事会運営業務、清掃業務などについて、その全部ま
たは一部を管理業者に委託しており、管理業者の中には全米(またはカナダにまで及ぶ)
を業務対象としている管理会社(2 社程度)もある。
550 州の中には修繕積立金を義務化していない州もある。
61 階と 2 階以上の区分所有者との間には共益費について差を設けることはしない。そ
の議論は 1960 年代に終わった。宣言文書により、そのように定めている。
なお、筆者らは、Hyatt 弁護士との意見交換において、同氏に、コンドミニアムの管理に
あたってのコミュニティの状況について尋ねた。参考のために、その質疑応答を以下に掲
げておく。
【質問】コンドミニアムにおけるコミュニティの状況についてお聞きしたい。例えば、
定期的に区分所有者でのパーティは行われるのか。
【回答】コンドミニアムにおいてコミュニティは非常に重要であり、大半のコンドミニ
アムでは定期的に区分所有者のパーティを行っている。また、私のコンドでは、読書クラ
ブやハイキングクラブがあり、私は、ハイキングクラブに入っている。122【質問】コンドミニアムでのパーティに軽食や飲み物を出すために共益費(管理費)か
ら支出をすることができるか。
【回答】パーティでの親睦を深めるためには問題はない。予算化もされている。ただ、
私の属するハイキングクラブは共益費からの支出はない。もちろんパーティの目的が、例
えば、「オバマを支持するかどうか」を目的とする場合には認められない。
【質問】それでは、パーティにそのコンドミニアムの賃借人が参加することはあるか。
そのための共益費の支出については許されるか。
【回答】かつては賃借人が参加することはなかったが、今日では、賃借人との親睦も重
要として行なうこともある。たとえば、ここフェニックスにはアリゾナ州立大学の学生が
賃借人としてコンドミニアムに居住しているので、そのようなこともある。ただ、私のア
トランタのコンドミニアムでは賃貸禁止で賃借人がいないために、
そのようなことはない。
2.復旧・再建ないし建替えに関する法制と実態
2-1.復旧・再建ないし建替えに関する法制度の概要
アメリカでは、建物の毀損・滅失の場合において、わが国のような復旧か建替えかの選
択が求められるのではなく、建物が重大な損傷を受けたり、滅失している場合にあっては、
保険金を利用した当然の建物修復(repair)=復旧義務を課されるので、
修繕義務の延長上と
して当然に再建(rebuild)
(ないし建替え(reconstruction))
がなされることが想定され位置づ
けられている。ただ、例外的に、再築ないし建替えをしないという選択があり得る(次に
掲げる【参考】統一モデル法参照)。
【参考】統一モデル法 第 3-113 条 保険
(h)本条に従って保険をかけることが必要な共同財産団体のいずれかの部分が損傷ま
たは損壊した場合には、次の各号の場合を除き、管理組合によって速やかに修繕または更
新がなされなければならない。
一 第 2-118 条において共同財産団体が解消された場合
二 修繕または更新が法令に違反する場合
三 unit または対象となる限定された共有部分の所有者の 80%以上が再建をし な
い旨の決議をした場合
日本での被災の場面での復旧か建替えかの判断は、アメリカでは、それらのための費用
負担との関係において「修繕(復旧や建替えを含む)を行うか、修繕をしないで団体を清
算・解消するか」の判断へと捉え直される点が、我が国とは異なる。なお、ハリケーンの
ような大規模自然災害が繰り返されるようになった近年、行方不明者が多いために再建を
行う団体が構成できない場合には、裁判所の命令により解消できるとする規定が新設され
ている(UCIOA 2-124 災害後の解消規定は Florida 州法 718-117(4)(5)を参照している)点
が注目される。
ただ、保険制度は専ら災害を想定しているため、老朽化の場合には、被災の例外的場合
と同様に、爾後は、もはや修繕または建替えをせずに、Condominium 関係を解消させると
いう選択肢も生じることになる。アメリカでは、経年(・老朽)区分所有建物ないしそれ123に至っていない区分所有建物について、法制上、特別多数決議による建替えの規定は存在
しない。それでは、運用面において、宣言文書等の自治規範の特別の定めによる多数決議
や、または全員の合意によって、区分所有建物を建て替えることはあるのか。
2-2.建替えおよび再建の実態
筆者らは、CAIへのヒアリング調査において、次のように、上記の点を尋ねてみた。
なお、確認的に、多数決議による建替えの可能性等についても尋ねた。
【質問1】区分所有建物の建替え(区分所有者により、現存の建物を全部取り壊して、
その敷地等に新たな建物を再建すること)については、集会における多数決議において可
能ですか、それとも全員の合意が必要ですか。多数決議による建替えの場合に、再建する
建物を、例えば 5 階建てから 7 階建てにして住戸数を増やすことはできますか。
【質問2】全米において建替えの実績(件数)はどの程度ですか。
【回答】災害以外は、安全かつ修繕できる限りは、建替えはせず、修繕で対処する。建
替えは皆無と言ってよい。もし、修繕できないときは、解消して、建物と敷地を売却して、
売買代金を分配する。他方、自然災害の場合には、保険金により復旧ないし再建をするが、
それらは義務である。なお、保険は義務であるが、保険の具体的な内容は、宣言文書によ
る。例えば、地震保険まで契約するか否かについてである。保険金では復旧・再建のため
の費用が不足する場合には、不足分を区分所有者から徴収するか、または、解消の手続を
はかる。
筆者らの上記の【質問1】は、アメリカの法律家にとって、その法制およびその運用な
いし実態からして、的外れなナンセンスな質問と映ったかもしれない(ただ、事前に日本
の建替え制度についてある程度説明をしておいたので、全く意味不明な質問ではなかった
と思われる)。すなわち、アメリカ法およびアメリカの法律家の基本的な考え方として、
被災の場合には復旧(全部滅失のときには再建)は義務であり、その意味では、この場合
には、現存建物が消滅することから「建替え」が観念できるが、区分所有建物の老朽化な
いし経年劣化に対しては、建物が現存する以上、その老朽化ないし経年劣化に対する対応
は、修繕であり、「建替え」は観念できないと思われる。それでは、修繕のために過分の
費用がかかる場合はどう対処するか。この場合には、被災の場合において復旧や再建のた
めに費用の問題(区分所有者の多数にとって負担に耐えられない費用)があるのと同様な
理由により、多数決議によって解消をはかるほかないと考えるものと思われる。
なお、筆者らのCAI以外のヒアリング対象者であり、Condominium 法研究の第一人者
と言われている Hyatt 弁護士は、「Condominium 建物は永続的に維持すべきもの」と上記
と同趣旨の筆者らの質問に対して回答した。
3.解消および売却に関する法制と実態
3-1.解消に関する法制度の概要
わが国での Condominium 法制の紹介において、統一モデル法(UCIOA)の《unit 所有者
等の多数決のみで、建物の損傷や老朽化に関係がなく解消ができる》という解消規定が強124調されることが少なくない。
確かに、我が国と異なり、多数決等によって団体の清算・解消を認めるという意味では、
アメリカ独自の規定と思われるが、同規定の内容や規定上の位置づけについては、州の事
情によって異なる。これらは、1Termination(解消)、2Removal from Provision あるいは
Withdrawal of Provision(法適用除外)、3Destruction-Reconstruction
(損壊・再建)、4Partition
of Project(分割請求)などのタイトルとして大別され、これらがそれぞれ独立の規定とさ
れている場合もあれば、一連の規定とされている場合もある。
1及び2はほぼ同義として規定されているものであるが、UCIOA のように、修復・再築
規定とは独立して、合意のみの解消規定として位置づける場合は少ない。
むしろ、一般的には、修復・再築を行わない選択として Condominium 法制の適用除外の
選択があり、また、除外の効果として不動産共有関係にある団体として権利義務関係が移
行し、その上で分割請求権を行使できる状況になる。
分割方法や分割請求に関する規定は、団体財産の売却・売却益の分配清算事業を想定し
ているため、もし買手があらわれずに、事業自体が頓挫した場合には、法律関係が共有状
態として膠着してしまうので、Condominium 法制を再度適用する(resubmission)選択がある
州、解消決議が済んでも売却配当までは、従前通りに、受託者としての団体管理が存続し、
解消が登録されてはじめて効力が生じるとする形で、共有状態の法律関係として膠着しな
いよう図られている。
解消手続は清算手続であるために、実際には各 unit に利害関係を有する債権者等の承諾
がない限り遂行することができない。制度上は、担保権者等の全共有財産への移行が規定
されているが、担保権者にとって移行に伴う目的物の変更が生じるため、解消決議段階で
の同意が必要となる。
なお、解消のための合意要件(多数決議要件)を概観すると以下の1〜5のように大別
されるが、他の客観的要件との関係も併せて団体解消を認めている場合も多く、その点を
留意しなければならない。
UCA や UCIOA を採択した州では、概ね、コンドミニアムの解消(Termination of
Condominium)規定によって、80%または宣言に規定される数字による多数決合意を持つ。
他方、採択していない州においては、団体解消規定は、原則全員同意が修正される特殊
事情がある場合、
すなわち災害や老朽化や経済的無駄等を原因として修復できない場合に、
修復しない合意として規定されている。この場合多くは、Condominium 法規定からの適用
除外(Removal from Provision)、Condominium 財産権の放棄(Withdraw of property from
project)、
あるいは不動産権の分割請求手続(Partition of project)、
等として団体解消手続規
定が設けられている(巻末の一覧表参照)。
また、合意形成のため多数決も様々であるが、なお全員一致の州も多い。
1全員合意:アーカンソー、デラウェア、フロリダ、イリノイ、インディアナ、アイオ
ワ、カンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、ノースダコタ、サウスカロライナ、テキサス、
ユタ、バーモント、ウィスコンシン等
290%以上:モンタナ、オレゴン、オクラホマ等
380%以上:UCIOA、アラバマ、アラスカ、アリゾナ、コネチカット、コロンビア特別
区、ジョージア、ハワイ、メイン、メリーランド、ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、ニ125ュージャージー、ニューメキシコ、ニューヨーク、ノースカロライナ、ペンシルバニア、
ロードアイランド、バージニア、ワシントン、ウェストバージニア
475%以上:マサチューセッツ、オハイオ,プエルトリコ
52/3 以上:アイダホ
さらに、被災後の修理等未決定状態の継続、老朽化についての経過年数などの、客観的
要件を付する場合もあり、カリフォルニア、ミシシッピー、ネバダでは、被災後 3 年以上
の未決定状態、築後 50 年以上の経年要件などを求めている。
*本編末に、各州の解消規定の比較対照一覧表を掲載した。
3-2.老朽化を理由とする解消
前述のように、区分所有建物の老朽化の場合には、被災の例外的場合と同様に、爾後の
修繕(ないし建替え)をせずに、Condominium 関係を解消させるという選択があり得る。
そして、州によっては老朽化の場合を解消規定の中に取り込んでいる場合もある。老朽化
を解消事由に取り込んでいる州法規定は、概ね次の 3 つの場合に分類できる。
1一定の年数を経た場合を要件に、修繕しない合意を認める規定を設けている場合
2現状使用の継続が経済的な無駄を生じさせていることを要件とする規定を設けている
場合
3老朽化の有無等に関係なく、特別多数決の合意のみによって団体が解消できる場合等
である。
3-3.売却手続の概要
また、担保権が存続した目的物の売却手続は困難な場合が多いと考えられる。(UCIOA
§2-117 宣言修正規定において Connecticut 州法 §47-237 利害関係人への手続保障を参照)
州法や統一モデル法に規定されている多数決は宣言において修正されている場合にはそ
れらが優先する。宣言は、州法を範として開発分譲業者によって最初の宣言文書(原始規
約)が作成・登録されるが、unit 所有者等は、後に宣言修正手続によって、かなり自由に
別段の定めを設けることができ、この宣言の変更手続は原則 3 分の 2 の多数決で修正でき
るが、この修正手続も宣言規定に拘束されることになる。(UCIOA §2-117)
3-4.解消に関する実態
アメリカの法制上の解消制度については以上の通りであるが、それでは、解消の実態は
どのようなものか。解消が多くなされているのか、それともいまだ実績がほとんどないの
か。この点に関して、筆者らは Hyatt 弁護士およびCAIに対してヒアリング調査を行い、
そこでの質問と回答は以下のとおりである。
【Hyatt 弁護士との質疑応答】
【質問】区分所有建物の解消の事例はあるのか。
【回答】「ごくごく稀である(Very very rare.)。ちなみに、私の住んでいるアトランタ
のマンション(40 戸)は 1924 年築であるが、全く解消は念頭にない。当然、築後 50 年程
度でも同様である。私は、非現実的ではあるが、マンションは永続すると考えており、解126消については全く考えていない。ただ、ディロッパーによる再開発の場合や災害の場合に
は、解消はあり得る。」
【質問】それでは、再開発のよる解消は多いのか。
【回答】ごく稀である(Very rare.)。
【質問】それでは、災害の場合の解消はどうか。
【回答】稀である(Rare.)。
CAIにおいても、ほぼ同様の回答を得たが、その上で、次のように、解消決議が現実
にほとんどなされない理由に関して質問をし(【質問1】)、また、仮に解消決議が成立
したとして、その後の問題に関して質問をした(【質問2】)。なお、【質問1】に対す
る【解答】については、意見が分かれたので、具体の回答者を表記した。
【CAIでの質疑応答】
【質問1】統一モデル法の定める解消決議のための 80%以上の賛成は、当該建物とその
敷地を高い価格で買ってくれる買主の目処がつかないと、実際には得られないと思うが、
どうであろうか。
【回答(Grack 弁護士)】そのとおりだと思う。
【回答(Diamond 弁護士)】私は、売却代金についての動機付けが大事であると思う。
私の担当した事件では、コンドミニアムの例ではないけれど、一戸建ての住宅の一団の区
画をディベロッパーが買収したいときに、「全員が立ち退きを合意した場合には、高額の金銭を各土地所有者に支払う」と提示した。すると、その金銭に着目した土地所有者が他の
土地所有者に働きかけ始め、やがて見事に、その区画の所有者すべてから、立退きの合意
を得ることができた。
【質問2】統一モデル法では解消手続について詳細な規定を置いているが、80%以上
の賛成で解消決議が成立したが、当該建物と敷地が売却できない場合はどうなるのか。
【回答】実際には解消決議がほとんど成立していないので問題は生じないが、実際には
売却の目処なしには決議がなされないであろうし、法的には、売却されるまでは区分所有
関係は従来どおり継続する。
以上のように、アメリカにおいて、統一モデル法や州法等の法律には詳細な解消手続に
関する規定が存在するが、解消の事例は皆無に近く、また関係者の頭の中に「解消」の観
念はほとんどないと言ってよいであろう。すなわち、アメリカには「精緻な解消規定」は
存在するが、現時点では、「解消の実態」はほとんどなく、専門家の間でも、実務上特に
老朽化を理由とする「解消」はほとんど観念されていないと言ってよかろう。その証左の
ひとつとして、筆者らがヒアリングを行った統一モデル法の制定委員でもある Sterling 弁
護士は、「解消についてはわからない」とのことで、Diamond 弁護士を推薦してくれた。127第4章 結 語
本編では、「アメリカにおける経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置」を念頭に
置いて、法制度およびその運用状況ないし実態を見てきたが、以下では、結語として、第
1 に、日本法との比較において法制度面の諸概念と「解消」規定を整理し、第 2 に、「建
替え」と「解消」の実態を確認し、第 3 に、これらを踏まえて、本編の主題である「アメ
リカにおける経年(老朽)区分所有建物に対する措置」の基本としての「持続的維持と修
繕・改良」についてまとめることにする。
1.アメリカ法における制度面での「建替え」・「老朽化」概念と「解消」規定
まずは、本調査研究の主題である「アメリカにおける経年(老朽)区分所有建物に対す
る法的措置」に関して、日本法との比較において Condominium 法制の制度面の特徴を次の
4 点において総括しておきたい。
(1)アメリカの「解消」制度等の捉え方
Condominium 法制においては、各州各様に発展してきており、例えば、団体解消のため
の多数決要件についても、
今なお全員一致を求める州や、
90%、
75%、
67%など様々である。
また、統一モデル法(UCIOA)には、合意のみを要件(主観的な議決要件)とする解消規
定が設けられているが、
実際にはその他の客観的要件が求められている場合も少なくない。
そして、忘れてならないことは、統一モデル法(UCIOA)の「解消」規定が設けられた趣
旨は、同規定のコメントの冒頭に述べられている通り、《その実績は乏しい》が、《会社
形態の組織――このようなコンドミニアムも存在する――に不可欠な解消手続を形態の如
何を問わずにモデルとして提示》する点にあることであり、必ずしも、実績ないし立法事
実に基づいた「経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置」として設けられたわけでは
ないという点である。
さらに、州法が直接的に当該 Condominium の規範となるわけではなく、宣言文書等がそ
の役割を担い、広範囲で団体自治原則が許容されている点は留意しておかなければならな
いであろう。
(2)「建替え概念」の日本法との相違
アメリカでは、制度上、「建替え」の概念が修繕行為の延長線上に義務づけられており、
「建替え」しない旨の合意形成を図るという場面であらわれてきている点である。アメリ
カでは土地とその敷地とを一体の不動産として捉え、わが国のような建物単位の団体形成
ではないので、Condominium が滅失したり、建替えのために取り壊されても、論理上、団
体は解散されず、Condominium 法規定の適用が続くことになるので、わが国とは逆に、
Condominium 法制の適用排除や団体の解消といった規定によって、建て替えない選択が実
現されることになる。128(3)「老朽化建物」の取扱規定の相違
老朽化建替えを想定した規定を設けている州もあるが、多くは、建替え事業を行わない
か否かの判断は、被災の場合を想定して、保険金のみによる修復が困難な場合に求められ
る負担金についての合意形成を中心に規定されている。
したがって、災害とは無関係な老朽化判断基準については、規定を持たない場合や、統
一法典のように、合意のみによる解消規定の中で処理しようとするものや、経済的無駄を
生じさせる場合に組み込む場合の中で取り扱われる。
なお、近年、異常気象に伴った大規模自然災害に襲われる場合が増え、このような場合
には再建団体が組織できない困難が生じるために、我が国のような老朽化建替えに直面し
たマンション問題よりも、むしろこのような大災害時の問題の解決へ向けて、Florida 州法
を模範とした補完規定が、新たに統一法典にも組み込まれている点が注目される。
(4)「解消規定」の意義・目的と合意形成としての「議決要件」
解消規定は団体の清算を目的として為されるものであるから、解消決議から売却・配当
に至るまでの詳細な手続が規定されている州もあるが、わが国のようなマンションの建替
えを促進するような事業法は設けられていない。確かに統一モデル法(UCIOA)では、特
別多数決のみによる解消規定は設けられているが、先取特権者等利害関係にある債権者等
の同意が求められるため、このこともあって、既に見たように、老朽化や効用増を理由と
した特別多数決のみによる解消事例はほぼ皆無と言ってよい。
2.「建替え」と「解消」の実態
既に見たように、アメリカでは、少なくても現時点においては、経年(老朽)区分所有
建物についても、実際上、災害以外は、安全かつ修繕できる限りは建替えを行うことはな
く修繕で対処する。建替えは皆無と言ってよく、もし修繕できないときは、解消して、建
物と敷地を売却して、売買代金を分配すると考えている。
それでは、解消の事例は多いのかというと、関係機関および有識者へのヒアリングを総
合すると、災害または再開発を理由とする場合以外は、ほとんど実績がないとのことであ
る。その原因は、やはり金銭的問題である。すなわち、解消して建物と敷地を売却しても、
現在の住宅以上の住宅を取得するだけの売却代金を得られる見込みがない場合には、区分
所有者の多数の賛成は得られず解消決議は成立しない。再開発に伴いこのような売却代金
を保障できる買主たる再開発業者が出現すれば解消決議が成立するが、このような再開発
業者が出現することは稀であろうとのことである。
したがって、現存の大部分の経年区分所有建物にあっても、修繕が可能であると思われ
ることから、少なくとも現時点においては、アメリカの経年(老朽)区分所有建物に対す
る法的措置としては、専ら「区分所有建物の持続的な維持」を促進することにあると言え
よう。
3.区分所有建物の持続的維持と修繕・改良
それでは、アメリカでは、「区分所有建物の持続的な維持」の促進について、法制上、
どのような措置がなされているか。この点に関して、日本法と比較して顕著な点は、既に129述べたように、1区分所有建物の修繕等の管理一般については、集会の決議によるのでは
なく理事会の義務としてこれに権限があること、また、2集会決議を要しない共用部分の
「修繕」に該当するか、これを要する「改良」に該当するかを問題とするよりも、区分所
有建物の維持・管理に関して、具体的に、どのような事項について、どのような多数決要
件によって決定するのかが管理組合ごとに予め宣言文書等の自治規範によって定められて
いることにある。これらのことが、「区分所有建物の持続的な維持」を効率的に押し進め
る要因であると考えることができる。さらに、ドイツやフランスの法制と同じく、災害に
ついては、保険によって対処するシステムになっており、このことも「区分所有建物の持
続的な維持」に大きな役割を果たしている。130<資料1> 統一モデル法(翻訳)
Uniform Common Interest Ownership Act (2009final)
SECTION 2-118 Termination of Common Interest Community
共同財産団体の解消
(a)公用収用(eminent domain)によるすべての unit(units)の収用、宣言文書(declaration)に優
先する担保権を有する cooperative 全体に対する受戻権喪失手続(foreclosure)、s.2-124 に規
定され場合を除き、
共同財産団体(common interest community)は、
その管理組合(association)
の議決権の少なくとも 80%又は宣言文書が定める 80%よりも大きな割合が割り当てられ
ている unit 所有者(unit owners)の合意と宣言文書によって要求されるその他の承認がある
場合にのみ解消することができる。
その宣言文書は、すべての unit が専ら非居住用の用途に制限されている場合にのみ、80
%よりも少ない割合を定めることができる。
(b)解消合意は、必要な数の unit 所有者による解消合意の作成、又は捺印証書(deed)と同様
の方法による合意についての追認によって証明されなければならない。
解消合意は、一定の期日までに登録されなければ、その合意が無効となる期日を定めな
ければならない。
解消合意、及びそれについてのすべての追認は、各共同財産団体が所在する全てのカウ
ンティ(County)で登記されなければならず、登録された場合にのみ有効である。
(c)宣言文書で規定された水平境界を有する unit のみからなる Condominium 又は計画的一
体開発団体(planned community) の場合には、解消合意には、共同財産団体の、すべての共
用部分(common elements) 及び unit が、解消後に売却されなければならないことを定めな
ければならない。
その合意に従って、共同財産団体の不動産が解消後に売却される場合には、解消合意に
は売却するための最低条件を提示しなければならない。
(d)宣言文書で規定された水平境界を有しない unit を含む Condominium 又は計画的一体開
発団体の場合には、解消合意に、共用部分の売却を定めることができるが、unit について
は解消後売却されることを要求することができない。ただし、最初に登記された宣言文書
に別段の定めがされている場合、又はすべての unit 所有者が売却に同意した場合にはこの
限りではない。
(e)管理組合は、
unit 所有者のため、
共同財産団体の不動産の売買契約をすることができる。
ただし、その契約は ss. (a)及び(b)に従って承認されるまで unit 所有者を拘束しない。
不動産が解消後に売却される場合、
解消時の不動産上の権原は、
全 unit 保有者のために、
受託者としての管理組合に帰属する。
その後は、管理組合は、売却を有効にするのに必要かつ適切なあらゆる権限を取得する。
売却が実施され、その収益が分配されるまでは、管理組合は解消前に有していたあらゆる
権限を保持・存続する。
売却の収益は、unit 所有者や先取特権者等の権利の実行として、ss.(h)、(i)及び(j)に131従って、彼らに分配されなければならない。
管理組合が不動産の権原を保有している限り、
解消合意に別段の定めがなければ、
各 unit
所有者及びその権利の承継人は、従前の各 unit を構成していた不動産部分の排他的占有権
を有する。
また、その占有期間中、各 unit 所有者及びその権利の承継人は、本法又は宣言文書によ
って unit 所有者に割り当てられたあらゆる管理費(assessments)及びその他の義務を依然と
して負担する。
(f)Condominium 又は計画的一体開発団体において、
共同財産団体を構成する不動産が解消
後売却されない場合は、共用部分の権原及び共同財産団体上のすべての不動産の権原(宣
言文書で規定された水平境界を有する unit のみからなる共同財産団体の場合)は、ss. (j)
に規定されるように、
各権利に比例して不動産共有者(tenants in common)として、
解消時の
unit 所有者に帰属し、unit 上の先取特権はそれに応じて移転する。
不動産共有者(tenancy in common)が存在する場合、各 unit 所有者及びその権利の承継人
は、従前の各 unit を構成していた不動産部分の排他的占有権を有する。
(g)共同財産団体の解消後の不動産の売却益は、管理組合の資産と共に、unit 所有者と先取
特権者の権利が実現するように、彼らの受託者として管理組合が保有する。
(h)Condominium 又は計画的一体開発団体の解消後、解消前に存在した〔登録された〕〔事
件記録された〕〔判決の結果として不動産上の先取特権の対抗手続を完了するため州法に
基づいて要求されるその他の手続きを差し込んだ〕unit 上の先取特権を有する管理組合の
債権者は、通常の先取特権者と同様の方法で当該先取特権を実行することができる。
また、管理組合に対するすべての他の債権者は、解消直前に unit 上の先取特権を対抗手
続を完了したものとみなされる。
(i)Cooperative の場合、宣言文書は、管理組合のすべての債権者が unit 所有者及び unit 所有
者の債権者の権利に優先することを規定することができる。
その場合において、解消後、解消前に存在した〔登録された〕〔事件記録された〕〔判
決の結果として不動産上の先取特権の対抗手続を完了するため州法に基づいて要求される
その他の手続きを差し込んだ〕Cooperative 上の先取特権を保有する管理組合の債権者は、
通常の先取特権者と同様の方法で自己の先取特権を行使することができる。
そして、管理組合の他のすべての先取特権者は、解消直前に Cooperative に対する先取特
権の対抗手続を完了したものとみなされる。
ただし、宣言文書がすべての債権者はそのような優先権を有すると定めていない場合に
は、以下の規定による。
(1)解消前に管理組合に対して対抗手続を完了した管理組合の各債権者の先取特権は、解消時において、先取特権の手続が完了した期日現在で unit 上の各所有者の権利に対する先
取特権になる。
(2)管理組合のその他の債権者は、解消時において、解消直前に各 unit 所有者の権利に
対する先取特権の手続を完了したものとみなされる。
(3)各 unit 所有者の権利に対するパラグラフ(1)及び(2)に規定された管理組合の債権者
の先取特権の額は、各 unit の共同費用負担(common expense liability)がすべての unit の
共同費用負担を負う比率に比例していなければならない。132(4)解消前に完了された各 unit 所有者の各債権者の先取特権は、先取特権の手続が完了
された期日現在で当該 unit に対する先取特権として存続する。
(5)管理組合の資産は、以上に規定された順序ですべての unit 所有者及び先取特権者の
権利が実現されるように、彼らに配当されなければならない。
(6)管理組合の債権者は、当該 unit 所有者の権利に対する債権者の先取特権の額を超え
て unit 所有者から支払を受ける権限を有しない。
(j) ss.(e)、(f)、(g)、(h)及び(i)で参照された unit 所有者のそれぞれの権利は、以下のと
おりである。
(1)パラグラフ(2)で規定される場合を除き、unit 所有者のそれぞれの権利は、管理組合
によって選任される 1 人以上の独立の鑑定人によって決定されるように、解消直前にお
ける各自の unit、
割り当てられた権利及び専用使用部分(limited common elements)の公正
な市場価値がある。
独立の鑑定人の決定は、unit 所有者に配布されなければならず、配布後 30 日以内に、
管理組合の議決権の25%が割り当てられているunitの所有者により不承認とされない限
り、その決定が最終のものとなる。
すべての unit 所有者の権利に対する各 unit 所有者の権利の割合は、
当該 unit 所有者の
unit とその割り当てられた権利の公正な市場価値をすべての unit とそれらの割り当てら
れた権利の全体の公正な市場価値で割ることによって決定される。
(2)一定の unit 又は専用使用部分が、公正な市場価値の鑑定を行うことができない程度
まで損傷している場合には、すべての unit 所有者の権利は次のとおりである。
(A) Condominium における解消直前のそれぞれの共用部分の権利
(B) Cooperative における解消直前のそれぞれの所有権
