運輸経済月例報告 今月のトピックス

平成12年11月6日発表

運輸経済月例報告 平成12年8月のトピックス



〜原油価格の高騰と我が国の運輸産業の状況〜

運輸事業と密接に関係する燃料の国内卸売価格は、最近の原油価格の高騰を受けて徐々に上昇。
現状では、昭和54年の第2次オイルショック時ほどの影響はないが、今後燃料価格の高騰が進むと運輸事業者に影響が出ることも考えられる。

(1)最近の原油価格と欧州各国の動向
a.原油価格の高騰
原油価格は、平成11年3月のOPECの減産合意等を契機として上昇し始め、12年に入ってからも上昇基調が続いている。原油の指標市場であるNYMEX(ニューヨークマーカンタイル取引所)のWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)先物の価格の推移は図1のようになっており、12年3月にかけて上昇し、その後低下したが、9月には10年ぶりの高値水準を記録し、原油価格は湾岸戦争時の水準まで高騰している。(10月18日:33.48ドル/バレル)
ニューヨーク原油(WTI)期近価格の推移
b.欧州各国の動向
欧州では、原油価格の高騰に伴い、9月にトラック運転手や農民による抗議行動が発生した。世界市場での原油価格高にユーロ安が重なったことにより、燃料価格が大幅に上昇したことが要因であると考えられる。また、これを受けてフランスやベルギー、イタリアでは減税措置等が採られている。

(2)原油価格高騰による我が国への影響
a.物価全体への影響
卸売物価指数全体でみると、我が国では現時点で一般物価への原油価格上昇の影響は小さいと考えられ、卸売物価は原油価格上昇局面に入ってもほとんど変動していない。(図2)
この要因としては、我が国エネルギーの石油依存度の低下が考えられる。我が国エネルギーの石油依存度は昭和48年度の77.4%をピークに下降し、平成11年度には52.4%になっている。また、その結果として、第二次石油ショック後の昭和55年には、原油輸入金額は総輸入額の44.3%、GDPの約5%を占めていたが、平成11年には総輸入金額の16.0%、対GDP比で1%前後にまで低下している。

b.各燃料費の卸売価格への影響
我が国の卸売段階におけるガソリンをはじめとする各燃料費の推移は図2のようになっており、卸売物価よりは上昇しているが、原油価格の上昇分ほどは上昇していない。
石油製品の卸売段階での価格指数の推移
その理由は、燃料油が原油価格に精製費用等を加えたものであり、上昇率が低くなることの他、主に以下の2点が考えられる。

・為替レートの動向
為替レートは円高で推移しており、これが原油価格の上昇分をある程度吸収していると考えられる。円表示とドル表示の原油単価の推移を示すと図3となる。

・石油製品の元売り事業者の対応
我が国の軽油、重油等の元売り事業者がある程度価格の上昇分を吸収せざるを得ない状況であるということが言われている。具体的には、規制緩和等により元売り事業者間の製品販売競争が激化しており、元売り事業者が原油価格上昇分を価格転嫁できないといった背景が考えられる。
原油単価の推移

c.燃料小売価格の動向
軽油の小売価格は、卸売段階では価格に税金が含まれていないことにより、卸売価格よりも価格の上昇率は相当低くなり、ガソリンに比べて卸売価格と小売価格の上昇率が大きく乖離しているが(図4)、現在、価格上昇の動きが徐々に強まっている。
石油情報センター「石油製品市況調査」によると、10月のレギュラーガソリン1リットルあたりの小売価格は全国平均で105円と、前月より3円値上がりした。また、軽油の小売価格も1リットルあたり84円と、6年9ヶ月ぶりの高水準となった。
石油製品の小売段階での価格指数の推移
このように、最近になって燃料の小売価格の上昇が顕著になっている状況を勘案すると、仮に原油価格の水準が現状で推移した場合、さらに燃料価格が上昇することも考えられる。

(3)運輸産業への影響
我が国の運輸産業における経常費用(営業費用+営業外費用)に対する燃料費の割合は図5のようになっており、第2次オイルショック時の昭和54年と比較すると、バス事業で-2.9%、トラック事業で-4.0%、外航海運事業で-10.6%、航空事業で-7.1%の低下となっている。
運輸事業における経常費用に対する燃料費の割合
しかしながら、各事業の燃料費上昇分を11年度の損益計算書における経常費用と11年度の各主用燃料の上昇率を用いて、各事業者の燃料使用量と燃料費の上昇率が変化しないと仮定して試算すると、表6のようになる。分野により状況は異なるものの、各運輸事業者にとって今回の原油価格上昇の影響は決して小さくはないと考えられる。

表6 各事業の燃料費上昇額の試算(単位:百万円)
主用燃料 燃料費(A) H11年度上昇率(B) (A)×ばつ(B) (参考)H10年度経常利益 H11年度経常利益
バス 軽油 53,763 18.3% 9,838 -181,978

-

トラック 軽油 66,546 18.3% 12,178 32,188

-

外航海運(3社) C重油 130,005 18.4% 23,921 46,812 73,481
航空(3社) ジェット燃料 320,943 9.9% 31,773 36,518 8,706
注) バス・トラックの対象事業者数は図5と同じ。
バス・トラックの燃料費は10年度の値。
11年度上昇率は11年度における各燃料の卸売物価の上昇率の平均。

なお、運輸部門を中心とした平成7年産業連関表(*)を用いて原油・天然ガス価格が50%上昇したときの主な運輸部門等の価格変化率を試算すると表7のようになる。

表7 産業連関表を用いた原油・天然ガスが50%上昇したときの価格変化率(%)
原油・天然ガス 50.0000 ハイヤー・タクシー 0.7062 国内航空旅客輸送 1.7212
石油製品 17.6041 道路貨物輸送 1.1792 国内航空貨物輸送 0.9793
電力 3.4505 外洋輸送 1.5606 貨物運送取扱 0.4055
鉄道旅客輸送(JR) 0.3216 沿海・内水面旅客輸送 1.1509 倉庫 0.2446
鉄道旅客輸送(除JR) 0.3329 沿海・内水面貨物輸送 1.1580
鉄道貨物輸送 0.5505 港湾輸送 0.2386
バス 0.8163 国際航空輸送 1.8732
(*) 表7で示した数値は競争市場で成立すると期待される計算上の意味合いが強く、現実の変化率とは異なる。


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