運輸経済月例報告 今月のトピックス
運輸経済月例報告 平成11年3月のトピックス
新規航空企業参入後の羽田〜福岡/札幌路線の動向
新規企業は、低運賃等が評価され、8割前後の高い座席利用率で推移
競争を通じた交通市場の活性化が観光交流の拡大を促進
スカイマークエアラインズ(SKY)が10年9月から羽田〜福岡路線に、北海道国際航空(ADO)が同年12月から羽田〜札幌路線に新規参入したが、両社とも低廉な運賃等が利用者に評価され、11年3月まで8割前後の高い座席利用率で推移してきた。一方、既存3社においても、特定便割引やマイレージサービスの拡充等を行った結果、両路線とも全体旅客数が前年同月比で増加しており、11年3月には福岡線が16.3%増、札幌線が9.4%増となった。以下では、こうした競争による航空企業の輸送実績の変化、他の競合交通機関への影響、地元における観光交流の拡大に向けた動き等についてまとめる。
1 羽田〜福岡路線
(1)輸送動向
(
図1
、
図2
、
図8
参照)
羽田〜福岡路線は、年間輸送旅客数674万人(9年度実績、10年度は3.7%増の699万人)の国内第2位の高需要路線であり、10年9月当初には、日本航空(JAL)が12便(1日当たり。以下同じ。)、全日本空輸(ANA)が12便、日本エアシステム(JAS)が10便、計34便の運航が行われていたが、SKYは、同年9月19日から3便の運航を開始した。同社は、普通運賃として既存3社の運賃(通常期27,400円)の半額のレベル(13,700円)の低運賃を設定するとともに、(i)機内サービスの簡略化、(ii)電話予約を中心としたチケットレス化、(iii)座席ピッチの短縮等による収容能力増、(iv)航空機整備業務や空港カウンター業務の一部委託、(v)機体広告による収入増等の施策を講じた。この結果、誰でもいつでも低運賃を利用できるという同社の運賃戦略が利用者、特に、ファミリー層、学生・熟年層等の人気を集め、就航当初から8割前後の高い座席利用率(提供座席数に対する輸送旅客数の割合)で推移した。
一方、既存3社は、当初は利用者数が前年同月比で減少し、座席利用率も前年同月比で10%強も低下したが、その後、SKYの前後の出発便を対象とした特定便割引の導入、マイレージサーピスの拡充等を行い、さらに、11年3月には特定便割引をSKYと同額の運賃設定とし、対象便数を拡大した結果、利用者数、座席利用率ともに前年同月を上回るまでに改善された。
こうした航空企業間の競争による利用者利便の向上の結果、同路線の全体旅客数は、10年度下半期において前年同期比5.6%増、特に、11年3月は、前年同月比16.3%増と大幅に増加した。
SKYは、最近における座席利用率の低下、コスト増等を理由に、羽田〜福岡路線について11年7月1日から現行運賃13,700円を16,000円に引き上げることとしている。既存3社も7月1日から同路線の特定便割引をこれと同額に引き上げるとともに、高需要期の7月16日以降は、特定便割引の対象便数を大幅に減らすこととしている。航空企業は競争激化により輸送旅客数は増加するものの、旅客キロ当たり運賃収入は減少傾向が続き、厳しい経営環境下にあるが、今後の各企業の運賃戦略とこれによる輸送動向の変化が注目される。
また、羽田と九州内各地(福岡を除く。)を結ぶ航空7路線の最近の状況をみると、11年4月から羽田〜北九州線が3便から2便へと減便される等の影響が出ているが、全体旅客数は、10年度下半期において前年同期比3.4%増となっている。11年6月からは、これら羽田〜九州路線においても特定便割引の拡充が図られる。
(2)競合交通機関への影響
(
図3
参照)
羽田〜福岡路線と競合する他の交通機関として、まず、鉄道では、山陽新幹線の新大阪〜西明石の断面輸送量をみると、景気低迷により、9年秋から前年同月比で徴減傾向にあったが、10年9月以降1割近い減少となった。これは、羽田〜福岡路線に加えて、羽田〜広島/岡山路線等においても特定便割引が導入されたことも要因と考えられる。JRとしては、サービス向上策として、11年3月から東海道・山陽新幹線において快適性を高めた700系新型車両を導入するとともに、1冊の枚数を小口化し、追加額の支払により「のぞみ」利用もできる新しいタイプの回数券を販売する等の施策を講じている。