(C) 計画的一体開発団体における解消直前のそれぞれの共同費用負担
(k)Condominium 又は計画的一体開発団体においては、ss. (l)に規定される場合を除き、共
同財産団体全体に対する先取特権又は土地に対する負担(encumbrance)の受戻権喪失手続
又は実現は、それ自体では、共同財産団体を解消させるものではない。そして、共同財産
団体の一部に対する先取特権又は土地に対する負担の受戻権喪失手続又は実現は、払戻し
可能な不動産である場合を除き、共同財産団体から当該一部の払戻しを受けるものではな
い。
払戻し可能な不動産又は s.3-112 に基づき管理組合により担保権の設定された共用部分
に対する先取特権又は土地に対する負担の受戻権喪失手続又は実現は、それ自体では、共
同財産団体から当該不動産の払戻しを受けるものではない。ただし、それによって権原を
取得する者は、要求に基づき、共同財産団体からその不動産を除外する修正を管理組合か
ら求めることができる。
(l)Condominium 又は計画的一体開発団体においては、共同財産団体を構成する不動産の一
部に対する先取特権又は土地に対する負担が宣言文書に優先し、その先取特権又は土地に
対する負担が部分的に除外されなかった場合には、先取特権又は土地に対する負担への受
戻権喪失手続を行う当事者は、受戻権喪失手続に基づき、共同財産団体から当該先取特権
又は土地に対する負担の設定されている不動産を除外する法定文書(instrument)を登記す
ることができる。133<資料2> 主要各州法解消規定(翻訳)
アメリカにおける Condominium の解消について、統一モデル法典を採択した州では、
前掲<資料1>に示した UCIOA、または UCA の規定をそのまま準用する州と、表現
を一部修正して規定する州と、さらには、多数決要件等の内容変更を加えながら規定
する州とに分かれるが、いずれも、州財産法の中に、独立した章や独立した節として
はめ込んで規定しており、これらの州での解消規定は、[Termination of Condominium
(Common Interest)]と表現され、Condominium の創設・移転・解消の一連の成立から終
了手続きの理解として規定されている。
これに対して、なお共有関係の処分を基礎におく州法では、処分行為には、Unit 所有
者及びその担保権者や債権者等の利害関係人の全員一致を原則として、例外的に、登録
された宣言文書の手続にしたがうことができると規定する州法もある。
さらに、所有者団体の財産維持管理義務としての保険制度の利用と被災等における保
険制度を利用した理事会の修復義務の中で、大規模被災や老朽化や経済的無駄等、保険
金だけで修理できない状況が生じた場合の救済手段として、売却清算のために、合意に
よる、
法適用除外[Removal from provision]形式、
取下げ[Withdrawal of property form project]
形式、不動産権の放棄[Waiver of Condominium property]形式で表現される州も多い。
また、
それらを、
分割処分禁止の原則の例外として、
分割清算ができる場合[(Partition not
available -Exceptions.]形式で表現される州も多い。
しかしながら、このように規定の方式や合意数についての州法上の相違は見られるも
のの、解消にかかる団体の法的性質や法律関係に関して大きな差異が見受けられない。
解消の必要性→解消合意。合意文書の登録。この際に Condominium 法制の適用が排除さ
れ共有関係が生じるが、あくまで清算のために形式的なもので、共有者団体と各共有者
は信託関係が生じ、→売却・分割請求・配当の流れとなる。しかし、事業が頓挫した場
合のために、再適用を妨げないとする規定が設けられている場合が多い。
以下に、いくつかの州法を参考資料としてご紹介する。
●くろまるMontana Code Annotated(モンタナ州法)
TITLE 70 PROPERTY(財産法)
CHAPTER 23 UNIT OWNERSHIP ACT - CONDOMINIUMS (Unit 所有法− Condominium)
PART 1 GENERAL PROVISIONS(一般規定)
Mont. Code Anno., §70-23-801 Removal from chapter - recorded instrument - consent of
lienholders.(本章からの適用除外 -登録された文書- 先取特権者の同意)
All of the unit owners may remove a property from the provisions of this chapter by executing
and recording an instrument to that effect if the holders of all liens affecting any of the units
consent thereto or agree, in either case by instruments duly recorded, that their liens be
transferred to the undivided interest of the unit owner in the property after removal from the
provisions of this chapter.
unit のいずれかに影響を及ぼしている、すべての先取特権者がこれに同意するか、また134は、適切に登録された文書によって、その先取特権が、財産がこの章の規定の適用から
排除された後の unit 所有者の不可分権へ移行されることに同意する場合には、unit 所有
者全員は、この章の規定の適用から、当該財産を排除することができる。
●くろまるMont. Code Anno., §70-23-802 Obsolete property -restoration or sale-removal from chapter.
(老朽化財産-復旧または売却-本章からの適用排除)
Ninety percent of the unit owners may agree that the property is obsolete in whole or in part
and whether or not it shall be renewed and restored or sold and the proceeds of sale distributed.
If 90% of the unit owners agree to renew and restore the property, the expense thereof shall be
paid by all the unit owners as common expenses.
If 90% of the unit owners agree to sell the property, the property shall be considered removed
from the provisions of this chapter.
unit 所有者の 90%が、財産の全部または一部が老朽化したことに同意する場合には、
全部か一部化に拘わらず、再生、復旧、または売却して売却益を分配することができる。
unit 所有者の 90%が再生して財産を復旧することに同意する場合には、その費用は共
通費として全 unit 所有者によって支払われるものとする。
unit 所有者の 90%が財産を売却することに同意する場合には、財産は本章の規定から
適用を除外されるものとする。
●くろまる Mont. Code Anno., §70-23-803 Damage to property --decision not to repair or
rebuild--removal from chapter. (財産の損害-修繕や再築しない決定-本章からの適用除外)If within 60 days after the date of the damage to or destruction of all or part of the property the
association of unit owners does not decide to repair, reconstruct, or rebuild, the property shall be
considered removed from the provisions of this chapter.
財産の全部または一部が、損害または損壊した日から 60 日以内に、unit 所有者団体が、
修理するのか、復旧するのか、再築するのかを決定しない場合には、財産は本章の規定
から適用を除外されるものとする。
●くろまるMont. Code Anno., §70-23-804 Effect of removal -ownership in common -liens.(適用排除の
効果-共同所有権-先取特権)
If the property is removed from the provisions of this chapter, as provided by 70-23-801
through 70-23-803, the property shall be considered owned in common by all the unit owners.
The percentage of undivided interest of each unit owner in the property owned in common shall
be the same as the percentage of undivided interest previously owned by such owner in the
common elements.
Liens affecting any unit shall be liens, in accordance with the then existing priorities, against
the undivided interest of the unit owner in the property owned in common.
財産が本章の規定の適用から除外される場合は、
§70-23-803 から§70-23-803 に規定され
るように、財産は全 unit 所有者による共有とみなされる。135共有財産についての各 unit 所有者の不可分権の割合は、従前に、当該所有者が共用部
分の上に有していた不可分権の割合と同一とする。
いかなる unit に対してであれ、効力を及ぼす先取特権は、既存の優先権に従って、共
有財産上の unit 所有者の不可分権に対しても先取特権とされる。
●くろまるMont. Code Anno., §70-23-805 Effect of removal -subject to partition - sale. (適用排除の効
果-分割に従った-売却)
If the property is removed from the provisions of this chapter, as provided in §70-23-801
through §70-23-803, it shall be subject to an action for partition at the suit of any unit owner.
The net proceeds of sale, together with the net proceeds of the insurance on the property, if any,
shall be considered as one fund and shall be divided among the unit owners in proportion to their
respective undivided interests after first paying out of the respective shares of the unit owners, to
the extent sufficient for the purpose, all liens on the undivided interest in the property owned by
each unit owner.
財産が§70-23-801 から§70-23-803 に規定される、本章の規定の適用を排除された場
合、いかなる unit 所有者の分割請求の訴えに従うものとする。
売却純益は財産上の保険金とともに、一つの信託基金とみなされ、その目的に十分な
範囲で、各 unit 所有者が共有する不可分財産権上の全ての先取特権に、まず、各個別の
持分権から支払われた後、不可分不動産権の割合に応じて各 unit 所有者の配当されるも
のとする。
●くろまるMont. Code Anno., §70-23-806 Effect of removal -subject to partition - sale. (提供排除の効
果− 分割請求に従った− 売却)
The removal of the property from the provisions of this chapter shall in no way bar its
resubmission.
本章の規定から Condominium 財産の適用を除外することは、再度の適用を禁じるもの
ではない。
●くろまるKansas Statutes Annotated, Constitution, Court Rules & ALS, Combined(カンザス州法)
Chapter 58. PERSONAL AND REAL PROPERTY(動産及び不動産)
Article 31. APARTMENT OWNERSHIP ACT(Apartment 所有権法)
K.S.A. § 58-3116 (2011) Removal from provisions of this act. (本法の規定の適用排除)
(a) All of the apartment owners may remove a property from the provisions of this act by an
instrument to that effect, duly recorded, provided that the holders of all liens affecting any of the
apartments consent thereto or agree, in either case by instruments duly recorded, that their liens
be transferred to the percentage of the undivided interest of the apartment owner in the property
as hereinafter provided.
(a) アパートメント所有者全員で、適切に登録され、全ての先取特権者の同意を証明する
文書によるか、今後、先取特権は、当該不動産上のアパートメント所有者の不可分権の
割合に応じて、共有財産上に移転する旨に同意することが、適切に登録された文書によ136って、本法の規定の適用を排除できる。
(b) Upon removal of the property from the provisions of this act, the property shall be deemed
to be owned in common by the apartment owners. The undivided interest in the property owned
in common which shall appertain to each apartment owner shall be the percentage of undivided
interest previously owned by such owner in the common areas and facilities.
(b) 本法の規定の適用から当該不動産が除外された場合、同不動産は、アパートメント所
有者等によって共同所有となる。共同所有財産の不可分権は、以前、共用部分や共用施
設上に所有していた不可分権の割合で、各アパートメント所有者に属する。
●くろまるNORTH DAKOTA CENTURY CODE(ノースダコタ州法)
TITLE 47 Property(財産法)
CHAPTER 47-04.1 Condominium Ownership of Real Property(不動産の Condominium 所有権)N. D. Cent. Code (2013)
47-04.1-09. Partition not available -- Exceptions.(分割禁止− 例外)
The provisions of chapter 32-16 relating to partition of real property shall not be available to
any owner of any interest in real property included within a project established under this chapter
as against any other owner or owners of any interest or interests in the same project, so as to
terminate the project.
不動産の分割に関係する 32-16 章の規定は、不動産関係を解消するために、当該不動産
関係において、本章のもとで創設され不動産関係における、当該不動産上の、他の所有
者、他の不動産権者、不動産権をも含めた、いかなる不動産権のいかなる所有者にも適
用されない。
An action may be brought by one or more unit owners in a project for partition thereof by sale
of the entire project, as if the owners of all of the condominiums in such project were
tenants-in-common in the entire project in the same proportion as their interest in the common
areas, provided, however, that a partition by sale shall be made only upon the showing that:
一人または複数の、不動産の unit 所有者が、不動産の完全売却による分割を求めてる
訴は、あたかも、その不動産上の全ての Condominium 所有者等が、共用部分についての
持分権と同一の割合で、全不動産の共同所有者となるが、しかし、かかる売却による分
割請求は、次に示す場合に限って認められる。
1. Three years after damage or destruction to the project which renders a material part
thereof unfit for its prior intended use, the project has not been rebuilt or repaired substantially to
its state prior to its damage or destruction;
1 不動産に対する損害や損壊が重要な部分となり、それゆえ、従前の目的とされた使
用に適さなくなり、しかも、実質的に以前の損害や損壊の状況のままで、再築や修理が
なされないままに 3 年が過ぎた場合
2. All or a substantial and material portion of the project has been destroyed or substantially
damaged, and that condominium owners holding in aggregate more than fifty percent interest in
the common areas are opposed to repair or restoration of the project; or1372 不動産の全部、
または実質的なかつ重要な部分が損壊、
または実質的に損害を被り、
かつ、総計で共用部分の 50%以上の持分権を有する condominium 所有者等が、不動産の
修理や復旧に反対する場合
3. The project is obsolete and uneconomic, and that condominium owners holding in aggregate
more than a fifty percent interest in the common areas are opposed to repair or restoration of the
project.
3 不動産が老朽化して不経済となり、総計で共用部分の 50%以上の持分権を有する
condominium 所有者等が、不動産の修理や復旧に反対する場合
●くろまるNEW YORK CONSOLIDATED LAW(ニューヨーク州法)
REAL PROPERTY LAW(不動産)
ARTICLE 9-B. CONDOMINIUM AT(Condominium 法)
NY CLS Real P. §339-bb (2013), Insurance (保険)
The board of managers shall, if required by the declaration, the by-laws or by a majority of the
unit owners, insure the building against loss or damage by fire and such other hazards as shall be
required, and shall give written notice of such insurance and of any change therein or termination
thereof to each unit owner [fig 1] .
In the case of a qualified leasehold condominium, such insurance shall be required in any
event, and shall be in an amount equal to full replacement cost of the building.
The policy or policies of such insurance shall be updated annually to maintain such insurance
in such amount.
Nothing herein shall prejudice [fig 2] the right of each unit owner to insure his own unit for his
own benefit.
The premiums for such insurance on the building shall be deemed common expenses,
provided, however, that in charging the same to the unit owners consideration may be given to
the higher premium rates on some units than on others.
理事会は、宣言文書、規約、または unit 所有者の過半数によって求められている場合
には、火災その他の災害によって生じた損傷または損害に対して、必要であれば、建物
に保険を付保し、各 unit 所有者に対して当該保険に関して、そのいかなる変更、解約に
ついても、書面により通知しなければならない。
定期賃借コンドミニアム場合には、いかなる場合にも、同保険の付保は必要であり、
建物の再調達総額でなければならない。
かかる保険契約、または保険証書は、かかる総額を充足できる保険を維持するために、
毎年更新されるものとする。
本保証契約は、各 unit 所有者が、自己の利益のために、自己の unit を保証する権利を
何も損なわないものとする。
建物についてのかかる保険の保険料は共用費とみなされる。しかし、unit 所有者の約因
と同様に課す場合は、一部の units の保険料は、他の unit より高額な保険料となる。138●くろまるNY CLS Real P. §339-cc (2013) Repair or reconstruction (修復または再建)
1. Except as hereinafter provided, damage to or destruction of the building shall be promptly
repaired and reconstructed by the board of managers using the proceeds of insurance, if any, on
the building for that purpose, and any deficiency shall constitute common expenses; provided,
however, that if three-fourths or more of the building is destroyed or substantially damaged and
seventy-five per cent or more of the unit owners do not duly and promptly resolve to proceed
with repair or restoration, then and in that event the property or so much thereof as shall remain,
shall be subject to an action for partition at the suit of any unit owner or lienor as if owned in
common, in which event the net proceeds of sale, together with the net proceeds of insurance
policies, if any, shall be considered as one fund and shall be divided among all the unit owners in
proportion to their respective common interests, provided, however, that no payment shall be
made to a unit owner until there has first been paid off out of his share of such fund all liens on
his unit.
1 以下に規定されるものを除いて、建物の損壊または滅失は、理事会によって、迅速
に修復または再建されなければならない。建物に、その目的のための保険金があれば、
それを使って行う。その場合の費用の不足額は共用費用とされる。
ただし、建物の 4 分の 3 以上が滅失するか、または大規模な損害を受けて、75%以上
の unit 所有者が、修理または再建を続行することを、正式に迅速に決定しない場合、残
された財産は、unit 所有者または担保権者らの訴訟における分割請求に従い、その際の売
却の純益があれば、保険金とともに、あたかも共有関係にあるものとして所有され、1 つ
の資産とみなされ、全 unit 所有者間で各共用部分持分割合に応じて分割される。
ただし、各 unit 所有者が、自己の unit の全ての先取特権に対して、かかる資金の配当
分から、まず、最初に清算されるまでは、unit 所有者への支払は行われない。
2. Notwithstanding the provisions of subdivision one hereof, in the case of a qualified
leasehold condominium, any damage to or destruction of the building shall be promptly repaired
and reconstructed by the board of managers, and the proceeds of the insurance policy or policies
required for qualified leasehold condominiums pursuant to the provisions of section three
hundred thirty-nine-bb of this chapter shall first be applied to such repair and reconstruction.
2 定期賃借コンドミニアムの場合は、
ここに掲げる項目規定にかかわらず、
理事会は、
建物の損傷または滅失を速やかに修復、
再建しなければならない。
そして、
本章の§339-bb
の規定により定期賃借コンドミニアムのために必要とされる保険金は、この修理及び再
建に、まず適用されるものとする。
●くろまるNY CLS Real P. §339-t (2013)
§339-t. Withdrawal from provisions of this article(本条項の規定からの適用排除)
If withdrawal of the property from this article is authorized by at least eighty per cent in
number and in common interest of the units, or by at least such larger percentage either in
number or in common interest, or in both number and common interest, as may be specified in
the by-laws, then the property shall be subject to an action for partition by any unit owner or
lienor as if owned in common, in which event the net proceeds of sale shall be divided among all139the unit owners in proportion to their respective common interests, provided, however, that no
payment shall be made to a unit owner until there has first been paid off out of his share of such
net proceeds all liens on his unit.