また、高速バスでは、新宿〜福岡間を運行する「はかた号」(2年10月より西日本鉄道と京王電鉄の共同運行。1日2便。運賃は片道15,000円、往復27,000円。所要時間は14時間20分)の輸送旅客数をみると、景気低迷により10年に入り前年同月比で減少傾向にあったが10年10月以降大幅減となった。11年1月18日には京王電鉄が撤退し、1日1便となったが、ダイヤ設定について新宿発を21時台に繰り下げ(従前は17時及び19時台)、航空との競合を避けたことにより、1便当たり輸送旅客数(乗車密度)は、従前と同様の20人弱(乗車定員は27人)を維持している。
(3)地元における観光交流の拡大に向けた動き
このように競争促進により交通市場の活性化が図られ、利用者の選択メニューが広がり、全体需要が増加する中で、九州では、11年4月に旅行業、交通業、宿泊業等の観光関連業界と九州運輸局等をメンバーとする「九州観光誘致促進協議会」が設立された。観光は、関連産業の裾野が広いため雇用吸引力があり、その振興による地域経済への波及効果が高く、今後とも基幹産業のひとつとなるものであるが、この協議会では、豊富な観光魅力を持つ九州をひとつの観光エリアとして大都市圏にPRし大量誘客を目指しており、九州7県が一体となった大型観光キャンペーン、広域観光ルートの開発等を予定している。
福岡では、11年3月27日に福岡都市高速道路が延伸されて、九州自動車道と直結したことを契機に、福岡と九州各地を結ぶ高速バスが大幅に増便(1日当たり総計67.5便)されたが、一方、JR九州も11年3月から博多発着の特急の増発を行っている。SKYの新規参入以降、増加しつつある航空旅客が九州域内の高速交通網を利用して円滑に移動・周遊できる環境・条件整備を進め、交流拡大により九州全体の発展を図ることが期待される。
2 羽田〜札幌路線
(1)輸送動向
(
図4
、
図5
、
図6
参照)
羽田〜札幌路線は、年間輸送旅客数813万人(9年度実績、10年度は2.0%増の829万人)の国内第1位の高需要路線であり、10年12月当初には、JALが12便、ANAが13便、JASが9便、計34便の運航が行われていたが、ADOは、同年12月20日から3便の運航を開始した。同社もSKYとほぼ同様の施策により、既存3社の運賃(通常期25, 000円)の36%引きのレベル(16, 000円)の低運賃を設定し、就航当初から8割前後の高い座席利用率で推移した。一方、既存3社は、羽田〜福岡路線と同様の施策を講じた結果、利用者数も回復し、羽田〜札幌路線の全体旅客数は、11年第1四半期において前年同期比7.7%増、特に、11年3月は前年同月比9.4%増と大幅に増加した。
また、羽田と北海道内各地(札幌を除く。)を結ぶ航空7路線の最近の状況をみると、全体旅客数は、11年第1四半期で前年同期比0.7%増となっている。
(2)来道客の利用交通機関の変化
(
図7
参照)
北海道以外の国内各地から道内への来訪客数は、10年度1,320万人で前年度比1.6%の増加であり、前年同月比の推移をみると、10年9月から増加傾向となり、特に11年に入り5〜6%の伸びとなった。交通機関別の内訳をみると、航空は、10年8月から増加傾向にあり、特に11年に入り7〜8%の伸びとなった。一方、鉄道は、津軽海峡線の断面輸送量でみると、景気低迷により減少傾向にあったが、11年に入り1割近い減少となった。フェリーも鉄道と同様の減少傾向にある。この結果、来道客の利用交通機関別のシェアは、11年3月時点で航空が88.6%、JRが5.5%、フェリーが5.9%となった。
(3)地元における観光交流の拡大に向けた動き
北海道では、9年秋の拓銀の経営破たん以降、地域経済の沈滞が続いたが、景気浮揚と活性化を図る対策のひとつとして、官民一体となって観光交流の拡大に取り組んでいる。具体的には、10年5月に観光関連業界と道、北海道運輸局等をメンバーとする「北海道観光プロモーション協議会」が設立され、東京、大阪等の大都市において誘客イベントや観光集中キャンペーン等を実施したほか、道及び市の管理する空港の空港使用料の引下げ(女満別、紋別、中標津、帯広及び旭川の5空港について10年10月から11年3月まで1/6に)、観光関連施設(案内板等)の整備、周遊バスの運行等を行った。
こうした各種取り組みや交通市場における競争を通じた利用者利便の向上等により、来道客の一層の増加と北海道の浮揚発展を図ることが期待される。
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