Such withdrawal of the property from this article shall not bar its subsequent submission to the
provisions of this article in accordance with the terms of this article.
unit 数、及び unit の共用部分の持分割合の双方の、少なくとも 80%が、あるいは、規
約に、その一方について、あるいは双方について、それ以上の数が特に規定されている
場合には、それに従って、本条項の対象から財産を取り除かれると、当該財産は、いか
なる unit 所有者または先取特権者による分割請求にしたがうことになる。そして、売却
の純益は、各自の共用部分の持分割合に応じて、全ての unit 所有者等に配分されること
になる。ただし、まず、自らの unit の全ての先取特権が、その純益の持分割合から完済
を受けるまでは、unit 所有者への支払はない。
かかる本条項からの財産の適用排除は、爾後、本条項の文言に従って、本条項の規定
の再適用することを禁じるものではない。
●くろまる2012 Cal Stats. ch. 180 (カリフォルニア州法)
Part 5 Common Interest Developments(共同財産開発団地)
Chapter 4 Ownership and Transfer of Interests(共同財産の所有権と譲渡)
Article 4 Restrictions on Transfer (譲渡制限)
§ 4610.
(a) Except as provided in this section, the common area in a condominium project shall remain
undivided, and there shall be no judicial partition thereof.
Nothing in this section shall be deemed to prohibit partition of a cotenancy in a condominium.
(a) 本節の規定を除いては、Condominium 不動産の共用部分は分割されない、そしてそこ
から、法的意味をもつ部分も生じないものとする。
但し、本節においては、Condominium の共同所有形態の分割を禁止すべきものはない。
(b) The owner of a separate interest in a condominium project may maintain a partition action as
to the entire project as if the owners of all of the separate interests in the project were tenants in
common in the entire project in the same proportion as their interests in the common area.
The court shall order partition under this subdivision only by sale of the entire condominium
project and only upon a showing of one of the following:
(b) Condominium 不動産の各不動産権の所有者は、
共用部分における持分権と同一の割合
に応じて、あたかも共同不動産の分割された持分権の所有者全員が全共同不動産全体を
共有するかのように、共有物分割の訴えによって維持される。
裁判所は、全 Condominium 不動産の完売と以下に示す場合にのみ、本細目に基づく不
動産分割命令を発するものとする。
(1) More than three years before the filing of the action, the condominium project was
damaged or destroyed, so that a material part was rendered unfit for its prior use, and the
condominium project has not been rebuilt or repaired substantially to its state prior to the damage
or destruction.140(1) Condominium 不動産が、損害あるいは損壊し、そのため主要部分が従前の使用に
適さなくなり、しかも condominium 不動産が損害や滅失を被った状況のまま再築も修理
も実質的になされないで、3 年以上も、分割の訴えがファイルされていない場合
(2) Three-fourths or more of the project is destroyed or substantially damaged and owners of
separate interests holding in the aggregate more than a 50-percent interest in the common area
oppose repair or restoration of the project.
(2)不動産の 4 分の 3 以上が損壊あるいは実質的損害を受け、
共用部分の各持分の総計
50%以上の、所有者らが不動産に対する修理や復旧に反対した場合
(3) The project has been in existence more than 50 years, is obsolete and uneconomic, and
owners of separate interests holding in the aggregate more than a 50-percent interest in the
common area oppose repair or restoration of the project.
(3) 不動産が築後 50 年以上経ち、老朽化し、不経済となった場合に、共用部分の各持
分の総計 50%以上の、所有者らが不動産に対する修理や復旧に反対した場合
(4) Any conditions in the declaration for sale under the circumstances described in this
subdivision have been met.
(4) その他、本細目に記載されたような状況での売却についての宣言文書での条件が
生じた場合
●くろまるCONNECTICUT ANNOTATED STATUTES(コネチカット州法)
TITLE 47 LAND AND LAND TITLES(土地及び土地権原)
CHAPTER 825 CONDOMINIUM ACT(Condominium 法)
Conn. Gen. Stat. §47-88 (2013) Removal of property from application of chapter. Resubmission
of property.(本章適用からの財産の排除。財産への再適用。)
(a) The unit owners may remove a property from the provisions of this chapter by recording an
instrument to that effect, containing the signature of ninety per cent of the unit owners, provided
the holders of all liens affecting any of the units consent thereto or agree, in either case by
recorded instruments, that their liens be transferred to an undivided interest in the property.
(a) unit 所有者は、有効に、unit 所有者の 90%の署名を含む登録された法定文書によっ
て、この章の規定から財産を取り除くことができる。ただし、unit のいずれかに影響を及
ぼしている総ての先取特権の保有者がこれに同意するか、またはその先取特権が財産上
の不可分権へ移行されることに同意が必要である。
(b) Upon removal of the property from the provisions of this chapter, the unit owners shall
own the property as tenants in common with undivided interests equal to the percentage of
undivided interests in the common elements owned by each such owner immediately prior to the
recordation of the instrument referred to in subsection (a) of this section. As long as such tenancy
in common continues, each unit owner shall have an exclusive right of occupancy of that portion
of such property which formerly constituted his or her unit.
(b) この章の規定からの財産の排除によって、unit 所有者等は、共同所有者として当該
財産を所有する。ただし、不可分権を有する共同所有者が、この節の(a)項に関連する法
定文書の登録直前に、それぞれが有していた共用部分についての不可分割合に相当する141ように、unit 所有者は財産を所有するものとする。当該共有関係が継続する限り、各 unit
所有者は、従前その unit を構成していた当該財産部分に排他的占有権を専有するものと
する。
(c) Upon removal of the property from the provisions of this chapter, any rights the unit
owners may have to the assets of the unit owners' association shall be in proportion to their
respective undivided interests in the common elements immediately prior to the recordation of
the instrument referred to in subsection (a) of this section.
(c) 本章の規定からの財産排除によって、unit 所有者が unit 所有者団体の資産対して有
するいかなる権利も、本節の(a)項に関する法定文書の登録直前に、共用部分に対する各
不可分権の上にそれぞれ応じて存在する。
(d) The removal provided for in this section shall not bar the subsequent resubmission of the
property to the provisions of this chapter, by an instrument signed by the same percentage of unit
owners and mortgagees as specified in subsection (a) of this section for removal.
(d) 本節に規定する排除は、適用排除のために本節の (a)項に明記された、unit 所有者
及び譲渡抵当権者と同じ割合によって署名された法定文書により、本章の規定を当該財
産に再適用することを妨げるものではない。
●くろまるANNOTATED LAWS OF MASSACHUSETTS(マサチューセッツ州法)
PART II REAL AND PERSONAL PROPERTY AND DOMESTIC RELATIONS(不動産・動
産・家族関係)
TITLE I TITLE TO REAL PROPERTY(不動産の献言)
Chapter 183A Condominiums.(Condominium)
ALM GL ch. 183A, (2012)§ 19 Removal of Condominium or Portion Thereof from Provisions of
Chapter. 本章の規定からのコンドミニアム又は部分的な適用排除)
(a) Seventy-five per cent of the unit owners, or such greater percentage as is stipulated in the
bylaws, may remove all of a condominium or portion thereof from the provisions of this chapter
by an instrument to that effect, duly recorded, provided that the holders of all liens upon any of
the units affected consent thereto by instruments duly recorded.
Upon such removal, the condominium, including all the units, or the portion thereof thus
removed shall be owned in common by the unit owners and the organization of unit owners shall
be dissolved, unless it is otherwise provided in the removal instrument.
The undivided interest in the property owned in common held by each unit owner shall be
equal to the percentage of the undivided interest of such owner in the common areas and
facilities.
(a) unit 所有者の 75%、あるいは、それより大きな割合が規約に規定されている場合
には、その割合によって、その旨が文書により、正式に登録されれば、コンドミニアム
不動産の全部または一部分を、本章の規定から適用を排除することができる。
ただし、影響を受ける unit のすべての担保権者が有効に登録された法定文書によって
これに同意しなければならない。
当該効力の排除によって、全ての unit を含むコンドミニアムまたは一部分が、適用排142除になった場合には、適用排除された部分は unit 所有者等の共同所有とされ、 もし、
適用排除を規定する法定文書に他の方法が規定されていない限り、
unit 所有者団体は解散
される。
各 unit 所有者の共同所有する財産の不可分財産権は、各 unit 所有者の共用部分および
共用施設に割り当てられていた当該 unit 所有者の不可分権の割合に等しいものとする。
(b) Such removal shall not bar the subsequent resubmission of the land and buildings involved
to the provisions of this chapter.
(b) 当該効力の排除規定は、土地及び建物に対して、本章の規定も含めて再適用するこ
とを禁止しない。
●くろまるNEW HAMPSHIRE REVISED STATUTES ANNOTATED(ニューハンプシャー州法)
TITLE XLVIII Conveyances And Mortgages Of Realty(不動産の譲渡と譲渡抵当)
CHAPTER 479-A Unit Ownership of Real Property(不動産の Unit 所有権)
RSA 479-A: 15 (2012) Removal From Provisions of This Chapter.(本章かれの適用排除)
All of the unit owners may remove a property from the provisions of this chapter by an
instrument to that effect, duly recorded, provided that the holders of all liens affecting any of the
units consent thereto or agree, in either case by instruments duly recorded, that their liens be
transferred to the percentage of the undivided interest of the unit owner in the property as
provided in this section.
Upon removal of the property from the provisions of this chapter, the property shall be deemed
to be owned in common by the unit owners. The undivided interest in the property owned in
common which shall appertain to each unit owner shall be the percentage of undivided interest
previously owned by such owner in the common areas and facilities.
全 unit 所有者は、有効かつ正式に登録された法定文書によって、本章の規定の効力か
ら財産を除外することができる。但し、unit のいずれかに影響を与える全ての先取特権者
の合意が同意するか、あるいは、本章に規定される財産に関して、それぞれの先取特権
が、unit 所有者が持つ不可分権(持分割合)上に移行する旨が正式に登録された法定文書
に先取特権者が同意するが必要である。
本章の規定から財産を除外する場合、当該財産は unit 所有者等の共同所有とみなされ
る。共同所有する財産上の不可分権は、各 unit 所有者の従前の共用部分に有していた共
有持分割合に応じて帰属する。
RSA 479-A:25 (2012) Disposition of Property; Destruction or Damage.
(財産の処分:滅失又は
損害)
If within 60 days of the date of the damage or destruction to all or part of the property it is not
determined by the association of unit owners to repair, reconstruct or rebuild, then and in that
event: the property shall be deemed to be owned in common by the unit owners;
the undivided interest in the property owned in common which shall appertain to each unit
owner shall be the percentage of undivided interest previously owned by such owner in the
common areas and facilities;
any liens affecting any of the units shall be deemed to be transferred in accordance with the143existing priorities to the percentage of the undivided interest of the unit owner in the property as
provided in this section;
and the property shall be subject to an action for partition at the suit of any unit owner, in
which event the net proceeds of sale, together with the net proceeds of the insurance on the
property, if any, shall be considered as one fund and shall be divided among all the unit owners
in a percentage equal to the percentage of undivided interest owned by each owner in the
property, after first paying out of the respective shares of the unit owners to the extent sufficient
for the purpose all liens on the undivided interest in the property owned by each unit owner.
財産の一部または全部についての損害または滅失の日から 60 日以内に、unit 所有者団
体は修復するか、建て替えるか、再建かを決定しなければならない。その場合、財産は
unit 所有者の共同所有とみなされる。
共同所有する財産上の不可分権は、各 unit 所有者の従前の共用部分に有していた共有
持分割合で、彼らに帰属する;
unit のいずれかに影響を及ぼしている、いかなる先取特権も、本章に規定される財産上
の unit 所有者の不可分権割合に対して、存続している優先権に従って譲渡されたものと
みなされる;
そして、当該財産は、いかなる unit 所有者の訴訟においてなされた分割請求の訴えに
従う。その場合、売却純益がもしあれば、当該財産の保険金純益とともに、1 つの信託資
産とみなされ、各 unit 所有者が不可分権として有していた割合と同様の割合で全 unit 所
有者の間で分配される。
但し、各 unit 所有者が有する財産の不可分権上の全ての先取特権者が、その目的を充
足する範囲で、unit 所有者の各持分割合から完済された後である。144 米国コンドミニアム解消規定比較表2013H.HANAFUSA
州名
規定条文
条見タイトル
決議要件
備考・コメント
Alaska
Alaska
Stat.§34.08.260
(2013)Sec.34.08.260.
Terminationofcommon
interest
community4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
AlabamaCodeofAla.§
35-8A-218
(2013)§35-8A-218.
Agreementtoterminate;
ratification;
recordation;
horizontal
boundaries;
liens.4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
Arkansas
A.C.A.§18-13-107
(2012)
18-13-107.
Waiverandreestablishmentofregimes.
全員同意
各区分所有権の放棄規定のみ
Arizona
A.R.S.§33-1228
(2012)§33-1228.
Terminationofcondominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
California2012Cal
Stats.ch.180§4610.2012Cal
Stats.ch.180§4610.
損壊から3年以上経過して何もなされない場合3/4以上の共用部分が倒壊し、1/2以上が修復に反対している
場合、
築後50年以上経過して、1/2以上修復に反対
独立の章を持たず、民法典に詳細に規定
Colorado
C.R.S.
38-33.3-218
(2012)
38-33.3-218.
Terminationofcommon
interest
community2/3(非住宅の場合はそれ以下も可)
Connecticut
Conn.Gen.Stat.§47-88
(2013)Sec.47-88.
Removalofpropertyfromapplicationofchapter.
Resubmissionofproperty.9/10WashingtonDCD.C.Code§
42-1902.28
(2012)§42-1902.28.
Terminationofcondominium
[Formerly§45-1838]4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
Delaware25Del.C.§
81-218
(2013)§81-218.
Terminationofcommon
interest
community4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
FloridaFla.Stat.§718.117
(2013)§718.117.
Terminationofcondominium4/5(3/4以上がタイムシェア型住宅の場合)
区分所有解消計画を策定するスキーム
原因に応じ、かなり詳細に規定している
Georgia
O.C.G.A.§44-3-98
(2012)§44-3-98.
Terminationofcondominium;
creationoftenancyincommon;
distributionofassets;
transferofmortgagesandliens4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)Guam21GCA§
45122
(2012)§45122.
WaiverofUseofCommon
Elements;
AbandonmentofApartment;
ConveyancetoBoardofDirectors.
宣言が定める
各区分所有権の放棄規定のみ
HawaiiHRS§
514A-21
(2012)§514A-21.
Removalfromprovisionsofthis
chapter.4/5Idaho
IdahoCode§
55-1510
(2012)§55-1510.
Removalofpropertyfromlaw--Common
ownership--Resubmission2/3Illinois765ILCS
605/16
(2012)§765ILCS605/16.
RemovalfromprovisionsofthisAct全員同意(抵当権者の同意が必要)
Indiana
BurnsInd.CodeAnn.§
32-25-8-16
(2012)
32-25-8-16.
Removalofpropertyfromcondominium--Recordingofinstrument--Actionforpartition.
全員同意(災害法等に規定する原因により建物の復旧ができない
場合には、自動的に区分所有建物としての登録を失い、共有)IowaIowaCode§
499B.8
(2012)
499B.8
Removalfromprovisionsofthis
chapter.
全員同意(抵当権者の同意)
Kansas
K.S.A.§58-3116
(2011)
58-3116.
Removalfromprovisionsofthisact.全員同意(抵当権者の同意)
KentuckyKRS§
381.9157
(2012)
381.9157.
Terminationofcondominium.
建替えについては、2/3以上が滅失した場合に、自動的に行われ
る。
LouisianaLa.R.S.
9:1122.112
(2012)§9:1122.112.
Termination;
withdrawal
全員同意、宣言規定が定める。
Maine33M.R.S.§1602-118
(2012)§1602-118.
Terminationofcondominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
MassachusettsALMGLch.
183A,§19
(2012)§19.
RemovalofCondominiumorPortion
ThereoffromProvisionsofChapter.3/4MarylandMd.REAL
PROPERTYCodeAnn.§11-123(2012)§11-123.
Terminationofcondominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
詳細
MichiganMCLS§
559.150
(2012)MCLS§
559.151
(2012)MCLS§
559.190a
(2012)§559.150.
Terminationofcondominium
projectoramendmentofmasterdeedby
developer.§559.151.
Terminationofcondominium
projectbyagreementofdeveloperandunaffiliatedco-owners.4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
共同所有者にデベロッパーが入っているか
否かにより要件・手続きが異なる。
Minnesota
Minn.
Stat.§515A.2-120
(2012)
Minn.
Stat.§515.16
(2012)
Minn.
Stat.§515B.2-119
(2012)
515A.2-120
TERMINATIONOFCONDOMINIUM
515.16
REMOVALFROMPROVISIONSOFSECTIONS
515.01TO515.29
515B.2-119
TERMINATIONOFCOMMON
INTEREST
COMMUNITY4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
複数法制度を持つ
Mississippi
Miss.CodeAnn.§89-9-35
(2012)
Miss.CodeAnn.§89-9-37
(2012)§89-9-35.
Actionforpartitionofcondominium
projectbysale
thereof§89-9-37.
Actionforpartitionofcondominium
projectbysale;
venue;
powersofcourt;sale以下を要件に(区分所有解散、)売却を可能とする
・損壊から3年以上経過し、未復旧
・建物の3/4以上が損壊し、1/2以上の区分所有者が復旧に反対
・築年数50年以上
・規約に定めがあること
要因ごとに条文を分けて、詳細に規定して
いる。
Missouri§448.160
R.S.Mo.
(2013)§448.2-118
R.S.Mo.
(2013)§448.160.
Property
removedfromcondominiumlaw,how,
effects§448.2-118.
Terminationofa
condominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
Montana
Mont.CodeAnno.,§70-23-801
(2012)
Mont.CodeAnno.,§70-23-802
(2012)
Mont.CodeAnno.,§70-23-803
(2012)
Mont.CodeAnno.,§70-23-804
(2012)
Mont.CodeAnno.,§70-23-805
(2012)
Mont.CodeAnno.,§70-23-806
(2012)
70-23-801
Removalfromchapter--recorded
instrument--consentoflienholders.
70-23-802
Obsolete
property--restorationorsale--removalfromchapter.
70-23-803
Damagetoproperty--decisionnotto
repairorrebuild--removalfromchapter.
70-23-804
Effectofremoval--ownershipincommon--liens.
70-23-805
Effectofremoval--subjecttopartition--sale.
70-23-806
Removalnobartoresubmission.
・以下の場合を除き(原則?)抵当権者含む全員同意で区分所有
解消
・9/10が老朽化決議をすると、建替え又は区分所有解消できる
・損壊後60日以内に復旧されない場合、区分所有法の適用外となる要因ごとに条文を分けて、詳細に規定して
いる
Nebraska
R.R.S.Neb.§
76-817
(2012)
R.R.S.Neb.§
76-855
(2012)§76-817.
Expenses;payproratashare;
failureorrefusal;
lien;
waiver;
effect§76-855.
Terminationofcondominium;
distributionofproceeds;
foreclosureoflien;
effect4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
North
CarolinaN.C.Gen.
Stat.§47C-2-118
(2013)§47C-2-118.
Terminationofcondominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
NevadaNev.Rev.
Stat.Ann.§
117.050
(2012)
117.050.
Partitionofproject.
以下を要件に(区分所有解散、)売却を可能とする
・損壊から3年以上経過し、未復旧
・建物の3/4以上が損壊し、1/2以上の区分所有者が復旧に反対
・築年数50年以上
・規約に定めがあること
要因ごとに条文を分けて、、詳細に規定し
ている。145 米国コンドミニアム解消規定比較表2013H.HANAFUSA
州名
規定条文
条見タイトル
決議要件
備考・コメント
North
DakotaN.D.Cent.
Code,§47-04.1-10
(2012)
47-04.1-10.
Withdrawalofpropertyfromproject--Recording--Subsequent
project.
以下を要件に(区分所有解散、)売却を可能とする
・損壊から3年以上経過し、未復旧
・建物の3/4以上が損壊し、1/2以上の区分所有者が復旧に反対
・建物が老朽化し非経済的で、1/2以上の区分所有者が復旧に反対New
HampshireRSA479-A:15
(2012)RSA479-A:25
(2012)
479-A:15
RemovalFromProvisionsofThis
Chapter.
479-A:25
DispositionofProperty;
DestructionorDamage.
全員同意(抵当権者の同意が必要)
損壊後60日以内に復旧決議がなされない場合は共有NewJerseyN.J.Stat.§46:8B-26
(2013)N.J.Stat.§46:8B-27
(2013)§46:8B-26.
Condominium
termination§46:8B-27.
Effectofdeedofrevocation4/5New
MexicoN.M.Stat.Ann.§
47-7B-18
(2012)§47-7B-18.
Terminationofcondominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)NewYorkNYCLSRealP§339-t
(2013)§339-t.
Withdrawalfromprovisionsofthis
article4/5OhioORCAnn.
5311.17
(2013)§5311.17.
Removalofpropertyfromprovisionsofcondominiumlaw全員同意
Oklahoma60Okl.St.§517(2012)60Okl.St.§527(2012)60Okl.St.§528(2012)§517.
Removalofpropertyfromprovisionsofact§527.
Damageordestructionofbuilding--Repairorrestoration--Deficiency
assessments--
Distributionoffunds§528.
Obsolete
property
全員同意
OregonORS§
100.600
(2011)ORS§
100.605
(2011)ORS§
100.610
(2011)
100.600
Terminationofassociationorremovalofreal
propertybyunit
owners;
consentoflienholders;
recordation;
amendedplatrequirements.
100.605
Removalofpropertyfromassociation;
repairorremovalofpropertythatis
damagedordestroyed.9/10Pennsylvani68Pa.C.S.§3220
(2012)§3220.
Terminationofcondominium.4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
PuertoRico2012PRLEY261P.delaC.33932012PRLEY2613/4全員一致から75%へ。スペイン語
RhodeR.I.Gen.Laws§
34-36.1-2.18
(2012)§34-36.1-2.18.
Terminationofa
condominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
South
CarolinaS.C.CodeAnn.§
27-31-130
(2011)S.C.CodeAnn.§
27-31-250
(2011)S.C.CodeAnn.§
27-31-260
(2011)§27-31-130.
Waiverofregimeandmergerofapartment
recordswithprincipal
property.§27-31-250.
Repairorreconstruction;voteof
co-owners;
applicationofinsurance
proceeds.§27-31-260.
Sharing
expensesincaseoffireorother
disaster.4/5South
Dakota
該当規定なし
該当規定なし
該当規定なし
規定が見当たらない
Tennessee
Tenn.CodeAnn.§66-27-318
(2012)
66-27-318.
Terminationofcondominium.4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
TexasTex.Prop.Code§
81.110
(2012)Tex.Prop.Code§
82.068
(2012)§81.110.
TerminationofCondominium
Regime§82.068.
TerminationofCondominium2/3(規約に定めがない場合は全員同意)4/5(非住宅の場合はそれ以下も可。なお、規約に定めがない場
合は全員同意)
複数法制度を持つUtahUtahCodeAnn.§57-8-22
(2012)§57-8-22.
Removalofpropertyfromstatutory
provisions
全員同意(抵当権者の同意が必要)
Vermont27V.S.A.§1316
(2012)§1316.
Termination,
dissolution
全員同意(抵当権者の同意が必要)
VirginiaVa.CodeAnn.§
55-79.72:1
(2013)§55-79.72:1.
Terminationofcondominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
WashingtonRev.Code
Wash.
(ARCW)§64.34.268
(2012)§64.34.268.
Terminationofcondominium4/5(非住宅の場合はそれ以下も可)
WisconsinWis.Stat.§703.28
(2012)
703.28.
Removalfromprovisionsofthis
chapter.
全員同意(抵当権者の同意が必要)
Virgin
Islands28V.I.C.§915
(2013)§915.
Removalfromprovisionsofthis
chapter
全員同意(抵当権者の同意が必要)WestVirginiaW.Va.Code§
36B-2-118
(2012)W.Va.Code§
36A-6-1
(2012)W.Va.Code§
36A-6-2
(2012)§36B-2-118.
Terminationofcommon
interest
community.§36A-6-1.
Removal.§36A-6-2.
Effectofremoval.4/5(非住宅の場合はそれ以下も可
抵当権者の同意が必要)
複数法制度を持つ。
WyomingWyo.Stat.§34-20-104
(2012)§34-20-104.
Noticetotax
assessor;
apportionmentoftaxes;
recording
declaration;
covenants
runningwithland.
宣言で定める
UCIOをそのまま採用している州、アレンジしている州、TerminationofCondominium
型(4/5)と
Removal from
provision 型(原則、利害関係人の全員同意)
Wiverofregime型(自己のUnit処分・放棄方法)としして規定)とに大別できる。
また、UCAとUCIOAとを併存規定している州や、Unit
Ownership
Act、Horizontal
OwnershipActと
Condominium
Actと併存規定している州もある。
多数決のみの解消規定は、UCA採択州には見受けられるが、
災害や老朽化、経済的無駄等の理由が生じた場合のRemovalfromprovisionの方法の中に規定
されている。146第5編 イギリス
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ
1.本調査研究について
イギリスでは、わが国のマンションに相当するものをフラット(flat)と呼んでいるが、フ
ラットに関する権利には、主として、リースホールド(leasehold)と呼ばれる不動産賃借権
と、
2002 年コモンホールド・リースホールド改革法(Commonhold and Leasehold Reform
Act 2002)に規定されているコモンホールド(commonhold)という共同保有権とが存在す
る。後者がわが国の区分所有権に相当する権利であるが、この権利は全くと言ってよいほ
どイギリスで定着していないということが 2009 年 10 月のヒアリング調査で明らかになっ
た。コモンホールドの実例については、2002 年の施行以来、14 コモンホールドで 107 フ
ラットしか存在しておらず、今後も普及する可能性は高くないとの評価がなされていた。
今回、追加調査のため関係各機関からの情報入手を行ったが、基本的にはこの状況に変化
はなく、前回調査の 2009 年以降もコモンホールドが普及している可能性自体がほとんど
見込まれないことなどから、コモンホールドに関する現地でのヒアリング調査等は実施し
ないこととした。そこで、本報告書では、若干の基礎データを提示すると共に、前回の報
告書で必ずしも十分には取り上げられなかったリースホールドによるフラットについて取
り上げることにする。リースホールドについては、フラットに対する権利のほとんどを占
めており、統計上現われてくるフラット総数のほとんどがこの権利によるものであること
から、現在のイギリス法の実態の把握に資することになるからである。以下、イギリスの
統計上の住宅事情を確認し、リースホールドに基づくフラットの制度、フラットを管理す
るための仕組み、そして再開発目的のリースホールドの終了の規定について述べることと
する。
2.統計上の住宅事情
2-1.国土・人口
イギリスの正式な国名は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(United
Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)であり、略して連合王国(United
Kingdom, UK)と呼ばれている。国名からも明らかなとおり、イギリスは、グレートブリ
テン島のイングランド、ウェールズおよびスコットランドのほか北アイルランドの 4 つの
地域からの連合体となっている。
国土の総面積は 24 万 4,000k m2で、日本の 4 分の 3 程度であるが、山岳地帯はウェール
ズの両側とスコットランドの北部に限られ、
全体的になだらかな丘陵に覆われているため、
居住可能面積は日本よりもはるかに多い。
人口は、連合王国全体では、19 世紀半ばでは約 2,226 万人であったのに対し、2008 年147では約 6,138 万人にまで増加し、3 倍近くまで人口が増加している。また、戦後に限って
みても、1951 年の約 5,203 万人から 1,000 万人近く増加している。そして、その後の人口
予測においても、人口が増加していくことが推計されているが、近年および今後の人口増
加は、主として移民の受け入れによるものである。
なお、人口の地域ごとの分布では、イングランドが最も多くの人口を占めているが、他
の地域でも人口は着実に増加している。
国と地域ごとの人口(2011年以降は推定) (単位:千人)
連合王国 イングランド・
ウェールズ
ウェールズ スコットランド 北アイルランド1801 - 8,893 587 1,608 -
1851 22,259 17,928 1,163 2,889 1,442
1901 38,237 32,528 2,013 4,472 1,237
1911 42,082 38,070 2,421 4,761 1,251
1921 44,027 37,887 2,656 4,882 1,258
1931 46,038 39,952 2,593 4,843 1,243
1951 50,225 43,758 2,599 5,096 1,371
1961 52,709 46,105 2,644 5,179 1,425
1973 56,223 49,459 2,773 5,234 1,530
1974 56,236 49,468 2,785 5,241 1,527
1975 56,226 49,470 2,795 5,232 1,524
1976 56,216 46,459 2,799 5,233 1,524
1977 56,190 49,440 2,801 5,226 1,523
1978 56,178 49,443 2,804 5,212 1,523
1979 56,240 49,508 2,810 5,204 1,528
1980 56,330 49,603 2,816 5,194 1,533
1981 56,357 49,634 2,813 5,180 1,543
1982 56,291 49,582 2,804 5,165 1,545
1983 56,316 49,617 2,803 5,148 1,551
1984 56,409 49,713 2,801 5,139 1,557
1985 56,554 49,861 2,803 5,128 1,565
1986 56,684 49,999 2,811 5,112 1,574
1987 56,804 50,123 2,823 5,099 1,582
1988 56,916 50,254 2,841 5,077 1,585
1989 57,076 50,408 2,855 5,078 1,590
1990 57,237 50,561 2,862 5,081 1,596
1991 57,439 50,748 2,873 5,083 1,607
1992 57,585 50,876 2,878 5,086 1,623
1993 57,714 50,986 2,884 5,092 1,6361481994 57,862 51,116 2,887 5,102 1,644
1995 58,025 51,273 2,889 5,104 1,649
1996 58,164 51,410 2,891 5,092 1,662
1997 58,314 51,560 2,895 5,083 1,671
1998 58,475 51,720 2,900 5,077 1,678
1999 58,684 51,933 2,901 5,072 1,679
2000 58,886 52,140 2,907 5,063 1,683
2001 59,113 52,360 2,910 5,064 1,689
2002 59,323 52,572 2,920 5,055 1,697
2003 59,557 52,797 2,931 5,057 1,703
2004 59,846 53,057 2,946 5,078 1,710
2005 60,238 53,419 2,954 5,095 1,724
2006 60,587 53,729 2,966 5,117 1,742
2007 60,975 54,072 2,980 5,144 1,759
2008 61,383 54,440 2,993 5,169 1,775
2011 62,649 55,601 3,024 5,233 1,815
2016 64,773 57,576 3,104 5,324 1,874
2021 66,958 59,620 3,187 5,411 1,927
2026 69,051 51,597 3,263 5,483 1,971
2031 70,933 63,397 3,326 5,532 2,005
Office for National Statistics, Annual Abstract of Statistics, No.146, 2010.ed.
2-2.居住態様ごとの住宅ストック
連合王国の 2007 年の住宅総数は約 2,665 万戸で、そのうち持家が約 1,853 万戸(全体
の約 69.5%)を占め、公営住宅が約 259 万戸(全体の約 9.7%)、民間賃貸住宅が約 330
万戸(全体の約 12%)、社会的賃貸住宅が約 224 万戸(全体の約 8.4%)となっている。
住宅総数は、
過去 10 年間で、
1997 年の約 2,472 万戸から 193 万戸増加しており
(約 7.2
%の増加)、そのうち持家が 1997 年の約 1,675 万戸から約 178 万戸の増加(約 9.6%の増
加)、公営住宅が 1997 年の約 442 万戸から約 218 万戸の減少(約 84.2%の減少)、民間
賃貸住宅が 1997 年の約 240 万戸から 90 万戸の増加(約 27.2%の増加)、社会的賃貸住
宅が 1997 年の約 115 万戸から 109 万戸の増加(約 48.7%の増加)となっている。
住宅ストックを全体的にみると、持家が 69.5%を占めており、日本の 61.1%(平成 20
年住宅・土地統計調査)よりも高い値を示している。残りの約 30%が賃貸住宅でほぼ等し
い割合になっている。ただし、賃貸住宅内部の居住態様ごとの割合は大きく変動しており、
公営住宅の割合が大きく減少する一方で、民間賃貸住宅と社会的賃貸住宅の割合が増加し
ている。これは、サッチャー政権以降の公営住宅払下げ政策によるものであると考えられ
る。このことから、近年の人口増加に対しては、持家のほか、民間賃貸住宅と社会的賃貸
住宅が受け皿になっていると考えられる。
なお、地域ごとの住宅ストックは、人口割合に比例してイングランドが最も多くなって149いるが、どの地域でも、公営住宅が減少する一方で、持家、民間賃貸住宅および社会的賃
貸住宅が増加するという傾向がみられる。
居住態様および地域ごとの住宅ストック
連合王国 (単位:千戸)
持家 賃貸住宅
合計
公営住宅 民間賃貸住宅社会的賃貸
住宅
全住宅
1997 16,751 7,970 4,421 2,402 1,147 24,721
1998 16,996 7,915 4,282 2,413 1,220 24,913
1999 17,279 7,816 4,120 2,361 1,335 25,095
2000 17,494 7,787 3,919 2,393 1,475 25,281
2001 17,677 7,785 3,682 2,466 1,637 25,462
2002 17,834 7,785 3,540 2,533 1,712 25,619
2003 18,018 7,779 3,163 2,649 1,967 25,799
2004 18,201 7,785 2,986 2,759 2,040 25,987
2005 18,323 7,875 2,800 2,934 2,140 26,158
2006 18,423 7,996 2,703 3,111 2,182 26,418
2007 18,527 8,126 2,585 3,302 2,238 26,652
イングランド
持家 賃貸住宅
合計
公営住宅 民間賃貸住宅社会的賃貸
住宅
全住宅
1997 14,111 6,511 3,401 2,125 985 20,622
1998 14,308 6,470 3,309 2,121 1,040 20,778
1999 14,518 6,410 3,178 2,086 1,146 20,9271502000 14,701 6,373 3,012 2,089 1,273 21,075
2001 14,838 6,369 2,812 2,133 1,424 21,207
2002 14,942 6,395 2,706 2,197 1,492 21,337
2003 15,088 6,393 2,457 2,285 1,651 21,481
2004 15,210 6,426 2,335 2,389 1,702 21,636
2005 15,312 6,493 2,166 2,525 1,802 21,805
2006 15,390 6,601 2,086 2,673 1,842 21,990
2007 15,449 6,739 1,987 2,866 1,886 22,189
ウェールズ
持家 賃貸住宅
合計
公営住宅 民間賃貸住宅社会的賃貸
住宅
全住宅
1997 891 352 204 100 48 1,243
1998 888 363 201 112 50 1,251
1999 915 343 197 94 52 1,259
2000 903 364 193 117 54 1,267
2001 905 370 188 127 55 1,274
2002 932 350 183 110 57 1,282
2003 925 364 177 130 57 1,290
2004 946 352 162 125 65 1,296
2005 951 356 158 133 65 1,3061512006 955 359 156 137 66 1,314
2007 968 356 154 135 67 1,323
スコットランド
持家 賃貸住宅
合計
公営住宅 民間賃貸住宅社会的賃貸
住宅
全住宅
1997 1,366 899 630 154 115 2,266
1998 1,400 883 608 154 121 2,283
1999 1,435 869 583 155 131 2,303
2000 1,472 849 557 155 137 2,322
2001 1,446 861 553 169 139 2,307
2002 1,479 853 531 179 143 2,332
2003 1,514 835 416 180 238 2,349
2004 1,544 825 389 184 251 2,369
2005 1,555 833 374 208 251 2,389
2006 1,570 838 362 225 251 2,408
2007 1,587 841 347 233 261 2,427
北アイルランド
持家 賃貸住宅
合計
公営住宅 民間賃貸住宅社会的賃貸
住宅
全住宅
1997 434 183 142 26 15 618
1998 446 180 137 27 16 6261521999 455 180 131 32 17 636
2000 488 185 129 37 19 674
2001 - - - - - -
2002 481 187 120 47 20 668
2003 491 188 113 54 21 679
2004 501 183 100 61 22 684
2005 505 193 102 68 22 698
2006 508 198 99 76 23 706
2007 523 190 97 69 24 713
Office for National Statistics, Annual Abstract of Statistics, No.146, 2010.ed.
2-3.居住態様ごとの住宅の種類
連合王国の 2008 年の居住態様ごとの住宅の種類は、持家部門では住宅(戸建て住宅の
ほか、半戸建て住宅、テラス式住宅を含む)が 92%を占めているのに対し、フラットはわ
ずか 8%に留まる。他方、公営住宅部門では住宅が 56%、フラットが 44%、民間賃貸住宅
部門では家具なし住宅が 69%、フラットが 31%、家具付き住宅が 56%、フラットが 44
%となっている。全体的に、持家部門では住宅の割合が多いのに対して、賃貸住宅部門で
はフラットの割合が相対的に高くなる傾向にある。
本調査での検討対象は持家部門のフラットである。連合王国における 2007 年の持家総
数が 1,853 万戸であり、2008 年のフラットの割合が 8%ということからすると、年度が 1
年異なっていることをあえて考慮しなければ、フラットの総数は連合王国全体で大体 148
万戸程度ということになる。また、以下で検討するイギリス法は、イングランドとウェー
ルズに適用される法制度であり、スコットランドと北アイルランドは異なる法律が適用に
なることも考慮すると
(2007 年のイングランドとウェールズの持家総数が 1,642 万戸であ
り、連合王国の 88.6%であることを考慮すると)、フラットの総数は、おおよその推計で
はあるが、131 万戸程度ということになろう。1532008年度の居住態様ごとの住宅の種類(連合王国) (単位:%)
戸建て 半戸
建て
テラ
ス式
住宅
全体
フラット・メ
ゾネット(
専用)
フラット・メゾネ
ット(戸建てか
らの転換)
フラット
全体
持家部門
持家(譲渡抵当なし)39 34 19 92 6 2 8
持家(譲渡抵当あり)27 35 30 91 6 2 9
持家全体 32 34 25 92 6 2 8
公営住宅部門
公営住宅 1 24 31 56 42 2 44
住宅組合 1 25 30 56 40 4 44
公営住宅部門全体 1 24 30 56 41 3 44
民間賃貸住宅部門
家具なし 13 21 34 69 18 13 31
家具付き 6 14 35 56 30 14 44
間借り部門 12 20 24 66 20 13 34
居住態様全体 24 31 27 82 14 3 18
Office for National Statistics, Annual Abstract of Statistics, No.146, 2010.ed.154第2章 リースホールド・フラットの概要
1. フラットの開発・分譲の方法
1-1.リースホールドの設定
集合住宅(block of flats)の開発・分譲は、
典型的にはつぎのような方法によって行われる。
まず、開発業者は、開発用地のフリーホールド(freehold)を取得して、その土地上に集合住
宅を開発する。建物が完成すると、「土地に附加された物は、すべて、土地に属する」
(quicquid plantatur solo, solo cedit)という法準則に基づき、開発業者は土地建物一体のフ
リーホールダー(freeholder)となる。
そして、開発業者は、建物の共用部分(common parts)についてのフリーホールドは自己
のもとに留保しつつ、それぞれの専有部分(unit)を各購入者に分譲する。このとき、開発業
者と購入者との間で締結されるフラットの分譲契約は、法律的には、長期のフラットの賃
貸借契約ということになる。すなわち、開発業者は賃貸人(landlord)として、購入者は賃借
人(tenant)として、一般的に存続期間 99 年(場合によっては 999 年)のリースホールドの
設定契約を締結する。ただし、購入者が取得するリースホールドは、存続期間が長期であ
ることに加え、
いくつかの制定法により特別な法的保護が付与された権利であることから、
実質的にフリーホールドに相当する極めて財産的性質の強いものである。そのため、フラ
ットの分譲価格は、フリーホールドに基づいて売買される場合と同様である。実際には、
フリーホールドの価値に相当する権利金(premium)が支払われ、その分賃料(ground rent)
は名目的かゼロということになる。
1-2.地役権の設定
こうして、フラットの購入者は、フラットの分譲契約によって専有部分のリースホール
ドを取得することになる。しかし、開発業者は、共用部分のフリーホールドを留保してい
るので、フラット購入者が建物の共用部分を適切に利用するためには、リースホールドの
設定とは別に、一定の付随的な権利(ancillary rights)も設定されなければならない。この
付随的な権利は、
明示的(express)あるいは黙示的(implied)に地役権(easement)を設定する
ことによって設定される。具体的には、建物の躯体部分に対する支持権(support)、通行権
(access)、パイプやワイヤーの維持権、ダストシュートの利用権などがある。これらの地役
権の設定は、フラット分譲契約の際に、専有部分に対するリースホールドの設定と同時に
行われる。
1-3.不動産約款の設定
フラット分譲契約の際には、建物全体に対する適切な管理を行うために、フラット購入
者と開発業者との間で不作為約款(restrictive covenant)と作為約款(positive covenant)に
ついても併せて締結する。不作為約款とは、フラットの利用制限に関する不動産約款であ
って、たとえば、過度な騒音、無許可の営業目的の使用、放置駐車等を制限することを目
的とする。それに対して、作為約款とは、フラットの管理等に関して当事者に積極的な義
務を課す不動産約款である。具体的には、賃貸人は、建物に対する修繕、エレベーターや155通路などの共用部分の維持、電気・ガス・水道・空調等の供給、保険料の支払いなどを行
うことが約され、賃借人は、賃貸人の行為に対してサービス・チャージ(service charge)を
支払うことが約される(サービス・チャージには、修繕・維持費、電気・ガス・水道・空
調代、保険料、積立金などが含まれる)。
これらの不動産約款は、フラットの特定承継人にも強制することが可能であるので、建
物全体を適切に維持管理していくうえで最も重要な根本規則となるものである。
2.フラットの管理主体
開発業者は、フラットの分譲を完了すると、最終的に共用部分のフリーホールドと専有
部分の将来不動産権(賃料収取権と復帰権)を有することになり、建物の賃貸人として不
動産約款に基づく建物の管理責任を負うことになる。非常に大規模な団地の場合には、相
当な賃料収入が見込まれることから、開発業者はこれらの権利の保有を継続することも多
い。
この場合、
開発業者が直接にあるいは管理業者(managing agents)を通じて建物の管理
責任を負担することになる。
それに対して、これらの権利の保有を望まない開発業者は、自己の権利をフラット所有
者から構成されるフラット管理会社(flat management company)に任意に譲渡して、建物
の管理責任をフラット所有者らに委ねることもある。一般にフラット管理会社は、法律上、
株 式 会 社 (company limited by shares) ま た は 保 証 有 限 会 社 (company limited by
guarantee)として設立されるが、実際には保証有限会社として設立される場合が多い*1。
開発業者がこのような方針を持っている場合、フラット管理会社は、フラットが分譲され
る前に開発業者によって設立されるので、フラット購入者は分譲契約を締結すると同時に
フラット管理会社の社員権を取得する。そして、多くのフラットの分譲契約では、最後の
フラットが分譲されたときに、開発業者の事務弁護士が、共用部分のフリーホールドと将
来不動産権をフラット管理会社に移転する手続きを行うという条項が締結されている。こ
れにより、開発業者はフラット所有者との賃貸借関係から離脱し、建物の管理はフラット
*1 フラット管理会社は、
一般に会社法に基づいて設立される株式会社または保証有限会社
である。株式会社の形態では、フラット管理会社の株式が発行され、その構成員が株式を
購入することになる。保証有限会社では、フラット管理会社の構成員が、支払いの請求が
あったときに、実際に引き受けた保証額(まで支払うことを保証することになる。フラッ
ト管理会社がいずれかの形態をとるかは個々のケースによるが、比較的大規模な集合住宅
の場合に株式会社が用いられ、比較的小規模な集合住宅の場合に保証有限会社が用いられ
る傾向がある。実務的な観点では、保証有限会社の方が株式を発行にかかる手間を省くこ
とができるので、この形態を採用する方が運営上より簡便であるといわれている。なお、
会社法については、2006 年会社法(Companies Act 2006)が制定され、2009 年 10 月 1 日
にはすべての規定が施行されるようになったことにより、
1985 年会社法は廃止されること
となった。以下の本文では、イギリス会社法制研究会(代表者・川島いずみ)「イギリス
2006 年会社法(1)〜(15)」
比較法学 41 巻 2 号〜46 巻 2 号の翻訳によりながら、
フラット管
理会社に関連する規定を記すこととする。156所有者自らの団体的な管理に委ねられることになる。
なお、開発業者がフラット管理会社に自己の権利を譲渡することを望まない場合でも、
一定の資格要件を満たしたフラット所有者は、後述するように、開発業者の権利を強制的
に取得することもできるとされている。この場合、フラット所有者自らがフラット管理会
社を設立して、この権利を行使することになる。
このように、フラット管理会社が開発業者の権利を任意的に取得するのであれ、あるい
は強制的に取得するのであれ、結果として、当初の開発業者はフラットにおける不動産賃
貸借関係から離脱し(あるいは離脱させられ)、フラット管理会社が賃貸人、各フラット
所有者が賃借人ということになる。このような管理形態のもとでは、個々のフラット所有
者がフラット管理会社の運営を通じて、自ら団体的に建物の共用部分の管理を行うことに
なる*2。今日では、フラット所有者がフラット管理会社を通じて団体的に管理する形態が
より望ましいと考えられているので、以下ではフラット管理会社の仕組みについて検討す
ることとする。
3.フラットの管理制度
3-1.フラット管理会社の根本規則
フラット管理会社は、開発業者の権利を取得すると、賃貸人としての建物管理責任をも
引き受けることになる。この建物管理責任は、当初の開発業者と各フラット所有者との間
で締結された不動産約款に基づいて履行されることになる。したがって、フラット管理会
社と各フラット所有者との間の不動産約款が、フラット管理のための権利義務に関する根
本規則として機能することになる。
これに対して、フラット管理会社は、一般に株式会社または保証有限会社の組織形態を
とるので、会社法上の定款の規定が会社内部の根本規則となる。定款については、旧法で
ある 1985 年会社法では、
会社登記所に基本定款(Memorandum of Association)と附属定款
(Articles of Association)とがあり、基本定款には、会社の名称、登記された事務所の所在
地、会社の目的、構成員の有限責任、構成員の保証額の支払い(保証有限会社の場合)な
どを記載され、附属定款には、構成員、総会と決議、理事に関する規定(選任、借入権限、
予備理事、欠格事由、贈物・年金受給権)、理事会の手続、議事録、印章、通知、免責、
細則などが記載されていた。しかし、2006 年会社法では、基本定款は、1出資者がこの法
律に基づいて会社を設立することを意図すること、2出資者が、会社の社員となること、
および、会社資本を有する会社の場合には、少なくとも 1 株を引き受けることを合意した
ことを記載した設立趣意書に留まるものとされた(第 8 条)。また、従前の基本定款と附
属定款の区分は廃止され、既存会社の基本定款の規定は、定款の規定として扱われるもの
とされた(第 28 条)。
*2 このようにフラット管理会社が権利を取得する形態は、やや古いデータではあるが、
1994 年の調査報告によれば、54%の割合であることが示されている(A College of Estate
Management Research Paper, Flats as a Way of Life: Flat Management Companies in
England and Wales, 1994, p18 and p.21)。157したがって、現在では、会社内部の根本規則は、基本定款を除いた定款のみとなってい
る。なお、定款を変更するには、特別決議(会社社員の 75%以上の多数決議)を要すると
されている(第 21 条)。
3-2.執行機関
フラット管理会社においては、理事(=取締役)(director)が社員総会(general meeting)
において決定された意思を執行する機関となる。したがって、フラット管理会社の理事は、
フラット所有者全員のために、適切に建物を管理する責任を負うものとされる。理事は社
員総会において選任され、
私会社では 1 人以上、
公開会社 2 人以上の理事が選任される(第154 条)。複数の理事が選任されると理事会(board of directors)という合議体が組合業務
の執行の基本方針を決定する機関が構成され、その中から理事会長が選任される。
理事の会社に対する義務としては、伝統的に判例法理に委ねられてきたが、2006 年会社
法では 7 つの一般的義務が明文化されている。すなわち、1権限の範囲内において行為す
べき義務(第 171 条)、2会社の成功を促進すべき義務(第 172 条)、3独立した判断を
行うべき義務(第 173 条)、4合理的な注意、技倆および勤勉さを用いるべき義務(第 174
条)、5利益相反を回避すべき義務(175 条)、6第三者から利益を受領してはならない
義務
(第 176 条)、7取引または取決めの計画に対する利害関係を申告すべき義務
(第 177
条)が 2006 年会社法に明記されている。
理事の具体的な業務内容としては、1保険契約の締結、2維持・修繕の実施、3銀行取
引、4賃料やサービス・チャージの徴収、5年間予算見積書の作成、6会計記録の維持、
7年次会計監査と年次計算書類の作成、8建物の安全の確保、9フラット所有者の情報の
保管などが挙げられている。このような理事の義務は、複数の理事に担当を分けて履行さ
れることもある。たとえば、1財務担当(銀行当座勘定のチェック、サービス・チャージ
の請求、送り状の支払い)、2居住者担当(居住者間のコミュニケーションの促進)、3
業者担当(管理人、ポーター、清掃人などの雇用関係)、4建築物担当(検査や鑑定)、
5共用部分担当(共用部分関連の庶務)、6アメニティ担当(駐車場や倉庫の管理)など
がある。
このように、理事には様々な責任が課されているが、実際の管理業務については、理事
会が管理業者(managing agent)に委託することも多いし、あるいは、特に小規模な集合住
宅の場合には、管理業者に委託せず、フラット管理会社の理事会で任命された管理委員会
(management committee)が自主的に管理を行うこともある。
その他の執行機関として、理事によって選任される幹事(=会社秘書役)(company
secretary)がある。幹事は、会社の役員(officer)であり、イギリス法系の会社法に特有の制
度である。幹事は、私会社では必ずしも設置することは要しないが(第 270 条)、公開会
社では必ず設置しなければならないとされている(第 271 条)。その主要な職務として、
1理事会の指示に基づく理事会や総会の招集、2理事会や総会の議事録の作成、3会社の
法定の書類の保管、4会社登記官吏への年次報告書の届出、5会社における登録事務など、
会社の運営上重要な事務を担当する。1583-3.社員総会
フラット管理会社は、独立の法人格を有する団体であり、その意思決定を行う機関が社
員総会であり、社員総会において決定された意思を執行する機関が理事(director)である。
そして、フラット管理会社の意思決定は、年次総会(Annual General Meeting)あるいは臨
時総会(Extraordinary General Meeting)によって行われる。
社員総会の招集は、原則として理事によって行われる(第 302 条)。社員総会は、原則
として、私会社では 14 日以上前の通知により、公開会社では年次株主総会は 21 日以上前
の通知、
それ以外の場合は 14 日以上前の通知により招集しなければならない
(第 307 条)。年次総会の特定の議案は、特に会社法によっては要求されていないが、通常は1理事の
選挙、2年次計算書類・監査報告書の承認、3次年度予算案の承認、4監事(auditor)の選
任などがある。その他、年次総会は定款で定められた定足数を満たさなければならないこ
と、年次総会の議長(chairman)は理事会の議長でもある理事会長が務めること、議決権の
行使は投票(poll)の要求がなければ原則として挙手(show of hands)によって行われること
とされている。
また、臨時総会は、ほとんど開催が必要とされることはないが、年次総会を待つことが
できないような状況が存在するときに開催される。臨時総会の議案には、たとえば、定款
の変更、会社の清算、理事の解任などがある。
なお、総会は、実際に必ずしも開催する必要はなく、一定の場合には書面決議(written
resolutions)や電磁的方法決議(elective resolutions)も認められている。159第3章 再開発目的のリースホールドの終了
1.1993 年法によるリースホールドの存続保護
リースホールドは、存続期間の定めのある不動産賃借権であるので、存続期間の満了に
より、原則として、リースホールドは消滅し、不動産は賃貸人に復帰することになる。不
動産が所有者のもとに復帰することになれば、所有者は、その不動産をそのまま賃貸する
こともできるし、また不動産を再開発することもできるようになる。
しかし、1993 年不動産賃借権改革・住宅・都市開発法(Leasehold Reform, Housing and
Urban Development Act 1993)により、一定の資格要件を満たした賃借人に、団体的解放
権(right to collective enfranchisement)と新規不動産賃借権の個別的取得権(individual
right to acquire new lease)が付与されると規定されたことにより、リースホールドは消滅
することなく、賃貸借関係は継続するものとされている。
団体的解放権とは、一定の資格要件を満たした賃借人が名義上の買受人(一般的には賃
借人によって設立されたフラット管理会社)を任命し、この買受人が賃借人を代表して解
放権を行使し、賃貸人から共用部分のフリーホールドと専有部分の賃貸人たる地位を強制
的に買い取るというものである。この権利が行使されると、フラット管理会社がフラット
の賃貸人ということになるので、先に検討した管理制度を賃借人の意思のみで実現するこ
とができるようになり、リースホールドの継続についても自らの団体的意思に基づいて決
定できるようになる。他方、新規不動産賃借権の個別的取得権とは、一定の資格条件を満
たした賃借人が、90 年の賃借権を市場価格で購入し、それを既存の未償却の存続期間に組
み入れて、これを新規の賃借権として新たに設定するというものである。
なお、1993 年法の団体的解放権は、賃借人の団体が賃貸人から共用部分のフリーホール
ドと賃貸人たる地位を市場価格で買い取る必要があったことから、賃借人にとって少なく
ない負担であった。そこで、2002 年共同保有権・不動産賃借権改革法(Commonhold and
Leasehold Reform Act 2002) において、賃借人によって設立された管理権引受会社(right
to mange company)が賃貸人の過失を要件とすることなく、かつ賃貸人への補償をするこ
となく、賃貸人の管理権のみを強制的に取得することができるものとされた。
2.再開発目的のリースホールドの終了
賃貸借契約が継続している間に不動産を再開発するには、賃貸人と賃借人の全員の同意
の他に、譲渡抵当権者や借家権者の承諾も必要になることから実質的に不可能であると考
えられている。しかしながら、1993 年法は、リースホールドの存続期間の満了時に、賃借
人からの団体的解放権ないし新規不動産賃借権の個別的取得権の主張にかかわらず、賃貸
人が不動産の再開発を意図しかつ裁判所の命令があるときは、賃貸人は、リースホールド
を終了させ、
不動産を取り戻した上で建物の再開発をすることができることを定めている。
すなわち、1993 年法第 23 条第 1 項は、「当該不動産の復帰権者が、第 21 条(2)(c)に規
定された要件に従い同条の反対通知を送付したとき、適法な賃貸人の申立てに基づき、裁
判所は、命令によって、不動産の全部又は大部分を再開発する賃貸人の意図を理由に、団
体的解放権は当該不動産に関して行使することができないと判示することができる」と規160定している。ただし、裁判所がそのような命令を行うための条件として、同条第 2 項は、
「(a)当該不動産に含まれる複数のフラットが保有しているすべての長期不動産賃借権の
少なくとも 3 分の 2 が基準日から起算して 5 年以内に終了することになること、
(b)当該賃
貸借が終了した場合、再開発の目的のため、申立人が当該不動産の全部又は大部分を(i)
取壊し又は再建築すること、あるいは(ii)実質的な再建築作業を実施することを意図して
いること、及び(c)申立人が当該賃借権の設定されたフラットの占有回復が得られなけれ
ば合理的に再開発を行うことができないことという条件が満たされない限り、裁判所は第
1 項に基づく命令をすることができない」と規定している。
また、1993 年法第 61 条第 1 項は、「フラットの賃借権(「新規不動産賃借権」)が第
56 条に基づき付与されたが、
賃貸人によってなされた申立てに基づき、
裁判所が(a)再開発
の目的のため、賃貸人がフラットの含まれている不動産の全部又は大部分を(i)取壊し又
は再建築すること、あるいは(ii)実質的な再建築作業を実施することを意図していること、
及び(b)賃貸人がフラットの占有回復が得られなければ合理的に再開発を行うことができ
ないことという条件を承認する場合、裁判所は、命令によって、賃貸人は賃借人に対しフ
ラットの占有回復を得る権限を有し、賃借人はフラットの損失に対し賃貸人により補償金
が支払われる権限を有するということを判示することができる」と規定している。
以上のように、賃貸人が不動産の再開発を行う意図を有していることを裁判所が承認す
るとき、団体的解放権の行使が制限され、また新規不動産賃借権の個別的取得権が行使さ
れる際にも賃貸人は賃借人への補償を条件に占有回復を得ることができるとされることに
よって、賃貸人による建物の再開発の権利が保障されることとなっている。これらの権利
は、賃貸人の意図が裁判所に承認されることが条件になるが、賃借人の同意を要すること
なく、賃貸人が賃借人に残存期間の賃借権の補償を行うだけで、不動産の再開発ができる
というものである。イギリスにおけるフラットのリースホールドは、実質的内容は区分所
有権にも等しい権利ではあるが、法形式上はあくまで賃借権であることから、存続期間の
満了時には不動産賃貸借法のルールに従うという特殊性がある。このような特殊性が、わ
が国の区分所有建物の建替え決議のような区分所有者および議決権の各 5 分の 4 以上の多
数決議という団体的意思決定が不要な再開発(建替え)の仕組みが作り出したものと考え
られる。161第4章 結 語
本編の最初に述べたように、日本や他の諸国の区分所有に相当するイギリスのコモン
ホールドは、制度こそあるものの現時点ではほとんど普及していない。したがって、そ
の終了に係わる解消制度(一般的な任意清算の場合、組合員の 100%または 80%の賛成
による、清算決議および終了宣言決議を行い、さらに一定の手続的要件を経てコモンホ
ールドは終了し、その後に、清算人を通じて、コモンホールド組合が当該建物を取得し
てこれを第三者に売却し、債務を清算した後に、その残額を組合員に分配される制度)
の実績は、現在のところ皆無である。
そこで、イギリスの集合建物は、リースホールドが中心となるが、集合建物が老朽化
した場合の法的措置を端的に述べると、前章で見たように、その存続期間の満了を契機
として(必ずしも建物の老朽化の状態が契機となるわけではない)、制度上は、賃借人
側から賃貸人に対して行う《強制的な集合建物の売渡請求》と、これを阻止すべく賃貸
人から裁判所に対して行う《再開発の命令請求》との対抗という構造になろう。前者は、
爾後は賃借人による団体的な管理によって当該建物の存続をなお図ろうとするものであ
り、後者は、当該建物を取り壊して新たな建物の再建(=建替え)を図ろうとするもの
である(もちろん賃貸人と賃借人全員の合意によるリースホールドの解消という選択肢
もあるが、その実現可能性は極めて低いと思われる)。そして、この賃借人と賃貸人と
の対抗については、結局は、再開発の命令の認否という形で裁判所の判断に委ねられる
が、裁判所の判断の最も重要な基準は、長期(90 年)不動産賃借権の3分の2以上が5
年以内に終了するか否かであり、直接的に建物の物理的な老朽化ないし劣化は問題とさ
れていないが、このような形で「経年」が最重要な要素として問題とされる。コモンホ
ールドにおける解消が、法律上はその原因を問題せず、したがって、法的には必ずしも
建物の老朽化や経年を問題としていないのに対して、
リースホールドにおける再開発(=建替え)は、(物理上の)老朽化こそ問題としないが、存続期間の満了を契機とすると
いう点で事実上「経年」を問題としている。
以上のように、リースホールドが大部分を占めるイギリスの集合建物の経年ないし老
朽化に対する法的措置は、一方では、従前どおりの賃貸人の管理による、または新たに
権利を取得した賃借人の管理による、《持続的な建物の維持》であり、他方では、上記
のように「経年」を基準とする《裁判所の許可の下での賃貸人による建替え》であるが、
少なくても現時点においては、圧倒的に前者(しかも従前どおりの賃貸人の管理による
もの)の《持続的な建物の維持》が大きな割合を占めている。その意味では、老朽区分
所有建物に対する法的措置について、アメリカやドイツ・フランスの制度および運用状
況と変わるところはない。162第6編 韓 国
第1章 本編の内容・構成及び基礎データ
1.本編の内容及び構成
韓国は、1984年に、日本の1983年改正の区分所有法を基本的にそのまま翻訳して継受して
「集合建物法」を制定した。したがって、本報告書の課題である老朽区分所有建物に対する法
的措置について見れば、2002年改正前の日本法と同様に、一方では、共用部分の維持(一般の
「管理」)および改良(「変更」)を図ることを予定し(集合建物法14条、15条)、他方では、
特別多数決による建替え(同法47条)を予定している。日本の2002年改正法の前であるから、
前者の「変更」については、大規模修繕工事でも「過分の費用を要するもの」は除外されて、
区分所有者および議決権の4分の3以上の特別多数決議を要するとされ(同法15条1項1号)、ま
た、後者の建替えについては、「建物の建築後の相当期間の経過」および「維持・修繕のため
の費用の過分性」が要件とされている。ただ、注目すべきは、日本法とは異なり、これらの要
件に加えて、いわゆる効用増の場合にも建替え決議が可能であると定めている(同法47条1項)。
しかし、後述のように、韓国における大量の建替えは、この集合建物法に基づいてなされてい
るのではなく、行政法である「都市及び住居環境整備法」に基づいてなされてきた。
さて、本報告書の課題は、諸外国(ドイツ、フランス、アメリカ、イギリス、韓国)の老朽
(ないし経年)区分所有建物に対する法的措置に関する制度とその運用状況を明らかにするこ
とであるが、筆者らは、韓国に関しては、平成22年度報告書において、韓国の建替えの制度お
よび運用状況について述べてきた。したがって、本報告書では、平成22年度報告書に掲げてあ
るデータを最新の統計資料から入手できた限りで改訂しつつも、本報告書の課題については平
成22年度報告書で述べたことでほぼ尽くされているために、基本的にこれを要約して再録する
ことにした。ただ、第1章では、本報告書の課題とは直接に関係しないが、参考のために集合
建物法の2012年改正法(上記の同法制定後はじめて本格的な改正)に言及し、また、現在進行
中の改正のための審議(こちらは本報告書の課題と直接に関係する)に若干言及する。なお、
本編の筆者であるカン・ヒョクシンは、これらの改正のための政府の改正委員会の委員であり、
鎌野邦樹も、同改正委員会の外国人特別臨時委員である。1632.集合分譲住宅の現況
2-1.類型別住宅のストック
韓国国土海洋部が出している住宅ストック現況1
(2010年12月31日現在)を見ると、全体住宅
のストックは1388万戸(2007年同期は1300万戸)で、このうち(2011年同期)、アパート2(分譲型のみ)=マンションは746万戸(2007年同期(以下同じ)633万戸)、連立住宅3
(分譲型の
み)は19万戸(21万戸)、多世帯住宅4
(分譲型のみ)は0.2万戸(0.2万戸)である。そして、
賃貸型集合住宅は94万戸(90万戸)である。分譲型及び賃貸型を含めると、集合住宅は、韓国
全体住宅ストックのうち約6割を占めている。
《表1》分譲集合住宅の使用年数の現状
使用年数に区分してその現況を見ると、まず、アパートの場合は、総戸数746万戸のうち、20
年以下のものは624万戸、使用年数が21年以上経過しているものは121万戸である。連立住宅の
場合は、総戸数19万戸のうち、20年以下のものは6万戸、21年以上のものは13万戸である。
これを計算すると、21年以上の使用年数をもつ、つまり、ある程度老朽化が進んでいると言
える分譲集合住宅の戸数は、約134万戸以上であることがわかる(なお、上記の国土海洋部の統
計からもわかるように、韓国では、少なくても現時点においては、「老朽化」の一応の目安に
ついて21年以上と見ているようである)。言い換えると、韓国の134万人以上の区分所有者らは、
自分らが居住している集合住宅の将来(今までとは異なるより真剣な管理、リモデリング、そ
して、建替えのことまで)をこれから決めて行かなければならない状況に立たれているのであ
る。1韓国、国土海洋部、http://www.mltm.go.kr、2013年2月20日.2韓国では分譲集合住宅は、アパート、 連立住宅、多世帯住宅の3つの種類がある。31個棟の建築延べ面積が660m2以上の4階以下の集合住宅を言う(分譲型か賃貸型かを問わない)。41個棟の建築延べ面積が660m2以下の4階以下の建物で2戸以上9戸以下規模の集合住宅を言う( 分
譲型か賃貸型かを問わない)。
2011年 アパート 連立住宅 多世帯住宅 合計
総ストック 746万戸 19万戸 0.2万戸 764.9万戸
21年以上経過 122万戸 13万戸 - 134.9万戸
20年以下 624万戸 6万戸 - 630.0万戸1642-2.建替え事業実績
韓国の市道別、建替え事業実績(2007年12月31日現在)5
を見る。2007年まで、総1,440の組合
が建替え事業に成功している。建替え以前と以後の住宅の戸数を比較する。1,440の建替え組合
における建替え以前の戸数は198,460戸であったのが、建替え事業終了後には、370,459戸にそ
の戸数が増加している。これは、ほぼ2倍に近い増加である。建替え事業は、特に、ソウルに集
中する現状を見せている。建替えに成功している総1,440の組合のうち、1,072の組合がソウル
市にある。そしてソウル市だけで、105,736戸の集合住宅の数が建替え事業終了後には206,757
戸まで増えている。これは、やはり、1970年代から始まったアパートブームというのが、ソウ
ル市から始まり又ソウル市を中心に起きていて、ソウル市に人口も住宅も集中していたからで
ある。
建替え事業実績を年度別に見ると、98年に105の建替え組合、そして、99年には120の建替え
組合が建替え事業に成功することを頂点に、その翌年からは建替え組の建替え成功件数は若干
減少する。この減少は、当時の、韓国経済事情の悪化の影響によるものである。しかし、2002
年以降からは再び建替え事業の成功件数が増え始め、2002年から2006年度まで、毎年132、169、
154、159、127の組合が建替えに成功している。それから2007年度以降からは、その成功件数は
再び減少している。この理由としては、まず、容積率の緩和の問題で自治体ともめているかな
りの大規模の団地(この殆どがソウル市所在)を残しては、建替え事業は一段落を終えたと、
理解することができる。そして、韓国政府及び自治体による建替え事業に対するかなり高いハ
ードルが建替えに関する政策に反映されていることも重要な理由である。たとえば、建替え事
業によって国民に対しての住宅の普及を狙っていた政策から、すでに2010年時点で、11万戸の
一般分譲に失敗した集合住宅があり、他方では、できるだけ集合住宅の寿命を延ばそうとする
政策への転換も見られ、政府及び自治団体と区分所有者ら間の争いが発生している。
なお、上記と異なる基準の統計データ(http://www.onnara.go.kr, 2013年2月20日)により、200
7年以降のアパートの建替え実績戸数を見ると、2007年が476,462戸、2008年が263,153戸,2009
年が297,183戸、2010年が276,989戸、2011年が356,762戸であり、全体としては、毎年、20数万
戸から30数万戸の建替えがなされている。
2-3.集合建物法の2012年改正
前述のように、韓国の集合建物法は2012年12月に大きな改正がなされた。その主要な改正
項目は、1分譲者の担保責任の強化(9条)、2分譲者の規約の作成・交付義務(9条の2)、35韓国、国土海洋部、http://www.mltm.go.kr、2011年11月4日.165共用部分の管理に対する賃借人の参加(16条)、4行政による標準管理義務の作成義務(28
条)、5議決権行使等における電磁的方法の導入(38条)、6決議取消しの訴えの期間制限(4
2条の2)7集合建物紛争調停委員会の設置(52条の2)である。なお、韓国では、これに続く改
正として、区分所有関係の解消に関しての検討が審議されている。166第2章 分譲集合住宅関連法制度――集合建物法、整備法、住宅法
1.集合建物の所有及び管理に関する法律(以下、集合建物法)
1-1.集合建物法の制定
韓国の集合建物法は、1984年4月、区分所有者数の多い集合住宅での敷地登記部が膨大また複
雑になること、従来の法制では区分所有関係の複雑さによって発生する問題に対してその規律
の適用が困難であることなどを理由に、制定された法律である。6
制定当時、韓国法務部は民
法特別審議委員会を設置し、6人の小委員会による1年間の法制定のための基礎作業を進めて原
案を作成した。しかし、この原案に対しての、韓国国会法制司法委員会からの、「当原案は、
集合建物の複雑な共同生活関係を効果的に規律できない」との批判を受けることとなり、 国会
法制司法委員会によりこの原案に代わる新しい案が出された。しかし、法制司法委員会により
出された国会案は、韓国大法院がすでに作成していた大法院案を大いに導入したものである。
最終的に、この大法院案が、司法委員会により採択され、これが集合建物法として公布された。
この一連の過程を追跡すると、韓国大法院の案が、結局日本の法制度と近似する案を作り上げ
たと解釈するしかないのではないか。結果的に、日本の集合住宅に関する法制度及び政策は、
韓国において良いロールモデルとして活躍したのである。
集合建物法は、居住用、商業用の用途を問わず、1棟の建物のうち構造上区分されたいくつの
部分が独立した建物として使用できるとき、その各部分を各々の所有権の目的とすることがで
きる、区分所有権に関する法律である。また、集合建物法は、区分所有権の目的とすることが
できる建物に対して、その使用及び管理に関する法規定を設けているが、そして、集合建物法
は、初めて「建替え規定」が法律に設けられたという点で、制定当時非常に注目されていた。
総66条の規定を設けている集合建物法は、第3章第53条以下の区分建物の建築物台帳の部分を除
外して、日本の区分所有法の影響を大いに受けたと言える。この日本法の影響で、他の国の法
律からはなかなか見られない、当時の建替え決議時における5分の4以上という特別多数決の決
議が登場するようになったのが良い例である。
1-2.集合建物法の内容
集合建物法は4つの章に66個の規定と立法されている。第1章は【区分所有】は節を設けて、
総則、共用部分、敷地使用権、管理団及び管理人、規約及び集会、義務違反者に対する措置、6姜爀臣、「韓国の分譲集合住宅の再生に関する法制度」、都市住宅学第48号、都市住宅学会、200
5、45面。167建替え及び復旧を、第2章は【団地】、第3章は【区分建物の家屋台帳】、第4章は【罰則】の構
成となっている。
1-3.集合建物法上の建替え関連規定
集合建物法上の建替え関連規定を見る。建替え関連規定は、第47条から第50条までの4つの規
定が、「建替え決議」、「区分所有権の売渡し請求権など」、「建替えに関する合意」、「建
物が一部滅失された場合の復旧」、に関する規定を設けている。
第一、 第47条【建替え決議】を見る。
第47条【建替え決議】1建物の建築後相当な期間が経過し、建物が毀損、一部滅失、その
他の事情により過多な修理費•復旧費及び管理費がかかる場合、または、付近土地の利用状況の
変化、その他の事情により、建物を建替えると建替えにかかる費用に比べて著しく効用が増加
する場合、管理団集会は、その建物を取り壊し、その敷地を区分所有権の目的となる新しい建
物の敷地として利用することを決議することができる。但し、建替えの内容が団地内の他の建
物の区分所有者に特別な影響を及ぼすときには、その区分所有者の承諾を受ける。
2第1項の決議は、区分所有者の5分の4以上及び議決権の5分の4以上の決議に従う。
3建替えを決議する時には、次の各号の事項を定める。
1.新しい建物の設計概要
2.建物の取壊し及び新しい建物の建築にかかる費用を概略的に算定した金額
3.第2号にて定められて費用の分担に関する事項
4.新しい建物の区分所有権に関する事項
4第3項第3号及び第4項の事項は、各区分所有者の間で、衡平が維持されるよう定める。
5第1項の決議のための管理団集会の議事録には、決議に対する各区分所有者の賛否意思を
書く。
この規定の内容からわかるように、韓国の集合建物法は、改正前(2003年6月改正以前)の日
本の区分所有法第62条の規定と近似している。但し、効用増による建替えを認めているのが韓
国集合建物穂の特徴である。これは、建替え決議時の実質的要件に該当するが、たとえば、建
物の維持には過多な費用は要しないけれど、土地の利用効用が上げられるのであれば建替えが
できるという仕組みをとっているのだが、実際、韓国の建替え事業事業の内容を見ると、こう
いった効用増を理由とする建替えの成功件数が多数見られる。7
これは、集合建物法の「老朽」7姜爀臣、「韓国の分譲集合住宅の建替え及びリモデリング制度に関する民事法的考察」、千葉大学
大学院博士論文、2003.、75面。168の概念が分かり難く、また、曖昧であったので、区分所有者は、老朽を理由とする建替えでは
なく効用増を理由とする建替えを選んできたが、この選択が、80年後半と90年代の都市開発の
政策と絡み合って、非常にスムーズな建替え事業の成功をもたらしたことの歴史がある。しか
し、効用増を理由とする建替えの時代は終わった。 理由は、効用増による建替えを認めること
によって得られた、都市の新たな設計、住宅の普及と言ったその目的を既に達成していること、
そして、これに関しては後ほどまた説明があるが、行政法による集合分譲住宅建替えに対する
干渉と制裁が見られるようになり、また、現在は行政のハードルを乗り越えて建替え事業を進
めることは至難な作業として認識されていることにある。
第 48 条【区分所有権等の売渡請求権等】1建替えの決議があったときは、集会を招集した者
は、遅滞なく、その決議に賛成しなかった区分所有者(その承継人を含む)に対し、その決
議内容による建替えに参加する否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。
2 前項の催告を受けた区分所有者は、催告受領日から 2 か月以内に回答しなければならな
い。
3 前項の期間内に回答しなかった場合、その区分所有者は、建替えに参加しない旨を回答し
たものとみなす。
4 第 2 項の期間が経過したときは、建替えの決議に賛成した各区分所有者、建替えの決議の
内容による建替えに参加すべき旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む)ま
たはこれらの者の全員の合意により区分所有権及び敷地使用権を買い受けることができる者
として指定された者(以下「買受指定者」という)は、同項の期間満了日から 2 月以内に、
建替えに参加しない旨を回答した区分所有者(その承継人を含む)に対し、区分所有権及び
敷地使用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。建替えの決議があった後に
この区分所有者から敷地使用権のみを取得した者の敷地使用権についても、同様とする。
5 前項の規定による請求があった場合において、建替えに参加しない旨を回答した区 分所
有者が、建物の明渡しによりその生活上著しい困難を生ずるおそれがあり、かつ、建替えの
遂行に甚だしい影響を及ぼさないときは、裁判所は、その区分所有者の請求により、代金の
支払いまたは提供の日から一年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期間
を付与することができる。
6 建替えの決議の日から 2 年以内に建物撤去の工事が着手されなかった場合には、第 4 項の
規定により区分所有権または敷地使用権を売り渡した者は、この期間の満了の日から 6 月以
内に買主が支払った代金に相当する金銭をその区分所有権または敷地使用権を現在有する者
に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。ただし、建物撤去169の工事が着手されなかったことにつき相当な理由があるときは、この限りでない。
7 前項本文の規定は、同項但し書きに規定する場合において、建物撤去の工事が着手 さ
れなかったことに関する相当な理由がなくなった日から 6 月以内にその着手をしな いと
きに準用する。この場合において、同項本文中「この期間の満了の日から 6 月以内に」とあ
るのは、「建物撤去の工事が着手されなかったことに関する相当な理由がなくなったことを
知った日から 6 月またはその理由がなくなった日から 2 年のいずれか早い時期までに」と読
み替えるものとする。
第50条【建物が一部滅失された場合の復旧】1建物価格の2分の1以下に相当する建物が滅失さ
れたときは、各区分所有者は滅失した共用部分と自己の専有部分を復旧することができる。但
し、共用部分の復旧に着手する前に、第47条の決議又は共用部分の復旧に対する決議があった
場合はそうでない。
2、3省略
4建物が一部滅失された場合で、第1項本文の場合を除外した場合に、管理団集会は、区分所有
者の5分の4以上及び議決権の5分の4以上をもって滅失した共用部分の復旧を決議することがで
きる。
5省略
678省略
第50条の特徴は、建物が建物の価格2分の1を超える滅失をされたとき、これを復旧するため
の決議率にある。集合建物法は、 建物が建物の価格2分の1を超える滅失をされたとき、これを
復旧するために、管理団集会において、区分所有者の5分の4以上及び議決権の5分の4以上の決
議があることを要する。しかし、この復旧のための決議率は、集合建物法上の建替え決議率で
ある、 ‘区分所有者の5分の4以上及び議決権の5分の4以上の決議’と同一内容を持つ。これは、
結局、建物の2分の1を超える一部滅失の場合、集合建物法は、区分所有者において、復旧の選
択よりは建替えの選択をするようにその方法論的解決案を提示していることである。
つまり、韓国の集合建物法は建替え指向なのだ。
≪図1≫都市住居整備法制定前の建替え事業の流れ図
建替え推進委員会の構成
2―3ヶ月
概略的な事業計画書・規約作成↓170
住民の建替えの決議
2―4ヶ月
各棟別2/3以上、
団地全体4/5以上の決議↓創立総会
1―3ヶ月
建替え組合結成のための住民総会↓安全診断
2―4ヶ月
自治体長に安全診断申請
1996年の施設物安全管理に関す
る特別法により指定された安全
診断専門機関及び施設安全技術
公団が実施↓建替え組合設立認可申請
1―2ヶ月
創立総会会議録・組合規約に
組合員全員署名捺印
事業計画書
建替え決議書↓設計・デベロッパ選定
1―2ヶ月↓住宅建設事業計画承認
1―2ヶ月
組合が自治体長に事業計画書提出↓住民移住、
3―6ヶ月↓撤去及び着工
2―3年↓竣工、入居、組合解散1712.都市及び住居環境整備法(以下、整備法)
2-1.整備法の制定
1970年代以降、産業化、都市化の過程において大量供給された住宅などが老朽化するにつれ、
これらを体系的で効率的な整備が必要になったが、再開発、建替え事業、住居環境整備法がそれ
ぞれ個別法として設けられ、これに関する制度的支援が十分ではなかったとの理由で、整備法が
制定された。8
整備法は、2003年7月1日から施行されている。
2-2.整備法の内容
整備法の主なる内容を紹介する。
1 特別市長•広域市長、又は、市長は、住居環境改善事業•住宅再開発事業•住宅建替え事業
及び都市環境整備事業の基本方向、計画期間、概略的整備区域の範囲などの内容が含ま
れている都市及び住居環境整備に関する基本計画を10年単位で作り、5年ごとにその妥当
性を検討する。【整備法第3条】
2 市•道知事は、市長などの申請により、都市計画手続きに従い整備区域を指定できるよう
にし、整備区域申請の際、建ぺい率•容積率計画などの、整備計画を作り、整備計画が樹
立した場合には、国土の計画及び利用に関する法律による地区単位計画が樹立したとみ
なす。【整備法第4条】
3 住宅再開発事業及び住宅建替え事業は、組合単独で施行、または、地方自治団体•大韓住
宅公社9
などと共同で施行するようにし、施工社は、事業試行認可以後、競争入札を通し
て選定する。【整備法第8条及び第11条】
4 整備事業の推進委員会を制度化し、組合の設立などの事業推進準備を行う。【第 13 条、
組合の設立及び推進委員会の構成】、その役割を明確に規定し事業推進と関連のある紛
争要因を除去する。【第 15 条】
5 組合の定款及び管理処分計画に整備事業費と組合員の負担費用など事業施行に関する事
項を具体的に明示し、組合と施工者間の紛争を予防する。【第 20 条】及び【第 48 条】
≪図2≫ 整備法による建替え施行手続きの流れ
建替え基本計画樹立 第3条:ソウル市・道、10年単位の基本計画樹立8建設交通委員会、『都市及び住居環境整備法案検討報告書』、建設交通部、2002.10.9土地公社と住宅公社の合併により、韓国土地住宅公社に改名された。172⇓
整備計画樹立・区域指定
第4条:市・区、整備計画樹立(容積率、施行時期など)
と区域指定申請―ソウル市指定⇓推進委員会の構成・設立承認
第13-16条:組織構成し、土地などの所有者2分の1以上
の同意を得て区庁長より設立承認⇓安全診断申請・実施決定
第12条:区庁長に申請、ソウル市は時期調整及び事前評
価、安全診断機関指定及び実施、施行決定⇓建替え決議
組合設立認可・設立登記
第16条: 区分所有者の3分の2以上及び土地面積の2分の1
以上の土地所有者の同意(共同住宅の各棟別区分所有者
が5以下の場合は除く)と住宅団地内の全体区分所有者の
4分の3以上及び土地面積の4分の3以上の同意
第18条:‘整備事業組合’という名称で登録、法人⇓売渡し請求・必要時土地分割
第39条:未同意者など非組合員に対し売渡し請求
第41条:必要時、既存建物存置のための土地分割⇓事業施行申請・認可
第28条、第31条:事業施行計画書及び同意書などを添付
して区庁長に申請⇓建設業者選定・施行保証書
第11条:事業施行認可後、競争入札による施工者選定
第51条:建設業者、施行保証書提出⇓分譲申請及び未申請者清算
第46条:日刊新聞に広告及び通知
第47条:未申請者に対する現金清算⇓管理処分計画申請・認可
第48条、第49条:管理処分計画申請、認可後分譲申請者
に認可内容通知⇓移住・取り壊し・着工・分譲
建築法第27条:取壊し・滅失申告
第50条:一般分譲分及び保留地分譲など住宅供給⇓竣工検査実施・認可・入居 第52条:竣工認可申請⇓173
所有権移転・告示
・登記手続き
第54条―第56条:管理処分計画により所有権移転通知、
登記手続き申請⇓精算金徴収 第57条:精算金徴収、交付(分割徴収・支給可)⇓組合解散・清算終結 民法第78条以下:解散決議、法人格消滅
3.住宅法10
3-1.住宅法の制定
住宅法は、分譲集合住宅のリモデリングに関する具体的規定を設けているため、韓国では、
「リモデリング法」とも呼ばれている。
中高層住宅の老朽化、等価交換方式による建替え事業の不可能、区分所有者間の建替え合意
の難しさ、平均17年という共同住宅の難しい寿命など、の問題点を改善するために、住宅法は、
リモデリングに関する新しいほう規定を取り入れている。11
3-2.住宅法の内容
住宅法の主な内容は、次のようである。
1 国家などは変化しつつある環境に合わせて低所得者・無住宅者など社会的弱者に優先的
に住宅供給が行われるよう努めるなど、国家及び地方自治体の義務を明示する。【住宅法
第3条】
2 建設交通部長官は、住宅建設・住居福祉・住居環境及び住宅管理などの内容を含む住宅総
合計画を樹立・施行する。【第7条】
3 住宅建設事業などの登録、住宅建設事業計画などの承認、住宅建設工事の監理者指定など、
現在建設交通部長官の権限の中の一部を地方自治団体の長に移譲する。【第9条】、【第1
6条】、【第24条】
4 リモデリングを推進するための基準・手続きなどを定めて、国民住宅のリモデリングに対
しては国民住宅基金から支援できるようにその根拠を設ける。【第42条】、【第63条】
5 共同住宅の管理を強化するために大統領令である共同住宅管理令で運営していた共同住宅
管理規約、長期修繕計画、安全管理計画、安全教育、安全点検などに関する重要事項を、
法律をもって直接定める。【第44条】、【第47条】、【第49条】、【第50条】10本論分とのテーマとは若干異なるので、ここでは規定の紹介程度にする。11姜爀臣、前掲論文、15面参照。174次は、リモデリング制度と関連して住宅法が有する重要な内容である。
1 住宅総合計画の樹立対象にリモデリングを含めることで、政府の住宅関連政策の中にリ
モデリングが含まれる。
2 共同住宅の入居者代表会議の団体をリモデリング提案権者とし、その推進を図る。
3 団地全体のリモデリング事業施行時、特別修繕積立金の使用を認める。
4 リモデリング施行者に対し、瑕疵補修責任を付与し、その施行者に対する瑕疵補修保証
金の預置義務規定を設ける。
5 共同住宅リモデリング時、管轄官庁の長による許可及び使用検査を義務化
6 共同住宅の所有者がリモデリングにより専有部分の面積の増減が生じた場合、敷地使用
権に変更は生じないとする集合建物法排除規定を設けて、区分所有者間の紛争発生の
余地を防ぐ。
7 リモデリング組合設立規定を新設する。
8 リモデリング参加者のリモデリング不参加者に対する売渡し請求権の行使を許可する。175第3章 建替え事業の具体的考察
1.建替え対象
1-1.集合建物法上の建替え対象建物
集合建物法上の、建替え決議の対象になる建物とは、「建物の建築後相当な期間が経過し、
建物が毀損、一部滅失、その他の事情により著しい修理費•復旧費及び管理費がかかる場合、ま
たは、付近土地の利用状況の変化、その他の事情により、建物を建替えると建替えにかかる費
用に比べて著しく効用が増加する」建物であり、この建物に対して、区分所有者は、管理団集
会において、「その建物を取り壊し、その敷地を区分所有権の目的となる新しい建物の敷地と
して利用することを決議」することができる。【集合建物法、第47条】
集合建物法上、建替え対象は既存建物が「集合建物」でなければならないが、その集合建物
の用途が住宅でなくてもよく、その規模にも制限はない。12
集合建物法は、区分所有が可能な建
物、つまり、1棟の建物中構造上区分された数個の部分が独立した建物として使用することがで
きる建物を前提としているから(集合建物法第1条)、集合建物法上の建替えは、当然、「区分
所有が可能な建物」であるべきである。つまり、建物の一部分が区分所有権の客体となれるた
めには、その部分が構造上・利用上、他の部分と区分される独立性がなければならない。13
1-2.整備法上の建替え対象建物
整備法上の建替え対象は、集合建物法に比べその範囲がかなり広い。整備法第2条第3号は、
建替えの対象となる建物、すなわち、「老朽•不良建築物」について、次のように規定している。
A. 建築物が毀損また一部滅失され、崩壊、その他の安全事故の恐れのある建築物
B. 次の要件に該当する建築物で、大統領令で定める建築物
a. 周辺土地の利用状況などに比べ、住居環境が不良なところに所在すること
b. 建築物を取壊して新しい建築物を建設する場合、それにかかる費用に比べて効用の著
しい増加が予想されること
C. 都市美観の阻害、建築物の機能的欠陥、手抜き工事または老朽化による構造的欠陥など
により、取壊しがやむをえない建築物で、大統領令で定める建築物12ソウル地方法院申請・執行実務研究会編、申請・競売(入札)の実務と建替えの法律問題』韓国私
法行政学会、1999、251面。13金孝錫(キム・ヒョソク)『住宅建替え紛争の法律実務』法律書院、2000、15面。176この市•道の条例 により、老朽•不良建築物とする基準は以下の通りである(条例第3条第1
項)。
A.共同住宅の場合、次の1に該当する期間が経過している建築物
B.1990年1月1日以後竣工された5階以上の建築物は40年、4階以下の建築物は30年
C.1980年1月1日から1989年12月31日までに竣工された5階以上の建築物は、
22+(竣工年度-1980)×ばつ2年、4階以下の建物は21+(竣工年度-1980)年
D.1970年12月31日以前に竣工された建築物は20年
E.共同住宅及び既存無許可建築物以外の建築物の中で、次の1で定める耐久年限の3分の2以
上が経過している建築物
a. 鉄筋•鉄骨コンクリートまたは鋼構造建築物:60年
b. 以外の建築物:40年
この整備法及び条例において規定されている、建替え対象となる建物の範囲は、集合建物法
上で見られる建替え対象に比べて、その対象が比較的に明確していることが分かる。集合建物
法第47条の建替え対象というのが、区分所有者らにとって非常に分かりにくいもの、またこの
分かりにくさ、曖昧さから生じる区分所有者ら間の争い、といった問題点に対する意識から、
整備法及び条例は、かなり明確な内容で、その対象となる実質的基準をはっきり提示している。
2.整備計画樹立と区域指定
建替え事業は、老朽・不良住宅の再生という目的下で行われる事業であるが、建替え事業に
よる開発利益の発生、建替え事業規模の団地化・巨大化などは、周辺与件や環境への考慮のな
い無分別な事業の展開、それによる都市インフラの破壊などの指摘を受けてきた。従って、に
韓国政府は、建替え事業にも、都市再開発などによる都市計画決定手続きを適用するようにな
った。14
ソウル市長・広域市長・市長は、都市・住居環境整備基本計画(以下、基本計画)を10年単
位で樹立しなければならない。但し、「地方自治法」第175条によるソウル特別市と広域市を除
く人口50万以上の大都市ではない場合は、同知事が基本計画の樹立が必要であると認める市を
除いて、基本計画を樹立しないこともできる。【整備法、第3条】(2006、2009改正) これは、
大規模団地の建替えにより発生する都市インフラの問題などがかなり深刻に社会にその影響を
及ぼすという判断がそこに作用している。建替え事業を行うためには、まず都市基本計画をち14姜爀臣、前掲論文、69面参照。177ゃんと作り、それから、その事業を施行しろという政策への転換である。
また、市長・郡守は、基本計画に適合した範囲内で、老朽・不良建築物が密集するなど大統
領令で定められる要件に該当する区域に対して、整備事業の名称や整備区域などの事項が含ま
れた整備計画を樹立して、これを住民に書面で通知した後、住民説明会を開いて、30日以上住
民に供覧し、地方議会の意見を聞いた後、これらを添付して、市・道知事に整備区域指定を申
請しなければならない。【整備法、第4条】(2009改正)
この整備区域指定制度の適用範囲には、今までは再開発事業において適用されていたが、本
整備計画によると建替え事業も含まれているので、今まで住民らが自主的に施行してきた建替
え事業が、本計画の施行により、市・道知事が事前に建替え区域を定め、それから始めて建替
え事業を推進し始めることができる。15
3.推進委員会の制度化
また整備法上の建替え関連規定の特徴は、建替え事業時の組合設立のための推進委員会を制
度化しているところにある。
建替えを実行するための推進委員会の概念と手続き上の位置について述べると、既存集合建
物法・住宅建設促進法上においては、建替え推進委員会は、法律に根拠をおいた団体ではなく、
建替えを推進しようとする区分所有者らが建替え組合の設立を目的として結成した事実上の任
意団体であり、建替え組合が設立されると自動的に消滅する限時的機構であった。また、法律
上の特別な制限がないので、数個の推進委員会が同時に存立することもできた。従って、一団
地内に数個の推進委員会が各区分所有者らを代表する団体として存在することもでき、その場
合、数個の推進委員会は相互競争しながら建替え組合の設立を準備し、結局、区分所有者らの
絶対多数の支持を受ける推進委員会が建替え組合を主導的に結成し、そして消滅することが今
までの従前の法律上でみられた現状であった。しかし、今回の新しい都市住居整備法は、「整
備事業推進委員会」を制度化させ、多数の推進委員会の乱立により発生した、例えば推進委員
会と区分所有者間の紛争や、推進委員会と建設業者をめぐる各種癒着関係などの問題の防止を
図っている。16
推進委員会の法的性格は、非法人社団である。また推進委員会は、整備事業の組合が設立
認可を受けるまで存続する。
推進委員会を構成するための要件は、委員長を含めた5人以上の委員及び土地所有者の過半数
以上の同意を得ることにしている。土地所有者の過半数の同意でなければ推進委員会が構成で15姜爀臣、前掲論文、70面参照。16姜爀臣、前掲論文、70面参照。178きないと、そのハドルを設けてた理由は、やはり建替え事業はじめから、一定比率以上の区分
所有者の同意を確保したことで、建替え事業の「実行」に対する区分所有者らの覚悟、心的準
備をしてもらえる効果にある。
4.安全診断
韓国法上の建替え事業に関する規定において発見できるもっともユニークなところは、この
安全診断である。
市長•郡守は、整備計画の樹立または住宅建替え事業の施工を決定するために、次の各号のう
ち、その1つに該当する場合は、安全診断を実施する。【整備法、第12条】
1) 住宅建替え事業の整備区域別整備計画の樹立時期が到来したとき
2)整備計画の立案を提案する者が、その立案を提案すす前に、該当整備区域中に所在
している建築物及びその付属土地の所有者10分の1以上の同意を得て安全診断の実施を
要請するとき
1) 整備区域ではない区域での住宅建替え事業を施行しようとする者が、推進委員
会の構成承認を申請する前に、該当事業予定区域の中に所在している建築物及びそ
の付属土地の所有者10分の1以上の同意を得て安全診断の実施を要請したとき
また、韓国では、建替え対象の既存住宅が数棟ある場合、実務上既存住宅棟数の10%程度だけ
の任意診断により、組合設立認可が可能となっていた。これは建替え事業推進過程において発
生する建替え組合側の資金負担を考慮していると解される。しかし、建替え決議の手続的要件
に関する大法院の判断をみると、「集合建物法第47条の建替え決議は、数人が区分所有してい
る1棟の建物に建替えが必要となった場合を前提としていることから、一団地内に数棟の建物が
ある場合、建替え決議は各々の建物で行なわなければならない 17
」としている。この大法院の
判決に対し、建替えの判断は棟ごとに必要であると解すべきであり、従って現行法規では安全
診断も棟ごとで行なうべきと解すべきである。18
5.建替え決議
5-1.集合建物法上の建替え決議
集合建物法上の建替え決議率は、区分所有者および議決権の各棟5分の4以上かつ団地全体5分
の4以上である。集合建物法第47条の本規定で定めている5分の4以上の決議率が、各棟で5分の4171998年3月13日韓国大法院判決、事件番号97다41868[所有権移転登記]。18姜爀臣、前掲論文、73面参照。179以上なのか、それとも、団地全体の5分の4以上なのかについて明確ではなかったため、集合建
物法の建替え決議が各々の建物にあるべきかの問題に対して、建替えに賛成する区分所有者ら
と反対する区分所有者らの間に争いがあった。
――1998年3月13日、韓国大法院判決、事件番号97다41868[所有権移転登記]――
[一団地内に数棟の建物がある場合、集合建物法の建替え決議は各々の建物にあるべきか]
【事実の概要】
一団地内に、マンション4棟と店舗用建物1棟が建築されていて、その敷地が、マンション4棟
56世帯の区分所有者らと店舗用建物の単独所有者との間で共有として存在しているときに、店
舗用建物の単独所有者(被告、被上告人)を除いた56世帯の全員が、マンション4棟と店舗用建物
に対する建替えを決議、建替えの施行を目的とする組合(原告、上告人)を結成した。原告は、
被告に対し、建替えへの参加を催促したが拒絶され、集合建物法48条(区分所有権等の売渡し請
求権等)の規定により、店舗用建物の売渡し請求権を行使した。
【争点】
一団地内に数棟の建物がある場合、集合建物法の建替え決議は各々の建物にあるべきか。
【原告の上告理由】
1.建替えの本来の趣旨は住居環境の改善。
一団地内のマンションや店舗用建物そして附帯・福利施設は同じ時期に造成され、現実的に
これらには互いに密接な有機的関係があって、各区分所有者全員が経済、社会、文化的利益を
共有している。したがって建替えによって造成される団地内の区分所有者らに同様の環境、つ
まり上記したような有機的関係の維持と入居者の住居水準向上のためには建替えが団地全体で
同時にそして一括的に行なわれなければならない。
2.集合建物法47条1項は団地の分割を助長。
1棟の建物の建替えを前提とした集合建物法47条1項の規定に従い、各建物単位で建替えをす
るしかないと解釈すれば、団地一部だけの建替え、または同じ利害関係をもつ建物間の連合に
よる複数の建替えが推進される可能性があることから、団地の分割が生じる。1803.団地内で単独所有される建物がある場合、各建物における5分の4以上の決議
各建物における5分の4以上の決議要件は、団地全体の建替え事業への大きな障害となる。団
地全体が建替え事業を推進する際に1棟でも5分の4以上の特別決議要件を具備しないと、建替え
の必要性が切実でまた団地全体の区分所有者及び議決権の絶対多数が建替えを希望していても
建替えが不可能となることは不合理である。また団地内の建物の中、単独所有者や所有者が4人
以下の建物が1棟でもあるときに、一人でも建替えに反対する場合には団地全体の一括建替えが
不可能となる。
4.建替え制度の中での多数決原理。
建替え制度の中で多数決原理を設けた理由は、建物が物理的に一体不可分の関係であること
から必然的に一体として老朽される運命であって、この場合、ある特定部分だけを分離して建
替えすることは不可能であることに着眼しているからである。団地内にある数棟の建物に一体
不可分の関係は生じないが、各建物は、最初から一つの団地内に同時に造成され、建物も老朽
化も同時に進行する。また団地内のマンションと各施設は密接な有機関係をもっていて、各区
分所有者らも経済、社会、文化的に共同体を形成。各区分所有者は、団地内の敷地に関しては
共有持分権と敷地使用権をもっていて、まるで団地全体を区分所有していることのような結合
関係にある。
【被告の主張】
1.本件店舗用建物は被告の単独所有である。
2.敷地に関しては、マンションの敷地は原告が、店舗用建物の敷地は被告が各区分所有して
いて、便宜上その全体に関して共有持分登記をなした事に過ぎないので、マンションと独立し
た不動産である本件店舗用建物とその敷地に対して売渡し請求権の行使はできない。
【判決】
上告棄却。
理由――集合建物法47条(建替えの決議)、48条(売渡し請求)は、数人が区分所有している1棟
の建物に建替えが必要となった場合に、その建物が物理的に一体不可分であることから、多数
決原理により、区分所有権の自由な処分を制限して建物全体の建替えを円滑にするための規定
である。従って、一団地内に数棟の建物があって、その敷地が建物所有者全員の共有となって
いる中で団地内数棟の建物を一括して建替えようとする場合には、各々の建物にその区分所有181者5分の4以上の建替え決議が成されなければならない。よって、以上のような要件が備えられ
ないと、団地内建物所有者全員の5分の4以上の建替え決議があったという理由だけで売渡し請
求権の行使はできないと判断するのが相当である。
5-2.整備法上の建替え決議率の大きな変化
しかし、集合建物法に建替え決議率に関して規定を設けているにもかかわらず、2007年制定
の整備法第16条【組合の設立認可など】の規定により、建替え決議率に変化が生じる。整備法
第16条第2項は、「住宅建替え事業の推進委員会が、組合を設立しようとするときは、集合建物
の所有及び管理に関する法律第47条第1項及び第2項の規定にかかわらず、住宅団地内の共同住
宅の各棟(福利施設の場合は、住宅団地内の福利施設全体を1つの棟と看做す)別、区分所有者
の3分の2以上及び土地面積の2分の1以上の土地所有者の同意(共同住宅の各棟別区分所有者が5
以下の場合は除く)と住宅団地内の全体区分所有者の4分の3以上及び土地面積の4分の3以上の
同意を得て、定款及び国土海洋部令で定める書類を添付し、市長•郡守の認可を受ける。以下、
省略」と規定している。
まず、集合建物法、住宅建設促進法、そして、整備法上においての、建替え決議率の今まで
の変化の推移を見る。
集合建物法(区分所有者及び議決権の各棟別5分の4以上と団地全体の5分の4以上、1984年制定)↓住宅建設促進法
(区分所有権及び議決権の各棟別3分の2以上と団地全体の5分の4以上、1999年改正)↓整備法(区分所有権及び議決権の各棟別3分の2以上と団地全体の5分の4以上、2002年12月制定)↓整備法(区分所有権及び議決権の各棟別3分の2以上と団地全体の4分の3以上、2007年12月改正)↓整備法
(各棟別区分所有者の3分の2以上及び土地面積の2分の1以上の土地所有者の同意と住宅団地内
の全体区分所有者の4分の3以上及び土地面積の4分の3以上の同意、2009年2月改正)
集合建物法、住宅建設促進法、そして整備法上の建替え決議率の変化推移を見ると、建替え
決議率が段々緩和されてきていることが分かる。これは、公法上での、建替えの対象となる建
物になるための基準をクリアしている建物に対しては、区分所有者らの建替えに対する合意を
達成しやすくすることで、建替えの円滑化を図る目的があると思われる。また、建替えの前段
階の難関として「安全診断」という高いハードルがあって、これをクリアした建物について建182替えが行われるわけなので、建替えの対象となっていることの確認があった後(もちろん、効
用増、または、著しい費用の所要などの問題もかなりややこしいが)、安全診断を経たら、韓
国法の内容としては、これでかなりの建替えのための実質的な建替え条件はそろったと見てい
るようである。従って、ここまでの実質的建替え要件をクリアしてきている建物については、
その決議率を緩和しても良いと、これで円滑な建替えができるとして、これが建替えの決議率
を緩和している主な理由である。またこれが建替えに関する韓国法の特徴でもある。
6.建て替え決議の効力
建替え決議は、建替えに賛成した区分所有者及びその承継人には勿論、建替えに不賛成した
区分所有者及びその承継人にも効力を持つ。
建替え決議の賃借人に対する効力の問題については、その賃借人の対抗要件の有無を持って
区分する。
第一、賃借人が対抗要件を有している場合、賃貸人である区分所有者の建替えに対する賛成
決議に関係せず、賃借人には対抗できない。しかし、建替え事業の推進により、当建物の最終
的な運命が取壊しであるとし、賃貸借関係が終了したと見て、明渡しを認めた判例もある。
(ソウル高等法院、2001年6月15日.判決)第二、賃借人が対抗要件を持っていない場合、たとえ
ば、賃貸人が建替えに賛成し、それから賃借人に明渡しを求める場合は、原則的に、賃借権は
消滅しない。反面、賃貸人が建替えに参加せず、売渡し請求権の行使によりその所有権を取得
したものが明渡し請求をした場合は、対抗要件を持っていない賃借人はその明渡し請求を断る
ことができない。
7.組合の設立
組合は法人とする。【整備法、第18条】この規定により、今までは、非法人社団であった建
替え組合は、法人格を取得することになった。また、組合の名称も、今までは、「○しろまる○しろまるアパー
ト建替え組合」であったのが、「○しろまる○しろまるアパート整備事業組合」に変わった。【整備法、第18条
第3項】
8.売渡請求権
8-1.誰が売渡請求権者となるか
第一に、立認可を受けた建替え組合と見る見解19
がある。第二に、設立認可は受けたが登記を
終えていない建替え組合も売渡し請求権者になれる判例もある。(ソウル中央地方法院、2006.
8.25.判決)第三に、渡し請求権者は、組合設立認可後、法人としての登記を終えた組合であ19キム•ジョンボ、ジョン•ヨンギュ、『新しい建替え•再開発』、(社)韓国都市開発研究フォラム、
2008、659面。183ると見る見解20
もある。第三の見解の根拠としては、「事業施行者は、住宅建替えを施行するに
おいて、省略、集合建物の所有及び管理に関する法律第48条の規定を準用し、売渡し請求権を
行使することができる」とする整備法第39条の規定である。これに関する判例も見える。「原
告が住宅建替え整備組合事業として住宅建替えを実施する場合、原告は、組合設立登記を終え
た時から売渡し請求権の行使ができる」として、売渡し請求権者は建替え組合設立登記を終え
た組合であるとする。では、建替え組合の以外の者は、売渡し請求権者にはなれないのか。第
一、建替え参加者は、売渡し請求権者になれる。集合建物法は、 「建替えに賛成しない者に対
する催告の回答期間2ヶ月が経過したときには、建替え決議に賛成した各区分所有者及び建替え
決議の内容による建替えに参加すべき旨を回答した各区分所有者またはこれら全員の合意によ
り区分所有権及び敷地利用権を買い受けることができるものとして指定された者は、建替えに
参加しない旨を回答した区分所有者に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売渡しすべき
ことを請求することができる」【集合建物法、第48条第4項】と規定している。この規定を解釈
すると、売渡し請求権者は、建替え参加者であることが分かる。しかし、 現実的に、建替えに
参加する各区分所有者が直接売渡し請求権を行使することは難しく、建替え参加者全員の合意
により売渡し請求権を認められた者、すなわち、買受指定者が主に売渡し請求権を行使してい
た。買受指定者の制度を認めた理由は、建替え参加者らに買受の資力がないなどの場合、資力
のある第3者に売渡し請求権を認め建替え実現を容易にするためである。買受指定者は建替え参
加者らの利益のために参加し、建替え参加者らの代理人としては、独自的に、本人の資格で売
渡し請求権を行使することになる。21
買受指定者の指定のための合意は、建替え参加者が最終的に確定されていることを前提とす
るので、建替えに賛成しない者に対する催告期間が満了してから建替え参加者全員の合意によ
り指定すべきであるという見解がある。しかしこの見解に従うと、建替え決議または建替え組
合創立総会で買受指定者を建替え組合と指定した場合、建替えに賛成しない者に対する催告の
結果、一人でも参加回答をすればその者を含めもう一度全員の合意で買受指定者を指定しなけ
ればならない手続上の問題が発生する。22
さらに、以下の判決から、建替え事業における売渡し請求権者は、必ずしも、登記を終えた
建替え組合でなくても良いことが分かる。最初の判決は、設立認可を受けていない建替え団体
に当事者能力があると認めた事例で、「財団でない団体の当事者能力有無に対する判断は、当
該団体が、団体固有の目的をもって活動している規約及び団体としての目的を備えていて、構20カン•サン、『再開発、建替え法律実務』、毎日経済新聞社(韓国)、2009.518面。21姜爀臣、前掲論文、120面参照。22金孝錫(キム・ヒョソク)『住宅建替え紛争の法律実務』法律書院、2000、111面。184成員の加入・脱退による変更と関係なく団体自体が存続するなど、団体としての主要事項が確
定されているのかを基準としている。当該団体が、このような要件を備えていれば少なくとも
非法人社団として、また、管轄官庁の認可を受け法人設立登記まで済ませたら社団法人として、
当事者能力が認められるものであって、当該行政法規上の設立認可要件を具備したか否か自体
は、民事訴訟法上の当事者能力の有無に対する判断にどんな影響も及ぼすことはできない」と
した判決(ソウル地方法院、1995年12月12日.判決)がある。さらに、集合建物法の売渡し請求権
者に関する建替え組合の適格に関する争いに関して、「集合建物の所有及び管理に関する法律
第48条第4項の規定は、建替えに参加しない区分所有者を区分所有関係から排除し区分所有者全
員が建替えに参加する状態を形成することができるようにするために、建替えに参加する区分
所有者は建替えに参加しない区分所有者の区分所有権及び敷地利用権に対する売渡し請求をな
すことができるようにするとともに、区分所有者の資金負担が困難な場合などを考慮し資金力
をもつ区分所有者以外の第3者も建替え参加者全員の合意による買受指定を受けた場合は売渡し
請求権を行使することができるようにした趣旨である。建替えに参加する区分所有者らで構成
され住宅建設促進法による設立認可を受けた建替え組合は、同条の建替えに参加する全体区分
所有者と異なることはなく、故に、全体区分所有者と同じよう、当然、売渡し請求権を行使す
ることができると解釈しなければならない」とした判決(大法院、1999年12月10日.)がある。も
ちろん実務上は、登記を終え建替え組合の以外の者による売渡し請求権の行使はなかなかない
と思われる。しかし、立法論的には、その法律的解釈において、集合建物法上の規定がはじめ
から想定していた売渡し請求者の範囲を認容することもできると考えられる。
8-2.時価の算定
建替え決議があった後、建替え不参加者に対し、売渡し請求権が行使された場合、その売買
時価の基準について、韓国大法院は、「集合建物法第47条(建替えの決議)による建替え決議
があった後、建替えに参加しない者に対し、同じ法第48条(売渡し請求)第4項による売渡し請
求権が行使されると、その売渡し請求権行使の意思表示が到達すると同時に、建替えに参加し
ない区分所有権および敷地利用権に関し時価による売買契約が成立する。この時の時価とは、
売渡し請求権が行使された当時の区分所有権と敷地利用権の客観的な取引価格であり、老朽さ
れ撤去される状態を前提とした取引価格ではなく、その建物に関し建替え決議があったことを
前提として区分所有権と敷地利用権を一体として評価した価格、つまり、建替えにより発生さ
れると予想される開発利益が含まれた価格をいうのである」としている(大法院、1996年1月23日.
判決)。1858-3.売渡請求権行使に関するその他の問題
第一、建替え決議に賛成しない区分所有者の号室に抵当権が設定されている場合について考
える。建替え事業時において、建替え事業を進める側にとってもっとも厄介な問題が、 売渡し
請求権を行使したいが、当該号室に、抵当権が設定されている場合である。(建替え決議に賛
成している区分所有者の号室に抵当権などのが設定されているばあについては、1997年12.31.
改正の旧住宅建設促進法(現在は、整備法の制定により廃止された法律である)第44条の3の第
5項は、「建替え対象建物に設定されている抵当権•仮差押•地上権など、登記された権利は、新
しく建設された住宅及び敷地に設定されたものとみなす」と規定していた)しかし、現在、売
渡し請求権者は、売渡し行使の対象である当該号室に対する売渡し請求権の行使の際、抵当権
に設定されている被担保債額に相当する金額を引いて、売渡し請求権を行使するのが一般的で
ある。しかし、たとえば、抵当権者により、被担保債権額に対する弁済の請求がある場合には、
建替え組合の側による弁済後、この金額に対して、建替え組合による本来の債務者に対する求
償請求が、実務上良く使われる方法と見られる。
第二、賃借人に対する明渡請求の行使の問題については、既に上で検討を行った。第三、賃借
人に契約解除権を認めるかの問題がある。整備法は、「整備事業の施行により、地上権、 專貰
(チョンセ)権の設定目的を達成することができないときは、その権利者は、契約を解除する
ことができる」と規定している。【整備法、第44条】この場合、「契約上発生する金銭の返還
請求は、事業施行者に行使することができる」。【整備法、第44条第2項】そして、「金銭を支
給した事業施行者は、当該土地などの所有者に対して、求償券を行使することができる」。
【整備法、第44条第3項】
9.建替えに関するその他の問題(土地分割制度)
9-1.土地分割の申請
整備法は、住宅建替え事業の範囲に関する特例を以下のように設けている。
「事業施行者または推進委員会は、省略、2以上の建築物がある住宅団地に住宅建替え事業をす
る場合、第16条第2項の規定による組合設立の同意要件を満たすために、必要な場合は、その住
宅団地内の一部土地に対し、建築法第57条23
の規定にかかわらず、分割しようとする土地面積が
同法同条で定めている面積に達しない場合でも土地分割を請求することができる」。【整備法、
第41条、住宅建替え事業の範囲に関する特例、第1項】
「事業施行者または推進委員会は、第1項の規定によって土地分割を請求するときは、土地分23建築法第57条【敷地の分割制限】建築物のある敷地は大統領令が定める範囲内で、当該地方自治団
体の条例が定める面積に満たさなくする分割を行うことができない。第2項省略。186割対象となる土地及びその上の建築物と関連する土地所有者と協議しなければならない」。
【整備法、第2項】
「事業施行者または推進委員会は、第2項の規定による土地分割の協議が成立しなかった場合
は、裁判所に土地分割を請求することができる」。【整備法、第3項】
「第3項の規定により土地分割が請求された場合、市長・郡守は、分割される土地及びその上
の建築物が次の各号の要件を満たす場合は、土地分割が完了されず第1項の規定による同意要件
に達しなくても建築委員会の審議を経て第16条【組合の設立認可など】の規定による組合設立
認可と第28条【事業施行認可】の規定による事業施行認可を行うことができる。第1号、当該土
地及び建築物と関連のある土地などの所有者の数が全体の10分の1以下であること、第2号、分
割される土地の上の建築物が分割線上に位置しないこと、第3号、その他の事業施行認可のため
に必要な事項で大統領令が定める要件に該当すること」。【整備法、第4項】
このような建替え規定を設けた趣旨は、まず、一部建物または土地所有者らの強い反対によ
り、団地全体の建替え事業の進行がとても困難な場合、建替え反対者他の土地を分割し、その
同意要件から排除することで、建替え事業の推進を可能とさせるためである。24
韓国の分譲集合
住宅の特徴でもあるが、1団地の規模がとても多く、たとえば、ソウルの銀馬アパート(ソウル
市中心部の地価の高いところ)の場合、住宅団地内にある店舗用建物には、約250人の区分所有
者(店舗数でもある)がいる例もある。建替え決議において、ほとんどの場合が、この店舗用
建物の区分所有者らを中心に建替え反対者らが出る。店舗用建物の区分所有者らが建替えに反
対する理由は、第一、建替え期間中の営業利益の保全が難しいこと、第二、建替え後、より大
規模の団地が形成されるため、近隣地域に大型のスーパーなどが入店するので、建替え後の営
業展望がとても低いこと、などがある。比較的、店舗数が少なく、また容積率の余裕分が多く
て、建替えにより組合員以外の一般分譲分の区分所有権の数の大量確保ができる団地において
は、店舗用区分所有者らの反対により団地全体の建替えが実行できないことの懸念から、組合
または施行者の方から、営業損失保全といった形での、金銭的保障があったりしたのも事実で
ある。(またこれが建替え決議率の緩和にまで繋がった。)最近の建替えは、比較的、使って
いない容積率が少ない住宅、つまり、中層形分譲集合住宅がほとんどなので、この中層形分譲
集合住宅の場合、建替えに参加する組合員のほうにもかなりの金額の自己分担金が発生してい
るのが現状である。そうすると、今までのように、建替え事業に反対する店舗用区分所有者ら
に対して営業損失保全を渡すことはとても無理な話で、むしろ、これらの区分所有者らを建替
え事業から排除する形を模索する方法に、法制度が変更されるに至ったのである。24カン•サン、『再開発、建替え法律実務』、毎日経済新聞社(韓国)、2009.775面。1879-2.土地分割の要件
第一、事業計画承認を受けて建てた2以上の建物がある住宅団地においての建替え事業である
ことである。第二、分割の主体は、推進委員会または事業施行者であることである。住宅団地
内の一部土地を中心に建替えに反対する区分所有者らがいるとする。そうすると、この状況は、
直ちに、建替え事業の失敗を意味するのではなくて、むしろ、土地分割をするための要件が完
成していることの意味を持つものでもある。この場合、推進委員会または事業施行者は、組合
の設立のための同意率を充足させるため、一部土地及び建物の区分所有者らを相手とする、土
地分割を請求することができる。
9-3.土地分割手続
土地分割のための手続きは、大体、このような流れで行われる。第一、土地所有者らとの協
議、第二、土地分割訴の提起の順に行われる。
また、整備法第41条第4項の第3号及び第4号の規定から分かるように、 分割されていく土地の
範囲には制限がある。事業施行者または推進委員会が土地分割を請求するためには、分割対象
土地となる部分の、土地及び建築物と関連する土地などの所有者の数は、全体の10分の1以下で
なければならない。さらに、分割されていくと地上の建物が分割線上に位置しないことも要求
される。
本規定新設の意義は、団地内一部商店舗所有者らの建替え事業への反対から生ずる団地全体
の建替え事業の不可能の問題を未然に防ぐこと25
で、さらに建替えの円滑化を図ることにある。
本規定により、団地の両分化までは発生しないと思われる。「10分の1以下」という要件から
分かるように、整備法は、団地の両分化及び団地関係の毀損は想定していないようである。さ
らにこの規定は、全員の合意がない限り区分所有関係は永続するとする集合建物法の性質を大
きく変えるものとの意味がある。空間的分離は起こらないが、やはり、区分所有関係の断絶、
若しくは、区分所有関係の解消という作用が見られる。
建替えに賛成する区分所有者は、建替えに反対する区分者らに対して、売渡し請求権の行使
のみ、可能であった。しかし、土地分割という新しい制度により、 建替えに賛成する区分所有
者は、建替えに反対する区分者らに対しての、もう一つに選択権が持てるようになったと見る
ことができる。
10.二重要件論――私法と公法の交錯
建替えに関する私法と公法をどうみるべきか。公法の課題は、 建替え事業に対して、その公
共性をどれだけ引き出して公法的規制のための手段を設けられるかであるし、反面、私法の課25ソン・ソンテ「都市及び住居環境整備法案検討報告書」建設交通委員会、2002.10、p.23188題としては、建替え事業が本来有する、私的自治的性質をどれだけ強調してその公法からの規
制から身を隠せるかが、私法の課題であるのではなかろうか。
この整備法及び条例の建替え対象の規定により、これらの規定と集合建物法第47条【建替え
決議】の規定間の関係に対する整理の必要性が出てくる。一つ、建替え事業に対する、私法か
ら公法への転換の政策が見られる。筆者は、建替え事業は基本的にそして原則的に私的自治の
名の下で行われるべき事業であると考える。なぜなら、建替えが成功するかしないかの成敗の
決め手は区分所有者らが持っており、その区分所有権者の特別多数決による決議が建替え事業
のプロセスの中で最も重要な部分を占めているからである。つまり、いくら公法で、建替えや
すい外部的環境を整えているとしても、区分所有者の同意がなければその建替え事業は始まら
ないからである。 韓国法は、建替え事業に公共性ものある事業としてみている。建替え事業は、
再開発事業とは違うが、韓国法は、特に整備法において、建替えと再開発間の法規定上の差は
見せているものの、基本的に、建替え事業にまで、公法的統制を持って規制しているのが特徴
である。建替え事業をするためには、区域指定を行わなければならないこと、管理処分計画を
作らなければならないこと、追加負担金を清算負担金として徴収しなければならないことなど
の点では、建替え事業が本来有する私的自治的性質を否定しているように見える。この理由は、
韓国の建替え事業の対象となる分譲集合住宅がほとんど団地で、さらにその団地の規模がとて
も大きいことにある。たとえば、ソウルの中心部に、建替え前の団地の規模が2000戸の分譲集
合住宅が、建替え事業により3,500戸の規模の団地に完成すると想定する。そうすると、その周
辺に対する都市のインフラの問題、建替え事業中発生する既存区分所有者らの住居移転問題、
不動産価格の上昇の問題などの、さまざまな問題が発生する。で、韓国法を良く観察すると、
建替えに関して、韓国法は「二重の要件」を設けていることが分かる。一つは、公法での段階
である。これは、整備法という公法上で、建替え決議をするための外部的環境、たとえば老朽
の基準、不良な建物、効用増などの、を完成して置く。そして、二つは、この建替えに関して
完成したまたは整った外部的環境を、区分所有者がどのような形で選択するかは、完全に、棟
が幾分所有者に任せる。で、区分所有権という私権を100%ではないが一定部分保障する。とい
った、「二重の要件」を設けていると筆者は解釈したい。189整備法上の類似事業比較26
区分
住宅再開発事業
(対象:一戸建て密集)
住居環境改善事業
(対象:一戸建て密集)
建替え事業
(対象:共同住宅)
都市環境整備
(対象:商業ᆞ
工業地域)
根拠 都市及び住居環境整備法
目的 -不良住宅及び共同施設整備 -不良住宅及び共同施設整備 -老朽ᆞ不良建替え -都心機能回復
指定
要件
-老朽ᆞ不良住宅の密集した
地域
-老朽ᆞ不良建物の密集した
地域で、住居地としての機
能を果たせない地域
-竣工後、20 年(市ᆞ道の
条例で 20 年以上と定め
る)が経過され、建替え
効用増加が予想される
-建物の毀損ᆞ一部滅失
で、安全事故の恐れのあ
る住宅
-建替えが必要であると市
長などが認める住宅
-劣悪な商業ᆞ
工業地域で、都
市計画で整備が
必要な地域
施行
主体
-1 順位 : 土地などの所有
者、組合 -2 順位:自治体ᆞ
公社
-3 順位:民官合同法人、不動
産信託会社、50%以上の土地
所有者で住民の推薦をもらっ
ている者
-市長ᆞ郡守 :
基盤施設、共同住宅建設-土地、建物所有者 :現地改
良事業
-建替え組合
開発
方式
-取壊し、修復、保全 -現地改良ᆞ共同住宅建設 -取壊し
供給
対象
-土地ᆞ建物所有者
-賃借人:賃貸住宅
-残りの分:一般分譲
- 土地ᆞ建物所有者
-賃借人:賃貸住宅
-組合員
-残りの分:一般分譲
賃借
人対策-借人用賃貸住宅建設ᆞ供給
-住居対策費支給
-借人用賃貸住宅建設ᆞ供給
-住居対策費支給
-なし26韓国国土海洋部、http://www.mltm.go.kr参照、2010年11月11日.190公共
支援
-国ᆞ自治体補助 -国ᆞ自治体補助 -なし
同意
-組合設立:土地などの所有者
の各 4 分の 3 以上の同意
-施行認可 :定款で定める、
土地などの所有者の同意
-地区指定: 賃借人の 2 分の
1 以上の同意
-施行者指定:土地など所有
者の 3 分の 2 以上の同意
‐各棟別区分所有者の 3
分の 2 以上及び土地面積
の 2 分の 1 以上の土地所
有者の同意と住宅団地内
の全体区分所有者の 4 分
の 3 以上及び土地面積の 4
分の 3 以上の同意
土地
収用
-可能 -可能 -売渡し請求可能191第4章 結 語
1.平成22年度報告書における「まとめ」
平成22年度の報告書においては、韓国の区分所有建物の建替え等に関する法制度とその運用
状況について、次のようにまとめた。その概要を以下に再録しよう。
韓国の区分所有建物の建替えに関する法制度の社会的背景として、同国では、1住宅全体に
占める共同住宅の割合が高く(そのうち、マンションが現在約8割)、しかも、その多くが大規
模な団地型のマンション(平均建替え前住戸数211戸)(20戸以下のものはほとんどない)であ
ること、2住宅需要が高く、これに対応する住宅政策として、建替えによる未利用容積を活用
した住宅供給が必要であったこと、3区分所有者は、建替えによりその開発利益ないし効用増
(負担と比べ多くの利益)を取得することができるといった事情があった。
このような社会的状況を背景として、行政(法)による住環境整備および不良・老朽建築物
の改良という政策の下にマンション建替え ( 私的自治に係わる行為 ) を組み入れ、整備法の前
身である住宅建設促進法 ( 1987年 ) 制定以来今日まで建替えを推進してきたものと言えよう。
そして、ここにおいては、特に上記2を前提とする3が存在したからこそ、建替えに賛成する
多数決議が成立したものと理解できる。
他の側面から見れば、行政 ( 法 ) による住環境整備および不良・老朽建築物の改良という政
策の下で私権の制限に係わるマンションの建替えを位置付けようとする場合において、韓国で
は、公共ないし公益的見地からの 「 区域指定又は事業指定 」 ないし 「 当該建物の老朽化・不良
化 ( 安全性の欠如等 ) 」 が前提とされ、このような公益的見地からの行政規制の下において緩
和された多数決による私人間の決定がなされるという仕組みを採っている。ここにおいては、
多数決割合の緩和など建替えを推進する制度 ( 相当数の建替え反対者に対する財産権の制約 )
も、一定限度で正当化されよう。ただし、このような制度の下でも、最終的には建替え決議
( 多数決議 ) の成立にかかっており、現実に建替え決議が成立するか否かは、既に述べたよう
に、上記2を前提とする3の存在ないしは区分所有者の多くが建替え費用の負担に耐えられる
か否かという点が大きいと考える。したがって、今後、2を前提とする3が縮小する状況にな
れば、建替えの成立件数は減少するものと思われる
2.最近の韓国の状況を踏まえた上での日本法の検討課題
本編の締め括りとして、ごく最近の韓国の状況をも踏まえた上で、老朽区分所有建物に対す
る法的措置を日本で検討するあたり留意すべき事項および課題について、次の3点を述べてお
きたい。
第1に、わが国の建替え制度を考えるにあたっては、韓国の状況や事情を十分に認識する必
要がある。すなわち、韓国においては現在もなお建替えが活発になされているが、このことは
、日本のように一定の広さや質を備えた住宅数がほぼ充足し、また人口が減少している社会状
況とは異なり、韓国では、今なお前記のような社会経済的状況 ( それなりの住宅需要と余剰床192の創出による建替え費用の軽減化が可能な状況 ) にあって、従前の質の劣る区分所有建物の建
替えが、「都市環境の整備」と「老朽・不良建築物の効率的改良」を目的とする行政(法)に
よって推進されているという事情があり、そして、このような建替えこそが、上の2つの公益目
的に最も適合的な法制度であると政策的に考えられているという事情がある。日本においては
、このような状況や事情があるとは言えない。
第2に、韓国では、従来から行政法制としてのリモデリング制度が存在し、また、現在まさに
民事法制 ( 私法 ) としての解消制度が立法担当行政当局において検討されているが、これらは
、建替えが老朽区分所有建物に対する法的措置として十分に機能する有効な方法とはなり得な
いことを他方では認識していることの証左であると考えることができる。ただ、日本における
今後の法制を検討する場合にも当てはまることであるが、イギリスやアメリカの解消制度の運
用状況を勘案した場合には、解消制度を導入したところで、それが直ちに十分に機能するもの
ではないことは十分に認識しておく必要がある。また、リモデリングについても、それが多額
の費用を要する大規模のものである場合においては、同様のことが言える。リモデリングの内
容と費用とが重要であろう。
第3に、韓国法が従来から行政法制として有している土地分割の制度(整備法41条)は、
わが国の2012年の被災マンション法の改正に係る法制審議会での 「 解消 」 に関する審議で取り
上げられたが結局は見送りとされた 「 団地における敷地分割 」 に関連する制度として、今後の
検討に値するものと言えよう。また、老朽区分所有建物に対する法的措置に直接に関係するも
のではないが、マンションの管理一般に関する事項として、2012年の集合建物法の改正により
新設された、決議取消しの訴えの期間制限(42条の2)や集合建物紛争調停委員会の制度は、今
後、わが国でも検討に値しよう。193第7編 諸外国と日本の法制の比較及び外国の制度を導入する際の課題
1.平成 22 年度調査研究報告書の成果と本調査研究の課題
1-1.平成 22 年度調査研究報告書の成果
本調査研究の目的は、冒頭で述べた通り、老朽化した区分所有建物に対する諸外国の区
分所有法制の比較法的検討という平成 22 年度の調査研究を踏まえて、
その運用状況を調査
し、その結果も考慮した上で諸外国の制度をわが国に導入する場合の問題点等を明らかに
することである。
まず、平成 22 年度の調査研究の成果を確認すると、同報告書において、次の 3 点に要約
できるとした。
第 1 に、老朽化した区分所有建物に対する諸外国の区分所有法制に関しては、普遍的な
モデルは存在せず、老朽化した区分所有建物をめぐる区分所有者間の最終的な権利の調整
(清算)の方法としては、1建替えによるとする立法例(日本、韓国等)、2区分所有関
係の解消によるとする立法例(イギリス、アメリカ等)、3最終的な権利の調整(清算)
を予定しない立法例(ドイツ、フランス等)がある。
第 2 に、老朽化した区分所有建物をめぐる区分所有者間の最終的な権利の調整(清算)
の方法として建替えによるとする立法例(日本、韓国)においては、建替えについて多数
の賛成者を得ることが不可欠の要件であるから、相当な費用負担を要する一般的な状況下
において建替え決議が成立することは相当困難であり、今日のわが国の社会経済状況下に
おいてこの制度を活用できる区分所有建物は限られるものと思われる。
第 3 に、老朽化した区分所有建物をめぐる区分所有者間の最終的な権利の調整(清算)
の方法に関して、「区分所有関係の解消によるとする立法例」(イギリス、アメリカ)お
よび「最終的な権利の調整(清算)を予定しない立法例(ドイツ、フランス)」の下にお
いては、それぞれ次のような課題があるとした。まず、前者においては、たしかに建替え
の場合のような費用負担の問題は存在しないが、多数の区分所有者にとって、現住建物は
老朽化しているものの当該建物と同程度以上の住居を獲得するに足りる清算金の受領が見
込めない限りは、一般的には解消には賛成せず、同決議は成立しないと思われる。次に、
後者においては、徹底的に建物の老朽化を予防し、また、時代に適合させた改良を施しつ
つ回復が図られることが予定されているが、現実において、建物について徹底的に老朽化
を防止し回復を図っても、それ以上の延命化が特に社会経済的見地から見た場合に非効率
的であるといったこと(わが国の 2002 年改正法の前に存在した「費用の過分性」要件の視
点)は考慮しなくてよいのか、その具体的な制度として区分所有者自身による解消の制度
を設けなくてよいのか、といった課題がある。
ただし、平成 22 年度の調査研究においては、例えば、前記2の解消制度を採用するアメ
リカやイギリスにおいて解消の事例がどの程度あるのか
(他面、
建替えの実績はないのか)、また、前記3の制度を採用するドイツやフランスにおいては経年(老朽)マンションに対
してどのように対応しているのかなど、各国の制度が、実際にはどのように運用されてい195るのかについては今後の課題とされ、必ずしも明らかとはされなかった。
1-2.本調査研究で課題とされたこと
本調査研究においては、正にこの点を明らかにすることを目的とし、既に冒頭に述べた
ことを繰り返すと、法制度の運用状況に関しては、主として、次の 2 点について現地調査
等を通じて明らかにすることしとした。
第 1 は、解消制度を採用する国(アメリカ等)において、1同制度がどの程度利用され
ているのか(解消件数の把握)、2多くの解消実績があるとした場合にそこでの問題点は
何か、逆にその実績が乏しい場合にその原因は何か、3解消制度と区分所有建物の修繕・
改良とはどのような関係にあり、両者はどのように調整されているのか、また、修繕や改
良にあたり、制度面や運用面において、これらを促進するために何らかの方策が採られて
いるか、逆にこれらを阻害するものは何か、4区分所有者や法律家(弁護士、行政担当者
等)は、経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置についてどのような基本的な考え方
を有しているか、である。
第 2 は、経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置として解消制度も建替え制度も有
していない国(ドイツ、フランス)において、1老朽化等(いわゆる再開発を含む。)を
原因として解消や建替えが全員の合意によって行われることはないのか、あるとしたらど
の程度の件数か、2これらの実績がほとんどないとしたら、その原因は何か、3経年(老
朽)区分所有建物に対して修繕や改良によって対処するにあたり、制度面や運用面におい
て、これらを促進するために何らかの方策が採られているか、逆にこれらを阻害するもの
は何か、4区分所有者や法律家(弁護士、行政担当者等)は、経年(老朽)区分所有建物
に対する法的措置についてどのような基本的な考え方を有しているのか、である。
そして、上記の調査の結果等を踏まえて、老朽化した区分所有建物に関するわが国の区
分所有法制について、諸外国の区分所有法制と比較しつつ、わが国への導入を検討すべき
制度や事項にはどのようなものがあり、導入においてはどのような問題があるかを考察す
ることとした。
2.解消制度を有する法制の下での運用状況
既に述べたように、イギリスでは、区分所有に相当するコモンホールドの下での解消制
度は創設されたが、そもそもコモンホールドの実績がほとんどないので解消については問
題とならないことから、本調査では、もっぱらアメリカについての実地調査を実施した。
その結果を上記の設問に即して述べると、1経年(老朽)を理由とする解消の実績は、災
害の場合を除くと、皆無に等しいと言え、2その理由は、少なくても現状においては、大
多数の建物が(建築後 30 年以上経過しているにもかかわらず)経年による劣化や老朽化に
至っていないか、またはそのことを建物の日常的な維持・管理によって未然に防止してい
ること、また、仮にそのような状態に至ったとしても、前述のように売却による清算金と
の比較において区分所有者の多数の賛成および利害関係人の同意を得ることは容易ではな
いと考えられることなどが明らかとなった。したがって、3解消制度と区分所有建物の修
繕・改良との関係については、両者の間で調整を図るというよりは、区分所有建物の管理
において「解消」は現時点では全く念頭に置かれておらず、もっぱら恒常的な修繕および196適切な改良が目指され、実施されていると言えよう。この点に関して着目すべきアメリカ
の制度としては、一般の管理は専ら理事会の権限ないし責任の下に実施されており集会に
おける決議を要しないという点、および管理に関して集会の決議を要する事項とそうでな
い事項があらかじめ法の定めではなく各管理組合の宣言文書等によって具体的に定められ
ている点である(なお、そのような中にあっても、区分所有者間の多様なトラブルは日常
的に発生しているとのことであった)。以上のことから、4経年(老朽)区分所有建物に
対する法的措置について区分所有者や法律家(弁護士、行政担当者等)の基本的な考え方
は、現況においては、「区分所有建物の持続的な維持」であると統括することができよう。
3.解消制度も建替え制度も有さない法制の下での法的措置
それでは、経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置として解消制度も建替え制度も
有していない国(ドイツ、フランス)においての法制度の運用状況はどうであるか。ここ
でも、ドイツおよびフランスへのヒアリング調査の結果を上記の設問に即して述べると、
1老朽化等(いわゆる再開発を含む。)を原因として解消や建替えが(全員の合意によっ
て)行われることはほぼ皆無とのことであり、2これらの実績がない原因は、アメリカの
場合と同様に、少なくても現状においては、大多数の建物が(建築後 30 年以上経過してい
るにもかかわらず)経年による劣化や老朽化に至っていないか、またはそのことを建物の
日常的な維持・管理によって未然に防止していること(旧東ドイツにおけるコンクリート
フレハブの建物やフランスの 1970 年代に大量に供給された多くの建物についても基本的
には同様)、仮にそのような状態に至ったとしても、建替えのための金銭負担や売却によ
る清算金を考えると区分所有者の多数の賛成および利害関係人の同意を得ることは容易で
はないと考えられることなどが明らかとなった。解消や建替えのない制度の下では、専ら
区分所有建物の持続的な維持・管理が行われることになるが、そこでは、3経年(老朽)
区分所有建物に対して修繕や改良を図るにあたり、ドイツでは、「秩序ある管理」は区分
所有者の権利であり義務でもあるとされ、これがなされない場合には各区分所有者は管理
者または他の区分所有者に対して訴えを提起できる制度が採られている。また、ドイツ、
フランス共に、社会や時代に適合する改良(変更)については多数決要件が緩和され、そ
の促進が図られ、さらに、持続的な維持・管理の基礎である管理費等の支払いの遅滞があ
る場合には明確な基準の下に当該区分所有者の排除が定められている。なお、フランスに
おいては、区分所有者の多くの者の管理費等の未払いを主因とする「荒廃区分所有建物」
が少なからず出現しており(ドイツにおいてはその数は少ないという)、これについては
民事法と行政法とが連携した系統立った制度が設けられているが、その運用については財
政上の問題等もあり現時点では必ずしも機能しているとは言えない。以上を踏まえて、4
経年(老朽)区分所有建物に対する法的措置についての区分所有者や法律家(弁護士、行
政担当者等)の基本的な考え方は、アメリカと同様に、両国においても「区分所有建物の
持続的な維持」であると言えよう。
4.普遍的モデルとしての「区分所有建物の持続的な維持」
平成 22 年度の調査研究の成果としての同報告書において、本調査研究担当者は、老朽化
した区分所有建物に対する諸外国の区分所有法制に関して、普遍的なモデルは存在せず、197老朽化した区分所有建物をめぐる区分所有者間の最終的な権利の調整としては多様であり
大きく 3 つに類型化できると述べた。このことは、法制度面においては修正の必要はなく
依然として維持し得るが、本調査研究における、解消制度を有する国および解消制度も建
替え制度も有しない国の実地調査の結果を踏まえた場合には、その基礎には「区分所有建
物の持続的な維持」という普遍的な原理が存在しているものと考えることができる。解消
制度を有する国においても、その基礎にはこの原理があり、すくなくても現状においては、
この原理を押し進めていけば十分であり、ただ、災害の場合(しかも保険によって補填が
できない場合)を除き、きわめて例外的な場合または遠い将来に備えて解消制度を設けて
いるものと考えることができる。
さて、「区分所有建物の持続的な維持」という原理は、建替え制度を有する日本および
韓国についても、多くのケースでいわゆる効用増を期待できない日本の現状において、ま
た今後はこれが期待できないと思われる韓国において、欧米と同様の普遍的なものである
と考えることができる。そして、両国においては、イギリスおよびアメリカにおける解消
制度と同様に、(それ程多くの件数は期待できないが、幸運にも)諸条件が調った場合に
は活用すべきものとして建替え制度を維持すべきであると考える。
5.諸外国の制度の導入の必要性と問題性
最後に、本調査研究の結果を踏まえて、わが国の区分所有法制への導入を検討すべきで
あると考えられる外国のいくつかの制度を挙げると共に、導入に際しての課題ないし問題
点についても指摘しておきたい。
経年区分所有建物が今後ますます増加するわが国において、
それを
「老朽」
さらには
「荒
廃」に至らせないためには、上で見た普遍モデルである「区分所有建物の持続的な維持」
の実現を図るための制度が必要となる。そのためには、ドイツ法に倣い区分所有建物の持
続的で適切な管理を法的に明確に義務づける制度の創設や、ドイツ法やフランス法に倣い
管理費等の滞納者を区分所有建物から排除し得る明確で具体的な基準の創設が検討される
べきであろう。
また、「区分所有建物の持続的な維持」のために不可欠な修繕や改良(特にわが国にお
いては安全性に係わる耐震補強工事がこれに該当しよう。)や、社会や時代に適合的な修
繕や改良については、フランス法やドイツ法に倣い、多数決要件の緩和を具体的な事項ご
とに検討すべきであると考える。なお、先に述べたアメリカ法の諸制度については、わが
国とは基本的な法制が異なるものの一考に値しよう。
さて、老朽区分所有建物に対する措置として、アメリカ法やイギリス法が有する解消制
度や、フランス法の荒廃区分所有建物制度のわが国への導入についてであるが、前者につ
いては既に述べたようにほとんどその実績はなく、後者についてはフランスの特別な事情
を背景とするものであることから、これらを導入するだけの「立法事実」が存在するとは
思われないわが国の現況においては、直ちにこれらを喫緊の問題として検討する必要はな
いものと思われる。ただし、昭和 58 年の区分所有法の改正の際に《将来のことを考えて》
建替え制度を創設したように、解消制度および行政法と連携した荒廃区分所有建物制度に
ついての検討をも視野に入れておくことは必要であると思われる。なお、災害の場合(例
えば、土砂崩れ等により 1 棟のマンションが滅失した場合)における解消制度に関しては、198アメリカ法およびドイツ法・フランス法を参考にしつつ、「被災マンション法」による対
応以外 ――区分所有法による対応―― ついても検討を要するものと思われる。199